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令和2年度 東大院 物理学専攻 修士 数学 解答

対象読者: 学部の物理数学(線形代数、微分積分、常微分方程式、複素関数論、フーリエ解析)を一通り学び、東大物理学専攻の院試問題を自分で解いた、または解こうとしている人。問題文は載せていないので、出典の問題を手元に置いて読みます。

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令和2年度の数学は 90 分で 2 問、どちらも必答です。第1問は誤差関数の収束級数と漸近展開(x→∞x\to\infty で、誤差が書いた項より十分小さくなる近似式)を作り、それを使って移流項(波形をそのまま流す項)と拡散項(波形をなだらかにならす項)をもつ 1 次元の線形偏微分方程式をフーリエ変換で解きます。第2問は巡回シフト行列(基底ベクトルを順に 1 つずつ送り、最後を先頭に戻す行列)XX と位相行列 ZZ が作る有限次元の代数で、ZX=wXZZX = wXZ という交換関係だけから同時対角化の条件と固有値が決まる構造を追います。計算量はどちらも軽く、漸近展開の剰余の評価、同時対角化可能性の必要十分性、固有ベクトルの位相の固定といった論理の詰めで差がつきます。

問題分野主題
第1問特殊関数・フーリエ解析・微分方程式誤差関数の 2 種類の展開と移流拡散方程式
第2問線形代数巡回シフト行列と位相行列、固有値と相互不偏基底

第1問 誤差関数と移流拡散方程式

Section titled “第1問 誤差関数と移流拡散方程式”

道具として与えられているのはガウス積分の公式

∫−∞∞dx e−12ax2+ipx=2πa e−p22a(a>0, p∈R)\int_{-\infty}^{\infty} dx\, e^{-\frac{1}{2}ax^{2}+\mathrm{i}px} = \sqrt{\frac{2\pi}{a}}\, e^{-\frac{p^{2}}{2a}} \qquad (a>0,\ p\in\mathbb{R})

だけです。前半は誤差関数

erf(x)=2π∫0xdξ e−ξ2\mathrm{erf}(x) = \frac{2}{\sqrt{\pi}}\int_{0}^{x} d\xi\, e^{-\xi^{2}}

の x=0x=0 まわりの収束級数と x→∞x\to\infty での漸近展開を作ります。後半は

∂u(x,t)∂t=−c ∂u(x,t)∂x+λ2 ∂2u(x,t)∂x2\frac{\partial u(x,t)}{\partial t} = -c\,\frac{\partial u(x,t)}{\partial x} + \frac{\lambda}{2}\,\frac{\partial^{2} u(x,t)}{\partial x^{2}}

を初期条件 u(x,0)=U(x)u(x,0)=U(x) のもとで t≥0t\ge 0、−∞<x<∞-\infty<x<\infty で解きます。c>0c>0 は移流速度で、λ≥0\lambda\ge0 に対して λ/2\lambda/2 が拡散係数の役割を果たします。

(i) e−ξ2e^{-\xi^{2}} は整関数で、そのテイラー級数 ∑n≥0(−1)nξ2n/n!\sum_{n\ge0}(-1)^{n}\xi^{2n}/n! は任意の有界区間で一様収束します。したがって項別積分してよく、

erf(x)=2π∑n=0∞(−1)nn!∫0xdξ ξ2n=2π∑n=0∞(−1)nn! (2n+1) x2n+1\mathrm{erf}(x) = \frac{2}{\sqrt{\pi}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n!}\int_{0}^{x} d\xi\, \xi^{2n} = \frac{2}{\sqrt{\pi}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{n!\,(2n+1)}\,x^{2n+1}

が得られます。最初の数項を書き出すと

erf(x)=2π(x−x33+x510−x742+x9216−⋯ )\mathrm{erf}(x) = \frac{2}{\sqrt{\pi}}\left( x - \frac{x^{3}}{3} + \frac{x^{5}}{10} - \frac{x^{7}}{42} + \frac{x^{9}}{216} - \cdots \right)

です。隣接項の比は n! (2n+1)(n+1)! (2n+3)x2=2n+1(n+1)(2n+3)x2→0\dfrac{n!\,(2n+1)}{(n+1)!\,(2n+3)}x^{2} = \dfrac{2n+1}{(n+1)(2n+3)}x^{2}\to 0 なので収束半径は無限大で、この級数はすべての xx で erf(x)\mathrm{erf}(x) に一致します。奇数次のみが現れるのは erf\mathrm{erf} が奇関数であることに対応します。検算として x=1x=1 で n=0n=0 から n=5n=5 までの 6 項を足すと 0.8425940.842594、真値は erf(1)=0.842701\mathrm{erf}(1)=0.842701 です。

(ii) ここでの目標は、xx が大きいときに erf(x)\mathrm{erf}(x) が 1 からどれだけずれるかを、誤差を押さえながら具体的な式で表すことです。まず x→∞x\to\infty での値を確定させます。与えられた公式で a=2a=2、p=0p=0 とすると ∫−∞∞dx e−x2=π\int_{-\infty}^{\infty}dx\,e^{-x^{2}}=\sqrt{\pi} で、被積分関数が偶関数なので ∫0∞dξ e−ξ2=π/2\int_{0}^{\infty}d\xi\,e^{-\xi^{2}}=\sqrt{\pi}/2、すなわち erf(∞)=1\mathrm{erf}(\infty)=1 です。よって x>0x>0 で

erf(x)=1−2π∫x∞dξ e−ξ2\mathrm{erf}(x) = 1 - \frac{2}{\sqrt{\pi}}\int_{x}^{\infty} d\xi\, e^{-\xi^{2}}

