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積分の基本定理と定積分:リーマン和から原始関数へ

対象読者: 本テーマ第 1〜3 章の極限・連続性、微分法、平均値の定理を学んだ人。リーマン積分や微分積分学の基本定理の厳密な扱いは未習でもかまいません。

前提となる記事:平均値の定理とテイラーの定理:微分から関数の姿を復元する

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曲線で囲まれた図形の面積は、どう測ればよいのでしょうか。この記事は、細い長方形を並べて面積に近づけていくという素朴な方法を出発点に、「面積」という数がいつきちんと決まるのかを確かめます。そのうえで、面積を求める計算が、傾きを調べる計算(微分)の逆になっていることを示します。読み終えると、長い和の極限を取らなくても、1 行の引き算で面積が出せる理由がわかります。

  • 定積分は「面積」を既知として定義するのではありません。長方形の面積の和(ダルブー和・リーマン和)の上限と下限が一致することを要求し、一致したときにその共通の値を面積と定める、という順序です。この一致が起きる関数を可積分と呼びます。
  • 有界な関数が可積分であるための必要十分条件は、上和と下和の差をいくらでも小さくできる分割が取れることです(定理 3.4)。連続関数はこれを一様連続性から満たします(定理 3.5)。
  • 微分積分学の基本定理は 2 つの主張からなります。前半は「積分してから微分すると元に戻る」(定理 5.2)、後半は「原始関数(微分すると元の関数になる関数)の差が定積分に等しい」(定理 5.4)です。
  • 後半の証明の核は平均値の定理です。無限個の項の極限だった定積分が、原始関数を 2 点で評価する引き算に化けます。この「化け方」が基本定理の威力の正体です。
  • 置換積分は合成関数の微分法を、部分積分は積の微分法を、それぞれ基本定理で積分の側へ翻訳したものです(定理 6.1、定理 6.2)。

1. 動機:「面積」を定義するところから

Section titled “1. 動機:「面積」を定義するところから”

古代ギリシャのアルキメデスは、放物線と弦で囲まれた領域の面積を、内接三角形を無限に足し上げる「取り尽くし法」で求めました。見事な議論ですが、図形ごとに個別の工夫が必要で、一般の曲線には通用しません。

17 世紀にニュートンとライプニッツが見抜いたのは、面積を求める操作と接線を引く操作が互いに逆だという驚くべき事実でした。これがこの記事の主題である微分積分学の基本定理です。この発見によって、面積の計算は「微分すると元の関数になる関数」を探す作業に置き換わり、計算可能な積分の範囲が一気に広がりました。

しかし 18 世紀までの微積分には、根本的な曖昧さが残っていました。「曲線で囲まれた領域の面積」を、あたかも初めから存在する量であるかのように使っていたのです。長方形の面積が縦かける横であることは定義として認めるとしても、曲線で囲まれた領域については、面積という数がそもそも存在するのかどうかから怪しい。フーリエ級数の研究で「値が激しく飛び回る関数」が正面から扱われるようになると、この曖昧さは実害を生み始めます。

19 世紀にコーシーとリーマンが与えた答えが、この記事で扱う定積分です。彼らの発想の転換は次の一点にあります。面積を求めるのではなく、面積を定義する。 領域を細い長方形で内側から埋め、外側から覆い、内側の総面積の上限と外側の総面積の下限が一致したときに限り、その共通の値を面積と呼ぶことにしたのです。一致しない関数は「面積をもたない」と切り捨てます。こうして「どんな関数なら面積が定まるか」という問いが、可積分性という明確な条件として切り出されました。

この記事の目標は 2 つです。第一に、定積分を長方形の和の極限として定義し、連続関数に対してそれが確かに定まることを証明します。第二に、微分積分学の基本定理を証明し、その強力さを具体的に見ます。

なお、極限と連続性の ε-δ 論法(関数の極限の定義(定義 3.1)[極限と連続性])、および平均値の定理(ラグランジュの平均値の定理(定理 3.3)[平均値の定理とテイラーの定理])は既知とします。必要に応じて 極限と連続性 (ε-δ論法)、平均値の定理とテイラーの定理 を参照してください。

2. 準備:分割・ダルブー和・リーマン和

Section titled “2. 準備:分割・ダルブー和・リーマン和”

定義 2.1(分割とダルブー和)↗

a<ba < b とし、f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} を有界な関数とする。有限個の点の組

Δ:a=x0<x1<⋯<xn=b\Delta : a = x_0 < x_1 < \cdots < x_n = b

を [a,b][a,b] の分割という。Δxi=xi−xi−1\Delta x_i = x_i - x_{i-1} とおき、∣Δ∣=max⁡1≤i≤nΔxi|\Delta| = \max_{1 \le i \le n} \Delta x_i を Δ\Delta の幅という。各小区間 Ii=[xi−1,xi]I_i = [x_{i-1}, x_i] に対し

Mi=sup⁡x∈Iif(x),mi=inf⁡x∈Iif(x)M_i = \sup_{x \in I_i} f(x), \qquad m_i = \inf_{x \in I_i} f(x)

とおく(ff が有界だから、これらは実数として存在する)。そして

S(Δ,f)=∑i=1nMi Δxi,s(Δ,f)=∑i=1nmi ΔxiS(\Delta, f) = \sum_{i=1}^{n} M_i \, \Delta x_i, \qquad s(\Delta, f) = \sum_{i=1}^{n} m_i \, \Delta x_i

をそれぞれ Δ\Delta に関する 上ダルブー和、下ダルブー和 という。

上和はグラフを外側から覆う長方形の総面積、下和は内側から埋める長方形の総面積です。定義に f≥0f \ge 0 は仮定していないので、ff が負の値を取る部分では「符号付きの面積」を数えていることになります。

ax₁x₂x₃by = f(x)上和 S(Δ, f)下和 s(Δ, f)
上ダルブー和(破線の長方形)と下ダルブー和(塗った長方形)。両者の差は、曲線が小区間の中でどれだけ動くかの総和です。

定義 2.2(タグ付き分割とリーマン和)↗

分割 Δ\Delta の各小区間から代表点 ξi∈[xi−1,xi]\xi_i \in [x_{i-1}, x_i] を 1 つずつ選んだ組 (Δ,ξ)(\Delta, \boldsymbol{\xi}) を タグ付き分割 といい、

R(Δ,ξ,f)=∑i=1nf(ξi) ΔxiR(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) = \sum_{i=1}^{n} f(\xi_i) \, \Delta x_i

を リーマン和 という。

各 ii で mi≤f(ξi)≤Mim_i \le f(\xi_i) \le M_i ですから、代表点をどう選んでも

s(Δ,f)≤R(Δ,ξ,f)≤S(Δ,f)s(\Delta, f) \le R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) \le S(\Delta, f)

が成り立ちます。この不等式はこの記事で何度も使うので、覚えておいてください。逆に上限・下限の定義から、f(ξi)f(\xi_i) が MiM_i や mim_i に十分近くなるように代表点を選べばリーマン和は上和・下和にいくらでも近づけられるので、上和と下和は「リーマン和が動きうる範囲のちょうど両端」です。ダルブー和を使うのは、代表点の選び方という余計な自由度を先に潰しておくためです。

次の補題は、分割を細かくすると下和は増え上和は減る、つまり内側と外側から挟む幅がせばまる、という当たり前に見える事実を確かめます。証明では分点を 1 つ足したときに何が起きるかだけを調べれば済みます。そこで使うのは、集合が小さくなると上限は大きくならず、下限は小さくならない、という性質です。

補題 2.3(細分による単調性)✓

ff を [a,b][a,b] 上の有界関数とする。

(1) 分割 Δ′\Delta' が Δ\Delta の 細分(Δ\Delta の分点をすべて含む分割)ならば

s(Δ,f)≤s(Δ′,f)≤S(Δ′,f)≤S(Δ,f).s(\Delta, f) \le s(\Delta', f) \le S(\Delta', f) \le S(\Delta, f).

(2) [a,b][a,b] の任意の 2 つの分割 Δ1,Δ2\Delta_1, \Delta_2 に対し s(Δ1,f)≤S(Δ2,f)s(\Delta_1, f) \le S(\Delta_2, f) である。

証明(補題 2.3)

(1) 中央の不等式は、各 ii で mi≤Mim_i \le M_i かつ Δxi>0\Delta x_i > 0 なので、項ごとに比較して和を取れば従います。

両端の不等式を示します。Δ′\Delta' は Δ\Delta に有限個の点を付け加えたものですから、1 点を付け加える操作を有限回繰り返して得られます。したがって、Δ\Delta に 1 点 c∈(xk−1,xk)c \in (x_{k-1}, x_k) を加えた分割 Δ′\Delta' の場合を示せば十分です。

M′=sup⁡[xk−1,c]fM' = \sup_{[x_{k-1}, c]} f、M′′=sup⁡[c,xk]fM'' = \sup_{[c, x_k]} f とおきます。[xk−1,c][x_{k-1}, c] と [c,xk][c, x_k] はどちらも [xk−1,xk][x_{k-1}, x_k] の部分集合なので、上限は小さい集合上で小さくなり、M′≤MkM' \le M_k かつ M′′≤MkM'' \le M_k です。よって

M′(c−xk−1)+M′′(xk−c)≤Mk(c−xk−1)+Mk(xk−c)=MkΔxk.M'(c - x_{k-1}) + M''(x_k - c) \le M_k (c - x_{k-1}) + M_k (x_k - c) = M_k \Delta x_k .

