曲面や曲がった空間の上で、各点に矢印(向きと大きさ)を置いたものが「ベクトル場」で、各点に「矢印を受け取って数を返す規則」を置いたものが「微分形式」です。この記事では両者を座標に頼らず正確に定義し、微分形式を微分する操作(外微分)を作ります。読み終えると、ベクトル解析の勾配・回転・発散が外微分という 1 つの操作の 3 つの姿であること、そして「2 回微分すると 0」という 1 本の式が 2 つの恒等式をまとめて説明することが分かります。
- ベクトル場は「各点に接ベクトルを滑らかに割り当てる規則」であり、正確には接バンドル TM の滑らかな切断として定義されます。滑らかさは、局所座標での成分が C∞ であることと同値です。
- 接空間 TpM の双対空間 Tp∗M(余接空間)を各点で束ねたものが余接バンドル T∗M で、その切断が 1 次微分形式です。座標変換のとき、ベクトル場の成分と 1 形式の成分は互いに逆の行列で変換されます(反変と共変)。
- k 次微分形式は、各点で接空間上の交代 k 重線形形式を与えるものです。dimM=n のとき各点のファイバーは (kn) 次元で、特に k>n では 0 になります。
- ウェッジ積 ∧ は結合的で、α∈Ωk、β∈Ωl に対し α∧β=(−1)klβ∧α という次数付き可換性を満たします。
- 外微分 d は「0 形式上では全微分」「ライプニッツ則(符号付き)」「d∘d=0」の 3 条件で一意に決まります。R3 ではこの d が grad、rot、div をまとめて表し、d∘d=0 が rotgrad=0 と divrot=0 の両方を同時に与えます。
多変数の微分積分では、線積分 ∫CF⋅dr、面積分 ∬SF⋅ndS、体積積分 ∭VfdV という 3 種類の積分を別々に学び、それらを結ぶ定理としてグリーンの定理・ストークスの定理・ガウスの発散定理を別々に覚えました。証明も、記号も、次元ごとにばらばらです。しかもベクトル解析の道具立ては R3 に強く依存しています。回転 rot が「ベクトル場からベクトル場」への作用素になるのは、3 次元では (23)=3 が偶然 3 に等しいからにすぎません。4 次元では (24)=6 なので、rot に相当するものはベクトル場になりません。
もうひとつの動機は座標です。多様体には大域座標がありません。微分可能多様体 はチャートを貼り合わせて作られており、量を成分で書けばチャートごとに違う数の組になります。したがって「M 上の量」として意味を持つのは、座標変換のもとで決まった規則で変換される対象だけです。一般相対論で計量やリーマン曲率を扱うとき、添字の上下(反変と共変)を厳密に区別するのはこのためです。
微分形式は、この 2 つの問題を同時に解きます。積分される対象を「k 次微分形式」という 1 種類に統一し、grad、rot、div を「外微分 d」という 1 つの作用素に統一し、3 つの積分定理を ストークスの定理(ストークスの定理(定理 6.1)[ストークスの定理])∫Mdω=∫∂Mω という 1 本の式に統一します。しかもこれらはすべて座標の取り方に依存しない形で述べられます。
鍵になるのは交代性です。dx∧dy=−dy∧dx という反対称性は、重積分の変数変換(変数変換公式(定理 6.7)[重積分と累次積分])で現れるヤコビアン(行列式)の符号を、記号のレベルで最初から組み込んだものです。この記事では、その代数(外積代数)を線形代数として構成し、多様体上に載せ、外微分を定義するところまでを行います。
以下、M は n 次元の C∞ 多様体(第二可算かつハウスドルフ)とします。p∈M における接空間を TpM と書き、その元は点 p での導分(derivation)、すなわち R 線形写像 v:C∞(M)→R で v(fg)=f(p)v(g)+g(p)v(f) を満たすものとします(点における導分の定義(定義 5.1)[接ベクトル空間と接バンドル])。詳しくは 接ベクトル空間と接バンドル を参照してください。
チャート (U,φ)、φ=(x1,…,xn) が与えられると、TpM は基底
∂x1∂p, …, ∂xn∂p,∂xi∂pf=∂ui∂(f∘φ−1)(φ(p))
を持ち、dimTpM=n です(導分の空間の基底(定理 5.4)[接ベクトル空間と接バンドル])。接バンドルは集合として TM=∐p∈MTpM であり、射影 π:TM→M、π(v)=p⟺v∈TpM とチャート (π−1(U), φ~)、φ~(∑ivi∂/∂xi∣p)=(x1(p),…,xn(p),v1,…,vn) によって 2n 次元多様体になります(接バンドルは 2n 次元多様体(定理 8.2)[接ベクトル空間と接バンドル])。
2 つのチャート (U,x)、(V,y) が重なるところでは、連鎖律から
∂xi∂p=j=1∑n∂xi∂yj(p) ∂yj∂p
が成り立ちます。この行列 J=(∂yj/∂xi) が以後くり返し現れます。
