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定常電流と静磁場:ビオ・サバールの法則から rot B = μ0 J へ

対象読者: 本テーマ第 1 章の静電場(クーロンの法則、ガウスの法則、div と grad)と、学部 1 年のベクトルの外積・線積分・面積分を学んだ人。回転 rot とストークスの定理はここで説明します。

前提となる記事:静電場とガウスの法則:クーロンの法則からポアソン方程式まで

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導線に電流を流すと、そのまわりに置いた方位磁針が振れます。電流は磁場をつくる、という事実です。では、電流の分布が分かっているとき、まわりの磁場はどんな形になり、どんな規則に従うのでしょうか。この記事は、実験で得られた一つの法則から出発して、磁場が満たす二つの基本的な式を導きます。読み終えると、直線電流・円柱・ソレノイドなどの磁場を、対称性を使って短い計算で求められるようになります。

  • 電流密度 J\boldsymbol{J} は「単位時間・単位面積あたりに通り抜ける電荷」を表すベクトル場です。電荷が消えも湧きもしないという要請は、局所的な形で ∇⋅J+∂ρ/∂t=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} + \partial\rho/\partial t = 0(連続の方程式)と書けます。
  • 電流分布が時間によらない定常電流では ∇⋅J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0 が成り立ちます。この記事の議論はすべてこの条件の上に立っています。
  • 定常電流のつくる磁場はビオ・サバールの法則で与えられます。これは実験法則であり、静電場におけるクーロンの法則に対応する出発点です。
  • ビオ・サバールの法則から、静磁場が満たす二つの微分方程式 ∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0(磁気モノポールが存在しない)と ∇×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J}(アンペールの法則)が導かれます。前者は B\boldsymbol{B} がベクトルポテンシャルの回転で書けることの帰結です。
  • 回転 ∇×\nabla\times は「単位面積あたりの循環」です。この読み方とストークスの定理により、微分形 ∇×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J} と積分形 ∮CB⋅dl=μ0Ienc\oint_C\boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{l} = \mu_0 I_{\text{enc}} が同値になります。
  • ∇×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J} は定常でない場合に必ず破綻します。その破綻の仕方が、次章の変位電流を要求します。

1. 動機:エルステッドが見つけた「渦」

Section titled “1. 動機:エルステッドが見つけた「渦」”

1820 年、コペンハーゲンのエルステッド (H. C. Ørsted) は、電流を流した導線の近くに置いた磁針が振れることに気づきました。当時、電気と磁気はまったく別の現象だと考えられていましたから、これは大きな驚きでした。さらに奇妙だったのは振れ方です。磁針は導線に引き寄せられも遠ざけられもせず、導線に巻きつく向きを向いたのです。

静電場では、電荷から放射状に電気力線が出ていました。ところが電流のまわりの場は、電流を軸として円を描きます。「湧き出し」ではなく「渦」なのです。この違いを数学的に言い切るのがこの記事の目標で、答えは次の二つの式に集約されます。

∇⋅B=0,∇×B=μ0J.\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0,\qquad \nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J}.

左の式は「湧き出しがない」、右の式は「渦の源は電流である」と読めます。この記事では、実験法則であるビオ・サバールの法則からこの二つを証明します。

IB は電流を軸とする同心円向きは右ねじの規則大きさは距離 s に反比例電流 I は紙面の手前向き
直線電流のまわりの磁場。磁力線は電流を軸とする同心円になり、距離に反比例して弱くなる。

磁場 B\boldsymbol{B} そのものは、電荷に働く力によって定義します。電荷 qq が速度 v\boldsymbol{v} で運動しているとき、電場からの力に加えて

F=q v×B\boldsymbol{F} = q\,\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}

という力を受けます。これがローレンツ力の磁気的な部分で、B\boldsymbol{B} の操作的な定義になっています。力が速度と直交するため磁場は仕事をしません。この点も静電場との大きな違いです。

2. 電流と電流密度、そして電荷保存則

Section titled “2. 電流と電流密度、そして電荷保存則”

「電流 II アンペア」という量は、導線という細い管を前提にした量です。導体の内部の場所ごとの流れを扱うには、場としての量が必要になります。

定義 2.1(電流密度)↗

空間の各点 r\boldsymbol{r} で、電荷密度 ρ(r,t)\rho(\boldsymbol{r}, t) の電荷が速度場 v(r,t)\boldsymbol{v}(\boldsymbol{r}, t) で運動しているとき、電流密度を

J(r,t)=ρ(r,t) v(r,t)\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}, t) = \rho(\boldsymbol{r}, t)\,\boldsymbol{v}(\boldsymbol{r}, t)

で定める。担い手が複数種類あるときは J=∑αραvα\boldsymbol{J} = \sum_\alpha \rho_\alpha \boldsymbol{v}_\alpha とする。単位は A/m2\mathrm{A/m^2} である。

有向曲面 SS を単位時間に通り抜ける電荷、すなわち SS を貫く電流は

IS=∫SJ⋅dSI_S = \int_S \boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S}

で与えられる。

面積分が電流を与えることは、次のように確かめられます。面上の微小部分 dSdS を、法線 n\boldsymbol{n} をもつ平面片とみなします。時間 dtdt の間にこの面を通過する電荷は、底面 dSdS、母線 v dt\boldsymbol{v}\,dt の斜柱の中にあった電荷ですから、その体積 (v⋅n) dt dS(\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{n})\,dt\,dS に ρ\rho を掛けたもの、つまり ρ v⋅n dS dt=J⋅n dS dt\rho\,\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{n}\,dS\,dt = \boldsymbol{J}\cdot\boldsymbol{n}\,dS\,dt です。これを dtdt で割って SS 上で足し上げれば上式になります。面積分の扱いに不安があれば 重積分と累次積分 を参照してください。

電荷が生成も消滅もしないという実験事実を、場の言葉に翻訳します。まず、体積分がすべての領域で消えるなら被積分関数自身が消える、という当たり前に見えて頻繁に使う補題を用意します。

次の補題は、体積分についての条件を各点での式に言い換えるために使います。次の連続の方程式の証明で、積分の形で与えられた保存則を微分の形に直す場面で働きます。証明は、もしある点で ff が 00 でなければ、その点の近くの小さな球で積分も 00 にならない、という素朴な考えを式にしたものです。

補題 2.2(局所化補題)✓

Ω⊂R3\Omega \subset \mathbb{R}^3 を開集合、f:Ω→Rf:\Omega \to \mathbb{R} を連続関数とする。Ω\Omega に含まれるすべての閉球 VV について ∫Vf dV=0\int_V f\,dV = 0 が成り立つならば、Ω\Omega 上で f≡0f \equiv 0 である。

証明(補題 2.2)

対偶を示す。ある点 x0∈Ω\boldsymbol{x}_0 \in \Omega で f(x0)≠0f(\boldsymbol{x}_0) \neq 0 だとする。必要なら ff を −f-f に取り替えて c:=f(x0)>0c := f(\boldsymbol{x}_0) > 0 としてよい。

ff は x0\boldsymbol{x}_0 で連続だから、ε=c/2\varepsilon = c/2 に対してある r>0r > 0 が存在し、∣x−x0∣<r|\boldsymbol{x} - \boldsymbol{x}_0| < r かつ x∈Ω\boldsymbol{x}\in\Omega ならば ∣f(x)−c∣<c/2|f(\boldsymbol{x}) - c| < c/2、したがって f(x)>c/2f(\boldsymbol{x}) > c/2 となる。Ω\Omega は開集合なので、rr を小さく取り直せば閉球 V={x:∣x−x0∣≤r/2}V = \{\boldsymbol{x} : |\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0| \le r/2\} を Ω\Omega に含めることができる。この VV 上で被積分関数は c/2c/2 より大きいから

∫Vf dV≥c2⋅43π(r2)3>0\int_V f\,dV \ge \frac{c}{2}\cdot\frac{4}{3}\pi\left(\frac{r}{2}\right)^3 > 0

となり、仮定に反する。

定理 2.3(連続の方程式)✓

ρ\rho と J\boldsymbol{J} を R3\mathbb{R}^3 上の C1C^1 級の関数とし、任意の有界領域 VV(境界 ∂V\partial V は区分的に滑らかで、外向き法線をとる)について、電荷保存則

ddt∫Vρ dV=−∮∂VJ⋅dS\frac{d}{dt}\int_V \rho\,dV = -\oint_{\partial V}\boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S}

が成り立つとする。このとき空間の各点で

∇⋅J+∂ρ∂t=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} + \frac{\partial\rho}{\partial t} = 0

が成り立つ。

前提の積分形は「領域 VV の中の電荷が増えた分は、境界から流れ込んだ分に等しい」と読みます。右辺の負号は、外向きの流出を正に測っているためです。

証明(定理 2.3)

左辺で、ρ\rho が C1C^1 級で VV が時間によらない固定領域であることから、微分と積分を交換できて

ddt∫Vρ dV=∫V∂ρ∂t dV.\frac{d}{dt}\int_V \rho\,dV = \int_V \frac{\partial\rho}{\partial t}\,dV .

