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摂動論:解けない問題を「解ける問題の近く」で解く

対象読者: 本テーマ第 1〜6 章(調和振動子・水素原子・角運動量とスピン)と、学部の線形代数(行列の対角化)・級数展開を学んだ人。場の量子論や多体論は仮定しません。

前提となる記事:角運動量とスピン:交換関係から固有値・パウリ行列・合成則を導く

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ヘリウム原子のように、電子が 2 個あるだけで方程式が厳密には解けなくなる系は少なくありません。そこで、解ける問題から少しだけずらした問題だと考え、ずれの小さい分だけ答えを修正していく、という方法があります。それが摂動論です。この記事を読み終えると、エネルギーが「ずれ」によってどれだけ動くかを、公式を使って実際に計算できるようになります。

  • 摂動論は、ハミルトニアン(系のエネルギーを表す演算子)が H(λ)=H0+λVH(\lambda) = H_0 + \lambda V と書けて H0H_0 の固有値・固有ベクトルが既知のとき、固有値問題の解を λ\lambda のべき級数として組み立てる方法です。
  • 縮退がない準位では、エネルギーの 1 次補正は摂動の対角成分 VnnV_{nn}、2 次補正は他の準位との混合の和 ∑m≠n∣Vmn∣2/(En(0)−Em(0))\sum_{m \ne n} |V_{mn}|^2 / (E_n^{(0)} - E_m^{(0)}) になります。基底状態の 2 次補正は必ず 00 以下です。
  • 摂動論が使えるかどうかは「摂動の行列要素が準位間隔よりずっと小さいか」で決まります。分母が小さいと展開は破綻します。
  • 縮退(同じエネルギーを持つ状態が複数あること)がある準位では、縮退部分空間に制限した行列 W=PVPW = PVP を対角化します。その固有値が 1 次のエネルギー、固有ベクトルが「正しい 0 次の状態」です。水素原子の線形シュタルク効果がその典型例です。
  • 摂動級数は収束するとは限りません。非調和振動子や電場中の原子では収束半径が 00 で、級数は漸近級数(収束はしないが、先頭の数項は近似として役に立つ級数)として最小項まで使うのが正しい扱いです。

1. 動機:厳密に解ける問題はほとんどない

Section titled “1. 動機:厳密に解ける問題はほとんどない”

シュレーディンガー方程式を厳密に解ききれる系は、驚くほど少数です。これまでの章で扱った 1 次元の簡単な系(井戸型ポテンシャル、調和振動子(定理 5.3)[1次元の簡単な系])と 水素原子(エネルギー準位(定理 5.2)[水素原子])は、その数少ない例外でした。ところが、そこから一歩でも現実に近づけると解けなくなります。

たとえばヘリウム原子です。原子核(電荷 +2e+2e)のまわりに電子が 2 個あるだけの、周期表で 2 番目に単純な原子ですが、そのハミルトニアン

H=−ℏ22m(∇12+∇22)−e24πε0(2r1+2r2)+e24πε01∣r1−r2∣H = -\frac{\hbar^2}{2m}\left(\nabla_1^2 + \nabla_2^2\right) - \frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0}\left(\frac{2}{r_1} + \frac{2}{r_2}\right) + \frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0}\frac{1}{|\boldsymbol{r}_1 - \boldsymbol{r}_2|}

には、電子どうしの反発を表す最後の項があります。この項があるために変数分離ができず、厳密解は知られていません。同じことは、一様電場をかけた水素原子(シュタルク効果)、磁場中の原子(ゼーマン効果)、実在の分子振動(調和近似からのずれ)など、実験室で測る量のほとんどについて起こります。

そこで発想を変えます。解けない HH を、解ける H0H_0 と、小さな残り λV\lambda V の和と見るのです。ヘリウムなら、H0H_0 を「電子間反発を無視した 2 個の水素様原子」とし、λV\lambda V を電子間反発とします。すると H0H_0 の固有値・固有ベクトルは既知ですから、そこからの「ずれ」を λ\lambda の小さい量として順に求められそうです。

この考え方自体は量子力学の発明ではありません。18 世紀以降の天体力学では、惑星の運動を「太陽と 1 惑星の二体問題(厳密に解ける)+ 他惑星からの引力(小さな摂動)」として扱う手法が発達しており、これが perturbation(摂動)という語の出どころです。古典論での対応物は 正準変換とポアソン括弧 で扱う正準摂動論です。量子論版は 1926 年にシュレーディンガーが波動力学の第 3 論文で定式化しました。彼自身は、弦の固有振動に対するレイリーの摂動計算を下敷きにしたと述べています。この記事で扱う公式が レイリー–シュレーディンガーの摂動論 と呼ばれるのはそのためです。

この章では時間に依存しない(定常状態の)摂動論だけを扱います。エネルギー固有値と固有状態が、λ\lambda とともにどう動くかを追いかけるのが目標です。

定義 2.1(摂動されたハミルトニアン)↗

ヒルベルト空間 H\mathcal{H} 上の自己共役作用素 H0H_0、VV と実パラメータ λ\lambda について、

H(λ)=H0+λVH(\lambda) = H_0 + \lambda V

の形の作用素の族を考える。H0H_0 を 無摂動ハミルトニアン、VV を 摂動、λ\lambda を 結合定数 と呼ぶ。

この章では次を仮定する。

  1. H0H_0 の固有ベクトル { ∣m(0)⟩ }m∈I\{\,|m^{(0)}\rangle\,\}_{m \in I} は完全正規直交系をなす。すなわち H0∣m(0)⟩=Em(0)∣m(0)⟩H_0|m^{(0)}\rangle = E_m^{(0)}|m^{(0)}\rangle、⟨m(0)∣m′(0)⟩=δmm′\langle m^{(0)}|m'^{(0)}\rangle = \delta_{mm'}、∑m∣m(0)⟩⟨m(0)∣=1\sum_{m} |m^{(0)}\rangle\langle m^{(0)}| = 1。
  2. VV は自己共役。その行列要素を Vmn=⟨m(0)∣V∣n(0)⟩V_{mn} = \langle m^{(0)}|V|n^{(0)}\rangle と書く。自己共役性から Vnm=Vmn‾V_{nm} = \overline{V_{mn}} である。

仮定 1 は「H0H_0 のスペクトルが離散的」という意味です。連続スペクトルがある場合は和を積分に置き換えれば形式的には同じ式になりますが、収束の議論は別途必要になります。H0H_0 の固有ベクトルが完全正規直交系をなすこと自体は、有限次元なら スペクトル定理(定理 4.2[スペクトル定理])が保証します。

摂動論の答えは「H0H_0 の固有ベクトルによる展開係数」の形で出ます。そこで、状態の規格化について便利な約束をしておきます。

定義 2.2(中間規格化)↗

H(λ)H(\lambda) の固有ベクトル ∣ψ(λ)⟩|\psi(\lambda)\rangle が λ→0\lambda \to 0 で ∣n(0)⟩|n^{(0)}\rangle に近づくとき、全体の定数倍の自由度を使って

⟨n(0)∣ψ(λ)⟩=1\langle n^{(0)} | \psi(\lambda)\rangle = 1

となるように選ぶ。この約束を 中間規格化 と呼ぶ。

固有ベクトルは定数倍の自由度があるので、この選び方はいつでも可能です(ただし ⟨n(0)∣ψ(λ)⟩≠0\langle n^{(0)}|\psi(\lambda)\rangle \ne 0 である限り、つまり λ\lambda が十分小さい範囲で)。中間規格化された ∣ψ⟩|\psi\rangle は ⟨ψ∣ψ⟩=1\langle\psi|\psi\rangle = 1 を満たしません。物理量の期待値を計算するときは最後に ∣ψ⟩/⟨ψ∣ψ⟩|\psi\rangle / \sqrt{\langle\psi|\psi\rangle} に直します。この約束の利点は、∣ψ⟩=∣n(0)⟩+λ∣n(1)⟩+⋯|\psi\rangle = |n^{(0)}\rangle + \lambda|n^{(1)}\rangle + \cdots と展開したとき

⟨n(0)∣n(k)⟩=0(k≥1)\langle n^{(0)} | n^{(k)}\rangle = 0 \qquad (k \ge 1)

が自動的に成り立ち、計算がきれいになることです。

摂動論の手順。縮退の有無で道が分かれる

まず、注目する準位 En(0)E_n^{(0)} が縮退していない場合を扱います。

定理 3.1(レイリー–シュレーディンガーの摂動公式)✓

定義 2.1 の仮定のもとで、さらに次を仮定する。

  • (A) En(0)E_n^{(0)} は縮退していない。すなわち m≠nm \ne n なるすべての mm について Em(0)≠En(0)E_m^{(0)} \ne E_n^{(0)} である。
  • (B) ある λ0>0\lambda_0 > 0 が存在して、∣λ∣<λ0|\lambda| < \lambda_0 で収束するべき級数
En(λ)=En(0)+λEn(1)+λ2En(2)+⋯ ,∣ψn(λ)⟩=∣n(0)⟩+λ∣n(1)⟩+λ2∣n(2)⟩+⋯E_n(\lambda) = E_n^{(0)} + \lambda E_n^{(1)} + \lambda^2 E_n^{(2)} + \cdots, \qquad |\psi_n(\lambda)\rangle = |n^{(0)}\rangle + \lambda |n^{(1)}\rangle + \lambda^2 |n^{(2)}\rangle + \cdots