「M 上のベクトル場」とは直観的には各点に矢印を置くことですが、点ごとに矢印の住む空間 TpM が違うので、単なる写像 M→(何か 1 つの空間) にはなりません。正しい定式化は、行き先を TM にして「p に対応する値は TpM に入る」という条件を π で表すことです。
定義 3.1(バンドルの切断とベクトル場)↗
π:E→M を滑らかな全射とする。滑らかな写像 s:M→E が π∘s=idM を満たすとき、s を π の滑らかな切断(section)という。
特に π:TM→M の滑らかな切断を M 上の滑らかなベクトル場(vector field)といい、その全体を X(M) と書く。X∈X(M) の点 p での値を Xp∈TpM と書く。
条件 π∘s=idM は「s(p) がちょうど p 上のファイバー π−1(p)=TpM に属する」ことをそのまま述べたものです。下の図では、垂直な線分がファイバー、太い曲線が切断です。
バンドル π: E → M とその切断 s。各ファイバーとちょうど 1 点で交わる曲線が切断です。
ベクトル場をチャート (U,x) 上で見ると、各点で Xp=∑iXi(p)∂/∂xi∣p と一意に書けます。ここで得られる関数 Xi:U→R を X の成分といいます。定義に現れる「TM の多様体としての滑らかさ」を毎回確認するのは面倒なので、実用的な判定条件を用意します。
命題 3.2(ベクトル場の滑らかさの判定)✓
X を(滑らかさを仮定しない)TM の切断、すなわち各 p∈M に Xp∈TpM を与える対応とする。このとき次の 3 条件は同値である。
- X:M→TM は滑らかな写像である(つまり X∈X(M))。
- M のあるアトラスに属する各チャート (U,x) 上で、成分 X1,…,Xn はすべて C∞(U) に属する。
- 任意の開集合 V⊂M と任意の f∈C∞(V) に対し、関数 (Xf)(p):=Xpf は C∞(V) に属する。
証明(命題 3.2)
(1) ⇒ (2)。 チャート (U,x) に付随する TM のチャートを (π−1(U),φ~) とすると、第 2 節 の構成から φ~∘X∘φ−1(u)=(u, X1(φ−1(u)),…,Xn(φ−1(u))) です。滑らかな写像のチャート表示は C∞ ですから、右辺の後半 n 個の成分が C∞、すなわち Xi∈C∞(U) が従います。
(2) ⇒ (1)。 同じ等式を逆向きに読みます。Xi が C∞ なら φ~∘X∘φ−1 は C∞ で、チャートは M と TM をそれぞれ覆っているので、X は各点の近傍で滑らか、したがって滑らかです。
(2) ⇒ (3)。 V を開集合、f∈C∞(V)、p∈V とします。p を含むチャート (U,x) で U⊂V となるものを取れます(チャートの定義域を交わりに制限すればよい)。U 上では
(Xf)(q)=Xqf=i=1∑nXi(q)∂xi∂f(q)であり、右辺は C∞ 関数どうしの積と和なので C∞(U) に属します。p は任意なので Xf∈C∞(V) です。ここで仮定 (2) は「あるアトラス」に対するものですが、2 つのチャートの成分は 第 2 節 の行列 J で移り合い、J の成分は C∞ なので、C∞ 性はすべてのチャートで成り立ちます。
(3) ⇒ (2)。 チャート (U,x) を取ります。座標関数 xi は C∞(U) に属し、Xxi=∑jXj∂xi/∂xj=Xi です。条件 (3) を V=U、f=xi に適用すれば Xi∈C∞(U) を得ます。
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条件 (3) は「ベクトル場は C∞(M) 上の微分作用素である」という見方を与えます。実際、X:C∞(M)→C∞(M) は R 線形で X(fg)=fXg+gXf を満たし、逆にこの性質を持つ作用素はすべてベクトル場から来ることが知られています。
例 3.3(平面の回転場と極座標成分)
M=R2∖{0} 上のベクトル場 X=−y∂x∂+x∂y∂ を考えます。成分は X1=−y、X2=x で多項式なので C∞、命題 3.2 の (2) より X∈X(M) です。
これを極座標 (r,θ)、x=rcosθ、y=rsinθ で書き直します。第 2 節 の変換則を (x,y)→(r,θ) の向きに使うと
∂r∂=cosθ∂x∂+sinθ∂y∂,∂θ∂=−rsinθ∂x∂+rcosθ∂y∂です。−y=−rsinθ、x=rcosθ ですから、右の式と比べて X=∂θ∂ となります。つまり X は「角度方向に一定速度で回る」場です。成分は (x,y) 座標では (−y,x)、(r,θ) 座標では (0,1) と全く違って見えますが、同じ 1 つのベクトル場です。成分は座標に依存し、ベクトル場は依存しません。
ベクトル場が「接空間の元を集めたもの」なら、その双対を集めたものが 1 次微分形式です。なぜ双対が要るのかというと、積分したいのはベクトルに数を返す規則だからです。線積分 ∫CF⋅dr は、曲線の接ベクトルを食べて数を返す装置を曲線に沿って足し合わせたものです。
