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オイラーとラマヌジャン:計算の巨人と、直感の人

前提:四色定理:地図が4色で塗れる理由と、コンピュータが書いた最初の証明

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  • オイラーの等式 eiπ+1=0e^{i\pi} + 1 = 0 は「美しい標語」ではなく、指数関数・三角関数・複素数を級数の言葉で書き直すと必然的に出てくる等式です。この記事では級数から実際に導きます。
  • オイラーは 20 代でバーゼル問題 1+14+19+=π261 + \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \cdots = \frac{\pi^2}{6} を解き、同じ 1 本の式変形から 1/n4=π4/90\sum 1/n^4 = \pi^4/90 まで一気に取り出しました。その計算を最後まで追います。
  • オイラーは「ケーニヒスベルクの橋」と「多面体定理 VE+F=2V - E + F = 2」で、長さや角度を使わない数学、つまりトポロジーとグラフ理論の入口を作りました。両方とも証明を書きます。
  • ラマヌジャンは独学で、証明なしに膨大な公式を書き残しました。その 1 つ 1π=229801k0(4k)!(1103+26390k)(k!)43964k\frac{1}{\pi} = \frac{2\sqrt{2}}{9801}\sum_{k \ge 0} \frac{(4k)!(1103+26390k)}{(k!)^4 396^{4k}} は、最初の 1 項だけで円周率が小数第 7 位まで合います。実際に計算して確かめます。
  • 2 人の対比は「直感 vs 論理」ではありません。オイラーも大胆に飛躍し、ラマヌジャンも計算の鬼でした。違いは何を証明とみなすかの基準です。最後にそこを論じます。

教科書に出てくる公式は、たいてい完成した形で登場します。eiθ=cosθ+isinθe^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta と書かれていても、「なぜそんな式を思いついたのか」「思いついた人は何を計算していたのか」は書いてありません。結果だけを見ると、数学は空から降ってきた規則の集まりに見えてしまいます。

しかし実際には、公式の裏には必ず「その人が解きたかった問題」があります。オイラーが複素数の指数を考えたのは、微分方程式を解くために振動する関数を扱いやすくしたかったからです。ラマヌジャンが円周率の奇妙な級数を書いたのは、モジュラー方程式という道具で「収束の速い級数」を大量生産していたからです。動機を知ると、公式は暗記対象から、誰かが行った具体的な計算の結果に変わります。

この記事では、数学史でもとりわけ対照的な 2 人を取り上げます。レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler、1707–1783)は、生涯に約 866 点の論文・著作を残し、いま使われている数学記号の多くを作った人です。シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(Srinivasa Ramanujan、1887–1920)は、インドの港湾事務所の事務員から出発し、32 歳で亡くなるまでにおよそ 3900 の公式をノートに書き残した人です。

ただし、この記事は伝記ではありません。2 人が実際にやった計算を、こちらで最後まで実行してみせることが目的です。

2. 準備:無限に足すとはどういうことか

Section titled “2. 準備:無限に足すとはどういうことか”

この記事では無限級数が何度も出てきます。高校で習う範囲を少しだけ確認しておきます。

定義 2.1無限級数の和

数列 a1,a2,a3,a_1, a_2, a_3, \ldots に対し、第 NN 部分和を SN=a1+a2++aNS_N = a_1 + a_2 + \cdots + a_N とおきます。NN \to \infty のとき SNS_N がある実数(または複素数)SS に近づくとき、

n=1an=S\sum_{n=1}^{\infty} a_n = S

と書き、この級数は SS収束するといいます。近づく先がないときは発散するといいます。

つまり「無限個を足す」という操作そのものがあるわけではなく、有限個の和を作ってから極限を取るという 2 段構えの定義です。この点をあいまいにすると、1=0.9991 = 0.999\ldots をめぐる混乱と同じ種類の誤解が起きます(無限小数の値も 同じ 2 段構えで定義され(定義 2.2)[1 は 0.999… と等しいか]、そこから 0.999… = 1(定理 3.7)[1 は 0.999… と等しいか] が従います。詳しくは 1は0.999…と等しいか? を参照してください)。

定義 2.2複素数の指数関数

複素数 zz に対し

ez=n=0znn!=1+z+z22!+z33!+e^{z} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{z^n}{n!} = 1 + z + \frac{z^2}{2!} + \frac{z^3}{3!} + \cdots

と定めます。この級数はすべての複素数 zz で絶対収束します。

注意 2.3

ee の複素数乗」は、ee を何回か掛けるという素朴な意味では定義できません。e2e^{2} なら「ee を 2 回掛ける」で済みますが、eie^{i} を「eeii 回掛ける」と読むことはできないからです。そこで、実数のときに成り立っていた級数展開の方を定義として採用するという手を使います。定義を拡張するときの常套手段で、「新しい定義は古い定義と矛盾しない(zz が実数なら従来の eze^z と一致する)」ことだけを確認すればよいわけです。

絶対収束するとは、zn/n!\sum |z^n/n!| が収束することです。これは重要で、絶対収束する級数は足す順番を入れ替えても和が変わらず、2 つの級数の積を項別に展開してよいことが保証されます。この保証がないと、以下の計算はすべて意味を失います。

3. オイラー:バーゼル問題という出世作

Section titled “3. オイラー:バーゼル問題という出世作”

1644 年、イタリアのピエトロ・メンゴリが次の問題を提起しました。

1+14+19+116+=n=11n21 + \frac{1}{4} + \frac{1}{9} + \frac{1}{16} + \cdots = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2}

これはいくつになるか。収束すること自体はすぐわかります。n2n \ge 2 のとき 1n2<1n(n1)=1n11n\frac{1}{n^2} < \frac{1}{n(n-1)} = \frac{1}{n-1} - \frac{1}{n} なので、部分和は 1+(11N)<21 + (1 - \frac{1}{N}) < 2 で上に有界だからです。しかし「いくつか」がわからない。ヤコブ・ベルヌーイをはじめ当時の一流の数学者が挑んで失敗し、ベルヌーイ家の本拠地の名を取って「バーゼル問題」と呼ばれました。

数値的に足してみても手がかりは出ません。N=1000N = 1000 まで足しても 1.64391.6439\ldots で、収束が遅いうえに、この数を見て π2/6=1.6449\pi^2/6 = 1.6449\ldots を思いつくのは無理です。

1735 年、28 歳のオイラーが答えを出しました。使ったのは、次のような大胆な類推です。

定理 3.1バーゼル問題

n=11n2=π26\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}

が成り立ちます。

証明(定理 3.1)

