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平成13年度 東大院 物理学専攻 修士 物理学 解答

対象読者: 学部の物理(力学・解析力学、電磁気学、量子力学、熱・統計力学)を一通り学び、東大物理学専攻の院試問題を自分で解いた、または解こうとしている人。問題文は載せていないので、出典の問題を手元に置いて読みます。

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4 時間半で 9 問中 5 問を選ぶ形式です。量子力学・統計力学・電磁気学・相対論という定番の 4 問に加え、光学の測定装置(第5問)、半導体の実験データ読み取り(第6問)、宇宙線測定のエレクトロニクス(第7問)、蛍光共鳴エネルギー移動(第8問)、水素分子の反応(第9問)という、実験と計算の混じった問題が並びます。計算量そのものは中程度ですが、第5問・第6問・第7問は与えられた図やグラフから数値を読み取って組み立てる必要があり、そこで差がつきます。ここでは全 9 問の解答を載せます。

問題分野主題
第1問量子力学浅い井戸型ポテンシャルの束縛状態と不確定性関係
第2問統計力学周期境界条件つき1次元イジング模型
第3問電磁気学遅延ポテンシャルと点電荷の双極放射
第4問相対論ロケットの等加速度運動とレーダー観測
第5問光学雲母の干渉色と複屈折くさびによる段差測定
第6問固体物理半導体のホール係数の温度依存性と4端子法
第7問原子核・素粒子宇宙線カウンターと同時計数回路
第8問原子分子・生物物理蛋白質間の励起エネルギー移動
第9問原子分子水素分子の回転準位とパラ・オルト変換反応

第1問 浅い井戸型ポテンシャルの束縛状態

Section titled “第1問 浅い井戸型ポテンシャルの束縛状態”

1 次元の井戸型ポテンシャル

U(x)={−U0(∣x∣≤a)0(∣x∣>a)U(x)=\begin{cases} -U_0 & (|x|\le a) \\ 0 & (|x|>a)\end{cases}

の中の質量 mm の粒子について、E<0E<0 の束縛状態を考えます。U0>0U_0>0 です。前半は不確定性関係による見積もり、後半はシュレディンガー方程式の厳密解で、両者が食い違う理由を突き止めるのが問題の主眼です。以下、ε≡−E>0\varepsilon\equiv -E>0 と書きます。

不確定性関係 Δx Δp≥ℏ/2\Delta x\,\Delta p\ge \hbar/2 に Δx=a\Delta x=a を代入すると Δp≥ℏ/(2a)\Delta p\ge \hbar/(2a) です。等号(最小不確定性)を取れば

Δp=ℏ2a.\Delta p=\frac{\hbar}{2a}.

運動量の大きさを p>Δpp>\Delta p と見積もると、運動エネルギーは

p22m>(Δp)22m=ℏ28ma2\frac{p^2}{2m}>\frac{(\Delta p)^2}{2m}=\frac{\hbar^2}{8ma^2}

を満たします。井戸の中での全エネルギーは E=p2/2m−U0E=p^2/2m-U_0 なので、E<0E<0 となるには U0>p2/2mU_0>p^2/2m が必要です。上の下限と合わせると

U0>ℏ28ma2U_0>\frac{\hbar^2}{8ma^2}

が束縛状態の存在条件だと結論されます。つまり「井戸が浅すぎると束縛状態はない」という予想になります。数係数 1/81/8 は Δx=a\Delta x=a という置き方に依存する見積もりの値で、意味があるのは U0≳ℏ2/(ma2)U_0\gtrsim \hbar^2/(ma^2) というオーダーだけです。

領域を分けてシュレディンガー方程式を解きます。∣x∣<a|x|<a では

−ℏ22mψ′′−U0ψ=Eψ⟹ψ′′=−k2ψ,k≡2m(U0−ε)ℏ,-\frac{\hbar^2}{2m}\psi''-U_0\psi=E\psi \quad\Longrightarrow\quad \psi''=-k^2\psi,\qquad k\equiv\frac{\sqrt{2m(U_0-\varepsilon)}}{\hbar},

∣x∣>a|x|>a では

ψ′′=κ2ψ,κ≡2mεℏ\psi''=\kappa^2\psi,\qquad \kappa\equiv\frac{\sqrt{2m\varepsilon}}{\hbar}

です。束縛状態なので外側では ∣x∣→∞|x|\to\infty で減衰する解だけを取ります。k2k^2 が正である(ε<U0\varepsilon<U_0)ことは、井戸の底より下にエネルギー固有値が来ないことから保証されます。定義から

k2+κ2=2mU0ℏ2k^2+\kappa^2=\frac{2mU_0}{\hbar^2}

がつねに成り立ちます。

U(x)U(x) は偶関数なので固有関数は偶パリティか奇パリティに分類できます。偶パリティ解は

ψ(x)={Acos⁡kx(∣x∣≤a)Acos⁡ka  e−κ(∣x∣−a)(∣x∣>a)\psi(x)=\begin{cases} A\cos kx & (|x|\le a)\\ A\cos ka\;e^{-\kappa(|x|-a)} & (|x|>a)\end{cases}

で、x=ax=a での ψ\psi の連続性は上の形に織り込み済みです。ψ′\psi' の連続性から

−Aksin⁡ka=−κAcos⁡ka⟹ktan⁡ka=κ.-Ak\sin ka=-\kappa A\cos ka \quad\Longrightarrow\quad k\tan ka=\kappa .

奇パリティ解は

ψ(x)={Asin⁡kx(∣x∣≤a)A sgn(x)sin⁡ka  e−κ(∣x∣−a)(∣x∣>a),−kcot⁡ka=κ.\psi(x)=\begin{cases} A\sin kx & (|x|\le a)\\ A\,\mathrm{sgn}(x)\sin ka\;e^{-\kappa(|x|-a)} & (|x|>a)\end{cases}, \qquad -k\cot ka=\kappa .

k,κk,\kappa を EE で書き戻せば、エネルギー固有値を決める関係式は

U0+E  tan⁡ ⁣(aℏ2m(U0+E))=−E(偶パリティ),U0+E  cot⁡ ⁣(aℏ2m(U0+E))=−−E(奇パリティ)\begin{aligned} \sqrt{U_0+E}\;\tan\!\left(\frac{a}{\hbar}\sqrt{2m(U_0+E)}\right)&=\sqrt{-E} &&(\text{偶パリティ}),\\ \sqrt{U_0+E}\;\cot\!\left(\frac{a}{\hbar}\sqrt{2m(U_0+E)}\right)&=-\sqrt{-E} &&(\text{奇パリティ}) \end{aligned}

です。これが求める EE と U0,a,mU_0,a,m の関係式です。規格化定数 AA は問題の指示により決めません。

無次元量 ξ≡ka\xi\equiv ka、η≡κa\eta\equiv\kappa a を導入すると、拘束条件は

ξ2+η2=ρ2,ρ2≡2mU0a2ℏ2\xi^2+\eta^2=\rho^2,\qquad \rho^2\equiv\frac{2mU_0a^2}{\hbar^2}

で、偶パリティの条件は η=ξtan⁡ξ\eta=\xi\tan\xi です。f(ξ)≡ξtan⁡ξf(\xi)\equiv\xi\tan\xi は [0,π/2)[0,\pi/2) 上で f(0)=0f(0)=0 から単調に増加して ξ→π/2−0\xi\to\pi/2-0 で +∞+\infty に発散します。一方 g(ξ)≡ρ2−ξ2g(\xi)\equiv\sqrt{\rho^2-\xi^2} は [0,ρ][0,\rho] 上で g(0)=ρg(0)=\rho から単調に減少して g(ρ)=0g(\rho)=0 になります。

ρ<π/2\rho<\pi/2 のときは、ξ→+0\xi\to+0 で f−g→−ρ<0f-g\to -\rho<0、ξ→ρ\xi\to\rho で f−g=ρtan⁡ρ>0f-g=\rho\tan\rho>0 なので、f−gf-g は (0,ρ)(0,\rho) のどこかで 00 になります。ρ≥π/2\rho\ge\pi/2 のときは ξ→π/2−0\xi\to\pi/2-0 で f→+∞f\to+\infty、gg は有限なので、やはり (0,π/2)(0,\pi/2) に交点があります。f−gf-g は連続なので、いずれの場合も解が存在します。

ρ\rho はどんな小さな U0>0U_0>0 に対しても正なので、偶パリティの束縛状態は必ず 1 つ以上存在します。したがって設問1(b) の条件 U0>ℏ2/(8ma2)U_0>\hbar^2/(8ma^2) は正しくありません。なお奇パリティの条件 η=−ξcot⁡ξ\eta=-\xi\cot\xi は ξ>π/2\xi>\pi/2 でしか解を持たないので、ρ<π/2\rho<\pi/2 すなわち U0<π2ℏ2/(8ma2)U_0<\pi^2\hbar^2/(8ma^2) では束縛状態は偶パリティの 1 個だけです。

U0≪ℏ2/(ma2)U_0\ll \hbar^2/(ma^2) は ρ2=2mU0a2/ℏ2≪1\rho^2=2mU_0a^2/\hbar^2\ll 1 を意味します。このとき交点は ξ≪1\xi\ll 1 の側にあり、tan⁡ξ≃ξ\tan\xi\simeq\xi から

η≃ξ2.\eta\simeq \xi^2 .

η∼ξ2≪ξ\eta\sim\xi^2\ll\xi なので ξ2+η2=ρ2\xi^2+\eta^2=\rho^2 は ξ≃ρ\xi\simeq\rho を与え(補正は O(ρ3)O(\rho^3))、

η=ρ2=2mU0a2ℏ2,κ=ηa=2mU0aℏ2\eta=\rho^2=\frac{2mU_0a^2}{\hbar^2},\qquad \kappa=\frac{\eta}{a}=\frac{2mU_0a}{\hbar^2}

となります。したがって

E=−ℏ2κ22m=−2ma2U0 2ℏ2.E=-\frac{\hbar^2\kappa^2}{2m}=-\frac{2ma^2U_0^{\,2}}{\hbar^2}.

検算を 2 つします。第一に ∣E∣/U0=2ma2U0/ℏ2≪1|E|/U_0=2ma^2U_0/\hbar^2\ll 1 で、井戸の深さに比べてはるかに浅く束縛されており、ε<U0\varepsilon<U_0 という仮定と整合します。第二に、a→0a\to0、U0→∞U_0\to\infty を積 λ≡2aU0\lambda\equiv 2aU_0 を保ちながら取ると井戸はデルタ関数ポテンシャル −λδ(x)-\lambda\delta(x) になり、その唯一の束縛状態のエネルギー −mλ2/(2ℏ2)-m\lambda^2/(2\hbar^2) は上式と一致します。次元も [ ma2U02/ℏ2 ]=[ U0 ]×[ ma2U0/ℏ2 ][\,m a^2U_0^2/\hbar^2\,]=[\,U_0\,]\times[\,ma^2U_0/\hbar^2\,] で、後半の括弧が無次元なのでエネルギーになっています。

偶パリティ解を使います。井戸の外側にいる確率は

P(∣x∣>a)=2∫a∞∣A∣2cos⁡2ka  e−2κ(x−a)dx=∣A∣2cos⁡2kaκ,P(|x|>a)=2\int_a^\infty |A|^2\cos^2 ka\;e^{-2\kappa(x-a)}dx=\frac{|A|^2\cos^2 ka}{\kappa},

内側にいる確率は

P(∣x∣<a)=∣A∣2∫−aacos⁡2kx dx=∣A∣2(a+sin⁡2ka2k)P(|x|<a)=|A|^2\int_{-a}^{a}\cos^2 kx\,dx=|A|^2\left(a+\frac{\sin 2ka}{2k}\right)

です。設問2(c) の状況では ka=ξ≃ρ≪1ka=\xi\simeq\rho\ll1 なので cos⁡2ka≃1\cos^2 ka\simeq1、sin⁡(2ka)/(2k)≃a\sin(2ka)/(2k)\simeq a となり、P(∣x∣<a)≃2a∣A∣2P(|x|<a)\simeq 2a|A|^2、P(∣x∣>a)≃∣A∣2/κP(|x|>a)\simeq |A|^2/\kappa です。よって

R=P(∣x∣>a)P(∣x∣<a)=12κa=ℏ24ma2U0≫1.R=\frac{P(|x|>a)}{P(|x|<a)}=\frac{1}{2\kappa a}=\frac{\hbar^2}{4ma^2U_0}\gg 1 .

浅い井戸では粒子は圧倒的に井戸の外側にいます。

これが設問1(b) の考え方が破綻する理由です。波動関数の外側での減衰長は 1/κ=ℏ2/(2mU0a)1/\kappa=\hbar^2/(2mU_0a) で、U0≪ℏ2/(ma2)U_0\ll\hbar^2/(ma^2) のときこれは aa よりはるかに長くなります。つまり位置の不確定性は Δx≃1/κ≫a\Delta x\simeq 1/\kappa\gg a であって、Δx=a\Delta x=a という出発点そのものが誤りです。正しく Δx≃1/κ\Delta x\simeq1/\kappa を使えば Δp≃ℏκ\Delta p\simeq\hbar\kappa、運動エネルギーは ℏ2κ2/2m=∣E∣\hbar^2\kappa^2/2m=|E| となって、U0U_0 がいくら小さくても ∣E∣|E| をそれに応じて小さく取ることで矛盾なく束縛できます。U0U_0 に下限は付きません。

第2問 周期境界条件つき1次元イジング模型

Section titled “第2問 周期境界条件つき1次元イジング模型”

NN 個(NN は偶数)の格子点が輪をなし、各点にイジングスピン σi=±1\sigma_i=\pm1 が乗っています。ハミルトニアン(系のエネルギーを表す式)は

H=−J∑i=1Nσiσi+1,σN+1=σ1H=-J\sum_{i=1}^{N}\sigma_i\sigma_{i+1},\qquad \sigma_{N+1}=\sigma_1

です。この模型はボンド変数に移ると完全に解けます。以下

τi≡σiσi+1(i=1,…,N)\tau_i\equiv\sigma_i\sigma_{i+1}\quad(i=1,\dots,N)

を使います。τi=±1\tau_i=\pm1 で、H=−J∑iτiH=-J\sum_i\tau_i です。{τi}\{\tau_i\} の間には ∏i=1Nτi=∏iσi2=+1\prod_{i=1}^{N}\tau_i=\prod_i\sigma_i^2=+1 という 1 個の拘束があり、逆に ∏iτi=+1\prod_i\tau_i=+1 を満たす {τi}\{\tau_i\} に対しては σ1=±1\sigma_1=\pm1 を選べば残りのスピンが順に決まるので、{τi}\{\tau_i\} 1 組にスピン配置がちょうど 2 個対応します。τi=−1\tau_i=-1 となるボンド(ドメインウォール)の数を MM と書くと、拘束は「MM は偶数」と同じことです。

各 σi\sigma_i が独立に 2 通りなので、状態数は

2N.2^N .

