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曲がった時空と重力:アインシュタイン方程式から GPS の 38 マイクロ秒まで

対象読者: 本テーマ第 1〜5 章の内容と、学部の電磁気学・ベクトル解析(ラプラシアン、ポアソン方程式)を学んだ人。テンソルの添字計算に慣れていることが望ましいです。

前提となる記事:一般相対性理論への招待:等価原理が重力を幾何学に変えるまで

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ボールを手から離すと落ちます。この当たり前の現象を、「力で引っ張られるから」ではなく「空間と時間そのものが曲がっているから」と考え直すのが一般相対論です。この記事では、その見方からニュートンの万有引力が(ほぼ)取り戻せることを確かめ、さらに GPS 衛星の時計が地上の時計より 1 日あたり約 38 マイクロ秒進む理由を、数値まで追います。

  • 一般相対論では重力は「力」ではありません。物体は何にも押されずに時空の測地線(まっすぐな道)を進んでおり、その道が曲がっていることを私たちは「落ちる」と呼んでいます。
  • 時空の曲がり方を決めるのがアインシュタイン方程式です。弱い重力場・低速の極限では、ニュートン重力のポアソン方程式 ∇2Φ=4πGρ\nabla^2\Phi = 4\pi G\rho に正しく戻ります(定理 4.1)。
  • 球対称・真空の解は本質的にシュヴァルツシルト解ただ 1 つで、半径 rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 に事象の地平面(そこより内側からは何も外へ出てこられない境目)が現れます。太陽なら 2.95 km、地球なら 8.9 mm です。
  • 時空の歪みそのものが波として光速で伝わります(重力波)。偏極(波の揺れ方の型)は 2 種類、放射の主役は質量分布の四重極(質量の偏り方を表す量の 1 つ)の変化です。
  • GPS 衛星の原子時計は、速度による遅れ −7.2 μs-7.2\ \mu\mathrm{s}/日 と重力による進み +45.7 μs+45.7\ \mu\mathrm{s}/日 の差し引きで、地表より 1 日あたり約 38.5 μs38.5\ \mu\mathrm{s} 進みます。補正しなければ測位は 1 日で約 11 km ずれます(例 7.2)。

なお、この記事の計量の符号は (−,+,+,+)(-,+,+,+) で、このテーマの他の記事(相対論的力学・共変形式など)で使う (+,−,−,−)(+,-,-,-) とは逆です。

1. 動機:ニュートン重力はなぜ作り替えられたのか

Section titled “1. 動機:ニュートン重力はなぜ作り替えられたのか”

ニュートンの万有引力の法則

F=−GMmr2 r^\boldsymbol{F} = -\frac{GMm}{r^2}\,\hat{\boldsymbol{r}}

は 200 年以上にわたって天体の運行を説明してきました(惑星の運動と中心力 の ケプラーの第一法則(定理 5.2)[惑星の運動と中心力])。それでもこの法則には、特殊相対論を知ってしまうと看過できない欠陥があります。

第一に、力が瞬時に伝わってしまいます。 右辺には「いまの距離 rr」しか現れません。仮に太陽が突然消えれば、地球は同じ瞬間に軌道を離れることになります。しかし特殊相対論によれば、どんな情報も光速を超えて伝わりません(特殊相対性理論の原理、因果構造の絶対性(命題 7.3)[ローレンツ変換])。

第二に、「いまの距離」という言い方自体が意味をもちません。 同時刻の定義は観測者ごとに違うからです(ローレンツ変換、同時刻の相対性(定理 5.1)[ローレンツ変換])。太陽と地球の「現在の距離」は、誰が測るかによって変わってしまいます。

第三に、観測が合いません。 水星の近日点は、他の惑星の摂動をすべて差し引いてもなお 100 年あたり約 43 秒角だけ余分に前進します。19 世紀の天文学者はこれを未知の惑星のせいにしようとしましたが、そんな惑星は見つかりませんでした。

ここで効いてくるのが、前章で扱った等価原理です(一般相対性理論への招待(等価原理)、アインシュタインの等価原理(定義 3.3)[一般相対性理論への招待])。自由落下するエレベーターの中では重力が消えます。つまり重力は、適当な座標を選べば局所的には必ず消せるという、他の力にはない奇妙な性質をもっています。電磁気力にこんな芸当はできません(電磁気力との決定的な違い(注意 2.3)[一般相対性理論への招待])。荷電粒子と一緒に落ちても電場は消えないからです。

局所的に消せるが、大域的には消せない量。これは物理学ではなく幾何学の言葉です。地球儀の表面は、どの一点のまわりでも十分小さく見れば平面と区別がつきません。しかし地球儀全体を平面に伸ばすことはできません。この「局所的には平ら、大域的には曲がっている」という構造を数学は曲率と呼びます。アインシュタインの主張はこうです。

重力とは時空の曲率であり、自由落下とは曲がった時空を「まっすぐ」進むことである。

そして曲がり方を決めるのが物質とエネルギーの分布です。ジョン・ホイーラーの有名な言い換えを借りれば、「物質は時空にどう曲がるかを教え、時空は物質にどう動くかを教える」となります。

一般相対論の論理的な循環。物質が時空を曲げ、曲がった時空が物質を動かし、動いた物質がまた時空の曲がり方を変える。この循環が方程式を非線形にする。

曲がった時空を扱うには、「2 点間の隔たり」を測る道具が要ります。それが計量です。

定義 2.1(計量と線素)↗

時空の各点で座標 xμ=(x0,x1,x2,x3)x^\mu = (x^0, x^1, x^2, x^3)(x0=ctx^0 = ct)をとる。近接した 2 事象の座標差 dxμdx^\mu に対して、その隔たりの 2 乗を

ds2=∑μ,ν=03gμν(x) dxμdxνds^2 = \sum_{\mu,\nu=0}^{3} g_{\mu\nu}(x)\,dx^\mu dx^\nu

で与える対称テンソル場 gμν=gνμg_{\mu\nu} = g_{\nu\mu} を計量、ds2ds^2 を線素という。以下、和の記号は省略する(同じ添字が上下に現れたら 00 から 33 まで和をとる)。符号は (−,+,+,+)(-,+,+,+) を採用し、gμνg_{\mu\nu} は各点で固有値の符号が (−,+,+,+)(-,+,+,+) となる正則行列とする。

計量が「重力ポテンシャルの一般相対論版」です。ニュートン重力ではスカラー関数 Φ\Phi 一つが場でしたが、一般相対論では対称 4×44\times4 行列、すなわち独立成分 10 個の gμνg_{\mu\nu} が場になります。

定義 2.2(固有時)↗

時空内の曲線 xμ(λ)x^\mu(\lambda) に沿って ds2<0ds^2 < 0(時間的)であるとき、その曲線に沿って運ばれた時計が刻む時間 τ\tau を固有時といい、

c2 dτ2=−ds2=−gμν dxμdxνc^2\,d\tau^2 = -ds^2 = -g_{\mu\nu}\,dx^\mu dx^\nu

で定める。

これは平坦な時空で定義した固有時(固有時(定義 3.2)[ローレンツ変換])を、そのまま曲がった時空に持ち込んだものです。固有時は座標の取り方によらない量です。「時計が実際に何秒進んだか」は座標系の選び方の問題ではないので、これは当然要求されるべき性質です。この記事で計算する「時計のずれ」は、すべてこの τ\tau の比較です。

次の定義は、「曲がった時空でのまっすぐな道」を式で表したものです。式に出てくるクリストッフェル記号 Γ\Gamma は、計量の変化率から作る補正項で、座標が曲がっているせいで加速度に見えてしまう分を表します。平らな時空で直交座標を使えばこの補正項はすべて 00 になり、通常の等速直線運動に戻ります(直後の例で確かめます)。

定義 2.3(測地線)↗

2 つの事象を結ぶ時間的曲線のうち、固有時 ∫dτ\displaystyle\int d\tau を停留にするものを測地線という。オイラー–ラグランジュ方程式を書き下すと、固有時 τ\tau をパラメータとして

d2xμdτ2+Γμαβdxαdτdxβdτ=0,Γμαβ=12gμν(∂αgνβ+∂βgνα−∂νgαβ)\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} + \Gamma^{\mu}{}_{\alpha\beta}\frac{dx^\alpha}{d\tau}\frac{dx^\beta}{d\tau} = 0, \qquad \Gamma^{\mu}{}_{\alpha\beta} = \frac{1}{2}g^{\mu\nu}\bigl(\partial_\alpha g_{\nu\beta} + \partial_\beta g_{\nu\alpha} - \partial_\nu g_{\alpha\beta}\bigr)

となる。ここで gμνg^{\mu\nu} は gμνg_{\mu\nu} の逆行列、∂α=∂/∂xα\partial_\alpha = \partial/\partial x^\alpha である。Γμαβ\Gamma^{\mu}{}_{\alpha\beta} をクリストッフェル記号という。

例 2.4(平坦な時空では測地線は等速直線運動)

重力がないミンコフスキー時空では、直交座標で gμν=ημν=diag(−1,1,1,1)g_{\mu\nu} = \eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(-1,1,1,1) です。ημν\eta_{\mu\nu} は定数なので ∂αgνβ=0\partial_\alpha g_{\nu\beta} = 0 となり、定義 2.3 のクリストッフェル記号はすべて 00 です。したがって測地線方程式は

d2xμdτ2=0\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2} = 0

すなわち xμ=aμτ+bμx^\mu = a^\mu \tau + b^\mu、時空の直線になります。空間成分と時間成分の比をとれば dxi/dtdx^i/dt は定数となり、つまり等速直線運動です。慣性の法則が「測地線を進む」という形に翻訳されました。

