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マクスウェル方程式と電磁波:4 本の式から光速が出てくるまで

前提:電磁誘導と変位電流:マクスウェルが方程式系を閉じた瞬間

生 Markdown
  • 真空中の電磁場は 4 本の方程式で完全に記述されます。積分形は「面や輪を貫く量」の言葉、微分形は「各点での発散と回転」の言葉であり、ガウスの発散定理とストークスの定理によって両者は同値です。
  • 変位電流の項があるおかげで、4 本の式は自動的に電荷保存則 ρ/t+J=0\partial\rho/\partial t + \nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0 を含みます。整合性は後付けの要請ではなく、方程式の帰結です。
  • 電荷も電流もない領域では、E\boldsymbol{E}B\boldsymbol{B} の各成分が波動方程式を満たします。伝播速度は 1/ε0μ01/\sqrt{\varepsilon_0\mu_0} で、静電気と磁気の実験だけから決まる 2 つの定数の組み合わせが、光の速さ c=2.99792458×108 m/sc = 2.99792458\times 10^{8}\ \mathrm{m/s} と一致します。
  • 平面波では kE=kB=0\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{E} = \boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{B} = 0B=(k^×E)/c\boldsymbol{B} = (\hat{\boldsymbol{k}}\times\boldsymbol{E})/c が成り立ちます。すなわち電磁波は横波で、E\boldsymbol{E}B\boldsymbol{B}k\boldsymbol{k} は右手系の直交三つ組をなし、B=E/c|\boldsymbol{B}| = |\boldsymbol{E}|/c です。
  • エネルギーの流れはポインティング・ベクトル S=E×B/μ0\boldsymbol{S} = \boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B}/\mu_0 が担い、u/t+S=JE\partial u/\partial t + \nabla\cdot\boldsymbol{S} = -\boldsymbol{J}\cdot\boldsymbol{E} という局所的なエネルギー保存則が成り立ちます。平面波では S=cuk^\boldsymbol{S} = c\,u\,\hat{\boldsymbol{k}} となり、エネルギーが光速で運ばれる描像が正当化されます。

19 世紀前半までに、電気と磁気について 4 つの経験則が別々に確立していました。クーロンの法則から導かれるガウスの法則ガウスの法則(積分形)(定理 4.4)[静電場とガウスの法則])、磁荷が見つからないという事実、エルステッドとアンペールの法則アンペールの法則(微分形)(定理 6.2)[定常電流と静磁場])、そしてファラデーの電磁誘導です。これらは「電気の実験」「磁気の実験」「回路の実験」というばらばらの文脈で得られたもので、互いに独立した規則のように見えていました。

ところがこの 4 つを素朴に並べると矛盾します。アンペールの法則 ×B=μ0J\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\boldsymbol{J} の両辺に発散を取ると、左辺は恒等的に 00 なので J=0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = 0 が要求されます。しかしコンデンサーを充電している最中は、極板に電荷が溜まっていくので J=ρ/t0\nabla\cdot\boldsymbol{J} = -\partial\rho/\partial t \ne 0 です。マクスウェルはここに変位電流 ε0E/t\varepsilon_0\,\partial\boldsymbol{E}/\partial t を付け加え、矛盾を解消しました(変位電流による修復(命題 6.4)[電磁誘導と変位電流])。前章で見たとおりです。

この修正の代償として得られたものが、この章の主題です。変位電流を入れると、方程式系は「電場の時間変化が磁場を作り、磁場の時間変化が電場を作る」という自己完結した循環を持つようになります。循環があれば、電荷から切り離された場そのものが自立して空間を伝わりうる。実際に計算すると波動方程式が現れ、その伝播速度は

1ε0μ0\frac{1}{\sqrt{\varepsilon_0\mu_0}}

となります。ε0\varepsilon_0 はクーロンの法則、μ0\mu_0 は電流間に働く力という、どちらも光とは無関係な静的な実験から決まる定数です。それにもかかわらず、この組み合わせは光速に一致します。1856 年にヴェーバーとコールラウシュが電気量の単位の比を測定して 3.1×108 m/s3.1\times 10^{8}\ \mathrm{m/s} 程度の値を得ており、フィゾーが 1849 年に測った光速 3.15×108 m/s3.15\times 10^{8}\ \mathrm{m/s} と近いことは知られていました。マクスウェルは 1865 年の論文でこの一致を偶然ではないと結論し、光は電磁波であると主張します。1888 年、ヘルツが火花放電で電磁波を発生・検出し、反射・屈折・偏光まで確認して、この主張は実験的に確定しました。

この章では、4 本の方程式を積分形と微分形の両方で正確に述べ、それらが電荷保存と整合することを確かめ、そこから波動方程式を導き、電磁波の横波性とエネルギー輸送までを一続きに扱います。

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