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微分可能多様体の定義:チャートとアトラスで曲がった空間に微分を持ち込む

前提:位相空間の定義と基本概念:距離を捨てても「近さ」は残るベクトル空間と線形変換:8 つの公理から次元定理まで極限と連続性:ε-δ 論法を「誤差の契約」として読む

生 Markdown
  • 多様体の定義は二段構えです。まず位相空間として局所的に Rn\mathbb{R}^n と同相であること、次に局所座標どうしの貼り合わせ(座標変換)が CkC^kであること。前者が「かたち」、後者が「微分できること」を担います。
  • 座標変換の CkC^k 性を要求する理由はただ一つ、**「座標を通して定義した微分の概念が、座標の取り方に依らないようにするため」**です。この一点から定義のすべてが導かれます。
  • 定義には Hausdorff 性と第二可算性が追加されます。これらは局所的な情報からは出てきません。落とすと二重原点直線のような病理が現れます。
  • SnS^n(立体射影)、RPn\mathbb{RP}^n(斉次座標)、Tn=Rn/ZnT^n = \mathbb{R}^n/\mathbb{Z}^n(整数平行移動)は、アトラスを最後まで具体的に書き下せます。座標変換はそれぞれ反転 uu/u2u \mapsto u/|u|^2、有理式、平行移動です。
  • 多様体上の関数・写像の CkC^k 性はチャート表示で定義し、両立性のおかげでチャートの取り方に依りません。合成が CkC^k になることもここから従います。
  • 同じ位相空間に異なる微分構造が入ることがあります(R\mathbb{R} 上の tt3t \mapsto t^3 チャート)。ただしそれらが微分同相になることもあり、「構造が違う」ことと「多様体として違う」ことは別です。

1. 動機:曲がった空間で微分するには

Section titled “1. 動機:曲がった空間で微分するには”

微分は本質的に局所的な操作です。関数 ff の点 aa における微分係数は、aa のいくらでも小さい近傍における ff の振る舞いだけで決まります。ところが微分積分学で学ぶ微分は、Rn\mathbb{R}^n の開集合の上でしか定義されていません。球面の上の温度分布を微分したい、時空の上の電磁場を微分したいと思っても、球面も時空も Rn\mathbb{R}^n の開集合ではないので、そのままでは定義が適用できません。

歴史的には、ガウスが 1827 年の曲面論で決定的な一歩を踏み出しました。ガウスは曲面の曲がり方を表す量(ガウス曲率)が、曲面が R3\mathbb{R}^3 にどう置かれているかに依らず、曲面上で測った長さだけから決まることを示しました(驚異の定理)。これは「曲面を外から眺めなくても、曲面の内側の情報だけで幾何が展開できる」という宣言です。1854 年、リーマンはゲッティンゲンでの就任講演で、この立場を任意次元に押し広げました。彼が使った語 Mannigfaltigkeit が、今日の「多様体」です。

内在的な立場を取るとき、私たちに残された道具は座標だけです。曲面上の点を経度・緯度で表せば、曲面上の関数は 2 変数関数になり、微分できます。しかし経度・緯度は 1 つの選び方にすぎません。別の座標を使えば別の 2 変数関数が得られます。ここで決定的な問いが生じます。

座標を通して定義した「微分できる」という性質は、座標の取り方に依らないか。

依らないためには、2 つの座標系を結びつける写像(座標変換)自身が微分可能でなければなりません。実際、ff を座標 φ\varphi で表した関数を fφ1f \circ \varphi^{-1}、座標 ψ\psi で表した関数を fψ1f \circ \psi^{-1} と書くと、両者は

fψ1=(fφ1)(φψ1)f \circ \psi^{-1} = (f \circ \varphi^{-1}) \circ (\varphi \circ \psi^{-1})

で結ばれます。右辺の φψ1\varphi \circ \psi^{-1}CkC^k 級なら、連鎖律によって「fφ1f \circ \varphi^{-1}CkC^k 級」から「fψ1f \circ \psi^{-1}CkC^k 級」が従います。多様体の定義とは、この一行が成り立つように舞台を整えたものにほかなりません。以下の節は、この直観を定義に翻訳し、代表的な空間で実際に確かめる作業です。

こうした準備が必要な空間は、決して人工的なものではありません。

  • 方程式の解集合Sn={xRn+1:x=1}S^n = \{x \in \mathbb{R}^{n+1} : |x| = 1\}Rn+1\mathbb{R}^{n+1} の開集合ではありませんが、各点の近くでは nn 個の座標で記述できます。
  • 配置空間:二重振り子の状態は 2 つの角度で決まり、その全体はトーラス T2T^2 です。剛体の姿勢の全体は RP3\mathbb{RP}^3 と同一視されます。これらの上で運動方程式を書くには、まず微分の意味を確定させなければなりません。
  • 一般相対性理論:時空には特別な座標系(慣性系)が存在しません。したがって物理法則は座標の取り換えに対して不変な形で書かれる必要があります。テンソルの変換則に現れるヤコビ行列 xμ/xν\partial x'^{\mu}/\partial x^{\nu} は、まさに座標変換の微分です。座標変換が CkC^k 級であるという要請は、一般共変性を語るための最低限の前提です。

この記事では、以上の要請を満たす舞台として CkC^k 級多様体を定義し、その上の関数と写像の CkC^k 性まで整えます。接ベクトル・ベクトル場・微分形式といった「多様体上で実際に微分する道具」は、接ベクトル空間と接バンドルベクトル場と微分形式 で扱います。

2. 準備:位相と多変数微分から使うこと

Section titled “2. 準備:位相と多変数微分から使うこと”

記号と前提を確認します。N={1,2,}\mathbb{N} = \{1, 2, \ldots\} とし、Rn\mathbb{R}^n の点は u=(u1,,un)u = (u^1, \ldots, u^n) のように上付き添字で書きます(多様体論の慣習で、後の記事のテンソル記法と揃えるためです)。u|u| はユークリッドノルムです。

位相空間の言葉は 位相空間の定義と基本概念連続写像と同相写像 を前提とします。特に次を使います。

分離公理まわりの詳細は 分離公理と距離づけ可能性 を参照してください。

多変数の微分については 多変数関数の微分と偏微分 を前提とし、次の定義を使います。ΩRn\Omega \subset \mathbb{R}^n を開集合、F ⁣:ΩRmF \colon \Omega \to \mathbb{R}^m とするとき、FFCkC^k 級(kNk \in \mathbb{N})であるとは、FF の各成分が kk 階までのすべての偏導関数(偏微分係数と偏導関数(定義 3.1)[多変数関数の微分と偏微分])を持ち、それらがすべて Ω\Omega 上連続であることをいいます。C0C^0 級は連続、CC^\infty 級はすべての kk について CkC^k 級であることとします。FFC1C^1 級のとき、点 aΩa \in \Omega における微分(ヤコビ行列)を DF(a)Rm×nDF(a) \in \mathbb{R}^{m \times n} と書きます。

この記事で本質的に使うのは、次の 2 つの性質だけです。

命題 2.1CkC^k 級写像の局所性と合成

kN{}k \in \mathbb{N} \cup \{\infty\} とする。

  1. (局所性)ΩRn\Omega \subset \mathbb{R}^n を開集合、F ⁣:ΩRmF \colon \Omega \to \mathbb{R}^m とする。各点 aΩa \in \Omega に対して aa の開近傍 WaΩW_a \subset \Omega が存在して FWaF|_{W_a}CkC^k 級ならば、FFΩ\OmegaCkC^k 級である。
  2. (合成)ΩRn\Omega \subset \mathbb{R}^n, ΩRm\Omega' \subset \mathbb{R}^m を開集合、F ⁣:ΩRmF \colon \Omega \to \mathbb{R}^mCkC^k 級で F(Ω)ΩF(\Omega) \subset \Omega'G ⁣:ΩRlG \colon \Omega' \to \mathbb{R}^lCkC^k 級とする。このとき GF ⁣:ΩRlG \circ F \colon \Omega \to \mathbb{R}^lCkC^k 級であり、k1k \ge 1 のとき各点 aΩa \in \Omega で連鎖律 D(GF)(a)=DG(F(a))DF(a)D(G \circ F)(a) = DG(F(a)) \, DF(a) が成り立つ。

注意 2.2

1 は偏導関数が各点の近傍だけで決まることから直ちに従います。2 は連鎖律(連鎖律(定理 6.1)[多変数関数の微分と偏微分])とその帰納的な適用(高階の偏導関数は DFDF の成分と DGDG の成分の積と合成で書けるので、kk 階まで連続)から従います。詳しい証明は 多変数関数の微分と偏微分 を参照してください。

3.1. 局所座標系としてのチャート

Section titled “3.1. 局所座標系としてのチャート”

定義 3.1チャート(座標近傍)

MM を位相空間、nn00 以上の整数とする。組 (U,φ)(U, \varphi)MMnn 次元チャート(座標近傍)であるとは、

  1. UUMM の開集合であり、
  2. φ ⁣:Uφ(U)\varphi \colon U \to \varphi(U)Rn\mathbb{R}^n のある開集合 φ(U)\varphi(U) の上への同相写像である

ことをいう。φ\varphi の第 ii 成分を xi ⁣:URx^i \colon U \to \mathbb{R} と書き、φ=(x1,,xn)\varphi = (x^1, \ldots, x^n)UU 上の局所座標系xix^i座標関数と呼ぶ。点 pUp \in U に対し φ(p)=(x1(p),,xn(p))\varphi(p) = (x^1(p), \ldots, x^n(p))pp座標という。

MM の各点が何らかの nn 次元チャートの定義域に含まれるとき、MMnn 次元局所ユークリッド空間であるという。

チャートとは、MM の一部分に「Rn\mathbb{R}^n の開集合との同一視」を与える装置です。地球儀の一部を平面の地図に写すことに対応するので、chart(海図)と呼ばれます。地図が地球全体を一枚では覆えないのと同じく、一般に 1 枚のチャートでは MM 全体を覆えません。だから複数枚を用意し、重なりでの整合性を要求することになります。

2 枚のチャートの定義域が重なるとき、その重なりの上には 2 通りの座標が入ります。両者を結ぶ写像が座標変換です。

定義 3.2CkC^k 両立

kN{}k \in \mathbb{N} \cup \{\infty\} とする。MMnn 次元チャート (U,φ)(U, \varphi), (V,ψ)(V, \psi)CkC^k 両立するとは、UV=U \cap V = \emptyset であるか、または

ψφ1 ⁣:φ(UV)ψ(UV),φψ1 ⁣:ψ(UV)φ(UV)\psi \circ \varphi^{-1} \colon \varphi(U \cap V) \longrightarrow \psi(U \cap V), \qquad \varphi \circ \psi^{-1} \colon \psi(U \cap V) \longrightarrow \varphi(U \cap V)

