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平均値の定理とテイラーの定理:微分から関数の姿を復元する

前提:導関数の定義と基本的な微分法:差分商の極限から連鎖律まで

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  • 微分係数は 1 点だけの情報です。それを「区間全体でこうなる」という主張に翻訳する装置が平均値の定理で、微分積分学の応用のほとんどはここを経由します。
  • 最大値定理とフェルマーの補題からロルの定理が出て、ロルの定理からラグランジュとコーシーの平均値の定理が出ます。三つは同じ定理の言い換えに近い関係にあります。
  • コーシーの平均値の定理からロピタルの定理が導かれます。「0/00/0 であること」「g0g' \ne 0」「f/gf'/g' の極限が存在すること」の三つを確かめずに使うと誤ります。
  • テイラーの定理の主役は多項式ではなく剰余項です。Rn(x)=f(n+1)(c)(xa)n+1/(n+1)!R_n(x) = f^{(n+1)}(c)(x-a)^{n+1}/(n+1)! という形が得られて初めて、近似が道具になります。
  • exe^xsinx\sin x はすべての実数で、log(1+x)\log(1+x)1<x1-1 < x \le 1 でマクローリン級数に収束します。この「収束する」の証明は、剰余項が 00 に行くことの確認そのものです。

導関数 f(c)f'(c) は、点 cc のいくらでも近くだけを見て決まる量です。ところが私たちが実際に使いたいのは、次のような区間全体についての主張です。

  • ff' が区間上つねに 00 なら、ff はその区間上で定数である。
  • ff' が区間上つねに正なら、ff はその区間上で増加する。
  • f1|f'| \le 1 なら、fff(x)f(y)xy|f(x) - f(y)| \le |x-y| を満たす。

どれも「そうに決まっている」と感じますが、どれも自明ではありません。微分係数の定義に現れるのは xcx \to c の極限だけで、離れた 2 点 x,yx, y における ff の値を直接結びつける情報はどこにも入っていないからです。局所的な情報から大域的な結論へ渡る橋が必要で、その橋が平均値の定理です。

日常の言葉に直せばこうなります。東京から大阪まで 500500 km を 55 時間で走った車は、途中のどこかで速度計がちょうど時速 100100 km を指した瞬間があったはずだ。平均の速さ(22 点の値の差の比)が、どこか 1 点での瞬間の速さ(微分係数)として実現される。これが平均値の定理の主張です。

もう一つ、動機の系統があります。関数の値を実際に計算したいという要求です。sin(0.1)\sin(0.1) の値を知りたいとき、正弦関数の定義(円弧の長さや級数)から直接数値を出すのは面倒ですが、多項式なら四則演算だけで計算できます。そこで「ff を多項式で置き換えたい」と考えます。しかし置き換えた瞬間に誤差が生じます。誤差の大きさを見積もれなければ、近似は数学の道具になりません。テイラーの定理は、この誤差にきちんとした形を与えます。そして驚くべきことに、その証明もまた平均値の定理(正確にはコーシー版)から出てきます。

この記事の論理の流れを先に示しておきます。

flowchart TD
A["実数の連続性(上限の存在)"] --> B["最大値・最小値の定理"]
B --> D["ロルの定理"]
C["フェルマーの補題"] --> D
D --> E["ラグランジュの平均値の定理"]
D --> F["コーシーの平均値の定理"]
E --> G["単調性の判定・不等式の証明"]
F --> H["ロピタルの定理"]
F --> I["テイラーの定理(ラグランジュ剰余)"]
I --> J["マクローリン展開と誤差評価"]
この記事の論理構成。すべては実数の連続性から出発し、ロルの定理を経由する。

微分の定義と基本的な計算規則は 導関数の定義と基本的な微分法 で扱ったものを使います。とくに「cc で微分可能なら cc で連続」という事実(微分可能ならば連続(定理 3.4)[導関数の定義と基本的な微分法])は以下で何度も使います。

定義 2.1極大・極小

IRI \subset \mathbb{R}f:IRf: I \to \mathbb{R}cIc \in I とします。ある δ>0\delta > 0 が存在して、xc<δ|x - c| < \delta を満たすすべての xIx \in I に対し

f(x)f(c)f(x) \le f(c)

が成り立つとき、ffcc極大であるといいます。同様に、そのような δ\delta に対し f(x)f(c)f(x) \ge f(c) が成り立つとき cc極小であるといいます。極大または極小であることを、極値をとるといいます。

「最大」が区間全体との比較であるのに対し、「極大」は cc の近くだけとの比較である点に注意してください。最大値をとる点は極大点ですが、逆は成り立ちません。

定義 2.2n 回微分可能・C^n 級

開区間 II 上の関数 ff に対し、f(0)=ff^{(0)} = f とし、f(k1)f^{(k-1)}II 上微分可能なとき f(k)=(f(k1))f^{(k)} = (f^{(k-1)})' と定めます。f(n)f^{(n)}II 上で存在するとき ffIInn 回微分可能であるといい、さらに f(n)f^{(n)}II 上連続であるとき ffCnC^n 級であるといいます。すべての nn について CnC^n 級であるとき CC^\infty 級といいます。

ffnn 回微分可能ならば f(n1)f^{(n-1)} は微分可能なので連続であり、したがって ff は自動的に Cn1C^{n-1} 級です。nn 回微分可能と CnC^n 級の差は、最後の f(n)f^{(n)} が連続かどうかだけです。

定理 2.3最大値・最小値の定理

a<ba < b とし、f:[a,b]Rf: [a,b] \to \mathbb{R}[a,b][a,b] 上連続であるとします。このとき xM,xm[a,b]x_M, x_m \in [a,b] が存在して、すべての x[a,b]x \in [a,b] に対して

f(xm)f(x)f(xM)f(x_m) \le f(x) \le f(x_M)

が成り立ちます。すなわち ff[a,b][a,b] 上で最大値と最小値をとります。

注意 2.4最大値定理の証明の所在と仮定の必要性

この定理の証明は実数の連続性(上限の存在、あるいはボルツァーノ–ワイエルシュトラスの定理)に依拠します。証明は 極限と連続性 (ε-δ論法) で扱っているので、ここでは既知として使います。

仮定はどちらも落とせません。区間が閉でないと壊れる例は f(x)=1/xf(x) = 1/x on (0,1](0,1] で、これは連続ですが上に有界ですらありません。区間が有界でないと壊れる例は f(x)=xf(x) = x on [0,)[0,\infty) です。連続性を落とすと、f(0)=0f(0) = 0f(x)=1xf(x) = 1 - x0<x10 < x \le 1)で定めた [0,1][0,1] 上の関数が上限 11 に達しません。

補題 2.5フェルマーの補題

II を開区間、f:IRf : I \to \mathbb{R}cIc \in I とします。ffcc で極値をとり、かつ cc で微分可能ならば f(c)=0f'(c) = 0 です。

証明(補題 2.5)

極大の場合を示せば十分です。極小の場合は f-f を考えると、f-fcc で極大となり、示された結果から (f)(c)=f(c)=0(-f)'(c) = -f'(c) = 0、したがって f(c)=0f'(c) = 0 が従うからです。

定義 2.1 より、ある δ1>0\delta_1 > 0 があって h<δ1|h| < \delta_1 かつ c+hIc + h \in I ならば f(c+h)f(c)f(c+h) \le f(c) です。さらに II は開集合なので、δδ1\delta \le \delta_1 を十分小さく取れば h<δ|h| < \delta から c+hIc + h \in I が従うようにできます。以下この δ\delta を固定します。

0<h<δ0 < h < \delta のとき、分子は f(c+h)f(c)0f(c+h) - f(c) \le 0、分母は h>0h > 0 なので

f(c+h)f(c)h0\frac{f(c+h) - f(c)}{h} \le 0

です。h+0h \to +0 とすると、極限の順序保存性(0\le 0 を満たす量の極限は 0\le 0)から、右側極限について f(c)0f'(c) \le 0 を得ます。

δ<h<0-\delta < h < 0 のときは、分子はやはり f(c+h)f(c)0f(c+h) - f(c) \le 0 ですが分母が h<0h < 0 なので

f(c+h)f(c)h0\frac{f(c+h) - f(c)}{h} \ge 0

となり、h0h \to -0 として f(c)0f'(c) \ge 0 を得ます。

ffcc で微分可能なので、左右の極限はともに存在して同じ値 f(c)f'(c) に等しくなります。したがって f(c)0f'(c) \le 0 かつ f(c)0f'(c) \ge 0、すなわち f(c)=0f'(c) = 0 です。

II が開区間であるという仮定は本質的です。f(x)=xf(x) = x[0,1][0,1] 上で考えると x=1x = 1 で最大ですが f(1)=10f'(1) = 1 \ne 0 です。左からしか近づけないため、上の議論の片方しか実行できないからです。この事情が、次節の定理で「cc は開区間 (a,b)(a,b) の中に取れる」という形の結論になって現れます。