と書けます。x>0x>0 のとき ξ↦η=ξ2\xi\mapsto\eta=\xi^{2} は [x,∞)[x,\infty) から [x2,∞)[x^{2},\infty) への単調な全単射で dξ=dη/(2η)d\xi = d\eta/(2\sqrt{\eta}) なので、

2π∫x∞dξ e−ξ2=1π∫x2∞dη η−1/2e−η\frac{2}{\sqrt{\pi}}\int_{x}^{\infty} d\xi\, e^{-\xi^{2}} = \frac{1}{\sqrt{\pi}}\int_{x^{2}}^{\infty} d\eta\, \eta^{-1/2}e^{-\eta}

となります。e−η=−ddηe−ηe^{-\eta} = -\dfrac{d}{d\eta}e^{-\eta} として部分積分すると

∫x2∞dη η−1/2e−η=[−η−1/2e−η]x2∞−12∫x2∞dη η−3/2e−η=e−x2x−12∫x2∞dη η−3/2e−η\int_{x^{2}}^{\infty} d\eta\, \eta^{-1/2}e^{-\eta} = \Big[-\eta^{-1/2}e^{-\eta}\Big]_{x^{2}}^{\infty} - \frac{1}{2}\int_{x^{2}}^{\infty} d\eta\, \eta^{-3/2}e^{-\eta} = \frac{e^{-x^{2}}}{x} - \frac{1}{2}\int_{x^{2}}^{\infty} d\eta\, \eta^{-3/2}e^{-\eta}

です。境界項では η→∞\eta\to\infty で η−1/2e−η→0\eta^{-1/2}e^{-\eta}\to0、η=x2\eta=x^{2} で (x2)−1/2=1/x(x^{2})^{-1/2}=1/x となること(x>0x>0 を使いました)を用いました。ここで残った積分は、η≥x2\eta\ge x^{2} で η−3/2≤x−3\eta^{-3/2}\le x^{-3} だから

0<∫x2∞dη η−3/2e−η≤1x3∫x2∞dη e−η=e−x2x30 < \int_{x^{2}}^{\infty} d\eta\, \eta^{-3/2}e^{-\eta} \le \frac{1}{x^{3}}\int_{x^{2}}^{\infty} d\eta\, e^{-\eta} = \frac{e^{-x^{2}}}{x^{3}}

と押さえられます。以上をまとめると、x>0x>0 に対して厳密な等式

erf(x)=1−1π xe−x2+R(x),R(x)=12π∫x2∞dη η−3/2e−η,0<R(x)≤e−x22π x3\mathrm{erf}(x) = 1 - \frac{1}{\sqrt{\pi}\,x}e^{-x^{2}} + R(x), \qquad R(x) = \frac{1}{2\sqrt{\pi}}\int_{x^{2}}^{\infty} d\eta\, \eta^{-3/2}e^{-\eta}, \qquad 0 < R(x) \le \frac{e^{-x^{2}}}{2\sqrt{\pi}\,x^{3}}

が成り立ちます。R(x)R(x) は主要項 e−x2/(πx)e^{-x^{2}}/(\sqrt{\pi}x) の O(x−2)O(x^{-2}) 倍なので、x→∞x\to\infty での漸近展開の最初の 2 項は

erf(x)∼1−1π xe−x2\mathrm{erf}(x) \sim 1 - \frac{1}{\sqrt{\pi}\,x}e^{-x^{2}}

で与えられます。これが示すべきことでした。

同じ部分積分をもう一度行うと ∫x2∞dη η−3/2e−η=e−x2/x3−32∫x2∞dη η−5/2e−η\int_{x^{2}}^{\infty}d\eta\,\eta^{-3/2}e^{-\eta} = e^{-x^{2}}/x^{3} - \frac{3}{2}\int_{x^{2}}^{\infty}d\eta\,\eta^{-5/2}e^{-\eta} なので、繰り返して

erf(x)∼1−e−x2π x(1−12x2+34x4−⋯+(−1)n(2n−1)!!(2x2)n+⋯ )\mathrm{erf}(x) \sim 1 - \frac{e^{-x^{2}}}{\sqrt{\pi}\,x}\left( 1 - \frac{1}{2x^{2}} + \frac{3}{4x^{4}} - \cdots + (-1)^{n}\frac{(2n-1)!!}{(2x^{2})^{n}} + \cdots \right)

が得られます。(2n−1)!!(2n-1)!! は nn について階乗的に増えるので、xx を固定すると項はいずれ増大に転じ、この級数は収束しません。有限項で打ち切ったときの誤差が最初に無視した項と同程度、という漸近級数としてのみ意味を持ちます。数値で確かめると x=2x=2 で 2 項打ち切りが 0.9948330.994833、真値が 0.9953220.995322 で、差 0.0004890.000489 は上の剰余の上限 e−4/(2π⋅8)=0.000646e^{-4}/(2\sqrt{\pi}\cdot 8)=0.000646 以下の正の量であり、評価と整合しています。

(i) λ=0\lambda=0 のとき方程式は ∂tu+c ∂xu=0\partial_t u + c\,\partial_x u = 0 です。特性座標(uu が形を変えずに運ばれる向きに沿った座標)ξ=x−ct\xi = x-ct に移ります。v(ξ,t):=u(ξ+ct, t)v(\xi,t) := u(\xi+ct,\,t) と置くと、連鎖律から

∂v∂t(ξ,t)=(∂u∂t+c ∂u∂x)(ξ+ct, t)=0\frac{\partial v}{\partial t}(\xi,t) = \left(\frac{\partial u}{\partial t} + c\,\frac{\partial u}{\partial x}\right)(\xi+ct,\,t) = 0

