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平成18年度 東大院 物理学専攻 修士 物理学 解答

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第1問から第3問は量子力学・統計力学・電磁気学の標準的な題材で、計算量そのものは多くありません。差がつくのは、第1問後半でパリティと期待値 x\langle x\rangle を結びつける議論、第3問で「示せ」を論理として閉じる書き方です。選択問題の第4問から第6問は素粒子実験・固体物性・プラズマ計測という実験系の色が濃く、漸化式や桁の見積もりを数値まで押し切る力が試されます。

問題分野主題
第1問量子力学無限井戸中の粒子、パリティ、1次摂動論
第2問統計力学空洞放射、Planck 分布と T4T^4
第3問電磁気学Maxwell 方程式から平面電磁波の性質を導く
第4問相対論・素粒子π0\pi^0 の平均飛距離、電磁シャワーの単純模型
第5問固体物理Drude モデル、電気伝導度、ホール効果
第6問光学・プラズマThomson 散乱による電子温度計測

第1問から第3問が必答で、第4問・第5問・第6問から1問を選択する形式ですが、ここでは全問の解答を載せます。

第1問 無限井戸中の粒子とパリティ、摂動論

Section titled “第1問 無限井戸中の粒子とパリティ、摂動論”

x=ax=-ax=ax=aa>0a>0)に無限に高い壁があり、その間に質量 mm の粒子が 1 個あります。壁の間のポテンシャルエネルギーを U(x)U(x) とし、基底状態を n=0n=0、第 nn 励起状態のエネルギー固有値を EnE_n、固有関数を ϕn(x)\phi_n(x) と書きます。=h/(2π)\hbar=h/(2\pi) です。設問1・2 では U=0U=0、設問3〜6 では右半分だけを w-w だけ下げた階段型、設問7 では U=ux/aU=-ux/a の一様な傾きを扱います。

時間に依存しない Schrödinger 方程式は

22md2ϕn(x)dx2+U(x)ϕn(x)=Enϕn(x)-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\mathrm{d}^2\phi_n(x)}{\mathrm{d}x^2}+U(x)\phi_n(x)=E_n\phi_n(x)

です。境界条件は次の 2 つです。壁の外では U=U=\infty なので波動関数は恒等的に 0 であり、波動関数の連続性から

ϕn(a)=ϕn(a)=0.\phi_n(-a)=\phi_n(a)=0 .

無限に高い段差では 1 階微分の連続性は要求されません。これに規格化条件 aaϕn(x)2dx=1\int_{-a}^{a}|\phi_n(x)|^2\,\mathrm{d}x=1 を課します。

U(x)=0U(x)=0 の場合、井戸の内部では ϕ=k2ϕ\phi''=-k^2\phik=2mE/k=\sqrt{2mE}/\hbar となり、一般解は ϕ=Asinkx+Bcoskx\phi=A\sin kx+B\cos kx です。x=±ax=\pm a での条件は

Asinka+Bcoska=0,Asinka+Bcoska=0\begin{aligned} A\sin ka+B\cos ka&=0,\\ -A\sin ka+B\cos ka&=0 \end{aligned}

すなわち Asinka=0A\sin ka=0 かつ Bcoska=0B\cos ka=0 です。A=B=0A=B=0 以外の解は、B=0B=0sinka=0\sin ka=0ka=jπka=j\pi)か、A=0A=0coska=0\cos ka=0ka=(j12)πka=(j-\tfrac12)\pi)のどちらかで、両者をまとめると ka=Nπ/2ka=N\pi/2N=1,2,3,N=1,2,3,\dots)です。N=n+1N=n+1 と番号を振り直すと

kn=(n+1)π2a,En=2kn22m=(n+1)2π228ma2(n=0,1,2,)k_n=\frac{(n+1)\pi}{2a},\qquad E_n=\frac{\hbar^2k_n^2}{2m}=\frac{(n+1)^2\pi^2\hbar^2}{8ma^2}\quad(n=0,1,2,\dots)

を得ます。2/(ma2)\hbar^2/(ma^2) はエネルギーの次元をもち、井戸幅 2a2a が広いほど、質量が大きいほど準位が下がるという既知の振る舞いと一致します。規格化された固有関数は

ϕn(x)={1acos(n+1)πx2a,n=0,2,4,1asin(n+1)πx2a,n=1,3,5,\phi_n(x)= \begin{cases} \dfrac{1}{\sqrt a}\cos\dfrac{(n+1)\pi x}{2a}, & n=0,2,4,\dots\\ \dfrac{1}{\sqrt a}\sin\dfrac{(n+1)\pi x}{2a}, & n=1,3,5,\dots \end{cases}

で、問われた 2 つは

ϕ0(x)=1acosπx2a,ϕ1(x)=1asinπxa\phi_0(x)=\frac{1}{\sqrt a}\cos\frac{\pi x}{2a},\qquad \phi_1(x)=\frac{1}{\sqrt a}\sin\frac{\pi x}{a}

です(全体の符号は位相の選び方です)。aacos2(πx/2a)dx=a\int_{-a}^{a}\cos^2(\pi x/2a)\,\mathrm{d}x=a なので係数 1/a1/\sqrt a で規格化されています。

上の表式から

ϕn(x)=(1)nϕn(x)\phi_n(-x)=(-1)^n\phi_n(x)

です。nn が偶数の固有関数は xxx\to-x で不変(偶関数)、奇数の固有関数は符号を変えます(奇関数)。

これはハミルトニアンが空間反転 xxx\to-x について不変であることの帰結です。U(x)=0U(x)=0U(x)=U(x)U(-x)=U(x) を満たし、運動エネルギー項 2x2/2m-\hbar^2\partial_x^2/2m も反転で不変なので、パリティ演算子 PPPψ(x)=ψ(x)P\psi(x)=\psi(-x))は [P,H]=0[P,H]=0 を満たします。したがって HH の固有関数はパリティの固有関数にとれます。1 次元束縛状態のスペクトルは縮退がないので、「とれる」だけでなく各固有関数が必ず PP の固有状態であり、P2=1P^2=1 から固有値は ±1\pm1 に限られます。実際に得られた解は下から交互に +1,1,+1,+1,-1,+1,\dots と並んでいます。

摂動は U(x)=0U(x)=0a<x0-a<x\le 0)、U(x)=wU(x)=-w0<x<a0<x<a)です。1 次のエネルギー変化は対角要素

En(1)=ϕnUϕn=w0aϕn(x)2dxE_n^{(1)}=\langle\phi_n|U|\phi_n\rangle=-w\int_0^a|\phi_n(x)|^2\,\mathrm{d}x

です。設問2 より ϕn(x)2|\phi_n(x)|^2xx の偶関数なので、区間 [0,a][0,a] の積分は全区間の半分、すなわち 1/21/2 です。よって nn によらず En(1)=w/2E_n^{(1)}=-w/2 となり、

E0π228ma2w2,E1π222ma2w2E_0\simeq\frac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}-\frac{w}{2},\qquad E_1\simeq\frac{\pi^2\hbar^2}{2ma^2}-\frac{w}{2}

です。井戸の半分を ww 下げたので、平均として w/2w/2 だけ下がる、という素直な結果です。非縮退摂動論が使える条件は wE1E0=3π22/(8ma2)w\ll E_1-E_0=3\pi^2\hbar^2/(8ma^2) です。

1 次の摂動波動関数は

ψ0(x)=ϕ0(x)+n0ϕnUϕ0E0(0)En(0)ϕn(x)+O(w2)\psi_0(x)=\phi_0(x)+\sum_{n\neq0}\frac{\langle\phi_n|U|\phi_0\rangle}{E_0^{(0)}-E_n^{(0)}}\,\phi_n(x)+O(w^2)

です。ϕ0\phi_0 の確率振幅 c0c_0 については、O(w)O(w) の対角補正が現れず、規格化 c02=1n0cn2|c_0|^2=1-\sum_{n\neq0}|c_n|^2 の右辺の補正が O(w2)O(w^2) なので

c0=1+O(w2)c_0=1+O(w^2)

です。ϕ1\phi_1 の振幅には行列要素が必要です。

ϕ1Uϕ0=wa0asinπxacosπx2adx\langle\phi_1|U|\phi_0\rangle=-\frac{w}{a}\int_0^{a}\sin\frac{\pi x}{a}\cos\frac{\pi x}{2a}\,\mathrm{d}x

