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等角写像とリーマン写像定理:正則関数が描く「角度を保つ地図」

対象読者: 本テーマ第 1〜5 章(正則関数、コーシーの積分公式、最大値原理、留数定理)を学んだ学部生。線形代数の一次変換と、幾何的な曲線の接線の考え方を知っていることを仮定します。

前提となる記事:留数定理と定積分への応用:孤立特異点の分類から実積分・鍵穴輪郭・級数の和まで

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広い範囲を平らな紙に写すと、距離や面積はどうしてもゆがみます。それでも「角度だけは正しく保つ」写し方があり、海図に使われてきました。この記事では、複素数の関数がまさにそのような角度を保つ写し方になっていることを確かめ、そこから「穴のない領域なら、平面全体の場合を除いて、どんな形でも円板の形に写せる」という定理(リーマンの写像定理)までたどります。最後の 8 節は発展的な内容なので、初めて読むときは飛ばしても本筋は追えます。

  • ff が正則で f′(z0)≠0f'(z_0) \neq 0 ならば、ff は z0z_0 の近くで「回転と拡大の合成」に見えます。その結果、z0z_0 で交わる 2 曲線の交角が向きを込めて保たれます。これがコーシー・リーマンの関係式の幾何学的な意味です。
  • f′(z0)=0f'(z_0) = 0 のときは角度が保たれません。f(z)−f(z0)f(z) - f(z_0) の零点の位数が mm なら、角は正確に mm 倍になります。
  • 一次分数変換(メビウス変換)はリーマン球面 C^\hat{\mathbb{C}} の全単射で、円と直線をひとまとめにした「一般化された円」の族を保ちます。これが円円対応です。
  • 相異なる 3 点を相異なる 3 点へ写すメビウス変換はただ 1 つしかなく、交比(4 点から決まる複素数で、4.2 節で定義します)がメビウス変換の完全な不変量になります。
  • シュワルツの補題から単位円板の正則自己同型がすべて決まり、それは eiθz−a1−aˉze^{i\theta}\dfrac{z-a}{1-\bar{a}z} の形をしています。
  • リーマンの写像定理:C\mathbb{C} 全体ではない空でない単連結領域は、どれも単位円板と双正則に写り合います。境界がとがっていようと分かりにくかろうと、いっさい関係しません。
  • 発展として、外部 {∣z∣>1}\{|z|>1\} で単葉(同じ値を 2 度とらない)な g(z)=z+b0+b1/z+⋯g(z)=z+b_0+b_1/z+\cdots に対し、面積定理 ∑n∣bn∣2≤1\sum n|b_n|^2\le1 と、そこから出る Grunsky の不等式(Grunsky 作用素 (kl γkl)(\sqrt{kl}\,\gamma_{kl}) の ℓ2\ell^2 ノルムが 11 以下)を 8 節で証明します。証明の核は「多項式 PP の gg による像の面積は非負」という 1 本の恒等式です。同じ節で、平方根変換によって面積定理を円板の単葉関数 f(z)=z+a2z2+⋯f(z)=z+a_2z^2+\cdots に移し、Bieberbach の評価 ∣a2∣≤2|a_2|\le2 と Koebe の 1/4 定理(f(D)f(\mathbb{D}) は円板 ∣w∣<1/4|w|<1/4 を含む)を導きます。

1. 動機:微分できるとは「無限小の相似変換」であること

Section titled “1. 動機:微分できるとは「無限小の相似変換」であること”

地図を作るとき、球面を平面に写す方法は無数にありますが、面積を正しく写すことと角度を正しく写すことは両立しません。航海者にとって死活的なのは角度のほうです。海図の上で測った針路の角を、実際の海の上でそのまま舵角として使えなければ困るからです。メルカトル図法が 16 世紀から使われ続けているのは、それが角度を保つ写像だからです。ガウスは 1822 年、「ある曲面の各部分を別の曲面の各部分に、最小の部分において相似となるように写す」という問題でコペンハーゲン科学アカデミーの懸賞論文に応えました。「最小の部分において相似」という表現が、これから扱う等角性の正体です。

一方でリーマンは 1851 年の学位論文で、複素関数論をこの幾何学的な言葉で組み立て直しました。この記事の主役である写像定理はそこで提出されたものです。

なぜ「相似」なのかを、実 2 変数の言葉で確かめておきます。領域 Ω⊆R2\Omega \subseteq \mathbb{R}^2 上の C1C^1 級写像 F(x,y)=(u(x,y),v(x,y))F(x,y) = (u(x,y), v(x,y)) を考えると、点 pp での一次近似はヤコビ行列

DF(p)=(uxuyvxvy)DF(p) = \begin{pmatrix} u_x & u_y \\ v_x & v_y \end{pmatrix}

で与えられます。この行列の成分は 4 つとも自由で、一般には平面を引き伸ばし、ひしゃげさせ、角度をめちゃくちゃにします。ところが FF を複素関数 f=u+ivf = u + iv と見て ff が z0=x0+iy0z_0 = x_0 + iy_0 で複素微分可能だとすると、コーシー・リーマンの関係式 ux=vyu_x = v_y、uy=−vxu_y = -v_x が成り立つので、a=ux(p)a = u_x(p)、b=vx(p)b = v_x(p) とおいて

DF(p)=(a−bba)=r(cos⁡α−sin⁡αsin⁡αcos⁡α),r=a2+b2,α=arg⁡(a+ib)DF(p) = \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} = r\begin{pmatrix} \cos\alpha & -\sin\alpha \\ \sin\alpha & \cos\alpha \end{pmatrix}, \qquad r = \sqrt{a^2+b^2},\quad \alpha = \arg(a+ib)

となります(r>0r > 0 のとき。r=a2+b2=∣f′(z0)∣r = \sqrt{a^2+b^2} = |f'(z_0)|、α=arg⁡f′(z0)\alpha = \arg f'(z_0) です)。つまり複素微分可能性とは、「一次近似が回転と相似拡大の合成になっている」という条件そのものです。4 つの自由度が 2 つに落ちる代わりに、写像は幾何学的に非常に硬くなります。コーシー・リーマンの関係式については 正則関数とコーシー・リーマンの関係式 の コーシー・リーマンの関係式(必要性)(定理 4.1)[正則関数とコーシー・リーマンの関係式] を参照してください。

ここから自然な問いが 2 つ出てきます。

  1. 逆に、角度を保つ写像は正則関数に限るのか。
  2. 2 つの領域が与えられたとき、それらの間に角度を保つ全単射(双正則写像)は存在するのか。

実の世界では 2 番目の問いはほとんど内容がありません。平面の空でない単連結開集合はどれも R2\mathbb{R}^2 と微分同相だからです。しかし複素の世界では正則関数が硬いぶん、答えは自明ではなくなります。驚くべきことに、リーマンの答えは「単連結でありさえすれば、C\mathbb{C} 自身という 1 つの例外を除いて、いつでも存在する」というものでした。この記事はその主張までの道を、メビウス変換とシュワルツの補題という 2 つの具体的な道具を経由して歩きます。

領域とは、C\mathbb{C} の空でない連結開集合のことをいいます。以下、記号を次のように固定します。

  • D(a,r)={z∈C:∣z−a∣<r}D(a,r) = \{z \in \mathbb{C} : |z-a| < r\}(中心 aa、半径 rr の開円板)
  • D=D(0,1)={z∈C:∣z∣<1}\mathbb{D} = D(0,1) = \{z \in \mathbb{C} : |z| < 1\}(単位円板)
  • H={z∈C:Im⁡z>0}\mathbb{H} = \{z \in \mathbb{C} : \operatorname{Im} z > 0\}(上半平面)
  • C^=C∪{∞}\hat{\mathbb{C}} = \mathbb{C} \cup \{\infty\}(リーマン球面)

定義 2.1(リーマン球面)↗

集合 C^=C∪{∞}\hat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}\cup\{\infty\}(∞\infty は C\mathbb{C} に属さない 1 点)に、次の集合を開集合とする位相を入れたものをリーマン球面(拡張複素平面)という: C\mathbb{C} の開集合 UU、および C\mathbb{C} の開集合 UU で {z:∣z∣>R}⊂U\{z:|z|>R\}\subset U となる R>0R>0 をもつものに ∞\infty を加えた U∪{∞}U\cup\{\infty\}。とくに ∞\infty の近傍の基本系は {z:∣z∣>R}∪{∞}\{z:|z|>R\}\cup\{\infty\}(R>0R>0)である。

この位相で C\mathbb{C} は C^\hat{\mathbb{C}} の開部分空間で、zn→∞z_n\to\infty は ∣zn∣→∞|z_n|\to\infty と同じ意味です。単位球面 S2={(x1,x2,x3)∈R3:x12+x22+x32=1}S^2=\{(x_1,x_2,x_3)\in\mathbb{R}^3:x_1^2+x_2^2+x_3^2=1\} の北極 N=(0,0,1)N=(0,0,1) からの立体射影

(x1,x2,x3)⟼x1+ix21−x3(x≠N),N⟼∞(x_1,x_2,x_3)\longmapsto\frac{x_1+ix_2}{1-x_3}\quad(x\ne N),\qquad N\longmapsto\infty

は S2S^2 から C^\hat{\mathbb{C}} への全単射で、逆写像は z↦(2Re⁡z, 2Im⁡z, ∣z∣2−1)/(∣z∣2+1)z\mapsto\bigl(2\operatorname{Re}z,\,2\operatorname{Im}z,\,|z|^2-1\bigr)/(|z|^2+1) です。x3→1x_3\to1 と ∣z∣→∞|z|\to\infty が対応するので、この全単射は上の位相について同相であり、C^\hat{\mathbb{C}} を「球面」と呼ぶのはこのためです。この 1 点を付け加えることで「1/z1/z は 00 を ∞\infty へ写す」といった言い方が、例外なしの全単射の言葉になります。C^\hat{\mathbb{C}} の開集合 U∋∞U\ni\infty 上の関数 ff が ∞\infty で正則であるとは、w↦f(1/w)w\mapsto f(1/w) が w=0w=0 の近くで正則であることをいいます。

定義 2.2(双正則写像・等角同値)↗

Ω1,Ω2\Omega_1, \Omega_2 を C\mathbb{C} の領域とする。写像 f:Ω1→Ω2f : \Omega_1 \to \Omega_2 が双正則であるとは、ff が正則な全単射であり、かつ逆写像 f−1:Ω2→Ω1f^{-1} : \Omega_2 \to \Omega_1 も正則であることをいう。Ω1\Omega_1 から Ω2\Omega_2 への双正則写像が存在するとき、Ω1\Omega_1 と Ω2\Omega_2 は等角同値であるという。

注意 2.3

実は「逆写像も正則」という条件は自動的に満たされます。ff が領域 Ω1\Omega_1 上で正則かつ単射ならば、f′f' は Ω1\Omega_1 上で零点を持たず、f(Ω1)f(\Omega_1) は開集合で、f−1f^{-1} は正則になります。これは開写像定理と、単射な正則関数の導関数が零点を持たないという事実から従います(系 6.3[偏角の原理と Rouché の定理])。したがって以下では「単射な正則写像」と「像の上への双正則写像」を同じものとして扱います。

この記事では、次の事実を断りなく使います。最大値原理・リウヴィルの定理・除去可能特異点定理は前章までで証明したものです。開写像定理は 偏角の原理と Rouché の定理 で証明しています。

使う事実内容
最大値原理(定理 7.7)[正則関数の強力な性質]領域上の正則関数 gg について ∣g∣\lvert g\rvert が内点で最大値をとれば gg は定数
リウヴィルの定理(定理 4.2)[正則関数の強力な性質]有界な整関数(平面全体で正則な関数)は定数
開写像定理(定理 6.2)[偏角の原理と Rouché の定理]定数でない正則関数は開集合を開集合に写す
除去可能特異点定理(定理 3.3)[留数定理と定積分への応用]孤立特異点の近くで有界な正則関数はそこへ正則に延びる

定義 3.1(等角性)↗

Ω\Omega を領域、f:Ω→Cf : \Omega \to \mathbb{C} を連続写像、z0∈Ωz_0 \in \Omega とする。z0z_0 を通る任意の C1C^1 級曲線 γ:(−ε,ε)→Ω\gamma : (-\varepsilon, \varepsilon) \to \Omega(γ(0)=z0\gamma(0) = z_0、γ′(0)≠0\gamma'(0) \neq 0)に対して像曲線 f∘γf \circ \gamma が t=0t = 0 で 00 でない接ベクトルを持ち、さらに z0z_0 を通る任意の 2 つのそのような曲線 γ1,γ2\gamma_1, \gamma_2 について

arg⁡(f∘γ2)′(0)(f∘γ1)′(0)=arg⁡γ2′(0)γ1′(0)(mod2π)\arg \frac{(f\circ\gamma_2)'(0)}{(f\circ\gamma_1)'(0)} = \arg \frac{\gamma_2'(0)}{\gamma_1'(0)} \pmod{2\pi}

が成り立つとき、ff は z0z_0 で等角であるという。領域の各点で等角な単射写像を等角写像という。

この定義は「交角の大きさだけでなく、向き(どちらからどちらへ測るか)も保つ」ことを要求している点が要です。たとえば複素共役 z↦zˉz \mapsto \bar{z} は角の大きさを保ちますが向きを逆にするので、等角ではありません(このような写像は反等角と呼ばれます)。

定理 3.2(正則写像の局所的な角度)✓

Ω\Omega を領域、f:Ω→Cf : \Omega \to \mathbb{C} を正則関数、z0∈Ωz_0 \in \Omega とする。

  1. f′(z0)≠0f'(z_0) \neq 0 ならば、ff は z0z_0 で等角である。さらに z0z_0 を通る曲線の接ベクトルはどれも一様に偏角 arg⁡f′(z0)\arg f'(z_0) だけ回転し、長さは一様に ∣f′(z0)∣|f'(z_0)| 倍される。
  2. ff が定数でなく、f−f(z0)f - f(z_0) が z0z_0 で位数 m≥1m \ge 1 の零点を持つとする。このとき z0z_0 を通る C1C^1 級曲線 γ\gamma(γ(0)=z0\gamma(0) = z_0、γ′(0)≠0\gamma'(0) \neq 0)に対し、極限
θ(γ)=lim⁡t→0+arg⁡(f(γ(t))−f(z0))\theta(\gamma) = \lim_{t \to 0+} \arg\bigl(f(\gamma(t)) - f(z_0)\bigr)

が 2π2\pi を法として存在し、2 つの曲線 γ1,γ2\gamma_1, \gamma_2 について

θ(γ2)−θ(γ1)=m(arg⁡γ2′(0)−arg⁡γ1′(0))(mod2π)\theta(\gamma_2) - \theta(\gamma_1) = m\left(\arg \gamma_2'(0) - \arg \gamma_1'(0)\right) \pmod{2\pi}

が成り立つ。すなわち z0z_0 における交角はちょうど mm 倍される。

証明(定理 3.2)

(1) γ\gamma を γ(0)=z0\gamma(0) = z_0、γ′(0)≠0\gamma'(0) \neq 0 を満たす C1C^1 級曲線とします。ff は z0z_0 で複素微分可能なので、合成関数の微分法により

(f∘γ)′(0)=f′(z0) γ′(0).(f\circ\gamma)'(0) = f'(z_0)\,\gamma'(0).

仮定 f′(z0)≠0f'(z_0) \neq 0 と γ′(0)≠0\gamma'(0) \neq 0 から (f∘γ)′(0)≠0(f\circ\gamma)'(0) \neq 0 です。よって像曲線は 00 でない接ベクトルを持ちます。2 本の曲線 γ1,γ2\gamma_1, \gamma_2 に対して比をとると、共通因子 f′(z0)f'(z_0) が約分されて

(f∘γ2)′(0)(f∘γ1)′(0)=f′(z0)γ2′(0)f′(z0)γ1′(0)=γ2′(0)γ1′(0)\frac{(f\circ\gamma_2)'(0)}{(f\circ\gamma_1)'(0)} = \frac{f'(z_0)\gamma_2'(0)}{f'(z_0)\gamma_1'(0)} = \frac{\gamma_2'(0)}{\gamma_1'(0)}

となり、偏角も一致します。これは 定義 3.1 の条件そのものです。また (f∘γ)′(0)=f′(z0)γ′(0)(f\circ\gamma)'(0) = f'(z_0)\gamma'(0) の偏角は arg⁡f′(z0)+arg⁡γ′(0)\arg f'(z_0) + \arg\gamma'(0)、絶対値は ∣f′(z0)∣ ∣γ′(0)∣|f'(z_0)|\,|\gamma'(0)| ですから、後半の主張も従います。

(2) f−f(z0)f - f(z_0) は z0z_0 で位数 mm の零点を持つので、z0z_0 の近傍で正則な関数 gg が存在して

f(z)−f(z0)=(z−z0)mg(z),g(z0)≠0f(z) - f(z_0) = (z-z_0)^m g(z), \qquad g(z_0) \neq 0

と書けます(テイラー展開(定理 5.2)[正則関数の強力な性質] f(z)−f(z0)=∑n≥man(z−z0)nf(z) - f(z_0) = \sum_{n \ge m} a_n (z-z_0)^n から g(z)=∑n≥man(z−z0)n−mg(z) = \sum_{n\ge m} a_n (z-z_0)^{n-m} とおけばよく、g(z0)=am≠0g(z_0) = a_m \neq 0 です)。ここで γ\gamma を条件を満たす曲線とすると、γ\gamma が t=0t=0 で微分可能であることから γ(t)−z0=tγ′(0)+o(t)\gamma(t) - z_0 = t\gamma'(0) + o(t) なので

f(γ(t))−f(z0)tm=(γ(t)−z0t)mg(γ(t))→ t→0+ γ′(0)m g(z0)≠0.\frac{f(\gamma(t)) - f(z_0)}{t^m} = \left(\frac{\gamma(t)-z_0}{t}\right)^{m} g(\gamma(t)) \xrightarrow{\ t\to 0+\ } \gamma'(0)^m\, g(z_0) \neq 0.

tm>0t^m > 0 なので、arg⁡(f(γ(t))−f(z0))\arg(f(\gamma(t)) - f(z_0)) は arg⁡(γ′(0)mg(z0))=marg⁡γ′(0)+arg⁡g(z0)\arg\bigl(\gamma'(0)^m g(z_0)\bigr) = m \arg\gamma'(0) + \arg g(z_0) に収束します(2π2\pi を法として)。これが θ(γ)\theta(\gamma) の存在です。2 本の曲線について差をとると、γ\gamma に依らない項 arg⁡g(z0)\arg g(z_0) が消えて

