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1次元の簡単な系:無限井戸・トンネル効果・調和振動子

対象読者: 本テーマ第 1〜3 章(シュレーディンガー方程式・演算子・交換関係)と、2 階線形常微分方程式の解法を学んだ人。特殊関数の知識は仮定しません。

前提となる記事:演算子と物理量:エルミート演算子と交換関係から不確定性関係へ

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ギターの弦は両端が固定されているので、決まった高さの音しか出せません。量子力学でも、小さな粒子を狭い場所に閉じ込めると、取りうるエネルギーがとびとびの値に限られます。また、高い壁に跳ね返されるはずの粒子が、壁の向こう側に現れることもあります。この記事では、井戸に閉じ込められた粒子、壁を通り抜ける粒子、ばねにつながれたように振動する粒子の三つを取り上げ、こうした不思議な振る舞いがどこから出てくるのかを計算で確かめます。

  • 1 次元の定常シュレーディンガー方程式は 2 階の線形常微分方程式です。エネルギーが離散化するのは方程式そのものからではなく、規格化可能性(あるいは壁での境界条件)(波動関数の絶対値の 2 乗を全体で足すと有限の値になる、という条件)が課す制約からです。この一点が本記事全体を貫きます。
  • 無限に深い井戸では En=π2ℏ22mL2 n2E_n = \dfrac{\pi^2\hbar^2}{2mL^2}\,n^2(n=1,2,…n = 1, 2, \ldots)となり、最低エネルギーが 00 にならない(零点エネルギー、つまり絶対零度でも残る最低エネルギー)。これは不確定性関係の直接の帰結です。
  • 矩形障壁では E<V0E < V_0 でも透過率 TT は正です。厚い障壁では T≃16E(V0−E)V02e−2κaT \simeq \dfrac{16E(V_0-E)}{V_0^{2}}e^{-2\kappa a} となり、幅 aa に指数的に依存します。走査トンネル顕微鏡が原子分解能を持つ理由がここにあります。
  • 調和振動子は、微分方程式を一度も解かずに、交換関係 [a^,a^†]=1[\hat a, \hat a^{\dagger}] = 1 と a^†a^≥0\hat a^{\dagger}\hat a \ge 0 だけからスペクトル En=(n+12)ℏωE_n = \left(n + \tfrac12\right)\hbar\omega が完全に決まります。
  • 三つの系に共通する構造は「ヒルベルト空間(波動関数が住む関数の空間)に属せという要求が、連続だったパラメータを離散集合へ絞り込む」ことです。水素原子でも同じ論理が働きます。

1. 動機:なぜ 1 次元から始めるのか

Section titled “1. 動機:なぜ 1 次元から始めるのか”

ボーアが 1913 年に水素原子のスペクトルを説明したとき、エネルギーの離散性は仮定でした。角運動量が ℏ\hbar の整数倍に限られる、という量子条件を外から課したのです。なぜそんな条件が成り立つのかは説明されませんでした。詳しくは 量子力学の誕生、とくに ボーアの量子条件のド・ブロイによる解釈(命題 6.5)[量子力学の誕生] を参照してください。

1926 年にシュレーディンガーが与えた答えは、見方を根本から変えるものでした。エネルギーの離散性は追加の仮定ではなく、波動関数が「まともな関数」であれという要求から自動的に出てくる、というのです。弦の固有振動数が離散的なのは、両端が固定されているからです。それと同じことが原子の中で起きている。これがシュレーディンガーの主張でした。

この主張は、3 次元の水素原子でいきなり検証するには複雑すぎます。そこで本章では 1 次元の系を三つ取り上げます。

  1. 無限に深い井戸:離散性がどこから来るのかを、もっとも裸の形で見ます。
  2. 矩形ポテンシャル障壁:古典力学が「絶対に通れない」と断言する壁を、粒子が有限の確率で通り抜けます。
  3. 1 次元調和振動子:微分方程式を解く代わりに、演算子の代数だけでスペクトルを決めます。

1 次元にこだわるのは、単に計算が楽だからではありません。第一に、シュレーディンガー方程式と波動関数 で導入した波動関数の確率解釈と、演算子と物理量 で扱った演算子形式が、余計な角運動量の技術に埋もれずに正面から見えます。第二に、3 次元の中心力問題は角度部分を分離すると動径方向の 1 次元問題に帰着します(水素原子 の 命題 4.1[水素原子] を参照)。1 次元は特殊な練習問題ではなく、量子力学の主要な計算技術がそこに集約されている場所です。

2. 準備:1 次元定常状態の一般論

Section titled “2. 準備:1 次元定常状態の一般論”

以下、質量 mm の粒子が実数値ポテンシャル V(x)V(x) の中を動くとします。ハミルトニアンは

H^=p^22m+V(x^),p^=−iℏddx\hat H = \frac{\hat p^{2}}{2m} + V(\hat x), \qquad \hat p = -i\hbar\frac{d}{dx}

で、定常状態は固有値方程式 H^∣ψ⟩=E∣ψ⟩\hat H\lvert\psi\rangle = E\lvert\psi\rangle、すなわち 時間非依存シュレーディンガー方程式(定義 6.1)[シュレーディンガー方程式と波動関数] の解です。位置表示 ψ(x)=⟨x∣ψ⟩\psi(x) = \langle x\vert\psi\rangle で書くと

−ℏ22mψ′′(x)+V(x)ψ(x)=Eψ(x),すなわちψ′′(x)=2mℏ2(V(x)−E)ψ(x)-\frac{\hbar^{2}}{2m}\psi''(x) + V(x)\psi(x) = E\psi(x), \qquad\text{すなわち}\qquad \psi''(x) = \frac{2m}{\hbar^{2}}\bigl(V(x) - E\bigr)\psi(x)

となります。これは 2 階の線形常微分方程式です。ここで重要なのは、EE をどんな実数に取っても解は必ず存在するという事実です。解の存在だけでは何も量子化されません。量子化を生むのは次の区別です。

定義 2.1(束縛状態と散乱状態)↗

定常状態 ψ\psi が ∫−∞∞∣ψ(x)∣2 dx<∞\int_{-\infty}^{\infty}\lvert\psi(x)\rvert^{2}\,dx < \infty を満たす、すなわち ψ∈L2(R)\psi \in L^{2}(\mathbb{R}) であるとき、ψ\psi を束縛状態と呼び、その EE を離散スペクトル(束縛エネルギー準位)の点と呼ぶ。

一方 ψ\psi が有界ではあるが二乗可積分でなく、x→±∞x \to \pm\infty で振動して残るとき、ψ\psi を散乱状態と呼ぶ。散乱状態は単独では状態ベクトルではなく、波束を作るための重ね合わせの部品として使う。

束縛状態を要求すると、EE は一般には特別な値しか許されません。これが離散スペクトルの正体です。散乱状態のほうは EE が連続的に走り、代わりに透過率・反射率という別の量が主役になります。無限井戸と調和振動子は前者、障壁は後者の話です。

2.1. ポテンシャルが不連続な点での接続条件

Section titled “2.1. ポテンシャルが不連続な点での接続条件”

現実のポテンシャルは滑らかですが、模型としては段差や δ\delta 関数を使うと計算が劇的に楽になります。そのとき波動関数をどうつなぐかを決めておきます。

命題 2.2(接続条件)✓

ψ\psi を定常シュレーディンガー方程式の解とし、ψ\psi は連続であるとする。点 x0x_0 について次が成り立つ。

  1. VV が x0x_0 のある近傍で有界(有限の跳びは許す)ならば、ψ′\psi' は x0x_0 で連続である。
  2. V(x)=λ δ(x−x0)+W(x)V(x) = \lambda\,\delta(x - x_0) + W(x)(WW は x0x_0 の近傍で有界、λ\lambda は実定数)ならば、
ψ′(x0+)−ψ′(x0−)=2mλℏ2 ψ(x0)\psi'(x_0^{+}) - \psi'(x_0^{-}) = \frac{2m\lambda}{\hbar^{2}}\,\psi(x_0)

が成り立つ。

証明(命題 2.2)

方程式 ψ′′=2mℏ2(V−E)ψ\psi'' = \dfrac{2m}{\hbar^{2}}(V - E)\psi を区間 [x0−ε, x0+ε][x_0-\varepsilon,\ x_0+\varepsilon] 上で積分します。左辺は微分積分学の基本定理より ψ′(x0+ε)−ψ′(x0−ε)\psi'(x_0+\varepsilon) - \psi'(x_0-\varepsilon) です。したがって

ψ′(x0+ε)−ψ′(x0−ε)=2mℏ2∫x0−εx0+ε(V(x)−E)ψ(x) dx.\psi'(x_0+\varepsilon) - \psi'(x_0-\varepsilon) = \frac{2m}{\hbar^{2}}\int_{x_0-\varepsilon}^{x_0+\varepsilon}\bigl(V(x) - E\bigr)\psi(x)\,dx .

(1) の場合、x0x_0 の近傍で ∣V−E∣≤M\lvert V - E\rvert \le M、∣ψ∣≤M′\lvert\psi\rvert \le M' と押さえられるので、右辺の絶対値は 2mℏ2⋅2εMM′\dfrac{2m}{\hbar^{2}}\cdot 2\varepsilon M M' 以下です。ε→0\varepsilon \to 0 でこれは 00 に収束するので、ψ′\psi' の左右の極限は一致します。

(2) の場合、δ\delta 関数の部分だけが ε→0\varepsilon \to 0 で残ります。∫x0−εx0+ελδ(x−x0)ψ(x) dx=λψ(x0)\displaystyle\int_{x_0-\varepsilon}^{x_0+\varepsilon}\lambda\delta(x-x_0)\psi(x)\,dx = \lambda\psi(x_0) であり、残りの W−EW - E の寄与は (1) と同じ評価で 00 に収束します。よって主張の跳びの式を得ます。

2.2. 1 次元束縛状態は縮退しない

Section titled “2.2. 1 次元束縛状態は縮退しない”

次の命題は、この記事の三つの系すべてで繰り返し使います。言いたいことは「束縛状態なら、同じエネルギーの解は定数倍を除いてただ一つ」ということです。そのために、二つの解が比例しているかどうかを測る量としてロンスキアン(二つの関数 ψ1,ψ2\psi_1,\psi_2 について ψ1ψ2′−ψ1′ψ2\psi_1\psi_2'-\psi_1'\psi_2 という組み合わせ)を使います。これが 00 なら二つの解は比例している、という方針で進みます。

命題 2.3(1 次元束縛状態の非縮退)✓

区間 I=(α,β)I = (\alpha, \beta)(α=−∞\alpha = -\infty、β=+∞\beta = +\infty を許す)上で VV は実数値かつ局所有界とする。ψ1,ψ2\psi_1, \psi_2 を同じ実数 EE に対する定常シュレーディンガー方程式の C2C^{2} 級の解で、どちらも恒等的に 00 ではなく、さらに

  • x→α+x \to \alpha^{+} で ψ1(x)→0\psi_1(x) \to 0 かつ ψ2(x)→0\psi_2(x) \to 0、
  • ψ1′,ψ2′\psi_1', \psi_2' は α\alpha の近傍で有界

を満たすとする。このとき定数 cc が存在して ψ2=c ψ1\psi_2 = c\,\psi_1 が II 全体で成り立つ。すなわち、この境界条件を満たす解の空間は 1 次元であり、束縛状態のエネルギー準位は縮退しない。

証明(命題 2.3)