以下はオイラー自身の議論です。1 か所に飛躍があります(それがどこかは証明のあとで明示します)。

sinx\sin x のテイラー展開

sinx=xx33!+x55!\sin x = x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \cdots

の両辺を xx で割ると

sinxx=1x26+x4120\frac{\sin x}{x} = 1 - \frac{x^2}{6} + \frac{x^4}{120} - \cdots

です。左辺を「無限次の多項式」とみなします。この関数の零点は x=±π,±2π,±3π,x = \pm\pi, \pm 2\pi, \pm 3\pi, \ldots です(x=0x = 0sinx/x1\sin x / x \to 1 なので零点ではありません)。

有限次の多項式 P(x)P(x)P(0)=1P(0) = 1 で零点 r1,,rmr_1, \ldots, r_m をもつなら

P(x)=(1xr1)(1xrm)P(x) = \left(1 - \frac{x}{r_1}\right)\cdots\left(1 - \frac{x}{r_m}\right)

と書けます。オイラーはこれを無限次にそのまま延長しました。零点 ±nπ\pm n\pi を 2 つずつ組にすると

sinxx=n=1(1xnπ)(1+xnπ)=n=1(1x2n2π2)\frac{\sin x}{x} = \prod_{n=1}^{\infty}\left(1 - \frac{x}{n\pi}\right)\left(1 + \frac{x}{n\pi}\right) = \prod_{n=1}^{\infty}\left(1 - \frac{x^2}{n^2\pi^2}\right)

となります。

さて、この無限積を展開したときの x2x^2 の係数を考えます。各因子から x2n2π2-\frac{x^2}{n^2\pi^2} を 1 つだけ選び、残りからは 11 を選ぶ、という取り方の総和なので、x2x^2 の係数は

n=11n2π2=1π2n=11n2-\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2\pi^2} = -\frac{1}{\pi^2}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}

です。一方、テイラー展開の側では x2x^2 の係数は 16-\frac{1}{6} でした。多項式の係数比較と同じように両者を等置すると

1π2n=11n2=16-\frac{1}{\pi^2}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2} = -\frac{1}{6}

すなわち 1/n2=π2/6\sum 1/n^2 = \pi^2/6 を得ます。

注意 3.2

飛躍は「零点が同じなら因数分解の形も同じ」と決めつけたところにあります。これは無限次では一般には成り立ちません。この点は Appendix で反例つきで説明します。オイラー自身も危うさを自覚しており、π2/6=1.644934\pi^2/6 = 1.644934\ldots と部分和を高精度で照合し、さらに別の方法でも同じ値を導いてから発表しました。答えを予想する道具と、答えを証明する道具は別物でよいというのが、ここでの教訓です。逆に、数値がいくら合っても証明にはなりません(40 回当たって 41 回目に外れる公式(例 4.2)[数学はなぜ難しいのか] がその戒めです)。厳密な正当化は 19 世紀のワイエルシュトラスの因数分解定理まで待ちます。

3.2. おまけで手に入る ζ(4)\zeta(4)

Section titled “3.2. おまけで手に入る ζ(4)\zeta(4)ζ(4)”

同じ 1 本の式から、もっと取れます。無限積を展開したときの x4x^4 の係数を見ましょう。

例 3.34 乗の逆数和

x4x^4 の項は、因子のうち相異なる 2 つから x2m2π2-\frac{x^2}{m^2\pi^2}x2n2π2-\frac{x^2}{n^2\pi^2}mmnn は異なる)を選んだときに出ます。符号は (1)2=+1(-1)^2 = +1 なので、x4x^4 の係数は

1π4m<n1m2n2\frac{1}{\pi^4}\sum_{m < n}\frac{1}{m^2 n^2}

です。ここで S2=1/n2S_2 = \sum 1/n^2S4=1/n4S_4 = \sum 1/n^4 とおくと

S22=(m1m2)(n1n2)=m=n1m2n2+2m<n1m2n2=S4+2m<n1m2n2S_2^{\,2} = \left(\sum_m \frac{1}{m^2}\right)\left(\sum_n \frac{1}{n^2}\right) = \sum_{m = n}\frac{1}{m^2n^2} + 2\sum_{m<n}\frac{1}{m^2n^2} = S_4 + 2\sum_{m<n}\frac{1}{m^2n^2}

なので

m<n1m2n2=S22S42\sum_{m<n}\frac{1}{m^2n^2} = \frac{S_2^{\,2} - S_4}{2}

です。テイラー展開の側の x4x^4 の係数は 1120\frac{1}{120} ですから

1π4S22S42=1120S22S4=π460.\frac{1}{\pi^4}\cdot\frac{S_2^{\,2} - S_4}{2} = \frac{1}{120} \quad\Longrightarrow\quad S_2^{\,2} - S_4 = \frac{\pi^4}{60}.

定理 3.1 より S2=π2/6S_2 = \pi^2/6 なので S22=π4/36S_2^{\,2} = \pi^4/36 です。したがって

S4=π436π460=π4(51803180)=2π4180=π490.S_4 = \frac{\pi^4}{36} - \frac{\pi^4}{60} = \pi^4\left(\frac{5}{180} - \frac{3}{180}\right) = \frac{2\pi^4}{180} = \frac{\pi^4}{90}.

数値で確認します。π4=97.4091\pi^4 = 97.4091\ldots なので π4/90=1.082323\pi^4/90 = 1.082323\ldots です。左辺を 4 項だけ足すと

1+116+181+1256=1+0.0625+0.012346+0.003906=1.0787521 + \frac{1}{16} + \frac{1}{81} + \frac{1}{256} = 1 + 0.0625 + 0.012346 + 0.003906 = 1.078752

で、確かに 1.08231.0823 に向かって増えていきます。合っています。

同じ手順を続ければ ζ(6)=π6/945\zeta(6) = \pi^6/945ζ(8)=π8/9450\zeta(8) = \pi^8/9450 と、偶数乗の場合はいくらでも計算できます。オイラーは ζ(26)\zeta(26) まで求めました。ちなみに奇数乗の場合は現在に至るまで閉じた式が知られていませんζ(3)\zeta(3) が無理数であることをアペリーが証明したのは 1978 年で、ζ(5)\zeta(5) が無理数かどうかすら未解決です。

4. オイラーの等式:eiπ+1=0e^{i\pi} + 1 = 0

Section titled “4. オイラーの等式:eiπ+1=0e^{i\pi} + 1 = 0eiπ+1=0”