積を和に直すと sinπxacosπx2a=12(sin3πx2a+sinπx2a)\sin\frac{\pi x}{a}\cos\frac{\pi x}{2a}=\frac12\left(\sin\frac{3\pi x}{2a}+\sin\frac{\pi x}{2a}\right) なので

0asinπxacosπx2adx=12(2a3π+2aπ)=4a3π,\int_0^{a}\sin\frac{\pi x}{a}\cos\frac{\pi x}{2a}\,\mathrm{d}x =\frac12\left(\frac{2a}{3\pi}+\frac{2a}{\pi}\right)=\frac{4a}{3\pi},

したがって ϕ1Uϕ0=4w3π\langle\phi_1|U|\phi_0\rangle=-\dfrac{4w}{3\pi} です。分母は E0(0)E1(0)=3π228ma2E_0^{(0)}-E_1^{(0)}=-\dfrac{3\pi^2\hbar^2}{8ma^2} なので

c1=4w/(3π)3π22/(8ma2)=32ma2w9π320.115ma2w2c_1=\frac{-4w/(3\pi)}{-3\pi^2\hbar^2/(8ma^2)}=\frac{32\,m a^2 w}{9\pi^3\hbar^2}\simeq0.115\,\frac{ma^2w}{\hbar^2}

を得ます。答えは c0=1c_0=1c1=32ma2w/(9π32)c_1=32ma^2w/(9\pi^3\hbar^2)(ともに ww の 1 次まで)です。ma2w/2ma^2w/\hbar^2 は無次元で、w2/(ma2)w\ll\hbar^2/(ma^2) のとき c11c_1\ll1 となり摂動論の前提と整合します。

x=aaxϕ0(x)2dx=1aaaxcos2πx2adx=0\langle x\rangle=\int_{-a}^{a}x\,|\phi_0(x)|^2\,\mathrm{d}x=\frac1a\int_{-a}^{a}x\cos^2\frac{\pi x}{2a}\,\mathrm{d}x=0

です。理由は、ϕ02|\phi_0|^2 が偶関数、xx が奇関数なので被積分関数が奇関数となり、原点対称な区間の積分が消えることです。答えは x=0\langle x\rangle=0 です。

これは設問2 と直結しています。設問2 で見たように ϕn\phi_n はパリティの固有状態で、ϕn(x)=±ϕn(x)\phi_n(-x)=\pm\phi_n(x) なら確率密度 ϕn2|\phi_n|^2 は必ず偶関数になります。したがって ϕ0\phi_0 に限らずすべての ϕn\phi_n について x=0\langle x\rangle=0 です。ハミルトニアンの空間反転対称性が、粒子がどちらの壁にも偏らないことを保証している、という関係です。

ψ0ϕ0+c1ϕ1\psi_0\simeq\phi_0+c_1\phi_1 とすると、ϕ0xϕ0=ϕ1xϕ1=0\langle\phi_0|x|\phi_0\rangle=\langle\phi_1|x|\phi_1\rangle=0(設問5 と同じ理由)なので

x=2c1ϕ0xϕ1+O(w2)\langle x\rangle=2c_1\langle\phi_0|x|\phi_1\rangle+O(w^2)

です。交差要素は、被積分関数 xcosπx2asinπxax\cos\frac{\pi x}{2a}\sin\frac{\pi x}{a} が偶関数であることを使うと

ϕ0xϕ1=2a0axcosπx2asinπxadx=2a12(4a2π24a29π2)=32a9π2\langle\phi_0|x|\phi_1\rangle=\frac2a\int_0^a x\cos\frac{\pi x}{2a}\sin\frac{\pi x}{a}\,\mathrm{d}x =\frac2a\cdot\frac12\left(\frac{4a^2}{\pi^2}-\frac{4a^2}{9\pi^2}\right)=\frac{32a}{9\pi^2}

となります(0axsinbxdx=acosabb+sinabb2\int_0^a x\sin bx\,\mathrm{d}x=-\frac{a\cos ab}{b}+\frac{\sin ab}{b^2}b=π/2a,  3π/2ab=\pi/2a,\;3\pi/2a に使いました)。よって

x=232ma2w9π3232a9π2=204881π5ma3w20.083ma3w2  (>0)\langle x\rangle=2\cdot\frac{32ma^2w}{9\pi^3\hbar^2}\cdot\frac{32a}{9\pi^2} =\frac{2048}{81\pi^5}\frac{ma^3w}{\hbar^2}\simeq0.083\,\frac{ma^3w}{\hbar^2}\;(>0)

です。x/a0.083ma2w/2\langle x\rangle/a\simeq0.083\,ma^2w/\hbar^2w2/(ma2)w\ll\hbar^2/(ma^2) のとき aa に比べて小さく、摂動の枠内に収まっています。

解釈は次のとおりです。ポテンシャルは x>0x>0 側で ww だけ低いので、粒子は低い側に引き寄せられ、確率分布の重心が右にずれます。x\langle x\rangleww の 1 次で正になったのはその表れです。式の上では、階段型の摂動が U(x)U(x)U(-x)\neq U(x) でパリティ不変性を破るため、HHPP と交換せず、基底状態に奇パリティの ϕ1\phi_1 が混ざります。偶関数と奇関数の重ね合わせでは確率密度が非対称になり、設問5 の x=0\langle x\rangle=0 が破れる、という筋道です。

U(x)=ux/aU(x)=-ux/aa<x<a-a<x<a)の 1 次補正は

En(1)=uaaaxϕn(x)2dx=0E_n^{(1)}=-\frac{u}{a}\int_{-a}^{a}x\,|\phi_n(x)|^2\,\mathrm{d}x=0

です。ϕn2|\phi_n|^2 が偶関数なので、設問5 と同じ理由で消えます。したがって uu の 1 次では両方の準位はまったく動きません。

E0=π228ma2+O(u2),E1=π222ma2+O(u2)E_0=\frac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}+O(u^2),\qquad E_1=\frac{\pi^2\hbar^2}{2ma^2}+O(u^2)

物理的には、井戸を傾けると片側が下がるだけ反対側が同じだけ上がり、対称な確率分布に対する平均が相殺するためです。設問3 で w/2-w/2 の一様な下がりが出たのとは対照的です。

効果は 2 次から現れます。基底状態については E0(2)=n0ϕnUϕ02/(E0(0)En(0))<0E_0^{(2)}=\sum_{n\neq0}|\langle\phi_n|U|\phi_0\rangle|^2/(E_0^{(0)}-E_n^{(0)})<0 で必ず下がり、大きさは ma2u2/2ma^2u^2/\hbar^2 の程度です(n=1n=1 からの寄与だけで 8192ma2u2/(243π62)0.035ma2u2/2-8192\,ma^2u^2/(243\pi^6\hbar^2)\simeq-0.035\,ma^2u^2/\hbar^2)。一方、波動関数には uu の 1 次で ϕ1\phi_1 が混じるので、x\langle x\rangle はエネルギーと違って 1 次で正の値をもちます。

一辺 LL の立方体の箱が絶対温度 TT の熱浴に接し、内部の電磁波が熱平衡にあります。異なる角振動数のモードは独立で、角振動数 ω\omega のモードは同じ角振動数の量子力学的調和振動子として扱えます。Boltzmann 定数を kBk_{\mathrm B}=h/2π\hbar=h/2\piβ=1/(kBT)\beta=1/(k_{\mathrm B}T) とします。

1 次元調和振動子の準位は εn=(n+12)ω\varepsilon_n=(n+\tfrac12)\hbar\omegan=0,1,2,n=0,1,2,\dots)なので、等比級数の和により

Z=n=0eβ(n+12)ω=eβω/21eβω=12sinh(βω/2)Z=\sum_{n=0}^{\infty}e^{-\beta(n+\frac12)\hbar\omega} =\frac{e^{-\beta\hbar\omega/2}}{1-e^{-\beta\hbar\omega}} =\frac{1}{2\sinh(\beta\hbar\omega/2)}

です。答えは Z=[2sinh(ω/2kBT)]1Z=\left[2\sinh(\hbar\omega/2k_{\mathrm B}T)\right]^{-1} です。

ε=βlnZ=ω2+ωeβω1\langle\varepsilon\rangle=-\frac{\partial}{\partial\beta}\ln Z =\frac{\hbar\omega}{2}+\frac{\hbar\omega}{e^{\beta\hbar\omega}-1}

