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楕円曲線・モジュラー形式と現代数論:谷山・志村予想からフェルマーの最終定理、ABC予想へ

対象読者: 本テーマ第 1〜5 章の合同式とゼータ関数の入門、および学部の群論・複素関数論(正則関数、留数)を学んだ人。代数幾何は仮定せず、楕円曲線は定義から導入します。

前提となる記事:リーマン予想とは何か:ゼータ関数の零点が素数を支配する

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三次の式 y2=x3+ax+by^2 = x^3 + ax + b を満たす分数の組 (x,y)(x, y) を探すとき、すでに見つけた解の 2 つから、直線を引くだけで 3 つ目の解が作れます。この記事は、この操作が解の集まりに足し算の構造を与えること、その解を素数ごとに数えると整数の列が得られること、そしてその整数の列が、まったく別の場所で現れる対称性の高い関数の係数と一致するという谷山・志村予想を説明します。読み終えると、この対応がフェルマーの最終定理の証明でどう使われたかの筋道を追えるようになります。

  • 楕円曲線とは、判別式が 00 でない三次曲線 y2=x3+ax+by^2 = x^3 + ax + b に無限遠点 OO を付け加えたものです。ここには「三点が一直線上に並べば和は OO」という規則で**アーベル群**(足し算が可換な群)の構造が入り、有理点の全体 E(Q)E(\mathbb{Q}) は有限生成です(モーデル・ヴェイユの定理)。
  • 各素数 pp で法 pp に還元して点を数えると ap=p+1−#E(Fp)a_p = p + 1 - \#E(\mathbb{F}_p) が定まり、∣ap∣≤2p|a_p| \le 2\sqrt{p} が成り立ちます(ハッセの定理)。一方モジュラー形式は SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})(整数を成分とし行列式が 11 の 2×22\times2 行列の全体)やその合同部分群(成分に合同条件を付けた部分群)に対する変換則を満たす正則関数で、位数公式(§5 で扱います)により空間の次元が完全に決まります。
  • 谷山・志村予想(現在はモジュラー性定理)は、導手 NN(良い還元をもたない素数だけで決まる整数)の楕円曲線 EE に対して ap(E)=ap(f)a_p(E) = a_p(f) を満たす重さ 22・レベル NN の新形式 ff(§5 で定義します)が存在する、と主張します。点を数えた整数列とフーリエ係数の列が一致するのです。
  • フェルマーの最終定理は n=4n = 4(無限降下法)と素数指数 p≥5p \ge 5 に帰着します。円分体での一意分解の破れがクンマーの路線を止めたあと、フライ曲線 y2=x(x−ap)(x+bp)y^2 = x(x - a^p)(x + b^p)、リベットのレベル下げ、ワイルズの半安定モジュラー性定理、S2(Γ0(2))=0S_2(\Gamma_0(2)) = 0 をつなぐ論証が 1995 年に閉じました。
  • ABC 予想は、互いに素な a+b=ca + b = c について c>rad⁡(abc)1+εc > \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon} となる例外は有限個だと主張します。仮定すれば十分大きい指数のフェルマーの最終定理やフェルマー・カタラン方程式の有限性が数行で従い、フライ曲線を通じて楕円曲線の判別式と導手の比較(Szpiro 予想)とも結びつきます。
  • 多項式版の Mason–Stothers の定理は ε\varepsilon なしで成立し、Wronskian を使って初等的に証明できます。整数版は未解決で、望月新一による証明の主張には数学界の合意がありません。

1. 動機:ディオファントス方程式から曲線へ

Section titled “1. 動機:ディオファントス方程式から曲線へ”

整数係数の方程式の有理数解・整数解を求める問題をディオファントス方程式と呼びます。次数が低いうちは話は簡単です。ax+by=cax + by = c の整数解はユークリッドの互除法で完全に書き下せますし、x2+y2=z2x^2 + y^2 = z^2(ピタゴラス数)も、一つの解 (3,4,5)(3,4,5) を起点に直線を回転させる古典的な方法ですべて求まります。二次曲線には有理点が一つ見つかればすべての有理点が有理パラメータで書けるという強力な性質があるからです。

三次に上がった瞬間、この方法が効かなくなります。y2=x3−2y^2 = x^3 - 2 の有理点をパラメータ表示しようとしても、うまくいきません。実際この曲線は種数 11 で、有理関数によるパラメータ表示(有理曲線)ではないことが知られています。ではお手上げかというとそうではなく、三次曲線には二次曲線にはない別の構造があります。曲線上の二点を通る直線は、曲線ともう一点で交わる。三次方程式の根は三つあるからです。この「二点から第三の点を作る」操作を洗練させると、曲線上の点の集合そのものが群になります。

この発見はディオファントスやフェルマーの計算のうちに萌芽があり、19 世紀にヤコビ・ヴァイエルシュトラスの楕円関数論と結びつき、20 世紀にポアンカレ、モーデル、ヴェイユの手で現在の形になりました。「楕円曲線」という名前は楕円の弧長を求める楕円積分に由来します。曲線自体は楕円ではありません。

一方まったく別の場所で、上半平面上の高度な対称性をもつ関数——モジュラー形式——が研究されていました。こちらは複素解析と保型形式論の産物で、素数を数える問題とは無縁に見えます。ところが 1950 年代、谷山豊と志村五郎は、この二つが同じ対象の二つの顔ではないかと予想しました。その予想が正しいことをワイルズらが示し、フェルマーの最終定理が落ちたのです。

フェルマーの最終定理は、1637 年ごろフェルマーがディオファントス『算術』の余白に「証明を見つけたが余白が狭すぎて書けない」と書き残した主張です。x2+y2=z2x^2 + y^2 = z^2 には無限個の整数解があるのに、指数を 33 以上にすると解が一つもなくなる。この問いに答えるのに 357 年かかり、最後に効いたのが楕円曲線とモジュラー形式の橋でした。さらにその論証に現れる「判別式に素因数が高い重複度で集中する曲線」という発想を整数の足し算の言葉で定量化したのが ABC 予想です。

この記事では、まず橋の両岸(楕円曲線とモジュラー形式)を可能な限り具体的に描き(§2\S 2〜§6\S 6)、次にその橋を渡ってフェルマーの最終定理に至る論証を追い(§7\S 7〜§11\S 11)、最後に同じ現象を一本の不等式にまとめた ABC 予想とその帰結、多項式版の定理を扱います(§12\S 12〜§16\S 16)。

曲線上の二点を結ぶ直線が「もう一点で交わる」と言うためには、平行線が交わる場所を用意しておく必要があります。そのための舞台が射影平面です。

体 KK 上の射影平面 P2(K)\mathbb{P}^2(K) とは、(X,Y,Z)∈K3∖{(0,0,0)}(X, Y, Z) \in K^3 \setminus \{(0,0,0)\} を、00 でないスカラー倍で同一視した集合です。同値類を [X:Y:Z][X : Y : Z] と書きます。Z≠0Z \ne 0 の点は [x:y:1][x : y : 1](ただし x=X/Zx = X/Z、y=Y/Zy = Y/Z)と正規化でき、通常の平面 K2K^2 と対応します。Z=0Z = 0 の点が「無限遠直線」上の点です。

曲線 y2=x3+ax+by^2 = x^3 + ax + b を斉次化すると

Y2Z=X3+aXZ2+bZ3Y^2 Z = X^3 + a X Z^2 + b Z^3

です。ここで Z=0Z = 0 とおくと X3=0X^3 = 0、すなわち X=0X = 0。(X,Y,Z)≠(0,0,0)(X,Y,Z) \ne (0,0,0) なので Y≠0Y \ne 0 となり、無限遠点はただ一つ O=[0:1:0]O = [0 : 1 : 0] に定まります。しかもこの点における接線は無限遠直線 Z=0Z = 0 であり、交点数は 33(X3=0X^3 = 0 の三重根)です。つまり OO は変曲点です。この事実は後で群の単位元を OO に取る根拠になります。

定義 2.1(楕円曲線(短ヴァイエルシュトラス形))↗

KK を標数 2,32, 3 でない体とし、a,b∈Ka, b \in K が

Δ:=−16 (4a3+27b2)≠0\Delta := -16\,(4a^3 + 27b^2) \ne 0

を満たすとする。このとき射影平面 P2\mathbb{P}^2 内の曲線

E:Y2Z=X3+aXZ2+bZ3E : Y^2 Z = X^3 + a X Z^2 + b Z^3

を KK 上の楕円曲線という。L⊇KL \supseteq K を体の拡大とするとき、EE の LL 有理点の集合を

E(L)={(x,y)∈L2∣y2=x3+ax+b}∪{O},O=[0:1:0]E(L) = \{(x, y) \in L^2 \mid y^2 = x^3 + ax + b\} \cup \{O\}, \qquad O = [0:1:0]

と書く。Δ\Delta を EE の判別式と呼ぶ。

判別式の条件は、曲線が特異点(尖点や結節点)をもたないことと同値です。これを確かめておきます。

命題 2.2(非特異性の判定)✓

KK を標数 2,32, 3 でない体、Kˉ\bar{K} をその代数閉包とし、F(x,y)=y2−x3−ax−bF(x,y) = y^2 - x^3 - ax - b とおく。曲線 F=0F = 0 が Kˉ\bar{K} 上で特異点(F=∂F/∂x=∂F/∂y=0F = \partial F/\partial x = \partial F/\partial y = 0 を同時に満たす点)をもたないことと、4a3+27b2≠04a^3 + 27b^2 \ne 0 とは同値である。

証明(命題 2.2)

偏微分は ∂F/∂x=−(3x2+a)\partial F/\partial x = -(3x^2 + a)、∂F/∂y=2y\partial F/\partial y = 2y です。標数が 22 でないので ∂F/∂y=0\partial F/\partial y = 0 は y=0y = 0 と同値です。したがって特異点 (x0,y0)(x_0, y_0) が存在することは、

y0=0,x03+ax0+b=0,3x02+a=0y_0 = 0, \qquad x_0^3 + a x_0 + b = 0, \qquad 3x_0^2 + a = 0

を満たす x0∈Kˉx_0 \in \bar{K} が存在することと同値です。後の二式は、g(x)=x3+ax+bg(x) = x^3 + ax + b が g(x0)=g′(x0)=0g(x_0) = g'(x_0) = 0 を満たすこと、すなわち x0x_0 が gg の重根であることを意味します。

そこで gg が重根をもつ条件を計算します。gg の根を e1,e2,e3∈Kˉe_1, e_2, e_3 \in \bar{K} とすると、根と係数の関係から e1+e2+e3=0e_1 + e_2 + e_3 = 0、e1e2+e2e3+e3e1=ae_1e_2 + e_2e_3 + e_3e_1 = a、e1e2e3=−be_1e_2e_3 = -b です。三次多項式の判別式は

D=(e1−e2)2(e2−e3)2(e3−e1)2D = (e_1 - e_2)^2 (e_2 - e_3)^2 (e_3 - e_1)^2

で、これを基本対称式で表すと D=−4a3−27b2D = -4a^3 - 27b^2 となります(e1+e2+e3=0e_1+e_2+e_3 = 0 の場合の標準的な計算です)。gg が重根をもつことと D=0D = 0、すなわち 4a3+27b2=04a^3 + 27b^2 = 0 とは同値です。標数が 22 でないので Δ=−16(4a3+27b2)\Delta = -16(4a^3+27b^2) と 4a3+27b24a^3+27b^2 は同時にしか消えません。

なお無限遠点 OO は常に非特異です。Z=0Z = 0 近くでは u=X/Yu = X/Y、w=Z/Yw = Z/Y を座標に取ると曲線は w=u3+auw2+bw3w = u^3 + a u w^2 + b w^3 となり、原点 (u,w)=(0,0)(u,w) = (0,0) での ww に関する偏微分は −1≠0-1 \ne 0 だからです。

三次曲線と直線の交わりを使って、点の「足し算」を定義します。

定義 3.1(弦と接線による加法)↗

定義 2.1 の EE と体の拡大 L⊇KL \supseteq K を取る。P,Q∈E(L)P, Q \in E(L) に対し、P≠QP \ne Q のときは PP と QQ を通る直線を、P=QP = Q のときは PP における接線を ℓPQ\ell_{PQ} とする。ℓPQ\ell_{PQ} と EE の交点は重複度を込めてちょうど 33 個あり、そのうち P,QP, Q を除いた第三の交点を P∗QP * Q と書く。そのうえで

P+Q:=O∗(P∗Q)P + Q := O * (P * Q)

と定義する。

言葉で言えば、「PP と QQ を結ぶ直線が曲線と再び交わる点を取り、それを xx 軸に関して折り返す」操作です。折り返しに当たるのが OO との ∗* 演算であることは、次のように確かめられます。点 (x0,y0)(x_0, y_0) と O=[0:1:0]O = [0:1:0] を通る直線は、射影座標で X=x0ZX = x_0 Z、つまりアフィン座標では垂直線 x=x0x = x_0 です。これを曲線の式に代入すると y2=x03+ax0+by^2 = x_0^3 + a x_0 + b、すなわち y=±y0y = \pm y_0 の二解を得ます。第三の交点は OO 自身(垂直線は無限遠点を通ります)なので、O∗(x0,y0)=(x0,−y0)O * (x_0, y_0) = (x_0, -y_0) です。

QPRP + Q
上で と を足す。弦は曲線と で交わり、これを 軸に関して折り返した が である。

図の計算を実際に追ってみます。P=(0,1)P = (0,1) と Q=(−1,0)Q = (-1,0) を通る直線は y=x+1y = x + 1 です。これを y2=x3+1y^2 = x^3 + 1 に代入すると (x+1)2=x3+1(x+1)^2 = x^3 + 1、整理して x3−x2−2x=0x^3 - x^2 - 2x = 0、すなわち x(x−2)(x+1)=0x(x-2)(x+1) = 0。根は x=0,2,−1x = 0, 2, -1 で、x=0x = 0 が PP、x=−1x = -1 が QQ に対応しますから第三の交点は x=2x = 2、y=3y = 3、つまり R=(2,3)R = (2,3) です。これを折り返して P+Q=(2,−3)P + Q = (2,-3) を得ます。検算すると (−3)2=9=23+1(-3)^2 = 9 = 2^3 + 1 で、確かに曲線上にあります。

この計算を一般化すると加法公式が出ます。

命題 3.2(加法公式)✓

定義 2.1 の EE と P1=(x1,y1)P_1 = (x_1, y_1)、P2=(x2,y2)∈E(L)∖{O}P_2 = (x_2, y_2) \in E(L) \setminus \{O\} を取る。定義 3.1 の加法について次が成り立つ。

  1. x1=x2x_1 = x_2 かつ y2=−y1y_2 = -y_1 ならば P1+P2=OP_1 + P_2 = O。とくに −(x,y)=(x,−y)-(x,y) = (x,-y) である。
  2. そうでないとき、 λ={y2−y1x2−x1(x1≠x2)3x12+a2y1(P1=P2, y1≠0)\lambda = \begin{cases} \dfrac{y_2 - y_1}{x_2 - x_1} & (x_1 \ne x_2) \\[2mm] \dfrac{3x_1^2 + a}{2y_1} & (P_1 = P_2,\ y_1 \ne 0) \end{cases} とおくと P1+P2=(x3,y3)P_1 + P_2 = (x_3, y_3)、ただし x3=λ2−x1−x2,y3=λ(x1−x3)−y1x_3 = \lambda^2 - x_1 - x_2, \qquad y_3 = \lambda (x_1 - x_3) - y_1 である。
証明(命題 3.2)

まず場合分けが尽くされていることを確認します。x1=x2x_1 = x_2 なら y12=y22y_1^2 = y_2^2 なので y2=±y1y_2 = \pm y_1 です。y2=−y1y_2 = -y_1 なら (1) の場合、y2=y1y_2 = y_1 なら P1=P2P_1 = P_2 で、さらに y1=0y_1 = 0 なら y2=−y1y_2 = -y_1 でもあるので (1) に含まれます(標数 22 でないので y1≠0y_1 \ne 0 のとき y1≠−y1y_1 \ne -y_1)。よって (2) の P1=P2P_1 = P_2 の場合は y1≠0y_1 \ne 0 が保証されます。

(1): 上で見たとおり垂直線 x=x1x = x_1 は EE と (x1,y1)(x_1, y_1)、(x1,−y1)(x_1, -y_1)、OO で交わります。よって P1∗P2=OP_1 * P_2 = O であり、P1+P2=O∗OP_1 + P_2 = O * O です。OO は変曲点で、そこでの接線は無限遠直線 Z=0Z = 0、その交点は OO の三重点でした(§2\S 2)。よって O∗O=OO * O = O、したがって P1+P2=OP_1 + P_2 = O です。

(2): 直線を y=λx+νy = \lambda x + \nu と書きます。x1≠x2x_1 \ne x_2 のときは二点を通る直線の傾きが λ=(y2−y1)/(x2−x1)\lambda = (y_2-y_1)/(x_2-x_1) であることから、P1=P2P_1 = P_2 のときは曲線の式 y2=x3+ax+by^2 = x^3 + ax + b を xx で陰微分して 2y y′=3x2+a2y\,y' = 3x^2 + a、y1≠0y_1 \ne 0 より λ=y′(x1)=(3x12+a)/(2y1)\lambda = y'(x_1) = (3x_1^2+a)/(2y_1) であることから、上の式が得られます。いずれの場合も ν=y1−λx1\nu = y_1 - \lambda x_1 です。

これを曲線の式に代入すると

(λx+ν)2=x3+ax+b⟺x3−λ2x2+(a−2λν)x+(b−ν2)=0.(\lambda x + \nu)^2 = x^3 + ax + b \quad\Longleftrightarrow\quad x^3 - \lambda^2 x^2 + (a - 2\lambda\nu)x + (b - \nu^2) = 0 .

これは xx について三次のモニック多項式で、その三根が直線と曲線の交点の xx 座標(重複度込み)です。x1x_1 と x2x_2 が根であることは構成から分かっているので、第三の根を x3x_3 とすれば、根と係数の関係(x2x^2 の係数)から

x1+x2+x3=λ2,すなわちx3=λ2−x1−x2x_1 + x_2 + x_3 = \lambda^2, \qquad \text{すなわち} \quad x_3 = \lambda^2 - x_1 - x_2

です。第三の交点は P1∗P2=(x3,λx3+ν)P_1 * P_2 = (x_3, \lambda x_3 + \nu) で、

λx3+ν=λx3+y1−λx1=y1−λ(x1−x3).\lambda x_3 + \nu = \lambda x_3 + y_1 - \lambda x_1 = y_1 - \lambda(x_1 - x_3) .

最後に (1) で示した −(x,y)=(x,−y)-(x,y) = (x,-y) により P1+P2=O∗(P1∗P2)P_1 + P_2 = O * (P_1 * P_2) の yy 座標は符号を変えたもの、すなわち y3=λ(x1−x3)−y1y_3 = \lambda(x_1 - x_3) - y_1 です。

定理 3.3(楕円曲線の群構造)✓

定義 2.1 の EE と体の拡大 L⊇KL \supseteq K について、定義 3.1 の加法 ++ に関して (E(L),+)(E(L), +) は OO を単位元とするアーベル群(定義 3.1)[群論入門]である。すなわち任意の P,Q,R∈E(L)P, Q, R \in E(L) に対して

  1. P+Q=Q+PP + Q = Q + P(可換律)
  2. P+O=PP + O = P(単位元)
  3. P+(−P)=OP + (-P) = O、ただし −(x,y)=(x,−y)-(x,y) = (x,-y)、−O=O-O = O(逆元)
  4. (P+Q)+R=P+(Q+R)(P + Q) + R = P + (Q + R)(結合律)

が成り立つ。さらに E(K)E(K) は E(L)E(L) の部分群である。

(1)〜(3) は定義から直接確かめられ、手間がかかるのは (4) の結合律だけです。(4) では、点の足し算をピカール群という別の群(曲線上の点の形式的な和を整理した群)の足し算に移し、そちらでは結合律が最初から成り立つことを使います。詳しい筋道は Appendix にあります。

証明(定理 3.3)

(1): ℓPQ\ell_{PQ} は PP と QQ の順序によらない直線なので P∗Q=Q∗PP * Q = Q * P、したがって P+Q=Q+PP + Q = Q + P です。

(2): 定義から P+O=O∗(P∗O)P + O = O * (P * O) です。P=(x0,y0)P = (x_0,y_0) とすると P∗O=(x0,−y0)P * O = (x_0, -y_0)(§3\S 3 冒頭の計算)で、もう一度 OO と ∗* を取ると O∗(x0,−y0)=(x0,y0)=PO * (x_0,-y_0) = (x_0, y_0) = P です。P=OP = O のときは O∗O=OO * O = O(命題 3.2 の証明 (1) 参照)より O+O=O∗O=OO + O = O * O = O です。

(3): P=(x0,y0)P = (x_0,y_0) に対し −P=(x0,−y0)-P = (x_0,-y_0) と定めると、命題 3.2 の (1) がまさに P+(−P)=OP + (-P) = O を主張しています。P=OP = O については (2) から O+O=OO + O = O です。

(4): 結合律は、この定義で唯一自明でない部分です。命題 3.2 の公式に代入して有理式の恒等式を確認する直接計算でも証明できますが、式が大きくなります。概念的な証明は「P↦[P]−[O]P \mapsto [P] - [O] が E(L)E(L) から次数 00 のピカール群 Pic0(E)\mathrm{Pic}^0(E) への全単射を与え、しかもこの写像で加法が Pic0\mathrm{Pic}^0 の(アーベル群の商なので当然に結合的な)加法に移る」という形で得られます。Appendix にこの筋道をまとめました。

部分群であること: P,Q∈E(K)P, Q \in E(K) ならば直線 ℓPQ\ell_{PQ} の係数 λ,ν\lambda, \nu は KK の元で、命題 3.2 の x3,y3x_3, y_3 も KK の四則演算だけで書けるので P+Q∈E(K)P + Q \in E(K)、また −P=(x,−y)∈E(K)-P = (x,-y) \in E(K) です。O∈E(K)O \in E(K) なので E(K)E(K) は部分群です。

例 3.4(y2=x3−2y^2 = x^3 - 2 上での 2 倍算)

E:y2=x3−2E : y^2 = x^3 - 2(a=0a = 0、b=−2b = -2)は Δ=−16(4⋅0+27⋅4)=−1728≠0\Delta = -16(4\cdot 0 + 27 \cdot 4) = -1728 \ne 0 なので楕円曲線です。P=(3,5)P = (3,5) は 52=25=27−25^2 = 25 = 27 - 2 より E(Q)E(\mathbb{Q}) の点です。2P2P を計算します。

命題 3.2 の接線の傾きは

λ=3⋅32+02⋅5=2710\lambda = \frac{3 \cdot 3^2 + 0}{2 \cdot 5} = \frac{27}{10}

です。よって

x3=(2710)2−3−3=729100−600100=129100,x_3 = \left(\frac{27}{10}\right)^2 - 3 - 3 = \frac{729}{100} - \frac{600}{100} = \frac{129}{100},y3=2710(3−129100)−5=2710⋅171100−5=46171000−50001000=−3831000.y_3 = \frac{27}{10}\left(3 - \frac{129}{100}\right) - 5 = \frac{27}{10} \cdot \frac{171}{100} - 5 = \frac{4617}{1000} - \frac{5000}{1000} = -\frac{383}{1000}.

検算します。

y32=1466891000000,x33−2=21466891000000−20000001000000=1466891000000.y_3^2 = \frac{146689}{1000000}, \qquad x_3^3 - 2 = \frac{2146689}{1000000} - \frac{2000000}{1000000} = \frac{146689}{1000000}.

一致しました。2P=(129/100, −383/1000)2P = (129/100,\ -383/1000) です。

分母が急速に大きくなることに注目してください。これは PP が無限位数であることの兆候で、実際 E(Q)≅ZE(\mathbb{Q}) \cong \mathbb{Z} で PP が生成元です。一方フェルマーは、整数点は (3,±5)(3, \pm 5) だけである(2626 は平方数と立方数に挟まれる唯一の数である)と主張しました(証明はオイラー以降の数学者が与えています)。有理点は無限にあるのに整数点は有限個という現象は、後にジーゲルの定理として一般化されます。

群構造が入ると、「E(Q)E(\mathbb{Q}) はどんな群か」という問いが立ちます。答えの骨格を与えるのが次の定理です。

定理 4.1(モーデル・ヴェイユの定理)✓

EE を Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線とする。アーベル群 E(Q)E(\mathbb{Q}) は有限生成である。したがってある整数 r≥0r \ge 0 と有限アーベル群 E(Q)torsE(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}(有限位数の点全体)により

E(Q)≅Zr⊕E(Q)torsE(\mathbb{Q}) \cong \mathbb{Z}^{r} \oplus E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}}

と書ける。rr を EE の**階数(ランク)**という。

証明の方針は「降下法」です。まず、点を 2 倍した点で割った余りにあたる E(Q)/2E(Q)E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q}) が有限であることを示します。次に、点の複雑さを測る高さを導入し、高さが一定以下の点は有限個しかないことを示します。最後に、どの点も「有限個の代表元の 1 つ」と「2 倍した点」の和に書き直せて、その 2 倍する前の点の高さが元より小さくなることを使うと、有限個の点から全体が生成されます。

証明(定理 4.1)

証明は二段構えで、細部は Appendix「モーデル・ヴェイユの定理の証明」に置きます。補題 17.12 により a,b∈Za,b\in\mathbb{Z} と仮定してかまいません。

弱モーデル・ヴェイユの定理. 補題 17.14 により E(Q)/2E(Q)E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q}) は有限です。

高さによる降下. Appendix の高さ hh(定義 17.16)について、h(P)≤Ch(P)\le C となる点は有限個です(x(P)=m/e2x(P)=m/e^2 の m,em,e の候補が有限個で、各 xx に yy は高々 2 つ)。また 補題 17.17 と 補題 17.18 により、各 Q∈E(Q)Q\in E(\mathbb{Q}) について h(P+Q)≤2h(P)+cQh(P+Q)\le2h(P)+c_Q、および h(2P)≥4h(P)−ch(2P)\ge4h(P)-c が成り立ちます。これで 補題 17.19 の仮定がすべてそろい、E(Q)E(\mathbb{Q}) は有限生成です。

構造. 有限生成アーベル群の基本定理(系 6.1[加群と PID 上の構造定理])から E(Q)≅Zr⊕TE(\mathbb{Q})\cong\mathbb{Z}^r\oplus T(TT は有限群)と書け、有限位数の元全体はちょうど TT に対応するので、T≅E(Q)torsT\cong E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}} です。

注意 4.2

上の証明は、弱モーデル・ヴェイユの定理を 3 つの 2 等分点 (ei,0)(e_i,0) を使う「完全 2 降下」で、降下を素朴な高さで回す古典的な形です(Silverman『The Arithmetic of Elliptic Curves』第 VIII 章、Silverman–Tate『Rational Points on Elliptic Curves』第 III 章)。標準高さ h^\hat h を使えば議論はより見通しよくなり、代数体 KK 上の楕円曲線についても E(K)E(K) は有限生成です(ヴェイユ。ここでは主張のみとし、証明しません。弱モーデル・ヴェイユの部分は Appendix の 補題 17.13 がそのまま使えますが、高さの評価を代数体の絶対値全体で行う必要があります)。捩れ部分 E(Q)torsE(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}} については、マズールの定理(1977)により起こりうる群は Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}(1≤n≤101 \le n \le 10 または n=12n = 12)と Z/2Z⊕Z/2mZ\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/2m\mathbb{Z}(1≤m≤41 \le m \le 4)の 1515 種類に限ることが分かっています。一方、階数 rr を計算する一般的なアルゴリズムは知られていません。

例 4.3(y2=x3−xy^2 = x^3 - x と合同数問題)

E:y2=x3−xE : y^2 = x^3 - x は a=−1a = -1、b=0b = 0 で Δ=−16⋅4⋅(−1)3=64≠0\Delta = -16 \cdot 4 \cdot (-1)^3 = 64 \ne 0 です。x3−x=x(x−1)(x+1)x^3 - x = x(x-1)(x+1) が Q\mathbb{Q} 上で完全に分解するので、y=0y = 0 となる有理点が (0,0)(0,0)、(1,0)(1,0)、(−1,0)(-1,0) の三つあります。命題 3.2 の (1) よりこれらはすべて位数 22 の点で、OO と合わせて

{O, (0,0), (1,0), (−1,0)}≅Z/2Z⊕Z/2Z\{O,\ (0,0),\ (1,0),\ (-1,0)\} \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}

という部分群をなします(クラインの四元群(例 6.7)[群論入門])。実際 (0,0)+(1,0)(0,0) + (1,0) を計算すると、λ=(0−0)/(1−0)=0\lambda = (0-0)/(1-0) = 0、x3=0−0−1=−1x_3 = 0 - 0 - 1 = -1、y3=0⋅(0−(−1))−0=0y_3 = 0 \cdot (0-(-1)) - 0 = 0 で (−1,0)(-1,0) となり、確かに閉じています。

さらにフェルマーの無限降下法により E(Q)E(\mathbb{Q}) にはこれ以外の点がない、すなわち階数 00 であることが示せます。これは「11 は合同数でない」(辺の長さが有理数で面積が 11 の直角三角形は存在しない)という主張と同値です。一般に正整数 nn が合同数であることと、y2=x3−n2xy^2 = x^3 - n^2 x が無限位数の有理点をもつこととは同値で、合同数問題は楕円曲線の階数の問題に翻訳されます。

有理点は捉えにくいので、各素数 pp で法 pp に還元して点の個数を数える、という戦略が有効です。Fp\mathbb{F}_p は有限集合なので個数は必ず有限で、しかも計算できます。

定義 4.4(トレース apa_p)↗

EE を Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線とし、素数 pp が EE の良い還元の素数である(適当に座標変換した整数係数の方程式の判別式が pp で割り切れない)とする。このとき EE を法 pp で還元して得られる Fp\mathbb{F}_p 上の楕円曲線 E~\tilde{E} に対し

ap:=p+1−#E~(Fp)a_p := p + 1 - \#\tilde{E}(\mathbb{F}_p)

とおく。

p+1p + 1 という基準値は、射影直線 P1(Fp)\mathbb{P}^1(\mathbb{F}_p) の点の個数です。xx を Fp\mathbb{F}_p 全体で動かすと y2=f(x)y^2 = f(x) の解の個数は平均して 11 個ずつなので、素朴には pp 個の xx に対して pp 個ほどの点があり、無限遠点を足して p+1p+1。apa_p はその平均からのずれです。ずれの大きさを支配するのがハッセの定理です。

証明には Manin(1956)の初等的な方法を使います。発想は次のとおりです。xx を変数とする関数体の上で、曲線の「一般の点」ξ=(x,y)\xi=(x,y) と、その座標を qq 乗した点 ϕξ=(xq,yq)\phi\xi=(x^q,y^q) を考えます。点の xx 座標である有理関数の次数を DD とすると、DD は群 EE の上の二次形式になり、D(mϕξ+nξ)=qm2+aqmn+n2D(m\phi\xi+n\xi)=qm^2+a_qmn+n^2 となります。二次形式が負にならないことから判別式 aq2−4qa_q^2-4q が 00 以下になる、というのが証明の骨格です。3 つの補題に分けます。

補題 4.5(平行四辺形則を満たす関数は二次形式)✓

AA をアーベル群、D:A→RD:A\to\mathbb{R} を、すべての P,Q∈AP,Q\in A で

D(P+Q)+D(P−Q)=2D(P)+2D(Q)D(P+Q)+D(P-Q)=2D(P)+2D(Q)

を満たす関数とする。B(P,Q)=D(P+Q)−D(P)−D(Q)B(P,Q)=D(P+Q)-D(P)-D(Q) とおくと、BB は対称で各変数について加法的であり、すべての整数 m,nm,n について D(mP+nQ)=m2D(P)+mn B(P,Q)+n2D(Q)D(mP+nQ)=m^2D(P)+mn\,B(P,Q)+n^2D(Q) が成り立つ。

証明(補題 4.5)

P=Q=0P=Q=0 とすると 2D(0)=4D(0)2D(0)=4D(0) で D(0)=0D(0)=0、P=0P=0 とすると D(Q)+D(−Q)=2D(Q)D(Q)+D(-Q)=2D(Q) で D(−Q)=D(Q)D(-Q)=D(Q)、P=QP=Q とすると D(2P)=4D(P)D(2P)=4D(P) です。BB の対称性は定義から明らかです。

加法性を示します。P,P′,Q∈AP,P',Q\in A について、仮定の等式を (P+Q,P′)(P+Q,P')、(P′+Q,P)(P'+Q,P)、(Q,P−P′)(Q,P-P')、(P,P′)(P,P') の組に使うと

D(P+P′+Q)+D(P+Q−P′)=2D(P+Q)+2D(P′),D(P+P′+Q)+D(P′+Q−P)=2D(P′+Q)+2D(P),D(Q+P−P′)+D(Q−P+P′)=2D(Q)+2D(P−P′),D(P+P′)+D(P−P′)=2D(P)+2D(P′).\begin{aligned} D(P+P'+Q)+D(P+Q-P')&=2D(P+Q)+2D(P'),\\ D(P+P'+Q)+D(P'+Q-P)&=2D(P'+Q)+2D(P),\\ D(Q+P-P')+D(Q-P+P')&=2D(Q)+2D(P-P'),\\ D(P+P')+D(P-P')&=2D(P)+2D(P'). \end{aligned}