定理 3.1ロルの定理

a<ba < b とし、f:[a,b]Rf : [a,b] \to \mathbb{R} が次の三つを満たすとします。

  1. ff は閉区間 [a,b][a,b] 上で連続である。
  2. ff は開区間 (a,b)(a,b) の各点で微分可能である。
  3. f(a)=f(b)f(a) = f(b)

このとき、f(c)=0f'(c) = 0 を満たす c(a,b)c \in (a,b) が存在します。

証明(定理 3.1)

仮定 1 と 定理 2.3 より、ff[a,b][a,b] 上で最大値 M=f(xM)M = f(x_M) と最小値 m=f(xm)m = f(x_m) をとります。

M=mM = m の場合。このとき任意の x[a,b]x \in [a,b]mf(x)M=mm \le f(x) \le M = m なので ff は定数です。a<ba < b より (a,b)(a,b) は空でないので、その任意の点 cc を取れば、定数関数の微分係数は定義から limh0(f(c+h)f(c))/h=limh00/h=0\lim_{h\to 0}(f(c+h)-f(c))/h = \lim_{h \to 0} 0/h = 0 であり、f(c)=0f'(c) = 0 が成り立ちます。

M>mM > m の場合。仮定 3 より f(a)=f(b)f(a) = f(b) です。もし M=f(a)M = f(a) かつ m=f(a)m = f(a) なら M=mM = m となって仮定に反するので、Mf(a)M \ne f(a) または mf(a)m \ne f(a) のいずれかが成り立ちます。

Mf(a)=f(b)M \ne f(a) = f(b) とします。最大値をとる点 xMx_Mf(xM)=Mf(a),f(b)f(x_M) = M \ne f(a), f(b) なので xMax_M \ne a かつ xMbx_M \ne b、すなわち c:=xM(a,b)c := x_M \in (a,b) です。f(x)f(c)f(x) \le f(c) がすべての x[a,b]x \in [a,b] で成り立つので、cc は開区間 (a,b)(a,b) における極大点でもあります(定義 2.1δ\delta として min{ca, bc}\min\lbrace c-a,\ b-c \rbrace を取ればよい)。仮定 2 より ffcc で微分可能なので、補題 2.5 を開区間 (a,b)(a,b) 上の関数 ff に適用して f(c)=0f'(c) = 0 を得ます。

mf(a)m \ne f(a) の場合も、xm(a,b)x_m \in (a,b) が極小点であることから同様に 補題 2.5 が適用でき、f(xm)=0f'(x_m) = 0 となります。

例 3.2ロルの定理の三つの仮定はどれも落とせない

三つの仮定それぞれについて、それだけを外すと結論が壊れる例を挙げます。

仮定 2(微分可能性)を外す。 f(x)=xf(x) = |x|[1,1][-1,1] 上で考えます。ff は連続で f(1)=f(1)=1f(-1) = f(1) = 1 ですが、x0x \ne 0 では f(x)=x/x=±1f'(x) = x/|x| = \pm 1 であり、00 になる点はありません。原因は x=0x = 0 で微分可能でないことです(右微分係数 11、左微分係数 1-1)。

仮定 3(両端の値が等しい)を外す。 f(x)=xf(x) = x[0,1][0,1] 上で考えます。連続かつ微分可能ですが f(0)=01=f(1)f(0) = 0 \ne 1 = f(1) であり、f(x)=1f'(x) = 1 はどこでも 00 になりません。

仮定 1(閉区間での連続性)を外す。 f(x)=xf(x) = x0x<10 \le x < 1)、f(1)=0f(1) = 0 で定めた [0,1][0,1] 上の関数を考えます。f(0)=f(1)=0f(0) = f(1) = 0 であり、(0,1)(0,1) の各点で微分可能で f(x)=1f'(x) = 1 です。しかし x=1x = 1 で連続でないため(x1x \to 1-f(x)10=f(1)f(x) \to 1 \ne 0 = f(1))、ff'00 になる点はありません。端点だけの連続性の破れでも結論が失われることが分かります。

3.2. ラグランジュの平均値の定理

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定理 3.3ラグランジュの平均値の定理

a<ba < b とし、f:[a,b]Rf : [a,b] \to \mathbb{R}[a,b][a,b] 上連続、(a,b)(a,b) の各点で微分可能であるとします。このとき

f(b)f(a)=f(c)(ba)f(b) - f(a) = f'(c)\,(b-a)

を満たす c(a,b)c \in (a,b) が存在します。同じことですが、f(b)f(a)ba=f(c)\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(c) です。

証明(定理 3.3)

両端を結ぶ直線(弦)を ff から引き算して、ロルの定理が使える形を作ります。

g(x)=f(x)f(a)f(b)f(a)ba(xa)(x[a,b])g(x) = f(x) - f(a) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a}(x - a) \qquad (x \in [a,b])

と定めます。ggff と 1 次関数の差なので、[a,b][a,b] 上で連続、(a,b)(a,b) の各点で微分可能です(ff について仮定した性質と、1 次関数がいたるところ連続かつ微分可能であることによります)。さらに

g(a)=f(a)f(a)0=0,g(b)=f(b)f(a)f(b)f(a)ba(ba)=0g(a) = f(a) - f(a) - 0 = 0, \qquad g(b) = f(b) - f(a) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a}(b-a) = 0

なので g(a)=g(b)g(a) = g(b) です。よって gg定理 3.1 の仮定をすべて満たし、g(c)=0g'(c) = 0 を満たす c(a,b)c \in (a,b) が存在します。(a,b)(a,b) 上で

g(x)=f(x)f(b)f(a)bag'(x) = f'(x) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a}

ですから、g(c)=0g'(c) = 0f(c)=f(b)f(a)baf'(c) = \dfrac{f(b)-f(a)}{b-a} に他なりません。両辺に ba0b - a \ne 0 を掛けて主張の式を得ます。

証明で引いた 1 次関数は、(a,f(a))(a,f(a))(b,f(b))(b,f(b)) を結ぶ弦そのものです。つまりこの定理は「曲線には弦と平行な接線が必ずある」と言っています。

y = f(x)接線acb
平均値の定理。両端を結ぶ弦(実線)と平行な接線(破線)をもつ点 c が、開区間の内部に必ず存在する。

系 3.4導関数の符号と単調性

IRI \subset \mathbb{R} を区間、f:IRf : I \to \mathbb{R}II 上連続で、II の内部の各点で微分可能な関数とします。

  1. II の内部でつねに f=0f' = 0 であることと、ffII 上定数であることは同値です。
  2. II の内部でつねに f0f' \ge 0 であることと、ffII 上広義単調増加(x<yf(x)f(y)x < y \Rightarrow f(x) \le f(y))であることは同値です。
  3. II の内部でつねに f>0f' > 0 ならば、ffII 上狭義単調増加(x<yf(x)<f(y)x < y \Rightarrow f(x) < f(y))です。ただしこの逆は成り立ちません。
証明(系 3.4)

まず 1 と 2 と 3 に共通する準備をします。x<yx < yII の任意の 2 点とすると、II は区間なので [x,y]I[x,y] \subset I です。ff[x,y][x,y] 上連続であり、開区間 (x,y)(x,y)II の内部に含まれる(II の 2 点の間の点は II の内点です)ので (x,y)(x,y) の各点で微分可能です。よって 定理 3.3 が使えて、

f(y)f(x)=f(c)(yx),c(x,y)f(y) - f(x) = f'(c)(y - x), \qquad c \in (x,y)

を満たす cc が存在します。ここで yx>0y - x > 0 なので、f(y)f(x)f(y)-f(x) の符号は f(c)f'(c) の符号と一致します。

1 の証明。内部でつねに f=0f' = 0 とすると、上式より任意の x<yx < yf(y)f(x)=0f(y) - f(x) = 0、すなわち ff は定数です。逆に ff が定数なら、任意の内点 cc で差分商が恒等的に 00 なので f(c)=0f'(c) = 0 です。

2 の証明。内部でつねに f0f' \ge 0 とすると、上式より f(y)f(x)=f(c)(yx)0f(y)-f(x) = f'(c)(y-x) \ge 0 なので広義単調増加です。逆に ff が広義単調増加とすると、内点 cch0h \ne 0 について (f(c+h)f(c))/h0(f(c+h)-f(c))/h \ge 0 です(h>0h > 0 なら分子分母とも 0\ge 0h<0h < 0 なら分子分母とも 0\le 0)。h0h \to 0 の極限をとり、極限の順序保存性から f(c)0f'(c) \ge 0 を得ます。

3 の証明。内部でつねに f>0f' > 0 とすると、上式より f(y)f(x)=f(c)(yx)>0f(y) - f(x) = f'(c)(y-x) > 0 なので狭義単調増加です。逆が成り立たない例は f(x)=x3f(x) = x^3 です。これは R\mathbb{R} 上狭義単調増加ですが(x<yx < y なら y3x3=(yx)(y2+xy+x2)>0y^3 - x^3 = (y-x)(y^2+xy+x^2) > 0。実際 y2+xy+x2=(y+x/2)2+3x2/4y^2 + xy + x^2 = (y + x/2)^2 + 3x^2/4x=y=0x = y = 0 以外で正です)、f(0)=0f'(0) = 0 となります。

