0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 2 重積分は、長方形を細かく切り、その上に立つ「柱」の体積を足し上げたリーマン和の極限として定義します。1 変数の定積分が符号付き面積だったのに対し、2 重積分は符号付き体積です。
- 有界閉長方形の上の連続関数は可積分です。鍵になるのは一様連続性で、1 変数のときとまったく同じ筋道です。
- フビニの定理は「重積分(体積)=累次積分(1 変数の積分を 2 回)」を保証します。これがないと、重積分は定義できても計算できません。
- 一般の領域では、領域を縦線集合として書くか横線集合として書くかが、そのまま積分順序の選択になります。順序の取り替えで値が変わるのは、被積分関数が非有界で重積分そのものが存在しないときです。
- 変数変換公式 に現れるヤコビアン は、写像 が微小な面積を何倍に引き伸ばすかという「面積の拡大率」です。極座標では になります。
- 応用として、ガウス積分 を極座標変換で計算します。
1. 動機:体積をどう定義し、どう計算するか
Section titled “1. 動機:体積をどう定義し、どう計算するか”1 変数の定積分 は、グラフの下の符号付き面積でした。定義は「区間を細かく切り、細長い長方形の面積を足し上げ、細かくする極限を取る」というものです。詳しくは 積分の基本定理と定積分 の リーマン可積分性の定義(定義 3.1)[積分の基本定理と定積分] を参照してください。
2 変数関数 のグラフは空間内の曲面です。その下の立体の体積を測りたい、というのが 2 重積分の出発点です。定義の作り方は 1 変数と同じで、平面領域を細かい長方形に切り、その上に立つ直方体(柱)の体積 を足し上げ、細かくする極限を取ります。
ここで素朴な疑問が出ます。「 で積分してから で積分すればいいのではないか」。この操作、つまり 1 変数の積分を 2 回繰り返すことを累次積分といいます。実際これが唯一の実用的な計算法です。しかし累次積分は「操作」であって、体積の定義ではありません。定義(体積)と計算法(2 回の積分)が一致する保証は、まったく自明ではないのです。
自明でないことは、次の 2 点からわかります。第一に、累次積分には の順と の順の 2 通りがあり、この 2 つの値が食い違う関数が実在します(例 5.6)。もし累次積分がいつでも体積に等しいなら、そんなことは起こりえません。第二に、累次積分は「各断面の面積 を求めてから、それを 方向に積み上げる」という操作ですが、断面の面積が定まっても立体の体積が定まる保証はありません。この橋渡しをするのがフビニの定理です。
歴史的にも、この橋渡しは繊細な問題として扱われてきました。リーマンが 1854 年の教授資格論文で積分を厳密に定義したあと、多変数への拡張と累次積分との関係が整理され、グイド・フビニが 1907 年に、ルベーグ積分の枠組みで一般的な定理を証明しました。翌々年にはトネリが、非負関数に対する使いやすい形(可積分性を仮定せずに済む形)を与えています。
もう一つの主役が変数変換です。1 変数では置換積分 が積分計算の要でした。円板や楕円板の上の積分では、直交座標のままでは領域の記述が のように醜くなります。極座標に取り替えれば領域は長方形になり、計算が一気に楽になります。そのとき が に化ける理由が、ヤコビ(1841 年に関数行列式を組織的に論じました)の名を冠したヤコビアンです。
この記事では、定義(リーマン和)→ フビニの定理 → 一般の領域と積分順序 → 変数変換とヤコビアン、の順に進みます。全体の見取り図は次のとおりです。
flowchart TD A["2 重積分を計算したい"] --> B{"領域は縦線集合か横線集合か"} B -- "はい" --> C["フビニの定理で累次積分に直す"] B -- "いいえ" --> D["変数変換を探す"] D --> E["ヤコビアンの絶対値を掛ける"] E --> F["新しい領域は縦線集合か"] F -- "はい" --> C F -- "いいえ" --> D C --> G["1 変数の定積分を 2 回実行する"]
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