定理 4.1オイラーの公式

すべての実数 θ\theta に対して

eiθ=cosθ+isinθe^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta

が成り立ちます。ただし eiθe^{i\theta}定義 2.2 の級数で定義されたものとします。

証明(定理 4.1)

定義 2.2z=iθz = i\theta を代入します。

eiθ=n=0(iθ)nn!=n=0inθnn!.e^{i\theta} = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(i\theta)^n}{n!} = \sum_{n=0}^{\infty}\frac{i^n\theta^n}{n!}.

ii のべきは i0=1, i1=i, i2=1, i3=ii^0 = 1,\ i^1 = i,\ i^2 = -1,\ i^3 = -i と 4 周期で循環します。そこで nn を偶数 n=2kn = 2k と奇数 n=2k+1n = 2k+1 に分けます。i2k=(i2)k=(1)ki^{2k} = (i^2)^k = (-1)^ki2k+1=(1)kii^{2k+1} = (-1)^k i ですから

eiθ=k=0(1)kθ2k(2k)!+ik=0(1)kθ2k+1(2k+1)!.e^{i\theta} = \sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k\theta^{2k}}{(2k)!} + i\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k\theta^{2k+1}}{(2k+1)!}.

この「偶数項と奇数項に分ける」という並べ替えが許されるのは、注意 2.3 で述べたとおり、この級数が絶対収束しているからです。

最後に、右辺の 2 つの級数はそれぞれ cosθ\cos\thetasinθ\sin\theta のテイラー展開

cosθ=1θ22!+θ44!,sinθ=θθ33!+θ55!\cos\theta = 1 - \frac{\theta^2}{2!} + \frac{\theta^4}{4!} - \cdots,\qquad \sin\theta = \theta - \frac{\theta^3}{3!} + \frac{\theta^5}{5!} - \cdots

そのものです。よって eiθ=cosθ+isinθe^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta を得ます。

系 4.2オイラーの等式

eiπ+1=0.e^{i\pi} + 1 = 0.
証明(系 4.2)

定理 4.1θ=π\theta = \pi とおきます。cosπ=1\cos\pi = -1sinπ=0\sin\pi = 0 なので eiπ=1+0i=1e^{i\pi} = -1 + 0\cdot i = -1 です。両辺に 11 を足せば eiπ+1=0e^{i\pi} + 1 = 0 となります。

この等式が「美しい」と言われるのは、00(加法の単位元)、11(乗法の単位元)、π\pi(円)、ee(増大)、ii(虚数)という、出自のまったく異なる 5 つの定数が 1 本の等式で結ばれるからです。ただし、証明を見たあとなら、これは神秘ではなく必然だとわかります。eiθe^{i\theta} は複素平面上で単位円を等速で回る点であり、θ=π\theta = \pi で半周して 1-1 に着く、それだけのことです。

θcos θ + i sin θ−1(θ = π)cos θsin θ実軸虚軸
複素平面上の e^{iθ}。半径 1 の円周を角度 θ だけ回った点が cos θ + i sin θ にあたる。

公式の値打ちは、使ってみるとわかります。

例 4.3虚数の虚数乗は実数

iii^i を計算します。定理 4.1θ=π/2\theta = \pi/2 とすると eiπ/2=cosπ2+isinπ2=0+i=ie^{i\pi/2} = \cos\frac{\pi}{2} + i\sin\frac{\pi}{2} = 0 + i = i です。したがって

ii=(eiπ/2)i=eiiπ/2=eπ/2.i^{\,i} = \left(e^{i\pi/2}\right)^{i} = e^{i \cdot i\pi/2} = e^{-\pi/2}.

数値にすると π/2=1.5707963\pi/2 = 1.5707963\ldots なので

ii=e1.5707963=0.2078795i^{\,i} = e^{-1.5707963\ldots} = 0.2078795\ldots

虚数の虚数乗が、ふつうの正の実数になりました。

注意が 1 つあります。i=ei(π/2+2πn)i = e^{i(\pi/2 + 2\pi n)}nn は整数)とも書けるので、同じ計算で ii=eπ/22πni^i = e^{-\pi/2 - 2\pi n} という値も出てきます。複素数のべきは多価であり、上の 0.20780.2078\ldotsn=0n = 0 を選んだときの主値です。

命題 4.4ド・モアブルの定理

すべての実数 θ\theta と整数 n0n \ge 0 に対して

(cosθ+isinθ)n=cosnθ+isinnθ(\cos\theta + i\sin\theta)^n = \cos n\theta + i\sin n\theta

が成り立ちます。

証明(命題 4.4)

定理 4.1 より cosθ+isinθ=eiθ\cos\theta + i\sin\theta = e^{i\theta} です。定義 2.2 の級数は絶対収束するので項別に掛け合わせてよく、そこから指数法則 ezew=ez+we^{z}e^{w} = e^{z+w} が従います。これを nn 回使うと

(eiθ)n=eiθeiθ=einθ\left(e^{i\theta}\right)^n = e^{i\theta}\cdots e^{i\theta} = e^{in\theta}

です。最後にもう一度 定理 4.1nθn\theta に適用して einθ=cosnθ+isinnθe^{in\theta} = \cos n\theta + i\sin n\theta を得ます。

命題 4.4 は加法定理の製造機です。n=2n = 2 として左辺を展開すると

(cosθ+isinθ)2=cos2θsin2θ+2isinθcosθ(\cos\theta + i\sin\theta)^2 = \cos^2\theta - \sin^2\theta + 2i\sin\theta\cos\theta

なので、実部と虚部を比べるだけで cos2θ=cos2θsin2θ\cos 2\theta = \cos^2\theta - \sin^2\thetasin2θ=2sinθcosθ\sin 2\theta = 2\sin\theta\cos\theta が同時に得られます。加法定理を丸暗記していなくても、指数法則から再生産できるわけです。

5. 形を測らない数学:橋と多面体

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オイラーの仕事のうち、現代への影響がとりわけ大きいのは、長さも角度も使わないタイプの議論です。

プロイセンの都市ケーニヒスベルク(現在のカリーニングラード)には、プレーゲル川に 7 本の橋が架かっていました。「すべての橋をちょうど 1 回ずつ渡って散歩できるか」というのが市民の間の話題でした。オイラーは 1736 年、これを次のように抽象化します(抽象化(定義 3.1)[数学はなぜ難しいのか] の教科書的な実例です)。陸地を点、橋を線とみなす。すると土地の形も橋の長さも関係なくなり、残るのは「どの陸地とどの陸地が何本つながっているか」だけです。

graph LR
A["北岸 A"] --- C["中州 C"]
A --- C
B["南岸 B"] --- C
B --- C
C --- D["東岸 D"]
A --- D
B --- D
ケーニヒスベルクの橋。頂点は 4 つの陸地、辺は 7 本の橋を表す。