θ(γ2)−θ(γ1)=marg⁡γ2′(0)−marg⁡γ1′(0)\theta(\gamma_2) - \theta(\gamma_1) = m\arg\gamma_2'(0) - m\arg\gamma_1'(0)

を得ます。なお m=1m = 1 は f′(z0)≠0f'(z_0) \neq 0 と同値なので、(2) は (1) の一般化になっています。

z 平面w 平面w = f(z)z₀f(z₀)γ₁ の接線γ₂ の接線(f∘γ₁) の接線(f∘γ₂) の接線40°40°
定理の (1) の様子(図は一例で、f′(z₀) の偏角を 30 度、絶対値を 1.5 としています)。z₀ で 40 度の角をなす 2 本の曲線の接線の向きは、f によってどちらも 30 度回転して 1.5 倍に伸び、像でも交角は 40 度のままです。

注意 3.3

逆も成り立ちます。F:Ω→R2F : \Omega \to \mathbb{R}^2 が C1C^1 級で、各点で det⁡DF>0\det DF > 0 かつ角度を保つならば、FF は正則です。実際、線型写像 TT が角度を保つとしましょう。e1,e2e_1, e_2 を標準基底とすると、e1⊥e2e_1 \perp e_2 より ⟨Te1,Te2⟩=0\langle Te_1, Te_2\rangle = 0 です。また e1+e2e_1+e_2 と e1−e2e_1-e_2 も直交するので ⟨T(e1+e2),T(e1−e2)⟩=∣Te1∣2−∣Te2∣2=0\langle T(e_1+e_2), T(e_1-e_2)\rangle = |Te_1|^2 - |Te_2|^2 = 0、すなわち ∣Te1∣=∣Te2∣=:λ>0|Te_1| = |Te_2| =: \lambda > 0 です。したがって λ−1T\lambda^{-1}T は正規直交基底を正規直交基底に写す直交変換で、det⁡T>0\det T > 0 より回転になります。つまり DFDF は各点で「正数倍された回転」であり、これは §1 で見たとおりコーシー・リーマンの関係式にほかなりません。等角写像と単射正則写像は同じものだ、と言ってよいわけです。

例 3.4(2 乗写像:第一象限を上半平面へ)

Q={reiθ:r>0, 0<θ<π/2}Q = \{re^{i\theta} : r > 0,\ 0 < \theta < \pi/2\}(第一象限)上で f(z)=z2f(z) = z^2 を考えます。z=reiθ∈Qz = re^{i\theta} \in Q に対し f(z)=r2e2iθf(z) = r^2 e^{2i\theta} で、θ↦2θ\theta \mapsto 2\theta は (0,π/2)(0,\pi/2) から (0,π)(0,\pi) への全単射、r↦r2r \mapsto r^2 は (0,∞)(0,\infty) から (0,∞)(0,\infty) への全単射ですから、ff は QQ から H\mathbb{H} の上への全単射です。QQ 上では f′(z)=2z≠0f'(z) = 2z \neq 0 なので、定理 3.2 (1) より ff は QQ の各点で等角です。

一方、境界点 z0=0z_0 = 0 では様子が変わります。f(z)−f(0)=z2f(z) - f(0) = z^2 は 00 で位数 22 の零点を持つので、定理 3.2 (2) より角は 22 倍されます。実際、QQ の境界がなす直角(正の実軸と正の虚軸のなす角 π/2\pi/2)は、像では平角 π\pi(実軸全体)になっています。角が保たれない点はここだけで、しかもそれは f′(0)=0f'(0) = 0 という 1 つの等式に完全に記録されています。

例 3.5(指数写像:帯を上半平面へ)

S={z∈C:0<Im⁡z<π}S = \{z \in \mathbb{C} : 0 < \operatorname{Im} z < \pi\} とし、f(z)=ezf(z) = e^z を考えます。

単射性。 ez1=ez2e^{z_1} = e^{z_2} ならば z1−z2∈2πiZz_1 - z_2 \in 2\pi i \mathbb{Z} です。z1,z2∈Sz_1, z_2 \in S なら ∣Im⁡(z1−z2)∣<π<2π|\operatorname{Im}(z_1-z_2)| < \pi < 2\pi なので z1=z2z_1 = z_2 となります。

像。 z=x+iy∈Sz = x+iy \in S に対し ez=ex(cos⁡y+isin⁡y)e^z = e^x(\cos y + i \sin y) で、0<y<π0 < y < \pi より sin⁡y>0\sin y > 0、したがって Im⁡ez=exsin⁡y>0\operatorname{Im} e^z = e^x \sin y > 0 です。よって f(S)⊆Hf(S) \subseteq \mathbb{H}。逆に w∈Hw \in \mathbb{H} を w=ρeiϕw = \rho e^{i\phi}(ρ>0\rho > 0、0<ϕ<π0 < \phi < \pi)と極形式で書けば、z=log⁡ρ+iϕ∈Sz = \log\rho + i\phi \in S が ez=we^z = w を満たします。ゆえに f(S)=Hf(S) = \mathbb{H} です。

f′(z)=ez≠0f'(z) = e^z \neq 0 なので ff は等角写像であり、SS と H\mathbb{H} は等角同値です。この写像は格子の像を見ると直感がつかめます。水平線 Im⁡z=c\operatorname{Im} z = c(0<c<π0 < c < \pi)は偏角 cc の半直線 {ρeic:ρ>0}\{\rho e^{ic} : \rho > 0\} に写り、垂直線分 Re⁡z=c\operatorname{Re} z = c は半円 {eceiϕ:0<ϕ<π}\{e^{c}e^{i\phi} : 0 < \phi < \pi\} に写ります。左側で直交していた格子が、右側でも直交したままであることが等角性の目に見える表れです。

z 平面w 平面w = ez0iπiπ/2i
指数写像による格子の対応。左の帯の直交格子(垂直線と水平線)が、右では上半平面の同心半円と放射状の半直線に写り、交角の直角がそのまま保たれます。

等角写像のもっとも基本的な供給源が、次の変換の族です。これらはリーマン球面全体の等角同型をすべて尽くすことが知られており、複素関数論のあらゆる場面に顔を出します。

定義 4.1(一次分数変換(メビウス変換))↗

a,b,c,d∈Ca,b,c,d \in \mathbb{C} が ad−bc≠0ad-bc \neq 0 を満たすとき、

T(z)=az+bcz+dT(z) = \frac{az+b}{cz+d}

で定まる写像を一次分数変換またはメビウス変換という。TT は C^\hat{\mathbb{C}} 上の写像として、次の規約で定義域を拡張する。

  • c≠0c \neq 0 のとき:T(−d/c)=∞T(-d/c) = \infty、T(∞)=a/cT(\infty) = a/c
  • c=0c = 0 のとき:T(∞)=∞T(\infty) = \infty

条件 ad−bc≠0ad-bc \neq 0 は本質的です。ad−bc=0ad-bc = 0 なら TT は定数写像になってしまい(たとえば c≠0c \neq 0 のとき a=λca = \lambda c, b=λdb = \lambda d と書けて T≡λT \equiv \lambda)、写像としての意味を失います。

命題 4.2(メビウス変換の基本性質)✓

メビウス変換全体のなす集合を M\mathcal{M} と書く。

  1. M\mathcal{M} は写像の合成に関して群をなし、各元は C^\hat{\mathbb{C}} から C^\hat{\mathbb{C}} への全単射である。
  2. 正則行列
A=(abcd)∈GL2(C)A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d\end{pmatrix} \in GL_2(\mathbb{C})

に対し TA(z)=(az+b)/(cz+d)T_A(z) = (az+b)/(cz+d) と定めると、Φ(A)=TA\Phi(A) = T_A で与えられる写像 Φ:GL2(C)→M\Phi : GL_2(\mathbb{C}) \to \mathcal{M} は全射群準同型で、その核は 00 でないスカラー行列全体である。したがって M≅PGL2(C)\mathcal{M} \cong PGL_2(\mathbb{C})。 3. 各メビウス変換は、平行移動 z↦z+βz \mapsto z+\beta、回転と拡大 z↦αzz \mapsto \alpha z(α≠0\alpha \neq 0)、反転 z↦1/zz \mapsto 1/z の有限個の合成として表せる。

この命題の本筋は、メビウス変換の合成が 2×22\times2 行列の積に対応することと、すべてのメビウス変換が 3 種類の基本的な変換に分解できることです。(1) の証明の途中にある複素射影直線の括弧書きは、∞\infty での規約が正しいことの別の見方なので、習っていなければ飛ばしても (2)、(3) の読解には影響しません。

証明(命題 4.2)

(2) から示します。Tj(z)=(ajz+bj)/(cjz+dj)T_j(z) = (a_jz+b_j)/(c_jz+d_j)(j=1,2j=1,2)に対して

T1(T2(z))=a1a2z+b2c2z+d2+b1c1a2z+b2c2z+d2+d1=(a1a2+b1c2)z+(a1b2+b1d2)(c1a2+d1c2)z+(c1b2+d1d2)T_1(T_2(z)) = \frac{a_1\dfrac{a_2z+b_2}{c_2z+d_2}+b_1}{c_1\dfrac{a_2z+b_2}{c_2z+d_2}+d_1} = \frac{(a_1a_2+b_1c_2)z + (a_1b_2+b_1d_2)}{(c_1a_2+d_1c_2)z + (c_1b_2+d_1d_2)}

となります(分母・分子に c2z+d2c_2z+d_2 を掛けました)。右辺の係数は行列の積

(a1b1c1d1)(a2b2c2d2)=(a1a2+b1c2a1b2+b1d2c1a2+d1c2c1b2+d1d2)\begin{pmatrix} a_1 & b_1 \\ c_1 & d_1\end{pmatrix}\begin{pmatrix} a_2 & b_2 \\ c_2 & d_2\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a_1a_2+b_1c_2 & a_1b_2+b_1d_2 \\ c_1a_2+d_1c_2 & c_1b_2+d_1d_2\end{pmatrix}

の成分そのものです。行列式は積で保たれるので det⁡≠0\det \neq 0 も保たれます。よって Φ\Phi は準同型で、定義から全射です。核については、T=idT = \mathrm{id} は az+b=z(cz+d)az+b = z(cz+d) すなわち cz2+(d−a)z−b=0cz^2 + (d-a)z - b = 0 がすべての zz で成り立つことと同値で、多項式の係数比較から c=0c = 0, b=0b = 0, a=da = d、つまりスカラー行列に限ります。

(1):単位行列は恒等写像を与え、逆行列(成分を上から順に d,−b,−c,ad, -b, -c, a とし、全体を ad−bcad-bc で割ったもの)に対応する変換が TT の逆写像になります。準同型性から T∘T−1=T−1∘T=idT \circ T^{-1} = T^{-1}\circ T = \mathrm{id} で、これは C^\hat{\mathbb{C}} 上の等式です(∞\infty や極での規約もこの計算と整合します。実際、C^\hat{\mathbb{C}} を複素射影直線 P1(C)\mathbb{P}^1(\mathbb{C}) と z↦[z:1]z \mapsto [z:1]、∞↦[1:0]\infty \mapsto [1:0] で同一視すれば、TT は同次座標に対する線型写像 [z:w]↦[az+bw:cz+dw][z:w]\mapsto [az+bw : cz+dw] の誘導する写像そのものであり、規約は自動的に正しくなります)。したがって各 TT は全単射で、M\mathcal{M} は群です。

(3):c=0c = 0 のときは ad≠0ad \neq 0 より T(z)=(a/d)z+(b/d)T(z) = (a/d)z + (b/d) で、拡大と平行移動の合成です。c≠0c \neq 0 のときは、分子を az+b=ac(cz+d)+b−adcaz+b = \frac{a}{c}(cz+d) + b - \frac{ad}{c} と書き直して

T(z)=ac+bc−adc⋅1cz+dT(z) = \frac{a}{c} + \frac{bc-ad}{c}\cdot\frac{1}{cz+d}

を得ます。よって T1(z)=cz+dT_1(z) = cz+d、T2(w)=1/wT_2(w) = 1/w、T3(w)=bc−adcwT_3(w) = \frac{bc-ad}{c}w、T4(w)=w+acT_4(w) = w + \frac{a}{c} とおけば T=T4∘T3∘T2∘T1T = T_4\circ T_3\circ T_2\circ T_1 です。T1T_1 は拡大と平行移動、T3T_3 は拡大(bc−ad≠0bc-ad\neq 0 に注意)、T2T_2 は反転です。

C^\hat{\mathbb{C}} の一般化された円とは、C\mathbb{C} 内の円、または直線に ∞\infty を付け加えた集合のことをいいます。立体射影のもとで、これらはちょうど球面 S2S^2 上の円(平面による切り口)に対応します。直線が「北極を通る円」になるわけで、∞\infty を足すという操作がこの言い換えを可能にしています。

定理 4.3(円円対応)✓

メビウス変換は C^\hat{\mathbb{C}} の一般化された円を一般化された円に写す。より詳しく、C\mathbb{C} の部分集合が円または直線であることは、A,C∈RA, C \in \mathbb{R}、B∈CB \in \mathbb{C}、∣B∣2>AC|B|^2 > AC を満たすある組 (A,B,C)(A,B,C) によって

Azzˉ+Bˉz+Bzˉ+C=0A z\bar{z} + \bar{B}z + B\bar{z} + C = 0

と表されることと同値であり(A≠0A \neq 0 なら円、A=0A = 0 なら直線)、メビウス変換はこの形の方程式をこの形の方程式に移す。

証明の方針は次のとおりです。式に出てくる zz と zˉ\bar{z} は別の変数ではなく、z=x+iyz=x+iy に対する x2+y2x^2+y^2 や x,yx,y の 1 次式を書き換えただけです。そのうえで、すべてのメビウス変換は平行移動・拡大(回転を含む)・反転の合成なので、この 3 種類のそれぞれで方程式の形が保たれることを確かめれば足ります。

証明(定理 4.3)

まず方程式の形を確かめます。z=x+iyz = x+iy、B=β1+iβ2B = \beta_1 + i\beta_2 とおくと Bˉz+Bzˉ=2Re⁡(Bˉz)=2(β1x+β2y)\bar{B}z + B\bar{z} = 2\operatorname{Re}(\bar{B}z) = 2(\beta_1x + \beta_2 y) なので、方程式は

A(x2+y2)+2β1x+2β2y+C=0A(x^2+y^2) + 2\beta_1 x + 2\beta_2 y + C = 0

と書けます。A≠0A \neq 0 のとき、両辺を AA で割って平方完成すると

(x+β1A)2+(y+β2A)2=∣B∣2−ACA2\left(x + \frac{\beta_1}{A}\right)^2 + \left(y+\frac{\beta_2}{A}\right)^2 = \frac{|B|^2 - AC}{A^2}

となり、∣B∣2>AC|B|^2 > AC のときちょうど中心 −B/A-B/A、半径 ∣B∣2−AC/∣A∣\sqrt{|B|^2-AC}/|A| の円を表します。A=0A = 0 のときは ∣B∣2>0|B|^2 > 0 より B≠0B \neq 0 で、方程式は実 1 次方程式 2β1x+2β2y+C=02\beta_1x+2\beta_2y + C = 0、すなわち直線です。逆に任意の円・直線がこの形に書けることは同じ計算を逆にたどればわかります。

次に 命題 4.2 (3) により、平行移動・拡大・反転の 3 種類について方程式の形が保たれることを見れば十分です。以下、zz の方程式を ww の方程式に書き直します。

平行移動 w=z+βw = z+\beta。 z=w−βz = w - \beta を代入すると、A∣w−β∣2+Bˉ(w−β)+B(wˉ−βˉ)+C=0A|w-\beta|^2 + \bar{B}(w-\beta) + B(\bar{w}-\bar{\beta}) + C = 0、すなわち Awwˉ+(B−Aβ)‾w+(B−Aβ)wˉ+(A∣β∣2−2Re⁡(Bˉβ)+C)=0A w\bar w + \overline{(B - A\beta)}w + (B-A\beta)\bar w + (A|\beta|^2 - 2\operatorname{Re}(\bar B \beta) + C) = 0 です。新しい係数を A′=AA' = A, B′=B−AβB' = B - A\beta, C′=A∣β∣2−2Re⁡(Bˉβ)+CC' = A|\beta|^2 - 2\operatorname{Re}(\bar B\beta)+C とすると、A′,C′A', C' は実数で、直接計算すると ∣B′∣2−A′C′=∣B∣2−AC>0|B'|^2 - A'C' = |B|^2 - AC > 0 が成り立ちます。

拡大・回転 w=αzw = \alpha z(α≠0\alpha \neq 0)。 z=w/αz = w/\alpha を代入し、両辺に ∣α∣2|\alpha|^2 を掛けると Awwˉ+Bα‾ w+Bα wˉ+C∣α∣2=0A w\bar w + \overline{B\alpha}\,w + B\alpha\,\bar w + C|\alpha|^2 = 0。よって A′=AA'=A, B′=BαB'=B\alpha, C′=C∣α∣2C'=C|\alpha|^2 で、∣B′∣2−A′C′=∣α∣2(∣B∣2−AC)>0|B'|^2 - A'C' = |\alpha|^2(|B|^2-AC) > 0。

反転 w=1/zw = 1/z。 z=1/wz = 1/w を代入して両辺に wwˉw\bar w を掛けると A+Bˉwˉ+Bw+Cwwˉ=0A + \bar{B}\bar{w} + Bw + C w\bar{w} = 0。すなわち A′=CA' = C, B′=BˉB' = \bar{B}, C′=AC' = A で、∣B′∣2−A′C′=∣B∣2−CA>0|B'|^2 - A'C' = |B|^2 - CA > 0 です。

以上より 3 種類すべてで形が保たれ、条件 ∣B∣2>AC|B|^2 > AC も保たれます。最後に ∞\infty の扱いを確認します。一般化された円が ∞\infty を含むのは A=0A = 0(直線)のときちょうどで、00 を含むのは C=0C = 0 のときちょうどです。反転は 00 と ∞\infty を入れ替えますが、上の計算はまさに AA と CC を入れ替えており、辻褄が合っています。

定理 4.4(3 点の対応で決まる)✓

z1,z2,z3∈C^z_1,z_2,z_3 \in \hat{\mathbb{C}} を相異なる 3 点、w1,w2,w3∈C^w_1,w_2,w_3 \in \hat{\mathbb{C}} を相異なる 3 点とする。このとき T(zj)=wjT(z_j) = w_j(j=1,2,3j=1,2,3)を満たすメビウス変換 TT がただ 1 つ存在する。