J>0J>0(強磁性的)のときは隣接スピンがそろうほどエネルギーが下がるので、基底状態は全部同じ向き、すなわち (↑↑↑⋯↑)(\uparrow\uparrow\uparrow\cdots\uparrow) と (↓↓↓⋯↓)(\downarrow\downarrow\downarrow\cdots\downarrow) です。

J<0J<0(反強磁性的)のときは隣接スピンが逆向きになるほどエネルギーが下がるので、基底状態は交替配置 (↑↓↑↓⋯↑↓)(\uparrow\downarrow\uparrow\downarrow\cdots\uparrow\downarrow) と、それを全部反転した (↓↑↓↑⋯↓↑)(\downarrow\uparrow\downarrow\uparrow\cdots\downarrow\uparrow) です。NN が偶数なので、この交替配置は周期境界条件と矛盾しません。

J>0J>0 では全ボンドで σiσi+1=+1\sigma_i\sigma_{i+1}=+1 なので E0=−NJE_0=-NJ、J<0J<0 では全ボンドで σiσi+1=−1\sigma_i\sigma_{i+1}=-1 なので E0=+NJ=−N∣J∣E_0=+NJ=-N|J| です。まとめると

E0=−N∣J∣,E_0=-N|J| ,

縮重度はどちらの場合も、全スピン反転に対応する 2 です。

この設問のねらいは、第一励起状態の縮重度を、スピンの向きの変わり目(ドメインウォール)の数え上げで求めることです。

以下 J>0J>0 とします。H=−J∑iτi=−J(N−2M)H=-J\sum_i\tau_i=-J(N-2M) なので、エネルギーは MM だけで決まり、MM は偶数しか取れません。基底状態は M=0M=0、第一励起状態は M=2M=2 です。M=1M=1(ドメインウォール 1 本)は輪の上では実現できない、というのがこの問題の要点です。

配置は、輪の上でスピンが向きをそろえた 2 つの区画に分かれたもの、たとえば

(↑⋯↑⏟区画 1 ↓⋯↓⏟区画 2)(\underbrace{\uparrow\cdots\uparrow}_{\text{区画 1}}\ \underbrace{\downarrow\cdots\downarrow}_{\text{区画 2}})

です。エネルギーは

E1=−J(N−4)E_1=-J(N-4)

で、基底状態より 4J4J だけ高くなります。縮重度は、NN 本のボンドから 2 本を選ぶ選び方 NC2=N(N−1)/2{}_NC_2=N(N-1)/2 に、全スピン反転の 2 を掛けて

g1=N(N−1).g_1=N(N-1).

M=0,2,4,…,NM=0,2,4,\dots,N(偶数)に対して

EM=−J(N−2M),gM=2 NCME_M=-J(N-2M),\qquad g_M=2\,{}_NC_M

です。最高エネルギーは M=NM=N の E=+NJE=+NJ(交替配置、縮重度 2)です。検算として全状態数を数えると

∑M: 偶2 NCM=2⋅2N−1=2N\sum_{M:\,\text{偶}}2\,{}_NC_M=2\cdot 2^{N-1}=2^N

で、設問1 と一致します。

β≡1/(kBT)\beta\equiv1/(k_{\mathrm B}T)、x≡e−2βJx\equiv e^{-2\beta J} と置きます。

Z=∑M: 偶2 NCM eβJ(N−2M)=2eβJN∑M: 偶NCM xM.Z=\sum_{M:\,\text{偶}}2\,{}_NC_M\,e^{\beta J(N-2M)} =2e^{\beta JN}\sum_{M:\,\text{偶}}{}_NC_M\,x^M .

与えられた二項展開を xx と −x-x に対して書いて足すと偶数項だけが残るので

∑M: 偶NCMxM=(1+x)N+(1−x)N2,\sum_{M:\,\text{偶}}{}_NC_M x^M=\frac{(1+x)^N+(1-x)^N}{2},

したがって

Z=eβJN[(1+x)N+(1−x)N]=(eβJ+e−βJ)N+(eβJ−e−βJ)N,Z=e^{\beta JN}\left[(1+x)^N+(1-x)^N\right] =\left(e^{\beta J}+e^{-\beta J}\right)^N+\left(e^{\beta J}-e^{-\beta J}\right)^N,

すなわち

Z=[2cosh⁡ ⁣(JkBT)]N+[2sinh⁡ ⁣(JkBT)]N.Z=\left[2\cosh\!\left(\frac{J}{k_{\mathrm B}T}\right)\right]^N+\left[2\sinh\!\left(\frac{J}{k_{\mathrm B}T}\right)\right]^N .

これは転送行列の 2 つの固有値 2cosh⁡βJ2\cosh\beta J、2sinh⁡βJ2\sinh\beta J の NN 乗の和という、よく知られた形です。T→∞T\to\infty で Z→2NZ\to 2^N となることも確認できます。

ZZ を第 1 項でくくると

Z=(2cosh⁡βJ)N[1+tanh⁡N ⁣βJ],Z=(2\cosh\beta J)^N\left[1+\tanh^N\!\beta J\right], FN=−kBTNln⁡Z=−kBTln⁡ ⁣(2cosh⁡βJ)−kBTNln⁡ ⁣(1+tanh⁡N ⁣βJ).\frac{F}{N}=-\frac{k_{\mathrm B}T}{N}\ln Z =-k_{\mathrm B}T\ln\!\left(2\cosh\beta J\right)-\frac{k_{\mathrm B}T}{N}\ln\!\left(1+\tanh^N\!\beta J\right).

T>0T>0 では 0≤tanh⁡βJ<10\le\tanh\beta J<1 なので tanh⁡N ⁣βJ→0\tanh^N\!\beta J\to0(N→∞N\to\infty)、第 2 項は N→∞N\to\infty で 00 に落ちます。よって 1 格子点当たりの自由エネルギーは

f=−kBTln⁡ ⁣[2cosh⁡ ⁣(JkBT)]f=-k_{\mathrm B}T\ln\!\left[2\cosh\!\left(\frac{J}{k_{\mathrm B}T}\right)\right]

です。第 2 項が落ちることが本質で、これは有限系にあった 2 つの転送行列(隣り合うスピンの組の重みを並べた 2 行 2 列の行列)固有値の競合が熱力学極限で消えること、言い換えれば 1 次元イジング模型が T>0T>0 で相転移を持たないことを表しています。

1 格子点当たりのエネルギーは βf=−ln⁡(2cosh⁡βJ)\beta f=-\ln(2\cosh\beta J) を β\beta で微分して

u=∂(βf)∂β=−Jtanh⁡ ⁣(JkBT).u=\frac{\partial(\beta f)}{\partial\beta}=-J\tanh\!\left(\frac{J}{k_{\mathrm B}T}\right).

エントロピーは s=−∂f/∂Ts=-\partial f/\partial T から

s=kBln⁡ ⁣[2cosh⁡ ⁣(JkBT)]−JTtanh⁡ ⁣(JkBT)s=k_{\mathrm B}\ln\!\left[2\cosh\!\left(\frac{J}{k_{\mathrm B}T}\right)\right]-\frac{J}{T}\tanh\!\left(\frac{J}{k_{\mathrm B}T}\right)

です。s=(u−f)/Ts=(u-f)/T を満たしていることが直接見て取れます。低温 T→0T\to0 では u→−Ju\to-J(設問3 の E0/NE_0/N に一致)、s→0s\to0 で第三法則と整合します。熱力学極限では、基底状態の 2 重縮退が 1 格子点当たりに与える寄与は kBln⁡2/N→0k_{\mathrm B}\ln2/N\to0 です。

高温では βJ≪1\beta J\ll1 として ln⁡(2cosh⁡βJ)=ln⁡2+(βJ)2/2+O((βJ)4)\ln(2\cosh\beta J)=\ln2+(\beta J)^2/2+O((\beta J)^4)、tanh⁡βJ=βJ−(βJ)3/3+⋯\tanh\beta J=\beta J-(\beta J)^3/3+\cdots を代入すると

skB=ln⁡2+(βJ)22−(βJ)2+O ⁣((βJ)4)=ln⁡2−(βJ)22+O ⁣((βJ)4),\frac{s}{k_{\mathrm B}}=\ln2+\frac{(\beta J)^2}{2}-(\beta J)^2+O\!\left((\beta J)^4\right) =\ln2-\frac{(\beta J)^2}{2}+O\!\left((\beta J)^4\right), s≃kBln⁡2−J22kBT2.s\simeq k_{\mathrm B}\ln2-\frac{J^2}{2k_{\mathrm B}T^2}.

T→∞T\to\infty で 1 格子点当たり kBln⁡2k_{\mathrm B}\ln2 に近づくのは、スピン 1 個当たり 2 状態が等確率になることに対応します。近づき方は T−2T^{-2} で、エネルギーの高温展開 u≃−J2/(kBT)u\simeq-J^2/(k_{\mathrm B}T) から出る比熱 c=du/dT≃J2/(kBT2)c=du/dT\simeq J^2/(k_{\mathrm B}T^2) を使った

s(∞)−s(T)=∫T∞c(T′)T′dT′≃J22kBT2s(\infty)-s(T)=\int_T^{\infty}\frac{c(T')}{T'}dT'\simeq\frac{J^2}{2k_{\mathrm B}T^2}

と整合しています。

第3問 遅延ポテンシャルと点電荷の双極放射

Section titled “第3問 遅延ポテンシャルと点電荷の双極放射”

MKSA 有理単位系で、ローレンツ条件のもとでの電磁ポテンシャルは

ϕ(r,t)=14πε0∫ρ(r′,t′)∣r−r′∣d3r′,A(r,t)=μ04π∫j(r′,t′)∣r−r′∣d3r′\phi(\boldsymbol{r},t)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int\frac{\rho(\boldsymbol{r}',t')}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|}d^3r', \qquad \boldsymbol{A}(\boldsymbol{r},t)=\frac{\mu_0}{4\pi}\int\frac{\boldsymbol{j}(\boldsymbol{r}',t')}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|}d^3r'

と書けます。c=1/ε0μ0c=1/\sqrt{\varepsilon_0\mu_0} です。これを電荷 ee の点粒子に適用して、v/cv/c の 1 次までのポテンシャルと、そこから出る放射場を求めます。最後に放射の角度分布を単振動と円運動について調べます。

場の点 (r,t)(\boldsymbol{r},t) での値に効くのは、そこまで電磁波が伝わる時間 ∣r−r′∣/c|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|/c だけ過去の源です。したがって

t′=t−∣r−r′∣ct'=t-\frac{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|}{c}

(遅延時刻)です。因果律から未来の解 t′=t+∣r−r′∣/ct'=t+|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|/c は捨てます。

電荷 ee の点粒子が時刻 t′t' に x(t′)\boldsymbol{x}(t') にいるので、電荷密度は 1 点に集中したデルタ関数、電流密度はそれに速度を掛けたものです。

ρ(r′,t′)=e δ3 ⁣(r′−x(t′)),j(r′,t′)=e v(t′) δ3 ⁣(r′−x(t′)),v=dxdt′.\rho(\boldsymbol{r}',t')=e\,\delta^3\!\left(\boldsymbol{r}'-\boldsymbol{x}(t')\right), \qquad \boldsymbol{j}(\boldsymbol{r}',t')=e\,\boldsymbol{v}(t')\,\delta^3\!\left(\boldsymbol{r}'-\boldsymbol{x}(t')\right), \qquad \boldsymbol{v}=\frac{d\boldsymbol{x}}{dt'} .

∫ρ d3r′=e\int\rho\,d^3r'=e、∫j d3r′=ev\int\boldsymbol{j}\,d^3r'=e\boldsymbol{v} で、連続の式 ∂ρ/∂t′+∇′ ⁣⋅j=0\partial\rho/\partial t'+\nabla'\!\cdot\boldsymbol{j}=0 も満たします。

ここでのねらいは、源が動いていても遠方での場を簡単な形に落とすことです。分母の距離は近似して rr とおいて構いませんが、時刻の中の距離は電磁波が届くまでの遅れを決めるので、その変化分だけは残します。

分母は指示に従って 1/∣r−r′∣→1/r1/|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|\to 1/r とします。一方、遅延時刻の中の ∣r−r′∣|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'| は源の時間変化を通じて効くので、∣x∣≪r|\boldsymbol{x}|\ll r の 1 次まで残す必要があります。

∣r−r′∣=r−r^⋅r′+O ⁣(∣r′∣2r)⟹t′=t0+r^⋅r′c,t0=t−rc.|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|=r-\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{r}'+O\!\left(\frac{|\boldsymbol{r}'|^2}{r}\right) \quad\Longrightarrow\quad t'=t_0+\frac{\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{r}'}{c},\qquad t_0=t-\frac{r}{c}.