注意 2.5(曲率は潮汐力として観測される)

等価原理により、1 点のまわりでは適当な座標変換で Γμαβ=0\Gamma^{\mu}{}_{\alpha\beta} = 0 にできます(局所慣性系(定義 3.4)[一般相対性理論への招待])。しかし Γ\Gamma の微分まで消すことは一般にはできません。この消せない部分がリーマン曲率テンソル RμναβR^{\mu}{}_{\nu\alpha\beta} です。物理的には、隣り合う 2 つの自由落下する粒子の相対加速度、すなわち潮汐力(潮汐加速度(命題 4.1)[一般相対性理論への招待])として現れます。落下するエレベーターの中で重力は消えますが、エレベーターが巨大なら、床の近くと天井の近くで落下方向がわずかに違うので、中の物体は引き伸ばされます。この引き伸ばしこそが「消せない重力」=曲率です。

地球(中心は下方)天井側:弱く引かれる床側:強く引かれる
落下するエレベーターの中の 4 つの粒子(模式図。矢印の差は誇張してある)。床側ほど強く引かれて縦に離れ、どれも地球の中心へ向かうので横は近づく。

3. 弱い重力場とニュートン重力への橋

Section titled “3. 弱い重力場とニュートン重力への橋”

地球や太陽のまわりでは重力はきわめて弱いので、計量はミンコフスキー計量からわずかにずれるだけです。静的な弱い重力場では、ニュートンポテンシャル Φ\Phi(∣Φ∣/c2≪1|\Phi|/c^2 \ll 1)を使って計量が

ds2=−(1+2Φc2)c2dt2+(1−2Φc2)(dx2+dy2+dz2)ds^2 = -\Bigl(1 + \frac{2\Phi}{c^2}\Bigr)c^2 dt^2 + \Bigl(1 - \frac{2\Phi}{c^2}\Bigr)\bigl(dx^2 + dy^2 + dz^2\bigr)

と書けることが知られています。以下ではこれを弱場計量と呼びます。この形が本当にニュートン重力を含んでいることを 2 つの命題で確認します。

なお、ここでは g00g_{00} の形がニュートンポテンシャル Φ\Phi に対応していることが肝心です。次の 2 つの命題の結論は、1 次の近似では g00g_{00} だけから決まります。空間部分の係数 1−2Φ/c21 - 2\Phi/c^2 の根拠は、第 4 節のアインシュタイン方程式の側にあります。

命題 3.1(測地線方程式のニュートン極限)✓

弱場計量において場が静的(∂tgμν=0\partial_t g_{\mu\nu} = 0)であり、粒子の速度が光速に比べて十分小さい(∣dxi/dt∣≪c|dx^i/dt| \ll c)とする。このとき測地線方程式は、Φ/c2\Phi/c^2 および (v/c)2(v/c)^2 の 1 次までの近似で

d2xidt2=−∂Φ∂xi(i=1,2,3)\frac{d^2 x^i}{dt^2} = -\frac{\partial \Phi}{\partial x^i} \qquad (i = 1,2,3)

となる。これはニュートンの運動方程式そのものである。

証明(命題 3.1)

低速の仮定 ∣dxi/dτ∣≪c ∣dt/dτ∣|dx^i/d\tau| \ll c\,|dt/d\tau| より、定義 2.3 の第 2 項で生き残るのは α=β=0\alpha = \beta = 0 の項だけです。したがって

d2xidτ2≃−Γi00(cdtdτ)2.\frac{d^2x^i}{d\tau^2} \simeq -\Gamma^{i}{}_{00}\Bigl(c\frac{dt}{d\tau}\Bigr)^2 .

次に Γi00\Gamma^{i}{}_{00} を計算します。定義より

Γi00=12giν(2 ∂0gν0−∂νg00).\Gamma^{i}{}_{00} = \frac{1}{2}g^{i\nu}\bigl(2\,\partial_0 g_{\nu 0} - \partial_\nu g_{00}\bigr).

静的の仮定から ∂0gν0=0\partial_0 g_{\nu 0} = 0。また弱場計量は非対角成分をもたないので gi0=0g^{i0} = 0、gij≃δijg^{ij} \simeq \delta^{ij}(Φ/c2\Phi/c^2 の 1 次を落とした)。よって

Γi00=−12δij ∂jg00=−12 ∂i[−(1+2Φc2)]=1c2∂Φ∂xi.\Gamma^{i}{}_{00} = -\frac{1}{2}\delta^{ij}\,\partial_j g_{00} = -\frac{1}{2}\,\partial_i\Bigl[-\Bigl(1 + \frac{2\Phi}{c^2}\Bigr)\Bigr] = \frac{1}{c^2}\frac{\partial\Phi}{\partial x^i}.

これを代入すると

d2xidτ2≃−1c2∂Φ∂xi⋅c2(dtdτ)2=−∂Φ∂xi(dtdτ)2.\frac{d^2x^i}{d\tau^2} \simeq -\frac{1}{c^2}\frac{\partial\Phi}{\partial x^i}\cdot c^2\Bigl(\frac{dt}{d\tau}\Bigr)^2 = -\frac{\partial\Phi}{\partial x^i}\Bigl(\frac{dt}{d\tau}\Bigr)^2 .

最後に dt/dτdt/d\tau を評価します。弱場計量に dxi=vidtdx^i = v^i dt を代入すると

c2dτ2=(1+2Φc2)c2dt2−(1−2Φc2)v2dt2c^2 d\tau^2 = \Bigl(1 + \frac{2\Phi}{c^2}\Bigr)c^2 dt^2 - \Bigl(1-\frac{2\Phi}{c^2}\Bigr)v^2 dt^2

なので、Φ/c2\Phi/c^2 と (v/c)2(v/c)^2 をともに 1 次まで残せば dτ/dt=1+Φ/c2−v2/(2c2)+⋯d\tau/dt = 1 + \Phi/c^2 - v^2/(2c^2) + \cdots、すなわち dt/dτ=1+O(Φ/c2,v2/c2)dt/d\tau = 1 + O(\Phi/c^2, v^2/c^2) です。求める式は 1 次までの近似なので (dt/dτ)2→1(dt/d\tau)^2 \to 1 と置いてよく、同じ理由で d2xi/dτ2→d2xi/dt2d^2x^i/d\tau^2 \to d^2x^i/dt^2 と置き換えられます。以上で結論を得ます。

つまり「弱場計量の g00g_{00} 成分」がニュートンポテンシャルそのものです。g00=−(1+2Φ/c2)g_{00} = -(1 + 2\Phi/c^2) という一行が、リンゴが落ちる理由をすべて含んでいます。

命題 3.2(静止した時計の進み方)✓

弱場計量において、空間座標を固定した点(dxi=0dx^i = 0)に置かれた時計の固有時 τ\tau と座標時 tt の関係は

dτdt=1+2Φc2≃1+Φc2.\frac{d\tau}{dt} = \sqrt{1 + \frac{2\Phi}{c^2}} \simeq 1 + \frac{\Phi}{c^2}.

したがってポテンシャル ΦA, ΦB\Phi_A,\ \Phi_B の 2 点に静止した時計の進む速さの比は、∣Φ∣/c2≪1|\Phi|/c^2 \ll 1 の 1 次で

dτAdτB≃1+ΦA−ΦBc2\frac{d\tau_A}{d\tau_B} \simeq 1 + \frac{\Phi_A - \Phi_B}{c^2}

である。すなわちポテンシャルの高い(重力の弱い)場所の時計ほど速く進む。

証明(命題 3.2)

dxi=0dx^i = 0 を弱場計量に代入すると ds2=−(1+2Φ/c2)c2dt2ds^2 = -(1 + 2\Phi/c^2)c^2dt^2。定義 2.2 より c2dτ2=−ds2=(1+2Φ/c2)c2dt2c^2 d\tau^2 = -ds^2 = (1+2\Phi/c^2)c^2dt^2 なので、平方根をとって第 1 式を得ます。1+x≃1+x/2\sqrt{1+x} \simeq 1 + x/2(∣x∣≪1|x|\ll1)を x=2Φ/c2x = 2\Phi/c^2 に適用すれば dτ/dt≃1+Φ/c2d\tau/dt \simeq 1 + \Phi/c^2 です。

2 点の比は、同じ座標時 dtdt に対する dτAd\tau_A と dτBd\tau_B の比なので

dτAdτB=1+ΦA/c21+ΦB/c2=(1+ΦAc2)(1−ΦBc2+⋯ )≃1+ΦA−ΦBc2\frac{d\tau_A}{d\tau_B} = \frac{1 + \Phi_A/c^2}{1 + \Phi_B/c^2} = \Bigl(1 + \frac{\Phi_A}{c^2}\Bigr)\Bigl(1 - \frac{\Phi_B}{c^2} + \cdots\Bigr) \simeq 1 + \frac{\Phi_A - \Phi_B}{c^2}

となります(2 次の項 ΦAΦB/c4\Phi_A\Phi_B/c^4 を落としました)。

例 3.3(パウンド–レブカ実験(1960 年))

地表付近では Φ=gz\Phi = gz(g=9.81 m/s2g = 9.81\ \mathrm{m/s^2}、zz は高さ)と近似できます。ハーバード大学のジェファーソン塔の高さ h=22.5h = 22.5 m の上下に置いた線源と吸収体の間で、命題 3.2 は振動数のずれ

