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平成8年度 東大院 物理学専攻 修士 数学 解答

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平成8年度(平成7年8月実施)の数学は全3問で、3問すべてに解答する形式です。第1問は非線形振動子の摂動展開で、永年項の出現と展開の破綻という摂動論の定番テーマを問います。第2問は3行2列行列の特異値分解を具体的な行列で実行させる問題、第3問はビュフォンの針で、棒の長さが線の間隔以上という「長針」の場合を端点の位置から積み上げて計算させます。いずれも方針は素直で、計算の正確さと議論の詰めが得点を分けます。

なお、この問題冊子には物理学の問題も同綴されていますが、本記事では数学の3問のみを扱います。

問題分野主題
第1問微分方程式非線形振動子の摂動展開と永年項
第2問線形代数3行2列行列の特異値分解
第3問確率統計ビュフォンの針(長針の場合)

第1問 非線形振動子の摂動展開と永年項

Section titled “第1問 非線形振動子の摂動展開と永年項”

時間 tt の関数 y(t)y(t) に対する非線形常微分方程式

d2ydt2+y=εy3\frac{d^2y}{dt^2}+y=\varepsilon y^3

を、初期条件 y(0)=1y(0)=1, dydt(0)=0\dfrac{dy}{dt}(0)=0 のもとで考えます。ε\varepsilon は微小な正の定数です。必要なら恒等式 (cosθ+isinθ)3=cos3θ+isin3θ(\cos\theta+i\sin\theta)^3=\cos 3\theta+i\sin 3\theta を用いてよい、とあります。

解を ε\varepsilon のべき級数

y(t;ε)=n=0εnyn(t)y(t;\varepsilon)=\sum_{n=0}^{\infty}\varepsilon^n y_n(t)

と展開して方程式に代入します。右辺は

εy3=ε(y0+εy1+)3=εy03+O(ε2)\varepsilon y^3=\varepsilon\,(y_0+\varepsilon y_1+\cdots)^3=\varepsilon y_0^3+O(\varepsilon^2)

なので、ε\varepsilon の各次数を比較すると

O(ε0):d2y0dt2+y0=0,O(ε1):d2y1dt2+y1=y03\begin{aligned} O(\varepsilon^0):&\quad \frac{d^2y_0}{dt^2}+y_0=0,\\ O(\varepsilon^1):&\quad \frac{d^2y_1}{dt^2}+y_1=y_0^3 \end{aligned}

が得られます。初期条件 y(0)=1y(0)=1, y(0)=0y'(0)=0 はすべての ε\varepsilon で成り立つので、次数ごとに

y0(0)=1,dy0dt(0)=0,y1(0)=0,dy1dt(0)=0y_0(0)=1,\quad \frac{dy_0}{dt}(0)=0,\qquad y_1(0)=0,\quad \frac{dy_1}{dt}(0)=0

です。以上が答えです。

O(ε0)O(\varepsilon^0) の方程式は単振動で、初期条件から

y0(t)=costy_0(t)=\cos t

です。次に y03=cos3ty_0^3=\cos^3 t を線形化します。与えられた恒等式の実部をとると cos3θ=cos3θ3cosθsin2θ=4cos3θ3cosθ\cos 3\theta=\cos^3\theta-3\cos\theta\sin^2\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta なので

cos3t=34cost+14cos3t\cos^3 t=\frac{3}{4}\cos t+\frac{1}{4}\cos 3t

です。よって y1y_1 の方程式は

d2y1dt2+y1=34cost+14cos3t\frac{d^2y_1}{dt^2}+y_1=\frac{3}{4}\cos t+\frac{1}{4}\cos 3t

となります。右辺第1項は固有振動数と共鳴する強制項なので、特解に tt に比例する項が現れます。特解を yp=αtsint+βcos3ty_p=\alpha\,t\sin t+\beta\cos 3t とおいて代入すると、d2dt2(tsint)+tsint=2cost\dfrac{d^2}{dt^2}(t\sin t)+t\sin t=2\cos t(9+1)βcos3t=14cos3t(-9+1)\beta\cos 3t=\dfrac{1}{4}\cos 3t より