これをスカラーポテンシャルに入れて r^⋅r′/c\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{r}'/c の 1 次まで展開します。

ϕ(r,t)=14πε0r∫ρ ⁣(r′,t0+r^⋅r′c)d3r′≃14πε0r[∫ρ(r′,t0) d3r′+1c∂∂t∫(r^⋅r′)ρ(r′,t0) d3r′].\begin{aligned} \phi(\boldsymbol{r},t) &=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0 r}\int \rho\!\left(\boldsymbol{r}',t_0+\frac{\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{r}'}{c}\right)d^3r'\\ &\simeq\frac{1}{4\pi\varepsilon_0 r}\left[\int\rho(\boldsymbol{r}',t_0)\,d^3r' +\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t}\int(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{r}')\rho(\boldsymbol{r}',t_0)\,d^3r'\right]. \end{aligned}

第 1 項は全電荷 ee、第 2 項の積分は e r^⋅x(t0)e\,\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{x}(t_0) なので、t0t_0 の tt 微分が 1 であることを使って

ϕ(r,t)=e4πε0r(1+r^⋅v(t0)c)\phi(\boldsymbol{r},t)=\frac{e}{4\pi\varepsilon_0 r}\left(1+\frac{\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{v}(t_0)}{c}\right)

を得ます。展開の各項の比は ∣x∣ω/c∼v/c|\boldsymbol{x}|\omega/c\sim v/c(ω\omega は運動の典型的な角振動数)なので、これは v/cv/c の 1 次までの近似です。

ベクトルポテンシャルは j\boldsymbol{j} 自体がすでに v/cv/c の 1 次なので、遅延時刻の展開は 2 次に落ちます。

A(r,t)≃μ04πr∫j(r′,t0) d3r′=μ0e v(t0)4πr=e v(t0)4πε0c2r,\boldsymbol{A}(\boldsymbol{r},t)\simeq\frac{\mu_0}{4\pi r}\int\boldsymbol{j}(\boldsymbol{r}',t_0)\,d^3r' =\frac{\mu_0 e\,\boldsymbol{v}(t_0)}{4\pi r} =\frac{e\,\boldsymbol{v}(t_0)}{4\pi\varepsilon_0c^2 r},

すなわち

cA(r,t)=e4πε0rv(t0)cc\boldsymbol{A}(\boldsymbol{r},t)=\frac{e}{4\pi\varepsilon_0 r}\frac{\boldsymbol{v}(t_0)}{c}

です。μ0=1/(ε0c2)\mu_0=1/(\varepsilon_0c^2) を使いました。

1/r1/r に比例する項だけを残します。空間微分が 1/r1/r や r^\hat{\boldsymbol{r}} に作用すると 1/r21/r^2 以上になるので落ち、t0=t−r/ct_0=t-r/c を通じて作用する分だけが残ります。∇t0=−r^/c\nabla t_0=-\hat{\boldsymbol{r}}/c です。

−∇ϕ=−e4πε0cr∇ ⁣(r^⋅v(t0))+O(r−2)=−e4πε0cr(r^⋅a(t0))(−r^c)=e4πε0c2rr^(r^⋅a(t0)),-\nabla\phi =-\frac{e}{4\pi\varepsilon_0 cr}\nabla\!\left(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{v}(t_0)\right)+O(r^{-2}) =-\frac{e}{4\pi\varepsilon_0 cr}\left(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{a}(t_0)\right)\left(-\frac{\hat{\boldsymbol{r}}}{c}\right) =\frac{e}{4\pi\varepsilon_0c^2r}\hat{\boldsymbol{r}}\left(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{a}(t_0)\right), −∂A∂t=−e4πε0c2ra(t0).-\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}=-\frac{e}{4\pi\varepsilon_0c^2r}\boldsymbol{a}(t_0).

足して、与えられたベクトル積の公式を X=Y=r^\boldsymbol{X}=\boldsymbol{Y}=\hat{\boldsymbol{r}}、Z=a\boldsymbol{Z}=\boldsymbol{a} に対して使うと r^×(r^×a)=r^(r^⋅a)−a\hat{\boldsymbol{r}}\times(\hat{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{a})=\hat{\boldsymbol{r}}(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{a})-\boldsymbol{a} なので

E(r,t)=e4πε0c2r r^×(r^×a(t0)).\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r},t)=\frac{e}{4\pi\varepsilon_0c^2r}\,\hat{\boldsymbol{r}}\times\left(\hat{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{a}(t_0)\right).

磁束密度も同様に、∇×\nabla\times が t0t_0 に作用する分だけを残します。成分で書くと

[∇×v(t0)]i=ϵijk ∂jt0 ak=−1c(r^×a)i\left[\nabla\times\boldsymbol{v}(t_0)\right]_i=\epsilon_{ijk}\,\partial_j t_0\,a_k=-\frac{1}{c}\left(\hat{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{a}\right)_i

なので

B=∇×A=−e4πε0c3r r^×a(t0),cB(r,t)=−e4πε0c2r r^×a(t0)\boldsymbol{B}=\nabla\times\boldsymbol{A}=-\frac{e}{4\pi\varepsilon_0c^3r}\,\hat{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{a}(t_0), \qquad c\boldsymbol{B}(\boldsymbol{r},t)=-\frac{e}{4\pi\varepsilon_0c^2r}\,\hat{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{a}(t_0)

となり、(3) 式が示されました。E\boldsymbol{E}、B\boldsymbol{B}、r^\hat{\boldsymbol{r}} は互いに直交し ∣E∣=c∣B∣|\boldsymbol{E}|=c|\boldsymbol{B}| で、ポインティングベクトルは S=E×B/μ0=ε0c∣E∣2r^\boldsymbol{S}=\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B}/\mu_0=\varepsilon_0c|\boldsymbol{E}|^2\hat{\boldsymbol{r}} と外向きになります。放射場らしい性質を持っていることが確認できます。

放射の強度は ∣S∣=ε0c∣E∣2|\boldsymbol{S}|=\varepsilon_0c|\boldsymbol{E}|^2 で、(3) 式から

∣E∣2∝∣r^×(r^×a)∣2=∣a∣2−(r^⋅a)2|\boldsymbol{E}|^2\propto\left|\hat{\boldsymbol{r}}\times(\hat{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{a})\right|^2 =|\boldsymbol{a}|^2-(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{a})^2

です。加速度の r^\hat{\boldsymbol{r}} に垂直な成分だけが放射に効きます。

xx 軸上の単振動 x(t)=bcos⁡ωt x^\boldsymbol{x}(t)=b\cos\omega t\,\hat{\boldsymbol{x}} では a(t)=−ω2bcos⁡ωt x^\boldsymbol{a}(t)=-\omega^2b\cos\omega t\,\hat{\boldsymbol{x}} で、向きはつねに xx 軸方向です。r^\hat{\boldsymbol{r}} と xx 軸のなす角を Θ\Theta とすると

∣a∣2−(r^⋅a)2=ω4b2cos⁡2 ⁣ωt sin⁡2Θ,|\boldsymbol{a}|^2-(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{a})^2=\omega^4b^2\cos^2\!\omega t\,\sin^2\Theta ,

一周期平均は ⟨cos⁡2ωt⟩=1/2\langle\cos^2\omega t\rangle=1/2 より 12ω4b2sin⁡2Θ\tfrac12\omega^4b^2\sin^2\Theta です。Θ\Theta 依存性は sin⁡2Θ\sin^2\Theta だけなので、強度が最大になるのは Θ=π/2\Theta=\pi/2、すなわち振動方向に垂直な向きです。

答えは、半径 rr の球面と yzyz 平面が交わる大円(x=0x=0 の円)上のすべての点です。逆に xx 軸上(Θ=0,π\Theta=0,\pi)では強度がちょうど 0 になります。加速度に平行な向きには放射しない、という双極放射の基本的な性質です。

xyxy 平面内の等速円運動 x(t)=b(cos⁡ωt, sin⁡ωt, 0)\boldsymbol{x}(t)=b(\cos\omega t,\ \sin\omega t,\ 0) では

a(t)=−ω2b(cos⁡ωt, sin⁡ωt, 0),∣a∣=ω2b=一定\boldsymbol{a}(t)=-\omega^2b(\cos\omega t,\ \sin\omega t,\ 0),\qquad |\boldsymbol{a}|=\omega^2 b=\text{一定}

で、大きさは一定ですが向きが xyxy 平面内を回ります。r^=(sin⁡θcos⁡φ,sin⁡θsin⁡φ,cos⁡θ)\hat{\boldsymbol{r}}=(\sin\theta\cos\varphi,\sin\theta\sin\varphi,\cos\theta) と書くと

(r^⋅a)2=ω4b2sin⁡2θ cos⁡2(ωt−φ),(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{a})^2=\omega^4b^2\sin^2\theta\,\cos^2(\omega t-\varphi),

一周期平均は 12ω4b2sin⁡2θ\tfrac12\omega^4b^2\sin^2\theta です。したがって

⟨∣a∣2−(r^⋅a)2⟩=ω4b2(1−sin⁡2θ2)=ω4b22(1+cos⁡2θ).\left\langle|\boldsymbol{a}|^2-(\hat{\boldsymbol{r}}\cdot\boldsymbol{a})^2\right\rangle =\omega^4b^2\left(1-\frac{\sin^2\theta}{2}\right) =\frac{\omega^4b^2}{2}\left(1+\cos^2\theta\right).

cos⁡2θ\cos^2\theta が最大になるのは θ=0,π\theta=0,\pi なので、答えは球面と zz 軸が交わる 2 点(回転面に垂直な方向、(0,0,±r)(0,0,\pm r))です。

理由は加速度の向きに帰着します。zz 軸上から見ると加速度はつねに視線に垂直なので、∣a∣|\boldsymbol{a}| が丸ごと放射に効きます。一方 xyxy 平面内から見ると、加速度は一周期の間に視線に垂直な向きと平行な向きを行き来するので、平均すると半分しか効きません。実際、極での強度は赤道での強度の 2 倍です。

静止した観測者の系 (t,x)(t,x) で 1 次元運動するロケットを考えます。ロケットに固定した時計の示す時間が固有時間 τ\tau です。速度 4 元ベクトルは uμ=(c dt/dτ, dx/dτ)u^\mu=(c\,dt/d\tau,\ dx/d\tau)、加速度 4 元ベクトルは aμ=duμ/dτa^\mu=du^\mu/d\tau で、内積は uμvμ≡u0v0−u1v1u^\mu v_\mu\equiv u^0v^0-u^1v^1 です。「等加速度運動」は、瞬間静止系で見た加速度が一定値 g>0g>0 であることを意味します。

固有時間は微小区間ごとに定義して足し上げます。時刻 tt でのロケットの速度を v=dx(t)/dtv=dx(t)/dt とし、この vv で運動する座標系 (t′,x′)(t',x') を取ると、この瞬間ロケットはその系で静止しているので、ロケットの時計の進みは dτ=dt′d\tau=dt' です。与えられたローレンツ変換

ct′=ct1−(v/c)2−(v/c) x1−(v/c)2ct'=\frac{ct}{\sqrt{1-(v/c)^2}}-\frac{(v/c)\,x}{\sqrt{1-(v/c)^2}}

を vv を固定して微分すると

c dt′=c dt−(v/c) dx1−(v/c)2.c\,dt'=\frac{c\,dt-(v/c)\,dx}{\sqrt{1-(v/c)^2}} .

ロケットの世界線上では dx=v dtdx=v\,dt なので

c dt′=c dt(1−v2/c2)1−(v/c)2=c dt1−(vc)2,c\,dt'=\frac{c\,dt\left(1-v^2/c^2\right)}{\sqrt{1-(v/c)^2}}=c\,dt\sqrt{1-\left(\frac{v}{c}\right)^2}, dτ=dt1−1c2(dxdt)2=1cdtc2−(dx(t)dt)2.d\tau=dt\sqrt{1-\frac{1}{c^2}\left(\frac{dx}{dt}\right)^2}=\frac{1}{c}dt\sqrt{c^2-\left(\frac{dx(t)}{dt}\right)^2} .

各瞬間ごとに別の瞬間静止系を使いますが、上の関係は各瞬間で独立に成り立つので、t1t_1 から t2t_2 まで積分して

Δτ=1c∫t1t2dtc2−(dx(t)dt)2\Delta\tau=\frac{1}{c}\int_{t_1}^{t_2}dt\sqrt{c^2-\left(\frac{dx(t)}{dt}\right)^2}

が得られます。

設問1 の結果を c2dτ2=c2dt2−dx2c^2d\tau^2=c^2dt^2-dx^2 と書き直しておきます。すると

uμuμ=c2(dtdτ)2−(dxdτ)2=c2dt2−dx2dτ2=c2dτ2dτ2=c2.u^\mu u_\mu=c^2\left(\frac{dt}{d\tau}\right)^2-\left(\frac{dx}{d\tau}\right)^2 =\frac{c^2dt^2-dx^2}{d\tau^2}=\frac{c^2d\tau^2}{d\tau^2}=c^2 .

これを τ\tau で微分します。計量が定数なので

0=ddτ(uμuμ)=2uμduμdτ=2uμaμ⟹uμaμ=0.0=\frac{d}{d\tau}\left(u^\mu u_\mu\right)=2u^\mu\frac{du_\mu}{d\tau}=2u^\mu a_\mu \quad\Longrightarrow\quad u^\mu a_\mu=0 .

uμuμ=c2u^\mu u_\mu=c^2 が恒等的に成り立つので、その微分から加速度は速度と(この内積の意味で)つねに直交します。

瞬間静止系では uμ=(c,0)u^\mu=(c,0) です。この系での加速度の空間成分が正方向に gg なので aμ=(a0,g)a^\mu=(a^0,g) と書けます。設問2 の uμaμ=0u^\mu a_\mu=0 を使うと c a0−0⋅g=0c\,a^0-0\cdot g=0、すなわち a0=0a^0=0 です。よってこの系で

aμaμ=(a0)2−(a1)2=−g2.a^\mu a_\mu=(a^0)^2-(a^1)^2=-g^2 .

aμaμa^\mu a_\mu はローレンツ不変量なので、どの慣性系でも aμaμ=−g2a^\mu a_\mu=-g^2 が成り立ちます。

観測者系で運動方程式を作ります。3 つの関係

(a0)2−(a1)2=−g2,u0a0−u1a1=0,(u0)2−(u1)2=c2(a^0)^2-(a^1)^2=-g^2,\qquad u^0a^0-u^1a^1=0,\qquad (u^0)^2-(u^1)^2=c^2

を連立します。u0≥c>0u^0\ge c>0 なので第 2 式から a0=u1a1/u0a^0=u^1a^1/u^0、これを第 1 式に入れると

(a1)2(u1)2−(u0)2(u0)2=−g2⟹(a1)2=g2(u0)2c2.(a^1)^2\frac{(u^1)^2-(u^0)^2}{(u^0)^2}=-g^2 \quad\Longrightarrow\quad (a^1)^2=\frac{g^2(u^0)^2}{c^2}.

