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くりこみ理論入門:ループ発散の正則化から、くりこみ群の流れまで

対象読者: 本テーマ第1〜4章(正準量子化・経路積分・ファインマン則)を学び、4次元運動量積分とガウス積分に慣れた人。くりこみは未習で構いません。

前提となる記事:経路積分量子化:時間分割から生成汎関数とファインマン則へ

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場の量子論で計算を進めると、答えが無限大になってしまう場面にぶつかります。この記事は、その無限大がなぜ現れ、なぜ測定できる量には影響しないのかを、最も簡単な例(ϕ4\phi^4 理論)を最後まで計算して見ていきます。読み終えると、無限大を「裸のパラメータ」に押し込む手順と、結合の強さが測るエネルギーによって変わるという事実(くりこみ群)を、式で追えるようになります。5.1 節と 5.2 節の長い証明は、結果だけ受け取って先へ進んでも第 6 節以降を読めます。

  • 摂動計算に現れる紫外発散(高エネルギー側の積分が際限なく大きくなること)は、理論が破綻していることの証拠ではありません。ラグランジアンに書き込んだ「裸のパラメータ」と、実験で測る「くりこまれたパラメータ」を取り違えたことの帰結です。
  • 手続きは 3 段階です。(1) カットオフ Λ\Lambda(積分に入れる運動量の上限)などで積分を正則化し(発散を有限に抑え)、(2) 裸のパラメータを Λ\Lambda の関数として選び直し、(3) 有限個のくりこみ条件で観測量に合わせる。これで Λ→∞\Lambda \to \infty の極限が取れます。
  • 有限個の条件で済むかどうかは、結合定数の質量次元だけで判定できます。4 次元 ϕ4\phi^4 理論では 1PI 図(1 本の線を切っても二つに分かれない図)の表面的発散次数(積分がどれだけ発散するかの目安)が D=4−ED = 4 - E となり、発散するのは外線 E=2E = 2 と E=4E = 4 の 2 種類だけです(系 5.3)。
  • くりこみ条件は必ず基準スケール μ\mu を含むので、くりこまれた結合は μ\mu に依存します。この依存性を支配するのがくりこみ群方程式(定理 6.2)とベータ関数(基準スケールを動かしたとき結合の値が変わる速さ)です。
  • 4 次元 ϕ4\phi^4 理論では β(λ)=3λ2/(16π2)>0\beta(\lambda) = 3\lambda^2/(16\pi^2) > 0 で、高エネルギーほど結合が強くなります。QCD はこの符号が逆転し、漸近的に自由になります。
  • くりこみ不可能な理論も、あるカットオフ以下でだけ通用する近似理論(有効場の理論)として完全な予言能力を持ちます。弱い相互作用のフェルミ理論がその典型です。

1. 動機 — 無限大はどこから来たのか

Section titled “1. 動機 — 無限大はどこから来たのか”

場の量子論の摂動論は、最低次では信じがたいほどうまく機能します。電子の異常磁気モーメントは木レベルで g=2g = 2、1 ループのシュウィンガー項を足すと

g−22=α2π=0.0011614…\frac{g-2}{2} = \frac{\alpha}{2\pi} = 0.0011614\ldots

となり、実測値 0.00115965…0.00115965\ldots と 3 桁一致します。ところが同じ 1 ループの範囲で電子の自己エネルギーを計算しようとすると、ループ運動量 kk についての積分が ∣k∣→∞|k| \to \infty で発散します。摂動級数の第 2 項が無限大なのですから、これは小さな技術的不都合ではありません。

この問題は 1930 年に J. R. オッペンハイマーが指摘して以来、四半世紀にわたって場の量子論の正当性そのものを脅かしました。転機は実験から来ます。1947 年、ラムとレザフォードは水素原子の 2s1/22s_{1/2} と 2p1/22p_{1/2} の縮退が約 1000 MHz1000\ \mathrm{MHz} 破れていることを測定しました(現在の値は約 1057 MHz1057\ \mathrm{MHz})。ディラック方程式はこの 2 準位を厳密に縮退させるので、これは輻射補正の直接の証拠です。ベーテはこの直後、自由電子の自己エネルギーを束縛電子のそれから差し引くという処方で、非相対論的近似のもとに 1040 MHz1040\ \mathrm{MHz} という値を得ました。差を取ると発散が消えたのです。

ここに、くりこみの発想の核心があります。発散するのは「観測できない量」であって、「観測できる量の差」ではない。1947 年から 1949 年にかけて、朝永振一郎、シュウィンガー、ファインマンがこの処方を相対論的に共変な形に整え、ダイソンが摂動論の全次数で整合的に実行できることを示しました。

1.1. 古典物理にも同じことが起こる

Section titled “1.1. 古典物理にも同じことが起こる”

無限大が量子論に特有の病だと考えるのは誤りです。古典電磁気学で半径 aa の一様帯電球の静電エネルギーは

U=35⋅e24πε0aU = \frac{3}{5}\cdot\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0 a}

で、点電荷の極限 a→0a \to 0 で発散します。このエネルギーは U/c2U/c^2 だけ電子の慣性質量に寄与するので、電子の質量は発散するはずです。しかし実験室で測れるのは「裸の質量 ++ 電磁的自己エネルギー」という和だけであり、その和は 0.511 MeV/c20.511\ \mathrm{MeV}/c^2 という有限値です。二つの項を個別に問うこと自体に意味がありません。

もっと日常的な例もあります。密度 ρ\rho の非粘性流体の中で半径 aa の球を加速すると、球は自分の質量 mm ではなく

meff=m+12ρ⋅43πa3m_{\text{eff}} = m + \tfrac{1}{2}\rho\cdot\tfrac{4}{3}\pi a^3

という有効質量を持つように振る舞います(付加質量)。流体中の実験者が測るのは常に meffm_{\text{eff}} であって mm ではありません。mm は「流体を取り去ったら測れるはずの量」ですが、真空という流体は取り去れません。

以下ではユークリッド化した 1 成分スカラー場の ϕ4\phi^4 理論を舞台にします。経路積分の構成については 経路積分量子化 を前提とします。dd 次元ユークリッド時空での作用を

S[ϕ]=∫ddx [ 12(∂μϕ)2+12m02ϕ2+λ04!ϕ4 ]S[\phi] = \int d^dx\ \Big[\ \tfrac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2 + \tfrac{1}{2}m_0^2\phi^2 + \frac{\lambda_0}{4!}\phi^4 \ \Big]

とし、生成汎関数(定義 5.1[経路積分量子化])を Z[J]=∫Dϕ e−S[ϕ]+∫JϕZ[J] = \int \mathcal{D}\phi\ e^{-S[\phi] + \int J\phi}、その対数 W[J]=ln⁡Z[J]W[J] = \ln Z[J] のルジャンドル変換を Γ[Φ]\Gamma[\Phi] と書きます。Γ[Φ]\Gamma[\Phi] の nn 階微分が 1 粒子既約(1PI)頂点関数 Γ(n)\Gamma^{(n)} で、運動量空間では

