0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- ハミルトン形式では座標 と運動量 が対等な役割を持つので、両者を混ぜる変換まで許せます。そのうちハミルトン方程式の形を保つものを正準変換と呼びます。
- 正準変換は 1 つのスカラー関数(母関数)から生成されます。母関数の型は 4 つあり、互いにルジャンドル変換で移り合います。
- ポアソン括弧 を導入すると、任意の物理量の時間発展が という 1 本の式に統一されます。保存量であることは と同値になります。
- 変換が正準であることは、ヤコビ行列 がシンプレクティック条件 を満たすことと同値です。これは基本ポアソン括弧が保たれることと同じ主張です。
- ポアソン括弧は量子力学の交換子 に対応します。この対応が、正準形式を「量子化の入口」にしています。
1. 動機:座標変換の自由をどこまで広げられるか
Section titled “1. 動機:座標変換の自由をどこまで広げられるか”ラグランジュ形式のありがたさの 1 つは、座標の取り替えに強いことでした。ラグランジュ形式の力学で見たとおり、 という点変換を行っても、ラグランジュ方程式は同じ形のまま成り立ちます(オイラー・ラグランジュ方程式の共変性(定理 5.2)[ラグランジュ形式の力学])。極座標を使おうが斜交座標を使おうが、 が変わらない。だから問題に合わせて座標を選べたわけです。
しかしこの自由には限界があります。点変換は「位置は位置に、その時間微分は自動的に決まる」という形しか許しません。新しい座標 を古い運動量 に依存させることはできないのです。
ハミルトン形式の力学に移ると、状況が変わります。ハミルトン方程式(ハミルトンの正準方程式(定理 4.2)[ハミルトン形式の力学])
を眺めると、 と の役割はほとんど対称です。 と置き換えれば方程式は自分自身に戻ります。つまりハミルトン形式では、位置と運動量の区別は絶対的なものではありません。**ならば、 と を混ぜる変換まで許してよいのではないか。**これが正準変換の出発点です。
自由を広げると何が得か。極端な例を考えましょう。もしうまい変換で新しいハミルトニアン が新しい座標 をまったく含まないようにできたとします。すると なので、 はすべて定数です。残る方程式 の右辺も定数ですから、 と積分できてしまいます。適切な座標を選べば、運動方程式を解く作業が「変換を見つける作業」に置き換わるのです。この発想を極限まで押し進めたものがハミルトン・ヤコビ理論であり、後の章で扱う作用・角変数の方法です。
さらに、正準変換の理論からポアソン括弧という演算が自然に現れます。これは古典力学の代数構造を剥き出しにするもので、20 世紀に入ってディラックが量子力学の交換関係と対応づけた対象でもあります。この章の目標は、正準変換の定義から出発してポアソン括弧に到達し、その先に量子力学が見えるところまで進むことです。
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