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位相空間の定義と基本概念:距離を捨てても「近さ」は残る

前提:数学の国語:集合と論理を正確に読み書きする実数の完備性とコーシー列:解析学を支える「穴のなさ」

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  • 距離 dd の数値そのものが使われるのは「どの集合を開集合と呼ぶか」を決める場面だけです。連続・収束・閉包といった解析の基本概念は、開集合の族さえ与えられれば距離なしで定義できます。
  • 距離空間の開集合の全体は、(O1) 空集合と全体集合を含む、(O2) 任意個の合併で閉じる、(O3) 有限個の交わりで閉じる、という3性質を持ちます。この3つだけを公理として採用したものが位相空間です。
  • (O3) の「有限個」は落とせません。n1(1/n,1/n)={0}\bigcap_{n\ge 1}(-1/n,\,1/n)=\{0\} が開でないことがその証拠です。
  • 位相は距離から来るものばかりではありません。密着位相・順序位相・ザリスキー位相(余有限位相)は、距離では決して作れない位相を含みます。
  • 近傍・内部・閉包・境界はすべて開集合族だけから定義できます。閉包 A\overline{A} は「AA を含む最小の閉集合」と「どの近傍も AA と交わる点の全体」という2つの顔を持ち、この2つの言い換えが位相空間論の計算の要になります。

微分積分学で関数の連続性を定義するとき、私たちは ε\varepsilon-δ\delta 論法を使いました。「xxaa に十分近ければ f(x)f(x)f(a)f(a) に十分近い」という言明を、xa<δ|x-a| < \deltaf(x)f(a)<ε|f(x)-f(a)| < \varepsilon という2つの不等式で書き下したわけです。ここでは「近い」を測る道具として実数の絶対値、すなわち距離が使われています。

この構造を一般の集合に移植したのがモーリス・フレシェで、1906 年の学位論文において、点の集合に「2 点の隔たり」を与える関数の公理系を導入しました。これが今日の距離空間です。距離さえあれば、収束・連続・コンパクト性を数直線の外でも論じられます。ここまでは自然な一般化です。

ところが 20 世紀に入ると、距離では扱いきれない「近さ」が次々に現れました。3 つ挙げます。

第一に、関数列の各点収束です。区間 [0,1][0,1] 上の実数値関数全体という巨大な集合を考えると、一様収束を表す近さは上限距離 suptf(t)g(t)\sup_t |f(t)-g(t)| で書けます(関数列と一様収束 を参照してください)。しかし各点収束を表す近さは、どんな距離からも得られないことが知られています。「収束」という概念があるのに、それを生む距離が存在しないのです。

第二に、商をとる操作です。実数直線 R\mathbb{R} の 2 点 x,yx,y を「xyx-y が有理数」のとき同一視して得られる商集合には R\mathbb{R} から自然に位相が誘導されますが、その開集合は空集合と全体集合の 2 つしかありません。距離空間では相異なる 2 点を交わらない開集合で必ず分離できるので(命題 3.5)、これはどんな距離からも来ない位相です。

第三に、代数幾何学です。体 kk の上で、多項式の共通零点として書ける集合を閉集合と定めると、これも位相の公理を満たします(ザリスキー位相)。1 変数の場合、空でない開集合は「有限個の点を除いた全体」であり、どの 2 つの空でない開集合も必ず交わります。距離の直感からはかけ離れていますが、多項式でしか図形を切り出せない世界では、これが正しい「近さ」なのです。

一方で、距離空間で書かれた証明を読み返すと、d(x,y)d(x,y) の具体的な値はほとんど使われていないことに気づきます。使われているのは「xx を中心とする十分小さい球がすっぽり UU に入る」という形の主張ばかりです。つまり距離は、どの集合が「その各点のまわりに余裕を持つ集合」かを指定するためだけに使われている。それならば、その「余裕を持つ集合」の族を最初から与えてしまえばよい。この発想の転換が位相空間です。フェリックス・ハウスドルフは 1914 年の『集合論基礎』で近傍系による公理化を与え、その後、開集合族による同値な定式化が標準になりました。

抽象化の見返りは大きいものでした。位相だけで定義できる性質のうち、コンパクト性と連結性は特に強力です。閉区間上の連続関数が最大値をとること、中間値をとることは、R\mathbb{R} の細かい構造ではなく [a,b][a,b] のコンパクト性・連結性から従います(コンパクト性連結性)。前者は 最大値・最小値の定理(系 6.2)[コンパクト性]、後者は 中間値の定理(定理 6.1)[連結性] として、位相の言葉だけで証明されます。この記事はその出発点として、位相空間の定義そのものを組み立てます。

2. 距離空間:近さを数値で測る

Section titled “2. 距離空間:近さを数値で測る”

まず出発点となる距離空間を正確に定義します。以下、XX は空でない集合とします。

定義 2.1距離空間

集合 XX 上の写像 d ⁣:X×XRd\colon X\times X\to\mathbb{R} が次の 3 条件を満たすとき、ddXX 上の距離といい、組 (X,d)(X,d)距離空間といいます。

  • (M1) 任意の x,yXx,y\in X に対して、d(x,y)=0d(x,y)=0 であることと x=yx=y であることは同値。
  • (M2) 任意の x,yXx,y\in X に対して d(x,y)=d(y,x)d(x,y)=d(y,x)
  • (M3) 任意の x,y,zXx,y,z\in X に対して d(x,z)d(x,y)+d(y,z)d(x,z)\le d(x,y)+d(y,z)(三角不等式)。

また xXx\in X と実数 r>0r>0 に対して

Bd(x,r)={yX  :  d(x,y)<r}B_d(x,r)=\{\,y\in X \;:\; d(x,y) < r\,\}

xx を中心とする半径 rr開球といいます。距離が文脈から明らかなときは B(x,r)B(x,r) と書きます。

注意 2.2

非負性 d(x,y)0d(x,y)\ge 0 を 4 つ目の公理に挙げる本もありますが、(M1)–(M3) から導けます。(M3) で z=xz=x とすると d(x,x)d(x,y)+d(y,x)d(x,x)\le d(x,y)+d(y,x) です。左辺は (M1) より 00、右辺は (M2) より 2d(x,y)2d(x,y) ですから 02d(x,y)0\le 2d(x,y)、すなわち d(x,y)0d(x,y)\ge 0 を得ます。

例 2.3ユークリッド距離・マンハッタン距離・チェビシェフ距離

X=RnX=\mathbb{R}^n とし、x=(x1,,xn)x=(x_1,\dots,x_n)y=(y1,,yn)y=(y_1,\dots,y_n) に対して

d1(x,y)=i=1nxiyi,d2(x,y)=(i=1n(xiyi)2)1/2,d(x,y)=max1inxiyid_1(x,y)=\sum_{i=1}^{n}|x_i-y_i|,\qquad d_2(x,y)=\Bigl(\sum_{i=1}^{n}(x_i-y_i)^2\Bigr)^{1/2},\qquad d_\infty(x,y)=\max_{1\le i\le n}|x_i-y_i|

と定めます。順にマンハッタン距離(碁盤の目状の街路を歩く距離)、ユークリッド距離チェビシェフ距離と呼ばれます。

(M1) を d1d_1 について確かめます。d1(x,y)=0d_1(x,y)=0 とすると、非負の実数の有限和が 00 なので各項が 00、すなわちすべての iixi=yix_i=y_i、つまり x=yx=y です。逆は代入すれば 00 です。d2d_2dd_\infty も同様に「各成分が一致すること」に帰着します。(M2) は xiyi=yixi|x_i-y_i|=|y_i-x_i| からただちに従います。

(M3) を確かめます。d1d_1 については、各成分に実数の三角不等式 xizixiyi+yizi|x_i-z_i|\le |x_i-y_i|+|y_i-z_i| を適用し、i=1,,ni=1,\dots,n について足し合わせれば得られます。dd_\infty については、各 ii

xizixiyi+yizid(x,y)+d(y,z)|x_i-z_i|\le |x_i-y_i|+|y_i-z_i|\le d_\infty(x,y)+d_\infty(y,z)

が成り立ち、右辺は ii によらないので、左辺の最大値をとって d(x,z)d(x,y)+d(y,z)d_\infty(x,z)\le d_\infty(x,y)+d_\infty(y,z) となります。d2d_2 については、a=xya=x-yb=yzb=y-z とおき、a=(ai2)1/2\|a\|=(\sum a_i^2)^{1/2}a,b=aibi\langle a,b\rangle=\sum a_ib_i と書くと、コーシー・シュワルツの不等式 a,bab\langle a,b\rangle\le\|a\|\,\|b\| から

a+b2=a2+2a,b+b2a2+2ab+b2=(a+b)2\|a+b\|^2=\|a\|^2+2\langle a,b\rangle+\|b\|^2\le \|a\|^2+2\|a\|\,\|b\|+\|b\|^2=(\|a\|+\|b\|)^2

