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楕円曲線とモジュラー形式:谷山・志村予想への道

前提:リーマン予想とは何か:ゼータ関数の零点が素数を支配する

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  • 楕円曲線とは、判別式が 00 でない三次曲線 y2=x3+ax+by^2 = x^3 + ax + b に無限遠点 OO を付け加えたものです。ここには「三点が一直線上に並べば和は OO」という規則でアーベル群の構造が入ります。群であることは、幾何の作図が代数の公式に翻訳できることによって具体的に確かめられます。
  • 有理点の全体 E(Q)E(\mathbb{Q}) は有限生成アーベル群です(モーデル・ヴェイユの定理)。したがって E(Q)ZrE(Q)torsE(\mathbb{Q}) \cong \mathbb{Z}^r \oplus E(\mathbb{Q})_{\mathrm{tors}} と書け、階数 rr が「有理点がどれだけ豊かか」を測る量になります。
  • 各素数 pp で法 pp に還元して点を数えると ap=p+1#E(Fp)a_p = p + 1 - \#E(\mathbb{F}_p) が定まり、ap2p|a_p| \le 2\sqrt{p} が成り立ちます(ハッセの定理)。数列 (ap)p(a_p)_p が楕円曲線の「指紋」です。
  • モジュラー形式は、上半平面上の正則関数で SL2(Z)\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})(あるいはその合同部分群)の作用に対して重さ kk の変換則を満たすものです。位数公式から、低い重さの空間の次元は完全に決定できます。
  • 谷山・志村予想(現在はモジュラー性定理)は「Q\mathbb{Q} 上のすべての楕円曲線はモジュラーである」、すなわち導手 NN の楕円曲線 EE に対して ap(E)=ap(f)a_p(E) = a_p(f) を満たす重さ 22・レベル NN の新形式 ff が存在する、と主張します。
  • この定理とリベットのレベル下げ定理を合わせると、フェルマーの最終定理が従います。まったく異質に見える二つの世界を結ぶ橋が、350350 年来の難問を落としました。

1. 動機:ディオファントス方程式から曲線へ

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整数係数の方程式の有理数解・整数解を求める問題をディオファントス方程式と呼びます。次数が低いうちは話は簡単です。ax+by=cax + by = c の整数解はユークリッドの互除法で完全に書き下せますし、x2+y2=z2x^2 + y^2 = z^2(ピタゴラス数)も、一つの解 (3,4,5)(3,4,5) を起点に直線を回転させる古典的な方法ですべて求まります。二次曲線には有理点が一つ見つかればすべての有理点が有理パラメータで書けるという強力な性質があるからです。

三次に上がった瞬間、この方法が効かなくなります。y2=x32y^2 = x^3 - 2 の有理点をパラメータ表示しようとしても、うまくいきません。実際この曲線は種数 11 で、有理関数によるパラメータ表示(有理曲線)ではないことが知られています。ではお手上げかというとそうではなく、三次曲線には二次曲線にはない別の構造があります。曲線上の二点を通る直線は、曲線ともう一点で交わる。三次方程式の根は三つあるからです。この「二点から第三の点を作る」操作を洗練させると、曲線上の点の集合そのものが群になります。

この発見はディオファントスやフェルマーの計算のうちに萌芽があり、19 世紀にヤコビ・ヴァイエルシュトラスの楕円関数論と結びつき、20 世紀にポアンカレ、モーデル、ヴェイユの手で現在の形になりました。「楕円曲線」という名前は楕円の弧長を求める楕円積分に由来します。曲線自体は楕円ではありません。

一方まったく別の場所で、上半平面上の高度な対称性をもつ関数——モジュラー形式——が研究されていました。こちらは複素解析と保型形式論の産物で、素数を数える問題とは無縁に見えます。ところが 1950 年代、谷山豊と志村五郎は、この二つが同じ対象の二つの顔ではないかと予想しました。その予想が正しいことをワイルズらが示し、フェルマーの最終定理が落ちたのです。この章では、その橋の両岸を可能な限り具体的に描きます。

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