試験時間は13時から17時までの4時間で、解答するのは4問です。第1問から第3問は量子力学・統計力学・力学の標準的な題材で、一つ一つの計算は軽いかわりに設問数が多く、取りこぼしが命取りになります。第4問から第6問は実験に近い題材が並び、図の読み取りと物理的な見積り、そして「何が測定精度を決めるか」を言葉で述べる力が問われます。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 量子力学 | 一般の不確定性関係とスピン1/2、2粒子スピン相関 |
| 第2問 | 統計力学 | 交換対称性、状態密度、大正準集合とボース凝縮 |
| 第3問 | 力学・解析力学 | 2体弾性散乱と井戸型ポテンシャルによる屈折・全反射 |
| 第4問 | 相対論・素粒子 | 陽子衝突型加速器、電離損失、多重散乱と運動量分解能 |
| 第5問 | 物性物理・電気回路 | 4端子法、零位法、ホール効果と磁化のヒステリシス |
| 第6問 | 光学・フーリエ解析 | フラウンホーファー近似と直角三角形開口の回折 |
第1問から第3問が必答で、第4問から第6問のうち1問を選択する形式ですが、ここでは全6問の解答を載せます。
自己共役演算子 P,Q が [P,Q]=iR を満たす場合の一般的な不確定性関係を導いたうえで、それをスピン1/2に適用します。スピン演算子は [sx,sy]=iℏsz とその巡回置換を満たし、2次元表現では s=2ℏσ(σ はパウリ行列)と書けます。後半は2粒子系に移り、粒子 A, B のスピンを別々の方向 a,b について測るときの期待値と相関を扱います。状態はすべて規格化されているものとします。
(i) [P,Q]=iR より R=−i(PQ−QP) です。共役をとると、(AB)†=B†A† と P†=P, Q†=Q から
R†=(−i)(PQ−QP)†=i(Q†P†−P†Q†)=i(QP−PQ)=−i(PQ−QP)=R
となり、R も自己共役です。したがって ⟨ψ∣R∣ψ⟩ は実数です。
(ii) ⟨P⟩≡⟨ψ∣P∣ψ⟩ と ⟨Q⟩ は自己共役演算子の期待値なので実数であり、単位演算子の定数倍としてすべての演算子と交換します。よって
[ΔP,ΔQ]=[P−⟨P⟩,Q−⟨Q⟩]=[P,Q]=iR.
同時に ΔP†=ΔP, ΔQ†=ΔQ も成り立ちます(実数を引いただけだからです)。
(iii) 実数 x に対して ∣χ⟩≡(ΔP+ixΔQ)∣ψ⟩ を考えます。(ΔP+ixΔQ)†=ΔP−ixΔQ なので
0≤⟨χ∣χ⟩=⟨ψ∣(ΔP−ixΔQ)(ΔP+ixΔQ)∣ψ⟩=⟨ψ∣(ΔP)2∣ψ⟩+x2⟨ψ∣(ΔQ)2∣ψ⟩+ix⟨ψ∣[ΔP,ΔQ]∣ψ⟩=⟨ψ∣(ΔQ)2∣ψ⟩x2−⟨ψ∣R∣ψ⟩x+⟨ψ∣(ΔP)2∣ψ⟩
です(最後に (ii) の [ΔP,ΔQ]=iR と i⋅i=−1 を使いました)。これは実係数の x の2次式が任意の実 x で非負であるという条件です。
⟨ψ∣(ΔQ)2∣ψ⟩>0 のときは判別式が非正でなければならず、
⟨ψ∣R∣ψ⟩2−4⟨ψ∣(ΔP)2∣ψ⟩⟨ψ∣(ΔQ)2∣ψ⟩≤0
すなわち式 (1) を得ます。⟨ψ∣(ΔQ)2∣ψ⟩=0 のときは1次式 −⟨ψ∣R∣ψ⟩x+⟨ψ∣(ΔP)2∣ψ⟩≥0 が任意の実 x で成り立つことから ⟨ψ∣R∣ψ⟩=0 となり、式 (1) は 0≥0 として成立します。以上で証明が閉じました。
n=(sinθ,0,cosθ) に対して
s(n)=2ℏ(sinθσx+cosθσz)=2ℏ(cosθsinθsinθ−cosθ).
この行列はトレースが 0、行列式が −4ℏ2(cos2θ+sin2θ)=−4ℏ2 なので、固有値 λ± は
λ±=±2ℏ
です((n⋅σ)2=1 からも同じ結論が出ます)。固有値 +ℏ/2 の固有ベクトルは (cosθ−1)ξ+sinθη=0 から η/ξ=tan(θ/2)、固有値 −ℏ/2 では η/ξ=−cot(θ/2) です。規格化して
∣+⟩=(cos2θsin2θ),∣−⟩=(−sin2θcos2θ)
が答えです(全体の位相は任意)。θ=0 で ∣+⟩=∣↑⟩, ∣−⟩=∣↓⟩ に戻ります。
sz は対角なので、∣±⟩ の成分の2乗の差で期待値が決まります。
⟨+∣sz∣+⟩=2ℏ(cos22θ−sin22θ)=2ℏcosθ,⟨−∣sz∣−⟩=−2ℏcosθ.