が平均エネルギーです。第 2 項が Planck 分布で、平均励起数が nˉ=(eβω1)1\bar n=(e^{\beta\hbar\omega}-1)^{-1} であることを示しています。

非常に低温(kBTωk_{\mathrm B}T\ll\hbar\omega)では eβω1e^{\beta\hbar\omega}\gg1 なので

εω2+ωeω/kBT\langle\varepsilon\rangle\simeq\frac{\hbar\omega}{2}+\hbar\omega\,e^{-\hbar\omega/k_{\mathrm B}T}

となり、零点エネルギーからのずれは温度のべきではなく指数関数的に消えます。準位間隔 ω\hbar\omega が熱エネルギー kBTk_{\mathrm B}T より大きく、振動子は基底状態に凍結して熱励起が Boltzmann 因子で抑えられるためです。

非常に高温(kBTωk_{\mathrm B}T\gg\hbar\omega)では eβω1βωe^{\beta\hbar\omega}-1\simeq\beta\hbar\omega なので

εkBT+ω2kBT\langle\varepsilon\rangle\simeq k_{\mathrm B}T+\frac{\hbar\omega}{2}\simeq k_{\mathrm B}T

で、温度に比例します。これは 1 自由度の調和振動子に運動エネルギーとポテンシャルエネルギーで 12kBT\tfrac12k_{\mathrm B}T ずつ配分される古典的な等分配則で、準位の離散性が見えなくなる古典極限です。

箱を 0x,y,zL0\le x,y,z\le L にとり、壁で節をもつ定在波を考えると、各方向の因子は sin(kxx)\sin(k_xx) の形でなければならず、x=0x=0 で自動的に節、x=Lx=L で節となる条件から kxL=nxπk_xL=n_x\pi です。3 方向で同様なので

k=πL(nx,ny,nz),nx,ny,nz=1,2,3,\vec k=\frac{\pi}{L}\,(n_x,n_y,n_z),\qquad n_x,n_y,n_z=1,2,3,\dots

が答えです。ni=0n_i=0 は振幅が恒等的に 0 になるので許されず、負の整数は同じ定在波を与えるだけなので正の整数に限ります。

k\vec k 空間では許される点が間隔 π/L\pi/L の立方格子をなし、ni1n_i\ge1 という制限から第 1 象限(8 分の 1 の領域)だけを数えます。k|\vec k|kkk+dkk+\mathrm dk の間にあるモード数は、偏光の 2 通りを掛けて

dN=2×184πk2dk(π/L)3=L3k2π2dk\mathrm dN=2\times\frac{\frac18\cdot4\pi k^2\,\mathrm dk}{(\pi/L)^3} =\frac{L^3k^2}{\pi^2}\,\mathrm dk

です。零点振動を無視すると 1 モードの平均エネルギーは ω/(eβω1)=ck/(eβck1)\hbar\omega/(e^{\beta\hbar\omega}-1)=\hbar ck/(e^{\beta\hbar ck}-1) なので

ε(k)=L3k2π2ckeck/kBT1=cL3π2k3eck/kBT1\varepsilon(k)=\frac{L^3k^2}{\pi^2}\cdot\frac{\hbar ck}{e^{\hbar ck/k_{\mathrm B}T}-1} =\frac{\hbar c\,L^3}{\pi^2}\cdot\frac{k^3}{e^{\hbar ck/k_{\mathrm B}T}-1}

が答えです。ck3L3\hbar ck^3L^3 は(エネルギー)×\times(長さ)の次元をもち、dk\mathrm dk を掛けてエネルギーになります。

x=βckx=\beta\hbar ck と置くと

E=0ε(k)dk=cL3π2(kBTc)40x3ex1dxE=\int_0^{\infty}\varepsilon(k)\,\mathrm dk =\frac{\hbar cL^3}{\pi^2}\left(\frac{k_{\mathrm B}T}{\hbar c}\right)^4\int_0^{\infty}\frac{x^3}{e^x-1}\,\mathrm dx

で、0x3(ex1)1dx=π4/15\int_0^\infty x^3(e^x-1)^{-1}\mathrm dx=\pi^4/15 なので

E=π2L3(kBT)415(c)3  T4E=\frac{\pi^2L^3(k_{\mathrm B}T)^4}{15(\hbar c)^3}\ \propto\ T^4

です。答えは 4 乗則 ET4E\propto T^4 で、エネルギー密度 E/L3=π2kB4T4/(153c3)E/L^3=\pi^2k_{\mathrm B}^4T^4/(15\hbar^3c^3) は Stefan-Boltzmann 則の内部エネルギー版と一致します。

ε(k)k3/(eck/kBT1)\varepsilon(k)\propto k^3/(e^{\hbar ck/k_{\mathrm B}T}-1) で、低温側すなわち ckkBT\hbar ck\gg k_{\mathrm B}T の領域が効くとして分母の 1-1 を落とすと ε(k)k3eck/kBT\varepsilon(k)\propto k^3e^{-\hbar ck/k_{\mathrm B}T} です。kk で微分して 0 と置くと 3k2ckBTk3=03k^2-\dfrac{\hbar c}{k_{\mathrm B}T}k^3=0、すなわち

kmax=3kBTck_{\max}=\frac{3k_{\mathrm B}T}{\hbar c}

が答えです。近似せず y=ck/kBTy=\hbar ck/k_{\mathrm B}T の厳密な極大条件を書けば y=3(1ey)y=3(1-e^{-y}) で、数値解は y=2.82y=2.82 なので、以下の数値は 3 の代わりに 2.82 を使う分だけ変わります。

波長は λ=2π/kmax=2πc/(3kBT)\lambda=2\pi/k_{\max}=2\pi\hbar c/(3k_{\mathrm B}T) です。c=1.0×1034×3.0×108=3.0×1026Jm\hbar c=1.0\times10^{-34}\times3.0\times10^{8}=3.0\times10^{-26}\,\mathrm{J\,m}kBT=1.4×1023×2.7=3.78×1023Jk_{\mathrm B}T=1.4\times10^{-23}\times2.7=3.78\times10^{-23}\,\mathrm J より

kmax=3×3.78×10233.0×1026=3.8×103m1,λ=2π3.8×103=1.7×103mk_{\max}=\frac{3\times3.78\times10^{-23}}{3.0\times10^{-26}}=3.8\times10^{3}\,\mathrm{m^{-1}},\qquad \lambda=\frac{2\pi}{3.8\times10^{3}}=1.7\times10^{-3}\,\mathrm{m}

です。答えは λ1.7mm\lambda\simeq1.7\,\mathrm{mm}(厳密な極大条件なら 1.8mm1.8\,\mathrm{mm})で、2.7K2.7\,\mathrm K の宇宙マイクロ波背景放射がミリ波帯に来るという観測事実と合っています。

電荷も電流もない真空中の Maxwell 方程式

E=0,×B=ϵ0μ0Et,B=0,×E=Bt\begin{aligned} \nabla\cdot\vec E&=0, & \nabla\times\vec B&=\epsilon_0\mu_0\frac{\partial\vec E}{\partial t},\\ \nabla\cdot\vec B&=0, & \nabla\times\vec E&=-\frac{\partial\vec B}{\partial t} \end{aligned}

を出発点に、平面波

E=E0sin(krωt+α),B=B0sin(krωt+α)\vec E=\vec E_0\sin(\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha),\qquad \vec B=\vec B_0\sin(\vec k'\cdot\vec r-\omega' t+\alpha')

の性質を導きます。E0,B0,k,k\vec E_0,\vec B_0,\vec k,\vec k' は定数ベクトル、ω,ω,α,α\omega,\omega',\alpha,\alpha' は定数で 0α<π0\le\alpha<\pi0α<π0\le\alpha'<\pi です。以下、自明な解(E0=0\vec E_0=0 または B0=0\vec B_0=0)は除き、角振動数は正にとります。

成分で計算します。Levi-Civita 記号を用いると、ii 成分は

[×(×V)]i=εijkj(εklmlVm)=εijkεklmjlVm[\nabla\times(\nabla\times\vec V)]_i =\varepsilon_{ijk}\partial_j\left(\varepsilon_{klm}\partial_lV_m\right) =\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{klm}\,\partial_j\partial_lV_m

です。恒等式 εijkεklm=δilδjmδimδjl\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{klm}=\delta_{il}\delta_{jm}-\delta_{im}\delta_{jl} を使うと

[×(×V)]i=jiVjjjVi=i(V)2Vi[\nabla\times(\nabla\times\vec V)]_i =\partial_j\partial_iV_j-\partial_j\partial_jV_i =\partial_i(\nabla\cdot\vec V)-\nabla^2V_i

となり、V\vec V が 2 回連続微分可能で偏微分の順序が交換できることだけを仮定して

×(×V)=(V)2V\nabla\times(\nabla\times\vec V)=\nabla(\nabla\cdot\vec V)-\nabla^2\vec V

が示されました。

第 4 式の両辺の回転をとり、右辺で時間微分と空間微分を交換して第 2 式を使うと

×(×E)=t(×B)=ϵ0μ02Et2\nabla\times(\nabla\times\vec E)=-\frac{\partial}{\partial t}(\nabla\times\vec B) =-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\vec E}{\partial t^2}

です。左辺に設問1 の公式と E=0\nabla\cdot\vec E=0 を使うと 2E-\nabla^2\vec E なので

2Eϵ0μ02Et2=0.\nabla^2\vec E-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\vec E}{\partial t^2}=0 .