第 1 式と第 2 式を足して第 3 式を代入し、さらに第 4 式で D(P−P′)D(P-P') を消すと

D(P+P′+Q)−D(P+P′)−D(P+Q)−D(P′+Q)+D(P)+D(P′)+D(Q)=0D(P+P'+Q)-D(P+P')-D(P+Q)-D(P'+Q)+D(P)+D(P')+D(Q)=0

を得ます。これは B(P+P′,Q)=B(P,Q)+B(P′,Q)B(P+P',Q)=B(P,Q)+B(P',Q) と書き直せます。対称性から第 2 変数についても加法的です。

加法性から B(mP+nQ,mP+nQ)=m2B(P,P)+2mnB(P,Q)+n2B(Q,Q)B(mP+nQ,mP+nQ)=m^2B(P,P)+2mnB(P,Q)+n^2B(Q,Q) で、B(R,R)=D(2R)−2D(R)=2D(R)B(R,R)=D(2R)-2D(R)=2D(R) なので、両辺を 22 で割れば最後の等式です。

以下 qq を標数 p≥5p\ge5 の有限体 Fq\mathbb{F}_q の元の個数、E:y2=f(x)=x3+ax+bE:y^2=f(x)=x^3+ax+b(a,b∈Fqa,b\in\mathbb{F}_q、4a3+27b2≠04a^3+27b^2\ne0)とします。k=F‾qk=\overline{\mathbb{F}}_q を代数閉包とし、K=k(x)K=k(x) を kk 上の 1 変数有理関数体とします。R∈KR\in K を互いに素な多項式の商 R=A/BR=A/B に書いたとき deg⁡R=max⁡(deg⁡A,deg⁡B)\deg R=\max(\deg A,\deg B) とおきます(R=0R=0 なら deg⁡R=0\deg R=0)。ff は KK で平方元ではないので(f=(A/B)2f=(A/B)^2 なら B2f=A2B^2f=A^2 で、両辺の次数の偶奇が合わない)、L=K[Y]/(Y2−f)L=K[Y]/(Y^2-f) は体で、YY の像を yy と書きます。LL は Fq\mathbb{F}_q の拡大体なので、定理 3.3 により E(L)E(L) はアーベル群です。

R,S∈KR,S\in K で f S2=f(R)f\,S^2=f(R) を満たすものについて (R,yS)∈E(L)(R,yS)\in E(L) です((yS)2=fS2(yS)^2=fS^2)。このような点と OO の全体を GG とします。命題 3.2 の公式を見ると GG は部分群です。実際 −(R,yS)=(R,y(−S))-(R,yS)=(R,y(-S)) で、xx 座標の異なる 2 点の和では λ=y(S2−S1)/(R2−R1)\lambda=y(S_2-S_1)/(R_2-R_1)、2 倍では λ=(3R2+a)/(2yS)=y(3R2+a)/(2fS)\lambda=(3R^2+a)/(2yS)=y(3R^2+a)/(2fS) がどちらも y⋅Ky\cdot K に属し、λ2∈K\lambda^2\in K なので x3∈Kx_3\in K、y3=λ(R1−x3)−yS1∈y⋅Ky_3=\lambda(R_1-x_3)-yS_1\in y\cdot K です。D:G→Z≥0D:G\to\mathbb{Z}_{\ge0} を D(O)=0D(O)=0、D((R,yS))=deg⁡RD((R,yS))=\deg R で定めます。

次の補題は、DD が平行四辺形則(二次形式がもつ性質)を満たすことを示すもので、少し計算が多くなります。証明は、式を代入しても次数が素直に足し算になるという準備の事実を先に示し、それを P,QP, Q の位置関係による 3 つの場合に当てはめる、という順で進みます。

補題 4.6(次数の平行四辺形則)✓

すべての P,Q∈GP,Q\in G について D(P+Q)+D(P−Q)=2D(P)+2D(Q)D(P+Q)+D(P-Q)=2D(P)+2D(Q) が成り立つ。

証明(補題 4.6)

準備:形式の代入. k[x]3k[x]^3 の、成分が互いに素(共通の 1 次因子をもたない)で全部は 00 でない組 (u0,u1,u2)(u_0,u_1,u_2) について、max⁡ideg⁡ui\max_i\deg u_i をその組の高さと呼びます。KK 係数の比が等しい 2 つのそのような組は、00 でない定数倍しか違いません((ui)=r(wi)(u_i)=r(w_i)、r=c/dr=c/d(互いに素)なら dui=cwidu_i=cw_i から cc は全ての uiu_i を割り、dd は全ての wiw_i を割るので、どちらも定数)。したがって高さは P2(K)\mathbb{P}^2(K) の点に対して定まります。

次の事実を使います。F0,F1,F2∈k[X1,Y1,X2,Y2]F_0,F_1,F_2\in k[X_1,Y_1,X_2,Y_2] が (X1,Y1)(X_1,Y_1) について e1e_1 次、(X2,Y2)(X_2,Y_2) について e2e_2 次の斉次式で、(α1,β1)≠(0,0)(\alpha_1,\beta_1)\ne(0,0)、(α2,β2)≠(0,0)(\alpha_2,\beta_2)\ne(0,0) なる共通の零点をもたないとする。互いに素な多項式の組 (Ai,Bi)(A_i,B_i)(di=max⁡(deg⁡Ai,deg⁡Bi)d_i=\max(\deg A_i,\deg B_i)、i=1,2i=1,2)を代入した Gj=Fj(A1,B1,A2,B2)G_j=F_j(A_1,B_1,A_2,B_2) は、成分が互いに素で、その高さはちょうど e1d1+e2d2e_1d_1+e_2d_2 である。理由: c∈kc\in k が全ての GjG_j の根なら、(Ai(c),Bi(c))≠(0,0)(A_i(c),B_i(c))\ne(0,0) が共通の零点を与えて矛盾します。また A~i(x)=xdiAi(1/x)\tilde A_i(x)=x^{d_i}A_i(1/x)、B~i(x)=xdiBi(1/x)\tilde B_i(x)=x^{d_i}B_i(1/x) は多項式で、deg⁡Ai,deg⁡Bi\deg A_i,\deg B_i の一方は did_i に等しいので (A~i(0),B~i(0))≠(0,0)(\tilde A_i(0),\tilde B_i(0))\ne(0,0)。斉次性から xe1d1+e2d2Gj(1/x)=Fj(A~1,B~1,A~2,B~2)x^{e_1d_1+e_2d_2}G_j(1/x)=F_j(\tilde A_1,\tilde B_1,\tilde A_2,\tilde B_2) で、これがある jj について x=0x=0 で 00 でないことは、GjG_j の xe1d1+e2d2x^{e_1d_1+e_2d_2} の係数が 00 でないことを意味します。deg⁡Gj≤e1d1+e2d2\deg G_j\le e_1d_1+e_2d_2 は明らかです。1 組だけの斉次式についても同じことが成り立ちます。

場合 1: PP または QQ が OO. D(−Q)=D(Q)D(-Q)=D(Q) から明らかです。

場合 2: P=(R1,yS1)P=(R_1,yS_1)、Q=(R2,yS2)Q=(R_2,yS_2)、R1≠R2R_1\ne R_2. このとき P±Q≠OP\pm Q\ne O です。ui=Riu_i=R_i、vi=ySiv_i=yS_i とおくと vi2=f(ui)v_i^2=f(u_i) で、命題 3.2 から R3=x(P+Q)=(v2−v1u2−u1)2−u1−u2R_3=x(P+Q)=\bigl(\frac{v_2-v_1}{u_2-u_1}\bigr)^2-u_1-u_2、R4=x(P−Q)=(v2+v1u2−u1)2−u1−u2R_4=x(P-Q)=\bigl(\frac{v_2+v_1}{u_2-u_1}\bigr)^2-u_1-u_2 です。vi2=f(ui)v_i^2=f(u_i) を使って整理すると(s=u1+u2s=u_1+u_2、t=u1u2t=u_1u_2 と書いて展開する)

R3+R4=2((u1u2+a)(u1+u2)+2b)(u1−u2)2,R3R4=(u1u2−a)2−4b(u1+u2)(u1−u2)2.R_3+R_4=\frac{2\bigl((u_1u_2+a)(u_1+u_2)+2b\bigr)}{(u_1-u_2)^2},\qquad R_3R_4=\frac{(u_1u_2-a)^2-4b(u_1+u_2)}{(u_1-u_2)^2}.

実際、和の分子は 2(f(u1)+f(u2))−2s(u1−u2)22(f(u_1)+f(u_2))-2s(u_1-u_2)^2 で f(u1)+f(u2)=s3−3ts+as+2bf(u_1)+f(u_2)=s^3-3ts+as+2b、(u1−u2)2=s2−4t(u_1-u_2)^2=s^2-4t から 2(ts+as+2b)2(ts+as+2b) に等しく、積の分子は (s2−t+a)2−2s(s3−3ts+as+2b)+s2(s2−4t)=(t−a)2−4bs(s^2-t+a)^2-2s(s^3-3ts+as+2b)+s^2(s^2-4t)=(t-a)^2-4bs です(v22−v12=(u2−u1)(s2−t+a)v_2^2-v_1^2=(u_2-u_1)(s^2-t+a) を使う)。

R3=A3/B3R_3=A_3/B_3、R4=A4/B4R_4=A_4/B_4(それぞれ互いに素)とすると、組 (B3B4, A3B4+A4B3, A3A4)(B_3B_4,\,A_3B_4+A_4B_3,\,A_3A_4) は P2(K)\mathbb{P}^2(K) の点 [1:R3+R4:R3R4][1:R_3+R_4:R_3R_4] を表し、成分は互いに素で、高さは deg⁡R3+deg⁡R4\deg R_3+\deg R_4 です(既約因子 π\pi が 3 成分を割るなら、π∣B3\pi\mid B_3 としてよく、π∤A3\pi\nmid A_3 から π∣A4\pi\mid A_4、π∤B4\pi\nmid B_4 となり π∤A3B4+A4B3\pi\nmid A_3B_4+A_4B_3 で矛盾。次数は、deg⁡A3=d3\deg A_3=d_3 かつ deg⁡A4=d4\deg A_4=d_4 なら A3A4A_3A_4 が、deg⁡B3=d3\deg B_3=d_3 かつ deg⁡B4=d4\deg B_4=d_4 なら B3B4B_3B_4 が、そうでなければたとえば deg⁡A3=d3\deg A_3=d_3、deg⁡A4<d4=deg⁡B4\deg A_4\lt d_4=\deg B_4 で A3B4A_3B_4 だけが次数 d3+d4d_3+d_4 をもつので A3B4+A4B3A_3B_4+A_4B_3 が、次数 d3+d4d_3+d_4 に達する)。

一方、Ri=Ai/BiR_i=A_i/B_i(i=1,2i=1,2)を上の式に代入して B12B22B_1^2B_2^2 を掛けると、同じ点は

F0=(X1Y2−X2Y1)2,F1=2((X1X2+aY1Y2)(X1Y2+X2Y1)+2bY12Y22),F2=(X1X2−aY1Y2)2−4bY1Y2(X1Y2+X2Y1)\begin{aligned} F_0&=(X_1Y_2-X_2Y_1)^2,\\ F_1&=2\bigl((X_1X_2+aY_1Y_2)(X_1Y_2+X_2Y_1)+2bY_1^2Y_2^2\bigr),\\ F_2&=(X_1X_2-aY_1Y_2)^2-4bY_1Y_2(X_1Y_2+X_2Y_1) \end{aligned}

に (A1,B1,A2,B2)(A_1,B_1,A_2,B_2) を代入した組でも表されます(F0≠0F_0\ne0 は R1≠R2R_1\ne R_2 による)。FjF_j は各組について 2 次の斉次式で、共通の零点をもちません。実際 F0=0F_0=0 なら (α1:β1)=(α2:β2)(\alpha_1:\beta_1)=(\alpha_2:\beta_2) で、βi=1\beta_i=1、αi=α\alpha_i=\alpha と正規化すると F1=4f(α)F_1=4f(\alpha)、F2=α4−2aα2−8bα+a2=f′(α)2−8αf(α)F_2=\alpha^4-2a\alpha^2-8b\alpha+a^2=f'(\alpha)^2-8\alpha f(\alpha) となり、f(α)=0f(\alpha)=0 なら F2=f′(α)2≠0F_2=f'(\alpha)^2\ne0 です(命題 2.2 により ff と f′f' は共通根をもたず、標数は 22 でない)。βi=0\beta_i=0、αi=1\alpha_i=1 なら F2=1F_2=1 です。準備の事実から、この組の高さは 2deg⁡R1+2deg⁡R22\deg R_1+2\deg R_2 です。高さは点だけで決まるので deg⁡R3+deg⁡R4=2deg⁡R1+2deg⁡R2\deg R_3+\deg R_4=2\deg R_1+2\deg R_2、すなわち主張が成り立ちます。

場合 3: P,Q≠OP,Q\ne O、x(P)=x(Q)x(P)=x(Q). このとき Q=±PQ=\pm P で、主張は QQ と −Q-Q について対称なので Q=PQ=P としてよく、示すべきは D(2P)=4D(P)D(2P)=4D(P) です。P=(R,yS)P=(R,yS) で S=0S=0 なら f(R)=0f(R)=0 なので RR は定数で、2P=O2P=O、D(P)=0D(P)=0 です。S≠0S\ne0 なら 命題 3.2 と (yS)2=f(R)(yS)^2=f(R) から

x(2P)=(3R2+a)24f(R)−2R=R4−2aR2−8bR+a24f(R)x(2P)=\frac{(3R^2+a)^2}{4f(R)}-2R=\frac{R^4-2aR^2-8bR+a^2}{4f(R)}

です((3R2+a)2−8Rf(R)=f′(R)2−8Rf(R)=R4−2aR2−8bR+a2(3R^2+a)^2-8Rf(R)=f'(R)^2-8Rf(R)=R^4-2aR^2-8bR+a^2)。1 組の 4 次形式 X4−2aX2Y2−8bXY3+a2Y4X^4-2aX^2Y^2-8bXY^3+a^2Y^4 と 4(X3Y+aXY3+bY4)4(X^3Y+aXY^3+bY^4) は、場合 2 と同じ理由で共通の零点をもたない(Y=0Y=0 なら第 1 式が X4≠0X^4\ne0)ので、準備の事実から deg⁡x(2P)=4deg⁡R\deg x(2P)=4\deg R です。

この補題は、座標を qq 乗する写像(フロベニウス写像)で一般の点を動かしたとき、実際の点の個数 #E(Fq)\#E(\mathbb{F}_q) が D(ϕξ−ξ)D(\phi\xi-\xi) として読み取れることを示します。証明の後半の「約分の量を数える」では、分数の分子と分母から共通因子がどれだけ消えるかを各 c∈Fqc\in\mathbb{F}_q ごとに調べ、その合計が点の個数の式と一致することを確かめています。

補題 4.7(一般の点とフロベニウス)✓

ξ=(x,y)\xi=(x,y)、ϕξ=(xq,yq)\phi\xi=(x^q,y^q) とおくと、ξ,ϕξ∈G\xi,\phi\xi\in G で、

D(ξ)=1,D(ϕξ)=q,D(ϕξ−ξ)=#E(Fq).D(\xi)=1,\qquad D(\phi\xi)=q,\qquad D(\phi\xi-\xi)=\#E(\mathbb{F}_q).
証明(補題 4.7)

ξ=(x,y⋅1)\xi=(x,y\cdot1) は GG の元で、D(ξ)=deg⁡x=1D(\xi)=\deg x=1 です。g=f(q−1)/2∈Kg=f^{(q-1)/2}\in K とおくと yq=y (y2)(q−1)/2=ygy^q=y\,(y^2)^{(q-1)/2}=yg。ff の係数は Fq\mathbb{F}_q の元で cq=cc^q=c(c∈Fqc\in\mathbb{F}_q)を満たすので、補題 7.1[多項式環と体の拡大] から fq=f(xq)f^q=f(x^q)、すなわち f g2=f(xq)f\,g^2=f(x^q) です。よって ϕξ=(xq,yg)∈G\phi\xi=(x^q,yg)\in G、D(ϕξ)=qD(\phi\xi)=q です。

#E(Fq)\#E(\mathbb{F}_q) の表示. Fq×\mathbb{F}_q^\times は位数 q−1q-1(偶数)の巡回群なので(定理 7.3[多項式環と体の拡大])、u∈Fq×u\in\mathbb{F}_q^\times について u(q−1)/2u^{(q-1)/2} は uu が平方元なら 11、そうでなければ −1-1 で、平方元はちょうど 2 つの平方根をもちます(生成元の偶数冪が平方元)。χ(u)=u(q−1)/2\chi(u)=u^{(q-1)/2}(χ(0)=0\chi(0)=0)とおくと、各 c∈Fqc\in\mathbb{F}_q について y2=f(c)y^2=f(c) の解は 1+χ(f(c))1+\chi(f(c)) 個なので

#E(Fq)=1+∑c∈Fq(1+χ(f(c)))=q+1+∑c∈Fqχ(f(c)).\#E(\mathbb{F}_q)=1+\sum_{c\in\mathbb{F}_q}\bigl(1+\chi(f(c))\bigr)=q+1+\sum_{c\in\mathbb{F}_q}\chi(f(c)).

ϕξ−ξ\phi\xi-\xi の xx 座標. xq≠xx^q\ne x なので ϕξ≠±ξ\phi\xi\ne\pm\xi で、−ξ=(x,−y)-\xi=(x,-y) との和に 命題 3.2 を使うと λ=y(g+1)/(xq−x)\lambda=y(g+1)/(x^q-x)、λ2=f(g+1)2/(xq−x)2\lambda^2=f(g+1)^2/(x^q-x)^2 で

x(ϕξ−ξ)=N(xq−x)2,N=f(g+1)2−(xq+x)(xq−x)2=fq+2f(q+1)/2+f−(xq+x)(xq−x)2.x(\phi\xi-\xi)=\frac{N}{(x^q-x)^2},\qquad N=f(g+1)^2-(x^q+x)(x^q-x)^2=f^q+2f^{(q+1)/2}+f-(x^q+x)(x^q-x)^2 .

fq=x3q+axq+bf^q=x^{3q}+ax^q+b、(xq+x)(xq−x)2=x3q−x2q+1−xq+2+x3(x^q+x)(x^q-x)^2=x^{3q}-x^{2q+1}-x^{q+2}+x^3 なので x3qx^{3q} は打ち消し合い、残りの項のうち x2q+1x^{2q+1} が最高次です(2f(q+1)/22f^{(q+1)/2} の次数 3(q+1)2\frac{3(q+1)}2 は 2q+12q+1 より小さい)。よって deg⁡N=2q+1\deg N=2q+1 です。分母は、Fq\mathbb{F}_q の qq 個の元がすべて xq−xx^q-x の根である(cq−1=1c^{q-1}=1)ことから (xq−x)2=∏c∈Fq(x−c)2(x^q-x)^2=\prod_{c\in\mathbb{F}_q}(x-c)^2 です。

約分の量を数えます。c∈Fqc\in\mathbb{F}_q では cq=cc^q=c、g(c)=χ(f(c))g(c)=\chi(f(c)) なので N(c)=f(c)(χ(f(c))+1)2N(c)=f(c)\bigl(\chi(f(c))+1\bigr)^2。形式微分では (xq)′=qxq−1=0(x^q)'=qx^{q-1}=0 なので

N′=f′(g+1)2+2f(g+1)g′−(xq−x)((xq−x)−2(xq+x)),N′(c)=(χ(f(c))+1)(f′(c)(χ(f(c))+1)+2f(c)g′(c)).N'=f'(g+1)^2+2f(g+1)g'-(x^q-x)\bigl((x^q-x)-2(x^q+x)\bigr),\qquad N'(c)=\bigl(\chi(f(c))+1\bigr)\bigl(f'(c)(\chi(f(c))+1)+2f(c)g'(c)\bigr).

多項式が (x−c)2(x-c)^2 で割り切れることは N(c)=N′(c)=0N(c)=N'(c)=0 と同値です(N=(x−c)MN=(x-c)M なら N′(c)=M(c)N'(c)=M(c))。

  • f(c)f(c) が 00 でない平方元: N(c)=4f(c)≠0N(c)=4f(c)\ne0。x−cx-c は約分されない。
  • f(c)=0f(c)=0: N(c)=0N(c)=0、N′(c)=f′(c)≠0N'(c)=f'(c)\ne0(ff は重根をもたない、命題 2.2)。x−cx-c がちょうど 1 回約分される。
  • f(c)f(c) が平方元でない: χ(f(c))+1=0\chi(f(c))+1=0 なので N(c)=N′(c)=0N(c)=N'(c)=0。(x−c)2(x-c)^2 が約分される。

いずれの場合も約分される次数は 1−χ(f(c))1-\chi(f(c)) です。約分の後の分子・分母の次数の大きい方が deg⁡x(ϕξ−ξ)\deg x(\phi\xi-\xi) なので

D(ϕξ−ξ)=(2q+1)−∑c∈Fq(1−χ(f(c)))=q+1+∑cχ(f(c))=#E(Fq).D(\phi\xi-\xi)=(2q+1)-\sum_{c\in\mathbb{F}_q}\bigl(1-\chi(f(c))\bigr)=q+1+\sum_{c}\chi(f(c))=\#E(\mathbb{F}_q).

定理 4.8(ハッセの定理)✓

qq を素数冪、EE を有限体 Fq\mathbb{F}_q 上の楕円曲線とする。このとき

∣#E(Fq)−(q+1)∣≤2q\left| \#E(\mathbb{F}_q) - (q+1) \right| \le 2\sqrt{q}

が成り立つ。とくに q=pq = p が素数のとき ∣ap∣≤2p|a_p| \le 2\sqrt{p} である。

証明(定理 4.8)

この章の約束どおり標数は 2,32,3 でないとし、上の記号を使います。補題 4.6 により、GG 上の関数 DD は 補題 4.5 の仮定を満たします。B=B(ϕξ,ξ)B=B(\phi\xi,\xi) とおくと、補題 4.7 の値を代入して、すべての整数 m,nm,n について

D(mϕξ+nξ)=qm2+B mn+n2.D(m\phi\xi+n\xi)=qm^2+B\,mn+n^2 .

m=1m=1、n=−1n=-1 とすると、再び 補題 4.7 から #E(Fq)=q+1−B\#E(\mathbb{F}_q)=q+1-B、すなわち B=aq:=q+1−#E(Fq)B=a_q:=q+1-\#E(\mathbb{F}_q) です。DD は負の値を取らないので、n≠0n\ne0 で割って r=m/nr=m/n と書けば、すべての有理数 rr について qr2+aqr+1≥0qr^2+a_qr+1\ge0。左辺は rr の連続関数で有理数は稠密なので、すべての実数 rr で成り立ちます。判別式が正なら 2 根の間で負になるので、aq2−4q≤0a_q^2-4q\le0、すなわち ∣aq∣≤2q|a_q|\le2\sqrt q です。

注意 4.9

上の証明は Manin(1956)の初等的な証明を、Chahal–Osserman の解説(“The Riemann hypothesis for elliptic curves”, American Mathematical Monthly 115 (2008))の形に整理したものです。D(mϕξ+nξ)D(m\phi\xi+n\xi) は自己準同型 mϕ+nm\phi+n の次数にほかならず、ハッセ(1933)の証明の言葉では、フロベニウス自己準同型 ϕ:(x,y)↦(xq,yq)\phi : (x,y) \mapsto (x^q, y^q) が End(E)\mathrm{End}(E) の中で ϕ2−aqϕ+q=0\phi^2 - a_q \phi + q = 0 を満たすこと、そして自己準同型の次数が正定値二次形式を与えることが核心です。ϕ\phi の固有値 α,αˉ\alpha, \bar{\alpha} は ∣α∣=q|\alpha| = \sqrt{q} を満たす複素共役の対で、aq=α+αˉa_q = \alpha + \bar{\alpha} より ∣aq∣≤2q|a_q| \le 2\sqrt{q} が従います。これは曲線に対するリーマン予想の類似であり、ヴェイユは任意の種数の曲線とアーベル多様体についてこれを証明したうえで、一般の代数多様体に対する予想(ヴェイユ予想)を定式化しました。そのうちリーマン予想に当たる部分を証明したのはドリーニュ(1974)です。臨界線 Re(s)=1/2\mathrm{Re}(s) = 1/2 という条件との関係については リーマン予想とは何か の 非自明零点と臨界帯(定義 5.2)[リーマン予想とは何か] を参照してください。

例 4.10(y2=x3+1y^2 = x^3 + 1 を F5\mathbb{F}_5 上で数える)

E:y2=x3+1E : y^2 = x^3 + 1 の判別式は Δ=−16(0+27)=−432\Delta = -16(0 + 27) = -432 で、−432≡3(mod5)-432 \equiv 3 \pmod 5 より 55 は良い還元の素数です。F5\mathbb{F}_5 の平方元は 02=00^2=0、12=11^2=1、22=42^2=4、32=43^2=4、42=14^2=1 より {0,1,4}\{0,1,4\} です。各 xx について x3+1x^3+1 を計算します。

xxx3+1 mod 5x^3 + 1 \bmod 5平方かyy の個数
0011はい22(y=1,4y = 1, 4)
1122いいえ00
229≡49 \equiv 4はい22(y=2,3y = 2, 3)
3328≡328 \equiv 3いいえ00
4465≡065 \equiv 0はい11(y=0y = 0)

アフィン点は 2+0+2+0+1=52 + 0 + 2 + 0 + 1 = 5 個、無限遠点を加えて #E(F5)=6\#E(\mathbb{F}_5) = 6 です。したがって

a5=5+1−6=0.a_5 = 5 + 1 - 6 = 0 .

ハッセの評価 ∣a5∣≤25≈4.47|a_5| \le 2\sqrt{5} \approx 4.47 を確かに満たしています。ap=0a_p = 0 となる素数を超特異素数と呼びます。この曲線は虚数乗法をもち、p≡2(mod3)p \equiv 2 \pmod 3 のとき常に ap=0a_p = 0 になります(5≡2(mod3)5 \equiv 2 \pmod 3)。

数列 (ap)(a_p) をまとめたものが EE のハッセ・ヴェイユ LL 関数です。良い還元の素数 pp に対して局所因子 (1−app−s+p1−2s)−1(1 - a_p p^{-s} + p^{1-2s})^{-1} を、悪い還元の素数に対しては (1−app−s)−1(1 - a_p p^{-s})^{-1}(ap∈{0,±1}a_p \in \{0, \pm 1\})を掛け合わせ、

L(E,s)=∏p∣N(1−app−s)−1∏p∤N(1−app−s+p1−2s)−1L(E, s) = \prod_{p \mid N} \left(1 - a_p p^{-s}\right)^{-1} \prod_{p \nmid N} \left(1 - a_p p^{-s} + p^{1-2s}\right)^{-1}

と定めます(NN は導手)。定理 4.8 から、この無限積は Re(s)>3/2\mathrm{Re}(s) > 3/2 で絶対収束します。問題は、これが s=1s = 1 の近くまで解析接続されるかどうかでした。オイラー積だけからは分かりません。ここでモジュラー形式が登場します。

定義 5.1(レベル 1 のモジュラー形式)↗

上半平面を H={τ∈C∣Im τ>0}\mathbb{H} = \{\tau \in \mathbb{C} \mid \mathrm{Im}\,\tau > 0\} とする。行列 g=(αβγδ)∈SL2(Z)g = \begin{pmatrix} \alpha & \beta \\ \gamma & \delta \end{pmatrix} \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})(すなわち α,β,γ,δ∈Z\alpha,\beta,\gamma,\delta \in \mathbb{Z}、αδ−βγ=1\alpha\delta - \beta\gamma = 1)は

g⋅τ=ατ+βγτ+δg \cdot \tau = \frac{\alpha \tau + \beta}{\gamma\tau + \delta}

により H\mathbb{H} に作用する(Im(g⋅τ)=Im(τ)/∣γτ+δ∣2>0\mathrm{Im}(g\cdot\tau) = \mathrm{Im}(\tau)/|\gamma\tau+\delta|^2 > 0 なので確かに H\mathbb{H} に写る)。整数 kk に対し、関数 f:H→Cf : \mathbb{H} \to \mathbb{C} が重さ kk のモジュラー形式であるとは、次の三条件を満たすことをいう。

  1. ff は H\mathbb{H} 上正則である。
  2. 任意の g=(αβγδ)∈SL2(Z)g = \begin{pmatrix} \alpha & \beta \\ \gamma & \delta \end{pmatrix} \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) と τ∈H\tau \in \mathbb{H} に対し f ⁣(ατ+βγτ+δ)=(γτ+δ)kf(τ).f\!\left(\frac{\alpha\tau+\beta}{\gamma\tau+\delta}\right) = (\gamma\tau + \delta)^k f(\tau).
  3. ff は無限遠(尖点)で正則である。すなわち条件 2 で (1101)\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} を取ると f(τ+1)=f(τ)f(\tau + 1) = f(\tau) が従うので q=e2πiτq = e^{2\pi i \tau} のべき級数に展開できるが、その展開が f(τ)=∑n≥0anqnf(\tau) = \sum_{n \ge 0} a_n q^n と負べきを含まない形になる。

重さ kk のモジュラー形式全体を Mk(SL2(Z))M_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) と書く。さらに a0=0a_0 = 0 のとき ff を尖点形式といい、その全体を Sk(SL2(Z))S_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) と書く。

条件 2 の意味を噛みくだきます。SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) は T:τ↦τ+1T : \tau \mapsto \tau+1 と S:τ↦−1/τS : \tau \mapsto -1/\tau で生成されるので、条件 2 は本質的に

f(τ+1)=f(τ),f(−1/τ)=τkf(τ)f(\tau + 1) = f(\tau), \qquad f(-1/\tau) = \tau^k f(\tau)

の二つと同値です。前者は周期性、後者は τ\tau と −1/τ-1/\tau という一見無関係な二点での値を結びつける、きわめて強い条件です。この二つを同時に満たす正則関数はほとんど存在しません。実際、次に見るように空間の次元は有限で、しかも小さいのです。「モジュラー形式は稀少である」——だからこそ、二つの対象が同じモジュラー形式を与えれば、それは深い一致を意味します。

具体例を作りましょう。格子上の和として定義するのがもっとも自然です。

命題 5.2(アイゼンシュタイン級数は重さ k のモジュラー形式)✓

偶数 k≥4k \ge 4 に対し Gk(τ)=∑(m,n)∈Z2∖{(0,0)}(mτ+n)−kG_k(\tau) = \sum_{(m,n) \in \mathbb{Z}^2 \setminus \{(0,0)\}} (m\tau + n)^{-k} は H\mathbb{H} 上で絶対収束して正則であり、Ek=Gk/(2ζ(k))E_k = G_k / (2\zeta(k)) は重さ kk のモジュラー形式で、qq 展開の定数項は 11 である。

証明(命題 5.2)

絶対収束と正則性。 H\mathbb{H} の compact 集合 KK に対し、min⁡τ∈Kmin⁡∣(x,y)∣∞=1∣xτ+y∣=cK>0\min_{\tau\in K}\min_{|(x,y)|_\infty=1}|x\tau+y|=c_K\gt0 です(連続関数の compact 集合 K×{∣(x,y)∣∞=1}K\times\{|(x,y)|_\infty=1\} 上の最小値で、xτ+y=0x\tau+y=0 とすると τ\tau が実数になり矛盾)。したがって max⁡(∣m∣,∣n∣)=N\max(|m|,|n|)=N なら ∣mτ+n∣≥cKN|m\tau+n|\ge c_KN です。max⁡(∣m∣,∣n∣)=N\max(|m|,|n|)=N を満たす (m,n)(m,n) は 8N8N 個なので、∑∣mτ+n∣−k≤∑N≥18N(cKN)−k<∞\sum|m\tau+n|^{-k}\le\sum_{N\ge1}8N(c_KN)^{-k}\lt\infty(k≥3k\ge3)で、和は KK 上一様収束し、各項が正則なので GkG_k は正則です(定理 5.2[偏角の原理と Rouché の定理])。

条件 2。 g=(αβγδ)∈SL2(Z)g=\begin{pmatrix}\alpha&\beta\\\gamma&\delta\end{pmatrix}\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) に対し Gk(gτ)=∑(mατ+βγτ+δ+n)−k=(γτ+δ)k∑((mα+nγ)τ+(mβ+nδ))−kG_k(g\tau)=\sum(m\frac{\alpha\tau+\beta}{\gamma\tau+\delta}+n)^{-k}=(\gamma\tau+\delta)^k\sum((m\alpha+n\gamma)\tau+(m\beta+n\delta))^{-k} で、(m,n)↦(mα+nγ,mβ+nδ)(m,n)\mapsto(m\alpha+n\gamma,m\beta+n\delta) は Z2∖{0}\mathbb{Z}^2\setminus\{0\} の全単射なので(逆行列も整数行列)、絶対収束する和の並べ替え(定理 7.11[級数と収束判定] の 2。和は Z2∖{0}\mathbb{Z}^2\setminus\{0\} の並べ方によらない)により Gk(gτ)=(γτ+δ)kGk(τ)G_k(g\tau)=(\gamma\tau+\delta)^kG_k(\tau) です。

無限遠での正則性。 Gk(τ+1)=Gk(τ)G_k(\tau+1)=G_k(\tau) なので qq 展開できます。周期性から τ=x+iy\tau=x+iy、∣x∣≤12|x|\le\frac12、y≥1y\ge1 で考えます。∣mτ+n∣2=(mx+n)2+m2y2|m\tau+n|^2=(mx+n)^2+m^2y^2 で、∣n∣≥2∣m∣|n|\ge2|m| なら ∣mx+n∣≥34∣n∣|mx+n|\ge\frac34|n| なので ≥916n2≥15(m2+n2)\ge\frac9{16}n^2\ge\frac15(m^2+n^2)、∣n∣<2∣m∣|n|\lt2|m| なら ≥m2>15(m2+n2)\ge m^2\gt\frac15(m^2+n^2) です。よって ∣mτ+n∣−k≤5k/2(m2+n2)−k/2|m\tau+n|^{-k}\le5^{k/2}(m^2+n^2)^{-k/2} で、右辺は Z2∖{0}\mathbb{Z}^2\setminus\{0\} 上で総和可能です。m≠0m\ne0 の項は y→∞y\to\infty で 00 に収束するので、優収束定理により Gk(τ)→∑n≠0n−k=2ζ(k)G_k(\tau)\to\sum_{n\ne0}n^{-k}=2\zeta(k) です。したがって GkG_k は Im τ≥1\mathrm{Im}\,\tau\ge1 で有界です。周期性から Gk(τ)=G~(e2πiτ)G_k(\tau)=\tilde G(e^{2\pi i\tau}) となる 0<∣q∣<10\lt|q|\lt1 上の正則関数 G~\tilde G が定まり(q=e2πiτq=e^{2\pi i\tau} は局所的に正則な逆をもつ)、G~\tilde G は 0<∣q∣≤e−2π0\lt|q|\le e^{-2\pi} で有界なので、定理 3.3[留数定理と定積分への応用] の (iii) により q=0q=0 に正則に延び、負べきを含まない展開をもちます。その定数項は G~(0)=lim⁡y→∞Gk(iy)=2ζ(k)\tilde G(0)=\lim_{y\to\infty}G_k(iy)=2\zeta(k) です。ζ(k)≠0\zeta(k)\ne0 なので Ek=Gk/(2ζ(k))E_k=G_k/(2\zeta(k)) は定数項 11 のモジュラー形式です。

例 5.3(アイゼンシュタイン級数と判別式形式)

偶数 k≥4k \ge 4 に対し

Gk(τ)=∑(m,n)∈Z2∖{(0,0)}1(mτ+n)kG_k(\tau) = \sum_{(m,n) \in \mathbb{Z}^2 \setminus \{(0,0)\}} \frac{1}{(m\tau + n)^k}

とおきます。k≥3k \ge 3 で絶対収束するので H\mathbb{H} 上正則で、和の取り方から SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) の作用は格子 Zτ+Z\mathbb{Z}\tau + \mathbb{Z} の基底の取り替えに対応し、定義 5.1 の条件 2 が従います。Ek=Gk/(2ζ(k))E_k = G_k / (2\zeta(k)) と正規化すると

Ek(τ)=1−2kBk∑n≥1σk−1(n)qnE_k(\tau) = 1 - \frac{2k}{B_k}\sum_{n\ge1}\sigma_{k-1}(n)q^n

(BkB_k はベルヌーイ数、σk−1(n)=∑d∣ndk−1\sigma_{k-1}(n) = \sum_{d \mid n} d^{k-1})となり、とくに

E4=1+240∑n≥1σ3(n)qn=1+240q+2160q2+⋯ ,E_4 = 1 + 240\sum_{n\ge1}\sigma_3(n)q^n = 1 + 240q + 2160q^2 + \cdots,E6=1−504∑n≥1σ5(n)qn=1−504q−16632q2−⋯ .E_6 = 1 - 504\sum_{n\ge1}\sigma_5(n)q^n = 1 - 504q - 16632q^2 - \cdots .