Γ[Φ]=∑n1n!∫∏i=1nddpi(2π)d (2π)dδd(∑ipi) Γ(n)(p1,…,pn) Φ(p1)⋯Φ(pn)\Gamma[\Phi] = \sum_{n}\frac{1}{n!}\int \prod_{i=1}^{n}\frac{d^dp_i}{(2\pi)^d}\ (2\pi)^d\delta^d\Big(\sum_i p_i\Big)\ \Gamma^{(n)}(p_1,\ldots,p_n)\ \Phi(p_1)\cdots\Phi(p_n)

と定義します。1PI 頂点関数とは、1 本の内線を切っても図が二つに分かれないものだけを集めた寄与のことです。ファインマン則は、内線が伝播関数 1/(k2+m02)1/(k^2+m_0^2)、頂点が −λ0-\lambda_0、独立なループごとに ∫ddk/(2π)d\int d^dk/(2\pi)^d です(相互作用項の展開とウィックの定理から出る規則です。定理 5.3[経路積分量子化])。木レベルでは Γ(2)(p)=p2+m02\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2、Γ(4)=λ0\Gamma^{(4)} = \lambda_0 となります。

添字 00 を付けた m0,λ0m_0, \lambda_0 を裸のパラメータと呼びます。これはラグランジアンに書かれた記号にすぎず、まだ何の測定値とも結び付いていない点に注意してください。

質量次元も確認しておきます。作用が無次元であることから [ϕ]=(d−2)/2[\phi] = (d-2)/2、したがって

[λ0]=d−4⋅d−22=4−d.[\lambda_0] = d - 4\cdot\frac{d-2}{2} = 4 - d .

d=4d = 4 では λ0\lambda_0 は無次元です(質量次元が相互作用の性質を分ける、という古典場の段階での議論は 注意 5.3[古典場の理論とラグランジアン] にあります)。この事実がこの記事全体を貫く主役になります。

3. 1 ループの発散を実際に取り出す

Section titled “3. 1 ループの発散を実際に取り出す”

抽象論の前に、発散がどんな形で現れるかを最後まで計算しておきます。正則化には運動量カットオフ ∣k∣<Λ|k| < \Lambda を使います。4 次元ユークリッド空間の角度積分は ∫d4k=2π2∫k3 dk\int d^4k = 2\pi^2\int k^3\,dk(S3S^3 の面積が 2π22\pi^2)なので、球対称な被積分関数 f(k2)f(k^2) に対して

∫Λd4k(2π)4f(k2)=18π2∫0Λdk k3f(k2)=116π2∫0Λ2du u f(u)\int^\Lambda \frac{d^4k}{(2\pi)^4} f(k^2) = \frac{1}{8\pi^2}\int_0^\Lambda dk\ k^3 f(k^2) = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2} du\ u\, f(u)

が成り立ちます(u=k2u = k^2 と置換しました)。この 1 本の公式で以下の積分はすべて片付きます。

補題 3.1(2 点関数の 1 ループ補正)✓

4 次元ユークリッド ϕ4\phi^4 理論を運動量カットオフ Λ\Lambda で正則化すると、Λ≫m0\Lambda\gg m_0 で

Γ(2)(p)=p2+m02+λ032π2[Λ2−m02ln⁡Λ2m02]+O(λ02, m04/Λ2)\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2 + \frac{\lambda_0}{32\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_0^2\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2}\Big] + O(\lambda_0^2,\ m_0^4/\Lambda^2)

である。特に 1 ループの補正は pp によらない。

証明(補題 3.1)

Γ(2)\Gamma^{(2)} への O(λ0)O(\lambda_0) の寄与は、1 個の頂点の 4 本の脚のうち 2 本を外線に、残る 2 本を互いに結んだ図(タドポール)です。頂点の 4 本から外線 2 本を選ぶ選び方が 4×3=124\times 3 = 12 通り、残り 2 本の結び方が 1 通りで、1/4!1/4! と合わせて対称因子 1/21/2 が残ります(この数え方の一般論は 経路積分量子化 の対称因子の注意を参照)。したがって

Γ(2)(p)=p2+m02+λ02∫Λd4k(2π)41k2+m02+O(λ02).\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2 + \frac{\lambda_0}{2}\int^\Lambda\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\frac{1}{k^2+m_0^2} + O(\lambda_0^2).

積分を実行します。

∫Λd4k(2π)41k2+m02=116π2∫0Λ2u duu+m02=116π2∫0Λ2(1−m02u+m02)du=116π2[Λ2−m02ln⁡Λ2+m02m02].\begin{aligned} \int^\Lambda\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\frac{1}{k^2+m_0^2} &= \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\frac{u\,du}{u+m_0^2} = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\Big(1 - \frac{m_0^2}{u+m_0^2}\Big)du\\ &= \frac{1}{16\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_0^2\ln\frac{\Lambda^2+m_0^2}{m_0^2}\Big]. \end{aligned}

Λ≫m0\Lambda \gg m_0 では

Γ(2)(p)=p2+m02+λ032π2[Λ2−m02ln⁡Λ2m02]+O(λ02, m04/Λ2).\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2 + \frac{\lambda_0}{32\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_0^2\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2}\Big] + O(\lambda_0^2,\ m_0^4/\Lambda^2).

例 3.2(2 点関数の 1 ループ補正(2 次発散))

補題 3.1 について、二つの点に注目してください。第一に、発散は Λ2\Lambda^2 という2 次発散です。第二に、この補正は外線運動量 pp にまったく依存しません。したがって p2p^2 の係数は 1 のままで、1 ループでは波動関数のくりこみが不要です(Zϕ=1+O(λ02)Z_\phi = 1 + O(\lambda_0^2))。

補題 3.3(バブル積分)✓

4 点関数の 1 ループ図に現れる積分

B(q2)≡∫Λd4k(2π)4 1(k2+m02)((k+q)2+m02)B(q^2) \equiv \int^\Lambda\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\ \frac{1}{(k^2+m_0^2)\big((k+q)^2+m_0^2\big)}

は、Λ→∞\Lambda\to\infty で O(m02/Λ2, q2/Λ2)O(m_0^2/\Lambda^2,\ q^2/\Lambda^2) を除いて

B(0)=116π2[ln⁡Λ2m02−1],B(q2)=116π2[ln⁡Λ2m02−1−F(q2)],F(q2)≡∫01dx ln⁡(1+x(1−x)q2m02)B(0)=\frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2} - 1\Big],\qquad B(q^2) = \frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2} - 1 - F(q^2)\Big],\qquad F(q^2) \equiv \int_0^1 dx\ \ln\Big(1 + \frac{x(1-x)q^2}{m_0^2}\Big)

である。さらに q2≫m02q^2\gg m_0^2 で F(q2)≃ln⁡(q2/m02)−2F(q^2) \simeq \ln(q^2/m_0^2) - 2。

証明(補題 3.3)