同様に第 2 式の回転をとり、第 4 式と B=0\nabla\cdot\vec B=0 を使うと

×(×B)=ϵ0μ0t(×E)=ϵ0μ02Bt2    2Bϵ0μ02Bt2=0.\nabla\times(\nabla\times\vec B)=\epsilon_0\mu_0\frac{\partial}{\partial t}(\nabla\times\vec E) =-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\vec B}{\partial t^2} \;\Longrightarrow\; \nabla^2\vec B-\epsilon_0\mu_0\frac{\partial^2\vec B}{\partial t^2}=0 .

どちらも速さ c=1/ϵ0μ0c=1/\sqrt{\epsilon_0\mu_0} の波動方程式です。

E\vec E2\nabla^2 を作用させると k2E-|\vec k|^2\vec E2/t2\partial^2/\partial t^2 を作用させると ω2E-\omega^2\vec E なので、波動方程式は

(k2+ϵ0μ0ω2)E0sin(krωt+α)=0\left(-|\vec k|^2+\epsilon_0\mu_0\omega^2\right)\vec E_0\sin(\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha)=0

となります。これがすべての r,t\vec r,t で成り立つ条件は

k2=ϵ0μ0ω2,すなわちk=ωc,c=1ϵ0μ0|\vec k|^2=\epsilon_0\mu_0\,\omega^2,\qquad \text{すなわち}\quad |\vec k|=\frac{\omega}{c},\quad c=\frac{1}{\sqrt{\epsilon_0\mu_0}}

です。B\vec B についても同じ計算で k=ω/c|\vec k'|=\omega'/c を得ます。これが求める条件で、E0,B0\vec E_0,\vec B_0 の向きや α,α\alpha,\alpha' には波動方程式だけからは制限が付きません。

E0\vec E_0 が定数ベクトルなので

E=E0sin(krωt+α)=(E0k)cos(krωt+α)=0.\nabla\cdot\vec E=\vec E_0\cdot\nabla\sin(\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha) =(\vec E_0\cdot\vec k)\cos(\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha)=0 .

cos\cos は恒等的に 0 ではないので kE0=0\vec k\cdot\vec E_0=0、すなわち kE=0\vec k\cdot\vec E=0 です。同様に B=0\nabla\cdot\vec B=0 から kB0=0\vec k'\cdot\vec B_0=0kB=0\vec k'\cdot\vec B=0 です。電場も磁束密度もそれぞれの波数ベクトルに垂直で、横波です。

Faraday の法則 ×E=B/t\nabla\times\vec E=-\partial\vec B/\partial t に代入すると

(k×E0)cos(krωt+α)=ωB0cos(krωt+α)(\vec k\times\vec E_0)\cos(\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha) =\omega'\vec B_0\cos(\vec k'\cdot\vec r-\omega' t+\alpha')

がすべての r,t\vec r,t で成り立ちます。設問4 より E0k\vec E_0\perp\vec k で両者は 0 でないので k×E00\vec k\times\vec E_0\neq\vec 0 であり、したがって右辺も 0 でなく ω0\omega'\neq0B00\vec B_0\neq\vec 0 です。

まず r=0\vec r=\vec 0 に固定して tt を動かすと、両辺は tt の余弦関数で、定数ベクトルの向きは固定です。2 つの余弦関数が tt について比例するには周期が等しくなければならず、ω,ω>0\omega,\omega'>0 から ω=ω\omega=\omega' です。このとき比例係数は ±1\pm1 で、cos(ωtα)=cos(ωtα)\cos(\omega t-\alpha)=-\cos(\omega t-\alpha') には α=α±π\alpha'=\alpha\pm\pi が必要ですが、0α,α<π0\le\alpha,\alpha'<\pi の範囲では不可能です。よって係数は +1+1α=α\alpha=\alpha'、同時に

k×E0=ωB0\vec k\times\vec E_0=\omega\vec B_0

が得られます。これを元の式に戻すと、すべての r\vec r について cos(krωt+α)=cos(krωt+α)\cos(\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha)=\cos(\vec k'\cdot\vec r-\omega t+\alpha)、すなわち (kk)r(\vec k-\vec k')\cdot\vec r2π2\pi の整数倍でなければなりません。r\vec r を連続的に動かせるので (kk)r=0(\vec k-\vec k')\cdot\vec r=0 が任意の r\vec r で成り立ち、k=k\vec k=\vec k' です。以上で k=k\vec k=\vec k'ω=ω\omega=\omega'α=α\alpha=\alpha' が示されました。

設問5 で得た B0=(k×E0)/ω\vec B_0=(\vec k\times\vec E_0)/\omega は、外積の性質から E0\vec E_0k\vec k の両方に垂直です。よって E0B0=0\vec E_0\cdot\vec B_0=0 で、k=k\vec k=\vec k'ω=ω\omega=\omega'α=α\alpha=\alpha' より両者の位相因子は共通なので

EB=(E0B0)sin2(krωt+α)=0\vec E\cdot\vec B=(\vec E_0\cdot\vec B_0)\sin^2(\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha)=0

が任意の r,t\vec r,t で成り立ちます。E\vec EB\vec B は互いに直交します。(E0,B0,k)(\vec E_0,\vec B_0,\vec k) はこの順に右手系をなします。

位相 krωt+α\vec k\cdot\vec r-\omega t+\alpha が一定に保たれる面の移動速度が位相速度です。k\vec k 方向の座標を ss とすると ksωt=|\vec k|s-\omega t= 一定 から

vp=ωk=1ϵ0μ0=c3.0×108m/sv_{\mathrm p}=\frac{\omega}{|\vec k|}=\frac{1}{\sqrt{\epsilon_0\mu_0}}=c\simeq3.0\times10^{8}\,\mathrm{m/s}

です。設問3 の条件を使いました。向きは k\vec k 方向で、真空中では振動数によらず一定(分散がない)です。

設問5 より E\vec EB\vec B の位相因子は共通なので、大きさの比は場所と時刻によらず

EB=E0B0\frac{|\vec E|}{|\vec B|}=\frac{|\vec E_0|}{|\vec B_0|}

です。B0=(k×E0)/ω\vec B_0=(\vec k\times\vec E_0)/\omegakE0\vec k\perp\vec E_0 から B0=kE0/ω=E0/c|\vec B_0|=|\vec k||\vec E_0|/\omega=|\vec E_0|/c なので E/B=c|\vec E|/|\vec B|=c です。H=B/μ0\vec H=\vec B/\mu_0 より

EH=μ0c=μ0ϵ0μ0=μ0ϵ0\frac{|\vec E|}{|\vec H|}=\mu_0c=\frac{\mu_0}{\sqrt{\epsilon_0\mu_0}}=\sqrt{\frac{\mu_0}{\epsilon_0}}

で、r\vec r にも tt にも依存しない定数です(sin\sin が 0 になる点では比が不定になりますが、それ以外のすべての点でこの値です)。

次元は次のように確かめられます。Lorentz 力 q(E+v×B)q(\vec E+\vec v\times\vec B) から [E]=[v][B][\vec E]=[v][\vec B][H]=[B]/[μ0][\vec H]=[\vec B]/[\mu_0] です。単位で書けば [E]=V/m[\vec E]=\mathrm{V/m}[H]=A/m[\vec H]=\mathrm{A/m} なので

