電卓があれば誰でも試せる遊びがあります。数を 1 つ選び、偶数なら半分に、奇数なら 3 倍して 1 を足す。これを繰り返すと、なぜかいつも 1 に行き着きます。「本当に、どんな数でもそうなのか」という素朴な疑問に、専門の数学者が 90 年近く答えられていません。この記事では、小さな数で実際に動かしながら、何が証明できていて何が分かっていないのかを、順に見ていきます。
- ルールはたった 2 行です。自然数 n が偶数なら n/2、奇数なら 3n+1 に置き換える。これを繰り返すと必ず 1 にたどり着く——これがコラッツ予想で、1930 年代に提出されて以来未解決です。
- 小さい数で試すとすぐ 1 に落ちます。ところが 27 から始めると 111 手かかり、途中で 9232 まで跳ね上がります。「単純=易しい」ではないことを、この 1 例が教えてくれます。
- 何も分かっていないわけではありません。「奇数が 1 個または 2 個だけの巡回(同じ数の並びをぐるぐる回り続ける道筋)は自明なもの以外に存在しない」「少なくとも 4 分の 3 の自然数(自然密度、つまり 1 から N までの数のうち該当するものの割合で測って)は 3 手以内に元より小さくなる」といった主張は、この記事の中で完全に証明できます。
- 「たぶん正しい」と信じられている理由は、1 手あたり平均して 3/4≈0.866 倍に縮むという確率的な見積もりです。ただしこれは証明ではありません。
- 3n+1 を 3n−1 に変えるだけで反例(5→14→7→20→10→5)が現れます。つまり正しい証明は「+1 か −1 か」を区別できるほど繊細でなければならず、そこが最大の壁です。
数学の未解決問題というと、ふつうは問題文を理解するだけでひと苦労します。リーマン予想を人に説明しようとすれば、まず複素数とゼータ関数の話から始めなければなりません。
コラッツ予想はそうではありません。ルールはこれだけです。
- 自然数を 1 つ選ぶ。
- それが偶数なら 2 で割る。奇数なら 3 倍して 1 を足す。
- 2 に戻る。
そして予想はこうです。どんな自然数から始めても、いつかは 1 に到達する。
小学生でも遊べます。実際に 6 から始めてみましょう。
6→3→10→5→16→8→4→2→1
8 手で着地しました。1 に着いたあとは 1→4→2→1 とぐるぐる回るので、そこで打ち切ります。
この問題は、1937 年頃にドイツの数学者ローター・コラッツが提出したとされます。以来、角谷静夫にちなむ「角谷の問題」、ウラム、ハッセ、スウェイツなど多くの名前が付き、「シラキュース問題」「3n+1 問題」とも呼ばれてきました。名前が多いというのは、それだけ多くの人が独立に取り憑かれたということです。
エルデシュ・パールはこの問題に 500 ドルの懸賞をかけたうえで、現代の数学はまだこの種の問題を扱えるほど成熟していない、という趣旨のことを述べたと伝えられています。2021 年には日本の企業が 1 億 2000 万円の懸賞金を出したことも話題になりました。それでもまだ解けていません。
遊びを数学にするために、言葉を決めます。以下、N={1,2,3,…} とし、0 は含めません。
定義 2.1(コラッツ写像)↗
写像 C:N→N を
C(n)={n/23n+1(n が偶数)(n が奇数)で定める。これをコラッツ写像と呼ぶ。
n が奇数のとき 3n+1 は必ず偶数なので、奇数の次には必ず偶数が来ます。そこで「奇数のときは 3n+1 してすぐ 2 で割る」とまとめた写像も便利です。
定義 2.2(短縮コラッツ写像)↗
写像 T:N→N を
T(n)={n/2(3n+1)/2(n が偶数)(n が奇数)で定める。これを短縮コラッツ写像と呼ぶ。
T は C の 1 手または 2 手をまとめたものなので、C で 1 に到達することと T で 1 に到達することは同値です。証明では計算が短くなる方を使います。
定義 2.3(軌道・停止時間・巡回)↗
n∈N に対し、列 n,C(n),C2(n),… を n の軌道と呼ぶ。
σ(n)=min{k≥1:Ck(n)<n}を n の停止時間と呼ぶ(そのような k が存在しないときは σ(n)=∞ と定める)。