ロンスキアン W(x)=ψ1(x)ψ2′(x)−ψ1′(x)ψ2(x)W(x) = \psi_1(x)\psi_2'(x) - \psi_1'(x)\psi_2(x) を考えます。微分すると ψ1′ψ2′\psi_1'\psi_2' の項が相殺して

W′=ψ1ψ2′′−ψ1′′ψ2=2mℏ2(V−E)(ψ1ψ2−ψ1ψ2)=0W' = \psi_1\psi_2'' - \psi_1''\psi_2 = \frac{2m}{\hbar^{2}}(V-E)\bigl(\psi_1\psi_2 - \psi_1\psi_2\bigr) = 0

となります。ここで両方の解に同じ EE を用いたこと、および VV が実数値であることを使いました。よって WW は II 上で定数です。

仮定より x→α+x \to \alpha^{+} で ψ1,ψ2→0\psi_1, \psi_2 \to 0 かつ ψ1′,ψ2′\psi_1', \psi_2' は有界なので、W(x)→0W(x) \to 0 です。定数なのですから W≡0W \equiv 0 です。

次に ψ1\psi_1 の零点を調べます。ある x0x_0 で ψ1(x0)=ψ1′(x0)=0\psi_1(x_0) = \psi_1'(x_0) = 0 とすると、2 階線形常微分方程式の解の一意性(コーシー・リプシッツの定理)より ψ1≡0\psi_1 \equiv 0 となり仮定に反します。したがって ψ1\psi_1 の零点 x0x_0 では必ず ψ1′(x0)≠0\psi_1'(x_0) \ne 0 です。

ψ1\psi_1 が II 上で零点を持たない場合は、(ψ2ψ1)′=ψ1ψ2′−ψ1′ψ2ψ12=Wψ12=0\left(\dfrac{\psi_2}{\psi_1}\right)' = \dfrac{\psi_1\psi_2' - \psi_1'\psi_2}{\psi_1^{2}} = \dfrac{W}{\psi_1^{2}} = 0 より ψ2/ψ1\psi_2/\psi_1 は定数 cc で、結論を得ます。

ψ1\psi_1 が零点 x0x_0 を持つ場合は、W(x0)=0W(x_0) = 0 と ψ1(x0)=0\psi_1(x_0) = 0 から −ψ1′(x0)ψ2(x0)=0-\psi_1'(x_0)\psi_2(x_0) = 0、すなわち ψ2(x0)=0\psi_2(x_0) = 0 です。そこで c=ψ2′(x0)/ψ1′(x0)c = \psi_2'(x_0)/\psi_1'(x_0) と置き、φ=ψ2−cψ1\varphi = \psi_2 - c\psi_1 とすると、φ\varphi は同じ方程式の解で φ(x0)=φ′(x0)=0\varphi(x_0) = \varphi'(x_0) = 0 を満たします。再び解の一意性より φ≡0\varphi \equiv 0、すなわち ψ2=cψ1\psi_2 = c\psi_1 です。

系 2.4(束縛状態のパリティ)✓

上の仮定に加えて VV が偶関数(V(−x)=V(x)V(-x) = V(x))で、I=RI = \mathbb{R} とする。このとき束縛状態 ψ\psi は ψ(−x)=ψ(x)\psi(-x) = \psi(x)(偶)か ψ(−x)=−ψ(x)\psi(-x) = -\psi(x)(奇)のいずれかである。

証明(系 2.4)

ψ~(x):=ψ(−x)\tilde\psi(x) := \psi(-x) と置きます。ψ~′′(x)=ψ′′(−x)=2mℏ2(V(−x)−E)ψ(−x)=2mℏ2(V(x)−E)ψ~(x)\tilde\psi''(x) = \psi''(-x) = \dfrac{2m}{\hbar^{2}}\bigl(V(-x)-E\bigr)\psi(-x) = \dfrac{2m}{\hbar^{2}}\bigl(V(x)-E\bigr)\tilde\psi(x) なので、VV が偶関数であることから ψ~\tilde\psi も同じ EE に対する解です。ψ\psi が束縛状態なら ψ~\tilde\psi も束縛状態なので、命題 2.3 より ψ~=cψ\tilde\psi = c\psi となる定数 cc があります。

同じ操作をもう一度施すと ψ(x)=ψ~~(x)=c ψ~(x)=c2ψ(x)\psi(x) = \tilde{\tilde\psi}(x) = c\,\tilde\psi(x) = c^{2}\psi(x) です。ψ≢0\psi \not\equiv 0 なので c2=1c^{2} = 1、すなわち c=±1c = \pm 1 を得ます。

3. 無限に深い井戸型ポテンシャル

Section titled “3. 無限に深い井戸型ポテンシャル”

もっとも単純な閉じ込めから始めます。

V(x)={0(0<x<L)+∞(それ以外)V(x) = \begin{cases} 0 & (0 < x < L) \\ +\infty & (\text{それ以外}) \end{cases}

壁の外では V=∞V = \infty なので、有限のエネルギーを持つ状態はそこに存在できません。ψ(x)=0\psi(x) = 0(x≤0x \le 0 または x≥Lx \ge L)とし、ψ\psi の連続性から境界条件

ψ(0)=ψ(L)=0\psi(0) = \psi(L) = 0

を課します。これが「弦の両端が固定されている」に対応する条件です。

定理 3.1(無限井戸のスペクトル)✓

上のポテンシャルに対する定常シュレーディンガー方程式の、ψ(0)=ψ(L)=0\psi(0)=\psi(L)=0 を満たす恒等的に 00 でない解は、正の整数 nn で番号付けられ、

En=ℏ2π22mL2 n2,ψn(x)=2L sin⁡nπxL(0≤x≤L),n=1,2,3,…E_n = \frac{\hbar^{2}\pi^{2}}{2mL^{2}}\,n^{2}, \qquad \psi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}}\,\sin\frac{n\pi x}{L} \quad (0 \le x \le L), \qquad n = 1, 2, 3, \ldots

で尽くされる。{ψn}n≥1\{\psi_n\}_{n\ge1} は L2(0,L)L^{2}(0,L) の完全正規直交系をなす。すなわち ⟨ψn∣ψn′⟩=δnn′\langle\psi_n\vert\psi_{n'}\rangle = \delta_{nn'} であり、任意の f∈L2(0,L)f \in L^{2}(0,L) は f=∑n≥1⟨ψn∣f⟩ ψnf = \sum_{n\ge1}\langle\psi_n\vert f\rangle\,\psi_n と展開できる。

証明(定理 3.1)

手順 1:E>0E > 0 でなければならない。 まず E<0E < 0 とし κ=−2mE/ℏ>0\kappa = \sqrt{-2mE}/\hbar > 0 と置くと、井戸の内部で ψ′′=κ2ψ\psi'' = \kappa^{2}\psi なので ψ=Asinh⁡κx+Bcosh⁡κx\psi = A\sinh\kappa x + B\cosh\kappa x です。ψ(0)=0\psi(0)=0 より B=0B = 0。ψ(L)=Asinh⁡κL=0\psi(L) = A\sinh\kappa L = 0 で、κL>0\kappa L > 0 では sinh⁡κL≠0\sinh \kappa L \ne 0 なので A=0A = 0、つまり ψ≡0\psi \equiv 0 です。E=0E = 0 のときは ψ′′=0\psi'' = 0 より ψ=A+Bx\psi = A + Bx で、ψ(0)=0⇒A=0\psi(0)=0 \Rightarrow A = 0、ψ(L)=0⇒B=0\psi(L)=0 \Rightarrow B = 0 となり、やはり ψ≡0\psi \equiv 0 です。よって E>0E > 0 です。

手順 2:一般解と境界条件。 k=2mE/ℏ>0k = \sqrt{2mE}/\hbar > 0 と置くと内部で ψ′′=−k2ψ\psi'' = -k^{2}\psi、一般解は ψ=Asin⁡kx+Bcos⁡kx\psi = A\sin kx + B\cos kx です。ψ(0)=B=0\psi(0) = B = 0 より ψ=Asin⁡kx\psi = A\sin kx。ψ(L)=Asin⁡kL=0\psi(L) = A\sin kL = 0 で A≠0A \ne 0 が必要なので sin⁡kL=0\sin kL = 0、すなわち kL=nπkL = n\pi(nn は整数)。k>0k > 0 より n≥1n \ge 1 です。nn と −n-n は ψ\psi の符号を変えるだけで同じ状態を表すので、n=1,2,…n = 1, 2, \ldots で尽きます。kn=nπ/Lk_n = n\pi/L を E=ℏ2k2/(2m)E = \hbar^{2}k^{2}/(2m) に代入して EnE_n を得ます。

手順 3:規格化。 ∫0Lsin⁡2nπxL dx=∫0L1−cos⁡(2nπx/L)2 dx=L2−L4nπ[sin⁡(2nπx/L)]0L=L2\displaystyle\int_{0}^{L}\sin^{2}\frac{n\pi x}{L}\,dx = \int_{0}^{L}\frac{1 - \cos(2n\pi x/L)}{2}\,dx = \frac{L}{2} - \frac{L}{4n\pi}\bigl[\sin(2n\pi x/L)\bigr]_{0}^{L} = \frac{L}{2} なので、A2⋅L/2=1A^{2}\cdot L/2 = 1 より A=2/LA = \sqrt{2/L}(位相は正に取る)です。

手順 4:直交性。 積和公式 sin⁡αsin⁡β=12[cos⁡(α−β)−cos⁡(α+β)]\sin\alpha\sin\beta = \tfrac12\bigl[\cos(\alpha-\beta) - \cos(\alpha+\beta)\bigr] より、n≠n′n \ne n' のとき

2L∫0Lsin⁡nπxLsin⁡n′πxL dx=1L∫0L[cos⁡(n−n′)πxL−cos⁡(n+n′)πxL]dx.\frac{2}{L}\int_{0}^{L}\sin\frac{n\pi x}{L}\sin\frac{n'\pi x}{L}\,dx = \frac{1}{L}\int_{0}^{L}\left[\cos\frac{(n-n')\pi x}{L} - \cos\frac{(n+n')\pi x}{L}\right]dx .

00 でない整数 jj に対して ∫0Lcos⁡jπxL dx=Ljπsin⁡(jπ)=0\displaystyle\int_{0}^{L}\cos\frac{j\pi x}{L}\,dx = \frac{L}{j\pi}\sin(j\pi) = 0 なので、両方の項が消えて 00 になります。n=n′n = n' のときは第 1 項が ∫0L1 dx=L\int_0^L 1\,dx = L、第 2 項は 00 なので値は 11 です。

手順 5:完全性。 {2/Lsin⁡(nπx/L)}\{\sqrt{2/L}\sin(n\pi x/L)\} が L2(0,L)L^{2}(0,L) の完全系であることはフーリエ正弦級数の完全性そのものです。H^\hat H が自己共役であることから固有関数系が完全になる、という一般論(スペクトル定理(定理 4.2)[スペクトル定理] の無限次元版)とも整合します。

E₁E₂ = 4E₁E₃ = 9E₁E₄ = 16E₁V = ∞0L
無限井戸のエネルギー準位と固有関数。準位は n の 2 乗に比例するので上へ行くほど間隔が開く。固有関数 ψₙ は井戸の内部に n−1 個の節を持ち、両端で 0 になる。

エネルギー間隔は En+1−En=ℏ2π22mL2(2n+1)E_{n+1} - E_n = \dfrac{\hbar^{2}\pi^{2}}{2mL^{2}}(2n+1) で、nn とともに開いていきます。ここで押さえるべき点は二つです。第一に、井戸が狭い(LL が小さい)ほど準位間隔が広がります。閉じ込めが強いほど量子効果が顕著になる、という一般則の最初の例です。第二に、n=0n = 0 が禁じられているため最低エネルギーが E1>0E_1 > 0 です。これを零点エネルギーと呼びます。古典力学では箱の中で静止した粒子(E=0E=0)が許されますが、量子力学では許されません。

例 3.2(幅 1 nm の井戸に閉じ込めた電子)

L=1.0 nmL = 1.0\ \mathrm{nm}、m=mem = m_e とします。ℏc=197.3 eV nm\hbar c = 197.3\ \mathrm{eV\,nm}、mec2=5.110×105 eVm_e c^{2} = 5.110\times10^{5}\ \mathrm{eV} を使うと、光速を含む形に書き直せて計算が楽になります。

E1=π2ℏ22meL2=π2(ℏc)22 (mec2) L2=9.8696×(197.3)22×5.110×105×(1.0)2 eV=3.842×1051.022×106 eV=0.376 eV.E_1 = \frac{\pi^{2}\hbar^{2}}{2m_e L^{2}} = \frac{\pi^{2}(\hbar c)^{2}}{2\,(m_e c^{2})\,L^{2}} = \frac{9.8696 \times (197.3)^{2}}{2 \times 5.110\times10^{5} \times (1.0)^{2}}\ \mathrm{eV} = \frac{3.842\times10^{5}}{1.022\times10^{6}}\ \mathrm{eV} = 0.376\ \mathrm{eV}.