が固有値方程式 H(λ)∣ψn(λ)⟩=En(λ)∣ψn(λ)⟩H(\lambda)|\psi_n(\lambda)\rangle = E_n(\lambda)|\psi_n(\lambda)\rangle を満たし、∣ψn(λ)⟩|\psi_n(\lambda)\rangle は中間規格化されている。

このとき

En(1)=Vnn,∣n(1)⟩=∑m≠nVmnEn(0)−Em(0) ∣m(0)⟩,En(2)=∑m≠n∣Vmn∣2En(0)−Em(0)E_n^{(1)} = V_{nn}, \qquad |n^{(1)}\rangle = \sum_{m \ne n} \frac{V_{mn}}{E_n^{(0)} - E_m^{(0)}}\,|m^{(0)}\rangle, \qquad E_n^{(2)} = \sum_{m \ne n} \frac{|V_{mn}|^2}{E_n^{(0)} - E_m^{(0)}}

が成り立つ。

次の証明の方針は、エネルギーも状態も λ\lambda のべき級数で書き、固有値方程式の両辺で同じ次数の項を比べて、低い次数から順に決めていくことです。各次数の式に H0H_0 の固有ベクトルとの内積を取ると、未知の補正がひとつずつ現れます。

証明(定理 3.1)

仮定 (B) の級数を固有値方程式に代入します。

(H0+λV)∑k≥0λk∣n(k)⟩=(∑j≥0λjEn(j))(∑k≥0λk∣n(k)⟩)(H_0 + \lambda V)\sum_{k \ge 0}\lambda^k |n^{(k)}\rangle = \left(\sum_{j\ge 0}\lambda^j E_n^{(j)}\right)\left(\sum_{k \ge 0}\lambda^k |n^{(k)}\rangle\right)

ここで ∣n(0)⟩|n^{(0)}\rangle、En(0)E_n^{(0)} は k=0k = 0 の項です。両辺は ∣λ∣<λ0|\lambda| < \lambda_0 で収束するべき級数なので、係数比較ができます。λ0\lambda^0、λ1\lambda^1、λ2\lambda^2 の係数を取り出すと、それぞれ

(λ0):(H0−En(0))∣n(0)⟩=0,(λ1):(H0−En(0))∣n(1)⟩=(En(1)−V)∣n(0)⟩,(λ2):(H0−En(0))∣n(2)⟩=(En(1)−V)∣n(1)⟩+En(2)∣n(0)⟩\begin{aligned} &(\lambda^0):\quad (H_0 - E_n^{(0)})|n^{(0)}\rangle = 0,\\ &(\lambda^1):\quad (H_0 - E_n^{(0)})|n^{(1)}\rangle = \left(E_n^{(1)} - V\right)|n^{(0)}\rangle,\\ &(\lambda^2):\quad (H_0 - E_n^{(0)})|n^{(2)}\rangle = \left(E_n^{(1)} - V\right)|n^{(1)}\rangle + E_n^{(2)}|n^{(0)}\rangle \end{aligned}

となります。λ0\lambda^0 の式は仮定そのもので、新しい情報はありません。

1 次のエネルギー。 λ1\lambda^1 の式の両辺と ⟨n(0)∣\langle n^{(0)}| との内積を取ります。左辺は、H0H_0 が自己共役で En(0)E_n^{(0)} が実数であることから

⟨n(0)∣(H0−En(0))∣n(1)⟩=⟨(H0−En(0))n(0)∣n(1)⟩=0\langle n^{(0)}|(H_0 - E_n^{(0)})|n^{(1)}\rangle = \langle (H_0 - E_n^{(0)})n^{(0)}|n^{(1)}\rangle = 0

です(定義 2.1 の仮定 1 で H0∣n(0)⟩=En(0)∣n(0)⟩H_0|n^{(0)}\rangle = E_n^{(0)}|n^{(0)}\rangle)。右辺は ⟨n(0)∣n(0)⟩=1\langle n^{(0)}|n^{(0)}\rangle = 1 より En(1)−VnnE_n^{(1)} - V_{nn}。したがって En(1)=VnnE_n^{(1)} = V_{nn} を得ます。

1 次の状態。 同じ λ1\lambda^1 の式と ⟨m(0)∣\langle m^{(0)}|(m≠nm \ne n)との内積を取ります。左辺は

⟨m(0)∣(H0−En(0))∣n(1)⟩=(Em(0)−En(0))⟨m(0)∣n(1)⟩\langle m^{(0)}|(H_0 - E_n^{(0)})|n^{(1)}\rangle = \left(E_m^{(0)} - E_n^{(0)}\right)\langle m^{(0)}|n^{(1)}\rangle

右辺は ⟨m(0)∣n(0)⟩=0\langle m^{(0)}|n^{(0)}\rangle = 0(正規直交性)を使って −Vmn-V_{mn}。仮定 (A) より Em(0)−En(0)≠0E_m^{(0)} - E_n^{(0)} \ne 0 なので、両辺を割ることが許されて

⟨m(0)∣n(1)⟩=VmnEn(0)−Em(0)(m≠n)\langle m^{(0)}|n^{(1)}\rangle = \frac{V_{mn}}{E_n^{(0)} - E_m^{(0)}} \qquad (m \ne n)

一方、m=nm = n の成分は中間規格化(定義 2.2)から ⟨n(0)∣n(1)⟩=0\langle n^{(0)}|n^{(1)}\rangle = 0 です。完全性 ∑m∣m(0)⟩⟨m(0)∣=1\sum_m |m^{(0)}\rangle\langle m^{(0)}| = 1 で ∣n(1)⟩|n^{(1)}\rangle を展開すれば、主張の第 2 式が出ます。

2 次のエネルギー。 λ2\lambda^2 の式と ⟨n(0)∣\langle n^{(0)}| との内積を取ります。左辺は 1 次のときと同じ理由で 00。右辺は

En(1)⟨n(0)∣n(1)⟩⏟=0−⟨n(0)∣V∣n(1)⟩+En(2)E_n^{(1)}\underbrace{\langle n^{(0)}|n^{(1)}\rangle}_{= 0} - \langle n^{(0)}|V|n^{(1)}\rangle + E_n^{(2)}

第 1 項は中間規格化により消えます。よって En(2)=⟨n(0)∣V∣n(1)⟩E_n^{(2)} = \langle n^{(0)}|V|n^{(1)}\rangle。ここに求めたばかりの ∣n(1)⟩|n^{(1)}\rangle を代入すると

En(2)=∑m≠nVmnEn(0)−Em(0) ⟨n(0)∣V∣m(0)⟩=∑m≠nVnmVmnEn(0)−Em(0)=∑m≠n∣Vmn∣2En(0)−Em(0)E_n^{(2)} = \sum_{m \ne n}\frac{V_{mn}}{E_n^{(0)}-E_m^{(0)}}\,\langle n^{(0)}|V|m^{(0)}\rangle = \sum_{m \ne n}\frac{V_{nm}V_{mn}}{E_n^{(0)}-E_m^{(0)}} = \sum_{m \ne n}\frac{|V_{mn}|^2}{E_n^{(0)}-E_m^{(0)}}

最後の等号で、VV の自己共役性 Vnm=Vmn‾V_{nm} = \overline{V_{mn}}(定義 2.1 の仮定 2)を使いました。

公式の読み方を確認しておきます。1 次補正 VnnV_{nn} は「無摂動状態のまま摂動の期待値を取る」という、いちばん素朴な見積もりです。2 次補正は、状態 ∣n(0)⟩|n^{(0)}\rangle が摂動によって他の状態 ∣m(0)⟩|m^{(0)}\rangle を「借りてくる」効果を表します。借りる量は行列要素 VmnV_{mn} に比例し、エネルギー差 En(0)−Em(0)E_n^{(0)}-E_m^{(0)} に反比例します。近い準位ほど強く混ざる、というのが物理的な内容です。

注意 3.2

仮定 (B) は無条件に成り立つものではなく、証明の出発点として置いた仮定です。カトー・レリッヒの解析的摂動論によれば、VV が有界(あるいは H0H_0 に対して相対有界で相対限界が 11 未満)で、En(0)E_n^{(0)} が H0H_0 のスペクトルの中で孤立した単純固有値であれば、(B) は正しく、収束半径は 00 より大きくなります。逆に、これらの条件が破れる物理的に重要な場面では (B) は成り立ちません(注意 6.2)。

