コンテンツにスキップ

数とは何か:自然数から実数へ、そして 1 = 0.999… はなぜ正しいのか

前提:数学の国語:集合と論理を正確に読み書きする

生 Markdown
  • 数の体系の拡張(NZQRC\mathbb{N} \to \mathbb{Z} \to \mathbb{Q} \to \mathbb{R} \to \mathbb{C})は、「その体系の中では解けない方程式を解けるようにする」という一貫した動機で理解できます。
  • 有理数はどの二つの間にも別の有理数がある(稠密)にもかかわらず、x2=2x^2 = 2 を満たす数を欠いています。この「隙間」は、上限が存在しないという形で正確に述べられます。
  • 隙間がないことを主張するのが実数の連続性公理(上限性質)です。デデキントの切断も有理数のコーシー列も、この同じ性質を別の言葉で実現する構成です。
  • 1=0.9991 = 0.999\cdots は近似でも約束事でもなく、無限小数の定義(部分和の上限)から従う等式です。等比級数・1/31/3 の 3 倍・二数の間に何も入らないこと、という三つの道筋で証明します。
  • ゼロ除算が禁じられるのは規則だからではありません。b/ab/a を「ax=bax = b の唯一の解」と定義したとき、a=0a = 0 では解が存在しないか一意でないためです。

1. 動機:数はどこから来たのか

Section titled “1. 動機:数はどこから来たのか”

数は、いまの形で最初からあったわけではありません。古代ギリシャのピタゴラス学派は「万物は数(整数の比)である」と考えていましたが、正方形の一辺と対角線が共通の物差しで測れない、つまり整数比で表せないことが発見され、この世界観は破綻しました。負の数はさらに長く疑われ、17 世紀のデカルトは方程式の負の解を「偽の根」と呼んでいます。1\sqrt{-1} が「想像上の数(imaginary number)」と名づけられたことも、当時の数学者がそれを正当な数と見なしていなかったことを示しています。

決定的な転機は 19 世紀です。フーリエ級数や、連続なのに至るところ微分できない関数の登場によって、「図形的な直観に頼った実数の扱いでは危うい」ことがはっきりしました。1872 年、デデキントは『連続性と無理数』で有理数の切断による実数の定義を発表し、同じ年にカントールが有理数のコーシー列による構成を与えます。つまり実数は、微積分が発明されてから約 200 年後にようやく厳密に定義されたのです。

この記事では、次の三つの素朴な疑問を出発点にします。

  1. 1=0.9991 = 0.999\cdots は本当に等しいのか。それとも「限りなく近い」だけなのか。
  2. 2\sqrt{2} という数は「存在する」のか。それとも便利な記号にすぎないのか。
  3. なぜ 00 で割ってはいけないのか。誰が決めたのか。

これらはどれも、「数とは何か」を決めないままでは答えが出ません。逆に、数の体系を公理で書き下してしまえば、三つとも短い証明で決着します。数学の言葉づかい(集合・論理・量化子)については 数学の国語 - 集合と論理、とくに 全称記号と存在記号(定義 5.2)[数学の国語] を前提とします。

「数とは何か」に答えるとき、数学は「数の正体」を詮索しません。代わりに、数が満たすべき規則を列挙し、その規則を満たすものを数と呼びます。Q\mathbb{Q}R\mathbb{R} も、次の意味で同じ枠組みに属します。

定義 2.1順序体

集合 KK に二つの演算 +, + ,\ \cdot と関係 << が与えられ、次を満たすとき、(K,+,,<)(K, +, \cdot, <)順序体といいます。

体の公理:任意の a,b,cKa, b, c \in K に対し

  1. a+b=b+aa + b = b + a(a+b)+c=a+(b+c)(a+b)+c = a+(b+c)
  2. 加法の単位元 0K0 \in K が存在し a+0=aa + 0 = a。各 aa に対し a+(a)=0a + (-a) = 0 となる aK-a \in K が存在する。
  3. ab=baab = ba(ab)c=a(bc)(ab)c = a(bc)
  4. 乗法の単位元 1K1 \in K が存在して 101 \ne 0 かつ a1=aa \cdot 1 = aa0a \ne 0 なる各 aa に対し aa1=1a a^{-1} = 1 となる a1Ka^{-1} \in K が存在する。
  5. a(b+c)=ab+aca(b+c) = ab + ac

順序の公理:

  1. 任意の a,ba, b について a<ba < ba=ba = bb<ab < a のちょうど一つが成り立つ。
  2. a<ba < b かつ b<cb < c ならば a<ca < c
  3. a<ba < b ならば a+c<b+ca + c < b + c
  4. a<ba < b かつ 0<c0 < c ならば ac<bcac < bc

減法と除法は、この公理から派生した記号です。すなわち ab:=a+(b)a - b := a + (-b)、そして b0b \ne 0 のとき a/b:=ab1a / b := a \cdot b^{-1} と定めます。

注意 2.2

除法の定義に「b0b \ne 0 のとき」という但し書きが入っていることに注目してください。ゼロ除算の問題は、この時点ですでに姿を現しています。詳しくは第 7 節で扱います。

また、公理 6〜9 から a00<a2a \ne 0 \Rightarrow 0 < a^2 が従います。実際、0<a0 < a なら公理 9 を不等式 0<a0 < ac=ac = a に適用して 0a<aa0 \cdot a < a \cdot a、すなわち 0<a20 < a^2 です(0a=00 \cdot a = 0命題 7.1 (1) で示します)。a<0a < 0 なら公理 8 より 0<a0 < -a で、a2=(a)(a)>0a^2 = (-a)(-a) > 0 となります。

Q\mathbb{Q}R\mathbb{R} はどちらも順序体です。したがって、この二つを区別するには順序体の公理以外の性質が要ります。それが第 5 節で導入する連続性公理です。以下、自然数は N={1,2,3,}\mathbb{N} = \{1, 2, 3, \ldots\}00 を含めない)とします。

3. 数の拡張は「解けない方程式」が駆動する

Section titled “3. 数の拡張は「解けない方程式」が駆動する”

数の拡張には、そのつど明確な理由があります。ある体系で書けるのに解けない方程式が現れたとき、解を持つように体系を広げるのです。

flowchart LR
N["ℕ 自然数"] -->|"x + 3 = 1"| Z["ℤ 整数"]
Z -->|"3x = 1"| Q["ℚ 有理数"]
Q -->|"x² = 2"| R["ℝ 実数"]
R -->|"x² = −1"| C["ℂ 複素数"]
数の体系と、その体系に移って初めて解ける方程式