したがって En=0.376 n2 eVE_n = 0.376\,n^{2}\ \mathrm{eV} です。n=2n=2 から n=1n=1 への遷移で放出される光子のエネルギーは E2−E1=3×0.376=1.13 eVE_2 - E_1 = 3 \times 0.376 = 1.13\ \mathrm{eV}、波長は λ=1240/1.13≈1.1×103 nm\lambda = 1240/1.13 \approx 1.1\times10^{3}\ \mathrm{nm} で近赤外です。半導体量子井戸のレーザーがこの程度の波長帯にあるのは偶然ではありません。

対照的に、質量 1 g1\ \mathrm{g} の玉を 10 cm10\ \mathrm{cm} の箱に入れると

E1=π2ℏ22mL2=9.8696×(1.055×10−34)22×10−3×(10−1)2 J≈5.5×10−63 JE_1 = \frac{\pi^{2}\hbar^{2}}{2mL^{2}} = \frac{9.8696 \times (1.055\times10^{-34})^{2}}{2 \times 10^{-3} \times (10^{-1})^{2}}\ \mathrm{J} \approx 5.5\times10^{-63}\ \mathrm{J}

です。室温の熱エネルギー kBT≈4×10−21 Jk_B T \approx 4\times10^{-21}\ \mathrm{J} に対応する量子数は n=4×10−21/5.5×10−63≈8.5×1020n = \sqrt{4\times10^{-21}/5.5\times10^{-63}} \approx 8.5\times10^{20} で、隣り合う準位の相対的な間隔は ΔE/E≈2/n≈2×10−21\Delta E/E \approx 2/n \approx 2\times10^{-21} です。離散性が原理的には残っていても観測にかからない、これが対応原理の具体的な姿です。

例 3.3(重ね合わせ状態では期待値が振動する)

定常状態そのものでは ∣ψn(x)∣2\lvert\psi_n(x)\rvert^{2} が時間に依らないので、何も「動き」ません。運動が現れるのは重ね合わせのときです。t=0t=0 で

∣ψ(0)⟩=12(∣1⟩+∣2⟩)\lvert\psi(0)\rangle = \frac{1}{\sqrt2}\bigl(\lvert 1\rangle + \lvert 2\rangle\bigr)

とすると、時間発展は各固有状態に位相を付けるだけなので

∣ψ(t)⟩=12(e−iE1t/ℏ∣1⟩+e−iE2t/ℏ∣2⟩).\lvert\psi(t)\rangle = \frac{1}{\sqrt2}\Bigl(e^{-iE_1 t/\hbar}\lvert 1\rangle + e^{-iE_2 t/\hbar}\lvert 2\rangle\Bigr).

位置の期待値を計算します。ω21:=(E2−E1)/ℏ=3π2ℏ2mL2\omega_{21} := (E_2-E_1)/\hbar = \dfrac{3\pi^{2}\hbar}{2mL^{2}} と置くと、ψn\psi_n が実関数であることから

∣ψ(x,t)∣2=12[ψ1(x)2+ψ2(x)2+2ψ1(x)ψ2(x)cos⁡ω21t].\lvert\psi(x,t)\rvert^{2} = \tfrac12\Bigl[\psi_1(x)^{2} + \psi_2(x)^{2} + 2\psi_1(x)\psi_2(x)\cos\omega_{21}t\Bigr].

対称性より ∫0Lx ψn(x)2dx=L2\displaystyle\int_0^L x\,\psi_n(x)^{2}dx = \frac{L}{2} です。交差項の積分を実行します。積和公式で sin⁡πxLsin⁡2πxL=12[cos⁡πxL−cos⁡3πxL]\sin\dfrac{\pi x}{L}\sin\dfrac{2\pi x}{L} = \tfrac12\left[\cos\dfrac{\pi x}{L} - \cos\dfrac{3\pi x}{L}\right] なので

∫0Lx ψ1ψ2 dx=1L∫0Lx[cos⁡πxL−cos⁡3πxL]dx.\int_{0}^{L}x\,\psi_1\psi_2\,dx = \frac{1}{L}\int_{0}^{L}x\left[\cos\frac{\pi x}{L} - \cos\frac{3\pi x}{L}\right]dx .

部分積分より ∫0Lxcos⁡jπxLdx=[Lxjπsin⁡jπxL+L2j2π2cos⁡jπxL]0L=L2j2π2(cos⁡jπ−1)\displaystyle\int_{0}^{L}x\cos\frac{j\pi x}{L}dx = \left[\frac{Lx}{j\pi}\sin\frac{j\pi x}{L} + \frac{L^{2}}{j^{2}\pi^{2}}\cos\frac{j\pi x}{L}\right]_{0}^{L} = \frac{L^{2}}{j^{2}\pi^{2}}\bigl(\cos j\pi - 1\bigr) で、奇数 jj では cos⁡jπ=−1\cos j\pi = -1 ですから、j=1j=1 で −2L2/π2-2L^{2}/\pi^{2}、j=3j=3 で −2L2/(9π2)-2L^{2}/(9\pi^{2}) です。よって

∫0Lx ψ1ψ2 dx=1L(−2L2π2+2L29π2)=−16L9π2≈−0.180 L.\int_{0}^{L}x\,\psi_1\psi_2\,dx = \frac{1}{L}\left(-\frac{2L^{2}}{\pi^{2}} + \frac{2L^{2}}{9\pi^{2}}\right) = -\frac{16L}{9\pi^{2}} \approx -0.180\,L .

まとめると

⟨x^⟩t=L2−16L9π2cos⁡ω21t.\langle \hat x\rangle_t = \frac{L}{2} - \frac{16L}{9\pi^{2}}\cos\omega_{21}t .

粒子の「重心」は井戸の中を 0.320L0.320L と 0.680L0.680L の間で往復します。振動の角振動数は個々の準位のエネルギーではなく差 E2−E1E_2 - E_1 で決まります。ボーアの振動数条件が、ここでは仮定ではなく計算結果として現れています。

下の動画は、この ∣ψ(x,t)∣2\lvert\psi(x,t)\rvert^{2} と ⟨x^⟩t\langle\hat x\rangle_t を数値で描いたものです。赤い線(期待値)が 0.32L0.32L と 0.68L0.68L の間を往復するのに合わせて、確率密度の山が井戸の左右を行き来するところを見てください。

無限井戸で 1 番目と 2 番目の固有状態を等しく重ねたときの確率密度。山が井戸の左側から右側へ移動してまた左へ戻り、位置の期待値が 0.32L と 0.68L の間を振動する。
n=1 と n=2 の等しい重ね合わせの確率密度(上)と位置の期待値(下)。位相 ω₂₁t が 0 から 2π まで進む間に、山が左から右へ移り、また戻る。

注意 3.4

無限井戸では ψn′(0+)=2/L (nπ/L)≠0\psi_n'(0^{+}) = \sqrt{2/L}\,(n\pi/L) \ne 0 なのに、壁の外では ψ≡0\psi \equiv 0 なので ψ′\psi' は x=0x=0 で不連続です。これは 命題 2.2 と矛盾しません。同命題の (1) は VV が近傍で有界であることを仮定していますが、無限井戸ではその仮定が破れているからです。無限に高い壁は有限の壁 V0→∞V_0 \to \infty の極限として理解すべきで、その意味では波動関数の壁の中への浸み出しの深さ 1/κ=ℏ/2m(V0−E)1/\kappa = \hbar/\sqrt{2m(V_0-E)} が 00 に潰れた極限になっています(Appendix を参照)。

4. ポテンシャル障壁とトンネル効果

Section titled “4. ポテンシャル障壁とトンネル効果”

次は束縛されない状態、つまり散乱の問題です。ポテンシャルを

V(x)={V0(0<x<a)0(それ以外)(V0>0)V(x) = \begin{cases} V_0 & (0 < x < a) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases} \qquad (V_0 > 0)

とし、左から粒子を入射させます。古典力学では、E<V0E < V_0 なら粒子は x=0x=0 で必ず跳ね返されます。障壁の中では運動エネルギー E−V0E - V_0 が負になり、実数の速度が存在しないからです。量子力学の答えは違います。

EV₀指数減衰0a入射波と反射波透過波V = 0
矩形障壁のトンネル効果。障壁の内側で波動関数は振動をやめ、指数関数的に減衰する。右へ抜け出た波の振幅が減衰後の値になるため、透過率は障壁の幅に指数的に依存する。

散乱状態は規格化できないので、∣ψ∣2\lvert\psi\rvert^{2} の積分ではなく確率流で議論します。確率流は 確率の連続の方程式(定理 4.2)[シュレーディンガー方程式と波動関数] で導入したものと同じ量です。

定義 4.1(確率流・透過率・反射率)↗

波動関数 ψ\psi に対する確率流を

j(x)=ℏm Im[ψ(x)‾ ψ′(x)]j(x) = \frac{\hbar}{m}\,\mathrm{Im}\bigl[\overline{\psi(x)}\,\psi'(x)\bigr]

で定める。エネルギー E>0E > 0 の散乱解を、x<0x < 0 で ψ=eikx+r e−ikx\psi = e^{ikx} + r\,e^{-ikx}、x>ax > a で ψ=t eikx\psi = t\,e^{ikx}(k=2mE/ℏk = \sqrt{2mE}/\hbar)の形に取る。このとき透過率を T=∣t∣2T = \lvert t\rvert^{2}、反射率を R=∣r∣2R = \lvert r\rvert^{2} と定義する。

x>ax > a に左向きの波を置かないのは、「左から入射させる」という物理的状況の指定です。TT と RR が確率の比として意味を持つことは、次から分かります。

命題 4.2(確率の保存)✓

定義 4.1 の設定のもとで T+R=1T + R = 1 が成り立つ。

証明(命題 4.2)

まず定常状態では jj が xx に依らないことを見ます。djdx=ℏmIm[ψ′‾ψ′+ψˉψ′′]\dfrac{dj}{dx} = \dfrac{\hbar}{m}\mathrm{Im}\bigl[\overline{\psi'}\psi' + \bar\psi\psi''\bigr] で、第 1 項 ∣ψ′∣2\lvert\psi'\rvert^{2} は実数なので虚部に寄与しません。第 2 項は ψ′′=2mℏ2(V−E)ψ\psi'' = \dfrac{2m}{\hbar^{2}}(V-E)\psi より 2mℏ2(V−E)∣ψ∣2\dfrac{2m}{\hbar^{2}}(V-E)\lvert\psi\rvert^{2} となり、VV と EE が実数なのでこれも実数です。よって dj/dx=0dj/dx = 0 です。

次に領域 I(x<0x < 0)での jj を計算します。ψ=eikx+re−ikx\psi = e^{ikx} + re^{-ikx}、ψ′=ik(eikx−re−ikx)\psi' = ik\bigl(e^{ikx} - re^{-ikx}\bigr) なので

ψˉψ′=ik(e−ikx+rˉeikx)(eikx−re−ikx)=ik[(1−∣r∣2)+(rˉe2ikx−re−2ikx)].\bar\psi\psi' = ik\left(e^{-ikx} + \bar r e^{ikx}\right)\left(e^{ikx} - re^{-ikx}\right) = ik\Bigl[\bigl(1 - \lvert r\rvert^{2}\bigr) + \bigl(\bar r e^{2ikx} - r e^{-2ikx}\bigr)\Bigr].

