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電磁誘導と変位電流:マクスウェルが方程式系を閉じた瞬間

前提:定常電流と静磁場:ビオ・サバールの法則から rot B = μ0 J へ

生 Markdown
  • 磁束の時間変化は起電力を生みます。これがファラデーの電磁誘導の法則で、積分形は CEdl=ddtSBdS\displaystyle \oint_C \boldsymbol{E}\cdot d\boldsymbol{l} = -\frac{d}{dt}\int_S \boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{S} です。ストークスの定理を使うと微分形 rotE=B/t\operatorname{rot}\boldsymbol{E} = -\partial \boldsymbol{B}/\partial t になります。
  • この一本の式によって、静電場で成り立っていた rotE=0\operatorname{rot}\boldsymbol{E}=\boldsymbol{0} は特殊な場合の話に格下げされます。時間変化する場では電位(スカラーポテンシャル)だけでは電場を記述できません。
  • 回路が動く場合、起電力の一部は電場ではなくローレンツ力の v×B\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B} 項から来ます。「磁束の変化率」という一つの量が両者をまとめて与えることが、フラックス則の内容です。
  • 静磁場のアンペールの法則 rotB=μ0j\operatorname{rot}\boldsymbol{B}=\mu_0\boldsymbol{j} は、電荷が溜まる状況では電荷保存則と矛盾します。コンデンサの充電がその典型例です。
  • 矛盾を消す最小の修正が変位電流 ε0E/t\varepsilon_0 \partial\boldsymbol{E}/\partial t の追加です。これでマクスウェル方程式が閉じ、そこから真空中の電磁波と c=1/ε0μ0c = 1/\sqrt{\varepsilon_0\mu_0} が出てきます。

1. 動機:静電場と静磁場だけでは足りない

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1820 年にエルステッドが「電流のそばに置いた磁針が振れる」ことを発見しました。電流は磁場をつくる。ではその逆、磁場は電流をつくるのか。この素朴な問いに答えるまでに 11 年かかりました。答えが遅れた理由は単純です。磁石をコイルのそばに置いておくだけでは、何も起こらないからです。

1831 年、ファラデーは磁石を「動かした」瞬間だけ検流計の針が振れることを見つけました。定常状態ではなく、変化が原因だったのです。この発見は、それまでの電磁気学の構造を根本から変えました。静電場と静磁場は、静電場とガウスの法則定常電流と静磁場 で見たとおり、互いに独立な二つの理論として並立していました。電磁誘導は、その二つを初めて結びつける橋になります。

もう一つ、ファラデーの実験には注目すべき点があります。磁石を止めてコイルを動かしても、コイルを止めて磁石を動かしても、同じ起電力が観測されます。しかし当時の理論的な説明は二つの場合で全く別物でした。コイルが動く場合は導体中の電荷が受けるローレンツ力で説明され、磁石が動く場合は「渦電場」の発生で説明されます。原因の説明が違うのに結果が同じ。この不自然さこそが、1905 年のアインシュタインの論文「動いている物体の電気力学」の冒頭で問題にされたことでした。この記事の §5 では、その二つの説明が一つの式にまとまる様子を見ます。

さらに、電磁誘導だけでは話は終わりません。ファラデーの法則を加えた 4 本の法則を並べてみると、そのうちの 1 本、静磁場のアンペールの法則が電荷保存則と両立しないことが分かります。この矛盾を解消するためにマクスウェルが導入したのが変位電流です。§6 でこれを扱います。歴史の順序としては、電磁誘導の発見(1831)から変位電流の導入(1861–1865)まで 30 年です。この記事はその 30 年分を追体験する章になります。

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