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極限と連続性:ε-δ 論法を「誤差の契約」として読む

対象読者: 高校数学の関数とグラフ、および集合と論理(すべて・ある、否定の作り方)の基本を学んだ人。ε-δ 論法や極限の厳密な定義は未習でもかまいません。

前提となる記事:数学の国語:集合と論理を正確に読み書きする

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高校では「xx を aa に近づけると f(x)f(x) は LL に近づく」と習いますが、「近づく」とは正確に何を指すのでしょうか。この記事では、その言葉を「どんな誤差の注文にも応えられる」という約束に言い換えます。読み終えると、極限や連続を、図や感覚に頼らず、式だけで確かめられるようになります。

  • 「xx を aa に限りなく近づけると f(x)f(x) が LL に限りなく近づく」という言い方は、動きを含んだ比喩です。そのままでは真偽を判定できません。ε-δ 論法は、これを「どんな精度を要求されても、それを保証する範囲を返せる」という静的な条件に書き換えたものです。
  • 定義の骨格は量化子の順序 ∀ε ∃δ ∀x\forall \varepsilon\ \exists \delta\ \forall x にあります。δ\delta は ε\varepsilon に依存してよく、逆はありません。この一方通行が定義の性格をすべて決めています。
  • 極限の一意性・四則・はさみうちの原理は、この定義だけから証明できます。証明の型は「要求された ε\varepsilon を分割して各部品に配る」の一つです。
  • 連続性は「x→ax \to a の極限が存在し、しかもその値が f(a)f(a) に一致する」ことです。ディリクレ関数(有理数で 11、無理数で 00 を取る関数)はどの点でも不連続、トマエ関数(有理数を既約分数 p/qp/q(q>0q>0)で表して 1/q1/q、無理数で 00 を取る関数)は無理点でだけ連続 — 直感の届かない例も、定義に従えば機械的に判定できます。
  • 量化子を 1 つ動かすと一様連続性という別の概念になります。f(x)=1/xf(x) = 1/x は (0,1](0,1] 上で連続ですが一様連続ではありません。

1. 動機:「限りなく近づく」はどこが曖昧か

Section titled “1. 動機:「限りなく近づく」はどこが曖昧か”

「xx が aa に限りなく近づくとき、f(x)f(x) は LL に限りなく近づく」。高校の教科書に出てくるこの説明は、多くの場面でうまく機能します。f(x)=2x+1f(x) = 2x+1 で xx を 11 に近づければ f(x)f(x) が 33 に近づくことを、誰も疑わないでしょう。それでも、この文をそのまま数学の定義として採用することはできません。理由は 3 つあります。

第 1 に、「近づく」は動きの言葉です。 数学に現れる xx は変化しません。実数直線上の 1 点であって、時間とともに動く粒子ではありません。「近づく」を字義どおりに読むなら、時刻という余分な概念を持ち込むことになります。

第 2 に、「限りなく」の程度が測れません。 「f(x)f(x) は LL に近い」と言うとき、どれくらい近ければよいのでしょうか。0.10.1 でしょうか、10−10010^{-100} でしょうか。基準を決めずに「近い」と言っても、ある主張が真か偽かを決められません。真偽を決められない文は定義になりません。

第 3 に、直感が通用しない関数が実在します。 次の関数(ディリクレ関数)を考えてください。

D(x)={1(x∈Q)0(x∉Q)D(x) = \begin{cases} 1 & (x \in \mathbb{Q}) \\ 0 & (x \notin \mathbb{Q}) \end{cases}

xx を 00 に「限りなく近づけて」みます。x=1/nx = 1/n に沿って近づければ D(x)D(x) はずっと 11 です。x=2/nx = \sqrt{2}/n に沿って近づければずっと 00 です。近づけ方によって答えが変わってしまい、素朴な言い方はここで沈黙します。しかも DD の値は 11 と 00 の間を「跳ぶ」のではなく、どんなに狭い区間の中でも両方の値を取り続けます。グラフを描いて眺めるという手段も使えません。

歴史的にも、この曖昧さは実害を生みました。18 世紀の解析学は「無限小」、すなわち 00 ではないがどんな正の数より小さい量を自由に使い、そのおかげで大量の公式を手に入れましたが、同時に「連続関数の列の和は連続」といった誤った主張も流通させました。コーシーが『解析教程』(1821) で極限を解析学の基礎に据え、ワイエルシュトラスとその学派が 19 世紀後半に ε\varepsilon と δ\delta による定式化を完成させたことで、この種の混乱は決着しました。0.999⋯=10.999\cdots = 1 がなぜ等式として正しいのか、という問いも同じ根を持ちます(数とは何か?、とくに 1 = 0.999…(定理 6.3)[数とは何か])。

極限を厳密にする実利ははっきりしています。導関数は lim⁡h→0f(a+h)−f(a)h\lim_{h \to 0} \dfrac{f(a+h)-f(a)}{h} という極限そのものですし(導関数の定義と基本的な微分法 の 微分係数の定義(定義 3.1)[導関数の定義と基本的な微分法])、無限級数の和は部分和のなす数列の極限として定義されます(級数と収束判定 の 無限級数の定義(定義 3.1)[級数と収束判定])。土台が曖昧なら、その上に建つ定理もすべて曖昧になります。

発想の転換はこうです。「近づく」という過程を語るのをやめ、達成された精度だけを語ります。f(x)f(x) が LL に近いことを「誤差が ε\varepsilon 未満である」と読み替え、それを保証するために xx に許される範囲を「aa からの距離が δ\delta 未満」と読み替える。あとは、どんな精度の注文にも応えられるか、という一つの問いに帰着します。

以下、N={1,2,3,…}\mathbb{N} = \{1, 2, 3, \ldots\}(00 を含めません)、Q\mathbb{Q} は有理数全体、R\mathbb{R} は実数全体とします。∣x∣|x| は絶対値で、∣x−y∣|x - y| は数直線上の xx と yy の距離を表します。以後くり返し使う不等式は次の 2 本です。

∣x+y∣≤∣x∣+∣y∣,∣∣x∣−∣y∣∣≤∣x−y∣|x + y| \le |x| + |y|, \qquad \bigl| |x| - |y| \bigr| \le |x - y|

1 本目(三角不等式)は ±x≤∣x∣\pm x \le |x| と ±y≤∣y∣\pm y \le |y| を足して ±(x+y)≤∣x∣+∣y∣\pm(x+y) \le |x|+|y| を得れば従います。2 本目は ∣x∣=∣(x−y)+y∣≤∣x−y∣+∣y∣|x| = |(x-y)+y| \le |x-y| + |y| から ∣x∣−∣y∣≤∣x−y∣|x|-|y| \le |x-y| が出て、xx と yy を入れ替えれば ∣y∣−∣x∣≤∣x−y∣|y|-|x| \le |x-y| も出るので、両者を合わせれば得られます。

量化子 ∀\forall(すべての)と ∃\exists(存在する)の扱い、およびその否定(量化子の否定(定理 5.3)[数学の国語])については 数学の国語 - 集合と論理 を前提にします。

定義 2.1(近傍・除外近傍・集積点)↗

a∈Ra \in \mathbb{R} と δ>0\delta > 0 に対して

Uδ(a)={ x∈R:∣x−a∣<δ },Uδ∗(a)={ x∈R:0<∣x−a∣<δ }U_\delta(a) = \{\, x \in \mathbb{R} : |x - a| < \delta \,\}, \qquad U_\delta^{*}(a) = \{\, x \in \mathbb{R} : 0 < |x - a| < \delta \,\}

をそれぞれ aa の δ\delta-近傍、除外 δ\delta-近傍という。Uδ(a)U_\delta(a) は開区間 (a−δ, a+δ)(a-\delta,\ a+\delta) に等しく、Uδ∗(a)U^{*}_\delta(a) はそこから点 aa だけを取り除いた集合である。

さらに A⊆RA \subseteq \mathbb{R} と a∈Ra \in \mathbb{R} について、

∀δ>0,Uδ∗(a)∩A≠∅\forall \delta > 0,\quad U^{*}_\delta(a) \cap A \ne \emptyset

が成り立つとき、aa を AA の集積点という。

ここで除外近傍は、aa のすぐ周りから aa 自身だけを抜いた範囲のことです。極限では「aa に近づいたとき」の値を問題にし、aa での値は問わないので、aa を抜いておきます。

集積点は「aa のいくらでも近くに、aa 自身とは異なる AA の点がある」ことを意味します。たとえば A=(0,1)A = (0,1) の集積点全体は [0,1][0,1] です(端点 0,10, 1 は AA に属しませんが集積点です)。一方 A={0}∪(1,2)A = \{0\} \cup (1,2) において 00 は集積点ではありません。δ=1\delta = 1 とすれば U1∗(0)∩A=∅U^{*}_1(0) \cap A = \emptyset だからです。このような点を孤立点といいます。