右辺に ガウスの発散定理(定理 5.3)[静電場とガウスの法則] を適用すると

∮∂VJ⋅dS=∫V∇⋅J dV.\oint_{\partial V}\boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S} = \int_V \nabla\cdot\boldsymbol{J}\,dV .

したがって仮定は

∫V(∂ρ∂t+∇⋅J)dV=0\int_V\left(\frac{\partial\rho}{\partial t} + \nabla\cdot\boldsymbol{J}\right)dV = 0

と書き直せる。これが任意の有界領域、特に任意の閉球について成り立つ。被積分関数は ρ,J\rho, \boldsymbol{J} が C1C^1 級であることから連続なので、補題 2.2 によりそれは恒等的に 00 である。

定義 2.4(定常電流)↗

電荷分布と電流分布がともに時間によらない、すなわち ∂ρ/∂t=0\partial\rho/\partial t = 0 かつ ∂J/∂t=0\partial\boldsymbol{J}/\partial t = \boldsymbol{0} であるとき、その電流を定常電流という。

系 2.5(定常電流の条件)✓

定常電流に対しては

∇⋅J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0

が成り立つ。すなわち電流密度の流線は途中で途切れず、始点も終点ももたない(細い導線を流れる電流であれば閉回路をなす)。

証明(系 2.5)

定理 2.3 の連続の方程式に 定義 2.4 の条件 ∂ρ/∂t=0\partial\rho/\partial t = 0 を代入すればただちに ∇⋅J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0 を得る。

エルステッドの発見の直後、ビオ (J.-B. Biot) とサバール (F. Savart)、そしてアンペール (A.-M. Ampère) は、電流と磁場の定量的な関係を実験で決めました。その結果は次の形にまとめられます。これは他から導かれるものではなく、実験に基づく出発点です。

公理 3.1(ビオ・サバールの法則)↗

有界な領域に分布する定常電流密度 J\boldsymbol{J}(J\boldsymbol{J} は C1C^1 級で、ある有界集合の外では 0\boldsymbol{0})がつくる磁場は

B(r)=μ04π∫R3J(r′)×(r−r′)∣r−r′∣3 dV′\boldsymbol{B}(\boldsymbol{r}) = \frac{\mu_0}{4\pi}\int_{\mathbb{R}^3} \frac{\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')\times(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|^{3}}\,dV'

で与えられる。ここで μ0\mu_0 は真空の透磁率である。

電流が断面積の無視できる細い閉曲線 CC を流れる場合(線電流、電流 II)には、J dV′→I dl′\boldsymbol{J}\,dV' \to I\,d\boldsymbol{l}' と置き換えて

B(r)=μ0I4π∮Cdl′×(r−r′)∣r−r′∣3\boldsymbol{B}(\boldsymbol{r}) = \frac{\mu_0 I}{4\pi}\oint_C \frac{d\boldsymbol{l}'\times(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|^{3}}

となる。

クーロンの法則(公理 3.1)[静電場とガウスの法則] と比べると構造がよく見えます。距離依存性は同じ 1/R21/R^2(分母の R3R^3 のうち RR の一つは方向ベクトルの規格化ぶんです)。違いは、源がスカラー ρ\rho ではなくベクトル J\boldsymbol{J} であること、そして外積が入ることです。この外積が、磁場を「源のまわりを回る」向きに向けています。

注意 3.2(μ0 の値について)

2019 年の SI 基本単位の再定義より前は、μ0=4π×10−7 N/A2\mu_0 = 4\pi\times10^{-7}\ \mathrm{N/A^2} はアンペアの定義によって厳密に固定された値でした。再定義後は電気素量 ee が厳密値となったため、μ0\mu_0 は測定量になっています。ただし値は 4π×10−7 N/A24\pi\times10^{-7}\ \mathrm{N/A^2} から相対的に 10−910^{-9} 程度しかずれておらず、学部の計算ではこの値をそのまま使って差し支えありません。

例 3.3(無限に長い直線電流)

zz 軸上を +z+z 方向に電流 II が流れているとする。円筒座標 (s,ϕ,z)(s,\phi,z) の単位ベクトルを es,eϕ,ez\boldsymbol{e}_s,\boldsymbol{e}_\phi,\boldsymbol{e}_z と書き、場の点を r=s es\boldsymbol{r} = s\,\boldsymbol{e}_s(z=0z=0 の平面上、一般性を失わない)にとる。源の点は r′=z′ez\boldsymbol{r}' = z'\boldsymbol{e}_z、線素は dl′=dz′ ezd\boldsymbol{l}' = dz'\,\boldsymbol{e}_z である。

r−r′=s es−z′ ez,∣r−r′∣=s2+z′2\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}' = s\,\boldsymbol{e}_s - z'\,\boldsymbol{e}_z,\qquad |\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'| = \sqrt{s^2+z'^2}

であり、ez×es=eϕ\boldsymbol{e}_z\times\boldsymbol{e}_s = \boldsymbol{e}_\phi、ez×ez=0\boldsymbol{e}_z\times\boldsymbol{e}_z = \boldsymbol{0} だから

dl′×(r−r′)=dz′ ez×(s es−z′ez)=s dz′ eϕ.d\boldsymbol{l}'\times(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}') = dz'\,\boldsymbol{e}_z\times(s\,\boldsymbol{e}_s - z'\boldsymbol{e}_z) = s\,dz'\,\boldsymbol{e}_\phi .

よって磁場は eϕ\boldsymbol{e}_\phi 成分だけをもち、

Bϕ=μ0I4π∫−∞∞s dz′(s2+z′2)3/2.B_\phi = \frac{\mu_0 I}{4\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\frac{s\,dz'}{(s^2+z'^2)^{3/2}} .

積分は z′=stan⁡θz' = s\tan\theta(dz′=ssec⁡2θ dθdz' = s\sec^2\theta\,d\theta、(s2+z′2)3/2=s3sec⁡3θ(s^2+z'^2)^{3/2} = s^3\sec^3\theta)と置換すると

∫−∞∞dz′(s2+z′2)3/2=∫−π/2π/2ssec⁡2θs3sec⁡3θ dθ=1s2∫−π/2π/2cos⁡θ dθ=2s2\int_{-\infty}^{\infty}\frac{dz'}{(s^2+z'^2)^{3/2}} = \int_{-\pi/2}^{\pi/2}\frac{s\sec^2\theta}{s^3\sec^3\theta}\,d\theta = \frac{1}{s^2}\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\cos\theta\,d\theta = \frac{2}{s^2}

となる。したがって

B=μ0I4π⋅s⋅2s2 eϕ=μ0I2πs eϕ.\boldsymbol{B} = \frac{\mu_0 I}{4\pi}\cdot s\cdot\frac{2}{s^2}\,\boldsymbol{e}_\phi = \frac{\mu_0 I}{2\pi s}\,\boldsymbol{e}_\phi .

大きさは ss に反比例し、向きは電流に右ねじで巻きつきます。エルステッドの観測と一致します。

例 3.4(円形電流の軸上の磁場)

半径 aa の円形回路が xyxy 平面上、原点を中心に置かれ、上から見て反時計回りに電流 II が流れているとする。zz 軸上の点 r=z ez\boldsymbol{r} = z\,\boldsymbol{e}_z での磁場を求める。

源の点を r′=a(cos⁡ϕ′,sin⁡ϕ′,0)\boldsymbol{r}' = a(\cos\phi',\sin\phi',0) とすると r−r′\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}' の大きさは R=a2+z2R = \sqrt{a^2+z^2} で、ϕ′\phi' によらない。また線素 dl′d\boldsymbol{l}' は円の接線方向、r−r′\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}' は ez\boldsymbol{e}_z 成分と動径成分からなり、どちらも接線方向と直交する。よって

∣dl′×(r−r′)∣=R ∣dl′∣=R a dϕ′.|d\boldsymbol{l}'\times(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')| = R\,|d\boldsymbol{l}'| = R\,a\,d\phi' .