どちらも定数項が 11 なので尖点形式ではありません。ところが E43E_4^3 と E62E_6^2 はともに重さ 1212 で定数項 11 なので、差を取ると定数項が消えます。

Δ:=E43−E621728\Delta := \frac{E_4^3 - E_6^2}{1728}

とおくと Δ∈S12(SL2(Z))\Delta \in S_{12}(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) です。qq の係数を確かめます。E43E_4^3 の qq 係数は 3⋅240=7203 \cdot 240 = 720、E62E_6^2 の qq 係数は 2⋅(−504)=−10082 \cdot (-504) = -1008 なので差は 17281728、割って 11。q2q^2 については E43E_4^3 が 3⋅2160+3⋅2402=6480+172800=1792803\cdot 2160 + 3 \cdot 240^2 = 6480 + 172800 = 179280、E62E_6^2 が 2⋅(−16632)+5042=−33264+254016=2207522\cdot(-16632) + 504^2 = -33264 + 254016 = 220752、差は −41472-41472、割って −24-24 です。すなわち

Δ=q−24q2+252q3−1472q4+⋯=q∏n≥1(1−qn)24.\Delta = q - 24q^2 + 252q^3 - 1472q^4 + \cdots = q\prod_{n \ge 1}(1-q^n)^{24}.

最後の等式はヤコビの積表示で、Δ\Delta の係数 τ(n)\tau(n) がラマヌジャンのタウ関数です。

モジュラー形式の空間の次元は、次の位数公式によって完全に決まります。これがモジュラー形式論の出発点です。証明では、H\mathbb{H} の点を SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) の作用で「代表点」に寄せられる領域(基本領域)を使います。ρ=e2πi/3=−12+32i\rho=e^{2\pi i/3}=-\frac12+\frac{\sqrt3}2i とおき、

F={τ∈H ∣ ∣Re τ∣≤12, ∣τ∣≥1}\mathcal{F}=\Bigl\{\tau\in\mathbb{H}\ \Bigm|\ |\mathrm{Re}\,\tau|\le\tfrac12,\ |\tau|\ge1\Bigr\}

とします。F\mathcal{F} の点は Im τ≥1−1/4=3/2\mathrm{Im}\,\tau\ge\sqrt{1-1/4}=\sqrt3/2 を満たし、隅の点は ρ\rho と ρ+1=eπi/3\rho+1=e^{\pi i/3} です。以下 Sτ=−1/τS\tau=-1/\tau、Tτ=τ+1T\tau=\tau+1 と書きます。

補題 5.4(SL₂(ℤ) の基本領域)✓

  1. すべての τ∈H\tau\in\mathbb{H} は、ある g∈SL2(Z)g\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) によって F\mathcal{F} の点 g⋅τg\cdot\tau に移る。
  2. τ,τ′∈F\tau,\tau'\in\mathcal{F}、τ≠τ′\tau\ne\tau' で τ′=g⋅τ\tau'=g\cdot\tau(g∈SL2(Z)g\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}))ならば、「Re τ=∓12\mathrm{Re}\,\tau=\mp\frac12 かつ τ′=τ±1\tau'=\tau\pm1」または「∣τ∣=1|\tau|=1 かつ τ′=−1/τ\tau'=-1/\tau」である。
証明(補題 5.4)

定義 5.1 で見たとおり g=(αβγδ)g=\begin{pmatrix}\alpha&\beta\\\gamma&\delta\end{pmatrix} について Im(g⋅τ)=Im τ/∣γτ+δ∣2\mathrm{Im}(g\cdot\tau)=\mathrm{Im}\,\tau/|\gamma\tau+\delta|^2 です。

1. τ=x+iy\tau=x+iy を固定します。∣γτ+δ∣2=(γx+δ)2+γ2y2≤1|\gamma\tau+\delta|^2=(\gamma x+\delta)^2+\gamma^2y^2\le1 となる整数の組 (γ,δ)(\gamma,\delta) は、∣γ∣≤1/y|\gamma|\le1/y かつ ∣γx+δ∣≤1|\gamma x+\delta|\le1 なので有限個です。Im(g⋅τ)≥Im τ\mathrm{Im}(g\cdot\tau)\ge\mathrm{Im}\,\tau となる gg は ∣γτ+δ∣≤1|\gamma\tau+\delta|\le1 を満たすので、Im(g⋅τ)\mathrm{Im}(g\cdot\tau) の値のうち Im τ\mathrm{Im}\,\tau 以上のものは有限個で(g=Ig=I がその一つ)、最大値を与える gg が取れます。TnT^n は虚部を変えないので、nn を選んで τ′=Tng⋅τ\tau'=T^ng\cdot\tau が ∣Re τ′∣≤12|\mathrm{Re}\,\tau'|\le\frac12 を満たすようにします。もし ∣τ′∣<1|\tau'|\lt1 なら Im(Sτ′)=Im τ′/∣τ′∣2>Im τ′\mathrm{Im}(S\tau')=\mathrm{Im}\,\tau'/|\tau'|^2\gt\mathrm{Im}\,\tau' となり最大性に反するので、τ′∈F\tau'\in\mathcal{F} です。

2. 主張は (τ,τ′,g)(\tau,\tau',g) と (τ′,τ,g−1)(\tau',\tau,g^{-1}) について対称なので、Im τ′≥Im τ\mathrm{Im}\,\tau'\ge\mathrm{Im}\,\tau、すなわち ∣γτ+δ∣≤1|\gamma\tau+\delta|\le1 としてよく、gg を −g-g に替えても作用は同じなので γ≥0\gamma\ge0 としてよいとします。y=Im τ≥3/2y=\mathrm{Im}\,\tau\ge\sqrt3/2 なので γy≤1\gamma y\le1 から γ∈{0,1}\gamma\in\{0,1\} です。

γ=0\gamma=0 のとき α=δ=±1\alpha=\delta=\pm1 で τ′=τ+n\tau'=\tau+n(n∈Zn\in\mathbb{Z}、n≠0n\ne0)。実部がともに [−12,12][-\frac12,\frac12] にあるので n=±1n=\pm1、Re τ=∓12\mathrm{Re}\,\tau=\mp\frac12 です。

γ=1\gamma=1 のとき ∣τ+δ∣≤1|\tau+\delta|\le1 です。δ=0\delta=0 なら ∣τ∣≤1|\tau|\le1 から ∣τ∣=1|\tau|=1、β=−1\beta=-1 で τ′=α−1/τ\tau'=\alpha-1/\tau。−1/τ=−τˉ∈F-1/\tau=-\bar\tau\in\mathcal{F} なので、α≠0\alpha\ne0 なら前段の議論から α=±1\alpha=\pm1 で −τˉ-\bar\tau は縦の辺にあり、∣τ∣=1|\tau|=1 と合わせて τ∈{ρ,ρ+1}\tau\in\{\rho,\rho+1\} ですが、直接計算すると(−1/ρ=ρ+1-1/\rho=\rho+1、−1/(ρ+1)=ρ-1/(\rho+1)=\rho)このとき τ′=τ\tau'=\tau となり仮定に反します。よって α=0\alpha=0、τ′=−1/τ\tau'=-1/\tau です。δ≠0\delta\ne0 なら (x+δ)2≤1−y2≤14(x+\delta)^2\le1-y^2\le\frac14 と ∣x∣≤12|x|\le\frac12 から ∣δ∣=1|\delta|=1、x=−δ/2x=-\delta/2、y=3/2y=\sqrt3/2、すなわち δ=1\delta=1 で τ=ρ\tau=\rho、δ=−1\delta=-1 で τ=ρ+1\tau=\rho+1 です。τ=ρ\tau=\rho、δ=1\delta=1 なら β=α−1\beta=\alpha-1 で τ′=α−1/(ρ+1)=α+ρ\tau'=\alpha-1/(\rho+1)=\alpha+\rho、これが F\mathcal{F} に入り τ′≠τ\tau'\ne\tau なので α=1\alpha=1、τ′=ρ+1=τ+1\tau'=\rho+1=\tau+1。τ=ρ+1\tau=\rho+1、δ=−1\delta=-1 なら β=−α−1\beta=-\alpha-1 で τ′=α−1/ρ=α+ρ+1\tau'=\alpha-1/\rho=\alpha+\rho+1、同様に α=−1\alpha=-1、τ′=ρ=τ−1\tau'=\rho=\tau-1 です。どちらも主張の第 1 の形です。

補題 5.5(零点のまわりの小円弧)✓

ff を z0z_0 の近傍で正則で z0z_0 で位数 m≥0m\ge0 の零点をもつ(m=0m=0 は零点でないこと)とする。r>0r\gt0 に対し crc_r を円 ∣τ−z0∣=r|\tau-z_0|=r 上の弧 τ=z0+reiθ\tau=z_0+re^{i\theta}(θ\theta は α(r)\alpha(r) から β(r)\beta(r) まで動く)とし、r→0r\to0 で β(r)−α(r)→Θ\beta(r)-\alpha(r)\to\Theta とする。このとき

lim⁡r→012πi∫crf′(τ)f(τ) dτ=m Θ2π.\lim_{r\to0}\frac1{2\pi i}\int_{c_r}\frac{f'(\tau)}{f(\tau)}\,d\tau=\frac{m\,\Theta}{2\pi}.
証明(補題 5.5)

f(τ)=(τ−z0)mg(τ)f(\tau)=(\tau-z_0)^mg(\tau)、g(z0)≠0g(z_0)\ne0 と書くと、z0z_0 の近傍で f′/f=m/(τ−z0)+g′/gf'/f=m/(\tau-z_0)+g'/g で、g′/gg'/g は z0z_0 の近くで正則なので有界です。∫crdττ−z0=∫α(r)β(r)i dθ=i(β(r)−α(r))\int_{c_r}\frac{d\tau}{\tau-z_0}=\int_{\alpha(r)}^{\beta(r)}i\,d\theta=i(\beta(r)-\alpha(r))、crc_r の長さは r∣β(r)−α(r)∣→0r|\beta(r)-\alpha(r)|\to0 なので ML 不等式(補題 2.4[コーシーの積分定理と積分公式])から g′/gg'/g の積分は 00 に収束します。

定理 5.6(位数公式)✓

kk を整数、f∈Mk(SL2(Z))f \in M_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}))、f≠0f \ne 0 とする。ρ=e2πi/3\rho = e^{2\pi i/3}、i=−1i = \sqrt{-1} とおき、点 P∈HP \in \mathbb{H} における ff の零点の位数を ordP(f)\mathrm{ord}_P(f)、qq 展開 f=∑n≥n0anqnf = \sum_{n \ge n_0} a_n q^n(an0≠0a_{n_0} \ne 0)における n0n_0 を ord∞(f)\mathrm{ord}_\infty(f) と書く。このとき

ord∞(f)+12ordi(f)+13ordρ(f)+∑PordP(f)=k12\mathrm{ord}_\infty(f) + \frac{1}{2}\mathrm{ord}_i(f) + \frac{1}{3}\mathrm{ord}_\rho(f) + \sum_{P} \mathrm{ord}_P(f) = \frac{k}{12}

が成り立つ。ここで最後の和は基本領域の中の ii、ρ\rho と SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) 同値でない点すべてを走る(有限和である)。

証明(定理 5.6)

準備. g∈SL2(Z)g\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) について f(g⋅τ)=(γτ+δ)kf(τ)f(g\cdot\tau)=(\gamma\tau+\delta)^kf(\tau) で、γτ+δ\gamma\tau+\delta は H\mathbb{H} 上で 00 にならず τ↦g⋅τ\tau\mapsto g\cdot\tau は H\mathbb{H} の正則な全単射なので、ordg⋅τ(f)=ordτ(f)\mathrm{ord}_{g\cdot\tau}(f)=\mathrm{ord}_\tau(f) です。補題 5.4 により、ff の零点の SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) 軌道はどれも F\mathcal{F} と交わり、交わりは「F\mathcal{F} の内部の 1 点」「縦の辺上の対 {λ,λ+1}\{\lambda,\lambda+1\}」「円弧上の対 {λ,−1/λ}\{\lambda,-1/\lambda\}(λ≠i\lambda\ne i)」「{ρ,ρ+1}\{\rho,\rho+1\}」「{i}\{i\}」のいずれかです。

f(τ+1)=f(τ)f(\tau+1)=f(\tau) なので、F(e2πiτ)=f(τ)F(e^{2\pi i\tau})=f(\tau) で 0<∣q∣<10\lt|q|\lt1 上の正則関数 FF が定まり、定義 5.1 の条件 3 からその Laurent 展開は負べきを含まないので、FF は ∣q∣<1|q|\lt1 で正則に延びます(F(q)=∑n≥0anqnF(q)=\sum_{n\ge0}a_nq^n)。F(q)=qn0G(q)F(q)=q^{n_0}G(q)、G(0)=an0≠0G(0)=a_{n_0}\ne0 と書くと、GG は 00 の近くで 00 にならないので、ある Y0Y_0 について ff は Im τ≥Y0\mathrm{Im}\,\tau\ge Y_0 に零点をもちません。F∩{Im τ≤Y0}\mathcal{F}\cap\{\mathrm{Im}\,\tau\le Y_0\} はコンパクトで f≢0f\not\equiv0 なので、そこにある零点は有限個です(補題 7.2[正則関数の強力な性質])。とくに左辺の和は有限和です。

積分路. Y>Y0Y\gt Y_0 と小さい r>0r\gt0 を取り、次の閉曲線 CC を反時計回りにたどります(F\mathcal{F} の境界を Im τ=Y\mathrm{Im}\,\tau=Y で切り、隅と ii を小円弧で、境界上の零点を小さな半円で避けたもの)。

  1. 上辺: 12+iY\frac12+iY から −12+iY-\frac12+iY へ。
  2. 左辺 ℓ\ell: −12+iY-\frac12+iY から ρ+ir\rho+ir へ直線 Re τ=−12\mathrm{Re}\,\tau=-\frac12 を下る。ただし辺上の零点 λ\lambda(≠ρ\ne\rho)は、F\mathcal{F} の内側にふくらむ小さな半円で避ける。
  3. ρ\rho のまわりの弧 cρc_\rho: 円 ∣τ−ρ∣=r|\tau-\rho|=r 上を、ρ+ir\rho+ir から単位円との交点のうち偏角が 2π/32\pi/3 より小さい方 ρr′\rho_r' まで時計回りに。
  4. 円弧 γ1\gamma_1: 単位円上を ρr′\rho_r' から ir′i_r'(∣ir′−i∣=r|i_r'-i|=r で Re ir′<0\mathrm{Re}\,i_r'\lt0 の点)まで。円弧上の零点は、∣τ∣>1|\tau|\gt1 の側にふくらむ小さな半円で避ける。
  5. ii のまわりの弧 cic_i: 円 ∣τ−i∣=r|\tau-i|=r 上を、ir′i_r' から ir′′=S(ir′)i_r''=S(i_r') まで ii の上側を時計回りに(∣S(w)−i∣=∣w−i∣|S(w)-i|=|w-i|(∣w∣=1|w|=1)なので ir′′i_r'' はこの円上にある)。
  6. γ2\gamma_2: S∘γ1S\circ\gamma_1 を逆向きにたどったもの(ir′′i_r'' から S(ρr′)S(\rho_r') まで)。SS は ∣τ∣>1|\tau|\gt1 を ∣τ∣<1|\tau|\lt1 に移すので、γ2\gamma_2 の半円は単位円の内側にふくらみ、零点 −1/λ-1/\lambda を内側に含む。∣S(ρr′)−(ρ+1)∣=∣ρr′−ρ∣=r|S(\rho_r')-(\rho+1)|=|\rho_r'-\rho|=r である。
  7. ρ+1\rho+1 のまわりの弧 cρ+1c_{\rho+1}: 円 ∣τ−(ρ+1)∣=r|\tau-(\rho+1)|=r 上を、S(ρr′)S(\rho_r') から ρ+1+ir\rho+1+ir まで時計回りに。
  8. 右辺: T∘ℓT\circ\ell を逆向きに(ρ+1+ir\rho+1+ir から 12+iY\frac12+iY へ)。ℓ\ell の半円は TT で F\mathcal{F} の外にふくらむ半円に移り、零点 λ+1\lambda+1 を内側に含む。

半円の半径と rr を十分小さく取れば、CC の内部にある ff の零点は、(準備) の各軌道から、[ρ][\rho] と [i][i] を除いてちょうど 1 点ずつです(内部の点はそのまま、縦の対からは λ+1\lambda+1、円弧の対からは −1/λ-1/\lambda)。したがって

12πi∮Cf′(τ)f(τ) dτ=∑PordP(f)\frac1{2\pi i}\oint_C\frac{f'(\tau)}{f(\tau)}\,d\tau=\sum_P\mathrm{ord}_P(f)

で、右辺は定理の和そのものです。ここで 定理 5.1[留数定理と定積分への応用] と 補題 2.3[偏角の原理と Rouché の定理] を使いました。留数定理の開集合 DD には、CC とその内部の和 KK からの距離が δ\delta 未満の点の全体を取ります。KK は H\mathbb{H} のコンパクト集合で、ff の零点のうち CC の内部にないものは(CC 上にもないので)H\mathbb{H} の閉集合をなし KK と交わらないので、δ>0\delta\gt0 を小さく取れば D⊂HD\subset\mathbb{H} で、f′/ff'/f は DD から内部の零点を除いた集合で正則です。

各部分の計算. 左辺を部分ごとに計算します。

  • 上辺: q=e2πiτq=e^{2\pi i\tau} と置くと f′(τ)f(τ)dτ=F′(q)F(q)dq\frac{f'(\tau)}{f(\tau)}d\tau=\frac{F'(q)}{F(q)}dq で、上辺は円 ∣q∣=e−2πY|q|=e^{-2\pi Y} を時計回りに 1 周する道に移ります。その内側の FF の零点は q=0q=0(位数 n0n_0)だけなので、偏角の原理(定理 3.1[偏角の原理と Rouché の定理])から寄与は −n0=−ord∞(f)-n_0=-\mathrm{ord}_\infty(f)。
  • 左右の辺: f′(τ+1)/f(τ+1)=f′(τ)/f(τ)f'(\tau+1)/f(\tau+1)=f'(\tau)/f(\tau) なので ∫T∘ℓ=∫ℓ\int_{T\circ\ell}=\int_\ell で、右辺は逆向きなので打ち消し合います。
  • γ1\gamma_1 と γ2\gamma_2: f(−1/τ)=τkf(τ)f(-1/\tau)=\tau^kf(\tau) を微分すると f′(−1/τ)τ−2=kτk−1f(τ)+τkf′(τ)f'(-1/\tau)\tau^{-2}=k\tau^{k-1}f(\tau)+\tau^kf'(\tau)、すなわち f′(Sτ)f(Sτ)S′(τ)=f′(τ)f(τ)+kτ\frac{f'(S\tau)}{f(S\tau)}S'(\tau)=\frac{f'(\tau)}{f(\tau)}+\frac k\tau。変数変換で ∫S∘γ1f′f=∫γ1(f′f+kτ)dτ\int_{S\circ\gamma_1}\frac{f'}{f}=\int_{\gamma_1}\bigl(\frac{f'}{f}+\frac k\tau\bigr)d\tau なので
∫γ1f′f+∫γ2f′f=−k∫γ1dττ=−k(Log ir′−Log ρr′)→r→0−k i(π2−2π3)=kπi6.\int_{\gamma_1}\frac{f'}f+\int_{\gamma_2}\frac{f'}f=-k\int_{\gamma_1}\frac{d\tau}{\tau}=-k\bigl(\mathrm{Log}\,i_r'-\mathrm{Log}\,\rho_r'\bigr)\xrightarrow[r\to0]{}-k\,i\Bigl(\frac\pi2-\frac{2\pi}3\Bigr)=\frac{k\pi i}{6}.

ここで Log\mathrm{Log} は主枝で、H\mathbb{H} 上の 1/τ1/\tau の原始関数です(定理 6.9[正則関数とコーシー・リーマンの関係式]、定理 3.2[コーシーの積分定理と積分公式])。2πi2\pi i で割って寄与は k/12k/12 に近づきます。

  • cρc_\rho と cρ+1c_{\rho+1}: ρ\rho での F\mathcal{F} の内角は、上向きの縦線と、ρ\rho から ii へ向かう単位円の接線(方向 eπi/6e^{\pi i/6})のなす角 π/3\pi/3 です。cρc_\rho は時計回りなので、補題 5.5 の Θ=−π/3\Theta=-\pi/3 で、寄与は −16ordρ(f)-\frac16\mathrm{ord}_\rho(f) に近づきます。cρ+1c_{\rho+1} も同様に −16ordρ+1(f)=−16ordρ(f)-\frac16\mathrm{ord}_{\rho+1}(f)=-\frac16\mathrm{ord}_\rho(f) です。
  • cic_i: 単位円は ii で水平なので Θ=−π\Theta=-\pi で、寄与は −12ordi(f)-\frac12\mathrm{ord}_i(f) に近づきます。

左辺は rr が小さければ rr によらないので、r→0r\to0 として

∑PordP(f)=k12−ord∞(f)−12ordi(f)−13ordρ(f)\sum_P\mathrm{ord}_P(f)=\frac k{12}-\mathrm{ord}_\infty(f)-\frac12\mathrm{ord}_i(f)-\frac13\mathrm{ord}_\rho(f)

を得ます。これが主張です。

注意 5.7

証明は Serre『A Course in Arithmetic』第 VII 章の議論に沿ったものです。ii と ρ\rho の係数 12\frac12、13\frac13 は、そこでの基本領域の内角(π\pi と π/3\pi/3)から出てきました。群論的には、この二点だけが ±I\pm I より大きな固定部分群(それぞれ位数 44 と 66)をもつことの反映です。k/12k/12 は、円弧の左右を SS で結ぶときの保型因子 τk\tau^k の偏角の変化から出ています。

系 5.8(低い重さの空間)✓

kk を整数とする。

  1. kk が奇数、または k<0k < 0、または k=2k = 2 ならば Mk(SL2(Z))=0M_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) = 0。
  2. M0(SL2(Z))=CM_0(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) = \mathbb{C}(定数関数のみ)。
  3. k<12k < 12 ならば Sk(SL2(Z))=0S_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) = 0。したがって偶数 kk が 4≤k≤104 \le k \le 10 を満たすとき dim⁡Mk(SL2(Z))=1\dim M_k(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) = 1 で、EkE_k が基底である。
証明(系 5.8)

以下 f∈Mkf \in M_k、f≠0f \ne 0 とし、定理 5.6 の左辺の項を a=ord∞(f)a = \mathrm{ord}_\infty(f)、b=ordi(f)b = \mathrm{ord}_i(f)、c=ordρ(f)c = \mathrm{ord}_\rho(f)、d=∑PordP(f)d = \sum_P \mathrm{ord}_P(f) と書きます。a,b,c,da, b, c, d はすべて 00 以上の整数です。

(1): kk が奇数の場合は上の Aside で示しました。k<0k < 0 のときは左辺 ≥0\ge 0、右辺 =k/12<0= k/12 < 0 で矛盾するので f≠0f \ne 0 は存在せず Mk=0M_k = 0。k=2k = 2 のときは a+b/2+c/3+d=1/6a + b/2 + c/3 + d = 1/6 です。a,d≥0a, d \ge 0 かつ a,da, d は整数で左辺の他の項も非負ですから a=d=0a = d = 0 でなければなりません(a≥1a \ge 1 なら左辺 ≥1>1/6\ge 1 > 1/6)。残るのは b/2+c/3=1/6b/2 + c/3 = 1/6、両辺を 66 倍して 3b+2c=13b + 2c = 1 ですが、b,c≥0b, c \ge 0 が整数なら左辺は 00 か 22 以上で、11 にはなりません。よって M2=0M_2 = 0。

(2): k=0k = 0 なら a+b/2+c/3+d=0a + b/2 + c/3 + d = 0 で、各項が非負ですから a=b=c=d=0a = b = c = d = 0、つまり ff は H\mathbb{H} 上に零点をもたず a0≠0a_0 \ne 0 です。ここで g=f−a0g = f - a_0 を考えると g∈M0g \in M_0 で、gg の qq 展開の定数項は 00、すなわち g=0g = 0 か ord∞(g)≥1\mathrm{ord}_\infty(g) \ge 1 です。後者なら位数公式の左辺が 11 以上となり右辺 00 と矛盾します。よって g=0g = 0、f=a0f = a_0 は定数です。逆に定数関数 cc は M0M_0 の元です。実際、条件 2 は k=0k = 0 のとき c=cc = c となって自動的に成り立ち、正則性と尖点での正則性も定数なので問題ありません。

(3): f∈Skf \in S_k、f≠0f \ne 0 とすると定義から a=ord∞(f)≥1a = \mathrm{ord}_\infty(f) \ge 1 なので k/12≥1k/12 \ge 1、すなわち k≥12k \ge 12 です。対偶を取れば k<12k < 12 で Sk=0S_k = 0。

次に偶数 kk が 4≤k≤104 \le k \le 10 を満たすとします。命題 5.2 より Ek∈MkE_k \in M_k で定数項は 11 です。任意の f∈Mkf \in M_k に対し f−a0(f)Ekf - a_0(f)E_k は MkM_k の元で定数項が 00、つまり SkS_k の元ですから、いま示したことにより 00 です。よって f=a0(f)Ekf = a_0(f)E_k となり Mk=CEkM_k = \mathbb{C}E_k、次元は 11 です(Ek≠0E_k \ne 0 は定数項 11 から分かります)。

この 11 次元性は、思いがけない恒等式を生みます。演習 17.3 でその一例を確かめてください。

楕円曲線と結びつくのは、レベル 11 ではなく合同部分群に対するモジュラー形式です。

定義 5.9(Γ0(N)\Gamma_0(N) と重さ 2 の新形式)↗

正整数 NN に対し

Γ0(N)={(αβγδ)∈SL2(Z) | γ≡0(modN)}\Gamma_0(N) = \left\{ \begin{pmatrix} \alpha & \beta \\ \gamma & \delta \end{pmatrix} \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) \ \middle|\ \gamma \equiv 0 \pmod N \right\}

とおく。これは SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) の指数有限の部分群である。定義 5.1 の条件 2 を Γ0(N)\Gamma_0(N) のすべての元について要求し、条件 3 を Γ0(N)\Gamma_0(N) のすべての尖点で要求したものを、重さ kk・レベル NN のモジュラー形式といい、その空間を Mk(Γ0(N))M_k(\Gamma_0(N))、すべての尖点で 00 になるものの空間を Sk(Γ0(N))S_k(\Gamma_0(N)) と書く。ここで g=(αβγδ)∈SL2(Z)g = \begin{pmatrix} \alpha & \beta \\ \gamma & \delta \end{pmatrix} \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) に対し (f∣kg)(τ):=(γτ+δ)−kf(g⋅τ)(f|_k g)(\tau) := (\gamma\tau+\delta)^{-k} f(g\cdot\tau) とおくと、「すべての尖点で正則」とは、すべての g∈SL2(Z)g \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) について f∣kgf|_k g が ∑n≥0bne2πinτ/N\sum_{n \ge 0} b_n e^{2\pi i n\tau/N}(H\mathbb{H} 上で収束)と展開できることをいい、「すべての尖点で 00」とはさらにすべての gg で b0=0b_0 = 0 となることをいう。

S2(Γ0(N))S_2(\Gamma_0(N)) にはヘッケ作用素 TnT_n が作用する。M∣NM \mid N、M≠NM \ne N なるレベル MM の形式から自明に作られる部分(旧部分)の直交補空間に属し、すべての TnT_n の同時固有ベクトルで、qq 展開が f=q+∑n≥2anqnf = q + \sum_{n \ge 2} a_n q^n と正規化されているものを、レベル NN の**新形式(newform)**という。

新形式に対しても LL 関数 L(f,s)=∑n≥1ann−sL(f,s) = \sum_{n\ge1} a_n n^{-s} が定義でき、こちらはヘッケの理論により全複素平面に解析接続され、関数等式を満たすことが証明済みです。Γ0(N)\Gamma_0(N) の作用による H\mathbb{H} の商をコンパクト化した曲線 X0(N)X_0(N)(モジュラー曲線)を考えると、S2(Γ0(N))S_2(\Gamma_0(N)) は X0(N)X_0(N) 上の正則微分形式の空間と同一視され、その次元は X0(N)X_0(N) の種数に等しくなります。f(τ) dτf(\tau)\,d\tau が Γ0(N)\Gamma_0(N) 不変になるのが、ちょうど重さ 22 のときだからです。

ここまでで、Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線からは数列 (ap)(a_p) が、重さ 22 の新形式からも数列 (ap)(a_p) が得られました。前者は点を数えて得た整数列、後者は正則関数のフーリエ係数です。谷山・志村予想は、この二つが一致すると主張します。まず一致するという性質に名前を付けます。

定義 6.1(モジュラーな楕円曲線)↗

EE を Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線、NN をその導手とします。素数 ℓ∤N\ell \nmid N に対し aℓ(E)=ℓ+1−#E~(Fℓ)a_\ell(E) = \ell + 1 - \#\tilde{E}(\mathbb{F}_\ell) とおきます(定義 4.4)。EE がモジュラーであるとは、レベル NN の新形式(定義 5.9)f=∑n≥1anqn∈S2(Γ0(N))f = \sum_{n \ge 1} a_n q^n \in S_2(\Gamma_0(N)) が存在して、すべての素数 ℓ∤N\ell \nmid N について aℓ=aℓ(E)a_\ell = a_\ell(E) が成り立つことをいいます。

これは「EE という幾何的対象の点の個数の列」と「ff という保型形式のフーリエ係数の列」が完全に一致する、という性質です。まったく別の世界にある二つの数列が同じものだ、と言っている点に驚きがあります。

定理 6.2(モジュラー性定理(谷山・志村予想))※

Q\mathbb{Q} 上のすべての楕円曲線はモジュラーである。より詳しく、EE を Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線とし、NN をその導手とすると、次を満たす新形式 f=∑n≥1an(f)qn∈S2(Γ0(N))f = \sum_{n \ge 1} a_n(f) q^n \in S_2(\Gamma_0(N)) が(ただ一つ)存在する。

  • すべてのフーリエ係数 an(f)a_n(f) は有理整数である。
  • NN を割らないすべての素数 pp に対し ap(f)=ap(E)=p+1−#E~(Fp).a_p(f) = a_p(E) = p + 1 - \#\tilde{E}(\mathbb{F}_p).