S(Δ′,f)S(\Delta', f) と S(Δ,f)S(\Delta, f) は第 kk 項以外まったく同じ項からなるので、S(Δ′,f)≤S(Δ,f)S(\Delta', f) \le S(\Delta, f) を得ます。下和については、下限は小さい集合上で大きくなるので m′≥mkm' \ge m_k、m′′≥mkm'' \ge m_k となり、同じ計算で不等号の向きが逆になって s(Δ′,f)≥s(Δ,f)s(\Delta', f) \ge s(\Delta, f) が従います。

(2) Δ1\Delta_1 と Δ2\Delta_2 の分点をすべて合わせた分割 Δ=Δ1∪Δ2\Delta = \Delta_1 \cup \Delta_2(共通細分)を取ります。Δ\Delta は Δ1\Delta_1 の細分でも Δ2\Delta_2 の細分でもあるので、(1) を 2 回使って

s(Δ1,f)≤s(Δ,f)≤S(Δ,f)≤S(Δ2,f)s(\Delta_1, f) \le s(\Delta, f) \le S(\Delta, f) \le S(\Delta_2, f)

となります。

定義 3.1(上積分・下積分とリーマン可積分性)↗

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} を有界関数とし、[a,b][a,b] の分割全体のなす集合を P\mathcal{P} と書く。

∫ab‾f=inf⁡Δ∈PS(Δ,f),∫ab‾f=sup⁡Δ∈Ps(Δ,f)\overline{\int_a^b} f = \inf_{\Delta \in \mathcal{P}} S(\Delta, f), \qquad \underline{\int_a^b} f = \sup_{\Delta \in \mathcal{P}} s(\Delta, f)

をそれぞれ ff の 上積分、下積分 という。

∫ab‾f=∫ab‾f\overline{\int_a^b} f = \underline{\int_a^b} f が成り立つとき、ff は [a,b][a,b] で リーマン可積分(以下、単に可積分)であるといい、この共通の値を ∫abf(x) dx\int_a^b f(x)\,dx と書いて ff の [a,b][a,b] 上の 定積分 という。

上積分・下積分が実数として存在することは 補題 2.3 (2) から従います。Δ1\Delta_1 を 1 つ固定すると s(Δ1,f)s(\Delta_1, f) はすべての上和の下界なので、上和の集合は下に有界で下限をもちます。同時に s(Δ1,f)≤inf⁡Δ2S(Δ2,f)=∫ab‾fs(\Delta_1, f) \le \inf_{\Delta_2} S(\Delta_2, f) = \overline{\int_a^b} f が任意の Δ1\Delta_1 で成り立つので、下和の集合は上に有界で上限をもち、しかも

∫ab‾f≤∫ab‾f\underline{\int_a^b} f \le \overline{\int_a^b} f

がつねに成り立ちます。可積分性とは、この不等式が等号になることに他なりません。

注意 3.2(向きと退化区間についての約束)

∫aaf(x) dx=0\int_a^a f(x)\,dx = 0 と定め、a<ba < b のとき ∫baf(x) dx=−∫abf(x) dx\int_b^a f(x)\,dx = -\int_a^b f(x)\,dx と定める。この約束のもとで、後述の区間加法性 命題 4.1 (3) の式 ∫ab=∫ac+∫cb\int_a^b = \int_a^c + \int_c^b は a,b,ca, b, c の大小関係によらず成り立つ。以下、上下端の大小を気にせずこの式を使う。

例 3.3(有界でも可積分とは限らない(ディリクレ関数))

[0,1][0,1] 上で

f(x)={1(x∈Q)0(x∉Q)f(x) = \begin{cases} 1 & (x \in \mathbb{Q}) \\ 0 & (x \notin \mathbb{Q}) \end{cases}

と定めます。ff は 0≤f≤10 \le f \le 1 で有界です。任意の分割 Δ\Delta を取ると、各小区間 [xi−1,xi][x_{i-1}, x_i] は長さが正なので、有理数の稠密性から有理数を含み、無理数の稠密性から無理数を含みます。したがって Mi=1M_i = 1、mi=0m_i = 0 がすべての ii で成り立ち、

S(Δ,f)=∑i=1n1⋅Δxi=1,s(Δ,f)=∑i=1n0⋅Δxi=0S(\Delta, f) = \sum_{i=1}^n 1 \cdot \Delta x_i = 1, \qquad s(\Delta, f) = \sum_{i=1}^n 0 \cdot \Delta x_i = 0

となります。これがすべての分割で成り立つので、上積分は 11、下積分は 00 で、両者は一致しません。よって ff は可積分ではありません。有界性だけでは定積分は定まらない、ということです。

可積分性の定義は「上限と下限が一致する」という形で、2 つの極限操作を突き合わせています。このままでは扱いにくいので、まず「1 つの分割を見つければよい」という形に言い換えます。以降のすべての可積分性の証明はこの言い換えを経由します。

必要性の証明では、下限の定義を次のように読みます。II が下限であるとは、II がすべての要素以下であり、かつ II より少しでも大きい数(たとえば I+ε/2I + \varepsilon/2)はもう「すべての要素以下」の数ではなく、それより小さい要素が集合の中にある、ということです。上限についても同様に読みます。

定理 3.4(リーマンの可積分条件)✓

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} を有界関数とする。ff が [a,b][a,b] で可積分であるための必要十分条件は、

「任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し、[a,b][a,b] のある分割 Δ\Delta が存在して S(Δ,f)−s(Δ,f)<εS(\Delta, f) - s(\Delta, f) < \varepsilon となる」

ことである。

証明(定理 3.4)

(十分性) 条件を仮定します。ε>0\varepsilon > 0 を任意に取り、S(Δ,f)−s(Δ,f)<εS(\Delta, f) - s(\Delta, f) < \varepsilon となる分割 Δ\Delta を選びます。下積分は下和全体の上限なので s(Δ,f)≤∫ab‾fs(\Delta, f) \le \underline{\int_a^b} f、上積分は上和全体の下限なので ∫ab‾f≤S(Δ,f)\overline{\int_a^b} f \le S(\Delta, f) です。定義 3.1 の直後で示した ∫‾f≤∫‾f\underline{\int} f \le \overline{\int} f と合わせると

s(Δ,f)≤∫ab‾f≤∫ab‾f≤S(Δ,f)s(\Delta, f) \le \underline{\int_a^b} f \le \overline{\int_a^b} f \le S(\Delta, f)

となり、両端の差が ε\varepsilon 未満なので 0≤∫ab‾f−∫ab‾f<ε0 \le \overline{\int_a^b} f - \underline{\int_a^b} f < \varepsilon です。ε>0\varepsilon > 0 は任意だったので、この差は 00、すなわち ff は可積分です。

(必要性) ff が可積分で、上積分と下積分の共通の値を II とします。ε>0\varepsilon > 0 を取ります。I=inf⁡ΔS(Δ,f)I = \inf_{\Delta} S(\Delta, f) ですから、下限の定義(I+ε/2I + \varepsilon/2 は下界ではない)より、ある分割 Δ1\Delta_1 が存在して

S(Δ1,f)<I+ε2S(\Delta_1, f) < I + \frac{\varepsilon}{2}

となります。同様に I=sup⁡Δs(Δ,f)I = \sup_{\Delta} s(\Delta, f) から、ある分割 Δ2\Delta_2 が存在して s(Δ2,f)>I−ε/2s(\Delta_2, f) > I - \varepsilon/2 となります。共通細分 Δ=Δ1∪Δ2\Delta = \Delta_1 \cup \Delta_2 を取ると、補題 2.3 (1) より

S(Δ,f)≤S(Δ1,f)<I+ε2,s(Δ,f)≥s(Δ2,f)>I−ε2S(\Delta, f) \le S(\Delta_1, f) < I + \frac{\varepsilon}{2}, \qquad s(\Delta, f) \ge s(\Delta_2, f) > I - \frac{\varepsilon}{2}

です。辺々引けば S(Δ,f)−s(Δ,f)<εS(\Delta, f) - s(\Delta, f) < \varepsilon を得ます。

定理 3.5(連続関数の可積分性と区分求積法)✓

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} が [a,b][a,b] 上連続ならば、ff は [a,b][a,b] で可積分である。さらに、任意の ε>0\varepsilon > 0 に対して δ>0\delta > 0 が存在し、幅 ∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta を満たす任意の分割 Δ\Delta と、その任意の代表点の選び方 ξ\boldsymbol{\xi} に対して

∣R(Δ,ξ,f)−∫abf(x) dx∣<ε\left| R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) - \int_a^b f(x)\,dx \right| < \varepsilon

が成り立つ。とくに、幅が 00 に収束するタグ付き分割の任意の列に沿って、リーマン和は ∫abf(x) dx\int_a^b f(x)\,dx に収束する(区分求積法)。

証明(定理 3.5)

[a,b][a,b] は有界閉区間なので、連続関数 ff は [a,b][a,b] 上で有界であり、かつ一様連続です(ハイネ・カントールの定理(定理 7.1)[連続関数と一様連続性]。連続関数と一様連続性 を参照してください)。有界性から 定義 2.1 のダルブー和が定義できます。

ε>0\varepsilon > 0 を取ります。一様連続性より、δ>0\delta > 0 が存在して

x,y∈[a,b], ∣x−y∣<δ  ⟹  ∣f(x)−f(y)∣<ε2(b−a)x, y \in [a,b], \ |x - y| < \delta \implies |f(x) - f(y)| < \frac{\varepsilon}{2(b-a)}

が成り立ちます。この δ\delta に対し、∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta なる分割 Δ\Delta を任意に取ります。各小区間 Ii=[xi−1,xi]I_i = [x_{i-1}, x_i] は有界閉区間で ff はその上で連続なので、最大値・最小値の定理(定理 2.3)[平均値の定理とテイラーの定理] より、f(ξi′)=Mif(\xi_i') = M_i、f(ηi′)=mif(\eta_i') = m_i となる ξi′,ηi′∈Ii\xi_i', \eta_i' \in I_i が存在します(上限・下限が実際に値として達成されます)。ξi′,ηi′\xi_i', \eta_i' はともに IiI_i の点なので ∣ξi′−ηi′∣≤Δxi≤∣Δ∣<δ|\xi_i' - \eta_i'| \le \Delta x_i \le |\Delta| < \delta であり、上の一様連続性の評価が使えて

Mi−mi=f(ξi′)−f(ηi′)≤∣f(ξi′)−f(ηi′)∣<ε2(b−a)M_i - m_i = f(\xi_i') - f(\eta_i') \le |f(\xi_i') - f(\eta_i')| < \frac{\varepsilon}{2(b-a)}

を得ます。したがって

S(Δ,f)−s(Δ,f)=∑i=1n(Mi−mi) Δxi≤ε2(b−a)∑i=1nΔxi=ε2(b−a)⋅(b−a)=ε2S(\Delta, f) - s(\Delta, f) = \sum_{i=1}^n (M_i - m_i)\, \Delta x_i \le \frac{\varepsilon}{2(b-a)} \sum_{i=1}^n \Delta x_i = \frac{\varepsilon}{2(b-a)} \cdot (b-a) = \frac{\varepsilon}{2}

です(∑iΔxi=∑i(xi−xi−1)=xn−x0=b−a\sum_i \Delta x_i = \sum_i (x_i - x_{i-1}) = x_n - x_0 = b - a は望遠鏡和です)。これは ε\varepsilon 未満なので、定理 3.4 より ff は可積分です。

後半を示します。∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta なる任意のタグ付き分割 (Δ,ξ)(\Delta, \boldsymbol{\xi}) について、定義 2.2 の直後で見たとおり s(Δ,f)≤R(Δ,ξ,f)≤S(Δ,f)s(\Delta, f) \le R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) \le S(\Delta, f) です。一方 定理 3.4 の証明で見たとおり s(Δ,f)≤∫abf≤S(Δ,f)s(\Delta, f) \le \int_a^b f \le S(\Delta, f) でもあります。同じ区間 [ s(Δ,f), S(Δ,f) ][\,s(\Delta, f),\, S(\Delta, f)\,] に属する 2 つの数の差は、その区間の長さ以下ですから

∣R(Δ,ξ,f)−∫abf(x) dx∣≤S(Δ,f)−s(Δ,f)≤ε2<ε\left| R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) - \int_a^b f(x)\,dx \right| \le S(\Delta, f) - s(\Delta, f) \le \frac{\varepsilon}{2} < \varepsilon

となります。最後の主張は、幅が 00 に収束する列に対して、十分先の項では ∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta が成り立つことから従います。

例 3.6(区分求積法による定積分の計算)

f(x)=x2f(x) = x^2 は [0,1][0,1] 上連続なので、定理 3.5 より可積分で、幅が 00 に収束する分割の列に沿ってリーマン和を計算すれば定積分が求まります。nn 等分割 xi=i/nx_i = i/n(Δxi=1/n\Delta x_i = 1/n、∣Δ∣=1/n|\Delta| = 1/n)を取り、代表点を各小区間の右端 ξi=i/n\xi_i = i/n に選びます。

Rn=∑i=1n(in)2⋅1n=1n3∑i=1ni2=1n3⋅n(n+1)(2n+1)6=(n+1)(2n+1)6n2.R_n = \sum_{i=1}^{n} \left( \frac{i}{n} \right)^2 \cdot \frac{1}{n} = \frac{1}{n^3} \sum_{i=1}^{n} i^2 = \frac{1}{n^3} \cdot \frac{n(n+1)(2n+1)}{6} = \frac{(n+1)(2n+1)}{6n^2}.

