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電磁ポテンシャルとゲージ変換:場の裏にある「余分な自由度」

前提:マクスウェル方程式と電磁波:4 本の式から光速が出てくるまで

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  • マクスウェル方程式のうち divB=0\operatorname{div}\boldsymbol{B}=0rotE=tB\operatorname{rot}\boldsymbol{E}=-\partial_t\boldsymbol{B} の 2 本は、場そのものへの制約ではなく、場の表し方についての情報です。この 2 本はポテンシャル (φ,A)(\varphi,\boldsymbol{A}) を導入すると恒等的に満たされ、残る 2 本だけが解くべき方程式になります。
  • B=rotA\boldsymbol{B}=\operatorname{rot}\boldsymbol{A}E=gradφtA\boldsymbol{E}=-\operatorname{grad}\varphi-\partial_t\boldsymbol{A} と書けることは、領域が星形(あるいは単連結で穴がない)ならば数学的に保証されます。この保証の中身がポアンカレの補題です。
  • ポテンシャルは一意ではありません。同じ (E,B)(\boldsymbol{E},\boldsymbol{B}) を与える (φ,A)(\varphi,\boldsymbol{A}) の全体は、任意関数 χ(x,t)\chi(\boldsymbol{x},t) によるゲージ変換 AA+gradχ\boldsymbol{A}\to\boldsymbol{A}+\operatorname{grad}\chiφφtχ\varphi\to\varphi-\partial_t\chi でちょうど尽くされます(不定性はこれ以上でも以下でもありません)。
  • ローレンツゲージ divA+c2tφ=0\operatorname{div}\boldsymbol{A}+c^{-2}\partial_t\varphi=0 を課すと、φ\varphiA\boldsymbol{A} の方程式が 4 本の独立な波動方程式に分離します。クーロンゲージ divA=0\operatorname{div}\boldsymbol{A}=0 を課すと φ\varphi は瞬間的なポアソン方程式に従います。どちらも常に実現できます。
  • Aμ=(φ/c,A)A^\mu=(\varphi/c,\boldsymbol{A}) は 4 元ベクトルであり、ローレンツゲージ条件はローレンツ変換で形を変えません。電磁気学が特殊相対論と一体であることは、ポテンシャルの言葉で最も見やすくなります。

1. 動機:場が分かっているのに、なぜポテンシャルを持ち出すのか

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マクスウェル方程式まで到達した時点で、電磁場の理論は形式的には完成しています。E\boldsymbol{E}B\boldsymbol{B} が満たす 4 本の連立偏微分方程式があり、電荷と電流を与えれば場が決まる。それなら、わざわざ別の量を導入する理由はどこにあるのでしょうか。

理由は 3 つあります。

第 1 に、計算量が減ります。 マクスウェル方程式は E\boldsymbol{E}B\boldsymbol{B} の 6 成分に対する 8 本のスカラー方程式です(発散の式が 2 本、回転の式が 6 本)。方程式の本数が未知関数より多いのは、方程式どうしが独立でないからです。ポテンシャルを使うと未知関数は 4 成分(φ\varphiA\boldsymbol{A})に減り、しかも後で見るようにゲージを適切に選べば、それらは互いに分離した波動方程式になります。手で解ける問題の範囲が一気に広がります。

第 2 に、静電ポテンシャルの自然な一般化になっています。 静電場では rotE=0\operatorname{rot}\boldsymbol{E}=\boldsymbol{0} から E=gradφ\boldsymbol{E}=-\operatorname{grad}\varphi と書け(電場はポテンシャルの勾配(定理 6.2)[静電場とガウスの法則])、φ\varphi は単位電荷あたりの位置エネルギーという明確な意味を持っていました。ところが電磁誘導があると、ファラデーの法則の微分形(定理 4.1)[電磁誘導と変位電流] により rotE=tB0\operatorname{rot}\boldsymbol{E}=-\partial_t\boldsymbol{B}\neq\boldsymbol{0} となり、この描像は壊れます。壊れた分をどう補えばよいのかという問いへの答えが、ベクトルポテンシャル A\boldsymbol{A} です。

第 3 に、そしてこれが最も重要ですが、ポテンシャルは他の物理学とのつなぎ目です。 ラグランジュ形式の力学で荷電粒子を扱うとき、ラグランジアンに現れるのは E,B\boldsymbol{E},\boldsymbol{B} ではなく φ,A\varphi,\boldsymbol{A} です。量子力学のシュレーディンガー方程式に入るのも φ,A\varphi,\boldsymbol{A} です。(φ,A)(\varphi,\boldsymbol{A}) は 4 元ベクトルとしてまとまり、特殊相対論の枠組みにそのまま乗ります。

歴史的には、この評価は揺れ動いてきました。マクスウェル自身は A\boldsymbol{A} を重視し「電磁運動量」と呼んでいましたが、19 世紀末のヘヴィサイドやヘルツは、ポテンシャルは一意に決まらない以上は計算の便宜にすぎないとして、方程式から追放しました。実際、ゲージ変換で自由に変えられる量が物理的実在だとは考えにくい。この評価が覆るのは 1959 年、アハラノフとボームが、磁場がゼロの領域を通る電子の干渉縞が A\boldsymbol{A} の周回積分で決まることを指摘してからです。この記事では古典論の範囲にとどまりますが、「不定性があるのに消せない」というポテンシャルの奇妙な地位は、最初から意識しておいてください。

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