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経路積分量子化:時間分割から生成汎関数とファインマン則へ

対象読者: 学部の量子力学と統計力学の分配関数、ガウス積分、および本テーマ第1〜3章の正準量子化を学んだ人。経路積分は未習で構いません。

前提となる記事:スカラー場の正準量子化:場の交換関係から粒子描像へ

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粒子が始点から終点へ進む道筋は、量子力学では一つに決まりません。可能な道筋をすべて足し合わせて結果を出す、というのがこの記事の考え方です。その足し合わせを式として書き、そこから素粒子の反応を絵と規則で計算するファインマン則や、電磁気のようなゲージ理論の量子化までを導きます。読み終えると、作用から出発して相関関数を計算する一連の手順を追えるようになります。

  • 遷移振幅 ⟨qf∣e−iH^T/ℏ∣qi⟩\langle q_f|e^{-i\hat H T/\hbar}|q_i\rangle を時間分割すると、始点と終点を結ぶすべての経路にわたる和 ∫Dq eiS[q]/ℏ\int\mathcal{D}q\,e^{iS[q]/\hbar} が現れます。量子化の入力は演算子や交換関係ではなく、古典作用 SS そのものです。
  • 作用が座標について高々 2 次なら、経路積分は古典作用の位相因子と端点によらない前因子の積に厳密に分解します(定理 3.4)。自由粒子と調和振動子はこれで完全に解けます。
  • 時間を虚数方向へ回すと(ウィック回転。時間 tt を虚数にする置き換えのこと)、振動積分が正定値の重みをもつ積分になり、周期境界条件つきの経路積分が分配関数 Z(β)=Tr e−βH^Z(\beta)=\mathrm{Tr}\,e^{-\beta\hat H} になります。場の量子論と統計力学が同じ式で書けるのはこのためです。
  • 場の理論では外部源 JJ を入れた生成汎関数 Z[J]Z[J] が主役になり、その汎関数微分(関数そのものを変数とみなした微分)が時間順序相関関数を与えます。自由場では Z0[J]Z_0[J] がガウス積分で厳密に求まり、そこからウィックの定理とファインマン則が機械的に出てきます。
  • ゲージ理論では作用がゲージ変換で不変なため、運動核が可逆でなく伝播関数が定義できません。ファデーエフ–ポポフの方法はゲージ軌道(ゲージ変換でつながる配位の集まり)の体積を分離し、その代償としてゲージ固定項とゴースト場を生みます。この扱いやすさが、経路積分が正準量子化より好まれる最大の理由です。

スカラー場の正準量子化では、古典場 ϕ\phi と共役運動量 π\pi に同時刻交換関係を課すことで量子論を作りました(実スカラー場の正準量子化(定義 3.1)[スカラー場の正準量子化])。この処方は明快ですが、三つの点で居心地の悪さが残ります。

第一に、共変性が見えません。同時刻交換関係を書くには時間と空間を分ける必要があり、ローレンツ不変性は最終結果でようやく回復します。第二に、ゲージ理論に素直に適用できません。マクスウェル理論では π0=∂L/∂A˙0=0\pi^0=\partial\mathcal{L}/\partial\dot A_0=0 が恒等的に成り立つため、ルジャンドル変換が特異になり、ディラックの拘束系の理論を経由しなければなりません。第三に、非摂動的な定義が与えられません。自由場の生成消滅演算子から出発する以上、強結合領域は原理的に手の届かない場所に置かれます。

もう一つの道筋は、量子論を作用汎関数から直接組み立てることです。出発点は、ディラックが 1933 年に指摘した観察 —— 短い時間 ϵ\epsilon の遷移振幅 ⟨q′∣e−iH^ϵ/ℏ∣q⟩\langle q'|e^{-i\hat H\epsilon/\hbar}|q\rangle は exp⁡(iLϵ/ℏ)\exp(iL\epsilon/\hbar) に「対応する」—— でした。ファインマンはこれを等式に格上げし、有限時間の振幅を無限個の短時間振幅の積として表しました。

物理的な描像は二重スリットの思考実験から得られます。スリットが 2 本なら、振幅は 2 本の経路の寄与の和です。スリットを 3 本、4 本と増やせば和の項が増えます。さらに壁を 2 枚、3 枚と増やし、最後にスリットを無限に細かく、壁を無限に密にする極限を取ると、遮蔽物は消え去り、始点と終点を結ぶあらゆる経路にわたる和だけが残ります。各経路の重みは eiS[q]/ℏe^{iS[q]/\hbar} です。

1 自由度の量子力学から始めます。ハミルトニアンは

H^=p^22m+V(q^)\hat H=\frac{\hat p^2}{2m}+V(\hat q)

とし、VV は実連続で下に有界、H^\hat H は D(p^2)∩D(V(q^))D(\hat p^2)\cap D(V(\hat q)) 上で本質的自己共役(自己共役な拡張がただ一つに決まること)であるとします(第 3 節で Trotter の積公式を使うための仮定です)。位置固有状態は q^∣q⟩=q∣q⟩\hat q|q\rangle=q|q\rangle、規格化は ⟨q∣q′⟩=δ(q−q′)\langle q|q'\rangle=\delta(q-q')、完全性は ∫dq ∣q⟩⟨q∣=1\int dq\,|q\rangle\langle q|=1 です。運動量固有状態との重なりは ⟨q∣p⟩=eipq/ℏ/2πℏ\langle q|p\rangle=e^{ipq/\hbar}/\sqrt{2\pi\hbar} とします。

ハイゼンベルク描像の演算子と状態を

q^(t)=eiH^t/ℏ q^ e−iH^t/ℏ,∣q,t⟩=eiH^t/ℏ∣q⟩\hat q(t)=e^{i\hat Ht/\hbar}\,\hat q\,e^{-i\hat Ht/\hbar},\qquad |q,t\rangle=e^{i\hat Ht/\hbar}|q\rangle

で定めます。∣q,t⟩|q,t\rangle は q^(t)\hat q(t) の固有値 qq の固有状態です。実際、q^(t)∣q,t⟩=eiH^t/ℏq^∣q⟩=q∣q,t⟩\hat q(t)|q,t\rangle=e^{i\hat Ht/\hbar}\hat q|q\rangle=q|q,t\rangle となります。

定義 2.1(遷移振幅(伝播関数))↗

時刻 tit_i に位置 qiq_i にあった粒子が時刻 tft_f に位置 qfq_f に見出される振幅を

K(qf,tf;qi,ti)  =  ⟨qf,tf ∣ qi,ti⟩  =  ⟨qf∣ e−iH^(tf−ti)/ℏ ∣qi⟩K(q_f,t_f;q_i,t_i)\;=\;\langle q_f,t_f\,|\,q_i,t_i\rangle\;=\;\langle q_f|\,e^{-i\hat H(t_f-t_i)/\hbar}\,|q_i\rangle

と定め、伝播関数(propagator)と呼ぶ。KK は ψ(qf,tf)=∫dqi K(qf,tf;qi,ti)ψ(qi,ti)\psi(q_f,t_f)=\int dq_i\,K(q_f,t_f;q_i,t_i)\psi(q_i,t_i) によってシュレーディンガー方程式(時間依存シュレーディンガー方程式(定義 3.1)[シュレーディンガー方程式と波動関数])の初期値問題を解く積分核である。

第 5 節以降は場の理論なので、自然単位系 ℏ=c=1\hbar=c=1 を用い、計量の符号は (+,−,−,−)(+,-,-,-)、∂2=∂μ∂μ\partial^2=\partial_\mu\partial^\mu とします。第 3 節と第 4 節では ℏ\hbar を明示します。

指数関数 e−iH^T/ℏe^{-i\hat HT/\hbar} を直接扱うのは難しいのですが、H^\hat H が「p^\hat p だけの部分」と「q^\hat q だけの部分」の和であることを使えば、短い時間なら二つを分離できます。分離してしまえば、p^\hat p の部分は運動量表示で、q^\hat q の部分は位置表示でそれぞれ対角的です。これが導出の全体戦略です。

定理 3.1(経路積分表示)✓

H^=p^2/(2m)+V(q^)\hat H=\hat p^2/(2m)+V(\hat q) を上の仮定を満たすハミルトニアンとし、T=tf−ti>0T=t_f-t_i>0、ϵ=T/N\epsilon=T/N、tk=ti+kϵt_k=t_i+k\epsilon とする。q0=qiq_0=q_i、qN=qfq_N=q_f と置くとき、定義 2.1 の伝播関数は次の極限で与えられる。

K(qf,tf;qi,ti)=lim⁡N→∞(m2πiℏϵ)N/2∫∏k=1N−1dqk  exp⁡[iℏ∑k=1Nϵ(m2(qk−qk−1ϵ)2−V(qk−1))]K(q_f,t_f;q_i,t_i)=\lim_{N\to\infty}\left(\frac{m}{2\pi i\hbar\epsilon}\right)^{N/2}\int\prod_{k=1}^{N-1}dq_k\; \exp\left[\frac{i}{\hbar}\sum_{k=1}^{N}\epsilon\left(\frac{m}{2}\Big(\frac{q_k-q_{k-1}}{\epsilon}\Big)^2-V(q_{k-1})\right)\right]

また pp 積分を実行する前の段階では、位相空間上の表式

K=lim⁡N→∞∫∏k=1N−1dqk∏k=1Ndpk2πℏ  exp⁡[iℏ∑k=1N(pk(qk−qk−1)−ϵH(pk,qk−1))]K=\lim_{N\to\infty}\int\prod_{k=1}^{N-1}dq_k\prod_{k=1}^{N}\frac{dp_k}{2\pi\hbar}\; \exp\left[\frac{i}{\hbar}\sum_{k=1}^{N}\Big(p_k(q_k-q_{k-1})-\epsilon H(p_k,q_{k-1})\Big)\right]

が成り立つ。ここで H(p,q)=p2/(2m)+V(q)H(p,q)=p^2/(2m)+V(q) は古典ハミルトニアンである。

証明(定理 3.1)

第 1 段:分割と完全系の挿入。 時間発展演算子を NN 個の等しい因子に分けます。

e−iH^T/ℏ=(e−iH^ϵ/ℏ)Ne^{-i\hat HT/\hbar}=\Big(e^{-i\hat H\epsilon/\hbar}\Big)^{N}

隣り合う因子の間に完全性 ∫dqk∣qk⟩⟨qk∣=1\int dq_k|q_k\rangle\langle q_k|=1 を k=1,…,N−1k=1,\dots,N-1 について挿入すると

K=∫∏k=1N−1dqk  ∏k=1N⟨qk∣e−iH^ϵ/ℏ∣qk−1⟩K=\int\prod_{k=1}^{N-1}dq_k\;\prod_{k=1}^{N}\langle q_k|e^{-i\hat H\epsilon/\hbar}|q_{k-1}\rangle

を得ます。以下、短時間振幅 ⟨qk∣e−iH^ϵ/ℏ∣qk−1⟩\langle q_k|e^{-i\hat H\epsilon/\hbar}|q_{k-1}\rangle を評価します。