また、Ck(m)=m となる k≥1 が存在するとき、m を含む有限集合 {m,C(m),…,Ck−1(m)} を巡回と呼ぶ。
停止時間は「元の数より小さくなるまでに何手かかるか」です。1 に着くまでの手数(総停止時間)より扱いやすく、後で見るようにこちらだけで予想を言い換えられます。
コラッツ写像の 1 手
理屈より先に、数を眺めます。
例 3.1(1 から 12 までの成績表)
各 n について、1 に到達するまでの手数(総停止時間)と、軌道の最大値を並べます。
| n | 手数 | 軌道の最大値 |
|---|
| 1 | 0 | 1 |
| 2 | 1 | 2 |
| 3 | 7 | 16 |
| 4 | 2 | 4 |
| 5 | 5 | 16 |
| 6 | 8 | 16 |
| 7 | 16 | 52 |
| 8 | 3 | 8 |
| 9 | 19 | 52 |
| 10 | 6 | 16 |
| 11 | 14 | 52 |
| 12 | 9 | 16 |
たとえば 7 の軌道は
7→22→11→34→17→52→26→13→40→20→10→5→16→8→4→2→1で、確かに 16 手、最大値 52 です。隣り合う 6 と 7 で手数が 8 と 16、8 と 9 で 3 と 19 と、まったく揃いません。この不規則さがこの問題の本質です。
例 3.2(27 という暴れ者)
27 から始めると、軌道はこう動き出します。
27→82→41→124→62→31→94→47→142→71→214→107→⋯下がったかと思うとまた上がる、を延々と繰り返し、途中で最大値 9232 に達し、111 手かけてようやく 1 に着きます。出発点は 27、つまり 2 桁です。それが 4 桁まで登るのです。
27 の隣の 26 は 10 手、28 は 18 手で終わります。27 だけが突出しているわけで、「小さい数だから短いはず」という直感はここで完全に壊れます。
手で追うのは大変なので、プログラムに任せます。次のコードは標準ライブラリだけで動きます。
def total_stopping_time(n):
"""n が 1 に到達するまでの手数と軌道の最大値を返す。"""
n = n // 2 if n % 2 == 0 else 3 * n + 1
print(total_stopping_time(27)) # (111, 9232)
print(max(range(1, 10**6), key=lambda n: total_stopping_time(n)[0]))
# 837799 (100 万未満で最も手数が多い数。524 手)
最後の行を実行すると 837799 が返ります。手数は 524 です。100 万未満の数で最悪でも 524 手、というのは「意外と小さい」と感じるでしょうか。それとも「1 に着く保証がないのに 524 手も彷徨うのか」と感じるでしょうか。どちらの感想も正しいのが、この問題の面白いところです。
「何も分かっていない」わけではありません。ここでは紙と鉛筆だけで証明できる事実を 3 つ挙げます。
定理 4.1(2 の冪は素直)✓
k≥0 を整数とすると、Ck(2k)=1 である。すなわち 2k はちょうど k 手で 1 に到達する。
証明(定理 4.1)
k についての帰納法で示します。k=0 のとき 20=1 で、C0(1)=1 ですから成立します。
k で成立するとします。2k+1 は偶数なので、定義 2.1 より C(2k+1)=2k+1/2=2k です。よって
Ck+1(2k+1)=Ck(C(2k+1))=Ck(2k)=1となり、最後の等号で帰納法の仮定を使いました。以上で k+1 でも成立します。
∎
つまり 2,4,8,16,32,… は一直線に落ちます。予想が難しいのは、こういう素直な数のせいではありません。
命題 4.2(4 で割って 1 余る数は 3 手で小さくなる)✓
n を偶数とすると σ(n)=1 である。また n≥5 が n≡1(mod4) を満たすならば σ(n)=3 であり、しかも
C3(n)=43n+1が成り立つ。したがって、σ(n)≤3 を満たす自然数の(自然密度の意味での)割合は少なくとも 3/4 である。
証明(命題 4.2)
