数学は 2 問で、どちらも「与えられた微分方程式を、うまい変数に移してから解く」という筋書きです。第1問は外積 v× を実反対称行列として書き、その正規直交固有基底で標準形に直す線形代数の問題。第2問は球対称な波動方程式を ru という組み合わせで 1 次元波動方程式に落とし、原点での正則性を境界条件として初期値問題を解いてからフーリエ変換します。落としやすいのは、第1問(2) の符号と規格化、第2問(2)(3) で r=0 における正則性をどう課すかの 2 点です。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 線形代数・微分方程式 | 外積で定まる線形常微分方程式と直交行列による標準化 |
| 第2問 | 微分方程式・フーリエ解析 | 球対称波動方程式の初期値問題とスペクトル |
問題冊子は英語と数学の合冊で、全 4 問(数学 2 問・英語 2 問)すべてに解答する形式です。この記事では数学の 2 問を扱います。
定数ベクトル
v=21−1
に対する常微分方程式 dtdx=v×x を考えます。設問は、外積を行列 A で表すこと、v を軸とする正規直交基底の構成、A の直交行列による標準化、そして新しい座標での一般解と定性的な振る舞いです。以下では x の成分を x1,x2,x3、v の成分を v1,v2,v3 と書きます。
外積を成分で書くと
v×x=v2x3−v3x2v3x1−v1x3v1x2−v2x1
で、右辺は x の各成分について線形です。係数を読み取ると
A=0v3−v2−v30v1v2−v10=0−1−11021−20
となります。これが答えです。実際に掛けると Ax=(x2+x3,−x1−2x3,−x1+2x2)t で、上の外積の成分と一致します。
A は実反対称行列 At=−A です。これは任意の x に対して x⋅(v×x)=0、すなわち x⋅Ax=0 が成り立つことの行列版で、後で ∣x∣ が保存することの理由になります。
まず e3 を決めます。v×e3=0 かつ e3=0 なので e3 は v に平行で、∣e3∣=1 から
e3=±∣v∣v,∣v∣=22+12+(−1)2=6
に限られます。以下では e3=v/6 を採ります(残る符号の自由度は最後に述べます)。
次に e1 です。e1⋅e3=0 と e3∥v から v⋅e1=0、すなわち 2(e1)1+(e1)2−(e1)3=0 です。e1 の第 1 成分が 0 という条件を入れると (e1)2=(e1)3 で、規格化して
e1=±21011
です。ここでも上側の符号を採ります。
λ は第 1 の関係式の長さから決まります。e1⊥v かつ ∣e1∣=1 なので ∣v×e1∣=∣v∣∣e1∣=6、一方 ∣λe2∣=λ です。λ>0 より
λ=6.
e2 は第 1 の関係式から一意に定まります。(2,1,−1)t×(0,1,1)t=(2,−2,2)t なので
e2=λ1v×e1=6212−22=311−11.