例 3.1各段階で解けない方程式を実際に確かめる

(1) N\mathbb{N} では x+3=1x + 3 = 1 が解けない。 xNx \in \mathbb{N} なら x1x \ge 1 ですから x+34x + 3 \ge 4 となり、x+3=1x + 3 = 1 は成り立ちません。加法の逆をとる操作(減法)を自由に行えるようにしたものが Z\mathbb{Z} です。

(2) Z\mathbb{Z} では 3x=13x = 1 が解けない。 x0x \le 0 なら 3x0<13x \le 0 < 1x1x \ge 1 なら 3x3>13x \ge 3 > 1 です。xx は整数なのでこの二つ以外の場合はなく、3x=13x = 1 となる整数はありません。乗法の逆をとる操作(除法、ただし 00 を除く)を自由に行えるようにしたものが Q\mathbb{Q} です。

(3) Q\mathbb{Q} では x2=2x^2 = 2 が解けない。 これは 命題 4.2 で証明します。この欠落を埋めるのが R\mathbb{R} です。

(4) R\mathbb{R} では x2=1x^2 = -1 が解けない。 注意 2.2 で見たとおり、順序体では x0x \ne 0 のとき x2>0x^2 > 0x=0x = 0 のとき x2=0x^2 = 0 ですから、つねに x20>1x^2 \ge 0 > -1 です。この欠落を埋めるのが C\mathbb{C} ですが、同時にこの計算は「C\mathbb{C} は順序体にできない」ことも示しています。数を広げるときには、何かを得て何かを失うのです。

3.1. 拡張は「同値類」で作られる

Section titled “3.1. 拡張は「同値類」で作られる”

Z\mathbb{Z}Q\mathbb{Q} は天から降ってくるのではなく、下の体系から構成できます。Z\mathbb{Z}N×N\mathbb{N} \times \mathbb{N} の上の関係

(a,b)(c,d)    a+d=b+c(a, b) \sim (c, d) \iff a + d = b + c

による同値類として定義されます。組 (a,b)(a,b) は「aba - b のつもり」です。和は [(a,b)]+[(c,d)]:=[(a+c, b+d)][(a,b)] + [(c,d)] := [(a+c,\ b+d)] と定めますが、ここで確かめるべきことがあります。左辺は同値類だけで決まるのに、右辺は代表元 (a,b)(a,b)(c,d)(c,d) の選び方に見かけ上依存しているからです。実際には依存しません。(a,b)(a,b)(a,b) \sim (a',b') かつ (c,d)(c,d)(c,d) \sim (c',d')、すなわち a+b=b+aa + b' = b + a' かつ c+d=d+cc + d' = d + c' とすると、辺々加えて

(a+c)+(b+d)=(b+d)+(a+c)(a + c) + (b' + d') = (b + d) + (a' + c')

となり、これは (a+c, b+d)(a+c, b+d)(a+c,\ b+d) \sim (a'+c',\ b'+d') を意味します。よって和は代表元の取り方によらず定まります。この確認を「演算が well-defined である」といいます。

同様に Q\mathbb{Q}Z×(Z{0})\mathbb{Z} \times (\mathbb{Z} \setminus \{0\}) の上の (a,b)(c,d)    ad=bc(a,b) \sim (c,d) \iff ad = bc による同値類です。12\tfrac{1}{2}24\tfrac{2}{4} が同じ数だというのは、この同値関係のことでした(分数の同値関係(命題 6.1)[関係と同値関係])。同値関係と商集合の一般論は 関係と同値関係 - 「同じ」とは何か、とくに 同値類・商集合・自然な射影(定義 4.1)[関係と同値関係] を参照してください。

4. 有理数の稠密性と、それでも残る隙間

Section titled “4. 有理数の稠密性と、それでも残る隙間”

4.1. 有理数はぎっしり詰まっている

Section titled “4.1. 有理数はぎっしり詰まっている”

有理数 p<qp < q に対し r=p+q2r = \dfrac{p+q}{2} を考えます。rr は有理数で、p<rp < r2p<p+q2p < p + q すなわち p<qp < q と同値、r<qr < qp+q<2qp + q < 2q すなわち p<qp < q と同値ですから、どちらも成り立ちます。つまりどの二つの有理数の間にも別の有理数があります。これを繰り返せば、間には無限個の有理数があることになります。数直線は有理数で埋め尽くされているように見えます。

ところが、そうではありません。

4.2. 2\sqrt{2} は有理数ではない

Section titled “4.2. 2\sqrt{2}2​ は有理数ではない”

補題 4.1

整数 nn について、n2n^2 が偶数ならば nn は偶数です。

証明(補題 4.1)

対偶「nn が奇数ならば n2n^2 は奇数」を示します。nn が奇数なら、ある整数 kk を用いて n=2k+1n = 2k+1 と書けます。このとき

n2=(2k+1)2=4k2+4k+1=2(2k2+2k)+1n^2 = (2k+1)^2 = 4k^2 + 4k + 1 = 2(2k^2 + 2k) + 1

であり、2k2+2k2k^2 + 2k は整数ですから n2n^2 は奇数です。対偶が真なのでもとの命題も真です。対偶による証明が正当である理由(対偶の同値性(命題 6.1)[証明の技術])については 証明の技術 - 数学的帰納法と背理法 を参照してください。

命題 4.2√2 の無理性

x2=2x^2 = 2 を満たす有理数 xx は存在しません。

証明(命題 4.2)

背理法で示します。xQx \in \mathbb{Q}x2=2x^2 = 2 を満たすとします。xx は有理数なので整数の比で書けますが、そのうち分母が最小のものを選べば(自然数の整列性(公理 3.1)[証明の技術] による)、x=m/nx = m/nm,nm, n は整数、n1n \ge 1mmnn の最大公約数は 11、とできます。

両辺を二乗して m2/n2=2m^2 / n^2 = 2、すなわち

m2=2n2.m^2 = 2n^2 .