2α=34,8β=14α=38,β=1322\alpha=\frac{3}{4},\quad -8\beta=\frac{1}{4} \qquad\Longrightarrow\qquad \alpha=\frac{3}{8},\quad \beta=-\frac{1}{32}

です。一般解 y1=Ccost+Dsint+38tsint132cos3ty_1=C\cos t+D\sin t+\dfrac{3}{8}t\sin t-\dfrac{1}{32}\cos 3t に初期条件を課すと、y1(0)=C132=0y_1(0)=C-\dfrac{1}{32}=0 より C=132C=\dfrac{1}{32}、また

dy1dt=Csint+Dcost+38(sint+tcost)+332sin3t\frac{dy_1}{dt}=-C\sin t+D\cos t+\frac{3}{8}(\sin t+t\cos t)+\frac{3}{32}\sin 3t

t=0t=0 での値は DD なので D=0D=0 です。答えは

y0(t)=cost,y1(t)=132(costcos3t)+38tsinty_0(t)=\cos t,\qquad y_1(t)=\frac{1}{32}\left(\cos t-\cos 3t\right)+\frac{3}{8}\,t\sin t

です。検算として y1(0)=132132=0y_1(0)=\dfrac{1}{32}-\dfrac{1}{32}=0y1(0)=0y_1'(0)=0 を満たし、代入すれば y1+y1=34cost+14cos3ty_1''+y_1=\dfrac{3}{4}\cos t+\dfrac{1}{4}\cos 3t が確かめられます。

ここまでの結果から、2次までの近似解は

y(t;ε)cost+ε[132(costcos3t)+38tsint]y(t;\varepsilon)\simeq\cos t+\varepsilon\left[\frac{1}{32}(\cos t-\cos 3t)+\frac{3}{8}\,t\sin t\right]

です。補正項に tt に比例して振幅が増大する項(永年項)38εtsint\dfrac{3}{8}\varepsilon t\sin t が含まれる点が問題です。展開が「εy1\varepsilon y_1y0y_0 に対する小さな補正」であるためには εt1\varepsilon t\ll 1、すなわち t1/εt\ll 1/\varepsilon が必要で、tt1/ε1/\varepsilon 程度以上に大きくなるとこの展開は近似として破綻します。

一方、もとの方程式の真の解は tt\to\infty で発散しません。実際、エネルギー

E=12(dydt)2+12y2ε4y4E=\frac{1}{2}\left(\frac{dy}{dt}\right)^2+\frac{1}{2}y^2-\frac{\varepsilon}{4}y^4

は保存し、初期条件での値は E=12ε4E=\dfrac{1}{2}-\dfrac{\varepsilon}{4} です。ポテンシャル V(y)=12y2ε4y4V(y)=\dfrac{1}{2}y^2-\dfrac{\varepsilon}{4}y^4y=±1/εy=\pm 1/\sqrt{\varepsilon} に高さ 14ε\dfrac{1}{4\varepsilon} の障壁を持ち、ε\varepsilon が微小なら初期エネルギーはこれより十分低いので、解は井戸の中の有界な周期振動にとどまります。永年項は真の解の性質ではなく、展開のとり方の産物です。実際、真の解は振幅に依存して振動数が ω=138ε+O(ε2)\omega=1-\dfrac{3}{8}\varepsilon+O(\varepsilon^2) とずれた周期解であり、これを ε\varepsilon で素朴に展開すると

cosωt=cost+38εtsint+O(ε2)\cos\omega t=\cos t+\frac{3}{8}\varepsilon t\sin t+O(\varepsilon^2)