答えは ±2ℏcosθ です。n 方向に確定したスピンの z 成分が、古典的なベクトルの射影と同じ cosθ 則に従うことを示しています。
∣ψ⟩=21(13) は設問2で θ=π/3 とした ∣+⟩ に一致します(cos(π/6)=3/2, sin(π/6)=1/2)。非可換な組として P=sx, Q=sy を選びます。[sx,sy]=iℏsz なので R=ℏsz です。
期待値は、ξ=3/2, η=1/2 が実数であることから
⟨sx⟩=2ℏ⋅2ξη=43ℏ,⟨sy⟩=2ℏ⋅2Im(ξˉη)=0,⟨sz⟩=2ℏ(ξ2−η2)=4ℏ
です(⟨sz⟩ は設問3の 2ℏcos3π と一致します)。σx2=σy2=1 より ⟨sx2⟩=⟨sy2⟩=4ℏ2 なので
⟨(Δsx)2⟩=4ℏ2−163ℏ2=16ℏ2,⟨(Δsy)2⟩=4ℏ2−0=4ℏ2.
左辺は 16ℏ2⋅4ℏ2=64ℏ4、右辺は 41⟨R⟩2=41(ℏ⋅4ℏ)2=64ℏ4 です。したがって式 (1) は等号で成立し、確かに ⟨(ΔP)2⟩⟨(ΔQ)2⟩≥41⟨R⟩2 が満たされています。n が xz 面内にあるとき ⟨sy⟩=0 となり、この状態は sx と sy について最小不確定積を実現する状態になっています。
sA(a) と sB(b) は異なる粒子に作用するので交換し、それぞれの固有値は ±ℏ/2 です。よって和 sA(a)+sB(b) の固有値は ℏ,0,0,−ℏ であり、期待値の最大値は最大固有値 ℏ、それを与える状態は両方が +ℏ/2 の同時固有状態(縮退がないので位相を除いて一意)です。設問2の結果を各粒子に使って
∣Ψ⟩=(cos2θa∣↑⟩A+sin2θa∣↓⟩A)⊗(cos2θb∣↑⟩B+sin2θb∣↓⟩B)
すなわち
∣Ψ⟩=cos2θacos2θb∣↑,↑⟩+cos2θasin2θb∣↑,↓⟩+sin2θacos2θb∣↓,↑⟩+sin2θasin2θb∣↓,↓⟩
が答えです。係数の2乗和は 1 で規格化されています。これは直積状態、すなわちもつれのない状態です。
sA(a)sB(b)=4ℏ2(sinθaσxA+cosθaσzA)(sinθbσxB+cosθbσzB) を、一重項 ∣ψ⟩=21(∣↑,↓⟩−∣↓,↑⟩) で挟みます。
σxAσxB∣↑,↓⟩=∣↓,↑⟩, σxAσxB∣↓,↑⟩=∣↑,↓⟩ より σxAσxB∣ψ⟩=−∣ψ⟩、また σzAσzB は両基底に −1 を与えるので σzAσzB∣ψ⟩=−∣ψ⟩ です。交差項は σxAσzB∣ψ⟩=21(−∣↓,↓⟩−∣↑,↑⟩) となって ∣ψ⟩ と直交し、σzAσxB も同様に寄与しません。したがって
⟨ψ∣sA(a)sB(b)∣ψ⟩=4ℏ2(−sinθasinθb−cosθacosθb)=−4ℏ2cos(θa−θb)
が答えです。θa=θb で −ℏ2/4(完全な逆相関)、∣θa−θb∣=π/2 で 0、∣θa−θb∣=π で +ℏ2/4 となり、一重項が a⋅b にしか依存しない回転不変な相関 −4ℏ2a⋅b を与えることが確認できます。設問5の直積状態と違い、この相関の大きさは古典的な確率分布では再現できません。
前半は2個の同種粒子の波動関数に要請される交換対称性、後半は自由粒子系の状態密度と大正準集合の分布関数を扱います。1粒子軌道は一辺 L の箱に周期境界条件を課した平面波とし、粒子質量を m、最低準位をエネルギーの原点に取ります。大分配関数は Ξ(T,μ)=∑N∑je−β(Ej−μN)、β=1/(kBT) です。
フェルミオンの例は電子(ほかに陽子、中性子、3He 原子)、ボソンの例は光子(ほかに π 中間子、4He 原子)です。スピンが半整数なら フェルミオン、整数ならボソンになります。
同種粒子の全波動関数(軌道部分とスピン部分の積)は、2粒子の入れ替え 1↔2 に対して、フェルミオンでは反対称、ボソンでは対称でなければなりません。
フェルミオン2個の場合。スピン部分が対称な3通り(三重項)には反対称な軌道部分、スピン部分が反対称な1通り(一重項)には対称な軌道部分が組みます。可能な形は次の6通りです。
[φa(r1)φb(r2)−φb(r1)φa(r2)]α1α2,[φa(r1)φb(r2)−φb(r1)φa(r2)](α1β2+β1α2),[φa(r1)φb(r2)−φb(r1)φa(r2)]β1β2,[φa(r1)φb(r2)+φb(r1)φa(r2)](α1β2−β1α2),φa(r1)φa(r2)(α1β2−β1α2),φb(r1)φb(r2)(α1β2−β1α2).