以上が必要条件でしたので、逆に十分性を確認します。∣e2∣2=(1+1+1)/3=1、e1⋅e2=(0−1+1)/6=0、e1⋅e3=(0+1−1)/12=0、e2⋅e3=(2−1−1)/18=0 で正規直交系です。第 2 の関係式は
v×e2=3121−1×1−11=310−3−3=−3011=−6e1
となって −λe1 に一致し、第 3 の関係式は e3∥v から成り立ちます。よって答えは
e1=21011,e2=311−11,e3=6121−1,λ=6
です。条件を満たす組は、e1 と e2 を同時に −1 倍するか、e3 を −1 倍するかの 4 通りがあり(e1 の符号を変えると e2=v×e1/λ の符号も同時に変わります)、λ=6 はどの場合も同じです。上の選び方では e1×e2=61(2,1,−1)t=e3 で、右手系になっています。
ei を列に並べた行列
U=(e1e2e3)
を取ります。(UtU)ij=ei⋅ej=δij なので UtU=I、U は正方行列なので U−1=Ut が従い UUt=I も成り立ちます。すなわち U は実直交行列です。
標準形の行列を D と書きます。設問(2) の 3 つの関係式は Ae1=λe2、Ae2=−λe1、Ae3=0 ですから、AU の各列は (λe2, −λe1, 0) です。他方
D=0λ0−λ00000
の第 1 列は (0,λ,0)t なので UD の第 1 列は λe2、第 2 列は U(−λ,0,0)t=−λe1、第 3 列は 0 です。よって AU=UD が列ごとに成立し、右から Ut=U−1 を掛けて
A=UDUt,UUt=I
が示されました。U は具体的に
U=01/21/21/3−1/31/32/61/6−1/6
です。detU=+1 なので、これは回転行列でもあります。設問(2) の符号の選び方を変えれば別の U(e3 の符号を変えたものは detU=−1)も同じ式を満たし、いずれも実直交行列という要求を満たします。念のため UDUt を計算すると設問(1) の A に戻ります。
基底は時間に依らないので dtdx=∑iq˙iei です。右辺は
Ax=i∑qi(v×ei)=λq1e2−λq2e1
なので、ei の係数を比べて
q˙1=−λq2,q˙2=λq1,q˙3=0,λ=6
が求める微分方程式です(q=Utx と置いた q˙=Dq と同じものです)。
q1,q2 は z≡q1+iq2 でまとめると z˙=q˙1+iq˙2=iλ(q1+iq2)=iλz となり、z(t)=z(0)eiλt です。実部と虚部を取ると一般解は
q1(t)q2(t)q3(t)=q1(0)cosλt−q2(0)sinλt,=q1(0)sinλt+q2(0)cosλt,=q3(0),
すなわち C≥0、δ、q3 を任意定数として
q1(t)=Ccos(λt+δ),q2(t)=Csin(λt+δ),q3(t)=q3
と書けます。3 個の任意定数を含み、3 次元の 1 階線形系の一般解として個数が合っています。
定性的な振る舞いは次のとおりです。q3 は保存し、q12+q22=C2 も保存するので、∣x∣2=C2+q32 は一定です。したがって解は減衰も発散もせず、v に垂直な平面内で半径 C の円を、角速度 λ=∣v∣=6 で e1 から e2 の向き(v のまわりの右回りねじの向き)に等速で回り続けます。周期は T=2π/6≃2.57 で、初期条件によらず同じです。特に C=0、つまり x が最初から v に平行な場合は x は動かず不動点になります。まとめると x(t)=eAtx(0) は軸 v^=v/∣v∣ のまわりの角 6t の回転で、角速度ベクトル v の剛体回転そのものです。
これは元の方程式から直接読める性質と整合します。dtd∣x∣2=2x⋅(v×x)=0 で長さが保存し、dtd(v⋅x)=v⋅(v×x)=0 で軸方向成分(6q3)が保存します。A が実反対称であることから固有値は 0,±iλ と純虚数(と 0)になり、指数関数的な増大・減衰が現れないことも同じ事実の別の表現です。
球対称な関数 u(t,r) に対する波動方程式
∂t2∂2u=c2(∂r2∂2u+r2∂r∂u)
を扱います。r (≥0) は動径座標、t は時間、c は速度の次元をもつ正の定数です。右辺の括弧は球座標のラプラシアンを角度に依らない関数に作用させたもので、Δu=r−2∂r(r2∂ru) と同じです。一般解、2 種類の初期値問題、その解の時間フーリエ変換、そして原点での振幅スペクトルのピーク位置を求めます。ガウス型の初期波束の幅は r0>0 とします。