正方向に加速しているので a1=+gcu0a^1=+\dfrac{g}{c}u^0 を取り、これを a0=u1a1/u0a^0=u^1a^1/u^0 に戻して a0=gcu1a^0=\dfrac{g}{c}u^1 です。すなわち

du0(τ)dτ=gcu1(τ),du1(τ)dτ=gcu0(τ)\frac{du^0(\tau)}{d\tau}=\frac{g}{c}u^1(\tau), \qquad \frac{du^1(\tau)}{d\tau}=\frac{g}{c}u^0(\tau)

で、(2) 式が導かれました。

初期条件は τ=0\tau=0 で t=x=0t=x=0、dx/dt=0dx/dt=0、したがって u1(0)=0u^1(0)=0、u0(0)=cu^0(0)=c です。(2) 式は双曲線関数の方程式なので

u0(τ)=ccosh⁡gτc,u1(τ)=csinh⁡gτcu^0(\tau)=c\cosh\frac{g\tau}{c},\qquad u^1(\tau)=c\sinh\frac{g\tau}{c}

が解です((u0)2−(u1)2=c2(u^0)^2-(u^1)^2=c^2 を自動的に満たします)。定義に戻って積分すると

dtdτ=cosh⁡gτc ⟹ t(τ)=cgsinh⁡gτc,\frac{dt}{d\tau}=\cosh\frac{g\tau}{c}\ \Longrightarrow\ t(\tau)=\frac{c}{g}\sinh\frac{g\tau}{c}, dxdτ=csinh⁡gτc ⟹ x(τ)=c2g(cosh⁡gτc−1).\frac{dx}{d\tau}=c\sinh\frac{g\tau}{c}\ \Longrightarrow\ x(\tau)=\frac{c^2}{g}\left(\cosh\frac{g\tau}{c}-1\right).

gτ/c≪1g\tau/c\ll1 では t≃τt\simeq\tau、x≃gτ2/2x\simeq g\tau^2/2 でニュートン力学の等加速度運動に戻ります。また τ\tau を消去すると

x(t)=c2g(1+(gtc)2−1)x(t)=\frac{c^2}{g}\left(\sqrt{1+\left(\frac{gt}{c}\right)^2}-1\right)

で、t→∞t\to\infty では x→ct−c2/gx\to ct-c^2/g、つまり世界線は光の世界線 x=c(t−c/g)x=c(t-c/g) に漸近します。この事実は設問6 で使います。

まず 2 つの基準量を評価します。

cg=3×10810=3×107 s=3×1073.1×107 年=0.97 年,\frac{c}{g}=\frac{3\times10^8}{10}=3\times10^7\ \mathrm{s}=\frac{3\times10^7}{3.1\times10^7}\ \text{年}=0.97\ \text{年}, c2g=c⋅cg=9×1015 m,1 光年=3×108×3.1×107=9.3×1015 m\frac{c^2}{g}=c\cdot\frac{c}{g}=9\times10^{15}\ \mathrm{m},\qquad 1\ \text{光年}=3\times10^8\times3.1\times10^7=9.3\times10^{15}\ \mathrm{m}

なので c2/g=0.97c^2/g=0.97 光年です。つまり c/g≃1c/g\simeq1 年、c2/g≃1c^2/g\simeq1 光年で、この問題ではどちらもほぼ 1 になります。

x=3×104x=3\times10^4 光年を代入すると

cosh⁡gτc=1+gxc2=1+3×1040.97=1+3.1×104≃3.1×104.\cosh\frac{g\tau}{c}=1+\frac{gx}{c^2}=1+\frac{3\times10^4}{0.97}=1+3.1\times10^4\simeq3.1\times10^4 .

引数が大きいので cosh⁡ξ≃eξ/2\cosh\xi\simeq e^{\xi}/2 を使い

gτc=ln⁡(6.2×104)=ln⁡6.2+4ln⁡10≃1.8+4×2.3=11.0,\frac{g\tau}{c}=\ln\left(6.2\times10^4\right)=\ln6.2+4\ln10\simeq1.8+4\times2.3=11.0 , τ=11.0×cg=11.0×0.97 年=10.7 年.\tau=11.0\times\frac{c}{g}=11.0\times0.97\ \text{年}=10.7\ \text{年}.

有効数字 1 桁で τ≃1×101\tau\simeq1\times10^1 年、すなわち約 10 年です。銀河中心まで 3 万光年あるのに、ロケットの乗員には 10 年ほどしか経ちません。地球の座標系では t=(c/g)sinh⁡(11.0)≃3×104t=(c/g)\sinh(11.0)\simeq3\times10^4 年かかっており、固有時間が対数的にしか増えないことが効いています。

この設問のねらいは、原点から出した光がロケットで反射して戻るまでの時間を求め、信号が返ってこなくなる時刻を見ることです。

時刻 tt に原点から出した光は X(t~)=c(t~−t)X(\tilde t)=c(\tilde t-t) に沿って進みます。これがロケットに当たる時刻 t1t_1 は

c(t1−t)=c2g(1+(gt1c)2−1)c(t_1-t)=\frac{c^2}{g}\left(\sqrt{1+\left(\frac{gt_1}{c}\right)^2}-1\right)

で決まります。反射光が原点に戻る時刻は t2=t1+x(t1)/c=t1+(t1−t)=2t1−tt_2=t_1+x(t_1)/c=t_1+(t_1-t)=2t_1-t なので、求める時間間隔は Δt=t2−t=2(t1−t)\Delta t=t_2-t=2(t_1-t) です。

T≡c/gT\equiv c/g、s≡t/Ts\equiv t/T、u≡t1/Tu\equiv t_1/T と無次元化すると上の式は u−s=1+u2−1u-s=\sqrt{1+u^2}-1、すなわち u+(1−s)=1+u2u+(1-s)=\sqrt{1+u^2} です。両辺を 2 乗して u2u^2 を消すと

2u(1−s)=1−(1−s)2⟹u=1−(1−s)22(1−s),u−s=s22(1−s).2u(1-s)=1-(1-s)^2 \quad\Longrightarrow\quad u=\frac{1-(1-s)^2}{2(1-s)}, \qquad u-s=\frac{s^2}{2(1-s)} .

したがって

Δt=2T(u−s)=Ts21−s=t2cg−t=g t2c−g t(0≤t<cg).\Delta t=2T(u-s)=\frac{T s^2}{1-s}=\frac{t^2}{\dfrac{c}{g}-t}=\frac{g\,t^2}{c-g\,t} \qquad\left(0\le t<\frac{c}{g}\right).

gt≪cgt\ll c では Δt≃gt2/c=2⋅(gt2/2)/c\Delta t\simeq gt^2/c=2\cdot(gt^2/2)/c で、非相対論的な「往復距離 2x2x を光速で割った値」に一致します。

観測が不能になるのは t≥c/gt\ge c/g の場合です。上の解は s<1s<1 でしか存在せず、t→c/g−0t\to c/g-0 で Δt→∞\Delta t\to\infty に発散します。理由は設問4 の最後に見た漸近形で、ロケットの世界線は光の世界線 x=c(t−c/g)x=c(t-c/g) に下から漸近します。時刻 t≥c/gt\ge c/g に原点を出た光は、この漸近線と同じかそれより後ろを走ることになり、加速し続けるロケットに永久に追いつけません。x=c(t−c/g)x=c(t-c/g) がこの一定加速度運動する物体に対する事象の地平線(リンドラー地平線)です。g=10 m/s2g=10\ \mathrm{m/s^2} なら c/g≃1c/g\simeq1 年なので、打ち上げから 1 年ほど経った後に送った信号はもう返ってきません。tt を c/gc/g に近づけていくと、返ってくる時刻が急激に遅れ、同時に反射光は強く赤方偏移して観測が実際上不可能になります。

第5問 雲母の干渉色と複屈折くさびによる段差測定

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前半は、反射率の高い基板に貼った雲母薄膜がステップごとに違う色に見える理由です。膜厚は dj=d0+jΔdd_j=d_0+j\Delta d(jj は整数)で、Δd\Delta d が求めたい未知量です。

後半は、それを可視光で測るデバイスです。+45∘+45^\circ 方向の偏光板 A、厚さ D(x)D(x) のくさび形水晶、−45∘-45^\circ 方向の検光板 B を並べます。水晶は複屈折性を持ち、xx 軸方向に偏光した成分(屈折率 n1n_1)と yy 軸方向の成分(屈折率 n2n_2)で位相の進みが違います。入射側では

Ex=A2cos⁡(k1z−ωt),Ey=A2cos⁡(k2z−ωt),k1=2πn1λ, k2=2πn2λ,E_x=\frac{A}{\sqrt2}\cos(k_1z-\omega t),\quad E_y=\frac{A}{\sqrt2}\cos(k_2z-\omega t),\quad k_1=\frac{2\pi n_1}{\lambda},\ k_2=\frac{2\pi n_2}{\lambda},

出射位置では

Ex=A2cos⁡Φ(D,t),Ey=A2cos⁡(Φ(D,t)+δ(D)),Φ(D,t)=k1D−ωtE_x=\frac{A}{\sqrt2}\cos\Phi(D,t),\qquad E_y=\frac{A}{\sqrt2}\cos\left(\Phi(D,t)+\delta(D)\right),\qquad \Phi(D,t)=k_1D-\omega t

と書けます。くさびの頂角は θ=0.1 mrad\theta=0.1\ \mathrm{mrad} で、頂点からの距離を xx として D(x)=θxD(x)=\theta x です。Δn=n2−n1\Delta n=n_2-n_1 の波長依存性は無視します。

上面(空気と雲母の境界)で反射した光と、雲母を往復して基板で反射した光が干渉します。垂直入射なので幾何学的な往復距離は 2dj2d_j、光路長差は 2ndj2nd_j です。位相の飛びを数えます。上面の反射は低屈折率側(空気)から高屈折率側(雲母)への反射なので、電場の位相が π\pi 飛びます。基板は反射率の高い面、すなわち金属鏡(あるいは雲母よりはるかに屈折率の高い媒質)なので、そこでの反射でも位相は π\pi 飛びます。両方の反射光が同じだけ位相を失うため相対位相差は光路長差だけで決まり、反射光が強め合う条件は

2n dj=m λj⟺λj=2n djm(m=1,2,3,… )2n\,d_j=m\,\lambda_j \qquad\Longleftrightarrow\qquad \lambda_j=\frac{2n\,d_j}{m}\quad(m=1,2,3,\dots)

です。膜厚 djd_j がステップごとに Δd\Delta d ずつ違うので、この条件を可視域で満たす波長 λj\lambda_j もステップごとに違い、白色光の下では段差ごとに違う色が見えます。反射スペクトルの形(どの波長が強め合い、どの波長が打ち消すか)を決めているのが光学的往復距離 2ndj2nd_j だという点を、以下の設問で使います。基板の反射率が高いのは、下面反射の振幅を上面反射と同程度以上に大きくして干渉のコントラストを上げるためです。

厚さ DD を通過したあとの 2 成分の位相差は、波数の差に厚さを掛けたものです。

δ(D)=(k2−k1)D=2π(n2−n1)Dλ=2π Δn Dλ.\delta(D)=(k_2-k_1)D=\frac{2\pi(n_2-n_1)D}{\lambda}=\frac{2\pi\,\Delta n\,D}{\lambda}.

検光板 B は −45∘-45^\circ 方向、すなわち単位ベクトル (x^−y^)/2(\hat{\boldsymbol{x}}-\hat{\boldsymbol{y}})/\sqrt2 の成分だけを通します。

EB=Ex−Ey2=A2[cos⁡Φ−cos⁡(Φ+δ)]=Asin⁡δ2 sin⁡ ⁣(Φ+δ2).E_B=\frac{E_x-E_y}{\sqrt2} =\frac{A}{2}\left[\cos\Phi-\cos(\Phi+\delta)\right] =A\sin\frac{\delta}{2}\,\sin\!\left(\Phi+\frac{\delta}{2}\right).

強度は時間平均 ⟨sin⁡2(Φ+δ/2)⟩=1/2\langle\sin^2(\Phi+\delta/2)\rangle=1/2 を使って

I=⟨EB2⟩=A22sin⁡2δ(D)2I=\left\langle E_B^2\right\rangle=\frac{A^2}{2}\sin^2\frac{\delta(D)}{2}

です。偏光板 A を出た直後の強度が ⟨Ex2+Ey2⟩=A2/2\langle E_x^2+E_y^2\rangle=A^2/2 なので、透過率は sin⁡2(δ/2)\sin^2(\delta/2) と書けます。δ=0\delta=0(複屈折なし)では直交する偏光板の組なので I=0I=0 になり、正しい極限です。

sin⁡2(δ/2)=1\sin^2(\delta/2)=1 のとき最大です。すなわち

δ(D)2=π2+Mπ⟺δ(D)=(2M+1)π(M=0,1,2,… ),\frac{\delta(D)}{2}=\frac{\pi}{2}+M\pi \qquad\Longleftrightarrow\qquad \delta(D)=(2M+1)\pi\quad(M=0,1,2,\dots),

π\pi の奇数倍のときに透過光強度が最大になります。このとき Δn D=(M+12)λ\Delta n\,D=(M+\tfrac12)\lambda、言い換えれば

λ=2 Δn D2M+1\lambda=\frac{2\,\Delta n\,D}{2M+1}

の波長が最もよく透過します。

くさびなので水晶の厚さは位置の関数で D(x)=θxD(x)=\theta x です。スリットを xx 方向に動かすと、スリットが選び出す場所の厚さ DD が変わります。設問4 の条件

λ=2 Δn D(x)2M+1\lambda=\frac{2\,\Delta n\,D(x)}{2M+1}

から、透過強度が最大になる波長は DD に比例して変わります。白色光を入れておけば、この条件を満たす波長の光だけが検光板 B を通り抜けてくるので、スリット位置を動かすと通ってくる光の波長(見える色)が変わります。

スリットの移動量 Δx=2.5 mm\Delta x=2.5\ \mathrm{mm} に対応する水晶の厚さの変化が ΔD\Delta D です。頂角が十分小さいので

ΔD=θ Δx=(1.0×10−4)×(2.5×10−3 m)=2.5×10−7 m=250 nm.\Delta D=\theta\,\Delta x=(1.0\times10^{-4})\times(2.5\times10^{-3}\ \mathrm{m})=2.5\times10^{-7}\ \mathrm{m}=250\ \mathrm{nm}.

