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平成19年度 東大院 物理学専攻 修士 物理学 解答

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必答の3問は、交換関係だけから角運動量の固有値の量子化を導く第1問、スピン対のカノニカル分布を素直に計算する第2問、制限三体問題のラグランジュ点を誘導に沿って追う第3問です。いずれも到達すべき式が問題文に書かれているので、途中の変形を落とさずに閉じられるかが分かれ目になります。選択の3問は毛色が違い、実験装置の理解とグラフの読み取り、そして一桁の概算が正面から要求されます。

問題分野主題
第1問量子力学角運動量の交換関係と固有値の量子化
第2問統計力学スピン1/2系の磁化率と対相互作用
第3問解析力学制限三体問題とラグランジュ点
第4問原子核中性子の弾性散乱とシンチレーターの検出効率
第5問物性物理・熱力学低温比熱と超伝導の臨界磁場
第6問原子分子・量子光学水素原子の微細構造とラムシフト

第1問から第3問が全員解答、第4問から第6問のうち1問を選択する形式ですが、ここでは全問の解答を載せます。

第1問 角運動量の交換関係と固有値の量子化

Section titled “第1問 角運動量の交換関係と固有値の量子化”

軌道角運動量を古典論と同じ形 l=r×p\boldsymbol l=\boldsymbol r\times\boldsymbol p、すなわち lx=ypzzpyl_x=yp_z-zp_yly=zpxxpzl_y=zp_x-xp_zlz=xpyypxl_z=xp_y-yp_x で定義します。用いるのは正準交換関係

[xa,pb]=iδab,[xa,xb]=[pa,pb]=0(a,b=x,y,z)[x_a,p_b]=i\hbar\delta_{ab},\qquad [x_a,x_b]=[p_a,p_b]=0\qquad(a,b=x,y,z)

だけです。後半では、設問3で得た交換関係を満たすエルミート演算子の組 J=(Jx,Jy,Jz)\boldsymbol J=(J_x,J_y,J_z) を角運動量と呼び、A=JxiJyA=J_x-iJ_yB=Jx2+Jy2+Jz2B=J_x^2+J_y^2+J_z^2 とおきます。この力学系の力学変数は J\boldsymbol J だけです。

lz=xpyypxl_z=xp_y-yp_x で、xxxxpyp_y の両方と可換なので第1項は落ちて

[lz,x]=[ypx,x]=y[px,x]=iy[l_z,x]=-[yp_x,x]=-y[p_x,x]=i\hbar y

同様に

[lz,y]=[xpy,y]=x[py,y]=ix,[lz,z]=0[l_z,y]=[xp_y,y]=x[p_y,y]=-i\hbar x,\qquad [l_z,z]=0

答えは [lz,x]=iy[l_z,x]=i\hbar y[lz,y]=ix[l_z,y]=-i\hbar x[lz,z]=0[l_z,z]=0 です。ϵabc\epsilon_{abc} を完全反対称テンソルとすれば [la,xb]=icϵabcxc[l_a,x_b]=i\hbar\sum_c\epsilon_{abc}x_c とまとめられます。

同じ要領で、pp 同士は可換なことを使います。

[lz,px]=[xpy,px]=[x,px]py=ipy,[lz,py]=[ypx,py]=[y,py]px=ipx,[lz,pz]=0[l_z,p_x]=[xp_y,p_x]=[x,p_x]p_y=i\hbar p_y,\qquad [l_z,p_y]=-[yp_x,p_y]=-[y,p_y]p_x=-i\hbar p_x,\qquad [l_z,p_z]=0

答えは [lz,px]=ipy[l_z,p_x]=i\hbar p_y[lz,py]=ipx[l_z,p_y]=-i\hbar p_x[lz,pz]=0[l_z,p_z]=0 で、これも [la,pb]=icϵabcpc[l_a,p_b]=i\hbar\sum_c\epsilon_{abc}p_c と書けます。座標と運動量が同じ形の関係に従うのは、lzl_zzz 軸まわりの回転の生成子であり、ベクトルの成分を回すからです。

[ypz,xpz][yp_z,xp_z][zpy,zpx][zp_y,zp_x] は互いに可換な演算子の積なので0になり、残る2項だけを計算すれば足ります。

[lx,ly]=[ypzzpy, zpxxpz]=[ypz,zpx]+[zpy,xpz]=y[pz,z]px+xpy[z,pz]=iypx+ixpy=ilz\begin{aligned} [l_x,l_y]&=[yp_z-zp_y,\ zp_x-xp_z]=[yp_z,zp_x]+[zp_y,xp_z]\\ &=y[p_z,z]p_x+xp_y[z,p_z]\\ &=-i\hbar\,yp_x+i\hbar\,xp_y=i\hbar\,l_z \end{aligned}

添字の巡回置換で残りも同様に得られ、

[la,lb]=icϵabclc[l_a,l_b]=i\hbar\sum_c\epsilon_{abc}\,l_c

すなわち [lx,ly]=ilz[l_x,l_y]=i\hbar l_z[ly,lz]=ilx[l_y,l_z]=i\hbar l_x[lz,lx]=ily[l_z,l_x]=i\hbar l_y、同じ成分同士は0です。

Jx,JyJ_x,J_y はエルミートなので A=Jx+iJyA^\dagger=J_x+iJ_y です。[Jx,Jy]=iJz[J_x,J_y]=i\hbar J_z を使うと

AA=(Jx+iJy)(JxiJy)=Jx2+Jy2i[Jx,Jy]=Jx2+Jy2+JzAA=(JxiJy)(Jx+iJy)=Jx2+Jy2+i[Jx,Jy]=Jx2+Jy2Jz\begin{aligned} A^\dagger A&=(J_x+iJ_y)(J_x-iJ_y)=J_x^2+J_y^2-i[J_x,J_y]=J_x^2+J_y^2+\hbar J_z\\ AA^\dagger&=(J_x-iJ_y)(J_x+iJ_y)=J_x^2+J_y^2+i[J_x,J_y]=J_x^2+J_y^2-\hbar J_z \end{aligned}

Jx2+Jy2=BJz2J_x^2+J_y^2=B-J_z^2 なので、答えは

AA=BJz2+Jz=BJz(Jz),AA=BJz2Jz=BJz(Jz+)A^\dagger A=B-J_z^2+\hbar J_z=B-J_z(J_z-\hbar),\qquad AA^\dagger=B-J_z^2-\hbar J_z=B-J_z(J_z+\hbar)

です。

まず BBJzJ_z と可換であることを示します。

[Jx2,Jz]=Jx[Jx,Jz]+[Jx,Jz]Jx=i(JxJy+JyJx)[J_x^2,J_z]=J_x[J_x,J_z]+[J_x,J_z]J_x=-i\hbar\left(J_xJ_y+J_yJ_x\right) [Jy2,Jz]=Jy[Jy,Jz]+[Jy,Jz]Jy=+i(JyJx+JxJy)[J_y^2,J_z]=J_y[J_y,J_z]+[J_y,J_z]J_y=+i\hbar\left(J_yJ_x+J_xJ_y\right)

両者の和は0で、[Jz2,Jz]=0[J_z^2,J_z]=0 なので [B,Jz]=0[B,J_z]=0。添字の巡回置換から [B,Jx]=[B,Jy]=0[B,J_x]=[B,J_y]=0 も従い、BBJ\boldsymbol J の全成分と可換です。