実用上の目安は、証明の中で分母に現れた量から読み取れます。1 次の状態の展開係数が小さいこと、すなわち

∣λVmn∣≪∣En(0)−Em(0)∣(すべての m≠n)\left|\lambda V_{mn}\right| \ll \left|E_n^{(0)} - E_m^{(0)}\right| \qquad (\text{すべての } m \ne n)

が「摂動が小さい」の正確な意味です。λ\lambda そのものの大きさではなく、摂動の行列要素と準位間隔の比 が効きます。

系 3.3

E0(0)E_0^{(0)} が H0H_0 の最小固有値であり、かつ縮退していないとする。このとき基底状態の 2 次補正は

E0(2)=∑m≠0∣Vm0∣2E0(0)−Em(0)≤0E_0^{(2)} = \sum_{m \ne 0}\frac{|V_{m0}|^2}{E_0^{(0)} - E_m^{(0)}} \le 0

を満たす。すなわち 2 次の効果は基底エネルギーを必ず押し下げる(あるいは変えない)。

証明(系 3.3)

E0(0)E_0^{(0)} が最小固有値で縮退していないので、m≠0m \ne 0 なるすべての mm について Em(0)>E0(0)E_m^{(0)} > E_0^{(0)}、したがって分母 E0(0)−Em(0)<0E_0^{(0)} - E_m^{(0)} < 0 です。分子 ∣Vm0∣2≥0|V_{m0}|^2 \ge 0 なので各項は 00 以下であり、和も 00 以下になります。

この系は、次の変分的な事実と表裏一体です。

次の命題で使う変分原理とは、「どんな規格化された状態で測っても、エネルギーの期待値は真の最低エネルギー以上になる」という事実です。証明の前半はこのことの確認で、後半でそれを ∣0(0)⟩|0^{(0)}\rangle に当てはめます。

命題 3.4

H(λ)H(\lambda) の最小固有値を E0(λ)E_0(\lambda) とする。H0H_0 の基底状態 ∣0(0)⟩|0^{(0)}\rangle が規格化されていれば

E0(λ)≤E0(0)+λ V00E_0(\lambda) \le E_0^{(0)} + \lambda\, V_{00}

が任意の λ\lambda について成り立つ。すなわち基底状態の 1 次摂動論の答えは、真のエネルギーの上界である。

証明(命題 3.4)

変分原理を使います。H(λ)H(\lambda) の規格化された固有ベクトル {∣k⟩}\{|k\rangle\}(固有値 Ek(λ)E_k(\lambda)、E0(λ)E_0(\lambda) が最小)で任意の規格化ベクトル ∣ϕ⟩|\phi\rangle を ∣ϕ⟩=∑kck∣k⟩|\phi\rangle = \sum_k c_k |k\rangle と展開すると

⟨ϕ∣H(λ)∣ϕ⟩=∑kEk(λ)∣ck∣2≥E0(λ)∑k∣ck∣2=E0(λ)\langle\phi|H(\lambda)|\phi\rangle = \sum_k E_k(\lambda)|c_k|^2 \ge E_0(\lambda)\sum_k |c_k|^2 = E_0(\lambda)

ここで ∣ϕ⟩=∣0(0)⟩|\phi\rangle = |0^{(0)}\rangle と取れば、左辺は

⟨0(0)∣H0+λV∣0(0)⟩=E0(0)+λV00\langle 0^{(0)}|H_0 + \lambda V|0^{(0)}\rangle = E_0^{(0)} + \lambda V_{00}

となり、主張を得ます。

命題 3.5(ヘルマン–ファインマンの定理)✓

H(λ)H(\lambda) の固有値 E(λ)E(\lambda) と、対応する規格化された固有ベクトル ∣ψ(λ)⟩|\psi(\lambda)\rangle(⟨ψ∣ψ⟩=1\langle\psi|\psi\rangle = 1)が λ\lambda について微分可能であるとする。このとき

dEdλ=⟨ψ(λ)∣V∣ψ(λ)⟩\frac{dE}{d\lambda} = \langle \psi(\lambda)|V|\psi(\lambda)\rangle

が成り立つ。

証明(命題 3.5)

E(λ)=⟨ψ∣H(λ)∣ψ⟩E(\lambda) = \langle\psi|H(\lambda)|\psi\rangle を λ\lambda で微分します。dH/dλ=VdH/d\lambda = V に注意して

dEdλ=⟨ψ′∣H∣ψ⟩+⟨ψ∣V∣ψ⟩+⟨ψ∣H∣ψ′⟩\frac{dE}{d\lambda} = \langle \psi'|H|\psi\rangle + \langle\psi|V|\psi\rangle + \langle\psi|H|\psi'\rangle

第 1 項では H∣ψ⟩=E∣ψ⟩H|\psi\rangle = E|\psi\rangle を、第 3 項では HH の自己共役性と EE が実数であることから従う ⟨ψ∣H=E⟨ψ∣\langle\psi|H = E\langle\psi| を使えて、合わせて E(⟨ψ′∣ψ⟩+⟨ψ∣ψ′⟩)=E ddλ⟨ψ∣ψ⟩=0E\left(\langle\psi'|\psi\rangle + \langle\psi|\psi'\rangle\right) = E\,\dfrac{d}{d\lambda}\langle\psi|\psi\rangle = 0。最後の等号は規格化 ⟨ψ∣ψ⟩=1\langle\psi|\psi\rangle = 1 が λ\lambda によらないことによります。残るのは第 2 項だけです。

λ=0\lambda = 0 で 命題 3.5 を使うと dEn/dλ∣0=⟨n(0)∣V∣n(0)⟩=Vnn\left. dE_n/d\lambda\right|_{0} = \langle n^{(0)}|V|n^{(0)}\rangle = V_{nn} となり、定理 3.1 の 1 次公式が独立に再現されます。計算の検算に使えます。

4. 公式を使って最後まで計算する

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例 4.1(2 準位系:厳密解と摂動級数の比較)

H=C2\mathcal{H} = \mathbb{C}^2 とし、正規直交基底 ∣1⟩,∣2⟩|1\rangle, |2\rangle について

H0=(E100E2),V=(0vv0),v>0,  E1>E2H_0 = \begin{pmatrix} E_1 & 0 \\ 0 & E_2\end{pmatrix}, \qquad V = \begin{pmatrix} 0 & v \\ v & 0 \end{pmatrix}, \qquad v > 0,\ \ E_1 > E_2

とします。Δ=(E1−E2)/2>0\Delta = (E_1 - E_2)/2 > 0、Eˉ=(E1+E2)/2\bar{E} = (E_1+E_2)/2 と置くと、H(λ)H(\lambda) の固有値は 2 次方程式を解いて厳密に

E±(λ)=Eˉ±Δ2+λ2v2E_\pm(\lambda) = \bar{E} \pm \sqrt{\Delta^2 + \lambda^2 v^2}

と求まります。一方、摂動論では V11=V22=0V_{11} = V_{22} = 0 なので 1 次補正は 00、2 次補正は 定理 3.1 より

E1(2)=∣V21∣2E1−E2=v22ΔE_1^{(2)} = \frac{|V_{21}|^2}{E_1 - E_2} = \frac{v^2}{2\Delta}

です。厳密解を展開すると、∣λv∣<Δ|\lambda v| < \Delta のとき

E+(λ)=Eˉ+Δ1+λ2v2Δ2=Eˉ+Δ+λ2v22Δ−λ4v48Δ3+⋯=E1+λ2v22Δ+O(λ4)E_+(\lambda) = \bar E + \Delta\sqrt{1 + \frac{\lambda^2v^2}{\Delta^2}} = \bar E + \Delta + \frac{\lambda^2 v^2}{2\Delta} - \frac{\lambda^4 v^4}{8\Delta^3} + \cdots = E_1 + \lambda^2\frac{v^2}{2\Delta} + O(\lambda^4)

となり、確かに一致します。

この例の価値は、収束半径がはっきり見えることです。Δ2+λ2v2\sqrt{\Delta^2 + \lambda^2 v^2} を λ\lambda の複素関数と見ると、λ=±iΔ/v\lambda = \pm i\Delta/v で分岐点を持ちます。したがってべき級数の収束半径は Δ/v=(E1−E2)/(2v)\Delta/v = (E_1-E_2)/(2v) であり、これは 注意 3.2 の目安「摂動の行列要素 ≪\ll 準位間隔」を数値として裏づけています。

例 4.2(一様電場中の荷電調和振動子:摂動級数が 2 次で止まる例)

質量 mm、電荷 qq の粒子が 1 次元調和ポテンシャルに束縛され、一様電場 E\mathcal{E} がかかっている系を考えます。

H=p22m+12mω2x2⏟H0  − qEx⏟VH = \underbrace{\frac{p^2}{2m} + \frac{1}{2}m\omega^2 x^2}_{H_0} \; \underbrace{-\, q\mathcal{E}x}_{V}

まず厳密解を出します。平方完成すると

12mω2x2−qEx=12mω2(x−qEmω2)2−q2E22mω2\frac{1}{2}m\omega^2x^2 - q\mathcal{E}x = \frac{1}{2}m\omega^2\left(x - \frac{q\mathcal{E}}{m\omega^2}\right)^2 - \frac{q^2\mathcal{E}^2}{2m\omega^2}