定義 4.1(余接空間・余接バンドル・1 形式)↗
p∈M に対し、TpM の双対ベクトル空間
Tp∗M:=(TpM)∗={ω:TpM→R ∣ ω は線形}を p における余接空間という。T∗M:=∐p∈MTp∗M に自然な射影 π:T∗M→M を入れたものを余接バンドルという(T∗M は TM と同様に 2n 次元多様体になる)。π:T∗M→M の滑らかな切断を 1 次微分形式(1-form)といい、その全体を Ω1(M) と書く。
また f∈C∞(M) に対し、dfp∈Tp∗M を dfp(v):=vf(v∈TpM)で定め、df∈Ω1(M) を f の微分という。
命題 4.2(座標微分は双対基底)✓
チャート (U,x) 上で、各 p∈U において (dx1∣p,…,dxn∣p) は (∂/∂x1∣p,…,∂/∂xn∣p) の双対基底である。すなわち
dxi∣p(∂xj∂p)=δji.したがって U 上の任意の 1 形式 ω は ω=∑i=1nωidxi(ωi=ω(∂/∂xi))と一意に書ける。さらに f∈C∞(U) に対し df=∑i=1n∂xi∂fdxi である。
証明(命題 4.2)
定義より dxi∣p(∂/∂xj∣p)=∂xi/∂xj(p) です。座標関数 xi のチャート表示は第 i 成分への射影 u↦ui なので、その uj に関する偏微分は δji です。これで第 1 式が示せました。
有限次元ベクトル空間 V の基底 (e1,…,en) に対し、ei(ej)=δji で定まる (e1,…,en) が V∗ の基底になることは双対空間の一般論です(ベクトル空間と線形変換 を参照)。よって ωp=∑icidxi∣p と一意に書け、両辺を ∂/∂xj∣p に施すと cj=ωp(∂/∂xj∣p) を得ます。
最後の式は、dfp(∂/∂xi∣p)=(∂/∂xi∣p)f=∂f/∂xi(p) に上の展開を適用したものです。
∎
次の命題が何を言っているかを、1 次元の小さな例で先に見ておきます。座標 x から y=2x に取り替えると、∂/∂x=2∂/∂y です。ベクトル X=X1∂/∂x の成分は X~1=2X1 と 2 倍になります。一方、dy=2dx なので 1 形式 ω=ω1dx は ω=21ω1dy と書き直され、成分は ω~1=ω1/2 と半分になります。同じ座標変換で、ベクトルの成分は伸び、1 形式の成分は縮む、つまり逆向きに変わります。
証明(命題 4.3)
第 1 式は 第 2 節 の等式 ∂/∂xi=∑j(∂yj/∂xi)∂/∂yj を X=∑iXi∂/∂xi に代入して ∂/∂yj の係数を比べたものです。
第 2 式は、命題 4.2 により ωi=ω(∂/∂xi) と書けることを使います。ここに再び ∂/∂xi=∑j(∂yj/∂xi)∂/∂yj を代入し、ω の線形性から
ωi=j∑∂xi∂yjω(∂yj∂)=j∑∂xi∂yjω~jを得ます。
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この非対称性が「上添字(反変)と下添字(共変)」の由来です。組み合わせ ω(X)=∑iωiXi が座標に依らない関数になるのは、2 つの変換則がちょうど打ち消し合うからです。一般相対論で計量テンソル gμν を使って添字を上げ下げする操作は、TpM と Tp∗M の同一視をひとつ選ぶことにほかなりません。
ここからは各点のファイバーだけを見て、純粋な線形代数を行います。V を n 次元実ベクトル空間とします(後で V=TpM とします)。
定義 5.1(交代 k 重線形形式)↗
k∈N とする。写像 ω:Vk→R が
- 各変数について線形(k 重線形)
- 交代的:ある a=b について va=vb ならば ω(v1,…,vk)=0
を満たすとき、ω を V 上の交代 k 重線形形式という。その全体を ΛkV∗ と書く。Λ0V∗:=R、Λ1V∗:=V∗ と約束する。
交代性から、任意の置換 σ∈Sk に対して ω(vσ(1),…,vσ(k))=sgn(σ)ω(v1,…,vk) が従います。実際、隣接互換 va↔va+1 について、ω(…,va+va+1,va+va+1,…)=0 を多重線形性で展開すると ω(…,va,va+1,…)+ω(…,va+1,va,…)=0 となり、任意の置換は隣接互換の積なので符号が付きます。
次の定義は、ω と η の引数の割り振り方をすべて足し合わせ、入れ替えた分だけ符号を付ける、という操作です。最小の場合 k=l=1 では、シャッフルは恒等置換と 2 つの引数の入れ替えの 2 通りだけで、(ω∧η)(v1,v2)=ω(v1)η(v2)−ω(v2)η(v1) となります。たとえば R2 の dx∧dy を (u,v) に施すと u1v2−u2v1、すなわち u,v の張る平行四辺形の向き付き面積です。u,v を入れ替えると符号が変わるのが、交代性です。
定義 5.2(ウェッジ積)↗
ω∈ΛkV∗、η∈ΛlV∗ に対し、(k,l) シャッフルの集合を