これは次の条件と同値である。

  1. L(E,s)=L(f,s)L(E,s) = L(f,s)。とくに L(E,s)L(E,s) は全複素平面に解析接続され、関数等式を満たす。
  2. Q\mathbb{Q} 上定義された全射な射 X0(N)→EX_0(N) \to E が存在する(EE はモジュラー曲線の商である)。
  3. EE に付随する ℓ\ell 進ガロア表現 ρE,ℓ:Gal(Qˉ/Q)→GL2(Zℓ)\rho_{E,\ell} : \mathrm{Gal}(\bar{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q}) \to \mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}_\ell) が、あるモジュラー形式から来る表現と同型である。

注意 6.3

1955 年の日光の国際シンポジウムで谷山豊が提出した問題を志村五郎が精密化し、ヴェイユが導手の一致を含む形に整理しました。1986 年にフライとセールとリベットの仕事によりこの予想からフェルマーの最終定理が従うことが判明し、1994 年から 1995 年にかけてワイルズとテイラーが半安定な楕円曲線について証明しました(Wiles, Annals of Mathematics 141 (1995); Taylor–Wiles, 同巻)。一般の場合はブルイユ、コンラッド、ダイアモンド、テイラーによって 2001 年に完成しました。証明の手法は、変形理論によってガロア表現の族を制御し、「普遍変形環とヘッケ環が同型である(R=TR = T)」を示すというものです。その骨格は §11\S 11 で述べます。

例 6.4(導手 11 の楕円曲線とその新形式)

E:y2+y=x3−x2E : y^2 + y = x^3 - x^2 を考えます。これは一般ヴァイエルシュトラス形で、判別式は −11-11、導手は N=11N = 11 です。X0(11)X_0(11) の種数は 11 なので dim⁡S2(Γ0(11))=1\dim S_2(\Gamma_0(11)) = 1 であり、新形式はただ一つ、

f(τ)=η(τ)2η(11τ)2=q∏n≥1(1−qn)2(1−q11n)2=q−2q2−q3+2q4+q5+2q6−2q7+⋯f(\tau) = \eta(\tau)^2\eta(11\tau)^2 = q\prod_{n\ge1}(1-q^n)^2(1-q^{11n})^2 = q - 2q^2 - q^3 + 2q^4 + q^5 + 2q^6 - 2q^7 + \cdots

です(η\eta はデデキントのイータ関数)。

一方 EE の点を素朴に数えます。F2\mathbb{F}_2 では x=0x = 0 のとき右辺は 00、y2+y=y(y+1)=0y^2+y = y(y+1) = 0 の解は y=0,1y = 0, 1 の 22 個。x=1x = 1 のとき右辺は 1−1=01 - 1 = 0 で同じく 22 個。アフィン点 44 個に OO を加えて #E(F2)=5\#E(\mathbb{F}_2) = 5、よって a2(E)=2+1−5=−2a_2(E) = 2+1-5 = -2。

F3\mathbb{F}_3 上では、u=2y+1u = 2y + 1 と置くと u2=4(x3−x2)+1≡x3−x2+1u^2 = 4(x^3 - x^2) + 1 \equiv x^3 - x^2 + 1(4≡1 mod 34 \equiv 1 \bmod 3)と平方完成できます。x=0x = 0 で u2=1u^2 = 1 より 22 点、x=1x = 1 で u2=1u^2 = 1 より 22 点、x=2x = 2 で u2=8−4+1=5≡2u^2 = 8 - 4 + 1 = 5 \equiv 2 ですが法 33 の平方剰余は 0,10, 1 のみなので 00 点。無限遠点を加えて #E(F3)=5\#E(\mathbb{F}_3) = 5、a3(E)=3+1−5=−1a_3(E) = 3 + 1 - 5 = -1 です。同様に数えると次の表を得ます。

pp#E~(Fp)\#\tilde{E}(\mathbb{F}_p)ap(E)=p+1−#E~(Fp)a_p(E) = p+1-\#\tilde{E}(\mathbb{F}_p)ff の qpq^p の係数
2255−2-2−2-2
3355−1-1−1-1
55551111
771010−2-2−2-2

四つとも一致します。左の列は有限体上で解を数えた整数、右の列は無限積を展開して得た係数で、計算の出自はまったく異なります。それが一致するというのがモジュラー性定理の内容です。合成数の係数もヘッケの関係式で決まり、たとえば a4=a22−2=2a_4 = a_2^2 - 2 = 2、a6=a2a3=2a_6 = a_2 a_3 = 2 となり、実際 ff の展開と合っています。

モジュラー性定理の最大の応用が、次節から扱うフェルマーの最終定理です。

7. フェルマーの最終定理:素数指数への還元と n=4n = 4

Section titled “7. フェルマーの最終定理:素数指数への還元と n=4n = 4n=4”

フェルマーの書き込みは、彼の死後 1670 年に息子サミュエルが出版した『算術』の注釈付き版で世に出ました。途中経過だけ並べても、数論の主要な道具がほぼすべて動員されたことが分かります。オイラーの n=3n = 3(1770 年、Z[−3]\mathbb{Z}[\sqrt{-3}] の扱いに欠陥があり後に補完)、ソフィ・ジェルマンの第一種の場合の定理、ディリクレとルジャンドルの n=5n = 5(1825 年)、ラメの n=7n = 7(1839 年)、クンマーの正則素数(1847 年)。そして 20 世紀後半、問題は §2\S 2〜§6\S 6 で見た楕円曲線とモジュラー形式の世界へ接続され、そこで解決されます。以下 §11\S 11 まで、その接続をできるだけ具体的に追います。特に、フライ曲線の判別式の計算と、最後に矛盾を生む S2(Γ0(2))=0S_2(\Gamma_0(2)) = 0 という「次元 00 の空間」の計算は、実際に手を動かして確かめられる部分なので、省略せずに書きます。

定義 7.1(非自明解)↗

整数 n≥3n \ge 3 と整数の組 (x,y,z)(x, y, z) について、xn+yn=znx^n + y^n = z^n かつ xyz≠0xyz \ne 0 が成り立つとき、(x,y,z)(x, y, z) を指数 nn の非自明解と呼びます。フェルマーの最終定理とは、すべての n≥3n \ge 3 について非自明解が存在しない、という主張です。

xyz≠0xyz \ne 0 という条件が本質的です。これを外すと 1n+0n=1n1^n + 0^n = 1^n のような自明な解がいくらでも作れてしまいます。

命題 7.2(指数の還元)✓

n=4n = 4 と、すべての奇素数 pp について指数 n=4n = 4、n=pn = p の非自明解が存在しないならば、すべての n≥3n \ge 3 について指数 nn の非自明解は存在しません。

証明(命題 7.2)

n≥3n \ge 3 を任意に取ります。nn の素因数分解を考えると、次の二つの場合に分かれます。

第一に、nn が奇素数 pp を素因数に持つ場合。n=pmn = pm(m≥1m \ge 1)と書けます。もし xn+yn=znx^n + y^n = z^n が xyz≠0xyz \ne 0 で成り立つなら、X=xmX = x^m, Y=ymY = y^m, Z=zmZ = z^m とおくと Xp+Yp=ZpX^p + Y^p = Z^p かつ XYZ=(xyz)m≠0XYZ = (xyz)^m \ne 0 となり、指数 pp の非自明解が得られます。仮定に反します。

第二に、nn が奇素数を素因数に持たない場合。このとき nn は 22 のべきで、n≥3n \ge 3 より n≥4n \ge 4、すなわち 4∣n4 \mid n です。n=4mn = 4m とおき、X=xmX = x^m, Y=ymY = y^m, Z=zmZ = z^m とすれば X4+Y4=Z4X^4 + Y^4 = Z^4 かつ XYZ≠0XYZ \ne 0 となり、やはり仮定に反します。

以上でどちらの場合も矛盾するので、非自明解は存在しません。

したがって、あとは n=4n = 4 と奇素数 pp を潰せばよい。n=4n = 4 はフェルマー自身が証明しました。これはフェルマーが証明を書き残した唯一の命題でもあります。

定理 7.3(フェルマー(n=4n = 4))✓

x4+y4=z2x^4 + y^4 = z^2 を満たす正の整数の組 (x,y,z)(x, y, z) は存在しません。したがって x4+y4=z4x^4 + y^4 = z^4 の非自明整数解も存在しません。

証明(定理 7.3)

無限降下法を使います。証明の構造については 証明の技術 も参照してください。

解が存在すると仮定し、そのうち zz が最小のものを (x,y,z)(x, y, z) とします(zz は正の整数の集合を動くので、整列性(公理 3.1)[証明の技術] により最小元が存在します)。

第 1 段:互いに素にしてよい。 d=gcd⁡(x,y)d = \gcd(x, y) とすると d4∣x4+y4=z2d^4 \mid x^4 + y^4 = z^2 です。よって d2∣zd^2 \mid z であり、(x/d,y/d,z/d2)(x/d, y/d, z/d^2) も解になります。zz の最小性から d=1d = 1、すなわち gcd⁡(x,y)=1\gcd(x, y) = 1 です。

第 2 段:ピタゴラス数として分解する。 (x2)2+(y2)2=z2(x^2)^2 + (y^2)^2 = z^2 であり、gcd⁡(x2,y2)=1\gcd(x^2, y^2) = 1 なのでこれは原始ピタゴラス数です。x,yx, y がともに奇数だと x4+y4≡1+1=2(mod4)x^4 + y^4 \equiv 1 + 1 = 2 \pmod 4 となりますが、平方数は 44 を法として 00 か 11 にしかならないので不可能です。よって一方は偶数で、yy を偶数としてよい。原始ピタゴラス数の標準形から、互いに素で偶奇の異なる m>n>0m > n > 0 が存在して

x2=m2−n2,y2=2mn,z=m2+n2x^2 = m^2 - n^2, \qquad y^2 = 2mn, \qquad z = m^2 + n^2

と書けます。

第 3 段:もう一度分解する。 第 2 段の第一式は x2+n2=m2x^2 + n^2 = m^2 です。gcd⁡(m,n)=1\gcd(m, n) = 1 よりこれも原始ピタゴラス数で、xx は奇数なので nn が偶数、mm が奇数です。再び標準形により、互いに素で偶奇の異なる s>t>0s > t > 0 が存在して

x=s2−t2,n=2st,m=s2+t2.x = s^2 - t^2, \qquad n = 2st, \qquad m = s^2 + t^2 .

第 4 段:三つの平方数を取り出す。 これを y2=2mny^2 = 2mn に代入すると y2=2m⋅2st=4msty^2 = 2m \cdot 2st = 4mst、すなわち

(y2)2=m s t.\left( \frac{y}{2} \right)^2 = m\,s\,t .

ここで m,s,tm, s, t は対ごとに互いに素です。実際 gcd⁡(s,t)=1\gcd(s, t) = 1 であり、qq を mm と ss の共通素因数とすると q∣m−s2=t2q \mid m - s^2 = t^2 から q∣tq \mid t となって gcd⁡(s,t)=1\gcd(s,t)=1 に反します。mm と tt についても同様です。対ごとに互いに素な正整数の積が平方数なら、各因子が平方数です。よって

m=Z2,s=X2,t=Y2m = Z^2, \qquad s = X^2, \qquad t = Y^2

なる正整数 X,Y,ZX, Y, Z が取れます(n=2st>0n = 2st > 0 より s,t≥1s, t \ge 1)。

第 5 段:降下。 m=s2+t2m = s^2 + t^2 に代入すると

X4+Y4=s2+t2=m=Z2X^4 + Y^4 = s^2 + t^2 = m = Z^2

となり、(X,Y,Z)(X, Y, Z) も同じ方程式の正整数解です。ところが

Z≤Z2=m≤m2<m2+n2=zZ \le Z^2 = m \le m^2 < m^2 + n^2 = z

なので Z<zZ < z となり、zz の最小性に矛盾します。

したがって解は存在しません。後半の主張は、x4+y4=z4x^4 + y^4 = z^4 の非自明解 (x,y,z)(x,y,z) があれば ∣x∣,∣y∣,z2|x|, |y|, z^2 が前半の方程式の正整数解を与えることから従います。

系 7.4

フェルマーの最終定理は、p≥5p \ge 5 の各素数について ap+bp=cpa^p + b^p = c^p、abc≠0abc \ne 0 の解が存在しないことを示せば完全に証明されます。

証明(系 7.4)

命題 7.2 により n=4n = 4 と奇素数 pp に帰着します。n=4n = 4 は 定理 7.3 で片づいています。奇素数のうち p=3p = 3 はオイラーが証明しました(後に Z[ω]\mathbb{Z}[\omega]、ω=e2πi/3\omega = e^{2\pi i/3} を使って厳密化されました)。残るのは p≥5p \ge 5 です。

この「p≥5p \ge 5」という条件は、§10\S 10 で本質的に効いてきます。

8. 円分体での挫折:一意分解の破れとクンマー

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pp を奇素数、ζ=e2πi/p\zeta = e^{2\pi i / p} とします。恒等式

∏i=0p−1(x+ζiy)=xp+yp\prod_{i=0}^{p-1} (x + \zeta^{i} y) = x^p + y^p

が成り立ちます。実際 ∏i=0p−1(T−ζi)=Tp−1\prod_{i=0}^{p-1}(T - \zeta^i) = T^p - 1 の TT を −T-T に置き換えると ∏(−T−ζi)=(−T)p−1=−Tp−1\prod (-T - \zeta^i) = (-T)^p - 1 = -T^p - 1 であり、左辺の各因子から −1-1 を括り出すと (−1)p∏(T+ζi)=−∏(T+ζi)(-1)^p \prod(T + \zeta^i) = -\prod(T+\zeta^i) なので ∏(T+ζi)=Tp+1\prod(T + \zeta^i) = T^p + 1、これに T=x/yT = x/y を代入して ypy^p を掛ければ得られます。

したがって ap+bp=cpa^p + b^p = c^p は、円分整数環 Z[ζ]\mathbb{Z}[\zeta] の中で

∏i=0p−1(a+ζib)=cp\prod_{i=0}^{p-1} (a + \zeta^{i} b) = c^p

と読めます。左辺の因子たちが「ほぼ互いに素」であることを示せれば、各因子が pp 乗数(に単数を掛けたもの)だと結論でき、そこから降下が回りそうに見えます。

1847 年 3 月、ガブリエル・ラメはパリ科学アカデミーでこの筋書きによる完全証明を発表しました。ジョゼフ・リウヴィルはただちに、Z[ζ]\mathbb{Z}[\zeta] での素因数分解の一意性が使われているが、それは正当化されていないと指摘します。実際その一意性は一般には成立しません。エルンスト・クンマーは、p=23p = 23 で Z[ζ23]\mathbb{Z}[\zeta_{23}] が一意分解環でないことを既に見ていました。

Z\mathbb{Z} では 算術の基本定理(定理 4.2)[素数の魅力と素数定理] が一意分解を保証しますが、これは環一般に期待できる性質ではありません。壊れる感触は、もっと小さい環で確かめられます。

例 8.1(Z[−5]\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] で一意分解が壊れる)

R=Z[−5]={a+b−5:a,b∈Z}R = \mathbb{Z}[\sqrt{-5}] = \{a + b\sqrt{-5} : a, b \in \mathbb{Z}\} にノルム N(a+b−5)=a2+5b2N(a + b\sqrt{-5}) = a^2 + 5b^2 を入れます。NN は乗法的です。RR の中で

6=2⋅3=(1+−5)(1−−5)6 = 2 \cdot 3 = (1 + \sqrt{-5})(1 - \sqrt{-5})

という二通りの分解があります。これが本当に「別の分解」であることを確かめます。

まず単数です。α\alpha が単数なら N(α)N(α−1)=1N(\alpha) N(\alpha^{-1}) = 1 なので N(α)=1N(\alpha) = 1、つまり a2+5b2=1a^2 + 5b^2 = 1 となり b=0b = 0, a=±1a = \pm 1。単数は ±1\pm 1 だけです。

22 は既約です。2=αβ2 = \alpha\beta で両方が非単数なら N(α)N(β)=N(2)=4N(\alpha)N(\beta) = N(2) = 4 かつ N(α),N(β)>1N(\alpha), N(\beta) > 1 なので N(α)=2N(\alpha) = 2、つまり a2+5b2=2a^2 + 5b^2 = 2。b=0b = 0 なら a2=2a^2 = 2 で不可、∣b∣≥1|b| \ge 1 なら左辺は 55 以上。解なしなので 22 は既約です。

33 も同様です。N(α)=3N(\alpha) = 3 は a2+5b2=3a^2 + 5b^2 = 3 となり、b=0b = 0 なら a2=3a^2 = 3 で不可、∣b∣≥1|b| \ge 1 なら 55 以上。既約です。

1±−51 \pm \sqrt{-5} も既約です。N(1±−5)=1+5=6N(1 \pm \sqrt{-5}) = 1 + 5 = 6 なので、真の分解があればノルム 22 か 33 の元が現れますが、上で見たとおり存在しません。

最後に 22 と 1±−51 \pm \sqrt{-5} が同伴でないことを見ます。同伴なら単数 ±1\pm 1 倍で移り合うはずですが ±2≠1±−5\pm 2 \ne 1 \pm \sqrt{-5} です。ノルムを見ても 4≠64 \ne 6 です。よって上の二つの分解は既約元の並べ替えと単数倍では移り合わず、一意分解は成立しません。

クンマーの解決策は、壊れた一意性を「理想的な数(イデアル数)」を付け加えて回復させることでした。現代の言葉ではイデアルの一意分解であり、これは イデアルと剰余環 で扱う概念(イデアルの定義(定義 3.1)[イデアルと剰余環])の源流です。破れの度合いは類数 hph_p(Q(ζp)\mathbb{Q}(\zeta_p) の類数)で測られます。

奇素数 pp が円分体 Q(ζp)\mathbb{Q}(\zeta_p) の類数 hph_p を割らないとき、pp を正則素数と呼び、割るときは非正則素数と呼びます。正則であることは「一意分解の破れが pp 乗の議論を邪魔しない程度に小さい」という条件だと思ってください。

定理 8.2(クンマー(1847))※

pp を正則な奇素数(すなわち p∤hpp \nmid h_p なる奇素数)とします。このとき xp+yp=zpx^p + y^p = z^p を満たし xyz≠0xyz \ne 0 となる整数 x,y,zx, y, z は存在しません。

注意 8.3

証明は円分体の類体論的な議論(クンマーの補題、ベルヌーイ数による正則性の判定)を要し、この記事の範囲を超えます。Washington, Introduction to Cyclotomic Fields の第 9 章に完全な証明があります。クンマー自身は、pp が正則であることと pp がベルヌーイ数 B2,B4,…,Bp−3B_2, B_4, \ldots, B_{p-3} の分子のいずれをも割らないことが同値である、という判定法も与えました。この判定法により 100100 未満の非正則素数は 37,59,6737, 59, 67 の三つだと分かります。

非正則素数が無限に存在することは 1915 年にジェンセンが証明しました。一方、正則素数が無限に存在するかどうかは現在も未解決です。つまりクンマーの路線は、原理的にすべての指数を覆いきれる見込みが立たないまま止まっていたことになります。

20 世紀に入ると、計算機による検証は 4,000,0004{,}000{,}000 以下のすべての指数にまで届きました。しかし「有限個の検証」と「すべての nn」の間の距離は縮まりません。突破口は、まったく別の場所から来ます。

9. フライ曲線:解が存在したら何が起きるか

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1985 年、ゲルハルト・フライは次の発想を提出しました。フェルマー方程式の解を「探す」のではなく、解があると仮定してそこから楕円曲線を作り、その曲線が持つはずのない性質を持つことを示す。

定義 9.1(フライ曲線)↗

p≥5p \ge 5 を素数、a,b,ca, b, c を 00 でない整数で対ごとに互いに素、ap+bp=cpa^p + b^p = c^p、bb は偶数、a≡3(mod4)a \equiv 3 \pmod 4 とします。このとき

Ea,b:y2=x (x−ap)(x+bp)E_{a,b} : \quad y^2 = x\,(x - a^p)(x + b^p)

で定まる Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線をフライ曲線と呼びます。

正規化の条件(bb が偶数、a≡3 mod 4a \equiv 3 \bmod 4)は一般性を失わずに課せます。pp が奇数なので ap+bp=cpa^p + b^p = c^p は ap+bp+(−c)p=0a^p + b^p + (-c)^p = 0 と同値で、三つの pp 乗数 A=apA = a^p, B=bpB = b^p, C=(−c)pC = (-c)^p は和が 00 です。A,B,CA, B, C がすべて奇数なら和は奇数となり 00 になりません。対ごとに互いに素なので偶数はちょうど一つで、それを BB と名づけ直します。残る A,CA, C は奇数です。A≡C≡1(mod4)A \equiv C \equiv 1 \pmod 4 なら全体に −1-1 を掛ければ(pp が奇数なので −A-A 等も pp 乗数のまま)両方 33 になるので、いずれにせよ A≡3(mod4)A \equiv 3 \pmod 4 となるよう名づけられます。

フライ曲線は y2=x(x−e1)(x−e2)y^2 = x(x-e_1)(x-e_2) の形をしており、x2x^2 の項を含むので §2\S 2 の短ヴァイエルシュトラス形ではありません。xx を平行移動すれば短い形に直せますが、不変量は一般ヴァイエルシュトラス方程式の公式(Appendix)で直接計算するほうが見通しがよいので、以下ではその形のまま扱います。

-B0Ax
フライ曲線 の実点の概形。 軸との三つの交点 が 2 等分点に対応し、これらが一致しないことが判別式が 0 でないことにあたります。

この曲線がなぜ「おかしい」のか。判別式を計算すれば分かります。

命題 9.2(フライ曲線の不変量)✓

A,BA, B を整数、C=A+BC = A + B とし、E:y2=x(x−A)(x+B)E : y^2 = x(x - A)(x + B) とします。このとき

c4=16 (A2+AB+B2),Δ=16 (ABC)2.c_4 = 16\,(A^2 + AB + B^2), \qquad \Delta = 16\,(ABC)^2 .

特にフライ曲線 Ea,bE_{a,b} については Δ=16 (abc)2p\Delta = 16\,(abc)^{2p} です。

証明(命題 9.2)

右辺を展開すると y2=x3+(B−A)x2−ABxy^2 = x^3 + (B - A)x^2 - ABx なので、ヴァイエルシュトラス係数は

a1=0,a2=B−A,a3=0,a4=−AB,a6=0.a_1 = 0,\quad a_2 = B - A,\quad a_3 = 0,\quad a_4 = -AB,\quad a_6 = 0 .

標準的な補助量は

b2=a12+4a2=4(B−A),b4=2a4+a1a3=−2AB,b6=a32+4a6=0,b8=a12a6+4a2a6−a1a3a4+a2a32−a42=−A2B2.\begin{aligned} b_2 &= a_1^2 + 4a_2 = 4(B - A), \\ b_4 &= 2a_4 + a_1 a_3 = -2AB, \\ b_6 &= a_3^2 + 4a_6 = 0, \\ b_8 &= a_1^2 a_6 + 4 a_2 a_6 - a_1 a_3 a_4 + a_2 a_3^2 - a_4^2 = -A^2B^2 . \end{aligned}

よって

c4=b22−24b4=16(B−A)2+48AB=16(A2+AB+B2)c_4 = b_2^2 - 24 b_4 = 16(B-A)^2 + 48AB = 16(A^2 + AB + B^2)

であり、

Δ=−b22b8−8b43−27b62+9b2b4b6=−16(B−A)2⋅(−A2B2)−8(−2AB)3=16A2B2(B−A)2+64A3B3=16A2B2[(B−A)2+4AB]=16A2B2(A+B)2=16(ABC)2.\begin{aligned} \Delta &= -b_2^2 b_8 - 8 b_4^3 - 27 b_6^2 + 9 b_2 b_4 b_6 \\ &= -16(B-A)^2 \cdot (-A^2B^2) - 8(-2AB)^3 \\ &= 16 A^2 B^2 (B-A)^2 + 64 A^3 B^3 \\ &= 16 A^2 B^2 \left[ (B-A)^2 + 4AB \right] \\ &= 16 A^2 B^2 (A+B)^2 = 16 (ABC)^2 . \end{aligned}

フライ曲線では A=apA = a^p, B=bpB = b^p, C=ap+bp=cpC = a^p + b^p = c^p なので ABC=(abc)pABC = (abc)^p となり Δ=16(abc)2p\Delta = 16(abc)^{2p} を得ます。

例 9.3(ピタゴラス数から作った「フライ曲線」)

p=2p = 2 に対応する 32+42=523^2 + 4^2 = 5^2 で試すと、A=9A = 9, B=16B = 16, C=25C = 25 で

E:y2=x(x−9)(x+16)E : y^2 = x(x - 9)(x + 16)

です。命題 9.2 より

Δ=16(9⋅16⋅25)2=16⋅36002=16⋅12,960,000=207,360,000\Delta = 16 (9 \cdot 16 \cdot 25)^2 = 16 \cdot 3600^2 = 16 \cdot 12{,}960{,}000 = 207{,}360{,}000

であり、(abc)2p=(3⋅4⋅5)4=604=12,960,000(abc)^{2p} = (3 \cdot 4 \cdot 5)^4 = 60^4 = 12{,}960{,}000 と一致します。この曲線自体は何も病的ではなく、ごく普通のモジュラーな楕円曲線です。矛盾を生むのは指数が p≥5p \ge 5 のときで、そこでは判別式の各奇素因子の重複度が 2p2p の倍数という異常な整除性を持ちます。「解が存在するなら、判別式が完全な 2p2p 乗に近い曲線ができてしまう」——これがフライの見た違和感です。

定義 9.4(半安定)↗

Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線 EE が半安定であるとは、すべての素数 ℓ\ell において EE が良還元または乗法的還元を持つ(加法的還元を持たない)ことをいいます。半安定なら導手 NN は平方因子を持たず、N=∏ℓ∣Δmin⁡ℓN = \prod_{\ell \mid \Delta_{\min}} \ell と、Δmin⁡\Delta_{\min} の素因子の積になります。

命題 9.5(フライ曲線は半安定)※

定義 9.1 の正規化の下で、フライ曲線 Ea,bE_{a,b} は半安定であり、その最小判別式と導手は

Δmin⁡=(abc)2p28,N=∏ℓ∣abcℓ\Delta_{\min} = \frac{(abc)^{2p}}{2^{8}}, \qquad N = \prod_{\ell \mid abc} \ell

で与えられます。

注意 9.6

証明の要点だけ記します。奇素数 ℓ\ell については、ℓ\ell が abcabc を割るとき ℓ\ell は A,B,CA, B, C のちょうど一つだけを割る(対ごとに互いに素だから)ので、x3+(B−A)x2−ABxx^3 + (B-A)x^2 - ABx は Fℓ\mathbb{F}_\ell 上で二重根をちょうど一つ持ち、三重根は持ちません。これは乗法的還元です。ℓ∤abc\ell \nmid abc なら ℓ∤Δ\ell \nmid \Delta で良還元です。

ℓ=2\ell = 2 での半安定性に bb が偶数、a≡3(mod4)a \equiv 3 \pmod 4 という正規化が効きます。x=4Xx = 4X, y=8Y+4Xy = 8Y + 4X という座標変換で Z\mathbb{Z} 上のヴァイエルシュトラス方程式が得られ、判別式は u=2u = 2 に対する u−12u^{-12} 倍、つまり 16(abc)2p/212=(abc)2p/2816(abc)^{2p} / 2^{12} = (abc)^{2p}/2^{8} になります。bb が偶数で p≥5p \ge 5 だから v2 ⁣((abc)2p)=2p v2(b)≥10>8v_2\!\left((abc)^{2p}\right) = 2p\, v_2(b) \ge 10 > 8 となり、これは整数です。詳細は Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves(第 VII 章の還元理論)と Darmon–Diamond–Taylor の解説論文にあります。

ここで最重要の観察をします。ℓ\ell を abcabc の奇素因子とすると

vℓ(Δmin⁡)=2p⋅vℓ(abc)≡0(modp)v_\ell(\Delta_{\min}) = 2p \cdot v_\ell(abc) \equiv 0 \pmod p

です。一方 ℓ=2\ell = 2 では

v2(Δmin⁡)=2p⋅v2(b)−8≡−8(modp)v_2(\Delta_{\min}) = 2p \cdot v_2(b) - 8 \equiv -8 \pmod p

で、p≥5p \ge 5 なので p∤8p \nmid 8、つまりこれは pp で割り切れません。この「奇素数ではすべて pp で割れ、22 でだけ割れない」という指数の分布が、次節で決定的な役割を果たします。

10. リベットのレベル下げと矛盾の完成

Section titled “10. リベットのレベル下げと矛盾の完成”

フライの観察を定理にするには、「フライ曲線がモジュラーだとすると矛盾する」という部分を厳密化する必要があります。それを担うのが mod pp ガロア表現です。

定義 10.1(mod pp ガロア表現)↗

E/QE/\mathbb{Q} を楕円曲線、pp を素数とします。pp 等分点のなす群は E[p]≅(Z/pZ)2E[p] \cong (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^2 で、絶対ガロア群 GQ=Gal(Q‾/Q)G_{\mathbb{Q}} = \mathrm{Gal}(\overline{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q}) がこれに作用します。基底を選ぶことで得られる準同型

ρˉE,p:GQ⟶GL2(Fp)\bar\rho_{E,p} : G_{\mathbb{Q}} \longrightarrow \mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_p)

を EE の mod pp ガロア表現と呼びます。EE がモジュラーで対応する新形式が ff のとき、ρˉE,p\bar\rho_{E,p} は「レベル NN の新形式から来る」と言います。

レベル下げを使うには ρˉE,p\bar\rho_{E,p} が既約でなければなりません。ρˉE,p\bar\rho_{E,p} が可約であることは、EE が Q\mathbb{Q} 上定義された位数 pp の部分群(有理 pp 同種)をもつことと同じで、それを封じるのがメイザーの定理です。フライ曲線に必要な形だけを述べます。

定理 10.2(メイザーの有理同種定理(必要な特別な場合))※

E/QE/\mathbb{Q} を半安定な楕円曲線で、22 等分点がすべて有理点(E[2]⊂E(Q)E[2] \subset E(\mathbb{Q}))であるものとします。このとき素数 p≥5p \ge 5 について ρˉE,p\bar\rho_{E,p} は既約です。

注意 10.3

B. Mazur, “Rational isogenies of prime degree”, Inventiones Mathematicae 44 (1978) によります。証明はモジュラー曲線 X0(p)X_0(p) のヤコビアン(そのアイゼンシュタイン商)の精密な解析を使う研究水準のもので、この記事の範囲を大きく超えるため、主張のみ述べます。半安定性だけでは足りず、22 等分点の仮定が要ります。たとえば導手 1111 の半安定な楕円曲線は有理 55 同種をもち、ρˉE,5\bar\rho_{E,5} は可約です。

セールは 1987 年、既約な mod pp 表現に対して最小のレベル N(ρˉ)N(\bar\rho) と重さを予言する予想(セール予想)を定式化しました。そのうち「レベルを下げられる」部分がリベットにより証明されます。半安定楕円曲線に対して必要な形だけを述べます。

定理 10.4(リベットのレベル下げ定理(必要な特別な場合))※

E/QE/\mathbb{Q} を半安定な楕円曲線、NN をその導手、Δmin⁡\Delta_{\min} を最小判別式、p≥5p \ge 5 を素数とします。ρˉE,p\bar\rho_{E,p} が既約であり、かつ EE がモジュラーであると仮定します。このとき

N(ρˉE,p)  =∏ℓ∣Np∤vℓ(Δmin⁡)ℓN(\bar\rho_{E,p}) \; = \prod_{\substack{\ell \mid N \\ p \,\nmid\, v_\ell(\Delta_{\min})}} \ell