なので、HH は中心が x0=qE/(mω2)x_0 = q\mathcal{E}/(m\omega^2) にずれた調和振動子に定数を足したものです。よって厳密なエネルギーは

En=(n+12)ℏω−q2E22mω2E_n = \left(n + \tfrac{1}{2}\right)\hbar\omega - \frac{q^2\mathcal{E}^2}{2m\omega^2}

です。補正は E\mathcal{E} の 2 次でぴたりと止まります。

次に摂動論で確かめます。生成消滅演算子(定義 5.1)[1次元の簡単な系] を使うと x=β(a+a†)x = \beta(a + a^\dagger)、β=ℏ/(2mω)\beta = \sqrt{\hbar/(2m\omega)} で、a∣n⟩=n ∣n−1⟩a|n\rangle = \sqrt{n}\,|n-1\rangle、a†∣n⟩=n+1 ∣n+1⟩a^\dagger|n\rangle = \sqrt{n+1}\,|n+1\rangle です。したがって xx の 00 でない行列要素は

xn−1,n=βn,xn+1,n=βn+1x_{n-1,n} = \beta\sqrt{n},\qquad x_{n+1,n} = \beta\sqrt{n+1}

の 2 つだけです。1 次補正は En(1)=−qE xnn=0E_n^{(1)} = -q\mathcal{E}\,x_{nn} = 0。2 次補正は、En(0)−En−1(0)=ℏωE_n^{(0)} - E_{n-1}^{(0)} = \hbar\omega、En(0)−En+1(0)=−ℏωE_n^{(0)} - E_{n+1}^{(0)} = -\hbar\omega に注意して

En(2)=q2E2[β2nℏω+β2(n+1)−ℏω]=q2E2β2ℏω(n−(n+1))=−q2E22mω2E_n^{(2)} = q^2\mathcal{E}^2\left[\frac{\beta^2 n}{\hbar\omega} + \frac{\beta^2(n+1)}{-\hbar\omega}\right] = \frac{q^2\mathcal{E}^2\beta^2}{\hbar\omega}\left(n - (n+1)\right) = -\frac{q^2\mathcal{E}^2}{2m\omega^2}

最後は β2=ℏ/(2mω)\beta^2 = \hbar/(2m\omega) を代入しました。厳密解と完全に一致し、しかも nn に依存しません。3 次以上の補正がすべて消えることも、厳密解からわかります。

例 4.3(非調和振動子:1 次補正)

分子振動などでポテンシャルが放物線からずれる効果を、V=x4V = x^4、H0=p2/2m+mω2x2/2H_0 = p^2/2m + m\omega^2x^2/2 でモデル化します。1 次補正は En(1)=⟨n∣x4∣n⟩=β4⟨n∣(a+a†)4∣n⟩E_n^{(1)} = \langle n|x^4|n\rangle = \beta^4\langle n|(a+a^\dagger)^4|n\rangle です。

(a+a†)(a + a^\dagger) は自己共役なので ⟨n∣(a+a†)4∣n⟩=∥ (a+a†)2∣n⟩ ∥2\langle n|(a+a^\dagger)^4|n\rangle = \bigl\|\,(a+a^\dagger)^2|n\rangle\,\bigr\|^2 と書けます。実際に 2 回作用させると

(a+a†)∣n⟩=n ∣n−1⟩+n+1 ∣n+1⟩,(a+a†)2∣n⟩=n(n−1) ∣n−2⟩+(2n+1) ∣n⟩+(n+1)(n+2) ∣n+2⟩\begin{aligned} (a+a^\dagger)|n\rangle &= \sqrt{n}\,|n-1\rangle + \sqrt{n+1}\,|n+1\rangle,\\ (a+a^\dagger)^2|n\rangle &= \sqrt{n(n-1)}\,|n-2\rangle + (2n+1)\,|n\rangle + \sqrt{(n+1)(n+2)}\,|n+2\rangle \end{aligned}

(2 行目は 1 行目にもう一度作用させ、∣n⟩|n\rangle の係数を n⋅n+n+1⋅n+1=2n+1\sqrt{n}\cdot\sqrt{n} + \sqrt{n+1}\cdot\sqrt{n+1} = 2n+1 とまとめました)。ノルムの 2 乗は

n(n−1)+(2n+1)2+(n+1)(n+2)=6n2+6n+3n(n-1) + (2n+1)^2 + (n+1)(n+2) = 6n^2 + 6n + 3

したがって

En(1)=(ℏ2mω)2(6n2+6n+3)=3ℏ24m2ω2(2n2+2n+1)E_n^{(1)} = \left(\frac{\hbar}{2m\omega}\right)^{2}\left(6n^2 + 6n + 3\right) = \frac{3\hbar^2}{4m^2\omega^2}\left(2n^2 + 2n + 1\right)

補正が n2n^2 で増えることに注意してください。nn が大きくなると 注意 3.2 の条件がいずれ破れ、摂動論は使えなくなります。高い励起状態ほど非調和性が効く、という実験的事実に対応しています。

定理 3.1 の証明で決定的だったのは、Em(0)−En(0)≠0E_m^{(0)} - E_n^{(0)} \ne 0 で割れることでした。縮退があると、この割り算ができません。実際、Em(0)=En(0)E_m^{(0)} = E_n^{(0)} となる mm について λ1\lambda^1 の式を ⟨m(0)∣\langle m^{(0)}| に射影すると

0=− Vmn0 = -\,V_{mn}

という、∣n(1)⟩|n^{(1)}\rangle を決めるはずの式が消えて代わりに 条件 が出てきます。つまり縮退部分空間の中で VV の非対角成分が消えるような基底を選ばない限り、そもそも仮定 (B) の形の展開が存在しません。λ→0\lambda \to 0 の極限で状態がどれになるかは、縮退部分空間の中では自由に選べないのです。

言い換えると、非縮退の場合は左辺の係数 Em(0)−En(0)E_m^{(0)} - E_n^{(0)} で両辺を割って ⟨m(0)∣n(1)⟩\langle m^{(0)}|n^{(1)}\rangle を決めていましたが、縮退した相手 mm ではこの係数が 00 なので、左辺は ∣n(1)⟩|n^{(1)}\rangle に何も教えてくれず、右辺の VmnV_{mn} が 00 でなければならないという制約だけが残ります。この節では、その制約を満たす「正しい 0 次の状態」を選ぶ方法を調べます。

定義 5.1(縮退部分空間と摂動行列)↗

H0H_0 の固有値 Ed(0)E_d^{(0)} の固有空間を D\mathcal{D} とし、dim⁡D=g≥2\dim\mathcal{D} = g \ge 2 とする。D\mathcal{D} の正規直交基底を ∣d,1⟩,…,∣d,g⟩|d,1\rangle,\dots,|d,g\rangle、D\mathcal{D} への直交射影を PP と書く。g×gg \times g 行列

Wij=⟨d,i∣ V ∣d,j⟩(i,j=1,…,g)W_{ij} = \langle d,i|\,V\,|d,j\rangle \qquad (i,j = 1,\dots,g)

を 摂動行列(あるいは永年行列)と呼ぶ。作用素としては W=PVPW = PVP を D\mathcal{D} に制限したものである。VV が自己共役なので WW はエルミート行列である。

定理 5.2(縮退がある場合の 1 次摂動)✓

定義 5.1 の設定のもとで、∣λ∣<λ0|\lambda| < \lambda_0 で収束するべき級数

E(λ)=Ed(0)+λE(1)+λ2E(2)+⋯ ,∣ψ(λ)⟩=∣ψ(0)⟩+λ∣ψ(1)⟩+⋯E(\lambda) = E_d^{(0)} + \lambda E^{(1)} + \lambda^2 E^{(2)} + \cdots,\qquad |\psi(\lambda)\rangle = |\psi^{(0)}\rangle + \lambda|\psi^{(1)}\rangle + \cdots

が H(λ)∣ψ(λ)⟩=E(λ)∣ψ(λ)⟩H(\lambda)|\psi(\lambda)\rangle = E(\lambda)|\psi(\lambda)\rangle を満たし、∣ψ(0)⟩∈D|\psi^{(0)}\rangle \in \mathcal{D}、∣ψ(0)⟩≠0|\psi^{(0)}\rangle \ne 0 であるとする。このとき

W∣ψ(0)⟩=E(1)∣ψ(0)⟩W|\psi^{(0)}\rangle = E^{(1)}|\psi^{(0)}\rangle

が成り立つ。すなわち 1 次のエネルギー補正は摂動行列 WW の固有値 であり、0 次の状態は対応する固有ベクトル である。逆に WW のどの固有値 E(1)E^{(1)} も、固有ベクトルを ∣ψ(0)⟩|\psi^{(0)}\rangle に取れば λ1\lambda^1 の方程式は解を持つ。