この外積ベクトルは、円錐面上を一周する向きをもつ。zz 軸まわりの対称性から、一周積分すると動径成分は打ち消し合い、zz 成分だけが残る。zz 成分を取り出す因子は、外積ベクトルと ez\boldsymbol{e}_z のなす角の余弦、すなわち a/Ra/R である。したがって

Bz=μ0I4π∫02πR a dϕ′R3⋅aR=μ0I4π⋅a2R3⋅2π=μ0I a22(a2+z2)3/2.B_z = \frac{\mu_0 I}{4\pi}\int_0^{2\pi}\frac{R\,a\,d\phi'}{R^3}\cdot\frac{a}{R} = \frac{\mu_0 I}{4\pi}\cdot\frac{a^2}{R^3}\cdot 2\pi = \frac{\mu_0 I\,a^2}{2(a^2+z^2)^{3/2}} .

中心 z=0z=0 では Bz=μ0I/(2a)B_z = \mu_0 I/(2a)、遠方 ∣z∣≫a|z| \gg a では

Bz≃μ0Ia22∣z∣3=μ04π⋅2m∣z∣3,m:=Iπa2B_z \simeq \frac{\mu_0 I a^2}{2|z|^3} = \frac{\mu_0}{4\pi}\cdot\frac{2m}{|z|^3},\qquad m := I\pi a^2

となり、電気双極子の場と同じ 1/∣z∣31/|z|^3 の振る舞いを示す。mm を磁気モーメントと呼ぶ。

ビオ・サバールの法則から、まず ∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0 を導きます。最短の道は、B\boldsymbol{B} が何かの回転として書けることを示すことです。

定義 4.1(ベクトルポテンシャル)↗

公理 3.1 と同じ仮定のもとで

A(r):=μ04π∫R3J(r′)∣r−r′∣ dV′\boldsymbol{A}(\boldsymbol{r}) := \frac{\mu_0}{4\pi}\int_{\mathbb{R}^3}\frac{\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|}\,dV'

を定常電流 J\boldsymbol{J} のベクトルポテンシャルという。

これは 静電ポテンシャル(定義 6.1)[静電場とガウスの法則] φ(r)=14πϵ0∫ρ(r′)/∣r−r′∣ dV′\varphi(\boldsymbol{r}) = \frac{1}{4\pi\epsilon_0}\int \rho(\boldsymbol{r}')/|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|\,dV' の各成分ごとの類似物です。以下では記号を短くするため

R:=r−r′,R:=∣R∣\boldsymbol{R} := \boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}',\qquad R := |\boldsymbol{R}|

と置きます。∇\nabla は場の点 r\boldsymbol{r} についての微分、∇′\nabla' は源の点 r′\boldsymbol{r}' についての微分を表します。基本となる計算は

∇1R=−RR3,∇′1R=+RR3=−∇1R\nabla\frac{1}{R} = -\frac{\boldsymbol{R}}{R^3},\qquad \nabla'\frac{1}{R} = +\frac{\boldsymbol{R}}{R^3} = -\nabla\frac{1}{R}

です(1/R1/R は r\boldsymbol{r} と r′\boldsymbol{r}' の差だけの関数なので、両者の微分は符号だけ違います)。

命題 4.2(磁場はベクトルポテンシャルの回転)✓

公理 3.1 の磁場と 定義 4.1 のベクトルポテンシャルの間には

B=∇×A\boldsymbol{B} = \nabla\times\boldsymbol{A}

が成り立つ。

証明(命題 4.2)

微分と積分の交換が許されることを認めた上で(J\boldsymbol{J} は有界台をもち 1/R1/R の特異性は R3\mathbb{R}^3 で可積分なので、積分は広義積分として絶対収束し、交換が正当化される)、

∇×A=μ04π∫∇×(J(r′)R)dV′.\nabla\times\boldsymbol{A} = \frac{\mu_0}{4\pi}\int \nabla\times\left(\frac{\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')}{R}\right)dV' .

被積分関数にスカラーとベクトルの積の回転の公式 ∇×(fa)=f (∇×a)+(∇f)×a\nabla\times(f\boldsymbol{a}) = f\,(\nabla\times\boldsymbol{a}) + (\nabla f)\times\boldsymbol{a} を使う。ここで a=J(r′)\boldsymbol{a} = \boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}') は積分変数 r′\boldsymbol{r}' の関数であって場の点 r\boldsymbol{r} には依存しないから ∇×J(r′)=0\nabla\times\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}') = \boldsymbol{0} であり、

∇×(J(r′)R)=(∇1R)×J(r′)=−RR3×J(r′)=J(r′)×RR3\nabla\times\left(\frac{\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')}{R}\right) = \left(\nabla\frac1R\right)\times\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}') = -\frac{\boldsymbol{R}}{R^3}\times\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}') = \frac{\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')\times\boldsymbol{R}}{R^3}

を得る。最後の等号では外積の反交換性 a×b=−b×a\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{b} = -\boldsymbol{b}\times\boldsymbol{a} を使った。これを積分に戻すと、公理 3.1 の右辺そのものである。

補題 4.3(回転の発散は 0)✓

C2C^2 級のベクトル場 F\boldsymbol{F} について ∇⋅(∇×F)=0\nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{F}) = 0 が成り立つ。

証明(補題 4.3)

成分で書き下す。

∇⋅(∇×F)=∂∂x(∂Fz∂y−∂Fy∂z)+∂∂y(∂Fx∂z−∂Fz∂x)+∂∂z(∂Fy∂x−∂Fx∂y).\nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{F}) = \frac{\partial}{\partial x}\left(\frac{\partial F_z}{\partial y}-\frac{\partial F_y}{\partial z}\right) + \frac{\partial}{\partial y}\left(\frac{\partial F_x}{\partial z}-\frac{\partial F_z}{\partial x}\right) + \frac{\partial}{\partial z}\left(\frac{\partial F_y}{\partial x}-\frac{\partial F_x}{\partial y}\right).

F\boldsymbol{F} は C2C^2 級なので、シュワルツの定理(定理 9.9)[多変数関数の微分と偏微分] により二階偏微分の順序を交換できる。すると ∂2Fz/∂x∂y\partial^2 F_z/\partial x\partial y と −∂2Fz/∂y∂x-\partial^2 F_z/\partial y\partial x が打ち消し合い、同様に FxF_x の項どうし、FyF_y の項どうしも打ち消し合う。全体で 00 である。

定理 4.4(磁場の発散は 0)✓

公理 3.1 の仮定のもとで、空間のすべての点で

∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0

が成り立つ。同値に、任意の閉曲面 SS について ∮SB⋅dS=0\oint_S \boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{S} = 0 である。

証明(定理 4.4)

命題 4.2 により B=∇×A\boldsymbol{B} = \nabla\times\boldsymbol{A} と書ける。A\boldsymbol{A} は J\boldsymbol{J} が C1C^1 級で有界台をもつことから C2C^2 級であるので、補題 4.3 を F=A\boldsymbol{F} = \boldsymbol{A} に適用して

∇⋅B=∇⋅(∇×A)=0.\nabla\cdot\boldsymbol{B} = \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{A}) = 0 .

積分形は、この式を任意の有界領域 VV で積分してガウスの発散定理を使えばよい。逆に、任意の閉曲面で面積分が 00 なら、発散定理と 補題 2.2 により ∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0 が従う。

注意 4.5(磁気モノポールの不在)

静電場の ガウスの法則(微分形)(定理 5.6)[静電場とガウスの法則] は ∇⋅E=ρ/ϵ0\nabla\cdot\boldsymbol{E} = \rho/\epsilon_0 で、右辺に電荷密度という「湧き出しの源」がありました。定理 4.4 の右辺は 00 です。これは「磁荷(磁気モノポール)が存在しない」ことを意味します。棒磁石を半分に折っても N 極だけの破片は得られず、断面に新しい S 極と N 極が現れます。

ここで導いた ∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0 は、あくまで 公理 3.1 の帰結です。すなわち「磁場の源は電流だけである」という前提から出ています。より根源的には、これは実験事実であり、ディラックは 1931 年に、磁気モノポールが宇宙に一つでも存在すれば電荷が離散的な値しか取れない(電荷の量子化)ことを示しました。モノポールの探索は現在も続いていますが、確立された検出例はありません。