[E][H]=V/mA/m=VA=Ω\frac{[\vec E]}{[\vec H]}=\frac{\mathrm{V/m}}{\mathrm{A/m}}=\frac{\mathrm V}{\mathrm A}=\Omega

となり、抵抗の次元です。実際 μ0/ϵ0=4π×107/(8.85×1012)377Ω\sqrt{\mu_0/\epsilon_0}=\sqrt{4\pi\times10^{-7}/(8.85\times10^{-12})}\simeq377\,\Omega で、真空のインピーダンスと呼ばれる量です。

第4問 パイ中間子の飛距離と電磁シャワー

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前半は π0\pi^0(静止質量 m0m_0、平均寿命 τ\tau、主に 2 光子に崩壊)の運動学です。静止系の 4 元座標 (ct0,x0,y0,z0)(ct_0,x_0,y_0,z_0) と、π0\pi^0zz 軸方向に速度 v=cβv=c\beta で走る系の座標 (ct,x,y,z)(ct,x,y,z) が、γ=1/1β2\gamma=1/\sqrt{1-\beta^2} を用いた与えられた Lorentz 変換で結ばれています。後半は高エネルギー光子が鉛に入射したときの電磁シャワーで、対生成と制動放射だけを考え、各粒子は距離 X0X_0 進むごとに反応し、終状態の 2 粒子が親のエネルギーを等分し、横方向の広がりはないという単純化した模型を扱います。

(a) 4 元運動量は 4 元座標と同じ Lorentz 変換に従います。静止系では p0μ=(m0c,0,0,0)p_0^\mu=(m_0c,\,0,\,0,\,0) なので、与えられた行列を作用させて

pμ=(Ec,px,py,pz)=(γm0c,0,0,γβm0c)p^\mu=\left(\frac{E}{c},p_x,p_y,p_z\right)=(\gamma m_0c,\,0,\,0,\,\gamma\beta m_0c)

です。すなわち E=γm0c2E=\gamma m_0c^2p=(0,0,γm0v)\vec p=(0,0,\gamma m_0v) です。不変質量 pμpμp^\mu p_\muγ2m02c2(1β2)=m02c2\gamma^2m_0^2c^2(1-\beta^2)=m_0^2c^2 となり、静止系の値と一致することが検算になります。

(b) 平均寿命は時間の遅れで伸びます。静止系での固有時間間隔 τ\tau は、変換の第 1 行(r0\vec r_0 は動かないので x0=y0=z0=0x_0=y_0=z_0=0)から t=γt0t=\gamma t_0 となるので

tlab=γτ.t_{\text{lab}}=\gamma\tau .

その間に速度 v=cβv=c\beta で進むので平均飛距離は

=vγτ=βγcτ.\ell=v\,\gamma\tau=\beta\gamma\,c\tau .

βγ=p/(m0c)\beta\gamma=p/(m_0c) なので =pcm0c2cτ\ell=\dfrac{pc}{m_0c^2}\,c\tau とも書けます。

(c) βγ=pc/(m0c2)=135 GeV/135 MeV=1.0×103\beta\gamma=pc/(m_0c^2)=135\ \mathrm{GeV}/135\ \mathrm{MeV}=1.0\times10^{3} です。よって

=1.0×103×3.0×108m/s×8.4×1017s=2.5×105m\ell=1.0\times10^{3}\times3.0\times10^{8}\,\mathrm{m/s}\times8.4\times10^{-17}\,\mathrm s =2.5\times10^{-5}\,\mathrm m

です。答えは 2.5×105m2.5\times10^{-5}\,\mathrm m(約 25μm25\,\mu\mathrm m)です。π0\pi^0 の寿命は短く、これほど高エネルギーでも飛跡は数十マイクロメートルにとどまります。

(a) 1 ステップで、光子は対生成で消えて電子・陽電子を 1 対つくり、電子・陽電子は制動放射で光子を 1 個出して自身は残ります。したがって nn ステップ後の光子数 G(n)G(n) と電子・陽電子数の和 E(n)E(n)

G(n+1)=E(n),E(n+1)=2G(n)+E(n)G(n+1)=E(n),\qquad E(n+1)=2G(n)+E(n)

を満たし、光子 1 個を入射するので初期条件は G(0)=1G(0)=1E(0)=0E(0)=0 です。

S(n)=G(n)+E(n)S(n)=G(n)+E(n)D(n)=2G(n)E(n)D(n)=2G(n)-E(n) を作ると

S(n+1)=2S(n),D(n+1)=D(n)S(n+1)=2S(n),\qquad D(n+1)=-D(n)

で、S(0)=1S(0)=1D(0)=2D(0)=2 より S(n)=2nS(n)=2^nD(n)=2(1)nD(n)=2(-1)^n です。連立を解いて

G(n)=2n+2(1)n3,E(n)=23(2n(1)n)G(n)=\frac{2^n+2(-1)^n}{3},\qquad E(n)=\frac{2}{3}\left(2^n-(-1)^n\right)

を得ます。n=0,1,2,3n=0,1,2,3(G,E)=(1,0),(0,2),(2,2),(2,6)(G,E)=(1,0),(0,2),(2,2),(2,6) となり、手で追った結果と一致します。全粒子数が S(n)=2nS(n)=2^n と各ステップで倍になる点も、1 個の親から 2 個の子ができる模型と整合します。

(b) 全エネルギーは保存し、nn ステップ後には 2n2^n 個の粒子が等分に分け合っているので、個々の粒子のエネルギーは

ϵn=E02n\epsilon_n=\frac{E_0}{2^n}

です。

走行距離の総和は、深さ jX0jX_0 から (j+1)X0(j+1)X_0 の区間を走る電子・陽電子が E(j)E(j) 個であることから

Λ(n)=X0j=0n1E(j)=X023[(2n1)1(1)n2]=X03[2n+13+(1)n]\Lambda(n)=X_0\sum_{j=0}^{n-1}E(j) =X_0\cdot\frac{2}{3}\left[(2^n-1)-\frac{1-(-1)^n}{2}\right] =\frac{X_0}{3}\left[2^{n+1}-3+(-1)^n\right]

です。n=1n=1 で 0(最初の X0X_0 には光子しかいない)、n=2n=22X02X_0n=3n=34X04X_0 となり、直接数えた結果と一致します。大きな nn では Λ232nX0\Lambda\simeq\tfrac23\cdot2^nX_0 です。

(c) 生成粒子のエネルギーが ECE_{\mathrm C} 以下になった時点で終了するので、終了ステップ数 nnE0/2nECE_0/2^n\le E_{\mathrm C} を満たす最小の整数です。E0=1 GeVE_0=1\ \mathrm{GeV}EC=7 MeVE_{\mathrm C}=7\ \mathrm{MeV} では E0/EC=143E_0/E_{\mathrm C}=143 で、27=128<143256=282^7=128<143\le256=2^8 なので

n=8n=8

です。7 ステップ後は 1000/128=7.8 MeV1000/128=7.8\ \mathrm{MeV} でまだ ECE_{\mathrm C} を超えており、8 ステップ後に 1000/256=3.9 MeV1000/256=3.9\ \mathrm{MeV} となって終わります。走行距離の総和は

Λ(8)=X03(293+1)=170X0=170×5.6 mm=9.5×102 mm\Lambda(8)=\frac{X_0}{3}\left(2^9-3+1\right)=170\,X_0=170\times5.6\ \mathrm{mm}=9.5\times10^{2}\ \mathrm{mm}

です。答えは 8 ステップ、総走行距離 170X09.5×102 mm170X_0\simeq9.5\times10^2\ \mathrm{mm}(約 0.95 m0.95\ \mathrm m)です。目安として X0E0/EC=800 mmX_0E_0/E_{\mathrm C}=800\ \mathrm{mm} と同じ桁で、シャワーの全飛跡長が入射エネルギーに比例するという実際のカロリメーターの性質と大きさの上では合っています。

(d) この模型では終了ステップ数が n=log2(E0/EC)n=\lceil\log_2(E_0/E_{\mathrm C})\rceil という整数なので、総走行距離は E0E_0 の階段関数になります。飛びが起きるのは E0=2mECE_0=2^mE_{\mathrm C}、すなわち 28,56,112,224,448 MeV28,56,112,224,448\ \mathrm{MeV} で、各区間での値は