なので vv は tt に依らず、v(ξ,t)=v(ξ,0)=U(ξ)v(\xi,t)=v(\xi,0)=U(\xi) です。ξ=x−ct\xi=x-ct を戻して

u(x,t)=U(x−ct)u(x,t) = U(x-ct)

が答えです。逆にこれは UU が微分可能なら実際に解で、∂tU(x−ct)=−cU′(x−ct)\partial_t U(x-ct) = -cU'(x-ct) と −c ∂xU(x−ct)=−cU′(x−ct)-c\,\partial_x U(x-ct) = -cU'(x-ct) が一致します。初期条件 u(x,0)=U(x)u(x,0)=U(x) も満たします。上の議論は一意性も同時に与えています。初期波形が形を変えずに速度 cc で右へ平行移動するだけ、という内容です。

(ii) 以下 λ>0\lambda>0 とします。フーリエ変換が定義でき、部分積分の境界項が落ちるように、u(⋅,t)u(\cdot,t) と ∂xu(⋅,t)\partial_x u(\cdot,t) は ∣x∣→∞|x|\to\infty で 0 に十分速く減衰するとします。減衰しない初期条件を扱う (iv) では、この節の結果から作ったグリーン関数(初期条件が δ\delta 関数のときの解で、(iii) で求めます)の重ね合わせを解の候補とし、それが方程式を満たすことを直接確かめます。

部分積分により

12π∫−∞∞dx e−ikx∂u∂x=12π[e−ikxu]−∞∞+ik u~(k,t)=ik u~(k,t)\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty} dx\, e^{-\mathrm{i}kx}\frac{\partial u}{\partial x} = \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\Big[e^{-\mathrm{i}kx}u\Big]_{-\infty}^{\infty} + \mathrm{i}k\,\tilde u(k,t) = \mathrm{i}k\,\tilde u(k,t)

であり、同様に ∂x2u\partial_x^{2}u の変換は (ik)2u~=−k2u~(\mathrm{i}k)^{2}\tilde u = -k^{2}\tilde u です。時間微分は xx 積分と交換します。したがって方程式の両辺を変換して

∂u~(k,t)∂t=−(ick+λk22)u~(k,t)\frac{\partial \tilde u(k,t)}{\partial t} = -\left( \mathrm{i}ck + \frac{\lambda k^{2}}{2} \right)\tilde u(k,t)

を得ます。初期条件は

u~(k,0)=U~(k)=12π∫−∞∞dx e−ikx U(x)\tilde u(k,0) = \tilde U(k) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty} dx\, e^{-\mathrm{i}kx}\,U(x)

です。これが答えです。kk ごとに独立な 1 階線形常微分方程式なので、解は

u~(k,t)=U~(k) exp⁡[−ickt−λk2t2]\tilde u(k,t) = \tilde U(k)\,\exp\left[ -\mathrm{i}ckt - \frac{\lambda k^{2}t}{2} \right]

と直ちに書けます。λ>0\lambda>0 なので t>0t>0 では大きな ∣k∣|k| の成分が e−λk2t/2e^{-\lambda k^{2}t/2} で強く抑えられ、移流は位相因子 e−ickte^{-\mathrm{i}ckt} に、拡散は振幅の減衰に対応します。

(iii) U(x)=δ(x)U(x)=\delta(x) なら U~(k)=12π∫dx e−ikxδ(x)=12π\tilde U(k) = \dfrac{1}{\sqrt{2\pi}}\displaystyle\int dx\, e^{-\mathrm{i}kx}\delta(x) = \dfrac{1}{\sqrt{2\pi}} です。逆変換すると

G(x,t)=12π∫−∞∞dk eikx u~(k,t)=12π∫−∞∞dk exp⁡[−λt2k2+ik(x−ct)]G(x,t) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty} dk\, e^{\mathrm{i}kx}\,\tilde u(k,t) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} dk\, \exp\left[ -\frac{\lambda t}{2}k^{2} + \mathrm{i}k(x-ct) \right]

となります。t>0t>0、λ>0\lambda>0 なので a=λt>0a=\lambda t>0、p=x−ctp=x-ct(実数)としてガウス積分の公式がそのまま使えて

G(x,t)=12π2πλt e−(x−ct)22λt=12πλtexp⁡[−(x−ct)22λt]G(x,t) = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{2\pi}{\lambda t}}\,e^{-\frac{(x-ct)^{2}}{2\lambda t}} = \frac{1}{\sqrt{2\pi\lambda t}}\exp\left[ -\frac{(x-ct)^{2}}{2\lambda t} \right]

が答えです。中心 ctct、分散 λt\lambda t のガウス分布で、∫−∞∞G dx=1\int_{-\infty}^{\infty}G\,dx = 1 が任意の t>0t>0 で成り立ちます。これは方程式を xx で全域積分して得られる保存則 ddt∫u dx=0\frac{d}{dt}\int u\,dx = 0 と整合します。t→0+t\to0^{+} では幅が 0、高さが発散し面積 1 なので δ(x)\delta(x) に戻り、λ→0+\lambda\to0^{+} では δ(x−ct)\delta(x-ct) に近づいて (i) の結果と一致します。