B=∇×A\boldsymbol{B} = \nabla\times\boldsymbol{A} という表し方は、A\boldsymbol{A} の取り方に自由度を残します。任意のスカラー場 χ\chi について A→A+∇χ\boldsymbol{A} \to \boldsymbol{A} + \nabla\chi と変えても、∇×∇χ=0\nabla\times\nabla\chi = \boldsymbol{0} なので B\boldsymbol{B} は変わりません。これが ゲージ変換(定義 4.1)[電磁ポテンシャルとゲージ変換] で、詳しくは 電磁ポテンシャルとゲージ変換 で扱います。

5. 回転(rot)は循環の面密度である

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もう一つの式 ∇×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J} に進む前に、回転という演算の意味を確かめます。発散が「単位体積あたりの湧き出し」だったのに対応して、回転は「単位面積あたりの循環」です。

定義 5.1(回転)↗

C1C^1 級のベクトル場 F=(Fx,Fy,Fz)\boldsymbol{F} = (F_x, F_y, F_z) に対し、その回転 ∇×F\nabla\times\boldsymbol{F}(rot⁡F\operatorname{rot}\boldsymbol{F} とも書く)を

∇×F:=(∂Fz∂y−∂Fy∂z, ∂Fx∂z−∂Fz∂x, ∂Fy∂x−∂Fx∂y)\nabla\times\boldsymbol{F} := \left(\frac{\partial F_z}{\partial y}-\frac{\partial F_y}{\partial z},\ \frac{\partial F_x}{\partial z}-\frac{\partial F_z}{\partial x},\ \frac{\partial F_y}{\partial x}-\frac{\partial F_x}{\partial y}\right)

で定める。また、閉曲線 CC に沿った線積分 ∮CF⋅dl\oint_C \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{l} を F\boldsymbol{F} の CC に沿った循環という。

この定義は、成分を眺めても意味がつかめません。次の命題が意味を与えます。

Fx(x, y0)Fx(x, y0 + Δy)Fy(x0 + Δx, y)Fy(x0, y)循環 ≈ (rot F)z ΔxΔy
回転の z 成分は、xy 平面内の微小長方形に沿った循環を面積で割ったもの。

命題 5.2(回転と循環)✓

F\boldsymbol{F} を C1C^1 級のベクトル場とし、点 (x0,y0,z0)(x_0,y_0,z_0) を左下の角にもつ xyxy 平面に平行な長方形

SΔ=[x0,x0+Δx]×[y0,y0+Δy]×{z0}S_{\Delta} = [x_0, x_0+\Delta x]\times[y_0,y_0+\Delta y]\times\{z_0\}

を考える。その境界 ∂SΔ\partial S_\Delta を、zz 軸の正の向きを法線とする右手系の向き(上から見て反時計回り)に一周する。このとき

lim⁡Δx,Δy→01Δx Δy∮∂SΔF⋅dl=(∂Fy∂x−∂Fx∂y)∣(x0,y0,z0)=(∇×F)z∣(x0,y0,z0)\lim_{\Delta x,\Delta y\to 0}\frac{1}{\Delta x\,\Delta y}\oint_{\partial S_\Delta}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{l} = \left(\frac{\partial F_y}{\partial x}-\frac{\partial F_x}{\partial y}\right)\Bigg|_{(x_0,y_0,z_0)} = (\nabla\times\boldsymbol{F})_z\big|_{(x_0,y_0,z_0)}

が成り立つ。

証明(命題 5.2)

以下 z=z0z = z_0 を固定して省略する。四辺の線積分を書き下すと、下辺(+x+x 向き)と上辺(−x-x 向き)では dl=±dx exd\boldsymbol{l} = \pm dx\,\boldsymbol{e}_x、右辺(+y+y 向き)と左辺(−y-y 向き)では dl=±dy eyd\boldsymbol{l} = \pm dy\,\boldsymbol{e}_y だから

∮∂SΔF⋅dl=∫x0x0+ΔxFx(x,y0) dx+∫y0y0+ΔyFy(x0+Δx,y) dy−∫x0x0+ΔxFx(x,y0+Δy) dx−∫y0y0+ΔyFy(x0,y) dy.\begin{aligned} \oint_{\partial S_\Delta}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{l} &= \int_{x_0}^{x_0+\Delta x}F_x(x,y_0)\,dx + \int_{y_0}^{y_0+\Delta y}F_y(x_0+\Delta x, y)\,dy \\ &\quad - \int_{x_0}^{x_0+\Delta x}F_x(x,y_0+\Delta y)\,dx - \int_{y_0}^{y_0+\Delta y}F_y(x_0, y)\,dy . \end{aligned}

第 2 項と第 4 項、第 1 項と第 3 項をそれぞれまとめると

∮∂SΔF⋅dl=∫y0y0+Δy[Fy(x0+Δx,y)−Fy(x0,y)]dy−∫x0x0+Δx[Fx(x,y0+Δy)−Fx(x,y0)]dx.\oint_{\partial S_\Delta}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{l} = \int_{y_0}^{y_0+\Delta y}\big[F_y(x_0+\Delta x,y)-F_y(x_0,y)\big]dy - \int_{x_0}^{x_0+\Delta x}\big[F_x(x,y_0+\Delta y)-F_x(x,y_0)\big]dx .

各角括弧に、xx 方向・yy 方向についての 平均値の定理(定理 3.3)[平均値の定理とテイラーの定理] を適用する(F\boldsymbol{F} は C1C^1 級)。ある ξ∈(x0,x0+Δx)\xi \in (x_0, x_0+\Delta x)、η∈(y0,y0+Δy)\eta\in(y_0,y_0+\Delta y) が(yy あるいは xx ごとに)存在して

Fy(x0+Δx,y)−Fy(x0,y)=∂Fy∂x(ξ,y) Δx,Fx(x,y0+Δy)−Fx(x,y0)=∂Fx∂y(x,η) Δy.F_y(x_0+\Delta x,y)-F_y(x_0,y) = \frac{\partial F_y}{\partial x}(\xi, y)\,\Delta x,\qquad F_x(x,y_0+\Delta y)-F_x(x,y_0) = \frac{\partial F_x}{\partial y}(x, \eta)\,\Delta y .

これを代入し、さらに残った積分に 積分の平均値の定理(命題 4.3)[積分の基本定理と定積分] を使うと、ある (ξ1,η1),(ξ2,η2)(\xi_1,\eta_1), (\xi_2,\eta_2) が長方形内に存在して

∮∂SΔF⋅dl=[∂Fy∂x(ξ1,η1)−∂Fx∂y(ξ2,η2)]Δx Δy.\oint_{\partial S_\Delta}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{l} = \left[\frac{\partial F_y}{\partial x}(\xi_1,\eta_1) - \frac{\partial F_x}{\partial y}(\xi_2,\eta_2)\right]\Delta x\,\Delta y .

両辺を Δx Δy\Delta x\,\Delta y で割り、Δx,Δy→0\Delta x,\Delta y\to 0 とする。(ξi,ηi)(\xi_i,\eta_i) はいずれも (x0,y0)(x_0,y_0) に収束し、偏導関数は C1C^1 級の仮定から連続なので、極限は ∂xFy−∂yFx\partial_x F_y - \partial_y F_x の (x0,y0)(x_0,y_0) での値になる。これは 定義 5.1 の zz 成分にほかならない。

つまり (∇×F)⋅n(\nabla\times\boldsymbol{F})\cdot\boldsymbol{n} は「法線 n\boldsymbol{n} をもつ微小面のふちを一周したときの循環の面密度」です。渦の強さを測る量だ、と読めます。この局所的な関係を有限の面に積み上げたものが、次のストークスの定理です。

この定理は、微分形のアンペールの法則を、ループに沿った積分の形に言い換えるために使います。以下の証明は二段構えです。まず曲面が一枚の「なだらかな丘」(グラフ)の場合に既知の結果へ帰着し、次に曲面をそうした小片に分けて貼り合わせます。貼り合わせでは、隣り合う小片の境界が逆向きにたどられて打ち消し合う、という点だけを追えば十分です。

定理 5.3(ストークスの定理)✓

SS を R3\mathbb{R}^3 内の区分的に滑らかな有向曲面、∂S\partial S をその境界曲線とし、∂S\partial S の向きは SS の法線に対して右手系にとる。F\boldsymbol{F} を SS を含む開集合上の C1C^1 級ベクトル場とすると

∫S(∇×F)⋅dS=∮∂SF⋅dl\int_S (\nabla\times\boldsymbol{F})\cdot d\boldsymbol{S} = \oint_{\partial S}\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{l}

が成り立つ。

証明(定理 5.3)