28<E056 MeV: Λ=4X0=22 mm,56<E0112 MeV: Λ=10X0=56 mm,112<E0224 MeV: Λ=20X0=112 mm,224<E0448 MeV: Λ=42X0=235 mm,448<E0500 MeV: Λ=84X0=470 mm\begin{aligned} 28<E_0\le56\ \mathrm{MeV}&:\ \Lambda=4X_0=22\ \mathrm{mm},\\ 56<E_0\le112\ \mathrm{MeV}&:\ \Lambda=10X_0=56\ \mathrm{mm},\\ 112<E_0\le224\ \mathrm{MeV}&:\ \Lambda=20X_0=112\ \mathrm{mm},\\ 224<E_0\le448\ \mathrm{MeV}&:\ \Lambda=42X_0=235\ \mathrm{mm},\\ 448<E_0\le500\ \mathrm{MeV}&:\ \Lambda=84X_0=470\ \mathrm{mm} \end{aligned}

です(E0=28 MeVE_0=28\ \mathrm{MeV} ちょうどでは n=2n=2Λ=2X0=11 mm\Lambda=2X_0=11\ \mathrm{mm})。横軸に入射エネルギー、縦軸に総走行距離をとると、区間内では水平、境界で不連続に跳ぶ階段状のグラフで、比例直線 Λ=(X0/EC)E0=0.8 mm/MeV×E0\Lambda=(X_0/E_{\mathrm C})E_0=0.8\ \mathrm{mm/MeV}\times E_0 の周りを上下に振動します。

電子・陽電子の走行距離の総和 (mm)入射エネルギー (MeV)2856112224448100200300400単純模型(階段状)比例応答

この結果から見える問題点は、模型の応答が入射エネルギーに比例しないことです。1 オクターブの区間内では総走行距離がまったく変わらないので、測定量からエネルギーを決められず、エネルギー分解能が原理的に得られません。境界ではおよそ 2 倍に跳ぶうえ、30 MeV30\ \mathrm{MeV}56 MeV56\ \mathrm{MeV}240 MeV240\ \mathrm{MeV}440 MeV440\ \mathrm{MeV} がそれぞれ同じ値になるなど、比例直線からのずれも大きくなります。

原因は模型が反応を完全に決定論的に扱っている点にあります。実際には反応点は確率的で、放射長 X0X_0 を平均とする指数分布に従って揺らぎます。エネルギー分配も等分ではなく、制動放射の光子エネルギー分布はおよそ dE/E\mathrm dE/E の広いスペクトルをもち、対生成の分配も一様に近い広がりをもちます。さらに終焉も ECE_{\mathrm C} での鋭い打ち切りではなく、電離損失が徐々に優勢になって滑らかに移行します(Compton 散乱、光電吸収、対消滅も無視されています)。これらの揺らぎで平均を取ると階段構造はならされ、総飛跡長は Λ(X0/EC)E0\Lambda\simeq(X_0/E_{\mathrm C})E_0 という滑らかな比例関係になります。この比例性が電磁カロリメーターの原理であり、単純模型の階段は離散化の人工物です。

第5問 金属の電気伝導とホール効果

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前半は金属中の電子を古典的な自由電子(Drude)模型で扱い、電場 E\vec E と磁束密度 B\vec B の中での運動方程式、緩和時間 τ\tau を入れた定常速度、電気伝導度、そしてホール電場を求めます。電子の質量を mm、電荷を e-ee>0e>0)、伝導電子密度を nn とし、相対論的効果は無視します。図1 の配置では電流密度 j=(j,0,0)\vec j=(j,0,0)、磁束密度 B=(0,0,B)\vec B=(0,0,B) で、yy 軸方向に電位差が生じます。後半はリンをドープしたシリコンのホール電場の温度依存性と、測定系の構成です。

(a) Lorentz 力だけを受ける自由電子の運動方程式は mdv/dt=e(E+v×B)m\,\mathrm d\vec v/\mathrm dt=-e(\vec E+\vec v\times\vec B) なので

dv(t)dt=em(E+v(t)×B)\frac{\mathrm d\vec v(t)}{\mathrm dt}=-\frac{e}{m}\left(\vec E+\vec v(t)\times\vec B\right)

です。

(b) 散乱項を加えると dv/dt=(e/m)(E+v×B)v/τ\mathrm d\vec v/\mathrm dt=-(e/m)(\vec E+\vec v\times\vec B)-\vec v/\tau です。磁場がなく、電場を xx 軸方向にとってその成分を EE、速度成分を vv と書くと

dvdt=eEmvτ\frac{\mathrm dv}{\mathrm dt}=-\frac{eE}{m}-\frac{v}{\tau}

という 1 階線形方程式になります。v(0)=0v(0)=0 のもとで解くと

v(t)=eEτm(1et/τ)v(t)=-\frac{eE\tau}{m}\left(1-e^{-t/\tau}\right)

です。tt\to\infty

v=eEτmv_\infty=-\frac{eE\tau}{m}

となり、これは dv/dt=0\mathrm dv/\mathrm dt=0 と置いた式 eE/m=v/τ-eE/m=v/\tau の解と一致します。速度は τ\tau を時定数として指数関数的に定常値へ近づき、電子は電場と逆向きに流れます。

(c) j=nev=ne2τE/mj=-nev_\infty=ne^2\tau E/m なので、j=σEj=\sigma E と比べて

σ=ne2τm\sigma=\frac{ne^2\tau}{m}

です。散乱時間の温度依存性は、散乱源の種類で決まります。高温側では格子振動(フォノン)による散乱が主で、古典的にはフォノンの数が温度に比例して増えるので散乱確率 1/τ1/\tauTT に比例し、τ1/T\tau\propto1/T、したがって σ1/T\sigma\propto1/T(抵抗率が温度に比例)となります。低温側ではフォノンが凍結して寄与が急激に小さくなり、温度に依存しない格子欠陥や不純物による散乱が残るので τ\tau は一定値に近づき、σ\sigma も一定値(残留抵抗の逆数)に飽和します。つまりこの模型では、金属の電気伝導度は温度を上げると単調に減少し、低温で一定値に漸近します。半導体と違って nn が温度によらないことが、この振る舞いの前提です。

(d) 定常状態では yy 方向の力がつり合います。電流密度 j=nevxj=-nev_x から電子の速度は vx=j/(ne)v_x=-j/(ne) です。v=(vx,0,0)\vec v=(v_x,0,0)B=(0,0,B)\vec B=(0,0,B) のとき (v×B)y=vxB(\vec v\times\vec B)_y=-v_xB なので、yy 方向の力のつり合いは

e(EHvxB)=0-e\left(E_{\mathrm H}-v_xB\right)=0

すなわち

EH=vxB=jBneE_{\mathrm H}=v_xB=-\frac{jB}{ne}

です。答えは EH=jB/(ne)E_{\mathrm H}=-jB/(ne)、大きさ jB/(ne)jB/(ne) で向きは y-y 方向です。ホール係数 RH=EH/(jB)=1/(ne)R_{\mathrm H}=E_{\mathrm H}/(jB)=-1/(ne) が負であることが、キャリアが負電荷であることの指標になります。次元は [j][B]/([n][e])=(A/m2)(T)/(m3C)=V/m[j][B]/([n][e])=(\mathrm{A/m^2})(\mathrm T)/(\mathrm{m^{-3}\,C})=\mathrm{V/m} で電場と合っています。τ\taumm も含まれないので、ホール測定はキャリア密度と符号を直接与えます。

jjBB を一定にすると EH=jB/(ne)|E_{\mathrm H}|=jB/(ne) は伝導帯の電子密度 n(T)n(T) の逆数に比例します。したがってホール電場の温度依存性は n(T)n(T) の温度依存性を裏返したものです。ドナー準位の深さを ED=44 meVE_{\mathrm D}=44\ \mathrm{meV}、バンドギャップを Eg=1.1 eVE_{\mathrm g}=1.1\ \mathrm{eV}、ドナー濃度を NDN_{\mathrm D} とすると、n(T)n(T) は 3 つの領域に分かれます。

低温側(キャリア凍結領域)では電子の大部分がリン原子に束縛されており、部分電離の統計から nT3/4exp(ED/2kBT)n\propto T^{3/4}\exp\left(-E_{\mathrm D}/2k_{\mathrm B}T\right) の形で急激に増加します。中間の温度(出払い領域)ではドナーがすべて電離して nNDn\simeq N_{\mathrm D} の一定値になります。さらに高温になると真性励起 niT3/2exp(Eg/2kBT)n_i\propto T^{3/2}\exp\left(-E_{\mathrm g}/2k_{\mathrm B}T\right)NDN_{\mathrm D} を上回り、nn が再び急増します。