同じ軌道に2個入れるときはスピンが一重項に限られる、というのがパウリ原理の内容です。スピン軌道 φaα,φaβ,φbα,φbβ から2個を選ぶ組み合わせが6通りであることと一致します。
ボソン2個(スピンの大きさ 0)の場合。スピン部分は1通りで対称なので、軌道部分が対称でなければなりません。可能な形は
φa(r1)φa(r2),φb(r1)φb(r2),φa(r1)φb(r2)+φb(r1)φa(r2)
の3通りです。反対称な組み合わせ φaφb−φbφa は許されません。
周期境界条件 ψ(x+L,y,z)=ψ(x,y,z) などを課すと、固有状態と固有エネルギーは
ψk(r)=V1eik⋅r,k=L2π(nx,ny,nz),nx,ny,nz∈Z,Ek=2mℏ2k2
です(V=L3)。k 空間で1状態が占める体積は (2π/L)3 なので、L が十分大きいとき ∣k∣≤k の状態数は
N(E)=(2π/L)334πk3=6π2Vk3=6π2V(ℏ22mE)3/2
となります。これを E で微分して
D(E)=dEdN=4π2V(ℏ22m)3/2E=2π2ℏ3Vm3/22E(E>0)
が状態密度です。スピンは無視しているので縮退因子は 1 です。次元は [ℏ−3m3/2E1/2⋅V]= エネルギーの逆数で、確かに D(E)dE が無次元になります。
温度 T=0 では系は最低エネルギー状態を取ります。
フェルミ気体では1つの1粒子状態に1個しか入れないので、エネルギーの低い状態から順に N 個の状態が占有され、k 空間ではフェルミ球 ∣k∣≤kF が詰まった状態になります。フェルミエネルギー EF は N=∫0EFD(E)dE=6π2V(ℏ22mEF)3/2 で決まり
EF=2mℏ2(6π2VN)2/3.
全エネルギーは
U=∫0EFED(E)dE=53NEF=10m3ℏ2(6π2)2/3V2/3N5/3
です。パウリ原理のため、T=0 でも粒子は静止しておらず U>0 が残ります。
ボース気体では占有数に制限がないので、N 個すべてが最低準位 k=0(E=0)に入ります。これがボース・アインシュタイン凝縮の T=0 での極限です。全エネルギーは
U=0.
Ej=∑iniεi、N=∑ini なので、∑N∑j は各 ni を独立に走らせる和 ∑{ni} と同じです。したがって
Ξ={ni}∑i∏e−β(εi−μ)ni=i∏(ni∑e−β(εi−μ)ni)=i∏Ξi.
理想フェルミ気体では ni=0,1 しか許されないので
Ξi=1+e−β(εi−μ).
理想ボース気体では ni=0,1,2,… で、等比級数の和として
Ξi=n=0∑∞(e−β(εi−μ))n=1−e−β(εi−μ)1
です。後者は e−β(εi−μ)<1、すなわち μ<εi のときだけ収束します。
xi≡e−β(εi−μ) と置きます。フェルミ気体では
⟨ni⟩=1+xi0⋅1+1⋅xi=eβ(εi−μ)+11
(フェルミ・ディラック分布)、ボース気体では ∑nnxin=xi/(1−xi)2 と ∑nxin=1/(1−xi) から
⟨ni⟩=1−xixi=eβ(εi−μ)−11
(ボース・アインシュタイン分布)です。どちらも εi−μ≫kBT でボルツマン分布 e−β(εi−μ) に近づきます。
フェルミ分布の概形を εi の関数として述べます。T=0 では階段関数で、εi<μ で ⟨ni⟩=1、εi>μ で 0、εi=μ で不連続に落ちます。0<kBT≪μ では、εi=μ で必ず ⟨ni⟩=1/2 を通り、そこでの傾きは −1/(4kBT) です。階段が丸まるのは ∣εi−μ∣ が kBT の数倍以内の範囲だけで、それより下では 1、上では e−β(εi−μ) 的に減衰し、εi=μ を中心に ⟨ni⟩−21 が奇関数になります。
すべての1粒子状態で ⟨ni⟩=(eβ(εi−μ)−1)−1>0 となるには eβ(εi−μ)>1、つまり εi>μ がすべての i で必要です。最低準位を ε0=0 とすれば条件は
μ<0
です。μ>0 だと εi<μ の状態で ⟨ni⟩ が負になってしまい、意味を失います。
概形は次のようになります。μ=0(すなわち μ<0)では εi=0 での値が (e−βμ−1)−1 という有限値で、そこから単調に減少します。μ=0 では εi→0 で ⟨ni⟩≃kBT/εi と発散し、縦軸が漸近線になります。どちらも εi≫kBT では e−β(εi−μ) に従って指数的に小さくなります。
ボース・アインシュタイン凝縮している場合、μ は 0(最低準位のエネルギー)に等しくなければなりません。理由は励起状態が収容できる粒子数に上限があることです。μ≤0 のもとで励起状態の粒子数は
Nex=∫0∞eβ(E−μ)−1D(E)dE≤∫0∞eβE−1D(E)dE=ζ(3/2)(2πℏ2mkBT)3/2V
と有限に押さえられ、T3/2 で減っていきます。全粒子数 N がこの上限を超えると、あふれた分 N0=N−Nex は最低準位に入るしかありません。⟨n0⟩=(e−βμ−1)−1=N0 を μ について解くと μ=−kBTln(1+1/N0)≃−kBT/N0 となり、N0 が N と同じオーダーの巨視的な数であれば熱力学極限で μ→0−、すなわち μ=0 です。凝縮相では化学ポテンシャルが最低準位に張り付き、粒子を足しても μ が動かなくなります。