集積点という条件は、極限を論じるための最小限の前提です。aa の近くに AA の点がまったく無ければ、「xx を aa に近づけたときの f(x)f(x)」を語る材料がありません。定理 3.5 で、この仮定を落とすと何が壊れるかを見ます。

定義 3.1(関数の極限)↗

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、f:A→Rf : A \to \mathbb{R} とし、aa を AA の集積点(定義 2.1)とする。実数 LL について

∀ε>0, ∃δ>0, ∀x∈A,0<∣x−a∣<δ  ⟹  ∣f(x)−L∣<ε\forall \varepsilon > 0,\ \exists \delta > 0,\ \forall x \in A, \quad 0 < |x - a| < \delta \implies |f(x) - L| < \varepsilon

が成り立つとき、ff は x→ax \to a で LL に収束するといい、

lim⁡x→af(x)=L\lim_{x \to a} f(x) = L

と書く。f(x)→L (x→a)f(x) \to L\ (x \to a) という書き方も同じ意味である。

この論理式を、次の 2 人のやり取りとして読んでください。相手は精度の注文を出す側、こちらはそれに応える側です。

ε-δ 論法を「誤差の契約」として読む。先に ε が与えられ、あとから δ を選ぶ順序が本質

こちらが勝てる(=どんな ε\varepsilon にも応じられる)とき、そのときに限り lim⁡x→af(x)=L\lim_{x\to a} f(x) = L です。ここで決定的なのは手番の順序です。ε\varepsilon が先に与えられ、δ\delta は後から選ばれます。したがって δ\delta は ε\varepsilon に依存してよく、実際ふつうは ε\varepsilon が小さいほど δ\delta も小さく取ることになります。逆に xx は δ\delta の後に選ばれるので、δ\delta が xx に依存することは許されません。

図で見ると、ε\varepsilon は横向きの帯(許される値の幅)、δ\delta は縦向きの帯(許される xx の幅)を決めます。

L + εLL − εa − δaa + δxε の帯δ の帯y = f(x)
先に横帯(値の許容誤差 ε)が与えられ、それに合わせて縦帯(a の周りの幅 δ、ただし a 自身は除く)を選ぶ。縦帯に入る x は、必ず横帯の中へ写らねばならない

注意 3.2(定義の否定)

定義 3.1 の否定、すなわち「LL は x→ax \to a での ff の極限ではない」は、量化子を順に反転させ、含意の否定 ¬(P  ⟹  Q)≡P∧¬Q\lnot(P \implies Q) \equiv P \wedge \lnot Q を使って

∃ε0>0, ∀δ>0, ∃x∈A,0<∣x−a∣<δ ∧ ∣f(x)−L∣≥ε0\exists \varepsilon_0 > 0,\ \forall \delta > 0,\ \exists x \in A, \quad 0 < |x - a| < \delta \ \wedge\ |f(x) - L| \ge \varepsilon_0

と書けます。日本語に直せば「ある精度 ε0\varepsilon_0 が存在して、どんなに δ\delta を小さく取っても、aa の除外 δ\delta-近傍の中に誤差 ε0\varepsilon_0 以上の点が残る」です。さらに「x→ax \to a で ff の極限が存在しない」とは、これがすべての L∈RL \in \mathbb{R} について成り立つことをいいます。極限が無いことを示すときは、この形を目標にします。

例 3.3(1 次関数の極限)

f(x)=2x+1f(x) = 2x + 1(A=RA = \mathbb{R})について lim⁡x→1f(x)=3\lim_{x \to 1} f(x) = 3 を示します。

下書き(δ\delta の探し方)。 保証したい不等式は ∣f(x)−3∣<ε|f(x) - 3| < \varepsilon です。左辺を計算すると

∣f(x)−3∣=∣(2x+1)−3∣=∣2x−2∣=2∣x−1∣|f(x) - 3| = |(2x+1) - 3| = |2x - 2| = 2|x - 1|

なので、2∣x−1∣<ε2|x-1| < \varepsilon すなわち ∣x−1∣<ε/2|x - 1| < \varepsilon/2 であれば十分です。そこで δ=ε/2\delta = \varepsilon/2 と取ればよい、と見当がつきます。

証明。 ε>0\varepsilon > 0 を任意に取る。δ=ε/2>0\delta = \varepsilon/2 > 0 とおく。0<∣x−1∣<δ0 < |x - 1| < \delta を満たす任意の x∈Rx \in \mathbb{R} に対して、上の計算から

∣f(x)−3∣=2∣x−1∣<2δ=2⋅ε2=ε|f(x) - 3| = 2|x - 1| < 2\delta = 2 \cdot \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon

が成り立つ。ε\varepsilon は任意だったから、定義 3.1 により lim⁡x→1(2x+1)=3\lim_{x\to1}(2x+1) = 3 である。

下書きは不等式を逆向きにたどる作業で、証明そのものではありません。証明として書くときは、ε\varepsilon を受け取り、δ\delta を宣言し、順方向に不等式をつなぐ、という順序を守ってください。

例 3.4(2 次関数の極限:δ を 2 段構えで取る)

g(x)=x2g(x) = x^2 について lim⁡x→2g(x)=4\lim_{x \to 2} g(x) = 4 を示します。

下書き。 ∣x2−4∣=∣x−2∣ ∣x+2∣|x^2 - 4| = |x - 2|\,|x + 2| です。∣x−2∣|x-2| は δ\delta で小さくできますが、∣x+2∣|x+2| は残ります。そこで先に「∣x−2∣<1|x-2| < 1 の範囲でだけ考える」と決めてしまいます。このとき 1<x<31 < x < 3 なので

∣x+2∣=x+2<5|x + 2| = x + 2 < 5

となり、∣x2−4∣<5∣x−2∣|x^2 - 4| < 5|x-2| が使えます。あとは 5∣x−2∣<ε5|x-2| < \varepsilon、すなわち ∣x−2∣<ε/5|x-2| < \varepsilon/5 を課せば十分です。2 つの要求を同時に満たすには最小値を取ればよく、δ=min⁡(1, ε/5)\delta = \min(1,\ \varepsilon/5) とします。

証明。 ε>0\varepsilon > 0 を任意に取り、δ=min⁡(1, ε5)>0\delta = \min\left(1,\ \dfrac{\varepsilon}{5}\right) > 0 とおく。0<∣x−2∣<δ0 < |x - 2| < \delta とする。まず ∣x−2∣<1|x - 2| < 1 より 1<x<31 < x < 3、したがって ∣x+2∣=x+2<5|x+2| = x + 2 < 5 である。次に ∣x−2∣<ε/5|x-2| < \varepsilon/5 でもあるから、

∣x2−4∣=∣x−2∣ ∣x+2∣<ε5⋅5=ε.|x^2 - 4| = |x-2|\,|x+2| < \frac{\varepsilon}{5} \cdot 5 = \varepsilon .

よって lim⁡x→2x2=4\lim_{x\to2} x^2 = 4 である。

δ\delta が ε\varepsilon だけでなく近づく先 aa にも依存してよいことに注意してください。同じ計算を aa 一般で行うと δ=min⁡(1, ε/(2∣a∣+1))\delta = \min(1,\ \varepsilon/(2|a|+1)) となり、∣a∣|a| が大きいほど δ\delta は小さくなります。この依存性が §6 で主題になります。

定理 3.5(極限の一意性)✓

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、f:A→Rf : A \to \mathbb{R} とし、aa を AA の集積点とする。lim⁡x→af(x)=L\lim_{x\to a} f(x) = L かつ lim⁡x→af(x)=M\lim_{x \to a} f(x) = M ならば L=ML = M である。

証明(定理 3.5)

L≠ML \ne M と仮定して矛盾を導く(背理法。その正当性は 背理法の正当性(命題 6.2)[証明の技術]、証明の型全般については 証明の技術 - 数学的帰納法と背理法 を参照)。

ε=∣L−M∣2\varepsilon = \dfrac{|L - M|}{2} とおく。L≠ML \ne M より ∣L−M∣>0|L-M| > 0 だから ε>0\varepsilon > 0 である。

定義 3.1 を LL に対して適用すると、δ1>0\delta_1 > 0 が存在して、x∈Ax \in A かつ 0<∣x−a∣<δ10 < |x-a| < \delta_1 ならば ∣f(x)−L∣<ε|f(x) - L| < \varepsilon となる。同じく MM に対して適用すると、δ2>0\delta_2 > 0 が存在して、x∈Ax \in A かつ 0<∣x−a∣<δ20 < |x-a| < \delta_2 ならば ∣f(x)−M∣<ε|f(x) - M| < \varepsilon となる。

