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条件付き期待値:σ-加法族で条件づけ、ラドン・ニコディムで存在を保証する

前提:大数の法則と中心極限定理:標本平均はどこへ、どれだけ速く近づくか

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  • 条件付き期待値 E[XG]E[X \mid \mathcal{G}] は「事象で割り算した平均」ではなく、部分 σ\sigma-加法族 G\mathcal{G} に対して定義される確率変数です。G\mathcal{G} が「利用できる情報」を表し、E[XG]E[X \mid \mathcal{G}] はその情報だけを使った XX の最良の見積もりを表します。
  • 定義は「G\mathcal{G}-可測であり、かつ G\mathcal{G} に属するすべての事象の上で XX と同じ積分値をもつ」という 2 条件です。この 2 条件を満たす確率変数の存在はラドン・ニコディムの定理から従い、一意性はほとんど確実の意味(版の違いを除いて一意)で成り立ちます。
  • 基本性質のうち最も使われるのはタワー・プロパティ E[E[XG2]G1]=E[XG1]E\bigl[E[X \mid \mathcal{G}_2] \mid \mathcal{G}_1\bigr] = E[X \mid \mathcal{G}_1]G1G2\mathcal{G}_1 \subset \mathcal{G}_2)と既知量の取り出し E[ZXG]=ZE[XG]E[ZX \mid \mathcal{G}] = Z\,E[X \mid \mathcal{G}]ZZG\mathcal{G}-可測)です。
  • XL2X \in L^2 のとき E[XG]E[X \mid \mathcal{G}]L2(Ω,G,P)L^2(\Omega,\mathcal{G},P) への直交射影であり、平均二乗誤差を最小にする予測子です。回帰分析や機械学習で「条件付き期待値を推定する」という言い方をするのはこの意味です。
  • P(Y=y)=0P(Y = y) = 0 のような零確率事象での条件づけは、素朴な割り算では定義できません。σ\sigma-加法族による定式化はこの困難を、値ごとではなく関数として一気に定めることで回避します。

1.1. 割り算から始まる素朴な定義

Section titled “1.1. 割り算から始まる素朴な定義”

確率論の入門では、条件付き確率を

P(AB)=P(AB)P(B)(P(B)>0)P(A \mid B) = \frac{P(A \cap B)}{P(B)} \qquad (P(B) > 0)

で定義します。確率変数 XX の条件付き期待値も同じ流儀で

E[XB]=E[X1B]P(B)(P(B)>0)E[X \mid B] = \frac{E[X \mathbf{1}_B]}{P(B)} \qquad (P(B) > 0)

と定めます。これは「事象 BB が起きたと分かった世界に確率を制限し直して平均を取る」という操作で、直観にもよく合います。

ところがこの定義は P(B)=0P(B) = 0 のとき意味を失います。そして応用で本当に知りたいのは、まさにそういう場合であることが多いのです。たとえば (X,Y)(X, Y) が同時密度をもつ連続型確率変数で、YY の観測値が yy だったときの XX の平均、すなわち「E[XY=y]E[X \mid Y = y]」を求めたいとします。しかし連続分布では任意の yy に対して P(Y=y)=0P(Y = y) = 0 ですから、割り算の定義は一歩も進みません。

1.2. 「値ごと」をやめて「関数として」定める

Section titled “1.2. 「値ごと」をやめて「関数として」定める”

打開策は、条件を 1 つの値 yy に固定するのをやめることです。統計学の教科書では条件付き密度

fXY(xy)=fX,Y(x,y)fY(y),g(y)=RxfXY(xy)dxf_{X \mid Y}(x \mid y) = \frac{f_{X,Y}(x,y)}{f_Y(y)}, \qquad g(y) = \int_{\mathbb{R}} x\, f_{X \mid Y}(x \mid y)\, dx

を経由して E[XY]=g(Y)E[X \mid Y] = g(Y) と定めますが、この ggfY(y)=0f_Y(y) = 0 となる yy では定義されず、また fY(y)>0f_Y(y) > 0 の範囲でも「yy ごとの値」には本質的な意味がありません。意味があるのは、gg が満たす次の関係式のほうです。任意のボレル集合 BRB \subset \mathbb{R} に対して

{YB}g(Y)dP=Bg(y)fY(y)dy=BRxfX,Y(x,y)dxdy=E[X1B(Y)].\int_{\{Y \in B\}} g(Y)\, dP = \int_B g(y) f_Y(y)\, dy = \int_B \int_{\mathbb{R}} x f_{X,Y}(x,y)\, dx\, dy = E\bigl[X \mathbf{1}_B(Y)\bigr].

つまり g(Y)g(Y) は、「YY から作られるどの事象の上でも、XX と同じだけの積分を稼ぐ」という性質で特徴づけられます。密度は計算手段にすぎず、条件付き期待値の本質はこの積分等式なのです。

1.3. 情報を σ\sigma-加法族で表す

Section titled “1.3. 情報を σ\sigmaσ-加法族で表す”

上の等式に現れた事象 {YB}\{Y \in B\} の全体は、YY が生成する σ\sigma-加法族

σ(Y)={{YB}:BB(R)}F\sigma(Y) = \bigl\{\, \{Y \in B\} : B \in \mathcal{B}(\mathbb{R}) \,\bigr\} \subset \mathcal{F}

にほかなりません。σ(Y)\sigma(Y) は「YY の値を知っている観測者に判定できる事象の全体」であり、σ\sigma-加法族はこの意味で情報の量を表します。粗い σ\sigma-加法族は少ない情報、細かい σ\sigma-加法族は多くの情報に対応します。

そこで発想を逆転させます。特定の確率変数 YY に固執せず、はじめから部分 σ\sigma-加法族 GF\mathcal{G} \subset \mathcal{F} を「与えられた情報」とみなし、E[XG]E[X \mid \mathcal{G}] を定義してしまえばよい。これがコルモゴロフが 1933 年の『確率論の基礎概念』で採用した定式化です。この抽象化は単に一般的というだけでなく、時間とともに増えていく情報の列(フィルトレーション)を扱えるという決定的な利点をもち、マルチンゲール理論と確率積分の土台になります。

flowchart LR
A["自明な σ-加法族<br/>情報なし"] --> B["粗い情報 G1"]
B --> C["細かい情報 G2"]
C --> D["全情報 F"]
A -.-> A2["定数 E[X]"]
B -.-> B2["E[X∣G1]"]
C -.-> C2["E[X∣G2]"]
D -.-> D2["X 自身"]
情報の粗視化としての条件付き期待値。σ-加法族が細かいほど多くの情報を使える

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