この力学系の力学変数は J\boldsymbol J だけなので、系の任意の演算子は Jx,Jy,JzJ_x,J_y,J_z の関数として書けます。BB はそのすべてと可換ですから、系のあらゆる演算子と可換です。状態空間が既約であれば、そのような演算子は恒等演算子の定数倍しかありえず、BB は演算子としての働きを持たないただの数になります。具体的にも、設問6以降で扱う状態はすべて AAAA^\daggerΘz|\Theta_z\rangle に作用させて得られますが、BB はこれらと可換なのでその族の上で BB の値は共通です。

[Jz,A]=[Jz,Jx]i[Jz,Jy]=iJyi(iJx)=(JxiJy)=A[J_z,A]=[J_z,J_x]-i[J_z,J_y]=i\hbar J_y-i(-i\hbar J_x)=-\hbar(J_x-iJ_y)=-\hbar A

よって JzA=A(Jz)J_zA=A(J_z-\hbar) で、

Jz(AΘz)=A(Jz)Θz=(Θz)(AΘz)J_z\left(A|\Theta_z\rangle\right)=A(J_z-\hbar)|\Theta_z\rangle=(\Theta_z-\hbar)\left(A|\Theta_z\rangle\right)

AΘz0A|\Theta_z\rangle\neq0 ならこれは JzJ_z の固有状態で、固有値は Θz\Theta_z-\hbar です。AA は固有値を \hbar だけ下げる下降演算子ということになります。同じ計算で [Jz,A]=+A[J_z,A^\dagger]=+\hbar A^\dagger なので、AΘz0A^\dagger|\Theta_z\rangle\neq0 ならその固有値は Θz+\Theta_z+\hbar です。

Θz|\Theta_z\rangle を規格化しておきます。設問4の結果を固有状態に作用させると

ΘzAAΘz=BΘz2+Θz 0,ΘzAAΘz=BΘz2Θz 0\langle\Theta_z|A^\dagger A|\Theta_z\rangle=B-\Theta_z^2+\hbar\Theta_z\ \ge0,\qquad \langle\Theta_z|AA^\dagger|\Theta_z\rangle=B-\Theta_z^2-\hbar\Theta_z\ \ge0

ここで m=B+14212m=\sqrt{B+\frac14\hbar^2}-\frac12\hbarB+2/4=m+/2\sqrt{B+\hbar^2/4}=m+\hbar/2 を意味し、両辺を2乗すると B=m(m+)B=m(m+\hbar) です。これを使うと2つの2次式は因数分解できて

BΘz2+Θz=(Θz+m)(Θzm),BΘz2Θz=(Θzm)(Θz+m+)B-\Theta_z^2+\hbar\Theta_z=-(\Theta_z+m)(\Theta_z-m-\hbar),\qquad B-\Theta_z^2-\hbar\Theta_z=-(\Theta_z-m)(\Theta_z+m+\hbar)

B=Jx2+Jy2+Jz2B=\langle J_x^2+J_y^2+J_z^2\rangle はエルミート演算子の2乗の期待値の和なので B0B\ge0、したがって m0m\ge0 です。第1の不等式は (Θz+m)(Θzm)0(\Theta_z+m)(\Theta_z-m-\hbar)\le0、すなわち

mΘzm+-m\le\Theta_z\le m+\hbar

第2の不等式は (Θzm)(Θz+m+)0(\Theta_z-m)(\Theta_z+m+\hbar)\le0、すなわち

(m+)Θzm-(m+\hbar)\le\Theta_z\le m

両方を同時に満たす範囲が mΘzm-m\le\Theta_z\le m です。

AA を繰り返し作用させると固有値は \hbar ずつ下がりますが、設問7より下限 m-m があるので、いつまでも0にならないことはできません。したがって AkΘz0A^k|\Theta_z\rangle\neq0 かつ Ak+1Θz=0A^{k+1}|\Theta_z\rangle=0 となる整数 k0k\ge0 が存在します。Θmin=Θzk\Theta_{\min}=\Theta_z-k\hbarΘminAkΘz|\Theta_{\min}\rangle\propto A^k|\Theta_z\rangle とおくと、AΘmin=0A|\Theta_{\min}\rangle=0 より

0=ΘminAAΘmin  BΘmin2+Θmin=(Θmin+m)(Θminm)0=\langle\Theta_{\min}|A^\dagger A|\Theta_{\min}\rangle\ \propto\ B-\Theta_{\min}^2+\hbar\Theta_{\min}=-(\Theta_{\min}+m)(\Theta_{\min}-m-\hbar)

Θminm<m+\Theta_{\min}\le m<m+\hbar なので後ろの因子は0になれず、Θmin=m\Theta_{\min}=-m です。同様に AA^\dagger を繰り返すと上限 mm で止まり、AlΘz0A^{\dagger l}|\Theta_z\rangle\neq0A(l+1)Θz=0A^{\dagger(l+1)}|\Theta_z\rangle=0 となる l0l\ge0 について Θmax=Θz+l\Theta_{\max}=\Theta_z+l\hbarBΘmax2Θmax=0B-\Theta_{\max}^2-\hbar\Theta_{\max}=0 を満たし、Θmaxm>(m+)\Theta_{\max}\ge-m>-(m+\hbar) より Θmax=m\Theta_{\max}=m です。

固有値は Θmin=m\Theta_{\min}=-m から Θmax=m\Theta_{\max}=m まで \hbar 刻みで並ぶので

ΘmaxΘmin=2m=(k+l)n(n=0,1,2,)\Theta_{\max}-\Theta_{\min}=2m=(k+l)\hbar\equiv n\hbar\qquad(n=0,1,2,\dots)

したがって m=n2m=\dfrac n2\hbar です。nn が偶数なら mm\hbar の整数倍、nn が奇数なら半整数倍で、これが示すべきことでした。m=jm=j\hbar と書けば B=m(m+)=j(j+1)2B=m(m+\hbar)=j(j+1)\hbar^2 となり、jj が整数または半整数という見慣れた形になります。

第2問 スピン1/2系の磁化率と対相互作用

Section titled “第2問 スピン1/2系の磁化率と対相互作用”

スピン1/2の粒子はゼーマン効果で μH-\mu H+μH+\mu H の2準位に分裂します。前半は相互作用のない NN 粒子系、後半は N/2N/2 組の対を作り、対の内部だけにスピンの内積に比例する相互作用が働く場合を、いずれもカノニカル分布で扱います。1組のハミルトニアンは

H=Vs1s22μ(s1z+s2z)H\mathcal H=V\boldsymbol s_1\cdot\boldsymbol s_2-2\mu(s_{1z}+s_{2z})H

です。以下ではスピン演算子を無次元にとり siz=±12s_{iz}=\pm\frac12 と解釈します。この規約のとき1粒子のゼーマン項 2μszH-2\mu s_zH が前半の μH\mp\mu H と一致し、問題文の設定と整合するからです。β=(kBT)1\beta=(k_BT)^{-1} を使います。

1粒子の分割関数は z=eβμH+eβμH=2cosh(βμH)z=e^{\beta\mu H}+e^{-\beta\mu H}=2\cosh(\beta\mu H) で、粒子は独立なので Z=zNZ=z^N

F=kBTlnZ=NkBTln[2cosh(βμH)]F=-k_BT\ln Z=-Nk_BT\ln\left[2\cosh(\beta\mu H)\right]

