0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- ニュートンの万有引力の法則は「同じ時刻での距離」に依存しますが、同時刻は観測者によって違います。この一点で、重力は特殊相対性理論と両立しません。
- 一方、ニュートン力学には説明のつかない偶然がありました。運動しにくさを表す慣性質量と、重力に引かれる強さを表す重力質量が、どんな物質でも一致するという事実です。
- アインシュタインはこの偶然を原理に格上げしました。自由落下している十分小さな実験室の中では、重力は完全に消えて特殊相対論がそのまま成り立つ。これがアインシュタインの等価原理です。
- 等価原理だけから、重力赤方偏移(低いところの時計は遅れる)と、重力による光の曲がりという二つの予言が出ます。数式は高校物理の範囲で追えます。
- ただし等価原理が使えるのは「局所」だけです。潮汐力は座標をどう取っても消せません。この消せない残りかすが、次章で扱う時空の曲率の正体です。
- 実際、等価原理だけから計算した太陽による光の曲がり角は正解のちょうど半分でした。残りの半分を出すには、時間だけでなく空間の幾何も曲げる必要があります。
1. 動機:特殊相対論に重力を入れようとすると失敗する
Section titled “1. 動機:特殊相対論に重力を入れようとすると失敗する”特殊相対性理論の原理とローレンツ変換によって、力学と電磁気学は統一的な枠組みに収まりました。ところが、この枠組みに最も古い力である重力を入れようとすると、いきなり壁にぶつかります。
ニュートンの万有引力の法則は
でした。ここで は「二つの物体の、同じ時刻における距離」です。しかし相対性理論では、同時刻の相対性(定理 5.1)[ローレンツ変換] により、どの二つの事象が同時刻かは観測者によって変わります。ある慣性系で同時刻に測った距離は、別の慣性系では同時刻の距離ではありません。したがって上の法則は、慣性系を一つ指定しなければ意味を持ちません。これはローレンツ変換のもとで形を変えない(共変な)法則の資格を欠いています。
同じことを別の角度から言えば、この法則では太陽が突然消えたときに地球が即座にそれを知ることになります。情報が光速を超えて伝わるわけで、特殊相対論の因果律に反します。
注意 1.1(場の理論に書き直せばよい、とはいかない)
電磁気学は瞬間作用ではなく、場の理論として書かれています。ならば重力も同じように場の理論にすればよさそうです。しかしうまくいきません。
電磁気学と同じベクトル場にすると、同符号の源どうしは反発してしまいます(電荷の場合と同じです)。ところが質量は必ず正で、しかも必ず引き合います。ベクトル場は最初から失格です。
ではスカラー場ならどうか。ノルドシュトレムが 1913 年に、特殊相対論と完全に両立するスカラー重力理論を作りました。この理論は数学的には筋が通っていますが、光の曲がりをまったく予言せず、水星の近日点移動についても観測と合わない値を与えます。
もう一つ、相対論的力学から来る要請があります。 により、あらゆるエネルギーが質量として振る舞うのでした(質量の非加法性(定理 6.2)[相対論的力学])。ならばあらゆるエネルギーが重力の源になるはずです。ところが重力場そのものもエネルギーを持ちます。つまり重力は自分自身を源とする、本質的に非線形な理論でなければなりません。電磁場が電荷を持たないのとは対照的です。
こうした難しさの中で、アインシュタインが手がかりにしたのは、理論上の要請ではなく一つの実験事実でした。次節でそれを見ます。
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