0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 方程式 に対して、その根がすべて現れる最小の体(最小分解体) を作り、 の自己同型のうち係数体 を動かさないもの全体がなす群 を対応させます。これは「 の立場から見て根たちがどれくらい区別できないか」を測る有限群です。
- ガロア理論の基本定理は、 の中間体全体と の部分群全体が包含関係を逆にして 1 対 1 に対応することを主張します。体という無限集合の問題が、有限群の部分群を数える問題に翻訳されます。
- この対応のもとで「中間体が 上ガロア」は「対応する部分群が正規」と同値になり、そのとき中間体のガロア群は商群として現れます。群の準同型定理の体版です。
- 「根号で解ける」とは、最小分解体が巾根を次々に添加した体の塔に含まれることです。この塔は群の側で、商がアーベル群であるような正規列(可解列)に翻訳されます。
- 一般の 次方程式のガロア群は対称群 です。 は可解群ですが は可解群ではありません。これが「4 次まで公式があって 5 次で止まる」ことの正体です。
- 具体例として、 のガロア群が であることを、既約性・実根の個数・複素共役という 3 つの材料だけから完全に証明します。この方程式は根号では解けません。
1. 動機:解の公式はなぜ 4 次で止まるのか
Section titled “1. 動機:解の公式はなぜ 4 次で止まるのか”2 次方程式 の解の公式は、平方完成という形で古代バビロニアの粘土板にすでに現れます。3 次方程式が解かれたのは 16 世紀のイタリアで、デル・フェッロとタルタリアの発見をカルダーノが『Ars Magna』(1545 年)に公表しました。カルダーノの弟子フェラーリは同じ頃に 4 次方程式を根号で解いています。4 次までが 1 世代で片づいたのですから、5 次も時間の問題に見えたはずです。
ところが、そこから 250 年間、誰も 5 次方程式の解の公式を書けませんでした。転機は 1770 年、ラグランジュが『方程式の代数的解法についての省察』で、3 次・4 次の古典的解法はいずれも「根の置換に対して分解式(レゾルベント)がどう振る舞うか」という一つの原理で説明できると見抜いたことです。彼は同じ方法が 5 次では破綻することにも気づいていました。1799 年にルフィニが不可能性の証明を試み(論証には隙がありました)、1824 年にアーベルが完全な証明を与えます。そして 1830 年から 1832 年にかけて、20 歳で決闘に倒れたガロアが、「どの方程式が根号で解けるか」という問いそのものに完全な答えを与えました。
ここで立ち止まって考えてほしいのは、「公式が存在しないこと」をどうやって証明するのかという点です。公式の候補は無限にあります。ひとつずつ試して潰すことはできません。必要なのは、「もし根号で解けるならば、その方程式は必ずこういう性質を持っているはずだ」という不変量です。ガロアの発見は、その不変量が群だということでした。
素朴な観察から入りましょう。 の 2 根は と です。有理数係数の代数的な式だけを使って、この 2 つを区別できるでしょうか。 が満たす有理数係数の多項式関係は、そっくりそのまま も満たします。つまり有理数の世界から見ると、この 2 根は入れ替えても何も壊れないのです。
一方、 の 4 根 はどうでしょうか。 を に移す「入れ替え」は許されません。 は という有理数係数の関係を満たしますが、 は満たさないからです。許される入れ替えは と をそれぞれ保つものだけで、全部で高々 4 通り。4 文字の置換は 通りあるのに、この方程式の「対称性」はその 6 分の 1 しかないわけです。
この「許される入れ替え全体」が群をなします。これがガロア群です。方程式が根号で解けるかは、この群の形だけで決まる——それがガロア理論の結論です。
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