括弧内の第 2 項は z−zˉz - \bar z の形(z=rˉe2ikxz = \bar r e^{2ikx})なので純虚数です。したがって ikik を掛けると実数になり、虚部に寄与しません。残るのは ik(1−∣r∣2)ik(1-\lvert r\rvert^{2}) の虚部で、

jI=ℏkm(1−∣r∣2).j_{\mathrm{I}} = \frac{\hbar k}{m}\bigl(1 - \lvert r\rvert^{2}\bigr).

同様に領域 III(x>ax > a)では ψ=teikx\psi = te^{ikx}、ψˉψ′=ik∣t∣2\bar\psi\psi' = ik\lvert t\rvert^{2} なので jIII=ℏkm∣t∣2j_{\mathrm{III}} = \dfrac{\hbar k}{m}\lvert t\rvert^{2} です。jj が定数であることから 1−∣r∣2=∣t∣21 - \lvert r\rvert^{2} = \lvert t\rvert^{2}、すなわち T+R=1T + R = 1 を得ます。

ここで知りたいのは、入射波の何割が障壁を抜けるかです。そのために、障壁の左・中・右の三つの領域で解を書き、境界で波動関数とその微分をつなぎ、透過波の振幅 tt を求めます。次の証明は計算が長いですが、やっていることは「4 本の連立方程式から tt 以外を消す」だけです。

定理 4.3(矩形障壁の透過率)✓

上の矩形障壁に対し 0<E<V00 < E < V_0 とし、

k=2mEℏ,κ=2m(V0−E)ℏk = \frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}, \qquad \kappa = \frac{\sqrt{2m(V_0-E)}}{\hbar}

と置く。このとき透過率は

T=[1+V02 sinh⁡2(κa)4E(V0−E)]−1T = \left[1 + \frac{V_0^{2}\,\sinh^{2}(\kappa a)}{4E(V_0-E)}\right]^{-1}

で与えられる。特に a>0a > 0、V0<∞V_0 < \infty である限り T>0T > 0 である。

証明(定理 4.3)

三つの領域で一般解を書きます。VV はどの領域でも定数なので ψ′′=2mℏ2(V−E)ψ\psi'' = \dfrac{2m}{\hbar^{2}}(V-E)\psi は定数係数の方程式です。

ψI(x)=eikx+re−ikx (x<0),ψII(x)=Ceκx+De−κx (0<x<a),ψIII(x)=teikx (x>a).\psi_{\mathrm{I}}(x) = e^{ikx} + r e^{-ikx}\ (x<0), \qquad \psi_{\mathrm{II}}(x) = C e^{\kappa x} + D e^{-\kappa x}\ (0<x<a), \qquad \psi_{\mathrm{III}}(x) = t e^{ikx}\ (x>a).

障壁内で指数関数になるのは V0−E>0V_0 - E > 0 だからです。ここが古典的に禁止された領域に対応します。

VV は各境界で有限の跳びしか持たないので、命題 2.2 (1) より ψ\psi と ψ′\psi' はともに x=0x=0 と x=ax=a で連続です。これで 4 本の方程式が出ます。

Ceκa+De−κa=teika,κ(Ceκa−De−κa)=ik teika(x=a),1+r=C+D,ik(1−r)=κ(C−D)(x=0).\begin{aligned} C e^{\kappa a} + D e^{-\kappa a} &= t e^{ika}, & \kappa\bigl(C e^{\kappa a} - D e^{-\kappa a}\bigr) &= ik\,t e^{ika} & &(x=a), \\ 1 + r &= C + D, & ik(1 - r) &= \kappa(C - D) & &(x=0). \end{aligned}

x=ax=a の 2 本を CeκaCe^{\kappa a} と De−κaDe^{-\kappa a} について解くと、和と差を取って

C=teika2(1+ikκ)e−κa,D=teika2(1−ikκ)eκa.C = \frac{t e^{ika}}{2}\left(1 + \frac{ik}{\kappa}\right)e^{-\kappa a}, \qquad D = \frac{t e^{ika}}{2}\left(1 - \frac{ik}{\kappa}\right)e^{\kappa a}.

x=0x=0 の 2 本から rr を消去します。第 2 式を ikik で割って 1−r=κik(C−D)1 - r = \dfrac{\kappa}{ik}(C-D) とし、第 1 式と足すと

2=C(1+κik)+D(1−κik)=C(1−iκk)+D(1+iκk)2 = C\left(1 + \frac{\kappa}{ik}\right) + D\left(1 - \frac{\kappa}{ik}\right) = C\left(1 - \frac{i\kappa}{k}\right) + D\left(1 + \frac{i\kappa}{k}\right)

です(1/i=−i1/i = -i を使いました)。ここに C,DC, D を代入します。掛け算を実行すると

(1+ikκ)(1−iκk)=2+i k2−κ2kκ,(1−ikκ)(1+iκk)=2−i k2−κ2kκ\left(1 + \frac{ik}{\kappa}\right)\left(1 - \frac{i\kappa}{k}\right) = 2 + i\,\frac{k^{2}-\kappa^{2}}{k\kappa}, \qquad \left(1 - \frac{ik}{\kappa}\right)\left(1 + \frac{i\kappa}{k}\right) = 2 - i\,\frac{k^{2}-\kappa^{2}}{k\kappa}

となるので、

2=teika2[(2+ik2−κ2kκ)e−κa+(2−ik2−κ2kκ)eκa]=teika[2cosh⁡κa−i k2−κ2kκsinh⁡κa].2 = \frac{te^{ika}}{2}\left[\left(2 + i\frac{k^{2}-\kappa^{2}}{k\kappa}\right)e^{-\kappa a} + \left(2 - i\frac{k^{2}-\kappa^{2}}{k\kappa}\right)e^{\kappa a}\right] = t e^{ika}\left[2\cosh\kappa a - i\,\frac{k^{2}-\kappa^{2}}{k\kappa}\sinh\kappa a\right].

ここで eκa+e−κa=2cosh⁡κae^{\kappa a} + e^{-\kappa a} = 2\cosh\kappa a、eκa−e−κa=2sinh⁡κae^{\kappa a} - e^{-\kappa a} = 2\sinh\kappa a を使いました。したがって

1t=eika2[2cosh⁡κa−i k2−κ2kκsinh⁡κa],1∣t∣2=cosh⁡2κa+(k2−κ2)24k2κ2sinh⁡2κa.\frac{1}{t} = \frac{e^{ika}}{2}\left[2\cosh\kappa a - i\,\frac{k^{2}-\kappa^{2}}{k\kappa}\sinh\kappa a\right], \qquad \frac{1}{\lvert t\rvert^{2}} = \cosh^{2}\kappa a + \frac{(k^{2}-\kappa^{2})^{2}}{4k^{2}\kappa^{2}}\sinh^{2}\kappa a .

cosh⁡2=1+sinh⁡2\cosh^{2} = 1 + \sinh^{2} を使ってまとめると

1T=1+sinh⁡2(κa)[1+(k2−κ2)24k2κ2]=1+sinh⁡2(κa) 4k2κ2+(k2−κ2)24k2κ2=1+sinh⁡2(κa) (k2+κ2)24k2κ2.\frac{1}{T} = 1 + \sinh^{2}(\kappa a)\left[1 + \frac{(k^{2}-\kappa^{2})^{2}}{4k^{2}\kappa^{2}}\right] = 1 + \sinh^{2}(\kappa a)\,\frac{4k^{2}\kappa^{2} + (k^{2}-\kappa^{2})^{2}}{4k^{2}\kappa^{2}} = 1 + \sinh^{2}(\kappa a)\,\frac{(k^{2}+\kappa^{2})^{2}}{4k^{2}\kappa^{2}} .

最後に k2+κ2=2mV0ℏ2k^{2} + \kappa^{2} = \dfrac{2mV_0}{\hbar^{2}}、k2κ2=4m2E(V0−E)ℏ4k^{2}\kappa^{2} = \dfrac{4m^{2}E(V_0-E)}{\hbar^{4}} を代入すれば

(k2+κ2)24k2κ2=4m2V02/ℏ416m2E(V0−E)/ℏ4=V024E(V0−E)\frac{(k^{2}+\kappa^{2})^{2}}{4k^{2}\kappa^{2}} = \frac{4m^{2}V_0^{2}/\hbar^{4}}{16m^{2}E(V_0-E)/\hbar^{4}} = \frac{V_0^{2}}{4E(V_0-E)}

となり、主張の式を得ます。sinh⁡(κa)\sinh(\kappa a) は有限なので 1/T1/T も有限、よって T>0T > 0 です。

系 4.4(厚い障壁の近似)✓

κa≫1\kappa a \gg 1 のとき

T≃16 E (V0−E)V02  e−2κaT \simeq \frac{16\,E\,(V_0-E)}{V_0^{2}}\;e^{-2\kappa a}

が成り立つ。透過率は障壁の幅 aa と V0−E\sqrt{V_0-E} に対して指数関数的に減少する。

証明(系 4.4)

κa≫1\kappa a \gg 1 では e−κa≪eκae^{-\kappa a} \ll e^{\kappa a} なので sinh⁡κa=12(eκa−e−κa)≃12eκa\sinh\kappa a = \tfrac12(e^{\kappa a} - e^{-\kappa a}) \simeq \tfrac12 e^{\kappa a}、したがって sinh⁡2κa≃14e2κa\sinh^{2}\kappa a \simeq \tfrac14 e^{2\kappa a} です。これを 定理 4.3 に入れると

1T≃1+V0216E(V0−E)e2κa\frac{1}{T} \simeq 1 + \frac{V_0^{2}}{16E(V_0-E)}e^{2\kappa a}

で、第 2 項が 11 に比べて圧倒的に大きいので 11 を落とし、逆数を取れば主張の式になります。

例 4.5(電子のトンネル確率を数値で)

電子、V0=5.0 eVV_0 = 5.0\ \mathrm{eV}、E=1.0 eVE = 1.0\ \mathrm{eV}、a=0.50 nma = 0.50\ \mathrm{nm} とします。まず減衰定数は

κ=2 (mec2) (V0−E)ℏc=2×5.110×105×4.0197.3 nm−1=2022197.3 nm−1=10.25 nm−1.\kappa = \frac{\sqrt{2\,(m_ec^{2})\,(V_0-E)}}{\hbar c} = \frac{\sqrt{2 \times 5.110\times10^{5} \times 4.0}}{197.3}\ \mathrm{nm^{-1}} = \frac{2022}{197.3}\ \mathrm{nm^{-1}} = 10.25\ \mathrm{nm^{-1}} .

