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曲がった時空と重力:アインシュタイン方程式から GPS の 38 マイクロ秒まで

前提:一般相対性理論への招待:等価原理が重力を幾何学に変えるまで

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  • 一般相対論では重力は「力」ではありません。物体は何にも押されずに時空の測地線(まっすぐな道)を進んでおり、その道が曲がっていることを私たちは「落ちる」と呼んでいます。
  • 時空の曲がり方を決めるのがアインシュタイン方程式です。弱い重力場・低速の極限では、ニュートン重力のポアソン方程式 2Φ=4πGρ\nabla^2\Phi = 4\pi G\rho に正しく戻ります(定理 4.1)。
  • 球対称・真空の解は本質的にシュヴァルツシルト解ただ 1 つで、半径 rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 に事象の地平面が現れます。太陽なら 2.95 km、地球なら 8.9 mm です。
  • 時空の歪みそのものが波として光速で伝わります(重力波)。偏極は 2 種類、放射の主役は質量分布の四重極の変化です。
  • GPS 衛星の原子時計は、速度による遅れ 7.2 μs-7.2\ \mu\mathrm{s}/日 と重力による進み +45.7 μs+45.7\ \mu\mathrm{s}/日 の差し引きで、地表より 1 日あたり約 38.5 μs38.5\ \mu\mathrm{s} 進みます。補正しなければ測位は 1 日で約 11 km ずれます(例 7.2)。

1. 動機:ニュートン重力はなぜ作り替えられたのか

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ニュートンの万有引力の法則

F=GMmr2r^\boldsymbol{F} = -\frac{GMm}{r^2}\,\hat{\boldsymbol{r}}

は 200 年以上にわたって天体の運行を説明してきました(惑星の運動と中心力ケプラーの第一法則(定理 5.2)[惑星の運動と中心力])。それでもこの法則には、特殊相対論を知ってしまうと看過できない欠陥があります。

第一に、力が瞬時に伝わってしまいます。 右辺には「いまの距離 rr」しか現れません。仮に太陽が突然消えれば、地球は同じ瞬間に軌道を離れることになります。しかし特殊相対論によれば、どんな情報も光速を超えて伝わりません(特殊相対性理論の原理因果構造の絶対性(命題 7.3)[ローレンツ変換])。

第二に、「いまの距離」という言い方自体が意味をもちません。 同時刻の定義は観測者ごとに違うからです(ローレンツ変換同時刻の相対性(定理 5.1)[ローレンツ変換])。太陽と地球の「現在の距離」は、誰が測るかによって変わってしまいます。

第三に、観測が合いません。 水星の近日点は、他の惑星の摂動をすべて差し引いてもなお 100 年あたり約 43 秒角だけ余分に前進します。19 世紀の天文学者はこれを未知の惑星のせいにしようとしましたが、そんな惑星は見つかりませんでした。

ここで効いてくるのが、前章で扱った等価原理です(一般相対性理論への招待(等価原理)アインシュタインの等価原理(定義 3.3)[一般相対性理論への招待])。自由落下するエレベーターの中では重力が消えます。つまり重力は、適当な座標を選べば局所的には必ず消せるという、他の力にはない奇妙な性質をもっています。電磁気力にこんな芸当はできません(電磁気力との決定的な違い(注意 2.3)[一般相対性理論への招待])。荷電粒子と一緒に落ちても電場は消えないからです。

局所的に消せるが、大域的には消せない量。これは物理学ではなく幾何学の言葉です。地球儀の表面は、どの一点のまわりでも十分小さく見れば平面と区別がつきません。しかし地球儀全体を平面に伸ばすことはできません。この「局所的には平ら、大域的には曲がっている」という構造を数学は曲率と呼びます。アインシュタインの主張はこうです。

重力とは時空の曲率であり、自由落下とは曲がった時空を「まっすぐ」進むことである。

そして曲がり方を決めるのが物質とエネルギーの分布です。ジョン・ホイーラーの有名な言い換えを借りれば、「物質は時空にどう曲がるかを教え、時空は物質にどう動くかを教える」となります。

flowchart LR
T["物質・エネルギーの分布"] -->|"アインシュタイン方程式"| G["時空の計量と曲率"]
G -->|"測地線方程式"| M["自由落下する物体の運動"]
M -->|"物質が動く"| T
一般相対論の論理的な循環。物質が時空を曲げ、曲がった時空が物質を動かし、動いた物質がまた時空の曲がり方を変える。この循環が方程式を非線形にする。

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