主張 1 は「導関数が一致する二つの関数は定数の差しかない」という形で使われ、不定積分が定数の差を除いて定まることの根拠になります。この事実は 積分の基本定理と定積分 で中心的な役割を果たします。

例 3.5平均値の定理で不等式を作る

平均値の定理は、等式のまま使うより「ff' の値を評価して不等式に落とす」使い方のほうが多いです。

(1) 正弦関数は 1-リプシッツである。 すべての実数 x,yx, y に対し sinxsinyxy|\sin x - \sin y| \le |x - y| が成り立ちます。

x=yx = y のときは両辺 00 で成立します。xyx \ne y のときは、x<yx < y として一般性を失いません。sin\sinR\mathbb{R} 全体で微分可能なので、[x,y][x,y] 上で 定理 3.3 が使えて、ある c(x,y)c \in (x,y) について

sinysinx=cos(c)(yx)\sin y - \sin x = \cos(c)\,(y - x)

となります。cosc1|\cos c| \le 1 なので絶対値を取って sinysinxyx|\sin y - \sin x| \le |y - x| を得ます。

(2) 対数の両側評価。 x>0x > 0 に対して

x1+x<log(1+x)<x\frac{x}{1+x} < \log(1+x) < x

が成り立ちます。f(t)=log(1+t)f(t) = \log(1+t)[0,x][0,x] 上連続、(0,x)(0,x) で微分可能で f(t)=1/(1+t)f'(t) = 1/(1+t) です。定理 3.3 より、ある c(0,x)c \in (0,x) について

log(1+x)log1=x1+c\log(1+x) - \log 1 = \frac{x}{1+c}

です。0<c<x0 < c < x より 1<1+c<1+x1 < 1 + c < 1 + x であり、各辺の逆数をとると 11+x<11+c<1\dfrac{1}{1+x} < \dfrac{1}{1+c} < 1、これに x>0x > 0 を掛けて

x1+x<x1+c=log(1+x)<x\frac{x}{1+x} < \frac{x}{1+c} = \log(1+x) < x

を得ます。x=1x = 1 で確かめると 0.5<log2=0.6931<10.5 < \log 2 = 0.6931\ldots < 1 で、確かに成り立っています。

二つの関数の変化を比べたいことがあります。素朴には ffgg にそれぞれ 定理 3.3 を適用して比を取ればよさそうですが、出てくる中間点が ffgg で異なるため、f(c1)/g(c2)f'(c_1)/g'(c_2) という扱いにくい形になってしまいます。同じ 1 点 cc で比を実現するのが次の定理です。

定理 3.6コーシーの平均値の定理

a<ba < b とし、f,g:[a,b]Rf, g : [a,b] \to \mathbb{R} がともに [a,b][a,b] 上連続、(a,b)(a,b) の各点で微分可能であるとします。このとき

(f(b)f(a))g(c)=(g(b)g(a))f(c)\bigl(f(b) - f(a)\bigr) g'(c) = \bigl(g(b) - g(a)\bigr) f'(c)

を満たす c(a,b)c \in (a,b) が存在します。さらに、すべての x(a,b)x \in (a,b)g(x)0g'(x) \ne 0 ならば g(b)g(a)g(b) \ne g(a) であって

f(b)f(a)g(b)g(a)=f(c)g(c)\frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)} = \frac{f'(c)}{g'(c)}

と書けます。

証明(定理 3.6)
h(x)=(f(b)f(a))(g(x)g(a))(g(b)g(a))(f(x)f(a))h(x) = \bigl(f(b)-f(a)\bigr)\bigl(g(x) - g(a)\bigr) - \bigl(g(b)-g(a)\bigr)\bigl(f(x) - f(a)\bigr)

と定めます。hhf,gf, g の定数倍の和なので、[a,b][a,b] 上連続、(a,b)(a,b) で微分可能です。両端の値は

h(a)=0,h(b)=(f(b)f(a))(g(b)g(a))(g(b)g(a))(f(b)f(a))=0h(a) = 0, \qquad h(b) = \bigl(f(b)-f(a)\bigr)\bigl(g(b)-g(a)\bigr) - \bigl(g(b)-g(a)\bigr)\bigl(f(b)-f(a)\bigr) = 0

なので h(a)=h(b)h(a) = h(b) です。定理 3.1 より h(c)=0h'(c) = 0 なる c(a,b)c \in (a,b) が存在し、

h(x)=(f(b)f(a))g(x)(g(b)g(a))f(x)h'(x) = \bigl(f(b)-f(a)\bigr) g'(x) - \bigl(g(b)-g(a)\bigr) f'(x)

に代入すれば第一の主張が得られます。

後半を示します。もし g(a)=g(b)g(a) = g(b) なら、gg定理 3.1 の仮定を満たすので g(ξ)=0g'(\xi) = 0 なる ξ(a,b)\xi \in (a,b) が存在し、「すべての x(a,b)x \in (a,b)g(x)0g'(x) \ne 0」に矛盾します。よって g(b)g(a)g(b) \ne g(a) です。第一の主張の等式を (g(b)g(a))g(c)0\bigl(g(b)-g(a)\bigr) g'(c) \ne 0 で割れば(g(c)0g'(c) \ne 0 は仮定から)、求める形になります。

注意 3.7中間点は一つでなければ困る

f(x)=x3f(x) = x^3g(x)=x2g(x) = x^2[0,1][0,1] 上で考えます。ffgg に別々に 定理 3.3 を適用すると、f(1)f(0)=1=3c12f(1)-f(0) = 1 = 3c_1^2 から c1=1/3=0.5773c_1 = 1/\sqrt{3} = 0.5773\ldotsg(1)g(0)=1=2c2g(1)-g(0) = 1 = 2c_2 から c2=1/2c_2 = 1/2 となり、二つの中間点は異なります。一方 定理 3.6 が主張する cc

f(1)f(0)g(1)g(0)=1=3c22c=3c2\frac{f(1)-f(0)}{g(1)-g(0)} = 1 = \frac{3c^2}{2c} = \frac{3c}{2}

より c=2/3=0.6666c = 2/3 = 0.6666\ldots で、c1c_1 とも c2c_2 とも異なります。次節のロピタルの定理の証明では、分子と分母を「同一の点 cc での微分係数の比」に書き換えられることが決定的に効きます。

xax \to af(x)0f(x) \to 0g(x)0g(x) \to 0 となるとき、比 f(x)/g(x)f(x)/g(x) の極限は何になるでしょうか。極限の四則(定理 4.2)[極限と連続性] のうち商の法則は分母の極限が 00 でないときにしか使えないので、この形(0/00/0 型の不定形)は個別に工夫するしかありませんでした。ロピタルの定理は、この工夫を「分子と分母をそれぞれ微分する」という機械的操作に置き換えます。

なお、この定理は 1696 年のロピタル侯爵の教科書『曲線の理解のための無限小解析』に現れたためこの名で呼ばれますが、内容はヨハン・ベルヌーイによるものと考えられています。ロピタルはベルヌーイと契約を結び、その研究成果を自分の著書で使う権利を得ていました。

定理 4.1ロピタルの定理(0/0 型・右側極限)

aRa \in \mathbb{R}δ0>0\delta_0 > 0 とし、f,gf, g を開区間 (a,a+δ0)(a, a+\delta_0) 上で微分可能な実数値関数とします。次の三つを仮定します。

  1. すべての x(a,a+δ0)x \in (a, a+\delta_0) に対して g(x)0g'(x) \ne 0
  2. limxa+f(x)=0\displaystyle \lim_{x \to a+} f(x) = 0 かつ limxa+g(x)=0\displaystyle \lim_{x \to a+} g(x) = 0
  3. 極限 L=limxa+f(x)g(x)\displaystyle L = \lim_{x \to a+} \frac{f'(x)}{g'(x)} が実数として存在する。

このとき、すべての x(a,a+δ0)x \in (a,a+\delta_0)g(x)0g(x) \ne 0 であり、

limxa+f(x)g(x)=L\lim_{x \to a+} \frac{f(x)}{g(x)} = L

が成り立ちます。

証明(定理 4.1)

第 0 段(aa まで込めて連続な関数に直す)。 F,G:[a,a+δ0)RF, G : [a, a+\delta_0) \to \mathbb{R}

F(a)=0,F(x)=f(x) (x>a),G(a)=0,G(x)=g(x) (x>a)F(a) = 0,\quad F(x) = f(x)\ (x > a), \qquad G(a) = 0,\quad G(x) = g(x)\ (x > a)