証明(定理 4.4)

存在。 まず (w1,w2,w3)=(0,1,∞)(w_1,w_2,w_3) = (0,1,\infty) の場合を作ります。z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 がすべて有限のとき

S(z)=z−z1z−z3⋅z2−z3z2−z1S(z) = \frac{z-z_1}{z-z_3}\cdot\frac{z_2-z_3}{z_2-z_1}

とおきます。これは S(z)=(az+b)/(cz+d)S(z) = (az+b)/(cz+d) の形で、a=z2−z3a = z_2-z_3、b=−z1(z2−z3)b = -z_1(z_2-z_3)、c=z2−z1c = z_2-z_1、d=−z3(z2−z1)d = -z_3(z_2-z_1) です。行列式を計算すると

ad−bc=−z3(z2−z3)(z2−z1)+z1(z2−z3)(z2−z1)=(z2−z3)(z2−z1)(z1−z3)ad-bc = -z_3(z_2-z_3)(z_2-z_1) + z_1(z_2-z_3)(z_2-z_1) = (z_2-z_3)(z_2-z_1)(z_1-z_3)

となり、3 点が相異なることから 00 ではありません。よって SS はメビウス変換で、代入すれば S(z1)=0S(z_1)=0、S(z2)=1S(z_2)=1、S(z3)=∞S(z_3)=\infty を満たします。zjz_j のいずれかが ∞\infty のときは、その因子を 11 に置き換えた式(たとえば z1=∞z_1=\infty なら S(z)=z2−z3z−z3S(z) = \frac{z_2-z_3}{z-z_3})を使えば同じ結論を得ます。同様に w1,w2,w3w_1,w_2,w_3 を 0,1,∞0,1,\infty へ写すメビウス変換 S′S' をとれば、命題 4.2 (1) より T=S′−1∘ST = S'^{-1}\circ S がメビウス変換で、T(zj)=wjT(z_j) = w_j を満たします。

一意性。 T1,T2T_1, T_2 がともに条件を満たすとすると、U=S′∘T1∘T2−1∘S′−1U = S' \circ T_1 \circ T_2^{-1}\circ S'^{-1} は 0,1,∞0,1,\infty を固定するメビウス変換です。U(z)=(az+b)/(cz+d)U(z) = (az+b)/(cz+d) と書きます。U(∞)=∞U(\infty)=\infty から c=0c = 0(c≠0c\neq 0 なら U(∞)=a/c≠∞U(\infty)=a/c \neq \infty)、よって U(z)=(az+b)/dU(z) = (az+b)/d で ad≠0ad \neq 0。U(0)=0U(0)=0 から b=0b = 0、U(1)=1U(1)=1 から a=da = d。ゆえに U=idU = \mathrm{id} です。S′S' は全単射なので T1=T2T_1 = T_2 を得ます。

定義 4.5(交比)↗

相異なる 3 点 z1,z2,z3∈C^z_1,z_2,z_3 \in \hat{\mathbb{C}} と z∈C^z \in \hat{\mathbb{C}} に対し、z1↦0z_1 \mapsto 0、z2↦1z_2 \mapsto 1、z3↦∞z_3 \mapsto \infty を満たす唯一のメビウス変換 SS(定理 4.4)による像

(z,z1,z2,z3):=S(z)=z−z1z−z3⋅z2−z3z2−z1(z, z_1, z_2, z_3) := S(z) = \frac{z-z_1}{z-z_3}\cdot\frac{z_2-z_3}{z_2-z_1}

を、この 4 点の交比という(zjz_j が ∞\infty のときは対応する因子を 11 と読む)。

交比はメビウス変換で不変です。実際、TT をメビウス変換とし、S′S' を Tz1,Tz2,Tz3Tz_1, Tz_2, Tz_3 を 0,1,∞0,1,\infty に写す唯一の変換とすると、S′∘TS'\circ T は z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 を 0,1,∞0,1,\infty に写すメビウス変換なので 定理 4.4 の一意性から S′∘T=SS'\circ T = S です。したがって

(Tz,Tz1,Tz2,Tz3)=S′(Tz)=S(z)=(z,z1,z2,z3)(Tz, Tz_1, Tz_2, Tz_3) = S'(Tz) = S(z) = (z,z_1,z_2,z_3)

が成り立ちます。この不変性は実用的です。「z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 を w1,w2,w3w_1,w_2,w_3 へ写す変換」を求めたければ、(w,w1,w2,w3)=(z,z1,z2,z3)(w,w_1,w_2,w_3) = (z,z_1,z_2,z_3) を ww について解けばよいのです。

注意 4.6

交比 (z,z1,z2,z3)(z,z_1,z_2,z_3) が実数(または ∞\infty)であることは、4 点 z,z1,z2,z3z,z_1,z_2,z_3 が同一の一般化された円の上にあることと同値です。実際、R^=R∪{∞}\hat{\mathbb{R}}=\mathbb{R}\cup\{\infty\} は 0,1,∞0,1,\infty を通る一般化された円であり、S−1S^{-1} が 定理 4.3 により R^\hat{\mathbb{R}} を z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 を通る一般化された円へ写すからです。この事実は円円対応の別証明にもなっています。

例 4.7(ケーリー変換:上半平面から単位円板へ)

C(z)=z−iz+iC(z) = \dfrac{z-i}{z+i} をケーリー変換といいます。これが H\mathbb{H} から D\mathbb{D} の上への双正則写像であることを確かめます。

ad−bc=1⋅i−(−i)⋅1=2i≠0ad-bc = 1\cdot i - (-i)\cdot 1 = 2i \neq 0 なのでメビウス変換です。核心は次の同値変形です。

∣C(z)∣<1  ⟺  ∣z−i∣<∣z+i∣  ⟺  z が −i より i に近い  ⟺  Im⁡z>0.|C(z)| < 1 \iff |z-i| < |z+i| \iff z \text{ が } -i \text{ より } i \text{ に近い} \iff \operatorname{Im} z > 0.

最後の同値は、∣z−i∣2−∣z+i∣2=−4Im⁡z|z-i|^2 - |z+i|^2 = -4\operatorname{Im}z を直接計算すれば確かめられます。よって C(H)⊆DC(\mathbb{H}) \subseteq \mathbb{D} であり、まったく同じ計算で ∣C(z)∣>1  ⟺  Im⁡z<0|C(z)| > 1 \iff \operatorname{Im}z < 0、∣C(z)∣=1  ⟺  z∈R|C(z)|=1 \iff z \in \mathbb{R} がわかります。CC は C^\hat{\mathbb{C}} の全単射(命題 4.2)なので、H\mathbb{H} は D\mathbb{D} の上へ写ります。逆写像は w(z+i)=z−iw(z+i) = z-i を zz について解いて

C−1(w)=i 1+w1−wC^{-1}(w) = i\,\frac{1+w}{1-w}

です。境界の対応も見ておきましょう。C(0)=−1C(0) = -1、C(1)=1−i1+i=(1−i)22=−iC(1) = \frac{1-i}{1+i} = \frac{(1-i)^2}{2} = -i、C(∞)=1C(\infty) = 1 なので、R^\hat{\mathbb{R}} 上を 0→1→∞0 \to 1 \to \infty と進むとき像は単位円周上を −1→−i→1-1 \to -i \to 1 と、下半分を通って進みます。どちらの場合も進行方向の左手側が領域(H\mathbb{H} とその像 D\mathbb{D})であり、向きが保たれていることがわかります。また C(i)=0C(i) = 0 なので、H\mathbb{H} の「中心」にあたる ii が円板の中心へ行きます。

5. シュワルツの補題と単位円板の自己同型

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リーマンの写像定理は「単位円板へ写せる」という形で述べられます。そこで基準となる単位円板そのものの対称性を先に調べておきます。鍵になるのは、最大値原理のごく素直な帰結である次の補題です。

補題 5.1(シュワルツの補題)✓

f:D→Df : \mathbb{D} \to \mathbb{D} を正則で f(0)=0f(0)=0 を満たすものとする。このとき

∣f(z)∣≤∣z∣(z∈D),∣f′(0)∣≤1|f(z)| \le |z| \quad (z \in \mathbb{D}), \qquad |f'(0)| \le 1

が成り立つ。さらに、ある z0∈D∖{0}z_0 \in \mathbb{D}\setminus\{0\} で ∣f(z0)∣=∣z0∣|f(z_0)| = |z_0| となるか、または ∣f′(0)∣=1|f'(0)| = 1 となるならば、∣λ∣=1|\lambda| = 1 なる定数 λ\lambda が存在して f(z)=λzf(z) = \lambda z(すべての z∈Dz\in\mathbb{D})である。

証明の方針は、f(z)/zf(z)/z という関数 gg を作り、∣g∣≤1|g|\le1 を示すことです。半径 r<1r<1 の円周の上では ∣g∣<1/r|g|<1/r なので、最大値原理により円の内側でも同じ評価が成り立ちます。そこで rr を 11 に近づければ ∣g∣≤1|g|\le1 が得られます。

証明(補題 5.1)

ff は D\mathbb{D} 上正則で f(0)=0f(0)=0 なので、テイラー展開は f(z)=∑n≥1anznf(z) = \sum_{n\ge 1}a_nz^n の形です。そこで

g(z)=∑n≥1anzn−1={f(z)/z(z≠0)a1=f′(0)(z=0)g(z) = \sum_{n \ge 1} a_n z^{n-1} = \begin{cases} f(z)/z & (z \neq 0)\\ a_1 = f'(0) & (z = 0)\end{cases}

とおくと、右辺のべき級数は ff の級数と同じ収束半径(≥1\ge 1)を持つので、gg は D\mathbb{D} 上正則です。

0<r<10 < r < 1 を固定します。∣z∣=r|z| = r のとき ∣f(z)∣<1|f(z)| < 1(ff の像が D\mathbb{D} に入るから)なので ∣g(z)∣=∣f(z)∣/r<1/r|g(z)| = |f(z)|/r < 1/r です。gg は閉円板 D(0,r)‾\overline{D(0,r)} で正則、その内部で最大値原理が使えるので、∣g∣|g| の D(0,r)‾\overline{D(0,r)} 上の最大値は境界 ∣z∣=r|z|=r で達成されます。ゆえに ∣z∣≤r|z| \le r なるすべての zz で ∣g(z)∣≤1/r|g(z)| \le 1/r です。

ここで z∈Dz \in \mathbb{D} を固定し、rr を ∣z∣<r<1|z| < r < 1 の範囲で 11 に近づけると ∣g(z)∣≤1/r→1|g(z)| \le 1/r \to 1、すなわち ∣g(z)∣≤1|g(z)| \le 1 を得ます。これは z≠0z \neq 0 のとき ∣f(z)∣≤∣z∣|f(z)| \le |z|、z=0z=0 のとき ∣f′(0)∣≤1|f'(0)| \le 1 を意味します(z=0z=0 では ∣f(0)∣=0=∣0∣|f(0)|=0=|0| も成り立ちます)。

等号の場合を見ます。∣f(z0)∣=∣z0∣|f(z_0)|=|z_0|(z0≠0z_0 \neq 0)なら ∣g(z0)∣=1|g(z_0)| = 1、∣f′(0)∣=1|f'(0)|=1 なら ∣g(0)∣=1|g(0)|=1 です。いずれの場合も ∣g∣|g| は領域 D\mathbb{D} の内点で最大値 11 に達しているので、最大値原理より gg は定数 λ\lambda、しかも ∣λ∣=1|\lambda| = 1 です。よって f(z)=λzf(z) = \lambda z となります。

つづいて、円板の点 aa を中心へ動かす標準的な写像を用意します。a∈Da \in \mathbb{D} に対し

φa(z)=z−a1−aˉz\varphi_a(z) = \frac{z-a}{1-\bar{a}z}

とおきます。分母の零点は z=1/aˉz = 1/\bar{a} で、∣1/aˉ∣=1/∣a∣>1|1/\bar a| = 1/|a| > 1(a≠0a\neq 0 のとき)ですから、φa\varphi_a は D‾\overline{\mathbb{D}} を含む開集合上で正則です。ad−bc=1⋅1−(−a)(−aˉ)=1−∣a∣2≠0ad-bc = 1\cdot 1 - (-a)(-\bar a) = 1-|a|^2 \neq 0 なのでメビウス変換でもあります。基本的な性質を確認しておきます。

  • ∣z∣=1|z| = 1 のとき ∣1−aˉz∣=∣z∣ ∣zˉ−aˉ∣=∣z−a‾∣=∣z−a∣|1-\bar{a}z| = |z|\,|\bar{z}-\bar{a}| = |\overline{z-a}| = |z-a| なので ∣φa(z)∣=1|\varphi_a(z)| = 1。すなわち単位円周は単位円周へ写ります。したがって最大値原理から D\mathbb{D} 上で ∣φa∣≤1|\varphi_a| \le 1 であり、φa\varphi_a は定数でないので ∣φa∣<1|\varphi_a| < 1、つまり φa(D)⊆D\varphi_a(\mathbb{D}) \subseteq \mathbb{D} です。
  • φ−a∘φa=id\varphi_{-a}\circ\varphi_a = \mathrm{id}。実際
φ−a(φa(z))=z−a1−aˉz+a1+aˉz−a1−aˉz=(z−a)+a(1−aˉz)(1−aˉz)+aˉ(z−a)=z(1−∣a∣2)1−∣a∣2=z.\varphi_{-a}(\varphi_a(z)) = \frac{\dfrac{z-a}{1-\bar{a}z}+a}{1+\bar{a}\dfrac{z-a}{1-\bar{a}z}} = \frac{(z-a)+a(1-\bar{a}z)}{(1-\bar{a}z)+\bar{a}(z-a)} = \frac{z(1-|a|^2)}{1-|a|^2} = z.

同様に φa∘φ−a=id\varphi_a \circ \varphi_{-a} = \mathrm{id} なので、φa\varphi_a は D\mathbb{D} から D\mathbb{D} の上への双正則写像です。

  • φa(a)=0\varphi_a(a) = 0、φa(0)=−a\varphi_a(0) = -a。

定義 5.2(単連結領域)↗

領域 Ω⊆C\Omega \subseteq \mathbb{C} が単連結であるとは、Ω\Omega 内の任意の閉曲線が Ω\Omega の中で 1 点にホモトープであることをいう。同値な言い換えとして、Ω\Omega が単連結であることは C^∖Ω\hat{\mathbb{C}}\setminus\Omega が連結であることと同値であり、また「Ω\Omega 上の任意の正則関数が原始関数を持つ」「Ω\Omega 上の零点を持たない任意の正則関数が正則な対数を持つ」とも同値である。

定義の「1 点にホモトープ」とは、閉曲線を領域の外に出さずに連続的に縮めて 1 点にできる、という意味です。穴のない領域なら縮められ、穴の周りを回る曲線は縮められません。

D\mathbb{D}、H\mathbb{H}、凸領域、星形領域はいずれも単連結です。一方、円環 {1<∣z∣<2}\{1 < |z| < 2\} や穴あき円板 D∖{0}\mathbb{D}\setminus\{0\} は単連結ではありません。定義 5.2 に挙げた同値条件のうち「零点を持たない正則関数が正則な対数(したがって正則な平方根)を持つ」は、リーマンの写像定理の証明で決定的に効きます。

定理 5.3(単位円板の自己同型群)✓

Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) を D\mathbb{D} から D\mathbb{D} の上への双正則写像全体(合成に関する群)とすると、

Aut(D)={z↦eiθ z−a1−aˉz : θ∈R, a∈D}.\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) = \left\{ z \mapsto e^{i\theta}\,\frac{z-a}{1-\bar{a}z} \ :\ \theta \in \mathbb{R},\ a \in \mathbb{D}\right\}.

とくに D\mathbb{D} の自己同型はすべてメビウス変換であり、Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) は D\mathbb{D} に推移的に作用する。

証明(定理 5.3)

(⊇\supseteq) 上で確かめたとおり φa∈Aut(D)\varphi_a \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) であり、回転 z↦eiθzz \mapsto e^{i\theta}z も明らかに D\mathbb{D} の自己同型(逆写像は z↦e−iθzz\mapsto e^{-i\theta}z)ですから、その合成 eiθφae^{i\theta}\varphi_a も Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) に属します。

(⊆\subseteq) f∈Aut(D)f \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) とし、a=f−1(0)∈Da = f^{-1}(0) \in \mathbb{D} とおきます。g=f∘φ−ag = f \circ \varphi_{-a} と定めると、φ−a=φa−1\varphi_{-a} = \varphi_a^{-1} も自己同型なので g∈Aut(D)g \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) であり、

g(0)=f(φ−a(0))=f(a)=0g(0) = f(\varphi_{-a}(0)) = f(a) = 0

です(φ−a(0)=−(−a)=a\varphi_{-a}(0) = -(-a) = a を使いました)。gg は D\mathbb{D} から D\mathbb{D} への正則写像で g(0)=0g(0)=0 なので 補題 5.1 より ∣g(z)∣≤∣z∣|g(z)| \le |z| です。同じ議論を g−1g^{-1}(これも Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) の元で g−1(0)=0g^{-1}(0)=0)に適用すると ∣g−1(w)∣≤∣w∣|g^{-1}(w)| \le |w| で、w=g(z)w = g(z) を代入して ∣z∣≤∣g(z)∣|z| \le |g(z)| を得ます。両者を合わせて ∣g(z)∣=∣z∣|g(z)| = |z| がすべての zz で成り立つので、z≠0z \neq 0 を 1 つとれば 補題 5.1 の等号の場合が適用でき、∣λ∣=1|\lambda|=1 なる λ\lambda を用いて g(z)=λzg(z) = \lambda z と書けます。λ=eiθ\lambda = e^{i\theta} とおけば

f=g∘φ−a−1=g∘φa,すなわちf(z)=eiθφa(z)f = g \circ \varphi_{-a}^{-1} = g\circ\varphi_a, \qquad \text{すなわち} \quad f(z) = e^{i\theta}\varphi_a(z)

です。推移性は、任意の a,b∈Da, b \in \mathbb{D} に対し φb−1∘φa\varphi_b^{-1}\circ\varphi_a が aa を bb へ写すことからわかります。

ここまでで、円板・上半平面・帯・第一象限といった具体的な領域が互いに等角同値であることを見てきました。では、もっと複雑な領域はどうでしょうか。境界がフラクタルのようにギザギザな領域や、細長く曲がりくねった領域も円板と等角同値なのでしょうか。リーマンの答えは「C\mathbb{C} 全体でない単連結領域なら、いつでもそうだ」という、驚くほど強いものです。

定理 6.1(リーマンの写像定理)✓

Ω⊆C\Omega \subseteq \mathbb{C} を単連結領域で Ω≠C\Omega \neq \mathbb{C} を満たすものとし、z0∈Ωz_0 \in \Omega とする。このとき、双正則写像 f:Ω→Df : \Omega \to \mathbb{D} で

f(z0)=0,f′(z0)>0f(z_0) = 0, \qquad f'(z_0) > 0

(f′(z0)f'(z_0) が正の実数)を満たすものがただ 1 つ存在する。とくに、C\mathbb{C} でない単連結領域はすべて互いに等角同値である。

証明(定理 6.1)

ここでは一意性を示します。存在の証明は Appendix に回します。

f,gf, g がともに条件を満たすとします。h=f∘g−1:D→Dh = f \circ g^{-1} : \mathbb{D}\to\mathbb{D} は双正則写像の合成なので h∈Aut(D)h \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) であり、h(0)=f(g−1(0))=f(z0)=0h(0) = f(g^{-1}(0)) = f(z_0) = 0 です。定理 5.3 より h(z)=eiθφa(z)h(z) = e^{i\theta}\varphi_a(z) と書けますが、h(0)=eiθφa(0)=−eiθa=0h(0) = e^{i\theta}\varphi_a(0) = -e^{i\theta}a = 0 から a=0a = 0、すなわち h(z)=eiθzh(z) = e^{i\theta}z です。

次に hh の 00 での微分を計算します。合成関数の微分法と逆関数の微分法から

h′(0)=f′(g−1(0))⋅(g−1)′(0)=f′(z0)g′(z0).h'(0) = f'(g^{-1}(0))\cdot (g^{-1})'(0) = \frac{f'(z_0)}{g'(z_0)}.