平方和の公式 ∑i=1ni2=n(n+1)(2n+1)/6\sum_{i=1}^n i^2 = n(n+1)(2n+1)/6 を使いました。分子を展開すると 2n2+3n+12n^2 + 3n + 1 なので

Rn=2n2+3n+16n2=13+12n+16n2R_n = \frac{2n^2 + 3n + 1}{6n^2} = \frac{1}{3} + \frac{1}{2n} + \frac{1}{6n^2}

となり、n→∞n \to \infty のとき Rn→1/3R_n \to 1/3 です。∣Δ∣=1/n→0|\Delta| = 1/n \to 0 なので 定理 3.5 が適用でき、

∫01x2 dx=13\int_0^1 x^2 \, dx = \frac{1}{3}

を得ます。

ここで立ち止まってください。x3x^3 を積分するには立方和の公式が、x4x^4 なら 4 乗和の公式が必要になります。∫01exdx\int_0^1 e^x dx や ∫12dxx\int_1^2 \frac{dx}{x} に至っては、この方法では手も足も出ません。この行き詰まりを一挙に解消するのが 定理 5.4 です。

基本定理に進む前に、定積分の道具としての性質を整理しておきます。どれも直感的には当たり前に見えますが、定積分は上限と下限で定義されているので、証明では上限・下限の扱いに一手間かかります。

命題 4.1(定積分の基本性質)✓

f,gf, g を [a,b][a,b] 上の可積分関数、α,β∈R\alpha, \beta \in \mathbb{R} とする。

(1)(線形性) αf+βg\alpha f + \beta g は [a,b][a,b] で可積分で

∫ab(αf(x)+βg(x))dx=α∫abf(x) dx+β∫abg(x) dx.\int_a^b \bigl( \alpha f(x) + \beta g(x) \bigr) dx = \alpha \int_a^b f(x)\,dx + \beta \int_a^b g(x)\,dx .

(2)(単調性) [a,b][a,b] 上つねに f(x)≤g(x)f(x) \le g(x) ならば ∫abf≤∫abg\int_a^b f \le \int_a^b g。また ∣f∣|f| も可積分で ∣∫abf∣≤∫ab∣f∣\left| \int_a^b f \right| \le \int_a^b |f| が成り立つ。

(3)(区間加法性) a<c<ba < c < b とする。ff が [a,b][a,b] で可積分であることと、ff が [a,c][a,c] と [c,b][c,b] の両方で可積分であることは同値であり、そのとき

∫abf(x) dx=∫acf(x) dx+∫cbf(x) dx.\int_a^b f(x)\,dx = \int_a^c f(x)\,dx + \int_c^b f(x)\,dx .
証明(命題 4.1)

証明を通して、小区間 IiI_i 上の 振動量 ωi(f)=sup⁡Iif−inf⁡Iif\omega_i(f) = \sup_{I_i} f - \inf_{I_i} f を使います。上限・下限の定義から

ωi(f)=sup⁡x,y∈Ii(f(x)−f(y))=sup⁡x,y∈Ii∣f(x)−f(y)∣\omega_i(f) = \sup_{x, y \in I_i} \bigl( f(x) - f(y) \bigr) = \sup_{x, y \in I_i} |f(x) - f(y)|

が成り立ちます(第 1 の等号は sup⁡xf(x)−inf⁡yf(y)\sup_x f(x) - \inf_y f(y) を xx と yy を独立に動かした差の上限とみたもの、第 2 の等号は xx と yy を入れ替えても集合が変わらないことによります)。この記号を使うと S(Δ,f)−s(Δ,f)=∑iωi(f)ΔxiS(\Delta, f) - s(\Delta, f) = \sum_i \omega_i(f) \Delta x_i です。

(1) 和について。 x,y∈Iix, y \in I_i に対し三角不等式より

∣(f+g)(x)−(f+g)(y)∣≤∣f(x)−f(y)∣+∣g(x)−g(y)∣≤ωi(f)+ωi(g)|(f+g)(x) - (f+g)(y)| \le |f(x) - f(y)| + |g(x) - g(y)| \le \omega_i(f) + \omega_i(g)

なので ωi(f+g)≤ωi(f)+ωi(g)\omega_i(f+g) \le \omega_i(f) + \omega_i(g)、したがって任意の分割 Δ\Delta で

S(Δ,f+g)−s(Δ,f+g)≤(S(Δ,f)−s(Δ,f))+(S(Δ,g)−s(Δ,g))S(\Delta, f+g) - s(\Delta, f+g) \le \bigl( S(\Delta, f) - s(\Delta, f) \bigr) + \bigl( S(\Delta, g) - s(\Delta, g) \bigr)

が成り立ちます。ε>0\varepsilon > 0 に対し、定理 3.4 で ff に対する分割 Δf\Delta_f と gg に対する分割 Δg\Delta_g(差がそれぞれ ε/2\varepsilon/2 未満)を取り、共通細分 Δ=Δf∪Δg\Delta = \Delta_f \cup \Delta_g を使えば、補題 2.3 (1) より差は細分で増えないので右辺は ε\varepsilon 未満になります。ふたたび 定理 3.4 により f+gf + g は可積分です。

値を求めます。ε>0\varepsilon > 0 に対し、ff、gg、f+gf+g の 3 つすべてについて S(Δ,⋅)−s(Δ,⋅)<εS(\Delta, \cdot) - s(\Delta, \cdot) < \varepsilon となる分割 Δ\Delta を、3 つの分割の共通細分として取ります。可積分関数 hh と任意の代表点 ξ\boldsymbol{\xi} について、R(Δ,ξ,h)R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, h) と ∫abh\int_a^b h はともに区間 [ s(Δ,h), S(Δ,h) ][\,s(\Delta, h),\, S(\Delta, h)\,] に属するので

∣R(Δ,ξ,h)−∫abh∣≤S(Δ,h)−s(Δ,h)<ε\left| R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, h) - \int_a^b h \right| \le S(\Delta, h) - s(\Delta, h) < \varepsilon

です。代表点 ξ\boldsymbol{\xi} を 1 つ固定すると、リーマン和は明示的な有限和なので R(Δ,ξ,f+g)=R(Δ,ξ,f)+R(Δ,ξ,g)R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f+g) = R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) + R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, g) が成り立ちます。これと三角不等式を h=f,g,f+gh = f, g, f+g に使うと

∣∫ab(f+g)−∫abf−∫abg∣<ε+ε+ε=3ε\left| \int_a^b (f+g) - \int_a^b f - \int_a^b g \right| < \varepsilon + \varepsilon + \varepsilon = 3\varepsilon

を得ます。ε>0\varepsilon > 0 は任意なので左辺は 00 です。

(1) 定数倍について。 α≥0\alpha \ge 0 のとき sup⁡Ii(αf)=αsup⁡Iif\sup_{I_i} (\alpha f) = \alpha \sup_{I_i} f、inf⁡Ii(αf)=αinf⁡Iif\inf_{I_i} (\alpha f) = \alpha \inf_{I_i} f なので S(Δ,αf)=αS(Δ,f)S(\Delta, \alpha f) = \alpha S(\Delta, f)、s(Δ,αf)=αs(Δ,f)s(\Delta, \alpha f) = \alpha s(\Delta, f) となり、上積分・下積分がそろって α\alpha 倍されます。α=−1\alpha = -1 のときは sup⁡Ii(−f)=−inf⁡Iif\sup_{I_i} (-f) = -\inf_{I_i} f、inf⁡Ii(−f)=−sup⁡Iif\inf_{I_i}(-f) = -\sup_{I_i} f なので上和と下和が符号を変えて入れ替わり、∫‾(−f)=−∫‾f\overline{\int}(-f) = -\underline{\int} f、∫‾(−f)=−∫‾f\underline{\int}(-f) = -\overline{\int} f です。どちらの場合も可積分性は保たれ、積分は α\alpha 倍になります。一般の α\alpha はこの 2 つの合成です。以上と和の結果を合わせて (1) が示されました。

(2) f≤gf \le g なら各小区間で inf⁡Iif≤inf⁡Iig\inf_{I_i} f \le \inf_{I_i} g なので s(Δ,f)≤s(Δ,g)s(\Delta, f) \le s(\Delta, g) です。Δ\Delta について上限を取れば ∫‾f≤∫‾g\underline{\int} f \le \underline{\int} g、すなわち ∫abf≤∫abg\int_a^b f \le \int_a^b g を得ます。

∣f∣|f| の可積分性は次のようにします。三角不等式 ∣∣f(x)∣−∣f(y)∣∣≤∣f(x)−f(y)∣\bigl| |f(x)| - |f(y)| \bigr| \le |f(x) - f(y)| から ωi(∣f∣)≤ωi(f)\omega_i(|f|) \le \omega_i(f) が従うので、S(Δ,∣f∣)−s(Δ,∣f∣)≤S(Δ,f)−s(Δ,f)S(\Delta, |f|) - s(\Delta, |f|) \le S(\Delta, f) - s(\Delta, f) となり、定理 3.4 の条件がそのまま ∣f∣|f| に移ります。そして −∣f∣≤f≤∣f∣-|f| \le f \le |f| に単調性と (1) の α=−1\alpha = -1 の場合を使うと −∫ab∣f∣≤∫abf≤∫ab∣f∣-\int_a^b |f| \le \int_a^b f \le \int_a^b |f|、すなわち ∣∫abf∣≤∫ab∣f∣\left| \int_a^b f \right| \le \int_a^b |f| です。

(3) まず、上積分の値は「cc を分点として含む分割」だけを走らせても変わりません。実際、任意の分割に cc を加えると 補題 2.3 (1) より上和は増えないので、下限は変わらないからです。下積分についても同様です。

cc を分点に含む [a,b][a,b] の分割 Δ\Delta は、[a,c][a,c] の分割 Δ′\Delta' と [c,b][c,b] の分割 Δ′′\Delta'' の組と 1 対 1 に対応し、和の項が左右に振り分けられるだけなので