答えは ΔD=2.5×10−7 m\Delta D=2.5\times10^{-7}\ \mathrm{m}(250 nm)です。

雲母の反射スペクトルは、波長には位相 2π⋅2ndj/λ2\pi\cdot 2nd_j/\lambda を通じてしか依存しません(設問1)。同様に、デバイスの透過スペクトルは位相 2π⋅ΔnD/λ2\pi\cdot\Delta n D/\lambda だけで決まります(設問3・設問4)。つまりどちらの色も、光学的な行路差(リターデーション)2ndj2nd_j と ΔnD\Delta n D という 1 個の長さで指定されます。反射(cos⁡2\cos^2 型)と透過(sin⁡2\sin^2 型)でスペクトルの形は半周期ずれていますが、このずれはスリット位置にも膜厚にもよらない一定のものなので、色を合わせたスリット位置の差を考えるときには落ちます。

雲母の厚さが 1 ステップ Δd\Delta d 変わると、雲母側のリターデーションは 2nΔd2n\Delta d 変わります。同じ色の変化をデバイス側で再現するには、水晶のリターデーションを同じ量だけ変える必要があり、それに要する水晶厚の変化が単位移動量に対応する ΔD\Delta D です。したがって

2n Δd=Δn ΔD⟺Δd=Δn2nΔD.2n\,\Delta d=\Delta n\,\Delta D \qquad\Longleftrightarrow\qquad \Delta d=\frac{\Delta n}{2n}\Delta D .

雲母の光路長差の変化 2nΔd2n\Delta d と、水晶が作るリターデーションの変化 ΔnΔD\Delta n\Delta D が等しい、というのが関係式の意味です。設問6 で見た「スリット位置の差がつねに一定値 ΔD\Delta D の整数倍」という規則性は、雲母の厚さが Δd\Delta d の整数倍でしか変わらないことの反映です。

設問6・設問7 の結果に数値を入れます。

Δd=Δn2nΔD=0.0092×1.5×2.5×10−7 m=3.0×10−3×2.5×10−7 m=7.5×10−10 m.\Delta d=\frac{\Delta n}{2n}\Delta D=\frac{0.009}{2\times1.5}\times2.5\times10^{-7}\ \mathrm{m} =3.0\times10^{-3}\times2.5\times10^{-7}\ \mathrm{m}=7.5\times10^{-10}\ \mathrm{m}.

答えは Δd=7.5×10−10 m=0.75 nm\Delta d=7.5\times10^{-10}\ \mathrm{m}=0.75\ \mathrm{nm} です。雲母(白雲母)の劈開は 1 層ごとに起こり、1 層の厚さは 1 nm 程度なので、得られた値はその 1 単位に相当する妥当な大きさです。

感度も確認しておきます。この操作でのリターデーションの変化は ΔnΔD=2nΔd=2.25 nm\Delta n\Delta D=2n\Delta d=2.25\ \mathrm{nm} です。デバイスの条件 ΔnD=(M+12)λ\Delta n D=(M+\tfrac12)\lambda を λ\lambda について解いて微分すると Δλ=Δ(ΔnD)/(M+12)\Delta\lambda=\Delta(\Delta nD)/(M+\tfrac12) なので、最低次 M=0M=0 では

Δλ=2.25 nm1/2=4.5 nm\Delta\lambda=\frac{2.25\ \mathrm{nm}}{1/2}=4.5\ \mathrm{nm}

です。問題文の「ヒトの眼は数 nm のスペクトル差を検出できる」という条件とちょうど見合っており、スリット移動量の最小単位が 2.5 mm として見分けられたことと整合します。

第6問 半導体のホール係数と4端子法

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設問1 は、nn 型半導体のホール係数の大きさ ∣RH∣|R_{\mathrm H}| を 1/T1/T に対して片対数プロットした図 1 の読み取りです。図では 3 つの領域が現れます。1/T≲1.2×10−3 K−11/T\lesssim1.2\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}} の領域 A では ∣RH∣|R_{\mathrm H}| が 10−610^{-6} から 10−3 m3/C10^{-3}\ \mathrm{m^3/C} まで急に立ち上がり、1.2×10−3≲1/T≲4×10−31.2\times10^{-3}\lesssim1/T\lesssim4\times10^{-3} の領域 B では ∣RH∣=1.0×10−3 m3/C|R_{\mathrm H}|=1.0\times10^{-3}\ \mathrm{m^3/C} で平らになり、4×10−3≤1/T≤12×10−34\times10^{-3}\le1/T\le12\times10^{-3} の領域 C では 10−310^{-3} から 10−2 m3/C10^{-2}\ \mathrm{m^3/C} へ直線的に増えます。伝導帯の底は等方的で単一の極小、不純物はドナーのみ、e=1.60×10−19 Ce=1.60\times10^{-19}\ \mathrm{C}、ln⁡10=2.30\ln10=2.30 が与えられています。以下 kB=1.38×10−23 J/Kk_{\mathrm B}=1.38\times10^{-23}\ \mathrm{J/K}、水素原子のボーア半径 aB=0.053 nma_{\mathrm B}=0.053\ \mathrm{nm} を使います。

設問2 は短冊型試料の 4 端子測定です。寸法は L=5 mmL=5\ \mathrm{mm}、ℓ=3 mm\ell=3\ \mathrm{mm}、w=1 mmw=1\ \mathrm{mm}、d=0.1 mmd=0.1\ \mathrm{mm} で、端子 (1)-(2) が電流端子、その内側の (3)-(4) が電圧端子(間隔 ℓ\ell)です。

室温 300 K300\ \mathrm{K} は 1/T=3.3×10−3 K−11/T=3.3\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}} で、図 1 の領域 B にあたります。そこでは ∣RH∣=1.0×10−3 m3/C|R_{\mathrm H}|=1.0\times10^{-3}\ \mathrm{m^3/C} です。nn 型でキャリアーが電子 1 種類だけなら RH=−1/(ne)R_{\mathrm H}=-1/(ne) なので

n=1e ∣RH∣=11.60×10−19×1.0×10−3=6.3×1021 m−3.n=\frac{1}{e\,|R_{\mathrm H}|}=\frac{1}{1.60\times10^{-19}\times1.0\times10^{-3}}=6.3\times10^{21}\ \mathrm{m^{-3}} .

6.3×1015 cm−36.3\times10^{15}\ \mathrm{cm^{-3}} に相当します。

領域 B で ∣RH∣|R_{\mathrm H}| が温度によらず一定であることが理由です。これは、ドナー準位の束縛エネルギーに比べて kBTk_{\mathrm B}T が十分大きくドナーがすべてイオン化している一方、禁制帯幅 EGE_{\mathrm G} に比べれば kBTk_{\mathrm B}T が十分小さく価電子帯からの真性励起が無視できる、という温度領域(出払い領域)に対応します。

アクセプターがないので電気的中性条件は n=ND+n=N_{\mathrm D}^{+}(イオン化したドナーの濃度)です。全ドナーがイオン化しているなら ND+=NDN_{\mathrm D}^{+}=N_{\mathrm D} なので

n=ND=6.3×1021 m−3,n=N_{\mathrm D}=6.3\times10^{21}\ \mathrm{m^{-3}} ,

すなわち測ったキャリアー密度がそのままドナー濃度を与えます。温度を変えても値が動かないことが、この解釈の実験的な裏付けになっています。

領域 C は電子がドナーに凍結していく領域です。ドナーのイオン化 D0⇌D++e−\mathrm{D}^0\rightleftharpoons\mathrm{D}^{+}+e^{-} に質量作用の法則を当てると、伝導帯の有効状態密度を Nc∝T3/2N_{\mathrm c}\propto T^{3/2}、ドナー準位のスピン縮重度を 2 として

n ND+ND−ND+=Nc2e−ED/kBT.\frac{n\,N_{\mathrm D}^{+}}{N_{\mathrm D}-N_{\mathrm D}^{+}}=\frac{N_{\mathrm c}}{2}e^{-E_{\mathrm D}/k_{\mathrm B}T} .

中性条件 n=ND+n=N_{\mathrm D}^{+} と、凍結領域での n≪NDn\ll N_{\mathrm D} を使うと

n=NcND2  e−ED/(2kBT),∣RH∣=1ne∝e+ED/(2kBT)n=\sqrt{\frac{N_{\mathrm c}N_{\mathrm D}}{2}}\;e^{-E_{\mathrm D}/(2k_{\mathrm B}T)}, \qquad |R_{\mathrm H}|=\frac{1}{ne}\propto e^{+E_{\mathrm D}/(2k_{\mathrm B}T)}

となり、ln⁡∣RH∣\ln|R_{\mathrm H}| の 1/T1/T に対する傾きは ED/(2kB)E_{\mathrm D}/(2k_{\mathrm B}) です(指数の前の T3/4T^{3/4} は指数関数に比べて緩やかなので無視します)。

図 1 の領域 C は 1/T=4×10−3 K−11/T=4\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}} の 1.0×10−3 m3/C1.0\times10^{-3}\ \mathrm{m^3/C} から 1/T=12×10−3 K−11/T=12\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}} の 1.0×10−2 m3/C1.0\times10^{-2}\ \mathrm{m^3/C} まで、1 桁上がっています。

ED2kB=ln⁡108×10−3 K−1=2.308×10−3=2.9×102 K,\frac{E_{\mathrm D}}{2k_{\mathrm B}}=\frac{\ln10}{8\times10^{-3}\ \mathrm{K^{-1}}}=\frac{2.30}{8\times10^{-3}}=2.9\times10^{2}\ \mathrm{K}, ED=2kB×2.9×102 K=5.8×102×1.38×10−23 J=7.9×10−21 J=7.9×10−211.60×10−19 eV.E_{\mathrm D}=2k_{\mathrm B}\times2.9\times10^{2}\ \mathrm{K} =5.8\times10^{2}\times1.38\times10^{-23}\ \mathrm{J}=7.9\times10^{-21}\ \mathrm{J} =\frac{7.9\times10^{-21}}{1.60\times10^{-19}}\ \mathrm{eV} .

答えは ED=5.0×10−2 eVE_{\mathrm D}=5.0\times10^{-2}\ \mathrm{eV}(50 meV)です。妥当性の確認として、ED=50 meVE_{\mathrm D}=50\ \mathrm{meV} に対して kBTk_{\mathrm B}T が 50 meV50\ \mathrm{meV} になる温度は 580 K580\ \mathrm{K}、その 1/2 程度になる温度が 290 K290\ \mathrm{K} で、領域 B から C への折れ曲がりが T=250 KT=250\ \mathrm{K} にあることと矛盾しません。

ED=5.0×10−2 eVE_{\mathrm D}=5.0\times10^{-2}\ \mathrm{eV} に対応する波長は

λ=hcED=1.24×10−6 eV⋅m5.0×10−2 eV=2.5×10−5 m=25 μm\lambda=\frac{hc}{E_{\mathrm D}}=\frac{1.24\times10^{-6}\ \mathrm{eV\cdot m}}{5.0\times10^{-2}\ \mathrm{eV}}=2.5\times10^{-5}\ \mathrm{m}=25\ \mu\mathrm{m}

です。可視光(0.40.4–0.8 μm0.8\ \mu\mathrm{m})よりずっと長く、ミリ波よりは短いので、赤外線の領域に属します。

水素原子の束縛エネルギーは E0=1(4πε0)2m0e42ℏ2E_0=\dfrac{1}{(4\pi\varepsilon_0)^2}\dfrac{m_0e^4}{2\hbar^2} です。真空の誘電率を媒質の誘電率 ε\varepsilon に、電子質量を有効質量 m∗m^{*} に置き換えるだけなので

ED=1(4πε)2m∗e42ℏ2=E0⋅m∗m0(ε0ε)2.E_{\mathrm D}=\frac{1}{(4\pi\varepsilon)^2}\frac{m^{*}e^4}{2\hbar^2} =E_0\cdot\frac{m^{*}}{m_0}\left(\frac{\varepsilon_0}{\varepsilon}\right)^{2}.

ε\varepsilon が大きいほどクーロン引力が遮蔽されて浅くなり、m∗m^{*} が小さいほど零点運動が大きくて浅くなります。

まず有効質量を決めます。ε/ε0=10\varepsilon/\varepsilon_0=10 と設問1(c) の ED=0.050 eVE_{\mathrm D}=0.050\ \mathrm{eV} を設問1(e) に入れて

m∗m0=EDE0(εε0)2=0.05013.6×100=0.36.\frac{m^{*}}{m_0}=\frac{E_{\mathrm D}}{E_0}\left(\frac{\varepsilon}{\varepsilon_0}\right)^{2} =\frac{0.050}{13.6}\times100=0.36 .