がともに CkC^k 級であることをいう。これらの写像を座標変換(推移写像)と呼ぶ。

この定義が意味を持つことを確認しておきます。UVU \cap VMM の開集合であり、φ\varphiUU から φ(U)\varphi(U) への同相写像なので、φ(UV)\varphi(U \cap V)φ(U)\varphi(U) の開集合です。φ(U)\varphi(U) 自身が Rn\mathbb{R}^n の開集合なので、φ(UV)\varphi(U \cap V)Rn\mathbb{R}^n の開集合です。ψ(UV)\psi(U \cap V) も同様です。したがって ψφ1\psi \circ \varphi^{-1}Rn\mathbb{R}^n の開集合から Rn\mathbb{R}^n の開集合への写像であり、CkC^k 級かどうかを問うことができます。なお ψφ1\psi \circ \varphi^{-1}φψ1\varphi \circ \psi^{-1} は互いに逆写像なので、両者はともに同相写像です。

MUVU ∩ Vφ(U) ⊂ ℝⁿψ(V) ⊂ ℝⁿφψψ ∘ φ⁻¹座標変換
2 枚のチャートと座標変換。多様体上の同じ領域を 2 通りの座標で見たとき、両者を結ぶ写像はユークリッド空間の開集合どうしの写像になり、その微分可能性を問うことができる。

定義 3.3CkC^k アトラスと CkC^k 構造

MM を位相空間、kN{}k \in \mathbb{N} \cup \{\infty\} とする。

  1. MMnn 次元チャートの族 A={(Uα,φα)}αA\mathcal{A} = \{(U_\alpha, \varphi_\alpha)\}_{\alpha \in A}nn 次元 CkC^k アトラスであるとは、αAUα=M\bigcup_{\alpha \in A} U_\alpha = M であり、かつ任意の α,βA\alpha, \beta \in A について (Uα,φα)(U_\alpha, \varphi_\alpha)(Uβ,φβ)(U_\beta, \varphi_\beta)CkC^k 両立することをいう。
  2. CkC^k アトラス A\mathcal{A}極大であるとは、A\mathcal{A} のすべてのチャートと CkC^k 両立するような MMnn 次元チャートが、必ず A\mathcal{A} に属することをいう。
  3. 極大な nn 次元 CkC^k アトラスを、MM 上の nn 次元 CkC^k 級微分構造CkC^k 構造)と呼ぶ。

極大性を要求するのは、「同じ微分構造を定める異なるアトラス」を同一視するためです。たとえば後で見るように、球面 SnS^n には立体射影による 2 枚のアトラスと、半球によるグラフ表示の 2n+22n+2 枚のアトラスがありますが、これらは同じ微分の概念を与えます。極大アトラスを取れば、両者は文字どおり同じ集合になります。

3.3. 極大アトラスの存在と一意性

Section titled “3.3. 極大アトラスの存在と一意性”

実際に多様体を作るときに極大アトラスを直接書き下すのは不可能です。次の命題が、「小さなアトラスを 1 つ与えれば十分」という保証を与えます。証明の核は次の補題です。

補題 3.4アトラス経由の両立性の伝播

A\mathcal{A} を位相空間 MMnn 次元 CkC^k アトラスとする。MMnn 次元チャート (U,φ)(U, \varphi), (V,ψ)(V, \psi) がともに A\mathcal{A} のすべてのチャートと CkC^k 両立するならば、(U,φ)(U, \varphi)(V,ψ)(V, \psi) は互いに CkC^k 両立する。

証明(補題 3.4)

UV=U \cap V = \emptyset なら主張は定義から成り立つので、UVU \cap V \ne \emptyset とします。ψφ1\psi \circ \varphi^{-1}φ(UV)\varphi(U \cap V)CkC^k 級であることを示せば、φ\varphiψ\psi の役割を入れ替えて逆向きも同様に従います。

命題 2.1 の 1(局所性)により、φ(UV)\varphi(U \cap V) の各点の近傍で CkC^k 級であることを示せば十分です。そこで aφ(UV)a \in \varphi(U \cap V) を任意に取り、p=φ1(a)UVp = \varphi^{-1}(a) \in U \cap V とおきます。

A\mathcal{A}MM を覆うので、pWp \in W となるチャート (W,χ)A(W, \chi) \in \mathcal{A} が存在します。UVWU \cap V \cap Wpp を含む MM の開集合であり、φ\varphi は同相写像なので φ(UVW)\varphi(U \cap V \cap W)aa を含む Rn\mathbb{R}^n の開集合です。

この開集合の上で

ψφ1=(ψχ1)(χφ1)\psi \circ \varphi^{-1} = (\psi \circ \chi^{-1}) \circ (\chi \circ \varphi^{-1})

が成り立ちます。実際、sφ(UVW)s \in \varphi(U \cap V \cap W) に対し q=φ1(s)UVWq = \varphi^{-1}(s) \in U \cap V \cap W であり、χφ1(s)=χ(q)χ(UVW)χ(VW)\chi \circ \varphi^{-1}(s) = \chi(q) \in \chi(U \cap V \cap W) \subset \chi(V \cap W) なので右辺は定義され、その値は ψ(q)=ψφ1(s)\psi(q) = \psi \circ \varphi^{-1}(s) です。

ここで χφ1\chi \circ \varphi^{-1}φ(UW)\varphi(U \cap W)CkC^k 級です(仮定より (U,φ)(U, \varphi)(W,χ)A(W, \chi) \in \mathcal{A}CkC^k 両立するから)。同様に ψχ1\psi \circ \chi^{-1}χ(VW)\chi(V \cap W)CkC^k 級です(仮定より (V,ψ)(V, \psi)(W,χ)(W, \chi)CkC^k 両立するから)。よって 命題 2.1 の 2(合成)より、ψφ1\psi \circ \varphi^{-1}φ(UVW)\varphi(U \cap V \cap W)CkC^k 級です。

aa は任意だったので、局所性により ψφ1\psi \circ \varphi^{-1}φ(UV)\varphi(U \cap V) 全体で CkC^k 級です。

命題 3.5極大アトラスの存在と一意性

MM を位相空間、A\mathcal{A}MMnn 次元 CkC^k アトラスとする。このとき A\mathcal{A} を含む nn 次元極大 CkC^k アトラスがただ 1 つ存在する。それは

A={(U,φ):(U,φ) は M の n 次元チャートで、A の任意のチャートと Ck 両立する}\mathcal{A}^{*} = \{ (U, \varphi) : (U,\varphi) \text{ は } M \text{ の } n \text{ 次元チャートで、} \mathcal{A} \text{ の任意のチャートと } C^k \text{ 両立する} \}

で与えられる。

証明(命題 3.5)

(1)AA\mathcal{A} \subset \mathcal{A}^{*} A\mathcal{A} はアトラスなので、その任意の 2 枚は互いに CkC^k 両立します。したがって A\mathcal{A} の各チャートは A\mathcal{A}^{*} の条件を満たします。特に A\mathcal{A}^{*} のチャートの定義域は MM を覆います。

(2)A\mathcal{A}^{*} はアトラスである。 覆うことは(1)で示しました。(U,φ),(V,ψ)A(U, \varphi), (V, \psi) \in \mathcal{A}^{*} とすると、両者は A\mathcal{A} のすべてのチャートと CkC^k 両立するので、補題 3.4 により互いに CkC^k 両立します。

(3)A\mathcal{A}^{*} は極大である。 nn 次元チャート (U,φ)(U, \varphi)A\mathcal{A}^{*} のすべてのチャートと CkC^k 両立するとします。(1)より AA\mathcal{A} \subset \mathcal{A}^{*} なので、特に (U,φ)(U,\varphi)A\mathcal{A} のすべてのチャートと CkC^k 両立します。これは (U,φ)A(U, \varphi) \in \mathcal{A}^{*} を意味します。

(4)一意性。 B\mathcal{B}AB\mathcal{A} \subset \mathcal{B} なる極大 CkC^k アトラスとします。B\mathcal{B} の各チャートは B\mathcal{B} の他のすべてのチャートと CkC^k 両立し、特に AB\mathcal{A} \subset \mathcal{B} のすべてと両立するので、BA\mathcal{B} \subset \mathcal{A}^{*} です。逆に (U,φ)A(U, \varphi) \in \mathcal{A}^{*} とし、(V,ψ)B(V, \psi) \in \mathcal{B} を任意に取ります。(V,ψ)BA(V,\psi) \in \mathcal{B} \subset \mathcal{A}^{*} なので、(U,φ)(U,\varphi)(V,ψ)(V,\psi) はともに A\mathcal{A} のすべてのチャートと CkC^k 両立します。よって 補題 3.4 より両者は CkC^k 両立します。(V,ψ)(V,\psi) は任意だったので、B\mathcal{B} の極大性から (U,φ)B(U, \varphi) \in \mathcal{B} です。ゆえに AB\mathcal{A}^{*} \subset \mathcal{B} となり、B=A\mathcal{B} = \mathcal{A}^{*} を得ます。

注意 3.6

実用上の帰結を 2 つ挙げます。

第一に、多様体を構成するときはアトラスを 1 つ書けばよいということです。命題 3.5 により、それが定める CkC^k 構造は一意に決まります。以下の例ではすべてこの流儀を取ります。

第二に、極大アトラス A\mathcal{A} に属するチャート (U,φ)(U, \varphi) と開集合 UU\emptyset \ne U' \subset U に対し、(U,φU)(U', \varphi|_{U'}) もまた A\mathcal{A} に属します。理由は次のとおりです。(U,φU)(U', \varphi|_{U'}) はチャートであり、任意の (V,ψ)A(V, \psi) \in \mathcal{A} との座標変換は (U,φ)(U,\varphi)(V,ψ)(V,\psi) の座標変換を開集合 φ(UV)\varphi(U' \cap V) に制限したものなので CkC^k 級です。よって極大性から A\mathcal{A} に属します。つまりチャートの定義域はいつでも小さくしてよいわけで、これは §6 で写像の CkC^k 性を扱うときに使います。

なお、定義を k=0k = 0 まで広げると、同じ次元の 2 枚のチャートは常に C0C^0 両立します(座標変換は同相写像なので連続)。したがって C0C^0 構造は位相から一意に定まり、新しい情報を持ちません。微分構造が意味を持つのは k1k \ge 1 のときです。

定義 3.3 では「nn 次元チャートの族」と最初から nn を固定しました。これが不自然な制限でないことを確認します。

命題 3.7次元の一意性

MM を位相空間、(U,φ)(U, \varphi)MMnn 次元チャート、(V,ψ)(V, \psi)MMmm 次元チャートとし、UVU \cap V \ne \emptyset とする。さらに座標変換 ψφ1 ⁣:φ(UV)ψ(UV)\psi \circ \varphi^{-1} \colon \varphi(U \cap V) \to \psi(U \cap V)φψ1 ⁣:ψ(UV)φ(UV)\varphi \circ \psi^{-1} \colon \psi(U \cap V) \to \varphi(U \cap V) がともに C1C^1 級であるとする。このとき n=mn = m である。

証明(命題 3.7)

pUVp \in U \cap V を取り、a=φ(p)Rna = \varphi(p) \in \mathbb{R}^n, b=ψ(p)Rmb = \psi(p) \in \mathbb{R}^m とおきます。§3.2 で見たとおり φ(UV)\varphi(U \cap V)Rn\mathbb{R}^n の開集合、ψ(UV)\psi(U \cap V)Rm\mathbb{R}^m の開集合です。F=ψφ1F = \psi \circ \varphi^{-1}, G=φψ1G = \varphi \circ \psi^{-1} とおくと、これらは互いに逆写像なので