で定めます。仮定 2 はちょうど「FFGGaa で右連続である」ことを意味します。また (a,a+δ0)(a, a+\delta_0) 上では F=fF = fG=gG = g が微分可能、したがって連続です。よって任意の x(a,a+δ0)x \in (a, a+\delta_0) に対し、FFGG[a,x][a,x] 上連続、(a,x)(a,x) 上微分可能です。

第 1 段(分母が消えないこと)。 ある x0(a,a+δ0)x_0 \in (a, a+\delta_0)g(x0)=0g(x_0) = 0 だったとします。すると G(a)=G(x0)=0G(a) = G(x_0) = 0 であり、GG[a,x0][a,x_0] 上連続、(a,x0)(a,x_0) 上微分可能なので 定理 3.1 より G(ξ)=g(ξ)=0G'(\xi) = g'(\xi) = 0 なる ξ(a,x0)\xi \in (a,x_0) が存在します。これは仮定 1 に反します。よって (a,a+δ0)(a,a+\delta_0) 上で g0g \ne 0 であり、比 f(x)/g(x)f(x)/g(x) は意味をもちます。

第 2 段(同一点での比に直す)。 x(a,a+δ0)x \in (a,a+\delta_0) を任意に取ります。(a,x)(a,a+δ0)(a,x) \subset (a,a+\delta_0) 上で G=g0G' = g' \ne 0 なので、定理 3.6 の後半が [a,x][a,x] 上の F,GF, G に適用でき、ある cx(a,x)c_x \in (a,x) について

f(x)g(x)=F(x)F(a)G(x)G(a)=F(cx)G(cx)=f(cx)g(cx)\frac{f(x)}{g(x)} = \frac{F(x) - F(a)}{G(x) - G(a)} = \frac{F'(c_x)}{G'(c_x)} = \frac{f'(c_x)}{g'(c_x)}

が成り立ちます。

第 3 段(ε\varepsilon 論法)。 ε>0\varepsilon > 0 を任意に取ります。仮定 3 より、ある δ(0,δ0]\delta \in (0, \delta_0] が存在して、a<t<a+δa < t < a + \delta ならば

f(t)g(t)L<ε\left| \frac{f'(t)}{g'(t)} - L \right| < \varepsilon

です。いま a<x<a+δa < x < a + \delta とすると、第 2 段の cxc_xa<cx<x<a+δa < c_x < x < a+\delta を満たすので、t=cxt = c_x として上の評価が使えて

f(x)g(x)L=f(cx)g(cx)L<ε\left| \frac{f(x)}{g(x)} - L \right| = \left| \frac{f'(c_x)}{g'(c_x)} - L \right| < \varepsilon

となります。ε>0\varepsilon > 0 は任意だったので、limxa+f(x)/g(x)=L\lim_{x \to a+} f(x)/g(x) = L です。

注意 4.2左側・両側・無限大版

左側極限 xax \to a- の場合は、f~(y)=f(2ay)\tilde f(y) = f(2a - y)g~(y)=g(2ay)\tilde g(y) = g(2a-y) とおけば本定理に帰着します。実際 f~(y)=f(2ay)\tilde f'(y) = -f'(2a-y)g~(y)=g(2ay)\tilde g'(y) = -g'(2a-y) なので f~/g~\tilde f'/\tilde g'f/gf'/g'x=2ayx = 2a-y で評価したものに等しく、ya+y \to a+xax \to a- に対応します。両側極限は左右両方に適用すれば得られます。

x+x \to +\infty の場合は t=1/xt = 1/x と置換します。F(t)=f(1/t)F(t) = f(1/t)G(t)=g(1/t)G(t) = g(1/t) とすると F(t)/G(t)=f(1/t)/g(1/t)F'(t)/G'(t) = f'(1/t)/g'(1/t)1/t2-1/t^2 が約分されます)となり、t0+t \to 0+ の場合に帰着します。L=±L = \pm\infty の場合や、分子分母がともに ±\pm\infty に発散する /\infty/\infty 型でも同様の結論が成り立ちますが、/\infty/\infty 型の証明は第 0 段の「連続に延長する」手が使えないため別の議論を要します。Rudin の Principles of Mathematical Analysis 第 5 章に統一的な証明があります。

例 4.3不定形の計算三つ

以下はいずれも両側極限なので、注意 4.2 に従って左右それぞれに 定理 4.1 を適用します(左右で同じ計算になるため、以下では区別せずに書きます)。

(1) limx01cosxx2\displaystyle \lim_{x\to 0} \frac{1 - \cos x}{x^2} f(x)=1cosxf(x) = 1-\cos xg(x)=x2g(x) = x^2 とすると、x0x \ne 0g(x)=2x0g'(x) = 2x \ne 0、そして x0x \to 0f,g0f, g \to 0 です。

f(x)g(x)=sinx2x\frac{f'(x)}{g'(x)} = \frac{\sin x}{2x}

はまた 0/00/0 型なので、f1=sinxf_1 = \sin xg1=2xg_1 = 2x に再び定理を使います。g1=20g_1' = 2 \ne 0f1,g10f_1, g_1 \to 0 で、f1/g1=cosx/21/2f_1'/g_1' = \cos x / 2 \to 1/2 です。よって limx0sinx/(2x)=1/2\lim_{x\to0} \sin x/(2x) = 1/2、さらにもう一度定理を使って

limx01cosxx2=12\lim_{x\to 0}\frac{1-\cos x}{x^2} = \frac{1}{2}

を得ます。数値で確認すると、x=0.1x = 0.1 のとき (10.99500417)/0.01=0.4995(1 - 0.99500417)/0.01 = 0.4995\ldots1/21/2 に近い値です。

(2) limx0xsinxx3\displaystyle \lim_{x \to 0}\frac{x - \sin x}{x^3} 分子分母を微分する操作を三回行います。一回目で 1cosx3x2\dfrac{1 - \cos x}{3x^2}、二回目で sinx6x\dfrac{\sin x}{6x}、三回目で cosx6\dfrac{\cos x}{6} が得られます。各段階で、分子分母がともに x0x \to 000 に収束すること(1cosx1 - \cos x3x23x^2sinx\sin x6x6x はすべてそうです)と、分母の微分 3x23x^26x6x66x0x \ne 000 にならないことを確認してください。最後の cosx/6\cos x/6x0x \to 01/61/6 に収束するので、後ろから順に各段階の極限が確定し、

limx0xsinxx3=16\lim_{x\to0}\frac{x - \sin x}{x^3} = \frac{1}{6}

を得ます。x=0.1x = 0.1 での実際の値は (0.10.09983342)/0.001=0.16658(0.1 - 0.09983342)/0.001 = 0.16658\ldots で、1/6=0.166661/6 = 0.16666\ldots に近い値です。

(3) limx0(1x1sinx)\displaystyle \lim_{x\to 0}\left(\frac{1}{x} - \frac{1}{\sin x}\right) これは \infty - \infty 型ですが、通分すれば 0/00/0 型になります。

1x1sinx=sinxxxsinx\frac{1}{x} - \frac{1}{\sin x} = \frac{\sin x - x}{x \sin x}

分子分母はともに x0x \to 000 に収束します。分母の微分は sinx+xcosx\sin x + x\cos x で、0<x<10 < |x| < 1 では xxsinx\sin x が同符号、cosx>0\cos x > 0 なので 00 になりません。一回適用して

cosx1sinx+xcosx\frac{\cos x - 1}{\sin x + x \cos x}

これも 0/00/0 型で、分母の微分は 2cosxxsinx2\cos x - x \sin x、これは x<1|x| < 1 で正です。二回目を適用すると

sinx2cosxxsinx02=0\frac{-\sin x}{2\cos x - x \sin x} \to \frac{0}{2} = 0

よって求める極限は 00 です。(2) の結果から sinxx\sin x - xx3x^3 の程度、xsinxx \sin xx2x^2 の程度なので比は xx の程度で 00 に行く、という見立てとも整合します。

注意 4.4ロピタルの三つの落とし穴

不定形かどうかを確かめない。 limx0x+2x+1=2\lim_{x\to 0}\dfrac{x+2}{x+1} = 2 ですが、分子分母を微分すると 1/1=11/1 = 1 になります。仮定 2 が満たされていないので定理は使えません。

f/gf'/g' の極限が存在しないとき、何も結論できない。 f(x)=x2sin(1/x)f(x) = x^2 \sin(1/x)x0x \ne 0)、g(x)=xg(x) = x とします。f(x)x2|f(x)| \le x^2 なので x0x \to 0f0f \to 0、また g0g \to 0g=10g' = 1 \ne 0 です。元の比は f(x)/g(x)=xsin(1/x)f(x)/g(x) = x\sin(1/x) で、xsin(1/x)x0|x \sin(1/x)| \le |x| \to 0 よりはさみうちで 00 に収束します。ところが

f(x)g(x)=2xsin1xcos1x\frac{f'(x)}{g'(x)} = 2x\sin\frac{1}{x} - \cos\frac{1}{x}

は、xn=1/(2nπ)x_n = 1/(2n\pi)1-1xn=1/((2n+1)π)x_n' = 1/((2n+1)\pi)+1+1 に近づくので極限をもちません。定理の仮定 3 が破れているだけで、元の極限は立派に存在します。「ロピタルで求まらない」は「極限がない」ではありません。