第 2 段:短時間振幅の分解。 T^=p^2/(2m)\hat T=\hat p^2/(2m)、V^=V(q^)\hat V=V(\hat q) と書きます。ベイカー–キャンベル–ハウスドルフの公式から

e−iϵ(T^+V^)/ℏ=e−iϵT^/ℏe−iϵV^/ℏ+O(ϵ2)e^{-i\epsilon(\hat T+\hat V)/\hbar}=e^{-i\epsilon\hat T/\hbar}e^{-i\epsilon\hat V/\hbar}+O(\epsilon^2)

です(誤差項は交換子 [T^,V^][\hat T,\hat V] に比例します)。1 分割あたりの誤差が O(ϵ2)O(\epsilon^2) で、分割数が N=T/ϵN=T/\epsilon 個なので、全体の誤差は O(Tϵ)O(T\epsilon) となり N→∞N\to\infty で消えます。この極限が作用素の強収束の意味で正当であることはトロッターの積公式(定理 6.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群])が保証します。よって

⟨qk∣e−iϵH^/ℏ∣qk−1⟩≃⟨qk∣e−iϵT^/ℏe−iϵV^/ℏ∣qk−1⟩=e−iϵV(qk−1)/ℏ ⟨qk∣e−iϵT^/ℏ∣qk−1⟩\langle q_k|e^{-i\epsilon\hat H/\hbar}|q_{k-1}\rangle\simeq\langle q_k|e^{-i\epsilon\hat T/\hbar}e^{-i\epsilon\hat V/\hbar}|q_{k-1}\rangle =e^{-i\epsilon V(q_{k-1})/\hbar}\,\langle q_k|e^{-i\epsilon\hat T/\hbar}|q_{k-1}\rangle

となります。最後の等号では e−iϵV^/ℏ∣qk−1⟩=e−iϵV(qk−1)/ℏ∣qk−1⟩e^{-i\epsilon\hat V/\hbar}|q_{k-1}\rangle=e^{-i\epsilon V(q_{k-1})/\hbar}|q_{k-1}\rangle を使いました。V^\hat V は q^\hat q の関数なので位置固有状態に対角的です。

第 3 段:運動項のフーリエ表示。 T^\hat T は運動量表示で対角なので、完全性 ∫dp ∣p⟩⟨p∣=1\int dp\,|p\rangle\langle p|=1 を挿入します。

⟨qk∣e−iϵT^/ℏ∣qk−1⟩=∫dpk2πℏ eipk(qk−qk−1)/ℏ e−iϵpk2/(2mℏ)\langle q_k|e^{-i\epsilon\hat T/\hbar}|q_{k-1}\rangle=\int\frac{dp_k}{2\pi\hbar}\,e^{ip_k(q_k-q_{k-1})/\hbar}\,e^{-i\epsilon p_k^2/(2m\hbar)}

ここまでをまとめると、定理の第 2 式(位相空間表示)が得られます。−ϵV(qk−1)-\epsilon V(q_{k-1}) と −ϵpk2/(2m)-\epsilon p_k^2/(2m) を合わせると −ϵH(pk,qk−1)-\epsilon H(p_k,q_{k-1}) になり、pk(qk−qk−1)p_k(q_k-q_{k-1}) は ϵ pq˙\epsilon\, p\dot q の離散版です。

第 4 段:運動量積分の実行。 上の pkp_k 積分はガウス型です。指数を平方完成すると

−iϵ2mℏ(pk−m(qk−qk−1)ϵ)2+im(qk−qk−1)22ℏϵ-\frac{i\epsilon}{2m\hbar}\left(p_k-\frac{m(q_k-q_{k-1})}{\epsilon}\right)^2+\frac{im(q_k-q_{k-1})^2}{2\hbar\epsilon}

となります。Appendix のフレネル型積分の公式(c=−ϵ/(mℏ)c=-\epsilon/(m\hbar) の場合)から

∫dpk2πℏ  exp⁡[−iϵ2mℏ(pk−m(qk−qk−1)ϵ)2]=12πℏ2πmℏiϵ=m2πiℏϵ\int\frac{dp_k}{2\pi\hbar}\;\exp\left[-\frac{i\epsilon}{2m\hbar}\Big(p_k-\frac{m(q_k-q_{k-1})}{\epsilon}\Big)^2\right] =\frac{1}{2\pi\hbar}\sqrt{\frac{2\pi m\hbar}{i\epsilon}}=\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar\epsilon}}

を得ます(積分変数を平行移動しても実軸上の積分の値は変わりません)。したがって

⟨qk∣e−iϵH^/ℏ∣qk−1⟩≃m2πiℏϵ exp⁡[iϵℏ(m2(qk−qk−1ϵ)2−V(qk−1))]\langle q_k|e^{-i\epsilon\hat H/\hbar}|q_{k-1}\rangle\simeq\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar\epsilon}}\, \exp\left[\frac{i\epsilon}{\hbar}\left(\frac{m}{2}\Big(\frac{q_k-q_{k-1}}{\epsilon}\Big)^2-V(q_{k-1})\right)\right]

です。これを k=1,…,Nk=1,\dots,N について掛け合わせ、N→∞N\to\infty とすれば定理の第 1 式になります。前因子は NN 個あるので (m/2πiℏϵ)N/2(m/2\pi i\hbar\epsilon)^{N/2} です。

指数の肩に現れた和は、まさに離散化された作用

S[q]=∫titfdt  L(q,q˙),L=m2q˙2−V(q)S[q]=\int_{t_i}^{t_f}dt\;L(q,\dot q),\qquad L=\frac{m}{2}\dot q^2-V(q)

のリーマン和です。そこで次の記法を導入します。

定義 3.2(ファインマンの経路積分)↗

端点を q(ti)=qiq(t_i)=q_i、q(tf)=qfq(t_f)=q_f に固定した経路の集合上の形式的な積分記号を

∫q(ti)=qiq(tf)=qfDq    Φ[q]  :=  lim⁡N→∞(m2πiℏϵ)N/2∫∏k=1N−1dqk  Φ[q∙]\int_{q(t_i)=q_i}^{q(t_f)=q_f}\mathcal{D}q\;\;\Phi[q] \;:=\;\lim_{N\to\infty}\left(\frac{m}{2\pi i\hbar\epsilon}\right)^{N/2}\int\prod_{k=1}^{N-1}dq_k\;\Phi[q_{\bullet}]

と定義する。これを用いると 定理 3.1 は

K(qf,tf;qi,ti)=∫Dq  eiS[q]/ℏK(q_f,t_f;q_i,t_i)=\int\mathcal{D}q\;e^{iS[q]/\hbar}

と書ける。

注意 3.3(測度としての厳密な地位)

記号 Dq\mathcal{D}q は、経路空間上の可算加法的な複素測度を表してはいません。キャメロン(1960 年)は、ファインマン積分をウィーナー測度のように解析接続で定義しようとすると、得られる対象が有界変動をもたないことを示しました。したがって ∫Dq\int\mathcal{D}q は 定義 3.2 の右辺の極限、すなわち有限次元積分の列の極限としてのみ意味をもちます。この極限の存在自体は、トロッター–加藤の積公式(e−i(T^+V^)t=lim⁡N(e−iT^t/Ne−iV^t/N)Ne^{-i(\hat T+\hat V)t}=\lim_N(e^{-i\hat Tt/N}e^{-i\hat Vt/N})^N が強収束の意味で成立)によって保証されます。一方、次節のユークリッド化を行うと重みが正の実数になり、ウィーナー測度に関する真の積分(ファインマン–カッツの公式)として厳密に定式化できます。数学的に安全な道はいつも虚時間側を通ります。

qt始点終点古典経路その他の経路
始点と終点を固定したすべての経路が振幅に寄与する。太線は作用が停留する古典経路で、 ではこの近傍だけが打ち消し合いを免れる。

3.2. 二次作用は厳密に積分できる

Section titled “3.2. 二次作用は厳密に積分できる”

経路積分が実際に計算できる例はごく限られますが、作用が経路について高々 2 次の場合は完全に処理できます。しかもこの場合が、自由場と摂動論の出発点をすべて含んでいます。

定理 3.4(二次作用に対する厳密な分解)✓

ラグランジアンが L=12a(t)q˙2+b(t)q˙q+c(t)q2+d(t)q˙+e(t)q+f(t)L=\tfrac{1}{2}a(t)\dot q^2+b(t)\dot qq+c(t)q^2+d(t)\dot q+e(t)q+f(t) の形(qq と q˙\dot q について高々 2 次)であるとする。端点条件 q(ti)=qiq(t_i)=q_i、q(tf)=qfq(t_f)=q_f を満たす古典解 qclq_{\mathrm{cl}} が一意に存在するとき、

K(qf,tf;qi,ti)=F(ti,tf) exp⁡ ⁣(iℏS[qcl])K(q_f,t_f;q_i,t_i)=F(t_i,t_f)\,\exp\!\left(\frac{i}{\hbar}S[q_{\mathrm{cl}}]\right)

が成り立つ。ここで前因子 FF は端点 qi,qfq_i,q_f に依存せず、時刻のみの関数である。

証明(定理 3.4)

任意の経路を古典解からのずれで表します。

q(t)=qcl(t)+η(t),η(ti)=η(tf)=0q(t)=q_{\mathrm{cl}}(t)+\eta(t),\qquad \eta(t_i)=\eta(t_f)=0

定義 3.2 の右辺では各時刻の積分変数は qkq_k という実数なので、qk=qcl(tk)+ηkq_k=q_{\mathrm{cl}}(t_k)+\eta_k という置換は各段階で単なる平行移動です。ヤコビアンは 1 であり、Dq=Dη\mathcal{D}q=\mathcal{D}\eta が文字通り成り立ちます。

作用を η\eta について展開します。SS は qq の 2 次多項式(汎関数として 2 次)なので、テイラー展開は 2 次で厳密に止まります。

S[qcl+η]=S[qcl]+∫titfdt δSδq(t)∣qclη(t)+12∬dt dt′ δ2Sδq(t)δq(t′)η(t)η(t′)S[q_{\mathrm{cl}}+\eta]=S[q_{\mathrm{cl}}]+\int_{t_i}^{t_f}dt\,\frac{\delta S}{\delta q(t)}\bigg|_{q_{\mathrm{cl}}}\eta(t)+\frac{1}{2}\iint dt\,dt'\,\frac{\delta^2S}{\delta q(t)\delta q(t')}\eta(t)\eta(t')

第 2 項の変分は、部分積分により

δS=[∂L∂q˙η]titf+∫dt(∂L∂q−ddt∂L∂q˙)η\delta S=\Big[\frac{\partial L}{\partial\dot q}\eta\Big]_{t_i}^{t_f}+\int dt\left(\frac{\partial L}{\partial q}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot q}\right)\eta

と書けます。境界項は η\eta が両端で消えるので落ち、積分項は qclq_{\mathrm{cl}} がオイラー–ラグランジュ方程式(定理 3.4)[ラグランジュ形式の力学]を満たすので消えます。よって第 2 項は 00 です。

第 3 項について。SS が qq の 2 次汎関数であることから、2 階変分 δ2S/δqδq′\delta^2S/\delta q\delta q' は qq に依存しません(2 次多項式の 2 階微分は定数です)。したがって第 3 項は qclq_{\mathrm{cl}} の形、すなわち端点 qi,qfq_i,q_f に一切依存しません。以上より