まず q=0q = 0 の場合を厳密に実行します。

B(0)=116π2∫0Λ2u du(u+m02)2=116π2∫0Λ2[1u+m02−m02(u+m02)2]du=116π2[ln⁡Λ2+m02m02+m02Λ2+m02−1]=116π2[ln⁡Λ2m02−1]+O ⁣(m02Λ2).\begin{aligned} B(0) &= \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\frac{u\,du}{(u+m_0^2)^2} = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\Big[\frac{1}{u+m_0^2} - \frac{m_0^2}{(u+m_0^2)^2}\Big]du\\ &= \frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2+m_0^2}{m_0^2} + \frac{m_0^2}{\Lambda^2+m_0^2} - 1\Big] = \frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2} - 1\Big] + O\!\Big(\frac{m_0^2}{\Lambda^2}\Big). \end{aligned}

一般の qq ではファインマン・パラメータ 1AB=∫01dx[xA+(1−x)B]2\frac{1}{AB} = \int_0^1 \frac{dx}{[xA+(1-x)B]^2} を使います。A=(k+q)2+m02A = (k+q)^2+m_0^2、B=k2+m02B = k^2+m_0^2 とすると

xA+(1−x)B=k2+2x k ⁣⋅ ⁣q+xq2+m02=(k+xq)2+Δ,Δ≡m02+x(1−x)q2xA + (1-x)B = k^2 + 2x\,k\!\cdot\! q + x q^2 + m_0^2 = (k+xq)^2 + \Delta,\qquad \Delta \equiv m_0^2 + x(1-x)q^2

なので、ℓ=k+xq\ell = k + xq と積分変数を移して

B(q2)=∫01dx∫Λd4ℓ(2π)41(ℓ2+Δ)2=116π2∫01dx [ln⁡Λ2Δ−1]+O ⁣(q2Λ2).B(q^2) = \int_0^1 dx \int^\Lambda\frac{d^4\ell}{(2\pi)^4}\frac{1}{(\ell^2+\Delta)^2} = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^1 dx\ \Big[\ln\frac{\Lambda^2}{\Delta} - 1\Big] + O\!\Big(\frac{q^2}{\Lambda^2}\Big).

Δ\Delta の定義を代入して整理すると

B(q2)=116π2[ln⁡Λ2m02−1−F(q2)],F(q2)≡∫01dx ln⁡(1+x(1−x)q2m02).B(q^2) = \frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2} - 1 - F(q^2)\Big],\qquad F(q^2) \equiv \int_0^1 dx\ \ln\Big(1 + \frac{x(1-x)q^2}{m_0^2}\Big).

q2≫m02q^2 \gg m_0^2 では ∫01ln⁡(x(1−x))dx=2∫01ln⁡x dx=−2\int_0^1\ln\big(x(1-x)\big)dx = 2\int_0^1 \ln x\,dx = -2 を使って F(q2)≃ln⁡(q2/m02)−2F(q^2) \simeq \ln(q^2/m_0^2) - 2 となります。

例 3.4(バブル積分(対数発散))

補題 3.3 の結果で、ここが決定的です。Λ\Lambda を含む項は ln⁡(Λ2/m02)\ln(\Lambda^2/m_0^2) だけで、これは外線運動量 qq に依存しません。運動量依存性はすべて有限な関数 FF に閉じ込められています。たとえば q2=4m02q^2=4m_0^2 では F=∫01ln⁡(1+4x(1−x))dxF=\int_0^1\ln\bigl(1+4x(1-x)\bigr)dx で、発散を含む部分と運動量に依存する有限部分がきれいに分かれています。

命題 3.5(4 点頂点関数の 1 ループ表式)✓

4 次元ユークリッド ϕ4\phi^4 理論を運動量カットオフ Λ\Lambda で正則化する。4 本の外線運動量をすべて流入向きに取り p1+p2+p3+p4=0p_1+p_2+p_3+p_4 = 0 とし、

s=(p1+p2)2,t=(p1+p3)2,u=(p1+p4)2s = (p_1+p_2)^2,\qquad t = (p_1+p_3)^2,\qquad u = (p_1+p_4)^2

とおく。このとき 4 点 1PI 頂点関数は

Γ(4)(p1,…,p4)=λ0−λ022[B(s)+B(t)+B(u)]+O(λ03)\Gamma^{(4)}(p_1,\ldots,p_4) = \lambda_0 - \frac{\lambda_0^2}{2}\big[B(s)+B(t)+B(u)\big] + O(\lambda_0^3)

であり、BB は 補題 3.3 の積分である。

次の証明は、係数 1/21/2 がどこから来るかを数え上げで確かめる部分です。数え方が細かいので、結果の形(ss, tt, uu という 3 通りの外線の組み分けの和)だけ先に受け取って、あとで戻ってもかまいません。

証明(命題 3.5)

O(λ02)O(\lambda_0^2) の 1PI 図は、2 個の頂点を 2 本の内線で結び、各頂点に外線を 2 本ずつ付けたものです。外線 4 本を 2 個ずつに分ける分け方が 3 通りあり、これが ss, tt, uu チャネルに対応します。

係数を数えます。摂動展開の 2 次の項は 12!(λ04!)2\frac{1}{2!}\big(\frac{\lambda_0}{4!}\big)^2 を伴います。ss チャネル(外線 1,21,2 が同じ頂点に付く)の縮約数は、外線 1,21,2 をどちらの頂点に付けるかで 22 通り、その頂点の 4 本の脚から 2 本を選んで割り当てる仕方が 4⋅3=124\cdot 3 = 12 通り、もう一方の頂点で外線 3,43,4 を割り当てる仕方が 1212 通り、残った各頂点 2 本ずつの脚を結ぶ仕方が 22 通りで、合計 2⋅12⋅12⋅2=5762\cdot 12\cdot 12\cdot 2 = 576 通りです。したがって係数は

12!⋅1(4!)2⋅576=5762⋅576=12\frac{1}{2!}\cdot\frac{1}{(4!)^2}\cdot 576 = \frac{576}{2\cdot 576} = \frac{1}{2}

となり、ss チャネルの寄与は λ02B(s)/2\lambda_0^2 B(s)/2 の大きさを持ちます。符号は、e−Sinte^{-S_{\text{int}}} の展開で頂点が偶数個現れることと、Γ(4)\Gamma^{(4)} が切断された連結 4 点関数の符号を反転したものであることから、木レベルの +λ0+\lambda_0 に対して −- になります。tt, uu チャネルも同様なので主張を得ます。

4. くりこみ — 裸のパラメータに発散を吸収する

Section titled “4. くりこみ — 裸のパラメータに発散を吸収する”

定義 4.1(裸のパラメータとくりこまれたパラメータ)↗

正則化された理論において、作用に現れる m0,λ0m_0, \lambda_0 および場の正規化を裸の量と呼ぶ。これに対し、指定した運動量点での頂点関数の値によって定義される量

mR2,λR,ϕR=Zϕ−1/2ϕ0m_R^2,\quad \lambda_R,\quad \phi_R = Z_\phi^{-1/2}\phi_0

をくりこまれた量と呼び、m0,λ0,Zϕm_0, \lambda_0, Z_\phi を mR,λRm_R, \lambda_R と正則化パラメータ(Λ\Lambda など)の関数として定める式をくりこみ条件と呼ぶ。くりこまれた量を固定したまま正則化を外す極限(Λ→∞\Lambda \to \infty)が存在し、そこで全ての 1PI 関数が有限になるとき、理論はその次数でくりこまれたという。