H=0H=0F=NkBTln2F=-Nk_BT\ln2、つまり2状態の混合エントロピー NkBln2Nk_B\ln2 に対応する値になります。

M=FH=NkBTβμ2sinh(βμH)2cosh(βμH)=Nμtanh(βμH)M=-\frac{\partial F}{\partial H}=Nk_BT\cdot\frac{\beta\mu\cdot2\sinh(\beta\mu H)}{2\cosh(\beta\mu H)}=N\mu\tanh(\beta\mu H) χ=MH=Nμ2kBT1cosh2(βμH)  H0  χ=Nμ2kBT\chi=\frac{\partial M}{\partial H}=\frac{N\mu^2}{k_BT}\frac{1}{\cosh^2(\beta\mu H)}\ \xrightarrow{\ H\to0\ }\ \chi=\frac{N\mu^2}{k_BT}

キュリー則です。μH\mu H がエネルギーなので μ\mu は(エネルギー / 磁場)の次元を持ち、Nμ2/(kBT)N\mu^2/(k_BT) は(磁化 / 磁場)の次元になっていて整合します。

S=s1+s2\boldsymbol S=\boldsymbol s_1+\boldsymbol s_2 とすると

s1s2=12[S(S+1)3434]={  14(S=1)34(S=0)\boldsymbol s_1\cdot\boldsymbol s_2=\frac12\left[S(S+1)-\frac34-\frac34\right]= \begin{cases} \ \ \dfrac14 & (S=1)\\[4pt] -\dfrac34 & (S=0) \end{cases}

また s1z+s2z=Szs_{1z}+s_{2z}=S_z で、H\mathcal HS2\boldsymbol S^2SzS_z の同時固有状態の上で対角です。固有値は S=0S=0 の一重項1個と S=1S=1 の三重項3個の合計4個で

ES=0=34V,ES=1,M=14V2μMH(M=1,0,1)E_{S=0}=-\frac34V,\qquad E_{S=1,M}=\frac14V-2\mu MH\quad(M=1,0,-1)

すなわち 34V-\frac34V14V2μH\frac14V-2\mu H14V\frac14V14V+2μH\frac14V+2\mu H です。V>0V>0 なら一重項、V<0V<0 なら三重項が下になります。

1組の分割関数は

z2=e3βV/4+eβV/4[e2βμH+1+e2βμH]=eβV/4[eβV+1+2cosh(2βμH)]z_2=e^{3\beta V/4}+e^{-\beta V/4}\left[e^{2\beta\mu H}+1+e^{-2\beta\mu H}\right]=e^{-\beta V/4}\left[e^{\beta V}+1+2\cosh(2\beta\mu H)\right]

対どうしは独立で N/2N/2 組あるので Z=z2N/2Z=z_2^{N/2}

F=N2kBTlnz2=NV8N2kBTln[eβV+1+2cosh(2βμH)]F=-\frac N2k_BT\ln z_2=\frac{NV}{8}-\frac N2k_BT\ln\left[e^{\beta V}+1+2\cosh(2\beta\mu H)\right]

V=0V=0 とおくと括弧の中は 2+2cosh(2βμH)=4cosh2(βμH)2+2\cosh(2\beta\mu H)=4\cosh^2(\beta\mu H) になり、設問1の FF に戻ります。

M=FH=2Nμsinh(2βμH)eβV+1+2cosh(2βμH)M=-\frac{\partial F}{\partial H}=\frac{2N\mu\sinh(2\beta\mu H)}{e^{\beta V}+1+2\cosh(2\beta\mu H)}

H0H\to0 では sinh(2βμH)2βμH\sinh(2\beta\mu H)\simeq2\beta\mu Hcosh(2βμH)1\cosh(2\beta\mu H)\simeq1 なので

χ=4Nμ2βeβV+3=4Nμ2kBT(eV/kBT+3)\chi=\frac{4N\mu^2\beta}{e^{\beta V}+3}=\frac{4N\mu^2}{k_BT\left(e^{V/k_BT}+3\right)}

V=0V=0 とすると分母の括弧が4になり χ=Nμ2/(kBT)\chi=N\mu^2/(k_BT)、設問2と一致します。

V>0V>0 のとき低温では eβV3e^{\beta V}\gg3 なので

χ4Nμ2kBTeV/kBT  0\chi\simeq\frac{4N\mu^2}{k_BT}\,e^{-V/k_BT}\ \longrightarrow\ 0

V<0V<0 のとき低温では eβV=eV/kBT0e^{\beta V}=e^{-|V|/k_BT}\to0 なので

χ4Nμ23kBT  \chi\simeq\frac{4N\mu^2}{3k_BT}\ \longrightarrow\ \infty

定性的に異なる理由は、対の基底状態が磁気モーメントを持つかどうかです。V>0V>0 では基底状態が S=0S=0 の一重項で、全スピンが0だから磁場にまったく応答できません。モーメントを持つ三重項はエネルギー VV だけ上にあるので、その熱励起確率 eV/kBTe^{-V/k_BT} の分しか磁化率が残らず、低温で指数関数的に消えます。スピンギャップが開いた状況です。V<0V<0 では基底状態が3重に縮退した S=1S=1 の三重項で、大きさ 2μ2\mu のモーメントがそのまま残るのでキュリー則が生き延び、χ1/T\chi\propto1/T で発散します。係数の 4/34/3S=1S=1Sz2=2/3\langle S_z^2\rangle=2/3 から来ており、N2(2μ)2kBT23=4Nμ23kBT\frac N2\cdot\frac{(2\mu)^2}{k_BT}\cdot\frac23=\frac{4N\mu^2}{3k_BT} と直接計算しても一致します。相互作用のない場合の Nμ2/(kBT)N\mu^2/(k_BT) より 4/34/3 倍大きいのは、対の2つのスピンが揃って1つの大きなモーメントとして応答するためです。

第3問 制限三体問題とラグランジュ点

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質量 m1m_1 の太陽と m2m_2 の地球が、離心率0の円軌道でケプラー運動しています。重心を原点とする慣性系 SS(座標 (ξ,η)(\xi,\eta))と、角速度 ω\omega で回る回転系 SS'(座標 (x,y)(x,y))を考えます。SS' では太陽が P1=(μ2a,0)P_1=(-\mu_2a,0)、地球が P2=(μ1a,0)P_2=(\mu_1a,0) に静止し、μ1+μ2=1\mu_1+\mu_2=1G(m1+m2)=ω2a3G(m_1+m_2)=\omega^2a^3 です。この2つから

Gm1=μ1ω2a3,Gm2=μ2ω2a3Gm_1=\mu_1\omega^2a^3,\qquad Gm_2=\mu_2\omega^2a^3

が従い、以下で繰り返し使います。図1より SS'xx 軸は SSξ\xi 軸から角 ωt\omega t だけ回った向きです。

原点を共有し角 ωt\omega t だけ回った直交座標系なので

ξ=xcosωtysinωt,η=xsinωt+ycosωt\xi=x\cos\omega t-y\sin\omega t,\qquad \eta=x\sin\omega t+y\cos\omega t

複素座標 ζ=ξ+iη\zeta=\xi+i\eta を使うと設問1は ζ=(x+iy)eiωt\zeta=(x+iy)e^{i\omega t} と書けます。微分して

ζ˙=[(x˙ωy)+i(y˙+ωx)]eiωt\dot\zeta=\left[(\dot x-\omega y)+i(\dot y+\omega x)\right]e^{i\omega t}

eiωt=1|e^{i\omega t}|=1 なので

ξ˙2+η˙2=ζ˙2=(x˙ωy)2+(y˙+ωx)2=x˙2+y˙2+ω2(x2+y2)+2ω(xy˙x˙y)\dot\xi^2+\dot\eta^2=|\dot\zeta|^2=(\dot x-\omega y)^2+(\dot y+\omega x)^2=\dot x^2+\dot y^2+\omega^2(x^2+y^2)+2\omega(x\dot y-\dot xy)