右辺は偶数ですから m2m^2 は偶数、補題 4.1 より mm は偶数です。そこで m=2km = 2kkk は整数)と書くと 4k2=2n24k^2 = 2n^2、両辺を 22 で割って

n2=2k2n^2 = 2k^2

を得ます。同じ理屈で n2n^2 は偶数、ふたたび 補題 4.1 より nn も偶数です。すると mmnn はともに 22 で割り切れ、最大公約数が 11 であることに反します。矛盾が生じたので、x2=2x^2 = 2 を満たす有理数は存在しません。

注意 4.3

この命題は「2\sqrt{2} が存在しない」と言っているのではありません。「Q\mathbb{Q} の中には無い」と言っているだけです。一辺 11 の正方形の対角線の長さは確かに存在します。存在するのに Q\mathbb{Q} にない。だから Q\mathbb{Q} を広げる必要がある、というのが論法の向きです。

4.3. 「隙間」を上限の言葉で正確に言う

Section titled “4.3. 「隙間」を上限の言葉で正確に言う”

「隙間がある」を、絵に頼らずに述べる必要があります。鍵になるのが上限です。

定義 4.4上界・上限

KK を順序体、AKA \subset K を空でない部分集合とします。

  • bKb \in KAA上界であるとは、任意の aAa \in A に対し aba \le b が成り立つことをいいます。上界が一つでも存在するとき、AA上に有界であるといいます。
  • sKs \in KAA上限(最小上界)であるとは、(i) ssAA の上界であり、(ii) AA の任意の上界 bb に対し sbs \le b が成り立つことをいいます。

上限は存在すれば一意です。s,ss, s' がともに上限なら、(i)(ii) を互いに適用して sss \le s' かつ sss' \le s、よって s=ss = s' となるからです。この一意な元を supA\sup A と書きます。

定理 4.5有理数体は上限性質を満たさない

A={xQx>0, x2<2}A = \{x \in \mathbb{Q} \mid x > 0,\ x^2 < 2\} とおきます。AA は空でなく、Q\mathbb{Q} の中で上に有界ですが、Q\mathbb{Q} の中に上限を持ちません。

証明(定理 4.5)

(a) AA \ne \varnothing 1>01 > 0 かつ 12=1<21^2 = 1 < 2 なので 1A1 \in A です。

(b) 22AA の上界。 xAx \in A かつ x>2x > 2 とすると、0<2<x0 < 2 < x に順序体の公理 9 を二度用いて x2>2x>4>2x^2 > 2x > 4 > 2 となり、x2<2x^2 < 2 に反します。よって任意の xAx \in A に対し x2x \le 2 です。

(c) 鍵となる変換。 正の有理数 pp に対し

q:=pp22p+2=2p+2p+2q := p - \frac{p^2 - 2}{p + 2} = \frac{2p + 2}{p + 2}

とおきます。p>0p > 0 より qq は正の有理数です。二つの等式を計算しておきます。

qp=p22p+2,q22=(2p+2)22(p+2)2(p+2)2=2p24(p+2)2=2(p22)(p+2)2.q - p = -\,\frac{p^2 - 2}{p + 2}, \qquad q^2 - 2 = \frac{(2p+2)^2 - 2(p+2)^2}{(p+2)^2} = \frac{2p^2 - 4}{(p+2)^2} = \frac{2(p^2 - 2)}{(p+2)^2}.

(第二式の分子は 4p2+8p+42p28p8=2p244p^2 + 8p + 4 - 2p^2 - 8p - 8 = 2p^2 - 4 です。)分母 (p+2)(p+2)(p+2)2(p+2)^2 は正ですから、qpq - pq22q^2 - 2 の符号は次のようになります。

  • p2<2p^2 < 2 のとき:q>pq > p かつ q2<2q^2 < 2
  • p2>2p^2 > 2 のとき:q<pq < p かつ q2>2q^2 > 2

(d) 上限が Q\mathbb{Q} に存在しないこと。 sQs \in \mathbb{Q}AA の上限だと仮定します。1A1 \in A より s1>0s \ge 1 > 0 です。命題 4.2 より s2=2s^2 = 2 はあり得ないので、s2<2s^2 < 2s2>2s^2 > 2 のいずれかです。

s2<2s^2 < 2 の場合。s>0s > 0 とあわせて sAs \in A です。(c) より q>sq > s かつ q2<2q^2 < 2q>0q > 0 なので qAq \in A。これは ssAA の上界であることに反します。

s2>2s^2 > 2 の場合。まず ss より小さい上界を作れることを見ます。(c) の qqq<sq < s かつ q2>2q^2 > 2q>0q > 0 を満たします。qqAA の上界であることは、(b) と同じ議論でわかります。実際 xAx \in Ax>q>0x > q > 0 とすると x2>q2>2x^2 > q^2 > 2 となり xAx \in A に反するので、任意の xAx \in A に対し xqx \le q です。すると qqss より小さい上界となり、上限の条件 (ii)(ss は任意の上界以下)に反します。

どちらの場合も矛盾するので、AAQ\mathbb{Q} の中に上限を持ちません。

第 4.1 節で見たように有理数は稠密です。それでもこの AA の「右端」にあたる有理数は存在しません。稠密であることと隙間がないことは別だ、というのがここでの教訓です。

0123√2 の位置ここに有理数は無いA:2 乗が 2 未満B:2 乗が 2 より大
有理数直線の切断。A と B は有理数全体を覆い尽くすが、境目に位置する有理数は存在しない

5. 実数:連続性公理で隙間を埋める

Section titled “5. 実数:連続性公理で隙間を埋める”

公理 5.1実数の連続性公理(上限性質)

実数体 R\mathbb{R} とは、次を満たす順序体のことです。

空でなく上に有界な任意の部分集合 ARA \subset \mathbb{R} は、R\mathbb{R} の中に上限 supA\sup A を持つ。

このような順序体は存在し、同型を除いてただ一つに定まります。

定理 4.5 は、Q\mathbb{Q} がこの公理を満たさないことを述べていました。つまり連続性公理こそが R\mathbb{R}Q\mathbb{Q} を分ける一点です。

注意 5.2

「存在する」という部分は、実際に作ってみせることで保証されます。代表的な構成が二つあります。

デデキントの切断。 有理数全体を、上に有界で最大元を持たない空でない下方集合 AAxAx \in A かつ y<xy < x なら yAy \in A)とその補集合の対に分けます。この AA 自身を実数と定義します。有理数 rr には Ar={xQx<r}A_r = \{x \in \mathbb{Q} \mid x < r\} が対応し、AA が有理数に対応しないとき、その切断が無理数を定義します。上限は切断の合併として得られるため、連続性公理はほぼ自動的に成り立ちます。

コーシー列。 有理数のコーシー列全体に「差が 00 に収束する」という同値関係を入れ、その商集合を実数と定義します。2\sqrt{2}1, 1.4, 1.41, 1.414,1,\ 1.4,\ 1.41,\ 1.414, \ldots という列の同値類です。ここでも和や積が代表元の取り方によらないこと(well-defined 性)の確認が要点になります。詳しくは 関係と同値関係 - 「同じ」とは何か を参照してください。あらすじは Appendix にまとめました。

