0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- が正則で ならば、 は の近くで「回転と拡大の合成」に見えます。その結果、 で交わる 2 曲線の交角が向きを込めて保たれます。これがコーシー・リーマンの関係式の幾何学的な意味です。
- のときは角度が保たれません。 の零点の位数が なら、角は正確に 倍になります。
- 一次分数変換(メビウス変換)はリーマン球面 の全単射で、円と直線をひとまとめにした「一般化された円」の族を保ちます。これが円円対応です。
- 相異なる 3 点を相異なる 3 点へ写すメビウス変換はただ 1 つしかなく、交比がメビウス変換の完全な不変量になります。
- シュワルツの補題から単位円板の正則自己同型がすべて決まり、それは の形をしています。
- リーマンの写像定理: 全体ではない空でない単連結領域は、どれも単位円板と双正則に写り合います。境界がとがっていようと分かりにくかろうと、いっさい関係しません。
1. 動機:微分できるとは「無限小の相似変換」であること
Section titled “1. 動機:微分できるとは「無限小の相似変換」であること”地図を作るとき、球面を平面に写す方法は無数にありますが、面積を正しく写すことと角度を正しく写すことは両立しません。航海者にとって死活的なのは角度のほうです。海図の上で測った針路の角を、実際の海の上でそのまま舵角として使えなければ困るからです。メルカトル図法が 16 世紀から使われ続けているのは、それが角度を保つ写像だからです。ガウスは 1822 年、「ある曲面の各部分を別の曲面の各部分に、最小の部分において相似となるように写す」という問題でコペンハーゲン科学アカデミーの懸賞論文に応えました。「最小の部分において相似」という表現が、これから扱う等角性の正体です。
一方でリーマンは 1851 年の学位論文で、複素関数論をこの幾何学的な言葉で組み立て直しました。この記事の主役である写像定理はそこで提出されたものです。
なぜ「相似」なのかを、実 2 変数の言葉で確かめておきます。領域 上の 級写像 を考えると、点 での一次近似はヤコビ行列
で与えられます。この行列の成分は 4 つとも自由で、一般には平面を引き伸ばし、ひしゃげさせ、角度をめちゃくちゃにします。ところが を複素関数 と見て が で複素微分可能だとすると、コーシー・リーマンの関係式 、 が成り立つので、、 とおいて
となります( のとき。、 です)。つまり複素微分可能性とは、「一次近似が回転と相似拡大の合成になっている」という条件そのものです。4 つの自由度が 2 つに落ちる代わりに、写像は幾何学的に非常に硬くなります。コーシー・リーマンの関係式については 正則関数とコーシー・リーマンの関係式 の コーシー・リーマンの関係式(必要性)(定理 4.1)[正則関数とコーシー・リーマンの関係式] を参照してください。
ここから自然な問いが 2 つ出てきます。
- 逆に、角度を保つ写像は正則関数に限るのか。
- 2 つの領域が与えられたとき、それらの間に角度を保つ全単射(双正則写像)は存在するのか。
実の世界では 2 番目の問いはほとんど内容がありません。平面の空でない単連結開集合はどれも と微分同相だからです。しかし複素の世界では正則関数が硬いぶん、答えは自明ではなくなります。驚くべきことに、リーマンの答えは「単連結でありさえすれば、 自身という 1 つの例外を除いて、いつでも存在する」というものでした。この記事はその主張までの道を、メビウス変換とシュワルツの補題という 2 つの具体的な道具を経由して歩きます。
この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金プラン ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記
© 2026 夢現技研合同会社 ・本文の LLM への入力は自由です。コード例は MIT ライセンスです。