となって、まさに設問(b)の永年項が現れます。つまり本来は振動数の補正として現れるべき効果を固定振動数 cost\cos t のまわりで展開したために、見かけ上の発散項が生じたのです。したがってこの素朴な展開は t1/εt\ll 1/\varepsilon の範囲でのみ有効で、長時間の挙動を記述するには不適当です(振動数もあわせて展開するリントシュテット・ポアンカレ法などを使えば一様に有効な近似が得られます)。

3行2列の実行列 AA

A=UΛVTA=U\Lambda V^{\mathrm{T}}

の形に分解します(式(1)と呼びます)。UU, Λ\Lambda, VV はそれぞれ 3行2列、2行2列、2行2列の実行列で、

VTV=VVT=UTU=(1001),Λ=(λ100λ2),λ1λ20V^{\mathrm{T}}V=VV^{\mathrm{T}}=U^{\mathrm{T}}U=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix},\qquad \Lambda=\begin{pmatrix}\lambda_1&0\\0&\lambda_2\end{pmatrix},\qquad \lambda_1\ge\lambda_2\ge 0

を仮定します。単位ベクトル e1=(10)\vec{e}_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}, e2=(01)\vec{e}_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix} を用いてよい、とあります。

式(1)の分解ができたとして、ATAA^{\mathrm{T}}A を計算します。UTU=IU^{\mathrm{T}}U=I(2次単位行列)と ΛT=Λ\Lambda^{\mathrm{T}}=\Lambda より

ATA=(UΛVT)T(UΛVT)=VΛUTUΛVT=VΛ2VT,Λ2=(λ1200λ22)A^{\mathrm{T}}A=(U\Lambda V^{\mathrm{T}})^{\mathrm{T}}(U\Lambda V^{\mathrm{T}}) =V\Lambda\,U^{\mathrm{T}}U\,\Lambda V^{\mathrm{T}} =V\Lambda^2 V^{\mathrm{T}},\qquad \Lambda^2=\begin{pmatrix}\lambda_1^2&0\\0&\lambda_2^2\end{pmatrix}

です。VV の第 jj 列は VejV\vec{e}_j と書けます。VTV=IV^{\mathrm{T}}V=I を使うと

ATA(Vej)=VΛ2VTVej=VΛ2ej=λj2(Vej)(j=1,2)A^{\mathrm{T}}A\,(V\vec{e}_j)=V\Lambda^2 V^{\mathrm{T}}V\vec{e}_j=V\Lambda^2\vec{e}_j=\lambda_j^2\,(V\vec{e}_j)\qquad(j=1,2)

となります。すなわち ATAA^{\mathrm{T}}A の固有値は λ12\lambda_1^2λ22\lambda_2^2 であり、対応する固有ベクトルはそれぞれ Ve1V\vec{e}_1VV の第1列)と Ve2V\vec{e}_2VV の第2列)です。ATAA^{\mathrm{T}}A は2次行列なので固有値はこの2つで尽くされています(Ve1V\vec{e}_1, Ve2V\vec{e}_2 は直交する単位ベクトルなので1次独立です)。なお UUATAA^{\mathrm{T}}A の固有値・固有ベクトルには現れません。

与えられた行列は

A=(3+223223223+22322322)A=\begin{pmatrix} \dfrac{3+\sqrt{2}}{2} & \dfrac{3-\sqrt{2}}{2}\\[2mm] \dfrac{3-\sqrt{2}}{2} & \dfrac{3+\sqrt{2}}{2}\\[2mm] \dfrac{3\sqrt{2}}{2} & \dfrac{3\sqrt{2}}{2} \end{pmatrix}

です。ATAA^{\mathrm{T}}A の成分は AA の列ベクトル同士の内積です。p=3+22p=\dfrac{3+\sqrt{2}}{2}, q=322q=\dfrac{3-\sqrt{2}}{2}, r=322r=\dfrac{3\sqrt{2}}{2} とおくと

p2+q2=(11+62)+(1162)4=112,r2=92,pq=924=74p^2+q^2=\frac{(11+6\sqrt{2})+(11-6\sqrt{2})}{4}=\frac{11}{2},\qquad r^2=\frac{9}{2},\qquad pq=\frac{9-2}{4}=\frac{7}{4}