二つの構成は同型な順序体を与えます。どちらの流儀を採っても、以後の議論は連続性公理だけに依存します。

例 5.3√2 を定める切断

A={xQx0 または x2<2}A = \{x \in \mathbb{Q} \mid x \le 0 \ \text{または}\ x^2 < 2\} とおきます。AA は空でなく(0A0 \in A)、上に有界です(定理 4.5 (b) より 22 が上界)。

AA に最大元がないことを確かめます。pAp \in A を任意にとります。p0p \le 0 なら 1A1 \in A かつ p<1p < 1 です。p>0p > 0 なら p2<2p^2 < 2 で、定理 4.5 (c) の q=(2p+2)/(p+2)q = (2p+2)/(p+2)q>pq > pq2<2q^2 < 2q>0q > 0 を満たすので qAq \in A かつ q>pq > p。いずれにせよ pp より大きい AA の元があり、最大元はありません。

同様に補集合 B=QAB = \mathbb{Q} \setminus A(つまり x>0x > 0 かつ x2>2x^2 > 2 なる有理数の全体。x2=2x^2 = 2命題 4.2 により起こりません)にも最小元がありません。pBp \in B に対し、同じ qqq<pq < pq2>2q^2 > 2q>0q > 0 を満たすからです。

AABBQ\mathbb{Q} を覆い尽くし、境目には何もありません。この切断そのものを一つの数と見なす、というのがデデキントの発想です。

5.1. 連続性公理から出る二つの道具

Section titled “5.1. 連続性公理から出る二つの道具”

命題 5.4アルキメデスの原理

(1) 任意の実数 xx に対し、n>xn > x を満たす自然数 nn が存在します。 (2) 任意の実数 ε>0\varepsilon > 0 に対し、1n<ε\dfrac{1}{n} < \varepsilon を満たす自然数 nn が存在します。

証明(命題 5.4)

(1) 背理法で示します。ある実数 xx について、すべての nNn \in \mathbb{N}nxn \le x を満たすとします。すると N\mathbb{N} は空でなく上に有界なので、公理 5.1 より上限 s=supNs = \sup \mathbb{N} が存在します。s1<ss - 1 < s であり、上限は最小の上界ですから s1s - 1 は上界ではありません。すなわち、ある n0Nn_0 \in \mathbb{N}n0>s1n_0 > s - 1 を満たします。このとき n0+1>sn_0 + 1 > s ですが、n0+1n_0 + 1 も自然数であり ssN\mathbb{N} の上界なので n0+1sn_0 + 1 \le s でなければなりません。矛盾です。

(2) (1) を x=1/εx = 1/\varepsilon に適用して n>1/εn > 1/\varepsilon なる nn を取ります。n>0n > 0ε>0\varepsilon > 0 より両辺に ε/n>0\varepsilon / n > 0 を掛けて(公理 9)、ε>1/n\varepsilon > 1/n を得ます。

命題 5.5有理数の稠密性

実数 a,ba, ba<ba < b を満たすとき、a<r<ba < r < b を満たす有理数 rr が存在します。

証明(命題 5.5)

ba>0b - a > 0 ですから、命題 5.4 (2) より 1n<ba\dfrac{1}{n} < b - a、すなわち 1<n(ba)1 < n(b-a) を満たす自然数 nn が取れます。

次に、m>nam > na を満たす最小の整数 mm が存在することを見ます。命題 5.4 (1) より N>naN > |na| なる自然数 NN があるので、集合 S={kZk>na}S = \{k \in \mathbb{Z} \mid k > na\} は空でなく(NSN \in S)、かつ下に N-N で押さえられています。よって SS は最小元 mm を持ちます(整数の整列性)。最小性から m1Sm - 1 \notin S、すなわち m1nam - 1 \le na です。まとめると

m1na<m.m - 1 \le na < m .

左の不等式から mna+1m \le na + 1 で、1<n(ba)1 < n(b-a) を使うと

mna+1<na+n(ba)=nb.m \le na + 1 < na + n(b - a) = nb .

したがって na<m<nbna < m < nb です。n>0n > 0 なので全体を nn で割って a<mn<ba < \dfrac{m}{n} < b を得ます。r=m/nr = m/n は有理数ですから、これが求めるものです。

定理 5.6√2 の存在

s2=2s^2 = 2 を満たす正の実数 ss がただ一つ存在します。

証明(定理 5.6)

存在。 A={xRx>0, x2<2}A = \{x \in \mathbb{R} \mid x > 0,\ x^2 < 2\} とおきます。1A1 \in A より空でなく、定理 4.5 (b) と同じ議論(そこでは有理数に限る必要はありませんでした)で 22 は上界です。よって 公理 5.1 より s=supAs = \sup A が存在し、1A1 \in A から s1>0s \ge 1 > 0 です。

s2<2s^2 < 2 と仮定します。定理 4.5 (c) の変換を実数 p=sp = s に適用すると(あの計算は順序体の演算だけを使うので実数でも有効です)、q=(2s+2)/(s+2)q = (2s+2)/(s+2)q>sq > sq2<2q^2 < 2q>0q > 0 を満たします。つまり qAq \in A かつ q>sq > s となり、ss が上界であることに反します。

s2>2s^2 > 2 と仮定します。同じ変換で q<sq < sq2>2q^2 > 2q>0q > 0 が得られ、定理 4.5 (d) と同じ議論で qqAA の上界です。ss より小さい上界が存在するので、ss が最小の上界であることに反します。

順序の公理 6 により残る可能性は s2=2s^2 = 2 だけです。

一意性。 s,t>0s, t > 0 がともに s2=t2=2s^2 = t^2 = 2 を満たすとします。sts \ne t なら、たとえば s<ts < t として公理 9 から s2<st<t2s^2 < st < t^2 となり 2<22 < 2 という矛盾が出ます。よって s=ts = t です。

Q\mathbb{Q} で失敗した議論が R\mathbb{R} で通ったのは、上限の存在を保証する 公理 5.1 を一度だけ使ったからです。連続性公理がどこで効くのかを見るには、この対比が一番わかりやすいと思います。

6. 1=0.9991 = 0.999\cdots の意味と三つの証明

Section titled “6. 1=0.999⋯1 = 0.999\cdots1=0.999⋯ の意味と三つの証明”

6.1. まず「無限小数」の意味を決める

Section titled “6.1. まず「無限小数」の意味を決める”

1=0.9991 = 0.999\cdots をめぐる議論の大半は、0.9990.999\cdots が何を指す記号なのかを決めないまま始まるために紛糾します。定義から始めましょう。