証明の流れは次のとおりです。λ1\lambda^1 の式に、縮退部分空間への射影 PP をかけます。H0H_0 は D\mathcal{D} 上で定数 Ed(0)E_d^{(0)} としてはたらくので、左辺が消え、右辺から WW に関する式だけが残ります。

証明(定理 5.2)

級数を代入して λ1\lambda^1 の係数を比較すると、定理 3.1 の証明と同じ形の式

(H0−Ed(0))∣ψ(1)⟩=(E(1)−V)∣ψ(0)⟩(H_0 - E_d^{(0)})|\psi^{(1)}\rangle = \left(E^{(1)} - V\right)|\psi^{(0)}\rangle

が得られます。この両辺に射影 PP を左からかけます。D\mathcal{D} は H0H_0 の固有空間なので H0H_0 は D\mathcal{D} とその直交補空間をそれぞれ保ち、したがって [H0,P]=0[H_0, P] = 0 です。よって左辺は

P(H0−Ed(0))∣ψ(1)⟩=(H0−Ed(0))P∣ψ(1)⟩=0P(H_0 - E_d^{(0)})|\psi^{(1)}\rangle = (H_0 - E_d^{(0)})P|\psi^{(1)}\rangle = 0

となります。最後の等号は、P∣ψ(1)⟩∈DP|\psi^{(1)}\rangle \in \mathcal{D} が H0H_0 の固有値 Ed(0)E_d^{(0)} の固有ベクトル(または 00)だからです。右辺は P∣ψ(0)⟩=∣ψ(0)⟩P|\psi^{(0)}\rangle = |\psi^{(0)}\rangle を使って

E(1)∣ψ(0)⟩−PV∣ψ(0)⟩=E(1)∣ψ(0)⟩−PVP∣ψ(0)⟩E^{(1)}|\psi^{(0)}\rangle - PV|\psi^{(0)}\rangle = E^{(1)}|\psi^{(0)}\rangle - PVP|\psi^{(0)}\rangle

両者を等しいと置けば PVP∣ψ(0)⟩=E(1)∣ψ(0)⟩PVP|\psi^{(0)}\rangle = E^{(1)}|\psi^{(0)}\rangle、すなわち W∣ψ(0)⟩=E(1)∣ψ(0)⟩W|\psi^{(0)}\rangle = E^{(1)}|\psi^{(0)}\rangle です。

逆向きの主張を見ます。WW の固有ベクトル ∣ψ(0)⟩|\psi^{(0)}\rangle(固有値 E(1)E^{(1)})を取ると、右辺 (E(1)−V)∣ψ(0)⟩\left(E^{(1)}-V\right)|\psi^{(0)}\rangle は PP をかけると 00 になる、つまり D⊥\mathcal{D}^{\perp} に属します。一方 H0−Ed(0)H_0 - E_d^{(0)} は D⊥\mathcal{D}^{\perp} 上で可逆です(D⊥\mathcal{D}^\perp 上では H0H_0 の固有値はすべて Ed(0)E_d^{(0)} と異なるため)。したがって λ1\lambda^1 の方程式は D⊥\mathcal{D}^{\perp} の中で一意に解け、実際

Q∣ψ(1)⟩=∑m : Em(0)≠Ed(0)⟨m(0)∣V∣ψ(0)⟩Ed(0)−Em(0)∣m(0)⟩,Q=1−PQ|\psi^{(1)}\rangle = \sum_{m \,:\, E_m^{(0)} \ne E_d^{(0)}} \frac{\langle m^{(0)}|V|\psi^{(0)}\rangle}{E_d^{(0)} - E_m^{(0)}}|m^{(0)}\rangle,\qquad Q = 1 - P

が解になります。WW はエルミート行列なので、スペクトル定理 により D\mathcal{D} の正規直交基底をなす固有ベクトルが gg 個取れます。

実際の計算は、WW の 固有値 を求める永年方程式 det⁡(W−E(1)I)=0\det(W - E^{(1)}I) = 0(命題 3.3[固有値と固有ベクトル])を解くことに帰着します。gg が大きいとこれは重い作業ですが、多くの場合は対称性が助けてくれます。

補題 5.3(保存量の固有値が異なる状態の間の行列要素)✓

AA をエルミート演算子、VV を [A,V]=0[A,V]=0 を満たす演算子とし、A∣a⟩=a∣a⟩A|a\rangle=a|a\rangle、A∣a′⟩=a′∣a′⟩A|a'\rangle=a'|a'\rangle とする。a≠a′a\ne a' ならば ⟨a∣V∣a′⟩=0\langle a|V|a'\rangle=0 である。特に AA が H0H_0 とも VV とも交換するとき、D\mathcal{D} の基底を AA の固有ベクトルで取れば、WW は AA の固有値ごとのブロックに分かれたブロック対角行列になる。

証明(補題 5.3)

AA はエルミートなので ⟨a∣A=a⟨a∣\langle a|A=a\langle a|(aa は実数)で、⟨a∣[A,V]∣a′⟩=⟨a∣AV∣a′⟩−⟨a∣VA∣a′⟩=(a−a′)⟨a∣V∣a′⟩\langle a|[A,V]|a'\rangle=\langle a|AV|a'\rangle-\langle a|VA|a'\rangle=(a-a')\langle a|V|a'\rangle。左辺は 00 なので、a≠a′a\ne a' なら ⟨a∣V∣a′⟩=0\langle a|V|a'\rangle=0。AA が H0H_0 と交換すれば D\mathcal{D} は AA で不変で、D\mathcal{D} の基底を AA の固有ベクトルで取れる(定理 6.1[演算子と物理量])ので、後半が従う。

注意 5.4

補題 5.3 により、AA が H0H_0 とも VV とも交換する観測量であれば、AA の固有値が異なる状態の間では WW の非対角成分が消え、各ブロックだけを対角化すれば済みます。次の例では、これを A=LzA = L_z とパリティに対して使います。

例 5.5(水素原子 n = 2 の線形シュタルク効果)

水素原子に zz 方向の一様電場 E\mathcal{E} をかけます。電子の電荷は −e-e(e>0e > 0)なので、ポテンシャルエネルギーは V=−(−e)Ez=eEzV = -(-e)\mathcal{E}z = e\mathcal{E}z です。スピンを無視すると n=2n = 2 の準位は g=4g = 4 重に縮退しており(系 7.1[水素原子])、基底は ∣200⟩, ∣210⟩, ∣211⟩, ∣21−1⟩|200\rangle,\ |210\rangle,\ |211\rangle,\ |21{-1}\rangle(∣nℓm⟩|n\ell m\rangle の記法)です。

どの行列要素が生き残るか。 zz は LzL_z と交換するので、注意 5.4 により m≠m′m \ne m' の行列要素は消えます。また zz はパリティ変換 r→−r\boldsymbol{r}\to-\boldsymbol{r} で符号を変え、∣nℓm⟩|n\ell m\rangle のパリティは (−1)ℓ(-1)^\ell なので、ℓ\ell と ℓ′\ell' の偶奇が同じ状態どうしの行列要素も消えます(対角成分もすべて 00 です)。残るのは ⟨200∣z∣210⟩\langle 200|z|210\rangle とその複素共役だけです。

その値。 規格化された波動関数

ψ200=132πa03(2−ra0)e−r/2a0,ψ210=132πa03ra0e−r/2a0cos⁡θ\psi_{200} = \frac{1}{\sqrt{32\pi a_0^3}}\left(2 - \frac{r}{a_0}\right)e^{-r/2a_0},\qquad \psi_{210} = \frac{1}{\sqrt{32\pi a_0^3}}\frac{r}{a_0}e^{-r/2a_0}\cos\theta

を使い、z=rcos⁡θz = r\cos\theta として計算します。角度積分は ∫cos⁡2θ dΩ=4π/3\int \cos^2\theta\, d\Omega = 4\pi/3、動径積分は ∫0∞rke−r/a0dr=k! a0k+1\int_0^\infty r^k e^{-r/a_0}dr = k!\,a_0^{k+1} を使って

1a0∫0∞r4(2−ra0)e−r/a0dr=1a0(2⋅4! a05−5! a06a0)=48a05−120a05a0=−72a04\frac{1}{a_0}\int_0^\infty r^4\left(2 - \frac{r}{a_0}\right)e^{-r/a_0}dr = \frac{1}{a_0}\left(2\cdot 4!\,a_0^5 - \frac{5!\,a_0^6}{a_0}\right) = \frac{48a_0^5 - 120a_0^5}{a_0} = -72a_0^4

したがって

⟨200∣z∣210⟩=132πa03⋅4π3⋅(−72a04)=−3a0\langle 200|z|210\rangle = \frac{1}{32\pi a_0^3}\cdot\frac{4\pi}{3}\cdot(-72a_0^4) = -3a_0

永年方程式。 生き残る 2 状態 (∣200⟩,∣210⟩)(|200\rangle, |210\rangle) の張る部分空間で摂動行列は

W=(0−3ea0E−3ea0E0)W = \begin{pmatrix} 0 & -3ea_0\mathcal{E}\\ -3ea_0\mathcal{E} & 0\end{pmatrix}