Δνν=−ghc2=−9.81×22.58.9876×1016=−220.78.9876×1016=−2.46×10−15\frac{\Delta\nu}{\nu} = -\frac{gh}{c^2} = -\frac{9.81 \times 22.5}{8.9876\times10^{16}} = -\frac{220.7}{8.9876\times10^{16}} = -2.46\times10^{-15}

を予言します(上向きに進む光は赤方偏移する)。パウンドとレブカは鉄 57 のメスバウアー効果を使ってこの 10−1510^{-15} という微小なずれを検出し、予言と一致することを示しました。等価原理の記事で述べた 重力赤方偏移(定理 5.1)[一般相対性理論への招待] が、ここでは計量の g00g_{00} 成分から導かれています。

命題 3.1 と 命題 3.2 は、計量が与えられたときに物体や時計がどう振る舞うかを教えてくれます。残る問題は「計量はどう決まるのか」です。答えがアインシュタインの重力場方程式です。

Rμν−12R gμν+Λgμν=8πGc4 TμνR_{\mu\nu} - \frac{1}{2}R\,g_{\mu\nu} + \Lambda g_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}\,T_{\mu\nu}

各記号の意味は次のとおりです。

記号名前中身
RμνR_{\mu\nu}リッチテンソルリーマン曲率テンソルの縮約 RαμανR^{\alpha}{}_{\mu\alpha\nu}。gμνg_{\mu\nu} の 2 階微分までを含む
RRスカラー曲率R=gμνRμνR = g^{\mu\nu}R_{\mu\nu}
Gμν=Rμν−12RgμνG_{\mu\nu} = R_{\mu\nu} - \frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}アインシュタインテンソル曲率を表す左辺の主役
Λ\Lambda宇宙定数真空自身がもつエネルギー密度に対応する定数
TμνT_{\mu\nu}エネルギー・運動量テンソルT00T_{00} がエネルギー密度、T0iT_{0i} が運動量密度、TijT_{ij} が応力

左辺は幾何、右辺は物質です。左辺は計量とその 1 階・2 階微分だけでできており、右辺は物質側の情報だけでできています。両辺とも対称テンソルなので、方程式は 10 本の連立偏微分方程式です。

この方程式の際立った特徴を 3 つ挙げます。

(1) 保存則が自動的に組み込まれています。 幾何学の恒等式(ビアンキ恒等式)から ∇μGμν=0\nabla^\mu G_{\mu\nu} = 0 が計量によらず成り立ちます。したがって方程式は ∇μTμν=0\nabla^\mu T_{\mu\nu} = 0、すなわちエネルギー・運動量の局所保存を要求します。保存則を仮定として付け加える必要がなく、幾何が勝手に保証してくれるのです(対称性と保存則の一般論は 対称性と保存則(ネーターの定理) の ネーターの定理(定理 4.1)[対称性と保存則] を参照してください)。

(2) 非線形です。 曲率は計量の 2 階微分に加えて 1 階微分の積を含みます。重力場そのものがエネルギーをもち、そのエネルギーがまた重力を生む、という自己相互作用があるためです。電磁場の方程式(マクスウェル方程式)が線形なのと対照的で、これが厳密解を得ることを非常に難しくしています。

(3) 結合定数が桁外れに小さいのです。 8πGc4=2.08×10−43 m−2 J−1 m3\displaystyle \frac{8\pi G}{c^4} = 2.08\times10^{-43}\ \mathrm{m^{-2}\,J^{-1}\,m^{3}}。曲率半径 1 m 程度に時空を曲げるには、右辺が 104310^{43} J/m3^3 級である必要があります。地球全体の質量エネルギー M⊕c2≈5.4×1041M_\oplus c^2 \approx 5.4\times10^{41} J を 1 m3^3 に詰め込んでもまだ足りません。時空は途方もなく硬いのです。だからこそ日常では重力が「弱い力」に見えます。

定理 4.1(アインシュタイン方程式のニュートン極限)✓

Λ=0\Lambda = 0 とし、時空が静的な弱い重力場(命題 3.1 と同じ弱場計量)で、物質が静止した非相対論的な塵(T00=ρc2T_{00} = \rho c^2、他の成分は ρc2\rho c^2 に比べて無視できる)であるとする。このとき Φ/c2\Phi/c^2 の 1 次までの近似で、アインシュタイン方程式の 0000 成分は

∇2Φ=4πGρ\nabla^2 \Phi = 4\pi G\rho

に帰着する。これはニュートン重力のポアソン方程式である。

証明の方針は次のとおりです。アインシュタイン方程式の 0000 成分だけを取り出し、右辺は静止した塵の ρ\rho で、左辺は R00R_{00} で評価します。弱い場では Γ\Gamma の 2 次の項が落とせるので、左辺は Φ\Phi の 2 階微分だけになり、ポアソン方程式と同じ形になります。Γ\Gamma そのものは、直前の命題の証明ですでに計算してあります。

証明(定理 4.1)

まず方程式を扱いやすい形に直します。Λ=0\Lambda = 0 の場合、両辺の gμνg^{\mu\nu} による縮約をとると、gμνgμν=4g^{\mu\nu}g_{\mu\nu} = 4(4 次元)より

R−12R⋅4=8πGc4T⟹−R=8πGc4T,T=gμνTμν.R - \frac{1}{2}R\cdot 4 = \frac{8\pi G}{c^4}T \quad\Longrightarrow\quad -R = \frac{8\pi G}{c^4}T, \qquad T = g^{\mu\nu}T_{\mu\nu}.

これを元の式に戻すと、等価な形(トレース反転形)

Rμν=8πGc4(Tμν−12Tgμν)R_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}\Bigl(T_{\mu\nu} - \frac{1}{2}T g_{\mu\nu}\Bigr)

が得られます。

右辺の評価。 静止した塵では T00=ρc2T_{00} = \rho c^2 で他は無視できます。g00≃−1g^{00} \simeq -1 なので T=g00T00=−ρc2T = g^{00}T_{00} = -\rho c^2。また g00≃−1g_{00} \simeq -1 より

T00−12Tg00=ρc2−12(−ρc2)(−1)=ρc2−12ρc2=12ρc2.T_{00} - \frac{1}{2}Tg_{00} = \rho c^2 - \frac{1}{2}(-\rho c^2)(-1) = \rho c^2 - \frac{1}{2}\rho c^2 = \frac{1}{2}\rho c^2 .

よって右辺の 0000 成分は 8πGc4⋅12ρc2=4πGρc2\dfrac{8\pi G}{c^4}\cdot\dfrac{1}{2}\rho c^2 = \dfrac{4\pi G\rho}{c^2} です。

左辺の評価。 リッチテンソルの定義 Rμν=∂αΓαμν−∂νΓαμα+ΓΓ−ΓΓR_{\mu\nu} = \partial_\alpha\Gamma^{\alpha}{}_{\mu\nu} - \partial_\nu\Gamma^{\alpha}{}_{\mu\alpha} + \Gamma\Gamma - \Gamma\Gamma において、Γ\Gamma は Φ/c2\Phi/c^2 の 1 次の量なので ΓΓ\Gamma\Gamma の項は 2 次であり落とせます。さらに静的なので ∂0\partial_0 を含む項は消えます。残るのは

R00≃∂iΓi00R_{00} \simeq \partial_i \Gamma^{i}{}_{00}

だけです。命題 3.1 の証明で計算したとおり Γi00=∂iΦ/c2\Gamma^{i}{}_{00} = \partial_i\Phi/c^2 なので、

R00≃∂i(1c2∂iΦ)=1c2∇2Φ.R_{00} \simeq \partial_i\Bigl(\frac{1}{c^2}\partial_i\Phi\Bigr) = \frac{1}{c^2}\nabla^2\Phi .

両辺を等置。 1c2∇2Φ=4πGρc2\dfrac{1}{c^2}\nabla^2\Phi = \dfrac{4\pi G\rho}{c^2}、すなわち ∇2Φ=4πGρ\nabla^2\Phi = 4\pi G\rho を得ます。

注意 4.2(宇宙定数について)

Λ\Lambda はアインシュタインが静的宇宙を得るために 1917 年に導入し、宇宙膨張の発見後に取り下げた項です。しかし 1998 年の Ia 型超新星の観測で宇宙の加速膨張が見つかり、Λ\Lambda(あるいはそれに相当するダークエネルギー)は現在の標準宇宙モデルに不可欠な要素として復活しました。観測値は Λ∼10−52 m−2\Lambda \sim 10^{-52}\ \mathrm{m^{-2}} 程度で、太陽系スケールの現象にはまったく効きません。以下の議論では Λ=0\Lambda = 0 とします。

5. シュヴァルツシルト解とブラックホール

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アインシュタイン方程式は非線形ですが、対称性が高ければ厳密に解けます。もっとも重要なのが球対称の真空解です。

定理 5.1(シュヴァルツシルト解とバーコフの定理)✓

Λ=0\Lambda = 0 とする。球対称(定義 2.1[Schwarzschild 解と太陽系での検証] の意味で、rr は面積座標)であり、ある半径の外側で真空(Tμν=0T_{\mu\nu} = 0)であるようなアインシュタイン方程式の解を考え、その真空領域で r>0r>0 かつ時間座標の方向が時間的(g00<0g_{00}<0)であるとする。このとき解はその真空領域において必ず静的であり、適当な座標 (t,r,θ,φ)(t, r, \theta, \varphi) を選べば

ds2=−(1−rsr)c2dt2+(1−rsr)−1dr2+r2(dθ2+sin⁡2θ dφ2)ds^2 = -\Bigl(1 - \frac{r_s}{r}\Bigr)c^2dt^2 + \Bigl(1 - \frac{r_s}{r}\Bigr)^{-1}dr^2 + r^2\bigl(d\theta^2 + \sin^2\theta\,d\varphi^2\bigr)