質量 m1 の粒子1(速さ V1)が、静止した質量 m2 の粒子2に非相対論的に弾性散乱します。重心系での散乱前後の速度を v1,v2 および v1′,v2′、重心系での粒子1の散乱角を ψ(0≤ψ≤π)とします。後半は相互作用を相対距離 r のみの関数 U(r) とし、換算質量 m=m1m2/(m1+m2)、相対位置 r=r1−r2 を極座標 (r,ϕ) で扱います。最後に U(r) を半径 r0、高さ U0 の球状の障壁(r≤r0 で一定値 U0、外で 0)に取り、0<U0<2mV12 とします。
重心系では全運動量が 0 です。したがって
m1v1+m2v2=0,すなわちv2=−m2m1v1.
散乱後も m1v1′+m2v2′=0 なので、v1=m1m2v2, v1′=m1m2v2′ をエネルギー保存則 21m1v12+21m2v22=21m1v1′2+21m2v2′2 に入れると、両辺が 2m2(m1m2+1) 倍の v22 と v2′2 になり
v2′=v2
を得ます。重心系では弾性散乱によって各粒子の速さは変わらず、向きだけが変わります。
重心の速さは Vc=m1+m2m1V1 です。粒子2は実験室系で静止しているので、重心系では大きさ v2=Vc の速度で重心の進行方向と逆向きに動いており、設問1より散乱後も v2′=Vc です。散乱後の v2′ は v1′ と逆向き、つまり入射方向から測って角度 ψ+π の方向を向きます。入射方向を z 軸、散乱面内でそれに垂直な向きを x 軸に取り、成分を (vz,vx) の順に書くと
v2′lab=v2′+Vcz^=Vc(−cosψ,−sinψ)+Vc(1,0)=Vc(1−cosψ,−sinψ)
なので
v2′lab2=Vc2[(1−cosψ)2+sin2ψ]=2Vc2(1−cosψ)=4Vc2sin22ψ.
したがって実験室系での粒子2の散乱後の運動エネルギーは
ε=21m2v2′lab2=2m2Vc2sin22ψ=(m1+m2)22m12m2V12sin22ψ
です。ψ=0 で ε=0、ψ=π で最大値 (m1+m2)24m1m2⋅21m1V12 となり、これは入射エネルギーに標準的な移行係数 4m1m2/(m1+m2)2 を掛けた形です。m1=m2 かつ ψ=π では ε=21m1V12 となって全エネルギーが移り、正面衝突の既知の結果と一致します。
重心系では m1r1+m2r2=0 なので r1=m1+m2m2r, r2=−m1+m2m1r です。運動エネルギーは
21m1r˙12+21m2r˙22=21(m1+m2)2m1m22+m2m12r˙2=21mr˙2,
すなわち相対座標だけの1体問題になります。平面極座標で r˙2=r˙2+r2ϕ˙2 なので
L=21m(r˙2+r2ϕ˙2)−U(r)
が求めるラグランジアンです。
L は ϕ を陽に含みません(U が r だけの関数だからです)。よって ϕ に対するオイラー・ラグランジュ方程式は
dtd∂ϕ˙∂L−∂ϕ∂L=dtd(mr2ϕ˙)−0=0
となり、
mr2ϕ˙=一定
が導かれます。これが角運動量(運動面に垂直な成分)の保存です。無限遠では速度が入射直線に沿い、中心から入射直線までの距離が衝突パラメター b なので、保存量の大きさは mV1b です(図2 の配置では mr2ϕ˙=mV1b)。
相対運動のエネルギーは、無限遠で相対速度の大きさが ∣r˙∣=∣v1−v2∣=V1 であることから E=21mV12 です。U0<2mV12 なので球内でも運動できて、球内での速さ v は
21mv2=21mV12−U0⟹v=V11−mV122U0=nV1(0<n<1)
です。球の内外で力は働かず(U が一定)、境界 r=r0 でだけ半径方向に撃力が働きます。したがって軌跡は直線をつなぎ合わせた折れ線で、境界での折れ曲がりは角運動量保存
mV1r0sinθ=mvr0sinθ′⟹nsinθ′=sinθ
で決まります。ここで θ は入射直線と入射点の動径がなす角(r0sinθ=b)、θ′ は球内での速度と動径がなす角です。これは屈折率 n のスネルの法則そのもので、n<1 なので軌跡は法線から遠ざかる向き、つまり中心から離れる向きに曲がります(斥力なので当然です)。
球内に入れる条件は、動径方向のエネルギーが正、すなわち 21mV12−U0−2mr02(mV1b)2≥0 から
sinθ≤n
です。散乱の様子は次の2つに分かれます。
(i) sinθ≤n のとき。入射点で法線から遠ざかる向きに折れて球内を弦に沿って直進し、出射点で同じ角度だけもう一度折れます。中心への最接近距離は r0sinθ′=b/n(>b) です。入射点・出射点での折れ角はどちらも θ′−θ なので、全体の散乱角は
ψ=2(θ′−θ)=2[arcsin(nsinθ)−θ],すなわちnsin(θ+2ψ)=sinθ.