とおくと、重さ 22、レベル Γ0 ⁣(N(ρˉE,p))\Gamma_0\!\left(N(\bar\rho_{E,p})\right) の新形式 gg が存在して、ρˉg,p≅ρˉE,p\bar\rho_{g,p} \cong \bar\rho_{E,p} が成り立ちます。

注意 10.5

原論文は K. Ribet, “On modular representations of Gal(Q‾/Q)\mathrm{Gal}(\overline{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q}) arising from modular forms”, Inventiones Mathematicae 100 (1990) です。証明はモジュラー曲線のヤコビアンと志村曲線の間の合同関係を使うもので、この記事では扱いません。直感的には、p∣vℓ(Δmin⁡)p \mid v_\ell(\Delta_{\min}) という条件は ρˉ\bar\rho が ℓ\ell で不分岐になることを意味し、不分岐な素数はレベルから落とせる、ということです。

定理 10.6(ワイルズ(1995))※

Q\mathbb{Q} 上のすべての半安定な楕円曲線はモジュラーである。

注意 10.7

A. Wiles, “Modular elliptic curves and Fermat’s Last Theorem”, Annals of Mathematics 141 (1995) と、同じ号の R. Taylor and A. Wiles, “Ring-theoretic properties of certain Hecke algebras” によります。定理 6.2 の半安定な場合にあたります。証明の骨格は §11\S 11 に述べます。

矛盾を生む最後の材料は、次元 00 の空間です。種数公式を使わずに、レベル 11 の結果(系 5.8)だけから示せます。

補題 10.8(S2(Γ0(2))=0S_2(\Gamma_0(2)) = 0)✓

重さ 22、レベル 22 の尖点形式は 00 だけである。すなわち S2(Γ0(2))=0S_2(\Gamma_0(2)) = 0。

証明(補題 10.8)

定義 5.9 の記号 f∣kgf|_k g を使い、j(g,τ):=γτ+δj(g,\tau) := \gamma\tau+\delta と書きます。

保型因子の連鎖律. g,h∈SL2(Z)g, h \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) について j(gh,τ)=j(g,h⋅τ) j(h,τ)j(gh,\tau) = j(g, h\cdot\tau)\,j(h,\tau) です。実際、列ベクトルで h(τ1)=j(h,τ)(h⋅τ1)h\binom{\tau}{1} = j(h,\tau)\binom{h\cdot\tau}{1} なので、gh(τ1)=j(h,τ) g(h⋅τ1)=j(h,τ) j(g,h⋅τ)(gh⋅τ1)gh\binom{\tau}{1} = j(h,\tau)\,g\binom{h\cdot\tau}{1} = j(h,\tau)\,j(g,h\cdot\tau)\binom{gh\cdot\tau}{1} で、第 2 成分を比べればよいです。この第 1 成分と第 2 成分の比から (gh)⋅τ=g⋅(h⋅τ)(gh)\cdot\tau = g\cdot(h\cdot\tau) も分かります。これから f∣k(gh)=(f∣kg)∣khf|_k(gh) = (f|_k g)|_k h が従います。また ff が 定義 5.9 の条件 2 を満たすことは、すべての h∈Γ0(2)h \in \Gamma_0(2) で f∣kh=ff|_k h = f となることと同じです。

剰余類分解. S=(0−110)S = \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}、T=(1101)T = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} とおき、g1=Ig_1 = I、g2=Sg_2 = S、g3=STg_3 = ST とします。g=(abcd)∈SL2(Z)g = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) について計算すると、gS−1gS^{-1} の左下成分は −d-d、g(ST)−1=gT−1S−1g(ST)^{-1} = gT^{-1}S^{-1} の左下成分は c−dc - d です。したがって

g∈Γ0(2)  ⟺  c が偶数,g∈Γ0(2)S  ⟺  d が偶数,g∈Γ0(2)ST  ⟺  c≡d(mod2)g \in \Gamma_0(2) \iff c \text{ が偶数}, \quad g \in \Gamma_0(2)S \iff d \text{ が偶数}, \quad g \in \Gamma_0(2)ST \iff c \equiv d \pmod 2

です。ad−bc=1ad - bc = 1 から c,dc, d がともに偶数になることはないので、どの gg もちょうど 1 つの条件を満たします。すなわち SL2(Z)=Γ0(2)g1⊔Γ0(2)g2⊔Γ0(2)g3\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) = \Gamma_0(2)g_1 \sqcup \Gamma_0(2)g_2 \sqcup \Gamma_0(2)g_3 です。g∈SL2(Z)g \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) を右から掛ける写像は右剰余類を全単射に写すので、ある置換 π\pi と hi∈Γ0(2)h_i \in \Gamma_0(2) で gig=higπ(i)g_i g = h_i g_{\pi(i)}(i=1,2,3i = 1,2,3)となります。

重さ 6 の形式を作る. f∈S2(Γ0(2))f \in S_2(\Gamma_0(2)) とし、

F:=(f∣2g1)(f∣2g2)(f∣2g3)F := (f|_2 g_1)(f|_2 g_2)(f|_2 g_3)

とおきます。FF は H\mathbb{H} 上正則です。g∈SL2(Z)g \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}) について、積の各因子に連鎖律を使うと F∣6g=∏i(f∣2gi)∣2g=∏if∣2(higπ(i))=∏i(f∣2hi)∣2gπ(i)=∏if∣2gπ(i)=FF|_6 g = \prod_i (f|_2 g_i)|_2 g = \prod_i f|_2 (h_i g_{\pi(i)}) = \prod_i (f|_2 h_i)|_2 g_{\pi(i)} = \prod_i f|_2 g_{\pi(i)} = F です(∣6g|_6 g は因子ごとの ∣2g|_2 g の積になる)。よって FF は 定義 5.1 の条件 2 を重さ 66 で満たします。

尖点の条件を確かめます。定義 5.9 により各 f∣2gif|_2 g_i は ∑n≥1bn(i)eπinτ\sum_{n \ge 1} b^{(i)}_n e^{\pi i n\tau} と展開でき(尖点で 00)、この eπiτe^{\pi i\tau} のべき級数は ∣eπiτ∣<1|e^{\pi i\tau}| < 1 で収束するので、eπiτ→0e^{\pi i\tau} \to 0、すなわち Im τ→∞\mathrm{Im}\,\tau \to \infty のとき Re τ\mathrm{Re}\,\tau について一様に 00 に収束します。したがって F(τ)→0F(\tau) \to 0(Im τ→∞\mathrm{Im}\,\tau \to \infty、Re τ\mathrm{Re}\,\tau について一様)です。F(τ+1)=F(τ)F(\tau+1) = F(\tau) なので、定義 5.1 の条件 3 のとおり F(τ)=G(e2πiτ)F(\tau) = G(e^{2\pi i\tau}) となる 0<∣q∣<10 < |q| < 1 上の正則関数 GG が定まり、q→0q \to 0 で G(q)→0G(q) \to 0 です。とくに GG は 00 の近くで有界なので、定理 3.3[留数定理と定積分への応用] の (iii) により q=0q = 0 に正則に延び、G(0)=0G(0) = 0 です。よって FF の qq 展開は負べきを含まず定数項が 00 で、F∈S6(SL2(Z))F \in S_6(\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})) です。

結論. 系 5.8 の (3)(6<126 < 12)から F=0F = 0 です。3 つの因子 f∣2gif|_2 g_i がどれも恒等的に 00 でないとすると、定理 7.3[正則関数の強力な性質](g=0g = 0 と比べる)により各因子の零点集合は H\mathbb{H} 内に集積点をもたないので、H\mathbb{H} 内の閉円板 KK と交わる零点は各因子について有限個です(無限個なら KK のコンパクト性から集積点ができる)。すると KK のどの因子の零点でもない点で F≠0F \ne 0 となり矛盾します。よってある ii で f∣2gi≡0f|_2 g_i \equiv 0 です。j(gi,τ)≠0j(g_i,\tau) \ne 0 で τ↦gi⋅τ\tau \mapsto g_i\cdot\tau は H\mathbb{H} の全単射なので、f≡0f \equiv 0 です。

種数公式を使っても同じ結論が得られます。§5\S 5 で述べたとおり dim⁡S2(Γ0(N))\dim S_2(\Gamma_0(N)) はモジュラー曲線 X0(N)X_0(N) の種数に等しいので、次のように種数を計算しても確かめられます。

例 10.9(S2(Γ0(2))=0S_2(\Gamma_0(2)) = 0 の計算)

重さ 22、レベル Γ0(N)\Gamma_0(N) の尖点形式の空間 S2(Γ0(N))S_2(\Gamma_0(N)) の次元は、モジュラー曲線 X0(N)X_0(N) の種数 gg に等しいことが知られています。種数公式は

g=1+μ12−ν24−ν33−ν∞2g = 1 + \frac{\mu}{12} - \frac{\nu_2}{4} - \frac{\nu_3}{3} - \frac{\nu_\infty}{2}

です。ここで μ=[PSL2(Z):Γˉ0(N)]=N∏ℓ∣N(1+1/ℓ)\mu = [\mathrm{PSL}_2(\mathbb{Z}) : \bar\Gamma_0(N)] = N \prod_{\ell \mid N}(1 + 1/\ell)、ν2,ν3\nu_2, \nu_3 は位数 2,32, 3 の楕円点の個数、ν∞\nu_\infty は尖点の個数です。

N=2N = 2 で計算します。

μ=2(1+12)=3.\mu = 2 \left( 1 + \tfrac{1}{2} \right) = 3 .

ν2=∏ℓ∣N(1+(−1ℓ))\nu_2 = \prod_{\ell \mid N} \left( 1 + \left( \tfrac{-1}{\ell} \right) \right) で、ℓ=2\ell = 2 のときこの記号は 00 と約束されるので ν2=1+0=1\nu_2 = 1 + 0 = 1。ν3=∏ℓ∣N(1+(−3ℓ))\nu_3 = \prod_{\ell \mid N}\left(1 + \left(\tfrac{-3}{\ell}\right)\right) で、ℓ=2\ell = 2 に対しこの記号も 00 ではなく、3∤23 \nmid 2 かつ NN が 99 で割れないときの規約により (−32)=−1\left(\tfrac{-3}{2}\right) = -1、よって ν3=1−1=0\nu_3 = 1 - 1 = 0。尖点は 00 と ∞\infty の 2 個なので ν∞=2\nu_\infty = 2。代入すると

g=1+312−14−0−22=1+14−14−1=0.g = 1 + \frac{3}{12} - \frac{1}{4} - 0 - \frac{2}{2} = 1 + \frac14 - \frac14 - 1 = 0 .

したがって dim⁡S2(Γ0(2))=0\dim S_2(\Gamma_0(2)) = 0、すなわち重さ 22 レベル 22 の尖点形式は 00 しかなく、新形式は一つも存在しません。

以上で材料がそろいました。

系 10.10(フェルマーの最終定理)△

n≥3n \ge 3 を整数とすると、xn+yn=znx^n + y^n = z^n かつ xyz≠0xyz \ne 0 を満たす整数 x,y,zx, y, z は存在しません。

証明(系 10.10)

系 7.4 により、素数 p≥5p \ge 5 について ap+bp=cpa^p + b^p = c^p、abc≠0abc \ne 0 の解がないことを示せば十分です。

解が存在したとします。共通因子を割ることで a,b,ca, b, c は対ごとに互いに素としてよく、定義 9.1 の直後で述べた並べ替えと符号の付け替えにより bb は偶数、a≡3(mod4)a \equiv 3 \pmod 4 としてよい。フライ曲線

E=Ea,b:y2=x(x−ap)(x+bp)E = E_{a,b} : \quad y^2 = x(x - a^p)(x + b^p)

を考えます。abc≠0abc \ne 0 なので三つの根 0,ap,−bp0, a^p, -b^p は相異なり、命題 9.2 より Δ≠0\Delta \ne 0、すなわち EE は確かに楕円曲線です。

第 1 段(半安定性)。 命題 9.5 より EE は半安定で、Δmin⁡=(abc)2p/28\Delta_{\min} = (abc)^{2p}/2^8、N=∏ℓ∣abcℓN = \prod_{\ell \mid abc} \ell です。

第 2 段(既約性)。 メイザーの有理同種定理(定理 10.2)により、フライ曲線のように半安定で、かつ 22 等分点がすべて有理点である曲線と素数 p≥5p \ge 5 に対し、ρˉE,p\bar\rho_{E,p} は既約です(半安定性だけでは足りません。たとえば導手 1111 の楕円曲線は有理 55 同種を持ち、ρˉE,5\bar\rho_{E,5} は可約です)。フライ曲線は y2=x(x−ap)(x+bp)y^2 = x(x-a^p)(x+b^p) という形から E[2]E[2] が有理点のみからなるので、この条件を満たします。p≥5p \ge 5 という仮定がここで効きます。

第 3 段(モジュラー性)。 第 1 段と 定理 10.6 より EE はモジュラーです。つまり ρˉE,p\bar\rho_{E,p} はレベル NN の重さ 22 の新形式から来ます。

第 4 段(レベル下げ)。 第 1〜3 段の仮定がそろったので 定理 10.4 を適用できます。§9\S 9 末尾の計算により、abcabc の奇素因子 ℓ\ell では vℓ(Δmin⁡)=2p vℓ(abc)v_\ell(\Delta_{\min}) = 2p\,v_\ell(abc) が pp で割れ、ℓ=2\ell = 2 では v2(Δmin⁡)=2p v2(b)−8≡−8(modp)v_2(\Delta_{\min}) = 2p\,v_2(b) - 8 \equiv -8 \pmod p が p≥5p \ge 5 より pp で割れません。よって

N(ρˉE,p)=2.N(\bar\rho_{E,p}) = 2 .

定理 10.4 は、重さ 22、レベル Γ0(2)\Gamma_0(2) の新形式 gg で ρˉg,p≅ρˉE,p\bar\rho_{g,p} \cong \bar\rho_{E,p} となるものの存在を主張します。

第 5 段(矛盾)。 新形式は S2(Γ0(2))S_2(\Gamma_0(2)) の 00 でない元ですが(定義 5.9、qq 展開の最初の係数が 11)、補題 10.8 により S2(Γ0(2))=0S_2(\Gamma_0(2)) = 0 なので、そのような gg は存在しません。矛盾です。

したがって p≥5p \ge 5 に対する解は存在せず、フェルマーの最終定理が従います。

証明の論理構造。上から下へ矛盾に至ります。

11. ワイルズの証明の骨格:R=TR = T

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定理 10.6 の証明そのものは 100 ページを超える大論文ですが、戦略は一文で言えます。ガロア表現の変形環 RR とヘッケ環 TT が同型であることを示す、というものです。

変形環 RR。 固定した剰余表現 ρˉ:GQ→GL2(Fp)\bar\rho : G_{\mathbb{Q}} \to \mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_p) に対し、還元すると ρˉ\bar\rho になる pp 進表現 ρ:GQ→GL2(O)\rho : G_{\mathbb{Q}} \to \mathrm{GL}_2(\mathcal{O}) のうち、指定した分岐条件(どの素数でどう分岐してよいか)を満たすものを考えます。メイザーの変形理論により、そのようなもの全体を普遍的に表す環 RR(普遍変形環)が存在します。RR は「ρˉ\bar\rho を持ち上げるガロア表現の全体」を代数的に束ねた対象です。

ヘッケ環 TT。 一方、対応するレベルと重さのモジュラー形式の空間に作用するヘッケ作用素が生成する環 TT を取ります。TT は「ρˉ\bar\rho を持ち上げるモジュラーな表現の全体」を束ねます。

すべてのモジュラー表現はガロア表現なので、自然な全射 R↠TR \twoheadrightarrow T があります。「すべてのガロア表現がモジュラーである」とは、この射が同型だということです。これが R=TR = T です。

出発点。 R=TR = T を示すには、そもそも ρˉ\bar\rho 自身がモジュラーでなければ話が始まりません。ワイルズは p=3p = 3 から出発します。GL2(F3)\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3) は GL2(Z[−2])\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]) の部分群として実現でき、可解群としての性質からラングランズ・タネルの定理(可解な場合の基底変換)が適用でき、ρˉE,3\bar\rho_{E,3} がモジュラーだと分かります。

3-5 トリック。 ρˉE,3\bar\rho_{E,3} が可約な場合はこの出発点が使えません。ワイルズは補助的な楕円曲線 E′E' を作り、ρˉE′,5≅ρˉE,5\bar\rho_{E',5} \cong \bar\rho_{E,5} かつ ρˉE′,3\bar\rho_{E',3} が既約となるようにします。すると E′E' のモジュラー性が 33 経由で示せ、それが 55 経由で EE に伝わります。

最後の障害。 1993 年 6 月のケンブリッジの講演で発表された証明には、R=TR = T を示すためのオイラー系の議論に欠陥がありました。ワイルズは 1 年以上をかけて、リチャード・テイラーとともに、オイラー系に頼らず、ヘッケ環が完全交叉環であることを数値的な判定条件で示す議論に置き換え(テイラー・ワイルズ系によるパッチングはこの議論の部品として使われます)、1994 年 9 月に完成させます。二篇の論文は 1995 年の Annals of Mathematics 141 巻に並んで掲載されました。

注意 11.1

ワイルズの方法が扱えたのは半安定な場合、すなわち p=3p = 3 での分岐が穏やかな場合でした。加法的還元を持つ曲線を含む一般の場合は、コンラッド・ダイアモンド・テイラーらの改良を経て、ブルイユ・コンラッド・ダイアモンド・テイラー(2001)が「野性的な 3 進的計算」により完成させました。これにより 定理 6.2 が定理になりました。

12.1. 足し算は掛け算の構造を壊す

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フライ曲線の要点は「判別式に素因数が高い重複度で集中している」ことでした。これを楕円曲線を経由せず、整数の足し算の言葉で定量化したのが ABC 予想です。

整数論の出発点は素因数分解の一意性(算術の基本定理(定理 4.2)[素数の魅力と素数定理])です。これは掛け算についての定理であって、足し算については何も言いません。実際、aa と bb の素因数分解を完全に知っていても、a+ba+b の素因数分解については、ほとんど何も分かりません。

たとえば 35=2433^5 = 243 と 114=1464111^4 = 14641 は、33 と 1111 という小さな素数の高い冪です。ところが和は

35+114=243+14641=14884=22⋅6123^5 + 11^4 = 243 + 14641 = 14884 = 2^2 \cdot 61^2

となり、突然 6161 という新しい素数が現れます。逆にこの例は「小さな素数の高い冪を足したら、和も高い冪(平方数 1222122^2)になった」珍しい例でもあります。

この「珍しさ」を測れないでしょうか。素朴な直観はこうです。aa と bb がともに高い冪を含む数だとすると、a+ba+b もまた高い冪を含む、ということは滅多に起こらないはずだ。なぜなら、和を取る操作は素因数分解の構造を完全に破壊するので、和がふたたび「構造のある数」になるのは偶然に頼るしかないからです。ABC 予想は、この直観を根基というたった一つの量で定量化したものです。

歴史的には、ABC 予想は 1985 年に J. Oesterlé と D. Masser によって定式化されました。Oesterlé は楕円曲線の判別式と導手を比較する Szpiro 予想を研究する中でこの形の不等式に到達し(§13.3\S 13.3)、Masser はそれを ε\varepsilon を含む一般の形に整えました。背景には、§15\S 15 で証明する多項式の世界での定理があります。

定義 12.1(根基)↗

正整数 nn に対し、nn を割り切る素数全体の積

rad⁡(n)=∏p∣n, p:素数p\operatorname{rad}(n) = \prod_{p \mid n,\ p:\text{素数}} p

を nn の根基(radical)と呼びます。空積の約束により rad⁡(1)=1\operatorname{rad}(1) = 1 とします。

素因数分解 n=p1e1⋯pkekn = p_1^{e_1} \cdots p_k^{e_k}(pip_i は相異なる素数、ei≥1e_i \ge 1)に対して rad⁡(n)=p1p2⋯pk\operatorname{rad}(n) = p_1 p_2 \cdots p_k です。指数 eie_i の情報は完全に捨てられます。したがって nn が「高い冪をたくさん含む」ほど rad⁡(n)\operatorname{rad}(n) は nn に比べて小さくなります。これが根基を使う理由です。

例 12.2(根基の計算)

72=23⋅3272 = 2^3 \cdot 3^2 なので rad⁡(72)=2⋅3=6\operatorname{rad}(72) = 2 \cdot 3 = 6 です。72/rad⁡(72)=1272/\operatorname{rad}(72) = 12 で、7272 は根基よりずっと大きい数です。

1000=23⋅531000 = 2^3 \cdot 5^3 なので rad⁡(1000)=10\operatorname{rad}(1000) = 10、221⋅232^{21} \cdot 23 の根基は 2⋅23=462 \cdot 23 = 46 です。一方 30=2⋅3⋅530 = 2 \cdot 3 \cdot 5 は平方因子を持たないので rad⁡(30)=30\operatorname{rad}(30) = 30 となり、根基は元の数に一致します。

命題 12.3(根基の基本性質)✓

m,nm, n を正整数とします。次が成り立ちます。

  1. rad⁡(n)∣n\operatorname{rad}(n) \mid n、特に rad⁡(n)≤n\operatorname{rad}(n) \le n。等号が成り立つのは nn が平方因子を持たないとき、かつそのときに限る。
  2. 任意の正整数 k≥1k \ge 1 に対し rad⁡(nk)=rad⁡(n)\operatorname{rad}(n^k) = \operatorname{rad}(n)。
  3. rad⁡(mn)≤rad⁡(m)rad⁡(n)\operatorname{rad}(mn) \le \operatorname{rad}(m)\operatorname{rad}(n)。特に gcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n) = 1 ならば等号 rad⁡(mn)=rad⁡(m)rad⁡(n)\operatorname{rad}(mn) = \operatorname{rad}(m)\operatorname{rad}(n) が成り立つ。
  4. p2∣np^2 \mid n となる素数 pp が存在すれば rad⁡(n)≤n/p\operatorname{rad}(n) \le n/p。
証明(命題 12.3)

n=p1e1⋯pkekn = p_1^{e_1}\cdots p_k^{e_k} と分解します。

(1) 各 ii で ei≥1e_i \ge 1 ですから p1⋯pk∣p1e1⋯pkekp_1 \cdots p_k \mid p_1^{e_1}\cdots p_k^{e_k}、つまり rad⁡(n)∣n\operatorname{rad}(n) \mid n です。商は n/rad⁡(n)=p1e1−1⋯pkek−1n/\operatorname{rad}(n) = p_1^{e_1-1}\cdots p_k^{e_k-1} で、これが 11 になるのは全ての ei=1e_i = 1 のとき、すなわち nn が平方因子を持たないときに限ります。

(2) nk=p1ke1⋯pkkekn^k = p_1^{ke_1}\cdots p_k^{ke_k} で、素因数の集合は nn のそれと同じ(kei≥1ke_i \ge 1)ですから、根基は変わりません。

(3) mnmn の素因数は mm の素因数か nn の素因数のいずれかですから、rad⁡(mn)\operatorname{rad}(mn) は rad⁡(m)rad⁡(n)\operatorname{rad}(m)\operatorname{rad}(n) を割り切ります。よって不等式が従います。gcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1 なら mm と nn に共通の素因数が無く、rad⁡(m)\operatorname{rad}(m) と rad⁡(n)\operatorname{rad}(n) の積に重複が生じないので等号です。

(4) p2∣np^2 \mid n なら、上の (1) の計算で pp の指数が 22 以上、すなわち p∣n/rad⁡(n)p \mid n/\operatorname{rad}(n) です。よって n/rad⁡(n)≥pn/\operatorname{rad}(n) \ge p、つまり rad⁡(n)≤n/p\operatorname{rad}(n) \le n/p となります。

性質 (2) が重要です。nn をどれだけ高い冪に上げても根基は増えません。だから「cc が rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) より大きい」という現象は、a,b,ca,b,c のどこかに高い冪が潜んでいることの証拠になります。フライ曲線の導手が rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) だったこと(命題 9.5)も思い出してください。

定義 12.4(ABC三つ組)↗

正整数の三つ組 (a,b,c)(a,b,c) が

a+b=c,gcd⁡(a,b)=1a + b = c, \qquad \gcd(a,b) = 1

を満たすとき、(a,b,c)(a,b,c) を ABC 三つ組と呼びます。

補題 12.5(互いに素性は自動的に伝播する)✓

(a,b,c)(a,b,c) が ABC 三つ組ならば、gcd⁡(a,c)=gcd⁡(b,c)=1\gcd(a,c) = \gcd(b,c) = 1、すなわち a,b,ca,b,c は対ごとに互いに素です。

証明(補題 12.5)

素数 pp が aa と cc をともに割り切るとします。b=c−ab = c - a ですから p∣bp \mid b となり、pp は aa と bb の公約数です。これは gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1 に矛盾します。よって gcd⁡(a,c)=1\gcd(a,c)=1。gcd⁡(b,c)=1\gcd(b,c)=1 も a=c−ba = c-b を使って同様です。

この補題により、命題 12.3 の (3) が使えて rad⁡(abc)=rad⁡(a)rad⁡(b)rad⁡(c)\operatorname{rad}(abc) = \operatorname{rad}(a)\operatorname{rad}(b)\operatorname{rad}(c) が成り立ちます。以後、断りなくこの分解を使います。

例 12.6(もっとも有名な三つ組 1 + 8 = 9)

(a,b,c)=(1,8,9)(a,b,c) = (1,8,9) は gcd⁡(1,8)=1\gcd(1,8)=1 より ABC 三つ組です。abc=72=23⋅32abc = 72 = 2^3\cdot 3^2 ですから 例 12.2 より rad⁡(abc)=6\operatorname{rad}(abc) = 6 で、

c=9>6=rad⁡(abc)c = 9 > 6 = \operatorname{rad}(abc)

となります。8=238 = 2^3 と 9=329 = 3^2 がともに高い冪であるために根基が小さく潰れ、cc が根基を追い越しました。連続する冪 8,98, 9 の存在(カタラン予想、現在は Mihăilescu の定理)が、そのままこの現象の源になっています。

例 12.7(質の高い小さな例)

2400=25⋅3⋅522400 = 2^5 \cdot 3 \cdot 5^2 と 11 を足すと 2401=742401 = 7^4 です。(1,2400,2401)(1, 2400, 2401) は ABC 三つ組で、

rad⁡(1⋅2400⋅2401)=2⋅3⋅5⋅7=210.\operatorname{rad}(1 \cdot 2400 \cdot 2401) = 2 \cdot 3 \cdot 5 \cdot 7 = 210 .

c=2401c = 2401 は rad⁡(abc)=210\operatorname{rad}(abc) = 210 の 1111 倍以上です。より精密には 2101.45≈2329<2401<2457≈2101.46210^{1.45} \approx 2329 < 2401 < 2457 \approx 210^{1.46} ですから、c>rad⁡(abc)1.45c > \operatorname{rad}(abc)^{1.45} が成り立っています。このような三つ組は非常に稀です。

例 12.6 と 例 12.7 は「c≤rad⁡(abc)c \le \operatorname{rad}(abc)」が偽であることを示しています。しかしそれだけなら例外が有限個かもしれません。実際には無限にあります。

命題 12.8(指数 1 では成り立たない)✓

cc がいくらでも大きくなるような ABC 三つ組の無限列 (an,bn,cn)(a_n,b_n,c_n) で、すべての nn に対して

rad⁡(anbncn)<23 cn\operatorname{rad}(a_nb_nc_n) < \frac{2}{3}\,c_n

を満たすものが存在します。特に c>rad⁡(abc)c > \operatorname{rad}(abc) を満たす ABC 三つ組は無限に存在し、「任意の ABC 三つ組で c≤rad⁡(abc)c \le \operatorname{rad}(abc)」という主張は偽です。

証明(命題 12.8)

n≥1n \ge 1 に対して

a=1,b=26n−1,c=26na = 1, \qquad b = 2^{6n} - 1, \qquad c = 2^{6n}

とおきます。gcd⁡(1,b)=1\gcd(1, b) = 1 ですから (a,b,c)(a,b,c) は ABC 三つ組です。

まず 9∣b9 \mid b を示します。26=64=7⋅9+12^6 = 64 = 7 \cdot 9 + 1 なので 26≡1(mod9)2^6 \equiv 1 \pmod 9、したがって 合同式の四則(命題 3.3)[合同式とフェルマーの小定理] より 26n=(26)n≡1(mod9)2^{6n} = (2^6)^n \equiv 1 \pmod 9、つまり 9∣26n−1=b9 \mid 2^{6n}-1 = b です。すると 32∣b3^2 \mid b ですから 命題 12.3 の (4) を素数 p=3p=3 に適用して

rad⁡(b)≤b3\operatorname{rad}(b) \le \frac{b}{3}

を得ます。次に bb は奇数、c=26nc = 2^{6n} の根基は 22 ですから、命題 12.3 の (3) と a=1a=1 より

rad⁡(abc)=rad⁡(b)⋅rad⁡(c)=2rad⁡(b)≤2b3<2c3<c.\operatorname{rad}(abc) = \operatorname{rad}(b)\cdot \operatorname{rad}(c) = 2\operatorname{rad}(b) \le \frac{2b}{3} < \frac{2c}{3} < c .

よってすべての nn で rad⁡(abc)<23c\operatorname{rad}(abc) < \tfrac23 c、特に c>rad⁡(abc)c > \operatorname{rad}(abc) が成り立ちます。c=26nc = 2^{6n} は nn とともにいくらでも大きくなるので、これらは相異なる三つ組の無限列を与えます。

なお、n=1n=1 の場合を書き下すと 1+63=641 + 63 = 64、rad⁡(1⋅63⋅64)=3⋅7⋅2=42<23⋅64=42.67\operatorname{rad}(1\cdot 63\cdot 64) = 3\cdot7\cdot2 = 42 < \tfrac23\cdot 64 = 42.67 となり、確かに主張どおりです。

注意 12.9

命題 12.8 は、c≤rad⁡(abc)c \le \operatorname{rad}(abc) という「多項式版の直訳」(§15\S 15)が整数では破れること、しかも例外が無限にあることを示しています。したがって ε\varepsilon を落とした形は反証されており、予想の述べ方として ε\varepsilon は省略できません。一方、破れ方は穏やかだと期待されています。ある三つ組の族が定数 λ≥1\lambda \ge 1 とともに rad⁡(abc)≥c/λ\operatorname{rad}(abc) \ge c/\lambda を満たすなら、cc を rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) の冪で表したときの指数は log⁡c/(log⁡c−log⁡λ)\log c/(\log c - \log\lambda) 以下となり、c→∞c \to \infty で 11 に収束します。指数を 11 から一定量だけ引き離すには、根基を cc の定数倍ではなく cc の小さい冪まで潰す必要があり、それには a,b,ca,b,c に高い冪が集中していなければなりません。ABC 予想は「そのような集中は無限には続かない」と主張しているのです。

公理 13.1(ABC予想(Masser–Oesterlé, 1985))↗

任意の実数 ε>0\varepsilon > 0 に対して、

c>rad⁡(abc)1+εc > \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}

を満たす ABC 三つ組 (a,b,c)(a,b,c) は高々有限個しか存在しない。

注意 13.2

これは未証明の予想です。本記事では以下、ABC 予想を「仮定して使う主張」(作業仮説)として扱うので、公理の環境に置いてあります。定理として証明されたわけではありません。証明の現状は §16\S 16 で述べます。

実際に使うときは、有限性ではなく明示的な不等式の形が便利です。両者は同値です。

命題 13.3(ABC予想の同値な言い換え)✓

次の 2 条件は同値です。

(i) 任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し、c>rad⁡(abc)1+εc > \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon} を満たす ABC 三つ組は有限個である。

(ii) 任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し、定数 Kε≥1K_\varepsilon \ge 1 が存在して、すべての ABC 三つ組 (a,b,c)(a,b,c) に対し

c<Kε⋅rad⁡(abc)1+εc < K_\varepsilon \cdot \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}

が成り立つ。

証明(命題 13.3)

(i) ⇒\Rightarrow (ii)。 ε>0\varepsilon > 0 を固定します。(i) より、c>rad⁡(abc)1+εc > \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon} を満たす三つ組の集合 SεS_\varepsilon は有限です。そこで

Kε=2+max⁡(a,b,c)∈Sεcrad⁡(abc)1+εK_\varepsilon = 2 + \max_{(a,b,c)\in S_\varepsilon} \frac{c}{\operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}}

とおきます(Sε=∅S_\varepsilon = \varnothing のときは最大値を 00 と読み、Kε=2K_\varepsilon = 2 とします)。SεS_\varepsilon が有限なので最大値は存在し、Kε≥2≥1K_\varepsilon \ge 2 \ge 1 です。任意の三つ組 (a,b,c)(a,b,c) について、(a,b,c)∈Sε(a,b,c) \in S_\varepsilon なら定義より c≤(Kε−2)rad⁡(abc)1+ε<Kεrad⁡(abc)1+εc \le (K_\varepsilon - 2)\operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon} < K_\varepsilon \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}、(a,b,c)∉Sε(a,b,c)\notin S_\varepsilon なら c≤rad⁡(abc)1+ε<Kεrad⁡(abc)1+εc \le \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon} < K_\varepsilon\operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon} です。いずれの場合も (ii) の不等式が成り立ちます。

(ii) ⇒\Rightarrow (i)。 ε>0\varepsilon > 0 を固定し、R=rad⁡(abc)R = \operatorname{rad}(abc) と略記します。c>R1+εc > R^{1+\varepsilon} を満たす三つ組を任意に取ります。(ii) を ε/2\varepsilon/2 に対して適用すると、定数 K=Kε/2K = K_{\varepsilon/2} があって c<KR1+ε/2c < K R^{1+\varepsilon/2} です。二つを合わせると

R1+ε<c<KR1+ε/2⟹Rε/2<K⟹R<K2/ε.R^{1+\varepsilon} < c < K R^{1+\varepsilon/2} \quad\Longrightarrow\quad R^{\varepsilon/2} < K \quad\Longrightarrow\quad R < K^{2/\varepsilon}.

