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リー群とリー環:連続的な対称性を接空間の線形代数へ翻訳する

前提:ストークスの定理:微分と境界の双対性

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  • リー群とは、多様体であって、しかも積と逆元をとる操作が滑らかな群のことです。回転、平行移動、ローレンツ変換といった「連続的な対称性」はすべてこの枠組みに入ります。
  • 群であることの効果は絶大です。単位元 ee のまわりの情報が左移動 LgL_g によって群全体へ運ばれるため、無限個の元をもつ曲がった空間が、有限次元ベクトル空間 g=TeG\mathfrak{g} = T_eG のデータでほぼ決まってしまいます。
  • g\mathfrak{g} には左不変ベクトル場のリー括弧を通じてブラケット [,][\cdot,\cdot] が入り、リー環になります。行列でできた群では、このブラケットは交換子 ABBAAB - BA にほかなりません。
  • 指数写像 exp ⁣:gG\exp \colon \mathfrak{g} \to G が両者を橋渡しします。exp\exp00 の近傍から ee の近傍への微分同相であり、連結なリー群は exp(g)\exp(\mathfrak{g}) で生成されます。ただし exp\exp は全射とは限らず、SL(2,R)SL(2,\mathbb{R}) が反例になります。
  • 古典群 GL(n,R)GL(n,\mathbb{R})SL(n,R)SL(n,\mathbb{R})O(n)O(n)U(n)U(n) は正則値定理でまとめて多様体だと分かり、同じ計算から次元とリー環が同時に読み取れます。

1. 動機:連続的な対称性をどう扱うか

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ガロアは代数方程式の対称性を有限群として取り出し、解の公式の存在を群論の言葉に翻訳しました。1870 年代、ソフス・リーはこれと同じことを微分方程式に対して行おうとします。ところが微分方程式の対称性は「xx 軸方向に tt だけ平行移動する」「原点のまわりに角 θ\theta だけ回す」のように連続パラメータで動くため、有限群では捉えられません。パラメータの動く範囲そのものが空間になっているのです。

そこでリーが取った戦略が、この記事の主題です。連続的な対称性の集まりを、群であると同時に多様体である対象として扱い、単位元の近くだけを見て「無限小の対称性」を取り出す。この無限小の対称性たちがなす代数系が、のちにヘルマン・ワイルによってリー環(リー代数)と呼ばれるものです。

なぜ単位元の近くだけで十分なのか、直感的な理由を先に言っておきます。群の積は一般に非線形です。たとえば行列の積 (A,B)AB(A,B) \mapsto AB は成分について 2 次式であって、線形代数の道具がそのままでは使えません。しかし群には Lg(h)=ghL_g(h) = gh という左移動があり、これは群全体を自分自身へ写す微分同相です。したがって gg の近くの様子は ee の近くの様子を LgL_g で運んだものにすぎず、局所的な情報はすべて単位元に集約できます。単位元における接空間 TeGT_eG は有限次元のベクトル空間ですから、これで非線形な対象が線形代数の土俵に乗ります。

最も簡単な例で確かめておきます。単位円 S1={zC:z=1}S^1 = \{z \in \mathbb{C} : |z| = 1\} は複素数の積について群であり、1 次元の多様体です。e=1e = 1 における接空間は純虚数全体 iRi\mathbb{R} で、これは 1 次元の実ベクトル空間です。接ベクトル iθi\theta に対して曲線 teitθt \mapsto e^{i t \theta} を対応させると、直線 iRi\mathbb{R} が円に巻きつきます。この「巻きつけ」が指数写像であり、この記事の最終目標です。

G = S¹eXexp(tX)接空間 = リー環
接空間(リー環)を指数写像で群に巻きつける。円周群 S¹ の場合。

物理でこの道具立てが要るのは、対称性が保存量を生むからです。時間並進の対称性はエネルギー保存を、空間回転の対称性は角運動量保存を与えます。ここで実際に効いているのは群そのものではなく「無限小の生成元」、すなわちリー環の元です。一般相対論のローレンツ群、素粒子論のゲージ群 SU(3)×SU(2)×U(1)SU(3) \times SU(2) \times U(1) も、計算の現場ではほとんどリー環の言葉で扱われます。

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