K=eiS[qcl]/ℏ∫η(ti)=0η(tf)=0Dη  exp⁡[i2ℏ∬dt dt′ δ2Sδq(t)δq(t′)η(t)η(t′)]K=e^{iS[q_{\mathrm{cl}}]/\hbar}\int_{\eta(t_i)=0}^{\eta(t_f)=0}\mathcal{D}\eta\; \exp\left[\frac{i}{2\hbar}\iint dt\,dt'\,\frac{\delta^2S}{\delta q(t)\delta q(t')}\eta(t)\eta(t')\right]

となり、右辺の積分は ti,tft_i,t_f のみの関数です。これを F(ti,tf)F(t_i,t_f) と置けば主張を得ます。

例 3.5(自由粒子の伝播関数)

V=0V=0 の場合を計算します。定理 3.4 を使ってもよいのですが、ここでは 定義 2.1 から直接求めます。H^=p^2/(2m)\hat H=\hat p^2/(2m) は運動量表示で対角なので

K0(qf,T;qi,0)=∫dp2πℏ eip(qf−qi)/ℏe−ip2T/(2mℏ)K_0(q_f,T;q_i,0)=\int\frac{dp}{2\pi\hbar}\,e^{ip(q_f-q_i)/\hbar}e^{-ip^2T/(2m\hbar)}

です。指数を pp について平方完成すると

−iT2mℏ(p−m(qf−qi)T)2+im(qf−qi)22ℏT-\frac{iT}{2m\hbar}\left(p-\frac{m(q_f-q_i)}{T}\right)^2+\frac{im(q_f-q_i)^2}{2\hbar T}

となります。Appendix のガウス積分の公式を a=iT/(mℏ)a=iT/(m\hbar) へ解析接続した形を用いて

K0(qf,T;qi,0)=m2πiℏT  exp⁡[im(qf−qi)22ℏT]K_0(q_f,T;q_i,0)=\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar T}}\;\exp\left[\frac{im(q_f-q_i)^2}{2\hbar T}\right]

を得ます。ここで古典解は等速直線運動 qcl(t)=qi+(qf−qi)t/Tq_{\mathrm{cl}}(t)=q_i+(q_f-q_i)t/T で、その作用は

S[qcl]=∫0Tm2(qf−qiT)2dt=m(qf−qi)22TS[q_{\mathrm{cl}}]=\int_0^T\frac{m}{2}\left(\frac{q_f-q_i}{T}\right)^2dt=\frac{m(q_f-q_i)^2}{2T}

です。つまり指数の肩はちょうど S[qcl]/ℏS[q_{\mathrm{cl}}]/\hbar であり、前因子 m/(2πiℏT)\sqrt{m/(2\pi i\hbar T)} は端点によりません。定理 3.4 の主張がそのまま確認できました。

例 3.6(調和振動子)

L=m2q˙2−mω22q2L=\tfrac{m}{2}\dot q^2-\tfrac{m\omega^2}{2}q^2 とします。運動方程式 q¨+ω2q=0\ddot q+\omega^2q=0 の端点条件を満たす解は、sin⁡ωT≠0\sin\omega T\neq 0 のとき

qcl(t)=qisin⁡ω(T−t)+qfsin⁡ωtsin⁡ωTq_{\mathrm{cl}}(t)=\frac{q_i\sin\omega(T-t)+q_f\sin\omega t}{\sin\omega T}

で一意に定まります。二次のラグランジアンでは、運動方程式を使った部分積分により

S[qcl]=∫0T(m2q˙2−mω22q2)dt=m2[qq˙]0T−m2∫0Tq(q¨+ω2q) dt=m2[qq˙]0TS[q_{\mathrm{cl}}]=\int_0^T\left(\frac{m}{2}\dot q^2-\frac{m\omega^2}{2}q^2\right)dt=\frac{m}{2}\big[q\dot q\big]_0^T-\frac{m}{2}\int_0^T q(\ddot q+\omega^2q)\,dt=\frac{m}{2}\big[q\dot q\big]_0^T

と端点の値だけで書けます。q˙cl(t)=ω(−qicos⁡ω(T−t)+qfcos⁡ωt)/sin⁡ωT\dot q_{\mathrm{cl}}(t)=\omega\big(-q_i\cos\omega(T-t)+q_f\cos\omega t\big)/\sin\omega T を代入すると

S[qcl]=mω2sin⁡ωT[(qi2+qf2)cos⁡ωT−2qiqf]S[q_{\mathrm{cl}}]=\frac{m\omega}{2\sin\omega T}\Big[(q_i^2+q_f^2)\cos\omega T-2q_iq_f\Big]

を得ます。前因子は ω→0\omega\to0 で 例 3.5 に一致しなければならないことと、FF が満たす合成則から

F(T)=mω2πiℏsin⁡ωTF(T)=\sqrt{\frac{m\omega}{2\pi i\hbar\sin\omega T}}

と決まります(実際 ωT≪1\omega T\ll1 で sin⁡ωT→ωT\sin\omega T\to\omega T となり自由粒子の値に戻ります)。この KK は次節の演習で分配関数の計算に使います。

3.3. 経路積分は時間順序積を計算する

Section titled “3.3. 経路積分は時間順序積を計算する”

経路積分の中の q(t)q(t) は演算子ではなく数です。数は可換ですから、q(t1)q(t2)q(t_1)q(t_2) と書いたとき順序の情報は失われているように見えます。ところが対応する演算子の式には順序があります。この食い違いがどう解消されるのかを見ておくことは、次節以降で相関関数を扱う上で決定的に重要です。

定理 3.7(経路積分と時間順序積)✓

ti<t1,t2<tft_i<t_1,t_2<t_f とする。定義 3.2 の経路積分について

∫q(ti)=qiq(tf)=qfDq  q(t1) q(t2) eiS[q]/ℏ=⟨qf,tf∣  T ⁣{q^(t1)q^(t2)}  ∣qi,ti⟩\int_{q(t_i)=q_i}^{q(t_f)=q_f}\mathcal{D}q\;q(t_1)\,q(t_2)\,e^{iS[q]/\hbar} =\big\langle q_f,t_f\big|\;T\!\left\{\hat q(t_1)\hat q(t_2)\right\}\;\big|q_i,t_i\big\rangle

が成り立つ。ここで T{⋅}T\{\cdot\} は時間順序積、すなわち時刻の遅い演算子を左に並べる操作である。nn 個の挿入についても同様である。

次の証明のねらいは、積分の中に置いた数 qnq_n を、完全性の式を使って演算子 q^\hat q に読み替えることです。qn∣qn⟩=q^∣qn⟩q_n|q_n\rangle=\hat q|q_n\rangle という固有値方程式を使うだけで、残りは時間発展演算子の積を並べ直す作業になります。

証明(定理 3.7)

左辺は q(t1)q(t_1) と q(t2)q(t_2) が単なる実数の積なので、t1t_1 と t2t_2 の入れ替えについて対称です。そこで一般性を失わず t1>t2t_1>t_2 とします。

分割を細かく取り、t1=tn1t_1=t_{n_1}、t2=tn2t_2=t_{n_2}(n1>n2n_1>n_2)が分割点に一致するようにします。定理 3.1 の証明の第 1 段の式に qn1qn2q_{n_1}q_{n_2} を挿入すると

∫∏kdqk  qn1qn2∏k=1N⟨qk∣e−iϵH^/ℏ∣qk−1⟩\int\prod_k dq_k\;q_{n_1}q_{n_2}\prod_{k=1}^{N}\langle q_k|e^{-i\epsilon\hat H/\hbar}|q_{k-1}\rangle

となります。ここで固有値方程式 q^∣qn⟩=qn∣qn⟩\hat q|q_n\rangle=q_n|q_n\rangle を逆向きに使い、数 qnq_n を演算子 q^\hat q に戻します。すなわち qn∣qn⟩⟨qn∣=q^ ∣qn⟩⟨qn∣q_n|q_n\rangle\langle q_n|=\hat q\,|q_n\rangle\langle q_n| です。この置き換えのあと、n1n_1 番目と n2n_2 番目以外の完全性 ∫dqk∣qk⟩⟨qk∣=1\int dq_k|q_k\rangle\langle q_k|=1 をすべて実行して縮約すると

⟨qf∣ e−iH^(tf−t1)/ℏ q^ e−iH^(t1−t2)/ℏ q^ e−iH^(t2−ti)/ℏ ∣qi⟩\big\langle q_f\big|\,e^{-i\hat H(t_f-t_1)/\hbar}\,\hat q\,e^{-i\hat H(t_1-t_2)/\hbar}\,\hat q\,e^{-i\hat H(t_2-t_i)/\hbar}\,\big|q_i\big\rangle

が残ります。q^\hat q の左右に e±iH^t1/ℏe^{\pm i\hat Ht_1/\hbar}、e±iH^t2/ℏe^{\pm i\hat Ht_2/\hbar} を挿入して整理すると

=⟨qf∣ e−iH^tf/ℏ q^(t1) q^(t2) eiH^ti/ℏ ∣qi⟩=⟨qf,tf∣ q^(t1)q^(t2) ∣qi,ti⟩=\big\langle q_f\big|\,e^{-i\hat Ht_f/\hbar}\,\hat q(t_1)\,\hat q(t_2)\,e^{i\hat Ht_i/\hbar}\,\big|q_i\big\rangle =\big\langle q_f,t_f\big|\,\hat q(t_1)\hat q(t_2)\,\big|q_i,t_i\big\rangle

です。仮定 t1>t2t_1>t_2 の下でこれは時間順序積に等しく、また左辺は 1↔21\leftrightarrow2 について対称でしたから、順序によらず時間順序積が現れます。

演算子の順序は「どの分割点に挿入されたか」だけで決まります。経路積分では時間の順序が分割の順序として最初から組み込まれているので、順序情報は失われていなかったのです。

注意 3.8(基底状態の射影と iϵi\epsilon)

場の理論で必要なのは端点固定の振幅ではなく、真空期待値 ⟨Ω∣T{⋯ }∣Ω⟩\langle\Omega|T\{\cdots\}|\Omega\rangle です。これは時間の端を虚数方向へわずかに傾けることで得られます。エネルギー固有状態 ∣n⟩|n\rangle(H^∣n⟩=En∣n⟩\hat H|n\rangle=E_n|n\rangle、E0<E1≤⋯E_0<E_1\le\cdots)で展開すると

e−iH^T(1−iε)/ℏ∣qi⟩=∑ne−iEnT/ℏ e−εEnT/ℏ ⟨n∣qi⟩ ∣n⟩e^{-i\hat HT(1-i\varepsilon)/\hbar}|q_i\rangle=\sum_n e^{-iE_nT/\hbar}\,e^{-\varepsilon E_nT/\hbar}\,\langle n|q_i\rangle\,|n\rangle