ここで「区分的に滑らかな有向曲面」とは、有限個の小片 S1,…,SNS_1,\dots,S_N が内部を共有せずに辺で貼り合わさったもので、各 SkS_k は、座標軸の巡回置換 (x,y,z)↦(y,z,x)(x,y,z)\mapsto(y,z,x) を何回か施すと、平面の標準領域 DkD_k 上の C2C^2 級関数のグラフ z=ψk(x,y)z=\psi_k(x,y) になり、その法線の向きが SS の向きと一致するもの、と理解します(裏向きのグラフは n\boldsymbol n と境界の向きを同時に反転すればよいので、表向きとしてよい)。

1 枚のグラフの場合。 これは ベクトル解析 の 定理 8.1[ベクトル解析と積分定理] そのものです。そこでの境界の向き(∂D\partial D の反時計回りをグラフに持ち上げたもの)は、上向き法線に対する右手系の向きと一致します。座標の巡回置換は行列式 11 の直交変換なので、内積・外積・∇×\nabla\times・線積分・面積分をすべて保ち、他の座標平面上のグラフにもこの場合が当てはまります。

貼り合わせ。 各 SkS_k について等式を書いて kk について足します。左辺は面積分の加法性により ∫S(∇×F)⋅dS\int_S(\nabla\times\boldsymbol F)\cdot d\boldsymbol S です。右辺では、2 枚の小片が共有する辺は、両側の向きがどちらも SS の向きから右手系で決まるため互いに逆向きにたどられ、線積分が打ち消し合います。残るのは 1 枚の小片にしか属さない辺、すなわち ∂S\partial S だけで、右辺は ∮∂SF⋅dl\oint_{\partial S}\boldsymbol F\cdot d\boldsymbol l になります。

SS が境界付きのコンパクトな滑らかな曲面である場合には、分割を経ずに、微分形式の ストークスの定理(定理 6.1[ストークスの定理])を 1 形式 Fx dx+Fy dy+Fz dzF_x\,dx+F_y\,dy+F_z\,dz に使っても同じ結論が得られます(F\boldsymbol F が C1C^1 級なだけのときは、軟化子で滑らかにしてから極限をとります)。

注意 5.4(ストークスの定理の証明について)

証明の直観は、曲面を微小な長方形(あるいは三角形)に分割し、各片に 命題 5.2 を適用したうえで足し合わせる、というものです。内部の辺は隣り合う片から逆向きに二度ずつ数えられて打ち消し合い、境界 ∂S\partial S の辺だけが残ります。上の証明は、この「打ち消し合い」を有限個のグラフ片に対して行い、各片の中では微小片の極限の代わりにグリーンの定理を使ったものです。

準備が整いました。ビオ・サバールの法則から ∇×B\nabla\times\boldsymbol{B} を計算します。

補題 6.1(定常電流のベクトルポテンシャルは横波的)✓

公理 3.1 の仮定(J\boldsymbol{J} は C1C^1 級、有界台、かつ定常電流なので 系 2.5 により ∇⋅J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0)のもとで、定義 4.1 のベクトルポテンシャルは

∇⋅A=0\nabla\cdot\boldsymbol{A} = 0

を満たす。

証明(補題 6.1)

J(r′)\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}') は r\boldsymbol{r} に依存しないから

∇⋅A=μ04π∫∇⋅(J(r′)R)dV′=μ04π∫J(r′)⋅∇1R dV′.\nabla\cdot\boldsymbol{A} = \frac{\mu_0}{4\pi}\int \nabla\cdot\left(\frac{\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')}{R}\right)dV' = \frac{\mu_0}{4\pi}\int \boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')\cdot\nabla\frac1R\,dV' .

ここで ∇(1/R)=−∇′(1/R)\nabla(1/R) = -\nabla'(1/R) を使うと

∇⋅A=−μ04π∫J(r′)⋅∇′1R dV′.\nabla\cdot\boldsymbol{A} = -\frac{\mu_0}{4\pi}\int \boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')\cdot\nabla'\frac1R\,dV' .

r′\boldsymbol{r}' についての積の微分公式 ∇′⋅(fa)=(∇′f)⋅a+f ∇′⋅a\nabla'\cdot(f\boldsymbol{a}) = (\nabla' f)\cdot\boldsymbol{a} + f\,\nabla'\cdot\boldsymbol{a} を f=1/Rf = 1/R、a=J\boldsymbol{a} = \boldsymbol{J} に対して用いると

J⋅∇′1R=∇′⋅(JR)−∇′⋅JR\boldsymbol{J}\cdot\nabla'\frac1R = \nabla'\cdot\left(\frac{\boldsymbol{J}}{R}\right) - \frac{\nabla'\cdot\boldsymbol{J}}{R}

なので、十分大きな半径の球 VV(その外では J=0\boldsymbol{J} = \boldsymbol{0})をとって

∇⋅A=−μ04π∮∂VJ(r′)⋅dS′R+μ04π∫V∇′⋅J(r′)R dV′\nabla\cdot\boldsymbol{A} = -\frac{\mu_0}{4\pi}\oint_{\partial V}\frac{\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')\cdot d\boldsymbol{S}'}{R} + \frac{\mu_0}{4\pi}\int_V \frac{\nabla'\cdot\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')}{R}\,dV'

を得る(第 1 項でガウスの発散定理を使った)。

第 1 項は、∂V\partial V 上で J=0\boldsymbol{J} = \boldsymbol{0} だから消える(ここで「電流分布が有界な領域に限られる」という仮定を使った)。第 2 項は 系 2.5 の ∇′⋅J=0\nabla'\cdot\boldsymbol{J} = 0 により消える(ここで定常電流の仮定を使った)。よって ∇⋅A=0\nabla\cdot\boldsymbol{A} = 0 である。

定理 6.2(アンペールの法則(微分形))✓

公理 3.1 の仮定(定常電流、C1C^1 級、有界台)のもとで、空間のすべての点で

∇×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J}

が成り立つ。

証明の方針は、二重の回転を ∇(∇⋅A)−∇2A\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{A}) - \nabla^2\boldsymbol{A} に展開し、第 1 項を直前の補題で消し、第 2 項から電流密度を取り出すことです。最後の段階で出てくるデルタ関数 δ3\delta^3 は、「r′=r\boldsymbol{r}'=\boldsymbol{r} の一点だけに集まった単位の大きさの分布」を表す記号で、積分の中で J(r′)\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}') をその点での値 J(r)\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}) に置き換える働きをします。∇2(1/R)=−4πδ3\nabla^2(1/R) = -4\pi\delta^3 は、静電場で点電荷のつくる静電ポテンシャルがポアソン方程式を満たすこと(静電場とガウスの法則)を、この記号で書いたものです。

証明(定理 6.2)

命題 4.2 より B=∇×A\boldsymbol{B} = \nabla\times\boldsymbol{A} だから、ベクトル解析の恒等式(Appendix で成分計算により確かめます)

∇×(∇×A)=∇(∇⋅A)−∇2A\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{A}) = \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{A}) - \nabla^2\boldsymbol{A}

を用いる。ここで ∇2A\nabla^2\boldsymbol{A} は各デカルト成分にラプラシアンを施したものである。

第 1 項は 補題 6.1 により ∇⋅A=0\nabla\cdot\boldsymbol{A} = 0 なので消える。第 2 項を計算する。定義 4.1 の定義式で微分と積分を交換して

∇2A=μ04π∫J(r′) ∇21∣r−r′∣ dV′.\nabla^2\boldsymbol{A} = \frac{\mu_0}{4\pi}\int \boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')\,\nabla^2\frac{1}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|}\,dV' .

静電場とガウスの法則 の 定理 6.5[静電場とガウスの法則] で確かめたとおり、1/∣r−r′∣1/|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'| は r≠r′\boldsymbol{r} \ne \boldsymbol{r}' では調和関数であり、原点での特異性まで込めると超関数の意味で

∇21∣r−r′∣=−4π δ3(r−r′)\nabla^2\frac{1}{|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}'|} = -4\pi\,\delta^3(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')

が成り立つ。これを代入すると

∇2A=μ04π∫J(r′)⋅(−4π) δ3(r−r′) dV′=−μ0J(r).\nabla^2\boldsymbol{A} = \frac{\mu_0}{4\pi}\int \boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')\cdot(-4\pi)\,\delta^3(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')\,dV' = -\mu_0\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}) .