固有値は ∓3ea0E\mp 3ea_0\mathcal{E}、固有ベクトルは (∣200⟩±∣210⟩)/2\left(|200\rangle \pm |210\rangle\right)/\sqrt{2} です。∣211⟩|211\rangle と ∣21−1⟩|21{-1}\rangle は 1 次では動きません。

結果として n=2n=2 の準位は 3 本に分裂し、分裂幅は電場の 1 次 に比例します。これが線形シュタルク効果です。これは水素特有の現象で、ℓ\ell が異なる状態が偶然に縮退している(クーロン力の特別な性質による)ためにパリティの異なる状態が混ざり、(∣200⟩+∣210⟩)/2\left(|200\rangle+|210\rangle\right)/\sqrt2 が恒久的な電気双極子モーメント 3ea03ea_0 を持つことに対応します。縮退のない一般の原子では 1 次補正は対称性により消え、効果は電場の 2 次(二次シュタルク効果、分極率)から始まります。

n = 2(4 重縮退)ℰ = 0E₂ + 3 e a₀ ℰ(|2s⟩ − |2p₀⟩)/√2E₂(2 重縮退のまま)|2p₊₁⟩, |2p₋₁⟩E₂ − 3 e a₀ ℰ(|2s⟩ + |2p₀⟩)/√2ℰ ≠ 0
水素原子 n = 2 の線形シュタルク分裂。ℰ は電場の大きさ、a₀ はボーア半径。左が電場なし、右が電場あり

6. 摂動級数はどこまで信用できるか

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次の例の計算は、電子 1 を位置 RR に固定して、電子 2 の電荷の雲がつくる 1/r121/r_{12} の平均を求めることから始まります。球対称な雲は、半径 RR より内側の部分は中心にある点電荷のように、外側の部分は電子 1 の位置に影響しない一定の値としてはたらきます。それが下の F(R)F(R) の 2 項(内側の積分と外側の積分)に対応します。

例 6.1(ヘリウム原子の基底状態)

例 5.5 までは摂動が小さい場面でした。ここでは、摂動が小さくない現実の問題に公式を当ててみます。§1 のヘリウムのハミルトニアンを

H0=∑i=1,2(−ℏ22m∇i2−Ze24πε0ri),V=e24πε01∣r1−r2∣(Z=2)H_0 = \sum_{i=1,2}\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla_i^2 - \frac{Ze^2}{4\pi\varepsilon_0 r_i}\right),\qquad V = \frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0}\frac{1}{|\boldsymbol{r}_1 - \boldsymbol{r}_2|} \qquad (Z = 2)

と分けます。H0H_0 は独立な 2 個の水素様原子なので厳密に解け、基底状態の空間波動関数とエネルギーは

ψ0(r1,r2)=Z3πa03e−Z(r1+r2)/a0,E(0)=−2Z2ERy=−8×13.606 eV=−108.8 eV\psi_0(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2) = \frac{Z^3}{\pi a_0^3}e^{-Z(r_1+r_2)/a_0},\qquad E^{(0)} = -2Z^2 E_{\mathrm{Ry}} = -8 \times 13.606\ \mathrm{eV} = -108.8\ \mathrm{eV}

です(ERy=13.606E_{\mathrm{Ry}} = 13.606 eV)。この空間部分は 2 電子の交換について対称なので、パウリ原理を満たすためスピン部分は反対称な一重項でなければなりません(例 6.4[角運動量とスピン])。VV はスピンに作用しないので、以下の計算にスピンは効きません。

1 次補正。 ρ(r)=(Z3/πa03)e−2Zr/a0\rho(r) = (Z^3/\pi a_0^3)e^{-2Zr/a_0} は規格化された 1 電子密度です。b=2Z/a0b = 2Z/a_0 と置くと ρ(r)=(b3/8π)e−br\rho(r) = (b^3/8\pi)e^{-br} です。球対称なので、1/∣r1−r2∣1/|\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2| の多重極展開のうち角運動量 00 の項だけが生き残り、1/r>1/r_{>}(r>=max⁡(r1,r2)r_> = \max(r_1,r_2))で置き換えられます。電子 1 の位置を RR に固定したときの電子 2 についての積分は

F(R)=1R∫0R4πr2ρ(r) dr+∫R∞4πr ρ(r) drF(R) = \frac{1}{R}\int_0^{R} 4\pi r^2\rho(r)\,dr + \int_{R}^{\infty} 4\pi r\,\rho(r)\,dr

です。∫0Rr2e−brdr=2b3−e−bR(R2b+2Rb2+2b3)\int_0^R r^2e^{-br}dr = \dfrac{2}{b^3} - e^{-bR}\left(\dfrac{R^2}{b}+\dfrac{2R}{b^2}+\dfrac{2}{b^3}\right) と ∫R∞re−brdr=e−bR(Rb+1b2)\int_R^\infty re^{-br}dr = e^{-bR}\left(\dfrac{R}{b}+\dfrac{1}{b^2}\right) を代入すると

F(R)=1R[1−e−bR(b2R22+bR+1)]+e−bR2(b2R+b)=1−e−bRR−b2e−bRF(R) = \frac{1}{R}\left[1 - e^{-bR}\left(\frac{b^2R^2}{2}+bR+1\right)\right] + \frac{e^{-bR}}{2}\left(b^2R+b\right) = \frac{1 - e^{-bR}}{R} - \frac{b}{2}e^{-bR}

と大きく約分されます。あとは電子 1 について積分するだけです。

⟨1r12⟩=∫0∞4πR2ρ(R)F(R) dR=b32∫0∞(Re−bR−Re−2bR−b2R2e−2bR)dR\left\langle \frac{1}{r_{12}}\right\rangle = \int_0^\infty 4\pi R^2\rho(R)F(R)\,dR = \frac{b^3}{2}\int_0^\infty\left(Re^{-bR} - Re^{-2bR} - \frac{b}{2}R^2e^{-2bR}\right)dR

∫0∞Re−bRdR=1/b2\int_0^\infty Re^{-bR}dR = 1/b^2、∫0∞Re−2bRdR=1/(4b2)\int_0^\infty Re^{-2bR}dR = 1/(4b^2)、∫0∞R2e−2bRdR=1/(4b3)\int_0^\infty R^2e^{-2bR}dR = 1/(4b^3) より

⟨1r12⟩=b32(1b2−14b2−18b2)=b2⋅58=5b16=5Z8a0\left\langle \frac{1}{r_{12}}\right\rangle = \frac{b^3}{2}\left(\frac{1}{b^2}-\frac{1}{4b^2}-\frac{1}{8b^2}\right) = \frac{b}{2}\cdot\frac{5}{8} = \frac{5b}{16} = \frac{5Z}{8a_0}

したがって

E(1)=5Z8⋅e24πε0a0=5×28×27.21 eV=34.0 eVE^{(1)} = \frac{5Z}{8}\cdot\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0 a_0} = \frac{5 \times 2}{8}\times 27.21\ \mathrm{eV} = 34.0\ \mathrm{eV}

評価。 1 次までの予言は E≃−108.8+34.0=−74.8E \simeq -108.8 + 34.0 = -74.8 eV。実験値(ヘリウムの 2 電子を無限遠に引き離すのに要するエネルギーの符号を変えたもの)は −79.0-79.0 eV です。誤差は 4.24.2 eV、約 5%5\% にとどまります。

これは、摂動が決して小さくないことを考えると健闘した結果です。実際 E(1)/∣E(0)∣=34.0/108.8≃0.31E^{(1)}/|E^{(0)}| = 34.0/108.8 \simeq 0.31 であり、注意 3.2 の意味で「小さい摂動」とは言えません。また 命題 3.4 の予想どおり、1 次の答え −74.8-74.8 eV は真の値 −79.0-79.0 eV の上界になっています。精度を上げるには 2 次に進むよりも、ZZ を変分パラメータに格上げする変分法(有効核電荷が遮蔽で 22 より小さくなる効果を取り込む)のほうが効率的です。

注意 6.2

定理 3.1 の仮定 (B)(べき級数が収束すること)は、物理的に重要な場面でしばしば成り立ちません。

非調和振動子。 例 4.3 の H(λ)=p2/2m+mω2x2/2+λx4H(\lambda) = p^2/2m + m\omega^2x^2/2 + \lambda x^4 について、ベンダーとウーは基底エネルギーの摂動係数 E0(k)E_0^{(k)} が k!k! のように増大し、級数の収束半径が 00 であることを示しました。理由は物理的に明快です。λ<0\lambda < 0 ならポテンシャルは ∣x∣→∞|x|\to\infty で −∞-\infty に落ちるので HH は下に有界でなく、束縛状態は存在しません。したがって E0(λ)E_0(\lambda) は λ=0\lambda = 0 のどんな近傍でも定義されず、λ=0\lambda = 0 で解析的になりようがないのです。