δ=min⁡(δ1,δ2)>0\delta = \min(\delta_1, \delta_2) > 0 とおく。aa は AA の集積点である(仮定)から、定義 2.1 により Uδ∗(a)∩A≠∅U^{*}_{\delta}(a) \cap A \ne \emptyset であり、この集合から点 x0x_0 を 1 つ取れる。x0x_0 は 0<∣x0−a∣<δ≤δ10 < |x_0 - a| < \delta \le \delta_1 と 0<∣x0−a∣<δ≤δ20 < |x_0-a| < \delta \le \delta_2 の両方を満たすので、上の 2 つの結論がともに使えて

∣L−M∣=∣(L−f(x0))+(f(x0)−M)∣≤∣f(x0)−L∣+∣f(x0)−M∣<ε+ε=∣L−M∣|L - M| = |(L - f(x_0)) + (f(x_0) - M)| \le |f(x_0) - L| + |f(x_0) - M| < \varepsilon + \varepsilon = |L - M|

を得る(1 つ目の不等号は §2 の三角不等式)。これは ∣L−M∣<∣L−M∣|L-M| < |L-M| という矛盾である。よって L=ML = M である。

証明の中で、集積点という仮定は「x0x_0 を実際に取る」ためだけに使われました。ここが落ちると結論も落ちます。実際、A={0}∪(1,2)A = \{0\} \cup (1,2)、a=0a = 0(AA の孤立点)とし、ff を AA 上の任意の関数とすると、δ=1\delta = 1 に対して 0<∣x−0∣<10 < |x-0| < 1 を満たす x∈Ax \in A は存在しません。すると 定義 3.1 の含意は前提が偽なので常に真となり、どんな実数 LL も「極限」になってしまいます。一意性は成り立ちません。定義で aa を集積点に限ったのは、この退化を防ぐためです。

毎回 ε\varepsilon と δ\delta に戻って計算するのは大変です。基本の極限といくつかの計算則を一度証明しておけば、以後はそれらの組み合わせで済みます。まず、収束する関数は aa の近くで暴れないことを確認します。

次の補題は、積と商の証明で「掛かってくる側の関数の大きさ」を押さえるために使います。局所有界とは、aa の近くに限れば値の大きさが一定の数で抑えられる、という意味です。

補題 4.1(収束すれば局所有界)✓

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、g:A→Rg : A \to \mathbb{R}、aa を AA の集積点とし、lim⁡x→ag(x)=M\lim_{x\to a} g(x) = M とする。このとき δ0>0\delta_0 > 0 が存在して、x∈Uδ0∗(a)∩Ax \in U^{*}_{\delta_0}(a) \cap A を満たすすべての xx について ∣g(x)∣<∣M∣+1|g(x)| < |M| + 1 が成り立つ。

証明(補題 4.1)

定義 3.1 において ε=1\varepsilon = 1 と取る(ε\varepsilon は任意の正数でよいので、この特定の値に適用できる)。すると δ0>0\delta_0 > 0 が存在して、x∈Ax \in A かつ 0<∣x−a∣<δ00 < |x - a| < \delta_0 ならば ∣g(x)−M∣<1|g(x) - M| < 1 となる。このとき三角不等式(§2)より

∣g(x)∣=∣(g(x)−M)+M∣≤∣g(x)−M∣+∣M∣<1+∣M∣|g(x)| = |(g(x) - M) + M| \le |g(x) - M| + |M| < 1 + |M|

である。

定理 4.2(極限の四則)✓

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、f,g:A→Rf, g : A \to \mathbb{R}、aa を AA の集積点とし、lim⁡x→af(x)=L\lim_{x\to a} f(x) = L、lim⁡x→ag(x)=M\lim_{x \to a} g(x) = M とする。このとき次が成り立つ。

  1. lim⁡x→a(f(x)+g(x))=L+M\lim_{x\to a} \bigl(f(x) + g(x)\bigr) = L + M。
  2. 任意の定数 c∈Rc \in \mathbb{R} に対し lim⁡x→ac f(x)=cL\lim_{x\to a} c\,f(x) = cL。
  3. lim⁡x→af(x)g(x)=LM\lim_{x\to a} f(x)g(x) = LM。
  4. さらに M≠0M \ne 0 ならば、ある δ1>0\delta_1 > 0 が存在して x∈Uδ1∗(a)∩Ax \in U^{*}_{\delta_1}(a) \cap A では g(x)≠0g(x) \ne 0 であり、B=Uδ1∗(a)∩AB = U^{*}_{\delta_1}(a) \cap A 上で定義された関数 f/gf/g について lim⁡x→af(x)g(x)=LM\lim_{x\to a} \dfrac{f(x)}{g(x)} = \dfrac{L}{M} が成り立つ。

証明の方針を先に述べます。和と定数倍は、要求された ε\varepsilon を半分ずつに分けて ff と gg に配れば済みます。積は、差 f(x)g(x)−LMf(x)g(x)-LM を「ff の誤差」と「gg の誤差」の和に分ける恒等式を使い、それぞれに掛かる g(x)g(x) や LL の大きさを上の補題と定数で押さえます。商は、まず分母が 00 から離れていることを確かめ、そのあと積と同じ形で誤差を 2 つの部品に分けて、それぞれに配る ε\varepsilon の大きさを決めます。

証明(定理 4.2)

(1) ε>0\varepsilon > 0 を任意に取る。ε/2>0\varepsilon/2 > 0 なので、定義 3.1 を ff に ε/2\varepsilon/2 で適用して δ1>0\delta_1 > 0 を、gg に ε/2\varepsilon/2 で適用して δ2>0\delta_2 > 0 を得る。δ=min⁡(δ1,δ2)>0\delta = \min(\delta_1,\delta_2) > 0 とおくと、x∈Ax \in A、0<∣x−a∣<δ0 < |x-a| < \delta のとき両方の評価が使えて、三角不等式(§2)より

∣(f(x)+g(x))−(L+M)∣≤∣f(x)−L∣+∣g(x)−M∣<ε2+ε2=ε.|(f(x)+g(x)) - (L+M)| \le |f(x)-L| + |g(x)-M| < \frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon .

(2) c=0c = 0 のときは ∣0−0∣=0<ε|0 - 0| = 0 < \varepsilon が任意の δ\delta で成り立つ。c≠0c \ne 0 のとき、ε>0\varepsilon > 0 に対し ε/∣c∣>0\varepsilon/|c| > 0 を 定義 3.1 に入れて δ>0\delta > 0 を得れば、0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\delta で ∣cf(x)−cL∣=∣c∣ ∣f(x)−L∣<∣c∣⋅ε/∣c∣=ε|cf(x) - cL| = |c|\,|f(x)-L| < |c| \cdot \varepsilon/|c| = \varepsilon となる。

(3) 差を 2 つに割ります。恒等式

f(x)g(x)−LM=g(x)(f(x)−L)+L(g(x)−M)f(x)g(x) - LM = g(x)\bigl(f(x)-L\bigr) + L\bigl(g(x)-M\bigr)

(右辺を展開すると g(x)f(x)−Lg(x)+Lg(x)−LMg(x)f(x) - Lg(x) + Lg(x) - LM となり左辺に一致する)と三角不等式から

∣f(x)g(x)−LM∣≤∣g(x)∣ ∣f(x)−L∣+∣L∣ ∣g(x)−M∣.|f(x)g(x) - LM| \le |g(x)|\,|f(x)-L| + |L|\,|g(x)-M| .

補題 4.1 により δ0>0\delta_0 > 0 を取れば 0<∣x−a∣<δ00<|x-a|<\delta_0 で ∣g(x)∣<∣M∣+1|g(x)| < |M|+1 である。ε>0\varepsilon > 0 を任意に取り、定義 3.1 を ff に ε2(∣M∣+1)>0\dfrac{\varepsilon}{2(|M|+1)} > 0 で適用して δ2\delta_2 を、gg に ε2(∣L∣+1)>0\dfrac{\varepsilon}{2(|L|+1)} > 0 で適用して δ3\delta_3 を得る(分母に +1+1 を入れたのは L=0L = 0 でも割り算できるようにするため)。δ=min⁡(δ0,δ2,δ3)\delta = \min(\delta_0,\delta_2,\delta_3) とおくと、0<∣x−a∣<δ0 < |x-a| < \delta のとき

∣f(x)g(x)−LM∣<(∣M∣+1)⋅ε2(∣M∣+1)+∣L∣⋅ε2(∣L∣+1)≤ε2+ε2=ε|f(x)g(x)-LM| < (|M|+1)\cdot\frac{\varepsilon}{2(|M|+1)} + |L| \cdot \frac{\varepsilon}{2(|L|+1)} \le \frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon

を得る(最後の不等号は ∣L∣≤∣L∣+1|L| \le |L|+1 による)。

(4) まず gg が aa の近くで 00 にならないことを示す。M≠0M \ne 0 より ∣M∣/2>0|M|/2 > 0 だから、定義 3.1 を gg に ε=∣M∣/2\varepsilon = |M|/2 で適用して δ1>0\delta_1 > 0 を得る。x∈B=Uδ1∗(a)∩Ax \in B = U^{*}_{\delta_1}(a) \cap A のとき、§2 の 2 本目の不等式より

∣M∣−∣g(x)∣≤∣g(x)−M∣<∣M∣2⟹∣g(x)∣>∣M∣2>0|M| - |g(x)| \le |g(x) - M| < \frac{|M|}{2} \quad\Longrightarrow\quad |g(x)| > \frac{|M|}{2} > 0

となり、とくに g(x)≠0g(x) \ne 0 である。よって f/gf/g は BB 上で定義される。また aa は BB の集積点でもある。実際、任意の δ>0\delta>0 に対し aa は AA の集積点だから Umin⁡(δ,δ1)∗(a)∩A≠∅U^{*}_{\min(\delta,\delta_1)}(a) \cap A \ne \emptyset であり、この集合は Uδ∗(a)∩BU^{*}_\delta(a) \cap B に含まれるからである。これで極限を論じる資格が整った。

次に評価する。x∈Bx \in B に対し

∣f(x)g(x)−LM∣=∣Mf(x)−Lg(x)∣∣g(x)∣ ∣M∣≤2∣M∣2 ∣M(f(x)−L)−L(g(x)−M)∣≤2∣M∣2(∣M∣ ∣f(x)−L∣+∣L∣ ∣g(x)−M∣)\left| \frac{f(x)}{g(x)} - \frac{L}{M} \right| = \frac{|M f(x) - L g(x)|}{|g(x)|\,|M|} \le \frac{2}{|M|^2}\,\bigl| M(f(x)-L) - L(g(x)-M) \bigr| \le \frac{2}{|M|^2}\Bigl( |M|\,|f(x)-L| + |L|\,|g(x)-M| \Bigr)

である(∣g(x)∣>∣M∣/2|g(x)| > |M|/2 を分母に使い、分子は Mf(x)−Lg(x)=M(f(x)−L)−L(g(x)−M)Mf(x)-Lg(x) = M(f(x)-L) - L(g(x)-M) と変形して三角不等式を用いた)。ε>0\varepsilon>0 を任意に取り、ff に ∣M∣ε4>0\dfrac{|M|\varepsilon}{4} > 0 を、gg に ∣M∣2ε4(∣L∣+1)>0\dfrac{|M|^2 \varepsilon}{4(|L|+1)} > 0 を 定義 3.1 で適用して δ2,δ3\delta_2, \delta_3 を得る。δ=min⁡(δ1,δ2,δ3)\delta = \min(\delta_1,\delta_2,\delta_3) とおけば、0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\delta かつ x∈Bx \in B のとき

∣f(x)g(x)−LM∣<2∣M∣2(∣M∣⋅∣M∣ε4+∣L∣⋅∣M∣2ε4(∣L∣+1))=ε2+∣L∣∣L∣+1⋅ε2≤ε\left| \frac{f(x)}{g(x)} - \frac{L}{M} \right| < \frac{2}{|M|^2}\left( |M| \cdot \frac{|M|\varepsilon}{4} + |L| \cdot \frac{|M|^2\varepsilon}{4(|L|+1)} \right) = \frac{\varepsilon}{2} + \frac{|L|}{|L|+1}\cdot\frac{\varepsilon}{2} \le \varepsilon

となる。

定理 4.3(はさみうちの原理)✓

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、f,g,h:A→Rf, g, h : A \to \mathbb{R}、aa を AA の集積点とする。ある δ0>0\delta_0 > 0 が存在して

x∈Uδ0∗(a)∩A  ⟹  f(x)≤g(x)≤h(x)x \in U^{*}_{\delta_0}(a) \cap A \implies f(x) \le g(x) \le h(x)

が成り立ち、かつ lim⁡x→af(x)=lim⁡x→ah(x)=L\lim_{x\to a} f(x) = \lim_{x \to a} h(x) = L であるとする。このとき lim⁡x→ag(x)=L\lim_{x\to a} g(x) = L である。

証明(定理 4.3)

ε>0\varepsilon > 0 を任意に取る。定義 3.1 を ff に適用して δ1>0\delta_1 > 0 を、hh に適用して δ2>0\delta_2 > 0 を得る。δ=min⁡(δ0,δ1,δ2)>0\delta = \min(\delta_0, \delta_1, \delta_2) > 0 とおき、x∈Ax \in A、0<∣x−a∣<δ0 < |x-a| < \delta とする。

∣f(x)−L∣<ε|f(x) - L| < \varepsilon より L−ε<f(x)L - \varepsilon < f(x) であり、∣h(x)−L∣<ε|h(x)-L| < \varepsilon より h(x)<L+εh(x) < L + \varepsilon である。また δ≤δ0\delta \le \delta_0 だから仮定の不等式が使えて f(x)≤g(x)≤h(x)f(x) \le g(x) \le h(x) である。これらをつなぐと

L−ε<f(x)≤g(x)≤h(x)<L+εL - \varepsilon < f(x) \le g(x) \le h(x) < L + \varepsilon

となり、−ε<g(x)−L<ε-\varepsilon < g(x) - L < \varepsilon、すなわち ∣g(x)−L∣<ε|g(x) - L| < \varepsilon を得る。

次の例は、はさみうちの原理が働く典型です。関数 xsin⁡(1/x)x\sin(1/x) は 00 の近くで激しく振動しますが、上下を ∣x∣|x| と −∣x∣-|x| で挟まれているので、x→0x \to 0 で挟まれた幅ごと 00 に潰れます。

xyy = |x|y = −|x|y = x sin(1/x)0
x sin(1/x) は、上下の包絡線 y = |x| と y = −|x| の間に挟まれたまま振動する。x を 0 に寄せると挟む幅が 0 に縮み、中の関数も 0 に押しつぶされる(0 の近くの密な振動は省略して描いている)

例 4.4(振動しながら収束する関数)

A=R∖{0}A = \mathbb{R} \setminus \{0\} 上で g(x)=xsin⁡1xg(x) = x \sin\dfrac{1}{x} とすると lim⁡x→0g(x)=0\lim_{x\to0} g(x) = 0 です。

x≠0x \ne 0 のとき ∣sin⁡1x∣≤1\left|\sin\dfrac1x\right| \le 1 ですから

−∣x∣≤xsin⁡1x≤∣x∣-|x| \le x \sin\frac{1}{x} \le |x|

が成り立ちます。lim⁡x→0∣x∣=0\lim_{x\to0} |x| = 0 は定義から直ちに分かります(ε>0\varepsilon>0 に対し δ=ε\delta = \varepsilon と取れば 0<∣x−0∣<δ0<|x-0|<\delta のとき ∣∣x∣−0∣=∣x∣<ε\bigl||x| - 0\bigr| = |x| < \varepsilon)。定理 4.2 の (2) で c=−1c = -1 とすれば lim⁡x→0(−∣x∣)=0\lim_{x\to0}(-|x|) = 0 です。よって 定理 4.3 が f(x)=−∣x∣f(x) = -|x|、h(x)=∣x∣h(x) = |x|、L=0L = 0、δ0\delta_0 は任意(たとえば 11)として適用でき、lim⁡x→0g(x)=0\lim_{x\to0} g(x) = 0 を得ます。

この関数は 00 の近くで無限回振動しますが、振幅が 00 に押しつぶされるため収束します。「単調に近づく」ことは収束の条件ではありません。一方、振幅を消さずに sin⁡1x\sin\dfrac1x そのものを考えると極限は存在しません(演習 7.3)。

定理 4.5(数列による特徴づけ)✓

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、f:A→Rf : A \to \mathbb{R}、aa を AA の集積点、L∈RL \in \mathbb{R} とする。次の 2 条件は同値である。

  1. lim⁡x→af(x)=L\lim_{x\to a} f(x) = L。
  2. xn∈Ax_n \in A、xn≠ax_n \ne a(すべての n∈Nn \in \mathbb{N})、lim⁡n→∞xn=a\lim_{n\to\infty} x_n = a を満たす任意の数列 (xn)n∈N(x_n)_{n \in \mathbb{N}} に対して lim⁡n→∞f(xn)=L\lim_{n\to\infty} f(x_n) = L。

ここで数列の収束 lim⁡n→∞yn=c\lim_{n\to\infty} y_n = c は「∀ε>0, ∃N∈N, ∀n≥N, ∣yn−c∣<ε\forall \varepsilon>0,\ \exists N \in \mathbb{N},\ \forall n \ge N,\ |y_n - c| < \varepsilon」を意味する。