循環論法。 limx0sinxx\lim_{x\to0}\dfrac{\sin x}{x} にロピタルの定理を使って cosx/11\cos x/1 \to 1 とするのは循環論法です。(sin)=cos(\sin)' = \cos の証明そのものが、この極限の値 11三角関数の基本極限(補題 5.1)[導関数の定義と基本的な微分法])を使っているからです。

微分可能性の定義は、ffaa の近くで 1 次関数

T1(x)=f(a)+f(a)(xa)T_1(x) = f(a) + f'(a)(x-a)

によって、誤差が xa|x-a| より速く 00 に行く精度で近似できる、と読めます(微分可能性と一次近似(定理 4.1)[導関数の定義と基本的な微分法])。ではもっと精度を上げたいときはどうするか。次数を上げて 2 次、3 次の多項式を使うのが自然です。問題は二つあります。どの多項式を選ぶべきか、そして誤差はどれだけか。

定義 5.1テイラー多項式と剰余項

II を開区間、aIa \in If:IRf : I \to \mathbb{R}aann 回微分可能であるとします。

Tn(x)=k=0nf(k)(a)k!(xa)k=f(a)+f(a)(xa)+f(a)2!(xa)2++f(n)(a)n!(xa)nT_n(x) = \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k = f(a) + f'(a)(x-a) + \frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2 + \cdots + \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n

ffaa における nn 次テイラー多項式といいます。とくに a=0a = 0 のときマクローリン多項式と呼びます。また

Rn(x)=f(x)Tn(x)R_n(x) = f(x) - T_n(x)

nn 次の剰余項といいます。

注意 5.2テイラー多項式はどこから来たか

TnT_n は天下りではなく、次の条件で一意に決まる多項式です。「nn 次以下の多項式 PP であって、P(j)(a)=f(j)(a)P^{(j)}(a) = f^{(j)}(a)j=0,1,,nj = 0,1,\ldots,n)を満たすもの」。

まず TnT_n がこの条件を満たすことを見ます。(xa)k(x-a)^kjj 回微分して x=ax = a を代入すると、j<kj < k のときは (xa)(x-a) の正冪が残るので 00j=kj = k のときは k!k!j>kj > k のときは 00 です。したがって Tn(j)(a)=f(j)(a)j!/j!=f(j)(a)T_n^{(j)}(a) = f^{(j)}(a) \cdot j!/j! = f^{(j)}(a) となります。

次に一意性です。PP を条件を満たす別の多項式とし、Q=TnPQ = T_n - P とおくと degQn\deg Q \le n かつ Q(j)(a)=0Q^{(j)}(a) = 0j=0,,nj = 0,\ldots,n)です。QQxax - a の冪で Q(x)=k=0nbk(xa)kQ(x) = \sum_{k=0}^{n} b_k (x-a)^k と書けば(x=(xa)+ax = (x-a) + a を代入して展開すればこの形になります)、上と同じ計算で Q(j)(a)=j!bjQ^{(j)}(a) = j!\, b_j ですから、すべての jjbj=0b_j = 0、すなわち Q0Q \equiv 0P=TnP = T_n です。

定理 5.3テイラーの定理(ラグランジュの剰余)

II を開区間、aIa \in In0n \ge 0 を整数とし、f:IRf : I \to \mathbb{R}IIn+1n+1 回微分可能であるとします。このとき、任意の xIx \in Ixax \ne a に対して、aaxx の間にある実数 cc(すなわち a<c<xa < c < x または x<c<ax < c < a)が存在して

f(x)=k=0nf(k)(a)k!(xa)k+f(n+1)(c)(n+1)!(xa)n+1f(x) = \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k + \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}

が成り立ちます。最後の項をラグランジュの剰余といいます。

n=0n = 0 とすると主張は f(x)=f(a)+f(c)(xa)f(x) = f(a) + f'(c)(x-a)、すなわち 定理 3.3 そのものです。テイラーの定理は平均値の定理の高次版であり、証明も平均値の定理(コーシー版)に帰着します。

証明(定理 5.3)

a<xa < x の場合を示します(x<ax < a のときは以下の [a,x][a,x] をすべて [x,a][x,a] に読み替えれば、同じ論法がそのまま通ります)。

t[a,x]t \in [a,x] の関数として

F(t)=f(x)k=0nf(k)(t)k!(xt)k,G(t)=(xt)n+1F(t) = f(x) - \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(t)}{k!}(x-t)^k, \qquad G(t) = (x-t)^{n+1}

を定めます。ffIIn+1n+1 回微分可能なので f(0),,f(n)f^{(0)}, \ldots, f^{(n)} はすべて微分可能、したがって連続です。よって FFGG[a,x][a,x] 上連続、(a,x)(a,x) 上微分可能です。

FF' を計算します。積の微分法により

ddt[f(k)(t)k!(xt)k]=f(k+1)(t)k!(xt)kf(k)(t)(k1)!(xt)k1\frac{d}{dt}\left[\frac{f^{(k)}(t)}{k!}(x-t)^k\right] = \frac{f^{(k+1)}(t)}{k!}(x-t)^k - \frac{f^{(k)}(t)}{(k-1)!}(x-t)^{k-1}

です(k=0k = 0 のときは第 2 項がなく、f(t)f'(t) だけになります)。k=0k = 0 から nn まで足すと、第 1 項の kk 番目と第 2 項の k+1k+1 番目が打ち消し合い、

ddtk=0nf(k)(t)k!(xt)k=f(n+1)(t)n!(xt)n\frac{d}{dt}\sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(t)}{k!}(x-t)^k = \frac{f^{(n+1)}(t)}{n!}(x-t)^{n}

が残ります。したがって

F(t)=f(n+1)(t)n!(xt)n,G(t)=(n+1)(xt)nF'(t) = -\frac{f^{(n+1)}(t)}{n!}(x-t)^{n}, \qquad G'(t) = -(n+1)(x-t)^{n}

です。t(a,x)t \in (a,x) では xt>0x - t > 0 なので G(t)0G'(t) \ne 0 であり、定理 3.6 の後半が [a,x][a,x] 上の F,GF, G に適用できます。よって、ある c(a,x)c \in (a,x) について

F(x)F(a)G(x)G(a)=F(c)G(c)\frac{F(x) - F(a)}{G(x) - G(a)} = \frac{F'(c)}{G'(c)}

が成り立ちます。左辺を計算すると、F(x)=f(x)f(x)=0F(x) = f(x) - f(x) = 0G(x)=0G(x) = 0F(a)=f(x)Tn(x)=Rn(x)F(a) = f(x) - T_n(x) = R_n(x)G(a)=(xa)n+1G(a) = (x-a)^{n+1} なので

0Rn(x)0(xa)n+1=Rn(x)(xa)n+1\frac{0 - R_n(x)}{0 - (x-a)^{n+1}} = \frac{R_n(x)}{(x-a)^{n+1}}

です。右辺は (xc)n0(x-c)^n \ne 0 が約分できて

F(c)G(c)=f(n+1)(c)(xc)n/n!(n+1)(xc)n=f(n+1)(c)(n+1)!\frac{F'(c)}{G'(c)} = \frac{-f^{(n+1)}(c)(x-c)^n/n!}{-(n+1)(x-c)^n} = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}

となります(n!(n+1)=(n+1)!n! \cdot (n+1) = (n+1)! を使いました)。両者を等しいとおいて (xa)n+1(x-a)^{n+1} を掛ければ

Rn(x)=f(n+1)(c)(n+1)!(xa)n+1R_n(x) = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}

となり、f(x)=Tn(x)+Rn(x)f(x) = T_n(x) + R_n(x) から主張が従います。

定義 5.4ランダウの o 記号

aa の除外近傍で定義された関数 φ,ψ\varphi, \psi について、ψ\psiaa の近くで 00 にならず

limxaφ(x)ψ(x)=0\lim_{x \to a} \frac{\varphi(x)}{\psi(x)} = 0

が成り立つとき、φ(x)=o(ψ(x)) (xa)\varphi(x) = o(\psi(x))\ (x \to a) と書きます。「φ\varphiψ\psi より真に速く小さくなる」という意味です。

注意 5.5ペアノ型剰余

n1n \ge 1 とし、ffaa を含む開区間で CnC^n 級であるとします。このとき

f(x)=Tn(x)+o((xa)n)(xa)f(x) = T_n(x) + o\bigl((x-a)^n\bigr) \qquad (x \to a)