したがって RR は ε\varepsilon だけで決まる定数で上から抑えられ、ふたたび c<KR1+ε/2<K⋅K(2/ε)(1+ε/2)c < K R^{1+\varepsilon/2} < K\cdot K^{(2/\varepsilon)(1+\varepsilon/2)} より cc も抑えられます。cc の上界を BB とすると、a+b=c≤Ba + b = c \le B を満たす正整数の組 (a,b)(a,b) は高々 B2B^2 個しかありませんから、例外的な三つ組は有限個です。

例外の「ひどさ」を測る標準的な指標を導入します。

定義 13.4(ABC三つ組の質)↗

ABC 三つ組 (a,b,c)(a,b,c) で c≥2c \ge 2 となるものに対し、

q(a,b,c)=log⁡clog⁡rad⁡(abc)q(a,b,c) = \frac{\log c}{\log \operatorname{rad}(abc)}

を三つ組の質(quality)と呼びます。

定義から c=rad⁡(abc)qc = \operatorname{rad}(abc)^{q} ですから、q>1+εq > 1+\varepsilon であることと c>rad⁡(abc)1+εc > \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon} であることは同値です。よって ABC 予想は「任意の ε>0\varepsilon>0 に対し q>1+εq > 1+\varepsilon となる三つ組は有限個」と言い換えられます。

注意 13.5

命題 12.8 より q>1q > 1 となる三つ組は無限にありますから、cc に関する上極限は lim sup⁡q≥1\limsup q \ge 1 です。一方 ABC 予想が正しければ、各 ε>0\varepsilon>0 について q>1+εq > 1+\varepsilon となる三つ組が有限個しかないので lim sup⁡q≤1+ε\limsup q \le 1+\varepsilon、ε↓0\varepsilon \downarrow 0 として lim sup⁡q≤1\limsup q \le 1 です。したがって ABC 予想は

lim sup⁡c→∞q(a,b,c)=1\limsup_{c \to \infty} q(a,b,c) = 1

と同値です(逆向きは、もし q>1+εq > 1+\varepsilon の三つ組が無限個あれば、その列に沿って上極限が 1+ε1+\varepsilon 以上になることから従います)。「質は 11 にいくらでも近づくが、11 を一定量超えることは有限回しかできない」というのが予想の直観的な内容です。

現在知られている質の高い三つ組を挙げます。第 1 位は E. Reyssat、第 2 位・第 5 位は B. de Weger、第 3 位・第 4 位は J. Browkin と J. Brzeziński による発見です。

順位aabbccrad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc)qq
122310⋅1093^{10}\cdot 10923523^515042150421.62991.6299
211211^232⋅56⋅733^2\cdot 5^6\cdot 7^3221⋅232^{21}\cdot 2353130531301.62601.6260
319⋅130719\cdot 13077⋅292⋅3187\cdot 29^2\cdot 31^828⋅322⋅542^8\cdot 3^{22}\cdot 5^4468822207046882220701.62351.6235
4283283511⋅1325^{11}\cdot 13^228⋅38⋅1732^8\cdot 3^8\cdot 17^3187629018762901.58081.5808
5112⋅372\cdot 3^754⋅75^4\cdot 72102101.56791.5679

第 1 位を確かめておきます。310=590493^{10} = 59049、59049⋅109=643634159049 \cdot 109 = 6436341、235=643634323^5 = 6436343 で、確かに 2+6436341=64363432 + 6436341 = 6436343 です。根基は 2⋅3⋅109⋅23=150422\cdot 3\cdot 109\cdot 23 = 15042、質は log⁡6436343/log⁡15042=15.6776/9.6186=1.6299\log 6436343/\log 15042 = 15.6776/9.6186 = 1.6299 です。第 5 位は 1+4374=43751 + 4374 = 4375、rad⁡=2⋅3⋅5⋅7=210\operatorname{rad} = 2\cdot3\cdot5\cdot7 = 210、log⁡4375/log⁡210=8.3838/5.3471=1.5679\log 4375/\log 210 = 8.3838/5.3471 = 1.5679 です。

1.01.11.21.31.41.51.61.7質 q = log c / log rad(abc)1 + 8 = 9(q ≈ 1.226)1 + 2400 = 2401(q ≈ 1.456)1 + 4374 = 4375(q ≈ 1.568)記録 q ≈ 1.630
既知の ABC 三つ組の質。右へ行くほど「例外的」。

分散計算プロジェクト ABC@Home などにより、cc が 101810^{18} 程度までの三つ組は網羅的に調べられていますが、質が 1.61.6 を超えるものは上の 3 組しか見つかっていません。ABC 予想が正しければ、qq の値は 11 に集積し、1.61.6 以上の三つ組は全部で有限個のはずです。逆に、qq がいくらでも大きくなる三つ組の族を 1 つでも構成できれば、予想は反証されます。

Oesterlé がこの不等式に到達したのは楕円曲線を経由してでした。その道筋をたどっておきます。ABC 三つ組 (a,b,c)(a,b,c) に対して、Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線

Ea,b:y2=x(x−a)(x+b)E_{a,b} : \quad y^2 = x(x-a)(x+b)

を対応させます。これはフェルマーの最終定理の証明で本質的な役割を果たしたフライ曲線(定義 9.1)と同じ形で、a,ba, b が pp 乗数であるという条件を外したものです。

判別式と導手。 命題 9.2 で A=aA = a, B=bB = b とおけば

Δ=16 (abc)2\Delta = 16\,(abc)^2

です。これは上の式で与えたモデルに対する判別式であり、最小判別式はこれを 22 の冪で割ったものになりますが、以下の評価には影響しません。一方、Ea,bE_{a,b} の導手 NN は、悪い還元を起こす素数だけを(22 の寄与を別にすれば重複なしに)集めたものであり、注意 9.6 と同じ議論により NN は 22 の冪を除いて rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) に一致します。判別式は素因数の重複度を含み、導手は素因数の集合しか見ない、という対比は、cc と rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) の対比とまったく同じ構造です。

ABC から Szpiro へ。 L. Szpiro は、Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線の最小判別式 Δ\Delta と導手 NN について ∣Δ∣≤KεN6+ε\lvert \Delta \rvert \le K_\varepsilon N^{6+\varepsilon} を予想しました。ABC 予想を仮定すると、この形の曲線についてはこれが直ちに従います。実際、a<ca < c, b<cb < c より abc<c3abc < c^3 なので、命題 13.3 の (ii) を使って

∣Δ∣=16(abc)2<16 c6<16 (Kεrad⁡(abc)1+ε)6=16Kε6rad⁡(abc)6+6ε\lvert\Delta\rvert = 16(abc)^2 < 16\,c^6 < 16\,\bigl(K_\varepsilon \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}\bigr)^6 = 16 K_\varepsilon^{6}\operatorname{rad}(abc)^{6+6\varepsilon}

が得られます。rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) は NN と(22 の冪を除いて)等しいので、これは Szpiro の不等式にほかなりません。66 という指数がどこから来たのか、これで説明がつきます。判別式が差の平方の積で (abc)2(abc)^2 となり、abcabc が c3c^3 で抑えられるので、合わせて cc の 66 乗が現れるのです。

逆向きの含意。 逆に、判別式の代わりに c4,c6c_4, c_6 という標準的な不変量を用いた「修正 Szpiro 予想」max⁡(∣c4∣3,c62)≤KεN6+ε\max(\lvert c_4\rvert^3, c_6^2) \le K_\varepsilon N^{6+\varepsilon} は、ABC 予想と同値であることが知られています(Oesterlé、詳細は Granville–Tucker の解説を参照)。すなわち ABC 予想は、整数の足し算に関する主張であると同時に、楕円曲線の幾何に関する主張でもあります。§6\S 6 で見た「数論の異なる領域が同一の対象を別の言葉で語っている」という現象が、ここでも起きているのです。

フェルマーの最終定理の証明との対比も見ておきます。フライ曲線では判別式の奇素因子の重複度がすべて 2p2p の倍数でした(§9\S 9)。pp が大きいと ∣Δ∣=16(abc)2p\lvert \Delta \rvert = 16(abc)^{2p} は導手 rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) のおよそ 2p2p 乗以上の大きさになり、Szpiro の不等式の指数 6+ε6 + \varepsilon を大きく超えます。ABC 予想(あるいは Szpiro 予想)を仮定すればこれだけで矛盾が出ます。それを数行で実行するのが次節の 定理 14.1 です。

ABC 予想の魅力は、その帰結の広さにあります。仮定するだけで、独立に見えた多くのディオファントス問題が数行で片付きます。

ABC予想から従う主な結果

14.1. 漸近的フェルマーの最終定理

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定理 14.1(ABC予想から従う漸近的フェルマー)✓

公理 13.1 を仮定します。このとき定数 NN が存在して、n≥Nn \ge N なるすべての整数 nn に対し、方程式

xn+yn=znx^n + y^n = z^n

は正整数解 (x,y,z)(x,y,z) を持ちません。

証明(定理 14.1)

n≥5n \ge 5 とし、xn+yn=znx^n + y^n = z^n が正整数解を持つとします。d=gcd⁡(x,y)d = \gcd(x,y) とおくと dn∣xn+yn=znd^n \mid x^n + y^n = z^n であり、素因数を比較すれば d∣zd \mid z が従うので、x,y,zx,y,z を dd で割ることにより gcd⁡(x,y)=1\gcd(x,y)=1 と仮定してよいです。

a=xna = x^n, b=ynb = y^n, c=znc = z^n とおきます。gcd⁡(x,y)=1\gcd(x,y)=1 より gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1 で、a+b=ca+b=c ですから (a,b,c)(a,b,c) は ABC 三つ組です(定義 12.4)。命題 12.3 の (2) と (3)、および 補題 12.5 より

rad⁡(abc)=rad⁡(xnynzn)=rad⁡(xyz)≤xyz.\operatorname{rad}(abc) = \operatorname{rad}(x^n y^n z^n) = \operatorname{rad}(xyz) \le xyz .

さらに xn=zn−yn<znx^n = z^n - y^n < z^n から x<zx < z、同様に y<zy < z なので xyz<z3xyz < z^3、すなわち rad⁡(abc)<z3\operatorname{rad}(abc) < z^3 です。

命題 13.3 の (ii) を ε=1/3\varepsilon = 1/3 に対して適用すると、定数 K=K1/3≥1K = K_{1/3} \ge 1 があって

zn=c<Krad⁡(abc)4/3<K(z3)4/3=Kz4.z^n = c < K \operatorname{rad}(abc)^{4/3} < K (z^3)^{4/3} = K z^4 .

したがって zn−4<Kz^{n-4} < K です。n≥5n \ge 5 なら n−4≥1n - 4 \ge 1 かつ z≥2z \ge 2(z>x≥1z > x \ge 1 より)ですから

2n−4≤zn−4<K⟹n<4+log⁡2K.2^{n-4} \le z^{n-4} < K \quad\Longrightarrow\quad n < 4 + \log_2 K .

そこで N=max⁡(5, 4+log⁡2K)N = \max(5,\ 4 + \log_2 K) とおけば、n≥Nn \ge N に対して解は存在しません。

注意 14.2

この証明が与えるのは「十分大きい nn では解が無い」ことだけで、NN の値は K1/3K_{1/3} が明示されない限り計算できません。フェルマーの最終定理そのものは、ワイルズにより(テイラーとの共著の補完を経て)すべての n≥3n \ge 3 について証明済みです(系 10.10)。証明の道具立てはまったく異なり、半安定楕円曲線のモジュラー性(定理 10.6、定理 6.2)を経由します。§7\S 7〜§11\S 11 の長い論証と比べると、ABC 予想を認めるだけで十数行の計算から「十分大きい指数では解が無い」という結論が出てしまう点が際立ちます。ABC 予想がいかに強い主張かが分かります。

14.2. フェルマー・カタラン方程式

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フェルマー方程式の指数を 3 つとも別々にした一般化を考えます。

定理 14.3(ABC予想から従うフェルマー・カタラン方程式の有限性)✓

公理 13.1 を仮定します。x,y,zx,y,z を正整数、p,q,rp,q,r を 22 以上の整数とし、

xp+yq=zr,gcd⁡(x,y)=1,1p+1q+1r<1x^p + y^q = z^r, \qquad \gcd(x,y) = 1, \qquad \frac{1}{p}+\frac{1}{q}+\frac{1}{r} < 1

を満たすものを考えます。このとき、値の三つ組 (xp, yq, zr)(x^p,\, y^q,\, z^r) として数えると、そのようなものは全体で有限個しか存在しません。

証明(定理 14.3)

a=xpa = x^p, b=yqb = y^q, c=zrc = z^r とおくと、gcd⁡(x,y)=1\gcd(x,y)=1 より gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1 で a+b=ca+b=c ですから、(a,b,c)(a,b,c) は ABC 三つ組です。θ=1/p+1/q+1/r\theta = 1/p+1/q+1/r と書きます。

第 1 段:θ≤41/42\theta \le 41/42。 p,q,r≥2p,q,r \ge 2 を大きさの順に並べ替えて p′≤q′≤r′p' \le q' \le r' とします(θ\theta は入れ替えで不変です)。p′≥4p' \ge 4 なら θ≤3/4\theta \le 3/4。p′=3p'=3 のとき、q′=3q'=3 なら 1/r′<1−2/3=1/31/r' < 1-2/3 = 1/3 より r′≥4r' \ge 4 で θ≤2/3+1/4=11/12\theta \le 2/3+1/4 = 11/12、q′≥4q'\ge 4 なら θ≤1/3+1/4+1/4=5/6\theta \le 1/3+1/4+1/4 = 5/6。p′=2p'=2 のとき、q′=2q'=2 だと θ≥1\theta \ge 1 となり仮定に反するので q′≥3q' \ge 3。q′=3q'=3 なら 1/r′<1−5/6=1/61/r' < 1 - 5/6 = 1/6 より r′≥7r' \ge 7 で θ≤1/2+1/3+1/7=41/42\theta \le 1/2+1/3+1/7 = 41/42、q′=4q'=4 なら 1/r′<1/41/r' < 1/4 より r′≥5r'\ge 5 で θ≤1/2+1/4+1/5=19/20\theta \le 1/2+1/4+1/5 = 19/20、q′≥5q'\ge 5 なら θ≤1/2+1/5+1/5=9/10\theta \le 1/2+1/5+1/5 = 9/10。以上のいずれの値も 41/4241/42 以下です。

第 2 段:根基の評価。 c=a+b>ac = a+b > a かつ c>bc > b ですから xp<cx^p < c, yq<cy^q < c, zr=cz^r = c、したがって

x<c1/p,y<c1/q,z=c1/r.x < c^{1/p}, \qquad y < c^{1/q}, \qquad z = c^{1/r} .

命題 12.3 より rad⁡(abc)=rad⁡(xpyqzr)=rad⁡(xyz)≤xyz<c1/p+1/q+1/r=cθ≤c41/42\operatorname{rad}(abc) = \operatorname{rad}(x^p y^q z^r) = \operatorname{rad}(xyz) \le xyz < c^{1/p+1/q+1/r} = c^{\theta} \le c^{41/42}。

第 3 段:ABC の適用。 命題 13.3 の (ii) を ε=1/42\varepsilon = 1/42 に対して用いると、定数 K=K1/42K = K_{1/42} があって

c<Krad⁡(abc)43/42<K(c41/42)43/42=K c1763/1764.c < K \operatorname{rad}(abc)^{43/42} < K \left(c^{41/42}\right)^{43/42} = K\, c^{1763/1764} .

1763/1764<11763/1764 < 1 なので c1/1764<Kc^{1/1764} < K、すなわち c<K1764c < K^{1764} です。この上界は p,q,rp,q,r にも x,y,zx,y,z にも依存しません。

c≤K1764=:Bc \le K^{1764} =: B が分かれば、a+b=ca+b=c を満たす正整数の組は高々 B2B^2 個ですから、値の三つ組 (a,b,c)=(xp,yq,zr)(a,b,c) = (x^p,y^q,z^r) は有限個です。

注意 14.4

定理の結論を「解 (x,y,z,p,q,r)(x,y,z,p,q,r) が有限個」とは書けません。たとえば 1p+23=321^p + 2^3 = 3^2 はすべての pp について成り立つので、指数の組としては無限個の解があります。しかし値の三つ組としては (1,8,9)(1,8,9) の 1 個です。x,y,zx,y,z がすべて 22 以上という条件を加えれば、2p≤xp≤c≤B2^p \le x^p \le c \le B から p≤log⁡2Bp \le \log_2 B となり、指数も有限個に抑えられます。

例 14.5(既知の解)

x,y,z≥2x,y,z \ge 2、1/p+1/q+1/r<11/p+1/q+1/r < 1 の条件下で知られている解は、次の 4 つを含めて 9 組だけです(この 4 つは直接計算で確かめられます)。

25+72=32+49=81=34,73+132=343+169=512=29,27+173=128+4913=5041=712,35+114=243+14641=14884=1222.\begin{aligned} 2^5 + 7^2 &= 32 + 49 = 81 = 3^4, \\ 7^3 + 13^2 &= 343 + 169 = 512 = 2^9, \\ 2^7 + 17^3 &= 128 + 4913 = 5041 = 71^2, \\ 3^5 + 11^4 &= 243 + 14641 = 14884 = 122^2 . \end{aligned}

残りの 5 組はいずれも cc が 10910^9 を超える大きな解です。これに x=1x = 1 を許した 1+23=321 + 2^3 = 3^2 を加えた 10 組が、現在知られている解のすべてです。フェルマー・カタラン予想とは「1/p+1/q+1/r<11/p+1/q+1/r<1 のもとで、値の三つ組として数えた解は有限個である」という主張であり、定理 14.3 はそれが ABC 予想から従うことを示しています(「既知の 10 組で全部」という、より強い期待も持たれていますが、こちらは ABC 予想からは出ません)。指数がすべて 22 以上でも 1/p+1/q+1/r≥11/p+1/q+1/r \ge 1 の場合(たとえば p=q=r=3p=q=r=3 以外の (2,2,r)(2,2,r), (2,3,3)(2,3,3) など)には無限個の解を持ちうるので、条件 θ<1\theta < 1 は本質的です。

ABC 予想からは、次のような結果も従います。証明のスタイルはどれも「与えられた方程式から ABC 三つ組を作り、根基を上から抑えて予想の不等式に代入する」というものです。

帰結内容出典・所在
漸近的フェルマー十分大きい nn で xn+yn=znx^n+y^n=z^n は解を持たない定理 14.1
フェルマー・カタラン1/p+1/q+1/r<11/p+1/q+1/r < 1 の冪の三つ組は有限個定理 14.3
カタラン型方程式xp−yq=1x^p - y^q = 1(p,q≥2p,q\ge 2)の解は有限個演習 17.9
Hall 予想(弱形)∣x3−y2∣≥κδ x1/2−δ\lvert x^3-y^2\rvert \ge \kappa_\delta\, x^{1/2-\delta}演習 17.11
Szpiro 予想楕円曲線の判別式が導手の 6+ε6+\varepsilon 乗で抑えられる§13.3\S 13.3
非 Wieferich 素数2p−1≢1(modp2)2^{p-1}\not\equiv 1 \pmod{p^2} なる素数 pp が無限に存在Silverman (1988)
連続する powerful 数3 つ連続する powerful 数は有限個しかないGranville–Tucker
Mordell 予想の有効化種数 ≥2\ge 2 の曲線の有理点の高さに明示的上界Elkies (1991)
Brocard の問題n!+1=m2n!+1 = m^2 の解は有限個Overholt (1993)

カタラン予想そのもの(88 と 99 以外に連続する完全冪は存在しない)は、2002 年に P. Mihăilescu が円分体の理論を用いて完全に証明しました。ABC 予想からは有限性しか出ませんが、それでも独立な証明として意味があります。

15. 多項式版:Mason–Stothers の定理

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ABC 予想が「もっともらしい」と信じられている最大の根拠は、多項式に対する完全な類似が定理として証明済みであることです。しかも証明は初等的です。多項式 a(t),b(t),c(t)a(t), b(t), c(t) に対して「a+b=ca+b=c で、a,b,ca,b,c が高い重複度の根ばかり持つ」ことがどれくらい起こるかは、1981 年の W. W. Stothers と 1984 年の R. C. Mason によって完全に解決されていました。

数体と関数体(多項式の世界)は多くの現象を共有します。翻訳の辞書は

deg⁡f ⟷ log⁡∣n∣,n0(f) ⟷ log⁡rad⁡(n)\deg f \ \longleftrightarrow\ \log |n|, \qquad n_0(f) \ \longleftrightarrow\ \log \operatorname{rad}(n)

です(n0(f)n_0(f) は下で定める相異なる根の個数で、多項式における根基の次数にあたります)。この辞書で下の 定理 15.1 を書き直すと log⁡c≤log⁡rad⁡(abc)\log c \le \log \operatorname{rad}(abc)、すなわち c≤rad⁡(abc)c \le \operatorname{rad}(abc) になります。命題 12.8 で見たように、この形は整数では偽です。しかし「ほんの少し」だけ緩めれば正しいだろう、というのが ABC 予想でした。

以下、KK を標数 00 の体(標数(定義 5.7)[環と体の基礎]。Q\mathbb{Q}, R\mathbb{R}, C\mathbb{C} など)とし、f∈K[t]f \in K[t] が 00 でないとき、代数閉包 K‾\overline{K} における ff の相異なる根の個数を n0(f)n_0(f) と書きます。n0n_0 は根基の次数、すなわち n0(f)=deg⁡(∏α(t−α))n_0(f) = \deg \bigl(\prod_{\alpha}(t-\alpha)\bigr)(積は相異なる根 α\alpha すべてにわたる)です。

定理 15.1(Mason–Stothers の定理)✓

KK を標数 00 の体、a,b,c∈K[t]a,b,c \in K[t] を 00 でない多項式とし、

a+b=c,gcd⁡(a,b)=1a + b = c, \qquad \gcd(a,b) = 1

が成り立ち、さらに a,b,ca,b,c の少なくとも 1 つは定数でない(すなわち 3 つとも定数ということはない)とします。このとき

max⁡(deg⁡a,deg⁡b,deg⁡c)≤n0(abc)−1\max(\deg a, \deg b, \deg c) \le n_0(abc) - 1

が成り立ちます。

証明(定理 15.1)

まず、gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1 と a+b=ca+b=c から、補題 12.5 と同じ議論で a,b,ca,b,c は対ごとに互いに素です(共通因子は差 c−a=bc-a=b などを割り切るため)。したがって n0(abc)=n0(a)+n0(b)+n0(c)n_0(abc) = n_0(a)+n_0(b)+n_0(c) です。

Wronskian の導入。 W=ab′−a′bW = ab' - a'b とおきます。b=c−ab = c-a、b′=c′−a′b' = c'-a' を代入すると

W=a(c′−a′)−a′(c−a)=ac′−a′cW = a(c'-a') - a'(c-a) = ac' - a'c

であり、a=c−ba = c-b、a′=c′−b′a' = c'-b' を代入すると

W=(c−b)b′−(c′−b′)b=cb′−c′bW = (c-b)b' - (c'-b')b = cb' - c'b

です。つまり WW は、3 つの多項式のうちどの 2 つから作っても同じものになります。

W≠0W \ne 0 の確認。 W=0W = 0 とすると ab′=a′bab' = a'b です。gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1 より a∣a′ba \mid a'b から a∣a′a \mid a' が従います。a′≠0a' \ne 0 なら deg⁡a′=deg⁡a−1<deg⁡a\deg a' = \deg a - 1 < \deg a となって a∣a′a \mid a' に反するので a′=0a' = 0、標数 00 ゆえ aa は定数です。同様に bb も定数となり、c=a+bc = a+b も定数です。これは「すべては定数でない」という仮定に反します。よって W≠0W \ne 0。

次数の上からの評価。 deg⁡(ab′)≤deg⁡a+deg⁡b−1\deg(ab') \le \deg a + \deg b - 1(bb が定数なら b′=0b'=0 で項が消えるので、いずれにせよ成立)、deg⁡(a′b)≤deg⁡a−1+deg⁡b\deg(a'b) \le \deg a - 1 + \deg b ですから

deg⁡W≤deg⁡a+deg⁡b−1.\deg W \le \deg a + \deg b - 1 .

同様に W=ac′−a′cW = ac'-a'c から deg⁡W≤deg⁡a+deg⁡c−1\deg W \le \deg a + \deg c - 1、W=cb′−c′bW = cb'-c'b から deg⁡W≤deg⁡b+deg⁡c−1\deg W \le \deg b + \deg c - 1 を得ます。

次数の下からの評価。 a=∏i(t−αi)eia = \prod_i (t-\alpha_i)^{e_i} と K‾\overline{K} 上で分解し、a0=∏i(t−αi)ei−1a_0 = \prod_i (t-\alpha_i)^{e_i-1} とおきます。deg⁡a0=deg⁡a−n0(a)\deg a_0 = \deg a - n_0(a) です。積の微分法により

a′=∑iei(t−αi)ei−1∏j≠i(t−αj)eja' = \sum_i e_i (t-\alpha_i)^{e_i-1}\prod_{j\ne i}(t-\alpha_j)^{e_j}

で、各項は ∏j(t−αj)ej−1=a0\prod_j (t-\alpha_j)^{e_j-1} = a_0 で割り切れます(j=ij = i の因子の指数は ei−1e_i-1、j≠ij\ne i では ej≥ej−1e_j \ge e_j-1)。よって a0∣aa_0 \mid a かつ a0∣a′a_0 \mid a' で、W=ab′−a′bW = ab'-a'b の両項が a0a_0 で割り切れるので a0∣Wa_0 \mid W。まったく同様に b0∣Wb_0 \mid W(W=ab′−a′bW = ab'-a'b を使う)、c0∣Wc_0 \mid W(W=ac′−a′cW = ac'-a'c を使う)が成り立ちます。a,b,ca,b,c が対ごとに互いに素なので a0,b0,c0a_0,b_0,c_0 も対ごとに互いに素、したがって積 a0b0c0a_0b_0c_0 が WW を割り切ります。W≠0W \ne 0 より

deg⁡W≥deg⁡a0+deg⁡b0+deg⁡c0=deg⁡a+deg⁡b+deg⁡c−n0(abc).\deg W \ge \deg a_0 + \deg b_0 + \deg c_0 = \deg a + \deg b + \deg c - n_0(abc) .

結論。 下からの評価と、上からの 3 つの評価を突き合わせます。deg⁡W≤deg⁡a+deg⁡b−1\deg W \le \deg a+\deg b-1 と合わせると

deg⁡a+deg⁡b+deg⁡c−n0(abc)≤deg⁡a+deg⁡b−1⟹deg⁡c≤n0(abc)−1.\deg a + \deg b + \deg c - n_0(abc) \le \deg a + \deg b - 1 \quad\Longrightarrow\quad \deg c \le n_0(abc) - 1 .

deg⁡W≤deg⁡a+deg⁡c−1\deg W \le \deg a + \deg c - 1 からは deg⁡b≤n0(abc)−1\deg b \le n_0(abc)-1、deg⁡W≤deg⁡b+deg⁡c−1\deg W \le \deg b+\deg c-1 からは deg⁡a≤n0(abc)−1\deg a \le n_0(abc)-1 が同じ計算で従います。3 つを合わせて主張を得ます。

系 15.2(多項式版フェルマーの最終定理)✓

KK を標数 00 の体、n≥3n \ge 3 とします。互いに素で少なくとも 1 つが定数でない a,b,c∈K[t]a,b,c \in K[t](いずれも 00 でない)に対して

an+bn=cna^n + b^n = c^n

は成り立ちません。

証明(系 15.2)

成り立つと仮定します。an,bn,cna^n, b^n, c^n に 定理 15.1 を適用します。gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1 なら gcd⁡(an,bn)=1\gcd(a^n,b^n)=1 であり、a,b,ca,b,c の少なくとも 1 つが定数でなければ an,bn,cna^n,b^n,c^n のすべてが定数ということはありません。また相異なる根の個数は冪を取っても変わらないので

n0(anbncn)=n0(abc)≤deg⁡a+deg⁡b+deg⁡cn_0(a^nb^nc^n) = n_0(abc) \le \deg a + \deg b + \deg c

です(相異なる根の個数は次数以下)。定理より

ndeg⁡a≤n0(abc)−1,ndeg⁡b≤n0(abc)−1,ndeg⁡c≤n0(abc)−1.n\deg a \le n_0(abc) - 1, \quad n\deg b \le n_0(abc)-1, \quad n \deg c \le n_0(abc)-1 .

3 式を辺々加え、S=deg⁡a+deg⁡b+deg⁡cS = \deg a+\deg b+\deg c とおくと

nS≤3 n0(abc)−3≤3S−3,nS \le 3\,n_0(abc) - 3 \le 3S - 3 ,

すなわち (n−3)S≤−3(n-3)S \le -3 です。S≥0S \ge 0 かつ n≥3n \ge 3 なら左辺は 00 以上なので矛盾します。

整数の場合の 系 10.10 が §7\S 7〜§11\S 11 の大掛かりな論証を要したのに対し、多項式版はこの数行で済みます。

例 15.3(定理の評価は最良である)

n≥1n \ge 1 とし、a=tna = t^n, b=1b = 1, c=tn+1c = t^n+1 とします(K=CK = \mathbb{C})。gcd⁡(tn,1)=1\gcd(t^n,1)=1、a+b=ca+b=c で、aa は定数ではありません。tn+1t^n+1 は C\mathbb{C} 上で相異なる nn 個の根 exp⁡(iπ(2k+1)/n)\exp(i\pi(2k+1)/n) を持つので

n0(abc)=n0(tn)+n0(1)+n0(tn+1)=1+0+n=n+1.n_0(abc) = n_0(t^n) + n_0(1) + n_0(t^n+1) = 1 + 0 + n = n+1 .

一方 max⁡(deg⁡a,deg⁡b,deg⁡c)=n=n0(abc)−1\max(\deg a,\deg b,\deg c) = n = n_0(abc)-1 で、定理 15.1 の不等式は等号で成立します。したがって「−1-1」を「−2-2」に改良することはできません。

注意 15.4(なぜ整数では難しいのか)

証明の要は Wronskian、すなわち微分でした。多項式 ff に対して ff と f′f' の最大公約数が重根の情報をすべて持っている、というのが a0∣Wa_0 \mid W の正体です。整数にはこれに相当する自然な微分がありません。nn の素因数分解から形式的に定義する「算術微分」はありますが、deg⁡\deg に相当する評価が成り立たず、上の証明は移植できません。この差が、多項式版が 1 ページで証明できるのに整数版が 40 年以上未解決である理由だと考えられています。ABC 予想における ε\varepsilon もまた、多項式版には無かった余裕であり、命題 12.8 が示すとおり整数では実際に必要です。原典は R. C. Mason, Diophantine Equations over Function Fields(Cambridge University Press, 1984)と W. W. Stothers, “Polynomial identities and hauptmoduln”, Quarterly Journal of Mathematics (Oxford) 32 (1981) です。

ABC 予想は現在も未解決です。無条件に知られている最良の評価は、C. L. Stewart と Kunrui Yu によるもの(Duke Mathematical Journal 108 (2001))で、ABC 三つ組に対して

log⁡c≤Kε⋅rad⁡(abc)1/3+ε\log c \le K_\varepsilon \cdot \operatorname{rad}(abc)^{1/3+\varepsilon}

の形をしています。ABC 予想が log⁡c≤(1+ε)log⁡rad⁡(abc)+O(1)\log c \le (1+\varepsilon)\log \operatorname{rad}(abc) + O(1) を主張しているのに対し、既知の評価では右辺が rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) の冪であり、隔たりは指数的です。この差を埋める見通しは、現在の解析的手法(Baker の対数一次形式の理論)の延長線上には見えていません。

2012 年、望月新一は宇宙際 Teichmüller 理論(IUT 理論)と呼ばれる枠組みを構築し、その帰結として ABC 予想(より正確には Szpiro 型の不等式)が従うと主張する一連の論文を公表しました。これらは 2021 年に京都大学数理解析研究所の学術誌 PRIMS に掲載されています。一方で 2018 年、P. Scholze と J. Stix は、証明の要となる系(Corollary 3.12)の議論に埋めがたい飛躍があるとする文書を公表し、望月による反論との間で見解の一致には至っていません。

数値的には、cc が 101810^{18} 程度までの全三つ組が計算され、質の分布は予想と整合的です。反例(質がいくらでも大きくなる族)は見つかっていません。ABC 予想は、状況証拠(多項式版の定理、数値実験、Szpiro 予想など他の予想との整合性)に強く支えられた、しかし証明の見えない予想であり続けています。

17.1. 楕円曲線とモジュラー形式

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演習 17.1易

E:y2=x3−2E : y^2 = x^3 - 2 上の点 P=(3,5)P = (3,5) と Q=(129/100,−383/1000)Q = (129/100, -383/1000)(例 3.4 で求めた 2P2P)に対し、P+Q=3PP + Q = 3P の xx 座標を求めなさい。

解答

x1=3x_1 = 3、y1=5y_1 = 5、x2=129/100x_2 = 129/100、y2=−383/1000y_2 = -383/1000 で x1≠x2x_1 \ne x_2 なので 命題 3.2 の (2) の第一の式を使います。

x2−x1=129100−3=−171100,y2−y1=−3831000−5=−53831000.x_2 - x_1 = \frac{129}{100} - 3 = -\frac{171}{100}, \qquad y_2 - y_1 = -\frac{383}{1000} - 5 = -\frac{5383}{1000}.