なので、対角成分は p2+q2+r2=112+92=10p^2+q^2+r^2=\dfrac{11}{2}+\dfrac{9}{2}=10、非対角成分は 2pq+r2=72+92=82pq+r^2=\dfrac{7}{2}+\dfrac{9}{2}=8 となり

ATA=(108810)A^{\mathrm{T}}A=\begin{pmatrix}10&8\\8&10\end{pmatrix}

です。固有方程式は (10μ)264=0(10-\mu)^2-64=0、すなわち μ=10±8\mu=10\pm 8 で、固有値は μ1=18\mu_1=18μ2=2\mu_2=2 です。固有ベクトルは、μ1=18\mu_1=18 に対して (1018)v1+8v2=0(10-18)v_1+8v_2=0 より v1=v2v_1=v_2μ2=2\mu_2=2 に対して 8v1+8v2=08v_1+8v_2=0 より v1=v2v_1=-v_2 です。長さ1で第1要素が非負という条件から、答えは

μ1=18: v1=12(11),μ2=2: v2=12(11)\mu_1=18:\ \vec{v}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix},\qquad \mu_2=2:\ \vec{v}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}

です。

設問(a)より、λ12\lambda_1^2, λ22\lambda_2^2ATAA^{\mathrm{T}}A の固有値で、λ1λ20\lambda_1\ge\lambda_2\ge 0 から

λ1=18=32,λ2=2,Λ=(32002)\lambda_1=\sqrt{18}=3\sqrt{2},\qquad \lambda_2=\sqrt{2},\qquad \Lambda=\begin{pmatrix}3\sqrt{2}&0\\0&\sqrt{2}\end{pmatrix}

です。VV の列は対応する固有ベクトルで、VV の第1行の各要素が非負という条件は設問(b)の v1\vec{v}_1, v2\vec{v}_2(どちらも第1要素が 1/2>01/\sqrt{2}>0)で満たされるので

V=12(1111)V=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}

ととれます(この VV は対称かつ直交行列で、VTV=VVT=IV^{\mathrm{T}}V=VV^{\mathrm{T}}=I を満たします)。UU は式(1)を VV で右から解いて求めます。λ1,λ2>0\lambda_1,\lambda_2>0 なので Λ\Lambda は正則で、A=UΛVTA=U\Lambda V^{\mathrm{T}} より U=AVΛ1U=AV\Lambda^{-1}、すなわち UU の第 jj 列は uj=1λjAvj\vec{u}_j=\dfrac{1}{\lambda_j}A\vec{v}_j です。

Av1=12(p+qq+p2r)=12(3332)  u1=13212(3332)=(1/21/21/2)A\vec{v}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}p+q\\q+p\\2r\end{pmatrix} =\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}3\\3\\3\sqrt{2}\end{pmatrix} \ \Longrightarrow\ \vec{u}_1=\frac{1}{3\sqrt{2}}\cdot\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}3\\3\\3\sqrt{2}\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1/2\\1/2\\1/\sqrt{2}\end{pmatrix} Av2=12(pqqp0)=12(220)=(110)  u2=12(110)A\vec{v}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}p-q\\q-p\\0\end{pmatrix} =\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}\sqrt{2}\\-\sqrt{2}\\0\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix} \ \Longrightarrow\ \vec{u}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix}

よって答えは

U=(12121212120),Λ=(32002),V=12(1111)U=\begin{pmatrix} \dfrac{1}{2} & \dfrac{1}{\sqrt{2}}\\[2mm] \dfrac{1}{2} & -\dfrac{1}{\sqrt{2}}\\[2mm] \dfrac{1}{\sqrt{2}} & 0 \end{pmatrix},\qquad \Lambda=\begin{pmatrix}3\sqrt{2}&0\\0&\sqrt{2}\end{pmatrix},\qquad V=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}