定義 6.1無限小数の値

a0Za_0 \in \mathbb{Z}、および各 k1k \ge 1 について ak{0,1,,9}a_k \in \{0, 1, \ldots, 9\} が与えられたとします。記号 a0.a1a2a3a_0.a_1a_2a_3\cdots は、部分和

sn=a0+k=1nak10k(n=1,2,)s_n = a_0 + \sum_{k=1}^{n} \frac{a_k}{10^k} \qquad (n = 1, 2, \ldots)

からなる集合 {snnN}\{s_n \mid n \in \mathbb{N}\} の上限を表すものと定めます。

この定義が意味を持つ(sup\sup が存在する)ことを確かめます。まず sn+1sn=an+1/10n+10s_{n+1} - s_n = a_{n+1}/10^{n+1} \ge 0 なので (sn)(s_n) は単調増加です。次に上に有界であることを見ます。Tn=k=1n10kT_n = \sum_{k=1}^n 10^{-k} とおくと

10TnTn=(1+101++10(n1))(101++10n)=110n10 T_n - T_n = \left(1 + 10^{-1} + \cdots + 10^{-(n-1)}\right) - \left(10^{-1} + \cdots + 10^{-n}\right) = 1 - 10^{-n}

ですから 9Tn=110n9T_n = 1 - 10^{-n}、すなわち k=1n910k=110n\sum_{k=1}^{n} 9 \cdot 10^{-k} = 1 - 10^{-n} です。ak9a_k \le 9 より

sna0+k=1n910k=a0+1110n<a0+1s_n \le a_0 + \sum_{k=1}^n \frac{9}{10^k} = a_0 + 1 - \frac{1}{10^n} < a_0 + 1

となり、a0+1a_0 + 1 が上界です。よって 公理 5.1 より上限 s=sup{sn}s = \sup\{s_n\} が存在します。

さらに sns_nss に収束します。ε>0\varepsilon > 0 を任意にとると、sε<ss - \varepsilon < s より sεs - \varepsilon は上界ではないので、ある NNsN>sεs_N > s - \varepsilon を満たします。単調性から nNn \ge N のとき sε<sNsnss - \varepsilon < s_N \le s_n \le s、したがって sns<ε|s_n - s| < \varepsilon です。以後「無限小数の値」と「部分和の極限」を同じ意味で使います。

命題 6.2等比級数

rr0r<10 \le r < 1 なる実数とします。任意の整数 n0n \ge 0 について

k=0nrk=1rn+11r\sum_{k=0}^{n} r^k = \frac{1 - r^{n+1}}{1 - r}

が成り立ち、さらに nn \to \infty のとき k=0nrk11r\displaystyle\sum_{k=0}^{n} r^k \to \frac{1}{1-r} です。

証明(命題 6.2)

有限和の公式。 Sn=k=0nrkS_n = \sum_{k=0}^n r^k とおくと

(1r)Sn=k=0nrkk=0nrk+1=k=0nrkk=1n+1rk=r0rn+1=1rn+1(1-r)S_n = \sum_{k=0}^{n} r^k - \sum_{k=0}^{n} r^{k+1} = \sum_{k=0}^{n} r^k - \sum_{k=1}^{n+1} r^{k} = r^0 - r^{n+1} = 1 - r^{n+1}

です(中間の r1,,rnr^1, \ldots, r^n が打ち消し合います)。r<1r < 1 より 1r01 - r \ne 0 なので、両辺を 1r1-r で割って公式を得ます。

rn0r^n \to 0 r=0r = 0 のときは n1n \ge 1rn=0r^n = 0 なので明らかです。0<r<10 < r < 1 とします。このとき 1/r>11/r > 1 なので 1/r=1+h1/r = 1 + hh>0h > 0 と書けます。ベルヌーイの不等式 (1+h)n1+nh(1+h)^n \ge 1 + nh が成り立ちます。実際 n=0n = 0 では両辺 11 で、(1+h)n1+nh(1+h)^n \ge 1+nh を仮定すると

(1+h)n+1=(1+h)n(1+h)(1+nh)(1+h)=1+(n+1)h+nh21+(n+1)h(1+h)^{n+1} = (1+h)^n (1+h) \ge (1+nh)(1+h) = 1 + (n+1)h + nh^2 \ge 1 + (n+1)h

となるので、数学的帰納法の原理(定理 3.2)[証明の技術] により全ての n0n \ge 0 で成立します(証明の技術 - 数学的帰納法と背理法 を参照)。ゆえに

0<rn=1(1+h)n11+nh<1nh(n1).0 < r^n = \frac{1}{(1+h)^n} \le \frac{1}{1 + nh} < \frac{1}{nh} \qquad (n \ge 1).

任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し、命題 5.4 (2) を hε>0h\varepsilon > 0 に適用すれば 1/n0<hε1/n_0 < h\varepsilon なる n0n_0 が取れ、nn0n \ge n_0 のとき rn<1/(nh)1/(n0h)<εr^n < 1/(nh) \le 1/(n_0 h) < \varepsilon です。よって rn0r^n \to 0

極限。 以上より Sn=1rn+11r101r=11rS_n = \dfrac{1 - r^{n+1}}{1-r} \to \dfrac{1 - 0}{1 - r} = \dfrac{1}{1-r} です。

定理 6.31 = 0.999…

a0=0a_0 = 0ak=9 (k1)a_k = 9\ (k \ge 1) で定まる無限小数 0.9990.999\cdots の値は 11 です。

証明(定理 6.3)

sn=k=1n910k=110ns_n = \sum_{k=1}^{n} 9 \cdot 10^{-k} = 1 - 10^{-n} とおきます(この等式は第 6.1 節で確かめました)。定義 6.1 により、示すべきは sup{snnN}=1\sup\{s_n \mid n \in \mathbb{N}\} = 1 です。三通りの道筋を与えます。

証明 1(等比級数として直接計算する)。

k=1n910k=910j=0n1(110)j\sum_{k=1}^{n} \frac{9}{10^k} = \frac{9}{10}\sum_{j=0}^{n-1} \left(\frac{1}{10}\right)^{j}

と書き直せます(k=j+1k = j+1 と置き換えました)。命題 6.2r=1/10r = 1/10 に適用すると、右辺の和は nn \to \infty のとき 111/10=109\dfrac{1}{1 - 1/10} = \dfrac{10}{9} に収束します。したがって

0.999=910109=1.0.999\cdots = \frac{9}{10} \cdot \frac{10}{9} = 1 .