定義 5.1次数と一筆書き

グラフの頂点 vv に接続する辺の本数を、vv次数といい deg(v)\deg(v) と書きます。グラフのすべての辺をちょうど 1 回ずつ通る歩道をオイラー路といいます(出発点と終点が一致する場合はオイラー閉路といいます)。

命題 5.2一筆書きの必要条件

連結なグラフにオイラー路が存在するならば、次数が奇数である頂点の個数は 00 個または 22 個です。

証明(命題 5.2)

オイラー路を 1 つ取り、それに沿って進む状況を考えます。頂点 vv が路の出発点でも終点でもないとします。このとき、路が vv を訪れるたびに、必ず 1 本の辺で入り、別の 1 本の辺で出ます。つまり vv を訪れる回数を kk とすると、vv に接続する辺のうち路が使うものは 2k2k 本です。オイラー路はすべての辺をちょうど 1 回ずつ使うので、vv に接続する辺はこの 2k2k 本ですべてです。よって deg(v)=2k\deg(v) = 2k は偶数です。

出発点と終点だけが例外になります。出発点では最初に「出る」だけの辺が 1 本余分にあり、終点では最後に「入る」だけの辺が 1 本余分にあります。出発点と終点が異なるなら、この 2 頂点の次数は奇数、他はすべて偶数です。出発点と終点が一致するなら、余分な 2 本が同じ頂点に集まるので次数はやはり偶数になり、奇数次数の頂点は 0 個です。

以上より、奇数次数の頂点は 0 個か 2 個に限られます。

ケーニヒスベルクの図では、次数は deg(A)=3\deg(A) = 3deg(B)=3\deg(B) = 3deg(C)=5\deg(C) = 5deg(D)=3\deg(D) = 3 です(辺の本数の合計は (3+3+5+3)/2=7(3+3+5+3)/2 = 7 で、橋の数と一致しています)。奇数次数の頂点が 4 個あるので、命題 5.2 によりオイラー路は存在しません。散歩は不可能です。

注意 5.3

逆向きの主張、すなわち「連結グラフで奇数次数の頂点が 0 個または 2 個ならオイラー路が存在する」も正しく、こちらは辺の本数に関する帰納法で証明できます(証明は離散数学の教科書、たとえば R. ディーステル『グラフ理論』第 1 章にあります)。オイラーは 1736 年の論文で必要条件を厳密に論じましたが、十分性の証明は与えていません。完全な証明は 1873 年のヒエルホルツァーによります。

定義 5.4平面グラフ

グラフを平面上に、辺が端点以外で交わらないように描けるとき、そのグラフを平面的であるといい、描かれた図を平面グラフといいます。平面グラフが平面を分ける領域をといい、外側の無限に広がる領域も 1 つの面として数えます。

定理 5.5オイラーの多面体定理

連結な平面グラフの頂点数を VV、辺数を EE、面数(外側の面を含む)を FF とすると

VE+F=2V - E + F = 2

が成り立ちます。とくに凸多面体の頂点・辺・面の個数はこの関係を満たします。

証明(定理 5.5)

辺数 EE についての帰納法で示します。

(基底) グラフが閉路をもたない場合。連結で閉路のないグラフは木なので、E=V1E = V - 1 が成り立ちます(木は辺を 1 本足すごとに頂点が 1 個増えるように構成できるため)。木は平面を分割しないので面は外側の 1 つだけ、F=1F = 1 です。したがって

VE+F=V(V1)+1=2.V - E + F = V - (V-1) + 1 = 2.

(帰納段階) グラフが閉路をもつ場合。その閉路上の辺 ee を 1 本選んで取り除きます。閉路上の辺を取り除いても、その辺の両端は閉路の残りの部分を通って行き来できるので、グラフは連結なままです。

ee は閉路の一部なので、平面上で ee の両側は異なる 2 つの面に属します(これはジョルダンの曲線定理、すなわち「平面上の閉曲線は平面を内側と外側に分ける」という事実から従います。直観的には当たり前ですが、厳密な証明は易しくありません)。ee を取り除くと、この 2 つの面が 1 つにつながります。つまり EE11 減り、FF11 減り、VV は変わりません。よって VE+FV - E + F の値は変わりません。

閉路がある限りこの操作を続けられ、辺の本数は毎回減るので、有限回で閉路がなくなり基底の場合に帰着します。基底で値が 22 なのだから、元のグラフでも VE+F=2V - E + F = 2 です。

凸多面体については、1 つの面の内部に点を取って、その点から多面体の表面を平面へ射影する(あるいは、多面体をゴム膜と思って 1 つの面を大きく広げて平らに潰す)と、頂点と辺の関係を保ったまま連結な平面グラフが得られます。潰した面が外側の面に対応するので、面の個数も一致します。よって上の等式がそのまま適用できます。

具体例で確かめておきます。正十二面体は正五角形の面が 12 枚です。各面は 5 本の辺をもち、1 本の辺は 2 枚の面で共有されるので

E=12×52=30.E = \frac{12 \times 5}{2} = 30.

各頂点には 3 枚の面が集まるので、頂点は

V=12×53=20.V = \frac{12 \times 5}{3} = 20.

したがって

VE+F=2030+12=2V - E + F = 20 - 30 + 12 = 2

となり、定理 5.5 と合致します。同じ計算を正二十面体(V=12, E=30, F=20V = 12,\ E = 30,\ F = 20)でやっても 1230+20=212 - 30 + 20 = 2 です。

定理 5.5 は、四色定理の議論でも決定的な役割を果たします。「どんな平面グラフにも次数 5 以下の頂点が必ずある」という事実(小さい次数の頂点の存在(系 3.4)[四色定理])が、この等式から導かれるからです。それが 五色定理(定理 4.3)[四色定理] の証明の出発点になります(四色定理 を参照してください)。長さも角度も使わない議論が、地図の塗り分けという別の問題を支えているわけです。