場まで ZϕZ_\phi でくりこむのは、相互作用があると ϕ\phi の運動項の係数も量子補正を受けて 1 からずれうるので、その分を場の定義の側に取り込む余地を残すためです。この記事の 1 ループでは補正が pp によらないので Zϕ=1Z_\phi = 1 のままで済みます(例 3.2)。

くりこみ条件は物理から決まるものではなく、こちらが選ぶ約束(くりこみスキーム)です。ここでは最も見やすい零運動量条件

Γ(2)(p)∣p2=0=mR2,∂Γ(2)∂p2∣p2=0=1,Γ(4)(0,0,0,0)=λR\Gamma^{(2)}(p)\big|_{p^2=0} = m_R^2,\qquad \frac{\partial\Gamma^{(2)}}{\partial p^2}\Big|_{p^2=0} = 1,\qquad \Gamma^{(4)}(0,0,0,0) = \lambda_R

を採用します。mRm_R と λR\lambda_R は「そう測定された量」であり、Λ\Lambda に依存しない有限な数です。

定理 4.2(1 ループでのくりこみ)✓

4 次元ユークリッド ϕ4\phi^4 理論を運動量カットオフ Λ\Lambda で正則化し、Λ≫mR\Lambda \gg m_R とする。裸のパラメータを

m02(Λ)=mR2−λR32π2[Λ2−mR2ln⁡Λ2mR2]+O(λR2),λ0(Λ)=λR+3λR232π2[ln⁡Λ2mR2−1]+O(λR3)\begin{gathered} m_0^2(\Lambda) = m_R^2 - \frac{\lambda_R}{32\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_R^2\ln\frac{\Lambda^2}{m_R^2}\Big] + O(\lambda_R^2),\\ \lambda_0(\Lambda) = \lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{32\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_R^2} - 1\Big] + O(\lambda_R^3) \end{gathered}

と選べば、上の 3 つのくりこみ条件が O(λR2)O(\lambda_R^2) まで満たされ、さらに任意の外線運動量に対して

Γ(2)(p)=p2+mR2+O(λR2),Γ(4)(p1,…,p4)=λR+λR232π2[F(s)+F(t)+F(u)]+O(λR3),F(q2)=∫01dx ln⁡(1+x(1−x)q2mR2)\begin{gathered} \Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_R^2 + O(\lambda_R^2),\\ \Gamma^{(4)}(p_1,\ldots,p_4) = \lambda_R + \frac{\lambda_R^2}{32\pi^2}\big[F(s)+F(t)+F(u)\big] + O(\lambda_R^3),\\ F(q^2) = \int_0^1 dx\,\ln\Big(1+\frac{x(1-x)q^2}{m_R^2}\Big) \end{gathered}

が成り立つ。右辺は Λ\Lambda を含まず、Λ→∞\Lambda \to \infty で有限な極限を持つ。

証明(定理 4.2)

2 点関数。 補題 3.1 より Γ(2)(p)=p2+m02+λ032π2[Λ2−m02ln⁡(Λ2/m02)]+O(λ02)\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2 + \frac{\lambda_0}{32\pi^2}\big[\Lambda^2 - m_0^2\ln(\Lambda^2/m_0^2)\big] + O(\lambda_0^2) です。p2=0p^2 = 0 とおいて mR2m_R^2 に等しいと要求すると

m02=mR2−λ032π2[Λ2−m02ln⁡Λ2m02].m_0^2 = m_R^2 - \frac{\lambda_0}{32\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_0^2\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2}\Big].

右辺の補正項はすでに O(λ)O(\lambda) なので、その中の λ0,m0\lambda_0, m_0 を λR,mR\lambda_R, m_R で置き換えて生じる差は O(λR2)O(\lambda_R^2) であり、主張の精度では無視できます。これで第 1 式を得ます。補正項が pp に依存しないので、Γ(2)(p)−Γ(2)(0)=p2\Gamma^{(2)}(p) - \Gamma^{(2)}(0) = p^2 が厳密に成り立ち、条件 ∂Γ(2)/∂p2=1\partial\Gamma^{(2)}/\partial p^2 = 1 は自動的に満たされます。よって Γ(2)(p)=p2+mR2+O(λR2)\Gamma^{(2)}(p) = p^2+m_R^2 + O(\lambda_R^2) です。

4 点関数。 命題 3.5 と 補題 3.3 より、零運動量では B(0)=116π2[ln⁡(Λ2/m02)−1]B(0) = \frac{1}{16\pi^2}\big[\ln(\Lambda^2/m_0^2)-1\big] なので

Γ(4)(0)=λ0−3λ022B(0)=λ0−3λ0232π2[ln⁡Λ2m02−1].\Gamma^{(4)}(0) = \lambda_0 - \frac{3\lambda_0^2}{2}B(0) = \lambda_0 - \frac{3\lambda_0^2}{32\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2}-1\Big].

これを λR\lambda_R に等しいと置いて λ0\lambda_0 について解けば(同じく O(λ2)O(\lambda^2) の項の中では λ0→λR\lambda_0 \to \lambda_R, m0→mRm_0 \to m_R と置き換えてよい)第 2 式が出ます。

Λ\Lambda 依存性の相殺。 得られた λ0\lambda_0 を 命題 3.5 に代入します。

Γ(4)(pi)={λR+3λR22B(0)}−λR22[B(s)+B(t)+B(u)]+O(λR3)=λR−λR22[(B(s)−B(0))+(B(t)−B(0))+(B(u)−B(0))]+O(λR3).\begin{aligned} \Gamma^{(4)}(p_i) &= \Big\{\lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{2}B(0)\Big\} - \frac{\lambda_R^2}{2}\big[B(s)+B(t)+B(u)\big] + O(\lambda_R^3)\\ &= \lambda_R - \frac{\lambda_R^2}{2}\Big[\big(B(s)-B(0)\big)+\big(B(t)-B(0)\big)+\big(B(u)-B(0)\big)\Big] + O(\lambda_R^3). \end{aligned}

補題 3.3 の表式で ln⁡(Λ2/m02)\ln(\Lambda^2/m_0^2) の項は qq に依らないので差を取ると消え、B(q2)−B(0)=−F(q2)/(16π2)B(q^2)-B(0) = -F(q^2)/(16\pi^2) が残ります。これを代入すると

Γ(4)(pi)=λR+λR232π2[F(s)+F(t)+F(u)]+O(λR3)\Gamma^{(4)}(p_i) = \lambda_R + \frac{\lambda_R^2}{32\pi^2}\big[F(s)+F(t)+F(u)\big] + O(\lambda_R^3)