となり、両辺の平方根をとれば d2(x,z)=a+ba+b=d2(x,y)+d2(y,z)d_2(x,z)=\|a+b\|\le\|a\|+\|b\|=d_2(x,y)+d_2(y,z) を得ます。

この 3 つの距離の間には、任意の x,yx,y に対して

d(x,y)    d2(x,y)    d1(x,y)    nd(x,y)d_\infty(x,y)\;\le\; d_2(x,y)\;\le\; d_1(x,y)\;\le\; n\,d_\infty(x,y)

という関係があります。実際、ai=xiyia_i=|x_i-y_i| とおくと、maxiai2iai2\max_i a_i^2\le\sum_i a_i^2 の平方根から 1 番目の不等式が、(iai)2=iai2+ijaiajiai2\bigl(\sum_i a_i\bigr)^2=\sum_i a_i^2+\sum_{i\ne j}a_ia_j\ge\sum_i a_i^2ai0a_i\ge 0 なので交差項は非負)の平方根から 2 番目が、各項が最大値以下であることから 3 番目が従います。この不等式の列は演習で使います。

d₁(マンハッタン)d₂(ユークリッド)d∞(チェビシェフ)
R^2 における 3 つの距離の単位球、すなわち原点からの距離が 1 未満の点全体。距離を変えると「近い」の形そのものが変わる。

例 2.4離散距離と関数空間の距離

(1) 離散距離。 任意の集合 XX に対し、x=yx=y のとき d(x,y)=0d(x,y)=0xyx\ne y のとき d(x,y)=1d(x,y)=1 と定めます。(M1)(M2) は定義そのものです。(M3) を確かめます。x=zx=z のときは左辺が 00 で、右辺は非負なので成立します。xzx\ne z のときは左辺が 11 です。このとき yyxxzz の少なくとも一方とは異なります(もし y=xy=x かつ y=zy=z なら x=zx=z となって矛盾)。したがって右辺の 2 項のうち少なくとも一方が 11 で、右辺は 11 以上です。よって (M3) が成り立ちます。

(2) 連続関数の空間の一様距離。 C[0,1]C[0,1][0,1][0,1] 上の実数値連続関数全体とし、d(f,g)=supt[0,1]f(t)g(t)d_\infty(f,g)=\sup_{t\in[0,1]}|f(t)-g(t)| と定めます。有界閉区間上の連続関数は有界なので、この上限は有限の実数です。(M1) は「すべての ttf(t)=g(t)f(t)=g(t)」が f=gf=g の定義そのものであることから従います。(M3) は、各 tt について

f(t)h(t)f(t)g(t)+g(t)h(t)d(f,g)+d(g,h)|f(t)-h(t)|\le |f(t)-g(t)|+|g(t)-h(t)|\le d_\infty(f,g)+d_\infty(g,h)

が成り立ち、右辺が tt によらないので、左辺の上限をとればよいことから従います。この距離での収束が一様収束です。

(3) 同じ集合に別の距離。 同じ C[0,1]C[0,1]d1(f,g)=01f(t)g(t)dtd_1(f,g)=\int_0^1|f(t)-g(t)|\,dt を入れることもできます。(M3) は各点での不等式を積分すれば得られ、(M1) は「連続かつ非負な hh01h=0\int_0^1 h=0 を満たせば h0h\equiv0」(もし h(t0)>0h(t_0)>0 なら連続性より t0t_0 のまわりの長さ δ>0\delta>0 の区間で h>h(t0)/2h>h(t_0)/2 となり、積分が δh(t0)/2>0\delta h(t_0)/2>0 以上になって矛盾)から従います。この 2 つの距離は同じ集合の上にありながら違う近さを与えます(L^p空間と関数解析への導入)。

3. 距離空間の開集合:距離が本当に働いている場所

Section titled “3. 距離空間の開集合:距離が本当に働いている場所”

距離空間の議論を「開集合」という言葉に翻訳します。ここが位相空間への橋です。

定義 3.1距離空間の開集合・閉集合

(X,d)(X,d) を距離空間とします。部分集合 UXU\subseteq Xdd に関する開集合であるとは、

xU, r>0,B(x,r)U\forall x\in U,\ \exists r>0,\quad B(x,r)\subseteq U

が成り立つことをいいます。すなわち UU のどの点も、UU からはみ出さない余裕を持っているということです。補集合 XFX\setminus F が開集合であるような FXF\subseteq X閉集合といいます。

空集合 \emptyset は開集合です。「任意の xx\in\emptyset に対して…」という主張は、条件を満たす xx が 1 つも存在しないので空虚に真だからです(この種の量化子の扱いは 数学の国語 - 集合と論理 を参照してください)。この確認を飛ばすと、後で公理 (O1) が成り立つ理由が曖昧になります。

命題 3.2開球は開集合

(X,d)(X,d) を距離空間とすると、任意の xXx\in Xr>0r>0 に対し、開球 B(x,r)B(x,r)定義 3.1 の意味で開集合です。

証明(命題 3.2)

yB(x,r)y\in B(x,r) を任意にとります。定義より d(x,y)<rd(x,y) < r なので、ρ:=rd(x,y)\rho := r-d(x,y) は正の実数です。この ρ\rho が求めるものであることを示します。zB(y,ρ)z\in B(y,\rho) とすると、三角不等式 (M3)(定義 2.1)より

d(x,z)d(x,y)+d(y,z)<d(x,y)+ρ=d(x,y)+(rd(x,y))=rd(x,z)\le d(x,y)+d(y,z) < d(x,y)+\rho = d(x,y) + \bigl(r-d(x,y)\bigr) = r

となるので zB(x,r)z\in B(x,r) です。よって B(y,ρ)B(x,r)B(y,\rho)\subseteq B(x,r) が成り立ち、yy は任意だったので B(x,r)B(x,r) は開集合です。

この命題は「開球」という名前が正当であることを保証すると同時に、以下の証明で繰り返し使う基本道具になります。次が本節の主定理で、位相空間の公理はここから抜き出されます。

定理 3.3距離空間の開集合族の性質

(X,d)(X,d) を距離空間とし、Od\mathcal{O}_ddd に関する開集合全体の族とします。このとき次が成り立ちます。

  • (O1) Od\emptyset\in\mathcal{O}_d かつ XOdX\in\mathcal{O}_d
  • (O2) Λ\Lambda を任意の(有限とは限らない)添字集合とし、各 λΛ\lambda\in\Lambda に対し UλOdU_\lambda\in\mathcal{O}_d とすると、λΛUλOd\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda\in\mathcal{O}_d
  • (O3) nn を自然数とし、U1,,UnOdU_1,\dots,U_n\in\mathcal{O}_d とすると、k=1nUkOd\bigcap_{k=1}^{n}U_k\in\mathcal{O}_d
証明(定理 3.3)

(O1):\emptyset が開であることは前段で述べたとおり、条件が空虚に真だからです。XX については、任意の xXx\in X に対して B(x,1)XB(x,1)\subseteq X が成り立つので開です。

(O2):U=λΛUλU=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda とし、xUx\in U とします。合併の定義より、ある λ0Λ\lambda_0\in\Lambda が存在して xUλ0x\in U_{\lambda_0} です。Uλ0U_{\lambda_0} は開集合なので、ある r>0r>0B(x,r)Uλ0B(x,r)\subseteq U_{\lambda_0} となります。Uλ0UU_{\lambda_0}\subseteq U ですから B(x,r)UB(x,r)\subseteq U です。xx は任意だったので UU は開集合です。ここで Λ\Lambda の大きさは一切使っていないことに注意してください。

(O3):まず n=2n=2 の場合を示します。xU1U2x\in U_1\cap U_2 とすると、U1U_1U2U_2 が開なので r1>0r_1>0r2>0r_2>0 が存在して B(x,r1)U1B(x,r_1)\subseteq U_1B(x,r2)U2B(x,r_2)\subseteq U_2 となります。r=min{r1,r2}r=\min\{r_1,r_2\} とおくと、有限個の正の実数の最小値なので r>0r>0 です。B(x,r)B(x,r1)U1B(x,r)\subseteq B(x,r_1)\subseteq U_1、同様に B(x,r)U2B(x,r)\subseteq U_2 なので B(x,r)U1U2B(x,r)\subseteq U_1\cap U_2 です。