S(Δ,f)=S(Δ′,f)+S(Δ′′,f),s(Δ,f)=s(Δ′,f)+s(Δ′′,f)S(\Delta, f) = S(\Delta', f) + S(\Delta'', f), \qquad s(\Delta, f) = s(\Delta', f) + s(\Delta'', f)

が成り立ちます。辺々引くと

S(Δ,f)−s(Δ,f)=(S(Δ′,f)−s(Δ′,f))+(S(Δ′′,f)−s(Δ′′,f))S(\Delta, f) - s(\Delta, f) = \bigl( S(\Delta', f) - s(\Delta', f) \bigr) + \bigl( S(\Delta'', f) - s(\Delta'', f) \bigr)

です。右辺の 2 項はどちらも非負なので、左辺をいくらでも小さくできることと、2 項それぞれをいくらでも小さくできることは同値です。定理 3.4 により、可積分性の同値性が従います。値については、上の SS の等式で(cc を含む分割全体にわたって)下限を取ると、左右の分割は独立に動かせるので ∫ab‾f=∫ac‾f+∫cb‾f\overline{\int_a^b} f = \overline{\int_a^c} f + \overline{\int_c^b} f となり、可積分な場合はこれが求める等式です。

次の命題は、命題 4.1 (3) を端点の大小関係によらない形に述べ直したものです。向きと退化区間の約束(∫aaf=0\int_a^a f = 0、p<qp < q のとき ∫qpf=−∫pqf\int_q^p f = -\int_p^q f)のもとで、以後の証明はこれを使います。p,q,rp, q, r の並び方は何通りもありますが、証明では並びごとに別々に示すのではなく、符号の規則を使って 1 つの並びの場合に帰着させます。

命題 4.2(向き付き積分の加法性)✓

ff を [a,b][a,b] 上の可積分関数とする。このとき [a,b][a,b] に含まれるどの有界閉区間の上でも ff は可積分であり、任意の p,q,r∈[a,b]p, q, r \in [a,b] に対して

∫pqf(x) dx=∫prf(x) dx+∫rqf(x) dx\int_p^q f(x)\,dx = \int_p^r f(x)\,dx + \int_r^q f(x)\,dx

が成り立つ。ここで上下端の大小は問わず、∫st\int_s^t は上の約束で定める(s=ts = t なら 00、s>ts > t なら −∫ts-\int_t^s)。

証明(命題 4.2)

可積分性。p<qp < q の [p,q]⊂[a,b][p,q] \subset [a,b] について、q<bq < b なら 命題 4.1 (3) を [a,b][a,b] と分点 qq に使って ff は [a,q][a,q] で可積分です(q=bq = b ならそのまま)。次に a<pa < p なら、[a,q][a,q] と分点 pp に (3) を使って ff は [p,q][p,q] で可積分です。

等式。各 s,t∈[a,b]s, t \in [a,b] に対し I(s,t)=∫stfI(s,t) = \int_s^t f とおきます。約束により I(s,t)=−I(t,s)I(s,t) = -I(t,s)、I(s,s)=0I(s,s) = 0 で、示すべきは I(p,q)+I(q,r)+I(r,p)=0I(p,q) + I(q,r) + I(r,p) = 0 です(I(p,q)=I(p,r)+I(r,q)I(p,q) = I(p,r) + I(r,q) を移項し I(r,q)=−I(q,r)I(r,q) = -I(q,r) などを使えば同じ式になります)。この左辺は p,q,rp, q, r を巡回的に入れ替えても変わらず、2 つを入れ替えると符号だけが変わります(II の反対称性)。したがって p,q,rp, q, r のうち 2 つが一致する場合と、相異なる場合を p<q<rp < q < r の順序に並べ替えた場合を調べれば十分です。2 つが一致する場合、たとえば p=qp = q なら左辺は 0+I(q,r)+I(r,q)=00 + I(q,r) + I(r,q) = 0 で、他の場合も同様です。相異なる場合に並べ替えて u<v<wu < v < w としたとき、示すべき式は I(u,v)+I(v,w)+I(w,u)=0I(u,v) + I(v,w) + I(w,u) = 0 ですが、I(w,u)=−I(u,w)I(w,u) = -I(u,w) なので、これは 命題 4.1 (3) の等式 I(u,w)=I(u,v)+I(v,w)I(u,w) = I(u,v) + I(v,w) に他なりません。

命題 4.3(積分の平均値の定理)✓

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} が [a,b][a,b] 上連続ならば、ある c∈[a,b]c \in [a,b] が存在して

∫abf(x) dx=f(c) (b−a)\int_a^b f(x)\,dx = f(c)\,(b - a)

が成り立つ。

証明(命題 4.3)

ff は有界閉区間上の連続関数なので、最大値・最小値の定理より、最小値 m=f(p)m = f(p) と最大値 M=f(q)M = f(q) を取る点 p,q∈[a,b]p, q \in [a,b] が存在します。ff は 定理 3.5 より可積分です。

定数関数 x↦kx \mapsto k は、どの分割でも上和・下和がともに k(b−a)k(b-a) なので可積分で ∫abk dx=k(b−a)\int_a^b k\,dx = k(b-a) です。[a,b][a,b] 上つねに m≤f(x)≤Mm \le f(x) \le M ですから、命題 4.1 (2) の単調性を定数関数と比べて

m(b−a)≤∫abf(x) dx≤M(b−a)m(b-a) \le \int_a^b f(x)\,dx \le M(b-a)

を得ます。b−a>0b - a > 0 で割ると

m≤1b−a∫abf(x) dx≤Mm \le \frac{1}{b-a}\int_a^b f(x)\,dx \le M

となり、この平均値は f(p)=mf(p) = m と f(q)=Mf(q) = M の間の値です。ff は pp と qq を端点とする閉区間(これは [a,b][a,b] に含まれます)の上で連続なので、中間値の定理(定理 5.7)[極限と連続性] より、その区間内にある cc が存在して f(c)f(c) がこの平均値に等しくなります。両辺に b−ab-a を掛ければ結論を得ます。

ここまでで定積分は定義され、連続関数に対しては確かに存在することもわかりました。しかし 例 3.6 で見たように、定義に忠実に計算しようとすると、関数ごとに新しい和の公式が必要になって行き詰まります。この節の 2 つの定理が、その袋小路から抜け出す道を与えます。

この記事の論理構成。可積分性の確立から基本定理を経て、積分計算の 2 つの道具に至ります。

定義 5.1(原始関数と不定積分)↗

II を区間、f:I→Rf : I \to \mathbb{R} を関数とする。II 上で微分可能な関数 F:I→RF : I \to \mathbb{R} がすべての x∈Ix \in I で

F′(x)=f(x)F'(x) = f(x)

を満たすとき、FF を II 上の ff の 原始関数 という(II が端点を含むときは、その点では片側微分係数を考える)。

原始関数は 1 つには定まりません。FF が原始関数なら、任意の定数 CC に対して F+CF + C も原始関数です。逆に F,GF, G がともに II 上の ff の原始関数なら (F−G)′=f−f=0(F - G)' = f - f = 0 が II 上で成り立つので、平均値の定理の系より F−GF - G は II 上定数です(導関数の符号と単調性(系 3.4)[平均値の定理とテイラーの定理]。平均値の定理とテイラーの定理 を参照してください)。ここで II が区間であることが効いています。定義域が 2 つに分かれていれば、それぞれの成分で別々の定数を足せてしまいます。

こうして原始関数全体は F+CF + C(CC は任意定数)と尽くされます。これを ∫f(x) dx\int f(x)\,dx と書いて 不定積分 と呼びます。定積分 ∫abf(x) dx\int_a^b f(x)\,dx が 1 つの数であるのに対し、不定積分は関数の族です。記号が似ているのは偶然ではなく、その理由がこれから示す 2 つの定理です。

定理 5.2(微分積分学の基本定理(第一部))✓

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} を可積分な関数とする(定義 3.1 により ff は有界である)。命題 4.1 (3) により ff は各 [a,x][a,x] で可積分なので

F(x)=∫axf(t) dt(x∈[a,b])F(x) = \int_a^x f(t)\,dt \qquad (x \in [a,b])

が定義できる。このとき次が成り立つ。

(1) M=sup⁡[a,b]∣f∣M = \sup_{[a,b]} |f| とおくと、任意の x,y∈[a,b]x, y \in [a,b] に対し ∣F(y)−F(x)∣≤M ∣y−x∣|F(y) - F(x)| \le M\,|y - x|。とくに FF は [a,b][a,b] 上リプシッツ連続であり、連続である。

(2) ff が点 c∈[a,b]c \in [a,b] で連続ならば、FF は cc で微分可能で F′(c)=f(c)F'(c) = f(c) である(cc が端点のときは片側微分係数)。

証明(定理 5.2)

(1) x=yx = y なら両辺 00 です。x≠yx \ne y のときは x<yx < y としてよい(そうでなければ xx と yy の役割を入れ替えます。左辺は入れ替えで変わりません)。命題 4.2 より F(y)−F(x)=∫xyf(t) dtF(y) - F(x) = \int_x^y f(t)\,dt です。[x,y][x,y] 上つねに −M≤f≤M-M \le f \le M なので、命題 4.1 (2) の単調性を定数関数と比べて

−M(y−x)≤∫xyf(t) dt≤M(y−x)-M(y-x) \le \int_x^y f(t)\,dt \le M(y-x)

すなわち ∣F(y)−F(x)∣≤M(y−x)=M∣y−x∣|F(y) - F(x)| \le M(y-x) = M|y-x| を得ます。

(2) ε>0\varepsilon > 0 を取ります。ff が cc で連続なので、ある δ>0\delta > 0 が存在して

t∈[a,b], ∣t−c∣<δ  ⟹  ∣f(t)−f(c)∣<εt \in [a,b], \ |t - c| < \delta \implies |f(t) - f(c)| < \varepsilon

が成り立ちます。h≠0h \ne 0 を、c+h∈[a,b]c + h \in [a,b] かつ ∣h∣<δ|h| < \delta を満たすように取ります。命題 4.2 より F(c+h)−F(c)=∫cc+hf(t) dtF(c+h) - F(c) = \int_c^{c+h} f(t)\,dt であり、定数関数の積分から ∫cc+hf(c) dt=f(c) h\int_c^{c+h} f(c)\,dt = f(c)\,h です。両者を引いて hh で割ると

F(c+h)−F(c)h−f(c)=1h∫cc+h(f(t)−f(c))dt.\frac{F(c+h) - F(c)}{h} - f(c) = \frac{1}{h} \int_c^{c+h} \bigl( f(t) - f(c) \bigr) dt .

cc と c+hc+h を端点とする区間上の tt はすべて ∣t−c∣≤∣h∣<δ|t - c| \le |h| < \delta を満たすので、被積分関数の絶対値はその区間上で ε\varepsilon 以下です。命題 4.1 (2) より