です。検算します。u1u1=14+14+12=1\vec{u}_1\cdot\vec{u}_1=\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{2}=1u2u2=12+12=1\vec{u}_2\cdot\vec{u}_2=\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2}=1u1u2=122122=0\vec{u}_1\cdot\vec{u}_2=\dfrac{1}{2\sqrt{2}}-\dfrac{1}{2\sqrt{2}}=0 なので UTU=IU^{\mathrm{T}}U=I が成り立ちます。さらに UΛVTU\Lambda V^{\mathrm{T}} の第1行は λ1u11v1T+λ2u12v2T=32(1,1)+12(1,1)=(3+22,322)\lambda_1 u_{11}\vec{v}_1^{\mathrm{T}}+\lambda_2 u_{12}\vec{v}_2^{\mathrm{T}}=\dfrac{3}{2}(1,\,1)+\dfrac{1}{\sqrt{2}}(1,\,-1)=\left(\dfrac{3+\sqrt{2}}{2},\,\dfrac{3-\sqrt{2}}{2}\right) となり、第2行・第3行も同様に AA の各行を再現します。

第3問 ビュフォンの針(長針の場合)

Section titled “第3問 ビュフォンの針(長針の場合)”

床一面に間隔 aa の平行線が引かれていて、そこへ長さ l (a)l\ (\ge a) の棒を上から落とします。棒が平行線と交わる確率 P(l)P(l) を、まず棒の一端の位置を固定した条件付き確率 p(x)p(x) から求め、次に端点の位置について平均する、という2段構えで計算します。棒の太さは無視し、方位角は床面内で一様に分布します。いわゆるビュフォンの針で、通常よく扱われる lal\le a(短針)ではなく lal\ge a(長針)の場合です。

棒の一端(端点 O と呼びます)が最も近い平行線から距離 x (0xa/2)x\ (0\le x\le a/2) にあるとします。平行線に垂直な方向の座標をとり、最も近い線を高さ 00、端点 O を高さ xx に置くと、隣の線は高さ aa にあります(O が線の下側にある配置は、方位角の分布が上下対称なので同じ結果を与えます)。棒の方位角 φ\varphi を平行線の方向から測ると、φ\varphi[0,2π)[0,2\pi) で一様分布し、もう一方の端点の高さは x+lsinφx+l\sin\varphi です。

棒は線と交わるのは、下の線(高さ 00)をまたぐ場合

x+lsinφ0sinφxlx+l\sin\varphi\le 0 \quad\Longleftrightarrow\quad \sin\varphi\le-\frac{x}{l}

または上の線(高さ aa)をまたぐ場合

x+lsinφasinφaxlx+l\sin\varphi\ge a \quad\Longleftrightarrow\quad \sin\varphi\ge\frac{a-x}{l}

のいずれかです。0xa/20\le x\le a/2lal\ge a から 0xl<axl10\le\dfrac{x}{l}<\dfrac{a-x}{l}\le 1 なので、2つの事象は排反で、しかもどちらの閾値も [0,1][0,1] に収まります(さらに下や上の線をまたげば2本以上と交わりますが、「交わる」事象としては上の2条件で尽くされています)。

一様分布する φ\varphi に対して、0c10\le c\le 1 のとき sinφc\sin\varphi\ge c となる φ\varphi の範囲は [arcsinc, πarcsinc][\arcsin c,\ \pi-\arcsin c] で、その測度は π2arcsinc\pi-2\arcsin c です。よって

Prob(sinφc)=π2arcsinc2π=1πarccosc\mathrm{Prob}(\sin\varphi\ge c)=\frac{\pi-2\arcsin c}{2\pi}=\frac{1}{\pi}\arccos c