電場中の原子。 同じ理屈がシュタルク効果にも当てはまります。一様電場 E≠0\mathcal{E} \ne 0 の下ではポテンシャル −e2/(4πε0r)+eEz-e^2/(4\pi\varepsilon_0 r) + e\mathcal{E}z が z→−∞z \to -\infty で −∞-\infty に落ちるので、電子はトンネル効果でいずれ電離します。厳密には束縛状態は存在せず、有限の寿命を持つ共鳴があるだけです。シュタルク効果の摂動級数も収束しません。

では無意味かというと、そうではありません。これらの級数は 漸近級数 です。NN 項で打ち切った和と真の値の差が λ→0\lambda \to 0 で O(λN+1)O(\lambda^{N+1}) になる、という性質は保たれます。実務では「項の大きさが最小になるところで打ち切る」のが最良で、そのときの誤差はおおむね最小項の大きさ程度です。同じ構造は場の量子論の摂動展開にもあり、ダイソンは 1952 年に量子電磁力学の摂動級数が収束しないことを、上と同じ「結合定数の符号を変えると系が不安定になる」議論で指摘しました。

演習 7.1易

幅 LL の無限に深い井戸(0≤x≤L0 \le x \le L で V=0V = 0、外で ∞\infty)の中央に、V=α δ(x−L/2)V = \alpha\,\delta(x - L/2)(α\alpha は定数)という摂動を加える。各準位のエネルギーの 1 次補正を求め、どの準位が動かないかを述べよ。

解答

無摂動の規格化された固有関数は ψn(x)=2/L sin⁡(nπx/L)\psi_n(x) = \sqrt{2/L}\,\sin(n\pi x/L)(n=1,2,…n = 1,2,\dots)で、各準位は縮退していません。よって 定理 3.1 の 1 次公式が使えます。デルタ関数の性質から

En(1)=∫0Lψn(x) α δ ⁣(x−L2)ψn(x) dx=α∣ψn ⁣(L2)∣2=2αLsin⁡2 ⁣(nπ2)E_n^{(1)} = \int_0^L \psi_n(x)\,\alpha\,\delta\!\left(x - \tfrac{L}{2}\right)\psi_n(x)\,dx = \alpha\left|\psi_n\!\left(\tfrac{L}{2}\right)\right|^2 = \frac{2\alpha}{L}\sin^2\!\left(\frac{n\pi}{2}\right)

sin⁡2(nπ/2)\sin^2(n\pi/2) は nn が奇数なら 11、偶数なら 00 です。したがって

En(1)={2α/L(n が奇数)0(n が偶数)E_n^{(1)} = \begin{cases} 2\alpha/L & (n \text{ が奇数})\\ 0 & (n \text{ が偶数})\end{cases}

偶数番目の準位は 1 次では動きません。これは ψn\psi_n が nn 偶数のとき x=L/2x = L/2 に節を持ち、摂動を感じないからです。波動関数の形から結果が読める、よい例です。

演習 7.2標準

2 次元等方調和振動子 H0=px2+py22m+12mω2(x2+y2)H_0 = \dfrac{p_x^2+p_y^2}{2m} + \dfrac{1}{2}m\omega^2(x^2+y^2) に、摂動 λxy\lambda xy を加える。第 1 励起準位(E(0)=2ℏωE^{(0)} = 2\hbar\omega、2 重縮退)の 1 次の分裂と、対応する 0 次の状態を求めよ。さらに、この系は厳密に解けることを示し、結果を照合せよ。

解答

摂動論。 縮退部分空間は ∣1,0⟩|1,0\rangle(xx 方向が nx=1n_x=1)と ∣0,1⟩|0,1\rangle が張ります。1 次元の生成消滅演算子で x=β(ax+ax†)x = \beta(a_x+a_x^\dagger)、y=β(ay+ay†)y = \beta(a_y+a_y^\dagger)、β2=ℏ/(2mω)\beta^2 = \hbar/(2m\omega) です。xx と yy は別々の自由度に作用するので行列要素は積に分解し

⟨1,0∣xy∣1,0⟩=⟨1∣x∣1⟩⟨0∣y∣0⟩=0,⟨1,0∣xy∣0,1⟩=⟨1∣x∣0⟩⟨0∣y∣1⟩=β⋅β=β2\langle 1,0|xy|1,0\rangle = \langle 1|x|1\rangle\langle 0|y|0\rangle = 0,\qquad \langle 1,0|xy|0,1\rangle = \langle 1|x|0\rangle\langle 0|y|1\rangle = \beta\cdot\beta = \beta^2

(⟨1∣x∣0⟩=β1=β\langle 1|x|0\rangle = \beta\sqrt{1} = \beta)。同様に ⟨0,1∣xy∣0,1⟩=0\langle 0,1|xy|0,1\rangle = 0 です。よって 定義 5.1 の摂動行列は

W=λβ2(0110)=λℏ2mω(0110)W = \lambda\beta^2\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} = \frac{\lambda\hbar}{2m\omega}\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}

固有値は ±λℏ/(2mω)\pm\lambda\hbar/(2m\omega)、固有ベクトルは (∣1,0⟩±∣0,1⟩)/2\left(|1,0\rangle\pm|0,1\rangle\right)/\sqrt{2}。定理 5.2 より、これが 1 次のエネルギー補正と 0 次の状態です。

厳密解。 u=(x+y)/2u = (x+y)/\sqrt2、v=(x−y)/2v = (x-y)/\sqrt2 と置くと x2+y2=u2+v2x^2+y^2 = u^2+v^2、xy=(u2−v2)/2xy = (u^2-v^2)/2、運動エネルギーも形を保つので

H=pu2+pv22m+12mω+2u2+12mω−2v2,ω±=ω2±λmH = \frac{p_u^2+p_v^2}{2m} + \frac{1}{2}m\omega_+^2u^2 + \frac{1}{2}m\omega_-^2v^2,\qquad \omega_\pm = \sqrt{\omega^2 \pm \frac{\lambda}{m}}

固有値は E=ℏω+(nu+12)+ℏω−(nv+12)E = \hbar\omega_+(n_u+\tfrac12) + \hbar\omega_-(n_v+\tfrac12) です。λ\lambda が小さいとき ω±≃ω(1±λ2mω2)\omega_\pm \simeq \omega\left(1\pm\dfrac{\lambda}{2m\omega^2}\right) なので、(nu,nv)=(1,0)(n_u,n_v) = (1,0) では

E≃32ℏω(1+λ2mω2)+12ℏω(1−λ2mω2)=2ℏω+λℏ2mωE \simeq \frac{3}{2}\hbar\omega\left(1+\frac{\lambda}{2m\omega^2}\right) + \frac{1}{2}\hbar\omega\left(1-\frac{\lambda}{2m\omega^2}\right) = 2\hbar\omega + \frac{\lambda\hbar}{2m\omega}

(nu,nv)=(0,1)(n_u,n_v)=(0,1) では同様に 2ℏω−λℏ/(2mω)2\hbar\omega - \lambda\hbar/(2m\omega)。摂動論の答えと一致します。0 次の状態も、uu 方向・vv 方向の第 1 励起状態、すなわち (∣1,0⟩±∣0,1⟩)/2\left(|1,0\rangle\pm|0,1\rangle\right)/\sqrt2 に対応しており、確かに「正しい 0 次の状態」は縮退部分空間の中で WW が指定するものになっています。

演習 7.3難

1 次元調和振動子 H0=p2/2m+mω2x2/2H_0 = p^2/2m + m\omega^2x^2/2 に摂動 λx3\lambda x^3 を加える。第 nn 準位のエネルギーを λ\lambda の 2 次まで求めよ。

解答

x=β(a+a†)x = \beta(a+a^\dagger)、β=ℏ/(2mω)\beta = \sqrt{\hbar/(2m\omega)} とします。x3x^3 は ∣n⟩|n\rangle を ∣n±1⟩|n\pm1\rangle と ∣n±3⟩|n\pm3\rangle に移すので、対角成分は 00、すなわち En(1)=0E_n^{(1)} = 0 です(x3x^3 が奇パリティであることからも従います)。

2 次の計算には (a+a†)3∣n⟩(a+a^\dagger)^3|n\rangle の展開係数が要ります。例 4.3 で求めた

(a+a†)2∣n⟩=n(n−1)∣n−2⟩+(2n+1)∣n⟩+(n+1)(n+2)∣n+2⟩(a+a^\dagger)^2|n\rangle = \sqrt{n(n-1)}|n-2\rangle + (2n+1)|n\rangle + \sqrt{(n+1)(n+2)}|n+2\rangle

にもう一度 (a+a†)(a+a^\dagger) を作用させて整理すると

cn−3=n(n−1)(n−2),cn−1=(n−1)n+(2n+1)n=3n3/2,cn+1=(2n+1)n+1+(n+2)n+1=3(n+1)3/2,cn+3=(n+1)(n+2)(n+3)\begin{aligned} c_{n-3} &= \sqrt{n(n-1)(n-2)}, & c_{n-1} &= (n-1)\sqrt{n} + (2n+1)\sqrt{n} = 3n^{3/2},\\ c_{n+1} &= (2n+1)\sqrt{n+1} + (n+2)\sqrt{n+1} = 3(n+1)^{3/2}, & c_{n+3} &= \sqrt{(n+1)(n+2)(n+3)} \end{aligned}