6. ラマヌジャン:ノートに書かれた 3900 の公式

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シュリニヴァーサ・ラマヌジャンは 1887 年、南インドのエロードに生まれました。数学の教育は独学に近く、決定的だったのは 15 歳頃に手にした G. S. カーの『純粋数学の基本的結果の概要』という本です。この本は約 5000 の公式を証明抜きで羅列したもので、証明が読みたければ自分で作るしかありません。ラマヌジャンはそれをやりました。証明なしで結果を書き並べるという彼の生涯のスタイルは、おそらくここで形成されました。

大学では数学以外の科目に興味を示さず、奨学金を失って中退します。1912 年からマドラス港湾事務所の事務員として働きながら、ノートに公式を書きためました。

1913 年 1 月 16 日、彼はケンブリッジ大学の G. H. ハーディに手紙を書きます。約 120 の公式が証明なしで並んだ手紙でした。ハーディは同僚のリトルウッドとともに一晩かけてそれを検討し、有名な結論に達します。いくつかは既知、いくつかは自分たちにも証明できる、しかし残りはあまりに奇妙で、真であるはずがないと同時に、誰かがでっち上げられる類のものでもない。ハーディはラマヌジャンをケンブリッジへ招き、1914 年 4 月に彼は渡英しました。

第一次世界大戦下のイギリスで、菜食主義者だったラマヌジャンは食事の確保に苦しみ、体調を崩します。それでも 1918 年には王立協会(Royal Society)会員に、同年トリニティ・カレッジのフェローに選ばれました。1919 年にインドへ帰国し、1920 年 4 月、32 歳で亡くなります。死因は長く結核とされてきましたが、1994 年の D. A. B. ヤングによる医療記録の再検討以降は、肝アメーバ症だった可能性が高いと考えられています。

例 6.11729

ラマヌジャンが入院していたとき、ハーディが見舞いに来て「乗ってきたタクシーの番号は 1729 で、退屈な数だった」と言いました。ラマヌジャンは即座に答えます。「いいえ、とても興味深い数です。2 つの立方数の和として 2 通りに書ける最小の数です。」

確かめます。

13+123=1+1728=1729,93+103=729+1000=1729.1^3 + 12^3 = 1 + 1728 = 1729,\qquad 9^3 + 10^3 = 729 + 1000 = 1729.

最小であることも確認できます。a3+b31729a^3 + b^3 \le 1729 となる正の整数の組(aba \le b)は有限個しかないので、bb11 から 1212 まで動かして全部書き出せば、17291729 より小さい数で 2 通りの表示をもつものがないことは、有限回の計算で確かめられます。実際に総当たりすると、次に小さいのは

4104=23+163=8+4096,4104=93+153=729+33754104 = 2^3 + 16^3 = 8 + 4096,\qquad 4104 = 9^3 + 15^3 = 729 + 3375

です。

この逸話は「ラマヌジャンは数を友達のように知っていた」という話として語られます。ただし、種明かしもできます。1729=7×13×191729 = 7 \times 13 \times 19 で、立方数の和の理論では x3+y3=(x+y)(x2xy+y2)x^3 + y^3 = (x+y)(x^2-xy+y^2) という因数分解が中心的な役割を果たします。1729 の周辺は、彼が楕円曲線や 3 次形式の研究で何度も通った土地でした。直感は無から生じるのではなく、通い慣れた場所についてだけ働くというのが実態に近いはずです。

ラマヌジャンは 1914 年の論文「モジュラー方程式と円周率の近似」で、円周率を計算するための級数をいくつも与えました。もっとも有名なのが次の式です。

定理 6.2ラマヌジャンの円周率級数

1π=229801k=0(4k)!(1103+26390k)(k!)43964k\frac{1}{\pi} = \frac{2\sqrt{2}}{9801}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(4k)!\,\bigl(1103 + 26390k\bigr)}{(k!)^4\,396^{4k}}

が成り立ちます。

注意 6.3

ラマヌジャンはこの式に証明を付けていません。彼の背後にはモジュラー方程式(楕円モジュラー関数の満たす代数方程式)の理論がありましたが、この級数の完全な証明が公表されたのは、1987 年のジョナサン・ボーワインとピーター・ボーワインの兄弟の仕事によってです。発見から証明まで 73 年かかったことになります。証明は本記事の範囲を大きく超えるので、参考文献に挙げた Borwein–Borwein の書物を参照してください。

例 6.4最初の 1 項だけで小数第 7 位まで

定理 6.2 の右辺で k=0k = 0 の項だけを取ってみます。(40)!=0!=1(4\cdot 0)! = 0! = 1(0!)4=1(0!)^4 = 13960=1396^0 = 1 なので、k=0k = 0 の項は 11031103 です。したがって

1π22×11039801π980122×1103.\frac{1}{\pi} \approx \frac{2\sqrt{2} \times 1103}{9801} \quad\Longleftrightarrow\quad \pi \approx \frac{9801}{2\sqrt{2}\times 1103}.

計算します。22=2.82842712472\sqrt{2} = 2.8284271247\ldots なので

22×1103=3119.75511862\sqrt{2}\times 1103 = 3119.7551186\ldots98013119.7551186=3.14159273\frac{9801}{3119.7551186\ldots} = 3.14159273\ldots

真の値は π=3.14159265\pi = 3.14159265\ldots です。誤差はおよそ 7.6×1087.6\times 10^{-8}、つまり分数 1 つで小数第 7 位まで正しいことになります。

なぜこれほど速いのか。連続する 2 項の比を見ます。(4k)!/(k!)4(4k)!/(k!)^4 はおよそ 256k256^k の勢いで増え、分母の 3964k396^{4k}3964=24,591,257,856396^4 = 24{,}591{,}257{,}856kk 乗した速さで増えます。したがって 1 項進むごとに、項の大きさはおよそ

2563964=25624,591,257,8561.04×108\frac{256}{396^4} = \frac{256}{24{,}591{,}257{,}856} \approx 1.04\times 10^{-8}

倍になります。すなわち1 項ごとに約 8 桁ずつ精度が上がります。2 項取れば約 16 桁、3 項で約 24 桁です。ライプニッツの級数 π4=113+15\frac{\pi}{4} = 1 - \frac{1}{3} + \frac{1}{5} - \cdots が 1 桁増やすのに項数を 10 倍必要とするのと比べれば、桁違いという言葉が文字どおりに当てはまります。

この系譜は現代の円周率計算にそのまま生きています。1988 年にチュドノフスキー兄弟が発表した

1π=12k=0(1)k(6k)!(13591409+545140134k)(3k)!(k!)36403203k+3/2\frac{1}{\pi} = 12\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k (6k)!\,(13591409 + 545140134k)}{(3k)!\,(k!)^3\,640320^{3k + 3/2}}