∣∫cc+h(f(t)−f(c))dt∣≤ε ∣h∣\left| \int_c^{c+h} \bigl( f(t) - f(c) \bigr) dt \right| \le \varepsilon\, |h|

が成り立ちます(h>0h > 0 ならそのまま、h<0h < 0 なら向きの約束 ∫ba=−∫ab\int_b^a = -\int_a^b で符号を戻してから適用します)。両辺を ∣h∣|h| で割れば

∣F(c+h)−F(c)h−f(c)∣≤ε\left| \frac{F(c+h) - F(c)}{h} - f(c) \right| \le \varepsilon

です。ε>0\varepsilon > 0 は任意だったので、h→0h \to 0 のとき差商は f(c)f(c) に収束します。すなわち FF は cc で微分可能で F′(c)=f(c)F'(c) = f(c) です。

ff が [a,b][a,b] 全体で連続な場合には、(2) を 命題 4.3 で言い換えることもできます。1h∫cc+hf=f(ch)\frac{1}{h}\int_c^{c+h} f = f(c_h) となる chc_h が cc と c+hc+h の間に取れ、h→0h \to 0 のとき ch→cc_h \to c ですから、ff の連続性より f(ch)→f(c)f(c_h) \to f(c) となって同じ結論を得ます。上の証明の利点は、ff が その 1 点でだけ 連続であればよいことを示している点です。

系 5.3(連続関数は原始関数をもつ)✓

ff が区間 II 上連続ならば、a∈Ia \in I を 1 つ固定して

F(x)=∫axf(t) dt(x∈I)F(x) = \int_a^x f(t)\,dt \qquad (x \in I)

とおくと、FF は II 上の ff の原始関数である。

証明(系 5.3)

x∈Ix \in I を任意に取ります。aa と xx をともに含む有界閉区間 J=[p,q]⊂IJ = [p, q] \subset I を、xx が II の内点であるときは xx が JJ の内点にもなるように選びます([min⁡(a,x),max⁡(a,x)][\min(a,x), \max(a,x)] を II の中で左右に少しだけ広げればよく、II は区間なので広げたものも II に含まれます)。ff は JJ 上連続なので 定理 3.5 より JJ 上可積分であり、JJ のすべての点で連続です。ここで G(y)=∫pyf(t) dtG(y) = \int_p^y f(t)\,dt(y∈Jy \in J)とおくと、命題 4.2 より JJ 上で F(y)=G(y)−G(a)F(y) = G(y) - G(a)、すなわち FF と GG の差は定数です。JJ 上の GG に 定理 5.2 (2) を y=xy = x で適用すると G′(x)=f(x)G'(x) = f(x)(xx が II の端点のときは片側微分係数)となるので、F′(x)=G′(x)=f(x)F'(x) = G'(x) = f(x) を得ます。xx は任意だったので FF は II 上の原始関数です。

いよいよ後半です。定理 5.2 は「積分してから微分する」順序でしたが、実際の計算で使うのは逆順、すなわち「原始関数がわかれば定積分がわかる」という主張です。証明の主役は平均値の定理です。

定理 5.4(微分積分学の基本定理(第二部・ニュートン–ライプニッツの公式))✓

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} が [a,b][a,b] で可積分であるとする。さらに、関数 F:[a,b]→RF : [a,b] \to \mathbb{R} が

  • [a,b][a,b] 上連続であり、
  • (a,b)(a,b) の各点で微分可能で、すべての x∈(a,b)x \in (a,b) について F′(x)=f(x)F'(x) = f(x)

を満たすとする。このとき

∫abf(x) dx=F(b)−F(a).\int_a^b f(x)\,dx = F(b) - F(a) .
証明(定理 5.4)

Δ:a=x0<x1<⋯<xn=b\Delta : a = x_0 < x_1 < \cdots < x_n = b を [a,b][a,b] の任意の分割とします。望遠鏡和により

F(b)−F(a)=∑i=1n(F(xi)−F(xi−1))F(b) - F(a) = \sum_{i=1}^{n} \bigl( F(x_i) - F(x_{i-1}) \bigr)

です。各 ii について、FF は [xi−1,xi]⊂[a,b][x_{i-1}, x_i] \subset [a,b] 上で連続、(xi−1,xi)⊂(a,b)(x_{i-1}, x_i) \subset (a,b) で微分可能ですから、平均値の定理(平均値の定理とテイラーの定理 の ラグランジュの平均値の定理(定理 3.3)[平均値の定理とテイラーの定理])の仮定が満たされ、ある ξi∈(xi−1,xi)\xi_i \in (x_{i-1}, x_i) が存在して

F(xi)−F(xi−1)=F′(ξi) Δxi=f(ξi) ΔxiF(x_i) - F(x_{i-1}) = F'(\xi_i)\, \Delta x_i = f(\xi_i)\, \Delta x_i

となります(2 つ目の等号で仮定 F′=fF' = f を使いました)。この ξi\xi_i たちを代表点とするタグ付き分割 (Δ,ξ)(\Delta, \boldsymbol{\xi}) を考えると、いま得た式は

F(b)−F(a)=∑i=1nf(ξi) Δxi=R(Δ,ξ,f)F(b) - F(a) = \sum_{i=1}^{n} f(\xi_i)\, \Delta x_i = R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f)

と書けます。つまり F(b)−F(a)F(b) - F(a) は、この分割に対するリーマン和そのものです。定義 2.2 の直後で見た不等式より

s(Δ,f)≤F(b)−F(a)≤S(Δ,f)s(\Delta, f) \le F(b) - F(a) \le S(\Delta, f)

が、Δ\Delta の取り方によらず成り立ちます(ξi\xi_i は Δ\Delta ごとに決まりますが、この不等式は代表点の選び方によらないので問題ありません)。左側で Δ\Delta について上限を、右側で下限を取ると

∫ab‾f≤F(b)−F(a)≤∫ab‾f\underline{\int_a^b} f \le F(b) - F(a) \le \overline{\int_a^b} f

を得ます。ff は可積分なので両端はともに ∫abf(x) dx\int_a^b f(x)\,dx に等しく、はさみうちで F(b)−F(a)=∫abf(x) dxF(b) - F(a) = \int_a^b f(x)\,dx が従います。

注意 5.5(基本定理は何を可能にしたか)

例 3.6 では ∫01x2 dx\int_0^1 x^2\,dx を求めるのに平方和の公式が必要でした。いまや、F(x)=x3/3F(x) = x^3/3 が x2x^2 の原始関数であることを微分で確かめるだけで、定理 5.4 により

∫01x2 dx=133−033=13\int_0^1 x^2\,dx = \frac{1^3}{3} - \frac{0^3}{3} = \frac{1}{3}

と 1 行で済みます。同じように ∫12dxx=log⁡2−log⁡1=log⁡2\int_1^2 \frac{dx}{x} = \log 2 - \log 1 = \log 2、∫01exdx=e1−e0=e−1\int_0^1 e^x dx = e^1 - e^0 = e - 1 です。無限個の項の極限だったものが、原始関数を 2 点で評価する引き算に化けました。以降の積分計算は、ほぼすべて「原始関数を見つけるゲーム」になります。

次の注意の 1 つ目の例は、各点で微分できるのに導関数が暴れすぎて積分できない関数です。原点の近くで sin⁡(1/x2)\sin(1/x^2) が激しく振動し、微分すると係数 1/x1/x が現れて振れ幅が限りなく大きくなる、という点を押さえれば十分です。

注意 5.6(2 つの仮定はどちらも外せない)

定理 5.4 は ff の可積分性と F′=fF' = f の両方を仮定しています。どちらも自動では成り立ちません。

原始関数をもつが可積分でない例。 F(x)=x2sin⁡(1/x2)F(x) = x^2 \sin(1/x^2)(x≠0x \ne 0)、F(0)=0F(0) = 0 とおきます。x≠0x \ne 0 では積の微分法と合成関数の微分法から

F′(x)=2xsin⁡1x2−2xcos⁡1x2F'(x) = 2x \sin\frac{1}{x^2} - \frac{2}{x} \cos\frac{1}{x^2}

であり、x=0x = 0 では ∣F(h)−F(0)h∣=∣hsin⁡1h2∣≤∣h∣→0\left| \frac{F(h) - F(0)}{h} \right| = \left| h \sin\frac{1}{h^2} \right| \le |h| \to 0 から F′(0)=0F'(0) = 0 です。つまり FF は [−1,1][-1,1] の各点で微分可能で、F′F' は [−1,1][-1,1] 上の関数として定まっています。ところが xk=1/2kπx_k = 1/\sqrt{2k\pi} とおくと sin⁡(1/xk2)=sin⁡2kπ=0\sin(1/x_k^2) = \sin 2k\pi = 0、cos⁡(1/xk2)=1\cos(1/x_k^2) = 1 なので F′(xk)=−22kπ→−∞F'(x_k) = -2\sqrt{2k\pi} \to -\infty となり、F′F' は非有界です。非有界な関数はリーマン可積分ではないので、∫−11F′(x) dx\int_{-1}^{1} F'(x)\,dx はそもそも定義されません。

可積分だが原始関数をもたない例。 f(x)=0f(x) = 0(−1≤x<0-1 \le x < 0)、f(x)=1f(x) = 1(0≤x≤10 \le x \le 1)とおきます。ff は単調増加なので 演習 7.1 より [−1,1][-1,1] で可積分です。しかし ff は [−1,1][-1,1] 上で原始関数をもちません。導関数は中間値の性質をもつ(ダルブーの定理(定理 3.5)[平均値の定理とテイラーの定理])のに対し、ff は値 00 と 11 しか取らず、その中間の値を取らないからです。このとき F(x)=∫−1xf(t) dtF(x) = \int_{-1}^{x} f(t)\,dt は x<0x < 0 で 00、x≥0x \ge 0 で xx なので F(x)=max⁡(x,0)F(x) = \max(x, 0) となり、連続ですが x=0x = 0 で微分できません。定理 5.2 (2) の「ff の連続点で」という限定が効いていることがわかります。

例 5.7(対数関数を積分で定義する)

基本定理は計算の道具であるだけでなく、新しい関数を作る道具でもあります。f(t)=1/tf(t) = 1/t は (0,∞)(0, \infty) 上連続なので、系 5.3 より

L(x)=∫1xdtt(x>0)L(x) = \int_1^x \frac{dt}{t} \qquad (x > 0)

は (0,∞)(0,\infty) 上微分可能で L′(x)=1/xL'(x) = 1/x、また 注意 3.2 より L(1)=0L(1) = 0 です。この LL が対数の性質をもつことを、基本定理と微分法だけから導きます。

y>0y > 0 を固定し、g(x)=L(xy)g(x) = L(xy) とおきます。x↦xyx \mapsto xy は (0,∞)(0,\infty) から (0,∞)(0,\infty) への微分可能な写像なので、合成関数の微分法より

g′(x)=L′(xy)⋅y=1xy⋅y=1x=L′(x).g'(x) = L'(xy) \cdot y = \frac{1}{xy} \cdot y = \frac{1}{x} = L'(x) .