GF=idφ(UV),FG=idψ(UV)G \circ F = \mathrm{id}_{\varphi(U \cap V)}, \qquad F \circ G = \mathrm{id}_{\psi(U \cap V)}

が成り立ちます。仮定より FF, GG はともに C1C^1 級なので、命題 2.1 の 2(連鎖律)を第 1 式に点 aa で適用して

DG(F(a))DF(a)=DG(b)DF(a)=InDG(F(a)) \, DF(a) = DG(b) \, DF(a) = I_n

を得ます(F(a)=ψ(φ1(a))=ψ(p)=bF(a) = \psi(\varphi^{-1}(a)) = \psi(p) = b を使いました)。同様に第 2 式を点 bb で適用して DF(G(b))DG(b)=DF(a)DG(b)=ImDF(G(b)) \, DG(b) = DF(a)\, DG(b) = I_m を得ます。

したがって線形写像 DF(a) ⁣:RnRmDF(a) \colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^mDG(b) ⁣:RmRnDG(b) \colon \mathbb{R}^m \to \mathbb{R}^n は互いに逆な線形同型です。同型なベクトル空間の次元は等しいので(ベクトル空間と線形変換、とくに 次元の一意性(定理 5.5)[ベクトル空間と線形変換] を参照)、n=mn = m です。

注意 3.8

命題 3.7 のおかげで、C1C^1 以上のアトラスを持つ空間では、各点の周りのチャートの次元は一意に決まります。次元は MM 上で局所定数なので、MM が連結ならば MM 全体で一定です。連結でない場合は成分ごとに異なる次元を許す流儀もありますが、この記事では最初から nn を固定します。

なお座標変換に微分可能性を仮定しない場合(C0C^0 の場合)、同じ結論は成り立つものの、証明にはブラウワーの領域不変性定理という位相幾何の深い定理が必要になります。連鎖律だけで済む C1C^1 の場合との差は大きく、微分構造を仮定することの威力がここに現れています。

定義 4.1CkC^k 級多様体

kN{}k \in \mathbb{N} \cup \{\infty\}nn00 以上の整数とする。組 (M,A)(M, \mathcal{A})nn 次元 CkC^k 級多様体であるとは、

  1. MM は Hausdorff 位相空間であり、
  2. MM は第二可算であり、
  3. A\mathcal{A}MM 上の nn 次元 CkC^k 級微分構造(すなわち極大 nn 次元 CkC^k アトラス)である

ことをいう。nnMM次元と呼び dimM=n\dim M = n と書く。k=k = \infty のとき MM滑らかな多様体CC^\infty 多様体)という。A\mathcal{A} が文脈から明らかなときは単に MM と書く。

flowchart TD
A["位相空間 M:Hausdorff かつ第二可算"] --> B["n 次元チャート U, φ を各点に与える"]
B --> C["アトラス:チャートの定義域が M を覆う"]
C --> D["Ck 両立:どの 2 枚も座標変換が Ck 級"]
D --> E["極大アトラス = Ck 級微分構造"]
E --> F["n 次元 Ck 級多様体"]
多様体の定義の組み立て。位相の層と微分の層が分かれており、両者をつなぐのが座標変換の C^k 性である。

条件 3 は §3 で用意しました。命題 3.5 により、実際には「nn 次元 CkC^k アトラスを 1 つ与える」だけで条件 3 は満たされます。問題は条件 1, 2 です。これらは局所的な条件(局所ユークリッド性)からは出てきません。次の例がそれを示します。

例 4.2二重原点直線:Hausdorff でない局所ユークリッド空間

LL を、2 つの直線 R×{0}\mathbb{R} \times \{0\}R×{1}\mathbb{R} \times \{1\} の非交和を、t0t \ne 0 のとき (t,0)(t,1)(t, 0) \sim (t, 1) と同一視して得られる商空間とします。[t,i][t, i] で同値類を表します。LL は「原点だけが 2 個ある直線」です。

Ui={[t,i]:tR}U_i = \{[t, i] : t \in \mathbb{R}\} (i=0,1)(i = 0, 1) とおき、φi([t,i])=t\varphi_i([t,i]) = t で写像を定めます。UiU_i は開集合であり(π1(Ui)\pi^{-1}(U_i)R×{i}\mathbb{R} \times \{i\}(R{0})×{1i}(\mathbb{R}\setminus\{0\}) \times \{1-i\} の和で開)、φi\varphi_i は同相写像です。U0U1=LU_0 \cup U_1 = L なので {(U0,φ0),(U1,φ1)}\{(U_0, \varphi_0), (U_1, \varphi_1)\} は 1 次元アトラスです。座標変換は

φ1φ01 ⁣:R{0}R{0},tt\varphi_1 \circ \varphi_0^{-1} \colon \mathbb{R} \setminus \{0\} \to \mathbb{R} \setminus \{0\}, \qquad t \mapsto t

すなわち恒等写像なので CC^\infty 級です。よって LL は 1 次元 CC^\infty アトラスを持ち、第二可算でもあります(可算個の開区間の像が基をなす)。

ところが LL は Hausdorff ではありません。2 点 00=[0,0]0_0 = [0,0]01=[0,1]0_1 = [0,1] を取ります。000_0 の任意の開近傍は、ある ε>0\varepsilon > 0 について φ01((ε,ε))\varphi_0^{-1}((-\varepsilon, \varepsilon)) を含みます。同様に 010_1 の任意の開近傍はある δ>0\delta > 0 について φ11((δ,δ))\varphi_1^{-1}((-\delta, \delta)) を含みます。ρ=min(ε,δ)/2>0\rho = \min(\varepsilon, \delta)/2 > 0 とおくと、点 [ρ,0]=[ρ,1][\rho, 0] = [\rho, 1] は両方に属します。よって 000_0010_1 を交わらない開集合で分離できません。

その結果、たとえば点列 [1/j,0][1/j, 0] (jN)(j \in \mathbb{N})000_0 にも 010_1 にも収束します。「極限が一意に定まらない」という状況では、微分方程式の解の一意性のような基本的な議論がすべて崩れます。Hausdorff 性を定義に入れるのはこのためです。

注意 4.3

第二可算性を課す理由は、その場で見える病理よりも、それがないと使えなくなる道具にあります。Hausdorff かつ第二可算な局所ユークリッド空間はパラコンパクトであり、したがって1 の分割が存在します。1 の分割は、局所的に定義された対象(リーマン計量、体積要素、接続)を大域的なものに貼り合わせるための標準的な道具であり、多様体上の積分の定義にも使われます。またホイットニーの埋め込み定理(nn 次元多様体は R2n+1\mathbb{R}^{2n+1} に埋め込める)も第二可算性を前提とします。

第二可算性を落とすとどうなるかは、簡単な例で見えます。非可算集合 AA を取り、X=αARX = \bigsqcup_{\alpha \in A} \mathbb{R}(非交和)に和位相を入れると、XX は Hausdorff かつ 1 次元 CC^\infty アトラスを持ちますが第二可算ではありません(演習 7.1 参照)。この例は非連結ですが、連結な反例として「長い直線」が知られています。長い直線は Hausdorff かつ局所ユークリッドですが、第二可算でも距離づけ可能でもありません。

なお、第二可算性の代わりにパラコンパクト性を仮定する流儀もあります。この場合、非可算個の連結成分を持つ多様体が許されるだけの違いです。

例 4.4ユークリッド空間とその開集合

(a)Rn\mathbb{R}^n 自身。 A0={(Rn,id)}\mathcal{A}_0 = \{(\mathbb{R}^n, \mathrm{id})\} は 1 枚だけからなる CC^\infty アトラスです(両立性は (U,φ)(U,\varphi) と自分自身について確かめればよく、座標変換は恒等写像なので CC^\infty)。Rn\mathbb{R}^n は Hausdorff かつ第二可算なので、A0\mathcal{A}_0 が生成する極大アトラスにより Rn\mathbb{R}^nnn 次元 CC^\infty 多様体です。これを Rn\mathbb{R}^n標準的な微分構造と呼びます。

(b)多様体の開集合。 (M,A)(M, \mathcal{A})nn 次元 CkC^k 多様体、WMW \subset M を空でない開集合とします。WW に相対位相を入れると、Hausdorff 性と第二可算性は部分空間に遺伝します。さらに AW={(UW,φUW):(U,φ)A, UW}\mathcal{A}|_W = \{(U \cap W, \varphi|_{U \cap W}) : (U, \varphi) \in \mathcal{A},\ U \cap W \ne \emptyset\}WWnn 次元 CkC^k アトラスです。実際、UWU \cap WWW の開集合で φUW\varphi|_{U\cap W}φ(UW)\varphi(U \cap W) の上への同相、これらは WW を覆い、座標変換は A\mathcal{A} の座標変換の開集合への制限なので CkC^k 級です。よって 命題 3.5 より WWnn 次元 CkC^k 多様体になります。これを開部分多様体と呼びます。

(c)一般線形群。 nn 次実正方行列全体 Mn(R)M_n(\mathbb{R}) は成分を並べることで Rn2\mathbb{R}^{n^2} と同一視され、n2n^2 次元 CC^\infty 多様体です。行列式 det ⁣:Mn(R)R\det \colon M_n(\mathbb{R}) \to \mathbb{R} は成分の多項式なので連続であり(行列式とその性質 を参照)、

GL(n,R)={AMn(R):detA0}=det1(R{0})GL(n, \mathbb{R}) = \{A \in M_n(\mathbb{R}) : \det A \ne 0\} = {\det}^{-1}(\mathbb{R} \setminus \{0\})

は開集合です。よって(b)より GL(n,R)GL(n,\mathbb{R})n2n^2 次元 CC^\infty 多様体です。これは リー群とリー環の基礎 の出発点になる例です(一般線形群 GL(n,R)(例 3.3)[リー群とリー環])。

5. 例:球面・実射影空間・トーラス

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ここからは、Rn\mathbb{R}^n の開集合ではない空間にアトラスを具体的に構成します。以下すべて k=k = \infty で考えますが、議論は任意の kk で同じです。まず、複数の多様体から新しい多様体を作る操作を用意します。

命題 5.1積多様体

(M,A)(M, \mathcal{A})mm 次元 CkC^k 多様体、(N,B)(N, \mathcal{B})nn 次元 CkC^k 多様体とする。積位相を入れた M×NM \times N は、アトラス

A×B={(U×V, φ×ψ):(U,φ)A, (V,ψ)B},(φ×ψ)(p,q)=(φ(p),ψ(q))\mathcal{A} \times \mathcal{B} = \{ (U \times V,\ \varphi \times \psi) : (U, \varphi) \in \mathcal{A},\ (V, \psi) \in \mathcal{B} \}, \qquad (\varphi \times \psi)(p, q) = (\varphi(p), \psi(q))

が生成する CkC^k 構造により (m+n)(m+n) 次元 CkC^k 多様体になる。

証明(命題 5.1)