となり、Λ\Lambda は完全に消えました。FF は有限なので Λ→∞\Lambda \to \infty の極限が存在します。

この定理の内容を、意味の順に読み直しておきます。

  1. 裸のパラメータは発散する。 Λ→∞\Lambda \to \infty で m02→−∞m_0^2 \to -\infty、λ0→+∞\lambda_0 \to +\infty です。しかし m0,λ0m_0, \lambda_0 は測定できないので、これは何も困りません。
  2. 測れる量は有限。 Γ(2)\Gamma^{(2)} と Γ(4)\Gamma^{(4)} は mR,λRm_R, \lambda_R と外線運動量だけで書けます。
  3. 予言が残る。 2 つの測定値(mRm_R と λR\lambda_R)を入力すれば、Γ(4)\Gamma^{(4)} の運動量依存性は理論が決めます。これは調整の余地がない予言です。FF が q2q^2 の増加関数であることから、散乱の実効的な結合は高エネルギーほど強くなると分かります。
くりこみの手順。発散した級数を有限の予言に変える流れ

注意 4.3

質量の補正には Λ2\Lambda^2 という 2 次発散が現れました(例 3.2)。対数発散と違い、これはカットオフに極端に敏感です。Λ\Lambda を物理的な新現象のスケールと読むなら、スカラー場の質量二乗は「新しい物理のスケールの二乗」に自然に引き上げられるはずだ、ということになります。ヒッグス粒子の質量 125 GeV125\ \mathrm{GeV} がプランクスケール 1019 GeV10^{19}\ \mathrm{GeV} よりはるかに小さい理由を問うのが階層性問題で、その源はまさにこの式です。演習 8.2 で数値を確かめてください。フェルミオンの質量はカイラル対称性、ゲージボソンの質量はゲージ対称性(命題 3.5[ゲージ理論と自発的対称性の破れ])に守られて対数発散に留まるので、この問題はスカラーに特有です。

5. どの理論が救えるのか — 次元による数え上げ

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定理 4.2 では 2 個のパラメータを調整するだけで済みました。これはたまたまではありません。何個のパラメータが必要かは、積分の紫外での振る舞いを数えるだけで分かります。

定義 5.1(表面的発散次数)↗

連結ファインマン図 GG に対し、すべてのループ運動量を一斉に k→σkk \to \sigma k とスケールしたとき、被積分関数と測度の積が σ→∞\sigma \to \infty で σD(G)\sigma^{D(G)} のように振る舞う指数 D(G)D(G) を、GG の表面的発散次数と呼ぶ。LL 個のループ、II 本の内線を持つスカラー場の図では

D(G)=dL−2ID(G) = dL - 2I

である。D≥0D \ge 0 なら図全体の積分は発散する。

「表面的」と付くのは、D<0D < 0 でも部分図(サブダイアグラム)が発散すれば全体は発散しうるからです。この点は後で 定理 5.8(部分図まで負なら収束する)と 定理 5.10(部分図の発散を差し引く)として補います。

命題 5.2(スカラー場の理論の次数勘定)✓

dd 次元時空の 1 成分スカラー場の理論で、相互作用項が ∑igini!ϕni\sum_i \frac{g_i}{n_i!}\phi^{n_i} の形をしているとする。EE 本の外線を持つ 1PI 図 GG が、種類 ii の頂点を ViV_i 個含むとき、その表面的発散次数は

D(G)=d−d−22E−∑iVi δi,δi≡[gi]=d−d−22niD(G) = d - \frac{d-2}{2}E - \sum_i V_i\,\delta_i,\qquad \delta_i \equiv [g_i] = d - \frac{d-2}{2}n_i

で与えられる。ここで [gi][g_i] は結合定数 gig_i の質量次元である。

証明(命題 5.2)

記号を揃えます。図 GG の内線数を II、ループ数を LL、頂点の総数を V=∑iViV = \sum_i V_i とします。

(a) ループ数。 各内線に運動量を割り当てると独立変数は II 個、各頂点で運動量保存が 1 本ずつ課されて VV 個の条件、ただしそのうち 1 本は全体の運動量保存(外線だけで書ける)なので独立な条件は V−1V-1 個です。よって

L=I−V+1.L = I - V + 1 .

(b) 脚の数え上げ。 頂点の脚は全部で ∑iniVi\sum_i n_i V_i 本あり、その各々は外線になるか、内線の端点になるかのどちらかです。内線は端点を 2 つ持つので

∑iniVi=E+2I⟹I=12(∑iniVi−E).\sum_i n_i V_i = E + 2I \quad\Longrightarrow\quad I = \frac{1}{2}\Big(\sum_i n_i V_i - E\Big).

(c) 代入。 定義 5.1 の D=dL−2ID = dL - 2I に (a) を入れると

D=d(I−V+1)−2I=(d−2)I−dV+d.D = d(I-V+1) - 2I = (d-2)I - dV + d .

ここに (b) を代入して

D=d−22(∑iniVi−E)−d∑iVi+d=d−d−22E+∑iVi(d−22ni−d)=d−d−22E−∑iVi(d−d−22ni).\begin{aligned} D &= \frac{d-2}{2}\Big(\sum_i n_i V_i - E\Big) - d\sum_i V_i + d\\ &= d - \frac{d-2}{2}E + \sum_i V_i\Big(\frac{d-2}{2}n_i - d\Big) = d - \frac{d-2}{2}E - \sum_i V_i\Big(d - \frac{d-2}{2}n_i\Big). \end{aligned}

最後に、相互作用項 giϕnig_i\phi^{n_i} を含む作用が無次元であることから [gi]+ni[ϕ]=d[g_i] + n_i[\phi] = d、すなわち [ϕ]=(d−2)/2[\phi] = (d-2)/2 を使って [gi]=d−d−22ni=δi[g_i] = d - \frac{d-2}{2}n_i = \delta_i です。これで主張の形になりました。

系 5.3(4 次元 φ⁴ 理論では発散は 2 種類だけ)✓

d=4d = 4 の ϕ4\phi^4 理論では、EE 本の外線を持つ任意の 1PI 図の表面的発散次数は、ループ数にも頂点数にもよらず

D=4−ED = 4 - E

である。したがって表面的に発散するのは E=2E = 2(D=2D = 2)と E=4E = 4(D=0D = 0)の場合だけであり、EE が奇数の 1PI 関数は ϕ→−ϕ\phi \to -\phi 対称性により恒等的に消える。

証明(系 5.3)

d=4d = 4, n=4n = 4 なので 命題 5.2 の δ=4−4−22⋅4=4−4=0\delta = 4 - \frac{4-2}{2}\cdot 4 = 4-4 = 0 です。また d−22=1\frac{d-2}{2} = 1 です。これらを代入すると D=4−E−∑iVi⋅0=4−ED = 4 - E - \sum_i V_i\cdot 0 = 4 - E となります。VV に依存しないことが要点です。奇数の EE については、作用が ϕ→−ϕ\phi \to -\phi で不変であり、頂点は常に偶数本の脚を持つので、奇数本の外線を持つ図を作れません。

この系が意味することは重大です。摂動の何次に行っても、Λ\Lambda 依存性が現れる関数は Γ(2)\Gamma^{(2)} と Γ(4)\Gamma^{(4)} の 2 つだけです。Γ(2)\Gamma^{(2)} の発散は Λ2\Lambda^2(定数部分)と ln⁡Λ\ln\Lambda(p2p^2 の係数)の 2 種類、Γ(4)\Gamma^{(4)} の発散は ln⁡Λ\ln\Lambda(定数部分)の 1 種類で、合計 3 個の量です。これらをそれぞれ m02m_0^2、ZϕZ_\phi、λ0\lambda_0 という 3 個の裸の量に吸収させれば、全次数で有限化できます。発散の種類が有限個であることが、くりこみ可能性の実質です。