証明(定理 4.5)

(1) から (2)。 (xn)(x_n) を条件を満たす数列とし、ε>0\varepsilon>0 を任意に取る。(1) と 定義 3.1 より δ>0\delta>0 が存在して、x∈Ax\in A、0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\delta ならば ∣f(x)−L∣<ε|f(x)-L|<\varepsilon である。xn→ax_n \to a だから、この δ\delta を数列の収束の定義の ε\varepsilon として使えば、N∈NN \in \mathbb{N} が存在して n≥Nn \ge N ならば ∣xn−a∣<δ|x_n - a| < \delta となる。さらに仮定より xn≠ax_n \ne a、すなわち ∣xn−a∣>0|x_n - a| > 0 である。よって n≥Nn \ge N のとき 0<∣xn−a∣<δ0 < |x_n - a| < \delta が成り立ち、∣f(xn)−L∣<ε|f(x_n) - L| < \varepsilon を得る。これは f(xn)→Lf(x_n) \to L を意味する。

(2) から (1)。 対偶を示す。(1) が成り立たないとする。定義 3.1 の量化子を順に反転させ、含意の否定 ¬(P  ⟹  Q)≡P∧¬Q\lnot(P \implies Q) \equiv P \wedge \lnot Q を使うと、ある ε0>0\varepsilon_0>0 が存在して、すべての δ>0\delta>0 に対し、0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\delta かつ ∣f(x)−L∣≥ε0|f(x)-L| \ge \varepsilon_0 を満たす x∈Ax \in A が存在する。

各 n∈Nn \in \mathbb{N} について δ=1/n\delta = 1/n としてこれを適用し、そのような xx を 1 つ選んで xnx_n とする。すると xn∈Ax_n \in A、0<∣xn−a∣<1/n0 < |x_n - a| < 1/n、∣f(xn)−L∣≥ε0|f(x_n) - L| \ge \varepsilon_0 である。

この数列は (2) の前提を満たす。実際 ∣xn−a∣>0|x_n - a| > 0 より xn≠ax_n \ne a であり、また ε>0\varepsilon>0 に対しアルキメデスの原理(命題 5.4[数とは何か])から 1/N<ε1/N < \varepsilon なる N∈NN \in \mathbb{N} が取れて、n≥Nn \ge N ならば ∣xn−a∣<1/n≤1/N<ε|x_n - a| < 1/n \le 1/N < \varepsilon となるので xn→ax_n \to a である。

しかし ∣f(xn)−L∣≥ε0|f(x_n) - L| \ge \varepsilon_0 がすべての nn で成り立つので、ε0\varepsilon_0 に対してはどんな NN を取っても ∣f(xN)−L∣<ε0|f(x_N)-L| < \varepsilon_0 とはならず、f(xn)→Lf(x_n) \to L は成り立たない。よって (2) が成り立たない。

定理 4.5 は、極限の不存在を示すときに特に有効です。aa に収束する 2 つの数列で ff の値の行き先が違うものを見つければ、それだけで極限が無いと結論できます。

定義 5.1(点における連続性)↗

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、f:A→Rf : A \to \mathbb{R}、a∈Aa \in A とする。

∀ε>0, ∃δ>0, ∀x∈A,∣x−a∣<δ  ⟹  ∣f(x)−f(a)∣<ε\forall \varepsilon>0,\ \exists \delta>0,\ \forall x \in A,\quad |x - a| < \delta \implies |f(x) - f(a)| < \varepsilon

が成り立つとき、ff は aa で連続であるという。AA のすべての点で連続であるとき、ff は AA 上連続であるという。

定義 3.1 との違いは 2 点だけです。第 1 に、目標値 LL が f(a)f(a) に固定されています。第 2 に、0<∣x−a∣0 < |x-a| という除外条件が外れ、x=ax = a も検査対象に入っています。第 2 の変更が実質的な影響を持たないのは、x=ax = a のとき ∣f(a)−f(a)∣=0<ε|f(a)-f(a)| = 0 < \varepsilon が常に成り立つからです。したがって aa が AA の集積点であれば、「ff が aa で連続であること」と「lim⁡x→af(x)=f(a)\lim_{x\to a} f(x) = f(a) が成り立つこと」は同値です。一方 aa が AA の孤立点なら、Uδ(a)∩A={a}U_{\delta}(a) \cap A = \{a\} となる δ>0\delta>0 が取れるので、どんな ε\varepsilon に対してもその δ\delta が条件を満たし、ff は自動的に aa で連続です。連続性は「極限が存在すること」と「その極限値が f(a)f(a) であること」の合わせ技であり、f(a)f(a) の値そのものが問題になる点で極限とは別の概念です。

系 5.2(多項式関数と有理関数の連続性)✓

多項式関数 p(x)=c0+c1x+⋯+cnxnp(x) = c_0 + c_1 x + \cdots + c_n x^n(ck∈Rc_k \in \mathbb{R})は R\mathbb{R} 上連続である。また p,qp, q が多項式のとき、有理関数 p/qp/q は q(a)≠0q(a) \ne 0 なるすべての点 aa で連続である。

証明(系 5.2)

a∈Ra \in \mathbb{R} を固定する。定数関数 x↦cx \mapsto c は、任意の ε>0\varepsilon>0 に対し δ=1\delta = 1 と取れば ∣c−c∣=0<ε|c - c| = 0 < \varepsilon なので連続である。恒等関数 x↦xx \mapsto x は δ=ε\delta = \varepsilon と取れば ∣x−a∣<δ=ε|x - a| < \delta = \varepsilon なので連続である。aa は R\mathbb{R} の集積点だから、上で述べた同値により、これらは lim⁡x→ac=c\lim_{x\to a} c = c、lim⁡x→ax=a\lim_{x\to a} x = a と言い換えられる。

lim⁡x→axk=ak\lim_{x\to a} x^k = a^k を kk についての帰納法で示す。k=1k=1 は上で見た。kk で成り立つとすると、定理 4.2 の (3) を f(x)=xkf(x)=x^k、g(x)=xg(x)=x に適用して lim⁡x→axk+1=ak⋅a=ak+1\lim_{x\to a} x^{k+1} = a^k \cdot a = a^{k+1} を得る。よってすべての k∈Nk \in \mathbb{N} で成立する。

次に 定理 4.2 の (2) より lim⁡x→ackxk=ckak\lim_{x\to a} c_k x^k = c_k a^k であり、(1) を nn 回使えば lim⁡x→ap(x)=p(a)\lim_{x\to a} p(x) = p(a) となる。これは pp が aa で連続であることに他ならない。

有理関数については、q(a)≠0q(a) \ne 0 のとき 定理 4.2 の (4) を M=q(a)≠0M = q(a) \ne 0 として適用すれば、aa のある除外近傍で q≠0q \ne 0 であり lim⁡x→ap(x)/q(x)=p(a)/q(a)\lim_{x\to a} p(x)/q(x) = p(a)/q(a) となる。x=ax=a でも q(a)≠0q(a) \ne 0 なので p/qp/q は aa を含む近傍で定義され、aa で連続である。

定理 5.3(合成関数の連続性)✓

A,B⊆RA, B \subseteq \mathbb{R}、f:A→Rf : A \to \mathbb{R} は f(A)⊆Bf(A) \subseteq B を満たすとし、g:B→Rg : B \to \mathbb{R} とする。a∈Aa \in A で ff が連続、かつ b=f(a)∈Bb = f(a) \in B で gg が連続ならば、合成 g∘f:A→Rg \circ f : A \to \mathbb{R} は aa で連続である。

証明(定理 5.3)

ε>0\varepsilon>0 を任意に取る。gg が bb で連続だから、定義 5.1 により η>0\eta > 0 が存在して

y∈B, ∣y−b∣<η  ⟹  ∣g(y)−g(b)∣<εy \in B,\ |y - b| < \eta \implies |g(y) - g(b)| < \varepsilon

が成り立つ。次に ff が aa で連続だから、定義 5.1 をこの η\eta を「要求された精度」として適用すると、δ>0\delta>0 が存在して

x∈A, ∣x−a∣<δ  ⟹  ∣f(x)−f(a)∣=∣f(x)−b∣<ηx \in A,\ |x - a| < \delta \implies |f(x) - f(a)| = |f(x) - b| < \eta

が成り立つ。x∈Ax \in A、∣x−a∣<δ|x-a|<\delta とすると、f(x)∈f(A)⊆Bf(x) \in f(A) \subseteq B(仮定)かつ ∣f(x)−b∣<η|f(x)-b| < \eta なので、1 つ目の含意が y=f(x)y = f(x) に対して使えて

∣g(f(x))−g(f(a))∣<ε|g(f(x)) - g(f(a))| < \varepsilon

を得る。よって g∘fg \circ f は aa で連続である。

注意 5.4(極限版の合成は成り立たない)