よって κa=5.12\kappa a = 5.12、sinh⁡(5.12)=84.0\sinh(5.12) = 84.0、sinh⁡2(κa)=7.06×103\sinh^{2}(\kappa a) = 7.06\times10^{3} です。前置因子は V024E(V0−E)=2516=1.5625\dfrac{V_0^{2}}{4E(V_0-E)} = \dfrac{25}{16} = 1.5625 なので、定理 4.3 より

T=[1+1.5625×7.06×103]−1=11.10×104=9.1×10−5.T = \bigl[1 + 1.5625 \times 7.06\times10^{3}\bigr]^{-1} = \frac{1}{1.10\times10^{4}} = 9.1\times10^{-5} .

系 4.4 でも確かめます。16×1.0×4.025=2.56\dfrac{16 \times 1.0 \times 4.0}{25} = 2.56、e−2κa=e−10.25=3.54×10−5e^{-2\kappa a} = e^{-10.25} = 3.54\times10^{-5} なので T≃2.56×3.54×10−5=9.1×10−5T \simeq 2.56 \times 3.54\times10^{-5} = 9.1\times10^{-5} で、厳密値と一致します。

幅を a=1.0 nma = 1.0\ \mathrm{nm} に倍増させると e−2κa=e−20.5=1.25×10−9e^{-2\kappa a} = e^{-20.5} = 1.25\times10^{-9} となり T≃3.2×10−9T \simeq 3.2\times10^{-9} です。幅を 2 倍にしただけで透過率は約 2.8×1042.8\times10^{4} 分の 1 になりました。この極端な敏感さが、走査トンネル顕微鏡(STM)が探針と試料の距離をピコメートル単位で読み取れる理由です(演習 7.4 で確かめてください)。

トンネル効果は珍しい現象ではありません。ガモフは 1928 年に、原子核の α\alpha 崩壊をクーロン障壁のトンネル透過として説明しました。半減期が核種によって 10−710^{-7} 秒から 101710^{17} 年まで 30 桁以上も散らばるのは、指数 e−2κae^{-2\kappa a} の肩がわずかに変わるだけで確率が桁で動くからです。太陽の中心で水素核融合が起きるのも、古典的には跳ね返されるはずのクーロン障壁を陽子がトンネルするからです。

次の備考は、入射エネルギーが障壁より高い場合 E>V0E > V_0 の話です。このとき V0−EV_0 - E が負になるので、κ\kappa の根号の中が負になり、κ\kappa が虚数になる場合に当たります。

注意 4.6

古典力学との食い違いは逆向きにも起こります。E>V0E > V_0 のとき古典粒子は必ず通過しますが、量子力学では一般に反射が残ります。定理 4.3 の結果で κ→−ik′\kappa \to -ik'(k′=2m(E−V0)/ℏk' = \sqrt{2m(E-V_0)}/\hbar)と置き換えると sinh⁡2(κa)→−sin⁡2(k′a)\sinh^{2}(\kappa a) \to -\sin^{2}(k'a)、V0−E→−(E−V0)V_0 - E \to -(E-V_0) となるので

T=[1+V02sin⁡2(k′a)4E(E−V0)]−1T = \left[1 + \frac{V_0^{2}\sin^{2}(k'a)}{4E(E-V_0)}\right]^{-1}

を得ます。k′a=nπk'a = n\pi(n=1,2,…n = 1,2,\ldots)のときだけ T=1T = 1 となり、それ以外では T<1T < 1 です。障壁の幅が内部の波長の半分の整数倍のときに反射波が打ち消し合う、光学の反射防止膜と同じ干渉です。この共鳴的透過は希ガス原子による低速電子の散乱で実際に観測されており、ラムザウアー・タウンゼント効果と呼ばれます。

5. 1 次元調和振動子:生成・消滅演算子による解法

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最後は V(x)=12mω2x2V(x) = \tfrac12 m\omega^{2}x^{2}、すなわち

H^=p^22m+12mω2x^2,[x^,p^]=iℏ\hat H = \frac{\hat p^{2}}{2m} + \frac{1}{2}m\omega^{2}\hat x^{2}, \qquad [\hat x, \hat p] = i\hbar

です。この系が特別扱いされるのは、任意のポテンシャルの安定な平衡点まわりを V(x)≃V(x0)+12V′′(x0)(x−x0)2V(x) \simeq V(x_0) + \tfrac12 V''(x_0)(x-x_0)^{2} と展開すれば必ず現れるからです。分子振動、結晶格子のフォノン、電磁場の各モード、どれも出発点は調和振動子です。

微分方程式(エルミートの方程式)を級数解法で解くこともできますが、ここでは代数的解法を取ります。使うのは交換関係だけです。

定義 5.1(消滅演算子・生成演算子・数演算子)↗

a^:=mω2ℏ(x^+imωp^),a^†:=mω2ℏ(x^−imωp^),N^:=a^†a^\hat a := \sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}\left(\hat x + \frac{i}{m\omega}\hat p\right), \qquad \hat a^{\dagger} := \sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}\left(\hat x - \frac{i}{m\omega}\hat p\right), \qquad \hat N := \hat a^{\dagger}\hat a

と定める。a^\hat a を消滅演算子、a^†\hat a^{\dagger} を生成演算子、N^\hat N を数演算子と呼ぶ。x^,p^\hat x, \hat p が自己共役なので a^†\hat a^{\dagger} は確かに a^\hat a の随伴であり、N^\hat N は自己共役である。逆に解くと

x^=ℏ2mω(a^+a^†),p^=imℏω2(a^†−a^)\hat x = \sqrt{\frac{\hbar}{2m\omega}}\bigl(\hat a + \hat a^{\dagger}\bigr), \qquad \hat p = i\sqrt{\frac{m\hbar\omega}{2}}\bigl(\hat a^{\dagger} - \hat a\bigr)

となる。

補題 5.2(はしご演算子の交換関係)✓

[a^,a^†]=1,H^=ℏω(N^+12),[N^,a^]=−a^,[N^,a^†]=a^†.[\hat a, \hat a^{\dagger}] = 1, \qquad \hat H = \hbar\omega\left(\hat N + \frac{1}{2}\right), \qquad [\hat N, \hat a] = -\hat a, \qquad [\hat N, \hat a^{\dagger}] = \hat a^{\dagger}.
証明(補題 5.2)

a^a^†\hat a\hat a^{\dagger} を展開します。x^\hat x と p^\hat p は交換しないので順序に注意します。

a^a^†=mω2ℏ(x^+ip^mω)(x^−ip^mω)=mω2ℏ(x^2+p^2m2ω2−imω[x^,p^])=mω2ℏ(x^2+p^2m2ω2+ℏmω)\hat a\hat a^{\dagger} = \frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat x + \frac{i\hat p}{m\omega}\right)\left(\hat x - \frac{i\hat p}{m\omega}\right) = \frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat x^{2} + \frac{\hat p^{2}}{m^{2}\omega^{2}} - \frac{i}{m\omega}[\hat x,\hat p]\right) = \frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat x^{2} + \frac{\hat p^{2}}{m^{2}\omega^{2}} + \frac{\hbar}{m\omega}\right)

(−i[x^,p^]/(mω)=−i(iℏ)/(mω)=ℏ/(mω)-i[\hat x,\hat p]/(m\omega) = -i(i\hbar)/(m\omega) = \hbar/(m\omega) を使いました)。同様に順序を逆にすると符号だけ変わって

a^†a^=mω2ℏ(x^2+p^2m2ω2−ℏmω).\hat a^{\dagger}\hat a = \frac{m\omega}{2\hbar}\left(\hat x^{2} + \frac{\hat p^{2}}{m^{2}\omega^{2}} - \frac{\hbar}{m\omega}\right).

差を取れば [a^,a^†]=mω2ℏ⋅2ℏmω=1[\hat a,\hat a^{\dagger}] = \dfrac{m\omega}{2\hbar}\cdot\dfrac{2\hbar}{m\omega} = 1 です。

次に H^=mω22(x^2+p^2m2ω2)\hat H = \dfrac{m\omega^{2}}{2}\left(\hat x^{2} + \dfrac{\hat p^{2}}{m^{2}\omega^{2}}\right) と書けることに注意すると、上の第 2 式から

N^=a^†a^=mω2ℏ⋅2mω2H^−12=H^ℏω−12,\hat N = \hat a^{\dagger}\hat a = \frac{m\omega}{2\hbar}\cdot\frac{2}{m\omega^{2}}\hat H - \frac{1}{2} = \frac{\hat H}{\hbar\omega} - \frac{1}{2},

すなわち H^=ℏω(N^+1/2)\hat H = \hbar\omega(\hat N + 1/2) です。

最後に、[AB,C]=A[B,C]+[A,C]B[AB, C] = A[B,C] + [A,C]B を使うと [N^,a^]=[a^†a^,a^]=a^†[a^,a^]+[a^†,a^]a^=0+(−1)a^=−a^[\hat N, \hat a] = [\hat a^{\dagger}\hat a, \hat a] = \hat a^{\dagger}[\hat a,\hat a] + [\hat a^{\dagger},\hat a]\hat a = 0 + (-1)\hat a = -\hat a、同様に [N^,a^†]=a^†[a^,a^†]=a^†[\hat N,\hat a^{\dagger}] = \hat a^{\dagger}[\hat a,\hat a^{\dagger}] = \hat a^{\dagger} です。

H^\hat H を対角化する問題が N^\hat N を対角化する問題に化けました。[N^,a^†]=a^†[\hat N,\hat a^{\dagger}] = \hat a^{\dagger} は、a^†\hat a^{\dagger} が N^\hat N の固有値を 11 だけ上げる「はしご」であることを意味します。同じ構造は角運動量の昇降演算子 J^±\hat J_{\pm} にも現れます(角運動量とスピン の 定義 3.4[角運動量とスピン] を参照)。

E₀ = ħω/2E₁ = 3ħω/2E₂ = 5ħω/2E₃ = 7ħω/2a†axV = ½mω²x²
調和振動子の準位と基底状態。放物線がポテンシャル、水平線が準位で、間隔はすべて ħω と等しい。生成演算子 a† は準位を 1 段上げ、消滅演算子 a は 1 段下げる。基底状態 ψ₀ はガウス型で、E₀ の線を基準に描いている。

定理 5.3(調和振動子のスペクトル)✓

N^=a^†a^\hat N = \hat a^{\dagger}\hat a の固有値の全体は {0,1,2,…}\{0, 1, 2, \ldots\} に一致する。各固有値は非縮退であり、規格化された固有ベクトル ∣n⟩\lvert n\rangle(N^∣n⟩=n∣n⟩\hat N\lvert n\rangle = n\lvert n\rangle)は位相を除いて一意に定まり、

a^∣n⟩=n ∣n−1⟩,a^†∣n⟩=n+1 ∣n+1⟩,∣n⟩=(a^†)nn!∣0⟩\hat a\lvert n\rangle = \sqrt{n}\,\lvert n-1\rangle, \qquad \hat a^{\dagger}\lvert n\rangle = \sqrt{n+1}\,\lvert n+1\rangle, \qquad \lvert n\rangle = \frac{(\hat a^{\dagger})^{n}}{\sqrt{n!}}\lvert 0\rangle

と取れる。したがってハミルトニアンの固有値は

En=(n+12)ℏω,n=0,1,2,…E_n = \left(n + \frac{1}{2}\right)\hbar\omega, \qquad n = 0, 1, 2, \ldots

であり、準位は間隔 ℏω\hbar\omega で等間隔に並ぶ。

証明の流れは次のとおりです。まず N^\hat N の固有値が 00 以上であること、次に a^\hat a が固有値を 1 だけ下げること、そして下げ続けると負になってしまうので、どこかで止まらなければならないこと(これが整数になる理由)を示します。最後に、止まる先の状態が実際にあることを、基底状態の波動関数を求めて確かめます。

証明(定理 5.3)

手順 1:N^\hat N の固有値は非負。 N^∣ν⟩=ν∣ν⟩\hat N\lvert\nu\rangle = \nu\lvert\nu\rangle、⟨ν∣ν⟩=1\langle\nu\vert\nu\rangle = 1 とすると

ν=⟨ν∣N^∣ν⟩=⟨ν∣a^†a^∣ν⟩=∥a^∣ν⟩∥2≥0.\nu = \langle\nu\vert\hat N\vert\nu\rangle = \langle\nu\vert\hat a^{\dagger}\hat a\vert\nu\rangle = \bigl\lVert\hat a\lvert\nu\rangle\bigr\rVert^{2} \ge 0 .