となり、T→∞T\to\infty で n≥1n\ge1 の項は e−ε(En−E0)T/ℏ→0e^{-\varepsilon(E_n-E_0)T/\hbar}\to0 により基底状態に対して相対的に抑制されます。⟨0∣qi⟩≠0\langle 0|q_i\rangle\neq0 である限り、残るのは ∣0⟩=∣Ω⟩|0\rangle=|\Omega\rangle の寄与だけです。この「時間軸をわずかに虚方向へ倒す」操作が、後で伝播関数の分母に現れる +iε+i\varepsilon の正体です。m2→m2−iεm^2\to m^2-i\varepsilon と書いても同じことになります。

eiS/ℏe^{iS/\hbar} は絶対値 1 の位相因子なので、経路積分は激しく振動する積分です。ここで時間を虚数方向へ回します。t=−iτt=-i\tau(τ\tau は実、ユークリッド時間)と置くと、dt=−i dτdt=-i\,d\tau、dq/dt=i dq/dτdq/dt=i\,dq/d\tau より

iS=i∫dt(m2q˙2−V)=i∫(−i dτ)(−m2(dqdτ)2−V)=−SE,SE[q]=∫dτ(m2(dqdτ)2+V(q))iS=i\int dt\left(\frac{m}{2}\dot q^2-V\right)=i\int(-i\,d\tau)\left(-\frac{m}{2}\Big(\frac{dq}{d\tau}\Big)^2-V\right)=-S_E,\qquad S_E[q]=\int d\tau\left(\frac{m}{2}\Big(\frac{dq}{d\tau}\Big)^2+V(q)\right)

となります。SES_E はユークリッド作用と呼ばれ、VV が下に有界なら e−SE/ℏe^{-S_E/\hbar} は正の重みです。振動積分が減衰積分に変わり、収束と数値計算の両方が可能になります。運動項の符号が反転してポテンシャルと同符号になっている点に注意してください。虚時間では粒子は「ひっくり返したポテンシャル」の中を運動します。

定義 4.1(分配関数)↗

逆温度 β=1/(kBT温度)\beta=1/(k_BT_{\text{温度}}) に対し、量子系の分配関数を Z(β)=Tr e−βH^Z(\beta)=\mathrm{Tr}\,e^{-\beta\hat H} と定める。

命題 4.2(分配関数のユークリッド経路積分表示)✓

定理 3.1 と同じ仮定の下で

Z(β)=Tr e−βH^=∮q(ℏβ)=q(0)Dq  exp⁡(−1ℏSE[q])Z(\beta)=\mathrm{Tr}\,e^{-\beta\hat H}=\oint_{q(\hbar\beta)=q(0)}\mathcal{D}q\;\exp\left(-\frac{1}{\hbar}S_E[q]\right)

が成り立つ。ここで右辺は、長さ ℏβ\hbar\beta の虚時間区間上で周期境界条件を満たす経路にわたる積分である。

証明(命題 4.2)

まず e−βH^=e−iH^T/ℏ∣T=−iℏβe^{-\beta\hat H}=e^{-i\hat HT/\hbar}\big|_{T=-i\hbar\beta} です。定理 3.1 の分割を虚時間で行えば、各短時間因子は

⟨qk∣e−ϵEH^/ℏ∣qk−1⟩≃m2πℏϵEexp⁡[−ϵEℏ(m2(qk−qk−1ϵE)2+V(qk−1))]\langle q_k|e^{-\epsilon_E\hat H/\hbar}|q_{k-1}\rangle\simeq\sqrt{\frac{m}{2\pi\hbar\epsilon_E}}\exp\left[-\frac{\epsilon_E}{\hbar}\left(\frac{m}{2}\Big(\frac{q_k-q_{k-1}}{\epsilon_E}\Big)^2+V(q_{k-1})\right)\right]

となります(ϵE=ℏβ/N\epsilon_E=\hbar\beta/N)。証明は 定理 3.1 の第 2 段から第 4 段と同一で、ϵ→−iϵE\epsilon\to-i\epsilon_E と置き換えるだけです。指数の肩は −SE/ℏ-S_E/\hbar のリーマン和です。

次にトレースを取ります。トレースは対角成分の和ですから

Tr e−βH^=∫dq  ⟨q∣e−βH^∣q⟩\mathrm{Tr}\,e^{-\beta\hat H}=\int dq\;\langle q|e^{-\beta\hat H}|q\rangle

です。すなわち始点と終点を同じ qq に置き、その qq についても積分します。経路の言葉でいえば、始点と終点が一致する閉じた経路のみを、始点の位置についても和を取って集めるということです。これが周期境界条件つき経路積分にほかなりません。

この命題の帰結は見た目以上に広いものです。第一に、量子力学の分配関数は 1 次元の古典統計系(長さ ℏβ\hbar\beta の鎖)の分配関数と同じ形をしています。同じ論法で、dd 次元のユークリッド場の理論は dd 次元の古典統計力学と一対一に対応します。相転移の臨界指数と場の理論のくりこみが同じ言語で語られるのは、この対応があるからです(ウィルソン–フィッシャー固定点と臨界指数(例 7.4)[くりこみ理論入門])。第二に、有限温度の場の理論は「虚時間方向を周期 ℏβ\hbar\beta の円にコンパクト化した理論」として定義できます。第三に、時空を格子で離散化すれば右辺は有限次元の実積分になり、モンテカルロ法で数値評価できます。格子ゲージ理論はこの道を通ります。

5. 場の理論への拡張:生成汎関数

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ここから自然単位系 ℏ=c=1\hbar=c=1 を用います。量子力学の経路積分では、各時刻 tt に一つの積分変数 q(t)q(t) がありました。場の理論では、各時刻・各空間点 (t,x)(t,\boldsymbol{x}) に一つの積分変数 ϕ(t,x)\phi(t,\boldsymbol{x}) があります。つまり自由度の添字が tt から x=(t,x)x=(t,\boldsymbol{x}) に増えるだけで、構造は変わりません。古典場の理論とラグランジアンで扱ったラグランジアン密度(定義 4.1)[古典場の理論とラグランジアン] L\mathcal{L} を使い、作用は S[ϕ]=∫d4x L(ϕ,∂μϕ)S[\phi]=\int d^4x\,\mathcal{L}(\phi,\partial_\mu\phi) です。

定義 5.1(生成汎関数)↗

外部源 J(x)J(x) を導入し、

Z[J]=∫Dϕ  exp⁡[ i ⁣∫d4x (L(ϕ,∂ϕ)+J(x)ϕ(x))]Z[J]=\int\mathcal{D}\phi\;\exp\left[\,i\!\int d^4x\,\Big(\mathcal{L}(\phi,\partial\phi)+J(x)\phi(x)\Big)\right]

を生成汎関数と呼ぶ。積分測度は形式的に Dϕ=∏xdϕ(x)\mathcal{D}\phi=\prod_x d\phi(x) であり、厳密には時空を格子で離散化した有限次元積分の連続極限として定義される。注意 3.8 の iεi\varepsilon 処方を課すとき、規格化された相関関数は

⟨Ω∣T{ϕ^(x1)⋯ϕ^(xn)}∣Ω⟩=1Z[0]1inδnZ[J]δJ(x1)⋯δJ(xn)∣J=0\big\langle\Omega\big|T\{\hat\phi(x_1)\cdots\hat\phi(x_n)\}\big|\Omega\big\rangle =\frac{1}{Z[0]}\left.\frac{1}{i^n}\frac{\delta^nZ[J]}{\delta J(x_1)\cdots\delta J(x_n)}\right|_{J=0}

で与えられる。

最後の等式が成り立つ理由は明快です。1iδδJ(x1)\dfrac{1}{i}\dfrac{\delta}{\delta J(x_1)} を Z[J]Z[J] に作用させると、被積分関数の exp⁡[i∫Jϕ]\exp[i\int J\phi] から ϕ(x1)\phi(x_1) が降りてきます。これを nn 回繰り返せば ϕ(x1)⋯ϕ(xn)\phi(x_1)\cdots\phi(x_n) の挿入になり、定理 3.7 により演算子表示では時間順序積になります。Z[0]Z[0] で割るのは、真空から真空への振幅で規格化する操作です。

無限個の変数の積分がイメージしにくいときは、時空を格子で区切って点が MM 個あるとし、各点に積分変数 ϕ1,…,ϕM\phi_1,\dots,\phi_M を一つずつ置いた MM 重積分を考えてください。Dϕ\mathcal{D}\phi はその M→∞M\to\infty の極限を表す記号です。

5.1. 自由スカラー場:ガウス積分を最後まで実行する

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質量 mm の自由実スカラー場の作用は

S0[ϕ]=∫d4x  12(∂μϕ ∂μϕ−m2ϕ2)=−12∫d4x  ϕ (∂2+m2) ϕS_0[\phi]=\int d^4x\;\frac{1}{2}\Big(\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi-m^2\phi^2\Big) =-\frac{1}{2}\int d^4x\;\phi\,(\partial^2+m^2)\,\phi

です。2 番目の等号では部分積分を行い、無限遠での境界項を落としました(iεi\varepsilon 処方の下で場は無限遠で減衰します)。ファインマン伝播関数を

ΔF(x−y)=∫d4p(2π)4  i e−ip⋅(x−y)p2−m2+iε\Delta_F(x-y)=\int\frac{d^4p}{(2\pi)^4}\;\frac{i\,e^{-ip\cdot(x-y)}}{p^2-m^2+i\varepsilon}

で定義します。これは (∂2+m2)ΔF(x−y)=−i δ4(x−y)(\partial^2+m^2)\Delta_F(x-y)=-i\,\delta^4(x-y) を満たすグリーン関数です。実際、微分を運動量表示で実行すると被積分関数の分子が i(−p2+m2)i(-p^2+m^2) となり、分母と約せて −i-i が残ります。

定理 5.2(自由場の生成汎関数)✓

iεi\varepsilon 処方(m2→m2−iεm^2\to m^2-i\varepsilon)の下で、自由スカラー場の生成汎関数は

Z0[J]=Z0[0] exp⁡[−12∬d4x d4y  J(x) ΔF(x−y) J(y)]Z_0[J]=Z_0[0]\,\exp\left[-\frac{1}{2}\iint d^4x\,d^4y\;J(x)\,\Delta_F(x-y)\,J(y)\right]

で与えられる。とくに 2 点関数は ⟨Ω∣T{ϕ^(x)ϕ^(y)}∣Ω⟩=ΔF(x−y)\langle\Omega|T\{\hat\phi(x)\hat\phi(y)\}|\Omega\rangle=\Delta_F(x-y) である。

証明の方針は、Appendix の多変数ガウス積分の公式を各時空点に変数をもつ場合に当てはめることです。行列 AA が演算子 DD に、ベクトル bb が外部源 JJ に対応し、平方完成で JJ の依存性を指数の肩に集めます。

証明(定理 5.2)

指数の肩を E[ϕ]=−12⟨ϕ,Dϕ⟩+⟨J,ϕ⟩\mathcal{E}[\phi]=-\tfrac12\langle\phi,D\phi\rangle+\langle J,\phi\rangle と書きます。ここで D=∂2+m2D=\partial^2+m^2、⟨f,g⟩=∫d4x f(x)g(x)\langle f,g\rangle=\int d^4x\,f(x)g(x) です。DD は部分積分について対称、すなわち ⟨f,Dg⟩=⟨Df,g⟩\langle f,Dg\rangle=\langle Df,g\rangle です。