仮定より f′(z0)>0f'(z_0) > 0、g′(z0)>0g'(z_0) > 0 なので h′(0)>0h'(0) > 0 です。一方 h′(0)=eiθh'(0) = e^{i\theta} ですから、eiθe^{i\theta} は正の実数で絶対値 11、つまり eiθ=1e^{i\theta} = 1。よって h=idh = \mathrm{id}、すなわち f=gf = g です。

最後の主張は、Ω1,Ω2\Omega_1, \Omega_2 が条件を満たす領域のとき、fj:Ωj→Df_j : \Omega_j \to \mathbb{D} を上の写像とすれば f2−1∘f1:Ω1→Ω2f_2^{-1}\circ f_1 : \Omega_1 \to \Omega_2 が双正則であることからわかります。

正規化条件「f(z0)=0f(z_0)=0 かつ f′(z0)>0f'(z_0) > 0」は、定理 5.3 が示す Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) の自由度(aa が 2 次元、θ\theta が 1 次元の計 3 次元)をちょうど消し去るために置かれています。写像は 1 つに決まりますが、z0z_0 の取り方を変えれば別の写像になります。

注意 6.2

2 つの仮定はどちらも落とせません。

Ω≠C\Omega \neq \mathbb{C} が必要。 もし双正則写像 f:C→Df : \mathbb{C}\to\mathbb{D} があれば、ff は有界な整関数なのでリウヴィルの定理から定数となり、全単射であることに矛盾します。したがって C\mathbb{C} は単連結ですが D\mathbb{D} と等角同値ではありません。C^\hat{\mathbb{C}}、C\mathbb{C}、D\mathbb{D} の 3 つが単連結リーマン面の同型類のすべてである、というのが一般化された形(一意化定理)です。

単連結性が必要。 双正則写像は同相写像でもあるので、Ω\Omega が D\mathbb{D} と等角同値なら Ω\Omega は D\mathbb{D} と同相であり、単連結性は位相的性質ですから Ω\Omega も単連結です。つまり単連結性は必要条件でもあります。

さらに、単連結でない領域では「形」が連続的な不変量として残ります。円環 A(r,R)={z:r<∣z∣<R}A(r,R) = \{z : r < |z| < R\} と A(r′,R′)A(r',R') が等角同値であるための必要十分条件は R/r=R′/r′R/r = R'/r' であることが知られています。比 R/rR/r(の対数)は円環のモジュラスと呼ばれ、連続的に変化する不変量です。したがって二重連結領域に対する写像定理は成り立ちません。証明は Ahlfors の教科書の円環の章にあります。

注意 6.3

リーマンの写像定理は純粋な存在定理で、写像を具体的に書き下す方法は与えません。実際、明示的な公式が得られる領域は限られています。多角形に対してはシュワルツ・クリストッフェルの公式があり、内角 α1π,…,αnπ\alpha_1\pi, \ldots, \alpha_n\pi の多角形の内部へ H\mathbb{H} を写す双正則写像は

f(z)=C1+C2∫z1z∏k=1n(ζ−xk)αk−1 dζf(z) = C_1 + C_2\int_{z_1}^{z}\prod_{k=1}^{n}(\zeta - x_k)^{\alpha_k - 1}\,d\zeta

の形になります(xk∈Rx_k \in \mathbb{R} は頂点に対応する境界点)。ただし xkx_k を所望の多角形に合わせて決める部分は、一般には数値的にしか解けません。

境界の対応についてはカラテオドリの定理があります。Ω\Omega の境界がジョルダン曲線(単純閉曲線)ならば、リーマン写像 f:Ω→Df:\Omega\to\mathbb{D} は閉包の間の同相写像 Ω‾→D‾\overline{\Omega}\to\overline{\mathbb{D}} に延長されます。定理の主張自体は境界に何も要求しないのに、境界が良ければ写像も境界まで良く延びる、というわけです。

例 6.4(上半円板を単位円板へ写す)

D+={z∈D:Im⁡z>0}D^{+} = \{z \in \mathbb{D} : \operatorname{Im}z > 0\}(上半円板)は凸領域なので単連結で、C\mathbb{C} とは異なります。定理 6.1 により D\mathbb{D} と等角同値ですが、この場合は写像を手で作れます。3 段階に分けます。

第 1 段:D+→QD^{+} \to Q(第一象限)。 T(z)=1+z1−zT(z) = \dfrac{1+z}{1-z} とおきます。TT はメビウス変換(ad−bc=1⋅1−1⋅(−1)=2≠0ad-bc = 1\cdot 1 - 1\cdot(-1) = 2 \neq 0)で、T(−1)=0T(-1) = 0、T(i)=1+i1−i=(1+i)22=iT(i) = \dfrac{1+i}{1-i} = \dfrac{(1+i)^2}{2} = i、T(1)=∞T(1) = \infty です。定理 4.3 より、上半単位円周(−1,i,1-1, i, 1 を通る一般化された円の一部)は 0,i,∞0, i, \infty を通る一般化された円、すなわち虚軸に写ります。同様に区間 (−1,1)(-1,1) は 00 と ∞\infty を結ぶ実軸の一部、正の実軸に写ります(T(0)=1>0T(0) = 1 > 0 による)。内点 z=i/2z = i/2 の像は

T(i/2)=1+i/21−i/2=(1+i/2)2∣1−i/2∣2=3/4+i5/4=35+45iT(i/2) = \frac{1+i/2}{1-i/2} = \frac{(1+i/2)^2}{|1-i/2|^2} = \frac{3/4 + i}{5/4} = \frac{3}{5}+\frac{4}{5}i

で第一象限にあります。TT は C^\hat{\mathbb{C}} の全単射で境界が第一象限の境界に写ることから、T(D+)=QT(D^{+}) = Q です。

第 2 段:Q→HQ \to \mathbb{H}。 例 3.4 の w↦w2w \mapsto w^2 です。

第 3 段:H→D\mathbb{H}\to\mathbb{D}。 例 4.7 のケーリー変換 CC です。

合成すると

F(z)=C((1+z1−z)2)=(1+z)2−i(1−z)2(1+z)2+i(1−z)2F(z) = C\left(\left(\frac{1+z}{1-z}\right)^{2}\right) = \frac{(1+z)^2 - i(1-z)^2}{(1+z)^2 + i(1-z)^2}

(分母・分子に (1−z)2(1-z)^2 を掛けました)が D+D^{+} から D\mathbb{D} への双正則写像です。検算しましょう。z=i/2z = i/2 のとき第 1 段の像は 35+45i\frac35+\frac45 i、第 2 段でその 2 乗 −725+2425i-\frac{7}{25}+\frac{24}{25}i(確かに上半平面)、第 3 段で

−725+2425i−i−725+2425i+i=−7−i−7+49i=−(7+i)7(−1+7i)=−(7+i)(−1−7i)7 ∣−1+7i∣2=50i7⋅50=i7\frac{-\frac{7}{25}+\frac{24}{25}i - i}{-\frac{7}{25}+\frac{24}{25}i+i} = \frac{-7-i}{-7+49i} = \frac{-(7+i)}{7(-1+7i)} = \frac{-(7+i)(-1-7i)}{7\,|-1+7i|^{2}} = \frac{50i}{7\cdot 50} = \frac{i}{7}

となります(−(7+i)(−1−7i)=−(−7−49i−i+7)=50i-(7+i)(-1-7i) = -(-7-49i-i+7) = 50i と ∣−1+7i∣2=50|-1+7i|^2 = 50 を使いました)。確かに ∣i/7∣<1|i/7| < 1 で、D\mathbb{D} の中に入っています。

上半円板を単位円板へ写す 3 段階。各段はメビウス変換・べき乗・メビウス変換で、いずれも等角です。

7. 応用:調和関数の移送とディリクレ問題

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等角写像が単なる幾何学的な余興ではなく道具になるのは、次の性質があるからです。実 2 変数関数 uu が領域 Ω\Omega 上で調和であるとは、uu が C2C^2 級でラプラス方程式 Δu=uxx+uyy=0\Delta u = u_{xx}+u_{yy} = 0 を満たすことをいいます。定常温度分布、静電ポテンシャル、非圧縮非回転流れの速度ポテンシャルなど、物理に現れる場の多くが調和関数です。

命題 7.1(調和性は正則写像で保たれる)✓

Ω,Ω′\Omega, \Omega' を領域、f:Ω→Ω′f : \Omega \to \Omega' を正則写像、u:Ω′→Ru : \Omega' \to \mathbb{R} を調和関数とする。このとき u∘fu \circ f は Ω\Omega 上で調和である。さらに恒等式

Δ(u∘f)=((Δu)∘f) ∣f′∣2\Delta(u\circ f) = \bigl((\Delta u)\circ f\bigr)\,|f'|^2

が成り立つ。

証明(命題 7.1)

調和性は局所的な性質なので、各点の近傍で示せば十分です。z1∈Ωz_1 \in \Omega をとり、w1=f(z1)∈Ω′w_1 = f(z_1) \in \Omega' とします。Ω′\Omega' は開集合なので円板 D=D(w1,R)⊆Ω′D = D(w_1, R) \subseteq \Omega' がとれます。

円板上で uu は正則関数の実部になる。 g=ux−iuyg = u_x - i u_y とおきます。uu が調和で C2C^2 級(実は調和関数は C∞C^\infty 級です)なので、g=P+iQg = P + iQ(P=uxP = u_x、Q=−uyQ = -u_y)に対して

Px=uxx=−uyy=Qy,Py=uxy=uyx=−QxP_x = u_{xx} = -u_{yy} = Q_y, \qquad P_y = u_{xy} = u_{yx} = -Q_x

が成り立ちます。1 つ目の等号で Δu=0\Delta u = 0 を、2 つ目で偏微分の順序交換(シュワルツの定理(定理 7.1)[多変数関数の微分と偏微分]、u∈C2u \in C^2)を使いました。これはコーシー・リーマンの関係式なので gg は DD 上正則です。DD は円板なので gg は原始関数 FF を持ちます(DD 上の正則関数の積分は経路に依らない、という コーシーの積分定理(定理 4.3)[コーシーの積分定理と積分公式] の帰結です。コーシーの積分定理と積分公式 を参照)。F=U+iVF = U+iV と書くと、コーシー・リーマンの関係式から F′=Ux+iVx=Ux−iUyF' = U_x + iV_x = U_x - iU_y です。F′=g=ux−iuyF' = g = u_x - iu_y と比べて Ux=uxU_x = u_x、Uy=uyU_y = u_y、すなわち u−Uu - U は連結集合 DD 上で定数です。この定数を FF に足して u=Re⁡Fu = \operatorname{Re}F としてよいことになります。

合成。 V1=f−1(D)V_1 = f^{-1}(D) は z1z_1 を含む開集合で、その上で F∘fF\circ f は正則関数の合成なので正則です。したがって

(u∘f)(z)=Re⁡(F(f(z)))(z∈V1)(u\circ f)(z) = \operatorname{Re}\bigl(F(f(z))\bigr) \qquad (z \in V_1)

は正則関数の実部であり、V1V_1 上で調和です(正則関数の実部・虚部が調和であることは、コーシー・リーマンの関係式を微分して得られます。実部・虚部は調和関数(系 5.7)[正則関数とコーシー・リーマンの関係式])。z1z_1 は任意だったので u∘fu\circ f は Ω\Omega 全体で調和です。

恒等式については、uu が調和でない一般の C2C^2 級関数についても、f=p+iqf = p+iq と書いて連鎖律を 2 回使い、コーシー・リーマンの関係式 px=qyp_x = q_y、py=−qxp_y = -q_x と p,qp, q の調和性を用いると、交叉項が消えて Δ(u∘f)=(uxx+uyy)∘f⋅(px2+qx2)=((Δu)∘f)∣f′∣2\Delta(u\circ f) = (u_{xx}+u_{yy})\circ f\cdot(p_x^2+q_x^2) = ((\Delta u)\circ f)|f'|^2 が得られます。

この命題は、ディリクレ問題(領域 Ω\Omega 上で調和、境界で与えられた値をとる関数を求める問題)を「解ける領域」へ移す道を開きます。Ω\Omega から解ける領域 Ω′\Omega' への双正則写像 ff があり、ff が境界まで連続に延びるならば、Ω′\Omega' 上の解 uu を引き戻した u∘fu\circ f が Ω\Omega 上の解になるからです。

例 7.2(上半円板のディリクレ問題を解く)

D+={z∈D:Im⁡z>0}D^{+} = \{z\in\mathbb{D} : \operatorname{Im}z > 0\} 上で調和で、直径部分 (−1,1)(-1,1) で値 00、上半円周 {eiϕ:0<ϕ<π}\{e^{i\phi} : 0 < \phi < \pi\} で値 11 をとる関数 uu を求めます。

上半平面・第一象限では解ける。 主枝の対数 Log⁡w=log⁡∣w∣+iArg⁡w\operatorname{Log}w = \log|w| + i\operatorname{Arg}w(−π<Arg⁡w<π-\pi < \operatorname{Arg}w < \pi)は C∖(−∞,0]\mathbb{C}\setminus(-\infty,0] 上で正則(対数の主枝の正則性(定理 6.9)[正則関数とコーシー・リーマンの関係式])なので、その虚部 Arg⁡w\operatorname{Arg}w はそこで調和です。第一象限 QQ 上では Arg⁡w∈(0,π/2)\operatorname{Arg}w \in (0,\pi/2) で、正の実軸に近づけると 00、正の虚軸に近づけると π/2\pi/2 に収束します。したがって

v(w)=2πArg⁡wv(w) = \frac{2}{\pi}\operatorname{Arg}w

は QQ 上で調和、正の実軸で 00、正の虚軸で 11 という境界値を持ちます。

引き戻す。 例 6.4 の第 1 段で見たとおり、T(z)=1+z1−zT(z) = \dfrac{1+z}{1-z} は D+D^{+} を QQ の上へ双正則に写し、直径 (−1,1)(-1,1) を正の実軸へ、上半円周を正の虚軸へ写します。よって 命題 7.1 により

u(z)=v(T(z))=2πArg⁡1+z1−zu(z) = v(T(z)) = \frac{2}{\pi}\operatorname{Arg}\frac{1+z}{1-z}

は D+D^{+} 上で調和で、TT が境界まで連続(z=1z = 1 を除く)であることから所望の境界値をとります。

値をひとつ計算する。 z=i/2z = i/2 では T(i/2)=35+45iT(i/2) = \frac35+\frac45 i なので

u(i/2)=2πarctan⁡4/53/5=2πarctan⁡43=2×0.92733.1416=0.590…u(i/2) = \frac{2}{\pi}\arctan\frac{4/5}{3/5} = \frac{2}{\pi}\arctan\frac43 = \frac{2 \times 0.9273}{3.1416} = 0.590\ldots

です。i/2i/2 は直径からも円周からも距離 1/21/2 ですが、円周のほうが「見込む角」が大きいぶん、値が 1/21/2 より大きくなっています。この uu は物理的には、直径を 00 度、円弧を 11 度に保った半円板の定常温度分布です。

8. 発展:外部の単葉関数と Grunsky の不等式

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リーマンの写像定理は「領域が円板と等角同値か」を決めましたが、その写像がどれだけ曲がるかは教えてくれません。単位円板の外部 D∗={∣z∣>1}\mathbb{D}^*=\{|z|>1\} の上で単葉(単射で正則)な関数のクラスには、係数の間に精密な制約があります。この節では、その最初のもの(面積定理)と、そこから出る Grunsky の不等式を証明します。ここは発展的な内容で、ローラン展開や曲線の囲む面積の計算を使うため、前の節までより前提が増えます。リーマンの写像定理の理解だけが目的なら、この節は読まなくても構いません。

定義 8.1(外部で単葉な関数のクラス Σ)↗

D∗={z∈C:∣z∣>1}\mathbb{D}^*=\{z\in\mathbb{C}:|z|>1\} 上の正則関数

g(z)=z+b0+b1z+b2z2+⋯=z+b0+∑n≥1bnz−n(∣z∣>1)g(z)=z+b_0+\frac{b_1}{z}+\frac{b_2}{z^2}+\cdots=z+b_0+\sum_{n\ge1}b_nz^{-n}\qquad(|z|>1)

で、D∗\mathbb{D}^* 上で単射なもの全体を Σ\Sigma と書く。g∈Σg\in\Sigma について D∗\mathbb{D}^* の像の補集合 Eg=C∖g(D∗)E_g=\mathbb{C}\setminus g(\mathbb{D}^*) はコンパクトである。

