0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 2 変数関数の「微分」は、各変数ごとに微分すること(偏微分)ではありません。偏導関数が両方存在しても、その点で関数が連続ですらない例があります。
- 正しい一般化は「一次関数で近似したときの誤差が になること」、すなわち全微分可能性です。連続性・方向微分・接平面は、すべてこの 1 つの定義から出てきます。
- 偏導関数が近傍で存在してその点で連続( 級)なら、全微分可能です。実際の計算では、微分可能性はほぼこの十分条件で確認します。
- 2 次までのテイラー展開の 2 次項は、ヘッセ行列 による 2 次形式 です。極値判定は、この 2 次形式が正定値・負定値・不定値のどれかを見る問題に還元されます。
- かつ なら極小、 なら鞍点です。 のときは 2 次の情報だけでは決まらず、実際に判定できない例を挙げます。
1. 動機:偏微分だけでは「微分」にならない
Section titled “1. 動機:偏微分だけでは「微分」にならない”1 変数の微分係数 には 2 つの顔がありました。1 つは「接線の傾き」という幾何的な顔、もう 1 つは
という一次近似としての顔です。この 2 つは同じことの言い換えでした(導関数の定義と基本的な微分法 の 微分可能性と一次近似(定理 4.1)[導関数の定義と基本的な微分法])。
変数を 2 つに増やすと、この 2 つの顔がずれ始めます。 のグラフは空間内の曲面です。曲面の「接するもの」は直線ではなく平面でしょう。ところが平面は方向を 2 つ持っています。そこで素朴に考えれば、 を固定して で微分し、 を固定して で微分すれば、その 2 本の接線が張る平面が接平面になりそうです。実際、18 世紀には弦の振動や流体の研究の中でこの操作(偏微分)が自由に使われていました。記号 は 18 世紀末のルジャンドルにさかのぼり、19 世紀にヤコビが用いたことで定着したとされます。
しかしこの素朴な期待は外れます。 軸方向と 軸方向という 2 本の直線に沿った情報は、平面全体のごく一部の情報でしかありません。実際、両方の偏微分係数が存在するのに、その点で関数が連続でさえない例があります(例 3.2)。連続でない関数のグラフに接平面が引けるはずがありませんから、偏微分可能性は「微分可能」の定義として不適格です。
ではどちらの顔を定義に採用すべきでしょうか。答えは一次近似の方です。微分可能とは、その点の近くで関数が一次関数によって「誤差が距離より速く 0 に近づく精度で」近似できることだと定義し直します。この定式化は変数の個数に依らず、そのままノルム空間上の写像に一般化されてフレシェ微分になります。この記事はその定義を 2 変数の場合に据え、そこから接平面・勾配・連鎖律・テイラー展開・極値判定を順に組み立てます。
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