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スカラー場の正準量子化:場の交換関係から粒子描像へ

前提:古典場の理論とラグランジアン:無限自由度の変分原理からネーターの定理まで

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  • 古典力学の量子化と同じ処方を場に適用します。ポアソン括弧を交換子で置き換え、等時刻正準交換関係 [ϕ^(t,x),π^(t,y)]=iδ3(xy)[\hat\phi(t,\boldsymbol x),\hat\pi(t,\boldsymbol y)] = i\delta^3(\boldsymbol x-\boldsymbol y) を課します。連続無限個の自由度をもつ点だけが量子力学と違います。
  • 自由スカラー場を平面波で展開すると、運動量 k\boldsymbol k のモードごとに角振動数 ωk=k2+m2\omega_{\boldsymbol k}=\sqrt{|\boldsymbol k|^2+m^2} の調和振動子が 1 個ずつ現れます。自由場の量子論とは「互いに独立な無限個の調和振動子」のことです。
  • ハミルトニアンは H^=d3k(2π)3ωka^ka^k+E0\hat H = \int\frac{d^3k}{(2\pi)^3}\omega_{\boldsymbol k}\,\hat a^\dagger_{\boldsymbol k}\hat a_{\boldsymbol k} + E_0 と対角化されます。a^k\hat a^\dagger_{\boldsymbol k} が作る励起はエネルギー ωk\omega_{\boldsymbol k}、運動量 k\boldsymbol k をもち、E2=k2+m2E^2 = |\boldsymbol k|^2 + m^2 を満たします。これが「質量 mm の粒子」の正体です。
  • [a^k,a^k]=0[\hat a^\dagger_{\boldsymbol k},\hat a^\dagger_{\boldsymbol k'}]=0 から多粒子状態の完全対称性、すなわちボーズ統計が自動的に従います。状態空間はフォック空間です。
  • 真空エネルギー E0E_0 は発散します。正規順序で差し引きますが、境界条件を変えたときの「差」はカシミール効果として観測されており、重力を入れると宇宙定数問題になります。
  • 空間的に隔たった 2 点での場の交換子は厳密に 00 です(微視的因果律)。相対論的量子論が要求していた性質が、この構成では定理として証明できます。

1. 動機:なぜ場を演算子にするのか

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古典場の理論とラグランジアンでは、実スカラー場 ϕ(x)\phi(x)ラグランジアン密度(定義 4.1)[古典場の理論とラグランジアン]から出発する古典力学系として扱いました。そこで得られた枠組みは、質点系の解析力学と形式的にまったく同じです。一般化座標 qiq_i の役割を果たすのが各空間点での場の値 ϕ(x)\phi(\boldsymbol x) であり、添字 ii が連続変数 x\boldsymbol x に置き換わっただけです。

一方、量子力学は古典力学に対する明確な処方箋をもっています。正準座標と正準運動量を演算子に格上げし、ポアソン括弧を交換子で置き換える、という手続きです。詳しくは正準変換とポアソン括弧定義 5.1[正準変換とポアソン括弧]演算子と物理量定理 4.3[演算子と物理量]を参照してください。場もまた正準形式をもつ力学系なのですから、同じ処方をそのまま適用すればよい、というのが本章の出発点です。この手続きを正準量子化(canonical quantization)と呼びます。

しかし、なぜわざわざ場を量子化するのでしょうか。なぜ場の量子論が必要かで論じたとおり、素朴な代替案、すなわち「シュレーディンガー方程式を相対論的に書き換えて 1 粒子の波動関数の方程式にする」という道は行き止まりです。理由を 3 つ挙げます。

第 1 に、確率の問題があります。クライン–ゴルドン方程式を 1 粒子波動関数 ψ(x)\psi(x) の方程式と読むと、連続の方程式を満たす密度は ρ=i(ψψ˙ψ˙ψ)\rho = i(\psi^{*}\dot\psi - \dot\psi^{*}\psi) という形になり、これは正定値ではありません(命題 3.2[なぜ場の量子論が必要か])。負の確率密度は解釈できません。

第 2 に、負エネルギー解が残ります。E=±k2+m2E = \pm\sqrt{|\boldsymbol k|^2+m^2} の下側の枝を捨てると解の完全性が失われ、捨てないと基底状態が存在しません。

第 3 に、そして本質的なことに、粒子数が保存しない現象を 1 粒子のヒルベルト空間では原理的に扱えません。エネルギー 2mc22mc^2 以上を注ぎ込めば粒子・反粒子対が生成されるという事実は、加速器実験で日常的に確認されています。粒子数が動的に変化する以上、状態空間は粒子数を変える演算子を含んでいなければなりません。

場を量子化すると、この 3 つが同時に解決します。ϕ^\hat\phi の展開に現れる係数が自動的に生成・消滅演算子になり、粒子数を変える操作が理論に最初から組み込まれるからです。粒子は基本的な対象ではなく、場の励起として二次的に現れます。歴史的には、Dirac が 1927 年に電磁場を量子化して光子の自然放出係数を導いたのが最初の成功例で、その後 Jordan、Wigner、Heisenberg、Pauli によって一般の場へ拡張されました。当時「第二量子化」と呼ばれたのは、シュレーディンガー波動関数をもう一度量子化するという見方をしたためですが、現代的には古典場を(1 回だけ)量子化していると理解します。本章はこの現代的な立場で書きます。

flowchart TD
A["古典自由スカラー場: 場 φ と共役運動量 π"] --> B["正準量子化: 等時刻交換関係を課す"]
B --> C["平面波展開: 消滅演算子 a と生成演算子 a†"]
C --> D["ハミルトニアンの対角化: 独立な調和振動子の和になる"]
D --> E["基底状態 = 真空、および発散する零点エネルギー"]
D --> F["励起状態: エネルギー ω, 運動量 k, 分散関係 E² = k² + m²"]
E --> G["粒子描像 / フォック空間 / ボーズ統計"]
F --> G
G --> H["微視的因果律: 空間的隔たりで交換子がゼロ"]
本章の論理の流れ。古典場から出発して粒子描像に到達する

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