したがって (g−L)′=0(g - L)' = 0 が区間 (0,∞)(0,\infty) 上で成り立ち、平均値の定理の系より g−Lg - L は定数です。その定数を求めるために x=1x = 1 を代入すると

g(1)−L(1)=L(y)−0=L(y)g(1) - L(1) = L(y) - 0 = L(y)

なので、定数は L(y)L(y) です。すなわち L(xy)−L(x)=L(y)L(xy) - L(x) = L(y)、書き直して

L(xy)=L(x)+L(y)(x,y>0)L(xy) = L(x) + L(y) \qquad (x, y > 0)

が得られました。積を和に変える関数、つまり対数です。面積として定義された関数が指数関数の逆関数になるという事実が、基本定理と合成関数の微分法だけから出てきます。

定理 5.4 によって、積分計算は原始関数探しに還元されました。しかし、原始関数を見つける一般的な手続きは存在しません。使えるのは、微分の側で成り立つ法則を基本定理で積分の側へ翻訳した公式です。合成関数の微分法からは置換積分が、積の微分法からは部分積分が出ます。この 2 つが、初等的な積分計算のほぼすべてを支えています。

定理 6.1(置換積分)✓

II を区間、f:I→Rf : I \to \mathbb{R} を連続関数とする。φ:[α,β]→I\varphi : [\alpha, \beta] \to I が C1C^1 級([α,β][\alpha,\beta] 上微分可能で φ′\varphi' が [α,β][\alpha,\beta] 上連続)ならば

∫αβf(φ(t))φ′(t) dt=∫φ(α)φ(β)f(x) dx.\int_\alpha^\beta f\bigl( \varphi(t) \bigr) \varphi'(t)\,dt = \int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)} f(x)\,dx .

ここで φ\varphi が単調であることも単射であることも仮定していない。

証明(定理 6.1)

c=φ(α)∈Ic = \varphi(\alpha) \in I を固定し、F(x)=∫cxf(u) duF(x) = \int_c^x f(u)\,du(x∈Ix \in I)とおきます。ff は II 上連続なので、系 5.3 より FF は II 上微分可能で F′=fF' = f です。

G=F∘φ:[α,β]→RG = F \circ \varphi : [\alpha, \beta] \to \mathbb{R} を考えます。φ\varphi は微分可能で値域が II に入り、FF は II 上微分可能なので、合成関数の微分法(連鎖律(定理 7.2)[導関数の定義と基本的な微分法])より GG は [α,β][\alpha,\beta] 上微分可能で

G′(t)=F′(φ(t))φ′(t)=f(φ(t))φ′(t)G'(t) = F'\bigl( \varphi(t) \bigr) \varphi'(t) = f\bigl( \varphi(t) \bigr) \varphi'(t)

です。ff は連続、φ\varphi は連続(微分可能だから)、φ′\varphi' は仮定より連続なので、G′G' は連続関数の合成と積として [α,β][\alpha,\beta] 上連続です。したがって 定理 3.5 より G′G' は [α,β][\alpha,\beta] で可積分で、GG は [α,β][\alpha,\beta] 上連続かつ (α,β)(\alpha,\beta) で微分可能でその導関数が G′G' ですから、定理 5.4 を G′G' と GG の組に適用できて

∫αβf(φ(t))φ′(t) dt=∫αβG′(t) dt=G(β)−G(α)=F(φ(β))−F(φ(α))\int_\alpha^\beta f\bigl( \varphi(t) \bigr) \varphi'(t)\,dt = \int_\alpha^\beta G'(t)\,dt = G(\beta) - G(\alpha) = F\bigl( \varphi(\beta) \bigr) - F\bigl( \varphi(\alpha) \bigr)

を得ます。F(φ(α))=F(c)=∫ccf=0F(\varphi(\alpha)) = F(c) = \int_c^c f = 0 であり、F(φ(β))=∫cφ(β)f=∫φ(α)φ(β)fF(\varphi(\beta)) = \int_c^{\varphi(\beta)} f = \int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)} f ですから、右辺は ∫φ(α)φ(β)f(x) dx\int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)} f(x)\,dx に等しくなります。

定理 6.2(部分積分)✓

u,v:[a,b]→Ru, v : [a,b] \to \mathbb{R} がともに C1C^1 級ならば

∫abu(x)v′(x) dx=u(b)v(b)−u(a)v(a)−∫abu′(x)v(x) dx.\int_a^b u(x) v'(x)\,dx = u(b)v(b) - u(a)v(a) - \int_a^b u'(x) v(x)\,dx .
証明(定理 6.2)

積の微分法(微分の線形性・積の法則・商の法則(定理 6.1)[導関数の定義と基本的な微分法])より uvuv は [a,b][a,b] 上微分可能で (uv)′=u′v+uv′(uv)' = u'v + uv' です。u,u′,v,v′u, u', v, v' はすべて連続なので (uv)′(uv)' も連続で、定理 3.5 より [a,b][a,b] で可積分です。よって 定理 5.4 を (uv)′(uv)' と uvuv の組に適用できて

∫ab(u′(x)v(x)+u(x)v′(x))dx=u(b)v(b)−u(a)v(a).\int_a^b \bigl( u'(x)v(x) + u(x)v'(x) \bigr) dx = u(b)v(b) - u(a)v(a) .

u′vu'v と uv′uv' はどちらも連続なので個別に可積分であり、左辺は 命題 4.1 (1) の線形性で 2 つの積分に分かれます。∫abu′v\int_a^b u'v を移項すれば主張の式を得ます。

例 6.3(置換積分:四分円の面積)

∫011−x2 dx\int_0^1 \sqrt{1 - x^2}\,dx を計算します。f(x)=1−x2f(x) = \sqrt{1-x^2} は I=[−1,1]I = [-1,1] 上連続です。φ(t)=sin⁡t\varphi(t) = \sin t、[α,β]=[0,π/2][\alpha, \beta] = [0, \pi/2] と取ると、φ\varphi は C1C^1 級(φ′(t)=cos⁡t\varphi'(t) = \cos t は連続)で φ([0,π/2])=[0,1]⊂I\varphi([0,\pi/2]) = [0,1] \subset I、φ(0)=0\varphi(0) = 0、φ(π/2)=1\varphi(\pi/2) = 1 です。定理 6.1 より

∫0π/21−sin⁡2t  cos⁡t dt=∫011−x2 dx\int_0^{\pi/2} \sqrt{1 - \sin^2 t}\;\cos t\,dt = \int_{0}^{1} \sqrt{1-x^2}\,dx

となります。左辺を計算します。t∈[0,π/2]t \in [0, \pi/2] では cos⁡t≥0\cos t \ge 0 なので

1−sin⁡2t=cos⁡2t=∣cos⁡t∣=cos⁡t\sqrt{1 - \sin^2 t} = \sqrt{\cos^2 t} = |\cos t| = \cos t

です(この符号の確認は省けません。区間が違えば −cos⁡t-\cos t になります)。半角公式 cos⁡2t=1+cos⁡2t2\cos^2 t = \frac{1 + \cos 2t}{2} を使うと

∫0π/2cos⁡2t dt=∫0π/21+cos⁡2t2 dt.\int_0^{\pi/2} \cos^2 t\,dt = \int_0^{\pi/2} \frac{1 + \cos 2t}{2}\,dt .

H(t)=t2+sin⁡2t4H(t) = \frac{t}{2} + \frac{\sin 2t}{4} を微分すると H′(t)=12+2cos⁡2t4=1+cos⁡2t2H'(t) = \frac{1}{2} + \frac{2\cos 2t}{4} = \frac{1 + \cos 2t}{2} なので、HH は被積分関数の原始関数です。定理 5.4 より

∫0π/21+cos⁡2t2 dt=H ⁣(π2)−H(0)=(π4+sin⁡π4)−(0+0)=π4.\int_0^{\pi/2} \frac{1 + \cos 2t}{2}\,dt = H\!\left( \frac{\pi}{2} \right) - H(0) = \left( \frac{\pi}{4} + \frac{\sin \pi}{4} \right) - (0 + 0) = \frac{\pi}{4} .

よって ∫011−x2 dx=π/4\int_0^1 \sqrt{1-x^2}\,dx = \pi/4 です。これは単位円の第 1 象限部分の面積で、円の面積 π\pi の 1/41/4 に一致します。

命題 6.4(ウォリス積分の漸化式)✓

n≥0n \ge 0 に対し In=∫0π/2sin⁡nx dxI_n = \int_0^{\pi/2} \sin^n x\,dx とおく。このとき I0=π/2I_0 = \pi/2、I1=1I_1 = 1、そして n≥2n \ge 2 で nIn=(n−1)In−2n I_n = (n-1) I_{n-2} が成り立つ。

証明(命題 6.4)

被積分関数は連続なので 定理 3.5 より InI_n は定まります。I0=∫0π/21 dx=π/2I_0 = \int_0^{\pi/2} 1\,dx = \pi/2、I1=[−cos⁡x]0π/2=1I_1 = [-\cos x]_0^{\pi/2} = 1 です(定理 5.4)。

n≥2n \ge 2 とし、u=sin⁡n−1xu = \sin^{n-1} x、v=−cos⁡xv = -\cos x に 定理 6.2 を使います。u′=(n−1)sin⁡n−2xcos⁡xu' = (n-1)\sin^{n-2} x \cos x、v′=sin⁡xv' = \sin x なので

In=[−sin⁡n−1x cos⁡x]0π/2+(n−1)∫0π/2sin⁡n−2x cos⁡2x dx.I_n = \Bigl[ -\sin^{n-1}x \, \cos x \Bigr]_0^{\pi/2} + (n-1)\int_0^{\pi/2} \sin^{n-2} x \, \cos^2 x \,dx .

境界項は x=π/2x = \pi/2 で cos⁡(π/2)=0\cos(\pi/2) = 0、x=0x = 0 で sin⁡n−10=0\sin^{n-1} 0 = 0 なので 00 です。cos⁡2x=1−sin⁡2x\cos^2 x = 1 - \sin^2 x を代入し 命題 4.1 (1) の線形性で分けると In=(n−1)(In−2−In)I_n = (n-1)(I_{n-2} - I_n) となり、InI_n について解いて nIn=(n−1)In−2n I_n = (n-1) I_{n-2} を得ます。

例 6.5(部分積分:ウォリス積分の漸化式)

n≥0n \ge 0 に対し In=∫0π/2sin⁡nx dxI_n = \int_0^{\pi/2} \sin^n x\,dx とおきます。被積分関数は連続なので、定理 3.5 よりすべての nn で InI_n は定まります。

n≥2n \ge 2 とし、u(x)=sin⁡n−1xu(x) = \sin^{n-1} x、v(x)=−cos⁡xv(x) = -\cos x と取ります。どちらも C1C^1 級で、u′(x)=(n−1)sin⁡n−2xcos⁡xu'(x) = (n-1)\sin^{n-2} x \cos x、v′(x)=sin⁡xv'(x) = \sin x です。定理 6.2 より

In=∫0π/2uv′ dx=[−sin⁡n−1x cos⁡x]0π/2+(n−1)∫0π/2sin⁡n−2x cos⁡2x dx.I_n = \int_0^{\pi/2} u v' \,dx = \Bigl[ -\sin^{n-1}x \, \cos x \Bigr]_0^{\pi/2} + (n-1)\int_0^{\pi/2} \sin^{n-2} x \, \cos^2 x \,dx .