定義 5.4(くりこみ可能性の分類)↗

dd 次元で相互作用 g Og\,\mathcal{O}(O\mathcal{O} は場とその微分の積)を持つ理論を、結合定数の質量次元 [g][g] によって次のように分類する。

[g][g]呼び名高次で発散する関数の種類
[g]>0[g] > 0超くりこみ可能有限個の図だけが発散する
[g]=0[g] = 0くりこみ可能(周辺的)有限個の関数が全次数で発散する
[g]<0[g] < 0くりこみ不可能次数を上げるほど発散する関数の種類が増える

分類の根拠は 命題 5.2 です。D=d−d−22E−∑iViδiD = d - \frac{d-2}{2}E - \sum_i V_i\delta_i において、δi<0\delta_i < 0 なら ViV_i を増やすほど DD が大きくなるので、外線をいくら増やしても発散する図が作れてしまいます。逆に δi>0\delta_i > 0 なら ViV_i を増やすほど DD が下がり、発散する図は低次の有限個に限られます。

d=4d = 4 での代表例を挙げます(フェルミオンは [ψ]=3/2[\psi] = 3/2、ゲージ場は [Aμ]=1[A_\mu] = 1)。

相互作用結合定数の質量次元分類
ϕ3\phi^3+1+1超くりこみ可能
ϕ4\phi^400くりこみ可能
ϕ6\phi^6−2-2くりこみ不可能
湯川 g ψˉψϕg\,\bar\psi\psi\phi00くりこみ可能
QED e ψˉγμψAμe\,\bar\psi\gamma^\mu\psi A_\mu00くりこみ可能
フェルミ GF(ψˉψ)2G_F(\bar\psi\psi)^2−2-2くりこみ不可能
一般相対論 R/(16πGN)R/(16\pi G_N)−2-2くりこみ不可能

標準模型の相互作用がすべて [g]≥0[g] \ge 0 に収まっているのは、偶然ではなく必然です。この点は §7 で有効場の理論の言葉で説明します。

「表面的」な数え上げを本物の収束定理にするには、部分図の発散を調べる必要があります。ここでは質量のあるユークリッドのスカラー場について、それを完全に証明します。

以下の定義と補題は、ファインマン図を「点と線でできたグラフ」として扱うための準備です。全域木はすべての頂点をつなぐ閉路のない部分、弦はそのとき木から外れた辺で、弦の数がループの数になります。物理から離れて見えますが、目的は一つで、積分が収束する条件を図の部分ごとに数えて確かめることです。証明が長いので、定理(定理 5.8)の主張だけ読んで 5.2 節へ進んでもかまいません。

定義 5.5(グラフの記号とユークリッドのファインマン積分)↗

GG を有限な連結グラフ(多重辺と自己ループを許す)とし、頂点の集合を VV、内線の集合を EE(∣E∣=I|E|=I、各辺に向きを固定)とする。

  1. 辺の部分集合 S⊂ES\subset E について、全頂点と SS からなるグラフ (V,S)(V,S) の連結成分の個数を c(S)c(S) とし、L(S)=∣S∣−∣V∣+c(S)L(S)=|S|-|V|+c(S)(ループ数)、ω(S)=dL(S)−2∣S∣\omega(S)=dL(S)-2|S| と置く。L=L(E)=I−∣V∣+1L=L(E)=I-|V|+1 で、ω(E)\omega(E) は 定義 5.1 の D(G)D(G) である。
  2. S≠∅S\ne\emptyset で、SS の辺とその端点からなるグラフが連結で、どの 1 辺を除いても連結なままであるとき、SS を 1PI 部分グラフという。
  3. 各頂点 vv に外運動量 pv∈Rdp_v\in\mathbb{R}^d(∑vpv=0\sum_vp_v=0)を与える。q=(qe)e∈E∈(Rd)Eq=(q_e)_{e\in E}\in(\mathbb{R}^d)^E が各頂点で保存則 ∑eεveqe=pv\sum_e\varepsilon_{ve}q_e=p_v を満たすとき許容という。ここで εve\varepsilon_{ve} は、ee が vv から出て他の頂点に入るなら +1+1、他の頂点から vv に入るなら −1-1、それ以外(自己ループを含む)は 00 である。
  4. 全域木 T0T_0 を固定し、T0T_0 に属さない辺(弦)を e1,…,eLe_1,\dots,e_L とする。m>0m>0 に対し
IG(p)=∫(Rd)L∏e∈E1qe2+m2 ∏l=1Lddkl(2π)dI_G(p)=\int_{(\mathbb{R}^d)^L}\prod_{e\in E}\frac{1}{q_e^2+m^2}\ \prod_{l=1}^L\frac{d^dk_l}{(2\pi)^d}

をユークリッドのファインマン積分という。qq は qel=klq_{e_l}=k_l を満たす許容な割り当てである(次の補題)。

補題 5.6(運動量の流し方)✓

  1. 弦の値 k=(kl)k=(k_l) を任意に与えると、qel=klq_{e_l}=k_l を満たす許容な割り当て qq がただ 1 つあり、qe=∑lcelkl+qe0(p)q_e=\sum_lc_{el}k_l+q^0_e(p)(cel∈{0,±1}c_{el}\in\{0,\pm1\}、q0q^0 は pp の線形関数)と書ける。
  2. TT を任意の全域木、S=E∖TS=E\setminus T とすると、∣S∣=L|S|=L で、整数行列 CS=(cel)e∈S, 1≤l≤LC_S=(c_{el})_{e\in S,\,1\le l\le L} は正則である。
証明(補題 5.6)

森の上の循環は 0。 p=0p=0 の保存則を満たす qq(循環)で、qe≠0q_e\ne0 となる辺の集合 FF が閉路を含まない(森である)ものは 00 です。実際 F≠∅F\ne\emptyset なら、FF の中で次数 11 の頂点 vv(葉)があり、vv での保存則には FF の辺が 1 本しか現れないので、その辺の値は 00 となり矛盾します。

1. 弦 ele_l を T0T_0 に加えると閉路がただ 1 つでき(ele_l が自己ループならそれ自身)、その閉路を ele_l の向きに一周したとき、辺の向きが同じなら +1+1、逆なら −1-1、閉路にない辺は 00 とした c(l)c^{(l)} は循環で、cel′(l)=δll′c^{(l)}_{e_{l'}}=\delta_{ll'} です。また T0T_0 の辺 ee を除くと木は 2 つに分かれ、一方を DeD_e として、DeD_e の頂点の外運動量の和に、ee が DeD_e に入るか出るかで符号 ∓\mp をつけたものを qe0q^0_e、弦では qe0=0q^0_e=0 とします(DeD_e を根の反対側に取る)。頂点 vv での保存則の左辺は、vv を含む DeD_e の寄与の和から vv 以外の頂点の分が打ち消し合って pvp_v になるので、q0q^0 は許容です。q=q0+∑lklc(l)q=q^0+\sum_lk_lc^{(l)} が求める割り当てで、一意性は 2 つの差が T0T_0 の上の循環であることと前段からです。