n が偶数なら 定義 2.1 より C(n)=n/2<n なので σ(n)=1 です。
次に n≡1(mod4)、n≥5 とし、n=4k+1(k≥1)と書きます。n は奇数なので
C(n)=3(4k+1)+1=12k+4.これは偶数なので C2(n)=6k+2、これも偶数なので C3(n)=3k+1 です。ここで
43n+1=412k+3+1=3k+1なので、主張の等式が確かめられました。
σ(n)=3 であることを見ます。まず C3(n)=3k+1<4k+1=n は k≥1 から従います。一方、途中の 2 手では小さくなりません。実際 C(n)=12k+4>4k+1=n(8k+3>0 より)、C2(n)=6k+2>4k+1=n(2k+1>0 より)です。よって n より小さくなる最初の時刻はちょうど 3 です。
最後に密度を数えます。1 以上 N 以下の自然数のうち、偶数はおよそ N/2 個、4 で割って 1 余るものはおよそ N/4 個あり、両者は重なりません。したがって σ(n)≤3 を満たすものは少なくともおよそ N/2+N/4=3N/4 個あり、N→∞ として割合 3/4 以上を得ます。
∎
この計算は「もっと細かい剰余で調べれば、もっと多くの n を捕まえられるのでは」という発想につながります。実際そのとおりです。なお、以下でも使う a≡b(modm) という合同の記法については 合同の定義(定義 3.2)[数学はなぜ難しいのか] を参照してください。
例 4.3(16 で割って 3 余る数も落ちる)
n≡3(mod16)、すなわち n=16k+3(k≥0)とします。C を 6 回適用します。
16k+3→48k+10→24k+5→72k+16→36k+8→18k+4→9k+2最後の 9k+2 は 16k+3 より小さい(差は 7k+1>0)ので、σ(n)≤6 です。n≡3(mod16) の数は全体の 1/16 を占め、これは 命題 4.2 で捕まえた偶数とも 1mod4 とも重なりません(3mod16 の数は 3mod4 の奇数だからです)。合わせて割合は 1/2+1/4+1/16=13/16 以上になります。
この手続きを mod2k でどこまでも続けると、次の定理が得られます。
停止時間だけを見ればよい、というのは次の言い換えから正当化されます。直感的には、「どんな数も、いつか自分より小さい数に落ちる」なら、落ちた先の数もまた小さい数に落ち、これを繰り返して最後は 1 に着く、ということです。証明の強い帰納法は、この「小さい数に落ちた先は、すでに 1 に着くと分かっている」という筋を書き下したものです。
定理 4.5(停止時間による言い換え)✓
次の 2 つは同値である。
(a) すべての n∈N の軌道は 1 を含む(コラッツ予想)。
(b) すべての n≥2 に対して σ(n)<∞ である。
証明(定理 4.5)
(a) ⇒ (b)。 n≥2 とします。(a) より、ある k≥0 で Ck(n)=1 です。n≥2>1 なので k≥1 であり、Ck(n)=1<n です。よって n より小さくなる時刻が少なくとも 1 つ存在し、その最小値 σ(n) は有限です。
(b) ⇒ (a)。 n についての強い帰納法で「n の軌道は 1 を含む」を示します。
n=1 のときは軌道の最初の項が 1 なので成立します。
n≥2 とし、n より小さいすべての自然数について主張が成り立つと仮定します。(b) より k=σ(n) は有限で、m=Ck(n) とおくと m<n、かつ m≥1 です。帰納法の仮定より m の軌道は 1 を含み、ある j≥0 で Cj(m)=1 となります。すると
Ck+j(n)=Cj(Ck(n))=Cj(m)=1なので、n の軌道も 1 を含みます。
∎
予想が破れるとしたら、破れ方は 2 通りしかありません。
- どこかの n の軌道が 1 を含まない巡回に入る。
- どこかの n の軌道が無限に大きくなり続ける(正の無限大に発散する)。
このうち 1 については、かなりのことが証明できます。
補題 5.1(巡回は奇数を含む)✓
C の任意の巡回は、少なくとも 1 つの奇数を含む。
証明(補題 5.1)