境界項は、x=π/2x = \pi/2 で cos⁡(π/2)=0\cos(\pi/2) = 0、x=0x = 0 で sin⁡n−10=0\sin^{n-1} 0 = 0(n≥2n \ge 2 より指数 n−1≥1n - 1 \ge 1)なので、どちらも 00 です。次に cos⁡2x=1−sin⁡2x\cos^2 x = 1 - \sin^2 x を代入し、命題 4.1 (1) の線形性で分けると

In=(n−1)∫0π/2(sin⁡n−2x−sin⁡nx)dx=(n−1)(In−2−In).I_n = (n-1)\int_0^{\pi/2} \bigl( \sin^{n-2}x - \sin^{n}x \bigr) dx = (n-1)\bigl( I_{n-2} - I_n \bigr).

InI_n について解くと nIn=(n−1)In−2n I_n = (n-1) I_{n-2}、すなわち

In=n−1nIn−2(n≥2)I_n = \frac{n-1}{n} I_{n-2} \qquad (n \ge 2)

という漸化式が得られました。初期値は

I0=∫0π/21 dx=π2,I1=∫0π/2sin⁡x dx=[−cos⁡x]0π/2=0−(−1)=1I_0 = \int_0^{\pi/2} 1\,dx = \frac{\pi}{2}, \qquad I_1 = \int_0^{\pi/2} \sin x\,dx = \Bigl[ -\cos x \Bigr]_0^{\pi/2} = 0 - (-1) = 1

です。たとえば

I6=56I4=56⋅34I2=56⋅34⋅12⋅π2=1548⋅π2=5π32I_6 = \frac{5}{6} I_4 = \frac{5}{6}\cdot\frac{3}{4} I_2 = \frac{5}{6}\cdot\frac{3}{4}\cdot\frac{1}{2}\cdot\frac{\pi}{2} = \frac{15}{48}\cdot\frac{\pi}{2} = \frac{5\pi}{32}

と機械的に求まります。1 回の部分積分が、無限個の積分をまとめて片付けてしまいました。

原始関数が初等関数で書けない積分(∫e−x2dx\int e^{-x^2}dx など)もあり、そのときは級数展開や数値計算に頼ることになります(級数と収束判定)。また、置換積分の多変数版が変数変換公式で、φ′\varphi' の役割をヤコビ行列式が担います。これは 重積分と累次積分 の 重積分の変数変換公式(定理 6.7)[重積分と累次積分] で扱います。なお、基本定理で計算できる積分でも直感が裏切られることはあり、その愉快な実例が ボールウェイン積分 です。微分の側の準備については 導関数の定義と基本的な微分法 を参照してください。

演習 7.1標準

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} が単調増加(x≤yx \le y ならば f(x)≤f(y)f(x) \le f(y))ならば、ff は [a,b][a,b] で可積分であることを示せ。連続性は仮定しない。

解答

まず f(a)≤f(x)≤f(b)f(a) \le f(x) \le f(b) が全域で成り立つので ff は有界であり、ダルブー和が定義できます。f(a)=f(b)f(a) = f(b) なら ff は定数関数で、すべての上和・下和が f(a)(b−a)f(a)(b-a) に等しく可積分です。以下 f(a)<f(b)f(a) < f(b) とします。

nn 等分割 Δn\Delta_n(xi=a+ib−anx_i = a + i\frac{b-a}{n}、Δxi=b−an\Delta x_i = \frac{b-a}{n})を取ります。ff が単調増加なので、小区間 [xi−1,xi][x_{i-1}, x_i] 上での上限は右端の値、下限は左端の値です。すなわち Mi=f(xi)M_i = f(x_i)、mi=f(xi−1)m_i = f(x_{i-1})。したがって

S(Δn,f)−s(Δn,f)=b−an∑i=1n(f(xi)−f(xi−1))=b−an(f(b)−f(a))S(\Delta_n, f) - s(\Delta_n, f) = \frac{b-a}{n}\sum_{i=1}^{n}\bigl( f(x_i) - f(x_{i-1}) \bigr) = \frac{b-a}{n}\bigl( f(b) - f(a) \bigr)

となります(望遠鏡和で中間の項がすべて消えます)。ε>0\varepsilon > 0 に対し

n>(b−a)(f(b)−f(a))εn > \frac{(b-a)\bigl( f(b) - f(a) \bigr)}{\varepsilon}

を満たす自然数 nn を取れば(アルキメデスの原理より存在します)右辺は ε\varepsilon 未満になるので、定理 3.4 より ff は可積分です。

単調減少の場合は −f-f が単調増加なので上の結果が使え、命題 4.1 (1) の α=−1\alpha = -1 の場合により f=−(−f)f = -(-f) も可積分です。

演習 7.2易

次の極限を求めよ。

lim⁡n→∞1n∑k=1n11+(kn)2\lim_{n \to \infty} \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n} \frac{1}{1 + \left( \dfrac{k}{n} \right)^{2}}
解答

f(x)=11+x2f(x) = \dfrac{1}{1+x^2} は [0,1][0,1] 上連続です(分母は 11 以上で 00 になりません)。[0,1][0,1] の nn 等分割 xk=k/nx_k = k/n(Δxk=1/n\Delta x_k = 1/n、幅 ∣Δn∣=1/n|\Delta_n| = 1/n)を取り、代表点を右端 ξk=k/n\xi_k = k/n に選ぶと、与えられた和はリーマン和

R(Δn,ξ,f)=∑k=1nf ⁣(kn)⋅1n=1n∑k=1n11+(k/n)2R(\Delta_n, \boldsymbol{\xi}, f) = \sum_{k=1}^{n} f\!\left( \frac{k}{n} \right)\cdot\frac{1}{n} = \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{1 + (k/n)^2}

そのものです。∣Δn∣=1/n→0|\Delta_n| = 1/n \to 0 なので、定理 3.5 より極限は ∫01dx1+x2\int_0^1 \dfrac{dx}{1+x^2} に等しくなります。

arctan⁡\arctan は [0,1][0,1] を含む区間で微分可能で (arctan⁡x)′=11+x2(\arctan x)' = \dfrac{1}{1+x^2}、この導関数は連続ですから、定理 5.4 が適用できて

∫01dx1+x2=arctan⁡1−arctan⁡0=π4−0=π4.\int_0^1 \frac{dx}{1+x^2} = \arctan 1 - \arctan 0 = \frac{\pi}{4} - 0 = \frac{\pi}{4}.

よって求める極限は π/4\pi/4 です。

演習 7.3標準

J=∫0π/2sin⁡xsin⁡x+cos⁡x dxJ = \int_0^{\pi/2} \frac{\sin x}{\sin x + \cos x}\,dx

を求めよ。(ヒント: φ(t)=π2−t\varphi(t) = \frac{\pi}{2} - t による置換を考えてください。)

解答

まず被積分関数 f(x)=sin⁡xsin⁡x+cos⁡xf(x) = \dfrac{\sin x}{\sin x + \cos x} が [0,π/2][0, \pi/2] 上連続であることを確かめます。加法定理より sin⁡x+cos⁡x=2 sin⁡(x+π4)\sin x + \cos x = \sqrt{2}\,\sin\left( x + \frac{\pi}{4} \right) で、x∈[0,π/2]x \in [0,\pi/2] のとき x+π4∈[π4,3π4]x + \frac{\pi}{4} \in \left[ \frac{\pi}{4}, \frac{3\pi}{4} \right] なので sin⁡(x+π4)≥22\sin\left( x+\frac{\pi}{4} \right) \ge \frac{\sqrt2}{2}、したがって sin⁡x+cos⁡x≥1>0\sin x + \cos x \ge 1 > 0 です。分母は 00 になりません。

φ(t)=π2−t\varphi(t) = \frac{\pi}{2} - t は [0,π/2][0, \pi/2] 上 C1C^1 級で φ′(t)=−1\varphi'(t) = -1、φ(0)=π/2\varphi(0) = \pi/2、φ(π/2)=0\varphi(\pi/2) = 0、値域は [0,π/2][0,\pi/2] です。定理 6.1 より

∫0π/2f(φ(t))φ′(t) dt=∫π/20f(x) dx=−J\int_0^{\pi/2} f\bigl( \varphi(t) \bigr)\varphi'(t)\,dt = \int_{\pi/2}^{0} f(x)\,dx = -J

(最後の等号は 注意 3.2 の向きの約束です)。左辺は sin⁡(π2−t)=cos⁡t\sin\left( \frac{\pi}{2}-t \right) = \cos t、cos⁡(π2−t)=sin⁡t\cos\left( \frac{\pi}{2}-t \right) = \sin t と φ′=−1\varphi' = -1 から

−∫0π/2cos⁡tcos⁡t+sin⁡t dt-\int_0^{\pi/2} \frac{\cos t}{\cos t + \sin t}\,dt

です。両辺の符号を払うと

∫0π/2cos⁡tsin⁡t+cos⁡t dt=J\int_0^{\pi/2} \frac{\cos t}{\sin t + \cos t}\,dt = J

がわかります。そこで 命題 4.1 (1) の線形性でこの 2 つを足すと

2J=∫0π/2sin⁡x+cos⁡xsin⁡x+cos⁡x dx=∫0π/21 dx=π22J = \int_0^{\pi/2} \frac{\sin x + \cos x}{\sin x + \cos x}\,dx = \int_0^{\pi/2} 1\,dx = \frac{\pi}{2}

となり、J=π4J = \dfrac{\pi}{4} を得ます。原始関数を初等関数で書き下すことなく、対称性と線形性だけで値が定まりました。

演習 7.4難

n≥0n \ge 0 とし、ff が [a,b][a,b] を含むある開区間で Cn+1C^{n+1} 級であるとする。このとき

f(b)=∑k=0nf(k)(a)k!(b−a)k+1n!∫ab(b−t)nf(n+1)(t) dtf(b) = \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(b-a)^k + \frac{1}{n!}\int_a^b (b-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt

が成り立つこと(テイラーの定理の積分形剰余)を、nn についての数学的帰納法で示せ。

解答

n=0n = 0 のとき。 主張は f(b)=f(a)+∫abf′(t) dtf(b) = f(a) + \int_a^b f'(t)\,dt です。ff は C1C^1 級なので f′f' は連続、したがって 定理 3.5 より [a,b][a,b] で可積分です。ff は [a,b][a,b] 上連続で (a,b)(a,b) で微分可能ですから、定理 5.4 を f′f' と ff の組に適用して ∫abf′(t)dt=f(b)−f(a)\int_a^b f'(t)dt = f(b) - f(a) を得ます。移項すれば主張です。

帰納段階。 n−1n - 1(n≥1n \ge 1)について主張が成り立つとし、ff が Cn+1C^{n+1} 級であるとします。ff は CnC^{n} 級でもあるので帰納法の仮定が使えて

f(b)=∑k=0n−1f(k)(a)k!(b−a)k+1(n−1)!∫ab(b−t)n−1f(n)(t) dt.f(b) = \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(b-a)^k + \frac{1}{(n-1)!}\int_a^b (b-t)^{n-1} f^{(n)}(t)\,dt .