です。sinφc\sin\varphi\le-c の確率も対称性から同じ値です。したがって

p(x)=1π[arccosxl+arccosaxl]p(x)=\frac{1}{\pi}\left[\arccos\frac{x}{l}+\arccos\frac{a-x}{l}\right]

が答えです。検算として、x=0x=0(端点が線上)では arccos0=π2\arccos 0=\dfrac{\pi}{2} より p(0)=12+1πarccosal12p(0)=\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{\pi}\arccos\dfrac{a}{l}\ge\dfrac{1}{2} となり、線上に端点があれば少なくとも下向き半分の方位で交わるという直観と合います。また ll\to\infty では両方の arccos\arccosπ2\dfrac{\pi}{2} に近づき p(x)1p(x)\to 1 で、十分長い棒はほぼ確実に線と交わることに対応します。

端点 O の最も近い線からの距離 xx[0, a/2][0,\ a/2] で一様に分布するので、密度は 2a\dfrac{2}{a} です。求める確率は

P(l)=2a0a/2p(x)dx=2πa0a/2[arccosxl+arccosaxl]dxP(l)=\frac{2}{a}\int_0^{a/2}p(x)\,dx =\frac{2}{\pi a}\int_0^{a/2}\left[\arccos\frac{x}{l}+\arccos\frac{a-x}{l}\right]dx

です。第2項で u=axu=a-x と置換すると積分区間は [a/2, a][a/2,\ a] に移り、2つの積分がつながって

P(l)=2πa0aarccosxldxP(l)=\frac{2}{\pi a}\int_0^{a}\arccos\frac{x}{l}\,dx

となります。原始関数は

arccosxldx=xarccosxll2x2+C\int\arccos\frac{x}{l}\,dx=x\arccos\frac{x}{l}-\sqrt{l^2-x^2}+C

です(微分すると arccosxlxl2x2+xl2x2=arccosxl\arccos\dfrac{x}{l}-\dfrac{x}{\sqrt{l^2-x^2}}+\dfrac{x}{\sqrt{l^2-x^2}}=\arccos\dfrac{x}{l} で確かめられます)。lal\ge a なので積分区間全体で arccos\arccos の引数は [0,1][0,1] に収まり、

0aarccosxldx=[xarccosxll2x2]0a=aarccosal+ll2a2\int_0^{a}\arccos\frac{x}{l}\,dx =\left[x\arccos\frac{x}{l}-\sqrt{l^2-x^2}\right]_0^{a} =a\arccos\frac{a}{l}+l-\sqrt{l^2-a^2}

です。答えは

P(l)=2πa(aarccosal+ll2a2)=2πarccosal+2πa(ll2a2)P(l)=\frac{2}{\pi a}\left(a\arccos\frac{a}{l}+l-\sqrt{l^2-a^2}\right) =\frac{2}{\pi}\arccos\frac{a}{l}+\frac{2}{\pi a}\left(l-\sqrt{l^2-a^2}\right)

です。検算します。l=al=a では arccos1=0\arccos 1=0l2a2=0\sqrt{l^2-a^2}=0 より P(a)=2πP(a)=\dfrac{2}{\pi} となり、短針の公式 P=2lπaP=\dfrac{2l}{\pi a}l=al=a で評価した値と連続につながります。ll\to\infty では arccosalπ2\arccos\dfrac{a}{l}\to\dfrac{\pi}{2}ll2a2=a2l+l2a20l-\sqrt{l^2-a^2}=\dfrac{a^2}{l+\sqrt{l^2-a^2}}\to 0 なので P(l)1P(l)\to 1 となり、十分長い棒は確率1で線と交わるという当然の極限を再現します。また P(l)P(l)p(x)1p(x)\le 1 の平均なので 11 を超えることはなく、ll について単調増加で 2π\dfrac{2}{\pi} から 11 へ向かいます。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成8年度 修士課程 入学試験問題 数学。問題文は要約して引用しています。

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