以上より

∇×B=∇(∇⋅A)−∇2A=0+μ0J=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{A}) - \nabla^2\boldsymbol{A} = \boldsymbol{0} + \mu_0\boldsymbol{J} = \mu_0\boldsymbol{J}

を得る。

系 6.3(アンペールの法則(積分形))✓

定常電流に対し、区分的に滑らかな有向曲面 SS とその境界閉曲線 C=∂SC = \partial S(向きは SS の法線に対して右手系)について

∮CB⋅dl=μ0Ienc,Ienc:=∫SJ⋅dS\oint_C \boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{l} = \mu_0 I_{\text{enc}},\qquad I_{\text{enc}} := \int_S \boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S}

が成り立つ。ここで IencI_{\text{enc}} は CC を「くぐり抜ける」正味の電流である。

証明(系 6.3)

定理 5.3 を F=B\boldsymbol{F} = \boldsymbol{B}、曲面 SS に適用すると

∮CB⋅dl=∫S(∇×B)⋅dS.\oint_C\boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{l} = \int_S(\nabla\times\boldsymbol{B})\cdot d\boldsymbol{S} .

右辺に 定理 6.2 を代入して

∫S(∇×B)⋅dS=μ0∫SJ⋅dS=μ0Ienc\int_S(\nabla\times\boldsymbol{B})\cdot d\boldsymbol{S} = \mu_0\int_S\boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S} = \mu_0 I_{\text{enc}}

となる。逆向きも同様で、任意の曲面について積分形が成り立てば、命題 5.2 の極限操作により微分形が回復する。

注意 6.4(曲面の取り方によらないこと)

系 6.3 の左辺は曲線 CC だけで決まるのに、右辺は CC を境界とする曲面 SS を使って書かれています。これが矛盾しないのは、∇⋅J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0 のおかげです。実際、同じ境界をもつ二つの曲面 S1,S2S_1, S_2 をつなぐと閉曲面ができ、ガウスの発散定理より

∫S1J⋅dS−∫S2J⋅dS=∫V∇⋅J dV=0\int_{S_1}\boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S} - \int_{S_2}\boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S} = \int_{V}\nabla\cdot\boldsymbol{J}\,dV = 0

となるからです(VV は二つの曲面が囲む領域)。定常でなくなるとこの一致は崩れ、アンペールの法則そのものが意味を失います。これが変位電流を要求する仕組みで、演習の最後の問題で確かめます。

積分形は、対称性の高い配置で B\boldsymbol{B} を求めるのに非常に強力です。手順は静電場のガウスの法則と同じで、まず対称性から B\boldsymbol{B} の形を絞り、次に都合のよい閉曲線を選びます。

例 6.5(太さのある円柱導体)

半径 aa の無限に長い円柱導体が zz 軸に沿って置かれ、断面を一様な電流密度で全電流 II が +z+z 方向に流れている。すなわち s≤as \le a で J=Iπa2ez\boldsymbol{J} = \dfrac{I}{\pi a^2}\boldsymbol{e}_z、s>as > a で J=0\boldsymbol{J} = \boldsymbol{0} である。

手順 1:場の形を絞る。 配置は zz 方向の平行移動と zz 軸まわりの回転で不変だから、円筒座標成分 Bs,Bϕ,BzB_s, B_\phi, B_z はいずれも ss だけの関数である。

BsB_s については、半径 ss、長さ LL の円筒面と両端の円板からなる閉曲面に 定理 4.4 の積分形を適用する。両端の円板からの寄与は Bz(s)B_z(s) が zz によらないため打ち消し合い、側面からの寄与は Bs(s)⋅2πsLB_s(s)\cdot 2\pi s L である。よって Bs(s) 2πsL=0B_s(s)\,2\pi s L = 0、すなわち Bs=0B_s = 0。

BzB_z については、ss 軸と zz 軸を含む平面内の長方形 [s1,s2]×[0,L][s_1,s_2]\times[0,L] を境界とする閉曲線に 系 6.3 を適用する。この長方形をくぐる電流は 00(電流は zz 方向で、長方形の法線は eϕ\boldsymbol{e}_\phi 方向)なので (Bz(s1)−Bz(s2))L=0\big(B_z(s_1)-B_z(s_2)\big)L = 0、つまり BzB_z は ss によらない定数である。無限遠で場が消えることを要求すれば Bz≡0B_z \equiv 0。

残るのは B=Bϕ(s) eϕ\boldsymbol{B} = B_\phi(s)\,\boldsymbol{e}_\phi である。

手順 2:円形のループを取る。 zz 軸を中心とする半径 ss の円 CC(反時計回り)を境界とする円板に 系 6.3 を適用すると、左辺は Bϕ(s)⋅2πsB_\phi(s)\cdot 2\pi s である。右辺の IencI_{\text{enc}} は

Ienc={Iπa2⋅πs2=Is2a2(s≤a)I(s≥a)I_{\text{enc}} = \begin{cases} \dfrac{I}{\pi a^2}\cdot\pi s^2 = I\dfrac{s^2}{a^2} & (s \le a) \\[2mm] I & (s \ge a)\end{cases}

したがって

B={μ0I s2πa2 eϕ(s≤a)μ0I2πs eϕ(s≥a)\boldsymbol{B} = \begin{cases} \dfrac{\mu_0 I\,s}{2\pi a^2}\,\boldsymbol{e}_\phi & (s\le a)\\[2mm] \dfrac{\mu_0 I}{2\pi s}\,\boldsymbol{e}_\phi & (s\ge a)\end{cases}

内部では中心で 00 から ss に比例して増え、s=as=a で最大値 μ0I/(2πa)\mu_0 I/(2\pi a) に達し、外部では 1/s1/s で減衰します。s=as = a で両式が一致すること、および外部の式が 例 3.3 と一致することを確かめてください。導線の外から見るかぎり、太さは見えません。

例 6.6(無限に長いソレノイド)

単位長さあたり nn 回の密な巻き数をもつ無限に長い円筒コイルに電流 II が流れている。巻きが十分密で、電流は円筒面上を eϕ\boldsymbol{e}_\phi 方向に面電流密度 nInI で流れているとみなす。

対称性から、例 6.5 と同じ議論で Bs=0B_s = 0 が言える。また、いま電流は eϕ\boldsymbol{e}_\phi 方向なので、zz 軸を中心とする円を境界とする円板をくぐる電流は 00 であり、系 6.3 から Bϕ⋅2πs=0B_\phi\cdot 2\pi s = 0、つまり Bϕ=0B_\phi = 0。残るのは B=Bz(s)ez\boldsymbol{B} = B_z(s)\boldsymbol{e}_z である。

szsz 平面内の長方形ループ(zz 方向の長さ LL、ss 方向に s1s_1 から s2s_2)をとる。B\boldsymbol{B} が zz 成分のみなので、循環は zz 方向の二辺からだけ生じ、(Bz(s1)−Bz(s2))L\big(B_z(s_1)-B_z(s_2)\big)L となる。

  • 両辺ともコイルの外側(s1,s2>s_1, s_2 > 半径)に取ると電流をくぐらないので BzB_z は外部で一定。無限遠で 00 となることから外部では Bz=0B_z = 0。
  • 一方の辺を内側、他方を外側に取ると、ループは巻線を nLnL 回くぐるので Ienc=nLII_{\text{enc}} = nLI。よって (Bzin−0)L=μ0nLI\big(B_z^{\text{in}} - 0\big)L = \mu_0 n L I、すなわち
Bin=μ0nI ez.\boldsymbol{B}^{\text{in}} = \mu_0 n I\,\boldsymbol{e}_z .
  • 両辺とも内側に取ると Ienc=0I_{\text{enc}} = 0 なので、内部で BzB_z は ss によらない。

結論として、無限ソレノイドの内部は一様な磁場 μ0nI\mu_0 nI、外部は 0\boldsymbol{0} です。たとえば n=1000 m−1n = 1000\ \mathrm{m^{-1}}、I=2 AI = 2\ \mathrm{A} なら B=4π×10−7×1000×2≈2.5×10−3 TB = 4\pi\times10^{-7}\times1000\times2 \approx 2.5\times10^{-3}\ \mathrm{T} となります。

7. 静磁場のまとめと、次章への橋

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定常電流に対して、この記事で得たのは次の二つです。

微分形積分形意味
磁場の発散∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0∮SB⋅dS=0\oint_S \boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{S} = 0磁荷は存在しない
磁場の回転∇×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J}∮CB⋅dl=μ0Ienc\oint_C\boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{l} = \mu_0 I_{\text{enc}}渦の源は電流