変数の平行移動。 Dϕ0=JD\phi_0=J を満たす ϕ0\phi_0 を取ります。ΔF\Delta_F の性質から

ϕ0(x)=i∫d4y  ΔF(x−y)J(y)\phi_0(x)=i\int d^4y\;\Delta_F(x-y)J(y)

が解です(実際 Dϕ0=i∫(−iδ4(x−y))J(y)d4y=J(x)D\phi_0=i\int(-i\delta^4(x-y))J(y)d^4y=J(x) です)。ϕ=φ+ϕ0\phi=\varphi+\phi_0 と置くと

E[φ+ϕ0]=−12⟨φ,Dφ⟩−⟨φ,Dϕ0⟩+⟨J,φ⟩⏟=0−12⟨ϕ0,Dϕ0⟩+⟨J,ϕ0⟩\mathcal{E}[\varphi+\phi_0]=-\frac12\langle\varphi,D\varphi\rangle \underbrace{-\langle\varphi,D\phi_0\rangle+\langle J,\varphi\rangle}_{=0} -\frac12\langle\phi_0,D\phi_0\rangle+\langle J,\phi_0\rangle

となります。下括弧でくくった部分は Dϕ0=JD\phi_0=J と DD の対称性から消えます。残りの定数部分は −12⟨ϕ0,J⟩+⟨J,ϕ0⟩=12⟨J,ϕ0⟩-\tfrac12\langle\phi_0,J\rangle+\langle J,\phi_0\rangle=\tfrac12\langle J,\phi_0\rangle です。

測度の不変性。 格子離散化した段階では各点の積分変数の平行移動なのでヤコビアンは 1 であり、Dϕ=Dφ\mathcal{D}\phi=\mathcal{D}\varphi です。したがって

Z0[J]=exp⁡[i2⟨J,ϕ0⟩]∫Dφ  e−i2⟨φ,Dφ⟩=Z0[0] exp⁡[i2⋅i∬J(x)ΔF(x−y)J(y)]Z_0[J]=\exp\left[\frac{i}{2}\langle J,\phi_0\rangle\right]\int\mathcal{D}\varphi\;e^{-\frac{i}{2}\langle\varphi,D\varphi\rangle} =Z_0[0]\,\exp\left[\frac{i}{2}\cdot i\iint J(x)\Delta_F(x-y)J(y)\right]

となり、i⋅i=−1i\cdot i=-1 より主張の形を得ます。φ\varphi 積分は JJ を含まないので Z0[0]Z_0[0] そのものです。ここで iεi\varepsilon 処方は二つの役割を果たしています。DD の逆が一意に定まる(運動量表示で DD は −(p2−m2+iε)-(p^2-m^2+i\varepsilon) の掛け算になり、これは実の pp で 00 にならないので、逆は ΔF\Delta_F の積分表示で一意に決まる)ことと、ガウス積分 ∫Dφ e−i2⟨φ,Dφ⟩\int\mathcal{D}\varphi\,e^{-\frac i2\langle\varphi,D\varphi\rangle} が収束することです。

2 点関数。 ΔF\Delta_F の対称性 ΔF(x−y)=ΔF(y−x)\Delta_F(x-y)=\Delta_F(y-x) に注意して汎関数微分します。

1iδZ0δJ(x1)=1i(−∫d4y ΔF(x1−y)J(y))Z0[J]\frac{1}{i}\frac{\delta Z_0}{\delta J(x_1)}=\frac{1}{i}\left(-\int d^4y\,\Delta_F(x_1-y)J(y)\right)Z_0[J]

もう一度微分して J=0J=0 と置くと、JJ を含む項はすべて消え

1Z0[0]1i2δ2Z0δJ(x1)δJ(x2)∣J=0=−ΔF(x1−x2)i2=ΔF(x1−x2)\frac{1}{Z_0[0]}\left.\frac{1}{i^2}\frac{\delta^2Z_0}{\delta J(x_1)\delta J(x_2)}\right|_{J=0}=\frac{-\Delta_F(x_1-x_2)}{i^2}=\Delta_F(x_1-x_2)

が残ります。定義 5.1 によりこれが時間順序 2 点関数です。

定理 5.3(ウィックの定理(経路積分版))✓

自由場において、奇数個の場の相関関数は 00 であり、偶数個 2n2n の相関関数は

⟨Ω∣T{ϕ^(x1)⋯ϕ^(x2n)}∣Ω⟩=∑完全対分割  ∏対 (i,j)ΔF(xi−xj)\big\langle\Omega\big|T\{\hat\phi(x_1)\cdots\hat\phi(x_{2n})\}\big|\Omega\big\rangle =\sum_{\text{完全対分割}}\;\prod_{\text{対}\,(i,j)}\Delta_F(x_i-x_j)

で与えられる。和は {1,…,2n}\{1,\dots,2n\} を nn 個の順序なしペアに分ける (2n−1)!!(2n-1)!! 通りの分け方すべてにわたる。

証明(定理 5.3)

定理 5.2 より Z0[J]/Z0[0]=e−12⟨JΔFJ⟩Z_0[J]/Z_0[0]=e^{-\frac12\langle J\Delta_FJ\rangle} です。これを JJ で 1 回微分すると

1iδδJ(x) e−12⟨JΔFJ⟩=1i(−∫d4y ΔF(x−y)J(y))e−12⟨JΔFJ⟩\frac{1}{i}\frac{\delta}{\delta J(x)}\,e^{-\frac12\langle J\Delta_FJ\rangle} =\frac{1}{i}\left(-\int d^4y\,\Delta_F(x-y)J(y)\right)e^{-\frac12\langle J\Delta_FJ\rangle}

となります。すなわち微分は「JJ を 1 本生やす」か、既にある JJ に当たって「ΔF\Delta_F 1 個を残して JJ を 1 本消す」かのどちらかです。2n2n 回微分したあと J=0J=0 と置くと、JJ が 1 本でも残った項は消えます。生き残るのは、2n2n 個の微分がすべて互いにペアを組んで JJ を消し合った項だけです。

xix_i に対する微分が xjx_j の生やした JJ に当たったとき、残るのは ΔF(xi−xj)\Delta_F(x_i-x_j) と符号 (−1)/i2=1(-1)/i^2=1 です。より正確には、各ペアから (−1)(-1) が 1 個、1/i2=−11/i^2=-1 が 1 個出るので積は +1+1 となり、nn 個のペアすべてで符号は ++ です。ペアの作り方は {1,…,2n}\{1,\dots,2n\} の完全対分割に一対一対応し、その総数は (2n−1)!!(2n-1)!! です。奇数個の場合はペアを作りきれず必ず JJ が残るので 00 になります。

6. 摂動展開とファインマン・ダイアグラム

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相互作用を入れます。L=L0+Lint\mathcal{L}=\mathcal{L}_0+\mathcal{L}_{\mathrm{int}}、たとえば Lint=−λ4!ϕ4\mathcal{L}_{\mathrm{int}}=-\dfrac{\lambda}{4!}\phi^4 とします。結合定数を 4!4! で割る理由はすぐに分かります。

命題 6.1(相互作用項の外への繰り出し)✓

形式的べき級数の意味で

Z[J]=exp⁡[ i ⁣∫d4z  Lint ⁣(1iδδJ(z))] Z0[J]Z[J]=\exp\left[\,i\!\int d^4z\;\mathcal{L}_{\mathrm{int}}\!\left(\frac{1}{i}\frac{\delta}{\delta J(z)}\right)\right]\,Z_0[J]

が成り立つ。

証明(命題 6.1)

1iδδJ(z)ei∫Jϕ=ϕ(z) ei∫Jϕ\dfrac{1}{i}\dfrac{\delta}{\delta J(z)}e^{i\int J\phi}=\phi(z)\,e^{i\int J\phi} です。したがって任意の多項式 PP について

P ⁣(1iδδJ(z))ei∫Jϕ=P(ϕ(z)) ei∫JϕP\!\left(\frac{1}{i}\frac{\delta}{\delta J(z)}\right)e^{i\int J\phi}=P(\phi(z))\,e^{i\int J\phi}

が成り立ちます(単項式について繰り返し適用し、線形性で拡張します)。これを指数関数のべき級数の各項に適用すれば

exp⁡[i∫d4z Lint ⁣(1iδδJ)]ei∫Jϕ=exp⁡[i∫d4z Lint(ϕ)]ei∫Jϕ\exp\left[i\int d^4z\,\mathcal{L}_{\mathrm{int}}\!\left(\frac{1}{i}\frac{\delta}{\delta J}\right)\right]e^{i\int J\phi} =\exp\left[i\int d^4z\,\mathcal{L}_{\mathrm{int}}(\phi)\right]e^{i\int J\phi}

です。左辺の微分演算子は JJ にしか作用せず ϕ\phi 積分の外に出せるので、両辺に eiS0[ϕ]e^{iS_0[\phi]} を掛けて ∫Dϕ\int\mathcal{D}\phi を作用させれば主張を得ます。

注意 6.2(この展開は収束しない)

命題 6.1 の証明では、無限級数と経路積分の交換を正当化していません。実際、ϕ4\phi^4 理論の摂動級数は収束せず、漸近級数にとどまります。ダイソンの議論によれば、λ<0\lambda<0 ではポテンシャルが下に非有界になり理論が不安定なので、λ=0\lambda=0 のまわりに収束半径をもつことはあり得ません。nn 次の項の個数が n!n! のように増えることも同じ事実の別表現です。摂動論はあくまで小さい λ\lambda に対する漸近展開であり、この事実はくりこみを論じる際の前提になります。

命題 6.1 と 定理 5.3 を組み合わせると、任意の相関関数が ΔF\Delta_F の積の有限和として書けます。項の数は急速に増えますが、各項は「点をどう線で結んだか」というグラフで一意に指定できます。これがファインマン・ダイアグラムです。

次の例の数え上げは、頂点 zz から出る 4 本の足に、外点 x1,…,x4x_1,\dots,x_4 を一つずつ割り当てる並べ方の数です。図の線は一つの対分割に対応し、足を入れ替えても同じ図になるので、その重複が 4!4! 個になります。

例 6.3(4 点関数の最低次と、なぜ結合定数を 4!4! で割るのか)

λ\lambda の 1 次で 4 点関数の連結部分を計算します。命題 6.1 を 1 次まで展開すると、計算すべきは

⟨ϕ(x1)ϕ(x2)ϕ(x3)ϕ(x4)⋅i ⁣∫d4z(−λ4!)ϕ(z)4⟩0\left\langle \phi(x_1)\phi(x_2)\phi(x_3)\phi(x_4)\cdot i\!\int d^4z\left(-\frac{\lambda}{4!}\right)\phi(z)^4\right\rangle_0

です。定理 5.3 により、これを完全対分割の和に展開します。外点 4 個がすべて頂点 zz につながる(連結な)分割を数えましょう。ϕ(x1)\phi(x_1) の相手は ϕ(z)\phi(z) 4 個のうちどれでもよいので 4 通り、ϕ(x2)\phi(x_2) は残り 3 通り、ϕ(x3)\phi(x_3) は 2 通り、ϕ(x4)\phi(x_4) は 1 通りです。よって同じ値をもつ項が 4⋅3⋅2⋅1=4!=244\cdot3\cdot2\cdot1=4!=24 個現れます。これが 1/4!1/4! をちょうど打ち消します。