定理 5.3 を「lim⁡x→af(x)=b\lim_{x\to a} f(x) = b かつ lim⁡y→bg(y)=c\lim_{y\to b} g(y) = c ならば lim⁡x→ag(f(x))=c\lim_{x\to a} g(f(x)) = c」と言い換えたくなりますが、これは偽です。反例を挙げます。f(x)=0f(x) = 0(すべての x∈Rx \in \mathbb{R})とし、

g(y)={1(y≠0)0(y=0)g(y) = \begin{cases} 1 & (y \ne 0) \\ 0 & (y = 0) \end{cases}

とします。ff は定数関数なので lim⁡x→0f(x)=0\lim_{x\to0} f(x) = 0 です。また 0<∣y−0∣<δ0 < |y-0| < \delta なる yy では g(y)=1g(y)=1 なので lim⁡y→0g(y)=1\lim_{y\to0} g(y) = 1 です。しかし g(f(x))=g(0)=0g(f(x)) = g(0) = 0 がすべての xx で成り立つので lim⁡x→0g(f(x))=0≠1\lim_{x\to0} g(f(x)) = 0 \ne 1 です。

原因ははっきりしています。極限の定義は y=by = b を検査から除外しているのに、ff は実際に値 bb を取ってしまうからです。連続性の定義は x=ax=a を除外しないので、この穴がありません。極限の形で合成を使いたいときは、外側の gg が bb で連続であることを仮定してください。

命題 5.5(ディリクレ関数はどの点でも不連続)✓

§1 で定義したディリクレ関数 DD について、すべての a∈Ra \in \mathbb{R} で lim⁡x→aD(x)\lim_{x\to a} D(x) は存在せず、したがって DD は aa で連続でない。

証明(命題 5.5)

まず、任意の実数 α<β\alpha < \beta に対して開区間 (α,β)(\alpha,\beta) が有理数と無理数を少なくとも 1 つずつ含むことを使う。有理数の存在は有理数の稠密性(命題 5.5[数とは何か])である。無理数については、有理数 r∈(α,β)r \in (\alpha,\beta) を取り、アルキメデスの原理により 2/n<β−r\sqrt{2}/n < \beta - r なる n∈Nn \in \mathbb{N} を取れば、r+2/n∈(r,β)⊆(α,β)r + \sqrt{2}/n \in (r,\beta) \subseteq (\alpha,\beta) であり、これは無理数である(有理数と無理数の和は無理数。もし r+2/nr + \sqrt2/n が有理数なら 2=n((r+2/n)−r)\sqrt2 = n\bigl((r+\sqrt2/n) - r\bigr) が有理数となり 2\sqrt2 の無理性に反する)。

さて a∈Ra \in \mathbb{R} を固定し、ある L∈RL \in \mathbb{R} が lim⁡x→aD(x)=L\lim_{x\to a} D(x) = L を満たすと仮定する。ε0=12>0\varepsilon_0 = \dfrac12 > 0 に対し 定義 3.1 から δ>0\delta>0 が取れて、0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\delta ならば ∣D(x)−L∣<12|D(x)-L| < \dfrac12 となる。

区間 (a, a+δ)(a,\ a+\delta) は上で述べたことから有理数 pp と無理数 qq を含む。どちらも a<p<a+δa < p < a+\delta、a<q<a+δa < q < a+\delta を満たすので 0<∣p−a∣<δ0 < |p - a| < \delta かつ 0<∣q−a∣<δ0 < |q-a| < \delta である。よって ∣D(p)−L∣<12|D(p)-L|<\dfrac12 かつ ∣D(q)−L∣<12|D(q)-L|<\dfrac12 である。ところが D(p)=1D(p)=1、D(q)=0D(q)=0 だから、三角不等式(§2)より

1=∣D(p)−D(q)∣≤∣D(p)−L∣+∣L−D(q)∣<12+12=11 = |D(p) - D(q)| \le |D(p)-L| + |L - D(q)| < \frac12 + \frac12 = 1

となって矛盾する。よってそのような LL は存在しない。aa は R\mathbb{R} の集積点だから、DD が aa で連続なら lim⁡x→aD(x)=D(a)\lim_{x\to a} D(x) = D(a) となって極限が存在してしまう。ゆえに DD は aa で連続でない。

次の例の方針です。トマエ関数は、分母が大きい有理数ほど値が小さくなります。そこで、aa の近くで値が ε\varepsilon 以上になる点、つまり分母が小さい有理数は有限個しかないことを示します。有限個なら、そのどれからも離れるように δ\delta を小さく取れるので、δ\delta の中の点の値はすべて ε\varepsilon 未満になります。なお既約表示とは、分子と分母に共通の約数が無い分数の形のことです。

例 5.6(トマエ関数:無理点でだけ連続な関数)

次の関数 t:R→Rt : \mathbb{R} \to \mathbb{R} を考えます。

t(x)={1q(x=pq, p∈Z, q∈N, gcd⁡(∣p∣,q)=1)0(x∉Q)t(x) = \begin{cases} \dfrac{1}{q} & \left(x = \dfrac{p}{q},\ p \in \mathbb{Z},\ q \in \mathbb{N},\ \gcd(|p|,q) = 1\right) \\ 0 & (x \notin \mathbb{Q}) \end{cases}

有理数の既約表示は分母を正に取れば一意なので、この定義に曖昧さはありません(たとえば t(0)=t(0/1)=1t(0) = t(0/1) = 1、t(1/2)=1/2t(1/2) = 1/2、t(2/4)=t(1/2)=1/2t(2/4) = t(1/2) = 1/2)。

主張:すべての a∈Ra \in \mathbb{R} について lim⁡x→at(x)=0\lim_{x \to a} t(x) = 0 です。

ε>0\varepsilon>0 を任意に取ります。アルキメデスの原理により 1N<ε\dfrac1N < \varepsilon なる N∈NN \in \mathbb{N} が存在します。ここで

S={ x∈(a−1, a+1):x=pq, p∈Z, q∈N, gcd⁡(∣p∣,q)=1, q≤N }S = \left\{\, x \in (a-1,\ a+1) : x = \frac{p}{q},\ p \in \mathbb{Z},\ q \in \mathbb{N},\ \gcd(|p|,q)=1,\ q \le N \,\right\}

とおきます。SS は有限集合です。実際、各 q∈{1,…,N}q \in \{1,\ldots,N\} に対し p/q∈(a−1,a+1)p/q \in (a-1,a+1) となる整数 pp は q(a−1)<p<q(a+1)q(a-1) < p < q(a+1) を満たします。この条件を満たす整数が mm 個あるとすると、そのうち最大のものと最小のものの差は m−1m-1 以上ですが、両者はともに長さ 2q2q の開区間に属するのでその差は 2q2q より小さく、m−1<2qm - 1 < 2q、すなわち m≤2q≤2Nm \le 2q \le 2N が従います。分母の候補 qq は NN 通りなので、SS の元は高々 2N22N^2 個です。

S∖{a}S \setminus \{a\} が空でないときは

δ=min⁡(1, min⁡s∈S∖{a}∣s−a∣)\delta = \min\Bigl(1,\ \min_{s \in S \setminus \{a\}} |s - a| \Bigr)

とおきます。S∖{a}S \setminus \{a\} は有限集合で、その各元 ss は s≠as \ne a すなわち ∣s−a∣>0|s-a|>0 を満たすので、有限個の正数の最小値として δ>0\delta > 0 です(ここで有限性が効いています)。S∖{a}S \setminus \{a\} が空のときは δ=1\delta = 1 とします。

0<∣x−a∣<δ0 < |x - a| < \delta とします。δ≤1\delta \le 1 より x∈(a−1,a+1)x \in (a-1,a+1) です。

  • xx が無理数なら ∣t(x)−0∣=0<ε|t(x) - 0| = 0 < \varepsilon です。
  • xx が有理数で既約表示が p/qp/q だとします。x≠ax \ne a かつ ∣x−a∣<δ|x-a| < \delta なので、δ\delta の取り方から x∉S∖{a}x \notin S \setminus \{a\}、したがって x∉Sx \notin S です。ところが x∈(a−1,a+1)x \in (a-1,a+1) ですから、SS の定義に照らして q≤Nq \le N ではあり得ません。ゆえに q>Nq > N であり、∣t(x)−0∣=1q<1N<ε|t(x)-0| = \dfrac1q < \dfrac1N < \varepsilon です。

いずれの場合も ∣t(x)−0∣<ε|t(x) - 0| < \varepsilon なので、定義 3.1 より lim⁡x→at(x)=0\lim_{x\to a} t(x) = 0 が示せました。