EgE_g がコンパクトなのは、∣g(z)∣→∞|g(z)|\to\infty(z→∞z\to\infty)なので g(D∗)g(\mathbb{D}^*) が ∞\infty の近傍を含み、開写像定理(定理 6.2[偏角の原理と Rouché の定理])で g(D∗)g(\mathbb{D}^*) が開集合だからです。背景として、連結なコンパクト集合 EE(2 点以上)の補集合の外部領域を、∞↦∞\infty\mapsto\infty を保つ等角写像(リーマンの写像定理を 1/(w−w0)1/(w-w_0) で球面上に移して使う)で D∗\mathbb{D}^* から写すと、cz+b0+⋯cz+b_0+\cdots(c>0c>0 は EE の対数容量)の形になります。c=1c=1 に正規化したものが Σ\Sigma の元です(対数容量とは、集合 EE の大きさを測る量のことです)。この背景は以下の証明では使いません。

この小節のねらいは、「ある領域の面積は負にならない」という当たり前の事実を、関数の係数の不等式に翻訳することです。gg で写した像が囲む領域の面積を、gg のローラン展開の係数で書き表し、それが 00 以上であることから係数の間の関係を引き出します。

g∈Σg\in\Sigma と r>1r>1 に対し、Γr={g(reiθ):0≤θ≤2π}\Gamma_r=\{g(re^{i\theta}):0\le\theta\le2\pi\} とします。gg は単射で g′≠0g'\ne0(単射な正則関数の導関数は零点をもたない)なので、Γr\Gamma_r は滑らかな単純閉曲線です。

補題 8.2(面積恒等式)✓

g∈Σg\in\Sigma、PP を NN 次の複素係数多項式とする。P∘gP\circ g は D∗\mathbb{D}^* で正則で、そのローラン展開(定理 6.1[正則関数の強力な性質])は

P(g(ζ))=∑n=−∞Ncnζn(∣ζ∣>1)P(g(\zeta))=\sum_{n=-\infty}^{N}c_n\zeta^n\qquad(|\zeta|>1)

の形をしている。このとき、Γr\Gamma_r が囲む有界領域を Ωr\Omega_r として、すべての r>1r>1 で

π∑n=−∞Nn ∣cn∣2 r2n=∬Ωr∣P′(w)∣2 dA(w) ≥ 0\pi\sum_{n=-\infty}^{N}n\,|c_n|^2\,r^{2n}=\iint_{\Omega_r}|P'(w)|^2\,dA(w)\ \ge\ 0

が成り立つ。とくに ∑l≥1l ∣c−l∣2≤∑n=1Nn ∣cn∣2\displaystyle\sum_{l\ge1}l\,|c_{-l}|^2\le\sum_{n=1}^{N}n\,|c_n|^2 である。

証明(補題 8.2)

Γr\Gamma_r の内部と向き。 Γr\Gamma_r は単純閉曲線なので Jordan の曲線定理(定理 4.2[Jordan の曲線定理と Jordan–Brouwer の分離定理])により、C∖Γr\mathbb{C}\setminus\Gamma_r は有界な成分 Ωr\Omega_r と非有界な成分にちょうど 2 つに分かれ、どちらの境界も Γr\Gamma_r です。Sr={∣ζ∣>r}S_r=\{|\zeta|>r\} とおくと、g(Sr)g(S_r) は非有界成分と一致します。実際、g(Sr)g(S_r) は開集合(開写像定理)で連結、gg の単射性から Γr\Gamma_r と交わらず、非有界です。さらに C∖Γr\mathbb{C}\setminus\Gamma_r の中で閉でもあります。g(ζk)→w∉Γrg(\zeta_k)\to w\notin\Gamma_r(∣ζk∣>r|\zeta_k|>r)とすると、∣g(ζ)∣→∞|g(\zeta)|\to\infty(ζ→∞\zeta\to\infty)から (ζk)(\zeta_k) は有界で、収束部分列の極限 ζ\zeta は ∣ζ∣≥r|\zeta|\ge r をみたし、∣ζ∣=r|\zeta|=r なら w=g(ζ)∈Γrw=g(\zeta)\in\Gamma_r となって矛盾するので ∣ζ∣>r|\zeta|>r、w∈g(Sr)w\in g(S_r) です。よって g(Sr)g(S_r) は非有界成分です。

w∈Ωrw\in\Omega_r なら g−wg-w は ∣ζ∣≥r|\zeta|\ge r に零点をもたないので、12πi∮∣ζ∣=ρg′(ζ)g(ζ)−wdζ\frac{1}{2\pi i}\oint_{|\zeta|=\rho}\frac{g'(\zeta)}{g(\zeta)-w}d\zeta は ρ≥r\rho\ge r によりません(積分路の変形、定理 5.1[コーシーの積分定理と積分公式])。ρ→∞\rho\to\infty では g′/(g−w)=1/ζ+O(ζ−2)g'/(g-w)=1/\zeta+O(\zeta^{-2}) なので値は 11 です。つまり Γr\Gamma_r を θ\theta の増える向きに回ると Ωr\Omega_r の各点の回りを正に 1 周し、これは ∂Ωr\partial\Omega_r の正の向きです。

Green の公式。 f(w)=P(w)‾ P′(w)f(w)=\overline{P(w)}\,P'(w) は C∞C^\infty 級で、P′P' が正則、P‾\overline{P} が反正則なので ∂f/∂wˉ=P′(w)‾P′(w)=∣P′(w)∣2\partial f/\partial\bar w=\overline{P'(w)}P'(w)=|P'(w)|^2 です。複素線積分に対する Green の公式(補題 4.2[コーシーの積分定理と積分公式])で、fx+ify=2 ∂f/∂wˉf_x+if_y=2\,\partial f/\partial\bar w に注意すると

∮ΓrP(w)‾ P′(w) dw=2i∬Ωr∣P′∣2 dA.\oint_{\Gamma_r}\overline{P(w)}\,P'(w)\,dw=2i\iint_{\Omega_r}|P'|^2\,dA .

左辺の計算。 w=g(reiθ)w=g(re^{i\theta}) に沿って P′(w)dw=d(P(w))P'(w)dw=d(P(w)) なので、左辺は ∫02π(P∘g)‾ ddθ(P∘g) dθ\int_0^{2\pi}\overline{(P\circ g)}\,\frac{d}{d\theta}(P\circ g)\,d\theta です。P∘g=∑cnrneinθP\circ g=\sum c_nr^ne^{in\theta} で、このローラン級数は円周上で絶対一様収束し、θ\theta で項別微分できます。直交関係 ∫02πei(n−m)θdθ=2πδnm\int_0^{2\pi}e^{i(n-m)\theta}d\theta=2\pi\delta_{nm} から左辺は 2πi∑nn∣cn∣2r2n2\pi i\sum_nn|c_n|^2r^{2n} です。両辺を 2i2i で割って恒等式を得ます。

不等式。 恒等式から ∑l≥1l∣c−l∣2r−2l≤∑n=1Nn∣cn∣2r2n\sum_{l\ge1}l|c_{-l}|^2r^{-2l}\le\sum_{n=1}^Nn|c_n|^2r^{2n} です。左辺の有限和 ∑l≤L\sum_{l\le L} を取って r↓1r\downarrow1、そのあと L→∞L\to\infty とすると主張が出ます。

定理 8.3(面積定理)✓

g(z)=z+b0+∑n≥1bnz−n∈Σg(z)=z+b_0+\sum_{n\ge1}b_nz^{-n}\in\Sigma ならば

∑n=1∞n ∣bn∣2≤1\sum_{n=1}^{\infty}n\,|b_n|^2\le1

である。さらに EgE_g の面積は π(1−∑n≥1n∣bn∣2)\pi\bigl(1-\sum_{n\ge1}n|b_n|^2\bigr) に等しい。

証明(定理 8.3)

P(w)=wP(w)=w とおくと P∘g=gP\circ g=g で、c1=1c_1=1、c0=b0c_0=b_0、c−n=bnc_{-n}=b_n です。補題 8.2 の最後の不等式がそのまま ∑nn∣bn∣2≤1⋅∣c1∣2=1\sum_nn|b_n|^2\le1\cdot|c_1|^2=1 を与えます。面積の式: 補題 8.2 の恒等式で P′=1P'=1 なので Ωr\Omega_r の面積は π(r2−∑n≥1n∣bn∣2r−2n)\pi\bigl(r^2-\sum_{n\ge1}n|b_n|^2r^{-2n}\bigr) です。C∖g(Sr)=Ωr‾\mathbb{C}\setminus g(S_r)=\overline{\Omega_r} で、g(D∗)=⋃r>1g(Sr)g(\mathbb{D}^*)=\bigcup_{r>1}g(S_r)(r↓1r\downarrow1 で増加)なので Eg=⋂r>1Ωr‾E_g=\bigcap_{r>1}\overline{\Omega_r}(減少する交わり)です。Γr\Gamma_r は面積 00 なので、面積は連続性(単調収束)で r↓1r\downarrow1 の極限 π(1−∑n∣bn∣2)\pi(1-\sum n|b_n|^2) になります。

系 8.4(b1b_1 の評価)✓

g∈Σg\in\Sigma ならば ∣b1∣≤1|b_1|\le1 で、等号が成り立つのは g(z)=z+b0+eiθ/zg(z)=z+b_0+e^{i\theta}/z のとき、そのときに限る。

証明(系 8.4)

定理 8.3 から ∣b1∣2≤∑n∣bn∣2≤1|b_1|^2\le\sum n|b_n|^2\le1 です。∣b1∣=1|b_1|=1 なら ∑n≥2n∣bn∣2≤1−∣b1∣2=0\sum_{n\ge2}n|b_n|^2\le1-|b_1|^2=0 なので bn=0b_n=0(n≥2n\ge2)、すなわち g=z+b0+b1/zg=z+b_0+b_1/z で ∣b1∣=1|b_1|=1 です。逆にこの形の gg は Σ\Sigma に属します。実際 ∣z∣,∣ζ∣>1|z|,|\zeta|>1、z≠ζz\ne\zeta のとき g(z)−g(ζ)=(z−ζ)(1−b1/(zζ))g(z)-g(\zeta)=(z-\zeta)\bigl(1-b_1/(z\zeta)\bigr) で、∣b1/(zζ)∣<1|b_1/(z\zeta)|<1 なので右辺は 00 になりません。

等号のときの g(D∗)g(\mathbb{D}^*) は、C\mathbb{C} から線分 {b0+2eiθ/2t:∣t∣≤1}\{b_0+2e^{i\theta/2}t:|t|\le1\} を除いたものです。像の補集合が「つぶれて」面積 00 になっています。

g∈Σg\in\Sigma の面積定理は g=Pg=P が 1 次式の場合に相当しました。より一般の多項式 PP を使うと、係数の間に無限個の不等式が出ます。そのための多項式を次で定義します。

補題 8.5(Faber 多項式)✓

g∈Σg\in\Sigma とする。各 k≥0k\ge0 に対し、次の性質をもつ kk 次のモニックな多項式 FkF_k(Faber 多項式、F0=1F_0=1)がただ一つ存在する:

Fk(g(ζ))=ζk+∑l≥1βkl ζ−l(∣ζ∣>1).F_k(g(\zeta))=\zeta^k+\sum_{l\ge1}\beta_{kl}\,\zeta^{-l}\qquad(|\zeta|>1).

さらに ∣z∣>1|z|>1、ζ∈D∗\zeta\in\mathbb{D}^* で

D(z,ζ):=g′(z)g(z)−g(ζ)−1z−ζ=∑k≥1(Fk(g(ζ))−ζk)z−k−1=∑k,l≥1βkl z−k−1ζ−lD(z,\zeta):=\frac{g'(z)}{g(z)-g(\zeta)}-\frac{1}{z-\zeta}=\sum_{k\ge1}\bigl(F_k(g(\zeta))-\zeta^k\bigr)z^{-k-1}=\sum_{k,l\ge1}\beta_{kl}\,z^{-k-1}\zeta^{-l}

が成り立つ(zz について D∗\mathbb{D}^* で正則。z=ζz=\zeta は除去可能特異点)。

証明(補題 8.5)

一意性。 gjg^j のローラン展開の ζ0\zeta^0 以上の部分を [gj]+[g^j]_+ とすると、これは jj 次のモニック多項式です。Fk=∑j≤kajwjF_k=\sum_{j\le k}a_jw^j なら Fk(g)=∑aj[gj]++(負べきの項)F_k(g)=\sum a_j[g^j]_++(\text{負べきの項}) なので、条件は ∑j≤kaj[gj]+=ζk\sum_{j\le k}a_j[g^j]_+=\zeta^k です。[g0]+,…,[gk]+[g^0]_+,\dots,[g^k]_+ は次数が 0,…,k0,\dots,k のモニック多項式で、kk 次以下の多項式全体の基底をなすので、この方程式は a0,…,aka_0,\dots,a_k をただ一つに決めます。

存在。 固定した ww について、∣z∣|z| が十分大きければ ∣g(z)∣>∣w∣|g(z)|>|w| で

g′(z)g(z)−w=∑j≥0wj g′(z) g(z)−j−1.\frac{g'(z)}{g(z)-w}=\sum_{j\ge0}w^j\,g'(z)\,g(z)^{-j-1}.

g′g−j−1=z−j−1+O(z−j−2)g'g^{-j-1}=z^{-j-1}+O(z^{-j-2}) なので、これを z−1z^{-1} のべきに展開すると z−k−1z^{-k-1} の係数は j≤kj\le k の項だけから来て、j=kj=k の係数は 11 です。つまり z−k−1z^{-k-1} の係数は ww の kk 次モニック多項式 φk(w)\varphi_k(w) です(φ0=1\varphi_0=1)。w=g(ζ)w=g(\zeta) とすると、∣z∣>∣ζ∣|z|>|\zeta| では 1z−ζ=∑ζkz−k−1\frac1{z-\zeta}=\sum\zeta^kz^{-k-1} なので、∣z∣|z| が十分大きいところで

D(z,ζ)=∑k≥0(φk(g(ζ))−ζk)z−k−1(φ0=1 で k=0 の項は 0).D(z,\zeta)=\sum_{k\ge0}\bigl(\varphi_k(g(\zeta))-\zeta^k\bigr)z^{-k-1}\quad(\varphi_0=1\text{ で }k=0\text{ の項は }0).

一方 D(⋅,ζ)D(\cdot,\zeta) は D∗\mathbb{D}^* で正則です。g(z)=g(ζ)g(z)=g(\zeta) は単射性から z=ζz=\zeta だけで、そこでは g′(z)g(z)−g(ζ)\frac{g'(z)}{g(z)-g(\zeta)} が留数 11 の 1 位の極(g′(ζ)≠0g'(\zeta)\ne0)をもち、−1z−ζ-\frac1{z-\zeta} と打ち消すからです。また z→∞z\to\infty で D=O(z−2)D=O(z^{-2}) です。ローラン展開の一意性から、上の展開は ∣z∣>1|z|>1 全体で成り立ちます。

φk∘g−ζk=O(1/ζ)\varphi_k\circ g-\zeta^k=O(1/\zeta) の確認。 D(z,ζ)D(z,\zeta) の z−k−1z^{-k-1} の係数は φk(g(ζ))−ζk=12πi∮∣z∣=ρ0D(z,ζ)zk dz\varphi_k(g(\zeta))-\zeta^k=\frac{1}{2\pi i}\oint_{|z|=\rho_0}D(z,\zeta)z^k\,dz(任意の ρ0>1\rho_0>1)です。∣ζ∣>ρ0|\zeta|>\rho_0 で ζ→∞\zeta\to\infty とすると、∣z∣=ρ0|z|=\rho_0 上一様に ∣g(ζ)∣→∞|g(\zeta)|\to\infty かつ ∣ζ∣→∞|\zeta|\to\infty なので D(z,ζ)→0D(z,\zeta)\to0 で、したがって φk(g(ζ))−ζk→0\varphi_k(g(\zeta))-\zeta^k\to0 です。この関数は D∗\mathbb{D}^* で正則で ∞\infty で 00 に近づくので、ζ−1\zeta^{-1} のべきだけで展開できます。よって Fk=φkF_k=\varphi_k が条件をみたし、DD の展開も得られます。

定義 8.6(Grunsky 係数)↗

g∈Σg\in\Sigma と k,l≥1k,l\ge1 に対し、補題 8.5 の βkl\beta_{kl} を使って γkl=βkl/k\gamma_{kl}=\beta_{kl}/k とおき、Grunsky 係数という。

たとえば F1(w)=w−b0F_1(w)=w-b_0 で F1(g(ζ))=ζ+∑lblζ−lF_1(g(\zeta))=\zeta+\sum_lb_l\zeta^{-l}、すなわち F1(g(ζ))−ζ=∑lblζ−lF_1(g(\zeta))-\zeta=\sum_lb_l\zeta^{-l} なので γ1l=bl\gamma_{1l}=b_l です。F2(w)=(w−b0)2−2b1F_2(w)=(w-b_0)^2-2b_1 で

F2(g(ζ))=(ζ+∑n≥1bnζ−n)2−2b1=ζ2+2b2ζ−1+(2b3+b12)ζ−2+⋯F_2(g(\zeta))=\Bigl(\zeta+\sum_{n\ge1}b_n\zeta^{-n}\Bigr)^2-2b_1=\zeta^2+2b_2\zeta^{-1}+(2b_3+b_1^2)\zeta^{-2}+\cdots

なので γ21=b2\gamma_{21}=b_2、γ22=b3+12b12\gamma_{22}=b_3+\frac12b_1^2 です。γ12=b2=γ21\gamma_{12}=b_2=\gamma_{21} のように、γkl\gamma_{kl} は対称になります(命題 8.9)。

定理 8.7(Grunsky の不等式)✓

g∈Σg\in\Sigma の Grunsky 係数 γkl\gamma_{kl} と、任意の N≥1N\ge1、複素数 λ1,…,λN\lambda_1,\dots,\lambda_N について

∑l=1∞l ∣∑k=1Nλkγkl∣2≤∑k=1N∣λk∣2k\sum_{l=1}^{\infty}l\,\Bigl|\sum_{k=1}^N\lambda_k\gamma_{kl}\Bigr|^2\le\sum_{k=1}^N\frac{|\lambda_k|^2}{k}

が成り立つ。したがって

∣∑k,l=1Nγklλkλl∣≤∑k=1N∣λk∣2k(Grunsky の不等式).\Bigl|\sum_{k,l=1}^N\gamma_{kl}\lambda_k\lambda_l\Bigr|\le\sum_{k=1}^N\frac{|\lambda_k|^2}{k}\qquad\text{(Grunsky の不等式).}
証明(定理 8.7)

