0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 真空中の電磁場は 4 本の方程式で完全に記述されます。積分形は「面や輪を貫く量」の言葉、微分形は「各点での発散と回転」の言葉であり、ガウスの発散定理とストークスの定理によって両者は同値です。
- 変位電流の項があるおかげで、4 本の式は自動的に電荷保存則 を含みます。整合性は後付けの要請ではなく、方程式の帰結です。
- 電荷も電流もない領域では、 と の各成分が波動方程式を満たします。伝播速度は で、静電気と磁気の実験だけから決まる 2 つの定数の組み合わせが、光の速さ と一致します。
- 平面波では 、 が成り立ちます。すなわち電磁波は横波で、、、 は右手系の直交三つ組をなし、 です。
- エネルギーの流れはポインティング・ベクトル が担い、 という局所的なエネルギー保存則が成り立ちます。平面波では となり、エネルギーが光速で運ばれる描像が正当化されます。
19 世紀前半までに、電気と磁気について 4 つの経験則が別々に確立していました。クーロンの法則から導かれるガウスの法則(ガウスの法則(積分形)(定理 4.4)[静電場とガウスの法則])、磁荷が見つからないという事実、エルステッドとアンペールの法則(アンペールの法則(微分形)(定理 6.2)[定常電流と静磁場])、そしてファラデーの電磁誘導です。これらは「電気の実験」「磁気の実験」「回路の実験」というばらばらの文脈で得られたもので、互いに独立した規則のように見えていました。
ところがこの 4 つを素朴に並べると矛盾します。アンペールの法則 の両辺に発散を取ると、左辺は恒等的に なので が要求されます。しかしコンデンサーを充電している最中は、極板に電荷が溜まっていくので です。マクスウェルはここに変位電流 を付け加え、矛盾を解消しました(変位電流による修復(命題 6.4)[電磁誘導と変位電流])。前章で見たとおりです。
この修正の代償として得られたものが、この章の主題です。変位電流を入れると、方程式系は「電場の時間変化が磁場を作り、磁場の時間変化が電場を作る」という自己完結した循環を持つようになります。循環があれば、電荷から切り離された場そのものが自立して空間を伝わりうる。実際に計算すると波動方程式が現れ、その伝播速度は
となります。 はクーロンの法則、 は電流間に働く力という、どちらも光とは無関係な静的な実験から決まる定数です。それにもかかわらず、この組み合わせは光速に一致します。1856 年にヴェーバーとコールラウシュが電気量の単位の比を測定して 程度の値を得ており、フィゾーが 1849 年に測った光速 と近いことは知られていました。マクスウェルは 1865 年の論文でこの一致を偶然ではないと結論し、光は電磁波であると主張します。1888 年、ヘルツが火花放電で電磁波を発生・検出し、反射・屈折・偏光まで確認して、この主張は実験的に確定しました。
この章では、4 本の方程式を積分形と微分形の両方で正確に述べ、それらが電荷保存と整合することを確かめ、そこから波動方程式を導き、電磁波の横波性とエネルギー輸送までを一続きに扱います。
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