⟨ϕ1ϕ2ϕ3ϕ4⟩連結(1)=−iλ∫d4z  ΔF(x1−z)ΔF(x2−z)ΔF(x3−z)ΔF(x4−z)\big\langle\phi_1\phi_2\phi_3\phi_4\big\rangle^{(1)}_{\text{連結}} =-i\lambda\int d^4z\;\Delta_F(x_1-z)\Delta_F(x_2-z)\Delta_F(x_3-z)\Delta_F(x_4-z)

相互作用を λ/4!\lambda/4! と書いておくと、頂点因子がきれいに −iλ-i\lambda になります。これが 4!4! で割る理由です。運動量表示に移ると、zz 積分が運動量保存のデルタ関数 (2π)4δ4(p1+p2+p3+p4)(2\pi)^4\delta^4(p_1+p_2+p_3+p_4) を生み、各外線が ip2−m2+iε\dfrac{i}{p^2-m^2+i\varepsilon} を与えます。

x₁x₂x₃x₄zx₁x₂z(a) 4 点関数の 1 次(b) 自己エネルギーの 1 次
(a) 4 点関数の 項。4 本の伝播関数が 1 つの頂点 に集まる。(b) 2 点関数の 項(タドポール)。頂点から出た 2 本が自分自身と結ばれてループを作る。

この手続きを一般化すると、次のファインマン則(ϕ4\phi^4 理論、運動量表示)が得られます。

要素因子
内線(運動量 pp)ip2−m2+iε\dfrac{i}{p^2-m^2+i\varepsilon}
頂点−iλ-i\lambda、および運動量保存 (2π)4δ4(∑p)(2\pi)^4\delta^4(\textstyle\sum p)
独立なループ運動量∫d4k(2π)4\displaystyle\int\frac{d^4k}{(2\pi)^4}
対称因子図の自己同型の個数 SS で割る
真空泡(外線に繋がらない部分図)Z[0]Z[0] で割ることにより相殺される

注意 6.4(対称因子と真空泡)

例 6.3 では組合せ因子が 1/4!1/4! をちょうど打ち消しましたが、常にそうなるとは限りません。図が自己同型(線や頂点の入れ替えで自分自身に移る操作)をもつと、その分だけ数え上げが少なくなり、1/S1/S が残ります。演習 8.3 で S=2S=2 の例を計算します。

真空泡については、Z[J]Z[J] の分子に現れる非連結な真空図の総和が、ちょうど Z[0]Z[0] に等しくなります(連結クラスター定理)。したがって 定義 5.1 のように Z[0]Z[0] で割る規格化を採用すれば、真空泡は自動的に消えます。経路積分では、この事実が「指数関数の因子分解」として一行で見える点が利点です。

7. ゲージ理論の量子化:ファデーエフ–ポポフの方法

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経路積分の真価が現れるのはゲージ理論です。まず何が問題なのかを具体的に見ます。

例 7.1(マクスウェル作用の運動核は可逆でない)

自由電磁場の作用は S=−14∫d4x FμνFμνS=-\tfrac14\int d^4x\,F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}、Fμν=∂μAν−∂νAμF_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu です。部分積分すると

S=12∫d4x  Aμ(gμν∂2−∂μ∂ν)AνS=\frac12\int d^4x\;A^\mu\big(g_{\mu\nu}\partial^2-\partial_\mu\partial_\nu\big)A^\nu

となり、フーリエ変換(∂μ→−ikμ\partial_\mu\to-ik_\mu)して運動核は

Mμν(k)=−k2gμν+kμkνM_{\mu\nu}(k)=-k^2g_{\mu\nu}+k_\mu k_\nu

です。ところが Mμν(k) kν=−k2kμ+kμk2=0M_{\mu\nu}(k)\,k^\nu=-k^2k_\mu+k_\mu k^2=0 ですから、MM は kνk^\nu をゼロ固有ベクトルにもち、可逆ではありません。定理 5.2 の平方完成は D−1D^{-1} の存在に依存していたので、この段階で破綻します。伝播関数が定義できないのです。

原因は明白です。AμA_\mu と Aμ+∂μαA_\mu+\partial_\mu\alpha は局所 U(1) 変換(定義 3.1)[ゲージ理論と自発的対称性の破れ]で結ばれた同じ物理を表し、作用は両者で等しい値を取ります。∫DA\int\mathcal{D}A はこのゲージ軌道に沿って何度も同じ配位を数えており、軌道方向には作用がまったく変化しません。積分は軌道の体積という無限大の因子を含み、その方向の「ガウス積分」は発散します。

なお正準量子化でも同じ困難が別の顔で現れます。π0=∂L/∂A˙0=0\pi^0=\partial\mathcal{L}/\partial\dot A_0=0 という第一類拘束が生じ、ルジャンドル変換が特異になるため、ディラックの拘束系の量子化を経由しなければなりません。共変ゲージを取るとヒルベルト空間に負ノルム状態が入り、物理的状態の切り出しに補助条件が要ります。経路積分の処方は、この問題を「積分測度から冗長な方向を取り除く」という一点に還元します。

定理 7.2(ファデーエフ–ポポフの公式)✓

ゲージ群 G\mathcal{G} の元 α\alpha による変換を A↦AαA\mapsto A^\alpha と書き、作用 S[A]S[A] と測度 DA\mathcal{D}A がともにゲージ不変であるとする。ゲージ固定条件 G(A)=ωG(A)=\omega が、任意の AA に対して G(Aα)=ωG(A^\alpha)=\omega を満たす α\alpha をただ一つだけもつとする。このとき

∫DA  eiS[A]=Vol(G)∫DA  δ[G(A)−ω]  det⁡ ⁣(δG(Aα)δα)  eiS[A]\int\mathcal{D}A\;e^{iS[A]}=\mathrm{Vol}(\mathcal{G})\int\mathcal{D}A\;\delta\big[G(A)-\omega\big]\; \det\!\left(\frac{\delta G(A^\alpha)}{\delta\alpha}\right)\;e^{iS[A]}

が成り立つ。Vol(G)=∫Dα\mathrm{Vol}(\mathcal{G})=\int\mathcal{D}\alpha はゲージ軌道の体積で、物理量には寄与しない定数である。

ゲージ変換でつながった配位は同じ物理を表すので、その全体を一度だけ数えたい、というのがこの定理のねらいです。そこで、各ゲージ軌道を固定条件 G(A)=ωG(A)=\omega がちょうど 1 点で切るようにし、軌道に沿った積分を体積因子として外に出します。そのとき出る補正が行列式です。

証明(定理 7.2)

第 1 段:1 の分解。 仮定より、α\alpha について G(Aα)−ω=0G(A^\alpha)-\omega=0 の解は一意です。1 変数のデルタ関数の公式 ∫dx δ(f(x))∣f′(x)∣=1\int dx\,\delta(f(x))|f'(x)|=1 の汎関数版として

1=ΔFP[A]∫Dα  δ[G(Aα)−ω],ΔFP[A]=det⁡ ⁣(δG(Aα)δα)G(Aα)=ω1=\Delta_{\mathrm{FP}}[A]\int\mathcal{D}\alpha\;\delta\big[G(A^\alpha)-\omega\big], \qquad \Delta_{\mathrm{FP}}[A]=\det\!\left(\frac{\delta G(A^\alpha)}{\delta\alpha}\right)_{G(A^\alpha)=\omega}

が成り立ちます。ΔFP\Delta_{\mathrm{FP}} はヤコビ行列式です。

第 2 段:挿入と積分順序の交換。 この 11 を経路積分に挿入します。

∫DA eiS[A]=∫Dα∫DA  ΔFP[A]  δ[G(Aα)−ω]  eiS[A]\int\mathcal{D}A\,e^{iS[A]}=\int\mathcal{D}\alpha\int\mathcal{D}A\;\Delta_{\mathrm{FP}}[A]\;\delta\big[G(A^\alpha)-\omega\big]\;e^{iS[A]}

第 3 段:変数変換。 内側の積分で A→A−αA\to A^{-\alpha}(すなわち A′=A−αA'=A^{-\alpha} と置き A′A' を改めて AA と書く)と変数変換します。仮定より DA\mathcal{D}A はゲージ不変で、S[A−α]=S[A]S[A^{-\alpha}]=S[A] です。また ΔFP\Delta_{\mathrm{FP}} もゲージ不変です。なぜなら ΔFP[Aβ]−1=∫Dα δ[G(Aβα)−ω]\Delta_{\mathrm{FP}}[A^\beta]^{-1}=\int\mathcal{D}\alpha\,\delta[G(A^{\beta\alpha})-\omega] で、群の左不変測度の性質から α→β−1α\alpha\to\beta^{-1}\alpha の置換により ΔFP[A]−1\Delta_{\mathrm{FP}}[A]^{-1} に等しくなるからです。一方 δ[G((A−α)α)−ω]=δ[G(A)−ω]\delta[G((A^{-\alpha})^\alpha)-\omega]=\delta[G(A)-\omega] となり、α\alpha 依存性は被積分関数から完全に消えます。

第 4 段:軌道体積の分離。 よって α\alpha 積分は ∫Dα=Vol(G)\int\mathcal{D}\alpha=\mathrm{Vol}(\mathcal{G}) という全体因子として外に出せます。これが主張の式です。

ゲージ軌道(縦の線)ゲージ固定面 G(A)=ω
配位空間の模式図。縦の線がゲージ変換でつながる配位の集まり(ゲージ軌道)で、作用はどの軌道上でも一定である。横の線がゲージ固定面 で、各軌道をちょうど 1 回だけ横切る。

この定理の使い方を、ローレンツ型ゲージ条件 G(A)=∂μAμG(A)=\partial^\mu A_\mu で見ます。

ゲージ固定項の生成。 定理は任意の ω(x)\omega(x) について成り立ちますから、ω\omega について重み exp⁡[−i2ξ∫d4x ω2]\exp\big[-\dfrac{i}{2\xi}\int d^4x\,\omega^2\big] でガウス平均を取っても等式は保たれます(全体の定数因子が変わるだけです)。デルタ関数が ω=∂μAμ\omega=\partial^\mu A_\mu を強制するので、結果として作用に

−12ξ∫d4x (∂μAμ)2-\frac{1}{2\xi}\int d^4x\,\big(\partial^\mu A_\mu\big)^2

というゲージ固定項が加わります。この項があると 例 7.1 の運動核は Mμν=−k2gμν+(1−1ξ)kμkνM_{\mu\nu}=-k^2g_{\mu\nu}+\big(1-\tfrac1\xi\big)k_\mu k_\nu となり、ξ\xi が有限なら可逆になります(演習 8.4)。ξ\xi は物理量に現れてはならず、ξ\xi 依存性の相殺は計算の強力な検算になります。

ゴースト場の出現。 行列式 ΔFP\Delta_{\mathrm{FP}} の中身はゲージ群に依存します。可換な場合、Aμα=Aμ+1e∂μαA^\alpha_\mu=A_\mu+\tfrac1e\partial_\mu\alpha なので