よって

λ=−5383/1000−171/100=53831000⋅100171=53831710.\lambda = \frac{-5383/1000}{-171/100} = \frac{5383}{1000}\cdot\frac{100}{171} = \frac{5383}{1710}.

5383=7⋅7695383 = 7 \cdot 769、1710=2⋅32⋅5⋅191710 = 2\cdot 3^2 \cdot 5 \cdot 19 で共通因子はないので既約です。したがって

x3=λ2−x1−x2=5383217102−3−129100=289766892924100−429100.x_3 = \lambda^2 - x_1 - x_2 = \frac{5383^2}{1710^2} - 3 - \frac{129}{100} = \frac{28976689}{2924100} - \frac{429}{100}.

2924100/100=292412924100 / 100 = 29241 なので

x3=28976689−429⋅292412924100=28976689−125443892924100=164323002924100.x_3 = \frac{28976689 - 429 \cdot 29241}{2924100} = \frac{28976689 - 12544389}{2924100} = \frac{16432300}{2924100}.

分子分母を 100100 で割ると 164323/29241164323/29241。29241=1712=(9⋅19)2=34⋅19229241 = 171^2 = (9\cdot19)^2 = 3^4 \cdot 19^2 で、164323164323 は 33 でも 1919 でも割り切れません(1+6+4+3+2+3=191+6+4+3+2+3 = 19 は 33 の倍数でない。164323=19⋅8648+11164323 = 19\cdot 8648 + 11)。よって

x(3P)=16432329241.x(3P) = \frac{164323}{29241}.

分母が 100→29241100 \to 29241 と急増しており、nPnP の座標の桁数が n2n^2 に比例して伸びていく様子の最初の部分が見えます。

演習 17.2標準

E:y2=x3+1E : y^2 = x^3 + 1 について #E(F7)\#E(\mathbb{F}_7) を求め、a7a_7 を計算して 定理 4.8 の評価を確かめなさい。また E(F7)E(\mathbb{F}_7) に位数 22 の元がいくつあるかを述べなさい。

解答

まず F7\mathbb{F}_7 の平方元を列挙します。02=00^2=0、12=11^2=1、22=42^2=4、32=23^2=2、42=24^2=2、52=45^2=4、62=16^2=1 なので平方元の集合は {0,1,2,4}\{0,1,2,4\} で、00 以外の平方元は 1,2,41, 2, 4(それぞれ 22 個の平方根をもつ)です。

各 xx について x3+1 mod 7x^3+1 \bmod 7 を計算します。

xx00112233445566
x3+1x^3+111222200220000

(33+1=28≡03^3+1 = 28 \equiv 0、53+1=126≡05^3+1 = 126 \equiv 0、63+1=217=7⋅31≡06^3+1 = 217 = 7\cdot31 \equiv 0、43+1=65≡24^3+1 = 65 \equiv 2。)

値が 11 または 22(00 でない平方元)の xx は x=0,1,2,4x = 0,1,2,4 の 44 個で、それぞれ yy が 22 個ずつ、計 88 点。値が 00 の xx は x=3,5,6x = 3,5,6 の 33 個で、それぞれ y=0y = 0 の 11 点ずつ、計 33 点。アフィン点は 1111 個、無限遠点を加えて

#E(F7)=12,a7=7+1−12=−4.\#E(\mathbb{F}_7) = 12, \qquad a_7 = 7 + 1 - 12 = -4 .

∣a7∣=4≤27≈5.29|a_7| = 4 \le 2\sqrt{7} \approx 5.29 でハッセの評価を満たします。

位数 22 の元は 命題 3.2 の (1) より y=0y = 0 の点、すなわち (3,0)(3,0)、(5,0)(5,0)、(6,0)(6,0) の 33 個です。これらと OO で Z/2Z⊕Z/2Z\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} をなし、ラグランジュの定理(定理 6.1)[部分群と剰余類]から 4∣#E(F7)=124 \mid \#E(\mathbb{F}_7) = 12 が確かに成り立っています。x3+1=(x+1)(x2−x+1)x^3+1 = (x+1)(x^2-x+1) が F7\mathbb{F}_7 上で完全に分解する(根は 6,3,56, 3, 5)ことが理由です。群の位数と部分群の位数の関係については 部分群と剰余類(ラグランジュの定理) を参照してください。

演習 17.3標準

系 5.8 を使って E42=E8E_4^2 = E_8 を示し、そこから任意の n≥1n \ge 1 について

σ7(n)=σ3(n)+120∑m=1n−1σ3(m) σ3(n−m)\sigma_7(n) = \sigma_3(n) + 120\sum_{m=1}^{n-1}\sigma_3(m)\,\sigma_3(n-m)

が成り立つことを導きなさい。さらに n=2n = 2 で数値的に確かめなさい。

解答

E4∈M4E_4 \in M_4 なので、定義 5.1 の条件 2 を二回使えば E42E_4^2 は重さ 4+4=84+4 = 8 の変換則を満たします。正則性と尖点での正則性も積で保たれるので E42∈M8E_4^2 \in M_8 です。系 5.8 の (3) より dim⁡M8=1\dim M_8 = 1 で、基底は E8E_8 です。したがって E42=c E8E_4^2 = c\,E_8 なる定数 cc があります。両辺の qq 展開の定数項を比べると、E4E_4 の定数項が 11 なので左辺は 11、E8E_8 の定数項も 11 なので右辺は cc。よって c=1c = 1、E42=E8E_4^2 = E_8 です。

例 5.3 の展開に代入します。E4=1+240∑n≥1σ3(n)qnE_4 = 1 + 240\sum_{n\ge1}\sigma_3(n)q^n、E8=1+480∑n≥1σ7(n)qnE_8 = 1 + 480\sum_{n\ge1}\sigma_7(n)q^n(−2⋅8/B8=480-2\cdot 8/B_8 = 480)です。左辺 E42E_4^2 の qnq^n(n≥1n \ge 1)の係数は、交差項と二乗項に分けて

2⋅240 σ3(n)+2402∑m=1n−1σ3(m)σ3(n−m)=480 σ3(n)+57600∑m=1n−1σ3(m)σ3(n−m).2\cdot 240\,\sigma_3(n) + 240^2 \sum_{m=1}^{n-1}\sigma_3(m)\sigma_3(n-m) = 480\,\sigma_3(n) + 57600\sum_{m=1}^{n-1}\sigma_3(m)\sigma_3(n-m).

右辺 E8E_8 の qnq^n の係数は 480 σ7(n)480\,\sigma_7(n) です。両者を等しいとおいて 480480 で割ると

σ7(n)=σ3(n)+120∑m=1n−1σ3(m)σ3(n−m).\sigma_7(n) = \sigma_3(n) + 120\sum_{m=1}^{n-1}\sigma_3(m)\sigma_3(n-m).

n=2n = 2 で確かめます。σ7(2)=1+27=129\sigma_7(2) = 1 + 2^7 = 129、σ3(2)=1+8=9\sigma_3(2) = 1 + 8 = 9、和は m=1m=1 の項だけで σ3(1)σ3(1)=1\sigma_3(1)\sigma_3(1) = 1。右辺は 9+120⋅1=1299 + 120\cdot 1 = 129 で一致します。

約数の冪和という初等的な量のあいだの非自明な畳み込み恒等式が、「重さ 88 の空間が 11 次元」という一行から出てくるところが、モジュラー形式の威力です。

演習 17.4易

n=100n = 100 の場合、フェルマーの最終定理は n=4n = 4 か奇素数 pp のどちらの場合に帰着しますか。両方に帰着できるなら両方書き、対応する変数変換を明示してください。

解答

100=4⋅25=5⋅20100 = 4 \cdot 25 = 5 \cdot 20 なので両方に帰着できます。

4∣1004 \mid 100 なので、x100+y100=z100x^{100} + y^{100} = z^{100} の非自明解 (x,y,z)(x,y,z) からは X=x25X = x^{25}, Y=y25Y = y^{25}, Z=z25Z = z^{25} とおいて X4+Y4=Z4X^4 + Y^4 = Z^4 の非自明解が得られます(XYZ=(xyz)25≠0XYZ = (xyz)^{25} \ne 0)。

また 5∣1005 \mid 100 なので、X=x20X = x^{20}, Y=y20Y = y^{20}, Z=z20Z = z^{20} とおけば X5+Y5=Z5X^5 + Y^5 = Z^5 の非自明解が得られます。

どちらの帰着でも 命題 7.2 の議論がそのまま使えます。実用上は、nn の任意の素因数(または 44)一つを選べば十分です。

演習 17.5標準

E:y2=x(x−A)(x+B)E : y^2 = x(x - A)(x + B)、C=A+BC = A + B とします。jj 不変量が

j=28(A2+AB+B2)3(ABC)2j = \frac{2^8 (A^2 + AB + B^2)^3}{(ABC)^2}

であることを示してください。さらに、フライ曲線について jj の分母の各素因子の重複度が 2p2p の倍数になる(ℓ=2\ell = 2 を除く)ことを確かめてください。

解答

j=c43/Δj = c_4^3 / \Delta です。命題 9.2 より c4=16(A2+AB+B2)c_4 = 16(A^2 + AB + B^2)、Δ=16(ABC)2\Delta = 16(ABC)^2 なので

j=(16(A2+AB+B2))316(ABC)2=16316⋅(A2+AB+B2)3(ABC)2=28(A2+AB+B2)3(ABC)2j = \frac{\left(16(A^2+AB+B^2)\right)^3}{16 (ABC)^2} = \frac{16^3}{16} \cdot \frac{(A^2+AB+B^2)^3}{(ABC)^2} = \frac{2^8 (A^2+AB+B^2)^3}{(ABC)^2}

です(163/16=162=2816^3/16 = 16^2 = 2^8)。

フライ曲線では ABC=(abc)pABC = (abc)^p なので分母は (abc)2p(abc)^{2p} です。ℓ\ell を abcabc の素因子とすると、その重複度は 2p⋅vℓ(abc)2p \cdot v_\ell(abc) であり、2p2p の倍数です。ℓ=2\ell = 2 については、命題 9.5 の最小モデルに移ると 282^8 の分だけずれ、v2(Δmin⁡)=2p v2(b)−8v_2(\Delta_{\min}) = 2p\,v_2(b) - 8 となります。jj 不変量は座標変換で不変なので jj の 22 での位数は 8−2p v2(b)8 - 2p\,v_2(b)、これは 2p2p の倍数ではありません。

演習 17.6標準

種数公式を使って X0(11)X_0(11) の種数を求め、dim⁡S2(Γ0(11))\dim S_2(\Gamma_0(11)) を決定してください。例 6.4 の曲線との関係を述べてください。

解答

N=11N = 11 は素数なので

μ=11(1+111)=12.\mu = 11 \left( 1 + \frac{1}{11} \right) = 12 .

楕円点の個数は、11≡3(mod4)11 \equiv 3 \pmod 4 より (−111)=−1\left( \frac{-1}{11} \right) = -1 なので

ν2=1+(−111)=1−1=0.\nu_2 = 1 + \left( \tfrac{-1}{11} \right) = 1 - 1 = 0 .

11≡2(mod3)11 \equiv 2 \pmod 3 より (−311)=−1\left( \frac{-3}{11} \right) = -1 なので

ν3=1+(−311)=0.\nu_3 = 1 + \left( \tfrac{-3}{11} \right) = 0 .

NN が素数のとき尖点は 00 と ∞\infty の 2 個で ν∞=2\nu_\infty = 2。よって

g=1+1212−0−0−22=1+1−1=1.g = 1 + \frac{12}{12} - 0 - 0 - \frac{2}{2} = 1 + 1 - 1 = 1 .

したがって dim⁡S2(Γ0(11))=1\dim S_2(\Gamma_0(11)) = 1 です。

この 1 次元空間を張るのが 例 6.4 のイータ積 f(q)=q∏(1−qn)2(1−q11n)2f(q) = q \prod (1-q^n)^2 (1-q^{11n})^2 であり、対応する楕円曲線が y2+y=x3−x2y^2 + y = x^3 - x^2 です。種数 11 のモジュラー曲線 X0(11)X_0(11) 自身も(尖点 ∞\infty を原点に取れば)導手 1111 の楕円曲線 y2+y=x3−x2−10x−20y^2 + y = x^3 - x^2 - 10x - 20 になります。これは上の曲線と同型ではありませんが、55 同種で結ばれた同じ同種類に属し、同じ新形式 ff に対応します。モジュラー曲線そのものが自分の分類する対象の一つになっている、という点も味わい深いところです。

対比のため 例 10.9 を見返すと、N=2N = 2 では g=0g = 0、すなわち導手 22 の楕円曲線は存在しないことも同時に分かります。これが 系 10.10 の最終段で効いた事実です。

演習 17.7難

系 10.10 の証明で、仮定 p≥5p \ge 5 はどこで使われましたか。すべて挙げ、p=2p = 2 と p=3p = 3 でそれぞれ何が壊れるかを説明してください。

解答

p≥5p \ge 5 は少なくとも三箇所で使われています。

第一に、第 2 段の既約性です。ρˉE,p\bar\rho_{E,p} が既約であることをメイザーの有理同種定理から導く際、p≥5p \ge 5 が必要です。p=3p = 3 ではフライ曲線に有理 33 同種があり得るため、この段が保証されません。定理 10.4 は既約性を仮定しているので、ここが崩れるとレベル下げが適用できません。

第二に、第 4 段のレベル計算です。v2(Δmin⁡)=2p v2(b)−8≡−8(modp)v_2(\Delta_{\min}) = 2p\,v_2(b) - 8 \equiv -8 \pmod p が pp で割れないことを使いました。ここで必要なのは p∤8p \nmid 8、つまり p≠2p \ne 2 です。p=2p = 2 なら 22 もレベルから落ちてしまい、レベル 11 の重さ 22 の新形式が要求されますが——それも存在しないとはいえ——そもそも p=2p = 2 ではフェルマー方程式に解が存在する(32+42=523^2 + 4^2 = 5^2)ので、他の段が破綻していなければなりません。実際 例 9.3 の曲線 y2=x(x−9)(x+16)y^2 = x(x-9)(x+16) は完全にまともなモジュラー曲線です。

第三に、命題 9.5 の ℓ=2\ell = 2 での議論で v2 ⁣((abc)2p)=2p v2(b)≥2p≥10>8v_2\!\left((abc)^{2p}\right) = 2p\,v_2(b) \ge 2p \ge 10 > 8 を使い、Δmin⁡\Delta_{\min} が整数であることを保証しました。p=3p = 3 でも v2(b)≥2v_2(b) \ge 2 なら成り立ちますが、v2(b)=1v_2(b) = 1 だと 2p v2(b)=6<82p\,v_2(b) = 6 < 8 で崩れます。

なお p=3p = 3 の場合はオイラーによって別途証明されており、p=2p = 2 には実際に解があるので、この二つを除外しても 系 7.4 により全体の証明に穴は生じません。

演習 17.8易

次の各組が ABC 三つ組であることを確かめ、rad⁡(abc)\operatorname{rad}(abc) と質 qq を計算してください(log⁡\log は自然対数、値は小数第 3 位まで)。

(1) (5,27,32)(5, 27, 32) (2) (1,80,81)(1, 80, 81) (3) (32,49,81)(32, 49, 81)

解答

(1) gcd⁡(5,27)=1\gcd(5,27)=1、5+27=325+27=32 ✓。abc=5⋅33⋅25abc = 5\cdot 3^3\cdot 2^5 なので rad⁡(abc)=2⋅3⋅5=30\operatorname{rad}(abc) = 2\cdot3\cdot5 = 30。q=log⁡32/log⁡30=3.466/3.401=1.019q = \log 32/\log 30 = 3.466/3.401 = 1.019。かろうじて 11 を超えます。

(2) gcd⁡(1,80)=1\gcd(1,80)=1、1+80=811+80=81 ✓。80=24⋅580 = 2^4\cdot 5, 81=3481 = 3^4 なので rad⁡(abc)=2⋅3⋅5=30\operatorname{rad}(abc) = 2\cdot3\cdot5 = 30。q=log⁡81/log⁡30=4.394/3.401=1.292q = \log 81/\log 30 = 4.394/3.401 = 1.292。

(3) gcd⁡(32,49)=1\gcd(32,49)=1、32+49=8132+49=81 ✓。32=2532=2^5, 49=7249=7^2, 81=3481=3^4 なので rad⁡(abc)=2⋅3⋅7=42\operatorname{rad}(abc) = 2\cdot3\cdot7 = 42。q=log⁡81/log⁡42=4.394/3.738=1.176q = \log 81/\log 42 = 4.394/3.738 = 1.176。これは 例 14.5 のフェルマー・カタラン解 25+72=342^5+7^2=3^4 に対応する三つ組です。3 つとも高い冪なので根基が小さくなっています。

演習 17.9標準

公理 13.1 を仮定して、方程式

xp−yq=1(x,y≥2, p,q≥2 は整数)x^p - y^q = 1 \qquad (x,y \ge 2,\ p,q \ge 2 \text{ は整数})

の解に対応する値の組 (xp,yq)(x^p, y^q) が有限個しかないことを証明してください。

解答

a=yqa = y^q, b=1b = 1, c=xpc = x^p とおくと a+b=ca+b=c で、gcd⁡(a,b)=gcd⁡(yq,1)=1\gcd(a,b)=\gcd(y^q,1)=1 ですから (a,b,c)(a,b,c) は ABC 三つ組です。

まず 1/p+1/q≤5/61/p + 1/q \le 5/6 を示します。p=q=2p=q=2 とすると x2−y2=(x−y)(x+y)=1x^2-y^2 = (x-y)(x+y) = 1 となり、x,y≥2x,y\ge 2 では x+y≥4>1x+y \ge 4 > 1 なので解がありません。よって p,qp,q の少なくとも一方は 33 以上で、1/p+1/q≤1/2+1/3=5/61/p+1/q \le 1/2+1/3 = 5/6 です。

次に根基を評価します。命題 12.3 より rad⁡(abc)=rad⁡(yq⋅1⋅xp)=rad⁡(xy)≤xy\operatorname{rad}(abc) = \operatorname{rad}(y^q\cdot 1\cdot x^p) = \operatorname{rad}(xy) \le xy。yq<xp=cy^q < x^p = c から y<c1/qy < c^{1/q}、x=c1/px = c^{1/p} ですから

rad⁡(abc)≤xy<c1/p+1/q≤c5/6.\operatorname{rad}(abc) \le xy < c^{1/p+1/q} \le c^{5/6} .

命題 13.3 の (ii) を ε=1/10\varepsilon = 1/10 で適用すると、定数 K=K1/10K = K_{1/10} があって

c<K(c5/6)11/10=K c11/12.c < K\left(c^{5/6}\right)^{11/10} = K\, c^{11/12} .

よって c1/12<Kc^{1/12} < K、c<K12c < K^{12} です。c=xpc = x^p が有界なので、cc の値は有限通り、各 cc に対して a=c−1a = c-1 も定まるので、値の組 (xp,yq)(x^p,y^q) は有限個です。

(補足:x,y≥2x,y \ge 2 より 2p≤c<K122^p \le c < K^{12} なので、指数 pp、同様に qq も有界です。したがって解 (x,y,p,q)(x,y,p,q) 自体も有限個になります。実際には Mihăilescu の定理により、解は 32−23=13^2-2^3=1 のみであることが分かっています。)

演習 17.10標準

定理 15.1 において、仮定「a,b,ca,b,c の少なくとも 1 つは定数でない」を落とすと結論が偽になることを、反例を挙げて示してください。また、標数 00 という仮定を落とすと偽になることを、標数 pp の体上の例で示してください。

解答

定数の場合。 a=1a = 1, b=1b = 1, c=2c = 2(K=QK = \mathbb{Q})とすると a+b=ca+b=c、gcd⁡(a,b)=1\gcd(a,b)=1 です。abc=2abc = 2 は定数なので根を持たず n0(abc)=0n_0(abc) = 0、一方 max⁡(deg⁡a,deg⁡b,deg⁡c)=0\max(\deg a,\deg b,\deg c) = 0 です。結論の不等式は 0≤−10 \le -1 となり偽です。証明では W=ab′−a′b=0W = ab'-a'b = 0 となり、W≠0W \ne 0 の議論が破綻していました。

標数 pp の場合。 K=Fp(s)K = \mathbb{F}_p(s)(ss は不定元)上で

a=tp,b=−s,c=tp−sa = t^p, \qquad b = -s, \qquad c = t^p - s

とすると a+b=ca+b=c、aa と bb は互いに素です(bb は tt を含まない 00 でない定数)。c=tp−sc = t^p - s は K‾\overline{K} 上で c=(t−s1/p)pc = (t - s^{1/p})^p と分解するので n0(c)=1n_0(c) = 1、また n0(a)=n0(tp)=1n_0(a) = n_0(t^p) = 1、n0(b)=0n_0(b)=0 です。よって n0(abc)=2n_0(abc) = 2 ですが max⁡(deg⁡a,deg⁡b,deg⁡c)=p\max(\deg a,\deg b,\deg c) = p であり、定理の結論は p≤n0(abc)−1=1p \le n_0(abc)-1 = 1 となって、p≥2p \ge 2 では偽です。証明では、標数 pp で a′=(tp)′=ptp−1=0a' = (t^p)' = pt^{p-1} = 0 となり「a′=0a'=0 ならば aa は定数」という一歩が使えなくなっています。

演習 17.11難

公理 13.1 を仮定して、次を示してください。任意の δ>0\delta > 0 に対して定数 κδ>0\kappa_\delta > 0 が存在し、gcd⁡(x,y)=1\gcd(x,y)=1 かつ x3≠y2x^3 \ne y^2 を満たすすべての正整数 x,yx,y について

∣x3−y2∣≥κδ x1/2−δ\lvert x^3 - y^2 \rvert \ge \kappa_\delta\, x^{1/2-\delta}

が成り立つ。(これは Hall 予想 ∣x3−y2∣≫x1/2\lvert x^3-y^2\rvert \gg x^{1/2} の弱形です。)

解答

h=x3−y2≠0h = x^3-y^2 \ne 0 とおきます。∣h∣≥x1/2\lvert h\rvert \ge x^{1/2} ならば ∣h∣≥x1/2≥x1/2−δ\lvert h \rvert \ge x^{1/2} \ge x^{1/2-\delta} となって κδ≤1\kappa_\delta \le 1 の下で主張が成り立つので、以下 ∣h∣<x1/2\lvert h\rvert < x^{1/2} と仮定します。このとき y2=x3−h≤x3+x1/2≤2x3y^2 = x^3 - h \le x^3 + x^{1/2} \le 2x^3 なので y≤2 x3/2≤2x3/2y \le \sqrt{2}\,x^{3/2} \le 2x^{3/2} です。

ABC 三つ組を作ります。h>0h > 0 のときは (a,b,c)=(y2,h,x3)(a,b,c) = (y^2, h, x^3)、h<0h < 0 のときは (a,b,c)=(x3,∣h∣,y2)(a,b,c) = (x^3, \lvert h\rvert, y^2) とします。いずれも a+b=ca+b=c を満たします。互いに素性を確かめます。素数 ℓ\ell が y2y^2 と hh を割り切れば ℓ∣y2+h=x3\ell \mid y^2+h = x^3 なので ℓ∣x\ell \mid x かつ ℓ∣y\ell \mid y となり gcd⁡(x,y)=1\gcd(x,y)=1 に反します。よって gcd⁡(y2,h)=1\gcd(y^2,h)=1 で、h<0h<0 の場合も同様に gcd⁡(x3,∣h∣)=1\gcd(x^3,\lvert h\rvert)=1 です。

いずれの場合も c≥x3c \ge x^3 です(h>0h>0 なら c=x3c = x^3、h<0h<0 なら c=y2>x3c = y^2 > x^3)。また 命題 12.3 より

rad⁡(abc)=rad⁡(x3y2∣h∣)≤x y ∣h∣≤2x5/2∣h∣.\operatorname{rad}(abc) = \operatorname{rad}\bigl(x^3 y^2 \lvert h\rvert\bigr) \le x\,y\,\lvert h\rvert \le 2x^{5/2}\lvert h\rvert .

命題 13.3 の (ii) を ε>0\varepsilon > 0 に対して適用すると、K=KεK = K_\varepsilon を用いて

x3≤c<K(2x5/2∣h∣)1+ε=K 21+εx52(1+ε)∣h∣1+ε.x^3 \le c < K\left(2x^{5/2}\lvert h\rvert\right)^{1+\varepsilon} = K\,2^{1+\varepsilon} x^{\frac52(1+\varepsilon)}\lvert h\rvert^{1+\varepsilon} .

∣h∣1+ε\lvert h\rvert^{1+\varepsilon} について解くと

∣h∣1+ε>x3−52(1+ε)21+εK=x12−52ε21+εK,∣h∣>(121+εK)11+εx1/2−5ε/21+ε.\lvert h\rvert^{1+\varepsilon} > \frac{x^{3-\frac52(1+\varepsilon)}}{2^{1+\varepsilon}K} = \frac{x^{\frac12-\frac52\varepsilon}}{2^{1+\varepsilon}K}, \qquad \lvert h\rvert > \left(\frac{1}{2^{1+\varepsilon}K}\right)^{\frac{1}{1+\varepsilon}} x^{\frac{1/2-5\varepsilon/2}{1+\varepsilon}} .

指数 1/2−5ε/21+ε\dfrac{1/2-5\varepsilon/2}{1+\varepsilon} は ε→0+\varepsilon \to 0^{+} で 1/21/2 に収束するので、与えられた δ>0\delta>0 に対して十分小さい ε>0\varepsilon>0 を選べばこの指数は 1/2−δ1/2-\delta 以上になります。そのような ε\varepsilon を 1 つ固定し、κδ=min⁡(1,(21+εKε)−1/(1+ε))\kappa_\delta = \min\bigl(1, (2^{1+\varepsilon}K_\varepsilon)^{-1/(1+\varepsilon)}\bigr) とおけば、x≥1x \ge 1 より x(1/2−5ε/2)/(1+ε)≥x1/2−δx^{(1/2-5\varepsilon/2)/(1+\varepsilon)} \ge x^{1/2-\delta} となり、両方の場合を合わせて主張が従います。

  • J. H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 106, Springer, 2009 — 第 III 章(群構造とヴァイエルシュトラス方程式、不変量)、第 V 章(有限体上の楕円曲線とハッセの定理)、第 VII 章(還元と半安定性)、第 VIII 章(モーデル・ヴェイユの定理)。
  • J.-P. Serre, A Course in Arithmetic, Graduate Texts in Mathematics 7, Springer, 1973 — 第 VII 章にモジュラー形式の定義、位数公式、空間の次元計算。
  • F. Diamond and J. Shurman, A First Course in Modular Forms, Graduate Texts in Mathematics 228, Springer, 2005 — 第 3 章(種数公式)、ヘッケ作用素と新形式、第 8 章(楕円曲線とモジュラー性定理の各定式化)。
  • A. Wiles, “Modular elliptic curves and Fermat’s Last Theorem”, Annals of Mathematics 141 (1995), 443–551. DOI:10.2307/2118559;R. Taylor and A. Wiles, “Ring-theoretic properties of certain Hecke algebras”, 同誌同巻, 553–572.
  • K. A. Ribet, “On modular representations of Gal(Qˉ/Q)\mathrm{Gal}(\bar{\mathbf{Q}}/\mathbf{Q}) arising from modular forms”, Inventiones Mathematicae 100 (1990), 431–476. DOI:10.1007/BF01231195
  • H. Darmon, F. Diamond and R. Taylor, “Fermat’s Last Theorem”, in Current Developments in Mathematics, 1995(International Press, 1997)— フライ曲線からモジュラー性定理までの詳細な解説。
  • L. C. Washington, Introduction to Cyclotomic Fields, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 83, Springer, 1997 — 第 9 章(正則素数とフェルマーの最終定理)。
  • A. Granville and T. J. Tucker, “It’s As Easy As abc”, Notices of the American Mathematical Society 49 (2002), no. 10, 1224–1231 — ABC 予想の帰結(フェルマー・カタラン、Hall、powerful 数、Wieferich 素数、Szpiro 予想との関係)の入門的な解説。

因子(divisor)による定式化。 定理 3.3 の (4) だけが幾何的な定義から直接には出ませんでした。標準的な解決は、曲線上の点の形式的な整数結合(因子)を考えることです。KK を代数閉体とし、EE 上の因子とは有限個の点の形式和 D=∑PnP[P]D = \sum_P n_P [P](nP∈Zn_P \in \mathbb{Z})のことです。次数を deg⁡D=∑PnP\deg D = \sum_P n_P と定め、EE 上の有理関数 gg に対して div(g)=∑PordP(g)[P]\mathrm{div}(g) = \sum_P \mathrm{ord}_P(g)[P] を主因子と呼びます。射影曲線上では有理関数の零点と極の個数は重複度込みで等しいので、主因子の次数は 00 です。次数 00 の因子群を主因子で割った商が Pic0(E)\mathrm{Pic}^0(E) です。これはアーベル群の商なのでアーベル群であり、結合律は自動的に成り立ちます。

曲線と群の同一視。 写像 κ:E(K)→Pic0(E)\kappa : E(K) \to \mathrm{Pic}^0(E)、κ(P)=[ [P]−[O] ]\kappa(P) = [\,[P] - [O]\,] を考えます。リーマン・ロッホの定理を種数 11 の曲線に適用すると、deg⁡D=0\deg D = 0 の任意の因子 DD に対し D∼[P]−[O]D \sim [P] - [O] を満たす点 PP がただ一つ存在することが分かります(dim⁡L(D+[O])=1\dim L(D + [O]) = 1 から従います)。これは κ\kappa が全単射であることを意味します。

加法が対応すること。 P,Q∈E(K)P, Q \in E(K) を取り、ℓPQ\ell_{PQ} の定義方程式を(斉次一次式として)hh、P∗QP*Q と OO を通る垂直線の方程式を vv とします。斉次座標で見ると h/vh/v は EE 上の有理関数で、その因子は

div(h/v)=([P]+[Q]+[P∗Q])−([P∗Q]+[P+Q]+[O])=[P]+[Q]−[P+Q]−[O]\mathrm{div}(h/v) = \big([P] + [Q] + [P*Q]\big) - \big([P*Q] + [P+Q] + [O]\big) = [P] + [Q] - [P+Q] - [O]

です。左辺は主因子ですから Pic0(E)\mathrm{Pic}^0(E) では 00 に等しく、移項して

([P]−[O])+([Q]−[O])∼[P+Q]−[O],\big([P] - [O]\big) + \big([Q] - [O]\big) \sim [P+Q] - [O],

すなわち κ(P)+κ(Q)=κ(P+Q)\kappa(P) + \kappa(Q) = \kappa(P+Q) です。κ\kappa は全単射で加法を保つので、Pic0(E)\mathrm{Pic}^0(E) の結合律が E(K)E(K) に移り、定理 3.3 の (4) が従います。

代数的な確認。 幾何を経由せず、命題 3.2 の公式を三重に代入して (P+Q)+R(P+Q)+R と P+(Q+R)P+(Q+R) の座標が有理式として一致することを確かめる証明もあります。yi2=xi3+axi+by_i^2 = x_i^3 + ax_i + b(i=1,2,3i=1,2,3)を関係式として、分母を払った多項式の等式に帰着させる計算で、計算機代数システムなら数秒で終わります。ただし退化する場合(xx 座標が一致する、y=0y = 0 になる、OO が現れるなど)を個別に処理する必要があり、場合分けは十数通りに及びます。概念的な見通しの良さでは因子による証明が優ります。