(iv) (ii) の解は u~(k,t)=2π G~(k,t) U~(k)\tilde u(k,t) = \sqrt{2\pi}\,\tilde G(k,t)\,\tilde U(k) と書けるので、この規約での畳み込み定理から

u(x,t)=∫−∞∞dy G(x−y, t) U(y)=∫−∞0dy 12πλtexp⁡[−(x−y−ct)22λt]u(x,t) = \int_{-\infty}^{\infty} dy\, G(x-y,\,t)\,U(y) = \int_{-\infty}^{0} dy\, \frac{1}{\sqrt{2\pi\lambda t}}\exp\left[ -\frac{(x-y-ct)^{2}}{2\lambda t} \right]

です。s=x−y−ct2λts = \dfrac{x-y-ct}{\sqrt{2\lambda t}}(dy=−2λt dsdy = -\sqrt{2\lambda t}\,ds、y=−∞y=-\infty が s=+∞s=+\infty、y=0y=0 が s=ζ:=x−ct2λts=\zeta:=\dfrac{x-ct}{\sqrt{2\lambda t}} に対応)と変数変換すると

u(x,t)=1π∫ζ∞ds e−s2=1π(∫0∞ds e−s2−∫0ζds e−s2)=12−12erf(ζ)u(x,t) = \frac{1}{\sqrt{\pi}}\int_{\zeta}^{\infty} ds\, e^{-s^{2}} = \frac{1}{\sqrt{\pi}}\left( \int_{0}^{\infty} ds\, e^{-s^{2}} - \int_{0}^{\zeta} ds\, e^{-s^{2}} \right) = \frac{1}{2} - \frac{1}{2}\mathrm{erf}(\zeta)

となり、

u(x,t)=12[1−erf ⁣(x−ct2λt)]u(x,t) = \frac{1}{2}\left[ 1 - \mathrm{erf}\!\left( \frac{x-ct}{\sqrt{2\lambda t}} \right) \right]

が答えです。

この式は直接代入で確かめられます。ζ=(x−ct)(2λt)−1/2\zeta=(x-ct)(2\lambda t)^{-1/2} に対し ∂xζ=(2λt)−1/2\partial_x\zeta = (2\lambda t)^{-1/2}、∂tζ=−c(2λt)−1/2−ζ/(2t)\partial_t\zeta = -c(2\lambda t)^{-1/2} - \zeta/(2t) で、

∂u∂x=−e−ζ22πλt,∂2u∂x2=2ζ e−ζ22πλt 2λt,∂u∂t=−e−ζ2π∂ζ∂t=e−ζ2π(c2λt+ζ2t)\begin{aligned} \frac{\partial u}{\partial x} &= -\frac{e^{-\zeta^{2}}}{\sqrt{2\pi\lambda t}}, \qquad \frac{\partial^{2} u}{\partial x^{2}} = \frac{2\zeta\, e^{-\zeta^{2}}}{\sqrt{2\pi\lambda t}\,\sqrt{2\lambda t}}, \\ \frac{\partial u}{\partial t} &= -\frac{e^{-\zeta^{2}}}{\sqrt{\pi}}\frac{\partial\zeta}{\partial t} = \frac{e^{-\zeta^{2}}}{\sqrt{\pi}}\left( \frac{c}{\sqrt{2\lambda t}} + \frac{\zeta}{2t} \right) \end{aligned}

ですから、−c ∂xu+λ2∂x2u=e−ζ2π(c2λt+λζ2λt)=e−ζ2π(c2λt+ζ2t)=∂tu-c\,\partial_x u + \frac{\lambda}{2}\partial_x^{2}u = \dfrac{e^{-\zeta^{2}}}{\sqrt{\pi}}\left( \dfrac{c}{\sqrt{2\lambda t}} + \dfrac{\lambda\zeta}{2\lambda t} \right) = \dfrac{e^{-\zeta^{2}}}{\sqrt{\pi}}\left( \dfrac{c}{\sqrt{2\lambda t}} + \dfrac{\zeta}{2t} \right) = \partial_t u が成り立ちます。初期条件も、t→0+t\to0^{+} で x<0x<0 なら ζ→−∞\zeta\to-\infty で u→1u\to1、x>0x>0 なら ζ→+∞\zeta\to+\infty で u→0u\to0 となり満たされます(不連続点 x=0x=0 では ζ→0−\zeta\to0^{-} で u→1/2u\to1/2、左右極限の平均になります)。

概形の変化は次のとおりです。解は ζ\zeta だけの関数で、∂xu=−e−ζ2/2πλt<0\partial_x u = -e^{-\zeta^{2}}/\sqrt{2\pi\lambda t} < 0 なので xx について狭義単調減少、x→−∞x\to-\infty で 1、x→+∞x\to+\infty で 0 に漸近し、値域は (0,1)(0,1) です。x=ctx=ct で u=1/2u=1/2 をとり、∂x2u\partial_x^{2}u が ζ\zeta に比例することから同じ点が変曲点で、x<ctx<ct では上に凸、x>ctx>ct では下に凸です。erf\mathrm{erf} が奇関数なので u(ct+ξ,t)+u(ct−ξ,t)=1u(ct+\xi,t)+u(ct-\xi,t)=1、つまりグラフは点 (ct, 1/2)(ct,\,1/2) に関して点対称です。傾きの絶対値は x=ctx=ct で最大値 1/2πλt1/\sqrt{2\pi\lambda t} をとり、遷移領域の幅は 2λt\sqrt{2\lambda t} 程度です。したがって時刻の経過とともに、左端の値 1 と右端の値 0 という段差そのものは変わらないまま、遷移領域の中心が速度 cc で右へ動き、その幅が 2λt∝t\sqrt{2\lambda t}\propto\sqrt{t} で広がって、最大傾斜が t−1/2t^{-1/2} で緩んでいきます。xx を固定して t→∞t\to\infty とすると ζ→−∞\zeta\to-\infty なので u→1u\to1、すなわちどの点も最終的には左側の値 1 で埋まります。