証明 2(1/31/3 の 3 倍として見る)。 まず 0.333=1/30.333\cdots = 1/3 を確かめます。部分和は tn=k=1n310k=3Tn=110n3t_n = \sum_{k=1}^n 3 \cdot 10^{-k} = 3 T_n = \dfrac{1 - 10^{-n}}{3} で、10n010^{-n} \to 0命題 6.2 の途中で示しました)より tn1/3t_n \to 1/3 です。次に各 nn について

3tn=110n=sn3 t_n = 1 - 10^{-n} = s_n

が成り立ちます。左辺の極限は 313=13 \cdot \dfrac13 = 1、右辺の極限は 0.9990.999\cdots ですから、極限の一意性より 0.999=10.999\cdots = 1 です。

なお学校でよく紹介される「x=0.999x = 0.999\cdots とおくと 10x=9.99910x = 9.999\cdots、辺々引いて 9x=99x = 9」という手順も、部分和で書けば正当な議論になります。s=limsns = \lim s_n とすると 9sn=9910n99 s_n = 9 - 9 \cdot 10^{-n} \to 9 であり、他方 9sn9s9 s_n \to 9s ですから 9s=99s = 9、すなわち s=1s = 1 です。無限小数を 1010 倍する操作が「小数点を一つ右にずらす」ことに等しいという事実を、部分和の計算が肩代わりしています。

証明 3(二つの数の間に何も入らない)。 s=0.999s = 0.999\cdots とおきます。各 nnsn=110n<1s_n = 1 - 10^{-n} < 1 ですから 11{sn}\{s_n\} の上界であり、上限の最小性から s1s \le 1 です。

s<1s < 1 と仮定します。命題 5.5 より s<r<1s < r < 1 なる有理数 rr が存在します。rrr=p/qr = p/qp,qp, q は整数、q1q \ge 1)と書くと、r<1r < 1 より p<qp < q、両者は整数なので qp1q - p \ge 1 です。したがって

1r=qpq1q.1 - r = \frac{q-p}{q} \ge \frac{1}{q} .

一方、すべての nn について sns<rs_n \le s < r、すなわち 110n<r1 - 10^{-n} < r ですから 1r<10n1 - r < 10^{-n} です。二つを合わせると、すべての nn について

1q1r<110n,つまり10n<q.\frac{1}{q} \le 1 - r < \frac{1}{10^n}, \qquad \text{つまり} \qquad 10^n < q .

ところが、上で示したベルヌーイの不等式より 10n=(1+9)n1+9n>n10^n = (1+9)^n \ge 1 + 9n > n なので、n=qn = q ととれば 10q>q10^q > q となり矛盾します。よって s<1s < 1 はあり得ず、s1s \le 1 とあわせて s=1s = 1 です。

この証明は「0.9990.999\cdots11 の間には有理数が一つも入らない。異なる二つの実数の間には必ず有理数が入る。ゆえに両者は等しい」という筋を、そのまま書き下したものです。

注意 6.4

三つの証明は独立ではありません。証明 2 は 1/3=0.3331/3 = 0.333\cdots を、証明 1 と同じ等比級数の計算で正当化しています。証明 3 も、突き詰めれば 10n010^{-n} \to 0 すなわちアルキメデス性に依存します。共通の根はただ一つ、公理 5.1 です。「三つの見え方がある」と言うのが正確で、「三つの独立な根拠がある」と言うのは言い過ぎです。

逆にいえば、アルキメデス性を持たない順序体(無限小を含む体系)では、10.9991 - 0.999\cdots にあたる量が 00 でないような世界も作れます。1=0.9991 = 0.999\cdotsR\mathbb{R} という体系についての主張であり、体系を変えれば主張も変わります。

6.4. 具体例と、小数表示という「名前」

Section titled “6.4. 具体例と、小数表示という「名前」”

例 6.5循環小数を分数に直す

(1) 0.2727270.272727\cdots 部分和は k=1n27100k\sum_{k=1}^{n} 27 \cdot 100^{-k} です。命題 6.2r=1/100r = 1/100 に適用して

0.272727=27100j=0(1100)j=27100111100=2710010099=2799=311.0.272727\cdots = \frac{27}{100} \sum_{j=0}^{\infty}\left(\frac{1}{100}\right)^j = \frac{27}{100} \cdot \frac{1}{1 - \frac{1}{100}} = \frac{27}{100}\cdot\frac{100}{99} = \frac{27}{99} = \frac{3}{11}.

検算すると 3÷11=0.27273 \div 11 = 0.2727\cdots で合っています。

(2) 0.49990.4999\cdots 定義どおり部分和の極限を計算します。

0.4999=410+k=2910k=410+910011110=410+9100109=410+110=12.0.4999\cdots = \frac{4}{10} + \sum_{k=2}^{\infty} \frac{9}{10^k} = \frac{4}{10} + \frac{9}{100}\cdot\frac{1}{1 - \frac{1}{10}} = \frac{4}{10} + \frac{9}{100}\cdot\frac{10}{9} = \frac{4}{10} + \frac{1}{10} = \frac{1}{2}.

つまり 0.50.50.49990.4999\cdots は同じ実数の二つの名前です。

注意 6.6

どの実数が二通りの小数表示を持つのでしょうか。答えは、m/10km/10^km,km, k は整数、k0k \ge 0)の形に書ける数、すなわち有限小数だけです。有限小数 0.a1aj0.a_1\cdots a_jaj0a_j \ne 0)は、末尾を一つ減らして 99 を無限に続けた表示 0.a1(aj1)9990.a_1 \cdots (a_j - 1)999\cdots を必ず持ち、逆にそれ以外の実数の小数表示は一意です。

大切なのは、小数表示は実数そのものではなく実数の名前だということです。名前が二つあっても、指している対象が同じなら等しい。110.9990.999\cdots の関係は、12\tfrac1224\tfrac24 の関係と同じ種類のものです。

この一意性の話は、実数全体が可算でないことの証明(カントールの対角線論法(定理 6.3)[濃度と無限])でも効いてきます。対角線を作るときに 99 が無限に続く表示を避けるのは、まさにこの二重表示のためです。詳しくは 濃度と無限 - 無限にも大小がある を参照してください。

00 で割ってはいけない」は禁止事項の暗記ではありません。除法の定義に立ち返れば、00 による除法だけが定義できない理由がはっきりします。定義 2.1a/ba/bab1a \cdot b^{-1} と定めましたが、これは「bx=abx = a を満たす xx」を求める操作、つまり積の逆演算です。

命題 7.1一次方程式の可解性

KK を体、a,bKa, b \in K とします。

  1. 任意の xKx \in K に対し 0x=00 \cdot x = 0
  2. a0a \ne 0 ならば、方程式 ax=bax = b はただ一つの解 x=a1bx = a^{-1}b を持つ。
  3. a=0a = 0 かつ b0b \ne 0 ならば、ax=bax = b の解は存在しない。
  4. a=0a = 0 かつ b=0b = 0 ならば、KK のすべての元が ax=bax = b の解である。
証明(命題 7.1)

(1) 0=0+00 = 0 + 0 と分配法則(定義 2.1 の公理 5)より

0x=(0+0)x=0x+0x.0 \cdot x = (0 + 0)\cdot x = 0\cdot x + 0 \cdot x .