質量 mm を掛けて2で割れば、(3) の第1項から第3項が出ます。第4項は重力ポテンシャルです。SS' では太陽と地球は P1,P2P_1,P_2 に静止していて、距離は回転で変わらないので、mm に働く重力のポテンシャルは

U=Gm(m1r1+m2r2),r1=(x+μ2a)2+y2,r2=(xμ1a)2+y2U=-Gm\left(\frac{m_1}{r_1}+\frac{m_2}{r_2}\right),\qquad r_1=\sqrt{(x+\mu_2a)^2+y^2},\quad r_2=\sqrt{(x-\mu_1a)^2+y^2}

です。L=TU\mathcal L=T-U より (3) が示されました。mm1,m2m\ll m_1,m_2 としたので、mmP1,P2P_1,P_2 の運動に及ぼす反作用は無視しています。なお SS' は非慣性系ですが、慣性系での運動エネルギーを座標変換しただけなのでラグランジアンとしては正しく、遠心力とコリオリ力は上の第2項と第3項に含まれています。

xx について

Lx˙=m(x˙ωy),Lx=mω2x+mωy˙Gm[m1(x+μ2a)r13+m2(xμ1a)r23]\frac{\partial\mathcal L}{\partial\dot x}=m(\dot x-\omega y),\qquad \frac{\partial\mathcal L}{\partial x}=m\omega^2x+m\omega\dot y-Gm\left[\frac{m_1(x+\mu_2a)}{r_1^{3}}+\frac{m_2(x-\mu_1a)}{r_2^{3}}\right]

なので、オイラー・ラグランジュ方程式は

x¨2ωy˙=ω2xG[m1(x+μ2a)r13+m2(xμ1a)r23]\ddot x-2\omega\dot y=\omega^2x-G\left[\frac{m_1(x+\mu_2a)}{r_1^{3}}+\frac{m_2(x-\mu_1a)}{r_2^{3}}\right]

yy については L/y˙=m(y˙+ωx)\partial\mathcal L/\partial\dot y=m(\dot y+\omega x)L/y=mω2ymωx˙Gmy[m1/r13+m2/r23]\partial\mathcal L/\partial y=m\omega^2y-m\omega\dot x-Gmy\left[m_1/r_1^3+m_2/r_2^3\right] より

y¨+2ωx˙=ω2yGy[m1r13+m2r23]\ddot y+2\omega\dot x=\omega^2y-Gy\left[\frac{m_1}{r_1^{3}}+\frac{m_2}{r_2^{3}}\right]

左辺の 2ωy˙-2\omega\dot y+2ωx˙+2\omega\dot x がコリオリ力、右辺の ω2x\omega^2xω2y\omega^2y が遠心力に対応します。

ラグランジュ点では y¨=x˙=0\ddot y=\dot x=0 なので、yy 成分の式は

0=ω2yGy[m1r13+m2r23]=ω2y[1μ1(ar1)3μ2(ar2)3]0=\omega^2y-Gy\left[\frac{m_1}{r_1^{3}}+\frac{m_2}{r_2^{3}}\right] =\omega^2y\left[1-\mu_1\left(\frac{a}{r_1}\right)^{3}-\mu_2\left(\frac{a}{r_2}\right)^{3}\right]

となります。2行目では Gm1=μ1ω2a3Gm_1=\mu_1\omega^2a^3Gm2=μ2ω2a3Gm_2=\mu_2\omega^2a^3 を代入しました。ω0\omega\neq0 なので、積が0であることから y=0y=0 か、または

μ1(ar1)3+μ2(ar2)3=1\mu_1\left(\frac{a}{r_1}\right)^{3}+\mu_2\left(\frac{a}{r_2}\right)^{3}=1

のいずれかが成り立ちます。

L2L_2 点は y=0y=0 で、地球 P2P_2 から見て太陽の反対側、つまり x>μ1ax>\mu_1a にあります。よって r2=xμ1a>0r_2=x-\mu_1a>0x=μ1a+r2x=\mu_1a+r_2 で、μ1+μ2=1\mu_1+\mu_2=1 を使うと

r1=x+μ2a=(μ1+μ2)a+r2=a+r2r_1=x+\mu_2a=(\mu_1+\mu_2)a+r_2=a+r_2

です。xx 成分の運動方程式に x¨=y˙=0\ddot x=\dot y=0y=0y=0 を入れ、Gmi=μiω2a3Gm_i=\mu_i\omega^2a^3 を代入すると

ω2(μ1a+r2)=μ1ω2a3(a+r2)2+μ2ω2a3r22\omega^2(\mu_1a+r_2)=\frac{\mu_1\omega^2a^3}{(a+r_2)^2}+\frac{\mu_2\omega^2a^3}{r_2^2}

両辺を ω2a\omega^2a で割り u=r2/au=r_2/a とおけば

μ1+u=μ1(1+u)2+μ2u2\mu_1+u=\frac{\mu_1}{(1+u)^2}+\frac{\mu_2}{u^2}

1(1+u)2=u(2+u)/(1+u)21-(1+u)^{-2}=u(2+u)/(1+u)^2 を使って μ2\mu_2 について解くと

μ2=u3[μ1(2+u)(1+u)2+1]μ2(1+u)2=u3[μ1(2+u)+(1+u)2]\mu_2=u^3\left[\frac{\mu_1(2+u)}{(1+u)^2}+1\right] \quad\Longleftrightarrow\quad \mu_2(1+u)^2=u^3\left[\mu_1(2+u)+(1+u)^2\right]

ここで μ2=1μ1\mu_2=1-\mu_1 を代入して μ1\mu_1 について整理します。

(1μ1)(1+u)2=μ1u3(2+u)+u3(1+u)2(1+u)2(1u3)=μ1[(1+u)2+u3(2+u)]=μ1[1+2u+u2+2u3+u4]\begin{aligned} (1-\mu_1)(1+u)^2&=\mu_1u^3(2+u)+u^3(1+u)^2\\ (1+u)^2(1-u^3)&=\mu_1\left[(1+u)^2+u^3(2+u)\right]=\mu_1\left[1+2u+u^2+2u^3+u^4\right] \end{aligned}

よって

μ1=(1+u)2(1u3)1+2u+u2+2u3+u4,μ2=1μ1=(1+2u+u2+2u3+u4)(1+u)2(1u3)1+2u+u2+2u3+u4\mu_1=\frac{(1+u)^2(1-u^3)}{1+2u+u^2+2u^3+u^4},\qquad \mu_2=1-\mu_1=\frac{\left(1+2u+u^2+2u^3+u^4\right)-(1+u)^2(1-u^3)}{1+2u+u^2+2u^3+u^4}

分子は (1+u)2(1u3)=1+2u+u2u32u4u5(1+u)^2(1-u^3)=1+2u+u^2-u^3-2u^4-u^5 を使って 3u3+3u4+u5=u3(3+3u+u2)3u^3+3u^4+u^5=u^3(3+3u+u^2) になります。比を取ると分母が消えて

μ2μ1=u3(3+3u+u2)(1+u)2(1u3)=3u3(1+u)21+u+u2/31u3\frac{\mu_2}{\mu_1}=\frac{u^3\left(3+3u+u^2\right)}{(1+u)^2(1-u^3)}=\frac{3u^3}{(1+u)^2}\cdot\frac{1+u+u^2/3}{1-u^3}

