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正則関数の強力な性質:無限回微分可能性から一致の定理まで

前提:コーシーの積分定理と積分公式:正則関数の値は周囲の積分だけで決まる

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  • 複素平面の開集合の上で 1 回複素微分できる関数は、自動的に何回でも微分でき、さらに各点のまわりでべき級数に展開できます。実 1 変数の微分積分学には、これに対応する現象がまったくありません。
  • 出発点はコーシーの積分公式ひとつだけです。被積分関数の中の 1/(ζz)1/(\zeta - z)zz について微分してよいことを丁寧に確かめると、nn 階導関数の積分表示が得られます(定理 3.2)。
  • 積分表示から導関数の大きさが評価でき(コーシーの評価式)、そこからリューヴィルの定理と代数学の基本定理が数行で出ます。「有界な整関数は定数」というだけの命題が、多項式の根の存在を保証します。
  • テイラー展開の収束半径は「いちばん近い特異点までの距離」で決まります。実関数 1/(1+x2)1/(1+x^2) のマクローリン級数が x>1|x| > 1 で発散する理由は、実軸上には見えない ±i\pm i にあります。
  • 領域内に集積点をもつ集合の上で一致する 2 つの正則関数は、領域全体で一致します(一致の定理)。実関数では、半直線の上で恒等的に 00 なのに全体では 00 でない CC^{\infty} 関数が作れます。この違いが正則性の「硬さ」を象徴しています。

1. 動機:なぜ「1 回微分できる」だけでそこまで決まるのか

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実 1 変数の微分積分学では、関数の滑らかさは細かい階層をなしていました。f(x)=xxf(x) = x|x|R\mathbb{R} 全体で微分可能で f(x)=2xf'(x) = 2|x| ですが、ff'x=0x = 0 で微分できません。つまり 1 回微分できることは 2 回微分できることを意味しません。同様の例をいくらでも作れるので、C1C2CC^1 \supsetneq C^2 \supsetneq \cdots \supsetneq C^{\infty} という真の包含の列ができます。さらにその先に「解析的(各点のまわりでテイラー級数が収束して元の関数に一致する)」という条件があり、これも CC^{\infty} より真に強い条件でした。有名な例が

φ(x)={e1/x(x>0)0(x0)\varphi(x) = \begin{cases} e^{-1/x} & (x > 0) \\ 0 & (x \le 0)\end{cases}

で、これは R\mathbb{R}CC^{\infty} ですが、原点でのテイラー係数がすべて 00 になるため、テイラー級数(恒等的に 00)は x>0x > 0 では元の関数と一致しません。

複素関数論では、この階層が丸ごと潰れます。開集合の上で 1 回複素微分できる(=正則である)だけで、自動的に CC^{\infty} になり、しかも解析的になります。実関数の世界から来た人にとって、これは最初とても信じがたい主張です。なぜそんなことが起きるのでしょうか。

理由は 2 つの層に分かれます。第 1 に、複素微分可能性はコーシー・リーマンの関係式という偏微分方程式を課します(正則関数とコーシー・リーマンの関係式定理 4.1[正則関数とコーシー・リーマンの関係式] を参照してください)。実部と虚部が独立に動けず、互いに縛り合っているのです。第 2 に、より直接的な理由として、前章で証明したコーシーの積分公式

f(z)=12πiC(a,r)f(ζ)ζzdζf(z) = \frac{1}{2\pi i}\int_{C(a,r)} \frac{f(\zeta)}{\zeta - z}\, d\zeta

があります。この式は「点 zz における値が、zz から離れた円周上の値だけで決まる」と言っています。右辺で zz に依存しているのは 1/(ζz)1/(\zeta - z) という、zz について何回でも微分できるあからさまに具体的な関数だけです。ff 自身がどれだけ荒っぽく見えても、円周上の値を核 1/(ζz)1/(\zeta - z) で「均して」いる以上、結果は核と同じだけ滑らかになります。この記事の技術的な仕事の大半は、この直観 —— 積分記号の下で微分してよい —— を厳密に正当化することです。

そこさえ通れば、あとは滑らかに進みます。導関数の積分表示は導関数の大きさの評価を与え(命題 4.1)、その評価は「平面全体で有界な正則関数は定数しかない」というリューヴィルの定理を生み、そこから代数学の基本定理が出ます。歴史的にも、この形の主張は 1844 年にコーシーが述べたもので、リューヴィルは二重周期関数についての特別な場合を扱ったと言われています。代数学の基本定理自体はガウスの学位論文(1799 年)以来いくつもの証明が知られていますが、複素解析による証明は群を抜いて短いものです。

さらに、同じ積分公式を幾何級数で展開するとテイラー展開が、円環領域で展開するとローラン展開が得られます。そして零点の孤立性を経て、この記事の最終目的地である一致の定理に到達します。全体の依存関係は次のとおりです。

flowchart TD
A["コーシーの積分公式"] --> B["導関数の積分表示"]
B --> C["無限回微分可能"]
B --> D["コーシーの評価式"]
D --> E["リューヴィルの定理"]
E --> F["代数学の基本定理"]
A --> G["テイラー展開"]
G --> H["零点の孤立性"]
H --> I["一致の定理"]
A --> J["ローラン展開"]
J --> K["孤立特異点の分類"]
この章の論理の流れ。すべてがコーシーの積分公式から出発します。

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