b=0(θ=0)では ψ=0 で、球の中心を通り抜けて向きは変わりません。θ とともに ψ は単調に増加します(dθdψ=2[n2−sin2θcosθ−1]>0 は cos2θ>n2−sin2θ、つまり 1>n2 から従います)。
(ii) sinθ>n のとき。動径方向の運動エネルギーが足りず球内に入れないので、r=r0 で動径方向速度が反転し、剛体球と同じ鏡面反射になります。このとき
ψ=π−2θ
です。sinθ=n では (i) の式も ψ=2(2π−θ)=π−2θ を与えるので、両者は連続につながります。
軌跡の略図を示します。左が (i)、右が (ii) です。水平な破線は入射方向に平行な補助線(散乱角 ψ を測る基準)、中心から入射点へ引いた破線は角度 θ を測るための動径です。
設問2の ε=(m1+m2)22m12m2V12sin22ψ は 0≤ψ≤π で ψ の単調増加関数なので、ε が最大になるのは ψ が最大のときです。設問5より、ψ は (i) の領域で θ とともに増加し、sinθ=n で ψ=π−2arcsinn に達し、(ii) の領域では π−2θ と減少します。したがって
ψmax=π−2arcsinn(b=nr0 のとき)
です。このとき
sin2ψmax=sin(2π−arcsinn)=cos(arcsinn)=1−n2=mV122U0
なので、m=m1+m2m1m2 を代入して
εmax=(m1+m2)22m12m2V12⋅mV122U0=m1+m24m1U0
を得ます。次元はエネルギーで、V1 が式から消えるのが特徴です。妥当性は極限で確かめられます。U0→2mV12(n→0)では εmax→(m1+m2)22m12m2V12 となり、これは ψ=π に対応する設問2の上限に一致します。U0→0 では εmax→0 で、相互作用が消える極限として正しい振る舞いです。
7 TeV の陽子を正面衝突させる円型加速器(重心系エネルギー 14 TeV)を題材に、相対論的運動学と磁場中の軌道半径を扱います。c=3.0×108m/s、陽子の静止質量 0.94 GeV/c2 とします。後半は、磁化した鉄を通してミューオンの運動量を測る方法について、電離損失(図1の −dE/dx 曲線を使います)と多重クーロン散乱の効果を評価します。
γ≡E/(mc2)=0.947.0×103=7.45×103 です。v/c=1−γ−2 を γ≫1 で展開すると
1−cv≃2γ21=2×(7.447×103)21=9.0×10−9
です。答えは 1−v/c=9.0×10−9 で、光速との差は v に換算して 2.7m/s 程度しかありません。
固定標的の場合、ローレンツ不変量は
s=(E0+mc2)2−p02c2=E02+2E0mc2+m2c4−(E02−m2c4)=2mc2E0+2m2c4
です。重心系エネルギー s=14 TeV を要求すると
E0=2mc2s−2m2c4=2mc2s−mc2≃2×0.94 GeV(1.4×104 GeV)2=1.0×108 GeV
すなわち E0=1.0×105 TeV です(mc2 の項は 10−9 程度の補正で無視できます)。衝突型加速器の 7 TeV に対して4桁も大きなエネルギーが必要で、これが正面衝突方式を採る理由です。固定標的では s∝E0 しか伸びないためです。
E≫mc2 より pc=E2−m2c4≃E=7.0 TeV です。R=p/(eB) に p/e=7.0×1012 V/c を入れると
R=(3.0×108 m/s)×(8.3 V⋅s/m2)7.0×1012 V=2.8×103 m
です。答えは R=2.8×103 m(約 2.8 km)で、周長は 2πR≃18 km 程度になります。実際の加速器は直線部を含むためリング全周はこれより長くなります。
ミューオンの質量は Mc2=0.1 GeV、エネルギー 100 GeV では pc≃E=100 GeV なので
Mcp=0.1100=1.0×103.
図1の横軸 p/Mc=1000 で鉄(Fe)の曲線を読むと −dE/dx≃2 MeVg−1cm2 です。厚さ 1 m の鉄は
x=100 cm×8 g/cm3=8×102 g/cm2
に相当するので
ΔE≃2 MeVg−1cm2×8×102 g/cm2=1.6×103 MeV≃2 GeV
です。答えは有効数字1桁で約 2 GeV です。失うのは入射エネルギーの 2 % 程度なので、通過中に p/Mc がほとんど変わらず、−dE/dx を一定として掛け算してよいことも確認できます。逆に、鉄 1 m を貫くには少なくとも 2 GeV 程度のエネルギーが必要だとわかります。
磁化した鉄(磁束密度 B、厚さ l)を通過するとき、軌道半径は R=p/(eB) で、曲がる角度は θ≪1 より
θ≃Rl=peBl.