これが (7) です。

u1u\ll1 では (1+u)21(1+u)^{-2}\to1(1+u+u2/3)1(1+u+u^2/3)\to1(1u3)11(1-u^3)^{-1}\to1 なので (7) は μ2/μ13u3\mu_2/\mu_1\simeq3u^3 になり

u(μ23μ1)1/3u\simeq\left(\frac{\mu_2}{3\mu_1}\right)^{1/3}

これが最低次の答えです。太陽と地球では μ2/μ1=3×106\mu_2/\mu_1=3\times10^{-6} なので

u(106)1/3=1.0×102u\simeq\left(10^{-6}\right)^{1/3}=1.0\times10^{-2} r2=ua=1.0×102×1.5×1011m=1.5×109mr_2=ua=1.0\times10^{-2}\times1.5\times10^{11}\,\mathrm m=1.5\times10^{9}\,\mathrm m

地球から L2L_2 点までの距離は約 1.5×106km1.5\times10^{6}\,\mathrm{km}、すなわち150万 km です。(7) を数値的に解くと u=1.0033×102u=1.0033\times10^{-2} で、最低次近似の誤差は0.3パーセント程度にとどまります。地球軌道半径の1パーセントという小ささは、L2L_2 点が地球の重力(μ2/u2\mu_2/u^2)と太陽重力の勾配(3μ1u3\mu_1u 相当)が釣り合う場所であることの反映です。

第4問 中性子の弾性散乱とシンチレーターの検出効率

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中性子と原子核の弾性散乱を非相対論的に扱います。中性子質量と陽子質量を m=1000MeV/c2m=1000\,\mathrm{MeV}/c^2、質量数 AA の原子核の質量を M=1000AMeV/c2M=1000A\,\mathrm{MeV}/c^2 とします。後半の検出器は、密度 1g/cm31\,\mathrm{g/cm^3}、元素組成 C:H = 1:1 のプラスチック・シンチレーターと光電子増倍管の組み合わせで、炭素との衝突は無視し、反跳陽子は100パーセントの効率で検出できるとします。図1の θ\theta^{*} は重心系での中性子の散乱角(入射方向から測った角)です。

実験室系で速さ vv の中性子が静止標的に当たるとき、重心の速さは V=mm+MvV=\dfrac{m}{m+M}v です。重心系では標的は速さ VV で入射してきて、弾性散乱では速さが変わらないので、散乱後も速さ VV で向きだけが変わります。中性子の重心系散乱角を θ\theta^{*}、散乱後の中性子の向きの単位ベクトルを n^\hat nn^z^=cosθ\hat n\cdot\hat z=\cos\theta^{*})とすると、標的の重心系速度は Vn^-V\hat n で、実験室系の速度は

u=Vz^Vn^,u2=V2[(1cosθ)2+sin2θ]=2V2(1cosθ)=4V2sin2θ2\boldsymbol u=V\hat z-V\hat n,\qquad |\boldsymbol u|^2=V^2\left[(1-\cos\theta^{*})^2+\sin^2\theta^{*}\right]=2V^2(1-\cos\theta^{*})=4V^2\sin^2\frac{\theta^{*}}{2}

反跳エネルギーは T=12mv2T=\frac12mv^2 を使って

E=12Mu2=2Mm2v2(m+M)2sin2θ2=4mM(m+M)2Tsin2θ2E=\frac12M|\boldsymbol u|^2=2M\frac{m^2v^2}{(m+M)^2}\sin^2\frac{\theta^{*}}{2}=\frac{4mM}{(m+M)^2}\,T\sin^2\frac{\theta^{*}}{2}

θ=π\theta^{*}=\pi(中性子が真後ろに跳ね返る正面衝突)で最大になり、m=1000m=1000M=1000AM=1000A を入れて

Emax=4mM(m+M)2T=4A(1+A)2TE_{\max}=\frac{4mM}{(m+M)^2}\,T=\frac{4A}{(1+A)^2}\,T

AA 依存性については (1+A)24A=(1A)20(1+A)^2-4A=(1-A)^2\ge0 より

4A(1+A)21\frac{4A}{(1+A)^2}\le1

で、等号が成り立つのは A=1A=1 のときだけです。したがって EmaxE_{\max} は陽子と散乱する場合に最大となり、そのとき Emax=TE_{\max}=T、つまり中性子は運動エネルギーの全部を渡せます。質量が等しい2球の正面衝突で速度が入れ替わるのと同じことです。

(a) A=1A=1 すなわち m=Mm=M を設問1の式に入れると 4mM/(m+M)2=14mM/(m+M)^2=1 なので

E=Tsin2θ2=T2(1cosθ)E=T\sin^2\frac{\theta^{*}}{2}=\frac T2\left(1-\cos\theta^{*}\right)

θ=0\theta^{*}=0E=0E=0θ=π\theta^{*}=\piE=TE=T です。

(b) 重心系で等方なら、θ\theta^{*} が立体角 dΩd\Omega^{*} に入る確率は dΩ/4πd\Omega^{*}/4\pi に比例するので

dW=dΩ4π=2πsinθdθ4π=d(cosθ)2dW=\frac{d\Omega^{*}}{4\pi}=\frac{2\pi\sin\theta^{*}\,d\theta^{*}}{4\pi}=-\frac{d(\cos\theta^{*})}{2}

(a) より dE=T2d(cosθ)dE=-\frac T2\,d(\cos\theta^{*})、つまり d(cosθ)=2dE/T-d(\cos\theta^{*})=2\,dE/T なので

dWdE=1T(0ET),dWdE=0(E>T)\frac{dW}{dE}=\frac1T\quad(0\le E\le T),\qquad \frac{dW}{dE}=0\quad(E>T)

反跳エネルギー分布は0から TT まで一定の矩形分布です。規格化 0T(1/T)dE=1\int_0^T(1/T)\,dE=1 も満たしています。概形は、横軸 EE、縦軸 dW/dEdW/dE として、E=0E=0 から E=TE=T まで高さ 1/T1/T の水平な線が伸び、E=TE=T で垂直に0へ落ちる階段状の形です。

1/T0TEdW/dE

中性子はシンチレーター中の水素核(陽子)と弾性散乱し、反跳陽子を生じます。反跳陽子は蛍光物質の分子を電離・励起しながら停止し、励起された分子が脱励起するときに蛍光(シンチレーション光)を放出します。この光が導光されて光電子増倍管の光電面に達し、光電効果で光電子を放出させます。光電子はダイノードでの二次電子放出により多段に増倍され、陽極に電荷パルス、すなわち電気信号として現れます。

標的の数密度が nn、1個あたりの断面積が σ\sigma なら、単位長さ進む間に散乱する確率は nσn\sigma です。その逆数が平均自由行程で

λ=1nσ\lambda=\frac{1}{n\sigma}

炭素との衝突は無視するという指定なので、nn には水素原子だけを数えます。

厚さ xx の中で1回も散乱しない確率は ex/λe^{-x/\lambda} です。1回でも陽子と散乱すれば反跳陽子を確実に検出できるので、検出効率は

ε=1ex/λ\varepsilon=1-e^{-x/\lambda}

xλx\ll\lambda では εx/λ\varepsilon\simeq x/\lambda と薄い場合の表式に戻り、xλx\gg\lambda では ε1\varepsilon\to1 で1を超えません。厚い場合にも使える一般式です。

T=20MeVT=20\,\mathrm{MeV} の中性子の実験室系運動量は非相対論的に

p=2mT=2×1000×20 MeV/c=200MeV/cp=\sqrt{2mT}=\sqrt{2\times1000\times20}\ \mathrm{MeV}/c=200\,\mathrm{MeV}/c