位相の条件。 Hausdorff 空間の積は Hausdorff です((p,q)(p,q)(p,q) \ne (p',q') ならどちらかの成分が異なるので、その成分を分離する開集合の逆像を取ればよい)。第二可算空間の積も第二可算です(それぞれの可算基 U\mathcal{U}, V\mathcal{V} に対し {B×B:BU,BV}\{B \times B' : B \in \mathcal{U}, B' \in \mathcal{V}\} が可算基)。

チャートであること。 U×VU \times V は積位相の開集合、φ×ψ\varphi \times \psiφ(U)×ψ(V)Rm×Rn=Rm+n\varphi(U) \times \psi(V) \subset \mathbb{R}^{m} \times \mathbb{R}^{n} = \mathbb{R}^{m+n} の上への全単射であり、φ\varphi, ψ\psi が同相なので φ×ψ\varphi \times \psi も同相です。φ(U)×ψ(V)\varphi(U) \times \psi(V) は開集合の積なので Rm+n\mathbb{R}^{m+n} の開集合です。これらの定義域は M×NM \times N を覆います。

両立性。 (U,φ)A(U', \varphi') \in \mathcal{A}, (V,ψ)B(V', \psi') \in \mathcal{B} を取ると、(U×V)(U×V)=(UU)×(VV)(U \times V) \cap (U' \times V') = (U \cap U') \times (V \cap V') であり、座標変換は

(φ×ψ)(φ×ψ)1(u,v)=((φφ1)(u), (ψψ1)(v))(\varphi' \times \psi') \circ (\varphi \times \psi)^{-1}(u, v) = \big( (\varphi' \circ \varphi^{-1})(u),\ (\psi' \circ \psi^{-1})(v) \big)

です。右辺の第 1 成分は uu のみの CkC^k 級関数、第 2 成分は vv のみの CkC^k 級関数なので、(u,v)(u,v) の関数として kk 階までのすべての偏導関数が存在して連続です。よって CkC^k 級です。

この構成を繰り返すと、有限個の多様体の積が多様体になります。特に円周 S1S^1 が多様体であることが分かれば(次項)、nn 次元トーラス (S1)n(S^1)^n も多様体です。

例 5.2球面の立体射影によるアトラス

Sn={x=(x1,,xn+1)Rn+1:x=1}S^n = \{x = (x^1, \ldots, x^{n+1}) \in \mathbb{R}^{n+1} : |x| = 1\}Rn+1\mathbb{R}^{n+1} からの相対位相を入れます。Rn+1\mathbb{R}^{n+1} が Hausdorff かつ第二可算なので、SnS^n もそうです。北極を N=(0,,0,1)N = (0, \ldots, 0, 1)、南極を S=(0,,0,1)S = (0, \ldots, 0, -1) とし、

UN=Sn{N},φN(x)=(x1,,xn)1xn+1,US=Sn{S},φS(x)=(x1,,xn)1+xn+1U_N = S^n \setminus \{N\}, \quad \varphi_N(x) = \frac{(x^1, \ldots, x^n)}{1 - x^{n+1}}, \qquad U_S = S^n \setminus \{S\}, \quad \varphi_S(x) = \frac{(x^1, \ldots, x^n)}{1 + x^{n+1}}

とおきます。φN\varphi_N は、NNxx を通る直線と超平面 xn+1=0x^{n+1} = 0 の交点を取る操作(立体射影)です。

φN\varphi_N が同相写像であること。 xUNx \in U_N では xn+11x^{n+1} \ne 1 なので分母は 00 になりません。よって φN\varphi_N は連続です。逆写像の候補として

Φ(u)=(2u1,,2un, u21)u2+1(uRn)\Phi(u) = \frac{(2u^1, \ldots, 2u^n,\ |u|^2 - 1)}{|u|^2 + 1} \qquad (u \in \mathbb{R}^n)

を取ります。まず Φ(u)Sn\Phi(u) \in S^n です。実際

4u2+(u21)2=u4+2u2+1=(u2+1)24|u|^2 + (|u|^2 - 1)^2 = |u|^4 + 2|u|^2 + 1 = (|u|^2+1)^2

なので Φ(u)2=1|\Phi(u)|^2 = 1 です。また第 (n+1)(n+1) 成分は (u21)/(u2+1)1(|u|^2-1)/(|u|^2+1) \ne 1 なので Φ(u)UN\Phi(u) \in U_N です。次に φN(Φ(u))=u\varphi_N(\Phi(u)) = u を確かめます。Φ(u)\Phi(u) の第 (n+1)(n+1) 成分を ξ\xi とすると 1ξ=2/(u2+1)1 - \xi = 2/(|u|^2+1) なので

φN(Φ(u))=2u/(u2+1)2/(u2+1)=u.\varphi_N(\Phi(u)) = \frac{2u/(|u|^2+1)}{2/(|u|^2+1)} = u .

逆に xUNx \in U_N に対し u=φN(x)u = \varphi_N(x) とおくと、x=1|x|=1 より

u2=1(xn+1)2(1xn+1)2=1+xn+11xn+1,u2+1=21xn+1,u21=2xn+11xn+1|u|^2 = \frac{1 - (x^{n+1})^2}{(1 - x^{n+1})^2} = \frac{1 + x^{n+1}}{1 - x^{n+1}}, \qquad |u|^2 + 1 = \frac{2}{1 - x^{n+1}}, \qquad |u|^2 - 1 = \frac{2 x^{n+1}}{1 - x^{n+1}}

なので、Φ(u)\Phi(u) の最初の nn 成分は 2u(1xn+1)/2=(x1,,xn)2u \cdot (1-x^{n+1})/2 = (x^1, \ldots, x^n)、第 (n+1)(n+1) 成分は xn+1x^{n+1} となり Φ(u)=x\Phi(u) = x です。Φ\Phi は分母が 11 以上の有理式なので連続です。したがって φN ⁣:UNRn\varphi_N \colon U_N \to \mathbb{R}^n は同相写像であり、(UN,φN)(U_N, \varphi_N)nn 次元チャートです。φS\varphi_S についても、xn+1x^{n+1}xn+1-x^{n+1} に置き換えれば同じ計算が通ります。

アトラスであること。 NSN \ne S なので UNUS=SnU_N \cup U_S = S^n です。

座標変換。 UNUS=Sn{N,S}U_N \cap U_S = S^n \setminus \{N, S\} であり、φN(UNUS)=Rn{0}\varphi_N(U_N \cap U_S) = \mathbb{R}^n \setminus \{0\} です(φN(x)=0\varphi_N(x) = 0 となるのは x=Sx = S のときに限る)。u0u \ne 0 に対し、Φ(u)\Phi(u) の第 (n+1)(n+1) 成分を用いて 1+ξ=2u2/(u2+1)1 + \xi = 2|u|^2/(|u|^2+1) なので

φSφN1(u)=2u/(u2+1)2u2/(u2+1)=uu2.\varphi_S \circ \varphi_N^{-1}(u) = \frac{2u/(|u|^2+1)}{2|u|^2/(|u|^2+1)} = \frac{u}{|u|^2}.

これは Rn{0}\mathbb{R}^n \setminus \{0\} 上の CC^\infty 級写像です(各成分が有理関数で分母 u2|u|^200 にならない)。しかもこの写像は自分自身の逆写像なので、φNφS1\varphi_N \circ \varphi_S^{-1} も同じ式で与えられ CC^\infty 級です。よって 2 枚は CC^\infty 両立し、SnS^nnn 次元 CC^\infty 多様体です。

グラフによるアトラス。 別のアトラスも作れます。i=1,,n+1i = 1, \ldots, n+1 と符号 ϵ{+1,1}\epsilon \in \{+1, -1\} に対し

Viϵ={xSn:ϵxi>0},ψiϵ(x)=(x1,,xi^,,xn+1)V_i^{\epsilon} = \{x \in S^n : \epsilon x^i > 0\}, \qquad \psi_i^{\epsilon}(x) = (x^1, \ldots, \widehat{x^i}, \ldots, x^{n+1})

とおきます( ^\widehat{\ } はその成分を除くことを表します)。ψiϵ\psi_i^{\epsilon}ViϵV_i^{\epsilon} から開球 Bn={uRn:u<1}B^n = \{u \in \mathbb{R}^n : |u| < 1\} の上への同相写像で、逆写像は uu の第 ii 番目に ϵ1u2\epsilon\sqrt{1 - |u|^2} を挿入する写像です。xSnx \in S^n ならどれかの成分が 00 でないので、これら 2(n+1)2(n+1) 枚は SnS^n を覆います。座標変換は「ϵ1u2\epsilon\sqrt{1-|u|^2} を挿入して別の成分を落とす」写像であり、1u2\sqrt{1 - |u|^2}BnB^nCC^\infty 級(根号の中が正)なので CC^\infty 級です。

さらに、このアトラスは立体射影のアトラスと CC^\infty 両立します。ψiϵφN1\psi_i^{\epsilon} \circ \varphi_N^{-1}Φ\Phi の第 ii 成分を落としたものなので CC^\infty 級です。逆に φN(ψiϵ)1(u)\varphi_N \circ (\psi_i^{\epsilon})^{-1}(u) は、CC^\infty 級の成分を持つ点 x=(ψiϵ)1(u)x = (\psi_i^\epsilon)^{-1}(u) に対して (x1,,xn)/(1xn+1)(x^1,\ldots,x^n)/(1 - x^{n+1}) を作る操作であり、定義域上 xn+11x^{n+1} \ne 1 なので CC^\infty 級です。よって 命題 3.5 より、両者は同じ極大アトラスを生成します。つまりどちらのアトラスを使っても得られる微分構造は同じです。

例 5.3実射影空間の斉次座標によるアトラス

Rn+1{0}\mathbb{R}^{n+1} \setminus \{0\} に同値関係 xy    λR{0}, y=λxx \sim y \iff \exists \lambda \in \mathbb{R} \setminus \{0\},\ y = \lambda x を入れ、商空間 RPn=(Rn+1{0})/ ⁣\mathbb{RP}^n = (\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\})/\!\sim を考えます。商写像を π\pi とし、π(x)=[x0:x1::xn]\pi(x) = [x^0 : x^1 : \cdots : x^n] と書きます(斉次座標。添字は 00 から nn まで動かします)。RPn\mathbb{RP}^n は「Rn+1\mathbb{R}^{n+1} の原点を通る直線全体」と同一視されます。

π\pi は開写像。 VRn+1{0}V \subset \mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\} を開集合とすると π1(π(V))=λ0λV\pi^{-1}(\pi(V)) = \bigcup_{\lambda \ne 0} \lambda V です。各 λ0\lambda \ne 0 について xλxx \mapsto \lambda x は同相写像なので λV\lambda V は開、よって和集合も開です。商位相の定義より π(V)\pi(V) は開集合です。

第二可算性。 U\mathcal{U}Rn+1{0}\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\} の可算基とすると、{π(B):BU}\{\pi(B) : B \in \mathcal{U}\} は可算個の開集合の族です。これが基であることを見ます。WRPnW \subset \mathbb{RP}^n を開集合、[x]W[x] \in W とすると π1(W)\pi^{-1}(W)xx を含む開集合なので、xBπ1(W)x \in B \subset \pi^{-1}(W) なる BUB \in \mathcal{U} が取れます。すると [x]π(B)π(π1(W))=W[x] \in \pi(B) \subset \pi(\pi^{-1}(W)) = W です(π\pi が全射なので最後の等号が成り立ちます)。