最後の積分に 定理 6.2 を使います。u(t)=f(n)(t)u(t) = f^{(n)}(t)、v(t)=−(b−t)nnv(t) = -\dfrac{(b-t)^n}{n} と取ると、v′(t)=−n(b−t)n−1⋅(−1)n=(b−t)n−1v'(t) = -\dfrac{n(b-t)^{n-1}\cdot(-1)}{n} = (b-t)^{n-1} です。uu は C1C^1 級(ff が Cn+1C^{n+1} 級だから f(n)f^{(n)} は C1C^1 級)、vv は多項式なので C1C^1 級で、部分積分の仮定が満たされます。よって

∫ab(b−t)n−1f(n)(t) dt=[−(b−t)nnf(n)(t)]ab+1n∫ab(b−t)nf(n+1)(t) dt.\int_a^b (b-t)^{n-1} f^{(n)}(t)\,dt = \Bigl[ -\frac{(b-t)^n}{n} f^{(n)}(t) \Bigr]_a^b + \frac{1}{n}\int_a^b (b-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt .

境界項は、t=bt = b で (b−b)n=0(b-b)^n = 0(n≥1n \ge 1)なので 00、t=at = a での値が −(b−a)nnf(n)(a)-\dfrac{(b-a)^n}{n}f^{(n)}(a) で、差を取ると

0−(−(b−a)nnf(n)(a))=(b−a)nnf(n)(a)0 - \left( -\frac{(b-a)^n}{n}f^{(n)}(a) \right) = \frac{(b-a)^n}{n}f^{(n)}(a)

です。これを代入し、全体に 1(n−1)!\dfrac{1}{(n-1)!} を掛けると

1(n−1)![(b−a)nnf(n)(a)+1n∫ab(b−t)nf(n+1)(t) dt]=f(n)(a)n!(b−a)n+1n!∫ab(b−t)nf(n+1)(t) dt\frac{1}{(n-1)!}\left[ \frac{(b-a)^n}{n}f^{(n)}(a) + \frac{1}{n}\int_a^b (b-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt \right] = \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(b-a)^n + \frac{1}{n!}\int_a^b (b-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt

となります((n−1)!⋅n=n!(n-1)!\cdot n = n! を使いました)。これを上の式に戻すと、和の項が k=nk = n まで伸び、剰余項が求める形になります。帰納法により、すべての n≥0n \ge 0 で主張が成り立ちます。

ラグランジュ形との関係。 重み (b−t)n≥0(b-t)^n \ge 0 を付けた形の平均値の定理(命題 4.3 の重み付き版)を剰余項に使うと、ある cc が aa と bb の間に取れて

1n!∫ab(b−t)nf(n+1)(t) dt=f(n+1)(c)⋅1n!∫ab(b−t)ndt=f(n+1)(c)(n+1)!(b−a)n+1\frac{1}{n!}\int_a^b (b-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt = f^{(n+1)}(c)\cdot\frac{1}{n!}\int_a^b (b-t)^n dt = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(b-a)^{n+1}

となり、平均値の定理とテイラーの定理 で扱ったラグランジュ形の剰余が復元されます。

  • 高木貞治『解析概論』改訂第三版、岩波書店、1983 — 第 3 章「積分法」。ダルブー和による定積分の構成と基本定理が古典的な筆致で書かれています。
  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 第 IV 章「積分法」。可積分条件の扱いが詳しく、この記事の構成に近いです。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 6(リーマン–スティルチェス積分)。導関数が中間値の性質をもつこと(ダルブーの定理)は Chapter 5 にあります。
  • M. Spivak, Calculus, 4th ed., Publish or Perish, 2008 — Chapter 13 “Integrals” と Chapter 14 “The Fundamental Theorem of Calculus”。定義の動機づけが丁寧です。
  • T. M. Apostol, Calculus, Volume I, 2nd ed., Wiley, 1967 — 微分より先に積分を導入する構成で、面積という概念そのものの公理的な扱いが読めます。

Appendix: 分割の幅をゼロにする極限(ダルブーの定理)

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定理 3.5 では、ff が連続な場合に「幅が 00 に近づけばリーマン和は定積分に近づく」ことを示しました。実は、これは可積分な有界関数一般について成り立ちます。証明は少し技術的なのでここに退避します。

証明の方針は、上積分に十分近い上和をもつ分割 Δ0\Delta_0 を 1 つ固定し、幅の小さい任意の分割の上和が、Δ0\Delta_0 の分点の個数だけで見積もれる誤差の範囲で、それに近いことを示すことです。証明に出てくる δ\delta は、分点を付け加えたことによる上和の差が ε/2\varepsilon/2 以下になるように逆算して決めたものです。

補題 7.5(ダルブーの定理)✓

f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} を有界関数とする。任意の ε>0\varepsilon > 0 に対して δ>0\delta > 0 が存在し、∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta を満たすすべての分割 Δ\Delta について

S(Δ,f)<∫ab‾f+ε,s(Δ,f)>∫ab‾f−εS(\Delta, f) < \overline{\int_a^b} f + \varepsilon, \qquad s(\Delta, f) > \underline{\int_a^b} f - \varepsilon

が成り立つ。とくに ff が可積分ならば、幅が 00 に収束するタグ付き分割の任意の列に沿って、リーマン和は ∫abf(x) dx\int_a^b f(x)\,dx に収束する。

証明(補題 7.5)

上和についての主張を示します。下和については −f-f に適用し、命題 4.1 (1) の証明中で見た ∫‾(−f)=−∫‾f\overline{\int}(-f) = -\underline{\int} f と S(Δ,−f)=−s(Δ,f)S(\Delta, -f) = -s(\Delta, f) を使えば従います。

M=sup⁡[a,b]∣f∣M = \sup_{[a,b]}|f| とおきます。M=0M = 0 のときは ff が恒等的に 00 なので、どの分割でも S(Δ,f)=0S(\Delta, f) = 0 かつ ∫ab‾f=0\overline{\int_a^b} f = 0 となり、δ\delta をどう取っても S(Δ,f)<∫ab‾f+εS(\Delta, f) < \overline{\int_a^b} f + \varepsilon が成り立ちます。以下 M>0M > 0 とします。

ε>0\varepsilon > 0 を取ります。上積分は上和全体の下限なので、ある分割 Δ0:a=y0<y1<⋯<ym=b\Delta_0 : a = y_0 < y_1 < \cdots < y_m = b が存在して

S(Δ0,f)<∫ab‾f+ε2S(\Delta_0, f) < \overline{\int_a^b} f + \frac{\varepsilon}{2}

となります。Δ0\Delta_0 の内部の分点は y1,…,ym−1y_1, \ldots, y_{m-1} の m−1m-1 個です。m=1m = 1 のときは、Δ0\Delta_0 は [a,b][a,b] そのもので S(Δ0,f)=(sup⁡[a,b]f)(b−a)S(\Delta_0, f) = \left( \sup_{[a,b]} f \right)(b-a) となり、これは 補題 2.3 (1) より任意の分割 Δ\Delta の上和以上ですから、δ\delta として任意の正数を取れば主張が成り立ちます。以下 m≥2m \ge 2 とし、

δ=ε4M(m−1)\delta = \frac{\varepsilon}{4M(m-1)}

とおきます。

∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta なる分割 Δ\Delta を任意に取り、共通細分 Δ′=Δ∪Δ0\Delta' = \Delta \cup \Delta_0 を考えます。Δ′\Delta' は Δ0\Delta_0 の細分なので、補題 2.3 (1) より

S(Δ′,f)≤S(Δ0,f)<∫ab‾f+ε2S(\Delta', f) \le S(\Delta_0, f) < \overline{\int_a^b} f + \frac{\varepsilon}{2}

です。あとは S(Δ,f)−S(Δ′,f)S(\Delta, f) - S(\Delta', f) が小さいことを示せば十分です。

Δ′\Delta' は Δ\Delta に Δ0\Delta_0 の内部の分点(高々 m−1m-1 個)を付け加えたものです。Δ\Delta の小区間のうち、付け加えた点をその内部に含まないものからの寄与は、S(Δ,f)S(\Delta, f) と S(Δ′,f)S(\Delta', f) で完全に共通です。付け加えた点を内部に含む小区間 Ii=[xi−1,xi]I_i = [x_{i-1}, x_i] では、S(Δ,f)S(\Delta,f) の項 MiΔxiM_i \Delta x_i が、IiI_i を分けた各部分区間上の上限に長さを掛けた項の和に置き換わります。ここで、MiM_i も各部分区間上の上限も絶対値は MM 以下、長さの合計は Δxi\Delta x_i ですから、置き換え前後の項はどちらも絶対値 MΔxiM \Delta x_i 以下で、その差は 2MΔxi≤2M∣Δ∣2M\Delta x_i \le 2M|\Delta| で抑えられます。各分点は高々 1 つの小区間の内部に入るので、影響を受ける小区間は高々 m−1m-1 個です。したがって

0≤S(Δ,f)−S(Δ′,f)≤(m−1)⋅2M∣Δ∣<2M(m−1)δ=2M(m−1)⋅ε4M(m−1)=ε20 \le S(\Delta, f) - S(\Delta', f) \le (m-1)\cdot 2M|\Delta| < 2M(m-1)\delta = 2M(m-1)\cdot\frac{\varepsilon}{4M(m-1)} = \frac{\varepsilon}{2}

を得ます(左端の不等号は、Δ′\Delta' が Δ\Delta の細分であることと 補題 2.3 (1) によります)。以上を合わせて

S(Δ,f)<S(Δ′,f)+ε2<∫ab‾f+εS(\Delta, f) < S(\Delta', f) + \frac{\varepsilon}{2} < \overline{\int_a^b} f + \varepsilon

が示されました。

最後の主張を確かめます。ff が可積分なら上積分・下積分はともに I=∫abf(x)dxI = \int_a^b f(x)dx に等しいので、∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta なるタグ付き分割については 定義 2.2 の直後の不等式と合わせて

I−ε<s(Δ,f)≤R(Δ,ξ,f)≤S(Δ,f)<I+εI - \varepsilon < s(\Delta, f) \le R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) \le S(\Delta, f) < I + \varepsilon

すなわち ∣R(Δ,ξ,f)−I∣<ε|R(\Delta, \boldsymbol{\xi}, f) - I| < \varepsilon です。幅が 00 に収束する列では十分先の項で ∣Δ∣<δ|\Delta| < \delta となるので、リーマン和は II に収束します。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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