w(t,r)≡ru(t,r) と置きます。u=w/r から
∂r∂u=rwr−r2w,∂r2∂2u=rwrr−r22wr+r32w
なので、r>0 で
∂r2∂2u+r2∂r∂u=rwrr−r22wr+r32w+r22wr−r32w=rwrr
と、1/r2 と 1/r3 の項がちょうど打ち消します。左辺は utt=wtt/r ですから、元の方程式は r>0 で 1 次元波動方程式
∂t2∂2w=c2∂r2∂2w
と同値です。これはダランベールの解 w=f(r−ct)+g(r+ct) をもつので、求める一般解は 2 個の任意関数 f,g(2 回微分可能とします)を用いて
u(t,r)=rf(r−ct)+g(r+ct)
と書けます。逆にこの形の u が元の方程式を満たすことは上の変形を逆にたどれば分かります。f の項は外向き、g の項は内向きに速さ c で進む球面波で、振幅が 1/r で減衰する点が 1 次元との違いです。
なお u が原点で有界であることを要求すると w(t,0)=f(−ct)+g(ct)=0 が任意の t で必要なので g(ξ)=−f(−ξ)、すなわち任意関数は実質 1 個に減ります。この条件が以下の設問で効いてきます。
初期条件は u(0,r)=e−r2/(2r02)、ut(0,r)=0 です。w=ru に直すと
w(0,r)=W0(r)≡re−r2/(2r02),wt(0,r)=0(r>0)
で、さらに原点での正則性から境界条件 w(t,0)=0 が付きます。この半直線上の混合問題は、初期データを r<0 へ奇関数として延長して全直線のダランベール解を作り、r≥0 に制限すれば得られます(奇な初期データから作った解は r について奇なので自動的に w(t,0)=0 を満たします。また境界値 w(t,0)=0 を課した半直線上の初期値境界値問題の解は、エネルギー ∫0∞(wt2+c2wr2)dr の保存から一意なので、これが唯一の解です)。ここで W0(r)=re−r2/(2r02) は式のまま r<0 に延長すると奇関数なので、延長の手間はありません。
初速度が 0 の場合のダランベールの公式 w(t,r)=21[W0(r−ct)+W0(r+ct)] を使うと、t>0 に対する解は
u(t,r)=2r1[(r−ct)e−(r−ct)2/(2r02)+(r+ct)e−(r+ct)2/(2r02)]
です。これが答えです。設問(1) の記号では f(ξ)=g(ξ)=2ξe−ξ2/(2r02) で、f が奇関数なので原点での条件 g(ξ)=−f(−ξ) も満たしています。
確認します。t=0 を入れると u=2r1[re−r2/(2r02)+re−r2/(2r02)]=e−r2/(2r02) で初期形状に一致します。t 微分は ut=2rc[−W0′(r−ct)+W0′(r+ct)] で、t=0 では括弧が消えて ut(0,r)=0 です。原点は見かけの特異点で、W0 が奇、1/r も奇なので u は r の偶関数、r→0 の極限は
u(t,0)=r→0lim2rW0(r+ct)+W0(r−ct)=W0′(ct)=(1−r02c2t2)e−c2t2/(2r02)
と有限です(W0 が奇なので W0′ は偶で、21[W0′(−ct)+W0′(ct)]=W0′(ct))。t=0 で u(0,0)=1 と初期条件に合い、∂u/∂r∣r=0=0 も偶関数性から言えるので、原点で滑らかな球対称関数になっています。ct≫r0 では第 2 項は指数的に消え、r≃ct に局在した外向きパルスだけが残り、その振幅は 1/r で減衰します。
こんどは w(0,r)=0、wt(0,r)=V0(r)≡re−r2/(2r02) です。V0 も奇関数なので設問(2) と同じ議論が使え、初期変位が 0 の場合のダランベールの公式
w(t,r)=2c1∫r−ctr+ctV0(s)ds
を用います。∫se−s2/(2r02)ds=−r02e−s2/(2r02) なので
w(t,r)=2cr02[e−(r−ct)2/(2r02)−e−(r+ct)2/(2r02)]
となり、t>0 に対する解は
u(t,r)=2crr02[e−(r−ct)2/(2r02)−e−(r+ct)2/(2r02)]