これを p=eBl/θ と読めば運動量が角度測定に帰着し、誤差は
pΔp=θΔθ
で決まります。多重クーロン散乱による角度の広がりは Δθ=Cl/p(C は物質で決まる定数)なので
pΔp=eBl/pCl/p=eBlC∝Bl1.
すなわち測定精度は運動量 p に依存せず(Δθ と θ が同じ 1/p を持つので打ち消し合います)、B と l の両方に反比例します。したがって磁束密度を上げるか鉄を厚くすれば精度は上がりますが、厚さの効果は l でしか効かないので、強く磁化させるほうが効率的です。
例として、曲がり角 θ を決めるための飛跡検出器の位置分解能が挙げられます。入射・出射の方向はそれぞれ複数の検出器の位置測定から直線を引いて求めるので、位置分解能と検出器間距離で決まる角度誤差 Δθdet が必ず残ります。この寄与は
pΔp=θΔθdet=eBlpΔθdet
と p に比例して悪化するので、高運動量側では多重散乱よりこちらが支配的になります。検出器の据え付け位置のずれ(アライメント誤差)も同じ形で効きます。
このほかにも、電離損失そのもののゆらぎ(ランダウ分布の裾)によって鉄の中で運動量が確率的に変わること、高エネルギーでの制動放射や対生成による大きなエネルギー損失、鉄の磁化の不均一・飽和による B の不確かさ(Δp/p=ΔB/B として直接効きます)などが精度を制限します。
6端子(1, 4 が電流方向の両端、6 と 2 が左側で向かい合う1対、5 と 3 が右側の1対)に加工した半導体試料を、定電流源と電圧計1台ずつで測ります。等価回路は中央の R0 と、各端子に直列に入る未知の接触抵抗 Rc からなり、6, 1, 2 は左のノード、5, 4, 3 は右のノードにつながっています。電圧計の入力抵抗を Rz とし、Rz≫R0,Rc です。後半は磁場を加えてホール電圧を測り、最後に磁性体上に置いたときのヒステリシスを読み取ります。
定電流源を端子 1 と 4 に、電圧計を端子 6 と 5 につなぎます(6 と 3、2 と 5、2 と 3 でも同じです)。
理由は2つあります。電流経路に入る接触抵抗(端子 1, 4 の Rc)は、定電流源を使う限り試料に流れる電流 I を変えません。電流源が余分に電圧を出すだけで、I は設定値のままです。一方、電圧計側の端子 6, 5 には Rz≫R0,Rc のためほとんど電流が流れないので、その腕の Rc での電圧降下 IzRc が無視でき、電圧計は左右のノード間の電位差、すなわち IR0 だけを読みます。電流を流す端子と電圧を測る端子を分けることで、未知の Rc を測定値から追い出すのが4端子法です。
有限の Rz では、電圧計の枝(Rc+Rz+Rc)に電流が分流します。左右のノード間で R0 と (Rz+2Rc) が並列なので、電圧計を流れる電流は Iz=IR0+2Rc+RzR0、読みは V=IzRz です。よって
IV=R0+2Rc+RzR0Rz
となり、R0 からのずれは
IV−R0=−R0+2Rc+RzR0(R0+2Rc)≃−RzR0(R0+2Rc)
です(最後は Rz≫R0,Rc)。相対誤差は −(R0+2Rc)/Rz で、必ず真の値を小さく見積もる方向にずれます。接触抵抗が大きいほど誤差も大きくなるので、Rz を Rc よりも十分大きく取ることが要求されます。
零位法(ポテンショメーター法)を使います。定電流源は端子 1, 4 につないだままにし、端子 6 と 5 の間に、可変定電圧源と電流計を直列にした枝をつなぎます。可変定電圧源の出力 V を変えていき、電流計の読みがちょうど 0 になる点を探します。
電流計が 0 を指すとき、電圧計の場合と違って端子 6, 5 の腕には全く電流が流れないので、Rc での電圧降下は厳密に 0 です。したがってそのときの可変定電圧源の出力 V は左右のノード間の電位差そのもの、すなわち V=IR0 に一致します。可変定電圧源の設定値 V と定電流源の電流 I から
R0=IV
と決まり、Rc も測定器の内部抵抗も原理的に効きません(設問2の −R0(R0+2Rc)/Rz 型の系統誤差が消えます)。電流計は零位の判定にだけ使うので、その内部抵抗の値も結果に入りません。
ホール電場は電流と磁場の両方に垂直、すなわち試料面内で電流に垂直な方向に生じます。したがって定電流源を端子 1 と 4(電流方向の両端)につなぎ、電圧計は電流路をはさんで向かい合う1対、端子 6 と 2 につなぎます(5 と 3 でも同じです)。Bext=0 ならこの対の電位差は 0 で、磁場によって生じた差がホール電圧 VH です。
電流が流れる断面の幅を w=2.0 mm、厚さを t=0.50 mm とすると、電流密度は j=I/(wt)、ホール電圧はホール電場に幅を掛けて
VH=EHw=n∣e∣jBw=n∣e∣tIB
です。幅 w が消えて厚さだけが残るのがホール測定の特徴です。n について解くと
n=∣e∣tVHIB=(1.6×10−19 C)×(5.0×10−4 m)×(1.2×10−5 V)(1.0×10−4 A)×(0.50 T)=5.2×1022 m−3
です。答えは n=5.2×1022 m−3(=5.2×1016 cm−3)で、ドープした半導体として妥当な桁です。単位も A⋅T/(C⋅m⋅V)=m−3 と合っています。