図2でこの運動量に対応する断面積を読むと σ0.5×1024cm2\sigma\simeq0.5\times10^{-24}\,\mathrm{cm^2} です。C:H = 1:1、密度 1g/cm31\,\mathrm{g/cm^3} なので、CH 単位(モル質量 12+1=13g/mol12+1=13\,\mathrm{g/mol})あたり水素が1個あり

n=1g/cm313g/mol×6×1023mol1=4.6×1022cm3n=\frac{1\,\mathrm{g/cm^3}}{13\,\mathrm{g/mol}}\times6\times10^{23}\,\mathrm{mol^{-1}}=4.6\times10^{22}\,\mathrm{cm^{-3}} λ=1nσ=14.6×1022×0.5×1024cm=43cm\lambda=\frac{1}{n\sigma}=\frac{1}{4.6\times10^{22}\times0.5\times10^{-24}}\,\mathrm{cm}=43\,\mathrm{cm} ε=1ex/λ=1e10/43=10.79=0.21\varepsilon=1-e^{-x/\lambda}=1-e^{-10/43}=1-0.79=0.21

検出効率は約20パーセントです。x/λ0.23x/\lambda\simeq0.23 と1より小さいので、薄い近似 x/λx/\lambda でも同じ一桁になります。

第5問 低温比熱と超伝導の臨界磁場

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ヒーターと抵抗温度計を付けた基板に試料を乗せ、加えた熱量と温度上昇から比熱を測ります。アルミニウムの1モルあたりの比熱を 1.22K1.22\,\mathrm K から 4K4\,\mathrm K で測ったのが図2(縦軸 C/TC/T、横軸 T2T^2)、0.2K0.2\,\mathrm K まで下げたのが図3(縦軸 C/TC/T、横軸 TT)で、Tc=1.16KT_c=1.16\,\mathrm K に超伝導転移による比熱の飛びが見えています。後半では磁場中の自由エネルギー

Gn,s(T,H)=Gn,s(T,0)V0HBdHG_{\mathrm{n,s}}(T,H)=G_{\mathrm{n,s}}(T,0)-V\int_0^H B\,dH

を使い、正常状態で B=μ0HB=\mu_0H、超伝導状態で B=0B=0(完全反磁性)とします。VV はモル体積、Gn(0,0)=0G_{\mathrm n}(0,0)=0 です。

試料と基板を真空中に置き、支持線や配線は細く長くして熱伝導と熱放射による外部との熱の出入りを抑えます。基板・ヒーター・温度計・接着剤の熱容量は試料なしで別に測って差し引きます。試料と温度計の熱接触をよくし、試料内に温度勾配が残らないようゆっくり加熱して緩和を待ちます。温度上昇は比熱の変化が無視でき、かつ温度計の分解能で有意に測れる大きさに選び、抵抗温度計の自己発熱も抑えます。

準静的な加熱では dS=CdT/TdS=C\,dT/TdU=CdTdU=C\,dT です。S(0)=0S(0)=0U(0)U(0) を積分定数として

S(T)=0TC(T)TdT,U(T)=U(0)+0TC(T)dTS(T)=\int_0^T\frac{C(T')}{T'}\,dT',\qquad U(T)=U(0)+\int_0^T C(T')\,dT'

T0T\to0SS が有限であるためには C0C\to0 が必要で、以下に出てくる γT\gamma TβT3\beta T^3 はこれを満たしています。

図2は C/TC/TT2T^2 に対してプロットすると直線に乗ることを示しています。つまり

CT=γ+βT2,C=γT+βT3\frac CT=\gamma+\beta T^2,\qquad C=\gamma T+\beta T^3

T3T^3 の項が格子振動(デバイ比熱)なので、もう一方の主要な寄与は TT の1乗に比例する項 γT\gamma T です。係数は図2の縦軸切片から

γ1.35 mJmol1K2\gamma\simeq1.35\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}}

起源はフェルミ縮退した伝導電子の比熱(ゾンマーフェルト項)です。フェルミ面近傍の幅 kBTk_BT の範囲、すなわち全電子のうち kBT/EF\sim k_BT/E_F の割合だけが熱励起され、1個あたり kBT\sim k_BT のエネルギーを受け取るので、内部エネルギーが T2T^2、比熱が TT に比例します。直線の傾きから β2.4×102 mJmol1K4\beta\simeq2.4\times10^{-2}\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-4}} で、デバイ温度に直すと約 430 K になり、アルミニウムの値として妥当です。この温度範囲では βT2\beta T^2 は最大でも 0.4 mJmol1K20.4\ \mathrm{mJ\,mol^{-1}K^{-2}} 程度で、確かに電子項の方が主要です。

2次相転移では潜熱がなく、TcT_c でエントロピーが連続です。また第三法則から Ss(0)=Sn(0)=0S_{\mathrm s}(0)=S_{\mathrm n}(0)=0 です。設問2の結果を両状態に適用して差を取ると

Ss(Tc)Sn(Tc)=0TcCs(T)Cn(T)TdT=0S_{\mathrm s}(T_c)-S_{\mathrm n}(T_c)=\int_0^{T_c}\frac{C_{\mathrm s}(T)-C_{\mathrm n}(T)}{T}\,dT=0

図3は縦軸が C/TC/T、横軸が TT なので、この積分は Cs/TC_{\mathrm s}/T の実測曲線と Cn/TC_{\mathrm n}/T の点線 c-b-a に挟まれた符号付き面積です。両曲線が交わる点 b より高温側では Cs>CnC_{\mathrm s}>C_{\mathrm n} で領域 D1\mathrm D_1 が正の寄与、低温側では Cs<CnC_{\mathrm s}<C_{\mathrm n} で領域 D2\mathrm D_2 が負の寄与を与えます。積分が0になるということは両者が打ち消し合うことなので、D1\mathrm D_1 の面積と D2\mathrm D_2 の面積は等しくなります。

(8) に正常状態の B=μ0HB=\mu_0H、超伝導状態の B=0B=0 を代入すると

Gn(T,H)=Gn(T,0)V0Hμ0HdH=Gn(T,0)μ0VH22,Gs(T,H)=Gs(T,0)G_{\mathrm n}(T,H)=G_{\mathrm n}(T,0)-V\int_0^H\mu_0H'\,dH'=G_{\mathrm n}(T,0)-\frac{\mu_0VH^2}{2},\qquad G_{\mathrm s}(T,H)=G_{\mathrm s}(T,0)

磁場は正常状態だけを 12μ0VH2\frac12\mu_0VH^2 だけ押し下げ、完全反磁性の超伝導状態には何もしません。図4では T<TcT<T_cGn(T,0)>Gs(T,0)G_{\mathrm n}(T,0)>G_{\mathrm s}(T,0)TTcT\ge T_c で両者が一致しています。ここで 12μ0VH2<δGn(0,0)Gs(0,0)\frac12\mu_0VH^2<\delta\equiv G_{\mathrm n}(0,0)-G_{\mathrm s}(0,0)、すなわち Gn(0,H)>Gs(0,H)G_{\mathrm n}(0,H)>G_{\mathrm s}(0,H) となる磁場を固定すると、GnG_{\mathrm n} の曲線が一定量だけ平行に下がるので、0<TH<Tc0<T_H<T_c のある温度 THT_H で2曲線が交差します。GnG_{\mathrm n}12γT2-\frac12\gamma T^2 のように TT とともに急に下がり、GsG_{\mathrm s} は低温でほぼ平坦なので、交差は1点だけです。