の形に書ける。ここで rsr_s は定数で、r→∞r \to \infty でニュートン重力に一致するという要請から rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2(MM は中心天体の質量)と定まる。

この定理の証明は、別記事で示した結果をつなぐ作業です。流れは 4 段階です。(1) 時間座標を取り替えて計量を対角形にする、(2) 真空の方程式を Rμν=0R_{\mu\nu}=0 の形にする、(3) 別記事のバーコフの定理を当てはめて解の形と静的であることを得る、(4) 遠方でニュートン重力に一致する条件から rsr_s を決める。なお面積座標とは、球面 r=constr=\text{const} の面積が 4πr24\pi r^2 になるように選んだ rr のことです。

証明(定理 5.1)

Schwarzschild 解 の記事で示した結果をつなぎます。球対称な計量(定義 2.1[Schwarzschild 解と太陽系での検証])は、時間座標の取り替えにより、補題 2.2[Schwarzschild 解と太陽系での検証] の対角形 −e2a(dx0)2+e2bdr2+r2dΩ2-e^{2a}(dx^0)^2+e^{2b}dr^2+r^2d\Omega^2 にできます。この取り替えは rr を変えないので、rr を固定した偏微分は ∂/∂x~0=(∂x0/∂x~0) ∂/∂x0\partial/\partial\tilde x^0=(\partial x^0/\partial\tilde x^0)\,\partial/\partial x^0 で、新しい g0~0~=−e2ag_{\tilde0\tilde0}=-e^{2a} は元の g00g_{00} の正数倍です。よって仮定 g00<0g_{00}<0 は e2a>0e^{2a}>0 を意味します。Λ=0\Lambda=0 の真空では、Rμν−12Rgμν=0R_{\mu\nu}-\tfrac12Rg_{\mu\nu}=0 のトレースをとって −R=0-R=0(4 次元で gμνgμν=4g^{\mu\nu}g_{\mu\nu}=4)、したがってアインシュタイン方程式は Rμν=0R_{\mu\nu}=0 と同値です。真空領域では仮定により r>0r>0、e2a>0e^{2a}>0 なので、定理 3.1[Schwarzschild 解と太陽系での検証] の仮定がすべて満たされ、時間座標を取り替えれば計量は主張の形になり、tt によらない、すなわち静的です。最後に、r≫rsr\gg r_s で低速の粒子の運動がニュートン重力の質量 MM の天体のまわりの運動と一致するための条件が rs=2GM/c2r_s=2GM/c^2 であることは 命題 3.2[Schwarzschild 解と太陽系での検証] によります(同じことを時計の遅れの側から確かめる計算は、この定理の後の注意で述べます)。

注意 5.2(この定理の意味と証明の所在)

証明の中心は、球対称計量の一般形 ds2=−A(t,r)c2dt2+B(t,r)dr2+r2dΩ2ds^2 = -A(t,r)c^2dt^2 + B(t,r)dr^2 + r^2d\Omega^2 についてアインシュタイン方程式を書き下す計算です。上で引いた記事のほか、Hartle 『Gravity』第 23 章、Schutz 『A First Course in General Relativity』第 10 章に丁寧な導出があります。

主張の後半(バーコフの定理)は物理的に強い内容をもちます。球対称なら、中心の星が脈動していようと球対称に崩壊していようと、外側の時空はまったく変化しないのです。したがって球対称な運動は重力波を出しません。この事実は 注意 6.2 で再登場します。

なお rr は「中心からの距離」ではありません。この座標では球面 r=constr = \text{const} の面積が 4πr24\pi r^2 になるように rr が定義されています(面積座標)。中心からの動径方向の固有距離は ∫dr/1−rs/r\int dr/\sqrt{1 - r_s/r} であり、rr そのものより大きくなります。

rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 が正しいことは 命題 3.2 から確認できます。r≫rsr \gg r_s で g00=−(1−rs/r)g_{00} = -(1 - r_s/r) を −(1+2Φ/c2)-(1 + 2\Phi/c^2) と比べると Φ=−c2rs/(2r)\Phi = -c^2 r_s/(2r)。これがニュートンポテンシャル −GM/r-GM/r に一致するには rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 でなければなりません。

定義 5.3(シュヴァルツシルト半径)↗

質量 MM に対して

rs=2GMc2r_s = \frac{2GM}{c^2}

をシュヴァルツシルト半径という。天体の半径が rsr_s より小さいとき、r=rsr = r_s の球面を事象の地平面といい、その内側をブラックホールという。

命題 5.4(シュヴァルツシルト時空の重力赤方偏移)✓

シュヴァルツシルト時空の r=r1r = r_1 および r=r2r = r_2(ともに rsr_s より大)に静止した 2 つの時計を考える。両者の固有時の進む速さの比は厳密に

dτ1dτ2=1−rs/r11−rs/r2\frac{d\tau_1}{d\tau_2} = \sqrt{\frac{1 - r_s/r_1}{1 - r_s/r_2}}

である。とくに r1<r2r_1 < r_2 なら dτ1<dτ2d\tau_1 < d\tau_2、すなわち内側の時計のほうが遅れる。r1→rsr_1 \to r_s の極限で比は 00 に近づき、遠方から見た地平面上の時計は止まって見える。

証明(命題 5.4)

静止しているので dr=dθ=dφ=0dr = d\theta = d\varphi = 0。これを 定理 5.1 の線素に代入すると ds2=−(1−rs/r)c2dt2ds^2 = -(1 - r_s/r)c^2dt^2 です。定義 2.2 より

dτ=1−rsr  dt.d\tau = \sqrt{1 - \frac{r_s}{r}}\;dt .

計量は tt に依らない(静的)ので、両方の時計について同じ座標時 dtdt を共通の物差しに使えます。よって

dτ1dτ2=1−rs/r1 dt1−rs/r2 dt=1−rs/r11−rs/r2.\frac{d\tau_1}{d\tau_2} = \frac{\sqrt{1 - r_s/r_1}\,dt}{\sqrt{1 - r_s/r_2}\,dt} = \sqrt{\frac{1 - r_s/r_1}{1 - r_s/r_2}} .

r1<r2r_1 < r_2 なら rs/r1>rs/r2r_s/r_1 > r_s/r_2 より分子のほうが小さく、比は 11 未満です。r1→rs+0r_1 \to r_s + 0 では分子が 00 に収束するので比も 00 に収束します。

例 5.5(いろいろな天体のシュヴァルツシルト半径)

rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 に 2G/c2=1.485×10−27 m/kg2G/c^2 = 1.485\times10^{-27}\ \mathrm{m/kg} を掛けるだけです。

天体質量rsr_s実際の半径
地球5.97×10245.97\times10^{24} kg8.87 mm6371 km
太陽1.99×10301.99\times10^{30} kg2.95 km6.96×1056.96\times10^5 km
いて座 A*(銀河中心)4.3×106 M⊙4.3\times10^6\,M_\odot1.3×1071.3\times10^7 km(≈0.085\approx 0.085 au)—
M87*(楕円銀河 M87 中心)6.5×109 M⊙6.5\times10^9\,M_\odot1.9×10101.9\times10^{10} km(≈128\approx 128 au)—

地球の計算だけ実行しておきます。rs=1.485×10−27×5.97×1024=8.87×10−3r_s = 1.485\times10^{-27} \times 5.97\times10^{24} = 8.87\times10^{-3} m。地球を直径 1.8 cm の球に圧縮すればブラックホールになる、ということです。実際の地球半径はその 7 億倍以上なので、地表の重力はきわめて弱い場(rs/R=1.4×10−9r_s/R = 1.4\times10^{-9})の領域にあります。

いて座 A* の地平面そのものの見込み角は、距離 8 kpc から見て直径で約 21 μ21\ \mu 秒角です。実際に観測される「影」は光の曲がりのぶんだけ大きく、直径が地平面の 27/2≈2.6\sqrt{27}/2 \approx 2.6 倍、すなわち約 50 μ50\ \mu 秒角になります。イベント・ホライズン・テレスコープが 2019 年に M87*、2022 年にいて座 A* の影を撮像したのは、この大きさを地球サイズの電波干渉計で分解した結果です。

次の注意では、座標の選び方に左右されない曲率の大きさ(クレッチマン・スカラー)を使って、地平面と中心の違いを見ます。

注意 5.6(事象の地平面は特異点ではない)

線素を見ると r=rsr = r_s で grrg_{rr} が発散し、r=0r = 0 で g00g_{00} が発散します。両者は性質がまったく違います。

曲率が本当に発散しているかは、座標に依らないスカラー量で判定します。シュヴァルツシルト時空ではクレッチマン・スカラーが

RμνρσRμνρσ=12 rs2r6R_{\mu\nu\rho\sigma}R^{\mu\nu\rho\sigma} = \frac{12\,r_s^2}{r^6}

と計算されます。r=rsr = r_s を代入すると 12/rs412/r_s^4 という有限の値です。つまり地平面では時空は何も壊れておらず、そこを通過する観測者は特別なことを感じません。発散は座標の選び方が悪いだけで、エディントン–フィンケルシュタイン座標やクルスカル座標に移れば消えます。

一方 r→0r \to 0 では 12rs2/r6→∞12r_s^2/r^6 \to \infty で、これは座標変換で消せない真の特異点です。

地平面が特別なのは因果的な意味においてです。r<rsr < r_s では 1−rs/r<01 - r_s/r < 0 となり g00g_{00} と grrg_{rr} の符号が入れ替わります。rr が時間的な座標になるため、内側に入った物体にとって rr が減ることは「未来へ進むこと」と同じになり、引き返せません。

光の進む道は、ds2=0ds^2 = 0 を満たす曲線(ヌル測地線)です。次の例は、その道が太陽の近くでどれだけ曲がるかを数値で見ます。

例 5.7(太陽による光の曲がり)

太陽の縁をかすめる光線の曲がり角は、シュヴァルツシルト時空のヌル測地線を解くと、rs/b≪1r_s/b \ll 1(bb は衝突径数)の 1 次で

Δφ=4GMc2b=2rsb\Delta\varphi = \frac{4GM}{c^2 b} = \frac{2r_s}{b}

となります(導出は Hartle 第 9 章、Schutz 第 11 章)。b=R⊙=6.957×108b = R_\odot = 6.957\times10^8 m、rs=2953r_s = 2953 m を入れると

Δφ=2×29536.957×108=8.49×10−6 rad.\Delta\varphi = \frac{2\times 2953}{6.957\times10^8} = 8.49\times10^{-6}\ \mathrm{rad}.