巡回 {m,C(m),…,Ck−1(m)} がすべて偶数からなると仮定します。すると 定義 2.1 より各項は前の項の半分なので、Ck(m)=m/2k です。巡回の定義から Ck(m)=m なので m=m/2k、すなわち m(2k−1)=0 となります。k≥1 より 2k−1≥1 なので m=0 ですが、これは m∈N に反します。
∎
巡回に含まれる奇数を順に n1,n2,…,nr(互いに相異なる)とします。ni が奇数なら 3ni+1 は偶数で、そこから偶数が続く限り 2 で割られ、次の奇数 ni+1(添字は r の次を 1 と読む)に着きます。割った回数を ai≥1 とすると
3ni+1=2aini+1(i=1,…,r)
が成り立ちます。この関係式が巡回を調べる出発点です。
次の定理は、この関係式から奇数を r=1,2 個に限った場合を直接調べます。方針は、式を整理して「2 の冪から 9 を引いた数」と n1n2 の積を、右辺の和と比べることです。左辺が右辺より大きくなりすぎてしまい、n1=1 の場合と n1≥3 の場合で、どちらも矛盾が出ます。式変形が長いので、各行で何をしているかを追ってください。
定理 5.2(奇数が 2 個以下の巡回)✓
C の巡回で、含まれる奇数の個数が 1 個または 2 個であるものは、{1,4,2} に限る。
証明(定理 5.2)
補題 5.1 より奇数は少なくとも 1 個あります。上で導いた関係式を使います。
奇数が 1 個の場合。 r=1 なら n2=n1=n と読み替えて 3n+1=2an、すなわち
n(2a−3)=1.n と 2a−3 はともに整数で積が 1、かつ n≥1 なので n=1 かつ 2a−3=1、つまり 2a=4、a=2 です。このとき巡回は 1→4→2→1 で、集合として {1,4,2} です。
奇数が 2 個の場合。 相異なる奇数 n1=n2 について
3n1+1=2a1n2,3n2+1=2a2n1が成り立つとします。辺々掛けて A=a1+a2≥2 とおくと
(3n1+1)(3n2+1)=2An1n2,左辺を展開して
9n1n2+3(n1+n2)+1=2An1n2,すなわち
(2A−9)n1n2=3(n1+n2)+1.右辺は正なので左辺も正で、2A>9 です。2 の冪で 9 を超える最小のものは 16 なので 2A≥16、よって 2A−9≥7 です。n1n2>0 なので
7n1n2≤(2A−9)n1n2=3(n1+n2)+1.一般性を失わず n1<n2 とします(相異なるので等号は起きません)。
n1=1 のとき、この不等式は 7n2≤3+3n2+1、すなわち 4n2≤4 となり n2≤1 です。これは n2>n1=1 に矛盾します。
n1≥3 のとき(n1 は奇数なので 1 の次は 3 です)、左辺は 7n1n2≥21n2=3n2+18n2 と下から評価できます。一方 n2>n1≥3 より 18n2>18n1≥3n1+1(15n1≥45>1 だから)です。したがって
7n1n2≥3n2+18n2>3n2+3n1+1=3(n1+n2)+1となり、先ほどの不等式に矛盾します。
以上より奇数が 2 個の巡回は存在せず、巡回は {1,4,2} に限られます。
∎
この議論は奇数の個数 r を増やすと急激に難しくなりますが、同じ関係式を精密化する方向で研究が進んでいます。現在では、1 を含まない巡回が存在するとすれば、その長さは 10 億手を優に超えることが示されています。
1 に流れ込む数たち(矢印は 1 手の適用)
この図の枝をどこまでも伸ばしていったとき、すべての自然数がこの 1 本の木の中に現れるか——それがコラッツ予想です。図を見ると 16 には 32 と 5 の 2 本、40 には 80 と 13 の 2 本が流れ込んでいます。偶数 m には必ず 2m が流れ込み、さらに m≡4(mod6) のときは奇数 (m−1)/3 も流れ込みます。木は上に向かって指数的に広がるので(指数的な増大がどれほど速いかは 紙を 42 回折る話(例 6.1)[数学はなぜ難しいのか] が分かりやすい例です)、「全部を尽くしているか」を確かめるのは目で見るほど簡単ではありません。
証明はないのに、多くの数学者はコラッツ予想が正しいと考えています。根拠は次の見積もりです。