c=1c=1、λ=1/2\lambda=1/2 として t1=1t_1=1 と t2=4t_2=4 の u(x,t)u(x,t) を描くと次のようになります。

11/20uxct1ct2t = t1t = t2

第2問 巡回シフト行列と位相行列

Section titled “第2問 巡回シフト行列と位相行列”

d≥2d\ge2 を自然数、w=ei2π/dw=e^{\mathrm{i}2\pi/d} を 1 の原始 dd 乗根とします。標準基底を f1,…,fdf_1,\dots,f_d と書くと(ee は設問5 以降で固有ベクトルに使うので別の文字にしました)、問題の XX は Xj,j−1=1 (j=2,…,d)X_{j,j-1}=1\ (j=2,\dots,d) と X1,d=1X_{1,d}=1、他は 0 なので、Xfk=fk+1Xf_k = f_{k+1}(添字は mod d\mathrm{mod}\ d で読み、fd+1=f1f_{d+1}=f_1)という巡回シフトです。ZZ は対角行列で Zfk=wk−1fkZf_k = w^{k-1}f_k です。Xd=Zd=IX^{d}=Z^{d}=I が成り立ち、XX は置換行列、ZZ は絶対値 1 の対角成分をもつ行列なので、どちらもユニタリです。これらから U(n,m)=XnZmU^{(n,m)}=X^{n}Z^{m}(n,m=0,1,…,d−1n,m=0,1,\dots,d-1)を作ります。内積は ⟨u,v⟩=∑i=1dui∗vi\langle u,v\rangle = \sum_{i=1}^{d}u_i^{*}v_i です。

ZZ の対角成分は Zj,j=wj−1Z_{j,j}=w^{j-1} なので

Tr⁡Z=∑j=1dwj−1=∑k=0d−1wk\operatorname{Tr}Z = \sum_{j=1}^{d} w^{j-1} = \sum_{k=0}^{d-1} w^{k}

です。d≥2d\ge2 より 2π/d∈(0,π]2\pi/d \in (0,\pi] で w=ei2π/d≠1w = e^{\mathrm{i}2\pi/d}\neq1 ですから、等比数列の和の公式が使えて

∑k=0d−1wk=wd−1w−1=ei2π−1w−1=0\sum_{k=0}^{d-1} w^{k} = \frac{w^{d}-1}{w-1} = \frac{e^{\mathrm{i}2\pi}-1}{w-1} = 0

となり、Tr⁡Z=0\operatorname{Tr}Z=0 が示されました。w≠1w\neq1 を保証する d≥2d\ge2 という仮定が本質的で、d=1d=1 なら Tr⁡Z=1\operatorname{Tr}Z=1 です。同じことを、1,w,…,wd−11,w,\dots,w^{d-1} が zd−1=0z^{d}-1=0 の dd 個の根の全体であり、その和は zd−1z^{d-1} の係数の符号を変えたもの、すなわち 0 に等しい、と言い換えてもよいです。

成分で比べます。ZZ が対角なので

(XZ)jk=XjkZkk=wk−1Xjk,(ZX)jk=ZjjXjk=wj−1Xjk(XZ)_{jk} = X_{jk}Z_{kk} = w^{k-1}X_{jk}, \qquad (ZX)_{jk} = Z_{jj}X_{jk} = w^{j-1}X_{jk}

です。Xjk≠0X_{jk}\neq0 となるのは j≡k+1(modd)j\equiv k+1 \pmod d の位置だけで、そこでは wj−1=wk=w⋅wk−1w^{j-1} = w^{k} = w\cdot w^{k-1} が成り立ちます((j,k)=(1,d)(j,k)=(1,d) の成分でも wj−1=w0=1w^{j-1}=w^{0}=1 と wk=wd=1w^{k}=w^{d}=1 が一致します)。Xjk=0X_{jk}=0 の成分では両辺とも 0 です。よってすべての成分で (ZX)jk=w (XZ)jk(ZX)_{jk} = w\,(XZ)_{jk} となり

ZX=w XZ,c=w=ei2πdZX = w\,XZ, \qquad c = w = e^{\mathrm{i}\frac{2\pi}{d}}

が答えです。基底への作用で見ても同じで、ZXfk=Zfk+1=wkfk+1ZXf_k = Zf_{k+1} = w^{k}f_{k+1}、XZfk=wk−1fk+1XZf_k = w^{k-1}f_{k+1} から比が ww になります(k=dk=d では wd=1w^{d}=1 に注意すれば同じ形に書けます)。d=2d=2 で確かめると X=(0110)X=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}、Z=(100−1)Z=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}、XZ=(0−110)XZ=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}、ZX=(01−10)=−XZZX=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}=-XZ で、w=eiπ=−1w=e^{\mathrm{i}\pi}=-1 と一致します。

まず一般の交換関係を作ります。ZX=wXZZX=wXZ を nn 回使うと ZXn=wnXnZZX^{n} = w^{n}X^{n}Z、これを mm 回重ねると

ZmXn=wmnXnZm(m,n=0,1,2,… )Z^{m}X^{n} = w^{mn}X^{n}Z^{m} \qquad (m,n = 0,1,2,\dots)