しかもこの式は「ν=0  ⟺  a^∣ν⟩=0\nu = 0 \iff \hat a\lvert\nu\rangle = 0」も同時に述べています。

手順 2:a^\hat a は固有値を 1 下げる。 補題 5.2 の [N^,a^]=−a^[\hat N,\hat a] = -\hat a より

N^(a^∣ν⟩)=(a^N^+[N^,a^])∣ν⟩=(ν−1) a^∣ν⟩.\hat N\bigl(\hat a\lvert\nu\rangle\bigr) = \bigl(\hat a\hat N + [\hat N,\hat a]\bigr)\lvert\nu\rangle = (\nu - 1)\,\hat a\lvert\nu\rangle .

したがって a^∣ν⟩≠0\hat a\lvert\nu\rangle \ne 0 である限り、それは固有値 ν−1\nu-1 の固有ベクトルです。同じ計算を繰り返すと a^j∣ν⟩\hat a^{j}\lvert\nu\rangle は(00 でなければ)固有値 ν−j\nu - j の固有ベクトルです。また手順 1 と同じ計算で

∥a^j∣ν⟩∥2=(ν−j+1) ∥a^j−1∣ν⟩∥2\bigl\lVert\hat a^{j}\lvert\nu\rangle\bigr\rVert^{2} = (\nu - j + 1)\,\bigl\lVert\hat a^{j-1}\lvert\nu\rangle\bigr\rVert^{2}

が成り立ちます(a^j−1∣ν⟩\hat a^{j-1}\lvert\nu\rangle が固有値 ν−j+1\nu-j+1 の固有ベクトルであることに手順 1 を適用しました)。

手順 3:ν\nu は非負整数でしかありえない。 ν\nu が非負整数でないと仮定し、ℓ=⌊ν⌋\ell = \lfloor\nu\rfloor(ν\nu を超えない最大の整数、ℓ≥0\ell \ge 0)と置きます。j≤ℓ+1j \le \ell+1 に対して j−1≤ℓ<νj - 1 \le \ell < \nu なので ν−j+1>0\nu - j + 1 > 0 です。よって手順 2 のノルムの漸化式から、j=1,…,ℓ+1j = 1, \ldots, \ell+1 のすべてで a^j∣ν⟩≠0\hat a^{j}\lvert\nu\rangle \ne 0 が帰納的に従います。ところが a^ℓ+1∣ν⟩\hat a^{\ell+1}\lvert\nu\rangle は固有値 ν−ℓ−1<0\nu - \ell - 1 < 0 の 00 でない固有ベクトルであり、手順 1 に矛盾します。したがって ν∈{0,1,2,…}\nu \in \{0,1,2,\ldots\} です。

手順 4:固有値 00 の状態は実在する。 上はまだ「あるとすれば非負整数」という主張にすぎません。実在を見るには a^∣0⟩=0\hat a\lvert 0\rangle = 0 を位置表示で解きます。p^=−iℏ d/dx\hat p = -i\hbar\,d/dx より a^=mω2ℏ(x+ℏmωddx)\hat a = \sqrt{\dfrac{m\omega}{2\hbar}}\left(x + \dfrac{\hbar}{m\omega}\dfrac{d}{dx}\right) なので、方程式は

ψ0′(x)=−mωℏ x ψ0(x)⟹ψ0(x)=Cexp⁡(−mωx22ℏ).\psi_0'(x) = -\frac{m\omega}{\hbar}\,x\,\psi_0(x) \quad\Longrightarrow\quad \psi_0(x) = C\exp\left(-\frac{m\omega x^{2}}{2\hbar}\right).

これはガウス関数なので二乗可積分であり、束縛状態です。よって固有値 00 は実現します。あとは 補題 5.2 の [N^,a^†]=a^†[\hat N,\hat a^{\dagger}] = \hat a^{\dagger} から N^(a^†∣n⟩)=(n+1)a^†∣n⟩\hat N(\hat a^{\dagger}\lvert n\rangle) = (n+1)\hat a^{\dagger}\lvert n\rangle が従い、帰納的にすべての非負整数が固有値として実現します。

手順 5:非縮退と規格化。 固有状態はすべて束縛状態(二乗可積分)で、V=12mω2x2V = \tfrac12m\omega^{2}x^{2} は連続なので、命題 2.3 より各固有値は非縮退です。よって a^∣n⟩\hat a\lvert n\rangle は ∣n−1⟩\lvert n-1\rangle の定数倍で、手順 1 の計算からその定数の絶対値は n\sqrt{n} です。位相の自由度を使って a^∣n⟩=n∣n−1⟩\hat a\lvert n\rangle = \sqrt{n}\lvert n-1\rangle と約束します。生成側は

∥a^†∣n⟩∥2=⟨n∣a^a^†∣n⟩=⟨n∣(N^+1)∣n⟩=n+1\bigl\lVert\hat a^{\dagger}\lvert n\rangle\bigr\rVert^{2} = \langle n\vert\hat a\hat a^{\dagger}\vert n\rangle = \langle n\vert(\hat N + 1)\vert n\rangle = n+1

より a^†∣n⟩=n+1∣n+1⟩\hat a^{\dagger}\lvert n\rangle = \sqrt{n+1}\lvert n+1\rangle です。これを nn 回繰り返して ∣n⟩=(a^†)n∣0⟩/n!\lvert n\rangle = (\hat a^{\dagger})^{n}\lvert 0\rangle/\sqrt{n!} を得ます。最後に H^=ℏω(N^+1/2)\hat H = \hbar\omega(\hat N + 1/2) から En=(n+1/2)ℏωE_n = (n+1/2)\hbar\omega です。

例 5.4(基底状態と第一励起状態の波動関数)

長さの自然な単位を x0:=ℏ/(mω)x_0 := \sqrt{\hbar/(m\omega)} と置きます。基底状態の規格化定数はガウス積分 ∫−∞∞e−x2/x02dx=π x0\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^{2}/x_0^{2}}dx = \sqrt{\pi}\,x_0 から決まり、

ψ0(x)=(mωπℏ)1/4exp⁡(−x22x02).\psi_0(x) = \left(\frac{m\omega}{\pi\hbar}\right)^{1/4}\exp\left(-\frac{x^{2}}{2x_0^{2}}\right).

第一励起状態は ∣1⟩=a^†∣0⟩\lvert 1\rangle = \hat a^{\dagger}\lvert 0\rangle から得られます。ψ0′=−xψ0/x02\psi_0' = -x\psi_0/x_0^{2} なので

ψ1(x)=mω2ℏ(x−ℏmωddx)ψ0(x)=12 x0(x+x)ψ0(x)=2 xx0 ψ0(x).\psi_1(x) = \sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}\left(x - \frac{\hbar}{m\omega}\frac{d}{dx}\right)\psi_0(x) = \frac{1}{\sqrt{2}\,x_0}\bigl(x + x\bigr)\psi_0(x) = \sqrt{2}\,\frac{x}{x_0}\,\psi_0(x).

微分を一切実行せずに済んだ点に注目してください。規格化も確認できます。後述の ⟨0∣x^2∣0⟩=x02/2\langle 0\vert\hat x^{2}\vert 0\rangle = x_0^{2}/2 を使えば ∫∣ψ1∣2dx=(2/x02)⋅(x02/2)=1\int\lvert\psi_1\rvert^{2}dx = (2/x_0^{2})\cdot(x_0^{2}/2) = 1 です。ψ0\psi_0 は偶関数、ψ1\psi_1 は奇関数で、VV が偶関数であることと 系 2.4 に合致しています。

なお ψ0\psi_0 は ∣x∣>ℏ/(mω)\lvert x\rvert > \sqrt{\hbar/(m\omega)}、すなわち古典的な転回点 ∣x∣=2E0/(mω2)=x0\lvert x\rvert = \sqrt{2E_0/(m\omega^{2})} = x_0 の外側でも 00 ではありません。古典的に禁止された領域への浸み出しは、トンネル効果と同じ現象の別の顔です。

行列要素の計算は、定義 5.1 の x^,p^\hat x, \hat p の表式に 定理 5.3 のはしご関係を代入するだけで済みます。a^∣n⟩∝∣n−1⟩\hat a\lvert n\rangle \propto \lvert n-1\rangle、a^†∣n⟩∝∣n+1⟩\hat a^{\dagger}\lvert n\rangle \propto \lvert n+1\rangle で ∣n⟩\lvert n\rangle と直交するので、

⟨n∣x^∣n⟩=0,⟨n∣p^∣n⟩=0.\langle n\vert\hat x\vert n\rangle = 0, \qquad \langle n\vert\hat p\vert n\rangle = 0 .

2 次の量では、(a^+a^†)2=a^2+(a^†)2+a^a^†+a^†a^(\hat a + \hat a^{\dagger})^{2} = \hat a^{2} + (\hat a^{\dagger})^{2} + \hat a\hat a^{\dagger} + \hat a^{\dagger}\hat a のうち a^2\hat a^{2} と (a^†)2(\hat a^{\dagger})^{2} は ∣n±2⟩\lvert n\pm2\rangle に飛ばすので対角成分に効かず、a^a^†+a^†a^=2N^+1\hat a\hat a^{\dagger} + \hat a^{\dagger}\hat a = 2\hat N + 1 だけが残ります。よって

⟨n∣x^2∣n⟩=ℏ2mω(2n+1)=ℏmω(n+12),⟨n∣p^2∣n⟩=mℏω2(2n+1)=mℏω(n+12).\langle n\vert\hat x^{2}\vert n\rangle = \frac{\hbar}{2m\omega}(2n+1) = \frac{\hbar}{m\omega}\left(n+\frac12\right), \qquad \langle n\vert\hat p^{2}\vert n\rangle = \frac{m\hbar\omega}{2}(2n+1) = m\hbar\omega\left(n+\frac12\right).