奇数 n に短縮写像 定義 2.2 を当てると (3n+1)/2≈1.5n、偶数に当てると 0.5n です。ここで「軌道に現れる数の偶奇はコイン投げのようにランダムだ」と仮定してみます。すると 1 手あたりの倍率の幾何平均は
1.5×0.5=0.75≈0.866
です。1 より小さい。つまり典型的な軌道は、増えたり減ったりしながら平均としては 1 手ごとに約 13% ずつ縮んでいくはずだ、というわけです。縮み続けるなら、いつかは小さな数に落ちる。落ちればあとは 定理 4.5 の帰納法が効きます。
この見積もりは手数の予測まで与えます。C で考えると、奇数 1 個につき平均 2 回の halving が続く(3n+1 が 2j でちょうど割り切れる確率が 2−j なので期待値が 2)ので、奇数 k 個・偶数 2k 個で全体の倍率は 3k/22k=(3/4)k です。これが 1/n になるのは k=lnn/ln(4/3) のときで、総手数は 3k≈10.4lnn と予測されます。n が 100 万程度なら 10.4×13.8≈144 手。実測でもその近辺に集中します。悪くない予測です。
証明できている最良の結果は、この確率的直観を厳密化する方向にあります。テレンス・タオは 2019 年に、任意の発散関数 f(f(n)→∞)について、ほとんどすべての n の軌道が f(n) より小さい値を取ることを示しました。ここでの「ほとんどすべて」は注意 4.4の自然密度ではなく、より弱い対数密度(個数ではなく 1/n の重みを付けて数える密度)の意味であることに注意してください。「ほとんどすべての n はいったんは非常に小さくなる」ところまでは来ているわけです。それでも「すべての n が 1 に着く」との間には、依然として深い溝があります。
素朴な証明方針が失敗する理由を、いちばん鮮明に示す例を挙げます。ルールの +1 を −1 に変えてみます。
命題 7.1(3n−1 版には自明でない巡回がある)✓
写像 D:N→N を、n が偶数なら D(n)=n/2、奇数なら D(n)=3n−1 で定める。このとき D は {1,2} 以外に巡回
5→14→7→20→10→5をもつ。
証明(命題 7.1)
順に計算します。5 は奇数なので D(5)=3⋅5−1=14。14 は偶数なので D(14)=7。7 は奇数なので D(7)=3⋅7−1=20。20 は偶数なので D(20)=10、10 は偶数なので D(10)=5。よって D5(5)=5 であり、{5,14,7,20,10} は巡回です。1 を含まないので {1,2} とは異なります。
なお D(1)=2、D(2)=1 なので {1,2} も巡回です。
∎
これが効いてきます。第 6 節の確率的な見積もりは、+1 を −1 に変えてもまったく同じです(3n−1≈3n ですから)。つまり「平均して縮むから 1 に落ちる」という議論は、反例のある問題に対しても同じ結論を出してしまうのです。したがってこの方針は、そのままでは決して証明になりません。
例 7.2(負の数まで含めるともっとひどい)
D の巡回は上のものだけではありません。
17→50→25→74→37→110→55→164→82→41→122→61→182→91→272→136→68→34→17も巡回です(各手を 命題 7.1 と同じ要領で確かめてください)。
さらに、n↦−n と置き換えると D は元のコラッツ写像 C そのものになります。したがって C を負の整数まで拡張すると、−1→−2→−1、−5→−14→−7→−20→−10→−5、そして −17 から始まる長さ 18 の巡回、と 3 つの巡回が現れます。C の式は正負で何も変わらないのに、正の側だけ巡回が 1 つしかない(と予想される)——この非対称性を説明できる理屈が、今のところ誰にも見つかっていません。
もう 1 つ、深いところからの警告があります。ジョン・コンウェイは 1972 年、コラッツ写像を「n を m で割った余りごとに別々の一次式を当てる」形に一般化した写像の族について、与えられた出発点が 1 に到達するかどうかを判定する一般的アルゴリズムが存在しない(アルゴリズム的に決定不能である。つまり、すべての場合に答えを出せる単一の手順は作れない)ことを示しました。コラッツ予想そのものが決定不能だと言っているわけではありませんが、「この種の問題に万能の解法はない」ことが証明されている、というのは重い事実です。