Hausdorff 性。 R={(x,y)(Rn+1{0})2:xy}R = \{(x,y) \in (\mathbb{R}^{n+1}\setminus\{0\})^2 : x \sim y\} とおきます。x,yx, y がともに 00 でないとき、xyx \sim y であることと x,yx, y が線形従属であることは同値で、それは 2 次の小行列式がすべて消えること、すなわち

xiyjxjyi=0(0i<jn)x^i y^j - x^j y^i = 0 \qquad (0 \le i < j \le n)

と同値です。左辺は連続関数なので RR は有限個の閉集合の交わりとして閉集合です。ここで一般論を使います。π\pi が開写像で RR が閉ならば商空間は Hausdorff です。実際、[x][y][x] \ne [y] なら (x,y)R(x,y) \notin R なので、RR が閉であることから xAx \in A, yBy \in B なる開集合で (A×B)R=(A \times B) \cap R = \emptyset となるものが取れます。π\pi が開写像なので π(A)\pi(A), π(B)\pi(B) は開集合で、それぞれ [x][x], [y][y] を含みます。もし π(A)π(B)\pi(A) \cap \pi(B) \ne \emptyset なら aAa \in A, bBb \in B[a]=[b][a] = [b] となるものがあり、(a,b)(A×B)R(a, b) \in (A\times B) \cap R となって矛盾します。よって π(A)π(B)=\pi(A) \cap \pi(B) = \emptyset です。

チャート。 i=0,,ni = 0, \ldots, n に対し

Ui={[x]RPn:xi0},φi([x])=(x0xi,,xi1xi,xi+1xi,,xnxi)RnU_i = \{[x] \in \mathbb{RP}^n : x^i \ne 0\}, \qquad \varphi_i([x]) = \left( \frac{x^0}{x^i}, \ldots, \frac{x^{i-1}}{x^i}, \frac{x^{i+1}}{x^i}, \ldots, \frac{x^n}{x^i} \right) \in \mathbb{R}^n

とおきます。条件 xi0x^i \ne 0φi\varphi_i の値もスケール変換 xλxx \mapsto \lambda x で不変なので、どちらも代表元の取り方に依りません。Ui=π({x:xi0})U_i = \pi(\{x : x^i \ne 0\})π\pi が開写像なので開集合です。

φi\varphi_i の逆写像を書きます。u=(u1,,un)Rnu = (u^1, \ldots, u^n) \in \mathbb{R}^n に対し、Rn+1\mathbb{R}^{n+1} の点

ιi(u)=(u1,,ui, 1, ui+1,,un)\iota_i(u) = (u^1, \ldots, u^i,\ 1,\ u^{i+1}, \ldots, u^n)

を、第 ii 成分(00 から数えて)が 11 になるように定めます。すると φi1(u)=[ιi(u)]\varphi_i^{-1}(u) = [\iota_i(u)] です。実際 φi([ιi(u)])\varphi_i([\iota_i(u)])ιi(u)\iota_i(u) の第 ii 成分 11 で割って第 ii 成分を除いたものなので uu に戻り、逆に xi0x^i \ne 0 なら [x]=[x/xi]=[ιi(φi([x]))][x] = [x/x^i] = [\iota_i(\varphi_i([x]))] です。

φi\varphi_i は連続です。φiπ\varphi_i \circ \pi{xi0}\{x^i \ne 0\} 上の有理写像なので連続であり、π\pi{xi0}\{x^i \ne 0\} に制限したものは UiU_i への商写像だからです。φi1=πιi\varphi_i^{-1} = \pi \circ \iota_i は連続写像の合成なので連続です。よって (Ui,φi)(U_i, \varphi_i) はチャートで、[x][x] にはどれかの xi0x^i \ne 0 があるので {(Ui,φi)}i=0n\{(U_i, \varphi_i)\}_{i=0}^{n}RPn\mathbb{RP}^n を覆います。

座標変換。 φi(UiUj)={uRn:ιi(u)j0}\varphi_i(U_i \cap U_j) = \{u \in \mathbb{R}^n : \iota_i(u)^j \ne 0\} は開集合であり、その上で

φjφi1(u)=(ιi(u)0ιi(u)j,,  ^,,ιi(u)nιi(u)j)\varphi_j \circ \varphi_i^{-1}(u) = \left( \frac{\iota_i(u)^0}{\iota_i(u)^j}, \ldots, \widehat{\ \cdot\ }, \ldots, \frac{\iota_i(u)^n}{\iota_i(u)^j} \right)

(第 jj 成分を除く)です。各成分は uu の 1 次式どうしの商で分母は定義域上 00 にならないので、CC^\infty 級です。よって RPn\mathbb{RP}^nnn 次元 CC^\infty 多様体です。

具体例(RP2\mathbb{RP}^2)。 φ0([1:u1:u2])=(u1,u2)\varphi_0([1 : u^1 : u^2]) = (u^1, u^2)φ1([x0:x1:x2])=(x0/x1, x2/x1)\varphi_1([x^0:x^1:x^2]) = (x^0/x^1,\ x^2/x^1) なので、u10u^1 \ne 0 の範囲で

φ1φ01(u1,u2)=φ1([1:u1:u2])=(1u1, u2u1)\varphi_1 \circ \varphi_0^{-1}(u^1, u^2) = \varphi_1([1 : u^1 : u^2]) = \left( \frac{1}{u^1},\ \frac{u^2}{u^1} \right)

です。逆向きは φ0φ11(s,t)=φ0([s:1:t])=(1/s, t/s)\varphi_0 \circ \varphi_1^{-1}(s, t) = \varphi_0([s : 1 : t]) = (1/s,\ t/s)s0s \ne 0)で、やはり CC^\infty 級です。

RPn\mathbb{RP}^n は、SnS^n の対心点を同一視した空間とも同一視されます。物理では RP3\mathbb{RP}^3 が剛体の姿勢の空間(回転群 SO(3)SO(3))と同一視されることが重要です。

例 5.4トーラスの平行移動によるアトラス

ZnRn\mathbb{Z}^n \subset \mathbb{R}^n を整数格子とし、Tn=Rn/ZnT^n = \mathbb{R}^n / \mathbb{Z}^n を商空間、π ⁣:RnTn\pi \colon \mathbb{R}^n \to T^n を商写像とします(π(x)=x+Zn\pi(x) = x + \mathbb{Z}^n)。

π\pi は開写像。 VV が開なら π1(π(V))=mZn(V+m)\pi^{-1}(\pi(V)) = \bigcup_{m \in \mathbb{Z}^n}(V + m) は開集合の和なので開、よって π(V)\pi(V) は開です。第二可算性は 例 5.3 と同じ議論で従います。

Hausdorff 性。 写像 d ⁣:Rn×RnRnd \colon \mathbb{R}^n \times \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n, d(x,y)=yxd(x,y) = y - x は連続で、Zn\mathbb{Z}^nRn\mathbb{R}^n の閉集合です(各点が孤立し、集積点を持たない)。よって関係集合 R=d1(Zn)R = d^{-1}(\mathbb{Z}^n) は閉集合です。π\pi が開写像なので、例 5.3 で使ったのと同じ議論により TnT^n は Hausdorff です。

チャート。 VRnV \subset \mathbb{R}^n を、「x,yVx, y \in V かつ xyZnx - y \in \mathbb{Z}^n ならば x=yx = y」を満たす開集合とします(たとえば一辺の長さが 11 未満の開立方体はこれを満たします)。このとき πV ⁣:Vπ(V)\pi|_V \colon V \to \pi(V) は全単射で、連続かつ開写像なので同相写像です。そこで

ψV=(πV)1 ⁣:π(V)VRn\psi_V = (\pi|_V)^{-1} \colon \pi(V) \longrightarrow V \subset \mathbb{R}^n

とおけば (π(V),ψV)(\pi(V), \psi_V)nn 次元チャートです。任意の点 π(x)\pi(x) に対し xx を中心とする一辺 1/21/2 の開立方体を取ればよいので、これらのチャートは TnT^n を覆います。

座標変換。 そのような V,WV, W を取り、Ω=ψV(π(V)π(W))V\Omega = \psi_V(\pi(V) \cap \pi(W)) \subset V とおきます。Ω\Omega は開集合であり、座標変換は τ=ψWψV1=(πW)1πΩ\tau = \psi_W \circ \psi_V^{-1} = (\pi|_W)^{-1} \circ \pi|_{\Omega} です。xΩx \in \Omega に対し π(τ(x))=π(x)\pi(\tau(x)) = \pi(x) なので τ(x)xZn\tau(x) - x \in \mathbb{Z}^n です。写像 xτ(x)xx \mapsto \tau(x) - x は連続で値が離散集合 Zn\mathbb{Z}^n に入るので、各 mZnm \in \mathbb{Z}^n の逆像は Ω\Omega の開かつ閉な部分集合になり、したがってこの写像は局所定数です。すなわち Ω\Omega の各連結成分の上で

τ(x)=x+m(mZn は定数)\tau(x) = x + m \qquad (m \in \mathbb{Z}^n \text{ は定数})

と書けます。平行移動は CC^\infty 級なので、座標変換は CC^\infty 級です。よって TnT^nnn 次元 CC^\infty 多様体です。

TnT^nπ([0,1]n)=Tn\pi([0,1]^n) = T^n よりコンパクトです(コンパクト性、とくに コンパクト集合の連続像はコンパクト(定理 6.1)[コンパクト性] を参照)。また TnT^n(S1)n(S^1)^n と微分同相であり(S1=T1S^1 = T^1命題 5.1 から (S1)n(S^1)^n が多様体であることは分かります)、二重振り子の配置空間 T2T^2 はこの空間です。

6. 多様体上の CkC^k 級関数と写像

Section titled “6. 多様体上の CkC^kCk 級関数と写像”

多様体を定義した目的は、その上で微分を語ることでした。まず実数値関数から始めます。

定義 6.1多様体上の CkC^k 級関数

(M,A)(M, \mathcal{A})nn 次元 CkC^k 多様体、f ⁣:MRf \colon M \to \mathbb{R} とする。ffCkC^kであるとは、各点 pMp \in M に対して pUp \in U なるチャート (U,φ)A(U, \varphi) \in \mathcal{A} が存在して、チャート表示

f^=fφ1 ⁣:φ(U)R\hat{f} = f \circ \varphi^{-1} \colon \varphi(U) \longrightarrow \mathbb{R}

CkC^k 級であることをいう。MM 上の CkC^k 級関数全体を Ck(M)C^k(M) と書く。

定義は「あるチャートが存在して」という形ですが、実際には「すべてのチャートについて」と同値です。これが両立性を要求したことの見返りです。

補題 6.2チャート表示の取り替え

(M,A)(M, \mathcal{A})nn 次元 CkC^k 多様体、f ⁣:MRf \colon M \to \mathbb{R} とする。次は同値である。