一般の nn については nn に関する数学的帰納法によります(数学的帰納法の原理(定理 3.2)[証明の技術])。n=1n=1 は自明です。nn 個の場合に成り立つとすると、k=1n+1Uk=(k=1nUk)Un+1\bigcap_{k=1}^{n+1}U_k=\bigl(\bigcap_{k=1}^{n}U_k\bigr)\cap U_{n+1} であり、括弧の中は帰納法の仮定より開、Un+1U_{n+1} も開なので、n=2n=2 の場合により全体が開です。

証明の中で有限性が効いたのは (O3) の r=min{r1,,rn}>0r=\min\{r_1,\dots,r_n\}>0 の一箇所だけです。無限個の正数の下限は 00 になりうるので、この議論は無限個には通用しません。

例 3.4無限個の交わりは開とは限らない

R\mathbb{R} に通常の距離 d(x,y)=xyd(x,y)=|x-y| を入れ、n1n\ge 1 に対し Un=(1/n,1/n)=B(0,1/n)U_n=(-1/n,\,1/n)=B(0,1/n) とおきます。各 UnU_n命題 3.2 より開集合です。この無限個の交わりを計算します。

xn1Unx\in\bigcap_{n\ge1}U_n とすると、すべての n1n\ge 1x<1/n|x| < 1/n です。もし x>0|x|>0 なら、アルキメデスの原理(定理 3.2)[実数の完備性とコーシー列] より 1/n<x1/n < |x| となる自然数 nn が存在し、矛盾します。よって x=0|x|=0、すなわち x=0x=0 です。逆に 0Un0\in U_n はすべての nn で成り立つので、n1Un={0}\bigcap_{n\ge 1}U_n=\{0\} です。

ところが {0}\{0\} は開集合ではありません。任意の r>0r>0 に対して r/2r/2r/20=r/2<r|r/2-0|=r/2 < r より B(0,r)B(0,r) に属し、しかも r/20r/2\ne 0 なので B(0,r)⊈{0}B(0,r)\not\subseteq\{0\} だからです。したがって 定理 3.3 の (O3) から「有限個」という条件を外すことはできません。

命題 3.5距離空間では相異なる 2 点が分離できる

(X,d)(X,d) を距離空間とし、x,yXx,y\in Xxyx\ne y とします。このとき開集合 U,VU,V で、xUx\in UyVy\in VUV=U\cap V=\emptyset を満たすものが存在します。

証明(命題 3.5)

xyx\ne y と (M1)(定義 2.1)より d(x,y)0d(x,y)\ne 0 で、注意 2.2 より d(x,y)0d(x,y)\ge 0 ですから d(x,y)>0d(x,y)>0 です。そこで r=d(x,y)/2>0r=d(x,y)/2>0 とおき、U=B(x,r)U=B(x,r)V=B(y,r)V=B(y,r) とします。これらは 命題 3.2 より開集合で、d(x,x)=0<rd(x,x)=0 < r より xUx\in U、同様に yVy\in V です。

もし zUVz\in U\cap V なる点があったとすると、三角不等式 (M3) と対称律 (M2) より

d(x,y)d(x,z)+d(z,y)=d(x,z)+d(y,z)<r+r=d(x,y)d(x,y)\le d(x,z)+d(z,y)=d(x,z)+d(y,z) < r+r=d(x,y)

となり、d(x,y)<d(x,y)d(x,y) < d(x,y) という矛盾が生じます。よって UV=U\cap V=\emptyset です。

この命題は後で「距離から来ない位相」を見分ける道具として使います。距離空間では 2 点が必ず開集合で切り離せるので、この性質を持たない位相は距離化できないのです。

最後に、ε\varepsilon-δ\delta 論法そのものが開集合の言葉に翻訳できることを見ます。これが公理化への決め手です。

命題 3.6連続性の開集合による特徴づけ

(X,dX)(X,d_X)(Y,dY)(Y,d_Y) を距離空間、f ⁣:XYf\colon X\to Y を写像とします。次の 2 条件は同値です。

  • (a) 任意の aXa\in X と任意の ε>0\varepsilon>0 に対し、ある δ>0\delta>0 が存在して、dX(x,a)<δd_X(x,a) < \delta を満たすすべての xXx\in X について dY(f(x),f(a))<εd_Y(f(x),f(a)) < \varepsilon が成り立つ。
  • (b) YY の任意の開集合 VV に対し、逆像 f1(V)f^{-1}(V)XX の開集合である。
証明(命題 3.6)

(a) \Rightarrow (b):VYV\subseteq Y を開集合とし、af1(V)a\in f^{-1}(V) とします。f(a)Vf(a)\in VVV は開なので、ある ε>0\varepsilon>0 が存在して B(f(a),ε)VB(f(a),\varepsilon)\subseteq V です。(a) をこの ε\varepsilon に適用して δ>0\delta>0 をとると、xB(a,δ)x\in B(a,\delta) すなわち dX(x,a)<δd_X(x,a) < \delta ならば dY(f(x),f(a))<εd_Y(f(x),f(a)) < \varepsilon、つまり f(x)B(f(a),ε)Vf(x)\in B(f(a),\varepsilon)\subseteq V です。ゆえに B(a,δ)f1(V)B(a,\delta)\subseteq f^{-1}(V) となり、aa は任意だったので f1(V)f^{-1}(V) は開集合です。

(b) \Rightarrow (a):aXa\in Xε>0\varepsilon>0 を任意にとります。V=B(f(a),ε)V=B(f(a),\varepsilon)命題 3.2 より YY の開集合なので、(b) より f1(V)f^{-1}(V)XX の開集合です。dY(f(a),f(a))=0<εd_Y(f(a),f(a))=0 < \varepsilon より af1(V)a\in f^{-1}(V) ですから、開集合の定義よりある δ>0\delta>0 が存在して B(a,δ)f1(V)B(a,\delta)\subseteq f^{-1}(V) です。これは dX(x,a)<δd_X(x,a) < \delta ならば f(x)Vf(x)\in V、すなわち dY(f(x),f(a))<εd_Y(f(x),f(a)) < \varepsilon ということにほかなりません。

条件 (b) には dXd_XdYd_Y も、ε\varepsilonδ\delta も現れません。現れるのは「開集合」という語だけです。連続性という解析学の中心概念が開集合の族だけで書けるのなら、距離を捨てて開集合の族を最初から与えればよい。これが次節の定義の動機です。連続写像の一般論は、条件 (b) をそのまま定義に採用する形で 連続写像と同相写像 で扱います(定義 3.1[連続写像と同相写像])。

定理 3.3 で得られた 3 性質を、定理ではなく出発点として採用します。以下 P(X)\mathfrak{P}(X)XX の冪集合、すなわち XX の部分集合全体の集合を表します。

定義 4.1位相空間

XX を集合、OP(X)\mathcal{O}\subseteq\mathfrak{P}(X)XX の部分集合の族とします。O\mathcal{O} が次の 3 条件を満たすとき、O\mathcal{O}XX 上の位相といい、組 (X,O)(X,\mathcal{O})位相空間といいます。

  • (O1) O\emptyset\in\mathcal{O} かつ XOX\in\mathcal{O}
  • (O2) Λ\Lambda を任意の添字集合とし、各 λΛ\lambda\in\Lambda に対し UλOU_\lambda\in\mathcal{O} とすると、λΛUλO\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda\in\mathcal{O}
  • (O3) U,VOU,V\in\mathcal{O} ならば UVOU\cap V\in\mathcal{O}

O\mathcal{O} に属する集合を開集合、補集合が開集合であるような集合を閉集合といいます。

注意 4.2

定義について 4 点補足します。

第一に、(O3) を 2 個の交わりで述べましたが、定理 3.3 の証明と同じ帰納法で、有限個 U1,,UnOU_1,\dots,U_n\in\mathcal{O} の交わりが開になることが従います。無限個には拡張できません(例 3.4)。

第二に、「開集合である」は集合そのものに備わった性質ではなく、どの O\mathcal{O} を選んだかに依存します。同じ部分集合が、位相を変えれば開になったりならなかったりします。「AA は開集合」と言うときは常に背後の位相を意識してください。

第三に、開集合と閉集合は排反ではありません。\emptysetXX はいつでも開かつ閉です(互いに補集合であり、どちらも (O1) より開だからです)。一方 [0,1)R[0,1)\subseteq\mathbb{R} は通常の位相で開でも閉でもありません。00 のどんな近くにも [0,1)[0,1) の外の点があるので開でなく、補集合 (,0)[1,)(-\infty,0)\cup[1,\infty) は点 11 のところで同じ理由により開でないからです。