δG(Aα)δα=1e ∂2\frac{\delta G(A^\alpha)}{\delta\alpha}=\frac{1}{e}\,\partial^2

となり AA を含みません。行列式は定数であり、規格化に吸収されます。これが量子電磁力学でゴーストを気にしなくてよい理由です。非可換な場合は Aμa→Aμa+1gDμabαbA^a_\mu\to A^a_\mu+\tfrac1g D^{ab}_\mu\alpha^b(Dμab=δab∂μ+gfacbAμcD^{ab}_\mu=\delta^{ab}\partial_\mu+gf^{acb}A^c_\mu)なので

δGa(Aα)δαb=1g ∂μDμab\frac{\delta G^a(A^\alpha)}{\delta\alpha^b}=\frac1g\,\partial^\mu D^{ab}_\mu

は AA に依存し、定数として括り出せません。そこで Appendix のグラスマン積分公式を逆向きに使い、行列式を反可換なスカラー場(ファデーエフ–ポポフ・ゴースト)ca,cˉac^a,\bar c^a の積分として表します。

det⁡ ⁣(∂μDμg)  ∝  ∫Dc Dcˉ  exp⁡[ i ⁣∫d4x  cˉ a(−∂μDμab)cb]\det\!\left(\frac{\partial^\mu D_\mu}{g}\right)\;\propto\;\int\mathcal{D}c\,\mathcal{D}\bar c\; \exp\left[\,i\!\int d^4x\;\bar c^{\,a}\big(-\partial^\mu D^{ab}_\mu\big)c^b\right]

ゴーストはスピン 0 でありながらフェルミ統計に従うので、スピンと統計の関係を破っています。しかし外線には現れず、ループの中でのみ働いて、ゲージ場の非物理的な偏極(縦波・スカラー波)の寄与を打ち消します。全体の理論は BRST 対称性という大域的対称性をもち、これが物理的状態空間の正定値性とユニタリ性を保証します。詳しくはゲージ理論と自発的対称性の破れを参照してください。

注意 7.3(グリボフ曖昧性)

定理 7.2 は「ゲージ軌道がゲージ固定面とちょうど 1 回交わる」という仮定に立っています。グリボフ(1978 年)は、非可換ゲージ理論のローレンツ型ゲージでは、この仮定が大域的には破れることを示しました。同じ物理を表す配位が固定面と複数回交わる(グリボフ・コピー)のです。摂動論では AA が小さい領域だけを扱うので影響はありませんが、非摂動領域では積分領域を第一グリボフ領域に制限するなどの追加の処方が必要になります。経路積分によるゲージ理論の量子化は、摂動論の範囲では完結していますが、非摂動的には未解決の問題を残しています。

演習 8.1易

例 3.5 の自由粒子の伝播関数が、合成則

∫−∞∞dq′  K0(qf,T2;q′,0) K0(q′,T1;qi,0)=K0(qf,T1+T2;qi,0)\int_{-\infty}^{\infty}dq'\;K_0(q_f,T_2;q',0)\,K_0(q',T_1;q_i,0)=K_0(q_f,T_1+T_2;q_i,0)

を満たすことを直接計算で確かめてください。

解答

左辺の指数の肩は im2ℏ[(qf−q′)2T2+(q′−qi)2T1]\dfrac{im}{2\hbar}\left[\dfrac{(q_f-q')^2}{T_2}+\dfrac{(q'-q_i)^2}{T_1}\right] です。q′q' について整理すると

im2ℏ[σq′2−2bq′+qf2T2+qi2T1],σ=1T1+1T2=T1+T2T1T2,b=qfT2+qiT1\frac{im}{2\hbar}\left[\sigma q'^2-2b q'+\frac{q_f^2}{T_2}+\frac{q_i^2}{T_1}\right], \qquad \sigma=\frac{1}{T_1}+\frac{1}{T_2}=\frac{T_1+T_2}{T_1T_2},\quad b=\frac{q_f}{T_2}+\frac{q_i}{T_1}

です。平方完成して q′q' 積分を実行します。Appendix のフレネル積分より ∫dq′ eimσ2ℏ(q′−b/σ)2=2πiℏmσ\displaystyle\int dq'\,e^{\frac{im\sigma}{2\hbar}(q'-b/\sigma)^2}=\sqrt{\frac{2\pi i\hbar}{m\sigma}} です。

前因子は

m2πiℏT2m2πiℏT12πiℏmσ=m2πiℏ⋅1T1T2σ=m2πiℏ(T1+T2)\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar T_2}}\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar T_1}}\sqrt{\frac{2\pi i\hbar}{m\sigma}} =\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar}}\cdot\frac{1}{\sqrt{T_1T_2\sigma}}=\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar(T_1+T_2)}}

となります(T1T2σ=T1+T2T_1T_2\sigma=T_1+T_2 を使いました)。残る指数は im2ℏ[qf2T2+qi2T1−b2σ]\dfrac{im}{2\hbar}\left[\dfrac{q_f^2}{T_2}+\dfrac{q_i^2}{T_1}-\dfrac{b^2}{\sigma}\right] です。角括弧の中を通分すると分子は

(qf2T1+qi2T2)(T1+T2)−(qfT1+qiT2)2=T1T2 (qf−qi)2(q_f^2T_1+q_i^2T_2)(T_1+T_2)-(q_fT_1+q_iT_2)^2=T_1T_2\,(q_f-q_i)^2

となり(qf2T12q_f^2T_1^2 と qi2T22q_i^2T_2^2 が相殺します)、分母は T1T2(T1+T2)T_1T_2(T_1+T_2) ですから、角括弧は (qf−qi)2T1+T2\dfrac{(q_f-q_i)^2}{T_1+T_2} です。よって左辺は

m2πiℏ(T1+T2)exp⁡[im(qf−qi)22ℏ(T1+T2)]=K0(qf,T1+T2;qi,0)\sqrt{\frac{m}{2\pi i\hbar(T_1+T_2)}}\exp\left[\frac{im(q_f-q_i)^2}{2\hbar(T_1+T_2)}\right]=K_0(q_f,T_1+T_2;q_i,0)

となり、主張が示されました。これは 定理 3.1 の分割操作が矛盾なく行えることの最小の確認になっています。

演習 8.2標準

例 3.6 の結果と 命題 4.2 を使い、1 次元調和振動子の分配関数が

Z(β)=12sinh⁡(βℏω/2)Z(\beta)=\frac{1}{2\sinh(\beta\hbar\omega/2)}

となることを示してください。またこれをエネルギー準位の和と比較してください。

解答

命題 4.2 より Z(β)=∫dq ⟨q∣e−βH^∣q⟩Z(\beta)=\int dq\,\langle q|e^{-\beta\hat H}|q\rangle であり、⟨q∣e−βH^∣q⟩\langle q|e^{-\beta\hat H}|q\rangle は 例 3.6 の KK で T=−iℏβT=-i\hbar\beta、qi=qf=qq_i=q_f=q と置いたものです。u=βℏωu=\beta\hbar\omega と書くと ωT=−iu\omega T=-iu で、sin⁡(−iu)=−isinh⁡u\sin(-iu)=-i\sinh u、cos⁡(−iu)=cosh⁡u\cos(-iu)=\cosh u です。

前因子は

mω2πiℏsin⁡ωT=mω2πiℏ⋅(−isinh⁡u)=mω2πℏsinh⁡u\sqrt{\frac{m\omega}{2\pi i\hbar\sin\omega T}}=\sqrt{\frac{m\omega}{2\pi i\hbar\cdot(-i\sinh u)}}=\sqrt{\frac{m\omega}{2\pi\hbar\sinh u}}

となり、実数になります(i⋅(−i)=1i\cdot(-i)=1)。指数は

iℏ⋅mω2(−isinh⁡u)[2q2cosh⁡u−2q2]=−mωℏ⋅cosh⁡u−1sinh⁡u q2=−mωℏtanh⁡u2 q2\frac{i}{\hbar}\cdot\frac{m\omega}{2(-i\sinh u)}\Big[2q^2\cosh u-2q^2\Big]=-\frac{m\omega}{\hbar}\cdot\frac{\cosh u-1}{\sinh u}\,q^2=-\frac{m\omega}{\hbar}\tanh\frac{u}{2}\,q^2

です(半角公式 (cosh⁡u−1)/sinh⁡u=tanh⁡(u/2)(\cosh u-1)/\sinh u=\tanh(u/2) を使いました)。qq 積分は通常のガウス積分で

∫dq  e−aq2=πa,a=mωℏtanh⁡u2\int dq\;e^{-aq^2}=\sqrt{\frac{\pi}{a}},\qquad a=\frac{m\omega}{\hbar}\tanh\frac{u}{2}

です。まとめると

Z=mω2πℏsinh⁡u⋅πℏmωtanh⁡(u/2)=12sinh⁡u tanh⁡(u/2)Z=\sqrt{\frac{m\omega}{2\pi\hbar\sinh u}}\cdot\sqrt{\frac{\pi\hbar}{m\omega\tanh(u/2)}}=\sqrt{\frac{1}{2\sinh u\,\tanh(u/2)}}

となります。sinh⁡u=2sinh⁡(u/2)cosh⁡(u/2)\sinh u=2\sinh(u/2)\cosh(u/2) と tanh⁡(u/2)=sinh⁡(u/2)/cosh⁡(u/2)\tanh(u/2)=\sinh(u/2)/\cosh(u/2) より、根号の中の分母は 4sinh⁡2(u/2)4\sinh^2(u/2) です。したがって Z=12sinh⁡(u/2)Z=\dfrac{1}{2\sinh(u/2)} を得ます。

比較のため展開すると

12sinh⁡(βℏω/2)=e−βℏω/21−e−βℏω=∑n=0∞e−βℏω(n+1/2)\frac{1}{2\sinh(\beta\hbar\omega/2)}=\frac{e^{-\beta\hbar\omega/2}}{1-e^{-\beta\hbar\omega}}=\sum_{n=0}^{\infty}e^{-\beta\hbar\omega(n+1/2)}

となり、エネルギー準位 En=ℏω(n+12)E_n=\hbar\omega(n+\tfrac12) をもつ系のトレースに一致します。零点エネルギー ℏω/2\hbar\omega/2 が前因子の e−βℏω/2e^{-\beta\hbar\omega/2} として現れている点に注目してください。演算子を一度も使わずにスペクトルを再現できました。

演習 8.3標準

Lint=−λ4!ϕ4\mathcal{L}_{\mathrm{int}}=-\dfrac{\lambda}{4!}\phi^4 の理論で、2 点関数の O(λ)O(\lambda) 補正(例 6.3 の直後の図 (b))を 定理 5.3 から求め、対称因子が 1/21/2 になることを示してください。また運動量表示でループ積分を書き下し、発散の次数を述べてください。

解答

計算すべきは

⟨ϕ(x1)ϕ(x2)⋅i ⁣∫d4z(−λ4!)ϕ(z)4⟩0\left\langle\phi(x_1)\phi(x_2)\cdot i\!\int d^4z\left(-\frac{\lambda}{4!}\right)\phi(z)^4\right\rangle_0