P=∑k=1NλkkFkP=\sum_{k=1}^N\frac{\lambda_k}{k}F_k とおきます。補題 8.5 から Fk(g(ζ))=ζk+k∑lγklζ−lF_k(g(\zeta))=\zeta^k+k\sum_l\gamma_{kl}\zeta^{-l} なので

P(g(ζ))=∑k=1Nλkkζk+∑l≥1(∑k=1Nλkγkl)ζ−lP(g(\zeta))=\sum_{k=1}^N\frac{\lambda_k}{k}\zeta^k+\sum_{l\ge1}\Bigl(\sum_{k=1}^N\lambda_k\gamma_{kl}\Bigr)\zeta^{-l}

です。つまり 補題 8.2 の記号で cn=λn/nc_n=\lambda_n/n(1≤n≤N1\le n\le N)、c0=0c_0=0、c−l=∑kλkγklc_{-l}=\sum_k\lambda_k\gamma_{kl} です。補題の最後の不等式 ∑ll∣c−l∣2≤∑nn∣cn∣2=∑n∣λn∣2/n\sum_l l|c_{-l}|^2\le\sum_nn|c_n|^2=\sum_n|\lambda_n|^2/n が第 1 の式です。

第 2 の式は Cauchy–Schwarz の不等式で出ます。βl=∑kλkγkl\beta_l=\sum_k\lambda_k\gamma_{kl} とおくと

∣∑l=1Nλlβl∣≤(∑l=1N∣λl∣2l)1/2(∑l=1∞l∣βl∣2)1/2≤∑l=1N∣λl∣2l\Bigl|\sum_{l=1}^N\lambda_l\beta_l\Bigr|\le\Bigl(\sum_{l=1}^N\frac{|\lambda_l|^2}{l}\Bigr)^{1/2}\Bigl(\sum_{l=1}^\infty l|\beta_l|^2\Bigr)^{1/2}\le\sum_{l=1}^N\frac{|\lambda_l|^2}{l}

で、左辺は ∣∑k,l≤Nγklλkλl∣\bigl|\sum_{k,l\le N}\gamma_{kl}\lambda_k\lambda_l\bigr| です。

yk=λk/ky_k=\lambda_k/\sqrt k とおくと、第 1 の式は無限行列 G=(kl γkl)l,k≥1\mathcal{G}=(\sqrt{kl}\,\gamma_{kl})_{l,k\ge1} について ∥Gy∥ℓ22≤∥y∥ℓ22\|\mathcal{G}y\|_{\ell^2}^2\le\|y\|_{\ell^2}^2(有限個の成分だけが 00 でない yy)と読めます。

系 8.8(Grunsky 作用素のノルム)✓

g∈Σg\in\Sigma の Grunsky 作用素 G=(kl γkl)l,k≥1\mathcal{G}=(\sqrt{kl}\,\gamma_{kl})_{l,k\ge1} は ℓ2\ell^2 上の有界作用素に一意に拡張され、∥G∥≤1\|\mathcal{G}\|\le1 である。とくにすべての成分が ∣kl γkl∣≤1|\sqrt{kl}\,\gamma_{kl}|\le1 をみたす。

証明(系 8.8)

有限個の成分だけが 00 でない y∈ℓ2y\in\ell^2 の全体は稠密で、定理 8.7 から Gy∈ℓ2\mathcal{G}y\in\ell^2 かつ ∥Gy∥≤∥y∥\|\mathcal{G}y\|\le\|y\| です。稠密な部分空間上のノルム ≤1\le1 の線形写像は ℓ2\ell^2 全体へ一意に連続拡張されます。成分は標準基底 ek,ele_k,e_l で ⟨Gek,el⟩\langle\mathcal{G}e_k,e_l\rangle と書けるので 11 以下です。

この評価から、Grunsky 係数の 2 重級数が収束し、それが差商の対数になることがわかります。

命題 8.9(差商の対数展開と対称性)✓

g∈Σg\in\Sigma とする。∣z∣>1|z|>1、∣ζ∣>1|\zeta|>1 で

g(z)−g(ζ)z−ζ=exp⁡(−∑k,l≥1γkl z−kζ−l)\frac{g(z)-g(\zeta)}{z-\zeta}=\exp\Bigl(-\sum_{k,l\ge1}\gamma_{kl}\,z^{-k}\zeta^{-l}\Bigr)

が成り立つ(z=ζz=\zeta のときの左辺は g′(ζ)g'(\zeta) と解釈する)。右辺の 2 重級数は D∗×D∗\mathbb{D}^*\times\mathbb{D}^* で絶対かつ局所一様に収束し、γkl=γlk\gamma_{kl}=\gamma_{lk} である。

証明(命題 8.9)

系 8.8 から ∣γkl∣≤(kl)−1/2|\gamma_{kl}|\le(kl)^{-1/2} なので、∣z∣,∣ζ∣≥ρ>1|z|,|\zeta|\ge\rho>1 で ∑k,l∣γkl∣∣z∣−k∣ζ∣−l≤(∑kk−1/2ρ−k)2<∞\sum_{k,l}|\gamma_{kl}||z|^{-k}|\zeta|^{-l}\le\bigl(\sum_kk^{-1/2}\rho^{-k}\bigr)^2<\infty です。和を S(z,ζ)S(z,\zeta) とおくと、SS は D∗×D∗\mathbb{D}^*\times\mathbb{D}^* 上連続で、各変数について正則です。

ζ∈D∗\zeta\in\mathbb{D}^* を固定し、R(z)=g(z)−g(ζ)z−ζR(z)=\frac{g(z)-g(\zeta)}{z-\zeta} とおきます。RR は D∗\mathbb{D}^* で正則で(z=ζz=\zeta では g′(ζ)g'(\zeta))、単射性から零点をもたず、z→∞z\to\infty で 11 に近づきます。u=1/zu=1/z で見ると {∣u∣<1}\{|u|<1\} 上の零点をもたない正則関数なので、R′/RR'/R の原始関数として R=eTR=e^{T}、T(∞)=0T(\infty)=0 をみたす正則な TT が取れます。T′=R′/R=g′(z)g(z)−g(ζ)−1z−ζ=D(z,ζ)T'=R'/R=\frac{g'(z)}{g(z)-g(\zeta)}-\frac1{z-\zeta}=D(z,\zeta) です。一方、補題 8.5 の展開(βkl=kγkl\beta_{kl}=k\gamma_{kl})を項別に積分すると ∂zS(z,ζ)=−∑k,lkγklz−k−1ζ−l=−D(z,ζ)\partial_zS(z,\zeta)=-\sum_{k,l}k\gamma_{kl}z^{-k-1}\zeta^{-l}=-D(z,\zeta) です。よって T+ST+S は zz によらず、z→∞z\to\infty で 00 なので T=−ST=-S、すなわち R=e−SR=e^{-S} です。

対称性: RR は (z,ζ)(z,\zeta) について対称なので e−S(z,ζ)=e−S(ζ,z)e^{-S(z,\zeta)}=e^{-S(\zeta,z)} で、S(z,ζ)−S(ζ,z)∈2πiZS(z,\zeta)-S(\zeta,z)\in2\pi i\mathbb{Z} です。これは連結な D∗×D∗\mathbb{D}^*\times\mathbb{D}^* 上で連続なので定数で、(z,ζ)→(∞,∞)(z,\zeta)\to(\infty,\infty) で 00 に近づくから 00 です。S(z,ζ)=S(ζ,z)S(z,\zeta)=S(\zeta,z) の両辺の 2 重ローラン級数の係数を、∣z∣=∣ζ∣=ρ|z|=|\zeta|=\rho 上の積分で取り出して比べると γkl=γlk\gamma_{kl}=\gamma_{lk} です。

これで G\mathcal{G} は複素対称行列(klγkl\sqrt{kl}\gamma_{kl} は k,lk,l について対称)であることもわかります。

例 8.10(Σ に属することの十分条件と具体例)

g(z)=z+b0+∑n≥1bnz−ng(z)=z+b_0+\sum_{n\ge1}b_nz^{-n} が ∑n≥1n∣bn∣<1\sum_{n\ge1}n|b_n|<1 をみたすならば、g∈Σg\in\Sigma です。実際、z≠ζz\ne\zeta のとき

g(z)−g(ζ)z−ζ=1+∑n≥1bnz−n−ζ−nz−ζ=1−∑n≥1bn∑j=0n−1z−(n−j)ζ−(j+1)\frac{g(z)-g(\zeta)}{z-\zeta}=1+\sum_{n\ge1}b_n\frac{z^{-n}-\zeta^{-n}}{z-\zeta}=1-\sum_{n\ge1}b_n\sum_{j=0}^{n-1}z^{-(n-j)}\zeta^{-(j+1)}

で、∣z∣,∣ζ∣>1|z|,|\zeta|>1 ではこの和の絶対値は ∑n∣bn∣<1\sum n|b_n|<1 未満なので右辺は 00 になりません。

(1) g(z)=z+b/zg(z)=z+b/z(∣b∣≤1|b|\le1): ∑n∣bn∣=∣b∣\sum n|b_n|=|b| です。∣b∣<1|b|<1 では上のとおり g∈Σg\in\Sigma で、∣b∣=1|b|=1 でも差商は 1−b/(zζ)≠01-b/(z\zeta)\ne0(∣zζ∣>1|z\zeta|>1)なので g∈Σg\in\Sigma です。このとき差商の対数は log⁡(1−b/(zζ))=−∑mbmm(zζ)−m\log(1-b/(z\zeta))=-\sum_m\frac{b^m}{m}(z\zeta)^{-m} なので、命題 8.9 と比べて γmm=bm/m\gamma_{mm}=b^m/m、ほかの γkl=0\gamma_{kl}=0 です。G=diag⁡(b,b2,b3,… )\mathcal{G}=\operatorname{diag}(b,b^2,b^3,\dots) で ∥G∥=∣b∣≤1\|\mathcal{G}\|=|b|\le1 です。∣b∣=1|b|=1 のとき ∥G∥=1\|\mathcal{G}\|=1 で、これは EgE_g(線分)の面積が 00 の場合です。

(2) g(z)=z+0.1+0.4z+0.1z3g(z)=z+0.1+\dfrac{0.4}{z}+\dfrac{0.1}{z^3}: ∑n∣bn∣=0.4+0.3=0.7<1\sum n|b_n|=0.4+0.3=0.7<1 なので g∈Σg\in\Sigma です。∑n∣bn∣2=0.16+0.03=0.19\sum n|b_n|^2=0.16+0.03=0.19 なので EgE_g の面積は 0.81π0.81\pi(定理 8.3)、γ11=0.4\gamma_{11}=0.4、γ13=γ31=0.1\gamma_{13}=\gamma_{31}=0.1、γ22=b3+12b12=0.18\gamma_{22}=b_3+\frac12b_1^2=0.18 です。24×2424\times24 の切り落としでの数値計算では ∥G∥≈0.503\|\mathcal{G}\|\approx0.503 で、確かに 11 未満です。

例 8.11(b3+b12/2b_3 + b_1^2/2 の評価)

定理 8.7 で N=2N=2、(λ1,λ2)=(0,1)(\lambda_1,\lambda_2)=(0,1) とすると ∣γ22∣≤12|\gamma_{22}|\le\frac12、すなわち g∈Σg\in\Sigma ならば

∣b3+b122∣≤12\Bigl|b_3+\frac{b_1^2}{2}\Bigr|\le\frac12

です。g=z+b/zg=z+b/z(∣b∣≤1|b|\le1)では b3=0b_3=0 で ∣b2/2∣≤1/2|b^2/2|\le1/2 となり、等号は ∣b∣=1|b|=1 のときに成り立ちます。b1,b2,b3b_1,b_2,b_3 の間の不等式が 定理 8.3 だけから出る ∑n∣bn∣2≤1\sum n|b_n|^2\le1 より強い情報を含む例です。

注意 8.12

Grunsky の不等式は g∈Σg\in\Sigma の必要条件ですが、十分条件でもあります。D∗\mathbb{D}^* で正則な g(z)=z+b0+∑bnz−ng(z)=z+b_0+\sum b_nz^{-n} について、Grunsky の不等式がすべての NN と λk\lambda_k で成り立てば gg は単射です(Grunsky の定理)。さらに、gg が kk 擬等角写像(0≤k<10\le k<1)として C^\hat{\mathbb{C}} 全体へ拡張されるなら ∥G∥≤k\|\mathcal{G}\|\le k であることも知られています(Kühnau)。ここではどちらも証明せず(主張のみ)、文献に委ねます(Pommerenke, Univalent Functions, 第 3 章)。この節で証明したのは、必要性の方向(単葉なら不等式が成り立つ)です。

8.4. 円板の単葉関数と Koebe の 1/4 定理

Section titled “8.4. 円板の単葉関数と Koebe の 1/4 定理”

外部の単葉関数についての面積定理は、変数の反転と平方根を取る操作で、単位円板上の単葉関数の情報に翻訳できます。リーマンの写像定理の写像 D→Ω\mathbb{D}\to\Omega がどれだけ「縮むか」を下から押さえるのが、この小節の Koebe の 1/4 定理です。

定義 8.13(正規化された単葉関数のクラス S)↗

D\mathbb{D} 上の正則関数 ff で、D\mathbb{D} 上で単射であり、f(0)=0f(0)=0、f′(0)=1f'(0)=1 をみたすもの全体を SS と書く。f∈Sf\in S のテイラー展開(定理 5.2[正則関数の強力な性質])を

f(z)=z+a2z2+a3z3+⋯(∣z∣<1)f(z)=z+a_2z^2+a_3z^3+\cdots\qquad(|z|<1)

と書く。

補題 8.14(平方根変換)✓

f∈Sf\in S とする。このとき D\mathbb{D} 上の正則関数 hh で、奇関数(h(−z)=−h(z)h(-z)=-h(z))かつ単射であり、h(z)2=f(z2)h(z)^2=f(z^2)、h(z)=z+a22z3+O(z5)h(z)=z+\frac{a_2}{2}z^3+O(z^5) をみたすものがある。さらに g(ζ)=1/h(1/ζ)g(\zeta)=1/h(1/\zeta)(∣ζ∣>1|\zeta|>1)は Σ\Sigma に属し(定義 8.1)、その展開は

g(ζ)=ζ−a22 ζ−1+∑m≥2d2m ζ1−2mg(\zeta)=\zeta-\frac{a_2}{2}\,\zeta^{-1}+\sum_{m\ge2}d_{2m}\,\zeta^{1-2m}

の形をしている。すなわち b0=0b_0=0、b1=−a2/2b_1=-a_2/2 である。

証明(補題 8.14)

零点のない商。 f(w)=w+a2w2+⋯f(w)=w+a_2w^2+\cdots なので、φ(w)=1+a2w+a3w2+⋯\varphi(w)=1+a_2w+a_3w^2+\cdots は ff と同じく ∣w∣<1|w|<1 で収束するべき級数です。部分和(多項式)は D\mathbb{D} 上で局所一様に収束するので、φ\varphi は D\mathbb{D} 上正則で(定理 5.2[偏角の原理と Rouché の定理])、w≠0w\ne0 では φ(w)=f(w)/w\varphi(w)=f(w)/w です。w≠0w\ne0 なら単射性から f(w)≠f(0)=0f(w)\ne f(0)=0、また φ(0)=1\varphi(0)=1 なので、φ\varphi は D\mathbb{D} に零点をもちません。

平方根を作る。 φ′\varphi' は正則(系 3.3[正則関数の強力な性質])なので φ′/φ\varphi'/\varphi は D\mathbb{D} 上正則で、テイラー展開 φ′/φ=∑n≥0enwn\varphi'/\varphi=\sum_{n\ge0}e_nw^n が D\mathbb{D} 全体で成り立ち、∣w∣≤ρ<1|w|\le\rho<1 で絶対一様に収束します(定理 5.2[正則関数の強力な性質])。Λ(w)=∑n≥0enn+1wn+1\Lambda(w)=\sum_{n\ge0}\frac{e_n}{n+1}w^{n+1} と置くと、∣w∣≤ρ|w|\le\rho で ∣enn+1wn+1∣≤∣en∣ρn\bigl|\frac{e_n}{n+1}w^{n+1}\bigr|\le|e_n|\rho^n なのでこの級数も ∣w∣≤ρ|w|\le\rho で一様に収束し、部分和の導関数は ∑n≤Nenwn\sum_{n\le N}e_nw^n です。定理 5.2[偏角の原理と Rouché の定理] から Λ\Lambda は D\mathbb{D} 上正則で Λ′=φ′/φ\Lambda'=\varphi'/\varphi、Λ(0)=0\Lambda(0)=0 です。すると (φe−Λ)′=(φ′−φΛ′)e−Λ=0(\varphi e^{-\Lambda})'=(\varphi'-\varphi\Lambda')e^{-\Lambda}=0 なので、命題 5.8[正則関数とコーシー・リーマンの関係式] から φe−Λ\varphi e^{-\Lambda} は定数 φ(0)=1\varphi(0)=1 です。q=eΛ/2q=e^{\Lambda/2} と置けば、qq は D\mathbb{D} 上正則で零点をもたず、q2=φq^2=\varphi、q(0)=1q(0)=1、2q(0)q′(0)=φ′(0)=a22q(0)q'(0)=\varphi'(0)=a_2 より q′(0)=a2/2q'(0)=a_2/2 です。

hh の性質。 h(z)=z q(z2)h(z)=z\,q(z^2) と置きます。h(z)2=z2φ(z2)=f(z2)h(z)^2=z^2\varphi(z^2)=f(z^2)(z≠0z\ne0。z=0z=0 では両辺 00)、h(−z)=−h(z)h(-z)=-h(z) で、h(z)=0h(z)=0 となるのは z=0z=0 のときだけです。h(z1)=h(z2)h(z_1)=h(z_2) なら f(z12)=f(z22)f(z_1^2)=f(z_2^2) なので z12=z22z_1^2=z_2^2、すなわち z1=±z2z_1=\pm z_2 です。z1=−z2z_1=-z_2 なら h(z1)=−h(z2)=−h(z1)h(z_1)=-h(z_2)=-h(z_1) から h(z1)=0h(z_1)=0、よって z1=z2=0z_1=z_2=0 です。いずれにしても z1=z2z_1=z_2 で、hh は単射です。展開は q(w)=1+a22w+O(w2)q(w)=1+\frac{a_2}{2}w+O(w^2) から出ます。