は 1 項あたり約 14 桁を稼ぎ、現在の円周率計算の世界記録はほぼすべてこの式で樹立されています。構造はラマヌジャンの式と同じ、モジュラー方程式に由来する形です。

6.4. 分割数とハーディ・ラマヌジャンの公式

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ラマヌジャンの仕事のうち、その後の数学への影響がもっとも大きいものの 1 つが分割数です。

定義 6.5分割数

正の整数 nn を、順序を無視して正の整数の和として書く方法の総数を p(n)p(n) と書き、nn分割数といいます。p(0)=1p(0) = 1 と約束します。

たとえば 44 の分割は

4,3+1,2+2,2+1+1,1+1+1+14,\quad 3+1,\quad 2+2,\quad 2+1+1,\quad 1+1+1+1

の 5 通りなので p(4)=5p(4) = 5 です。p(n)p(n) は急速に増え、p(10)=42p(10) = 42p(50)=204226p(50) = 204226p(100)=190569292p(100) = 190569292 です。

定理 6.6ハーディ・ラマヌジャンの漸近公式

分割数 p(n)p(n) について

p(n)14n3exp ⁣(π2n3)(n)p(n) \sim \frac{1}{4n\sqrt{3}}\,\exp\!\left(\pi\sqrt{\frac{2n}{3}}\right) \qquad (n \to \infty)

が成り立ちます。ここで \sim は、両辺の比が nn \to \infty11 に収束することを意味します。

注意 6.7

証明は 1918 年のハーディとラマヌジャンの共著論文によります。彼らが編み出した手法は円周法と呼ばれ、生成関数を複素平面の単位円周上で積分し、有理点の近くからの寄与を足し上げるというものです。この手法はのちにヴィノグラードフらの手で整備され、「十分大きな奇数は 3 つの素数の和で書ける」といった加法的整数論の成果を生みました。1 つの公式のためだけに作られた道具が、分野全体の標準装備になった例です。なお、この漸近公式をさらに精密化して p(n)p(n)厳密な値を与える収束級数を、1937 年にラーデマッハーが得ています。

例 6.8n = 100 で精度を測る

定理 6.6 の右辺に n=100n = 100 を入れてみます。まず指数部分は

π2003=π×8.164966=25.65099\pi\sqrt{\frac{200}{3}} = \pi\times 8.164966\ldots = 25.65099\ldots

なので exp(25.65099)=1.38065×1011\exp(25.65099\ldots) = 1.38065\ldots\times 10^{11} です。分母は

4×100×3=692.82034 \times 100 \times \sqrt{3} = 692.8203\ldots

したがって近似値は

1.38065×1011692.8203=1.9928×108=199,280,000 程度.\frac{1.38065\times 10^{11}}{692.8203} = 1.9928\times 10^{8} = 199{,}280{,}000\ \text{程度}.

真の値は p(100)=190,569,292p(100) = 190{,}569{,}292 ですから、比は 1.04571.0457、誤差は約 4.6%4.6\% です。n=100n = 100 という小さな値で 5% 以内に収まるのは、漸近公式としては相当に優秀です。nn を大きくすれば比は 11 に近づきます。

例 6.9ラマヌジャンの合同式

ラマヌジャンは分割数について、次のような整除性を見つけました。

p(5n+4)0(mod5),p(7n+5)0(mod7),p(11n+6)0(mod11).p(5n+4) \equiv 0 \pmod 5,\qquad p(7n+5) \equiv 0 \pmod 7,\qquad p(11n+6) \equiv 0 \pmod{11}.

最初のものを小さい nn で確認します。p(4)=5p(4) = 5p(9)=30p(9) = 30p(14)=135p(14) = 135p(19)=490p(19) = 490。順に 5,30,135,4905, 30, 135, 490 で、すべて 55 の倍数です。

p(n)p(n) は「nn の分け方の総数」という、55 とも 77 とも何の関係もなさそうな量です。それが等差数列に沿って見ると突然きれいに割り切れる。ラマヌジャンはこれを分割数の表を眺めていて見つけたと伝えられます。数表を見て法則を見抜くというのは、彼のもっとも得意とするところでした。

7. 2 人の違いは「直感 vs 論理」ではない

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オイラーとラマヌジャンは、しばしば正反対の存在として語られます。しかし並べてみると、共通点の方が目につきます。

オイラーラマヌジャン
生没年1707–1783(76 歳)1887–1920(32 歳)
教育バーゼル大学、ヨハン・ベルヌーイに師事ほぼ独学(カーの公式集)
主な舞台ペテルブルク、ベルリンマドラス、ケンブリッジ
発見の様式級数の形式的操作、大量の数値実験数表の観察、モジュラー方程式
証明の扱い多くは付けるが、飛躍も辞さないほとんど付けない
残したもの論文・著作 約 866 点ノートの公式 約 3900 件

どちらも、まず大量に計算して法則を見つけ、そのあとで(あるいはそのあとでも)正当化を考えるという順序で仕事をしました。定理 3.1 の証明で見たとおり、オイラーの議論にも当時の基準を超える飛躍があります。逆にラマヌジャンは「直感の人」と呼ばれますが、彼のノートには膨大な手計算の跡が残っており、公式の多くは数値照合を経ています。

本当の違いは、何を証明とみなすかの基準にあります。18 世紀のヨーロッパでは、無限級数や無限積を有限の式と同じように扱ってよいかどうかの合意がまだなく、うまく行けばそれが正しさの証拠でした。20 世紀初頭のケンブリッジでは事情が違い、ハーディは厳密性の擁護者として知られていました。ラマヌジャンが「なぜそれが正しいのか」を問われて当惑した場面が伝えられていますが、それは彼の能力の問題というより、育った数学文化の違いです。

そして、証明のない主張が価値を失うわけではないことも、この 2 人が示しています。ラマヌジャンのノートは、ブルース・バーントによる注釈つき校訂が 1985 年から 1998 年にかけて全 5 巻で刊行され、記載された結果のほとんどが正しいことが確認されました。1976 年にジョージ・アンドリューズがトリニティ・カレッジの書庫から見つけた「失われたノート」に書かれていたモックテータ関数は、長らく正体不明でしたが、2002 年のサンダー・ズワーヘルスの博士論文で調和マース形式という枠組みに位置づけられ、いまではブラックホールのエントロピーの数え上げにまで顔を出します。死の直前に書き付けられた関数が、80 年後に理論の一分野を生んだわけです。