帰結。 aa が無理数なら t(a)=0=lim⁡x→at(x)t(a) = 0 = \lim_{x\to a} t(x) なので、§5 冒頭の同値により tt は aa で連続です。aa が有理数で既約表示 p/qp/q なら t(a)=1/q>0≠0=lim⁡x→at(x)t(a) = 1/q > 0 \ne 0 = \lim_{x\to a}t(x) なので tt は aa で不連続です。つまり tt は無理点でだけ連続です。

有理数は無理数の中に稠密に散らばっているので、この関数の挙動を絵で捉えることはできません。それでも 定義 3.1 は ε\varepsilon に対する δ\delta を具体的に構成し、白黒をはっきり付けました。ε-δ 論法の実用的な価値はここにあります。

連続関数には、極限の定義だけからは見えない「大域的」な性質があります。その代表が次の中間値の定理で、実数の連続性(上限の存在)が使われる典型的な場面です(ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を使う別証明は 連続関数と一様連続性 の 中間値の定理(定理 5.1)[連続関数と一様連続性] にあります)。

証明の方針は次のとおりです。f(x)<γf(x) < \gamma となる xx の集まりを考え、その上限(集まりのどの元以上でもある数のうち最小のもの)ss をとります。f(s)f(s) が γ\gamma より小さくても大きくても、ff の連続性から ss のすぐ近くで同じ大小関係が保たれ、ss が上限であることに反します。残るのは f(s)=γf(s) = \gamma だけです。

定理 5.7(中間値の定理)✓

a<ba < b とし、f:[a,b]→Rf : [a,b] \to \mathbb{R} を [a,b][a,b] 上の連続関数とします。f(a)f(a) と f(b)f(b) の間にある任意の実数 γ\gamma に対して、f(c)=γf(c) = \gamma を満たす c∈[a,b]c \in [a,b] が存在します。

証明(定理 5.7)

f(a)<γ<f(b)f(a) < \gamma < f(b) の場合を示せば十分です(f(a)>γ>f(b)f(a) > \gamma > f(b) の場合は −f-f と −γ-\gamma に適用し、γ=f(a)\gamma = f(a) または γ=f(b)\gamma = f(b) の場合は cc として端点を取ります)。

S={ x∈[a,b]:f(x)<γ }S = \{\, x \in [a,b] : f(x) < \gamma \,\} とおきます。a∈Sa \in S で、SS は bb で上に有界なので、連続性公理(公理 5.1)[数とは何か] により s=sup⁡Ss = \sup S が存在し、a≤s≤ba \le s \le b です。f(s)=γf(s) = \gamma を示します。

f(s)<γf(s) < \gamma と仮定します。f(b)>γf(b) > \gamma なので s≠bs \ne b です。ff は ss で連続だから、ε=γ−f(s)>0\varepsilon = \gamma - f(s) > 0 に対する δ>0\delta > 0 が取れて、x∈[a,b]x \in [a,b]、∣x−s∣<δ|x - s| < \delta ならば f(x)<f(s)+ε=γf(x) < f(s) + \varepsilon = \gamma となります。s<bs < b なので s<x<min⁡{s+δ, b}s < x < \min\{s + \delta,\ b\} を満たす xx が取れ、この xx は SS に属して ss より大きいので、ss が SS の上界であることに反します。

f(s)>γf(s) > \gamma と仮定します。f(a)<γf(a) < \gamma なので s≠as \ne a です。ff は ss で連続だから、ε=f(s)−γ>0\varepsilon = f(s) - \gamma > 0 に対する δ>0\delta > 0 が取れて、x∈[a,b]x \in [a,b]、∣x−s∣<δ|x - s| < \delta ならば f(x)>γf(x) > \gamma となります。s=sup⁡Ss = \sup S より SS の元 x0x_0 で s−δ<x0≤ss - \delta < x_0 \le s となるものがありますが、∣x0−s∣<δ|x_0 - s| < \delta だから f(x0)>γf(x_0) > \gamma で、x0∈Sx_0 \in S に反します。

よって f(s)=γf(s) = \gamma で、c=sc = s が求める点です。

実数の連続性が本質的であることは、有理数の世界で考えると分かります。f(x)=x2−2f(x) = x^2 - 2 を Q\mathbb{Q} 上の関数と見ると、f(0)=−2<0<2=f(2)f(0) = -2 < 0 < 2 = f(2) ですが、f(c)=0f(c) = 0 を満たす有理数 cc は存在しません(√2 の無理性(命題 4.2)[数とは何か])。最大値・最小値の定理(平均値の定理とテイラーの定理 の 最大値・最小値の定理(定理 2.3)[平均値の定理とテイラーの定理])やハイネ・カントールの定理(注意 6.3)も、同じく連続性公理に支えられた有界閉区間上の連続関数の性質です。

6. 量化子の順序をもう一度:一様連続性

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例 3.4 で見たように、連続性の δ\delta は ε\varepsilon だけでなく点 aa にも依存してかまいません。「aa によらない δ\delta が取れる」ことを要求すると、別の概念になります。

定義 6.1(一様連続性)↗

A⊆RA \subseteq \mathbb{R}、f:A→Rf : A \to \mathbb{R} とする。

∀ε>0, ∃δ>0, ∀x∈A, ∀y∈A,∣x−y∣<δ  ⟹  ∣f(x)−f(y)∣<ε\forall \varepsilon>0,\ \exists \delta>0,\ \forall x \in A,\ \forall y \in A,\quad |x - y| < \delta \implies |f(x)-f(y)| < \varepsilon

が成り立つとき、ff は AA 上一様連続であるという。

2 つの概念の違いは、量化子の位置だけです。

概念論理式の骨格δ\delta が依存してよいもの
AA 上の各点で連続∀ε ∀a∈A ∃δ ∀x∈A\forall \varepsilon\ \forall a \in A\ \exists \delta\ \forall x \in Aε\varepsilon と aa
AA 上で一様連続∀ε ∃δ ∀a∈A ∀x∈A\forall \varepsilon\ \exists \delta\ \forall a \in A\ \forall x \in Aε\varepsilon のみ

∃δ\exists \delta が ∀a\forall a の左にあるか右にあるか、それだけの違いです。定義上、一様連続ならば各点で連続です(一様連続の δ\delta をそのまま各点で使えばよい)。逆は成り立ちません。

例 6.2(連続だが一様連続でない関数)

A=(0,1]A = (0,1] 上で f(x)=1xf(x) = \dfrac1x とします。

連続であること。 x↦1x \mapsto 1 と x↦xx \mapsto x は多項式関数なので、系 5.2 より f=1/xf = 1/x は x≠0x \ne 0 なるすべての点で連続です。とくに AA の各点で連続です。

一様連続でないこと。 定義 6.1 の否定は「ある ε0>0\varepsilon_0>0 が存在して、どんな δ>0\delta>0 に対しても、∣x−y∣<δ|x-y|<\delta かつ ∣f(x)−f(y)∣≥ε0|f(x)-f(y)| \ge \varepsilon_0 を満たす x,y∈Ax, y \in A が存在する」です。ε0=1\varepsilon_0 = 1 とします。δ>0\delta>0 を任意に取り、アルキメデスの原理により 1n<δ\dfrac1n < \delta なる n∈Nn \in \mathbb{N} を選び、

x=12n,y=1nx = \frac{1}{2n},\qquad y = \frac1n

とおきます。n≥1n \ge 1 より x,y∈(0,1]x, y \in (0,1] です。このとき

∣x−y∣=∣12n−1n∣=12n<1n<δ,∣f(x)−f(y)∣=∣2n−n∣=n≥1=ε0|x - y| = \left|\frac{1}{2n} - \frac1n\right| = \frac{1}{2n} < \frac1n < \delta, \qquad |f(x) - f(y)| = |2n - n| = n \ge 1 = \varepsilon_0

となります。よってどんな δ\delta も条件を満たさず、ff は (0,1](0,1] 上一様連続ではありません。

直感的には、00 に近づくほどグラフが急峻になり、同じ ε\varepsilon を守るために必要な δ\delta がいくらでも小さくなってしまう、ということです。各点では正の δ\delta が取れても、それらに正の下限がありません。

注意 6.3(有界閉区間ではこの差が消える)

有界閉区間 [α,β][\alpha,\beta] 上の連続関数は必ず一様連続です(ハイネ・カントールの定理)。例 6.2 の (0,1](0,1] が閉区間でないことが本質的でした。この定理の証明には実数の完備性(ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理やハイネ・ボレルの被覆定理)が必要で、本記事の範囲を超えます。証明は 連続関数と一様連続性 の ハイネ・カントールの定理(定理 7.1)[連続関数と一様連続性]、杉浦『解析入門 I』第 I 章、または Rudin, Principles of Mathematical Analysis, Chapter 4 を参照してください。この定理は、連続関数がリーマン積分可能であることの証明で本質的に使われます(積分の基本定理と定積分 の 連続関数の可積分性(定理 3.5)[積分の基本定理と定積分])。