(p^\hat p の側では (a^†−a^)2(\hat a^{\dagger}-\hat a)^{2} の対角部分が −(2N^+1)-(2\hat N+1) となり、前の i2=−1i^{2} = -1 と打ち消し合って符号が正になります。)ここから二つの帰結が読めます。

第一に、⟨T^⟩=⟨p^2⟩2m=ℏω2(n+12)\langle\hat T\rangle = \dfrac{\langle\hat p^{2}\rangle}{2m} = \dfrac{\hbar\omega}{2}\left(n+\tfrac12\right)、⟨V^⟩=mω22⟨x^2⟩=ℏω2(n+12)\langle\hat V\rangle = \dfrac{m\omega^{2}}{2}\langle\hat x^{2}\rangle = \dfrac{\hbar\omega}{2}\left(n+\tfrac12\right) で、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの期待値が等しくなります。古典的な調和振動子で 1 周期平均した結果(ハミルトン形式の力学 のビリアル定理)と同じです。

第二に、⟨x^⟩=⟨p^⟩=0\langle\hat x\rangle = \langle\hat p\rangle = 0 なので Δx=⟨x^2⟩\Delta x = \sqrt{\langle\hat x^{2}\rangle}、Δp=⟨p^2⟩\Delta p = \sqrt{\langle\hat p^{2}\rangle} であり、

Δx Δp=(n+12)ℏ.\Delta x\,\Delta p = \left(n+\frac12\right)\hbar .

基底状態 n=0n=0 では ΔxΔp=ℏ/2\Delta x\Delta p = \hbar/2 で、不確定性関係 ΔxΔp≥ℏ/2\Delta x\Delta p \ge \hbar/2(ハイゼンベルクの不確定性原理(系 5.4)[演算子と物理量])の等号を実現します。逆に零点エネルギーの存在は不確定性関係から予言できます。⟨x^⟩=⟨p^⟩=0\langle\hat x\rangle=\langle\hat p\rangle=0 の状態でエネルギーは E=(Δp)22m+mω22(Δx)2E = \dfrac{(\Delta p)^{2}}{2m} + \dfrac{m\omega^{2}}{2}(\Delta x)^{2} ですから、Δx≥ℏ/(2Δp)\Delta x \ge \hbar/(2\Delta p) を代入して u=(Δp)2u = (\Delta p)^{2} の関数

f(u)=u2m+mω2ℏ28uf(u) = \frac{u}{2m} + \frac{m\omega^{2}\hbar^{2}}{8u}

を最小化します。f′(u)=12m−mω2ℏ28u2=0f'(u) = \dfrac{1}{2m} - \dfrac{m\omega^{2}\hbar^{2}}{8u^{2}} = 0 より u=mℏω2u = \dfrac{m\hbar\omega}{2}、このとき f=ℏω4+ℏω4=ℏω2f = \dfrac{\hbar\omega}{4} + \dfrac{\hbar\omega}{4} = \dfrac{\hbar\omega}{2} です。代数的解法が与えた E0=ℏω/2E_0 = \hbar\omega/2 と正確に一致します。

例 5.5(HCl 分子の振動:室温では基底状態しかいない)

塩化水素分子の振動の吸収は波数 ν~≈2886 cm−1\tilde\nu \approx 2886\ \mathrm{cm^{-1}} に現れます。対応する波長は λ=1/ν~=3.465×10−6 m=3465 nm\lambda = 1/\tilde\nu = 3.465\times10^{-6}\ \mathrm{m} = 3465\ \mathrm{nm} なので、hc=1240 eV nmhc = 1240\ \mathrm{eV\,nm} を使って

ℏω=hcλ=12403465 eV=0.358 eV.\hbar\omega = \frac{hc}{\lambda} = \frac{1240}{3465}\ \mathrm{eV} = 0.358\ \mathrm{eV}.

零点エネルギーは ℏω/2=0.179 eV\hbar\omega/2 = 0.179\ \mathrm{eV} です。これは分子の結合が「完全に静止した状態」を取れないことを意味し、結合エネルギーの実測値を解釈するときに必ず差し引かれます。

室温 T=300 KT = 300\ \mathrm{K} では kBT=0.0259 eVk_BT = 0.0259\ \mathrm{eV} なので ℏω/(kBT)=13.8\hbar\omega/(k_BT) = 13.8 です。ボルツマン因子は

P(n=1)P(n=0)=e−ℏω/kBT=e−13.8≈1.0×10−6\frac{P(n=1)}{P(n=0)} = e^{-\hbar\omega/k_BT} = e^{-13.8} \approx 1.0\times10^{-6}

で、100 万個に 1 個しか励起していません。理想気体の定積比熱に振動の自由度が寄与しない(等分配則が破れる)のは、準位間隔 ℏω\hbar\omega が kBTk_BT より桁で大きく、振動が「凍結」しているからです。エネルギーが連続なら、どんなに小さい熱エネルギーでも振動を励起できたはずです。離散性の観測可能な帰結として、これはきわめて明快な例です。

無限井戸矩形障壁(E<V0E < V_0)調和振動子
状態の型束縛状態散乱状態束縛状態
スペクトル離散、En∝n2E_n \propto n^{2}連続(E>0E > 0 すべて)離散、等間隔 ℏω\hbar\omega
離散化の理由壁での境界条件離散化しない二乗可積分性
古典的に許される領域井戸の内側全体障壁の外側のみ∣x∣≤2E/(mω2)\lvert x\rvert \le \sqrt{2E/(m\omega^{2})}
古典との主な違い零点エネルギー、離散性T>0T > 0(透過)零点エネルギー、禁止領域への浸み出し
解き方境界条件を課す接続条件で係数を決めるはしご演算子の代数

三つを並べると、離散性を生むのが方程式ではなく要求であることがはっきりします。無限井戸では ψ(0)=ψ(L)=0\psi(0)=\psi(L)=0、調和振動子では ψ∈L2(R)\psi \in L^{2}(\mathbb{R})。どちらも「解が状態として意味を持つための条件」です。障壁の問題ではこの種の要求がないため、EE は連続のままで、代わりに透過率という別の量が量子性を担いました。

同じ論理は水素原子でも働きます。動径方程式の解が原点で発散せず無限遠で二乗可積分であるという要求から、主量子数 nn が整数に絞られます(水素原子 を参照)。

もう一つ強調しておきたいのは、これらが厳密に解ける数少ない系だという点です。現実の系は多くの場合これらの厳密解からのずれとして扱われます。非調和項 λx4\lambda x^{4} を持つ振動子、傾いた井戸、周期ポテンシャル。いずれも厳密解を出発点にして補正を系統的に計算します。その手続きが 摂動論 の レイリー–シュレーディンガーの摂動公式(定理 3.1)[摂動論] です。本章で得た ∣n⟩\lvert n\rangle と行列要素は、そこでそのまま使われます。

演習 7.1標準

無限井戸(0≤x≤L0 \le x \le L)の基底状態 ψ1\psi_1 について Δx\Delta x と Δp\Delta p を求め、積 Δx Δp\Delta x\,\Delta p を ℏ\hbar の単位で数値評価し、不確定性関係 ΔxΔp≥ℏ/2\Delta x\Delta p \ge \hbar/2 と比較してください。

解答

対称性より ⟨x^⟩=L/2\langle\hat x\rangle = L/2 です。⟨x^2⟩\langle\hat x^{2}\rangle を計算します。

∫0Lx2sin⁡2πxLdx=∫0Lx2 1−cos⁡(2πx/L)2dx=L36−12∫0Lx2cos⁡2πxLdx.\int_{0}^{L}x^{2}\sin^{2}\frac{\pi x}{L}dx = \int_{0}^{L}x^{2}\,\frac{1 - \cos(2\pi x/L)}{2}dx = \frac{L^{3}}{6} - \frac{1}{2}\int_{0}^{L}x^{2}\cos\frac{2\pi x}{L}dx .

a=2π/La = 2\pi/L と置くと、2 回の部分積分で ∫0Lx2cos⁡ax dx=[x2sin⁡axa+2xcos⁡axa2−2sin⁡axa3]0L\displaystyle\int_{0}^{L}x^{2}\cos ax\,dx = \left[\frac{x^{2}\sin ax}{a} + \frac{2x\cos ax}{a^{2}} - \frac{2\sin ax}{a^{3}}\right]_{0}^{L} です。aL=2πaL = 2\pi より sin⁡aL=0\sin aL = 0、cos⁡aL=1\cos aL = 1 なので、値は 2La2=L32π2\dfrac{2L}{a^{2}} = \dfrac{L^{3}}{2\pi^{2}} です。よって

⟨x^2⟩=2L(L36−L34π2)=L2(13−12π2),(Δx)2=L2(112−12π2).\langle\hat x^{2}\rangle = \frac{2}{L}\left(\frac{L^{3}}{6} - \frac{L^{3}}{4\pi^{2}}\right) = L^{2}\left(\frac13 - \frac{1}{2\pi^{2}}\right), \qquad (\Delta x)^{2} = L^{2}\left(\frac{1}{12} - \frac{1}{2\pi^{2}}\right).

数値では 1/12=0.083331/12 = 0.08333、1/(2π2)=0.050661/(2\pi^{2}) = 0.05066 なので (Δx)2=0.03267 L2(\Delta x)^{2} = 0.03267\,L^{2}、Δx=0.1808 L\Delta x = 0.1808\,L です。

運動量は、ψ1\psi_1 が実関数なので ⟨p^⟩=−iℏ∫ψ1ψ1′dx=−iℏ[ψ12/2]0L=0\langle\hat p\rangle = -i\hbar\int\psi_1\psi_1'dx = -i\hbar\bigl[\psi_1^{2}/2\bigr]_0^L = 0 です(境界で ψ1=0\psi_1 = 0)。また ⟨p^2⟩=2m⟨T^⟩=2mE1=π2ℏ2L2\langle\hat p^{2}\rangle = 2m\langle\hat T\rangle = 2mE_1 = \dfrac{\pi^{2}\hbar^{2}}{L^{2}} なので Δp=πℏL\Delta p = \dfrac{\pi\hbar}{L} です。

Δx Δp=0.1808 L×πℏL=0.568 ℏ>0.5 ℏ.\Delta x\,\Delta p = 0.1808\,L \times \frac{\pi\hbar}{L} = 0.568\,\hbar > 0.5\,\hbar .

不確定性関係を満たしており、しかも下限にかなり近い値です。等号が実現しないのは、下限を与えるのはガウス型の波動関数であり、sin⁡\sin 型はそれと違うからです。

演習 7.2標準

V(x)=−α δ(x)V(x) = -\alpha\,\delta(x)(α>0\alpha > 0)に対する束縛状態(E<0E < 0)をすべて求め、規格化まで実行してください。

解答

E<0E < 0 とし κ=−2mE/ℏ>0\kappa = \sqrt{-2mE}/\hbar > 0 と置きます。x≠0x \ne 0 では V=0V = 0 なので ψ′′=κ2ψ\psi'' = \kappa^{2}\psi、一般解は e±κxe^{\pm\kappa x} です。二乗可積分性から x>0x > 0 では eκxe^{\kappa x} の項が、x<0x < 0 では e−κxe^{-\kappa x} の項が禁じられるので

ψ(x)={Aeκx(x<0)Be−κx(x>0)\psi(x) = \begin{cases} A e^{\kappa x} & (x<0) \\ B e^{-\kappa x} & (x>0) \end{cases}

です。ψ\psi の連続性より A=BA = B。よって ψ(x)=Ae−κ∣x∣\psi(x) = A e^{-\kappa\lvert x\rvert} です。

命題 2.2 (2) を λ=−α\lambda = -\alpha、x0=0x_0 = 0 に適用します。ψ′(0+)=−κA\psi'(0^{+}) = -\kappa A、ψ′(0−)=+κA\psi'(0^{-}) = +\kappa A なので跳びは −2κA-2\kappa A で、

−2κA=2m(−α)ℏ2A⟹κ=mαℏ2.-2\kappa A = \frac{2m(-\alpha)}{\hbar^{2}}A \quad\Longrightarrow\quad \kappa = \frac{m\alpha}{\hbar^{2}} .