数学の進み方には少なくとも 2 つの局面があります。新しい真実を見つける局面と、それが真実であることを確定させる局面です。前者では大胆さが、後者では厳密さが要ります。1 人の中で両方が働くこともあれば、ラマヌジャンとボーワイン兄弟のように 70 年を隔てて分業になることもあります。「数学は難しい」と感じるとき、その難しさが前者のものか後者のものかを区別すると、対処法が変わってきます(証明とは何か(定義 4.1)[数学はなぜ難しいのか] の整理も含め、数学はなぜ難しいのか でこの点を扱っています)。証明のない主張がいまも生き続けている例としては、コラッツ予想 が典型です(数値による検証はどこまでも積み上がっているのに証明はありません。計算による検証の現状(注意 7.3)[コラッツ予想] を参照)。

演習 8.1

定理 4.1 を使って、次を示してください。

(1) (1+i)8=16(1+i)^8 = 16

(2) cos3θ=4cos3θ3cosθ\cos 3\theta = 4\cos^3\theta - 3\cos\theta

解答

(1) 1+i1 + i を極形式にします。絶対値は 1+i=12+12=2|1+i| = \sqrt{1^2+1^2} = \sqrt{2}、偏角は π/4\pi/4 なので

1+i=2(cosπ4+isinπ4)=2eiπ/4.1 + i = \sqrt{2}\left(\cos\frac{\pi}{4} + i\sin\frac{\pi}{4}\right) = \sqrt{2}\,e^{i\pi/4}.

したがって

(1+i)8=(2)8ei8π/4=16e2πi.(1+i)^8 = \left(\sqrt{2}\right)^8 e^{i\cdot 8\pi/4} = 16\,e^{2\pi i}.

定理 4.1 より e2πi=cos2π+isin2π=1+0i=1e^{2\pi i} = \cos 2\pi + i\sin 2\pi = 1 + 0i = 1 なので、(1+i)8=16(1+i)^8 = 16 です。

直接計算でも確認できます。(1+i)2=1+2i+i2=2i(1+i)^2 = 1 + 2i + i^2 = 2i(1+i)4=(2i)2=4(1+i)^4 = (2i)^2 = -4(1+i)8=(4)2=16(1+i)^8 = (-4)^2 = 16。一致しました。

(2) 命題 4.4n=3n = 3 で使います。

cos3θ+isin3θ=(cosθ+isinθ)3.\cos 3\theta + i\sin 3\theta = (\cos\theta + i\sin\theta)^3.

右辺を二項展開します。c=cosθc = \cos\thetas=sinθs = \sin\theta と略記すると

(c+is)3=c3+3c2(is)+3c(is)2+(is)3=c3+3ic2s3cs2is3.(c + is)^3 = c^3 + 3c^2(is) + 3c(is)^2 + (is)^3 = c^3 + 3ic^2 s - 3cs^2 - is^3.

実部を比べると cos3θ=c33cs2\cos 3\theta = c^3 - 3cs^2 です。s2=1c2s^2 = 1 - c^2 を代入して

cos3θ=c33c(1c2)=c33c+3c3=4c33c\cos 3\theta = c^3 - 3c(1 - c^2) = c^3 - 3c + 3c^3 = 4c^3 - 3c

となり、求める式を得ます。

演習 8.2標準

サッカーボール型の多面体を考えます。面はすべて正五角形か正六角形で、どの頂点にもちょうど 3 枚の面が集まっているとします。このとき、正五角形の面の枚数は必ず 12 枚であることを示してください(六角形の枚数は決まらないことも、この計算から読み取れます)。

解答

五角形の枚数を PP、六角形の枚数を HH とおきます。

面の数 F=P+HF = P + H です。

辺の数 各五角形は 5 本、各六角形は 6 本の辺をもち、どの辺もちょうど 2 枚の面に共有されます。面ごとに辺を数えると各辺は 2 回数えられるので

E=5P+6H2.E = \frac{5P + 6H}{2}.

頂点の数 面ごとに頂点を数えると、各頂点はそこに集まる面の枚数だけ重複して数えられます。仮定よりどの頂点にも 3 枚の面が集まるので

V=5P+6H3.V = \frac{5P + 6H}{3}.

これらを 定理 5.5 に代入します。VE+F=2V - E + F = 2 より

5P+6H35P+6H2+(P+H)=2.\frac{5P+6H}{3} - \frac{5P+6H}{2} + (P + H) = 2.

両辺を 6 倍すると

2(5P+6H)3(5P+6H)+6(P+H)=12,2(5P+6H) - 3(5P+6H) + 6(P+H) = 12,(5P+6H)+6P+6H=12,-(5P + 6H) + 6P + 6H = 12,P=12.P = 12.

HH は式から消えてしまい、何の制約も受けません。したがって五角形はつねに 12 枚で、六角形の枚数は形によって変わります。実際のサッカーボール(切頂二十面体)は H=20H = 20 で、このとき F=32F = 32E=(60+120)/2=90E = (60+120)/2 = 90V=180/3=60V = 180/3 = 60 となり、6090+32=260 - 90 + 32 = 2 が成り立ちます。H=0H = 0 の場合が正十二面体です。

なお、炭素分子 C60_{60}(フラーレン)が正確にこの形をしているのも、同じ理由です。五角形が 12 個必要だという結論は、化学ではなく 定理 5.5 が決めています。

演習 8.3標準

(1) 41044104 が 2 通りの立方数の和で書けることを確かめてください。

(2) 17291729 より小さい正の整数で、2 通りの正の立方数の和として書けるものが存在しないことを、有限回の計算で確かめる手順を述べてください(すべての計算を実行する必要はありません。何を何回調べれば足りるかを説明してください)。

解答

(1)

23+163=8+4096=4104,93+153=729+3375=4104.2^3 + 16^3 = 8 + 4096 = 4104,\qquad 9^3 + 15^3 = 729 + 3375 = 4104.