第四に、距離空間 (X,d)(X,d) に対して Od\mathcal{O}_d定理 3.3 より位相です。これを dd の定める位相といい、ある距離からこの形で得られる位相を距離化可能であるといいます。どの位相が距離化可能かという問題は 分離公理と距離づけ可能性 の主題で、その代表的な十分条件が ウリゾーンの距離化定理(定理 7.2)[分離公理と距離づけ可能性] です。

閉集合の側から見ると、公理は次のようにひっくり返ります。合併と交わり、有限と任意が入れ替わることに注意してください。

命題 4.3閉集合族の性質

(X,O)(X,\mathcal{O}) を位相空間とし、F\mathcal{F} を閉集合全体の族とします。このとき次が成り立ちます。

  • (C1) F\emptyset\in\mathcal{F} かつ XFX\in\mathcal{F}
  • (C2) Λ\Lambda\ne\emptyset を任意の添字集合とし、各 λΛ\lambda\in\Lambda に対し FλFF_\lambda\in\mathcal{F} とすると、λΛFλF\bigcap_{\lambda\in\Lambda}F_\lambda\in\mathcal{F}
  • (C3) F1,,FnFF_1,\dots,F_n\in\mathcal{F}(有限個)ならば k=1nFkF\bigcup_{k=1}^{n}F_k\in\mathcal{F}
証明(命題 4.3)

いずれも ド・モルガンの法則(集合族版)(系 5.6)[数学の国語] で開集合の言葉に翻訳するだけです。

(C1):X=XOX\setminus\emptyset=X\in\mathcal{O} より \emptyset は閉、XX=OX\setminus X=\emptyset\in\mathcal{O} より XX は閉です(どちらも (O1) を使いました)。

(C2):XλFλ=λ(XFλ)X\setminus\bigcap_{\lambda}F_\lambda=\bigcup_{\lambda}(X\setminus F_\lambda) であり、各 XFλX\setminus F_\lambda は閉集合の定義より開なので、(O2) より右辺は開です。よって λFλ\bigcap_\lambda F_\lambda は閉です。Λ\Lambda\ne\emptyset を仮定したのは、空な族の交わりを XX と約束しない流儀では λFλ\bigcap_{\lambda\in\emptyset}F_\lambda が定まらないためで、XX と約束するなら (C1) に吸収されます。

(C3):Xk=1nFk=k=1n(XFk)X\setminus\bigcup_{k=1}^{n}F_k=\bigcap_{k=1}^{n}(X\setminus F_k) であり、右辺は有限個の開集合の交わりなので (O3)(と帰納法)より開です。よって kFk\bigcup_k F_k は閉です。

ここからは位相の実例を並べます。まず両極端の 2 つです。

離散位相。 O=P(X)\mathcal{O}=\mathfrak{P}(X)、つまりすべての部分集合を開集合とします。合併も交わりも部分集合であることに変わりはないので、(O1)(O2)(O3) はすべて成り立ちます。これは 例 2.4 の離散距離が定める位相と一致します。実際、離散距離では B(x,1)={x}B(x,1)=\{x\} なので 1 点集合はすべて開であり、任意の AXA\subseteq XA=xA{x}A=\bigcup_{x\in A}\{x\} と書けるので (O2) より開だからです。したがって離散位相は距離化可能です。

密着位相。 O={,X}\mathcal{O}=\{\emptyset,X\} とします。この 2 つの集合の合併と交わりは再び \emptysetXX なので、公理はすべて成り立ちます。XX が 2 点以上を持つとき、この位相は距離化可能ではありません。相異なる 2 点 xyx\ne y をとると、命題 3.5 より距離位相なら x,yx,y を分離する交わらない開集合が必要ですが、空でない開集合は XX しかなく、XX=XX\cap X=X\ne\emptyset だからです。ε\varepsilon-δ\delta の世界の外に出た最初の例です。

シェルピンスキー空間と 2 点集合上の位相。 X={a,b}X=\{a,b\}aba\ne b)の上の位相をすべて数えます。(O1) より \emptysetXX は必ず入るので、あとは {a}\{a\}{b}\{b\} を入れるかどうかの 4 通りを調べればよく、{,X}\{\emptyset,X\}(密着位相)、{,{a},X}\{\emptyset,\{a\},X\}{,{b},X}\{\emptyset,\{b\},X\}{,{a},{b},X}\{\emptyset,\{a\},\{b\},X\}(離散位相)のいずれも公理を満たします。真ん中の 2 つがシェルピンスキー空間と呼ばれるもので、{a}\{a\} は開だが {b}\{b\} は開でないという非対称な空間です。これも距離化可能ではありません(同じく 命題 3.5 による)。

位相の強弱。 同じ集合 XX 上の位相 O1,O2\mathcal{O}_1,\mathcal{O}_2O1O2\mathcal{O}_1\subseteq\mathcal{O}_2 を満たすとき、O1\mathcal{O}_1O2\mathcal{O}_2 より粗い(弱い)、O2\mathcal{O}_2O1\mathcal{O}_1 より細かい(強い)といいます。密着位相はすべての位相の中で最も粗く、離散位相は最も細かい位相です。開集合が多いほど点を細かく区別できます。

5. 位相の作り方:基底・順序位相・ザリスキー位相

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位相を定めるのに開集合を全部書き下すのは大変です。距離空間では開球さえ決めれば、あとは「各点のまわりに開球が入る集合」として開集合が復元されました。この仕組みを一般化したものが基底です。

定義 5.1位相の基底

(X,O)(X,\mathcal{O}) を位相空間とします。部分族 BO\mathcal{B}\subseteq\mathcal{O}O\mathcal{O}基底(開基)であるとは、任意の UOU\in\mathcal{O} と任意の xUx\in U に対して、ある BBB\in\mathcal{B} が存在して xBUx\in B\subseteq U となることをいいます。

この条件は「O\mathcal{O} の各元が B\mathcal{B} の元たちの合併で書ける」ことと同値です。実際、UOU\in\mathcal{O} の各点 xx に対し xBxUx\in B_x\subseteq U なる BxBB_x\in\mathcal{B} を選べば U=xUBxU=\bigcup_{x\in U}B_x となり、逆に U=iIBiU=\bigcup_{i\in I}B_i と書けていれば、xUx\in U に対しある iixBiUx\in B_i\subseteq U です。距離空間では開球全体が基底になります(開集合の定義がまさにこの形だからです)。

次の命題は逆向きで、まだ位相が与えられていない集合の上に、基底の候補から位相を作り出します。以降の例はすべてこれを使います。

命題 5.2基底から位相を作る

XX を集合、BP(X)\mathcal{B}\subseteq\mathfrak{P}(X) が次の 2 条件を満たすとします。

  • (B1) BBB=X\bigcup_{B\in\mathcal{B}}B=X。すなわち任意の xXx\in X に対し xBx\in B なる BBB\in\mathcal{B} が存在する。
  • (B2) 任意の B1,B2BB_1,B_2\in\mathcal{B} と任意の xB1B2x\in B_1\cap B_2 に対し、ある B3BB_3\in\mathcal{B} が存在して xB3B1B2x\in B_3\subseteq B_1\cap B_2 となる。

このとき

OB={UX  :  xU, BB, xBU}\mathcal{O}_{\mathcal{B}}=\{\,U\subseteq X \;:\; \forall x\in U,\ \exists B\in\mathcal{B},\ x\in B\subseteq U\,\}

XX 上の位相であり、BOB\mathcal{B}\subseteq\mathcal{O}_{\mathcal{B}} かつ B\mathcal{B}OB\mathcal{O}_{\mathcal{B}} の基底です。

証明(命題 5.2)

(O1):OB\emptyset\in\mathcal{O}_{\mathcal{B}} は条件が空虚に真であることから従います。XOBX\in\mathcal{O}_{\mathcal{B}} は、xXx\in X に対し (B1) より xBx\in B なる BBB\in\mathcal{B} がとれ、BXB\subseteq X だからです。

(O2):U=λΛUλU=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda(各 UλOBU_\lambda\in\mathcal{O}_{\mathcal{B}})とし、xUx\in U とします。ある λ0\lambda_0xUλ0x\in U_{\lambda_0} なので、OB\mathcal{O}_{\mathcal{B}} の定義よりある BBB\in\mathcal{B}xBUλ0Ux\in B\subseteq U_{\lambda_0}\subseteq U となります。よって UOBU\in\mathcal{O}_{\mathcal{B}} です。