Sh(k,l):={σ∈Sk+l ∣ σ(1)<⋯<σ(k), σ(k+1)<⋯<σ(k+l)}とし、ω∧η∈Λk+lV∗ を
(ω∧η)(v1,…,vk+l):=σ∈Sh(k,l)∑sgn(σ) ω(vσ(1),…,vσ(k))η(vσ(k+1),…,vσ(k+l))で定める。k=0(ω=c∈R)のときは c∧η:=cη とする。
この規約(行列式規約)のもとで、ε1,…,εk∈V∗ に対し
(ε1∧⋯∧εk)(v1,…,vk)=det(εa(vb))a,b=1k
が成り立ちます。これは Sh(1,1,…,1)=Sk とライプニッツ展開そのものです。ウェッジ積が交代性を保つこと、双線形であること、そして結合的であることは 定理 5.3 にまとめます。
定理 5.3(外積代数の基本性質)✓
ω∈ΛkV∗、η∈ΛlV∗、ζ∈ΛmV∗、a,b∈R とする。
- ω∧η∈Λk+lV∗ であり、∧ は各変数について線形:(aω1+bω2)∧η=a(ω1∧η)+b(ω2∧η)、ω∧(aη1+bη2)=a(ω∧η1)+b(ω∧η2)。
- 結合律:(ω∧η)∧ζ=ω∧(η∧ζ)。
- 次数付き可換性:ω∧η=(−1)klη∧ω。とくに k が奇数なら ω∧ω=0。
証明(定理 5.3)
(1)。 多重線形性は各項が多重線形なことから明らかで、1 行で確かめられます。多重線形な形式については、隣り合う 2 つの引数が等しいときに 0 になることを示せば十分です(そのとき隣接互換で符号が反転するので、任意の互換で符号が反転し、離れた位置の等しい引数も隣り合わせに並べ替えて 0 が従います)。そこで v1,…,vk+l のうち va=va+1 とし、b=a+1 と書きます。a,b をともに前半に送るシャッフルの項は ω の交代性で 0、ともに後半に送る項は η の交代性で 0 になります。残るのは a,b が前後に分かれる項で、それらは a と b を入れ替える対応で 2 つずつ組になり、この対応で sgn が −1 倍になる一方 ω,η の値は変わらないので、和は打ち消し合って 0 です。したがって ω∧η は交代的です。線形性は定義式が ω と η について明らかに線形であることから従います。
(2)。 両辺がともに (k,l,m) シャッフルにわたる和
σ∈Sh(k,l,m)∑sgn(σ)ω(vσ(1),…)η(…)ζ(…)に等しいことを示します。詳細は Appendix に回します。
(3)。 τ∈Sk+l を τ(j)=k+j(1≤j≤l)、τ(l+i)=i(1≤i≤k)で定めます。τ は前半 l 個のブロックと後半 k 個のブロックを丸ごと入れ替える置換で、sgn(τ)=(−1)kl です(k 個の要素それぞれを l 個の要素の前から後ろへ通すのに互換が l 回必要で、合計 kl 回)。写像 σ↦σ∘τ は Sh(k,l) から Sh(l,k) への全単射です。これを使って
(η∧ω)(v1,…,vk+l)=ρ∈Sh(l,k)∑sgn(ρ)η(vρ(1),…)ω(vρ(l+1),…)において ρ=σ∘τ と置換すると、sgn(ρ)=(−1)klsgn(σ) であり、η の引数は vσ(k+1),…,vσ(k+l)、ω の引数は vσ(1),…,vσ(k) になります。実数の積は可換なので、右辺は (−1)kl(ω∧η)(v1,…,vk+l) に等しくなります。
最後に k が奇数のとき (3) は ω∧ω=−ω∧ω、すなわち 2ω∧ω=0 を与え、実数体上なので ω∧ω=0 です。
∎
定理 5.4(ΛkV∗ の基底と次元)✓
dimV=n とし、(e1,…,en) を V の基底、(e1,…,en) をその双対基底とする。1≤k≤n のとき、
{ei1∧⋯∧eik ∣ 1≤i1<i2<⋯<ik≤n}は ΛkV∗ の基底である。したがって dimΛkV∗=(kn) であり、k>n のとき ΛkV∗={0} である。
証明(定理 5.4)
記号として、狭義増加多重指数 I=(i1<⋯<ik) に対し eI:=ei1∧⋯∧eik、eJ:=(ej1,…,ejk) と書きます。
評価値の計算。 第 5 節 の行列式公式より eI(eJ)=det(eia(ejb))=det(δjbia) です。I も J も狭義増加なので、I=J ならこの行列は単位行列で行列式は 1、I=J なら I に属さない添字が J にあり、その列は零ベクトルになるので行列式は 0 です。よって eI(eJ)=δJI となります。
一次独立性。 ∑I′cIeI=0 とします。両辺を eJ(J は狭義増加)に施すと cJ=0 を得ます。J は任意なのですべての係数が 0 です。
生成性。 ω∈ΛkV∗ を取り、η:=∑I′ω(eI)eI とおきます。上の評価値から、狭義増加な J に対して η(eJ)=ω(eJ) です。ω−η は交代 k 重線形形式で、狭義増加な基底の組すべてで 0 になります。任意の基底の組 (ej1,…,ejk) は、添字が重複すれば交代性から値が 0、重複しなければ置換で狭義増加に並べ替えられて符号倍だけの差なので、やはり値は 0 です。多重線形性より、任意の v1,…,vk を基底で展開すれば (ω−η)(v1,…,vk)=0 が従います。よって ω=η です。