  1. ff定義 6.1 の意味で CkC^k 級である。
  2. 任意のチャート (V,ψ)A(V, \psi) \in \mathcal{A} に対し、fψ1f \circ \psi^{-1}ψ(V)\psi(V)CkC^k 級である。
証明(補題 6.2)

2 から 1 は明らかです(各点についてその点を含む任意のチャートを取ればよい)。

1 から 2 を示します。(V,ψ)A(V, \psi) \in \mathcal{A} を任意に取ります。命題 2.1 の 1(局所性)により、ψ(V)\psi(V) の各点の近傍で fψ1f \circ \psi^{-1}CkC^k 級であることを示せば十分です。sψ(V)s \in \psi(V) を取り p=ψ1(s)Vp = \psi^{-1}(s) \in V とおきます。仮定 1 より、pUp \in U かつ fφ1f \circ \varphi^{-1}φ(U)\varphi(U)CkC^k 級となるチャート (U,φ)A(U, \varphi) \in \mathcal{A} が存在します。

ψ(UV)\psi(U \cap V)ss を含む Rn\mathbb{R}^n の開集合です。その上で

fψ1=(fφ1)(φψ1)f \circ \psi^{-1} = (f \circ \varphi^{-1}) \circ (\varphi \circ \psi^{-1})

が成り立ちます。実際 tψ(UV)t \in \psi(U\cap V) に対し ψ1(t)UV\psi^{-1}(t) \in U \cap V なので φψ1(t)φ(UV)φ(U)\varphi \circ \psi^{-1}(t) \in \varphi(U \cap V) \subset \varphi(U) であり、右辺の値は f(ψ1(t))f(\psi^{-1}(t)) です。

(U,φ)(U,\varphi)(V,ψ)(V,\psi) はともに極大アトラス A\mathcal{A} に属するので CkC^k 両立し、φψ1\varphi \circ \psi^{-1}ψ(UV)\psi(U \cap V)CkC^k 級です。fφ1f \circ \varphi^{-1} は仮定より φ(U)φ(UV)\varphi(U) \supset \varphi(U \cap V)CkC^k 級です。よって 命題 2.1 の 2(合成)から fψ1f \circ \psi^{-1}ψ(UV)\psi(U \cap V)CkC^k 級です。ss は任意だったので、局所性により fψ1f\circ\psi^{-1}ψ(V)\psi(V)CkC^k 級です。

定義 6.3多様体間の CkC^k 級写像と微分同相

(M,A)(M, \mathcal{A})mm 次元 CkC^k 多様体、(N,B)(N, \mathcal{B})nn 次元 CkC^k 多様体、F ⁣:MNF \colon M \to N とする。

  1. FFCkC^kであるとは、各点 pMp \in M に対して、pUp \in U なるチャート (U,φ)A(U, \varphi) \in \mathcal{A}F(p)VF(p) \in V なるチャート (V,ψ)B(V, \psi) \in \mathcal{B}F(U)VF(U) \subset V を満たすものが存在して、チャート表示

    ψFφ1 ⁣:φ(U)ψ(V)Rn\psi \circ F \circ \varphi^{-1} \colon \varphi(U) \longrightarrow \psi(V) \subset \mathbb{R}^n

    CkC^k 級であることをいう。

  2. FFCkC^k 微分同相写像であるとは、FF が全単射で、FFF1F^{-1} がともに CkC^k 級であることをいう。MM から NN への CkC^k 微分同相写像が存在するとき、MMNN微分同相であるという。

N=RN = \mathbb{R}(チャートは (R,id)(\mathbb{R}, \mathrm{id}))と取れば、この定義は 定義 6.1 と一致します。定義に連続性を仮定していない点に注意してください。連続性は自動的に従います。

命題 6.4CkC^k 級写像の連続性

F ⁣:MNF \colon M \to N定義 6.3 の意味で CkC^k 級ならば、FF は連続である。

証明(命題 6.4)

pMp \in M を取り、定義に現れるチャート (U,φ)(U, \varphi), (V,ψ)(V, \psi) を取ります。UU 上で

FU=ψ1(ψFφ1)φF|_U = \psi^{-1} \circ (\psi \circ F \circ \varphi^{-1}) \circ \varphi

が成り立ちます(qUq \in U に対し右辺は ψ1(ψ(F(q)))=F(q)\psi^{-1}(\psi(F(q))) = F(q))。φ\varphi は同相写像なので連続、真ん中の写像は CkC^k 級なので連続、ψ1\psi^{-1} は同相写像なので連続です。よって FUF|_U は連続です。

NN の開集合 OO を取ると、各 pp に対する上の UU について (FU)1(O)=F1(O)U(F|_U)^{-1}(O) = F^{-1}(O) \cap UUU の開集合、したがって MM の開集合です。pp を動かすとこれらの UUMM を覆うので

F1(O)=pM(F1(O)Up)F^{-1}(O) = \bigcup_{p \in M} \big( F^{-1}(O) \cap U_p \big)

は開集合の和として開です。ゆえに FF は連続です。

命題 6.5CkC^k 級写像の基本性質

MM, NN, PP をそれぞれ mm, nn, ll 次元の CkC^k 多様体とし、その微分構造を A\mathcal{A}, B\mathcal{B}, C\mathcal{C} とする。

  1. (チャート非依存性)F ⁣:MNF \colon M \to NCkC^k 級ならば、F(U)VF(U) \subset V を満たす任意のチャート (U,φ)A(U, \varphi) \in \mathcal{A}, (V,ψ)B(V, \psi) \in \mathcal{B} に対し、ψFφ1\psi \circ F \circ \varphi^{-1}φ(U)\varphi(U)CkC^k 級である。
  2. (合成)F ⁣:MNF \colon M \to NG ⁣:NPG \colon N \to P がともに CkC^k 級ならば、GF ⁣:MPG \circ F \colon M \to PCkC^k 級である。
証明(命題 6.5)

1 の証明。 (U,φ)A(U,\varphi) \in \mathcal{A}, (V,ψ)B(V,\psi) \in \mathcal{B}F(U)VF(U) \subset V となるように取り、aφ(U)a \in \varphi(U) を任意に取って p=φ1(a)p = \varphi^{-1}(a) とおきます。命題 2.1 の 1 により、aa の近傍で CkC^k 級であることを示せば十分です。

FFCkC^k 級であることから、pUp \in U', F(p)VF(p) \in V', F(U)VF(U') \subset V'ψFφ1\psi' \circ F \circ \varphi'^{-1}CkC^k 級となるチャート (U,φ)A(U', \varphi') \in \mathcal{A}, (V,ψ)B(V', \psi') \in \mathcal{B} が存在します。W=UUW = U \cap U'pp を含む開集合で、qWq \in W なら F(q)VF(q) \in V かつ F(q)VF(q) \in V'、すなわち F(W)VVF(W) \subset V \cap V' です。φ(W)\varphi(W)aa を含む開集合であり、その上で

ψFφ1=(ψψ1)(ψFφ1)(φφ1)\psi \circ F \circ \varphi^{-1} = (\psi \circ \psi'^{-1}) \circ (\psi' \circ F \circ \varphi'^{-1}) \circ (\varphi' \circ \varphi^{-1})

が成り立ちます。実際、sφ(W)s \in \varphi(W) に対し q=φ1(s)Wq = \varphi^{-1}(s) \in W とおくと、右端の写像は ssφ(q)φ(W)φ(U)\varphi'(q) \in \varphi'(W) \subset \varphi'(U') に送り、真ん中の写像はそれを ψ(F(q))ψ(VV)\psi'(F(q)) \in \psi'(V \cap V') に送り、左端の写像はそれを ψ(F(q))\psi(F(q)) に送ります。

3 つの写像はいずれも CkC^k 級です。φφ1\varphi' \circ \varphi^{-1}(U,φ)(U,\varphi)(U,φ)(U',\varphi') がともに極大アトラス A\mathcal{A} に属することから、ψψ1\psi \circ \psi'^{-1} は同様に B\mathcal{B} の両立性から、真ん中は仮定からです。よって 命題 2.1 の 2 より合成は φ(W)\varphi(W)CkC^k 級です。aa は任意だったので主張が従います。

2 の証明。 pMp \in M を取ります。GGCkC^k 級なので、F(p)V0F(p) \in V_0, G(F(p))W0G(F(p)) \in W_0, G(V0)W0G(V_0) \subset W_0χGψ01\chi \circ G \circ \psi_0^{-1}CkC^k 級となるチャート (V0,ψ0)B(V_0, \psi_0) \in \mathcal{B}, (W0,χ)C(W_0, \chi) \in \mathcal{C} が取れます。

次に MM 側のチャートを選びます。命題 6.4 より FF は連続なので F1(V0)F^{-1}(V_0)pp を含む開集合です。pp を含むチャート (U1,φ1)A(U_1, \varphi_1) \in \mathcal{A} を任意に取り、U=U1F1(V0)U = U_1 \cap F^{-1}(V_0), φ=φ1U\varphi = \varphi_1|_U とおくと、注意 3.6 より (U,φ)A(U, \varphi) \in \mathcal{A} であり、F(U)V0F(U) \subset V_0 です。

よって 1 を (U,φ)(U,\varphi)(V0,ψ0)(V_0, \psi_0) に適用して、ψ0Fφ1\psi_0 \circ F \circ \varphi^{-1}φ(U)\varphi(U)CkC^k 級です。この写像は φ(U)\varphi(U)ψ0(V0)\psi_0(V_0) の中に写し、χGψ01\chi \circ G \circ \psi_0^{-1}ψ0(V0)\psi_0(V_0)CkC^k 級なので、命題 2.1 の 2 より

χ(GF)φ1=(χGψ01)(ψ0Fφ1)\chi \circ (G \circ F) \circ \varphi^{-1} = (\chi \circ G \circ \psi_0^{-1}) \circ (\psi_0 \circ F \circ \varphi^{-1})

φ(U)\varphi(U)CkC^k 級です。また (GF)(U)G(V0)W0(G\circ F)(U) \subset G(V_0) \subset W_0 なので、(U,φ)(U,\varphi)(W0,χ)(W_0, \chi)定義 6.3 の条件を満たします。pp は任意だったので GFG \circ FCkC^k 級です。

例 6.6球面まわりの写像の CC^\infty

(a)包含写像 ι ⁣:SnRn+1\iota \colon S^n \hookrightarrow \mathbb{R}^{n+1} Rn+1\mathbb{R}^{n+1} のチャートとして (Rn+1,id)(\mathbb{R}^{n+1}, \mathrm{id}) を、SnS^n のチャートとして立体射影 (UN,φN)(U_N, \varphi_N) を取ります。ι(UN)Rn+1\iota(U_N) \subset \mathbb{R}^{n+1} は自明に成り立ち、チャート表示は 例 5.2Φ\Phi そのもの、すなわち

idιφN1(u)=(2u1,,2un, u21)u2+1\mathrm{id} \circ \iota \circ \varphi_N^{-1}(u) = \frac{(2u^1, \ldots, 2u^n,\ |u|^2-1)}{|u|^2+1}

です。分母は 11 以上なので各成分は Rn\mathbb{R}^n 上の CC^\infty 級有理関数です。(US,φS)(U_S, \varphi_S) についても同様なので、ι\iotaCC^\infty 級です。