(O3):U,VOBU,V\in\mathcal{O}_{\mathcal{B}} とし、xUVx\in U\cap V とします。定義より B1,B2BB_1,B_2\in\mathcal{B} が存在して xB1Ux\in B_1\subseteq U かつ xB2Vx\in B_2\subseteq V です。すると xB1B2x\in B_1\cap B_2 なので、(B2) よりある B3BB_3\in\mathcal{B}xB3B1B2UVx\in B_3\subseteq B_1\cap B_2\subseteq U\cap V となります。よって UVOBU\cap V\in\mathcal{O}_{\mathcal{B}} です。ここで (B2) が本質的に使われました。

BOB\mathcal{B}\subseteq\mathcal{O}_{\mathcal{B}}BBB\in\mathcal{B}xBx\in B に対し、BB 自身が xBBx\in B\subseteq B を満たします。最後に、B\mathcal{B} が基底であることは OB\mathcal{O}_{\mathcal{B}} の定義式そのものです。

例 5.3順序位相

(X,)(X,\le) を全順序集合とし、XX は少なくとも 2 個の元を持つとします。a,bXa,b\in X に対し

(a,b)={xX:a<x<b},(,b)={xX:x<b},(a,)={xX:a<x}(a,b)=\{x\in X: a < x < b\},\qquad (\leftarrow,b)=\{x\in X: x < b\},\qquad (a,\rightarrow)=\{x\in X: a < x\}

とおき、B\mathcal{B} をこれらすべて(開区間と開半直線)の族とします。(B1) を確かめます。xXx\in X に対し、xx と異なる元 yy をとると、全順序性より y<xy < xx<yx < y のいずれかで、前者なら x(y,)x\in(y,\rightarrow)、後者なら x(,y)x\in(\leftarrow,y) です。(B2) は、B\mathcal{B} の 2 元の交わりがふたたび B\mathcal{B} の元か空集合になることから従います。たとえば (a,b)(c,d)=(max{a,c},min{b,d})(a,b)\cap(c,d)=(\max\{a,c\},\min\{b,d\}) であり(全順序集合では 2 元の最大・最小が定まります)、これが空でなければ B3B_3 としてこれ自身がとれます。半直線どうし、半直線と区間の場合も同様です。こうして得られる位相を順序位相といいます。

X=RX=\mathbb{R} のとき、順序位相はユークリッド距離の定める位相と一致します。実際、開球は B(x,r)=(xr,x+r)B(x,r)=(x-r,x+r) という開区間であり、逆に開区間は (a,b)=B(a+b2,ba2)(a,b)=B\bigl(\frac{a+b}{2},\frac{b-a}{2}\bigr) と開球で書け、半直線は (a,)=n1(a,a+n)(a,\rightarrow)=\bigcup_{n\ge1}(a,a+n) と開区間の合併で書けます(アルキメデスの原理より、aa より大きい任意の実数はある a+na+n 未満です)。よって互いの基底が相手の位相に含まれ、両者の位相は一致します。

X=ZX=\mathbb{Z} のとき、順序位相は離散位相です。任意の nZn\in\mathbb{Z} に対し (n1,n+1)={n}(n-1,\,n+1)=\{n\} が基本開集合だからです。同じ「順序位相」という作り方でも、順序の中身によって出来上がる空間はまったく違うものになります。

例 5.4ザリスキー位相と余有限位相

kk を無限個の元を持つ体(R\mathbb{R}C\mathbb{C} でよい)とし、X=kX=k とします。多項式 fk[T]f\in k[T] に対し零点集合を V(f)={ak:f(a)=0}V(f)=\{a\in k: f(a)=0\} と書きます。f0f\ne 0 なら V(f)V(f) は高々 degf\deg f 個の元からなる有限集合であり、f=0f=0 なら V(0)=kV(0)=k です。逆に、有限集合 {a1,,am}\{a_1,\dots,a_m\}f(T)=i=1m(Tai)f(T)=\prod_{i=1}^{m}(T-a_i) の零点集合として実現されます。したがって「多項式の零点集合」の全体は「有限集合、および kk 全体」の全体と一致します。

そこでこれらを閉集合と定めます。すなわち UXU\subseteq X を開集合と呼ぶのは、U=U=\emptyset であるか、または XUX\setminus U が有限集合であるとき、と定めます。これが 1 変数のザリスキー位相であり、余有限位相とも呼ばれます。位相の公理は、閉集合の側(命題 4.3 の (C1)(C2)(C3))で確かめるほうが簡単です。

(C1):\emptyset は有限なので閉、XXV(0)V(0) なので閉です。(C2):閉集合の族 {Fλ}λΛ\{F_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}Λ\Lambda\ne\emptyset)に対し、すべての FλF_\lambdaXX なら交わりも XX で閉です。1 つでも有限なものがあれば、交わりはその有限集合の部分集合なので有限、よって閉です。(C3):有限個の閉集合の合併は、すべてが有限集合なら有限集合の有限合併なので有限、1 つでも XX があれば合併は XX です。いずれも閉です。

この位相の際立った特徴は、XX が無限集合のとき空でない 2 つの開集合が必ず交わることです。実際 U,VU,V を空でない開集合とすると、X(UV)=(XU)(XV)X\setminus(U\cap V)=(X\setminus U)\cup(X\setminus V) は有限集合 2 つの合併なので有限で、XX は無限ですから UVU\cap V\ne\emptyset です。したがって 命題 3.5 より、この位相は距離化可能ではありません。にもかかわらず、1 点集合はすべて閉であり(有限集合だから)、代数幾何ではこの位相が正しい道具になります。多項式で切り出せる集合しか「見えない」世界では、開集合はどれも巨大なのです。

一般に nn 変数では、多項式の族 Sk[T1,,Tn]S\subseteq k[T_1,\dots,T_n] の共通零点集合 V(S)={akn:fS, f(a)=0}V(S)=\{a\in k^n: \forall f\in S,\ f(a)=0\} を閉集合と定めます。n2n\ge2 では閉集合は有限集合に限らず、たとえば V(T1)V(T_1)k2k^2 の中の直線です。

位相が与えられると、「点のまわり」「集合の内側」「集合の縁」といった素朴な言葉に正確な意味を与えられます。以下 (X,O)(X,\mathcal{O}) を位相空間とします。

定義 6.1近傍

xXx\in X とします。部分集合 VXV\subseteq Xxx近傍であるとは、ある開集合 UOU\in\mathcal{O} が存在して xUVx\in U\subseteq V となることをいいます。xx の近傍全体を N(x)\mathcal{N}(x) と書きます。特に xx を含む開集合は xx の近傍であり、これを xx開近傍といいます。

注意 6.2

本によっては「近傍」を開集合に限って定義します(その流儀の近傍が、ここでいう開近傍です)。以下の主張はどちらの流儀でも成り立ちます。VN(x)V\in\mathcal{N}(x) なら xUVx\in U\subseteq V なる開近傍 UU がとれるので、近傍を用いた条件はすべて開近傍の言葉に言い換えられるからです。

距離空間では、VVxx の近傍であることと、ある r>0r>0B(x,r)VB(x,r)\subseteq V となることは同値です。実際、前者なら開集合 UUxUVx\in U\subseteq V なるものがとれ、開集合の定義(定義 3.1)より B(x,r)UVB(x,r)\subseteq U\subseteq V なる r>0r>0 があります。後者なら B(x,r)B(x,r) 自身が 命題 3.2 より開近傍です。

定義 6.3内部・閉包・境界

AXA\subseteq X に対し、

A={UO:UA},A={FX:F は閉集合, AF},A=AAA^{\circ}=\bigcup\{\,U\in\mathcal{O} : U\subseteq A\,\},\qquad \overline{A}=\bigcap\{\,F\subseteq X : F \text{ は閉集合},\ A\subseteq F\,\},\qquad \partial A=\overline{A}\setminus A^{\circ}

と定め、順に AA内部(開核)、閉包境界といいます。AA^{\circ} の元を AA内点A\overline{A} の元を触点A\partial A の元を境界点(XA)(X\setminus A)^{\circ} の元を外点といいます。

閉包を定める交わりは空な族についての交わりではありません。XX は閉集合で AXA\subseteq X を満たすので、族には少なくとも XX が属しているからです。したがって 命題 4.3 の (C2) が適用できます。