k>n のときは狭義増加な長さ k の添字列が存在しないので、上の議論の η は空和 0 となり ΛkV∗={0} です。
∎
例 5.5(Λ2(R3)∗ と外積・行列式)
V=R3、標準基底 (e1,e2,e3)、双対基底 (e1,e2,e3) とします。定理 5.4 より dimΛ2V∗=(23)=3 で、基底は e1∧e2, e1∧e3, e2∧e3 です。
具体的に u=(u1,u2,u3)、v=(v1,v2,v3) に対して
(e1∧e2)(u,v)=det(u1u2v1v2)=u1v2−u2v1となり、これはベクトル積 u×v の第 3 成分です。同様に e2∧e3 が第 1 成分、e3∧e1 が第 2 成分を与えます。つまり 3 次元でのベクトル積は「Λ2V∗ を Λ1V∗ と同一視した結果」であって、3 次元固有の現象です。dimΛ3V∗=(33)=1 で、e1∧e2∧e3(u,v,w)=det(u,v,w) はスカラー三重積です。ΛnV∗ が常に 1 次元であることが、「行列式は交代 n 重線形形式で det(id)=1 を満たす唯一のもの」という特徴づけ(行列式の特徴づけ(定理 4.2)[行列式とその性質])の正体です。
係数表示が一意であることは 定理 5.4(各点での基底)から従い、係数の C∞ 性がチャートの取り方に依らないことは、変換則が 命題 4.3 のヤコビ行列の小行列式(C∞ 関数)で書かれることから従います。ウェッジ積は各点ごとに施すことで Ωk(M)×Ωl(M)→Ωk+l(M) に持ち上がり、定理 5.3 の性質をそのまま保ちます。
さて、Ω0 上には全微分 f↦df がありました。これを全次数に拡張するのが外微分です。驚くべきことに、拡張はごく自然な 3 条件でほぼ強制されます。
定理 6.2(外微分の存在と一意性)✓
M を n 次元 C∞ 多様体とする。次の 3 条件を満たす R 線形写像の族 d:Ωk(M)→Ωk+1(M)(k=0,1,…,n)がただ 1 つ存在する。
- f∈Ω0(M)=C∞(M) に対し、df は 定義 4.1 の微分に一致する。
- (次数付きライプニッツ則)α∈Ωk(M)、β∈Ωl(M) に対し
d(α∧β)=dα∧β+(−1)kα∧dβ.
- d∘d=0、すなわち任意の α∈Ωk(M) に対し d(dα)=0。
さらにこの d は、チャート (U,x) 上で α=∑I′αIdxI と表されるとき
dα=I∑′dαI∧dxI=I∑′ j=1∑n∂xj∂αIdxj∧dxIで与えられる。
証明の前に、外微分が「局所的な」作用素であること、つまり形式の遠くの様子には依存しないことを確かめます。これは公理から導かれる事実で、局所座標での計算を正当化するために必要です。
この補題の証明では、バンプ関数を使います。これは、指定した点の近くでは値が 1、指定した開集合の外では 0 になる滑らかな関数のことです。「点 p の近くだけを残して、遠くを切り捨てる」ための道具で、これを掛けると形式を局所的な問題に帰着できます。
補題 6.3(外微分の局所性)✓
d が 定理 6.2 の条件 1〜3 を満たす作用素とする。α,β∈Ωk(M) が開集合 U⊂M 上で一致するならば、dα と dβ も U 上で一致する。
証明(補題 6.3)
γ:=α−β とおくと、d の線形性より dγ=dα−dβ なので、γ∣U=0 から dγ∣U=0 を示せば十分です。
p∈U を固定します。M は滑らかな多様体なので、φ∈C∞(M) で φ(p)=1 かつ suppφ⊂U となるバンプ関数が存在します。このとき積 φγ∈Ωk(M) は M 全体で 0 です。実際、q∈U では γq=0、q∈/U では φ(q)=0 だからです。
したがって d(φγ)=0 です。左辺に条件 2 を k=0(α=φ、β=γ)として適用すると
0=d(φ∧γ)=dφ∧γ+(−1)0φdγ=dφ∧γ+φdγ.これを点 p で評価します。p∈U なので γp=0、よって第 1 項は 0。また φ(p)=1 なので第 2 項は (dγ)p です。ゆえに (dγ)p=0 を得ます。p∈U は任意でした。
∎
次の証明は 3 段階です。(1) 条件 1〜3 を認めると、チャート上の d の値が公式の形に強制される(一意性)。(2) 逆に、その公式で d を定義すると条件 1〜3 が成り立つ(存在)。(3) 異なるチャートで作った d が重なりで一致し、M 全体の d に貼り合わさる。
証明(定理 6.2)
一意性(チャート上)。 d が条件 1〜3 を満たすとします。補題 6.3 により、d は各開集合 U 上の作用素 dU を誘導します(α∈Ωk(U) と p∈U に対し、バンプ関数で α を M 全体に延長したものの d の p での値を取ればよく、局所性からこれは延長の取り方に依りません)。この dU もまた条件 1〜3 を満たします。