反転。 χ=1/q\chi=1/q は D\mathbb{D} 上正則で、χ(0)=1\chi(0)=1、χ′(0)=−q′(0)/q(0)2=−a2/2\chi'(0)=-q'(0)/q(0)^2=-a_2/2 です。ψ(u)=χ(u2)\psi(u)=\chi(u^2) は D\mathbb{D} 上正則な偶関数で、そのテイラー係数を dnd_n とすると、ψ(u)=ψ(−u)\psi(u)=\psi(-u) と展開の一意性(定理 5.2[正則関数の強力な性質])から奇数番の dnd_n は 00 です。また ψ′′(u)=2χ′(u2)+4u2χ′′(u2)\psi''(u)=2\chi'(u^2)+4u^2\chi''(u^2) より d2=ψ′′(0)/2=χ′(0)=−a2/2d_2=\psi''(0)/2=\chi'(0)=-a_2/2、d0=1d_0=1 です。∣ζ∣>1|\zeta|>1 なら u=1/ζ∈D∖{0}u=1/\zeta\in\mathbb{D}\setminus\{0\} で h(u)=u q(u2)=u/ψ(u)≠0h(u)=u\,q(u^2)=u/\psi(u)\ne0 なので

g(ζ)=1h(1/ζ)=ζ ψ(1/ζ)=∑m≥0d2m ζ1−2m=ζ−a22ζ−1+∑m≥2d2mζ1−2mg(\zeta)=\frac{1}{h(1/\zeta)}=\zeta\,\psi(1/\zeta)=\sum_{m\ge0}d_{2m}\,\zeta^{1-2m}=\zeta-\frac{a_2}{2}\zeta^{-1}+\sum_{m\ge2}d_{2m}\zeta^{1-2m}

です。gg は D∗\mathbb{D}^* 上で正則(正則関数の合成と逆数)で、hh と ζ↦1/ζ\zeta\mapsto1/\zeta の単射性から単射です。よって g∈Σg\in\Sigma です。

定理 8.15(Bieberbach の第 2 係数評価)✓

f∈Sf\in S ならば ∣a2∣≤2|a_2|\le2 である。等号が成り立つのは、ある実数 θ\theta について f(z)=z(1−eiθz)2f(z)=\dfrac{z}{(1-e^{i\theta}z)^2} となるとき、そのときに限る。

証明(定理 8.15)

補題 8.14 の g∈Σg\in\Sigma は b1=−a2/2b_1=-a_2/2 をもつので、系 8.4 から ∣a2∣/2=∣b1∣≤1|a_2|/2=|b_1|\le1 です。

等号 ∣a2∣=2|a_2|=2 のとき、∣b1∣=1|b_1|=1 なので 系 8.4 の等号条件と b0=0b_0=0 から g(ζ)=ζ+b1/ζg(\zeta)=\zeta+b_1/\zeta です。したがって u∈D∖{0}u\in\mathbb{D}\setminus\{0\} で h(u)=1/g(1/u)=u/(1+b1u2)h(u)=1/g(1/u)=u/(1+b_1u^2)(u=0u=0 でも両辺 00)で、f(z2)=h(z)2=z2/(1+b1z2)2f(z^2)=h(z)^2=z^2/(1+b_1z^2)^2 です。D\mathbb{D} の任意の点 ww は D\mathbb{D} のある点 zz の 22 乗なので、f(w)=w/(1+b1w)2f(w)=w/(1+b_1w)^2 が D\mathbb{D} 全体で成り立ちます。b1=−a2/2b_1=-a_2/2 を −eiθ-e^{i\theta} と書けば主張の形です。

逆に c=eiθc=e^{i\theta}、kθ(z)=z/(1−cz)2k_\theta(z)=z/(1-cz)^2 と置きます。∣z∣<1|z|<1 で 1−cz≠01-cz\ne0 なので kθk_\theta は D\mathbb{D} 上正則で、kθ(0)=0k_\theta(0)=0 です。kθ(z1)=kθ(z2)k_\theta(z_1)=k_\theta(z_2) なら分母を払って z1(1−cz2)2−z2(1−cz1)2=(z1−z2)(1−c2z1z2)=0z_1(1-cz_2)^2-z_2(1-cz_1)^2=(z_1-z_2)(1-c^2z_1z_2)=0 で、∣c2z1z2∣<1|c^2z_1z_2|<1 から z1=z2z_1=z_2 なので単射です。kθ′(z)=(1−cz)−2+2cz(1−cz)−3k_\theta'(z)=(1-cz)^{-2}+2cz(1-cz)^{-3}、kθ′′(z)=4c(1−cz)−3+6c2z(1−cz)−4k_\theta''(z)=4c(1-cz)^{-3}+6c^2z(1-cz)^{-4} から kθ′(0)=1k_\theta'(0)=1、a2=kθ′′(0)/2=2ca_2=k_\theta''(0)/2=2c です。よって kθ∈Sk_\theta\in S で ∣a2∣=2|a_2|=2 です(具体的な像は下の例で見ます)。

定理 8.16(Koebe の 1/4 定理)✓

f∈Sf\in S ならば、f(D)f(\mathbb{D}) は円板 D(0,1/4)={w:∣w∣<1/4}D(0,1/4)=\{w:|w|<1/4\} を含む。

証明(定理 8.16)

w∉f(D)w\notin f(\mathbb{D}) とし、∣w∣≥1/4|w|\ge1/4 を示します。0=f(0)∈f(D)0=f(0)\in f(\mathbb{D}) なので w≠0w\ne0 です。T(ξ)=wξw−ξT(\xi)=\dfrac{w\xi}{w-\xi} は C∖{w}\mathbb{C}\setminus\{w\} 上で正則かつ単射です(T(ξ1)=T(ξ2)T(\xi_1)=T(\xi_2) を分母を払って整理すると w2(ξ1−ξ2)=0w^2(\xi_1-\xi_2)=0)。ff は値 ww を取らないので、F=T∘f=wfw−fF=T\circ f=\dfrac{wf}{w-f} は D\mathbb{D} 上で正則かつ単射で、F(0)=0F(0)=0 です。υ=1/(1−f/w)\upsilon=1/(1-f/w) と置くと F=fυF=f\upsilon、υ(0)=1\upsilon(0)=1、υ′(0)=f′(0)/w=1/w\upsilon'(0)=f'(0)/w=1/w なので

F′(0)=f′(0)υ(0)=1,F′′(0)2=f′′(0)υ(0)+2f′(0)υ′(0)2=a2+1wF'(0)=f'(0)\upsilon(0)=1,\qquad \frac{F''(0)}{2}=\frac{f''(0)\upsilon(0)+2f'(0)\upsilon'(0)}{2}=a_2+\frac1w

です(f(0)=0f(0)=0 を使いました)。よって F∈SF\in S で、その第 2 係数は a2+1/wa_2+1/w です。定理 8.15 を ff と FF に使うと

1∣w∣≤∣a2+1w∣+∣a2∣≤2+2=4,\frac{1}{|w|}\le\Bigl|a_2+\frac1w\Bigr|+|a_2|\le2+2=4,

すなわち ∣w∣≥1/4|w|\ge1/4 です。

系 8.17(Koebe の 1/4 定理(正規化しない形))✓

ff が D\mathbb{D} 上で正則かつ単射ならば、f(D)f(\mathbb{D}) は円板 D(f(0),∣f′(0)∣/4)D\bigl(f(0),|f'(0)|/4\bigr) を含む。とくに f(0)f(0) から f(D)f(\mathbb{D}) の補集合までの距離は ∣f′(0)∣/4|f'(0)|/4 以上である。

証明(系 8.17)

単射な正則関数の導関数は零点をもたないので f′(0)≠0f'(0)\ne0 です(系 6.3[偏角の原理と Rouché の定理])。f0=(f−f(0))/f′(0)f_0=(f-f(0))/f'(0) は SS に属するので、定理 8.16 から f0(D)⊃D(0,1/4)f_0(\mathbb{D})\supset D(0,1/4) です。f(D)=f(0)+f′(0)f0(D)f(\mathbb{D})=f(0)+f'(0)f_0(\mathbb{D}) なので主張が出ます。

例 8.18(Koebe 関数:1/4 と ∣a2∣≤2|a_2| ≤ 2 は最良)

k(z)=z(1−z)2=∑n≥1nznk(z)=\dfrac{z}{(1-z)^2}=\sum_{n\ge1}nz^n を Koebe 関数といいます(1/(1−z)2=∑n≥0(n+1)zn1/(1-z)^2=\sum_{n\ge0}(n+1)z^n から)。

k(z)=14[(1+z1−z)2−1]k(z)=\frac14\Bigl[\Bigl(\frac{1+z}{1-z}\Bigr)^2-1\Bigr]

と書けます(右辺を通分すると分子が (1+z)2−(1−z)2=4z(1+z)^2-(1-z)^2=4z)。M(z)=1+z1−zM(z)=\frac{1+z}{1-z} について Re⁡M(z)=1−∣z∣2∣1−z∣2\operatorname{Re}M(z)=\frac{1-|z|^2}{|1-z|^2} なので MM は D\mathbb{D} を右半平面 {Re⁡ξ>0}\{\operatorname{Re}\xi>0\} に写し、逆写像 ξ↦(ξ−1)/(ξ+1)\xi\mapsto(\xi-1)/(\xi+1) は右半平面を D\mathbb{D} に写す(Re⁡ξ>0  ⟺  ∣ξ−1∣<∣ξ+1∣\operatorname{Re}\xi>0\iff|\xi-1|<|\xi+1|)ので、MM は右半平面への全単射です。ξ↦ξ2\xi\mapsto\xi^2 は右半平面上で単射で(ξ12=ξ22\xi_1^2=\xi_2^2 なら ξ1=±ξ2\xi_1=\pm\xi_2 で、−ξ2-\xi_2 は右半平面にない)、像は C∖(−∞,0]\mathbb{C}\setminus(-\infty,0] です(00 でも負の実数でもない複素数は、実部が正の平方根をただ 1 つもち、負の実数と 00 の平方根は虚軸上にある)。したがって kk は D\mathbb{D} から C∖(−∞,−1/4]\mathbb{C}\setminus(-\infty,-1/4] への全単射で、k∈Sk\in S、a2=2a_2=2 です。

−1/4-1/4 は k(D)k(\mathbb{D}) に属さないので、定理 8.16 の半径 1/41/4 はこれ以上大きくできません。回転 kθ(z)=e−iθk(eiθz)=z(1−eiθz)2k_\theta(z)=e^{-i\theta}k(e^{i\theta}z)=\dfrac{z}{(1-e^{i\theta}z)^2} も SS に属し、第 2 係数は 2eiθ2e^{i\theta} です。これが 定理 8.15 の等号の場合です。

注意 8.19(Bieberbach 予想)

Koebe 関数の係数は an=na_n=n です。Bieberbach(1916)は f∈Sf\in S について ∣an∣≤n|a_n|\le n を予想し、n=2n=2 の場合を上のように証明しました。一般の nn の場合は de Branges(1985)が Löwner の微分方程式を使って証明しました。この記事ではその証明は扱いません(文献: Pommerenke, Univalent Functions, 第 1–2 章; L. de Branges, “A proof of the Bieberbach conjecture”, Acta Math. 154 (1985), 137–152)。

演習 9.1易

恒等写像でないメビウス変換 TT の C^\hat{\mathbb{C}} における不動点(T(z)=zT(z)=z を満たす zz)は、たかだか 2 個であることを示してください。またこれを用いて、定理 4.4 の一意性の部分に別証明を与えてください。

解答

T(z)=az+bcz+dT(z) = \dfrac{az+b}{cz+d}、ad−bc≠0ad-bc \neq 0、T≠idT \neq \mathrm{id} とします。

場合 1:c≠0c \neq 0。 このとき T(∞)=a/c≠∞T(\infty) = a/c \neq \infty なので ∞\infty は不動点ではありません。有限な不動点は az+bcz+d=z\dfrac{az+b}{cz+d} = z、すなわち

cz2+(d−a)z−b=0cz^2 + (d-a)z - b = 0

の解です。c≠0c \neq 0 なのでこれは真の 2 次方程式で、解はたかだか 2 個です。

場合 2:c=0c = 0。 このとき ad≠0ad \neq 0 で T(z)=αz+βT(z) = \alpha z + \beta(α=a/d≠0\alpha = a/d \neq 0、β=b/d\beta = b/d)と書け、∞\infty は不動点です。有限な不動点は αz+β=z\alpha z + \beta = z の解です。α≠1\alpha \neq 1 なら z=β/(1−α)z = \beta/(1-\alpha) のただ 1 個で、不動点は合計 2 個。α=1\alpha = 1 かつ β≠0\beta \neq 0 なら有限な不動点はなく、合計 1 個。α=1\alpha = 1 かつ β=0\beta = 0 は T=idT = \mathrm{id} で除外されています。

いずれの場合もたかだか 2 個です。

一意性の別証明。 T1,T2T_1, T_2 がともに zj↦wjz_j \mapsto w_j(j=1,2,3j=1,2,3)を満たすとすると、T2−1∘T1T_2^{-1}\circ T_1 はメビウス変換(命題 4.2)で、相異なる 3 点 z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 をすべて固定します。上で示したことから、不動点を 3 個以上持つメビウス変換は恒等写像しかないので T2−1∘T1=idT_2^{-1}\circ T_1 = \mathrm{id}、すなわち T1=T2T_1 = T_2 です。

演習 9.2標準

帯 S={z:0<Im⁡z<π}S = \{z : 0 < \operatorname{Im}z < \pi\} から単位円板 D\mathbb{D} への双正則写像を 1 つ具体的に構成し、それが 定理 6.1 の正規化条件を z0=iπ/2z_0 = i\pi/2 に対して満たすことを確かめてください。

解答

例 3.5 より z↦ezz \mapsto e^z は SS から H\mathbb{H} への双正則写像、例 4.7 より C(w)=w−iw+iC(w) = \dfrac{w-i}{w+i} は H\mathbb{H} から D\mathbb{D} への双正則写像です。双正則写像の合成は双正則なので

f(z)=ez−iez+if(z) = \frac{e^{z}-i}{e^{z}+i}

は SS から D\mathbb{D} への双正則写像です。

z0=iπ/2z_0 = i\pi/2 では ez0=eiπ/2=ie^{z_0} = e^{i\pi/2} = i なので f(z0)=i−ii+i=0f(z_0) = \dfrac{i-i}{i+i} = 0 で、第 1 の条件を満たします。

微分を計算します。w=ezw = e^z とおくと dCdw=(w+i)−(w−i)(w+i)2=2i(w+i)2\dfrac{dC}{dw} = \dfrac{(w+i)-(w-i)}{(w+i)^2} = \dfrac{2i}{(w+i)^2}、dwdz=ez\dfrac{dw}{dz} = e^z なので、連鎖律より

f′(z)=2i ez(ez+i)2,f′ ⁣(iπ2)=2i⋅i(i+i)2=−2−4=12>0.f'(z) = \frac{2i\,e^{z}}{(e^{z}+i)^{2}}, \qquad f'\!\left(\frac{i\pi}{2}\right) = \frac{2i\cdot i}{(i+i)^2} = \frac{-2}{-4} = \frac12 > 0.

よって第 2 の条件も満たします。定理 6.1 の一意性から、この ff が (S,iπ/2)(S, i\pi/2) に対するリーマン写像そのものです。

演習 9.3標準

上半平面の自己同型群が

Aut(H)={z↦az+bcz+d : a,b,c,d∈R, ad−bc>0}\mathrm{Aut}(\mathbb{H}) = \left\{ z\mapsto \frac{az+b}{cz+d} \ :\ a,b,c,d\in\mathbb{R},\ ad-bc > 0\right\}

であることを示してください。

解答

(⊇\supseteq) a,b,c,da,b,c,d を実数、ad−bc>0ad-bc>0 とし、T(z)=(az+b)/(cz+d)T(z)=(az+b)/(cz+d) とします。分母を実数化すると

T(z)=(az+b)(cz+d)‾∣cz+d∣2=ac∣z∣2+adz+bczˉ+bd∣cz+d∣2T(z) = \frac{(az+b)\overline{(cz+d)}}{|cz+d|^2} = \frac{ac|z|^2 + adz + bc\bar{z} + bd}{|cz+d|^2}

で、分子の虚部は adIm⁡z+bcIm⁡zˉ=(ad−bc)Im⁡zad\operatorname{Im}z + bc\operatorname{Im}\bar{z} = (ad-bc)\operatorname{Im}z です(ac∣z∣2ac|z|^2 と bdbd は実数)。よって

Im⁡T(z)=(ad−bc)Im⁡z∣cz+d∣2.\operatorname{Im}T(z) = \frac{(ad-bc)\operatorname{Im}z}{|cz+d|^2}.

ad−bc>0ad-bc>0 なので Im⁡z>0⇒Im⁡T(z)>0\operatorname{Im}z>0 \Rightarrow \operatorname{Im}T(z)>0、つまり T(H)⊆HT(\mathbb{H})\subseteq\mathbb{H} です。逆変換 T−1T^{-1} の係数 d,−b,−c,ad, -b, -c, a も実数で行列式は同じ ad−bc>0ad-bc>0 ですから、同じ理由で T−1(H)⊆HT^{-1}(\mathbb{H})\subseteq\mathbb{H}。したがって T∈Aut(H)T \in \mathrm{Aut}(\mathbb{H}) です。

(⊆\subseteq) f∈Aut(H)f\in\mathrm{Aut}(\mathbb{H}) とします。ケーリー変換 CC(例 4.7)を使うと g=C∘f∘C−1∈Aut(D)g = C\circ f\circ C^{-1} \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) で、定理 5.3 より gg はメビウス変換です。よって f=C−1∘g∘Cf = C^{-1}\circ g\circ C もメビウス変換です(命題 4.2 の群構造)。

ff は C^\hat{\mathbb{C}} の同相写像で f(H)=Hf(\mathbb{H})=\mathbb{H} なので、境界も境界へ写り f(R^)=R^f(\hat{\mathbb{R}}) = \hat{\mathbb{R}} です。そこで x1=f−1(0)x_1 = f^{-1}(0)、x2=f−1(1)x_2 = f^{-1}(1)、x3=f−1(∞)x_3 = f^{-1}(\infty) とおくと、これらは R^\hat{\mathbb{R}} の相異なる 3 点です。ff は x1,x2,x3x_1,x_2,x_3 を 0,1,∞0,1,\infty へ写すので、定理 4.4 の一意性から ff は 定義 4.5 の S(z)=(z,x1,x2,x3)S(z) = (z,x_1,x_2,x_3) に一致します。この SS の係数は x1,x2,x3x_1,x_2,x_3 の有理式で、xjx_j が実数(または ∞\infty)なのですべて実数にとれます。