半導体が感じる磁束密度は Bext+BM で、磁性体がないときの校正 VH=aBext から VH=a(Bext+BM) です。よって
BM=aVH−Bext
で、図2(b) の実線と破線の縦方向の差を a で割ればそのまま BM が読めます。
図2(b) の実線は、傾きが破線と同じ2本の平坦部(頂点 2 から頂点 1 へ向かう上側と、頂点 3 から頂点 4 へ向かう下側)と、それらを結ぶ2本の急峻部(頂点 2 から頂点 3 へ下るものと、頂点 4 から頂点 1 へ上るもの)からできています。平坦部は破線と平行なので、そこでは VH−aBext が一定、すなわち BM が一定で、磁化が飽和していることを意味します。急峻部は磁化が反転している領域で、BM が短い Bext 範囲で符号を変えます。破線と実線の交点では BM=0 なので、Bext=B0(増加方向の枝)と、対称性から Bext=−B0(減少方向の枝)が保磁力に対応します。
したがって BM は Bext の関数として、上下2本の水平線とその間を結ぶ急な立ち上がり・立ち下がりからなる角型のヒステリシスループになります。上側の水平線は頂点 2 の位置から右へ(頂点 1 を通って)伸び、下側の水平線は頂点 4 の位置から左へ(頂点 3 を通って)伸びます。Bext=0 は上側の平坦部の上にあり、そこで VH=V0 なので
BMmax=aV0
が BM の最大値です(下側の平坦部は −V0/a)。
頂点の対応は、図2(b) の頂点 1, 2 がともに上側の平坦部(BM=+V0/a)の右端・左端に、頂点 3, 4 がともに下側の平坦部(BM=−V0/a)の左端・右端に移ります。横軸の位置は元の図と同じで、B3<−B0<B2<0<B4<B0<B1 の順です。Bext を増やすときは下の平坦部から頂点 4 で立ち上がって頂点 1 で上の平坦部に乗り、減らすときは上の平坦部を頂点 2 まで戻ってから立ち下がる、という向きに一周します。
フレネル・キルヒホフの回折公式
u(xs,ys)=iλ1∫∫g(x0,y0)reikrdx0dy0,r=zs2+(x0−xs)2+(y0−ys)2
において、r の展開
r=zs+2zsxs2+ys2−zsxsx0+ysy0+2zsx02+y02−⋯
の第3項までを残すのがフラウンホーファー近似です。後半は x0=a, y0=x0, y0=−x0 で囲まれた直角三角形(頂点が原点、(a,a), (a,−a))の開口に一定振幅 g0 の光が入る場合を扱います。
第4項が位相 kr に与える寄与が 2π より十分小さい、という条件は
k2zs(x02+y02)max≪2π⟺zs≫2λ(x02+y02)max
です。一辺 6 mm の正方形開口で x02+y02 が最大になるのは角(x0=y0=3 mm)で、(x02+y02)max=2×(3×10−3)2=1.8×10−5 m2 です。λ=6.0×10−7 m を入れると
zs≫2×6.0×10−71.8×10−5 m=15 m
となります。余分な位相がちょうど 2π になるのが zs=15 m なので、これを 2π より十分小さくするには zs が 100 m 以上のオーダーでなければなりません。数 m の実験室では到底届かず、この開口と波長でフラウンホーファー近似が成り立つ状況を直接つくることはできません。
eikr の位相のうち第4項 +k(x02+y02)/(2zs) を打ち消すような位相を、レンズが透過光に与えればよいことになります。すなわち開口面上の点 (x0,y0) を通る光に
δ=−2zsk(x02+y02)=−λzsπ(x02+y02)
の位相差(光軸からの距離の2乗に比例して位相が進む、言い換えれば中心を通る光ほど大きく遅らせる)を与える設計です。これは透過関数 exp[−ik(x02+y02)/(2f)] を持つ焦点距離 f=zs の凸レンズにほかなりません。スクリーンをレンズの焦点面に置けば、有限距離でフラウンホーファー・パターンが観測できます。
第3項までを残し、分母を r≃zs とすると
u(xs,ys)=iλzseik(zs+2zsxs2+ys2)∫∫g(x0,y0)exp[−ikzsxsx0+ysy0]dx0dy0
です。k=2π/λ より kzsxs=2πλzsxs=2πfx、同様に kzsys=2πfy なので、指数は −2πi(fxx0+fyy0) となり、積分は定義そのままの2次元フーリエ変換です。
u(xs,ys)=iλzseiΦG(fx,fy),Φ=k(zs+2zsxs2+ys2)
で、eiΦ=1, ∣1/i∣=1 なので光強度は
I=∣u∣2=(λzs)21∣G(fx,fy)∣2∝∣G(fx,fy)∣2
となります。位相因子 Φ は (xs,ys) に依存しますが絶対値に効かないので、強度分布はフーリエ変換の絶対値の2乗だけで決まります。
開口は 0≤x0≤a, −x0≤y0≤x0 です。y0 積分を先に行うと
∫−x0x0e−2πifyy0dy0=2πifye2πifyx0−e−2πifyx0=πfysin(2πfyx0)
なので
G=g0∫0ae−2πifxx0πfysin(2πfyx0)dx0=2πifyg0∫0a[e−2πi(fx−fy)x0−e−2πi(fx+fy)x0]dx0.