が成り立ちます。定理 5.3nn の代わりに n1n-1 で使うと、aaxx の間の cxc_x を用いて

f(x)=Tn1(x)+f(n)(cx)n!(xa)n=Tn(x)+f(n)(cx)f(n)(a)n!(xa)nf(x) = T_{n-1}(x) + \frac{f^{(n)}(c_x)}{n!}(x-a)^n = T_n(x) + \frac{f^{(n)}(c_x) - f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n

と書けます。xax \to a のとき cxc_xaaxx の間にあるので cxac_x \to a であり、f(n)f^{(n)} の連続性から f(n)(cx)f(n)(a)0f^{(n)}(c_x) - f^{(n)}(a) \to 0 です。したがって最後の項を (xa)n(x-a)^n で割ったものは 00 に収束し、定義 5.4 の意味で o((xa)n)o((x-a)^n) です。

ラグランジュ型は誤差の大きさを具体的な数で押さえたいとき、ペアノ型は極限計算で次数だけ合わせたいときに便利です。たとえば 例 4.3 の (2) は、sinx=xx3/6+o(x3)\sin x = x - x^3/6 + o(x^3) から

xsinxx3=x3/6+o(x3)x316\frac{x - \sin x}{x^3} = \frac{x^3/6 + o(x^3)}{x^3} \to \frac{1}{6}

と一行で済みます。

6. 基本的な関数のマクローリン展開

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以下、a=0a = 0 として TnT_nRnR_n を計算します。各例で確認すべきことは同じ手順です。(i) f(k)(0)f^{(k)}(0) を求めて TnT_n を書く。(ii) f(n+1)f^{(n+1)} を評価して Rn(x)|R_n(x)| を押さえる。(iii) nn \to \inftyRn(x)0R_n(x) \to 0 となる xx の範囲を決める。

例 6.1e^x のマクローリン展開

f(x)=exf(x) = e^x はすべての kk について f(k)(x)=exf^{(k)}(x) = e^x、したがって f(k)(0)=1f^{(k)}(0) = 1 です。よって

Tn(x)=k=0nxkk!=1+x+x22!++xnn!T_n(x) = \sum_{k=0}^{n} \frac{x^k}{k!} = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \cdots + \frac{x^n}{n!}

定理 5.3 より、00xx の間のある cc について Rn(x)=ecxn+1/(n+1)!R_n(x) = e^{c}x^{n+1}/(n+1)! です。cc00xx の間にあるので cxc \le |x| であり、ete^t(et)=et>0(e^t)' = e^t > 0系 3.4 より狭義単調増加なので ecexe^c \le e^{|x|} です。よって

Rn(x)exxn+1(n+1)!|R_n(x)| \le e^{|x|}\,\frac{|x|^{n+1}}{(n+1)!}

ここで xx を固定し、an=xn+1/(n+1)!a_n = |x|^{n+1}/(n+1)!00 に収束することを示します。NNN2xN \ge 2|x| となる自然数とすると、nNn \ge N のとき

an+1an=xn+2xN+2<12\frac{a_{n+1}}{a_n} = \frac{|x|}{n+2} \le \frac{|x|}{N+2} < \frac{1}{2}

です。したがって nNn \ge N に対し anaN(1/2)nNa_n \le a_N (1/2)^{n-N} であり、右辺は nn \to \infty00 に収束します。an0a_n \ge 0 なのではさみうちで an0a_n \to 0、ゆえに Rn(x)0R_n(x) \to 0 です。xx は任意だったので、すべての実数 xx について

ex=k=0xkk!e^x = \sum_{k=0}^{\infty}\frac{x^k}{k!}

が成り立ちます。

数値で確かめる。 x=1x = 1n=7n = 7 とすると

T7(1)=1+1+0.5+0.1666667+0.0416667+0.0083333+0.0013889+0.0001984=2.7182540T_7(1) = 1 + 1 + 0.5 + 0.1666667 + 0.0416667 + 0.0083333 + 0.0013889 + 0.0001984 = 2.7182540

です。誤差の評価は R7(1)e1/8!<3/40320=7.44×105|R_7(1)| \le e^{1}/8! < 3/40320 = 7.44 \times 10^{-5}。実際の値 e=2.7182818e = 2.7182818\ldots との差は 2.79×1052.79 \times 10^{-5} で、確かに評価の範囲に収まっています。

例 6.2sin x のマクローリン展開

f(x)=sinxf(x) = \sin x の導関数は cosx,sinx,cosx,sinx\cos x, -\sin x, -\cos x, \sin x と周期 44 で巡回します。x=0x = 0 での値は順に 0,1,0,10, 1, 0, -1 の繰り返しなので、偶数次の項がすべて消えて

T2m+1(x)=j=0m(1)j(2j+1)!x2j+1=xx33!+x55!T_{2m+1}(x) = \sum_{j=0}^{m}\frac{(-1)^j}{(2j+1)!}x^{2j+1} = x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \cdots

となります。f(n+1)f^{(n+1)}±sin\pm\sin±cos\pm\cos のいずれかなので、すべての ttf(n+1)(t)1|f^{(n+1)}(t)| \le 1 です。よって 定理 5.3 から

Rn(x)xn+1(n+1)!|R_n(x)| \le \frac{|x|^{n+1}}{(n+1)!}

となり、例 6.1 で示したとおり右辺は各 xx について nn \to \infty00 に収束します。したがってすべての実数 xx

sinx=j=0(1)j(2j+1)!x2j+1\sin x = \sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^j}{(2j+1)!}x^{2j+1}

が成り立ちます。

数値で確かめる。 sin(0.1)\sin(0.1)T3(x)=xx3/6T_3(x) = x - x^3/6 で近似すると

T3(0.1)=0.10.0016=0.0998333333T_3(0.1) = 0.1 - \frac{0.001}{6} = 0.0998333333

です。ここで誤差評価に一工夫あります。x4x^4 の係数は 00 なので T3=T4T_3 = T_4 であり、n=4n = 4 として評価するほうが得です。

R4(0.1)0.155!=105120=8.33×108|R_4(0.1)| \le \frac{0.1^5}{5!} = \frac{10^{-5}}{120} = 8.33\times 10^{-8}

実際 sin(0.1)=0.0998334166\sin(0.1) = 0.0998334166\ldots なので誤差は 8.33×1088.33 \times 10^{-8}、評価と桁まで一致します。係数が消える次数まで nn を上げると評価が改善する、というのは実務上よく使う手筋です。

例 6.3log(1+x) のマクローリン展開

f(x)=log(1+x)f(x) = \log(1+x)(1,)(-1, \infty) 上で考えます。f(x)=(1+x)1f'(x) = (1+x)^{-1} であり、帰納的に

f(k)(x)=(1)k1(k1)!(1+x)k(k1)f^{(k)}(x) = \frac{(-1)^{k-1}(k-1)!}{(1+x)^{k}} \qquad (k \ge 1)

が成り立ちます(k=1k = 1 で正しく、両辺を微分すると (1)k1(k1)!(k)(1+x)k1=(1)kk!(1+x)(k+1)(-1)^{k-1}(k-1)!\cdot(-k)(1+x)^{-k-1} = (-1)^{k}k!(1+x)^{-(k+1)} となって k+1k+1 の場合になります)。よって f(0)=0f(0) = 0f(k)(0)=(1)k1(k1)!f^{(k)}(0) = (-1)^{k-1}(k-1)! であり、

Tn(x)=k=1n(1)k1(k1)!k!xk=xx22+x33+(1)n1nxnT_n(x) = \sum_{k=1}^{n}\frac{(-1)^{k-1}(k-1)!}{k!}x^k = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \cdots + \frac{(-1)^{n-1}}{n}x^n

です。剰余項は、00xx の間のある cc を用いて

Rn(x)=f(n+1)(c)(n+1)!xn+1=(1)nn!(1+c)n+1(n+1)!xn+1=(1)nn+1(x1+c)n+1R_n(x) = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}x^{n+1} = \frac{(-1)^{n}n!}{(1+c)^{n+1}(n+1)!}x^{n+1} = \frac{(-1)^n}{n+1}\left(\frac{x}{1+c}\right)^{n+1}

となります。ここからが分かれ道です。

0x10 \le x \le 1 のとき。 0<c<x0 < c < x より 1+c>11 + c > 1 なので x/(1+c)<x1|x/(1+c)| < x \le 1、したがって

Rn(x)1n+10|R_n(x)| \le \frac{1}{n+1} \to 0

です。x=1x = 1 でも成り立つことに注意してください。

1/2x<0-1/2 \le x < 0 のとき。 x<c<0x < c < 0 より 1+c>1+x1/2>01 + c > 1 + x \ge 1/2 > 0 なので

x1+c<x1+x1/21/2=1\left|\frac{x}{1+c}\right| < \frac{|x|}{1+x} \le \frac{1/2}{1/2} = 1