両辺に (0x)-(0 \cdot x) を加えると(加法逆元の存在、公理 2)、左辺は 00、右辺は 0x0 \cdot x となり 0=0x0 = 0 \cdot x を得ます。

(2) 存在:a(a1b)=(aa1)b=1b=ba(a^{-1}b) = (a a^{-1})b = 1 \cdot b = b(乗法の結合律と逆元・単位元、公理 3, 4)。一意性:ax=bax = b かつ ax=bax' = b とすると ax=axax = ax' で、両辺に a1a^{-1} を掛けて x=(a1a)x=(a1a)x=xx = (a^{-1}a)x = (a^{-1}a)x' = x' です。ここで a0a \ne 0a1a^{-1} の存在に不可欠でした。

(3) (1) より任意の xx0x=0b0 \cdot x = 0 \ne b ですから、解はありません。

(4) (1) より任意の xx0x=0=b0 \cdot x = 0 = b ですから、すべての元が解です。

この命題が答えそのものです。b/ab/a という記号は「ax=bax = b の唯一の解」を指すものとして意味を持ちます。ところが a=0a = 0 のときは、(3) により解が存在しない(1/01/0 の場合)か、(4) により解が多すぎて一つに決まらない(0/00/0 の場合)かのどちらかです。値を指定できないのですから、記号に意味を与えられません。「割ってはいけない」のではなく「割った結果が定義できない」のです。

例 7.2無理に定義すると何が壊れるか

(1) 体系がつぶれる。 体の公理をすべて保ったまま 01=c0^{-1} = c なる元 cc を追加できたとします。逆元の定義より 0c=10 \cdot c = 1 ですが、命題 7.1 (1) より 0c=00 \cdot c = 0 ですから 1=01 = 0 となります。すると任意の xx について

x=x1=x0=0x = x \cdot 1 = x \cdot 0 = 0

となり、その体系はただ一つの元しか持ちません。101 \ne 0 という公理 4 は、この崩壊を防ぐために置かれています。

(2) 有名な誤り。 a=ba = ba0a \ne 0)から出発します。

a2=ab,a2b2=abb2,(a+b)(ab)=b(ab).a^2 = ab,\quad a^2 - b^2 = ab - b^2,\quad (a+b)(a-b) = b(a-b) .

ここまでは正しい変形です。次に「両辺を aba - b で割る」と a+b=ba + b = ba=ba = b を使って 2b=b2b = b、そして 2=12 = 1 が出ます。誤りは ab=0a - b = 0 で割った点にあります。(a+b)(ab)=b(ab)(a+b)(a-b) = b(a-b)0=00 = 0 という正しい等式であり、そこから a+b=ba+b = b は導けません。命題 7.1 (4) が言うとおり、0x=00 \cdot x = 0xx を何も決めないからです。

注意 7.3

ここまでの議論は、すべて「公理を置く → 論理的に導く」という形をとってきました。では公理系そのものは何によって保証されるのでしょうか。この問いが 20 世紀の数学基礎論を生み、ゲーデルの不完全性定理(第一不完全性定理(定理 5.1)[ゲーデルの不完全性定理])に至ります。数学基礎論への招待 - 不完全性定理 で扱います。

演習 8.1標準

x2=3x^2 = 3 を満たす有理数は存在しないことを証明してください。まず「整数 nn について n2n^233 の倍数ならば nn33 の倍数である」を示してから、命題 4.2 と同じ筋で議論してください。

解答

補題の証明。 整数 nn33 で割った余りで場合分けします。

  • n=3kn = 3k のとき:n2=9k2=3(3k2)n^2 = 9k^2 = 3(3k^2)33 の倍数。
  • n=3k+1n = 3k+1 のとき:n2=9k2+6k+1=3(3k2+2k)+1n^2 = 9k^2 + 6k + 1 = 3(3k^2 + 2k) + 1 で余り 11
  • n=3k+2n = 3k+2 のとき:n2=9k2+12k+4=3(3k2+4k+1)+1n^2 = 9k^2 + 12k + 4 = 3(3k^2 + 4k + 1) + 1 で余り 11

したがって n2n^233 の倍数になるのは nn33 の倍数の場合だけです。

本題。 x2=3x^2 = 3 なる有理数 xx があるとし、x=m/nx = m/nm,nm, n は整数、n1n \ge 1、最大公約数 11)と既約分数で表します。両辺を二乗して m2=3n2m^2 = 3n^2。右辺は 33 の倍数なので m2m^233 の倍数、補題より m=3km = 3k と書けます。代入して 9k2=3n29k^2 = 3n^2、両辺を 33 で割って n2=3k2n^2 = 3k^2。ふたたび補題より nn33 の倍数です。すると m,nm, n がともに 33 で割り切れ、最大公約数が 11 であることに矛盾します。

演習 8.2

無限小数 0.1351351350.135135135\cdots135135 が繰り返す)の値を既約分数で表してください。定義 6.1命題 6.2 を使ってください。

解答

33 桁ずつの繰り返しなので、公比 1/10001/1000 の等比級数になります。

0.135135=k=11351000k=1351000j=0(11000)j=13510001111000=13510001000999=135999.0.135135\cdots = \sum_{k=1}^{\infty}\frac{135}{1000^{k}} = \frac{135}{1000}\sum_{j=0}^{\infty}\left(\frac{1}{1000}\right)^{j} = \frac{135}{1000}\cdot\frac{1}{1 - \frac{1}{1000}} = \frac{135}{1000}\cdot\frac{1000}{999} = \frac{135}{999}.