Appendix: 一般ヴァイエルシュトラス方程式の不変量

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ヴァイエルシュトラス係数の記法。 命題 9.2 で使った b2,b4,b6,b8,c4,Δb_2, b_4, b_6, b_8, c_4, \Delta は、一般のヴァイエルシュトラス方程式

y2+a1xy+a3y=x3+a2x2+a4x+a6y^2 + a_1 xy + a_3 y = x^3 + a_2 x^2 + a_4 x + a_6

に対して定義される標準的な量です。定義式は

b2=a12+4a2,b4=2a4+a1a3,b6=a32+4a6,b8=a12a6+4a2a6−a1a3a4+a2a32−a42,c4=b22−24b4,c6=−b23+36b2b4−216b6\begin{aligned} b_2 &= a_1^2 + 4a_2, & b_4 &= 2a_4 + a_1 a_3, & b_6 &= a_3^2 + 4 a_6, \\ b_8 &= a_1^2 a_6 + 4a_2a_6 - a_1a_3a_4 + a_2a_3^2 - a_4^2, & c_4 &= b_2^2 - 24 b_4, & c_6 &= -b_2^3 + 36 b_2 b_4 - 216 b_6 \end{aligned}

であり、判別式は

Δ=−b22b8−8b43−27b62+9b2b4b6\Delta = -b_2^2 b_8 - 8 b_4^3 - 27 b_6^2 + 9 b_2 b_4 b_6

です。1728 Δ=c43−c621728\,\Delta = c_4^3 - c_6^2 という関係が成り立ちます。j=c43/Δj = c_4^3/\Delta が jj 不変量です。短ヴァイエルシュトラス形 y2=x3+ax+by^2 = x^3 + ax + b(a1=a2=a3=0a_1 = a_2 = a_3 = 0、a4=aa_4 = a、a6=ba_6 = b)では b2=0b_2 = 0、b4=2ab_4 = 2a、b6=4bb_6 = 4b、b8=−a2b_8 = -a^2 となり、Δ=−8(2a)3−27(4b)2=−16(4a3+27b2)\Delta = -8(2a)^3 - 27(4b)^2 = -16(4a^3 + 27b^2) と 定義 2.1 の判別式に一致します。

座標変換の効き方。 座標変換 x=u2x′+rx = u^2 x' + r, y=u3y′+su2x′+ty = u^3 y' + s u^2 x' + t(u≠0u \ne 0)により c4↦u−4c4c_4 \mapsto u^{-4} c_4, Δ↦u−12Δ\Delta \mapsto u^{-12}\Delta となり、jj は不変です。注意 9.6 で使った u=2u = 2 の変換で判別式が 2122^{12} 分の 1 になるのは、この規則によります。最小判別式 Δmin⁡\Delta_{\min} とは、Z\mathbb{Z} 係数のヴァイエルシュトラス方程式のうち ∣Δ∣|\Delta| を最小にするものの判別式のことです。

なぜ vℓ(Δmin⁡)v_\ell(\Delta_{\min}) が意味を持つか。 乗法的還元を持つ素数 ℓ\ell において、EE の ℓ\ell での局所的な振る舞いはテイト曲線 Gm/qZ\mathbb{G}_m/q^{\mathbb{Z}} で記述され、vℓ(q)=vℓ(Δmin⁡)v_\ell(q) = v_\ell(\Delta_{\min}) が成り立ちます。p∣vℓ(Δmin⁡)p \mid v_\ell(\Delta_{\min}) であることは、qq が局所体の中で pp 乗元と単数の積になることを意味し、それが E[p]E[p] への ℓ\ell での惰性群の作用を自明にします。これが 注意 10.5 で述べた「不分岐性」の内実です。

Appendix: モーデル・ヴェイユの定理の証明

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定理 4.1 の証明に使う補題をまとめます。前半で弱モーデル・ヴェイユの定理(E(Q)/2E(Q)E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q}) の有限性)を、後半で高さによる降下を扱います。

補題 17.12(整数係数への帰着)✓

E:y2=x3+ax+bE:y^2=x^3+ax+b を Q\mathbb{Q} 上の楕円曲線、uu を 00 でない整数とし、Eu:y2=x3+u4ax+u6bE_u:y^2=x^3+u^4ax+u^6b とおく。ι(x,y)=(u2x,u3y)\iota(x,y)=(u^2x,u^3y)、ι(O)=O\iota(O)=O は、Q\mathbb{Q} を含む任意の体 LL について群の同型 E(L)→Eu(L)E(L)\to E_u(L) を与える。とくに uu を選べば u4a,u6b∈Zu^4a,u^6b\in\mathbb{Z} にできる。

証明(補題 17.12)

EuE_u の判別式は −16(4u12a3+27u12b2)=u12Δ≠0-16(4u^{12}a^3+27u^{12}b^2)=u^{12}\Delta\ne0 で、(u3y)2=u6(x3+ax+b)=(u2x)3+u4a(u2x)+u6b(u^3y)^2=u^6(x^3+ax+b)=(u^2x)^3+u^4a(u^2x)+u^6b なので ι\iota は E(L)E(L) を Eu(L)E_u(L) に移し、逆写像 (x,y)↦(u−2x,u−3y)(x,y)\mapsto(u^{-2}x,u^{-3}y) をもちます。命題 3.2 の公式で、xx 座標の異なる 2 点の傾きは u3(y2−y1)/(u2(x2−x1))=uλu^3(y_2-y_1)/(u^2(x_2-x_1))=u\lambda、2 倍の傾きは (3u4x2+u4a)/(2u3y)=uλ(3u^4x^2+u^4a)/(2u^3y)=u\lambda に変わるので、x3x_3 は u2λ2−u2x1−u2x2=u2x3u^2\lambda^2-u^2x_1-u^2x_2=u^2x_3、y3y_3 は uλ(u2x1−u2x3)−u3y1=u3y3u\lambda(u^2x_1-u^2x_3)-u^3y_1=u^3y_3 に移ります。−(x,y)=(x,−y)-(x,y)=(x,-y) も保たれるので ι\iota は準同型です。

以下 a,b∈Za,b\in\mathbb{Z} とし、f(X)=X3+aX+b=(X−e1)(X−e2)(X−e3)f(X)=X^3+aX+b=(X-e_1)(X-e_2)(X-e_3)(ei∈Ce_i\in\mathbb{C} は相異なる、命題 2.2)、K=Q(e1,e2,e3)K=\mathbb{Q}(e_1,e_2,e_3) を ff の最小分解体とします(定義 2.4[ガロア理論への招待])。eie_i はモニックな整数係数多項式の根なので KK の整数環 OK\mathcal{O}_K に属します。KK の素イデアル p\mathfrak{p} に対する付値 vp:K×→Zv_{\mathfrak{p}}:K^\times\to\mathbb{Z}(定理 2.2[S 単数と Kummer 理論] の 1)は準同型で、vp(α)≥kv_{\mathfrak{p}}(\alpha)\ge k は α∈pk\alpha\in\mathfrak{p}^k と同値なので vp(α+β)≥min⁡(vp(α),vp(β))v_{\mathfrak{p}}(\alpha+\beta)\ge\min(v_{\mathfrak{p}}(\alpha),v_{\mathfrak{p}}(\beta)) で、vp(α)≠vp(β)v_{\mathfrak{p}}(\alpha)\ne v_{\mathfrak{p}}(\beta) なら等号が成り立ちます(v(α)<v(β)v(\alpha)\lt v(\beta) なら v(α)≥min⁡(v(α+β),v(β))v(\alpha)\ge\min(v(\alpha+\beta),v(\beta)) から v(α+β)≤v(α)v(\alpha+\beta)\le v(\alpha))。SS を無限素点全体と 2Δ2\Delta を割る素イデアル全体の和集合(有限集合)とし、定義 6.1[S 単数と Kummer 理論] の群 K(S,2)K(S,2) を使います。

補題 17.13(完全 2 降下)✓

i=1,2,3i=1,2,3 について {j,k}={1,2,3}∖{i}\{j,k\}=\{1,2,3\}\setminus\{i\} とし、δi:E(K)→K×/K×2\delta_i:E(K)\to K^\times/K^{\times2} を

δi(O)=1,δi((x,y))=x−ei (x≠ei),δi((ei,0))=(ei−ej)(ei−ek)\delta_i(O)=1,\qquad\delta_i((x,y))=x-e_i\ (x\ne e_i),\qquad\delta_i((e_i,0))=(e_i-e_j)(e_i-e_k)

(いずれも K×2K^{\times2} を法とする類)で定める。このとき

  1. 各 δi\delta_i は群の準同型である。
  2. P∈2E(K)P\in2E(K) であることと δ1(P)=δ2(P)=δ3(P)=1\delta_1(P)=\delta_2(P)=\delta_3(P)=1 は同値である。
  3. δi(E(K))⊂K(S,2)\delta_i(E(K))\subset K(S,2) である。

したがって E(K)/2E(K)E(K)/2E(K) は有限で、∣E(K)/2E(K)∣≤∣K(S,2)∣3|E(K)/2E(K)|\le|K(S,2)|^3 である。

証明(補題 17.13)

1. δi(−P)=δi(P)\delta_i(-P)=\delta_i(P)(xx 座標が同じ)で、K×/K×2K^\times/K^{\times2} の元は位数 11 か 22 なので、P1+P2+P3=OP_1+P_2+P_3=O ならば δi(P1)δi(P2)δi(P3)=1\delta_i(P_1)\delta_i(P_2)\delta_i(P_3)=1 であることを示せば十分です(P3=−(P1+P2)P_3=-(P_1+P_2) とすれば δi(P1+P2)=δi(P1)δi(P2)\delta_i(P_1+P_2)=\delta_i(P_1)\delta_i(P_2))。どれかが OO なら残りの 2 点は互いの逆元で、δi(P)δi(−P)=δi(P)2=1\delta_i(P)\delta_i(-P)=\delta_i(P)^2=1 です。どれも OO でないとき、定義 3.1 から P1+P2=O∗(P1∗P2)P_1+P_2=O*(P_1*P_2) で、O∗(O∗R)=RO*(O*R)=R なので P1∗P2=O∗(−P3)=P3P_1*P_2=O*(-P_3)=P_3、すなわち 3 点は直線 ℓP1P2\ell_{P_1P_2} と EE の交点(重複度込み)です。この直線は OO を通らないので垂直でなく、y=λX+νy=\lambda X+\nu と書けて、命題 3.2 の証明のとおり

f(X)−(λX+ν)2=(X−x1)(X−x2)(X−x3)f(X)-(\lambda X+\nu)^2=(X-x_1)(X-x_2)(X-x_3)

(xjx_j は PjP_j の xx 座標)です。

  • どの xjx_j も eie_i でないとき: X=eiX=e_i を代入して (x1−ei)(x2−ei)(x3−ei)=(λei+ν)2(x_1-e_i)(x_2-e_i)(x_3-e_i)=(\lambda e_i+\nu)^2。左辺は 00 でないので右辺は K×K^\times の平方元で、主張が成り立ちます。
  • ある xjx_j が eie_i のとき: その PjP_j は (ei,0)(e_i,0) で直線上にあるので λei+ν=0\lambda e_i+\nu=0、λX+ν=λ(X−ei)\lambda X+\nu=\lambda(X-e_i) です。すると f(X)−(λX+ν)2=(X−ei)((X−ej)(X−ek)−λ2(X−ei))f(X)-(\lambda X+\nu)^2=(X-e_i)\bigl((X-e_j)(X-e_k)-\lambda^2(X-e_i)\bigr) で、括弧の中は X=eiX=e_i で (ei−ej)(ei−ek)≠0(e_i-e_j)(e_i-e_k)\ne0 なので、eie_i は 3 根のうちちょうど 1 つです。x3=eix_3=e_i と番号を付けると (X−ej)(X−ek)−λ2(X−ei)=(X−x1)(X−x2)(X-e_j)(X-e_k)-\lambda^2(X-e_i)=(X-x_1)(X-x_2) で、X=eiX=e_i を代入して (ei−ej)(ei−ek)=(x1−ei)(x2−ei)(e_i-e_j)(e_i-e_k)=(x_1-e_i)(x_2-e_i)、すなわち δi(P3)=δi(P1)δi(P2)\delta_i(P_3)=\delta_i(P_1)\delta_i(P_2) です。

2. P=2QP=2Q なら 1 から δi(P)=δi(Q)2=1\delta_i(P)=\delta_i(Q)^2=1 です。逆に P=(x0,y0)P=(x_0,y_0) で全ての δi(P)\delta_i(P) が 11 とします(P=OP=O は明らか)。このとき 3 つの x0−eix_0-e_i はすべて KK の平方元です。実際 x0≠eix_0\ne e_i ならそれが δi(P)\delta_i(P) で、P=(e1,0)P=(e_1,0) なら δ2(P)=e1−e2\delta_2(P)=e_1-e_2、δ3(P)=e1−e3\delta_3(P)=e_1-e_3 が平方元で x0−e1=0=02x_0-e_1=0=0^2 です。ri∈Kr_i\in K を ri2=x0−eir_i^2=x_0-e_i と取ります。D=r1(e2−e3)+r2(e3−e1)+r3(e1−e2)D=r_1(e_2-e_3)+r_2(e_3-e_1)+r_3(e_1-e_2) が 00 なら、00 でない rir_i(2 つ以上が 00 になることはない)の符号を変えると DD は −2ri(ej−ek)≠0-2r_i(e_j-e_k)\ne0 になるので、D≠0D\ne0 としてよいとします。(λ,ν,x)(\lambda,\nu,x) についての連立 1 次方程式 λei+ν=ri(x−ei)\lambda e_i+\nu=r_i(x-e_i)(i=1,2,3i=1,2,3)の係数行列式は −D≠0-D\ne0 なので、解 (λ,ν,x)∈K3(\lambda,\nu,x)\in K^3 がただ一つあります。g(X)=λX+νg(X)=\lambda X+\nu とおくと

h(X)=f(X)−g(X)2−(X−x0)(X−x)2h(X)=f(X)-g(X)^2-(X-x_0)(X-x)^2

は X3X^3 の項が消えて 2 次以下で、h(ei)=−ri2(x−ei)2+(x0−ei)(x−ei)2=0h(e_i)=-r_i^2(x-e_i)^2+(x_0-e_i)(x-e_i)^2=0 なので、3 つの相異なる根をもつ 2 次以下の多項式として h=0h=0 です。y=g(x)y=g(x) とおくと y2=f(x)y^2=f(x) で、Q=(x,y)∈E(K)Q=(x,y)\in E(K) です。y=0y=0 なら g(X)=λ(X−x)g(X)=\lambda(X-x) で f(X)=(X−x)2(X−x0+λ2)f(X)=(X-x)^2(X-x_0+\lambda^2) となり ff が重根をもつので、y≠0y\ne0 です。恒等式 f(X)−g(X)2=(X−x0)(X−x)2f(X)-g(X)^2=(X-x_0)(X-x)^2 を X=xX=x で微分すると f′(x)=2yλf'(x)=2y\lambda、すなわち λ\lambda は QQ での接線の傾き (3x2+a)/(2y)(3x^2+a)/(2y) で、両辺の X2X^2 の係数を比べると λ2=x0+2x\lambda^2=x_0+2x です。命題 3.2 から x(2Q)=λ2−2x=x0x(2Q)=\lambda^2-2x=x_0、y(2Q)=λ(x−x0)−y=−g(x0)y(2Q)=\lambda(x-x_0)-y=-g(x_0) で、恒等式で X=x0X=x_0 とすると g(x0)2=f(x0)=y02g(x_0)^2=f(x_0)=y_0^2 です。よって 2Q=P2Q=P か 2Q=−P2Q=-P で、いずれにせよ P∈2E(K)P\in2E(K) です。

3. p∉S\mathfrak{p}\notin S とし、v=vpv=v_{\mathfrak{p}} と書きます。Δ=−16(4a3+27b2)=16∏i<j(ei−ej)2\Delta=-16(4a^3+27b^2)=16\prod_{i\lt j}(e_i-e_j)^2(命題 2.2 の証明の判別式)で v(Δ)=0v(\Delta)=0、各 ei−eje_i-e_j は OK\mathcal{O}_K の元なので v(ei−ej)=0v(e_i-e_j)=0 です。P=(ei,0)P=(e_i,0) なら δi(P)\delta_i(P) の代表元 (ei−ej)(ei−ek)(e_i-e_j)(e_i-e_k) の付値は 00 です。P=(x,y)P=(x,y)、x≠eix\ne e_i とし、v(x−ei)v(x-e_i) が偶数であることを示します。y=0y=0 なら x=elx=e_l(l≠il\ne i)で v(x−ei)=0v(x-e_i)=0 です。y≠0y\ne0 とします。v(x)<0v(x)\lt0 なら v(ax+b)≥min⁡(v(x),0)=v(x)>3v(x)=v(x3)v(ax+b)\ge\min(v(x),0)=v(x)\gt3v(x)=v(x^3) なので 2v(y)=v(f(x))=3v(x)2v(y)=v(f(x))=3v(x) で v(x)v(x) は偶数、v(ei)≥0v(e_i)\ge0 から v(x−ei)=v(x)v(x-e_i)=v(x) です。v(x)≥0v(x)\ge0 なら全ての v(x−el)≥0v(x-e_l)\ge0 で、v(x−ei)>0v(x-e_i)\gt0 のとき l≠il\ne i について x−el=(x−ei)+(ei−el)x-e_l=(x-e_i)+(e_i-e_l) から v(x−el)=0v(x-e_l)=0。よって v(x−ei)=∑lv(x−el)=v(y2)=2v(y)v(x-e_i)=\sum_lv(x-e_l)=v(y^2)=2v(y) は偶数です。

最後の主張: 1・2 から (δ1,δ2,δ3)(\delta_1,\delta_2,\delta_3) は核 2E(K)2E(K) の準同型 E(K)→K(S,2)3E(K)\to K(S,2)^3 を誘導し、商は単射に埋め込まれます。K(S,2)K(S,2) は有限です(定理 6.2[S 単数と Kummer 理論])。

補題 17.14(弱モーデル・ヴェイユの定理)✓

a,b∈Za,b\in\mathbb{Z} のとき E(Q)/2E(Q)E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q}) は有限群である。

証明(補題 17.14)

G=Gal(K/Q)G=\mathrm{Gal}(K/\mathbb{Q}) とします(KK は最小分解体なのでガロア拡大、定義 3.1[ガロア理論への招待])。σ∈G\sigma\in G は σ(x,y)=(σx,σy)\sigma(x,y)=(\sigma x,\sigma y)、σO=O\sigma O=O で E(K)E(K) に作用し(a,ba,b は固定される)、命題 3.2 の公式は Q\mathbb{Q} 係数の有理式なので、この作用は群の自己同型です。定理 4.1[ガロア理論への招待] の 1(KG=QK^G=\mathbb{Q})から、GG で固定される点の全体は E(Q)E(\mathbb{Q}) です。また 2P=O2P=O となる点は OO と (ei,0)(e_i,0) の 4 点で(命題 3.2 の 1)、その集合を E[2]⊂E(K)E[2]\subset E(K) とします。

包含 E(Q)→E(K)E(\mathbb{Q})\to E(K) が誘導する E(Q)/2E(Q)→E(K)/2E(K)E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})\to E(K)/2E(K) の核は (E(Q)∩2E(K))/2E(Q)(E(\mathbb{Q})\cap2E(K))/2E(\mathbb{Q}) です。この各類の代表元 PP に対し 2QP=P2Q_P=P となる QP∈E(K)Q_P\in E(K) を一つ選び、写像 cP:G→E[2]c_P:G\to E[2]、cP(σ)=σQP−QPc_P(\sigma)=\sigma Q_P-Q_P を考えます(2(σQP−QP)=σP−P=O2(\sigma Q_P-Q_P)=\sigma P-P=O)。cP=cP′c_P=c_{P'} なら σ(QP−QP′)=QP−QP′\sigma(Q_P-Q_{P'})=Q_P-Q_{P'} がすべての σ\sigma で成り立つので QP−QP′∈E(Q)Q_P-Q_{P'}\in E(\mathbb{Q})、したがって P−P′=2(QP−QP′)∈2E(Q)P-P'=2(Q_P-Q_{P'})\in2E(\mathbb{Q}) です。よって核の元の個数は写像 G→E[2]G\to E[2] の個数 4∣G∣4^{|G|} 以下です。像の個数は 補題 17.13 により有限です。準同型の各ファイバー(像の 1 点の逆像)は核の剰余類で、核と同じ個数の元をもつので、∣E(Q)/2E(Q)∣≤4∣G∣ ∣E(K)/2E(K)∣|E(\mathbb{Q})/2E(\mathbb{Q})|\le4^{|G|}\,|E(K)/2E(K)| は有限です。

補題 17.15(有理点の分母)✓

a,b∈Za,b\in\mathbb{Z} とする。(x,y)∈E(Q)(x,y)\in E(\mathbb{Q}) は、整数 m,nm,n と正の整数 ee で gcd⁡(m,e)=gcd⁡(n,e)=1\gcd(m,e)=\gcd(n,e)=1 を満たすものにより x=m/e2x=m/e^2、y=n/e3y=n/e^3 と書ける。

証明(補題 17.15)

x=m/Mx=m/M、y=n/Ny=n/N(既約分数、M,N>0M,N\gt0)とすると n2M3=N2(m3+amM2+bM3)n^2M^3=N^2(m^3+amM^2+bM^3) です。gcd⁡(m,M)=1\gcd(m,M)=1 から m3+amM2+bM3m^3+amM^2+bM^3 は MM と互いに素なので M3∣N2M^3\mid N^2、また gcd⁡(n,N)=1\gcd(n,N)=1 から N2∣M3N^2\mid M^3 です(補題 4.1[素数の魅力と素数定理])。よって M3=N2M^3=N^2 で、e=N/Me=N/M とおくと e2=N2/M2=Me^2=N^2/M^2=M は整数です。e=s/re=s/r(既約分数、r>0r\gt0)と書くと s2=Mr2s^2=Mr^2 から r∣s2r\mid s^2 で、gcd⁡(r,s)=1\gcd(r,s)=1 なので(同じ補題)r=1r=1、すなわち ee は正の整数で、M=e2M=e^2、N=e3N=e^3 です。

定義 17.16(素朴な高さ)↗

a,b∈Za,b\in\mathbb{Z} とする。P=(m/e2,n/e3)∈E(Q)P=(m/e^2,n/e^3)\in E(\mathbb{Q})(補題 17.15 の形)に対し h(P)=log⁡max⁡(∣m∣,e2)h(P)=\log\max(|m|,e^2)、h(O)=0h(O)=0 とおく。max⁡(∣m∣,e2)\max(|m|,e^2) は、既約分数 x(P)=m/e2x(P)=m/e^2 の分子と分母の絶対値の大きい方である。有理数 r=A/Br=A/B(A,BA,B は整数、B≠0B\ne0)について、既約分数で書いたときの分子と分母の絶対値の大きい方を H(r)H(r) と書くと H(r)≤max⁡(∣A∣,∣B∣)H(r)\le\max(|A|,|B|) である。

補題 17.17(和の高さの上からの評価)✓

Q0∈E(Q)Q_0\in E(\mathbb{Q}) を固定する。定数 cc があって、すべての P∈E(Q)P\in E(\mathbb{Q}) について h(P+Q0)≤2h(P)+ch(P+Q_0)\le2h(P)+c。

証明(補題 17.17)

Q0=OQ_0=O なら明らかなので、Q0=(x0,y0)=(m0/e02,n0/e03)Q_0=(x_0,y_0)=(m_0/e_0^2,n_0/e_0^3) とします。有限個の P∈{O,Q0,−Q0}P\in\{O,Q_0,-Q_0\} は定数 cc を大きく取れば済むので、それ以外の P=(x,y)=(m/e2,n/e3)P=(x,y)=(m/e^2,n/e^3) を考えます。x≠x0x\ne x_0 で、命題 3.2 から x(P+Q0)=(y−y0x−x0)2−x−x0x(P+Q_0)=\bigl(\frac{y-y_0}{x-x_0}\bigr)^2-x-x_0。y2=f(x)y^2=f(x)、y02=f(x0)y_0^2=f(x_0) と f(x)+f(x0)−(x+x0)(x−x0)2=(xx0+a)(x+x0)+2bf(x)+f(x_0)-(x+x_0)(x-x_0)^2=(xx_0+a)(x+x_0)+2b(展開して確かめられる)から

x(P+Q0)=(xx0+a)(x+x0)+2b−2yy0(x−x0)2=AB,x(P+Q_0)=\frac{(xx_0+a)(x+x_0)+2b-2yy_0}{(x-x_0)^2}=\frac{A}{B},A=e04((mx0+ae2)(m+x0e2)+2be4−2ney0),B=(e02m−m0e2)2A=e_0^4\bigl((mx_0+ae^2)(m+x_0e^2)+2be^4-2ney_0\bigr),\qquad B=(e_0^2m-m_0e^2)^2

です(分子・分母に e4e04e^4e_0^4 を掛けた。A,BA,B は整数)。X=max⁡(∣m∣,e2)X=\max(|m|,e^2) とおくと、n2=m3+ame4+be6≤(1+∣a∣+∣b∣)X3n^2=m^3+ame^4+be^6\le(1+|a|+|b|)X^3 から ∣n∣e≤(1+∣a∣+∣b∣)1/2X2|n|e\le(1+|a|+|b|)^{1/2}X^2 で、∣A∣,∣B∣≤c1X2|A|,|B|\le c_1X^2(c1c_1 は a,b,Q0a,b,Q_0 だけによる)です。定義 17.16 の注意から H(x(P+Q0))≤c1X2H(x(P+Q_0))\le c_1X^2、すなわち h(P+Q0)≤2h(P)+log⁡c1h(P+Q_0)\le2h(P)+\log c_1 です。

補題 17.18(2 倍の高さの下からの評価)✓

定数 cc があって、すべての P∈E(Q)P\in E(\mathbb{Q}) について h(2P)≥4h(P)−ch(2P)\ge4h(P)-c。

証明(補題 17.18)

2P=O2P=O となる点は有限個なので、それ以外の P=(x,y)P=(x,y) を考えます。y≠0y\ne0 で、命題 3.2 の 2 倍の公式と y2=f(x)y^2=f(x) から

x(2P)=(3x2+a)24f(x)−2x=ϕ(x)ψ(x),ϕ(X)=X4−2aX2−8bX+a2,ψ(X)=4f(X)x(2P)=\frac{(3x^2+a)^2}{4f(x)}-2x=\frac{\phi(x)}{\psi(x)},\qquad\phi(X)=X^4-2aX^2-8bX+a^2,\quad\psi(X)=4f(X)

です(f′(X)2−8Xf(X)=ϕ(X)f'(X)^2-8Xf(X)=\phi(X))。

互いに素であること. ψ(α)=0\psi(\alpha)=0 なら f(α)=0f(\alpha)=0 で ϕ(α)=f′(α)2≠0\phi(\alpha)=f'(\alpha)^2\ne0(ff は重根をもたない)なので、ϕ,ψ\phi,\psi は C\mathbb{C} で共通根をもたず、Q[X]\mathbb{Q}[X] で互いに素です(共通因子があれば代数学の基本定理 定理 4.3[正則関数の強力な性質] から共通根をもつ)。Q[X]\mathbb{Q}[X] は単項イデアル整域なので(命題 7.2[イデアルと剰余環])uϕ+vψ=1u\phi+v\psi=1 となる u,v∈Q[X]u,v\in\mathbb{Q}[X] があり、uu を ψ\psi で割った余りに取り替えて(vv も取り替える)deg⁡u≤2\deg u\le2 としてよく、すると vψ=1−uϕv\psi=1-u\phi から deg⁡v≤3\deg v\le3 です。同様に ϕ∗(Y)=Y4ϕ(1/Y)=1−2aY2−8bY3+a2Y4\phi^*(Y)=Y^4\phi(1/Y)=1-2aY^2-8bY^3+a^2Y^4、ψ∗(Y)=Y4ψ(1/Y)=4(Y+aY3+bY4)\psi^*(Y)=Y^4\psi(1/Y)=4(Y+aY^3+bY^4) も共通根をもたないので(ϕ∗(0)=1\phi^*(0)=1、Y0≠0Y_0\ne0 が共通根なら 1/Y01/Y_0 が ϕ,ψ\phi,\psi の共通根)、u∗ϕ∗+v∗ψ∗=1u^*\phi^*+v^*\psi^*=1 となる u∗,v∗u^*,v^* があります。a,ba,b は同時に 00 にならないので ϕ∗\phi^* と ψ∗\psi^* の少なくとも一方は次数 44 で、deg⁡ψ∗=4\deg\psi^*=4 なら u∗u^* を ψ∗\psi^* で、そうでなければ v∗v^* を ϕ∗\phi^* で割った余りに取り替えると、上と同じ次数の勘定で deg⁡u∗,deg⁡v∗≤3\deg u^*,\deg v^*\le3 にできます。

斉次化. x=m/nx=m/n(既約、n>0n\gt0)とし、Φ=n4ϕ(m/n)\Phi=n^4\phi(m/n)、Ψ=n4ψ(m/n)\Psi=n^4\psi(m/n) とおくと、これらは整数で x(2P)=Φ/Ψx(2P)=\Phi/\Psi です。U1=n3u(m/n)U_1=n^3u(m/n)、V1=n3v(m/n)V_1=n^3v(m/n)、U2=m3u∗(n/m)U_2=m^3u^*(n/m)、V2=m3v∗(n/m)V_2=m^3v^*(n/m) は (m,n)(m,n) の 3 次の斉次式(有理数係数)で、m4ϕ∗(n/m)=Φm^4\phi^*(n/m)=\Phi、m4ψ∗(n/m)=Ψm^4\psi^*(n/m)=\Psi から、多項式の恒等式として

n7=U1Φ+V1Ψ,m7=U2Φ+V2Ψn^7=U_1\Phi+V_1\Psi,\qquad m^7=U_2\Phi+V_2\Psi

が成り立ちます。係数の分母を払う正の整数 RR を取ると、gcd⁡(Φ,Ψ)\gcd(\Phi,\Psi) は Rn7Rn^7 と Rm7Rm^7 を割るので、gcd⁡(m,n)=1\gcd(m,n)=1 から RR を割ります。また ∣Ui∣,∣Vi∣≤c2max⁡(∣m∣,∣n∣)3|U_i|,|V_i|\le c_2\max(|m|,|n|)^3 なので max⁡(∣m∣,∣n∣)7≤2c2max⁡(∣m∣,∣n∣)3max⁡(∣Φ∣,∣Ψ∣)\max(|m|,|n|)^7\le2c_2\max(|m|,|n|)^3\max(|\Phi|,|\Psi|)。したがって

H(x(2P))=max⁡(∣Φ∣,∣Ψ∣)gcd⁡(Φ,Ψ)≥max⁡(∣m∣,∣n∣)42c2R,H(x(2P))=\frac{\max(|\Phi|,|\Psi|)}{\gcd(\Phi,\Psi)}\ge\frac{\max(|m|,|n|)^4}{2c_2R},

両辺の対数を取れば h(2P)≥4h(P)−log⁡(2c2R)h(2P)\ge4h(P)-\log(2c_2R) です(max⁡(∣m∣,∣n∣)=H(x(P))\max(|m|,|n|)=H(x(P)))。

補題 17.19(降下法)✓

AA をアーベル群、h:A→[0,∞)h:A\to[0,\infty) を次の 3 条件を満たす関数とする。(i) 各 CC について {P:h(P)≤C}\{P:h(P)\le C\} は有限集合。(ii) 各 Q∈AQ\in A について定数 cQc_Q があり、すべての PP で h(P+Q)≤2h(P)+cQh(P+Q)\le2h(P)+c_Q。(iii) 定数 cc があり、すべての PP で h(2P)≥4h(P)−ch(2P)\ge4h(P)-c。このとき A/2AA/2A が有限なら AA は有限生成である。

証明(補題 17.19)

Q1,…,QsQ_1,\ldots,Q_s を A/2AA/2A の代表元とし、c′=max⁡jc−Qjc'=\max_jc_{-Q_j} とおきます。(ii)・(iii) は定数を大きくしても成り立つので、c+c′>0c+c'\gt0 としてかまいません。P∈AP\in A に対し、P0=PP_0=P から始めて Pl−1=2Pl+QjlP_{l-1}=2P_l+Q_{j_l} となる PlP_l と jlj_l を順に選びます。(iii)、(ii) から

4h(Pl)≤h(2Pl)+c=h(Pl−1−Qjl)+c≤2h(Pl−1)+c′+c,4h(P_l)\le h(2P_l)+c=h(P_{l-1}-Q_{j_l})+c\le2h(P_{l-1})+c'+c,

すなわち h(Pl)≤12h(Pl−1)+c+c′4h(P_l)\le\frac12h(P_{l-1})+\frac{c+c'}4 です。h(Pl−1)≥c+c′h(P_{l-1})\ge c+c' なら右辺は 34h(Pl−1)\frac34h(P_{l-1}) 以下なので、hh は c+c′c+c' 以下になるまで一定の比で減り、ある nn で h(Pn)≤c+c′h(P_n)\le c+c' となります。P=2nPn+∑l=1n2l−1QjlP=2^nP_n+\sum_{l=1}^n2^{l-1}Q_{j_l} なので、AA は Q1,…,QsQ_1,\ldots,Q_s と有限集合 {R:h(R)≤c+c′}\{R:h(R)\le c+c'\}((i))で生成されます。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 6 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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