図は縦軸に lnEH\ln|E_{\mathrm H}|、横軸に 1/T1/T をとるのが標準です。lnEH=ln(jB/e)lnn\ln|E_{\mathrm H}|=\ln(jB/e)-\ln n なので、グラフは 1/T1/T の増加とともに単調に増加し、次の 3 つの部分からなります。1/T1/T が小さい側(高温)では傾き Eg/2kB=1.1/(2×8.6×105)6.4×103 KE_{\mathrm g}/2k_{\mathrm B}=1.1/(2\times8.6\times10^{-5})\simeq6.4\times10^{3}\ \mathrm K の直線、中間では EH=jB/(NDe)|E_{\mathrm H}|=jB/(N_{\mathrm D}e) の水平な平坦部、1/T1/T が大きい側(低温)では傾き ED/2kB=0.044/(2×8.6×105)2.6×102 KE_{\mathrm D}/2k_{\mathrm B}=0.044/(2\times8.6\times10^{-5})\simeq2.6\times10^{2}\ \mathrm K の直線です。両端の傾きは 25 倍違うので、高温側だけが極端に急な折れ線になります。平坦部の幅はドナー濃度で決まり、濃度が高いほど真性領域へ移る温度が高くなって平坦部が広がります。

言い換えると、温度を下げていくとホール電場は単調に大きくなります。高温側では真性キャリアが減るぶんだけ急激に大きくなり、出払い領域では jB/(NDe)jB/(N_{\mathrm D}e) で一定にとどまり、さらに下げるとキャリア凍結で再び急激に大きくなります。ひとつ注意すべき点として、真性領域では正孔も同程度に存在するため二種類のキャリアの寄与が打ち消し合い、ホール係数の大きさは上の単一キャリアの見積もりより小さくなり、移動度の比によっては符号が変わることもあります。

ブロック図は次の要素とその接続で表せます。

  • 定電流源(電流モニタ用の標準抵抗を直列に入れる)。試料の xx 方向両端の電流端子に接続します。
  • 試料。厚さ dd が既知の薄い直方体で、xx 方向の両端に電流端子、yy 方向の対向する側面に一対のホール電圧端子を、互いに正対する位置に付けます。
  • 電磁石(または超伝導マグネット)と磁石電源。zz 方向に磁場をかけ、極性を反転できるようにします。磁場はホール素子式ガウスメータで常時モニタします。
  • 前置増幅器とナノボルトメータ(交流励磁ならロックインアンプ)。ホール端子間に接続し、入力インピーダンスは試料の端子間抵抗より十分高くとります。
  • クライオスタットまたは恒温槽と、温度計・温度制御器。試料温度を設定・測定します。
  • 計算機。電流源、磁石電源、電圧計、温度制御器を制御してデータを記録します。

測定上の注意点は次のとおりです。ホール電圧 VH=EHw=IB/(ned)V_{\mathrm H}=|E_{\mathrm H}|\,w=IB/(ned)wwyy 方向の幅、ddzz 方向の厚さ)は μV\mu\mathrm V 程度まで小さくなるので、熱起電力や増幅器のオフセットが同程度に混入します。磁場の向きを反転して VH=[V(+B)V(B)]/2V_{\mathrm H}=[V(+B)-V(-B)]/2 と磁場の奇成分だけを取り出し、電流も反転して平均すると、これらの偶成分を除去できます。ホール端子が xx 方向にわずかにずれていると縦方向の抵抗降下(磁気抵抗成分)が重畳しますが、これも磁場反転による反対称化で除けます。接触は整流性のないオーミック接触にし、四端子法で接触抵抗の影響を避けます。電圧端子は電流端子から十分離します(電流端子の近傍ではホール電場が短絡されます)。試料電流はジュール発熱で試料温度が上がらない範囲に抑え、温度勾配があると Nernst 効果や Ettingshausen 効果が偽信号を生むので温度の均一化と監視が必要です。nn を出すには磁場方向の厚さ dd を正確に知る必要があり(幅 ww は消えます)、磁場は試料領域で均一かつ面に垂直でなければなりません。加えて、磁石電源のリップルや誘導ノイズを避けるためのシールドと接地の一点化、交流測定では位相の確認が要ります。

第6問 Thomson 散乱による電子温度計測

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円柱状の真空容器内に電子と水素イオンからなるプラズマがあり、その電子温度 TeT_{\mathrm e} をレーザー光の散乱で計測します。原点を容器中心、zz 軸を円柱の対称軸にとり、レーザーは原点を通って yy 軸に沿って入射します。散乱光のうち xx 軸方向に進むものを集光レンズで集めて検出します。電子はレーザーの電場で加速されて振動し、その双極子放射が散乱光として観測されます。電子の速度は十分小さく、相対論的効果は無視します。入射光と散乱光の角振動数を ωi,ωs\omega_{\mathrm i},\omega_{\mathrm s}、波数ベクトルを ki,ks\vec k_{\mathrm i},\vec k_{\mathrm s}、電子の速度を v\vec v、プラズマ中の光速を 3×108m/s3\times10^{8}\,\mathrm{m/s} とします。

散乱は、入射光の電場で加速された荷電粒子の双極子放射です。電荷 qq、質量 MM の粒子の加速度は a=qE/Ma=qE/M で、放射される電力は加速度の 2 乗に比例するので、散乱断面積は

σ(q24πϵ0Mc2)2q4M2\sigma\propto\left(\frac{q^2}{4\pi\epsilon_0Mc^2}\right)^2\propto\frac{q^4}{M^2}

と質量の 2 乗に反比例します。電子と水素イオン(陽子)は電荷の大きさが等しく、質量比が mp/me1.8×103m_{\mathrm p}/m_{\mathrm e}\simeq1.8\times10^{3} なので、イオンによる散乱断面積は電子の (me/mp)23×107(m_{\mathrm e}/m_{\mathrm p})^2\simeq3\times10^{-7} 倍にすぎません。同数のイオンと電子があっても寄与は 7 桁小さく、観測される散乱光は事実上すべて電子によるものです。重いイオンはレーザーの電場でほとんど揺さぶられないから、と言い換えられます。

(a) 電子の位置を r(t)=r0+vt\vec r(t)=\vec r_0+\vec vt とすると、電子が感じる入射光の位相は

kir(t)ωit=kir0(ωikiv)t\vec k_{\mathrm i}\cdot\vec r(t)-\omega_{\mathrm i}t =\vec k_{\mathrm i}\cdot\vec r_0-\left(\omega_{\mathrm i}-\vec k_{\mathrm i}\cdot\vec v\right)t

です。時間についての振動の角振動数はこの係数なので

ωe=ωikiv\omega_{\mathrm e}=\omega_{\mathrm i}-\vec k_{\mathrm i}\cdot\vec v

です。電子が入射光に向かって進むと kiv<0\vec k_{\mathrm i}\cdot\vec v<0 で高い振動数に見えます。

(b) 電子の静止系では散乱で角振動数が変わらないので、電子は ωe\omega_{\mathrm e} で振動しながら ωe\omega_{\mathrm e} の光を放射します。速度 v\vec v で動く放射源から k^s\hat k_{\mathrm s} 方向に出た光を実験室系で見ると、v/cv/c の 1 次で

ωs=ωe1k^sv/cωe(1+k^svc)=ωe+ksv\omega_{\mathrm s}=\frac{\omega_{\mathrm e}}{1-\hat k_{\mathrm s}\cdot\vec v/c}\simeq\omega_{\mathrm e}\left(1+\frac{\hat k_{\mathrm s}\cdot\vec v}{c}\right)=\omega_{\mathrm e}+\vec k_{\mathrm s}\cdot\vec v

です。よって

ωs=ωi+(kski)v\omega_{\mathrm s}=\omega_{\mathrm i}+\left(\vec k_{\mathrm s}-\vec k_{\mathrm i}\right)\cdot\vec v

が答えです。入射時と放射時の 2 回のドップラー効果が、散乱波数ベクトル K=kski\vec K=\vec k_{\mathrm s}-\vec k_{\mathrm i} の形でまとめて現れます。