135=275135 = 27 \cdot 5999=2737999 = 27 \cdot 37 ですから、約分して 537\dfrac{5}{37} です。検算すると 5÷37=0.1351355 \div 37 = 0.135135\cdots となります。

演習 8.3標準

A={11n | nN}A = \left\{1 - \dfrac{1}{n} \ \middle|\ n \in \mathbb{N}\right\} とします。定義 4.4 に従って supA=1\sup A = 1 を示し、さらに AA が最大元を持たないことを示してください。

解答

11 は上界。 任意の nNn \in \mathbb{N} について 1/n>01/n > 0 ですから 11/n<11 - 1/n < 1 です。

11 は最小の上界。 bbAA の任意の上界とし、b<1b < 1 と仮定します。すると 1b>01 - b > 0 なので、命題 5.4 (2) より 1n0<1b\dfrac{1}{n_0} < 1 - b を満たす自然数 n0n_0 が存在します。この不等式を整理すると b<11n0b < 1 - \dfrac{1}{n_0} であり、右辺は AA の元ですから、bb が上界であることに反します。よって b1b \ge 1 です。以上より 11 は上界であって、かつどの上界以下なので supA=1\sup A = 1 です。

最大元がない。 AA の元 11/n1 - 1/n を任意にとると、1n+1<1n\dfrac{1}{n+1} < \dfrac{1}{n} より 11n<11n+1A1 - \dfrac{1}{n} < 1 - \dfrac{1}{n+1} \in A です。どの元よりも大きい元が AA の中にあるので、最大元は存在しません。上限が集合に属さない例になっています。

演習 8.4標準

実数 xx が「任意の自然数 nn に対して 0x<1n0 \le x < \dfrac{1}{n}」を満たすならば x=0x = 0 であることを示してください。また、この事実を使って 定理 6.3 の別証明を作ってください。

解答

前半。 x>0x > 0 と仮定します。命題 5.4 (2) を ε=x\varepsilon = x に適用すると、1n0<x\dfrac{1}{n_0} < x を満たす自然数 n0n_0 が存在します。しかし仮定より x<1n0x < \dfrac{1}{n_0} でもあるので x<xx < x となり、順序の公理 6 に反します。よって x>0x > 0 ではなく、仮定の x0x \ge 0 とあわせて x=0x = 0 です。

後半。 s=0.999s = 0.999\cdots とおきます。定理 6.3 の証明で見たとおり、部分和は sn=110ns_n = 1 - 10^{-n} で、ss はその上限ですから s1s \le 1、したがって x:=1s0x := 1 - s \ge 0 です。また ssn=110ns \ge s_n = 1 - 10^{-n} より x10nx \le 10^{-n} です。ベルヌーイの不等式から 10n1+9n>n10^n \ge 1 + 9n > n なので 10n<1n10^{-n} < \dfrac{1}{n} であり、すべての nn について 0x<1n0 \le x < \dfrac{1}{n} が成り立ちます。前半より x=0x = 0、すなわち s=1s = 1 です。

  • 高木貞治『解析概論』岩波書店 — 第 1 章「基本的な概念」。実数の連続性を上限性質として導入する古典的な記述です。
  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 第 I 章「実数と連続」。実数の公理的取り扱いと構成が丁寧に書かれています。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 1 “The Real and Complex Number Systems”。本記事の 定理 4.5 で用いた変換 q=p(p22)/(p+2)q = p - (p^2-2)/(p+2) はこの章の冒頭の議論に基づきます。
  • R. デデキント『数について — 連続性と数の本質』河野伊三郎訳、岩波文庫 — 切断による実数の定義の原典(原著 1872 年)。
  • T. Tao, Analysis I, 3rd ed., Hindustan Book Agency / Springer, 2016 — Chapter 4「Integers and rationals」および Chapter 5「The real numbers」。コーシー列による構成を、well-defined 性の確認まで省略せずに追える教科書です。

Appendix: コーシー列による実数の構成のあらすじ

Section titled “Appendix: コーシー列による実数の構成のあらすじ”

注意 5.2 で触れたもう一つの構成を、順を追って眺めておきます。細部の証明は上記の Tao の教科書などに譲りますが、どこで何を確かめる必要があるかは見て取れると思います。

第 1 段階:コーシー列を集める。 有理数の列 (xn)(x_n)有理コーシー列であるとは、任意の有理数 ε>0\varepsilon > 0 に対しある NN があって、m,nNm, n \ge N ならば xmxn<ε|x_m - x_n| < \varepsilon となることをいいます。極限という語を使わずに「先の方で項どうしが接近していく」ことだけを述べている点が要点です。極限値は Q\mathbb{Q} の中にないかもしれないので、まだ使えません。

第 2 段階:同一視する。 二つの有理コーシー列 (xn)(x_n)(yn)(y_n) が同値であることを、xnyn0|x_n - y_n| \to 0 と定めます。これが同値関係(反射律・対称律・推移律)であることを確かめます。推移律には xnznxnyn+ynzn|x_n - z_n| \le |x_n - y_n| + |y_n - z_n| という三角不等式を使います。実数とは、この同値関係による同値類のことだと定義します。1, 1.4, 1.41, 1.414, 1,\ 1.4,\ 1.41,\ 1.414,\ \ldots の同値類が 2\sqrt{2} です。

第 3 段階:演算を入れる。 和と積を [(xn)]+[(yn)]:=[(xn+yn)][(x_n)] + [(y_n)] := [(x_n + y_n)][(xn)][(yn)]:=[(xnyn)][(x_n)]\cdot[(y_n)] := [(x_n y_n)] と定めます。ここで確かめるべきことが二つあります。第一に、(xn+yn)(x_n + y_n)(xnyn)(x_n y_n) がふたたびコーシー列であること。第二に、代表元の取り方によらないこと(well-defined 性)で、第 3.1 節で Z\mathbb{Z} の和について行った確認と同じ種類の作業です。積では、コーシー列が有界であるという事実を経由します。

第 4 段階:Q\mathbb{Q} を埋め込み、順序を入れる。 有理数 rr に定数列 (r,r,r,)(r, r, r, \ldots) の同値類を対応させると、Q\mathbb{Q} が新しい体の部分体として埋め込まれます。順序は「(xn)(x_n) が最終的にある正の有理数以上になる」という条件で正の元を定めて導入します。

第 5 段階:連続性公理を確かめる。 最後に、こうして作った順序体が 公理 5.1 を満たすことを証明します。これで R\mathbb{R} が「存在する」ことが示されます。

デデキントの切断が「隙間そのものを数と呼ぶ」発想だとすれば、コーシー列は「近似列を数と呼ぶ」発想です。2\sqrt{2} を「22 乗して 22 になる何か」として名指すか、「1.4141.414\ldots と計算していく手続き」として名指すかの違いだといえます。どちらの道を通っても、たどり着く体は同型です。

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社料金プラン利用条件特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・本文の LLM への入力は自由です。コード例は MIT ライセンスです。