エネルギー分母は En(0)−En∓1(0)=±ℏωE_n^{(0)}-E_{n\mp 1}^{(0)} = \pm\hbar\omega、En(0)−En∓3(0)=±3ℏωE_n^{(0)}-E_{n\mp3}^{(0)} = \pm3\hbar\omega なので、定理 3.1 より

En(2)=λ2β6ℏω[n(n−1)(n−2)−(n+1)(n+2)(n+3)3+9n3−9(n+1)3]E_n^{(2)} = \frac{\lambda^2\beta^6}{\hbar\omega}\left[\frac{n(n-1)(n-2) - (n+1)(n+2)(n+3)}{3} + 9n^3 - 9(n+1)^3\right]

角括弧の中を展開します。n(n−1)(n−2)=n3−3n2+2nn(n-1)(n-2) = n^3-3n^2+2n、(n+1)(n+2)(n+3)=n3+6n2+11n+6(n+1)(n+2)(n+3) = n^3+6n^2+11n+6 なので差は −9n2−9n−6-9n^2-9n-6、これを 33 で割って −3n2−3n−2-3n^2-3n-2。また 9[n3−(n+1)3]=9(−3n2−3n−1)=−27n2−27n−99\left[n^3-(n+1)^3\right] = 9(-3n^2-3n-1) = -27n^2-27n-9。合計は −30n2−30n−11-30n^2-30n-11 です。β6=ℏ3/(8m3ω3)\beta^6 = \hbar^3/(8m^3\omega^3) を代入して

En=(n+12)ℏω−λ2ℏ28m3ω4(30n2+30n+11)+O(λ3)E_n = \left(n+\tfrac12\right)\hbar\omega - \frac{\lambda^2\hbar^2}{8m^3\omega^4}\left(30n^2+30n+11\right) + O(\lambda^3)

2 次の補正はすべての nn について負です。n=0n = 0 に対しては 系 3.3 の主張どおりで、係数は −11λ2ℏ2/(8m3ω4)-11\lambda^2\hbar^2/(8m^3\omega^4) になります。なお、この級数も 注意 6.2 と同じ理由(x3x^3 項があるとポテンシャルは片側で必ず −∞-\infty に落ちる)で収束しません。

  • J. J. Sakurai, J. Napolitano, Modern Quantum Mechanics, 3rd ed., Cambridge University Press, 2020 — 近似法の章(時間に依存しない摂動論、縮退の場合、シュタルク効果)。
  • D. J. Griffiths, D. F. Schroeter, Introduction to Quantum Mechanics, 3rd ed., Cambridge University Press, 2018 — 時間に依存しない摂動論の章。ヘリウム原子と変分法の章も参照。
  • 猪木慶治・川合光『量子力学 II』講談社サイエンティフィク、1994 — 定常状態の摂動論の章。
  • T. Kato, Perturbation Theory for Linear Operators, 2nd ed., Springer, 1976 — 第 II 章(有限次元空間の摂動論)、第 VII 章(解析的摂動論)。仮定 (B) が正当化される条件はここにあります。
  • C. M. Bender and T. T. Wu, “Anharmonic Oscillator”, Phys. Rev. 184 (1969), 1231. DOI: 10.1103/PhysRev.184.1231
  • F. J. Dyson, “Divergence of Perturbation Theory in Quantum Electrodynamics”, Phys. Rev. 85 (1952), 631. DOI: 10.1103/PhysRev.85.631

Appendix: 縮退がある場合の 2 次補正

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定理 5.2 で 1 次の分裂が完全に解けた場合(WW の固有値がすべて相異なる場合)、そのあとは非縮退の場合とよく似た形で 2 次に進めます。

命題 7.4

定義 5.1 の設定で、WW の固有値 E(1)E^{(1)} が単純(WW の中で縮退していない)とし、対応する規格化された固有ベクトルを ∣α⟩∈D|\alpha\rangle \in \mathcal{D} とする。このとき 2 次のエネルギー補正は

E(2)=∑m : Em(0)≠Ed(0)∣⟨m(0)∣V∣α⟩∣2Ed(0)−Em(0)E^{(2)} = \sum_{m \,:\, E_m^{(0)} \ne E_d^{(0)}} \frac{\bigl|\langle m^{(0)}|V|\alpha\rangle\bigr|^2}{E_d^{(0)} - E_m^{(0)}}

で与えられる。和は縮退部分空間 D\mathcal{D} の外の状態だけを走る。

証明(命題 7.4)

PP を D\mathcal{D} への射影、Q=1−PQ = 1 - P とし、∣ψ(0)⟩=∣α⟩|\psi^{(0)}\rangle = |\alpha\rangle とします。λ2\lambda^2 の係数比較から

(H0−Ed(0))∣ψ(2)⟩=(E(1)−V)∣ψ(1)⟩+E(2)∣α⟩(H_0 - E_d^{(0)})|\psi^{(2)}\rangle = \left(E^{(1)} - V\right)|\psi^{(1)}\rangle + E^{(2)}|\alpha\rangle

両辺と ⟨α∣\langle\alpha| の内積を取ります。左辺は 定理 5.2 の証明と同じ理由([H0,P]=0[H_0,P]=0 と ⟨α∣(H0−Ed(0))=0\langle\alpha|(H_0 - E_d^{(0)}) = 0)で 00 です。よって

E(2)=⟨α∣V∣ψ(1)⟩−E(1)⟨α∣ψ(1)⟩E^{(2)} = \langle\alpha|V|\psi^{(1)}\rangle - E^{(1)}\langle\alpha|\psi^{(1)}\rangle

ここで ∣ψ(1)⟩=P∣ψ(1)⟩+Q∣ψ(1)⟩|\psi^{(1)}\rangle = P|\psi^{(1)}\rangle + Q|\psi^{(1)}\rangle と分けます。PP 成分については、P∣α⟩=∣α⟩P|\alpha\rangle = |\alpha\rangle と WW のエルミート性、W∣α⟩=E(1)∣α⟩W|\alpha\rangle = E^{(1)}|\alpha\rangle(E(1)E^{(1)} は実数)を使って

⟨α∣VP∣ψ(1)⟩=⟨α∣PVP∣ψ(1)⟩=⟨Wα∣ψ(1)⟩=E(1)⟨α∣ψ(1)⟩\langle\alpha|V P|\psi^{(1)}\rangle = \langle\alpha|PVP|\psi^{(1)}\rangle = \langle W\alpha|\psi^{(1)}\rangle = E^{(1)}\langle\alpha|\psi^{(1)}\rangle

となり、上の式の第 2 項とちょうど打ち消します。残るのは QQ 成分だけで、定理 5.2 の証明で求めた

Q∣ψ(1)⟩=∑m : Em(0)≠Ed(0)⟨m(0)∣V∣α⟩Ed(0)−Em(0)∣m(0)⟩Q|\psi^{(1)}\rangle = \sum_{m \,:\, E_m^{(0)}\ne E_d^{(0)}}\frac{\langle m^{(0)}|V|\alpha\rangle}{E_d^{(0)}-E_m^{(0)}}|m^{(0)}\rangle

を代入すれば

E(2)=⟨α∣VQ∣ψ(1)⟩=∑m : Em(0)≠Ed(0)⟨α∣V∣m(0)⟩⟨m(0)∣V∣α⟩Ed(0)−Em(0)E^{(2)} = \langle\alpha|VQ|\psi^{(1)}\rangle = \sum_{m\,:\,E_m^{(0)}\ne E_d^{(0)}}\frac{\langle\alpha|V|m^{(0)}\rangle\langle m^{(0)}|V|\alpha\rangle}{E_d^{(0)}-E_m^{(0)}}

VV の自己共役性から分子は ∣⟨m(0)∣V∣α⟩∣2\bigl|\langle m^{(0)}|V|\alpha\rangle\bigr|^2 に等しく、主張を得ます。

WW の固有値に縮退が残る場合は、この式の右辺を「D\mathcal{D} 上の 2 次の有効ハミルトニアン」

Hijeff=∑m : Em(0)≠Ed(0)⟨d,i∣V∣m(0)⟩⟨m(0)∣V∣d,j⟩Ed(0)−Em(0)H^{\mathrm{eff}}_{ij} = \sum_{m\,:\,E_m^{(0)}\ne E_d^{(0)}}\frac{\langle d,i|V|m^{(0)}\rangle\langle m^{(0)}|V|d,j\rangle}{E_d^{(0)}-E_m^{(0)}}

という行列と見なし、WW の縮退した固有空間の中でこれを対角化します。手続きは 定理 5.2 と同じで、階数が一段上がるだけです。この構造は、演算子と物理量 で扱った射影の言葉で書くと見通しよく整理できます。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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