定理 6.4内部と閉包の基本性質

(X,O)(X,\mathcal{O}) を位相空間、AXA\subseteq X とします。

  1. AA^{\circ} は開集合で AAA^{\circ}\subseteq A であり、UU が開集合で UAU\subseteq A ならば UAU\subseteq A^{\circ} である。すなわち AA^{\circ}AA に含まれる最大の開集合である。特に AA が開集合であることと A=AA=A^{\circ} は同値。
  2. A\overline{A} は閉集合で AAA\subseteq\overline{A} であり、FF が閉集合で AFA\subseteq F ならば AF\overline{A}\subseteq F である。すなわち A\overline{A}AA を含む最小の閉集合である。特に AA が閉集合であることと A=AA=\overline{A} は同値。
  3. xAx\in A^{\circ} であることと、AAxx の近傍であることは同値。
  4. xAx\in\overline{A} であることと、xx の任意の近傍 VV に対し VAV\cap A\ne\emptyset となることは同値。
  5. XA=(XA)X\setminus\overline{A}=(X\setminus A)^{\circ} かつ XA=XAX\setminus A^{\circ}=\overline{X\setminus A}
  6. XXAA^{\circ}A\partial A(XA)(X\setminus A)^{\circ} の 3 つの互いに交わらない部分に分割される。
証明(定理 6.4)

(1) AA^{\circ} は開集合の族の合併なので (O2)(定義 4.1)より開集合です。合併に現れる各 UUUAU\subseteq A を満たすので AAA^{\circ}\subseteq A です。また UU が開で UAU\subseteq A ならば、UU はこの合併の項の 1 つなので UAU\subseteq A^{\circ} です。AA が開なら U=AU=A ととれて AAAA\subseteq A^{\circ}\subseteq A、すなわち A=AA=A^{\circ}。逆に A=AA=A^{\circ} なら AA は開集合です。

(2) A\overline{A} は閉集合の族(空でない)の交わりなので 命題 4.3 の (C2) より閉集合です。交わりに現れる各 FFAFA\subseteq F を満たすので AAA\subseteq\overline{A} です。FF が閉で AFA\subseteq F ならば FF はこの交わりの項の 1 つなので AF\overline{A}\subseteq F です。AA が閉なら F=AF=A ととれて AAA\overline{A}\subseteq A\subseteq\overline{A}、すなわち A=AA=\overline{A}。逆に A=AA=\overline{A} なら AA は閉集合です。

(3) AAxx の近傍とすると、開集合 UUxUAx\in U\subseteq A なるものがあり、(1) より UAU\subseteq A^{\circ} なので xAx\in A^{\circ} です。逆に xAx\in A^{\circ} とすると、AA^{\circ} は (1) より開集合で xAAx\in A^{\circ}\subseteq A を満たすので、定義 6.1 より AAxx の近傍です。

(4) 「xAx\notin\overline{A} であることと、VA=V\cap A=\emptyset なる xx の近傍 VV が存在することが同値」を示せば、対偶をとって主張が得られます。

xAx\notin\overline{A} とすると、交わりの定義より、ある閉集合 FFAFA\subseteq F かつ xFx\notin F なるものが存在します。U=XFU=X\setminus F とおくと UU は開集合で xUx\in U、さらに AFA\subseteq F より UAUF=U\cap A\subseteq U\cap F=\emptyset です。この UUxx の近傍です。

逆に VN(x)V\in\mathcal{N}(x)VA=V\cap A=\emptyset を満たすとすると、開集合 UUxUVx\in U\subseteq V なるものがとれ、UAVA=U\cap A\subseteq V\cap A=\emptyset です。F=XUF=X\setminus U は閉集合で、UA=U\cap A=\emptyset より AFA\subseteq F ですから、(2) の最小性より AF\overline{A}\subseteq F です。xUx\in U すなわち xFx\notin F なので xAx\notin\overline{A} となります。

(5) 閉集合 FF と開集合 U=XFU=X\setminus F は 1 対 1 に対応し、AFA\subseteq FUXAU\subseteq X\setminus A は同値です(両辺の補集合をとるだけです)。よってド・モルガンの法則より

XA=X{F:F 閉, AF}={XF:F 閉, AF}={UO:UXA}=(XA)X\setminus\overline{A}=X\setminus\bigcap\{F : F \text{ 閉},\ A\subseteq F\}=\bigcup\{X\setminus F : F \text{ 閉},\ A\subseteq F\}=\bigcup\{U\in\mathcal{O} : U\subseteq X\setminus A\}=(X\setminus A)^{\circ}

となり、第 1 式が示せました。第 2 式は、第 1 式の AAXAX\setminus A に置き換えると XXA=(X(XA))=AX\setminus\overline{X\setminus A}=(X\setminus(X\setminus A))^{\circ}=A^{\circ} となるので、両辺の補集合をとれば得られます。

(6) (5) の第 1 式より XA=(XA)X\setminus\overline{A}=(X\setminus A)^{\circ} なので、XXA\overline{A}(XA)(X\setminus A)^{\circ} の交わらない合併です。さらに AAAA^{\circ}\subseteq A\subseteq\overline{A}((1) と (2))なので、A=AA\partial A=\overline{A}\setminus A^{\circ} の定義より A\overline{A}AA^{\circ}A\partial A の交わらない合併です。以上を合わせると、XXAA^{\circ}A\partial A(XA)(X\setminus A)^{\circ} の交わらない 3 つの合併になります。

(4) は「閉包=どんなに小さい近傍で覗いても AA が見える点の全体」と読めます。定義(最小の閉集合)は計算に、(4) は判定に便利で、この 2 つを行き来できることが位相空間論の計算力の源です。距離空間では、近傍を開球で取り替えて、さらに点列の言葉に翻訳できます。

系 6.5距離空間の閉包と点列

(X,d)(X,d) を距離空間、AXA\subseteq XxXx\in X とします。次の 3 条件は同値です。

  • (a) xAx\in\overline{A}
  • (b) 任意の r>0r>0 に対し B(x,r)AB(x,r)\cap A\ne\emptyset
  • (c) AA の点列 (an)n1(a_n)_{n\ge1}d(an,x)0d(a_n,x)\to 0 となるものが存在する。
証明(系 6.5)

(a) \Leftrightarrow (b):定理 6.4 の (4) と、距離空間では「VVxx の近傍」と「ある r>0r>0B(x,r)VB(x,r)\subseteq V」が同値であること(注意 6.2)から従います。実際、(a) を仮定すると各 B(x,r)B(x,r)xx の近傍なので AA と交わり、(b) を仮定すると任意の近傍 VV はある B(x,r)B(x,r) を含むので VAB(x,r)AV\cap A\supseteq B(x,r)\cap A\ne\emptyset です。

(b) \Rightarrow (c):各 n1n\ge1 に対して B(x,1/n)AB(x,1/n)\cap A\ne\emptyset なので、そこから 1 点 ana_n を選びます(可算選択公理を使います)。d(an,x)<1/nd(a_n,x) < 1/n なので d(an,x)0d(a_n,x)\to0 です。

(c) \Rightarrow (b):r>0r>0 を任意にとると、d(an,x)0d(a_n,x)\to0 より、ある nnd(an,x)<rd(a_n,x) < r です。この ana_nB(x,r)AB(x,r)\cap A に属します。

特に、AA が閉集合であることと「AA の点列が xx に収束するならば xAx\in A」が同値になります(定理 6.4 の (2) と上の同値から)。数列の極限で閉集合を判定する解析学の習慣は、この系に支えられています(実数の完備性とコーシー列)。ただしこの点列による判定は距離空間だから使えるのであって、一般の位相空間では成り立ちません。

例 6.6閉包・内部・境界の計算

(1) R\mathbb{R} の中の Q\mathbb{Q}(通常の位相)。 任意の xRx\in\mathbb{R}r>0r>0 に対し、区間 (xr,x+r)(x-r,x+r) は有理数を含みます(有理数の稠密性(定理 5.2)[実数の完備性とコーシー列])。よって 系 6.5 の (b) より xQx\in\overline{\mathbb{Q}} で、Q=R\overline{\mathbb{Q}}=\mathbb{R} です。一方、空でない開集合はある開区間を含み、開区間は無理数を含むので、Q\mathbb{Q} に含まれる空でない開集合はありません。よって Q=\mathbb{Q}^{\circ}=\emptyset です。したがって Q=QQ=R\partial\mathbb{Q}=\overline{\mathbb{Q}}\setminus\mathbb{Q}^{\circ}=\mathbb{R} となり、Q\mathbb{Q} は「すべての点が境界点」という集合です。

(2) 同じ集合、違う位相。 A={0}RA=\{0\}\subseteq\mathbb{R} を 4 つの位相で調べます。

位相A\overline{A}AA^{\circ}A\partial A
通常(ユークリッド){0}\{0\}\emptyset{0}\{0\}
離散{0}\{0\}{0}\{0\}\emptyset
密着R\mathbb{R}\emptysetR\mathbb{R}
余有限{0}\{0\}\emptyset{0}\{0\}