です。設問(1) の記号では f(ξ)=2cr02e−ξ2/(2r02)=−g(ξ) で、f が偶関数なので原点条件 g(ξ)=−f(−ξ) を満たします。V0 が奇なので w(t,0)=2c1∫−ctctV0ds=0 も直ちに分かります。
確認します。t=0 で括弧が 0 になり u(0,r)=0。t 微分は
ut(t,r)=2r1[(r−ct)e−(r−ct)2/(2r02)+(r+ct)e−(r+ct)2/(2r02)]
で、t=0 とすれば ut(0,r)=e−r2/(2r02) と初期条件に合います(この式は設問(2) の解そのものです。初期変位型の解を時間積分すると初期速度型の解になる、という関係の反映です)。原点では
u(t,0)=2cr02r→0limr1[e−(r−ct)2/(2r02)−e−(r+ct)2/(2r02)]=te−c2t2/(2r02)
で有限です。次元も合っています。初期条件で ∂u/∂t が無次元と与えられているので u は時間の次元をもつはずで、実際に係数 r02/(cr) が時間の次元です。
設問(3) で得た式は t の関数として全実軸で定義され、そのまま波動方程式を満たします(t→−t で 2 つの指数が入れ替わるので u は t について奇関数です)。フーリエ変換はこの関数について実行します。ガウス関数の積により被積分関数は ∣t∣→∞ で急減少するので、積分は絶対収束します。
第 1 項は s=ct−r(t=(s+r)/c、dt=ds/c)と置くと
∫−∞∞e−(r−ct)2/(2r02)eiωtdt=ceiωr/c∫−∞∞e−s2/(2r02)+iωs/cds.
ガウス積分の公式 ∫−∞∞e−as2+bsds=π/aeb2/(4a)(a>0、b は複素数でよい。両辺が b の整関数で実軸上一致することから解析接続で従います)に a=1/(2r02)、b=iω/c を入れると
∫−∞∞e−s2/(2r02)+iωs/cds=2πr0e−ω2r02/(2c2).
第 2 項は s=ct+r と置けば eiωr/c が e−iωr/c に替わるだけです。よって
U(ω,r)=2crr02⋅c2πr0e−ω2r02/(2c2)(eiωr/c−e−iωr/c)=c2ri2πr03e−ω2r02/(2c2)sin(cωr).
これが答えです。u が実かつ t について奇関数であることから U は純虚数で ω について奇関数になるはずで、実際そうなっています。
検算として、U が満たすべき方程式を見ます。フーリエ変換で ∂t2→−ω2 となるので U は U′′+r2U′+k2U=0(k=ω/c)を満たさなければならず、原点で正則な解は球ベッセル関数 j0(kr)=sin(kr)/(kr) に比例します。上の U は sin(ωr/c)/r の形なのでこれに一致します。次元も、U は u と時間の積で時間の 2 乗の次元をもつべきで、r03/(c2r) が確かにそうなっています。
r→0 で sin(ωr/c)/r→ω/c なので
g(ω)=U(ω,r=0)=c3i2πr03ωe−ω2r02/(2c2)
です。これは純虚数なので、g(ω)=ig~(ω) と書いて実関数
g~(ω)=2πc3r03ωe−ω2r02/(2c2)
の最大値(振幅 ∣g∣ の最大値)を問うていると解釈します。微分すると
g~′(ω)=2πc3r03(1−c2ω2r02)e−ω2r02/(2c2)
で、ω=±c/r0 のみが停留点です。∣ω∣<c/r0 で g~′>0、∣ω∣>c/r0 で g~′<0 であり、g~(0)=0、g~→0 (ω→±∞) なので、g~ は ω=c/r0 で最大、ω=−c/r0 で最小になります。よって求める値は
ω=r0c
です(g~ は奇関数なので ∣g∣ が最大になるのは ∣ω∣=c/r0、すなわち ω=±c/r0 です)。そのときの値は
∣g∣max=e2πc2r02
です。
c/r0 は速度を長さで割ったもので、確かに角振動数の次元をもちます。物理的には、設問(3) の解の原点での値が u(t,0)=te−c2t2/(2r02) という幅 r0/c 程度の 1 山のパルスなので、そのスペクトルが ω∼c/r0 にピークをもつのは自然です。波束が広い(r0 が大きい)ほどピークは低周波側に寄ります。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成15年度 修士課程 入学試験問題 数学。問題文は要約して引用しています。