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ボールウェイン積分:π/2 が 7 回続いて 8 回目に崩れる理由

前提:級数と収束判定:部分和の極限・4 つの判定法・絶対収束と条件収束

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  • 0sinxxdx=π2\displaystyle\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\,dx = \frac{\pi}{2}(ディリクレ積分)は絶対収束しない広義積分で、値はパラメータ付き積分と一様収束を使って求まります。
  • sinc(ax)=sin(ax)ax\operatorname{sinc}(a x) = \dfrac{\sin(ax)}{ax} は「幅 2a2a の箱型関数のフーリエ変換」です。したがって sinc のは箱型関数の畳み込みに対応します。
  • 畳み込みは確率の言葉で書けます。XkX_k を区間 [ak,ak][-a_k, a_k] 上の一様分布とすると 0k=0nsin(akx)akxdx=π2a0Pr ⁣(k=1nXka0).\int_0^\infty \prod_{k=0}^{n}\frac{\sin(a_k x)}{a_k x}\,dx = \frac{\pi}{2a_0}\Pr\!\left(\left|\sum_{k=1}^{n} X_k\right| \le a_0\right).
  • この式から、値が π/(2a0)\pi/(2a_0)等しくなるための必要十分条件a1++ana0a_1 + \cdots + a_n \le a_0 だと分かります。ak=1/(2k+1)a_k = 1/(2k+1) のとき、この条件は 13+15++115=1.0218>1\frac13+\frac15+\cdots+\frac1{15} = 1.0218\ldots > 1 で初めて破れます。だから 7 回続いて 8 回目に崩れます。
  • 崩れ方は「はみ出した単体の体積」で正確に測れて、8 番目の積分は π/2\pi/2 より 2.31×10112.31 \times 10^{-11} だけ小さくなります。偶然でも計算誤差でもありません。

1. 動機:7 回続いた等式が 8 回目に崩れる

Section titled “1. 動機:7 回続いた等式が 8 回目に崩れる”

次の積分列を考えます。奇数 1,3,5,1, 3, 5, \ldotsxx を割った sinc 関数を、順に掛け足していったものです。

I0=0sinxxdx,I1=0sinxxsin(x/3)x/3dx,I2=0sinxxsin(x/3)x/3sin(x/5)x/5dx,  In=0k=0nsin(x/(2k+1))x/(2k+1)dx.\begin{aligned} I_0 &= \int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\,dx, \\ I_1 &= \int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\cdot\frac{\sin(x/3)}{x/3}\,dx, \\ I_2 &= \int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\cdot\frac{\sin(x/3)}{x/3}\cdot\frac{\sin(x/5)}{x/5}\,dx, \\ &\ \ \vdots \\ I_n &= \int_0^\infty \prod_{k=0}^{n} \frac{\sin\bigl(x/(2k+1)\bigr)}{x/(2k+1)}\,dx. \end{aligned}

数値計算をすると、次の表が得られます。最後の列は小数第 10 位まで書いたものです。

nn最後に掛けた因子InI_n の値
001.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
11sin(x/3)/(x/3)\sin(x/3)\,/\,(x/3)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
22sin(x/5)/(x/5)\sin(x/5)\,/\,(x/5)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
33sin(x/7)/(x/7)\sin(x/7)\,/\,(x/7)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
44sin(x/9)/(x/9)\sin(x/9)\,/\,(x/9)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
55sin(x/11)/(x/11)\sin(x/11)\,/\,(x/11)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
66sin(x/13)/(x/13)\sin(x/13)\,/\,(x/13)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
77sin(x/15)/(x/15)\sin(x/15)\,/\,(x/15)1.5707963268π/21.5707963268 \ne \pi/2

最後の行だけ「\ne」と書きました。小数第 10 位までは π/2\pi/2 と一致していますが、実際には

I7=1.5707963267717960,π2=1.5707963267948966I_7 = 1.5707963267717960\ldots, \qquad \frac{\pi}{2} = 1.5707963267948966\ldots

で、I7I_7π/2\pi/2 よりおよそ 2.31×10112.31\times 10^{-11} だけ小さいのです。

この差は倍精度浮動小数点数の有効桁(10 進で 16 桁程度)の内側にありますから、原理的には計算機で見えます。にもかかわらず見落とされやすいのは、被積分関数の性質のせいです。ksin(x/(2k+1))/k(x/(2k+1))\prod_{k}\sin(x/(2k+1))\big/\prod_k (x/(2k+1))xx が大きいところで x8|x|^{-8} 程度でしか減衰せず、しかも符号を細かく振動させながら x=x = \infty まで効きます。台形則やシンプソン則で区間 [0,X][0, X] を刻んで足し上げると、打ち切り誤差と丸め誤差がすぐに 101110^{-11} を超えてしまうのです。振動積分に適した方法(周期ごとに区切って交項級数として加速する、あるいは多倍長で計算する)を使って初めて、この差ははっきり見えます。

この現象は D. ボールウェインと J. M. ボールウェインが 2001 年に発表した論文で詳しく調べられ、現在はボールウェイン積分と呼ばれています。単なる数値の偶然ではありません。「なぜ 7 回まで持ちこたえるのか」「なぜ 8 回目で崩れるのか」「崩れ幅がなぜ 2.31×10112.31\times10^{-11} なのか」のすべてに、きれいな理由があります。

この記事のゴールは、その理由を完全に説明することです。道具は 2 つだけです。ひとつは I0=π/2I_0 = \pi/2 というディリクレ積分、もうひとつは「積のフーリエ変換は畳み込み」という関係です。後者を確率の言葉に翻訳すると、崩れる条件が一行で書けてしまいます。

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