ラジアンを秒角に直すには 1 rad=206265′′1\ \mathrm{rad} = 206265'' を掛けて

Δφ=8.49×10−6×206265=1.75′′.\Delta\varphi = 8.49\times10^{-6}\times 206265 = 1.75''.

これがエディントンらが 1919 年の皆既日食で測定し、一般相対論を有名にした値です。ニュートン力学に光の粒子説を組み合わせた素朴な計算では、この半分の 0.87′′0.87'' しか出ません(等価原理から見積もる光の曲がり角(命題 6.2)[一般相対性理論への招待]、注意 6.4[一般相対性理論への招待])。差が生じるのは、光が高速なので g00g_{00} の効果(時間の曲がり)だけでなく空間の曲がり gijg_{ij} も同じくらい効くからです。

同じ計量から水星の近日点移動 43′′43''/世紀 も、電波が太陽の近くを通るときの往復時間の遅れ(シャピロ遅延)も導かれます。シャピロ遅延はカッシーニ探査機によって 10−510^{-5} の精度で確認されています。

時空が波打つことはあるでしょうか。方程式は非線形ですが、平坦な時空からのずれが小さい領域では線形化できます。

命題 6.1(線形化された重力場の方程式)✓

計量を gμν=ημν+hμνg_{\mu\nu} = \eta_{\mu\nu} + h_{\mu\nu}(∣hμν∣≪1|h_{\mu\nu}| \ll 1)と書き、h=ημνhμνh = \eta^{\mu\nu}h_{\mu\nu} を用いてトレース反転量

hˉμν=hμν−12ημνh\bar{h}_{\mu\nu} = h_{\mu\nu} - \tfrac{1}{2}\eta_{\mu\nu}h

を定める。座標条件(ローレンツゲージ)∂μhˉμν=0\partial^\mu \bar{h}_{\mu\nu} = 0 を課すと、hh の 1 次までのアインシュタイン方程式(Λ=0\Lambda = 0)は

□ hˉμν=−16πGc4Tμν,□=−1c2∂2∂t2+∇2\Box\,\bar{h}_{\mu\nu} = -\frac{16\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}, \qquad \Box = -\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2} + \nabla^2

となる。とくに真空 Tμν=0T_{\mu\nu} = 0 では □hˉμν=0\Box\bar{h}_{\mu\nu} = 0 であり、時空の歪みは光速で伝わる波として振る舞う。

この証明のねらいは、平らな時空に小さな波打ちを加えたとき、アインシュタイン方程式が波動方程式の形になることを示すことです。リッチテンソルの hh の 1 次の式を出発点にして、ゲージ条件で余分な項を消し、第 4 節のトレース反転形と等置します。

証明(命題 6.1)

リッチテンソルを hh の 1 次まで展開すると

Rμν=12(∂α∂μhαν+∂α∂νhαμ−□hμν−∂μ∂νh)R_{\mu\nu} = \frac{1}{2}\bigl(\partial^\alpha\partial_\mu h_{\alpha\nu} + \partial^\alpha\partial_\nu h_{\alpha\mu} - \Box h_{\mu\nu} - \partial_\mu\partial_\nu h\bigr)

となります(クリストッフェル記号を 1 次まで書き下して定義に代入する計算で、Schutz 第 8 章に詳しくあります)。

4 次元では ημνημν=4\eta^{\mu\nu}\eta_{\mu\nu} = 4 なので hˉ=h−2h=−h\bar{h} = h - 2h = -h、したがって hμν=hˉμν−12ημνhˉh_{\mu\nu} = \bar{h}_{\mu\nu} - \frac{1}{2}\eta_{\mu\nu}\bar{h} です。これを使ってゲージ条件を書き直すと

∂αhαν=∂αhˉαν−12∂νhˉ=−12∂νhˉ=12∂νh.\partial^\alpha h_{\alpha\nu} = \partial^\alpha\bar{h}_{\alpha\nu} - \frac{1}{2}\partial_\nu\bar{h} = -\frac{1}{2}\partial_\nu \bar{h} = \frac{1}{2}\partial_\nu h .

これを上の RμνR_{\mu\nu} に代入します。第 1 項と第 2 項はそれぞれ 12∂μ∂νh\frac{1}{2}\partial_\mu\partial_\nu h となるので、

Rμν=12(12∂μ∂νh+12∂ν∂μh−□hμν−∂μ∂νh)=−12□hμν.R_{\mu\nu} = \frac{1}{2}\Bigl(\frac{1}{2}\partial_\mu\partial_\nu h + \frac{1}{2}\partial_\nu\partial_\mu h - \Box h_{\mu\nu} - \partial_\mu\partial_\nu h\Bigr) = -\frac{1}{2}\Box h_{\mu\nu}.

定理 4.1 の証明で導いたトレース反転形 Rμν=8πGc4(Tμν−12Tgμν)R_{\mu\nu} = \frac{8\pi G}{c^4}(T_{\mu\nu} - \frac{1}{2}Tg_{\mu\nu}) と等置すると(1 次なので gμν→ημνg_{\mu\nu} \to \eta_{\mu\nu})

□hμν=−16πGc4(Tμν−12ημνT).\Box h_{\mu\nu} = -\frac{16\pi G}{c^4}\Bigl(T_{\mu\nu} - \frac{1}{2}\eta_{\mu\nu}T\Bigr).

両辺のトレースをとると □h=−16πGc4(T−2T)=16πGc4T\Box h = -\frac{16\pi G}{c^4}(T - 2T) = \frac{16\pi G}{c^4}T。よって

□hˉμν=□hμν−12ημν□h=−16πGc4Tμν+8πGc4ημνT−8πGc4ημνT=−16πGc4Tμν\Box\bar{h}_{\mu\nu} = \Box h_{\mu\nu} - \frac{1}{2}\eta_{\mu\nu}\Box h = -\frac{16\pi G}{c^4}T_{\mu\nu} + \frac{8\pi G}{c^4}\eta_{\mu\nu}T - \frac{8\pi G}{c^4}\eta_{\mu\nu}T = -\frac{16\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}

を得ます。□\Box は波動演算子であり、真空では □hˉμν=0\Box\bar{h}_{\mu\nu} = 0 が伝播速度 cc の波動方程式そのものです。

真空解のうち物理的に意味のある自由度は 2 つだけです。10 個の成分から、ゲージ条件 4 本と残された座標の自由度 4 本を差し引くと 2 つが残ります。これを h+h_+ と h×h_\times と書き、プラス偏極・クロス偏極と呼びます。zz 方向に進む波が通り過ぎると、xyxy 平面に置かれた自由粒子の輪は、h+h_+ なら縦長と横長を交互に、h×h_\times ならそれを 45∘45^\circ 傾けた形で変形します。重力波は伸び縮みの波であって、上下に揺れる波ではありません。

注意 6.2(なぜ四重極なのか)

放射の強さは、電磁気学と同様に多重極展開で評価します。ただし重力の場合、低次の多重極が保存則で禁止されます。

  • 単極子(モノポール)放射はありません。 質量の単極子モーメントは全質量そのもので、保存量だから時間変化しません。
  • 双極子放射もありません。 質量双極子モーメント ∑miri\sum m_i \boldsymbol{r}_i の時間微分は全運動量であり、これも保存量です。

したがって最低次は四重極です。質量四重極モーメント Qij=∫ρ (xixj−13δijr2) d3xQ_{ij} = \int \rho\,(x_i x_j - \frac{1}{3}\delta_{ij}r^2)\,d^3x を用いると、放射される仕事率は

P=G5c5⟨d3Qijdt3d3Qijdt3⟩P = \frac{G}{5c^5}\Bigl\langle \frac{d^3Q_{ij}}{dt^3}\frac{d^3Q_{ij}}{dt^3}\Bigr\rangle

と表されます(四重極公式。導出は MTW 『Gravitation』第 36 章)。注意 5.2 のバーコフの定理と整合していることに注意してください。球対称な運動では QijQ_{ij} が変化しないので、放射はゼロです。

