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等角写像とリーマン写像定理:正則関数が描く「角度を保つ地図」

前提:留数定理と定積分への応用:孤立特異点の分類から実積分の計算まで

生 Markdown
  • ff が正則で f(z0)0f'(z_0) \neq 0 ならば、ffz0z_0 の近くで「回転と拡大の合成」に見えます。その結果、z0z_0 で交わる 2 曲線の交角が向きを込めて保たれます。これがコーシー・リーマンの関係式の幾何学的な意味です。
  • f(z0)=0f'(z_0) = 0 のときは角度が保たれません。f(z)f(z0)f(z) - f(z_0) の零点の位数が mm なら、角は正確に mm 倍になります。
  • 一次分数変換(メビウス変換)はリーマン球面 C^\hat{\mathbb{C}} の全単射で、円と直線をひとまとめにした「一般化された円」の族を保ちます。これが円円対応です。
  • 相異なる 3 点を相異なる 3 点へ写すメビウス変換はただ 1 つしかなく、交比がメビウス変換の完全な不変量になります。
  • シュワルツの補題から単位円板の正則自己同型がすべて決まり、それは eiθza1aˉze^{i\theta}\dfrac{z-a}{1-\bar{a}z} の形をしています。
  • リーマンの写像定理:C\mathbb{C} 全体ではない空でない単連結領域は、どれも単位円板と双正則に写り合います。境界がとがっていようと分かりにくかろうと、いっさい関係しません。

1. 動機:微分できるとは「無限小の相似変換」であること

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地図を作るとき、球面を平面に写す方法は無数にありますが、面積を正しく写すことと角度を正しく写すことは両立しません。航海者にとって死活的なのは角度のほうです。海図の上で測った針路の角を、実際の海の上でそのまま舵角として使えなければ困るからです。メルカトル図法が 16 世紀から使われ続けているのは、それが角度を保つ写像だからです。ガウスは 1822 年、「ある曲面の各部分を別の曲面の各部分に、最小の部分において相似となるように写す」という問題でコペンハーゲン科学アカデミーの懸賞論文に応えました。「最小の部分において相似」という表現が、これから扱う等角性の正体です。

一方でリーマンは 1851 年の学位論文で、複素関数論をこの幾何学的な言葉で組み立て直しました。この記事の主役である写像定理はそこで提出されたものです。

なぜ「相似」なのかを、実 2 変数の言葉で確かめておきます。領域 ΩR2\Omega \subseteq \mathbb{R}^2 上の C1C^1 級写像 F(x,y)=(u(x,y),v(x,y))F(x,y) = (u(x,y), v(x,y)) を考えると、点 pp での一次近似はヤコビ行列

DF(p)=(uxuyvxvy)DF(p) = \begin{pmatrix} u_x & u_y \\ v_x & v_y \end{pmatrix}

で与えられます。この行列の成分は 4 つとも自由で、一般には平面を引き伸ばし、ひしゃげさせ、角度をめちゃくちゃにします。ところが FF を複素関数 f=u+ivf = u + iv と見て ffz0=x0+iy0z_0 = x_0 + iy_0 で複素微分可能だとすると、コーシー・リーマンの関係式 ux=vyu_x = v_yuy=vxu_y = -v_x が成り立つので、a=ux(p)a = u_x(p)b=vx(p)b = v_x(p) とおいて

DF(p)=(abba)=r(cosαsinαsinαcosα),r=a2+b2,α=arg(a+ib)DF(p) = \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} = r\begin{pmatrix} \cos\alpha & -\sin\alpha \\ \sin\alpha & \cos\alpha \end{pmatrix}, \qquad r = \sqrt{a^2+b^2},\quad \alpha = \arg(a+ib)

となります(r>0r > 0 のとき。r=a2+b2=f(z0)r = \sqrt{a^2+b^2} = |f'(z_0)|α=argf(z0)\alpha = \arg f'(z_0) です)。つまり複素微分可能性とは、「一次近似が回転と相似拡大の合成になっている」という条件そのものです。4 つの自由度が 2 つに落ちる代わりに、写像は幾何学的に非常に硬くなります。コーシー・リーマンの関係式については 正則関数とコーシー・リーマンの関係式コーシー・リーマンの関係式(必要性)(定理 4.1)[正則関数とコーシー・リーマンの関係式] を参照してください。

ここから自然な問いが 2 つ出てきます。

  1. 逆に、角度を保つ写像は正則関数に限るのか。
  2. 2 つの領域が与えられたとき、それらの間に角度を保つ全単射(双正則写像)は存在するのか。

実の世界では 2 番目の問いはほとんど内容がありません。平面の空でない単連結開集合はどれも R2\mathbb{R}^2 と微分同相だからです。しかし複素の世界では正則関数が硬いぶん、答えは自明ではなくなります。驚くべきことに、リーマンの答えは「単連結でありさえすれば、C\mathbb{C} 自身という 1 つの例外を除いて、いつでも存在する」というものでした。この記事はその主張までの道を、メビウス変換とシュワルツの補題という 2 つの具体的な道具を経由して歩きます。

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