ボーア半径 aB=4πε0ℏ2/(m0e2)a_{\mathrm B}=4\pi\varepsilon_0\hbar^2/(m_0e^2) に同じ置き換えをすると

aD=aB⋅εε0⋅m0m∗=0.053 nm×10×10.36=1.5 nm.a_{\mathrm D}=a_{\mathrm B}\cdot\frac{\varepsilon}{\varepsilon_0}\cdot\frac{m_0}{m^{*}} =0.053\ \mathrm{nm}\times10\times\frac{1}{0.36}=1.5\ \mathrm{nm} .

答えは aD≃1.5 nma_{\mathrm D}\simeq1.5\ \mathrm{nm} です。

これを 2 つの長さと比べます。結晶の原子間距離は 0.20.2–0.3 nm0.3\ \mathrm{nm} 程度なので、aDa_{\mathrm D} はその 5–7 倍あり、半径 aDa_{\mathrm D} の球の中には 10210^2–10310^3 個の原子が入ります。束縛電子の包絡波動関数が格子定数のスケールで見てゆっくり変化するので、周期ポテンシャルの効果を有効質量 1 個にまとめ、媒質を誘電率 ε\varepsilon の連続体として扱う近似が成り立ちます。一方、ドナー不純物間の平均距離は

ND−1/3=(6.3×1021 m−3)−1/3=5.4×10−8 m=54 nmN_{\mathrm D}^{-1/3}=\left(6.3\times10^{21}\ \mathrm{m^{-3}}\right)^{-1/3}=5.4\times10^{-8}\ \mathrm{m}=54\ \mathrm{nm}

で、aDa_{\mathrm D} の 36 倍もあります。隣のドナーの波動関数と重なりが無視でき(不純物バンドを作らない)、ドナー 1 個を孤立した水素原子的中心として扱えます。両方の不等式 0.25 nm≪aD≪54 nm0.25\ \mathrm{nm}\ll a_{\mathrm D}\ll54\ \mathrm{nm} が成り立つので、水素原子モデルによる近似は正当化されます。

電圧端子の間隔は ℓ=3 mm\ell=3\ \mathrm{mm}、断面積は wd=1×10−3×1×10−4=1.0×10−7 m2wd=1\times10^{-3}\times1\times10^{-4}=1.0\times10^{-7}\ \mathrm{m^2} です。電流端子での接触抵抗を含まない V3-4V_{3\text{-}4} を使います。

ρ=V3-4I⋅wdℓ=24.0×10−3 V1.0×10−4 A×1.0×10−7 m23.0×10−3 m=240 Ω×3.33×10−5 m\rho=\frac{V_{3\text{-}4}}{I}\cdot\frac{wd}{\ell} =\frac{24.0\times10^{-3}\ \mathrm{V}}{1.0\times10^{-4}\ \mathrm{A}}\times\frac{1.0\times10^{-7}\ \mathrm{m^2}}{3.0\times10^{-3}\ \mathrm{m}} =240\ \Omega\times3.33\times10^{-5}\ \mathrm{m} ρ=8.0×10−3 Ω⋅m=0.80 Ω⋅cm.\rho=8.0\times10^{-3}\ \Omega\cdot\mathrm{m}=0.80\ \Omega\cdot\mathrm{cm}.

電流端子には、試料の内部抵抗以外に電極と試料の界面の接触抵抗、リード線の抵抗、端子近傍の電流分布の乱れによる余分な電圧降下があります。2 端子測定ではこれらが試料の抵抗と直列に入ってしまい、分離できません。電圧端子を別に付けると、電圧計の入力インピーダンスが高いため電圧端子にはほとんど電流が流れず、その接触抵抗に電圧降下が生じません。したがって測った電圧は端子 (3)-(4) 間の試料内部の電位差そのものになり、接触抵抗の影響を受けずに抵抗率が決まります。

この試料では影響が実際に大きいことが数値から分かります。求めた ρ\rho から端子 (1)-(2) 間(L=5 mmL=5\ \mathrm{mm})の試料抵抗を計算すると ρL/(wd)=8.0×10−3×5×10−3/10−7=4.0×102 Ω\rho L/(wd)=8.0\times10^{-3}\times5\times10^{-3}/10^{-7}=4.0\times10^{2}\ \Omega ですが、測定値は V1-2/I=90.0 mV/0.1 mA=9.0×102 ΩV_{1\text{-}2}/I=90.0\ \mathrm{mV}/0.1\ \mathrm{mA}=9.0\times10^{2}\ \Omega です。差の 5×102 Ω5\times10^{2}\ \Omega が接触抵抗などで、試料自身の抵抗と同程度あります。2 端子で済ませると ρ\rho を 2 倍以上に見誤ります。

測定値を電流に対して奇な成分と偶な成分に分けます。

V3-4(+I)=VΩ+V0=24.8 mV,V3-4(−I)=−VΩ+V0=−23.2 mVV_{3\text{-}4}(+I)=V_\Omega+V_0=24.8\ \mathrm{mV},\qquad V_{3\text{-}4}(-I)=-V_\Omega+V_0=-23.2\ \mathrm{mV}

とおくと VΩ=24.0 mVV_\Omega=24.0\ \mathrm{mV}、V0=0.8 mVV_0=0.8\ \mathrm{mV} です。電流の向きによらない一定のオフセットが 0.8 mV0.8\ \mathrm{mV} 重畳しています。

このような電流に依存しない起電力の原因として最も考えやすいのは熱起電力(ゼーベック効果)です。2 つの電圧端子(あるいは端子とリード線の接合部)の温度がわずかに違うと、異種金属の接合を含む回路に S ΔTS\,\Delta T(SS はゼーベック係数)の起電力が生じます。温度差の原因が外部からの熱流であれば電流の向きとは無関係ですし、ジュール発熱による温度差であれば I2I^2 に比例するので電流を反転しても符号が変わりません。どちらの場合も、電流を反転させたときに符号が変わらない加算的な電圧として現れます。設問2(a) で 2 つの測定値の平均を取ったのは、この偶成分を消して純粋なオーム性の電圧 VΩV_\Omega を取り出す操作です。

他の可能性としては、電流端子でのペルチェ効果が作る温度差(これは電流とともに反転するので平均では消えません)、電極が整流性を持つ非オーム性接触、電圧計自身のオフセットなどが挙げられます。ただし今回のように「差が一定値のオフセットとしてきれいに現れる」場合は、熱起電力が第一候補です。

第7問 宇宙線カウンターと同時計数回路

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地上で宇宙線を測ります。カウンター A、B、C、D が上から順に鉛直に並び、B と C の間に鉛の板を積めるようになっています(図 1)。各カウンターの信号はプリアンプ、ディスクリミネータを通り、A・B の組と C・D の組でそれぞれ同時計数を取り、さらにその 2 つの出力の同時計数をスケーラーで数えます(図 2)。D の系統には可変遅延器が入っています。ディスクリミネータはしきい値を超えた入力に対して幅 τ\tau の矩形波を出します(図 3)。

シンチレーションカウンターを選びます。原理は次の通りです。荷電粒子がプラスチックシンチレータを通ると、電離損失として置いていったエネルギーの一部が有機分子の電子励起になり、脱励起の際に可視・近紫外の蛍光が出ます(およそ 1 MeV1\ \mathrm{MeV} の損失あたり 10410^4 光子)。この光をライトガイドで光電子増倍管の光電面に導いて光電子に変え、ダイノードで 10610^6 程度に増倍すると、ナノ秒程度の立ち上がりを持つ電気パルスが得られます。荷電粒子 1 個の通過が 1 パルスに対応するので、パルスを数えれば通過を計数できます。

他に、気体の電離とアノード線近傍の強電場での電子雪崩を使う比例計数管やガイガー・ミュラー計数管、空乏層でつくられる電子・正孔対を集める半導体検出器、速度がしきい値を超えた粒子だけが光るチェレンコフ計数器などがあります。

しきい値を下げすぎると、増幅器の電気的雑音や光電子増倍管の暗電流(熱電子による 1 光電子パルス)まで数えてしまい、シングルレートが跳ね上がって設問2(b) の偶然同時計数が増えます。逆に上げすぎると、本物の粒子による小さいパルスを落として検出効率が下がります。シンチレータの端を通った粒子は集光効率が低くパルスが小さいので、しきい値が高いと検出効率が場所によって変わってしまうのも困ります。

もう一つ注意すべきなのはタイミングです。前縁で判定する方式では、同じ時刻に来た信号でもパルスの波高が違うとしきい値を横切る時刻がずれます(タイムウォーク)。しきい値を変えると出力パルスの出る時刻が系統的にずれるので、しきい値を調整したら可変遅延器の設定もやり直す必要があります。

実際には、しきい値を変えながら計数率を測り、雑音の急増が始まる手前にあってかつ計数率が平らになっている領域(プラトー)を見つけ、その中に設定します。

A のパルスが時刻 tt から t+τt+\tau を、B のパルスが t′t' から t′+τt'+\tau を占めるとすると、2 つが重なる条件は ∣t−t′∣<τ|t-t'|<\tau、つまり B のパルスの立ち上がりが幅 2τ2\tau の窓に入ることです。同時計数の頻度が NA,NBN_{\mathrm A},N_{\mathrm B} よりずっと小さいので 2 つの系列は独立なポアソン過程と見なせ、A の 1 パルスあたりに偶然重なる B のパルスの期待数は 2τNB2\tau N_{\mathrm B} です。したがって偶然同時計数の頻度は

Nacc=2τNANBN_{\mathrm{acc}}=2\tau N_{\mathrm A}N_{\mathrm B}

(毎秒)です。τ\tau にも、それぞれのシングルレートにも比例します。

可変遅延器が必要な理由は、同じ 1 個の粒子から出た信号でもコインシデンス回路に届く時刻がそろわないからです。ケーブル長の違い、光電子増倍管とプリアンプの伝達時間の違い、シンチレータ内での光の伝播時間、そして粒子が A から D まで飛ぶ飛行時間(この装置では上下に離れているので数ナノ秒以上)が積み重なります。遅延を調整して各系統の到着時刻をそろえないと、本物の同時事象でもパルスが重ならず取りこぼします。実際には遅延量を変えながら同時計数率を測り(遅延曲線)、プラトーの中央に設定します。

偶然同時計数の頻度が 2τNANB2\tau N_{\mathrm A}N_{\mathrm B} なので、対策は次のいずれかです。第一に、ディスクリミネータの出力パルス幅 τ\tau を短くすることです。頻度は τ\tau に比例して減る一方、本物の同時計数は(タイミング調整が正しければ)減らないので、最も効果的です。第二に、シングルレート NA,NBN_{\mathrm A},N_{\mathrm B} を下げることです。しきい値を上げて雑音パルスを切る、遮蔽して環境放射線を減らす、カウンターの面積を小さくする、といった手が使えます。第三に、同時計数に要求するカウンターの数を増やすことです。nn 重同時計数の偶然係数は τn−1\tau^{n-1} に比例するので、A・B・C・D の 4 重にすれば急激に減ります。

あわせて、片方の系統に τ\tau よりずっと長い遅延を入れて本物の同時計数を消し、偶然分だけを直接測って差し引くという評価も並行して行います。

不感時間 TT の間に来た信号は数えられません(不感時間中に来た信号が不感時間を延長しない型)。真の計数率を nn とすると、1 秒のうち装置が不感なのは STST の割合なので、数えられるのは

S=n(1−ST)S=n\left(1-ST\right)

です。これを nn について解くと

n=S1−ST.n=\frac{S}{1-ST}.

ST≪1ST\ll1 では n≃S(1+ST)n\simeq S(1+ST) で、補正は小さいです。ST→1ST\to1 に近づくと補正が発散するので、そうならないよう TT を短くしておく必要があります。

xx は鉛が数 cm から 10 cm 程度の範囲で急速に減る成分、yy は 10 cm を超えても緩やかにしか減らない成分です。答えは、xx が (I) の電子、yy が (III) のミュー粒子です。(II) のニュートリノは物質とほとんど相互作用せず、カウンター自身にも信号を残さないので、この測定には現れません。

電子(軟成分)は、電離損失に加えて制動放射で急速にエネルギーを失います。放射で出た光子が対生成を起こし、それがまた制動放射を起こして電磁シャワーに発達します。鉛の放射長は 0.56 cm0.56\ \mathrm{cm} しかないので、数 cm の鉛で発達したシャワーは十数 cm までにほぼ吸収され尽くします。これが xx の急な減少です。

ミュー粒子(硬成分)は質量が電子の 207 倍あり、制動放射の確率は質量の 2 乗に反比例して抑えられるので、実質的に電離損失だけでエネルギーを失います。鉛での電離損失は 1.11.1–1.5 MeV/(g cm−2)1.5\ \mathrm{MeV/(g\,cm^{-2})}、すなわち 1313–17 MeV/cm17\ \mathrm{MeV/cm} 程度なので、数 GeV のミュー粒子は数十 cm の鉛を貫きます。図 4 で厚い鉛でも残っている yy がこれです。yy が完全に平らでなくわずかに減るのは、地上のミュー粒子が運動量分布を持っており、厚さを増やすとしきい運動量以下のものが止められていくためです。

ミュー粒子の質量は M=106 MeV/c2M=106\ \mathrm{MeV}/c^2 なので Mc=106 MeV/cMc=106\ \mathrm{MeV}/c で、

βγ=pMc=300 MeV/c106 MeV/c=2.8.\beta\gamma=\frac{p}{Mc}=\frac{300\ \mathrm{MeV}/c}{106\ \mathrm{MeV}/c}=2.8 .

図 5 の Pb の曲線を βγ=2.8\beta\gamma=2.8 で読むと R/M≃1×103 g cm−2 GeV−1R/M\simeq1\times10^{3}\ \mathrm{g\,cm^{-2}\,GeV^{-1}} です。M=0.106 GeV/c2M=0.106\ \mathrm{GeV}/c^2 を掛けて

R≃1×103×0.106=1.1×102 g/cm2,R\simeq1\times10^{3}\times0.106=1.1\times10^{2}\ \mathrm{g/cm^2},

鉛の密度 11.35 g/cm311.35\ \mathrm{g/cm^3} で割ると

t=1.1×10211.35≃10 cm.t=\frac{1.1\times10^{2}}{11.35}\simeq10\ \mathrm{cm}.