チャート (U,x) を取り、α=∑I′αIdxI とします。座標関数 xi は C∞(U) に属するので、条件 1 より dxi=d(xi) であり、条件 3 を f=xi に適用すると d(dxi)=d(d(xi))=0 が得られます。次に条件 2 を繰り返し使うと
d(dxi1∧⋯∧dxik)=a=1∑k(−1)a−1dxi1∧⋯∧d(dxia)∧⋯∧dxik=0となります(各項に d(dxia)=0 が現れる)。よって再び条件 2(αI は 0 形式なので符号は +)と条件 1 から
dα=I∑′d(αI∧dxI)=I∑′(dαI∧dxI+αId(dxI))=I∑′dαI∧dxI.これで、チャート上での d の値は定理の式に一致することが強制されました。チャートは M を覆うので d は一意です。
存在。 逆に、各チャート (U,x) 上で dUα:=∑I′dαI∧dxI と定義し、条件 1〜3 を満たすことを確かめます。
条件 1:k=0 のとき多重指数は空で dUf=df です。
条件 2:α=∑I′αIdxI∈Ωk(U)、β=∑J′βJdxJ∈Ωl(U) とすると、双線形性から α∧β=∑I,J′αIβJdxI∧dxJ です。関数の微分に対するライプニッツ則 d(αIβJ)=βJdαI+αIdβJ を使うと
dU(α∧β)=I,J∑′(βJdαI+αIdβJ)∧dxI∧dxJ.第 1 項は (∑I′dαI∧dxI)∧(∑J′βJdxJ)=dUα∧β です。第 2 項では dβJ(1 形式)を dxI(k 形式)の右へ移す必要があり、定理 5.3 (3) より符号 (−1)k⋅1=(−1)k が出ます。したがって第 2 項は (−1)kα∧dUβ に等しく、条件 2 が成り立ちます。
条件 3:まず f∈C∞(U) に対し
dU(dUf)=dU(j∑∂xj∂fdxj)=j∑i∑∂xi∂xj∂2fdxi∧dxj.C∞ 関数の 2 階偏微分は順序交換可能(シュワルツの定理(定理 9.9)[多変数関数の微分と偏微分]、多変数関数の微分と偏微分 を参照)なので係数 ∂2f/∂xi∂xj は (i,j) について対称、一方 dxi∧dxj=−dxj∧dxi は反対称です。対称なものと反対称なものの縮約は 0 になります((i,j) と (j,i) の項が打ち消し合い、i=j の項は dxi∧dxi=0)。よって dUdUf=0 です。
一般の α=∑I′αIdxI については、上で示した条件 2 と dU(dxI)=0 を使って
dU(dUα)=I∑′dU(dαI∧dxI)=I∑′(=0dUdαI∧dxI−dαI∧=0dU(dxI))=0を得ます。
貼り合わせ。 2 つのチャート (U,x)、(V,y) の共通部分 U∩V 上では、dU と dV はともに条件 1〜3 を満たす作用素の制限なので、上で示した一意性の議論(U∩V を含むチャートに適用)により一致します。したがって dU たちは M 上の作用素 d に貼り合わさり、条件 1〜3 は局所的な主張なので d 自身も満たします。
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定義 6.4(閉形式と完全形式)↗
ω∈Ωk(M) が dω=0 を満たすとき閉形式、ある η∈Ωk−1(M) について ω=dη となるとき完全形式という。定理 6.2 の条件 3 より、完全形式は閉形式である。
例 6.5(R3 のベクトル解析は外微分の 3 つの姿)
M=R3、座標 (x,y,z) とします。定理 5.4 より dimΛk(TpR3)∗ は k=0,1,2,3 でそれぞれ 1,3,3,1 です。
Ω0→Ω1。 df=fxdx+fydy+fzdz。係数の並びは gradf です。
Ω1→Ω2。 ω=Pdx+Qdy+Rdz に対して、定理 6.2 の公式で計算します。
d(Pdx)d(Qdy)d(Rdz)=(Pxdx+Pydy+Pzdz)∧dx=−Pydx∧dy+Pzdz∧dx,=Qxdx∧dy−Qzdy∧dz,=Rydy∧dz−Rxdz∧dx(dx∧dx=0 と dy∧dx=−dx∧dy などを使いました)。足し合わせると
dω=(Ry−Qz)dy∧dz+(Pz−Rx)dz∧dx+(Qx−Py)dx∧dyとなり、係数の並びは rot(P,Q,R) そのものです。
Ω2→Ω3。 η=Ady∧dz+Bdz∧dx+Cdx∧dy に対し、dA∧dy∧dz=Axdx∧dy∧dz など(他の項は dy や dz が重複して消える)から
dη=(Ax+By+Cz)dx∧dy∧dzで、係数は div(A,B,C) です。
したがって d∘d=0 は、Ω0→Ω2 の合成として rot(gradf)=0 を、Ω1→Ω3 の合成として div(rotF)=0 を与えます。ベクトル解析で別々に証明していた 2 つの恒等式は、どちらも「偏微分の順序交換」という 1 つの事実の言い換えだったわけです。
3 次元ユークリッド空間上のド・ラーム複体と古典的ベクトル解析の対応