2. ∣S∣=∣E∣−(∣V∣−1)=L|S|=|E|-(|V|-1)=L です。CSk=0C_Sk=0 なら、循環 ∑lklc(l)\sum_lk_lc^{(l)} は SS の上で 00、すなわち木 TT の上に台を持つので 00 で、その弦成分 klk_l も 00 です。よって正方行列 CSC_S は単射、したがって正則です。

補題 5.7(1PI 部分グラフの次数から一般の部分グラフへ)✓

GG のすべての 1PI 部分グラフ γ\gamma について ω(γ)<0\omega(\gamma)<0 ならば、L(S)≥1L(S)\ge1 を満たす任意の S⊂ES\subset E について ω(S)<0\omega(S)<0 である。

証明(補題 5.7)

グラフに辺を 1 本加えると、2 つの連結成分がつながる(cc が 11 減り LL は不変)か、同じ成分の中に閉路ができる(cc は不変で LL が 11 増える)かのどちらかです。(V,S)(V,S) のどの閉路にも含まれない辺を橋と呼ぶと、橋を除いても cc が 11 増えて LL は変わらず、ω\omega は 22 増えます。閉路は橋を含まないので、橋をすべて除いた S′S' でも L(S′)=L(S)L(S')=L(S)、ω(S)≤ω(S′)\omega(S)\le\omega(S') で、(V,S′)(V,S') の各辺はある閉路に含まれます。したがって (V,S′)(V,S') の辺を持つ連結成分の辺集合は、どの 1 辺を除いても連結なままで、1PI 部分グラフです。LL と辺の個数は連結成分について加法的なので ω(S′)\omega(S') はそれらの成分の ω\omega の和で、L(S′)≥1L(S')\ge1 から少なくとも 1 つの成分があり、すべて負なので ω(S)≤ω(S′)<0\omega(S)\le\omega(S')<0 です。

定理 5.8(Weinberg の収束定理(質量のあるユークリッドのスカラー場))✓

d≥1d\ge1、m>0m>0 とし、連結グラフ GG のループ数を L≥1L\ge1 とする。GG のすべての 1PI 部分グラフ γ\gamma(GG が 1PI なら GG 自身も含む)について ω(γ)<0\omega(\gamma)<0 ならば、すべての外運動量 pp について IG(p)I_G(p) の被積分関数は (Rd)L(\mathbb{R}^d)^L 上で可積分で、0<IG(p)≤IG(0)<∞0<I_G(p)\le I_G(0)<\infty である。

証明(定理 5.8)

(a) Schwinger 表示。 1q2+m2=∫0∞e−α(q2+m2)dα\frac{1}{q^2+m^2}=\int_0^\infty e^{-\alpha(q^2+m^2)}d\alpha で、被積分関数はすべて正なので、Tonelli の定理(定理 3.3[直積測度と Fubini–Tonelli の定理])により積分の順序を交換できます。

(2π)dLIG(p)=∫(0,∞)Ee−m2∑eαe(∫(Rd)Le−∑eαeqe2 ddLk)dα.(2\pi)^{dL}I_G(p)=\int_{(0,\infty)^E}e^{-m^2\sum_e\alpha_e}\Bigl(\int_{(\mathbb{R}^d)^L}e^{-\sum_e\alpha_eq_e^2}\,d^{dL}k\Bigr)d\alpha .

(b) Gauss 積分。 補題 5.6 の 1 から、∑eαeqe2\sum_e\alpha_eq_e^2 は dd 個の成分ごとに kk の 2 次式で、2 次の部分は ∑l,l′All′kl⋅kl′\sum_{l,l'}A_{ll'}k_l\cdot k_{l'}、A=CTDαCA=C^{\mathsf T}D_\alpha C(C=(cel)C=(c_{el})、Dα=diag(αe)D_\alpha=\mathrm{diag}(\alpha_e))です。CC は弦の行が単位行列なので Ck=0Ck=0 なら k=0k=0 で、AA は正定値です。2 次式 ∑eαeqe2\sum_e\alpha_eq_e^2 は非負なので、平方完成したときの定数項(最小値)は非負で、平行移動と、正定値 2 次形式の Gauss 積分 ∫RLe−⟨Ax,x⟩dx=πL/2(det⁡A)−1/2\int_{\mathbb{R}^L}e^{-\langle Ax,x\rangle}dx=\pi^{L/2}(\det A)^{-1/2}(AA を直交行列で対角化し(系 4.3[スペクトル定理])、線形変数変換(系 3.5[ℝ^d の変数変換公式と極座標] の 3)と Tonelli の定理で 1 次元の Gauss 積分(定理 3.3[広義積分・パラメータ積分とガンマ関数])の積にする)を dd 個の成分ごとに使うと、内側の積分は (πL/det⁡A)d/2e−(最小値)≤(πL/det⁡A)d/2(\pi^L/\det A)^{d/2}e^{-(\text{最小値})}\le(\pi^L/\det A)^{d/2}、p=0p=0 では等号です(q0=0q^0=0 で最小値 00)。よって 0<IG(p)≤IG(0)0<I_G(p)\le I_G(0) で、

IG(0)=(4π)−dL/2∫(0,∞)Ee−m2∑eαe(det⁡A)−d/2 dαI_G(0)=(4\pi)^{-dL/2}\int_{(0,\infty)^E}e^{-m^2\sum_e\alpha_e}(\det A)^{-d/2}\,d\alpha

が有限であることを示せば十分です。

(c) 行列式の下からの評価。 全域木 TT と S=E∖TS=E\setminus T について、A=∑eαececeTA=\sum_e\alpha_ec_ec_e^{\mathsf T}(cec_e は CC の第 ee 行)から A≥B:=CSTDα,SCSA\ge B:=C_S^{\mathsf T}D_{\alpha,S}C_S(Dα,S=diag(αe)e∈SD_{\alpha,S}=\mathrm{diag}(\alpha_e)_{e\in S})です。補題 5.6 の 2 から BB は正定値で det⁡B=(det⁡CS)2∏e∈Sαe≥∏e∈Sαe\det B=(\det C_S)^2\prod_{e\in S}\alpha_e\ge\prod_{e\in S}\alpha_e(det⁡CS\det C_S は 00 でない整数)。B−1/2AB−1/2≥1B^{-1/2}AB^{-1/2}\ge1 の固有値は 11 以上なので det⁡A≥det⁡B\det A\ge\det B、すなわち

det⁡A≥∏e∈E∖Tαe(任意の全域木 T).\det A\ge\prod_{e\in E\setminus T}\alpha_e\qquad(\text{任意の全域木 }T).