理由を順に述べます。通常の位相では R{0}=(,0)(0,)\mathbb{R}\setminus\{0\}=(-\infty,0)\cup(0,\infty) が開なので {0}\{0\} は閉、よって A=A\overline{A}=A で、{0}\{0\} に含まれる空でない開集合はないので A=A^{\circ}=\emptyset。離散位相ではすべての集合が開かつ閉。密着位相では閉集合が \emptysetR\mathbb{R} しかないので A=R\overline{A}=\mathbb{R}AA に含まれる開集合は \emptyset のみ。余有限位相では有限集合が閉なので A=A\overline{A}=A、空でない開集合は無限集合なので {0}\{0\} には含まれず A=A^{\circ}=\emptyset です。閉包も内部も、集合だけでは決まらず位相に依存します。

(3) 平面の閉円板。 R2\mathbb{R}^2 にユークリッド距離を入れ、A={pR2:p1}A=\{p\in\mathbb{R}^2:\|p\|\le1\} とします。p<1\|p\| < 1 なら r=1p>0r=1-\|p\|>0 に対し、qB(p,r)q\in B(p,r) のとき qp+qp<p+r=1\|q\|\le\|p\|+\|q-p\| < \|p\|+r=1 なので B(p,r)AB(p,r)\subseteq A となり、pp は内点です。p=1\|p\|=1 のときは、任意の r>0r>0 に対し pB(p,r)Ap\in B(p,r)\cap A であり、また q=(1+r/2)pq=(1+r/2)pqp=r/2<r\|q-p\|=r/2 < r かつ q=1+r/2>1\|q\|=1+r/2>1 なので B(p,r)B(p,r)AA の外の点も含みます。よって pp は境界点です。p>1\|p\|>1 なら r=p1r=\|p\|-1 に対して同様の計算で B(p,r)A=B(p,r)\cap A=\emptyset となり、pp は外点です。まとめると A={p<1}A^{\circ}=\{\|p\| < 1\}A=A\overline{A}=AA={p=1}\partial A=\{\|p\|=1\} です。

x₁(内点)x₂(境界点)x₃(外点)A
閉円板 A における内点 x1、境界点 x2、外点 x3。破線は各点のまわりの十分小さい開球を表す。内点のまわりの球は A に含まれ、外点のまわりの球は A と交わらず、境界点のまわりの球はどんなに小さくても A と A の外の両方と交わる。

演習 7.1

R\mathbb{R} に通常の位相を入れ、A=(0,1){2}([3,4]Q)A=(0,1)\cup\{2\}\cup\bigl([3,4]\cap\mathbb{Q}\bigr) とします。AA^{\circ}A\overline{A}A\partial A を求めてください。

解答

内部。 (0,1)(0,1) は開集合で AA に含まれるので、定理 6.4 の (1) より (0,1)A(0,1)\subseteq A^{\circ} です。逆に A(0,1)A^{\circ}\subseteq(0,1) を示します。点 22 は内点ではありません。任意の r>0r>0 に対し 2+min{r,1}/22+\min\{r,1\}/2B(2,r)B(2,r) に属しますが、22 より大きく 33 より小さいので AA に属さないからです。[3,4]Q[3,4]\cap\mathbb{Q} の点 xx も内点ではありません。任意の r>0r>0 に対し B(x,r)=(xr,x+r)B(x,r)=(x-r,x+r) は無理数を含み、無理数は AA に属さない(AA に属する無理数は (0,1)(0,1) の中のものだけですが、x3x\ge3 なので rr11 以下にとれば B(x,r)(0,1)=B(x,r)\cap(0,1)=\emptyset)からです。よって A=(0,1)A^{\circ}=(0,1) です。

閉包。 演習 7.3 の結果(有限個の合併の閉包は閉包の合併)を使うと、A=(0,1){2}[3,4]Q\overline{A}=\overline{(0,1)}\cup\overline{\{2\}}\cup\overline{[3,4]\cap\mathbb{Q}} です。(0,1)=[0,1]\overline{(0,1)}=[0,1][0,1][0,1] は閉で (0,1)(0,1) を含むので (0,1)[0,1]\overline{(0,1)}\subseteq[0,1]、逆に 0011 はどんな近傍も (0,1)(0,1) と交わるので触点です。{2}\{2\} は閉なので {2}={2}\overline{\{2\}}=\{2\}[3,4]Q=[3,4]\overline{[3,4]\cap\mathbb{Q}}=[3,4][3,4][3,4] は閉で [3,4]Q[3,4]\cap\mathbb{Q} を含み、逆に [3,4][3,4] の各点 xx の任意の近傍は xx を含む区間を含み、そこには [3,4][3,4] 内の有理数があります(有理数の稠密性。x=3x=3x=4x=4 でも区間の [3,4][3,4] 側に有理数がとれます)。よって A=[0,1]{2}[3,4]\overline{A}=[0,1]\cup\{2\}\cup[3,4] です。

境界。 A=AA=([0,1]{2}[3,4])(0,1)={0,1,2}[3,4]\partial A=\overline{A}\setminus A^{\circ}=\bigl([0,1]\cup\{2\}\cup[3,4]\bigr)\setminus(0,1)=\{0,1,2\}\cup[3,4] です。

演習 7.2標準

Rn\mathbb{R}^n 上の 3 つの距離 d1d_1d2d_2dd_\infty例 2.3)が定める開集合族が、すべて一致することを示してください。

解答

まず補題を作ります。dddd'XX 上の距離とし、定数 C>0C>0 が存在して任意の x,yx,yd(x,y)Cd(x,y)d(x,y)\le C\,d'(x,y) が成り立つとします。このとき dd に関する開集合は dd' に関する開集合です。実際、UUdd-開集合、xUx\in U とすると、ある r>0r>0Bd(x,r)UB_d(x,r)\subseteq U です。d(x,y)<r/Cd'(x,y) < r/C ならば d(x,y)Cd(x,y)<rd(x,y)\le C\,d'(x,y) < r なので Bd(x,r/C)Bd(x,r)UB_{d'}(x,r/C)\subseteq B_d(x,r)\subseteq U となり、UUdd'-開集合です。

例 2.3 で示した不等式の列 dd2d1ndd_\infty\le d_2\le d_1\le n\,d_\infty に補題を適用します。d1d2d_\infty\le 1\cdot d_2 より dd_\infty-開集合は d2d_2-開集合、d21d1d_2\le 1\cdot d_1 より d2d_2-開集合は d1d_1-開集合、d1ndd_1\le n\,d_\infty より d1d_1-開集合は dd_\infty-開集合です。すなわち

OdOd2Od1Od\mathcal{O}_{d_\infty}\subseteq\mathcal{O}_{d_2}\subseteq\mathcal{O}_{d_1}\subseteq\mathcal{O}_{d_\infty}

という包含の輪ができるので、3 つはすべて一致します。単位球の形は 3 つの距離で互いに違いますが、定める位相は同じです。「どの距離を使うか」は位相のレベルでは見えないことがある、という重要な現象です。

演習 7.3標準

(X,O)(X,\mathcal{O}) を位相空間、A,BXA,B\subseteq X とします。

  1. AB=AB\overline{A\cup B}=\overline{A}\cup\overline{B} を示してください。
  2. ABAB\overline{A\cap B}\subseteq\overline{A}\cap\overline{B} を示し、等号が一般には成り立たない例を挙げてください。
解答

準備として単調性を示します。ABA\subseteq B ならば ABBA\subseteq B\subseteq\overline{B} で、B\overline{B} は閉集合ですから、定理 6.4 の (2) の最小性より AB\overline{A}\subseteq\overline{B} です。

1. (\supseteq) AABA\subseteq A\cup B と単調性より AAB\overline{A}\subseteq\overline{A\cup B}、同様に BAB\overline{B}\subseteq\overline{A\cup B} なので、合併も含まれます。(\subseteq) AB\overline{A}\cup\overline{B} は 2 個の閉集合の合併なので 命題 4.3 の (C3) より閉集合であり、ABABA\cup B\subseteq\overline{A}\cup\overline{B} を満たします。よって (2) の最小性より ABAB\overline{A\cup B}\subseteq\overline{A}\cup\overline{B} です。以上で等号が示せました。なお同じ議論は有限個の合併に帰納法で拡張できますが、無限個では成り立ちません。Q=qQ{q}\mathbb{Q}=\bigcup_{q\in\mathbb{Q}}\{q\} の各項の閉包は {q}\{q\} で、その合併は Q\mathbb{Q} ですが、左辺の閉包は R\mathbb{R} です。