の連結部分です。ϕ(x1)\phi(x_1) の相手は ϕ(z)\phi(z) 4 個のいずれかで 4 通り、ϕ(x2)\phi(x_2) は残り 3 個から 1 つで 3 通り、残った ϕ(z)\phi(z) 2 個は互いに縮約するしかなく 1 通りです。よって同値な項は 4×3×1=124\times3\times1=12 個で、

−iλ4!⋅12∫d4z  ΔF(x1−z) ΔF(x2−z) ΔF(0)=−iλ2∫d4z  ΔF(x1−z)ΔF(x2−z)ΔF(0)-\frac{i\lambda}{4!}\cdot12\int d^4z\;\Delta_F(x_1-z)\,\Delta_F(x_2-z)\,\Delta_F(0) =-\frac{i\lambda}{2}\int d^4z\;\Delta_F(x_1-z)\Delta_F(x_2-z)\Delta_F(0)

となります。12/4!=1/212/4!=1/2 が残り、これが対称因子 S=2S=2 です。図の言葉でいえば、ループを作る 2 本の線を入れ替えても同じ図になるという自己同型が 1 個あることに対応します。

運動量表示では、ループ部分は

ΔF(0)=∫d4k(2π)4  ik2−m2+iε\Delta_F(0)=\int\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\;\frac{i}{k^2-m^2+i\varepsilon}

です。被積分関数は大きな ∣k∣|k| で ∣k∣−2|k|^{-2} のように振る舞い、測度が d4k∼∣k∣3d∣k∣d^4k\sim|k|^3d|k| なので、積分は ∫Λ∣k∣ d∣k∣∼Λ2\int^{\Lambda}|k|\,d|k|\sim\Lambda^2 のように2 次発散します。この発散をどう処理するかがくりこみの主題です(2 点関数の 1 ループ補正(例 3.2)[くりこみ理論入門])。ここでは、質量パラメータを実験値に合わせて再定義することで吸収されます。

演習 8.4難

例 7.1 の運動核にゲージ固定項 −12ξ(∂μAμ)2-\dfrac{1}{2\xi}(\partial^\mu A_\mu)^2 を加えたとき、新しい運動核が ξ\xi が有限なら可逆であることを示し、光子の伝播関数

D~μν(k)=−ik2+iε(gμν−(1−ξ)kμkνk2)\tilde D_{\mu\nu}(k)=\frac{-i}{k^2+i\varepsilon}\left(g_{\mu\nu}-(1-\xi)\frac{k_\mu k_\nu}{k^2}\right)

を導いてください。ξ=1\xi=1(ファインマン・ゲージ)と ξ=0\xi=0(ランダウ・ゲージ)での形も書いてください。

解答

ゲージ固定項を部分積分すると −12ξ(∂⋅A)2→12ξAμ∂μ∂νAν-\dfrac{1}{2\xi}(\partial\cdot A)^2\to\dfrac{1}{2\xi}A^\mu\partial_\mu\partial_\nu A^\nu です。∂μ→−ikμ\partial_\mu\to-ik_\mu より ∂μ∂ν→−kμkν\partial_\mu\partial_\nu\to-k_\mu k_\nu なので、この項の運動核への寄与は −1ξkμkν-\dfrac{1}{\xi}k_\mu k_\nu です。よって

Mμν(k)=−k2gμν+kμkν−1ξkμkν=−k2gμν+(1−1ξ)kμkνM_{\mu\nu}(k)=-k^2g_{\mu\nu}+k_\mu k_\nu-\frac1\xi k_\mu k_\nu=-k^2g_{\mu\nu}+\Big(1-\frac1\xi\Big)k_\mu k_\nu

です。逆行列を Nνρ=a(gνρ+bkνkρk2)N^{\nu\rho}=a\left(g^{\nu\rho}+b\dfrac{k^\nu k^\rho}{k^2}\right) と仮定して MμνNνρ=δμ ρM_{\mu\nu}N^{\nu\rho}=\delta_\mu^{\ \rho} を課します。

MμνNνρ=a[−k2δμ ρ+kμkρ{(1−1ξ)−b+b(1−1ξ)}]M_{\mu\nu}N^{\nu\rho}=a\left[-k^2\delta_\mu^{\ \rho}+k_\mu k^\rho\Big\{\Big(1-\frac1\xi\Big)-b+b\Big(1-\frac1\xi\Big)\Big\}\right]

kμkρk_\mu k^\rho の係数が消える条件は (1−1ξ)(1+b)=b\big(1-\tfrac1\xi\big)(1+b)=b、すなわち 1+b−1+bξ=b1+b-\dfrac{1+b}{\xi}=b から 1+bξ=1\dfrac{1+b}{\xi}=1、b=ξ−1b=\xi-1 です。残った項から −ak2=1-ak^2=1、a=−1/k2a=-1/k^2 を得ます。ξ\xi が有限なら bb は有限に定まるので、MM は可逆です(ξ→∞\xi\to\infty でゲージ固定項が消え、例 7.1 の非可逆な核に戻ります)。

定理 5.2 と同じ平方完成を行うと、作用が 12∫AMA\tfrac12\int A M A の形のとき伝播関数は iM−1iM^{-1} です(スカラー場では M=k2−m2M=k^2-m^2、伝播関数 i/(k2−m2)i/(k^2-m^2) で確認できます)。よって

D~νρ(k)=iNνρ=−ik2(gνρ+(ξ−1)kνkρk2)=−ik2(gνρ−(1−ξ)kνkρk2)\tilde D^{\nu\rho}(k)=iN^{\nu\rho}=\frac{-i}{k^2}\left(g^{\nu\rho}+(\xi-1)\frac{k^\nu k^\rho}{k^2}\right) =\frac{-i}{k^2}\left(g^{\nu\rho}-(1-\xi)\frac{k^\nu k^\rho}{k^2}\right)

となり、iεi\varepsilon 処方を復活させれば主張の形です。ξ=1\xi=1 では D~νρ=−igνρ/(k2+iε)\tilde D^{\nu\rho}=-ig^{\nu\rho}/(k^2+i\varepsilon) と最も簡単になり、ξ=0\xi=0 では D~νρ=−ik2+iε(gνρ−kνkρk2)\tilde D^{\nu\rho}=\dfrac{-i}{k^2+i\varepsilon}\left(g^{\nu\rho}-\dfrac{k^\nu k^\rho}{k^2}\right) で、kνD~νρ=0k_\nu\tilde D^{\nu\rho}=0 という横波条件を満たします。物理的な散乱振幅ではウォード恒等式により kμkνk_\mu k_\nu に比例する部分が落ちるため、ξ\xi 依存性は最終結果に現れません。

  • R. P. Feynman, “Space-Time Approach to Non-Relativistic Quantum Mechanics”, Reviews of Modern Physics 20 (1948), 367–387. DOI: 10.1103/RevModPhys.20.367 — 経路積分を初めて体系的に提示した原論文。
  • R. P. Feynman and A. R. Hibbs, Quantum Mechanics and Path Integrals, McGraw-Hill, 1965(Dover による訂正版, 2010)— 第 2 章・第 3 章に本記事の第 3 節に対応する議論があります。
  • M. E. Peskin and D. V. Schroeder, An Introduction to Quantum Field Theory, Addison-Wesley, 1995 — 第 9 章(Functional Methods)が生成汎関数とファインマン則、第 16 章が非可換ゲージ理論の量子化を扱います。
  • L. D. Faddeev and V. N. Popov, “Feynman diagrams for the Yang-Mills field”, Physics Letters B 25 (1967), 29–30. DOI: 10.1016/0370-2693(67)90067-6 — 第 7 節の方法の原論文。
  • 九後汰一郎『ゲージ場の量子論 I・II』培風館、1989 — ファデーエフ–ポポフ法と BRST 対称性を日本語で詳述しています。
  • B. Simon, Functional Integration and Quantum Physics, Academic Press, 1979 — トロッター積公式、ファインマン–カッツの公式など、注意 3.3 で触れた数学的側面を扱います。

Appendix: 使ったガウス積分の公式

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1 変数の実ガウス積分。 Re a>0\mathrm{Re}\,a>0 のとき

∫−∞∞dx  e−12ax2+bx=2πa  eb2/(2a)\int_{-\infty}^{\infty}dx\;e^{-\frac12ax^2+bx}=\sqrt{\frac{2\pi}{a}}\;e^{b^2/(2a)}

です。証明は平方完成と ∫e−x2/2dx=2π\int e^{-x^2/2}dx=\sqrt{2\pi} によります。aa が純虚数に近づく極限は、Re a>0\mathrm{Re}\,a>0 の領域からの解析接続で定義します。

フレネル型(振動)積分。 実数 c≠0c\neq0 に対して

∫−∞∞dx  ei2cx2=2π∣c∣  ei sgn(c) π/4=2πic\int_{-\infty}^{\infty}dx\;e^{\frac{i}{2}cx^2}=\sqrt{\frac{2\pi}{|c|}}\;e^{i\,\mathrm{sgn}(c)\,\pi/4} =\sqrt{\frac{2\pi i}{c}}

です(最後の表式は i=eiπ/4\sqrt{i}=e^{i\pi/4} の分枝の約束の下で成立します)。本文の 定理 3.1 と 例 3.5 ではこの形を使いました。

多変数版。 AA が実対称正定値の nn 次行列のとき

∫dnx  e−12xTAx+bTx=(2π)n/2det⁡A  e12bTA−1b\int d^nx\;e^{-\frac12x^{\mathsf T}Ax+b^{\mathsf T}x}=\frac{(2\pi)^{n/2}}{\sqrt{\det A}}\;e^{\frac12b^{\mathsf T}A^{-1}b}

です。AA を直交行列で対角化し、1 変数の公式を nn 回使えば得られます。振動型では、MM が実対称で可逆なとき

∫dnx  ei2xTMx+ibTx=(2π)n/2eiπσ/4∣det⁡M∣1/2  e−i2bTM−1b\int d^nx\;e^{\frac i2x^{\mathsf T}Mx+ib^{\mathsf T}x}=\frac{(2\pi)^{n/2}e^{i\pi\sigma/4}}{|\det M|^{1/2}}\;e^{-\frac i2b^{\mathsf T}M^{-1}b}

となります(σ\sigma は MM の符号数)。定理 5.2 の平方完成は、n→∞n\to\infty(各時空点に 1 変数)としたこの公式の形式的な適用です。M−1M^{-1} が伝播関数、bb が外部源に対応します。

グラスマン積分。 反可換な生成元 θi,θˉi\theta_i,\bar\theta_i(i=1,…,ni=1,\dots,n)に対するベレジン積分は ∫dθ θ=1\int d\theta\,\theta=1、∫dθ 1=0\int d\theta\,1=0 で定義され、

∫∏i=1ndθˉi dθi  exp⁡(−θˉTAθ)=det⁡A\int\prod_{i=1}^{n}d\bar\theta_i\,d\theta_i\;\exp\big(-\bar\theta^{\mathsf T}A\theta\big)=\det A

が成り立ちます。実数の積分では (det⁡A)−1/2(\det A)^{-1/2} が出たのに対し、行列式が分子に来る点が鍵で、これがゴースト場の役割そのものです。第 7 節ではこの公式を右から左に読み、行列式を場の積分として書き直しました。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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