ここで
∫0ae−2πiαx0dx0=2πiα1−e−2πiαa=ae−iπαasinc(αa)
を使うと(sincx=sinπx/(πx))
G(fx,fy)=2πifyg0a[e−iπa(fx−fy)sinca(fx−fy)−e−iπa(fx+fy)sinca(fx+fy)]
を得ます。指定された G=A(e−BsincC−e−DsincE) の形では
A=2πifyg0a,B=iπa(fx−fy),C=a(fx−fy),D=iπa(fx+fy),E=a(fx+fy)
です。検算として fx=0 と置くと G(0,fy)=g0a2sinc2(afy) となり、さらに fy→0 で G→g0a2、すなわち g0×(三角形の面積 a2)に一致します。
sinc が偶関数であること、g0 と sinc が実であることを使います。
fy→−fy では、前の因子 1/(2πify) が符号を変え、角括弧内の2項も入れ替わって符号を変えるので、両者が打ち消して
G(fx,−fy)=G(fx,fy)
です。振幅も位相も fx 軸に関して対称です。これは開口が y0→−y0 の鏡映対称性を持つことの反映です。
fx→−fx では、各指数の符号だけが反転して
G(−fx,fy)=2πifyg0a[eiπa(fx+fy)sinca(fx+fy)−eiπa(fx−fy)sinca(fx−fy)]=G(fx,fy)
となります(複素共役をとると 1/(2πify) の符号が変わり、それが角括弧内の入れ替えと一致します)。したがって fy 軸に関しては、振幅 ∣G∣ は対称、位相は符号が反転して反対称です。上の2つを合わせると
G(−fx,−fy)=G(fx,fy)
で、これは g が実であることから来る一般的な性質(原点対称性)です。結局、振幅 ∣G∣ は fx 軸・fy 軸のどちらに関しても鏡映対称で、位相は fx 軸に関して偶、fy 軸に関して奇です。開口自身は x0 軸に関する鏡映対称性しか持ちませんが、強度分布は両軸に関して対称になります。
適当なのは (d) です。
根拠を述べます。まず設問5より ∣G∣ は fx 軸と fy 軸の両方に関して対称なので、回折像も両軸に関して対称でなければなりません。片側だけに筋が伸びる (a), (b) はこれで排除されます。
次に軸上の振る舞いを比べます。fy=0 では開口の y0 方向の幅 2x0 が現れて
G(fx,0)=2g0∫0ax0e−2πifxx0dx0=−πifxg0ae−2πifxa+O(fx−2),∣G(fx,0)∣≃π∣fx∣g0a
と 1/∣fx∣ でしか減衰せず、途中に完全な零点もありません。一方
G(0,fy)=g0a2sinc2(afy)
は 1/fy2 で減衰し、afy が整数のところで零になります。したがって原点から離れた領域で強度が残るのは xs 軸方向で、ys 軸方向には筋が伸びません。縦方向の筋を持つ (c) と (e) はこれで排除され、横方向の筋と斜め45度方向の筋だけを持つ (d) が残ります。
斜め方向についても式から直接わかります。fy=±fx に沿うと2つの sinc の引数の一方が 0 に固定されて値 1 になるので
∣G(fx,±fx)∣=2π∣fx∣g0a1−e−2πiafxsinc(2afx)≃2π∣fx∣g0a
と、やはり 1/∣fx∣ でしか減衰しません。一般の方向では2つの sinc がともに 1/f で小さくなって 1/f2 減衰になるので、遠方で目立つのは横方向と斜め45度方向の合計6本の筋です。これが (d) です。
物理的には、回折像の筋は開口の直線的な縁に垂直な方向に伸びます。この三角形の縁は x0=a(縦の辺)と y0=±x0(45度の2辺)の3本で、それぞれの法線方向は xs 軸方向と斜め ∓45 度方向です。水平な縁がないので ys 軸方向の筋は現れません。∣G(fx,0)∣ の 1/∣fx∣ 減衰は fy=0 断面での実効的な開口分布 2x0 が x0=a で不連続に切れること、∣G(0,fy)∣ の 1/fy2 減衰は fx=0 断面での分布が連続な三角形関数であることに対応しています。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成21年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。