前に付く係数 G/c5=2.76×10−53 W−1G/c^5 = 2.76\times10^{-53}\ \mathrm{W^{-1}} の逆数 c5/G=3.6×1052c^5/G = 3.6\times10^{52} W が重力波光度の自然単位です。この巨大さのために、実験室規模の物体をどんなに振り回しても検出可能な重力波は作れません。

例 6.3(GW150914:最初の直接検出)

2015 年 9 月 14 日、LIGO の 2 台の検出器が、36 M⊙36\,M_\odot と 29 M⊙29\,M_\odot のブラックホール連星が合体する信号を捉えました。合体後の質量は 62 M⊙62\,M_\odot で、差し引き約 3 M⊙3\,M_\odot 分のエネルギー

E=3×1.99×1030×8.99×1016=5.4×1047 JE = 3 \times 1.99\times10^{30} \times 8.99\times10^{16} = 5.4\times10^{47}\ \mathrm{J}

が 0.2 秒ほどの間に重力波として放出されました(E=mc2E = mc^2 については 相対論的力学(E=mc²) の エネルギー・運動量関係式(定理 4.4)[相対論的力学] を参照してください)。ピーク光度は約 3.6×10493.6\times10^{49} W で、観測可能な宇宙にあるすべての星の光度の総和を上回ります。

連星から出る重力波の周波数の増え方(チャープ)は、2 つの質量の特定の組み合わせ

M=(m1m2)3/5(m1+m2)1/5\mathcal{M} = \frac{(m_1m_2)^{3/5}}{(m_1+m_2)^{1/5}}

(チャープ質量)だけで決まります。GW150914 の値を計算してみます。m1m2=36×29=1044m_1m_2 = 36\times29 = 1044、m1+m2=65m_1+m_2 = 65(単位は M⊙M_\odot)なので

M=10443/5651/5=e0.6ln⁡1044e0.2ln⁡65=e0.6×6.951e0.2×4.174=e4.170e0.8349=64.82.30=28.1 M⊙.\mathcal{M} = \frac{1044^{3/5}}{65^{1/5}} = \frac{e^{0.6\ln 1044}}{e^{0.2\ln 65}} = \frac{e^{0.6\times 6.951}}{e^{0.2\times 4.174}} = \frac{e^{4.170}}{e^{0.8349}} = \frac{64.8}{2.30} = 28.1\ M_\odot .

観測された波形からまず精度よく決まるのはこの M\mathcal{M} で、個々の質量 m1,m2m_1, m_2 の分離にはより高次の効果が必要になります。

地球に届いた歪みの大きさは h≈1.0×10−21h \approx 1.0\times10^{-21} でした。LIGO の腕の長さ 4 km に対する変化量は

ΔL=h L=1.0×10−21×4000=4×10−18 m\Delta L = h\,L = 1.0\times10^{-21}\times 4000 = 4\times10^{-18}\ \mathrm{m}

で、陽子 1 個の直径(約 1.7×10−151.7\times10^{-15} m)の数百分の 1 です。この値を測るためにレーザー干渉計が必要でした。

注意 6.4(間接的な証拠は 40 年前からあった)

1974 年にハルスとテイラーが発見した連星パルサー PSR B1913+16 は、周期 7.75 時間で互いを回る中性子星の連星です。重力波を放出してエネルギーを失えば軌道は縮み、周期が短くなるはずです。四重極公式の予言は年あたり約 76 μ76\ \mus の周期短縮で、数十年にわたる観測はこれと 0.2%0.2\% 以内で一致しました。この業績には 1993 年のノーベル物理学賞が与えられています。重力波の存在は、直接検出の 40 年前から実質的に確立していたのです。

7. GPS:一般相対論が実務になる場所

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ここまでの理論を、いま手元のスマートフォンが使っている装置に適用します。GPS 衛星は高度約 20,200 km(地心距離 r=26,561r = 26{,}561 km)の円軌道を、周期 11 時間 58 分で回っています。各衛星はセシウムまたはルビジウムの原子時計を積み、「いま何時か」を電波で放送し続けます。受信機は 4 機以上の衛星からの信号の到着時刻の差から自分の位置を割り出します。時刻が 10 ns(ナノ秒)ずれると距離換算で約 3 m ずれるので、この装置の精度はまるごと時計の精度に乗っています。

衛星の時計には 2 つの効果が同時に働きます。衛星は速く動いているので遅れ(特殊相対論、時間の遅れ(定理 3.3)[ローレンツ変換])、重力の弱い高いところにいるので進みます(一般相対論、命題 3.2)。両者は符号が逆なので、正味の値を求めるには両方を正しく足し合わせなければなりません。ありがたいことに、シュヴァルツシルト時空の円軌道ではこれを厳密に一つの式にまとめられます。

命題 7.1(円軌道を回る時計の進み方)✓

シュヴァルツシルト時空において、赤道面内の半径 rr(r>3rs/2r > 3r_s/2)の円軌道を回る自由落下物体の固有時 τ\tau と座標時 tt の関係は、厳密に

dτdt=1−3GMrc2=1−3rs2r\frac{d\tau}{dt} = \sqrt{1 - \frac{3GM}{rc^2}} = \sqrt{1 - \frac{3r_s}{2r}}

である。無限遠に静止した時計に対する遅れが、静止した場合の 1−2GM/(rc2)\sqrt{1 - 2GM/(rc^2)} ではなく、係数 33 になっている点が要点である。

証明(命題 7.1)

Appendix で示すとおり、シュヴァルツシルト座標での円軌道の角速度は厳密に

(dφdt)2=GMr3\Bigl(\frac{d\varphi}{dt}\Bigr)^2 = \frac{GM}{r^3}

を満たします(ケプラーの第 3 法則がそのままの形で成り立ちます)。

赤道面 θ=π/2\theta = \pi/2、dr=0dr = 0、dθ=0d\theta = 0 を 定理 5.1 の線素に代入すると

ds2=−(1−rsr)c2dt2+r2dφ2.ds^2 = -\Bigl(1 - \frac{r_s}{r}\Bigr)c^2dt^2 + r^2 d\varphi^2 .

定義 2.2 より c2dτ2=−ds2c^2d\tau^2 = -ds^2 なので、両辺を c2dt2c^2dt^2 で割って

(dτdt)2=(1−rsr)−r2c2(dφdt)2=(1−2GMrc2)−r2c2⋅GMr3=1−3GMrc2.\Bigl(\frac{d\tau}{dt}\Bigr)^2 = \Bigl(1 - \frac{r_s}{r}\Bigr) - \frac{r^2}{c^2}\Bigl(\frac{d\varphi}{dt}\Bigr)^2 = \Bigl(1 - \frac{2GM}{rc^2}\Bigr) - \frac{r^2}{c^2}\cdot\frac{GM}{r^3} = 1 - \frac{3GM}{rc^2}.

rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 を使えば 3GM/(rc2)=3rs/(2r)3GM/(rc^2) = 3r_s/(2r) です。平方根をとって結論を得ます。r>3rs/2r > 3r_s/2 は根号の中が正であるための条件です。

例 7.2(GPS 衛星の時計は 1 日に何マイクロ秒進むか)

使う定数は次のとおりです。

GM⊕=3.9860×1014 m3/s2,c2=8.9876×1016 m2/s2,GM⊕c2=4.4350×10−3 mGM_\oplus = 3.9860\times10^{14}\ \mathrm{m^3/s^2},\quad c^2 = 8.9876\times10^{16}\ \mathrm{m^2/s^2},\quad \frac{GM_\oplus}{c^2} = 4.4350\times10^{-3}\ \mathrm{m}R⊕=6.371×106 m,r=2.6561×107 mR_\oplus = 6.371\times10^6\ \mathrm{m},\qquad r = 2.6561\times10^7\ \mathrm{m}

以下、衛星の固有時を τsat\tau_{\mathrm{sat}}、地表の固有時を τgnd\tau_{\mathrm{gnd}} と書きます。衛星の時計は 命題 7.1 より dτsat/dt=1−3GM/(rc2)d\tau_{\mathrm{sat}}/dt = \sqrt{1 - 3GM/(rc^2)}。地表の時計は静止しているので 命題 5.4 より dτgnd/dt=1−2GM/(R⊕c2)d\tau_{\mathrm{gnd}}/dt = \sqrt{1 - 2GM/(R_\oplus c^2)}。どちらも根号の中身は 11 に極めて近いので、1−x≃1−x/2\sqrt{1-x}\simeq 1 - x/2 を使って比をとります。

dτsatdτgnd≃1−3GM2rc21−GMR⊕c2≃1+GMc2(1R⊕−32r).\frac{d\tau_{\mathrm{sat}}}{d\tau_{\mathrm{gnd}}} \simeq \frac{1 - \dfrac{3GM}{2rc^2}}{1 - \dfrac{GM}{R_\oplus c^2}} \simeq 1 + \frac{GM}{c^2}\Bigl(\frac{1}{R_\oplus} - \frac{3}{2r}\Bigr).