(b)2 重被覆 ρ ⁣:SnRPn\rho \colon S^n \to \mathbb{RP}^n ρ(x)=[x]\rho(x) = [x] と定めます(x0x \ne 0 なので定義されます)。SnS^n の点 xxxi0x^i \ne 0 となる ii を取り、SnS^n のグラフチャート (Viϵ,ψiϵ)(V_i^{\epsilon}, \psi_i^{\epsilon})ϵ\epsilonxix^i の符号、ここでは添字を 00 から nn まで動かします)と RPn\mathbb{RP}^n のチャート (Ui,φi)(U_i, \varphi_i) を取ります。yViϵy \in V_i^\epsilon なら yi0y^i \ne 0 なので ρ(Viϵ)Ui\rho(V_i^\epsilon) \subset U_i です。uBnu \in B^n に対し y=(ψiϵ)1(u)y = (\psi_i^\epsilon)^{-1}(u) の第 ii 成分は ϵ1u2\epsilon\sqrt{1-|u|^2}、残りの成分は uu の成分なので

φiρ(ψiϵ)1(u)=uϵ1u2\varphi_i \circ \rho \circ (\psi_i^{\epsilon})^{-1}(u) = \frac{u}{\epsilon\sqrt{1 - |u|^2}}

となります。分母は BnB^n 上で 00 にならず CC^\infty 級なので、この写像は CC^\infty 級です。よって ρ\rhoCC^\infty 級です。

(c)商写像 π ⁣:RnTn\pi \colon \mathbb{R}^n \to T^n 例 5.4 のチャート (π(V),ψV)(\pi(V), \psi_V) を取ると、π(V)π(V)\pi(V) \subset \pi(V) かつ

ψVπid1V=(πV)1πV=idV\psi_V \circ \pi \circ \mathrm{id}^{-1}|_V = (\pi|_V)^{-1} \circ \pi|_V = \mathrm{id}_V

なので、チャート表示は恒等写像であり CC^\infty 級です。Rn\mathbb{R}^n の各点はそのような VV に含まれるので、π\piCC^\infty 級です。しかもチャート表示が恒等写像であることから、π\pi は各点の近傍を像の近傍の上に CC^\infty 微分同相に写します(局所微分同相)。

注意 6.7

同じ位相空間に異なる微分構造が入ることがあります。R\mathbb{R} 上で h(t)=t3h(t) = t^3 とおくと、hh は同相写像なので A1={(R,id)}\mathcal{A}_1 = \{(\mathbb{R}, \mathrm{id})\}A2={(R,h)}\mathcal{A}_2 = \{(\mathbb{R}, h)\} はともに 1 次元 CC^\infty アトラスです。しかし両者は C1C^1 両立しません。座標変換の一方 hid1=hh \circ \mathrm{id}^{-1} = hCC^\infty 級ですが、他方 idh1(s)=s1/3\mathrm{id} \circ h^{-1}(s) = s^{1/3}s=0s = 0 で微分可能でないからです。よって A1\mathcal{A}_1A2\mathcal{A}_2 が生成する極大アトラスは異なります。

それでも 2 つの多様体は微分同相です。F ⁣:(R,A2)(R,A1)F \colon (\mathbb{R}, \mathcal{A}_2^{*}) \to (\mathbb{R}, \mathcal{A}_1^{*})F(t)=t3F(t) = t^3 で定めると、チャート表示は idFh1(s)=(s1/3)3=s\mathrm{id} \circ F \circ h^{-1}(s) = (s^{1/3})^3 = s すなわち恒等写像で CC^\infty 級、逆写像 F1(s)=s1/3F^{-1}(s) = s^{1/3} のチャート表示も hF1id1(t)=(t1/3)3=th \circ F^{-1} \circ \mathrm{id}^{-1}(t) = (t^{1/3})^3 = tCC^\infty 級です。つまり「微分構造が違う」ことと「多様体として違う」ことは別の主張です。

同相だが微分同相でない多様体が存在するかは深い問題です。ミルナーは 1956 年、S7S^7 と同相だが微分同相でない 7 次元多様体(エキゾチック球面)を構成しました。また 1980 年代の 4 次元トポロジーの成果により、n4n \ne 4 のとき Rn\mathbb{R}^n の微分構造は標準的なものに限る一方、R4\mathbb{R}^4 には標準的でない微分構造が非可算個存在することが知られています。

演習 7.1

AA を非可算集合とし、X=αARαX = \bigsqcup_{\alpha \in A} \mathbb{R}_\alphaRα\mathbb{R}_\alpha はすべて R\mathbb{R} のコピー)に和位相を入れる。すなわち WXW \subset X が開であるとは、各 α\alpha について WRαW \cap \mathbb{R}_\alphaRα\mathbb{R}_\alpha の開集合であること、と定める。XX が Hausdorff かつ 1 次元 CC^\infty アトラスを持つが、第二可算でないことを示せ。

解答

Hausdorff 性。 相異なる 2 点 p,qXp, q \in X を取ります。同じ Rα\mathbb{R}_\alpha に属するなら、R\mathbb{R} が Hausdorff なので Rα\mathbb{R}_\alpha の中で交わらない開集合に分離でき、それらは XX の開集合です。異なる Rα\mathbb{R}_\alpha, Rβ\mathbb{R}_\beta に属するなら、Rα\mathbb{R}_\alphaRβ\mathbb{R}_\beta 自身が交わらない開集合です。

アトラス。 Uα=RαU_\alpha = \mathbb{R}_\alphaφα ⁣:UαR\varphi_\alpha \colon U_\alpha \to \mathbb{R} を自然な同一視とすると、各 (Uα,φα)(U_\alpha, \varphi_\alpha) は 1 次元チャートで、αUα=X\bigcup_\alpha U_\alpha = X です。αβ\alpha \ne \beta なら UαUβ=U_\alpha \cap U_\beta = \emptyset なので両立性の条件は自動的に満たされ、α=β\alpha = \beta のときの座標変換は恒等写像で CC^\infty 級です。よって {(Uα,φα)}\{(U_\alpha, \varphi_\alpha)\} は 1 次元 CC^\infty アトラスです。

第二可算でないこと。 U\mathcal{U}XX の開集合系の基とします。各 αA\alpha \in A について点 pαRαp_\alpha \in \mathbb{R}_\alpha を 1 つ選びます。Rα\mathbb{R}_\alphapαp_\alpha を含む開集合なので、基の定義から pαBαRαp_\alpha \in B_\alpha \subset \mathbb{R}_\alpha なる BαUB_\alpha \in \mathcal{U} が存在します。αβ\alpha \ne \beta のとき BαRαB_\alpha \subset \mathbb{R}_\alphaBβRβB_\beta \subset \mathbb{R}_\beta は交わらず、どちらも空でないので BαBβB_\alpha \ne B_\beta です。したがって αBα\alpha \mapsto B_\alpha は単射で、U\mathcal{U} の濃度は AA の濃度以上、すなわち非可算です。ゆえに可算基は存在しません。

(この XX定義 4.1 の条件 2 を満たさないので多様体ではありません。)

演習 7.2標準

MM, NNCkC^k 多様体とし、M×NM \times N命題 5.1CkC^k 構造を入れる。次を示せ。

  1. 射影 prM ⁣:M×NM\mathrm{pr}_M \colon M \times N \to M, prN ⁣:M×NN\mathrm{pr}_N \colon M \times N \to N はともに CkC^k 級である。
  2. PPCkC^k 多様体、H ⁣:PM×NH \colon P \to M \times N とする。HHCkC^k 級であることと、prMH\mathrm{pr}_M \circ HprNH\mathrm{pr}_N \circ H がともに CkC^k 級であることは同値である。
解答

1。 (p,q)M×N(p, q) \in M \times N を取り、pUp \in U, qVq \in V なるチャート (U,φ)A(U,\varphi) \in \mathcal{A}, (V,ψ)B(V,\psi) \in \mathcal{B} を取ります。積のチャート (U×V,φ×ψ)(U \times V, \varphi \times \psi) に対し prM(U×V)=UU\mathrm{pr}_M(U \times V) = U \subset U であり、チャート表示は

φprM(φ×ψ)1(u,v)=φ(φ1(u))=u\varphi \circ \mathrm{pr}_M \circ (\varphi \times \psi)^{-1}(u, v) = \varphi(\varphi^{-1}(u)) = u

すなわち Rm+nφ(U)×ψ(V)Rm\mathbb{R}^{m+n} \supset \varphi(U)\times\psi(V) \to \mathbb{R}^m の第 1 成分への射影です。線形写像なので CC^\infty 級、特に CkC^k 級です。prN\mathrm{pr}_N も同様です。

2。 HHCkC^k 級なら、1 と 命題 6.5 の 2(合成)より prMH\mathrm{pr}_M \circ H, prNH\mathrm{pr}_N \circ HCkC^k 級です。

逆に H1=prMHH_1 = \mathrm{pr}_M \circ H, H2=prNHH_2 = \mathrm{pr}_N \circ H がともに CkC^k 級とします。rPr \in P を取り、H1(r)UH_1(r) \in U, H2(r)VH_2(r) \in V なるチャート (U,φ)(U,\varphi), (V,ψ)(V,\psi) を取ります。命題 6.4 より H1H_1, H2H_2 は連続なので H11(U)H21(V)H_1^{-1}(U) \cap H_2^{-1}(V)rr を含む開集合です。rr を含む PP のチャートをこの開集合に制限したもの(注意 3.6 よりこれもチャートです)を (W,χ)(W, \chi) とおくと、H1(W)UH_1(W) \subset U, H2(W)VH_2(W) \subset V すなわち H(W)U×VH(W) \subset U \times V です。チャート表示は

(φ×ψ)Hχ1(w)=(φH1χ1(w), ψH2χ1(w))(\varphi \times \psi) \circ H \circ \chi^{-1}(w) = \big( \varphi \circ H_1 \circ \chi^{-1}(w),\ \psi \circ H_2 \circ \chi^{-1}(w) \big)

であり、命題 6.5 の 1 より各成分は χ(W)\chi(W)CkC^k 級です。ベクトル値写像が CkC^k 級であることは各成分が CkC^k 級であることと同値なので、全体も CkC^k 級です。rr は任意だったので HHCkC^k 級です。

演習 7.3標準

RP1\mathbb{RP}^1S1S^1 が微分同相であることを示せ。ヒント:R2\mathbb{R}^2C\mathbb{C} と同一視し、F([z])=z2/z2F([z]) = z^2/|z|^2 を考えよ。

解答

R2(x0,x1)z=x0+ix1C\mathbb{R}^2 \ni (x^0, x^1) \leftrightarrow z = x^0 + i x^1 \in \mathbb{C} と同一視し、F ⁣:RP1S1F \colon \mathbb{RP}^1 \to S^1F([z])=z2/z2F([z]) = z^2/|z|^2 で定めます。

well-defined。 λR{0}\lambda \in \mathbb{R} \setminus \{0\} に対し (λz)2/λz2=λ2z2/(λ2z2)=z2/z2(\lambda z)^2/|\lambda z|^2 = \lambda^2 z^2/(\lambda^2 |z|^2) = z^2/|z|^2 なので、代表元に依りません。また z2/z2=1|z^2/|z|^2| = 1 なので値は S1S^1 に入ります。