答えは約 10 cm です(グラフ読み取りなので有効数字は 1 桁)。図 4 で軟成分が消える厚さと同程度であることも整合的です。

厚さ 10 cm の鉛を B と C の間に置きます。測定の原理は「入ってきたが出ていかない」ミュー粒子を選び、それが崩壊電子を出すまでの時間を測ることです。

信号の作り方は次の通りです。A と B を通り、鉛の中で止まったミュー粒子は C に信号を残しません。したがって A と B の同時計数を取り、C を反同時計数(拒否)の入力に使った

A⋅B⋅C‾\mathrm{A}\cdot\mathrm{B}\cdot\overline{\mathrm{C}}

が「ミュー粒子が鉛に止まった」という合図になります。回路は図 2 と同じ構成で、A と B をそれぞれプリアンプ、ディスクリミネータ、可変遅延器を通してコインシデンス回路に入れ、C の系統は同じ処理をしたうえでそのコインシデンス回路の拒否入力に入れます。この出力を時間測定器(時間・波高変換器や TDC)のスタート信号にします。

止まったミュー粒子は平均 2 マイクロ秒で電子とニュートリノ 2 個に崩壊します。崩壊電子は数十 MeV のエネルギーを持ち、鉛から抜け出して B に入るので、この遅れた B の信号をストップ信号にします。スタートから 10 マイクロ秒程度のゲートを開けておき、その中で来た B のパルスまでの時間差を測ってヒストグラムにすると、e−t/τe^{-t/\tau} に一定のバックグラウンドが乗った分布が得られ、その傾きから寿命 τ\tau が決まります。

実験誤差として重要なものを挙げます。第一に偶然同時計数によるバックグラウンドです。ゲートを開けている間に無関係な宇宙線が B に入ると偽のストップになり、指数関数の下に平坦な成分として乗ります。大きさは(B のシングルレート)×(ゲート幅)で見積もれるので、指数関数+定数で当てはめて分離します。第二に、鉛のような高 ZZ 物質では負ミュー粒子が原子核に捕獲され、自由な崩壊よりずっと速く消えることです。測定される減衰曲線は μ+\mu^{+} の自由崩壊と μ−\mu^{-} の速い消失の重ね合わせになるので、単一指数関数で当てはめると寿命を短く見誤ります。この系統誤差を避けたければ、炭素やアルミニウムのような軽い物質を吸収体に使うのが本来は望ましいところです。第三にスタート直後の回路の不感時間で、短時間側のイベントを取りこぼして指数関数の立ち上がり部分が歪みます。ほかに、崩壊電子が B に当たらず逃げることによる検出効率の低下(立体角と鉛での吸収に依存しますが、崩壊時刻に依存しないので τ\tau には偏りを与えません)、C の拒否が完全でないために混入する通り抜けミュー粒子、ゲート幅が有限なことによる指数関数の切断、そして統計誤差があります。

カウンター D を使わない理由は、鉛の中で止まったミュー粒子は C にも D にも到達しないからです。D に信号を要求すれば「鉛を貫いた粒子」を選ぶことになり、測りたい事象と正反対になります。拒否条件として使うのも無意味で、D に届く粒子は必ず C を通っているので、C の拒否が済んでいれば D は新しい情報を何も加えません。

第8問 蛋白質間の励起エネルギー移動

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細胞膜上を並進拡散する円筒型蛋白質 L と M に、それぞれ発光体(蛍光色素)を結合させます。発光体は基底状態 S0\mathrm S_0 と第一励起状態 S1\mathrm S_1 を持ち、S1L\mathrm S_1^{\mathrm L} は S1M\mathrm S_1^{\mathrm M} よりごくわずかにエネルギーが高いとします。L の発光体を可視光で S0L→S1L\mathrm S_0^{\mathrm L}\to\mathrm S_1^{\mathrm L} と励起したあと、S1L\mathrm S_1^{\mathrm L} からの脱励起には 3 つの経路があります。発光を伴う遷移(速度定数 kfk_{\mathrm f})、無輻射遷移(knfk_{\mathrm{nf}})、そして M への励起エネルギー移動(kTk_{\mathrm T})です。速度定数は単位時間当たりに遷移する発光体の割合です。エネルギー移動の速度定数は双極子相互作用に由来して

kT=α kf J κ2R6k_{\mathrm T}=\alpha\,k_{\mathrm f}\,J\,\frac{\kappa^2}{R^6}

と書けます。RR は 2 つの遷移双極子モーメント FL\boldsymbol{F}_{\mathrm L}、AM\boldsymbol{A}_{\mathrm M} の間の距離、JJ は L の発光スペクトルと M の吸収スペクトルの重なり、κ2\kappa^2 は配向因子、α\alpha は比例定数です。

励起エネルギー移動がない場合、励起状態にある発光体は kfk_{\mathrm f} と knfk_{\mathrm{nf}} の 2 経路で減っていきます。

dNdt=−(kf+knf)N⟹N(t)=N(0) e−(kf+knf)t.\frac{dN}{dt}=-\left(k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}}\right)N \quad\Longrightarrow\quad N(t)=N(0)\,e^{-(k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}})t}.

発光強度は単位時間に発光を伴って遷移する数なので

F(t)=kfN(t)=kfN(0) e−(kf+knf)tF(t)=k_{\mathrm f}N(t)=k_{\mathrm f}N(0)\,e^{-(k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}})t}

です。時間積分した総発光量は kfN(0)/(kf+knf)k_{\mathrm f}N(0)/(k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}})、すなわち量子収率に N(0)N(0) を掛けたものになります。

寿命は全脱励起速度の逆数です。エネルギー移動がないときは経路が 2 つ、あるときは 3 つなので

1τ=kf+knf,1τ′=kf+knf+kT,\frac{1}{\tau}=k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}}, \qquad \frac{1}{\tau'}=k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}}+k_{\mathrm T}, ττ′=kf+knf+kTkf+knf=1+kTkf+knf=1+kTτ.\frac{\tau}{\tau'}=\frac{k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}}+k_{\mathrm T}}{k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}}} =1+\frac{k_{\mathrm T}}{k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}}}=1+k_{\mathrm T}\tau .

τ′=τ/2\tau'=\tau/2 は τ/τ′=2\tau/\tau'=2、すなわち kT=kf+knfk_{\mathrm T}=k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}} を意味します。kTk_{\mathrm T} の表式に R=R0R=R_0 を入れて

αkfJκ2R06=kf+knf⟹R0=(αkfJκ2kf+knf)1/6=(αkfJκ2τ)1/6.\frac{\alpha k_{\mathrm f}J\kappa^2}{R_0^{6}}=k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}} \quad\Longrightarrow\quad R_0=\left(\frac{\alpha k_{\mathrm f}J\kappa^2}{k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}}}\right)^{1/6} =\left(\alpha k_{\mathrm f}J\kappa^2\tau\right)^{1/6}.

τ′\tau' を含まない形で書けました。これを使うと kT=(kf+knf)(R0/R)6k_{\mathrm T}=(k_{\mathrm f}+k_{\mathrm{nf}})(R_0/R)^6 なので

ττ′=1+(R0R)6.\frac{\tau}{\tau'}=1+\left(\frac{R_0}{R}\right)^{6}.

R=R0R=R_0 で τ/τ′=2\tau/\tau'=2 となり、定義と整合します。R0R_0 は 1 つの距離スケールで、R≪R0R\ll R_0 ではエネルギー移動が支配的、R≫R0R\gg R_0 ではほぼ起こらない、という切り替わりを与えます。

κ2=2/3\kappa^2=2/3(発光体が蛋白内で自由に速く回転している場合)とすると R0R_0 は既知の定数になり、設問2(b) から

τ′τ=11+(R0/R)6=(R/R0)61+(R/R0)6\frac{\tau'}{\tau}=\frac{1}{1+(R_0/R)^6}=\frac{(R/R_0)^6}{1+(R/R_0)^6}

です。R/R0R/R_0 の関数として単調増加で、R/R0→∞R/R_0\to\infty で 1 に漸近します。R/R0=1R/R_0=1 で τ′/τ=1/2\tau'/\tau=1/2、その前後で急峻に立ち上がる形(66 乗なので RR が 4 倍変わると τ′/τ\tau'/\tau はほぼ 0 から 1 まで振れる)になります。

蛋白質 L と M の直径がともに R0/2R_0/2、発光体が円筒の中心にあるので、2 つが接触して複合体を作ったときの中心間距離は半径の和

R=R04+R04=R02R=\frac{R_0}{4}+\frac{R_0}{4}=\frac{R_0}{2}

です。これが RR の取り得る最小値なので、グラフは R/R0≥1/2R/R_0\ge1/2 の範囲でしか定義されず、そこでの値

τ′τ∣R=R0/2=11+26=165=0.015\left.\frac{\tau'}{\tau}\right|_{R=R_0/2}=\frac{1}{1+2^6}=\frac{1}{65}=0.015

が下限になります。したがって、複合体を作った場合は R/R0=1/2R/R_0=1/2 の 1 点に釘付けになり、τ′/τ≃0.015\tau'/\tau\simeq0.015 まで寿命が短くなります。複合体を作らず 2 次元膜上を別々に運動している場合は、希薄なので RR は R0R_0 よりずっと大きく、τ′/τ≃1\tau'/\tau\simeq1、つまり寿命はほとんど変わりません(衝突の瞬間だけ RR が小さくなりますが、滞在時間が短いので平均への寄与は小さい)。この 0.015 と 1 という 2 桁の差が、複合体形成の有無を蛍光寿命で判定できる根拠です。

11/21/651/2123R / R0τ’ / τ複合体複合体なし(膜上で分離)

図の横軸は R/R0R/R_0、縦軸は τ′/τ\tau'/\tau です。曲線は R/R0=1/2R/R_0=1/2 の左端(τ′/τ=1/65\tau'/\tau=1/65、複合体の場合)から始まり、R/R0=1R/R_0=1 で 1/21/2 を通り、R/R0≳2R/R_0\gtrsim2 で 1 に漸近します(複合体を作らない場合)。

L だけを直接励起し、L と M の両方の発光域にまたがる発光スペクトルを測ります。

励起波長は λL\lambda_{\mathrm L} 付近、より正確には L の吸収帯のうち短波長側で、M の吸収がまだ立ち上がっていない領域に選びます。λL<λM\lambda_{\mathrm L}<\lambda_{\mathrm M} で M の吸収帯は L の吸収帯より長波長側にあるので、λL\lambda_{\mathrm L} 以下の波長では M はほとんど光を吸いません。ここで励起すれば、M の発光が見えたとしてもそれは直接励起ではなく L から移ってきたエネルギーによるものだと言えます。

測定するのは、FLF_{\mathrm L} と FMF_{\mathrm M} の両方を含む波長域の発光スペクトルです。判定は次のようになります。励起エネルギー移動が起こっていなければ、L だけが光るので発光スペクトルは FLF_{\mathrm L} に単一のピークを持ち、FMF_{\mathrm M} の位置には L の発光の裾しか現れません。移動が起こっていれば、S1L\mathrm S_1^{\mathrm L} の一部が M に移るので FLF_{\mathrm L} のピークは減り(消光)、代わりに直接には励起していない M の発光が FMF_{\mathrm M} に新しいピークとして立ちます(増感発光)。したがって FMF_{\mathrm M} のピークの出現と FLF_{\mathrm L} のピークの減少を見れば判定できます。

対照実験として、λM\lambda_{\mathrm M} 付近で励起して M だけの発光スペクトルを取っておくと、λL\lambda_{\mathrm L} 励起で現れた長波長のピークの形が M の発光スペクトルと一致することを確認でき、判定が確実になります。

発光強度(エネルギー移動なし)発光強度(エネルギー移動あり)L の発光L の発光(減る)M の発光(現れる)励起波長励起波長λLFLλMFMλLFLλMFM波長

上段が移動なしの場合で、FLF_{\mathrm L} に単一のピークが立ちます。下段が移動ありの場合で、FLF_{\mathrm L} のピークが減り、直接には励起していない FMF_{\mathrm M} に新しいピークが現れます。破線はどちらの場合も励起波長 λL\lambda_{\mathrm L} の位置で、横軸の目盛りは左から λL\lambda_{\mathrm L}、FLF_{\mathrm L}、λM\lambda_{\mathrm M}、FMF_{\mathrm M} です。

第9問 水素分子の回転準位とパラ・オルト変換反応

Section titled “第9問 水素分子の回転準位とパラ・オルト変換反応”

前半は水素分子をボルン・オッペンハイマー断熱近似で扱います。2 つの陽子を R1,R2\boldsymbol{R}_1,\boldsymbol{R}_2 に固定したときの 2 電子系の基底状態エネルギー(断熱ポテンシャル)を U2(∣R1−R2∣)U_2(|\boldsymbol{R}_1-\boldsymbol{R}_2|) と書き、これが ∣R1−R2∣=R0≡1.40 aB|\boldsymbol{R}_1-\boldsymbol{R}_2|=R_0\equiv1.40\,a_{\mathrm B} で最小になります。陽子の質量は M=1840 mM=1840\,m(mm は電子質量)です。

後半は H+H2\mathrm H+\mathrm H_2 系で、断熱ポテンシャル U3(Ra,Rb,θ)U_3(R_a,R_b,\theta) が図 1 に等高線で与えられています。RaR_a は 2 個の水素原子間、RbR_b はそのうち一方と 3 個目の原子との距離、θ\theta はその間の角です。等高線の値は最小値(図中の黒丸)から測ったエネルギーの増加分(eV)で、十字印は鞍点です。図 1 の (b) θ=π/3\theta=\pi/3、(c) θ=2π/3\theta=2\pi/3、(d) θ=π\theta=\pi を見比べると、鞍点はいずれも Ra≃Rb≃1.8 aBR_a\simeq R_b\simeq1.8\,a_{\mathrm B} 付近にありますが、そのエネルギーは θ=π/3\theta=\pi/3 で 2.08 eV の等高線より外側(2 eV2\ \mathrm{eV} 以上)、θ=π\theta=\pi では 0.26 と 0.52 の等高線の間(0.40.4–0.5 eV0.5\ \mathrm{eV})で、直線配置に近づくほど低くなります。

2 体問題なので重心座標と相対座標 R=R1−R2\boldsymbol{R}=\boldsymbol{R}_1-\boldsymbol{R}_2 に分離できます。相対運動の換算質量は

μ=M⋅MM+M=M2\mu=\frac{M\cdot M}{M+M}=\frac{M}{2}

なので、相対運動のシュレディンガー方程式は

[−ℏ22μ∇R2+U2(∣R∣)]ψ(R)=E ψ(R),−ℏ2M∇R2ψ+U2(∣R∣)ψ=Eψ\left[-\frac{\hbar^2}{2\mu}\nabla_{\boldsymbol R}^2+U_2(|\boldsymbol{R}|)\right]\psi(\boldsymbol{R})=E\,\psi(\boldsymbol{R}), \qquad -\frac{\hbar^2}{M}\nabla_{\boldsymbol R}^2\psi+U_2(|\boldsymbol{R}|)\psi=E\psi

です。

中心力なので ψ=f(∣R∣)YLM(R^)\psi=f(|\boldsymbol{R}|)Y_{LM}(\hat{\boldsymbol{R}}) と分けられ、角度部分は回転のエネルギーを与えます。∣R∣=R0|\boldsymbol{R}|=R_0 に固定した剛体回転子の慣性モーメントは

I=μR02=MR022I=\mu R_0^2=\frac{MR_0^2}{2}

なので

EL=ℏ2L(L+1)2I=ℏ2L(L+1)MR02(L=0,1,2,… ).E_L=\frac{\hbar^2L(L+1)}{2I}=\frac{\hbar^2L(L+1)}{MR_0^2}\qquad(L=0,1,2,\dots).