0Gn(T,H)Gs(T,H)THTcT

T<THT<T_H では Gs<GnG_{\mathrm s}<G_{\mathrm n} なので超伝導状態が、T>THT>T_H では Gn<GsG_{\mathrm n}<G_{\mathrm s} なので正常状態が安定です。実際に実現する状態の自由エネルギーは2本の曲線の下側の包絡線で、THT_H で折れ曲がります。交点では自由エネルギーの値は一致しますが、傾きは一致しません。

(GnT)H=Sn  Ss=(GsT)H-\left(\frac{\partial G_{\mathrm n}}{\partial T}\right)_H=S_{\mathrm n}\ \neq\ S_{\mathrm s}=-\left(\frac{\partial G_{\mathrm s}}{\partial T}\right)_H

TH<TcT_H<T_c では超伝導状態の方が秩序があってエントロピーが小さく、Sn>SsS_{\mathrm n}>S_{\mathrm s} です。したがって転移点で自由エネルギーの1階微分であるエントロピーが跳び、潜熱 L=TH(SnSs)>0L=T_H(S_{\mathrm n}-S_{\mathrm s})>0 が発生します。これがこの相転移が1次転移である理由です。H0H\to0 の極限では THTcT_H\to T_cSnSs0S_{\mathrm n}-S_{\mathrm s}\to0 となり、設問4で見た2次転移に連続的につながります。

T=0T=0H=Hc(0)H=H_{\mathrm c}(0) で両状態の自由エネルギーが等しくなるので

Gn(0,0)μ0VHc(0)22=Gs(0,0)μ0VHc(0)22=Bc(0)22μ0V=δG_{\mathrm n}(0,0)-\frac{\mu_0VH_{\mathrm c}(0)^2}{2}=G_{\mathrm s}(0,0) \quad\Longrightarrow\quad \frac{\mu_0VH_{\mathrm c}(0)^2}{2}=\frac{B_{\mathrm c}(0)^2}{2\mu_0}V=\delta Bc(0)=2μ0δVB_{\mathrm c}(0)=\sqrt{\frac{2\mu_0\delta}{V}}

図4から Gn(0,0)=0G_{\mathrm n}(0,0)=0Gs(0,0)0.4 mJ/molG_{\mathrm s}(0,0)\simeq-0.4\ \mathrm{mJ/mol} なので δ=4×104 J/mol\delta=4\times10^{-4}\ \mathrm{J/mol}、モル体積は V=10 cm3/mol=1×105 m3/molV=10\ \mathrm{cm^3/mol}=1\times10^{-5}\ \mathrm{m^3/mol} です。

Bc(0)=2×4π×107×4×1041×105 T=1.0×102TB_{\mathrm c}(0)=\sqrt{\frac{2\times4\pi\times10^{-7}\times4\times10^{-4}}{1\times10^{-5}}}\ \mathrm T=1.0\times10^{-2}\,\mathrm T

有効数字1桁で Bc(0)1×102TB_{\mathrm c}(0)\simeq1\times10^{-2}\,\mathrm T、すなわち 10 mT です。μ0\mu_0 の単位 H/m は T2m3/J\mathrm{T^2m^3/J} と同じなので、根号の中は T2\mathrm{T^2} になっていて次元も合っています。アルミニウムの臨界磁束密度の実測値 10.5 mT とよく一致します。

有限温度でも同じ議論から、凝縮エネルギーが磁場のエネルギーと釣り合います。

μ0VHc(T)22=Gn(T,0)Gs(T,0)\frac{\mu_0VH_{\mathrm c}(T)^2}{2}=G_{\mathrm n}(T,0)-G_{\mathrm s}(T,0)

H=0H=0dG=SdTdG=-S\,dT なので Gn,s(T,0)=Gn,s(0,0)0TSn,sdTG_{\mathrm{n,s}}(T,0)=G_{\mathrm{n,s}}(0,0)-\int_0^TS_{\mathrm{n,s}}\,dT'、よって

Gn(T,0)Gs(T,0)=δ0T[Sn(T)Ss(T)]dTG_{\mathrm n}(T,0)-G_{\mathrm s}(T,0)=\delta-\int_0^T\left[S_{\mathrm n}(T')-S_{\mathrm s}(T')\right]dT'

格子振動の寄与は両状態で共通なので差では消えます。T/Tc1T/T_c\ll1 では正常状態の電子エントロピーが Sn=γTS_{\mathrm n}=\gamma TCn/TC_{\mathrm n}/TT0T\to0 外挿値が γ\gamma だから)、超伝導状態の電子エントロピーはエネルギーギャップのため指数関数的に小さく Ss0S_{\mathrm s}\simeq0 と置けます。したがって

μ0VHc(T)22=δγT22\frac{\mu_0VH_{\mathrm c}(T)^2}{2}=\delta-\frac{\gamma T^2}{2}

設問6の 12μ0VHc(0)2=δ\frac12\mu_0VH_{\mathrm c}(0)^2=\delta で割ると

Hc(T)=Hc(0)(1γT22δ)1/2Hc(0)(1γT24δ)H_{\mathrm c}(T)=H_{\mathrm c}(0)\left(1-\frac{\gamma T^2}{2\delta}\right)^{1/2}\simeq H_{\mathrm c}(0)\left(1-\frac{\gamma T^2}{4\delta}\right)

最後は γT2/2δ1\gamma T^2/2\delta\ll1 での展開です。比べて

a=γ4δa=\frac{\gamma}{4\delta}

γ\gammaJmol1K2\mathrm{J\,mol^{-1}K^{-2}}δ\deltaJmol1\mathrm{J\,mol^{-1}} なので aaK2\mathrm{K^{-2}} で、aT2aT^2 が無次元になっていて整合します。数値を入れると a=1.35/(4×0.4)=0.84 K2a=1.35/(4\times0.4)=0.84\ \mathrm{K^{-2}} で、1/Tc2=0.74 K21/T_c^2=0.74\ \mathrm{K^{-2}} と同程度です。つまり実験値は2流体モデルでよく知られた Hc(T)=Hc(0)[1(T/Tc)2]H_{\mathrm c}(T)=H_{\mathrm c}(0)\left[1-(T/T_c)^2\right] にほぼ従っており、γ\gammaδ\deltaTcT_c の3つの測定値が互いに整合していることが確認できます。

第6問 水素原子の微細構造とラムシフト

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水素原子の n=2n=2 の準位は微細構造で3つに分かれ、2P3/22P_{3/2}2S1/22S_{1/2} の差を hν1h\nu_12S1/22S_{1/2}2P1/22P_{1/2} の差を hν2h\nu_2(ラムシフト)とします。電子線衝突で 1S1/21S_{1/2} から寿命の長い 2S1/22S_{1/2} へ励起した原子ビームを導波管に通し、金属板から出る電子を対向電極で捕らえて 2S1/22S_{1/2} の原子数を電流として測ります。マイクロ波が共鳴すると 2P3/22P_{3/2} へ移り、そこから速やかに 1S1/21S_{1/2} へ自発放射するので電流が減ります。磁場中では

HZ=μB(lz+2sz)B\mathcal H_Z=\frac{\mu_B}{\hbar}\left(l_z+2s_z\right)B

でゼーマンシフトが加わります。

グリッドとアノードが接地されているので、フィラメント(カソード)を電位 V0-V_0 に置けば、放出された電子はアノードに達するまでに運動エネルギー eV0eV_0 を得ます。条件は2つあります。第一に、1S1/21S_{1/2} から 2S1/22S_{1/2} への励起エネルギー

ΔE=13.6(1122)eV=10.2eV\Delta E=13.6\left(1-\frac{1}{2^2}\right)\mathrm{eV}=10.2\,\mathrm{eV}