が帰納法で従います。これを使って

U(1,m)U(n′,m′)=XZmXn′Zm′=wmn′ X1+n′Zm+m′,U(n′,m′)U(1,m)=Xn′Zm′XZm=wm′ Xn′+1Zm′+m\begin{aligned} U^{(1,m)}U^{(n',m')} &= X Z^{m} X^{n'} Z^{m'} = w^{mn'}\,X^{1+n'}Z^{m+m'}, \\ U^{(n',m')}U^{(1,m)} &= X^{n'} Z^{m'} X Z^{m} = w^{m'}\,X^{n'+1}Z^{m'+m} \end{aligned}

を得ます。X1+n′Zm+m′X^{1+n'}Z^{m+m'} はユニタリ行列なので零行列ではなく、2 式が等しいことは wmn′=wm′w^{mn'}=w^{m'} と同値です。ww は 1 の原始 dd 乗根なので wp=wqw^{p}=w^{q} は p≡q(modd)p\equiv q \pmod d と同値で、結局

[ U(1,m), U(n′,m′) ]=0  ⟺  m n′≡m′(modd)[\,U^{(1,m)},\,U^{(n',m')}\,]=0 \iff m\,n' \equiv m' \pmod d

です。

次に、可換であることと同時対角化可能であることが同値であることを確認します。必要性は、同じ PP で U(1,m)=PD1P−1U^{(1,m)}=PD_1P^{-1}、U(n′,m′)=PD2P−1U^{(n',m')}=PD_2P^{-1} と対角化できるとき、対角行列同士は可換なので U(1,m)U(n′,m′)=PD1D2P−1=PD2D1P−1=U(n′,m′)U(1,m)U^{(1,m)}U^{(n',m')}=PD_1D_2P^{-1}=PD_2D_1P^{-1}=U^{(n',m')}U^{(1,m)} となることから従います。十分性は、U(1,m)U^{(1,m)} と U(n′,m′)U^{(n',m')} がユニタリすなわち正規行列でそれぞれ対角化可能であり、可換な対角化可能行列は同時対角化可能である、という標準的な事実から従います。この場合はより直接的で、設問4 で見るように U(1,m)U^{(1,m)} は相異なる dd 個の固有値をもつので各固有空間が 1 次元であり、U(1,m)U^{(1,m)} と可換な行列は各固有空間を保つ、したがって U(1,m)U^{(1,m)} の固有基底で自動的に対角行列になります。

以上より、求める条件は

m′≡m n′(modd)m' \equiv m\,n' \pmod d

です。n′n' は 0,1,…,d−10,1,\dots,d-1 を自由に動かせ、n′n' ごとに m′m' が一意に決まるので、U(1,m)U^{(1,m)} と同時対角化可能な U(n′,m′)U^{(n',m')} は dd 個あります。実際 (U(1,m))n′=wmn′(n′−1)/2Xn′Zmn′(U^{(1,m)})^{n'} = w^{mn'(n'-1)/2}X^{n'}Z^{mn'} で、Zd=IZ^{d}=I より Zmn′=Zmn′ mod dZ^{mn'}=Z^{mn'\bmod d} ですから、この dd 個は U(1,m)U^{(1,m)} の冪と位相因子だけ違う行列であり、可換であることは当然です。m=0m=0 なら条件は m′=0m'=0、すなわち XX の冪の全体になります。

方針は次のとおりです。固有方程式を成分で書くと隣り合う成分の関係式になるので、v1v_1 から順に全成分を決め、一周して v1v_1 に戻る条件から固有値を求めます。

ZmZ^{m} が対角で (Zm)kk=wm(k−1)(Z^{m})_{kk}=w^{m(k-1)} なので、U(1,m)=XZmU^{(1,m)}=XZ^{m} の成分は (XZm)jk=Xjkwm(k−1)(XZ^{m})_{jk}=X_{jk}w^{m(k-1)}、つまり j≡k+1(modd)j\equiv k+1 \pmod d の位置に wm(k−1)w^{m(k-1)} が並び、他は 0 です。固有方程式 U(1,m)v=μvU^{(1,m)}v=\mu v を成分で書くと

wm(k−1)vk=μ vk+1(k=1,…,d−1),wm(d−1)vd=μ v1w^{m(k-1)}v_k = \mu\, v_{k+1}\quad (k=1,\dots,d-1), \qquad w^{m(d-1)}v_d = \mu\, v_1

となります。μ=0\mu=0 なら上の関係から v1=⋯=vd=0v_1=\cdots=v_d=0 となり固有ベクトルが取れません(U(1,m)U^{(1,m)} はユニタリで正則なので当然です)。そこで μ≠0\mu\neq0 とすると、v1v_1 から順に

vk=μ−(k−1) wm(k−1)(k−2)2 v1(k=1,…,d)v_k = \mu^{-(k-1)}\,w^{\frac{m(k-1)(k-2)}{2}}\,v_1 \qquad (k=1,\dots,d)

が決まります。指数は ∑i=1k−1m(i−1)=m(k−1)(k−2)/2\sum_{i=1}^{k-1}m(i-1) = m(k-1)(k-2)/2 から来ています。これを最後の(k=dk=d から k=1k=1 へ戻る)関係式に入れ、v1≠0v_1\neq0 で割ると

μd=wm(d−1) wm(d−1)(d−2)2=wm d(d−1)2=eiπm(d−1)=(−1)m(d−1)\mu^{d} = w^{m(d-1)}\,w^{\frac{m(d-1)(d-2)}{2}} = w^{\frac{m\,d(d-1)}{2}} = e^{\mathrm{i}\pi m(d-1)} = (-1)^{m(d-1)}

という条件が出ます。逆にこれを満たす μ\mu に対しては上の vkv_k が首尾一貫した固有ベクトルを与えるので、固有値はこの dd 次方程式の dd 個の根に一致し、根ごとに固有ベクトルは定数倍を除いて一意、つまりすべて単純固有値です。書き下すと

