0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 粒子数 とエネルギー の両方を交換できる系は、温度 ・体積 ・化学ポテンシャル で指定されます。この設定に対応する確率分布がグランドカノニカル分布 です。
- 規格化定数が大分配関数 で、これはカノニカル分配関数 をフガシティー の母関数にまとめたものです。
- 対応する熱力学ポテンシャルはグランドポテンシャル で、、、そして加法的な系では 、すなわち が成り立ちます。
- 粒子数のゆらぎは で与えられ、相対ゆらぎは で消えます。これがカノニカル集団との同等性の根拠です。
- 化学ポテンシャルは「粒子を 1 個増やすときのコスト」であり、粒子は の高い側から低い側へ流れます。理想気体では で、常温常圧では負の値をとります。
- 量子統計(ボース分布・フェルミ分布)は、この集団を使ってはじめて 1 行で導けます。カノニカル集団では という拘束が邪魔をします。
1. 動機:粒子数が動く系をどう扱うか
Section titled “1. 動機:粒子数が動く系をどう扱うか”これまでに 2 つの集団を扱いました。孤立系を記述するミクロカノニカル集団は を固定し、熱浴と接した系を記述するカノニカル集団は を固定します。後者は前者からエネルギーの固定を外し、代わりに強度変数である温度を固定したものでした。
しかし現実の系では、粒子数もしばしば固定されていません。いくつか例を挙げます。
- 容器の中の気体の、ある一角を「系」とみなす。仕切りがないのですから、分子は自由に出入りします。
- 金属表面に気体分子が吸着する。表面のサイトから見れば、粒子は気相との間を往復します。
- 溶液中の化学反応 。各化学種の分子数は反応によって変化します。
- 半導体中の伝導電子。電子は不純物準位や電極との間で交換されます。
- 光子気体。光子は壁に吸収・放出され、そもそも数が保存しません。
これらを 固定の集団で扱おうとすると苦しくなります。それだけではありません。計算技術としても 粒子数を固定しないほうが圧倒的に楽になる場面があります。理想量子気体を考えてみてください。1 粒子準位 の占有数を とすると、カノニカル分配関数は
です。プライムの付いた和は を満たす配置に限る、という意味です。この拘束のせいで和は準位ごとに分解できず、 は初等的には計算できません。ところが を固定するのをやめ、代わりに を固定すると、拘束が消えて和が準位ごとの積に分解します。第 6 章の量子統計はこの一点に依存しています。
つまりグランドカノニカル集団は、物理的な必要(開いた系)と技術的な必要(拘束の除去)の両方から要請されるものです。構造としては、カノニカル集団を作ったのと同じ手続き——示量変数の固定を外し、共役な強度変数を固定する——をもう一度繰り返すだけです。
flowchart LR MC["ミクロカノニカル<br/>(N, V, E) 固定<br/>S = k ln Ω"] -->|"E を外し T を固定<br/>(エネルギー浴と接触)"| C["カノニカル<br/>(N, V, T) 固定<br/>F = -kT ln Z"] C -->|"N を外し μ を固定<br/>(粒子浴と接触)"| G["グランドカノニカル<br/>(μ, V, T) 固定<br/>J = -kT ln Ξ"]
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