演習 7.1易

定義(定義 3.1)に従って lim⁡x→3(5x−2)=13\lim_{x\to3}(5x - 2) = 13 を証明してください。

解答

ε>0\varepsilon>0 を任意に取り、δ=ε5>0\delta = \dfrac{\varepsilon}{5} > 0 とおきます。0<∣x−3∣<δ0 < |x - 3| < \delta を満たす任意の実数 xx に対して

∣(5x−2)−13∣=∣5x−15∣=5∣x−3∣<5δ=5⋅ε5=ε|(5x-2) - 13| = |5x - 15| = 5|x-3| < 5\delta = 5 \cdot \frac{\varepsilon}{5} = \varepsilon

が成り立ちます。ε>0\varepsilon>0 は任意だったので、定義 3.1 より lim⁡x→3(5x−2)=13\lim_{x\to3}(5x-2) = 13 です。

演習 7.2標準

定義に従って lim⁡x→21x=12\lim_{x\to2} \dfrac1x = \dfrac12 を証明してください(定理 4.2 の (4) を使わずに、δ\delta を明示的に構成してください)。

解答

まず変形します。x≠0x \ne 0 のとき

∣1x−12∣=∣2−x2x∣=∣x−2∣2∣x∣\left|\frac1x - \frac12\right| = \left|\frac{2 - x}{2x}\right| = \frac{|x-2|}{2|x|}

です。分母の ∣x∣|x| を下から抑えるため、∣x−2∣<1|x-2|<1 と制限します。このとき 1<x<31 < x < 3 なので ∣x∣=x>1|x| = x > 1、したがって 12∣x∣<12\dfrac{1}{2|x|} < \dfrac12 となり

∣1x−12∣<∣x−2∣2\left|\frac1x - \frac12\right| < \frac{|x-2|}{2}

を得ます。これが ε\varepsilon 未満になるには ∣x−2∣<2ε|x-2| < 2\varepsilon で十分です。

証明。 ε>0\varepsilon>0 を任意に取り、δ=min⁡(1, 2ε)>0\delta = \min(1,\ 2\varepsilon) > 0 とおきます。0<∣x−2∣<δ0 < |x-2| < \delta とすると、∣x−2∣<1|x-2|<1 より 1<x<31 < x < 3 で、とくに x≠0x \ne 0 なので 1/x1/x が定義され、上の評価から

∣1x−12∣=∣x−2∣2∣x∣<∣x−2∣2<2ε2=ε\left|\frac1x - \frac12\right| = \frac{|x-2|}{2|x|} < \frac{|x-2|}{2} < \frac{2\varepsilon}{2} = \varepsilon

が成り立ちます。よって lim⁡x→21x=12\lim_{x\to2} \dfrac1x = \dfrac12 です。

演習 7.3標準

A=R∖{0}A = \mathbb{R}\setminus\{0\} 上の関数 s(x)=sin⁡1xs(x) = \sin\dfrac1x は x→0x \to 0 で極限を持たないことを示してください。

解答

定理 4.5 を使います。L∈RL \in \mathbb{R} が lim⁡x→0s(x)=L\lim_{x\to0} s(x) = L を満たすと仮定します。

xn=12πnx_n = \dfrac{1}{2\pi n}、yn=12πn+π/2y_n = \dfrac{1}{2\pi n + \pi/2}(n∈Nn \in \mathbb{N})とおくと、いずれも AA の元で 00 ではなく、0<xn<1n0 < x_n < \dfrac1n、0<yn<1n0 < y_n < \dfrac1n からアルキメデスの原理により xn→0x_n \to 0、yn→0y_n \to 0 です。

s(xn)=sin⁡(2πn)=0s(x_n) = \sin(2\pi n) = 0 なので (s(xn))(s(x_n)) は定数列 00 であり 00 に収束します。s(yn)=sin⁡(2πn+π2)=1s(y_n) = \sin\left(2\pi n + \dfrac{\pi}{2}\right) = 1 なので (s(yn))(s(y_n)) は定数列 11 であり 11 に収束します。

定理 4.5 の (1) から (2) により、どちらの数列についても極限は LL でなければなりません。数列の極限は一意(定理 3.5 と同じ論法で示せます)なので L=0L = 0 かつ L=1L = 1 となり、0=10 = 1 という矛盾を得ます。よってそのような LL は存在せず、lim⁡x→0sin⁡1x\lim_{x\to0}\sin\dfrac1x は存在しません。

例 4.4 の xsin⁡1xx\sin\dfrac1x との違いは振幅です。xx を掛けると振幅が 00 に押しつぶされて収束しますが、ss 自身は 00 の近くで 00 と 11 を何度でも取り続けます。

演習 7.4難

f(x)=x2f(x) = x^2 は R\mathbb{R} 上連続であるが、R\mathbb{R} 上一様連続ではないことを示してください。

解答

連続性。 a∈Ra \in \mathbb{R} を固定し、ε>0\varepsilon>0 を任意に取ります。δ=min⁡(1, ε1+2∣a∣)>0\delta = \min\left(1,\ \dfrac{\varepsilon}{1 + 2|a|}\right) > 0 とおきます。∣x−a∣<δ|x - a| < \delta とすると、∣x−a∣<1|x-a| < 1 と三角不等式(§2)から

∣x+a∣=∣(x−a)+2a∣≤∣x−a∣+2∣a∣<1+2∣a∣|x + a| = |(x - a) + 2a| \le |x-a| + 2|a| < 1 + 2|a|

となるので、

∣x2−a2∣=∣x−a∣ ∣x+a∣<ε1+2∣a∣⋅(1+2∣a∣)=ε|x^2 - a^2| = |x-a|\,|x+a| < \frac{\varepsilon}{1+2|a|}\cdot(1 + 2|a|) = \varepsilon

です。よって 定義 5.1 より ff は aa で連続で、aa は任意だったので R\mathbb{R} 上連続です(系 5.2 の特別な場合でもあります)。

一様連続でないこと。 ε0=1\varepsilon_0 = 1 とします。δ>0\delta>0 を任意に取り、

x=1δ+δ2,y=1δx = \frac{1}{\delta} + \frac{\delta}{2}, \qquad y = \frac1\delta

とおきます。このとき ∣x−y∣=δ2<δ|x - y| = \dfrac{\delta}{2} < \delta ですが、

∣x2−y2∣=∣x−y∣ ∣x+y∣=δ2(2δ+δ2)=1+δ24>1=ε0|x^2 - y^2| = |x-y|\,|x+y| = \frac{\delta}{2}\left(\frac2\delta + \frac{\delta}{2}\right) = 1 + \frac{\delta^2}{4} > 1 = \varepsilon_0

となります。したがって、どんな δ>0\delta>0 に対しても ∣x−y∣<δ|x-y|<\delta かつ ∣f(x)−f(y)∣≥ε0|f(x)-f(y)| \ge \varepsilon_0 となる x,y∈Rx,y \in \mathbb{R} が存在するので、定義 6.1 は成り立ちません。

ここでも、∣x∣|x| が大きい場所ほど傾きが急になり、同じ ε\varepsilon を守る δ\delta がいくらでも小さくなることが原因です。例 3.4 で δ=min⁡(1,ε/(2∣a∣+1))\delta = \min(1, \varepsilon/(2|a|+1)) と aa に依存する δ\delta しか作れなかったことに、すでに兆候が現れていました。なお定義域を有界閉区間 [−R,R][-R,R] に制限すれば δ=min⁡(1,ε/(1+2R))\delta = \min(1, \varepsilon/(1+2R)) が aa によらず使えるので、そこでは一様連続になります(注意 6.3 とも整合します)。

  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 第 I 章。実数の連続性から連続関数の性質までを扱う章で、ε-δ 論法の標準的な運用と一様連続性が詳しく書かれています。
  • 高木貞治『解析概論』改訂第三版、岩波書店、1961 — 第 1 章。日本語の古典で、極限と連続性の導入部分は今でも読む価値があります。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 4 (Continuity)。距離空間の言葉で連続性を扱い、本記事の議論が一般化される様子が分かります。
  • S. Abbott, Understanding Analysis, 2nd ed., Springer, 2015 — Chapter 4 (Functional Limits and Continuity)。ディリクレ関数・トマエ関数を含む病的な例が豊富で、なぜ厳密化が必要かの説明が丁寧です。
  • 田島一郎『イプシロン・デルタ』共立出版(数学ワンポイント双書)、1978 — ε-δ 論法だけを扱った小冊子。量化子の順序に的を絞った解説です。
  • A.-L. Cauchy, Cours d’analyse de l’École Royale Polytechnique, 1821 — 極限を解析学の基礎に据えた歴史的原典。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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