系 6.6(閉だが完全でない形式の存在)✓
M=R2∖{0} 上の 例 4.4 の 1 形式 ω=x2+y2−ydx+xdy は閉形式だが完全形式ではない。したがって 定義 6.4 の逆(閉ならば完全)は一般には成り立たない。
証明(系 6.6)
閉であることを直接計算します。定理 6.2 の公式より、r2:=x2+y2 として
dω=∂y∂(r2−y)dy∧dx+∂x∂(r2x)dx∧dy.∂y∂r2−y=r4−(r2)+y⋅2y=r4y2−x2、∂x∂r2x=r4r2−x⋅2x=r4y2−x2 であり、dy∧dx=−dx∧dy ですから
dω=(−r4y2−x2+r4y2−x2)dx∧dy=0.完全でないことは単位円に沿った線積分から従います。ω=df なら、単位円 C を γ(t)=(cost,sint)、t∈[0,2π] と径数付けたとき ∫Cω=f(γ(2π))−f(γ(0))=0 となるはずです。ところが γ 上で x=cost、y=sint、r2=1 なので
∫Cω=∫02π(−sint⋅(−sint)+cost⋅cost)dt=∫02π1dt=2π=0.矛盾するので、そのような f∈C∞(M) は存在しません。
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演習 7.1易
R3 上の 1 形式 α=xdy−ydx と 2 形式 β=zdx∧dy について、α∧β と dα を計算してください。また β∧α を計算し、定理 5.3 (3) と整合することを確かめてください。
解答
α∧β=(xdy−ydx)∧(zdx∧dy)=xzdy∧dx∧dy−yzdx∧dx∧dy です。dy が 2 回、dx が 2 回現れるので 定理 5.3 (3)(1 形式は ε∧ε=0)より両項とも 0、よって α∧β=0 です。
dα は 定理 6.2 の公式から
dα=dx∧dy−dy∧dx=dx∧dy+dx∧dy=2dx∧dy です。
β∧α も同じ理由で 0 です。k=1、l=2 なので (−1)kl=(−1)2=1、すなわち α∧β=β∧α が予言され、0=0 で整合しています。
演習 7.2標準
M=R2、f(x,y)=x2y とし、ベクトル場 X=y∂x∂+∂y∂ を考えます。
- Xf を計算してください。
- df を求め、df(X)=Xf を確かめてください。
- X が 命題 3.2 の意味で滑らかであることを述べてください。
解答
1. Xf=y∂x∂f+∂y∂f=y⋅2xy+x2=2xy2+x2 です。
2. 命題 4.2 より df=∂x∂fdx+∂y∂fdy=2xydx+x2dy です。これに X を代入すると、dx(X)=y、dy(X)=1 なので
df(X)=2xy⋅y+x2⋅1=2xy2+x2 となり、1 の答えと一致します。これは dfp(v)=vf という定義(定義 4.1)の言い換えにすぎません。
3. R2 の標準チャート(1 枚で全体を覆う)における成分は X1=y、X2=1 で、ともに C∞(R2) に属します。命題 3.2 の (2) ⇒ (1) より X∈X(R2) です。
演習 7.3標準
R3 上の 1 形式 ω=(2xy+z3)dx+x2dy+3xz2dz について、dω=0 を確かめ、ω=df となる f∈C∞(R3) を具体的に求めてください。
解答
例 6.5 の公式で P=2xy+z3、Q=x2、R=3xz2 とすると
Ry−Qz=0−0=0、Pz−Rx=3z2−3z2=0、Qx−Py=2x−2x=0 なので dω=0、すなわち ω は閉形式です。
完全性を示すため f を構成します。∂f/∂x=2xy+z3 から f=x2y+xz3+g(y,z) です。これを y で微分すると x2+gy=x2、よって gy=0、g=h(z) です。さらに z で微分すると 3xz2+h′(z)=3xz2、よって h′=0 です。したがって f(x,y,z)=x2y+xz3+C(C は定数)と取れます。実際 df=(2xy+z3)dx+x2dy+3xz2dz=ω です。
系 6.6 と違って今回うまくいったのは、定義域が R3 全体(星形)でポアンカレの補題(定理 3.4[de Rham コホモロジー])が使えるからです。
演習 7.4難
dimM=n とする。ω∈Ωk(M) が k 個の 1 形式のウェッジ積 ω=ε1∧⋯∧εk(各点で εpa は一次独立)と書けているとき、ωp=0 であることを示してください。また n=4 のとき、η=dx1∧dx2+dx3∧dx4 が 1 形式 2 つのウェッジ積として書けないことを示してください。
解答
前半。 εp1,…,εpk が Tp∗M で一次独立なら、これを Tp∗M の基底 (εp1,…,εpn) に延長できます。V=TpM の基底でその双対基底になるものを (u1,…,un) とすると、第 5 節 の行列式公式より
ωp(u1,…,uk)=det(εpa(ub))a,b≤k=det(δba)=1=0