演習 8.1易
C を 定義 2.1 の写像とする。n=9 の軌道を書き下し、1 に到達するまでの手数と軌道の最大値を求めよ。
解答
順に計算します。
9→28→14→7→22→11→34→17→52→26→13→40→20→10→5→16→8→4→2→19 を第 0 項として数えると、1 は第 19 項です。よって手数は 19 です。最大値は 52 です。
例 3.1 の表で 7 の手数が 16 でしたが、上の軌道は 3 手目で 7 に落ちています。3+16=19 で一致します。このように「途中で既知の数に合流したら、そこから先は計算し直さなくてよい」というのが、コラッツ数列を高速に計算するときの基本テクニックです。
演習 8.2標準
n を奇数とする。4n+1 もまた奇数であることを確かめたうえで、
C3(4n+1)=C(n)を示せ。これは何を意味するか、n=5 の場合で確かめよ。
解答
n が奇数なら 4n は偶数なので 4n+1 は奇数です。よって
C(4n+1)=3(4n+1)+1=12n+4.これは偶数なので C2(4n+1)=6n+2、これも偶数なので
C3(4n+1)=3n+1.一方 n は奇数なので C(n)=3n+1 です。両者は一致します。
つまり 4n+1 の軌道は 3 手で n の軌道に合流します。
n=5 のとき 4n+1=21 です。21→64→32→16 で、C(5)=16 に確かに合流しています。この事実は、定理 5.2 の後の図で 21 が 64 を通って 16 に流れ込んでいたことに対応します。奇数 n に対して n,4n+1,4(4n+1)+1=16n+5,… が全部同じところに合流するので、コラッツの木には無限に続く「そっくりな枝」がたくさんあります。
演習 8.3標準
n≡11(mod16) を満たす n は、例 4.3 と同じ 6 手では n より小さくならないことを示せ。
解答
n=16k+11(k≥0)とおいて計算します。n は奇数なので
C(n)=48k+34.偶数なので C2(n)=24k+17、これは奇数なので C3(n)=72k+52、偶数なので C4(n)=36k+26、偶数なので C5(n)=18k+13、これは奇数なので
C6(n)=54k+40.54k+40>16k+11(差は 38k+29>0)なので、6 手では小さくなっていません。途中の値もすべて 16k+11 より大きいことは、たとえば C5(n)=18k+13>16k+11(差 2k+2>0)のように順に確かめられます。
つまり 例 4.3 の手続きは剰余類ごとに「当たり外れ」があり、外れたものは mod32、mod64 とさらに細かく分けて調べ直すことになります。注意 4.4 のテラスの定理は、この細分をどこまでも続けると取りこぼしの割合が 0 に近づく、という主張です。
演習 8.4難
T を 定義 2.2 の短縮コラッツ写像とする。k≥0 と m≥1 に対して
Tk(2km−1)=3km−1が成り立つことを k についての帰納法で示せ。これを使って、n=2k−1 の形の数が最初のうち大きく増えることを説明せよ。
解答
k=0 のとき。 左辺は T0(m−1)=m−1、右辺は m−1 で一致します。
k で成立すると仮定して k+1 を示す。 N=2k+1m−1 とおきます。2k+1m は(k+1≥1 なので)偶数なので N は奇数です。よって 定義 2.2 より
T(N)=23(2k+1m−1)+1=23⋅2k+1m−2=3⋅2km−1=2k(3m)−1.これは 2km′−1 の形(m′=3m≥1)なので、帰納法の仮定が使えて
Tk+1(N)=Tk(T(N))=Tk(2km′−1)=3km′−1=3k⋅3m−1=3k+1m−1.以上で帰納法が完成します。
意味。 m=1 とすると、n=2k−1 は k 手の短縮ステップで 3k−1 になります。倍率はおよそ (3/2)k で、k が大きいほど激しく増えます。第 6 節の確率的な見積もりでは「1 手あたり平均 0.866 倍」でしたが、この形の数は最初の k 手すべてが奇数ステップで、平均から大きく外れるのです。