κ\kappa が一意に決まったので束縛状態はちょうど一つです。エネルギーは

E=−ℏ2κ22m=−mα22ℏ2.E = -\frac{\hbar^{2}\kappa^{2}}{2m} = -\frac{m\alpha^{2}}{2\hbar^{2}} .

規格化は ∫−∞∞A2e−2κ∣x∣dx=2A2∫0∞e−2κxdx=A2κ=1\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}A^{2}e^{-2\kappa\lvert x\rvert}dx = 2A^{2}\int_{0}^{\infty}e^{-2\kappa x}dx = \frac{A^{2}}{\kappa} = 1 より A=κA = \sqrt{\kappa}、したがって

ψ(x)=mαℏexp⁡(−mα∣x∣ℏ2).\psi(x) = \frac{\sqrt{m\alpha}}{\hbar}\exp\left(-\frac{m\alpha\lvert x\rvert}{\hbar^{2}}\right).

ψ\psi は偶関数で、系 2.4 と整合しています。

演習 7.3難

調和振動子の固有状態 ∣n⟩\lvert n\rangle に対して ⟨n∣x^4∣n⟩\langle n\vert\hat x^{4}\vert n\rangle を求めてください。さらに n=0n=0 で ⟨x^4⟩/⟨x^2⟩2\langle\hat x^{4}\rangle / \langle\hat x^{2}\rangle^{2} を計算し、結果を解釈してください。

解答

λ=ℏ/(2mω)\lambda = \sqrt{\hbar/(2m\omega)}、X=a^+a^†X = \hat a + \hat a^{\dagger} と置くと x^=λX\hat x = \lambda X で、XX は自己共役です。したがって

⟨n∣x^4∣n⟩=λ4 ⟨n∣X4∣n⟩=λ4 ∥X2∣n⟩∥2\langle n\vert\hat x^{4}\vert n\rangle = \lambda^{4}\,\langle n\vert X^{4}\vert n\rangle = \lambda^{4}\,\bigl\lVert X^{2}\lvert n\rangle\bigr\rVert^{2}

と、ノルムの計算に帰着します(X2X^{2} が自己共役であることを使いました)。定理 5.3 より

X∣n⟩=n ∣n−1⟩+n+1 ∣n+1⟩X\lvert n\rangle = \sqrt{n}\,\lvert n-1\rangle + \sqrt{n+1}\,\lvert n+1\rangle

なので、もう一度 XX を掛けて

X2∣n⟩=n(n−1) ∣n−2⟩+(n+(n+1))∣n⟩+(n+1)(n+2) ∣n+2⟩.X^{2}\lvert n\rangle = \sqrt{n(n-1)}\,\lvert n-2\rangle + \bigl(n + (n+1)\bigr)\lvert n\rangle + \sqrt{(n+1)(n+2)}\,\lvert n+2\rangle .

∣n−2⟩,∣n⟩,∣n+2⟩\lvert n-2\rangle, \lvert n\rangle, \lvert n+2\rangle は互いに直交する規格化された状態なので、ノルムの 2 乗は係数の 2 乗和です。

∥X2∣n⟩∥2=n(n−1)+(2n+1)2+(n+1)(n+2)=6n2+6n+3.\bigl\lVert X^{2}\lvert n\rangle\bigr\rVert^{2} = n(n-1) + (2n+1)^{2} + (n+1)(n+2) = 6n^{2} + 6n + 3 .

(n2−n+4n2+4n+1+n2+3n+2n^{2}-n + 4n^{2}+4n+1 + n^{2}+3n+2 を整理しました。n=0n = 0 や n=1n=1 でも係数 n(n−1)\sqrt{n(n-1)} が 00 になるので式はそのまま通用します。)よって

⟨n∣x^4∣n⟩=ℏ24m2ω2(6n2+6n+3)=3ℏ24m2ω2(2n2+2n+1).\langle n\vert\hat x^{4}\vert n\rangle = \frac{\hbar^{2}}{4m^{2}\omega^{2}}\bigl(6n^{2}+6n+3\bigr) = \frac{3\hbar^{2}}{4m^{2}\omega^{2}}\bigl(2n^{2}+2n+1\bigr).

n=0n = 0 では ⟨x^4⟩=3ℏ24m2ω2\langle\hat x^{4}\rangle = \dfrac{3\hbar^{2}}{4m^{2}\omega^{2}}、一方 ⟨x^2⟩=ℏ2mω\langle\hat x^{2}\rangle = \dfrac{\hbar}{2m\omega} なので

⟨x^4⟩⟨x^2⟩2=3ℏ2/(4m2ω2)ℏ2/(4m2ω2)=3.\frac{\langle\hat x^{4}\rangle}{\langle\hat x^{2}\rangle^{2}} = \frac{3\hbar^{2}/(4m^{2}\omega^{2})}{\hbar^{2}/(4m^{2}\omega^{2})} = 3 .

これは平均 00 のガウス分布の 4 次モーメントの公式 ⟨x4⟩=3⟨x2⟩2\langle x^{4}\rangle = 3\langle x^{2}\rangle^{2} そのものです。例 5.4 で見たとおり ∣ψ0∣2\lvert\psi_0\rvert^{2} がガウス分布なので当然の結果ですが、波動関数の形を一切使わずに代数だけで再現できた点が重要です。なおこの行列要素は、非調和ポテンシャル λx4\lambda x^{4} の 1 次摂動エネルギーそのものです。

演習 7.4易

走査トンネル顕微鏡では、金属探針と試料の間の真空を電子がトンネルします。障壁の高さを仕事関数から V0−E=4.0 eVV_0 - E = 4.0\ \mathrm{eV} と見積もるとき、探針と試料の距離が 0.10 nm0.10\ \mathrm{nm}(原子 1 個分の大きさ程度)縮んだらトンネル電流は何倍になりますか。

解答

系 4.4 より、前置因子を一定とみなせば電流は e−2κae^{-2\kappa a} に比例します。減衰定数は 例 4.5 と同じ計算で

κ=2 (mec2)(V0−E)ℏc=2×5.110×105×4.0197.3 nm−1=10.2 nm−1.\kappa = \frac{\sqrt{2\,(m_ec^{2})(V_0-E)}}{\hbar c} = \frac{\sqrt{2 \times 5.110\times10^{5} \times 4.0}}{197.3}\ \mathrm{nm^{-1}} = 10.2\ \mathrm{nm^{-1}} .

距離が Δa=−0.10 nm\Delta a = -0.10\ \mathrm{nm} 変化したときの電流比は

I(a+Δa)I(a)=e−2κΔa=e2×10.2×0.10=e2.05≈7.8.\frac{I(a + \Delta a)}{I(a)} = e^{-2\kappa\Delta a} = e^{2 \times 10.2 \times 0.10} = e^{2.05} \approx 7.8 .

距離が原子 1 個分縮むだけで電流が約 8 倍、つまりほぼ 1 桁変わります。逆に言えば、電流を一定に保つよう探針の高さを制御すれば、0.01 nm0.01\ \mathrm{nm} 程度の凹凸でも電流は 20 % 以上変化して検出できます。STM が原子分解能を持つ理由は、透過率が幅に指数関数的に依存するという 系 4.4 の構造そのものにあります。

  • J. J. Sakurai, J. Napolitano, Modern Quantum Mechanics, 3rd ed., Cambridge University Press, 2020 — 第 2 章(調和振動子の代数的解法と時間発展)。
  • D. J. Griffiths, D. F. Schroeter, Introduction to Quantum Mechanics, 3rd ed., Cambridge University Press, 2018 — 第 2 章(無限井戸・調和振動子・デルタ関数ポテンシャル・有限井戸と障壁)。
  • 猪木慶治・川合光『量子力学 I』講談社、1994 — 第 3 章・第 4 章(1 次元ポテンシャル問題と調和振動子)。
  • L. D. Landau, E. M. Lifshitz, Quantum Mechanics: Non-Relativistic Theory, 3rd ed., Pergamon Press, 1977 — 第 III 章(1 次元運動)、第 VII 章(準古典近似とトンネル)。
  • G. Gamow, “Zur Quantentheorie des Atomkernes”, Zeitschrift für Physik 51 (1928), 204–212 — α\alpha 崩壊のトンネル理論の原論文。
  • G. Binnig, H. Rohrer, Ch. Gerber, E. Weibel, “Surface Studies by Scanning Tunneling Microscopy”, Physical Review Letters 49 (1982), 57–61. DOI: 10.1103/PhysRevLett.49.57

注意 3.4 で触れた「無限井戸は極限である」という点を確かめておきます。

V(x)={−V0(∣x∣<a)0(∣x∣>a)(V0>0)V(x) = \begin{cases} -V_0 & (\lvert x\rvert < a) \\ 0 & (\lvert x\rvert > a)\end{cases} \qquad (V_0 > 0)

に対し −V0<E<0-V_0 < E < 0 の束縛状態を探します。k=2m(E+V0)/ℏk = \sqrt{2m(E+V_0)}/\hbar、κ=−2mE/ℏ\kappa = \sqrt{-2mE}/\hbar と置くと、内部では振動解、外部では減衰解になります。VV は偶関数なので 系 2.4 より偶解と奇解に分けて考えられます。

偶解は ψ=Acos⁡kx\psi = A\cos kx(内部)、ψ=Be−κ∣x∣\psi = Be^{-\kappa\lvert x\rvert}(外部)です。命題 2.2 (1) より x=ax=a で ψ\psi と ψ′\psi' が連続なので、両者の比(対数微分)を取ると AA と BB が消えて

−ktan⁡ka=−κ,すなわちktan⁡ka=κ-k\tan ka = -\kappa, \qquad\text{すなわち}\qquad k\tan ka = \kappa

を得ます。奇解 ψ=Asin⁡kx\psi = A\sin kx からは同様に −kcot⁡ka=κ-k\cot ka = \kappa が出ます。

ここで z=kaz = ka、z0=a2mV0ℏz_0 = \dfrac{a\sqrt{2mV_0}}{\hbar} と置くと k2+κ2=2mV0/ℏ2k^{2}+\kappa^{2} = 2mV_0/\hbar^{2} から κa=z02−z2\kappa a = \sqrt{z_0^{2}-z^{2}} なので、偶解の条件は

tan⁡z=z02−z2z,0<z<z0\tan z = \frac{\sqrt{z_0^{2}-z^{2}}}{z}, \qquad 0 < z < z_0

という超越方程式になります。左辺は z→0+z \to 0^{+} で 00、z→(π/2)−z \to (\pi/2)^{-} で +∞+\infty に発散し、右辺は z→0+z \to 0^{+} で +∞+\infty、z=z0z = z_0 で 00 に単調減少します。中間値の定理より、z0z_0 がどれほど小さくても 0<z<min⁡(z0,π/2)0 < z < \min(z_0, \pi/2) に解が必ず一つ存在します。1 次元の引力ポテンシャルは、どんなに浅くても必ず束縛状態を持つわけです。3 次元では成り立たない、1 次元に特有の性質です。

束縛状態の個数は ⌈2z0/π⌉\lceil 2z_0/\pi\rceil 個で、V0→∞V_0 \to \infty(すなわち z0→∞z_0 \to \infty)で無限個になります。またこの極限で κ→∞\kappa \to \infty となり、外部への浸み出しの深さ 1/κ1/\kappa が 00 に潰れます。こうして 定理 3.1 の状況が回復します。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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