なので ωp=0 です。
後半。 η∧η を計算します。定理 5.3 の双線形性から
η∧η=dx1∧dx2∧dx1∧dx2+2dx1∧dx2∧dx3∧dx4+dx3∧dx4∧dx3∧dx4
です(2 形式どうしなので (−1)2⋅2=1 より可換、それで係数 2 が出ます)。第 1 項と第 3 項は添字が重複するので 0、よって
η∧η=2dx1∧dx2∧dx3∧dx4=0 です。
一方もし η=ε∧ε′(ε,ε′ は 1 形式)と書けたなら
η∧η=ε∧ε′∧ε∧ε′
となり、ε′∧ε=−ε∧ε′(定理 5.3 (3)、k=l=1)で並べ替えると ε∧ε=0 を含む項になるので η∧η=0 です。これは上の計算と矛盾します。よって η は 1 形式 2 つのウェッジ積では書けません(2 形式は一般に「分解可能」ではない、という事実の最小の例です)。
- John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, 2nd ed., Springer GTM 218, 2013 — Chapter 8(ベクトル場)、Chapter 11(余接バンドル)、Chapter 14(微分形式と外微分)、Chapter 15(向き)。本記事の外微分の公理的特徴づけと局所性補題はこの流儀に従っています。
- Michael Spivak, Calculus on Manifolds, W. A. Benjamin, 1965 — Chapter 4。交代形式と外積代数を最短で構成し、ストークスの定理へ至る古典的な小著。
- 松島与三『多様体入門』裳華房、1965 — 第 3 章・第 5 章。日本語で書かれた標準的な教科書で、テンソル代数から微分形式への流れが丁寧です。
- 坪井俊『幾何学 III 微分形式』東京大学出版会、2008 — 微分形式とド・ラームコホモロジーを主題にした日本語のテキスト。
- Raoul Bott and Loring W. Tu, Differential Forms in Algebraic Topology, Springer GTM 82, 1982 — Chapter I。微分形式を位相不変量の計算道具として使う立場からの入門。
多重シャッフルによる統一的な表示。 定理 5.3 (2) の証明を補います。k,l,m∈N に対し
Sh(k,l,m):={σ∈Sk+l+m ∣ σ は 3 つのブロック [1,k], [k+1,k+l], [k+l+1,k+l+m] の各々で狭義増加}
とおきます。示したいのは、ω∈ΛkV∗、η∈ΛlV∗、ζ∈ΛmV∗ に対して (ω∧η)∧ζ と ω∧(η∧ζ) がともに
T(v1,…,vk+l+m):=σ∈Sh(k,l,m)∑sgn(σ) ω(vσ(1),…)η(vσ(k+1),…)ζ(vσ(k+l+1),…)
に等しいことです。
左結合の側の計算。 定義より (ω∧η)∧ζ は τ∈Sh(k+l,m) にわたる和で、各項に (ω∧η)(vτ(1),…,vτ(k+l)) が現れます。これをさらに ρ∈Sh(k,l) にわたって展開すると、二重和の各項は置換 σ:=τ∘ρ^ で指定されます。ここで ρ^∈Sk+l+m は ρ を最初の k+l 個に作用させ、残り m 個を固定する置換です。
写像 (τ,ρ)↦τ∘ρ^ が Sh(k+l,m)×Sh(k,l) から Sh(k,l,m) への全単射であることを見ます。σ=τ∘ρ^ は 3 ブロックの各々で狭義増加です(τ が [1,k+l] と [k+l+1,k+l+m] で増加し、ρ^ が最初のブロックを [1,k] と [k+1,k+l] に増加的に分ける)。逆に σ∈Sh(k,l,m) が与えられたとき、値の集合 σ([1,k])∪σ([k+1,k+l]) を昇順に並べる置換として τ が、その中での分け方として ρ が一意に定まります。さらに sgn(σ)=sgn(τ)sgn(ρ^)=sgn(τ)sgn(ρ) です。したがって二重和は Sh(k,l,m) 上の 1 つの和 T にまとまります。
右結合の側。 同様に ω∧(η∧ζ) では Sh(k,l+m)×Sh(l,m)→Sh(k,l,m) の全単射(後半 l+m 個を分割する側)を使い、やはり T に等しくなります。実数の積は結合的なので、両者の各項は同じ 3 つの値の積です。以上で (ω∧η)∧ζ=T=ω∧(η∧ζ) が示されました。
外微分の座標に依らない公式。 参考として、ω∈Ω1(M) と X,Y∈X(M) に対し
dω(X,Y)=X(ω(Y))−Y(ω(X))−ω([X,Y])
が成り立ちます。ここで [X,Y]:=XY−YX(C∞(M) 上の作用素としての交換子)はリー括弧と呼ばれるベクトル場です。この式は座標を一切使わずに d を特徴づけており、リー群論や接続の理論で標準的に用いられます。座標 ω=∑iωidxi、X=∑iXi∂/∂xi、Y=∑jYj∂/∂xj を代入して両辺を展開すれば、定理 6.2 の局所公式と一致することが確かめられます。