(c) 入射光は +y+y 方向、散乱光は +x+x 方向なので ki=ky^\vec k_{\mathrm i}=k\hat ykskx^\vec k_{\mathrm s}\simeq k\hat xk=2π/λk=2\pi/\lambda、シフトは小さいので大きさは共通としてよい)です。したがって

Δω=ωsωi=k(vxvy)\Delta\omega=\omega_{\mathrm s}-\omega_{\mathrm i}=k\left(v_x-v_y\right)

で、vx=3×106v_x=3\times10^{6}vy=3×106m/sv_y=-3\times10^{6}\,\mathrm{m/s} より vxvy=6×106m/s>0v_x-v_y=6\times10^{6}\,\mathrm{m/s}>0、すなわち角振動数は増加します。相対値は

Δωωi=vxvyc=6×1063×108=2×102\frac{\Delta\omega}{\omega_{\mathrm i}}=\frac{v_x-v_y}{c}=\frac{6\times10^{6}}{3\times10^{8}}=2\times10^{-2}

です。波長は λ1/ω\lambda\propto1/\omega なので Δλ/λ=Δω/ωi\Delta\lambda/\lambda=-\Delta\omega/\omega_{\mathrm i}

Δλ=1.06×106×2×102=2×108m|\Delta\lambda|=1.06\times10^{-6}\times2\times10^{-2}=2\times10^{-8}\,\mathrm m

です。答えは、短波長側に約 2×108m2\times10^{-8}\,\mathrm m2×102μm2\times10^{-2}\,\mu\mathrm m20 nm20\ \mathrm{nm})のシフトを受ける、です。

多数の電子からの寄与を干渉を考えずに足すので、散乱光のスペクトルは Δω=Kv\Delta\omega=\vec K\cdot\vec vK=kski\vec K=\vec k_{\mathrm s}-\vec k_{\mathrm i})の分布そのものです。Maxwell 分布では速度の各成分が独立な Gauss 分布なので、K\vec K 方向の成分 u=K^vu=\hat K\cdot\vec v の分布は

P(u)exp(meu22kBTe)P(u)\propto\exp\left(-\frac{m_{\mathrm e}u^2}{2k_{\mathrm B}T_{\mathrm e}}\right)

です。Δω=Ku\Delta\omega=|\vec K|u を代入すると散乱光強度は

I(ω)exp(me(ωωi)22kBTeK2)I(\omega)\propto\exp\left(-\frac{m_{\mathrm e}(\omega-\omega_{\mathrm i})^2}{2k_{\mathrm B}T_{\mathrm e}|\vec K|^2}\right)

となります。分布は uu について対称なので中心角振動数は

ω0=ωi\omega_0=\omega_{\mathrm i}

です。強度がピーク値の 1/e1/e になる半幅は、指数の中身が 1-1 になる条件から Δω=K2kBTe/me\Delta\omega=|\vec K|\sqrt{2k_{\mathrm B}T_{\mathrm e}/m_{\mathrm e}} です。本問の配置は散乱角 9090^\circK=2kisin(90/2)=2ki=2ωi/c|\vec K|=2k_{\mathrm i}\sin(90^\circ/2)=\sqrt2\,k_{\mathrm i}=\sqrt2\,\omega_{\mathrm i}/c なので

Δω=2ωickBTeme\Delta\omega=\frac{2\omega_{\mathrm i}}{c}\sqrt{\frac{k_{\mathrm B}T_{\mathrm e}}{m_{\mathrm e}}}

が答えです。逆に解くと Te=mec2(Δω)2/(4kBωi2)T_{\mathrm e}=m_{\mathrm e}c^2(\Delta\omega)^2/(4k_{\mathrm B}\omega_{\mathrm i}^2) で、スペクトル幅から電子温度が決まります。Te=1 keVT_{\mathrm e}=1\ \mathrm{keV}λ=1.06μm\lambda=1.06\,\mu\mathrm m なら Δω/ωi=2kBTe/me/c0.09\Delta\omega/\omega_{\mathrm i}=2\sqrt{k_{\mathrm B}T_{\mathrm e}/m_{\mathrm e}}/c\simeq0.09、波長幅にして約 90 nm90\ \mathrm{nm} です。

スペクトルの図は次のように描きます。横軸を ω\omega、縦軸を散乱光強度とし、ω=ω0=ωi\omega=\omega_0=\omega_{\mathrm i} を中心にした左右対称の Gauss 型の山を 1 つ描きます。ピークは ω0\omega_0 にあり、ω=ω0±Δω\omega=\omega_0\pm\Delta\omega で強度がピーク値の 1/e1/e(約 0.370.37 倍)まで落ちます。変曲点は ω0±Δω/2\omega_0\pm\Delta\omega/\sqrt2 で、そこから外側では上に凸から下に凸へ変わりながら単調に減衰し、ωω0Δω|\omega-\omega_0|\gg\Delta\omega で 0 に漸近します。副極大や肩はありません。図中には中心の位置に ω0\omega_0、中心からピークの 1/e1/e 点までの水平距離に Δω\Delta\omega と記入します。

散乱体積の柱の長さ LL に沿った電子の面密度は neLn_{\mathrm e}L なので、入射光子 1 個が立体角 Ωs\Omega_{\mathrm s} に散乱される確率は

NsNi=neLdσdΩsΩs=neLre2Ωs\frac{N_{\mathrm s}}{N_{\mathrm i}}=n_{\mathrm e}L\,\frac{\mathrm d\sigma}{\mathrm d\Omega_{\mathrm s}}\,\Omega_{\mathrm s} =n_{\mathrm e}L\,r_{\mathrm e}^2\,\Omega_{\mathrm s}

です(光学的に薄いので多重散乱は無視します)。数値を入れると

NsNi=1020×102×(3×1015)2×102=9×1014\frac{N_{\mathrm s}}{N_{\mathrm i}}=10^{20}\times10^{-2}\times\left(3\times10^{-15}\right)^2\times10^{-2} =9\times10^{-14}

です。答えは約 9×10149\times10^{-14} です。m3mm2\mathrm{m^{-3}\cdot m\cdot m^2} が無次元になることが次元の確認になります。入射光子 101410^{14} 個あたり 1 個しか届かないので、レーザー 1 パルスあたり 1J1\,\mathrm J1.06μm1.06\,\mu\mathrm m で約 5×10185\times10^{18} 光子)を撃ち込んでも集光される光子は 10510^{5} 個程度にとどまり、検出器の量子効率と波長チャンネルへの分割を考えると、単発測定の統計精度は数パーセントに限られます。

波長スペクトルの測定法としては、集光レンズで集めた散乱光を光ファイバー束で分光器に導き、回折格子で分散させて複数の波長帯に分け、各帯を独立の光検出器で同時に測る方式(多チャンネル分光器、ポリクロメータ)が代表的です。たとえば Nd:YAG レーザー(波長 1.06μm1.06\,\mu\mathrm m、パルス幅 10 ns10\ \mathrm{ns}、パルスエネルギー 1 J1\ \mathrm J)を入射し、集光光学系からファイバーで導いた光を回折格子分光器で 5〜10 の波長チャンネルに分け、各チャンネルをアバランシェフォトダイオードや光電子増倍管で受け、レーザー発振に同期したゲート積分器で受光電荷を積分します。各チャンネルの信号比から Gauss 型スペクトルの幅を最小二乗で決めれば TeT_{\mathrm e} が、絶対強度(Rayleigh 散乱や回転 Raman 散乱で校正)から nen_{\mathrm e} が得られます。分散素子として狭帯域干渉フィルターを並べた構成や、シフトの小さい低温プラズマでは Fabry-Perot 干渉計を使う構成もあります。時間分解はレーザーの繰り返しで、空間分解はレーザー光路の像を複数のファイバーに分けることで得ます。

迷光の低減法としては、レーザーの入射窓と出射窓を長い側管の先端に置き、側管の内部にナイフエッジ状のバッフルを何段も入れて、窓で散乱された光が検出光学系の視野に直接入らないようにする方法が有効です。さらにレーザーが抜ける側の対向壁には黒化したビームダンプ(ビューイングダンプ)を置き、集光系の視線がレーザー光で照らされた壁面を見ないようにします。窓を Brewster 角に置いて反射を抑える、入射光の偏光と直交する成分だけを見る、レーザー波長にノッチ(ホログラフィック)フィルターを入れて中心波長の残留迷光だけを落とす、といった手段も併用されます。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成18年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。

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