2. ABAA\cap B\subseteq A と単調性より ABA\overline{A\cap B}\subseteq\overline{A}、同様に ABB\overline{A\cap B}\subseteq\overline{B} なので、ABAB\overline{A\cap B}\subseteq\overline{A}\cap\overline{B} です。等号が成り立たない例として、R\mathbb{R}(通常の位相)で A=(0,1)A=(0,1)B=(1,2)B=(1,2) をとります。AB=A\cap B=\emptyset なので左辺は =\overline{\emptyset}=\emptyset ですが、右辺は [0,1][1,2]={1}[0,1]\cap[1,2]=\{1\} です。より極端な例は A=QA=\mathbb{Q}B=RQB=\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q} で、左辺は \emptyset、右辺は RR=R\mathbb{R}\cap\mathbb{R}=\mathbb{R} です。

演習 7.4

XX を無限集合とし、余有限位相(例 5.4)を入れます。

  1. 任意の AXA\subseteq X に対し、AA が有限なら A=A\overline{A}=AAA が無限なら A=X\overline{A}=X であることを示してください。
  2. 空でない開集合 UU はすべて稠密である、すなわち U=X\overline{U}=X であることを示してください。
  3. 1 点集合はすべて閉集合であるにもかかわらず、相異なる 2 点を交わらない開集合で分離できないことを示してください。
解答

1. AA が有限なら、余有限位相の定め方より AA は閉集合なので 定理 6.4 の (2) より A=A\overline{A}=A です。AA が無限のときを考えます。FFAFA\subseteq F なる閉集合とすると、FF は有限集合か XX のいずれかです。FF が有限だとすると、その部分集合である AA も有限になって仮定に反します。よって F=XF=X しかなく、閉集合の交わりとして A=X\overline{A}=X です。

2. UU を空でない開集合とすると、XUX\setminus U は有限です。もし UU が有限なら X=U(XU)X=U\cup(X\setminus U) は有限集合 2 つの合併となって XX が無限であることに反します。よって UU は無限集合で、1 より U=X\overline{U}=X です。

3. 1 点集合 {x}\{x\} は有限なので閉集合です(この性質を T1T_1 公理といいます)。一方、相異なる 2 点 xyx\ne y に対し、xUx\in UyVy\in V なる開集合をとると、どちらも空でないので 例 5.4 で示したとおり UVU\cap V\ne\emptyset です。したがって分離はできません。命題 3.5 と合わせると、この位相が距離化可能でないことが再確認できます。「1 点が閉」は距離空間の性質のうち弱いほうの一部でしかない、ということです。分離の強さを段階的に測る枠組みは 分離公理と距離づけ可能性 で扱います。

  • 松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968 — 集合論の準備から距離空間・位相空間へ丁寧に積み上げる標準的な和書です。本記事の内容は同書の位相空間の章に対応します。
  • 内田伏一『集合と位相』裳華房、1986 — 距離空間の開集合から位相の公理への移行を、例を多く挙げながら解説しています。
  • J. R. Munkres, Topology, 2nd ed., Prentice Hall, 2000 — Chapter 2 (Topological Spaces and Continuous Functions)。基底・順序位相・閉包と極限点の扱いは本記事の構成と近く、演習も豊富です。
  • J. L. Kelley, General Topology, Van Nostrand, 1955 — Chapter 1。閉包作用素や近傍系による位相の特徴づけがまとまっています。
  • M. Fréchet, “Sur quelques points du calcul fonctionnel”, Rendiconti del Circolo Matematico di Palermo 22 (1906), 1–74 — 距離空間の概念が導入された原論文です。
  • C. Kuratowski, “Sur l’opération A\overline{A} de l’Analysis Situs”, Fundamenta Mathematicae 3 (1922) — Appendix で扱う閉包公理の原論文です。

位相を定める流儀は 1 つではありません。 本文では開集合の族を与えて位相を定めましたが、閉集合の族を与えても同じことです。命題 4.3 の証明はすべてド・モルガンの法則による同値変形なので逆もたどれ、(C1)(C2)(C3) を満たす族 F\mathcal{F} が与えられれば、O={XF:FF}\mathcal{O}=\{X\setminus F : F\in\mathcal{F}\} は位相になり、その閉集合族はちょうど F\mathcal{F} になります。ハウスドルフが 1914 年に採用した近傍系による定義も同値です。ここでは、閉包という操作そのものを公理化する流儀を紹介します。クラトフスキが 1922 年に与えたものです。

定理 7.5クラトフスキの閉包公理

XX を集合、c ⁣:P(X)P(X)c\colon\mathfrak{P}(X)\to\mathfrak{P}(X) が次の 4 条件を満たすとします。

  • (K1) c()=c(\emptyset)=\emptyset
  • (K2) 任意の AXA\subseteq X に対し Ac(A)A\subseteq c(A)
  • (K3) 任意の AXA\subseteq X に対し c(c(A))=c(A)c(c(A))=c(A)
  • (K4) 任意の A,BXA,B\subseteq X に対し c(AB)=c(A)c(B)c(A\cup B)=c(A)\cup c(B)

このとき F={AX:c(A)=A}\mathcal{F}=\{A\subseteq X : c(A)=A\} を閉集合族とする位相が XX 上にただ 1 つ存在し、その位相に関する閉包 A\overline{A} は、すべての AXA\subseteq X に対して c(A)c(A) と一致します。

証明(定理 7.5)

はじめに単調性を導きます。ABA\subseteq B とすると B=ABB=A\cup B なので、(K4) より c(B)=c(AB)=c(A)c(B)c(A)c(B)=c(A\cup B)=c(A)\cup c(B)\supseteq c(A) です。

次に F\mathcal{F}命題 4.3 の (C1)(C2)(C3) を満たすことを示します。

(C1):(K1) より c()=c(\emptyset)=\emptyset なので F\emptyset\in\mathcal{F} です。c(X)Xc(X)\subseteq Xcc の値域が P(X)\mathfrak{P}(X) であることから、Xc(X)X\subseteq c(X) は (K2) からで、c(X)=Xc(X)=X、すなわち XFX\in\mathcal{F} です。

(C3):F1,F2FF_1,F_2\in\mathcal{F} とすると (K4) より c(F1F2)=c(F1)c(F2)=F1F2c(F_1\cup F_2)=c(F_1)\cup c(F_2)=F_1\cup F_2 なので F1F2FF_1\cup F_2\in\mathcal{F} です。有限個の場合は帰納法で従います。

(C2):{Fλ}λΛF\{F_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}\subseteq\mathcal{F}Λ\Lambda\ne\emptyset)とし F=λFλF=\bigcap_\lambda F_\lambda とおきます。各 λ\lambdaFFλF\subseteq F_\lambda なので、単調性より c(F)c(Fλ)=Fλc(F)\subseteq c(F_\lambda)=F_\lambda です。これがすべての λ\lambda で成り立つので c(F)λFλ=Fc(F)\subseteq\bigcap_\lambda F_\lambda=F です。(K2) の Fc(F)F\subseteq c(F) と合わせて c(F)=Fc(F)=F、すなわち FFF\in\mathcal{F} です。

したがって O={XF:FF}\mathcal{O}=\{X\setminus F : F\in\mathcal{F}\} は位相であり、その閉集合族は F\mathcal{F} です。

閉包が一致すること。AXA\subseteq X をとり、この位相での閉包を A\overline{A} と書きます。(K3) より c(c(A))=c(A)c(c(A))=c(A) なので c(A)Fc(A)\in\mathcal{F}、つまり c(A)c(A) は閉集合で、(K2) より Ac(A)A\subseteq c(A) です。よって 定理 6.4 の (2) の最小性から Ac(A)\overline{A}\subseteq c(A) を得ます。逆に、A\overline{A} は閉集合すなわち AF\overline{A}\in\mathcal{F}AAA\subseteq\overline{A} なので、単調性より c(A)c(A)=Ac(A)\subseteq c(\overline{A})=\overline{A} です。両方合わせて c(A)=Ac(A)=\overline{A} です。

一意性。位相はその閉集合族によって決まります。もし位相 O\mathcal{O}' の閉包が cc に一致するなら、定理 6.4 の (2) より O\mathcal{O}' の閉集合は「閉包が自分自身に一致する集合」、すなわち F\mathcal{F} の元にほかならず、O=O\mathcal{O}'=\mathcal{O} となります。

4 つの入り口は同じ建物に通じています。 距離、開集合族、近傍系、閉包作用素のどれから出発しても、同じ「位相空間」という構造にたどり着きます。どれを定義に採用するかは便宜の問題で、開集合を採用するのは、連続性が 命題 3.6 の形でもっとも簡潔に書けるからです。次章ではその連続写像を一般の位相空間の間で定義し、位相空間としての「同じさ」を与える同相写像へ進みます(連続写像と同相写像)。

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