全単射。 z=1|z| = 1 と正規化してよく、そのとき F([z])=z2F([z]) = z^2 です。任意の wS1w \in S^1 に対し z2=wz^2 = w となる z=1|z|=1zz はちょうど 2 個あり、それらは zzz-z、すなわち同じ同値類です。よって FF は全単射です。

CC^\infty 性。 RP1\mathbb{RP}^1 のチャート φ0([1:u])=u\varphi_0([1 : u]) = u を取ると z=1+iuz = 1 + iu であり、

F(φ01(u))=(1+iu)21+u2=1u21+u2+i2u1+u2F(\varphi_0^{-1}(u)) = \frac{(1+iu)^2}{1+u^2} = \frac{1 - u^2}{1+u^2} + i\,\frac{2u}{1+u^2}

すなわち S1S^1 の点 (a,b)=((1u2)/(1+u2), 2u/(1+u2))(a, b) = \big((1-u^2)/(1+u^2),\ 2u/(1+u^2)\big) です。S1S^1 側では北極 (0,1)(0,1) からの立体射影 φN(a,b)=a/(1b)\varphi_N(a,b) = a/(1-b) を使います。F(φ01(u))=(0,1)F(\varphi_0^{-1}(u)) = (0,1) となるのは 1u2=01 - u^2 = 0 かつ 2u=1+u22u = 1 + u^2、すなわち u=1u = 1 のときだけなので、定義域を u1u \ne 1 に制限します。そこで

1b=12u1+u2=(1u)21+u2,φNFφ01(u)=1u2(1u)2=1+u1u1 - b = 1 - \frac{2u}{1+u^2} = \frac{(1-u)^2}{1+u^2}, \qquad \varphi_N \circ F \circ \varphi_0^{-1}(u) = \frac{1-u^2}{(1-u)^2} = \frac{1+u}{1-u}

を得ます。これは u1u \ne 1CC^\infty 級です。u=1u = 1 の近くでは S1S^1 側のチャートを南極からの立体射影 φS(a,b)=a/(1+b)\varphi_S(a,b) = a/(1+b) に取り替えます。1+b=(1+u)2/(1+u2)1 + b = (1+u)^2/(1+u^2) なので φSFφ01(u)=(1u)/(1+u)\varphi_S \circ F \circ \varphi_0^{-1}(u) = (1-u)/(1+u) となり、u1u \ne -1CC^\infty 級です。u=1u = -1u=1u = 1 の近くにないので、φ0\varphi_0 の定義域はこの 2 枚で覆えます。残る点 [0:1][0:1] の近くではチャート φ1([s:1])=s\varphi_1([s : 1]) = s を使い、z=s+iz = s + i について同じ計算を行えば、やはり有理式が得られて CC^\infty 級です。よって FFCC^\infty 級です。

逆写像の CC^\infty 性。 上で得た表示 g(u)=(1+u)/(1u)g(u) = (1+u)/(1-u)u1u \ne 1 から s1s \ne -1 への全単射で、逆は g1(s)=(s1)/(s+1)g^{-1}(s) = (s-1)/(s+1) です。これは s1s \ne -1CC^\infty 級であり、これがちょうど φ0F1φN1\varphi_0 \circ F^{-1} \circ \varphi_N^{-1} のチャート表示です。他のチャートの組についても同様に有理式が得られ、分母は定義域上で 00 になりません。よって F1F^{-1}CC^\infty 級であり、FF は微分同相写像です。

演習 7.4

AGL(n,R)A \in GL(n, \mathbb{R}) とし、格子 Λ=AZn={Am:mZn}\Lambda = A\mathbb{Z}^n = \{Am : m \in \mathbb{Z}^n\} による商 Rn/Λ\mathbb{R}^n/\Lambda を考える。Rn/Λ\mathbb{R}^n/\Lambdann 次元 CC^\infty 多様体であり、Tn=Rn/ZnT^n = \mathbb{R}^n/\mathbb{Z}^n と微分同相であることを示せ。

解答

多様体であること。 AA は線形同相写像なので Λ=AZn\Lambda = A\mathbb{Z}^nRn\mathbb{R}^n の離散閉部分群です。特に δ=min{v:vΛ, v0}\delta = \min\{|v| : v \in \Lambda,\ v \ne 0\} が存在して δ>0\delta > 0 です(Λ\Lambda が離散かつ閉なので、原点を中心とする有界閉球に入る Λ\Lambda の点は有限個)。πΛ ⁣:RnRn/Λ\pi_\Lambda \colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n/\Lambda を商写像とすると、例 5.4 と同じ議論で πΛ\pi_\Lambda は開写像、Rn/Λ\mathbb{R}^n/\Lambda は第二可算、また R=d1(Λ)R = d^{-1}(\Lambda)d(x,y)=yxd(x,y) = y-x)が閉であることから Hausdorff です。直径が δ\delta 未満の開集合 VV を取れば πΛV\pi_\Lambda|_V は同相写像なので、(πΛ(V),(πΛV)1)(\pi_\Lambda(V), (\pi_\Lambda|_V)^{-1}) がチャートを与え、座標変換は Λ\Lambda の元による平行移動(局所定数)なので CC^\infty 級です。よって Rn/Λ\mathbb{R}^n/\Lambdann 次元 CC^\infty 多様体です。

微分同相であること。 xyZn    AxAyΛx - y \in \mathbb{Z}^n \iff Ax - Ay \in \Lambda なので、写像 Aˉ(π(x))=πΛ(Ax)\bar{A}(\pi(x)) = \pi_\Lambda(Ax) は well-defined です。AA が全単射で AZn=ΛA\mathbb{Z}^n = \Lambda なので Aˉ\bar{A} は全単射で、逆は A1A^{-1} が誘導する写像 A1\overline{A^{-1}} です。

CC^\infty 性を見ます。VRnV \subset \mathbb{R}^n を、TnT^n のチャートを与えるだけ小さく、かつ A(V)A(V) の直径が δ\delta 未満になるように取ります(AA は連続なのでそのような VV は各点の周りに取れます)。このとき Aˉ(π(V))=πΛ(A(V))\bar{A}(\pi(V)) = \pi_\Lambda(A(V)) であり、チャート表示は

(πΛA(V))1AˉπV=AV(\pi_\Lambda|_{A(V)})^{-1} \circ \bar{A} \circ \pi|_V = A|_V

です。実際、xVx \in V に対し左辺は πΛ(Ax)\pi_\Lambda(Ax)A(V)A(V) の中の代表元に戻す操作で、AxA(V)Ax \in A(V) なのでその値は AxAx です。線形写像 AACC^\infty 級なので Aˉ\bar{A}CC^\infty 級です。同じ議論を A1A^{-1} に適用すれば A1=Aˉ1\overline{A^{-1}} = \bar{A}^{-1}CC^\infty 級です。よって Aˉ\bar{A} は微分同相写像です。

(一方、Rn/Λ\mathbb{R}^n/\LambdaRn\mathbb{R}^n の標準内積から誘導される距離を入れると、格子の形の違いは長さや角度の違いとして残ります。微分同相であっても計量的には異なる、というのはリーマン幾何が始まる地点です。)

  • J. M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd edition, Springer, 2013 — Chapter 1 “Smooth Manifolds”, Chapter 2 “Smooth Maps”。チャート・アトラス・極大アトラスの扱いは本記事と同じ流儀です。
  • 松島与三『多様体入門』裳華房、1965 — 微分可能多様体の定義とアトラスを扱う章。日本語の標準的な入門書です。
  • 松本幸夫『多様体の基礎』東京大学出版会、1988 — 多様体の定義と具体例を扱う章。位相の準備から丁寧に書かれています。
  • B. Riemann, “Über die Hypothesen, welche der Geometrie zu Grunde liegen”, Abhandlungen der Königlichen Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen 13 (1868) — 多様体の概念が最初に提示された 1854 年の就任講演。
  • L. A. Steen and J. A. Seebach, Jr., Counterexamples in Topology, 2nd edition, Springer, 1978 — 「二重原点直線」「長い直線」などの反例が整理されています。
  • J. Milnor, “On manifolds homeomorphic to the 7-sphere”, Annals of Mathematics 64 (1956), 399–405 — エキゾチック球面の最初の構成。

Appendix: チャートから多様体を組み立てる

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位相を後から入れる構成。 この記事では、まず位相空間 MM を用意し、そこにチャートを載せる、という順序で多様体を作りました。しかし実際には、位相を先に決めるのが面倒な場合があります。たとえば RPn\mathbb{RP}^n で商位相の Hausdorff 性を確かめるのに、2 次の小行列式を持ち出す必要がありました。

こうした場合、順序を逆にできます。集合 MM と、部分集合の族 {Uα}αA\{U_\alpha\}_{\alpha \in A}、および単射 φα ⁣:UαRn\varphi_\alpha \colon U_\alpha \to \mathbb{R}^n が与えられ、次の 5 条件を満たすとします。(i) 各 φα(Uα)\varphi_\alpha(U_\alpha)Rn\mathbb{R}^n の開集合である。(ii) 各 α,β\alpha, \beta について φα(UαUβ)\varphi_\alpha(U_\alpha \cap U_\beta)Rn\mathbb{R}^n の開集合である。(iii) UαUβU_\alpha \cap U_\beta \ne \emptyset のとき φβφα1 ⁣:φα(UαUβ)φβ(UαUβ)\varphi_\beta \circ \varphi_\alpha^{-1} \colon \varphi_\alpha(U_\alpha \cap U_\beta) \to \varphi_\beta(U_\alpha \cap U_\beta)CkC^k 級である。(iv) 可算個の UαU_\alphaMM が覆える。(v) MM の相異なる 2 点 p,qp, q に対し、両者を同時に含む UαU_\alpha が存在するか、または pUαp \in U_\alpha, qUβq \in U_\beta かつ UαUβ=U_\alpha \cap U_\beta = \emptyset なる α,β\alpha, \beta が存在する。

このとき、各 (Uα,φα)(U_\alpha, \varphi_\alpha) がチャートになるような位相と CkC^k 構造が MM 上にただ 1 つ存在します。位相は {φα1(B):αA, Bφα(Uα)\{\varphi_\alpha^{-1}(B) : \alpha \in A,\ B \subset \varphi_\alpha(U_\alpha) は開球}\} を基として定義され、(iv) が第二可算性を、(v) が Hausdorff 性を保証します。証明は Lee の教科書(Chapter 1 の Smooth Manifold Chart Lemma)にあります。

この見方の効用。 この形にすると、多様体を作る作業は「チャートを並べて、座標変換が CkC^k 級であることを確かめる」ことに一元化されます。§5 の SnS^n, RPn\mathbb{RP}^n, TnT^n はいずれもこの手順で作り直せます。さらに、ストークスの定理(一般化) で扱う境界付き多様体や、ファイバーバンドルの全空間のように「貼り合わせで定義するのが自然な空間」では、この構成法が実質的に唯一の道になります。

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