内訳がわかるように、右辺の第 2 項を 2 つに分けて書きます。

GMc2(1R⊕−1r)⏟(a)  −  GM2rc2⏟(b)\underbrace{\frac{GM}{c^2}\Bigl(\frac{1}{R_\oplus} - \frac{1}{r}\Bigr)}_{(\mathrm{a})} \;\underbrace{-\;\frac{GM}{2rc^2}}_{(\mathrm{b})}

(a) が重力による進み、(b) が速度による遅れです。(b) が速度の効果であることは、円軌道の速さが v2=GM/rv^2 = GM/r であり、特殊相対論の時間の遅れが −v2/(2c2)=−GM/(2rc2)-v^2/(2c^2) = -GM/(2rc^2) となることから確認できます。

数値を入れます。

重力の効果:

4.4350×10−3×(16.371×106−12.6561×107)=4.4350×10−3×(1.5696−0.3765)×10−7=5.2915×10−104.4350\times10^{-3}\times\Bigl(\frac{1}{6.371\times10^6} - \frac{1}{2.6561\times10^7}\Bigr) = 4.4350\times10^{-3}\times\bigl(1.5696 - 0.3765\bigr)\times10^{-7} = 5.2915\times10^{-10}

1 日 =86400= 86400 s を掛けて +45.72 μs+45.72\ \mu\mathrm{s}/日 です。

速度の効果:

−4.4350×10−32×2.6561×107=−8.3487×10−11-\frac{4.4350\times10^{-3}}{2\times 2.6561\times10^{7}} = -8.3487\times10^{-11}

1 日を掛けて −7.21 μs-7.21\ \mu\mathrm{s}/日 です。ちなみに軌道速度は v=GM/r=3.87v = \sqrt{GM/r} = 3.87 km/s です。

正味:

(5.2915−0.8349)×10−10=4.4566×10−10(5.2915 - 0.8349)\times10^{-10} = 4.4566\times10^{-10}

1 日を掛けて +38.5 μs+38.5\ \mu\mathrm{s}/日。重力の効果が速度の効果の 6 倍以上あり、衛星の時計は差し引きで進みます。

1 日あたりの時計のずれ(地表基準、マイクロ秒)-1001020304050重力による進み速度による遅れ正味のずれ+45.7-7.2+38.5
GPS 衛星の原子時計が地表の時計に対して 1 日にずれる量。重力による進みが速度による遅れを大きく上回る。

38.5 μs38.5\ \mu\mathrm{s}/日、すなわち分数レートで 4.46×10−104.46\times10^{-10} という値がどれくらい深刻かを見ます。時刻誤差 Δt\Delta t は距離誤差 c Δtc\,\Delta t になるので、

c×38.5×10−6 s=2.998×108×3.85×10−5=1.15×104 mc \times 38.5\times10^{-6}\ \mathrm{s} = 2.998\times10^{8}\times 3.85\times10^{-5} = 1.15\times10^{4}\ \mathrm{m}

で、1 日で約 11 km です。測位に必要な 10 ns(約 3 m)に達するまでの時間は

1×10−84.46×10−10=22 s\frac{1\times10^{-8}}{4.46\times10^{-10}} = 22\ \mathrm{s}

にすぎず、100 m の誤差なら約 12 分で溜まります。相対論補正は「精度を上げるための微調整」ではなく、装置が成立するための必須条件です。

対処は驚くほど素朴です。衛星の基準発振器の公称周波数は 10.23 MHz ですが、打ち上げ前の地上での調整段階で、あらかじめ

Δf=−10.23×106×4.4647×10−10=−4.57×10−3 Hz\Delta f = -10.23\times10^{6}\times 4.4647\times10^{-10} = -4.57\times10^{-3}\ \mathrm{Hz}

だけ低くしておきます。つまり地上では 10.22999999543 MHz で発振するように作り、軌道に上がると相対論効果でちょうど 10.23 MHz として働くわけです。

一定のずれは以上の周波数オフセットで吸収できますが、それだけでは足りません。

  • 軌道の離心率による変動。 GPS 軌道はわずかに楕円なので、rr と vv が周期的に変わり、時計のずれも変動します。離心率 e=0.02e = 0.02 程度でも振幅は数十 ns に達するため、受信機側で Δt=2GMa esin⁡E/c2\Delta t = 2\sqrt{GMa}\,e\sin E/c^2(aa は軌道長半径、EE は離心近点角)という補正項を毎回計算します。
  • サニャック効果。 地球が自転しているため、電波が伝わる間に受信機が動きます。地球中心の慣性系で計算すればよいのですが、この補正は最大で 133 ns(距離にして約 40 m)に達します。

つまり GPS は、特殊相対論・一般相対論・回転系の運動学の 3 つを同時に使ってようやく動く装置です。アインシュタインが 1915 年に書いた方程式が、いま毎秒何十億回も評価されています。

演習 8.1易

東京スカイツリーの展望回廊(地上 450 m)と地表に、同じ光格子時計を置いたとします。命題 3.2 を使って、両者の進む速さの比の差 (Δτ/τ)(\Delta\tau/\tau) を求め、1 年間でどれだけの時間差になるか計算してください。重力加速度は g=9.80 m/s2g = 9.80\ \mathrm{m/s^2}、1 年を 3.156×1073.156\times10^7 s とします。

解答

地表付近では Φ=gz\Phi = gz と近似できるので、命題 3.2 より

Δττ=Φ(h)−Φ(0)c2=ghc2=9.80×4508.9876×1016=44108.9876×1016=4.91×10−14.\frac{\Delta\tau}{\tau} = \frac{\Phi(h) - \Phi(0)}{c^2} = \frac{gh}{c^2} = \frac{9.80\times450}{8.9876\times10^{16}} = \frac{4410}{8.9876\times10^{16}} = 4.91\times10^{-14}.

1 年で

4.91×10−14×3.156×107=1.55×10−6 s≈1.5 μs4.91\times10^{-14}\times 3.156\times10^{7} = 1.55\times10^{-6}\ \mathrm{s} \approx 1.5\ \mu\mathrm{s}

です。1 日あたりなら 4.91×10−14×86400=4.24.91\times10^{-14}\times86400 = 4.2 ns。上の時計のほうが速く進みます。

この実験は実際に行われました。香取秀俊のグループは可搬型の光格子時計 2 台をスカイツリーの地上階と 450 m の展望回廊に置き、4.9×10−144.9\times10^{-14} という予言値を相対精度 10−510^{-5} で検証しています(Takamoto et al., Nature Photonics 14 (2020), 411–415)。光格子時計はもはや高さ数センチの差を検出できる水準にあり、重力ポテンシャルを測る測地学の道具になりつつあります。

演習 8.2標準

静止衛星(地心距離 r=4.2164×107r = 4.2164\times10^7 m)の時計は、地表の時計に対して 1 日あたり何マイクロ秒ずれるでしょうか。例 7.2 と同じ定数を使い、重力の効果と速度の効果に分けて求めてください。GPS 衛星の場合(+38.5 μ+38.5\ \mus/日)と比べて、どちらが大きくなるか、その理由も述べてください。

解答

例 7.2 と同じ式

Δττ=GMc2(1R⊕−1r)−GM2rc2\frac{\Delta\tau}{\tau} = \frac{GM}{c^2}\Bigl(\frac{1}{R_\oplus} - \frac{1}{r}\Bigr) - \frac{GM}{2rc^2}

に r=4.2164×107r = 4.2164\times10^7 m を代入します。1/r=2.3717×10−81/r = 2.3717\times10^{-8}、1/R⊕=1.5696×10−71/R_\oplus = 1.5696\times10^{-7} です。

重力の効果:

4.4350×10−3×(1.5696−0.23717)×10−7=4.4350×10−3×1.3324×10−7=5.9093×10−104.4350\times10^{-3}\times(1.5696 - 0.23717)\times10^{-7} = 4.4350\times10^{-3}\times 1.3324\times10^{-7} = 5.9093\times10^{-10}

× 86400=+51.06 μs\times\,86400 = +51.06\ \mu\mathrm{s}/日 です。

速度の効果:

−4.4350×10−32×4.2164×107=−5.2593×10−11-\frac{4.4350\times10^{-3}}{2\times4.2164\times10^{7}} = -5.2593\times10^{-11}

× 86400=−4.54 μs\times\,86400 = -4.54\ \mu\mathrm{s}/日 です。

正味は 51.06−4.54=+46.5 μs51.06 - 4.54 = +46.5\ \mu\mathrm{s}/日 で、GPS 衛星より大きくなります。

理由は 2 つあります。静止軌道のほうが高いので重力ポテンシャルの差が大きく(進みが増える)、同時に軌道速度が遅いので(v=GM/r=3.07v = \sqrt{GM/r} = 3.07 km/s)特殊相対論による遅れが小さくなります。両方が同じ向きに効くので差は開きます。一般に高度を上げていくと正味のずれは単調に増え、無限遠の極限では GM/(R⊕c2)×86400=+60.1 μGM/(R_\oplus c^2) \times 86400 = +60.1\ \mus/日 に近づきます。

演習 8.3標準

シュヴァルツシルト時空において、動径方向に進む光の「座標速度」が

∣drdt∣=c(1−rsr)\Bigl|\frac{dr}{dt}\Bigr| = c\Bigl(1 - \frac{r_s}{r}\Bigr)

となることを示してください。また、これが「重力によって光が遅くなる」ことを意味しないのはなぜか、局所的に静止した観測者が測る速さを計算して説明してください。

解答

光の世界線は ds2=0ds^2 = 0(ヌル)を満たします。動径方向なので dθ=dφ=0d\theta = d\varphi = 0。定理 5.1 の線素に代入すると

0=−(1−rsr)c2dt2+(1−rsr)−1dr2.0 = -\Bigl(1 - \frac{r_s}{r}\Bigr)c^2dt^2 + \Bigl(1 - \frac{r_s}{r}\Bigr)^{-1}dr^2 .

f=1−rs/rf = 1 - r_s/r と置いて整理すると dr2=f2c2dt2dr^2 = f^2c^2dt^2、すなわち ∣dr/dt∣=cf=c(1−rs/r)|dr/dt| = cf = c(1 - r_s/r) です。r→rsr \to r_s でこれは 00 に近づきます。