静電場の ∇⋅E=ρ/ϵ0\nabla\cdot\boldsymbol{E} = \rho/\epsilon_0、∇×E=0\nabla\times\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0} と並べると、四つの式がそろいます。マクスウェル方程式まであと一歩です。

しかし、この記事の結果はすべて ∇⋅J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0 に依存していました。実際、∇×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J} の両辺の発散を取ると、補題 4.3 により左辺は恒等的に 00 ですから

0=μ0 ∇⋅J=−μ0∂ρ∂t0 = \mu_0\,\nabla\cdot\boldsymbol{J} = -\mu_0\frac{\partial\rho}{\partial t}

となり、∂ρ/∂t≠0\partial\rho/\partial t \ne 0 の状況(コンデンサーの充電など)とは両立しません。この矛盾をどう解消するかが、電磁誘導と変位電流 の主題であり、その先に マクスウェル方程式と電磁波 があります。

演習 8.1標準

zz 軸上の線分 z1≤z≤z2z_1 \le z \le z_2 を +z+z 方向に電流 II が流れているとする(実際にはこれは回路の一部分であり、それだけでは定常電流にならないことに注意)。公理 3.1 を使って、点 (s,0,0)(s, 0, 0)(s>0s > 0)における磁場を求めよ。また z1→−∞z_1 \to -\infty、z2→+∞z_2\to+\infty の極限で 例 3.3 の結果が回復することを確かめよ。

解答

例 3.3 の途中計算がそのまま使えます。dl′×(r−r′)=s dz′ eϕd\boldsymbol{l}'\times(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}') = s\,dz'\,\boldsymbol{e}_\phi なので

Bϕ=μ0Is4π∫z1z2dz′(s2+z′2)3/2.B_\phi = \frac{\mu_0 I s}{4\pi}\int_{z_1}^{z_2}\frac{dz'}{(s^2+z'^2)^{3/2}} .

不定積分は

∫dz′(s2+z′2)3/2=z′s2s2+z′2+C\int\frac{dz'}{(s^2+z'^2)^{3/2}} = \frac{z'}{s^2\sqrt{s^2+z'^2}} + C

です(右辺を z′z' で微分すると、商の微分により s2+z′2−z′⋅z′/s2+z′2s2(s2+z′2)=s2s2(s2+z′2)3/2=1(s2+z′2)3/2\dfrac{\sqrt{s^2+z'^2} - z'\cdot z'/\sqrt{s^2+z'^2}}{s^2(s^2+z'^2)} = \dfrac{s^2}{s^2(s^2+z'^2)^{3/2}} = \dfrac{1}{(s^2+z'^2)^{3/2}} となり確かめられます)。したがって

B=μ0I4πs(z2s2+z22−z1s2+z12)eϕ.\boldsymbol{B} = \frac{\mu_0 I}{4\pi s}\left(\frac{z_2}{\sqrt{s^2+z_2^2}} - \frac{z_1}{\sqrt{s^2+z_1^2}}\right)\boldsymbol{e}_\phi .

線分の端を場の点から見込む角を、垂線からの角度 θi\theta_i(sin⁡θi=zi/s2+zi2\sin\theta_i = z_i/\sqrt{s^2+z_i^2})で測れば Bϕ=μ0I4πs(sin⁡θ2−sin⁡θ1)B_\phi = \dfrac{\mu_0 I}{4\pi s}(\sin\theta_2 - \sin\theta_1) と書けます。

z2→+∞z_2\to+\infty では z2/s2+z22→1z_2/\sqrt{s^2+z_2^2}\to 1、z1→−∞z_1\to-\infty では z1/s2+z12→−1z_1/\sqrt{s^2+z_1^2}\to -1 なので、括弧の中は 22 に収束し

B→μ0I4πs⋅2 eϕ=μ0I2πseϕ\boldsymbol{B} \to \frac{\mu_0 I}{4\pi s}\cdot 2\,\boldsymbol{e}_\phi = \frac{\mu_0 I}{2\pi s}\boldsymbol{e}_\phi

となって 例 3.3 と一致します。

なお、線分だけの電流には 系 2.5 が成り立たないので、系 6.3 をこの配置に直接適用してはいけません。この公式が意味をもつのは、閉回路全体を線分に分けて足し合わせるときだけです。

演習 8.2標準

同軸ケーブルを考える。中心の導体は半径 aa の円柱で、一様な電流密度で全電流 II が +z+z 方向に流れる。外側の導体は b≤s≤cb \le s \le c(a<ba < b)の円筒殻で、一様な電流密度で全電流 II が −z-z 方向に流れる。四つの領域 s<as < a、a<s<ba < s < b、b<s<cb < s < c、s>cs > c のそれぞれで磁場を求めよ。

解答

例 6.5 と同じ対称性の議論から B=Bϕ(s)eϕ\boldsymbol{B} = B_\phi(s)\boldsymbol{e}_\phi であり、半径 ss の円に 系 6.3 を適用して Bϕ(s)=μ0Ienc(s)2πsB_\phi(s) = \dfrac{\mu_0 I_{\text{enc}}(s)}{2\pi s} となります。あとは IencI_{\text{enc}} を数えるだけです。

s<as < a: 内部導体の断面積比だけ数えて Ienc=I s2/a2I_{\text{enc}} = I\,s^2/a^2。よって Bϕ=μ0Is2πa2B_\phi = \dfrac{\mu_0 I s}{2\pi a^2}。

a<s<ba < s < b: Ienc=II_{\text{enc}} = I。よって Bϕ=μ0I2πsB_\phi = \dfrac{\mu_0 I}{2\pi s}。

b<s<cb < s < c: 外側導体の断面積は π(c2−b2)\pi(c^2-b^2) で、半径 ss までに含まれる面積は π(s2−b2)\pi(s^2-b^2) だから、逆向きの電流の寄与は −Is2−b2c2−b2-I\dfrac{s^2-b^2}{c^2-b^2}。合わせて

Ienc=I(1−s2−b2c2−b2)=I c2−s2c2−b2,Bϕ=μ0I2πs⋅c2−s2c2−b2.I_{\text{enc}} = I\left(1 - \frac{s^2-b^2}{c^2-b^2}\right) = I\,\frac{c^2-s^2}{c^2-b^2}, \qquad B_\phi = \frac{\mu_0 I}{2\pi s}\cdot\frac{c^2-s^2}{c^2-b^2}.

s>cs > c: Ienc=I−I=0I_{\text{enc}} = I - I = 0、よって Bϕ=0B_\phi = 0。

外部で磁場がまったく漏れないことが同軸ケーブルの利点です。s=bs = b と s=cs = c で式が連続につながることも確かめてください(s=bs=b で第 3 式は μ0I/(2πb)\mu_0 I/(2\pi b)、s=cs=c で 00 になります)。

演習 8.3易

中心軸を zz 軸とするドーナツ形の芯に導線を NN 回一様に巻き、電流 II を流す(トロイダルコイル)。巻線は芯を密に覆っているとする。芯の内部(コイルが囲む領域)と外部で磁場を求めよ。

解答

系は zz 軸まわりの回転対称です。巻線の電流は szsz 平面内を流れるので、例 6.6 と同じ議論により B=Bϕ(s,z) eϕ\boldsymbol{B} = B_\phi(s,z)\,\boldsymbol{e}_\phi の形になります(eϕ\boldsymbol{e}_\phi 成分だけが残る)。

zz 軸を中心とする半径 ss の水平な円 CC を取り、系 6.3 を適用します。左辺は Bϕ⋅2πsB_\phi\cdot 2\pi s です。

  • CC が芯の内部を通るとき、CC を境界とする円板は巻線を NN 回くぐるので Ienc=NII_{\text{enc}} = NI。よって
Bϕ=μ0NI2πs.B_\phi = \frac{\mu_0 N I}{2\pi s}.
  • CC が芯の穴の内側(ss が小さい)を通るとき、円板は巻線をくぐらないので Ienc=0I_{\text{enc}} = 0、よって Bϕ=0B_\phi = 0。
  • CC が芯より外側を通るとき、円板は各巻線を往きと還りで 2 回くぐり、向きが逆なので正味 Ienc=0I_{\text{enc}} = 0。よって Bϕ=0B_\phi = 0。

つまり磁場は芯の内部に完全に閉じ込められ、大きさは中心軸からの距離 ss に反比例します。芯の太さが中心半径に比べて小さければ、ss をほぼ一定とみなせて、ソレノイドと同じ μ0nI\mu_0 n I(n=N/(2πs)n = N/(2\pi s) は単位長さあたりの巻き数)になります。