を超えていなければ励起が起きません。第二に、イオン化エネルギー 13.6eV13.6\,\mathrm{eV} を超えると水素が電離してしまいます。電離で生じた電子やイオンが電極に流れ込むと 2S1/22S_{1/2} の原子数を反映する信号に混ざり、また原子源も損なわれます。したがって

10.2V<V0<13.6V10.2\,\mathrm V<V_0<13.6\,\mathrm V

窓の中央付近を選び、フィラメントの電位は約 12V-12\,\mathrm V に設定するのが適当です。

自発放射の確率は電気双極子行列要素の2乗に比例します。電気双極子演算子 er-e\boldsymbol r は奇パリティなので、行列要素が0でないためには始状態と終状態のパリティが逆、軌道角運動量は Δl=±1\Delta l=\pm1 でなければなりません。2S1/22S_{1/2} より下にある準位は 1S1/21S_{1/2} だけで、どちらも l=0l=0 の偶パリティですから双極子行列要素が厳密に0になり、1光子の電気双極子放射が禁止されます。残るのは2光子放射や磁気双極子放射といった桁違いに弱い過程だけなので、寿命が極端に長くなります。一方 2P1/22P_{1/2}2P3/22P_{3/2}l=1l=1 で、1S1/21S_{1/2} への遷移が Δl=1\Delta l=-1 の許容遷移になり、行列要素は原子的な大きさ ea0\sim ea_0 を持ちます。だから 2P2P の寿命は 1.6 ns、2S1/22S_{1/2} の寿命はそれよりはるかに長くなります。

弱磁場では jj の各多重項の内部でゼーマンシフトが ΔE=gjmμBB\Delta E=g_jm\mu_BB と書け、ランデの gg 因子は

gj=1+j(j+1)+s(s+1)l(l+1)2j(j+1)g_j=1+\frac{j(j+1)+s(s+1)-l(l+1)}{2j(j+1)}

です。2S1/22S_{1/2}l=0l=0s=1/2s=1/2j=1/2j=1/2g=2g=22P3/22P_{3/2}l=1l=1s=1/2s=1/2j=3/2j=3/2

g=1+3252+34223252=1+5/215/2=43g=1+\frac{\frac32\cdot\frac52+\frac34-2}{2\cdot\frac32\cdot\frac52}=1+\frac{5/2}{15/2}=\frac43

したがって

ΔE(2S1/2,m=12)=212μBB=μBB,ΔE(2P3/2,m=32)=4332μBB=2μBB\Delta E\left(2S_{1/2},m=\tfrac12\right)=2\cdot\tfrac12\,\mu_BB=\mu_BB,\qquad \Delta E\left(2P_{3/2},m=\tfrac32\right)=\tfrac43\cdot\tfrac32\,\mu_BB=2\mu_BB

共鳴周波数はこの差だけずれるので

hν=hν1+(2μBBμBB)=hν1+μBB,Δν=μBBhh\nu=h\nu_1+\left(2\mu_BB-\mu_BB\right)=h\nu_1+\mu_BB,\qquad \Delta\nu=\frac{\mu_BB}{h}

Δν\Delta\nuBB に比例して増加します。図3(a) で a 線の傾きが α\alpha 線のちょうど2倍になっていることと整合しています。

図3(b) の共鳴曲線のピークは B0.12TB\simeq0.12\,\mathrm T です。マイクロ波周波数 νmw=11.5GHz\nu_{\mathrm{mw}}=11.5\,\mathrm{GHz} がこの磁場でのゼーマンシフト込みの遷移周波数に一致しているので、設問3より

ν1=νmwμBBh=11.5GHz14GHz/T×0.12T=11.51.68=9.8GHz\nu_1=\nu_{\mathrm{mw}}-\frac{\mu_BB}{h}=11.5\,\mathrm{GHz}-14\,\mathrm{GHz/T}\times0.12\,\mathrm T=11.5-1.68=9.8\,\mathrm{GHz}

有効数字2桁で ν19.8GHz\nu_1\simeq9.8\,\mathrm{GHz} です。

共鳴線幅は関与する2準位の減衰率の和で決まりますが、2S1/22S_{1/2} は寿命が桁違いに長いので 2P3/22P_{3/2} の寿命 τ\tau だけが効きます。減衰率 Γ=1/τ\Gamma=1/\tau のローレンツ型の半値全幅は

Δνnat=Γ2π=12πτ=12π×1.6×109s=1.0×108Hz=0.10GHz\Delta\nu_{\mathrm{nat}}=\frac{\Gamma}{2\pi}=\frac{1}{2\pi\tau}=\frac{1}{2\pi\times1.6\times10^{-9}\,\mathrm s}=1.0\times10^{8}\,\mathrm{Hz}=0.10\,\mathrm{GHz}

有効数字2桁で 1.0×102MHz1.0\times10^{2}\,\mathrm{MHz} です。dν/dB=μB/h=14GHz/Td\nu/dB=\mu_B/h=14\,\mathrm{GHz/T} で磁場に換算すると 7×103T7\times10^{-3}\,\mathrm T で、図3(b) の観測幅 0.01 T から 0.02 T(周波数で 0.2 GHz 前後)は自然幅の2倍程度あります。広がりの要因として考えられるのは、電磁石ギャップ内の磁場が空間的に一様でないため原子ごとにゼーマンシフトが異なること、マイクロ波強度によるパワー広がり(飽和広がり)、原子が導波管のマイクロ波領域を通過する時間が有限であることによる相互作用時間の広がり、原子ビームの速度分布に伴うドップラー広がり、残留ガスとの衝突、そして隣接するゼーマン遷移の裾の重なりです。

電磁場の真空揺らぎに揺さぶられて電子の位置が δr\delta\boldsymbol r だけ細かく振動すると、電子は原子核のクーロンポテンシャルを δr\delta\boldsymbol r について平均した値を感じます。揺らぎが等方的で平均が0なら、δr\delta r の2次まで展開して

V(r+δr)V(r)+16δr22V(r)\left\langle V(\boldsymbol r+\delta\boldsymbol r)\right\rangle\simeq V(\boldsymbol r)+\frac16\left\langle\delta r^2\right\rangle\nabla^2V(\boldsymbol r)

V(r)=e24πε0rV(\boldsymbol r)=-\dfrac{e^2}{4\pi\varepsilon_0r} に対し 2(1/r)=4πδ3(r)\nabla^2(1/r)=-4\pi\delta^3(\boldsymbol r) なので 2V=e2ε0δ3(r)0\nabla^2V=\dfrac{e^2}{\varepsilon_0}\delta^3(\boldsymbol r)\ge0 で、エネルギーのずれは

ΔE=e26ε0δr2ψ(0)2 0\Delta E=\frac{e^2}{6\varepsilon_0}\left\langle\delta r^2\right\rangle\left|\psi(0)\right|^2\ \ge0

つまりつねに押し上げになります。原点付近でクーロンポテンシャルが急激に深くなっているぶん、位置をぼかして平均すると実効的な引力が弱まり、束縛が緩んでエネルギーが上がるということです。この効果を受けるのは原子核の位置に存在確率がある状態だけで、2S1/22S_{1/2}l=0l=0ψ(0)20|\psi(0)|^2\neq02P1/22P_{1/2}l=1l=1ψ(0)=0\psi(0)=0 です。したがって 2S1/22S_{1/2} だけがわずかに押し上げられ、Dirac 理論では縮退していた 2P1/22P_{1/2} より高くなります。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成19年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。

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