であり、やはり Rn(x)1/(n+1)0|R_n(x)| \le 1/(n+1) \to 0 です。

1<x<1/2-1 < x < -1/2 のとき。 ccxx に近いと 1+c1 + c はいくらでも小さくなり、x/(1+c)|x/(1+c)|11 を超えます。q=x/(1+x)>1q = |x|/(1+x) > 1 とおくと上の評価は qn+1/(n+1)q^{n+1}/(n+1) \to \infty となって役に立ちません。ラグランジュ型の剰余では、この範囲は扱えないのです。実は結論自体は正しく、Appendix の積分形の剰余を使えば 1<x<0-1 < x < 0 の全体で Rn(x)0R_n(x) \to 0 が示せます。

以上より

log(1+x)=k=1(1)k1kxk(1<x1)\log(1+x) = \sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^{k-1}}{k}x^{k} \qquad (-1 < x \le 1)

です。なお x>1x > 1 では、xk/k|x|^k/k00 に行かないので、一般項の必要条件(命題 3.4)[級数と収束判定] により級数そのものが発散します。

数値で確かめる。 x=0.5x = 0.5n=4n = 4 とすると

T4(0.5)=0.50.125+0.04166670.015625=0.4010417T_4(0.5) = 0.5 - 0.125 + 0.0416667 - 0.015625 = 0.4010417

誤差の評価は R4(0.5)(1/5)(0.5)5=6.25×103|R_4(0.5)| \le (1/5)(0.5)^5 = 6.25\times10^{-3}。実際 log1.5=0.4054651\log 1.5 = 0.4054651\ldots なので誤差は 4.42×1034.42\times10^{-3} で評価内です。

x=1x = 1 での収束は非常に遅くなります。T10(1)=11/2+1/31/10=0.6456T_{10}(1) = 1 - 1/2 + 1/3 - \cdots - 1/10 = 0.6456\ldots に対し log2=0.6931\log 2 = 0.6931\ldots で、10 項使っても小数第 1 位しか合いません。評価 Rn(1)1/(n+1)|R_n(1)| \le 1/(n+1) が示すとおりです。実際の数値計算では log1+y1y=2(y+y3/3+y5/5+)\log\frac{1+y}{1-y} = 2(y + y^3/3 + y^5/5 + \cdots) のような、収束の速い変形が使われます。

関数マクローリン展開収束して元の関数に一致する範囲
exe^xk0xk/k!\sum_{k\ge0} x^k/k!すべての実数
sinx\sin xj0(1)jx2j+1/(2j+1)!\sum_{j\ge0}(-1)^j x^{2j+1}/(2j+1)!すべての実数
log(1+x)\log(1+x)k1(1)k1xk/k\sum_{k\ge1}(-1)^{k-1}x^k/k1<x1-1 < x \le 1

注意 6.4級数が収束しても元の関数とは限らない

f(x)=e1/x2f(x) = e^{-1/x^2}x0x \ne 0)、f(0)=0f(0) = 0 で定めた関数は R\mathbb{R}CC^\infty 級で、すべての kk について f(k)(0)=0f^{(k)}(0) = 0 となることが知られています。このときマクローリン級数は恒等的に 00 であり、R\mathbb{R} 全体で収束します。しかし x0x \ne 0 では f(x)>0f(x) > 0 なので、級数の和は ff と一致しません。剰余項 Rn(x)=f(x)R_n(x) = f(x)00 に行かないからです。

つまり「テイラー級数が収束すること」と「その和が元の関数に等しいこと」は別の主張であり、後者を保証するのは剰余項の評価だけです。級数の収束判定そのものについては 級数と収束判定 を参照してください。

演習 7.1標準

p(x)=x33x+1p(x) = x^3 - 3x + 1 は相異なる実数解をちょうど 3 個もつことを示してください。(存在には中間値の定理を、個数の上からの評価には 定理 3.1 を使ってください。)

解答

3 個以上あること。 pp は多項式なので R\mathbb{R} 上連続です。値を計算すると

p(2)=8+6+1=1<0,p(0)=1>0,p(1)=13+1=1<0,p(2)=86+1=3>0p(-2) = -8 + 6 + 1 = -1 < 0,\quad p(0) = 1 > 0,\quad p(1) = 1 - 3 + 1 = -1 < 0,\quad p(2) = 8 - 6 + 1 = 3 > 0

です。中間値の定理より、(2,0)(-2,0)(0,1)(0,1)(1,2)(1,2) のそれぞれに pp の零点が少なくとも 1 個ずつあります。これらの区間は互いに交わらないので、相異なる実数解が少なくとも 3 個あります。

4 個以上はないこと。 相異なる実数解が 4 個あったとし、それらを r1<r2<r3<r4r_1 < r_2 < r_3 < r_4 とします。各 ii について p(ri)=p(ri+1)=0p(r_i) = p(r_{i+1}) = 0 であり、pp[ri,ri+1][r_i, r_{i+1}] 上連続、(ri,ri+1)(r_i,r_{i+1}) で微分可能なので、定理 3.1 より p(si)=0p'(s_i) = 0 なる si(ri,ri+1)s_i \in (r_i, r_{i+1}) が存在します。i=1,2,3i = 1,2,3 について得られる s1<r2<s2<r3<s3s_1 < r_2 < s_2 < r_3 < s_3 は相異なるので、pp' は少なくとも 3 個の相異なる零点をもつことになります。しかし p(x)=3x23=3(x1)(x+1)p'(x) = 3x^2 - 3 = 3(x-1)(x+1) の零点は x=±1x = \pm 1 の 2 個だけなので矛盾です。

よって解はちょうど 3 個です。

演習 7.2標準

次の極限を求めてください。定理を適用するたびに仮定が満たされていることを確かめてください。

(1) limx0tanxxx3\displaystyle \lim_{x\to0}\frac{\tan x - x}{x^3}  (2) aa を実数として limx0(1+ax)1/x\displaystyle \lim_{x\to0}(1+ax)^{1/x}

解答

(1) f(x)=tanxxf(x) = \tan x - xg(x)=x3g(x) = x^3 とします。0<x<π/20 < |x| < \pi/2 で両者は微分可能、g(x)=3x20g'(x) = 3x^2 \ne 0x0x \ne 0)、x0x \to 0f,g0f, g \to 0 です。(tan)=1/cos2(\tan)' = 1/\cos^2 を使うと

f(x)=1cos2x1=1cos2xcos2x=sin2xcos2x=tan2xf'(x) = \frac{1}{\cos^2 x} - 1 = \frac{1 - \cos^2 x}{\cos^2 x} = \frac{\sin^2 x}{\cos^2 x} = \tan^2 x

なので

f(x)g(x)=tan2x3x2=13(tanxx)2\frac{f'(x)}{g'(x)} = \frac{\tan^2 x}{3x^2} = \frac{1}{3}\left(\frac{\tan x}{x}\right)^2

です。tanxx=sinxx1cosx11=1\dfrac{\tan x}{x} = \dfrac{\sin x}{x}\cdot\dfrac{1}{\cos x} \to 1 \cdot 1 = 1 なので、積の極限の法則から f/g1/3f'/g' \to 1/3 です。定理 4.1(と 注意 4.2 の両側版)より

limx0tanxxx3=13\lim_{x\to0}\frac{\tan x - x}{x^3} = \frac{1}{3}

(2) a=0a = 0 なら値は恒等的に 11 なので、以下 a0a \ne 0 とします。x|x| が十分小さければ 1+ax>01 + ax > 0 なので、(1+ax)1/x=exp(log(1+ax)x)(1+ax)^{1/x} = \exp\bigl(\frac{\log(1+ax)}{x}\bigr) と書けます。指数の部分について、f(x)=log(1+ax)f(x) = \log(1+ax)g(x)=xg(x) = x とすると x0x \to 0f,g0f, g \to 0g=10g' = 1 \ne 0、そして

f(x)g(x)=a1+axa\frac{f'(x)}{g'(x)} = \frac{a}{1+ax} \to a

です。よって log(1+ax)/xa\log(1+ax)/x \to a となります。exp\exp は連続なので、合成関数の極限から

limx0(1+ax)1/x=ea\lim_{x\to0}(1+ax)^{1/x} = e^{a}

です。a=1a = 1 とすると limx0(1+x)1/x=e\lim_{x\to0}(1+x)^{1/x} = e、すなわち ee の古典的な定義式が再現されます。

演習 7.3標準

cosx\cos x00 における 4 次マクローリン多項式を求め、x0.5|x| \le 0.5 における誤差を評価してください。さらに cos(0.5)\cos(0.5) の近似値を計算し、真の値 0.87758256190.8775825619\ldots と比較してください。

解答

f(x)=cosxf(x) = \cos x00 での高階微分係数は f(0)=1f(0) = 1f(0)=sin0=0f'(0) = -\sin 0 = 0f(0)=cos0=1f''(0) = -\cos 0 = -1f(0)=sin0=0f'''(0) = \sin 0 = 0f(4)(0)=cos0=1f^{(4)}(0) = \cos 0 = 1 です。よって

T4(x)=1x22+x424T_4(x) = 1 - \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24}

