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L^p 空間と関数解析への導入:ヘルダーの不等式から完備性・ヒルベルト空間まで

前提:ルベーグ積分の定義と収束定理:値域を分割して極限と積分を交換する

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  • 測度空間 (X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) の上で Xfpdμ<\int_X |f|^p\,d\mu < \infty を満たす可測関数を集め、ほとんど至るところ一致する関数どうしを同一視すると、線形空間 Lp(μ)L^p(\mu) が得られます。この同一視をしないと fp=0f=0\|f\|_p = 0 \Rightarrow f = 0 が成り立たず、ノルムになりません。
  • p\|\cdot\|_p が三角不等式を満たすこと(ミンコフスキーの不等式)は p=1p = 1 以外では自明ではありません。ヤングの不等式 → ヘルダーの不等式 → ミンコフスキーの不等式という順に積み上げて証明します。
  • 1p1 \le p \le \infty のとき Lp(μ)L^p(\mu)完備、すなわちバナッハ空間です(リース–フィッシャーの定理)。完備性はルベーグ積分の収束定理から出るもので、リーマン積分の枠内では得られません。ここが微分積分学と実解析の分かれ目です。
  • p=2p = 2 のときに限り、ノルム 2\|\cdot\|_2 は内積 f,g=Xfgˉdμ\langle f,g\rangle = \int_X f\bar{g}\,d\mu から誘導されます。L2(μ)L^2(\mu) はヒルベルト空間であり、フーリエ級数論・直交射影・量子力学の状態空間はすべてここに乗ります。
  • LpL^p 空間は「関数を空間の点とみなす」最初の本格的な例です。稠密性・双対性・弱収束といった関数解析の基本語彙が、この空間の上で具体的な計算として現れます。

1. 動機 — 関数を「点」とみなすということ

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19 世紀の解析学は、関数を「変数 xx に値を対応させる規則」として扱ってきました。しかしフーリエ級数の研究が進むにつれて、別の見方が必要になります。三角級数 ncneinx\sum_{n} c_n e^{inx} が「どういう意味で」もとの関数に収束するのかを論じるには、関数の集まりの上に距離を入れて、収束を論じる舞台を作らなければなりません。つまり、関数 1 個を空間の 1 点とみなすという発想の転換です。

このとき距離をどう入れるかが問題になります。素朴には、各点での値の差の上限 supxf(x)g(x)\sup_x |f(x)-g(x)| を距離にすればよさそうです。これは一様収束の距離(一様ノルム(定義 2.1)[関数列と一様収束])であり、扱いやすい性質をたくさん持っています(関数列と一様収束 を参照してください)。しかしフーリエ級数は一般には一様収束しません。連続関数のフーリエ級数がある点で発散しうることさえ知られています。一様収束の距離は、フーリエ解析にとっては細かすぎるのです。

そこで「平均としてどれだけ違うか」を測る距離、たとえば 01fgdx\int_0^1 |f-g|\,dx(01fg2dx)1/2\bigl(\int_0^1 |f-g|^2\,dx\bigr)^{1/2} を考えます。ところが、これらの距離を連続関数やリーマン可積分関数の全体に入れると、完備でないという致命的な欠陥が現れます。

例 1.1連続関数の空間は平均距離で完備でない

C([0,1])C([0,1])[0,1][0,1] 上の実数値連続関数全体とし、距離を d(f,g)=01f(x)g(x)dxd(f,g) = \int_0^1 |f(x)-g(x)|\,dx で定めます。n3n \ge 3 に対して

fn(x)={0,0x12,n(x12),12<x<12+1n,1,12+1nx1f_n(x) = \begin{cases} 0, & 0 \le x \le \tfrac12, \\[2pt] n\bigl(x - \tfrac12\bigr), & \tfrac12 < x < \tfrac12 + \tfrac1n, \\[2pt] 1, & \tfrac12 + \tfrac1n \le x \le 1 \end{cases}

と置くと、各 fnf_n は連続です。m>nm > n のとき fmfnf_m - f_n[12,12+1n][\tfrac12, \tfrac12 + \tfrac1n] の外で 00 であり、その上で fmfn1|f_m - f_n| \le 1 ですから

d(fn,fm)1/21/2+1/n1dx=1nn0d(f_n, f_m) \le \int_{1/2}^{1/2+1/n} 1 \, dx = \frac{1}{n} \xrightarrow[n\to\infty]{} 0

となり、(fn)(f_n) はコーシー列です。ところが、この列が C([0,1])C([0,1]) の元 gg に収束したとしましょう。[0,12][0,\tfrac12] 上では fn0f_n \equiv 0 なので 01/2gdx=limn01/2gfndxlimnd(fn,g)=0\int_0^{1/2}|g| \,dx = \lim_n \int_0^{1/2} |g - f_n|\,dx \le \lim_n d(f_n,g) = 0、したがって g=0|g| = 0[0,12][0,\tfrac12] 上ほとんど至るところ成り立ちます。gg は連続なので、[0,12][0,\tfrac12] 全体で g0g \equiv 0 です(連続関数がある区間上でほとんど至るところ 00 なら、g(x0)0g(x_0)\ne0 となる点があれば連続性より x0x_0 の近傍全体で g>g(x0)/2|g| > |g(x_0)|/2 となり、正の測度の集合で g0g \ne 0 となって矛盾します)。同様に、任意の ε>0\varepsilon > 0 に対して [12+ε,1][\tfrac12+\varepsilon, 1] 上では十分大きい nnfn1f_n \equiv 1 なので g1g \equiv 1 が従い、連続性から [12,1][\tfrac12, 1] 上で g1g \equiv 1 です。すると g(12)=0g(\tfrac12) = 0 かつ g(12)=1g(\tfrac12) = 1 となって矛盾します。

つまり (C([0,1]),d)(C([0,1]), d) は完備ではありません。

この状況は、有理数体 Q\mathbb{Q} が完備でないのとまったく同じ構図です。Q\mathbb{Q} の穴を埋めて R\mathbb{R} を作ったように、関数空間の穴も埋めなければなりません(実数の完備性とコーシー列、とくに 定理 7.3[実数の完備性とコーシー列] を参照してください)。そして決定的な事実として、ルベーグ積分を使って空間を作り直すと、穴はちょうど埋まります例 1.1(fn)(f_n) の「行き先」は不連続関数 χ(1/2,1]\chi_{(1/2,1]} であり、リーマン積分でも扱えますが、一般のコーシー列の極限はリーマン可積分とは限りません。ルベーグ可測関数まで広げて初めて閉じるのです。

この事実を 1907 年にほぼ同時に発見したのが F. リースと E. フィッシャーで、以後この定理はリース–フィッシャーの定理と呼ばれています。本章の目標は、この定理を含む LpL^p 空間の基本性質を、定義から順に証明することです。

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