0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- ラグランジアン に対して 一般化運動量 を定義し、 を に取り替える操作が ルジャンドル変換 です。これができるための条件は、 の速度についてのヘッセ行列が正則であること(正則ラグランジアン)です。
- こうして得られる ハミルトニアン は、 本の 2 階方程式(オイラー・ラグランジュ方程式)を、 本の 1 階方程式(正準方程式)、 に書き換えます。
- がエネルギー に一致するのは、拘束が時間に陽に依存せず、力がポテンシャル から導かれるときだけです。回転する棒に通したビーズでは は保存しますがエネルギーではありません。
- 座標 と運動量 を対等な軸とする 位相空間 の上では、力学系は 1 つのベクトル場の流れになります。この流れは発散ゼロなので体積を保ちます(リウヴィルの定理)。これが統計力学の出発点です。
- 物理量の時間発展は ポアソン括弧 で と書けます。この構造をそのまま交換子に置き換えたものが量子力学の正準量子化です。
1. 動機:なぜ速度を運動量に取り替えるのか
Section titled “1. 動機:なぜ速度を運動量に取り替えるのか”ラグランジュ形式 は、配位空間の座標 とその速度 を変数とし、作用 の停留条件から オイラー・ラグランジュ方程式(定理 3.4)[ラグランジュ形式の力学] を導きました。これは強力な形式で、拘束条件を座標の取り方に吸収でき、ネーターの定理(ネーターの定理(定理 4.1)[対称性と保存則])によって対称性と保存則が直結します。
それでも 2 つの不満が残ります。
第一に、方程式が について 2 階 であることです。 自由度なら 本の 2 階方程式で、初期条件は と の 個必要です。ところが方程式の側は 本しかない。数学的には、常微分方程式論・数値計算・力学系の理論のいずれもが「1 階の連立系 」を標準形とします。 個の初期条件があるなら、 本の 1 階方程式で書くのが自然でしょう。
第二に、 と が対等でない ことです。 は の時間微分という従属物であり、独立変数のように扱うのは形式上の便宜にすぎません。ところが保存則を見ると、対等に見える組が現れます。ネーターの定理が与える保存量は、たとえば並進対称性なら運動量 、回転対称性なら角運動量です。そして 中心力の問題 では、角運動量 を保存量として固定し、動径方向の運動だけを取り出す、という手続きが決定的に有効でした(動径方向の一次元問題への帰着(命題 4.2)[惑星の運動と中心力])。このとき私たちは実質的に「 を消して を変数に採用」しています。
この 2 つの不満は、同じ 1 つの操作で解消します。速度 を捨て、一般化運動量 を独立変数に採用する のです。ハミルトンが 1834–35 年の論文で導入したこの形式は、 と を対等な座標軸とする 次元の空間(位相空間)を舞台とし、そこに 1 階の方程式系を与えます。
この書き換えは単なる記法の変更ではありません。位相空間の上では、初期条件の分布が時間とともにどう流れるかを論じられます。これが統計力学のアンサンブルの考え方です。また と を対等に扱う代数構造(ポアソン括弧)は、そのまま量子力学の交換関係に持ち上がります。第 6 章で扱う 正準変換 も、この形式でこそ意味を持ちます。
flowchart TB A["ラグランジアン L(q, q̇, t)<br/>配位空間の接束(q と q̇)"] -->|"p = ∂L/∂q̇ を定義"| B["一般化運動量 p"] B -->|"ルジャンドル変換<br/>H = Σ p q̇ − L"| C["ハミルトニアン H(q, p, t)<br/>位相空間(q と p)"] A --> D["オイラー・ラグランジュ方程式<br/>n 本の 2 階常微分方程式"] C --> E["正準方程式<br/>2n 本の 1 階常微分方程式"] D -.正則なら同値.- E
この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金プラン ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記
© 2026 夢現技研合同会社 ・本文の LLM への入力は自由です。コード例は MIT ライセンスです。