μj=eiπm(d−1)d ei2πjd=eiπm(d−1)d wj,j=0,1,…,d−1\mu_j = e^{\mathrm{i}\pi\frac{m(d-1)}{d}}\, e^{\mathrm{i}\frac{2\pi j}{d}} = e^{\mathrm{i}\pi\frac{m(d-1)}{d}}\,w^{j}, \qquad j=0,1,\dots,d-1

が答えです。場合分けして言い換えると、m(d−1)m(d-1) が偶数のとき、すなわち dd が奇数または mm が偶数のときは μj=wj\mu_j = w^{j} で 1 の dd 乗根の全体、m(d−1)m(d-1) が奇数のとき、すなわち dd が偶数かつ mm が奇数のときは μj=eiπ(2j+1)/d\mu_j = e^{\mathrm{i}\pi(2j+1)/d} で −1-1 の dd 乗根の全体です。いずれも単位円上に等間隔に並ぶ dd 点です。

検算をいくつか挙げます。U(1,m)U^{(1,m)} の対角成分は(d≥2d\ge2 なので j=kj=k と j≡k+1j\equiv k+1 が両立せず)すべて 0 で Tr⁡U(1,m)=0\operatorname{Tr}U^{(1,m)}=0 ですが、∑j=0d−1μj=eiπm(d−1)/d∑jwj=0\sum_{j=0}^{d-1}\mu_j = e^{\mathrm{i}\pi m(d-1)/d}\sum_j w^{j}=0 で一致します。行列式は det⁡X=(−1)d−1\det X = (-1)^{d-1}(長さ dd の巡回置換の符号)と det⁡Zm=wmd(d−1)/2\det Z^{m}=w^{md(d-1)/2} の積で (−1)d−1(−1)m(d−1)(-1)^{d-1}(-1)^{m(d-1)}、一方 μd−(−1)m(d−1)=0\mu^{d}-(-1)^{m(d-1)}=0 の根の積は (−1)d+1(−1)m(d−1)(-1)^{d+1}(-1)^{m(d-1)} で、これも一致します。さらに設問2 の関係から Z−1(XZm)Z=(Z−1XZ)Zm=w−1XZmZ^{-1}(XZ^{m})Z = (Z^{-1}XZ)Z^{m} = w^{-1}XZ^{m} なので U(1,m)U^{(1,m)} は w−1U(1,m)w^{-1}U^{(1,m)} と相似で、スペクトルは ww 倍で不変でなければなりません。上の {μj}\{\mu_j\} は ww 倍で互いに移り合うので、この要請を満たしています。d=2d=2、m=1m=1 では XZ=(0−110)XZ=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix} の固有値が ±i\pm\mathrm{i} で、公式の μ2=−1\mu^{2}=-1 と合います。

d=3d=3、w=ei2π/3w=e^{\mathrm{i}2\pi/3} とします。d−1=2d-1=2 は偶数なので設問4 より μ3=1\mu^{3}=1、固有値は mm に依らず 1, w, w21,\,w,\,w^{2} です。固有値を μj=wj−1\mu_j = w^{j-1}(j=1,2,3j=1,2,3)とラベルし、設問4 の一般式で v1=1v_1=1 と取ると

v1=1,v2=μj−1=w−(j−1),v3=μj−2wm=wm−2(j−1)v_1 = 1, \qquad v_2 = \mu_j^{-1} = w^{-(j-1)}, \qquad v_3 = \mu_j^{-2}w^{m} = w^{m-2(j-1)}

です。w3=1w^{3}=1 より −2(j−1)≡j−1(mod3)-2(j-1)\equiv j-1 \pmod 3 なので v3=wm+(j−1)v_3 = w^{m+(j-1)} と書けます。3 成分の絶対値がすべて 1 なのでノルムは 3\sqrt{3} で、規格化した固有列ベクトルは

ej(m)=13(1w−(j−1)wm+(j−1))(j=1,2,3)e^{(m)}_j = \frac{1}{\sqrt{3}} \begin{pmatrix} 1 \\ w^{-(j-1)} \\ w^{m+(j-1)} \end{pmatrix} \qquad (j=1,2,3)

です。これが答えです。全体の位相は任意なので、ここでは第 1 成分を正の実数に取るという約束で固定しました。m=0,1,2m=0,1,2 について成分を書き出すと次のようになります(横に並べて書きますが、いずれも列ベクトルで、全体に 1/31/\sqrt{3} が掛かります)。

固有値m=0m=0m=1m=1m=2m=2
11(1, 1, 1)(1,\,1,\,1)(1, 1, w)(1,\,1,\,w)(1, 1, w2)(1,\,1,\,w^{2})
ww(1, w2, w)(1,\,w^{2},\,w)(1, w2, w2)(1,\,w^{2},\,w^{2})(1, w2, 1)(1,\,w^{2},\,1)
w2w^{2}(1, w, w2)(1,\,w,\,w^{2})(1, w, 1)(1,\,w,\,1)(1, w, w)(1,\,w,\,w)

m=0m=0 の列は XX の固有ベクトル、つまり離散フーリエ変換の基底です。検算として m=1m=1 を見ると

U(1,1)=XZ=(00w21000w0)U^{(1,1)} = XZ = \begin{pmatrix} 0 & 0 & w^{2} \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & w & 0 \end{pmatrix}

