0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 同種粒子は原理的に「番号を付けて区別する」ことができません。この不可弁別性は、多体状態を粒子の並べ方ではなく各 1 粒子準位の占有数で指定せよ、という要請に翻訳されます。
- 占有数に許される値が ならボース粒子、 か だけ(パウリの排他律)ならフェルミ粒子です。相互作用のない気体では、この 1 点だけがボース統計とフェルミ統計を分けます。
- グランドカノニカル分布を使うと、大分配関数が 1 粒子準位ごとの積に完全に因子化します。ここから平均占有数 (フェルミは 、ボースは )が 2 行で出ます。
- 縮退度 が小さい極限で両者はマクスウェル・ボルツマン分布に一致し、同時に古典理想気体の (ギブスの補正因子)が自動的に現れます。
- フェルミ気体は で縮退し、比熱が に比例します。銅の伝導電子では K で、室温の電子比熱は古典値の約 です。
- ボース気体は で最低準位にマクロな数の粒子が落ち込みます(ボース・アインシュタイン凝縮)。液体 He の密度から計算すると K となり、観測される 点 K と同程度です。
1. 動機:古典統計はどこで破綻するか
Section titled “1. 動機:古典統計はどこで破綻するか”カノニカル集団で理想気体を扱ったとき(例 7.4[カノニカル集団])、 粒子の分配関数を
と書きました。この は、粒子に番号を付けて数えると同じ状態を 回重複して数えてしまうから、という説明とともに導入されたはずです。しかしこの説明は、よく考えると論理的に宙に浮いています。古典力学では粒子は軌道で追跡できるので、「粒子 1 が箱の左、粒子 2 が右」と「粒子 2 が左、粒子 1 が右」は別の状態です。にもかかわらず で割らないと、エントロピーが示量的にならない(ギブスのパラドックス、例 5.3[ミクロカノニカル集団])。ボルツマン自身もギブスも、この補正因子を経験的に入れるほかありませんでした。
もう一つ、古典統計では説明できない事実が 19 世紀末から積み上がっていました。
- 金属中の自由電子は 1 個あたり の比熱を持つはずなのに、実測では室温でほとんど比熱に寄与しない。
- 二原子分子気体の回転・振動の自由度が低温で「凍結」する。
- 空洞放射のエネルギー密度が、古典的に計算すると紫外側で発散する(レイリー・ジーンズの破綻)。
これらはすべて、状態を数える段階に量子力学が入ってくることの帰結です。とくに最初の 2 つは、エネルギーが離散的であることに加えて、同種粒子を区別できないという第二の量子的性質を必要とします。この記事では、その第二の性質だけを正面から扱います。相互作用は最後まで無視し、「数え方を変えるとどれだけ物理が変わるか」を見ます。
flowchart TD A["同種粒子の不可弁別性"] --> B["多体状態は置換に対して<br/>対称または反対称"] B --> C["ボース粒子<br/>占有数 n = 0,1,2,..."] B --> D["フェルミ粒子<br/>占有数 n = 0,1"] C --> E["大分配関数が<br/>1粒子準位ごとに因子化"] D --> E E --> F["ボース・アインシュタイン分布"] E --> G["フェルミ・ディラック分布"] F --> H["ボース・アインシュタイン凝縮"] G --> I["フェルミ縮退・電子比熱"]
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