しかしこれは光が遅くなったのではなく、tt と rr が遠方の観測者が使う便宜的な座標にすぎないためです。rr に静止した観測者が自分の物差しと時計で測ると、次のようになります。

  • 動径方向の固有距離:dℓ=dr/fd\ell = dr/\sqrt{f}(線素の grrg_{rr} から)
  • 固有時:dτ=f dtd\tau = \sqrt{f}\,dt(命題 5.4 の証明より)

したがって局所的に測った速さは

dℓdτ=dr/ff dt=1f∣drdt∣=1f⋅cf=c\frac{d\ell}{d\tau} = \frac{dr/\sqrt{f}}{\sqrt{f}\,dt} = \frac{1}{f}\Bigl|\frac{dr}{dt}\Bigr| = \frac{1}{f}\cdot cf = c

でぴったり cc です。どの局所慣性系でも光速が cc であることは一般相対論でも保たれています。

なお座標速度が cc より小さいことには観測できる帰結があります。太陽の近くを通る電波は座標時間で見て余分に時間がかかり、往復時間が延びます。これが 例 5.7 で触れたシャピロ遅延です。

演習 8.4難

シュヴァルツシルト・ブラックホールの「平均密度」を ρ=M/(43πrs3)\rho = M / \bigl(\frac{4}{3}\pi r_s^3\bigr) で定義します。これを MM の関数として表し、M=109M⊙M = 10^9 M_\odot の超大質量ブラックホールについて数値を求めてください。この結果は何を意味するでしょうか。

解答

定義 5.3 より rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 なので

ρ=M43π(2GMc2)3=3Mc64π⋅8G3M3=3c632πG3M2.\rho = \frac{M}{\dfrac{4}{3}\pi\Bigl(\dfrac{2GM}{c^2}\Bigr)^3} = \frac{3M c^6}{4\pi\cdot 8G^3M^3} = \frac{3c^6}{32\pi G^3 M^2}.

密度は質量の 2 乗に反比例します。大きいブラックホールほどスカスカということです。

数値を入れます。c6=(c2)3=(8.9876×1016)3=7.260×1050c^6 = (c^2)^3 = (8.9876\times10^{16})^3 = 7.260\times10^{50}、G3=(6.674×10−11)3=2.973×10−31G^3 = (6.674\times10^{-11})^3 = 2.973\times10^{-31}、M=109×1.989×1030=1.989×1039M = 10^9\times1.989\times10^{30} = 1.989\times10^{39} kg より M2=3.956×1078M^2 = 3.956\times10^{78}。

分子:3×7.260×1050=2.178×10513\times7.260\times10^{50} = 2.178\times10^{51}。

分母:32π=100.5332\pi = 100.53 なので 100.53×2.973×10−31×3.956×1078=1.182×1050100.53\times2.973\times10^{-31}\times3.956\times10^{78} = 1.182\times10^{50}。

ρ=2.178×10511.182×1050=18 kg/m3.\rho = \frac{2.178\times10^{51}}{1.182\times10^{50}} = 18\ \mathrm{kg/m^3}.

水(1000 kg/m31000\ \mathrm{kg/m^3})の 50 分の 1 ほど、地上の空気(1.2 kg/m31.2\ \mathrm{kg/m^3})の 15 倍程度にすぎません。

意味するところは重要です。ブラックホールは「物質が極限まで圧縮されたもの」という描像は、恒星質量のものにしか当てはまりません(同じ式で M=M⊙M = M_\odot とすると ρ=1.8×1019 kg/m3\rho = 1.8\times10^{19}\ \mathrm{kg/m^3} で、原子核密度の 80 倍近くになります)。超大質量ブラックホールの場合、地平面を横切る瞬間の潮汐力も小さく(注意 5.6 のクレッチマン・スカラーは 12/rs412/r_s^4 なので MM が大きいほど小さい)、落ちる観測者は境界を越えたことに気づきません。ブラックホールを特徴づけるのは密度でも力の強さでもなく、因果構造なのです。

  • J. B. Hartle, Gravity: An Introduction to Einstein’s General Relativity, Addison-Wesley, 2003 — 測地線と計量から入る構成で、第 6〜9 章がシュヴァルツシルト時空、第 16 章が重力波、第 22〜23 章が場の方程式とその解。
  • B. F. Schutz, A First Course in General Relativity, 2nd ed., Cambridge University Press, 2009 — 第 8 章に線形化重力と重力波、第 10〜11 章に球対称解と古典的検証。
  • C. W. Misner, K. S. Thorne, J. A. Wheeler, Gravitation, Princeton University Press, 2017(原著 1973)— 第 17 章が場の方程式、第 25 章がシュヴァルツシルト幾何、第 36 章が四重極公式。
  • 内山龍雄『一般相対性理論』裳華房(物理学選書)、1978 — 日本語で読める古典的な教科書。
  • N. Ashby, “Relativity in the Global Positioning System”, Living Reviews in Relativity 6 (2003), 1. https://doi.org/10.12942/lrr-2003-1 — GPS の相対論補正について、ジオイド基準・離心率補正・サニャック効果まで扱った標準的な総説。
  • B. P. Abbott et al. (LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration), “Observation of Gravitational Waves from a Binary Black Hole Merger”, Physical Review Letters 116 (2016), 061102. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.116.061102 — GW150914 の発見論文。

Appendix: シュヴァルツシルト時空の円軌道

Section titled “Appendix: シュヴァルツシルト時空の円軌道”

命題 7.1 で使った関係式 (dφ/dt)2=GM/r3(d\varphi/dt)^2 = GM/r^3 を導きます。

赤道面 θ=π/2\theta = \pi/2 に限ると、線素は

ds2=−f c2dt2+f−1dr2+r2dφ2,f=f(r)=1−rsrds^2 = -f\,c^2dt^2 + f^{-1}dr^2 + r^2d\varphi^2, \qquad f = f(r) = 1 - \frac{r_s}{r}

です。円軌道では rr が一定なので dr/dτ=0dr/d\tau = 0 かつ d2r/dτ2=0d^2r/d\tau^2 = 0。したがって 定義 2.3 の μ=r\mu = r 成分は

0+Γr00(dx0dτ)2+Γrφφ(dφdτ)2=00 + \Gamma^{r}{}_{00}\Bigl(\frac{dx^0}{d\tau}\Bigr)^2 + \Gamma^{r}{}_{\varphi\varphi}\Bigl(\frac{d\varphi}{d\tau}\Bigr)^2 = 0

となります(dr/dτ=0dr/d\tau = 0 なので Γrrr\Gamma^r{}_{rr} などを含む項は消え、θ=π/2\theta = \pi/2 一定なので θ\theta を含む項も消えます)。

必要なクリストッフェル記号を計算します。計量が対角なので grr=fg^{rr} = f です。座標 x0=ctx^0 = ct を使うと g00=−fg_{00} = -f、gφφ=r2g_{\varphi\varphi} = r^2 であり、計量は tt にも φ\varphi にも依らないので、

Γr00=12grr(2∂0gr0−∂rg00)=−12f ∂r(−f)=12ff′,\Gamma^{r}{}_{00} = \frac{1}{2}g^{rr}\bigl(2\partial_0 g_{r0} - \partial_r g_{00}\bigr) = -\frac{1}{2}f\,\partial_r(-f) = \frac{1}{2}f f', Γrφφ=12grr(2∂φgrφ−∂rgφφ)=−12f ∂r(r2)=−rf.\Gamma^{r}{}_{\varphi\varphi} = \frac{1}{2}g^{rr}\bigl(2\partial_\varphi g_{r\varphi} - \partial_r g_{\varphi\varphi}\bigr) = -\frac{1}{2}f\,\partial_r(r^2) = -rf .

ここで f′=df/dr=rs/r2f' = df/dr = r_s/r^2 です。x0=ctx^0 = ct より dx0/dτ=c dt/dτdx^0/d\tau = c\,dt/d\tau なので、測地線方程式は

12ff′ c2(dtdτ)2−rf(dφdτ)2=0.\frac{1}{2}ff'\,c^2\Bigl(\frac{dt}{d\tau}\Bigr)^2 - rf\Bigl(\frac{d\varphi}{d\tau}\Bigr)^2 = 0 .

f≠0f \neq 0(r>rsr > r_s)で割り、(dφ/dτ)/(dt/dτ)=dφ/dt(d\varphi/d\tau)/(dt/d\tau) = d\varphi/dt を使うと

(dφdt)2=c2f′2r=c22r⋅rsr2=c2rs2r3.\Bigl(\frac{d\varphi}{dt}\Bigr)^2 = \frac{c^2 f'}{2r} = \frac{c^2}{2r}\cdot\frac{r_s}{r^2} = \frac{c^2 r_s}{2r^3}.

最後に rs=2GM/c2r_s = 2GM/c^2 を代入すると

(dφdt)2=c22r3⋅2GMc2=GMr3\Bigl(\frac{d\varphi}{dt}\Bigr)^2 = \frac{c^2}{2r^3}\cdot\frac{2GM}{c^2} = \frac{GM}{r^3}

を得ます。これはケプラーの第 3 法則 T2∝r3T^2 \propto r^3 と同じ形です(ケプラーの第三法則(定理 6.1)[惑星の運動と中心力])。シュヴァルツシルト座標という特定の座標系ではニュートン重力と厳密に同じ関係が成り立つ、という少し意外な事実で、GPS の計算を見通しよくしてくれます。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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