最後に符号です。上で導いた式に z=iz = i を代入すると Im⁡f(i)=ad−bc∣ci+d∣2\operatorname{Im}f(i) = \dfrac{ad-bc}{|ci+d|^2} で、f(i)∈Hf(i)\in\mathbb{H} より左辺は正、よって ad−bc>0ad-bc>0 です。

なお係数を ad−bc=1ad-bc=1 と正規化すれば(全体を ad−bc\sqrt{ad-bc} で割る)、Aut(H)≅PSL2(R)=SL2(R)/{±I}\mathrm{Aut}(\mathbb{H}) \cong PSL_2(\mathbb{R}) = SL_2(\mathbb{R})/\{\pm I\} が得られます。

演習 9.4難

(シュワルツ・ピックの補題)f:D→Df : \mathbb{D}\to\mathbb{D} を正則とする。任意の z1,z2∈Dz_1, z_2 \in \mathbb{D} に対し

∣f(z1)−f(z2)1−f(z2)‾ f(z1)∣≤∣z1−z21−zˉ2z1∣\left|\frac{f(z_1)-f(z_2)}{1-\overline{f(z_2)}\,f(z_1)}\right| \le \left|\frac{z_1-z_2}{1-\bar{z}_2 z_1}\right|

が成り立つことを示してください。さらに z1→z2z_1 \to z_2 の極限をとって、微分形

∣f′(z)∣1−∣f(z)∣2≤11−∣z∣2(z∈D)\frac{|f'(z)|}{1-|f(z)|^2} \le \frac{1}{1-|z|^2} \qquad (z\in\mathbb{D})

を導いてください。

解答

a=z2∈Da = z_2 \in \mathbb{D} を固定し、b=f(a)∈Db = f(a) \in \mathbb{D} とおきます。§5 で導入した φa(z)=z−a1−aˉz\varphi_a(z) = \dfrac{z-a}{1-\bar{a}z} を用いて

g=φb∘f∘φ−ag = \varphi_b \circ f \circ \varphi_{-a}

と定めます。φ−a=φa−1:D→D\varphi_{-a} = \varphi_a^{-1} : \mathbb{D}\to\mathbb{D}、f:D→Df:\mathbb{D}\to\mathbb{D}、φb:D→D\varphi_b:\mathbb{D}\to\mathbb{D} はいずれも D\mathbb{D} を D\mathbb{D} の中へ写す正則写像なので、g:D→Dg : \mathbb{D}\to\mathbb{D} は正則です。さらに φ−a(0)=a\varphi_{-a}(0) = a より

g(0)=φb(f(a))=φb(b)=0g(0) = \varphi_b(f(a)) = \varphi_b(b) = 0

です。したがって 補題 5.1 が適用でき、∣g(w)∣≤∣w∣|g(w)| \le |w|(w∈Dw\in\mathbb{D})を得ます。

ここで w=φa(z1)w = \varphi_a(z_1) とおくと φ−a(w)=z1\varphi_{-a}(w) = z_1 なので g(w)=φb(f(z1))g(w) = \varphi_b(f(z_1)) で、不等式は

∣φf(z2)(f(z1))∣≤∣φz2(z1)∣,すなわち∣f(z1)−f(z2)1−f(z2)‾f(z1)∣≤∣z1−z21−zˉ2z1∣\left|\varphi_{f(z_2)}\bigl(f(z_1)\bigr)\right| \le \left|\varphi_{z_2}(z_1)\right|, \qquad\text{すなわち}\qquad \left|\frac{f(z_1)-f(z_2)}{1-\overline{f(z_2)}f(z_1)}\right| \le \left|\frac{z_1-z_2}{1-\bar{z}_2z_1}\right|

となります。これが求める不等式です。

微分形。 z2=zz_2 = z を固定し、両辺を ∣z1−z∣|z_1 - z| で割ります。左辺は

∣f(z1)−f(z)∣∣z1−z∣⋅1∣1−f(z)‾f(z1)∣→ z1→z ∣f′(z)∣⋅11−∣f(z)∣2\frac{|f(z_1)-f(z)|}{|z_1-z|}\cdot\frac{1}{\left|1-\overline{f(z)}f(z_1)\right|} \xrightarrow{\ z_1\to z\ } |f'(z)|\cdot\frac{1}{1-|f(z)|^2}

(ff の zz での微分可能性と、ff の連続性から f(z1)→f(z)f(z_1)\to f(z)、および 1−∣f(z)∣2>01-|f(z)|^2 > 0 を使いました)。右辺は 1∣1−zˉz1∣→11−∣z∣2\dfrac{1}{|1-\bar{z}z_1|} \to \dfrac{1}{1-|z|^2} です。よって

∣f′(z)∣1−∣f(z)∣2≤11−∣z∣2\frac{|f'(z)|}{1-|f(z)|^2}\le\frac{1}{1-|z|^2}

を得ます。これは、円板上の計量 2∣dz∣1−∣z∣2\dfrac{2|dz|}{1-|z|^2}(ポアンカレ計量)に関して、D\mathbb{D} の任意の正則自己写像が距離を伸ばさないことを意味します。定理 5.3 の元はこの不等式で等号を与え、ポアンカレ計量の等長変換になっています。

演習 9.5易

g(z)=z+b/zg(z)=z+b/z(0<b<10<b<1 は実数)について C∖g(D∗)\mathbb{C}\setminus g(\mathbb{D}^*) を求め、その面積が 定理 8.3 の式 π(1−∑n∣bn∣2)\pi(1-\sum n|b_n|^2) と一致することを確かめよ。

解答

g(eis)=(1+b)cos⁡s+i(1−b)sin⁡sg(e^{is})=(1+b)\cos s+i(1-b)\sin s なので、Γ1\Gamma_1 は半軸 1+b1+b、1−b1-b の楕円です。gg は D∗\mathbb{D}^* から楕円の外部への等角写像(例 8.10 から単射、∣g∣→∞|g|\to\infty)なので、補集合は閉楕円板で、面積は π(1+b)(1−b)=π(1−b2)\pi(1+b)(1-b)=\pi(1-b^2) です。b1=bb_1=b のほか bn=0b_n=0 なので π(1−1⋅b2)\pi(1-1\cdot b^2) と一致します。

演習 9.6標準

g(z)=z+b/zg(z)=z+b/z(∣b∣≤1|b|\le1)の Faber 多項式 FkF_k を k=1,2,3k=1,2,3 について求め、Grunsky 係数が γmm=bm/m\gamma_{mm}=b^m/m、γkl=0\gamma_{kl}=0(k≠lk\ne l)であることを 補題 8.5 から確かめよ。

解答

ζ+bζ−1=g(ζ)\zeta+b\zeta^{-1}=g(\zeta) から、F1=wF_1=w、F2=w2−2bF_2=w^2-2b、F3=w3−3bwF_3=w^3-3bw が条件 Fk(g(ζ))=ζk+bkζ−kF_k(g(\zeta))=\zeta^k+b^k\zeta^{-k} をみたします。実際 g2=ζ2+2b+b2ζ−2g^2=\zeta^2+2b+b^2\zeta^{-2} で F2(g)=ζ2+b2ζ−2F_2(g)=\zeta^2+b^2\zeta^{-2}、g3=ζ3+3bζ+3b2ζ−1+b3ζ−3g^3=\zeta^3+3b\zeta+3b^2\zeta^{-1}+b^3\zeta^{-3} で F3(g)=g3−3bg=ζ3+b3ζ−3F_3(g)=g^3-3bg=\zeta^3+b^3\zeta^{-3} です(k=1k=1 は F1(g)=ζ+bζ−1F_1(g)=\zeta+b\zeta^{-1})。これらはモニックな kk 次式で、補題 8.5 の一意性からこれが Faber 多項式です。したがって βkl=bkδkl\beta_{kl}=b^k\delta_{kl}、γkl=βkl/k=bkkδkl\gamma_{kl}=\beta_{kl}/k=\frac{b^k}{k}\delta_{kl} です(これは 例 8.10 の (1) と一致します)。

  • L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979 — 第 3 章(等角性・一次分数変換)と第 6 章(等角写像とリーマンの写像定理、円環の等角同値)。
  • W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1987 — 第 14 章 Conformal Mapping(単連結性の同値条件の一覧、写像定理、カラテオドリの定理)。
  • E. M. Stein and R. Shakarchi, Complex Analysis, Princeton University Press, 2003 — 第 8 章 Conformal Mappings(具体的な写像の辞書とモンテルの定理を用いた証明)。
  • 高橋礼司『新版 複素解析』東京大学出版会、1990 — 等角写像とリーマンの写像定理の章。
  • B. Riemann, “Grundlagen für eine allgemeine Theorie der Functionen einer veränderlichen complexen Grösse”, Inauguraldissertation, Göttingen, 1851(写像定理が最初に述べられた学位論文)。
  • T. A. Driscoll and L. N. Trefethen, Schwarz–Christoffel Mapping, Cambridge University Press, 2002 — 多角形への等角写像の理論と数値計算。
  • Ch. Pommerenke, Univalent Functions, Vandenhoeck & Ruprecht, 1975 — 第 3 章(面積定理・Faber 多項式・Grunsky の不等式)。
  • P. L. Duren, Univalent Functions, Springer, 1983 — 面積定理と Grunsky の不等式。

Appendix: リーマンの写像定理の存在部分の証明

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定理 6.1 の一意性は本文で示しました。ここでは存在の証明の筋道を、使う道具を明示しながらたどります。証明の戦略は「∣f′(z0)∣|f'(z_0)| を最大にする単射写像を取り出すと、それが自動的に全射になる」という極値問題です。

使う 3 つの道具。 いずれも正則関数の族に関する定理で、別の章で証明しています。

  • モンテルの定理(定理 7.2[最大値原理の一般化と正則関数族]):領域 Ω\Omega 上の正則関数の族が一様有界(ある MM について族のすべての元が ∣f∣≤M|f|\le M を満たす)ならば正規族である。すなわち、その族の任意の点列は Ω\Omega 上で局所一様収束する部分列を持つ。
  • ワイエルシュトラスの定理(定理 5.2[偏角の原理と Rouché の定理]):正則関数列が局所一様収束すれば極限も正則で、導関数の列も導関数へ局所一様収束する。
  • フルヴィッツの定理の系(系 5.4[偏角の原理と Rouché の定理] の 3):領域上の単射正則関数の列が局所一様収束するとき、極限は単射であるか、または定数である。

第 1 段:Ω\Omega を単位円板の中に押し込める。 Ω≠C\Omega \neq \mathbb{C} なので a∈C∖Ωa \in \mathbb{C}\setminus\Omega がとれます。z↦z−az \mapsto z-a は Ω\Omega 上で零点を持たない正則関数なので、Ω\Omega が単連結であること(定義 5.2 の同値条件)から正則な平方根 hh、すなわち h(z)2=z−ah(z)^2 = z-a を満たす正則関数が存在します。

この hh は単射です。h(z1)=h(z2)h(z_1)=h(z_2) なら両辺を 2 乗して z1−a=z2−az_1 - a = z_2 - a、よって z1=z2z_1 = z_2 だからです。さらに h(Ω)h(\Omega) と −h(Ω)-h(\Omega) は交わりません。もし h(z1)=−h(z2)h(z_1) = -h(z_2) なら 2 乗して z1=z2z_1 = z_2、したがって h(z1)=−h(z1)h(z_1) = -h(z_1) すなわち h(z1)=0h(z_1)=0 となり、z1=a∉Ωz_1 = a \notin \Omega となって矛盾するからです。

hh は定数でない正則関数なので、開写像定理から h(Ω)h(\Omega) は開集合です。そこで D(w0,ρ)⊆h(Ω)D(w_0,\rho)\subseteq h(\Omega) となる w0,ρ>0w_0, \rho > 0 をとると、上の非交叉性から D(−w0,ρ)D(-w_0,\rho) は h(Ω)h(\Omega) と交わりません。つまりすべての z∈Ωz\in\Omega で ∣h(z)+w0∣≥ρ|h(z)+w_0| \ge \rho です。ここで

ψ(z)=ρ2(h(z)+w0)\psi(z) = \frac{\rho}{2\bigl(h(z)+w_0\bigr)}

とおくと、ψ\psi は Ω\Omega 上正則、∣ψ(z)∣≤1/2<1|\psi(z)| \le 1/2 < 1、そして hh が単射でメビウス変換が単射だから ψ\psi も単射です。最後に φψ(z0)∘ψ\varphi_{\psi(z_0)}\circ\psi(φ\varphi は §5 の写像)を考えれば、Ω\Omega から D\mathbb{D} への単射正則写像で z0z_0 を 00 へ写すものが得られます。

第 2 段:極値問題を解く。 上で存在を確かめた族

F={ f:Ω→D 単射正則, f(z0)=0 }\mathcal{F} = \{\,f : \Omega\to\mathbb{D} \ \text{単射正則},\ f(z_0)=0\,\}

は空ではありません。D(z0,r)‾⊆Ω\overline{D(z_0,r)}\subseteq\Omega となる r>0r>0 をとると、コーシーの評価式(命題 4.1)[正則関数の強力な性質] から任意の f∈Ff\in\mathcal{F} で ∣f′(z0)∣≤1/r|f'(z_0)| \le 1/r です。したがって

M=sup⁡f∈F∣f′(z0)∣≤1r<∞M = \sup_{f\in\mathcal{F}}|f'(z_0)| \le \frac{1}{r} < \infty

は有限で、F\mathcal{F} の元は単射なので定数ではなく、M>0M > 0 です。

∣fn′(z0)∣→M|f_n'(z_0)| \to M となる列 fn∈Ff_n \in \mathcal{F} をとります。F\mathcal{F} は ∣f∣<1|f|<1 で一様有界なのでモンテルの定理より正規族で、局所一様収束する部分列 fnk→ff_{n_k}\to f がとれます。ワイエルシュトラスの定理より ff は正則で fnk′(z0)→f′(z0)f_{n_k}'(z_0)\to f'(z_0)、ゆえに ∣f′(z0)∣=M>0|f'(z_0)| = M > 0 です。とくに ff は定数ではないので、フルヴィッツの定理の系から ff は単射です。また ∣f∣≤1|f|\le 1 で、ff は定数でないから最大値原理により ∣f∣<1|f| < 1、すなわち f(Ω)⊆Df(\Omega)\subseteq\mathbb{D} です。f(z0)=lim⁡fnk(z0)=0f(z_0) = \lim f_{n_k}(z_0) = 0 なので f∈Ff \in \mathcal{F} であり、上限 MM は実際に達成されます。

第 3 段:最大値を与える写像は全射である。 ff が全射でないと仮定し、w0∈D∖f(Ω)w_0 \in \mathbb{D}\setminus f(\Omega) をとります。φw0∘f\varphi_{w_0}\circ f は Ω\Omega 上で零点を持たない正則関数なので(f(z)≠w0f(z) \neq w_0 より)、単連結性から正則な平方根 GG、つまり G2=φw0∘fG^2 = \varphi_{w_0}\circ f を満たす GG が存在します。∣G∣2=∣φw0∘f∣<1|G|^2 = |\varphi_{w_0}\circ f| < 1 より GG は D\mathbb{D} に値をとり、G(z1)=G(z2)G(z_1)=G(z_2) なら 2 乗して φw0(f(z1))=φw0(f(z2))\varphi_{w_0}(f(z_1)) = \varphi_{w_0}(f(z_2))、φw0\varphi_{w_0} と ff の単射性から z1=z2z_1=z_2 なので GG は単射です。

そこで f~=φG(z0)∘G\tilde{f} = \varphi_{G(z_0)}\circ G とおくと、f~\tilde f は単射正則で D\mathbb{D} に値をとり、f~(z0)=φG(z0)(G(z0))=0\tilde f(z_0) = \varphi_{G(z_0)}(G(z_0)) = 0 ですから f~∈F\tilde f \in \mathcal{F} です。

ここで s(w)=w2s(w) = w^2 とし、

Φ=φw0−1∘s∘φG(z0)−1:D→D\Phi = \varphi_{w_0}^{-1}\circ s \circ \varphi_{G(z_0)}^{-1} : \mathbb{D}\to\mathbb{D}

とおきます。これは正則で、φG(z0)−1(0)=G(z0)\varphi_{G(z_0)}^{-1}(0) = G(z_0)、s(G(z0))=φw0(f(z0))=φw0(0)=−w0s(G(z_0)) = \varphi_{w_0}(f(z_0)) = \varphi_{w_0}(0) = -w_0、φw0−1(−w0)=0\varphi_{w_0}^{-1}(-w_0) = 0 より Φ(0)=0\Phi(0)=0 を満たします。さらに

Φ∘f~=φw0−1∘s∘φG(z0)−1∘φG(z0)∘G=φw0−1∘s∘G=φw0−1(φw0∘f)=f\Phi\circ\tilde f = \varphi_{w_0}^{-1}\circ s\circ\varphi_{G(z_0)}^{-1}\circ\varphi_{G(z_0)}\circ G = \varphi_{w_0}^{-1}\circ s\circ G = \varphi_{w_0}^{-1}\bigl(\varphi_{w_0}\circ f\bigr) = f

が成り立ちます。φw0−1\varphi_{w_0}^{-1} と φG(z0)−1\varphi_{G(z_0)}^{-1} は全単射で ss は D∖{0}\mathbb{D}\setminus\{0\} 上 2 対 1 なので、Φ\Phi は単射ではありません。したがって Φ\Phi は回転 w↦λww\mapsto \lambda w(∣λ∣=1|\lambda|=1)ではありえず、補題 5.1 の等号の場合が排除されて ∣Φ′(0)∣<1|\Phi'(0)| < 1 を得ます。連鎖律より

M=∣f′(z0)∣=∣Φ′(0)∣⋅∣f~′(z0)∣<∣f~′(z0)∣≤MM = |f'(z_0)| = |\Phi'(0)|\cdot|\tilde f'(z_0)| < |\tilde f'(z_0)| \le M

となって矛盾します。ゆえに ff は D\mathbb{D} の上への全単射で、注意 2.3 により双正則です。

仕上げ。 最後に f′(z0)=∣f′(z0)∣eiαf'(z_0) = |f'(z_0)|e^{i\alpha} と書いて e−iαfe^{-i\alpha}f に取り替えれば、e−iαfe^{-i\alpha}f も F\mathcal{F} の元で D\mathbb{D} の上への双正則写像であり、その z0z_0 での微分は ∣f′(z0)∣=M>0|f'(z_0)| = M > 0 です。これで正規化条件を満たす写像の存在が示されました。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 6 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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