です。x5x^5 の係数は f(5)(0)=sin0=0f^{(5)}(0) = -\sin 0 = 0 なので T4=T5T_4 = T_5 であり、誤差評価は n=5n = 5 で行うほうが得です。f(6)(t)=cost1|f^{(6)}(t)| = |-\cos t| \le 1 なので 定理 5.3 より

R5(x)x66!0.56720=0.015625720=2.17×105(x0.5)|R_5(x)| \le \frac{|x|^6}{6!} \le \frac{0.5^6}{720} = \frac{0.015625}{720} = 2.17\times10^{-5} \qquad (|x| \le 0.5)

です(n=4n = 4 で評価すると 0.55/120=2.60×1040.5^5/120 = 2.60\times10^{-4} となり、1 桁ゆるい評価になります)。

x=0.5x = 0.5 での近似値は

T4(0.5)=10.252+0.062524=10.125+0.0026042=0.8776042T_4(0.5) = 1 - \frac{0.25}{2} + \frac{0.0625}{24} = 1 - 0.125 + 0.0026042 = 0.8776042

真の値との差は 0.87760420.8775826=2.16×1050.8776042 - 0.8775826 = 2.16\times10^{-5} で、上の評価 2.17×1052.17\times10^{-5} にぎりぎり収まっています。3 項の足し算だけで小数第 4 位まで正しい値が得られました。

演習 7.4

f:[0,)Rf : [0,\infty) \to \mathbb{R}[0,)[0,\infty) 上連続、(0,)(0,\infty) の各点で微分可能で、f(0)=0f(0) = 0、さらに ff'(0,)(0,\infty) 上で広義単調増加であるとします。このとき g(x)=f(x)/xg(x) = f(x)/x(0,)(0,\infty) 上で広義単調増加であることを示してください。

解答

0<x<y0 < x < y を任意に取ります。

ff[0,x][0,x] 上連続、(0,x)(0,x) で微分可能なので 定理 3.3 より、ある c1(0,x)c_1 \in (0,x) について

f(x)f(0)=f(c1)xf(x) - f(0) = f'(c_1)\,x

です。f(0)=0f(0) = 0 なので f(x)x=f(c1)\dfrac{f(x)}{x} = f'(c_1) を得ます。

同様に ff[x,y][x,y] 上連続、(x,y)(x,y) で微分可能なので、ある c2(x,y)c_2 \in (x,y) について

f(y)f(x)=f(c2)(yx)f(y) - f(x) = f'(c_2)\,(y-x)

です。ここで c1<x<c2c_1 < x < c_2 であり、ff' は広義単調増加なので f(c1)f(c2)f'(c_1) \le f'(c_2) です。yx>0y - x > 0 とあわせて

f(y)=f(x)+f(c2)(yx)f(x)+f(c1)(yx)=f(x)+f(x)x(yx)=f(x)xyf(y) = f(x) + f'(c_2)(y-x) \ge f(x) + f'(c_1)(y-x) = f(x) + \frac{f(x)}{x}(y-x) = \frac{f(x)}{x}\,y

となります。両辺を y>0y > 0 で割れば

f(y)yf(x)x\frac{f(y)}{y} \ge \frac{f(x)}{x}

すなわち g(y)g(x)g(y) \ge g(x) です。0<x<y0 < x < y は任意だったので gg は広義単調増加です。

なお ff' が広義単調増加という仮定は、ff が下に凸であることを意味します。この演習は「原点を通る下に凸な関数では、原点から見た傾き f(x)/xf(x)/x が増加する」という幾何的に自然な事実を、平均値の定理だけで示したものです。

  • 高木貞治『解析概論』改訂第三版、岩波書店、1983 — 第 2 章(微分法)。平均値の定理からテイラーの公式までの古典的な扱い。
  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 第 II 章(微分法)。剰余項の各種の形(ラグランジュ型・コーシー型・積分型)が丁寧に比較されています。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 5 (Differentiation)。ロピタルの定理を 0/00/0 型と /\infty/\infty 型で統一的に扱う証明があります。
  • M. Spivak, Calculus, 4th ed., Publish or Perish, 2008 — Chapter 20 (Approximation by Polynomial Functions)。テイラーの定理の複数の証明と、剰余項の意味の議論。
  • E. Hairer, G. Wanner, Analysis by Its History, Springer, 1996 — Chapter II。テイラー展開とロピタルの定理が生まれた歴史的経緯が原典に即して解説されています。

例 6.3 で残した 1<x<1/2-1 < x < -1/2 の場合を片づけます。そのために、剰余項のもう一つの表し方を導きます。以下 ffaaxx を含む開区間上で Cn+1C^{n+1} 級(すなわち f(n+1)f^{(n+1)} が存在して連続)とします。

微分積分学の基本定理(積分の基本定理と定積分ニュートン–ライプニッツの公式(定理 5.4)[積分の基本定理と定積分])より

f(x)f(a)=axf(t)dtf(x) - f(a) = \int_a^x f'(t)\,dt

です。ここで tt の関数 (xt)-(x-t)11 の原始関数であることに注意して 部分積分(定理 6.2)[積分の基本定理と定積分] を行うと

axf(t)dt=[(xt)f(t)]ax+ax(xt)f(t)dt=(xa)f(a)+ax(xt)f(t)dt\int_a^x f'(t)\,dt = \Bigl[-(x-t)f'(t)\Bigr]_a^x + \int_a^x (x-t)f''(t)\,dt = (x-a)f'(a) + \int_a^x (x-t)f''(t)\,dt

となります。同じ操作を繰り返すと、帰納法により

f(x)=k=0nf(k)(a)k!(xa)k+1n!ax(xt)nf(n+1)(t)dtf(x) = \sum_{k=0}^{n}\frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k + \frac{1}{n!}\int_a^x (x-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt

が得られます。帰納段階は、(xt)n+1/(n+1)!-(x-t)^{n+1}/(n+1)!(xt)n/n!(x-t)^n/n! の(tt についての)原始関数であることを使った部分積分

1n!ax(xt)nf(n+1)(t)dt=f(n+1)(a)(n+1)!(xa)n+1+1(n+1)!ax(xt)n+1f(n+2)(t)dt\frac{1}{n!}\int_a^x (x-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt = \frac{f^{(n+1)}(a)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1} + \frac{1}{(n+1)!}\int_a^x (x-t)^{n+1}f^{(n+2)}(t)\,dt

です。最後の積分が積分形の剰余項です。

これを f(x)=log(1+x)f(x) = \log(1+x)a=0a = 01<x<0-1 < x < 0 に適用します。f(n+1)(t)=(1)nn!/(1+t)n+1f^{(n+1)}(t) = (-1)^n n!/(1+t)^{n+1} なので

Rn(x)=1n!0x(xt)n(1)nn!(1+t)n+1dt=(1)n0x(xt1+t)ndt1+tR_n(x) = \frac{1}{n!}\int_0^x (x-t)^n \frac{(-1)^n n!}{(1+t)^{n+1}}\,dt = (-1)^n\int_0^x \left(\frac{x-t}{1+t}\right)^n \frac{dt}{1+t}

です。x<t<0x < t < 0 のとき 1+t>1+x>01 + t > 1 + x > 0 であり、

xt1+t=tx1+tx\left|\frac{x-t}{1+t}\right| = \frac{t-x}{1+t} \le |x|

が成り立ちます。実際、この不等式は txx(1+t)=x(1+t)t - x \le |x|(1+t) = -x(1+t)、すなわち t(1+x)0t(1+x) \le 0 と同値で、t0t \le 01+x>01 + x > 0 から従います。したがって

Rn(x)x0xndt1+t=xn[log(1+t)]x0=xn(log(1+x))|R_n(x)| \le \int_x^0 |x|^n\frac{dt}{1+t} = |x|^n\bigl[\log(1+t)\bigr]_x^0 = |x|^n\bigl(-\log(1+x)\bigr)

となります。x<1|x| < 1 なので xn0|x|^n \to 0 であり、log(1+x)-\log(1+x)nn に依らない定数ですから Rn(x)0R_n(x) \to 0 です。これで 1<x<0-1 < x < 0 の全体で展開が正当化され、例 6.3 の主張が完成しました。

積分形からラグランジュ形を導くこともできます。f(n+1)f^{(n+1)} が連続なら 積分の平均値の定理(命題 4.2)[積分の基本定理と定積分] が使えて、aaxx の間のある cc について

1n!ax(xt)nf(n+1)(t)dt=f(n+1)(c)n!ax(xt)ndt=f(n+1)(c)(n+1)!(xa)n+1\frac{1}{n!}\int_a^x (x-t)^n f^{(n+1)}(t)\,dt = \frac{f^{(n+1)}(c)}{n!}\int_a^x (x-t)^n\,dt = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}

となるからです。ただし積分形は f(n+1)f^{(n+1)} の連続性を要求するので、定理 5.3 のほうが仮定は弱いことに注意してください。

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