演習 8.4難

平行平板コンデンサーを、導線を通して一定電流 II で充電している。導線を一周する円 CC を固定し、CC を境界とする二つの曲面を考える。S1S_1 は導線を垂直に貫く平らな円板、S2S_2 は導線を避けて極板のあいだを通る袋状の曲面である。μ0∫SJ⋅dS\mu_0\int_S \boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S} を S=S1,S2S = S_1, S_2 について計算し、系 6.3 のどの仮定が破れているかを述べよ。

解答

S1S_1 は導線を貫くので ∫S1J⋅dS=I\int_{S_1}\boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S} = I、したがって右辺は μ0I\mu_0 I です。一方 S2S_2 は極板のあいだを通ります。極板間は真空(あるいは絶縁体)で電荷の流れがないので J=0\boldsymbol{J} = \boldsymbol{0}、よって ∫S2J⋅dS=0\int_{S_2}\boldsymbol{J}\cdot d\boldsymbol{S} = 0 となり、右辺は 00 です。

左辺 ∮CB⋅dl\oint_C\boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{l} は曲線 CC だけで決まる量ですから、μ0I≠0\mu_0 I \ne 0 と 00 が同時に等しいことはあり得ません。矛盾です。

破れている仮定は定常性です。極板には電荷が時間とともに蓄積していくので、極板の位置で ∂ρ/∂t≠0\partial\rho/\partial t \ne 0 であり、定理 2.3 から ∇⋅J=−∂ρ/∂t≠0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = -\partial\rho/\partial t \ne 0 となります。すると 系 2.5 が使えず、補題 6.1、定理 6.2、系 6.3 の導出がすべて崩れます。注意 6.4 で見た「曲面の取り方によらない」という性質も、まさに ∇⋅J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J}=0 に依拠していました。

この破綻を救うのがマクスウェルの変位電流で、J\boldsymbol{J} を J+ϵ0∂E/∂t\boldsymbol{J} + \epsilon_0\partial\boldsymbol{E}/\partial t に置き換えると、連続の方程式により ∇⋅ ⁣(J+ϵ0∂E∂t)=−∂ρ∂t+∂ρ∂t=0\nabla\cdot\!\left(\boldsymbol{J} + \epsilon_0\dfrac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}\right) = -\dfrac{\partial\rho}{\partial t} + \dfrac{\partial\rho}{\partial t} = 0 が恒等的に成り立ちます(∇⋅E=ρ/ϵ0\nabla\cdot\boldsymbol{E} = \rho/\epsilon_0 を使いました)。詳しくは 電磁誘導と変位電流 を参照してください。

  • 砂川重信『理論電磁気学』第 3 版、紀伊國屋書店、1999 — 定常電流と静磁場の章。ベクトルポテンシャルを軸にした構成が本記事の流れに近い。
  • D. J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics, 4th ed., Cambridge University Press, 2017 — Chapter 5 “Magnetostatics”。ビオ・サバールの法則からアンペールの法則を導く道筋が丁寧に書かれている。
  • J. D. Jackson, Classical Electrodynamics, 3rd ed., Wiley, 1999 — Chapter 5。ベクトル解析の恒等式は付録にまとまっている。
  • 『ファインマン物理学 III 電磁気学』岩波書店 — 磁場の章。回転や循環の物理的な意味づけについての説明が読みやすい。
  • 太田浩一『電磁気学の基礎 I』東京大学出版会、2012 — 歴史的経緯(エルステッド、ビオ・サバール、アンペール)の記述が詳しい。
  • 杉浦光夫『解析入門 II』東京大学出版会、1985 — ガウスの発散定理・ストークスの定理の厳密な扱い。
  • BIPM, The International System of Units (SI Brochure), 9th ed. — 2019 年の再定義後の μ0\mu_0 の位置づけ。SI Brochure (BIPM)

Appendix: 使ったベクトル解析の恒等式

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記法の準備。 以下ではデカルト座標の成分を x1,x2,x3x_1, x_2, x_3 とし、∂i:=∂/∂xi\partial_i := \partial/\partial x_i と書きます。同じ添字が二度現れたら 11 から 33 まで和を取る(アインシュタインの規約)ものとします。レビ・チビタ記号 ϵijk\epsilon_{ijk} は、(i,j,k)(i,j,k) が (1,2,3)(1,2,3) の偶置換なら +1+1、奇置換なら −1-1、それ以外は 00 と定めます。外積と回転はそれぞれ

(a×b)i=ϵijkajbk,(∇×F)i=ϵijk∂jFk(\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{b})_i = \epsilon_{ijk}a_j b_k,\qquad (\nabla\times\boldsymbol{F})_i = \epsilon_{ijk}\partial_j F_k

と書けます。よく使う関係式は

ϵkijϵklm=δilδjm−δimδjl\epsilon_{kij}\epsilon_{klm} = \delta_{il}\delta_{jm} - \delta_{im}\delta_{jl}

です(δ\delta はクロネッカーのデルタ)。

二重の回転の展開。 定理 6.2 の証明で使った恒等式を確かめます。A\boldsymbol{A} を C2C^2 級として

[∇×(∇×A)]i=ϵijk∂j(∇×A)k=ϵijkϵklm∂j∂lAm=ϵkijϵklm∂j∂lAm=(δilδjm−δimδjl)∂j∂lAm=∂j∂iAj−∂j∂jAi=∂i(∇⋅A)−∇2Ai.\begin{aligned} \big[\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{A})\big]_i &= \epsilon_{ijk}\partial_j(\nabla\times\boldsymbol{A})_k = \epsilon_{ijk}\epsilon_{klm}\partial_j\partial_l A_m \\ &= \epsilon_{kij}\epsilon_{klm}\partial_j\partial_l A_m = (\delta_{il}\delta_{jm}-\delta_{im}\delta_{jl})\partial_j\partial_l A_m \\ &= \partial_j\partial_i A_j - \partial_j\partial_j A_i = \partial_i(\nabla\cdot\boldsymbol{A}) - \nabla^2 A_i . \end{aligned}

二行目で ϵijk=ϵkij\epsilon_{ijk} = \epsilon_{kij}(巡回置換で不変)を使い、最後の行では A\boldsymbol{A} が C2C^2 級であることからシュワルツの定理により ∂j∂i=∂i∂j\partial_j\partial_i = \partial_i\partial_j と交換しました。よって

∇×(∇×A)=∇(∇⋅A)−∇2A.\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{A}) = \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{A}) - \nabla^2\boldsymbol{A} .

外積の発散。 定理 4.4 は 命題 4.2 経由で示しましたが、ビオ・サバールの積分から直接示すこともできます。そのとき使うのが

∇⋅(a×b)=b⋅(∇×a)−a⋅(∇×b)\nabla\cdot(\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{b}) = \boldsymbol{b}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{a}) - \boldsymbol{a}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{b})

です。成分計算は次のとおりです。

∇⋅(a×b)=∂i(ϵijkajbk)=ϵijk(∂iaj)bk+ϵijkaj(∂ibk)=bk ϵkij∂iaj−aj ϵjik∂ibk=b⋅(∇×a)−a⋅(∇×b).\begin{aligned} \nabla\cdot(\boldsymbol{a}\times\boldsymbol{b}) &= \partial_i(\epsilon_{ijk}a_j b_k) = \epsilon_{ijk}(\partial_i a_j)b_k + \epsilon_{ijk}a_j(\partial_i b_k) \\ &= b_k\,\epsilon_{kij}\partial_i a_j - a_j\,\epsilon_{jik}\partial_i b_k = \boldsymbol{b}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{a}) - \boldsymbol{a}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{b}). \end{aligned}

ここで第 1 項は ϵijk=ϵkij\epsilon_{ijk} = \epsilon_{kij}、第 2 項は ϵijk=−ϵjik\epsilon_{ijk} = -\epsilon_{jik} を用いました。

これを a=J(r′)\boldsymbol{a} = \boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}')、b=R/R3\boldsymbol{b} = \boldsymbol{R}/R^3 に適用すると、J(r′)\boldsymbol{J}(\boldsymbol{r}') は r\boldsymbol{r} によらないので ∇×a=0\nabla\times\boldsymbol{a} = \boldsymbol{0}、また R/R3=−∇(1/R)\boldsymbol{R}/R^3 = -\nabla(1/R) で勾配の回転は 00 だから ∇×b=0\nabla\times\boldsymbol{b} = \boldsymbol{0} です。よって 公理 3.1 の被積分関数の発散は各点で 00 となり、∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0 が直接得られます。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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