たとえば k=5 なら n=31 で、
31→47→71→107→161→242と 5 手で 242 まで登ります(35−1=242 です)。例 3.2 の 27 が暴れたのも同じ理由で、27 の軌道は途中で 31 を通ります。「たまたま奇数が連続する数」はいくらでも作れるので、確率的な議論だけで予想を証明できない理由がここにも見えます。
- J. C. Lagarias, “The 3x+1 problem and its generalizations”, American Mathematical Monthly 92 (1985), 3–23. — この問題の標準的な入門サーベイ。歴史的経緯と主要結果がまとまっています。
- J. C. Lagarias (ed.), The Ultimate Challenge: The 3x+1 Problem, American Mathematical Society, 2010. — 上のサーベイを含む論文集。現在の到達点を知るならまずこれです。
- R. Terras, “A stopping time problem on the positive integers”, Acta Arithmetica 30 (1976), 241–252. — 停止時間が有限な自然数の密度が 1 であることの原論文。
- I. Krasikov and J. C. Lagarias, “Bounds for the 3x+1 problem using difference inequalities”, Acta Arithmetica 109 (2003). — x 以下で 1 に到達する数の個数の下界。
- T. Tao, “Almost all orbits of the Collatz map attain almost bounded values”, arXiv:1909.03562 (2019). — 確率的直観を厳密化した現時点で最強の結果。
- D. Barina, “Convergence verification of the Collatz problem”, The Journal of Supercomputing 77 (2021). — 268 までの計算機検証。
- J. H. Conway, “Unpredictable iterations”, Proceedings of the 1972 Number Theory Conference, University of Colorado, 1972. — 一般化コラッツ写像の決定不能性。
自分で実験するときの注意。 第 3 節のコードは素朴な実装なので、107 を超えるあたりから遅くなります。速くするには、演習 8.1 の解答で触れたメモ化(一度計算した数の手数を辞書に保存する)を入れるのが定石です。ただし辞書が巨大になるので、「n 未満の値に落ちたら打ち切る」方式(つまり停止時間 σ(n) だけを計算し、定理 4.5 に頼る)のほうがメモリ効率は良くなります。
見つけても喜びすぎないこと。 「反例を見つけた」と思ったときは、まず桁あふれを疑ってください。C 言語や Java の 64 ビット整数は 9.2×1018 程度で溢れます。27 が 9232 まで登ったように、コラッツ軌道は出発点の何桁も上まで行くので、1018 台の数を試すと途中で簡単に溢れます。Python の整数は自動的に多倍長になるので、この点では安心です。
それでも挑戦したい人へ。 この記事で見たとおり、素朴な確率的議論は 3n−1 版(命題 7.1)を排除できず、剰余類による議論は 注意 4.4 の壁を越えられません。新しい証明は、+1 という項が正の整数の世界で果たしている特別な役割を掴まえるものでなければならないはずです。それが何なのかは、まだ誰も知りません。数学の問題がなぜ難しくなるのかについては 数学はなぜ難しいのか も参考にしてください。計算機に大きく頼って解決した例としては 四色定理(定理 5.1[四色定理])が対照的で、こちらは「有限個の場合に帰着できた」こと(不可避集合と可約配置(定義 5.3)[四色定理])が決め手でした。コラッツ予想には、その有限化の手段がまだ見つかっていないのです。