どちらも 41044104 になります。

(2) N<1729N < 1729N=a3+b3N = a^3 + b^31ab1 \le a \le b)と書けるとすると、b3<1729b^3 < 1729 ですから b12b \le 12 です(123=1728<1729133=219712^3 = 1728 < 1729 \le 13^3 = 2197)。したがって 1ab121 \le a \le b \le 12 の範囲の組をすべて調べれば十分です。組の個数は

(122)+12=66+12=78\binom{12}{2} + 12 = 66 + 12 = 78

通りです。この 78 個の a3+b3a^3 + b^3 の値を計算し、17291729 未満のものだけ残して、同じ値が 2 回以上現れるかを調べます。有限回(高々 78 回の足し算)で判定が完了します。

実際にやると、17291729 未満に重複は現れず、最初の重複が 1729=13+123=93+1031729 = 1^3 + 12^3 = 9^3 + 10^3 です。この「2 通りの立方和で書ける最小の数」を一般化して、nn 通りに書ける最小の数を nn 番目のタクシー数といいます。Ta(3)=87539319\mathrm{Ta}(3) = 87539319 は 1957 年にリーチが、Ta(6)\mathrm{Ta}(6) の候補は 2008 年に見つかりましたが、Ta(7)\mathrm{Ta}(7) 以降は未確定です。

演習 8.4標準

ケーニヒスベルクの橋の図(本文 5.1 節)に、橋を 1 本だけ新しく架けて、すべての橋をちょうど 1 回ずつ渡る散歩ができるようにしたいと考えます。どこに架ければよいか、1 つ例を挙げ、そのときの出発点と終点を答えてください。

解答

現状の次数は deg(A)=3\deg(A) = 3deg(B)=3\deg(B) = 3deg(C)=5\deg(C) = 5deg(D)=3\deg(D) = 3 で、奇数次数の頂点が 4 個あります。命題 5.2 より、この状態ではオイラー路は存在しません。

橋を 1 本架けると、その両端の頂点の次数がそれぞれ 1 増えます。奇数次数の頂点を 4 個から 2 個に減らすには、奇数次数の頂点どうしを結ぶ必要があります(奇数 +1+1 は偶数になるため)。

たとえば AA(北岸)と BB(南岸)を直接結ぶ橋を架けます。すると

deg(A)=4,deg(B)=4,deg(C)=5,deg(D)=3\deg(A) = 4,\quad \deg(B) = 4,\quad \deg(C) = 5,\quad \deg(D) = 3

となり、奇数次数の頂点は CCDD の 2 個だけになります。注意 5.3 で述べた十分条件により、オイラー路が存在します。出発点と終点は、奇数次数の 2 頂点、すなわち中州 CC と東岸 DD(どちらから出発してもかまいません)です。

同様に、AADD を結ぶ橋、BBDD を結ぶ橋、AACC を結ぶ橋なども条件を満たします。いずれの場合も、残った奇数次数の 2 頂点が出発点と終点になります。逆に、AAAA を結ぶループ(同じ陸地に両端がある橋)を架けても deg(A)\deg(A) は 2 増えて奇数のままなので、これでは解決しません。

  • W. Dunham, Euler: The Master of Us All, Mathematical Association of America, 1999 — バーゼル問題と多面体定理の章。オイラーの原論文の議論をそのまま追える構成です。
  • 高木貞治『解析概論』岩波書店 — 級数の絶対収束と項別操作、指数関数の級数定義。
  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 複素指数関数とオイラーの公式。
  • G. H. Hardy, Ramanujan: Twelve Lectures on Subjects Suggested by His Life and Work, Cambridge University Press, 1940 — ハーディ本人によるラマヌジャン論。分割数と円周率級数の章。
  • R. Kanigel, The Man Who Knew Infinity, Charles Scribner’s Sons, 1991 — 標準的なラマヌジャン伝記(邦訳『無限の天才』工作舎)。
  • J. M. Borwein and P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley, 1987 — 定理 6.2 を含むラマヌジャン型級数の証明。
  • B. C. Berndt, Ramanujan’s Notebooks, Part I–V, Springer, 1985–1998 — ラマヌジャンのノートの全面的な注釈つき校訂。
  • R. ディーステル『グラフ理論』シュプリンガー・ジャパン — オイラー路の存在条件と平面グラフの章。

Appendix: 「零点が同じなら因数分解も同じ」はなぜ危ういか

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問題の所在。 定理 3.1 の証明でオイラーが使ったのは、次の推論でした。関数 fff(0)=1f(0) = 1 を満たし、零点が r1,r2,r_1, r_2, \ldots であるならば

f(x)=n(1xrn)f(x) = \prod_{n}\left(1 - \frac{x}{r_n}\right)

と書ける。有限次の多項式ならこれは正しい定理です。しかし無限個の零点をもつ関数では、一般には成り立ちません。

反例。 g(x)=exsinxxg(x) = e^{x}\dfrac{\sin x}{x} を考えます。exe^x はどこでも 00 にならないので、gg の零点は sinxx\frac{\sin x}{x} の零点とまったく同じ、すなわち x=±π,±2π,x = \pm\pi, \pm 2\pi, \ldots です。また g(0)=e01=1g(0) = e^0 \cdot 1 = 1 です。つまり ggsinxx\frac{\sin x}{x} と「f(0)=1f(0) = 1」「零点の集合」の両方を共有しています。それでも ggsinxx\frac{\sin x}{x} は明らかに別の関数です(たとえば x=π/2x = \pi/2 で、前者は eπ/22π=3.06e^{\pi/2}\cdot\frac{2}{\pi} = 3.06\ldots、後者は 2π=0.6366\frac{2}{\pi} = 0.6366\ldots)。

したがって、零点と f(0)f(0) の値だけでは関数は決まりません。もし gg に対して素朴に無限積の展開をして係数比較をすれば、1/n2\sum 1/n^2 について誤った値が出てしまいます。オイラーの結論が正しかったのは、sinxx\frac{\sin x}{x} がたまたま「余計な指数因子を持たない」種類の関数だったからです。

正しい枠組み。 ワイエルシュトラスの因数分解定理は、整関数(複素平面全体で正則な関数)ff

f(z)=zmeh(z)nEpn ⁣(zrn)f(z) = z^m e^{h(z)}\prod_{n}E_{p_n}\!\left(\frac{z}{r_n}\right)

の形に書けることを主張します。eh(z)e^{h(z)} という零点をもたない補正因子が最初から組み込まれているのがポイントで、上の反例の exe^x はまさにこの因子にあたります。sinzz\frac{\sin z}{z} の場合にこの補正因子が定数 11 であることは、増大度の評価(アダマールの因数分解定理)から従います。そこまで確認して初めて、定理 3.1 の証明は完成します。

教訓。 有限で成り立つ規則を無限へ持ち込むとき、何が壊れうるかを最初から知っておくことはできません。オイラーは持ち込み、数値で照合し、正解を当てました。19 世紀の解析学は、その持ち込みが許される条件を明文化する作業だったともいえます。発見と正当化がこの順序で進むことは、数学ではむしろ普通です。

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