数値を入れます。R0=1.40 aBR_0=1.40\,a_{\mathrm B}、M=1840 mM=1840\,m より

E1−E0=2ℏ2MR02=21840×(1.40)2⋅ℏ2maB2=23.61×103×3.2×105 KE_1-E_0=\frac{2\hbar^2}{MR_0^2} =\frac{2}{1840\times(1.40)^2}\cdot\frac{\hbar^2}{m a_{\mathrm B}^2} =\frac{2}{3.61\times10^{3}}\times3.2\times10^{5}\ \mathrm{K} E1−E0=1.8×102 K.E_1-E_0=1.8\times10^{2}\ \mathrm{K}.

水素分子の回転定数の実測値(E1−E0≃170 KE_1-E_0\simeq170\ \mathrm{K})とよく合っています。室温 300 K がこの間隔と同程度であることが、水素の比熱の温度依存性やパラ・オルト比の問題が室温付近で顕在化する理由です。

陽子はスピン 1/21/2 のフェルミ粒子なので、2 個の陽子の交換に対して全波動関数は反対称でなければなりません。交換は相対座標では R→−R\boldsymbol{R}\to-\boldsymbol{R} で、YLM(−R^)=(−1)LYLM(R^)Y_{LM}(-\hat{\boldsymbol{R}})=(-1)^LY_{LM}(\hat{\boldsymbol{R}}) です。動径部分は ∣R∣|\boldsymbol{R}| だけの関数なので対称、電子の基底状態も核の交換に対して対称なので、空間部分の対称性は (−1)L(-1)^L で決まります。

核スピン部分は、pp-H2\mathrm H_2(合成核スピン 0、1 重項)が反対称、oo-H2\mathrm H_2(合成核スピン 1、3 重項)が対称です。積が反対称になる組み合わせだけが許されるので

p-H2: L=0,2,4,… (偶),o-H2: L=1,3,5,… (奇)p\text{-}\mathrm H_2:\ L=0,2,4,\dots\ (\text{偶}), \qquad o\text{-}\mathrm H_2:\ L=1,3,5,\dots\ (\text{奇})

です。縮重度は、空間部分の 2L+12L+1 と核スピン部分の多重度の積なので

p-H2: 2L+1,o-H2: 3(2L+1)p\text{-}\mathrm H_2:\ 2L+1, \qquad o\text{-}\mathrm H_2:\ 3(2L+1)

です。それぞれの最低状態は、pp-H2\mathrm H_2 が L=0L=0 で縮重度 1、oo-H2\mathrm H_2 が L=1L=1 で縮重度 3×3=93\times3=9 です。高温で両者の統計重率が 1:31:3 になり、常温の水素が 3:1 の混合物(ノーマル水素)であることの理由がここにあります。

解離エネルギーの測定値は、振動の零点エネルギーを含む v=0v=0 の準位から測った値です。断熱ポテンシャルの井戸の深さを DeD_{\mathrm e}(電子系だけで決まる量で H2\mathrm H_2 と D2\mathrm D_2 で共通)、零点振動エネルギーを EZPE_{\mathrm{ZP}} と書くと

De−EZP(H2)=4.46 eV,De−EZP(D2)=4.54 eVD_{\mathrm e}-E_{\mathrm{ZP}}(\mathrm H_2)=4.46\ \mathrm{eV}, \qquad D_{\mathrm e}-E_{\mathrm{ZP}}(\mathrm D_2)=4.54\ \mathrm{eV}

です。どちらも合成核スピンが 0 の基底状態なので、H2\mathrm H_2 は L=0L=0、D2\mathrm D_2 も(重陽子はスピン 1 のボース粒子で、合成スピン 0 の状態は交換に対して対称なので LL は偶数)L=0L=0 を取り、回転エネルギーの差は入りません。

零点エネルギーは EZP=ℏω/2E_{\mathrm{ZP}}=\hbar\omega/2、ω=k/μ\omega=\sqrt{k/\mu} で、力の定数 kk は U2U_2 の曲率なので共通、換算質量は μH=M/2\mu_{\mathrm H}=M/2、μD=2M/2=M\mu_{\mathrm D}=2M/2=M です。したがって

EZP(D2)EZP(H2)=μHμD=12.\frac{E_{\mathrm{ZP}}(\mathrm D_2)}{E_{\mathrm{ZP}}(\mathrm H_2)}=\sqrt{\frac{\mu_{\mathrm H}}{\mu_{\mathrm D}}}=\frac{1}{\sqrt2}.

2 式の差を取ると

EZP(H2)(1−12)=4.54−4.46=0.08 eV,E_{\mathrm{ZP}}(\mathrm H_2)\left(1-\frac{1}{\sqrt2}\right)=4.54-4.46=0.08\ \mathrm{eV}, EZP(H2)=0.080.293=0.27 eV.E_{\mathrm{ZP}}(\mathrm H_2)=\frac{0.08}{0.293}=0.27\ \mathrm{eV}.

答えは EZP(H2)≃0.27 eVE_{\mathrm{ZP}}(\mathrm H_2)\simeq0.27\ \mathrm{eV}(D2\mathrm D_2 は 0.19 eV0.19\ \mathrm{eV})で、井戸の深さは De=4.46+0.27=4.73 eVD_{\mathrm e}=4.46+0.27=4.73\ \mathrm{eV} です。0.27 eV0.27\ \mathrm{eV} は振動数に直すと ℏω=0.55 eV≃4400 cm−1\hbar\omega=0.55\ \mathrm{eV}\simeq4400\ \mathrm{cm^{-1}} で、水素分子の振動数の実測値と一致します。

3 原子が離れているときの単純な和より約 2 meV 低くなる余分な引力は、ファンデルワールス力(ロンドンの分散力)です。自由な水素原子と水素分子は、どちらも永久双極子を持ちませんが、電子の量子的なゆらぎで瞬間的に双極子を持ちます。一方の瞬間双極子がもう一方を分極させ、その相互作用を 2 次摂動で平均すると −C6/R6-C_6/R^6 の引力が残ります。電子雲がまだ重なっていない距離で働く弱い引力なので、化学結合のエネルギー(eV のオーダー)に比べて 3 桁小さい meV のオーダーになるのは自然です。

U3U_3 の最小値は「自由な水素原子 1 個 + 平衡距離にある水素分子」のエネルギーです(2 meV の補正は無視します)。Ra,RbR_a,R_b をともに無限大にすると 3 個の水素原子がすべて自由になるので、最小値からの増加分は、U2U_2 の井戸の深さ、すなわち 2 個の自由な水素原子から測った −U2(R0)-U_2(R_0) に等しくなります。

U2U_2 は電子系のエネルギーであって振動の零点エネルギーを含まないので、使うべきは測定値 4.46 eV ではなく設問1(d) で求めた井戸の深さです。

U3(∞,∞,θ)−U3min⁡=De=4.46+0.27=4.7 eV.U_3(\infty,\infty,\theta)-U_3^{\min}=D_{\mathrm e}=4.46+0.27=4.7\ \mathrm{eV}.

答えは約 4.7 eV です。図 1 で表示されている最大の等高線が 4.16 eV で、右上(Ra,RbR_a,R_b が大きい領域)でそれを超えて漸近していく様子と整合します。

まず反応が通る配置を決めます。図 1 の (b)、(c)、(d) で十字印(鞍点)のエネルギーを比べると、θ=π/3\theta=\pi/3 では 2.08 eV の等高線より外にあって 2 eV2\ \mathrm{eV} を超え、θ=2π/3\theta=2\pi/3 でそれより低く、θ=π\theta=\pi では 0.26 と 0.52 の等高線の間、すなわち 0.40.4–0.5 eV0.5\ \mathrm{eV} まで下がります。障壁が最も低いのは直線配置 θ=π\theta=\pi なので、熱的な条件では反応はほぼ直線配置を通ります。θ=π\theta=\pi の図で黒丸(Ra=R0R_a=R_0、RbR_b 大)から十字印(Ra=Rb≃1.8 aBR_a=R_b\simeq1.8\,a_{\mathrm B})を経てもう一方の谷(Rb=R0R_b=R_0、RaR_a 大)へ抜ける点線経路が、古い結合が伸びながら新しい結合が縮む交換反応の道筋です。

したがって、打ち込んだ水素原子 A は分子 B–C の軸に沿って正面から近づき、手前の B と新しい結合を作り、向こう側の C が同じ直線上に押し出されます。運動量保存を重心系で見ると、押し出された原子 C が前方(ビームの向き)へ抜けるのに対し、新しくできた分子 A–B は逆向きに跳ね返るしかありません。

答えは、元のビームの方向から見て約 180 度、すなわち後方です。障壁が直線配置で最小という「狭い峠」を通る反応の典型で、生成分子が後方に散乱される反跳(リバウンド)機構になります。もし障壁が曲がった配置でも同程度に低ければ、大きな衝突径数の斜めの衝突が効いて生成物は前方や側方にも広がりますが、図 1 が示すように曲げると障壁が数 eV 上がるので、そうした経路は熱エネルギー(室温で 0.026 eV0.026\ \mathrm{eV})では開きません。

反応速度が k∝e−Ea/(kBT)k\propto e^{-E_a/(k_{\mathrm B}T)} に従うとすると、収量の比は

ln⁡3.6=EakB(1270−1300)=EakB⋅30270×300=EakB×3.70×10−4 K−1.\ln 3.6=\frac{E_a}{k_{\mathrm B}}\left(\frac{1}{270}-\frac{1}{300}\right) =\frac{E_a}{k_{\mathrm B}}\cdot\frac{30}{270\times300} =\frac{E_a}{k_{\mathrm B}}\times3.70\times10^{-4}\ \mathrm{K^{-1}} .

ln⁡3.6=1.3\ln3.6=1.3 を使って

EakB=1.33.70×10−4=3.5×103 K.\frac{E_a}{k_{\mathrm B}}=\frac{1.3}{3.70\times10^{-4}}=3.5\times10^{3}\ \mathrm{K}.

エネルギーの単位を換えます。与えられた ℏ2/(maB2)=27.2 eV=3.2×105 K\hbar^2/(ma_{\mathrm B}^2)=27.2\ \mathrm{eV}=3.2\times10^{5}\ \mathrm{K} から 1 eV=1.18×104 K1\ \mathrm{eV}=1.18\times10^{4}\ \mathrm{K} なので

Ea=3.5×1031.18×104 eV=0.30 eV.E_a=\frac{3.5\times10^{3}}{1.18\times10^{4}}\ \mathrm{eV}=0.30\ \mathrm{eV}.

答えは Ea≃0.30 eVE_a\simeq0.30\ \mathrm{eV} です。

これを図 1 の十字印のエネルギーと比べます。θ=π\theta=\pi の鞍点は 0.40.4–0.5 eV0.5\ \mathrm{eV}、曲がった配置の鞍点は 1 eV1\ \mathrm{eV} 以上でした。EaE_a は直線配置の障壁と同じオーダーで、曲がった配置の障壁よりはるかに小さいので、設問2(c) の「反応は直線配置を通る」という推論が実験的にも支持されます。

一方で EaE_a は直線配置の障壁高さよりやや低くなっています。理由は 3 つあります。第一に、図の等高線は電子系のポテンシャル(古典的な障壁)で、原子核の零点振動を含みません。反応物の H2\mathrm H_2 は 0.27 eV0.27\ \mathrm{eV} の零点振動エネルギーを持っており、一方の鞍点では振動の自由度 1 個が反応座標に変わって零点エネルギーが減るので、零点準位から測った実効的な障壁は古典的な障壁より低くなります。第二に、水素は軽いのでトンネル効果が効き、障壁の頂上より低いエネルギーでも反応が進みます。トンネルの寄与は低温側で相対的に大きいので、アレニウスプロットの傾きを浅くし、見かけの活性化エネルギーを下げます。第三に、アレニウスの Ea=−dln⁡k/d(1/kBT)E_a=-d\ln k/d(1/k_{\mathrm B}T) は前指数因子の温度依存性も含んだ熱平均量で、定義上、障壁の高さそのものと一致する必要はありません。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成13年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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