で、(1,1,w)T(1,1,w)^{\mathsf{T}} に作用させると (w2⋅w, 1, w⋅1)T=(1,1,w)T(w^{2}\cdot w,\ 1,\ w\cdot 1)^{\mathsf{T}} = (1,1,w)^{\mathsf{T}} となって固有値 1、(1,w2,w2)T(1,w^{2},w^{2})^{\mathsf{T}} に作用させると (w4, 1, w3)T=(w,1,1)T=w (1,w2,w2)T(w^{4},\ 1,\ w^{3})^{\mathsf{T}} = (w,1,1)^{\mathsf{T}} = w\,(1,w^{2},w^{2})^{\mathsf{T}} となって固有値 ww です。表の他の 7 本も同様に確かめられます。

l=j−1l = j-1、l′=j′−1l' = j'-1(ともに 0,1,20,1,2)と置きます。∣w∣=1|w|=1 より wa‾=w−a\overline{w^{a}} = w^{-a} なので

⟨ej(m), ej′(m′)⟩=13[1+w−l‾ w−l′+wm+l‾ wm′+l′]=13[1+w l−l′+w (m′−m)−(l−l′)]\langle e^{(m)}_j,\, e^{(m')}_{j'}\rangle = \frac{1}{3}\left[ 1 + \overline{w^{-l}}\,w^{-l'} + \overline{w^{m+l}}\,w^{m'+l'} \right] = \frac{1}{3}\left[ 1 + w^{\,l-l'} + w^{\,(m'-m)-(l-l')} \right]

です。a:=l−l′ mod 3a := l-l' \bmod 3、b:=m′−m mod 3b := m'-m \bmod 3 と置けば

⟨ej(m), ej′(m′)⟩=13(w0+wa+w b−a)\langle e^{(m)}_j,\, e^{(m')}_{j'}\rangle = \frac{1}{3}\left( w^{0} + w^{a} + w^{\,b-a} \right)

となります。m,m′∈{0,1,2}m,m'\in\{0,1,2\} で m′≠mm'\neq m という仮定から b∈{1,2}b\in\{1,2\}、とくに b≢0(mod3)b\not\equiv0 \pmod 3 です。

核心は、3 つの 1 の冪を足した値の絶対値が、指数の組み合わせによらず常に 3\sqrt{3} になることです。そのために、3 つの指数 0, a, b−a0,\ a,\ b-a を mod 3\mathrm{mod}\ 3 で見ます。もしこれらが互いに異なれば {0,1,2}\{0,1,2\} 全体と一致し、その和は 0+1+2=3≡00+1+2=3\equiv0 でなければなりません。しかし実際の和は 0+a+(b−a)=b≢00+a+(b-a)=b\not\equiv0 です。よって 3 つのうち少なくとも 2 つは合同です。また 3 つすべてが合同になることはありません(0≡a0\equiv a かつ 0≡b−a0\equiv b-a なら b≡0b\equiv0 となって矛盾します)。したがってちょうど 2 つが合同で、和は 2wp+wq2w^{p}+w^{q}(p≢qp\not\equiv q)の形になります。実際に場合を挙げると、a≡0a\equiv0 のとき指数は 0,0,b0,0,b で p=0, q=bp=0,\ q=b、a≡ba\equiv b のとき指数は 0,b,00,b,0 で p=0, q=bp=0,\ q=b、b≡2ab\equiv 2a のとき指数は 0,a,a0,a,a で p=a, q=0p=a,\ q=0(このとき a≢0a\not\equiv0、さもなくば b≡0b\equiv0)となり、いずれも q−p≢0(mod3)q-p\not\equiv0 \pmod 3 です。

∣wp∣=1|w^{p}|=1 なので、r:=q−p≢0(mod3)r := q-p \not\equiv 0 \pmod 3 として

∣2wp+wq∣2=∣2+w r∣2=4+4cos⁡2πr3+1=5+4(−12)=3\left| 2w^{p}+w^{q} \right|^{2} = \left| 2 + w^{\,r} \right|^{2} = 4 + 4\cos\frac{2\pi r}{3} + 1 = 5 + 4\left(-\frac{1}{2}\right) = 3

です(r≡1r\equiv1 でも r≡2r\equiv2 でも cos⁡(2πr/3)=−1/2\cos(2\pi r/3) = -1/2 です)。よって

∣⟨ej(m), ej′(m′)⟩∣2=19⋅3=13\left| \langle e^{(m)}_j,\, e^{(m')}_{j'}\rangle \right|^{2} = \frac{1}{9}\cdot 3 = \frac{1}{3}

が任意の j,j′∈{1,2,3}j,j' \in\{1,2,3\} と m≠m′m\neq m' に対して成り立ち、示すべき等式が得られました。

仮定 m≠m′m\neq m' が効いていることを確認しておきます。m=m′m=m' なら b≡0b\equiv0 で、和は 1+wa+w−a=1+2cos⁡(2πa/3)1+w^{a}+w^{-a} = 1+2\cos(2\pi a/3) となります。a≡0a\equiv0、すなわち j=j′j=j' ならこれは 3 で内積の絶対値は 1、a≢0a\not\equiv0 ならこれは 0 で 2 つのベクトルは直交します。つまり同じ mm の中では正規直交基底、異なる mm の間では重なりの大きさが一律に 1/31/\sqrt{3}、という構造です。設問5 で得た 3 組の基底は互いに相互不偏(mutually unbiased。異なる基底のベクトル同士の内積の絶対値がすべて等しい)な基底になっており、その背景は設問3・4 の代数構造、すなわち U(1,m)U^{(1,m)} が mm ごとに可換な族を作り、異なる mm の族の間では可換にならないことにあります。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 令和2年度 修士課程 入学試験問題 数学。問題文は要約して引用しています。

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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