(d) Hepp の扇形。 辺の並べ方 e(1),…,e(I)e_{(1)},\dots,e_{(I)} ごとに扇形 {αe(1)<⋯<αe(I)}\{\alpha_{e_{(1)}}<\cdots<\alpha_{e_{(I)}}\} を考えると、(0,∞)E(0,\infty)^E はこれら I!I! 個の扇形と測度 00 の集合の和です。1 つの扇形を固定し、Sj={e(1),…,e(j)}S_j=\{e_{(1)},\dots,e_{(j)}\}、ℓj=L(Sj)\ell_j=L(S_j)(ℓ0=0\ell_0=0、ℓI=L\ell_I=L)とします。補題 5.7 の証明の最初の注意から ℓj−ℓj−1∈{0,1}\ell_j-\ell_{j-1}\in\{0,1\} で、ℓj=ℓj−1\ell_j=\ell_{j-1} となる辺 e(j)e_{(j)} の全体 TT は、各段階で (V,Sj)(V,S_j) と同じ連結成分を持つ森なので(cc が減る辺だけを集めている)、最後に全域木になります(Kruskal の構成)。E∖TE\setminus T はちょうど ℓj=ℓj−1+1\ell_j=\ell_{j-1}+1 となる辺の全体なので、(c) から扇形の上で

det⁡A≥∏j=1Iαe(j) ℓj−ℓj−1.\det A\ge\prod_{j=1}^I\alpha_{e_{(j)}}^{\,\ell_j-\ell_{j-1}} .

(e) 変数変換。 扇形の上で αe(j)=tjtj+1⋯tI\alpha_{e_{(j)}}=t_jt_{j+1}\cdots t_I(j<Ij<I では 0<tj<10<t_j<1、tI>0t_I>0)と置くと、これは (0,1)I−1×(0,∞)(0,1)^{I-1}\times(0,\infty) から扇形への C1C^1 微分同相で、Jacobi 行列は三角行列なので行列式は ∏jtj j−1\prod_jt_j^{\,j-1} です。∏jαe(j) ℓj−ℓj−1=∏jtj ℓj\prod_j\alpha_{e_{(j)}}^{\,\ell_j-\ell_{j-1}}=\prod_jt_j^{\,\ell_j}、∑eαe≥αe(I)=tI\sum_e\alpha_e\ge\alpha_{e_{(I)}}=t_I なので、変数変換公式(定理 4.5[ℝ^d の変数変換公式と極座標])と Tonelli の定理から、扇形の寄与は

∏j=1I−1∫01tj j−1−d2ℓj dtj ×∫0∞tI I−1−d2Le−m2tI dtI\prod_{j=1}^{I-1}\int_0^1t_j^{\,j-1-\frac d2\ell_j}\,dt_j\ \times\int_0^\infty t_I^{\,I-1-\frac d2L}e^{-m^2t_I}\,dt_I

以下です。∫01ta dt\int_0^1t^a\,dt と ∫0∞tae−m2t dt\int_0^\infty t^ae^{-m^2t}\,dt は a>−1a>-1 なら有限です。ℓj=0\ell_j=0 なら指数は j−1≥0j-1\ge0 です。ℓj≥1\ell_j\ge1 なら、補題 5.7 から ω(Sj)=dℓj−2j<0\omega(S_j)=d\ell_j-2j<0、すなわち j−1−d2ℓj>−1j-1-\frac d2\ell_j>-1 です。j=Ij=I でも同じく ω(E)<0\omega(E)<0 を使います。よって各扇形の寄与は有限で、IG(0)<∞I_G(0)<\infty です。

証明の (d)(e) が「部分図の発散」の正体を示しています。扇形の中で tj→0t_j\to0 は、最も小さい jj 個の α\alpha(運動量で言えば最も大きい jj 本の線の運動量)が一斉に紫外に行く極限で、その積分の収束は部分グラフ SjS_j の次数 ω(Sj)\omega(S_j) の符号だけで決まります。全体の次数 D(G)D(G) が負でも、ある SjS_j で ω(Sj)≥0\omega(S_j)\ge0 なら、その扇形で積分は発散します。

5.1 節の定理は、発散する部分図が一つもない図の話でした。部分図が発散する場合は、その発散を先に差し引く必要があり、森の公式はその差し引きを重複なく整理する式です。以下の入れ子・交わらない・重なるは、図の中の二つの部分図の関係です。一方が他方に含まれるのが入れ子、頂点を共有しないのが交わらない、どちらでもないのが重なるで、重なった発散の扱いが難しさの源です。

部分図に ω(γ)≥0\omega(\gamma)\ge0 のもの(くりこみ部分)があるときは、その発散を差し引いてから積分します。差し引きを全体で整合させる組合せ論が森の公式です。2 つの部分グラフは、辺集合の一方が他方を含むとき入れ子、頂点を共有しないとき交わらない、どちらでもないとき重なるといいます。くりこみ部分の集合 FF で、どの 2 つも入れ子か交わらないものを森といい(空集合も森)、FF の極大元の集合を max⁡F\max F、γ∈F\gamma\in F に真に含まれる FF の元の集合を FγF_\gamma と書きます。max⁡F\max F の元は互いに入れ子でないので、互いに交わりません。

被積分関数の空間 V\mathcal{V} の上に、くりこみ部分 γ\gamma ごとに線形作用素 TγT_\gamma が与えられ、交わらない γ,γ′\gamma,\gamma' について TγTγ′=Tγ′TγT_\gamma T_{\gamma'}=T_{\gamma'}T_\gamma であるとします。具体的には TγT_\gamma は、被積分関数のうち γ\gamma の線の伝播関数の積を、γ\gamma に流れ込む外運動量について次数 ω(γ)\omega(\gamma) まで Taylor 展開したものに置き換える操作で、交わらない部分グラフの操作は別々の因子に作用するので可換です。森 FF について作用素 Π(F)\Pi(F) を、Π(∅)=1\Pi(\emptyset)=1 と

Π(F)=∏γ∈max⁡F(−Tγ Π(Fγ))\Pi(F)=\prod_{\gamma\in\max F}\bigl(-T_\gamma\,\Pi(F_\gamma)\bigr)

で(辺の個数についての帰納法で)定めます。積の各因子は互いに交わらない部分グラフの中の TT だけを含むので可換で、積の順序によりません。内側の差し引きを先に行い、外側を後に行う、という規則です。

命題 5.9(森の公式は Bogoliubov の再帰の解)✓

くりこみ部分、または GG 自身である γ\gamma について、作用素 Rˉγ\bar R_\gamma を

Rˉγ=∑M ∏γi∈M(−TγiRˉγi)\bar R_\gamma=\sum_M\ \prod_{\gamma_i\in M}\bigl(-T_{\gamma_i}\bar R_{\gamma_i}\bigr)

で再帰的に定める(Bogoliubov の Rˉ\bar R 操作)。和は γ\gamma に真に含まれ、互いに交わらないくりこみ部分の集合 MM 全体(空集合を含み、その項は 11)にわたる。このとき Rˉγ=∑FΠ(F)\bar R_\gamma=\sum_F\Pi(F) で、和は γ\gamma に真に含まれるくりこみ部分からなる森 FF 全体にわたる。とくに GG がくりこみ部分なら、RG=(1−TG)RˉGR_G=(1-T_G)\bar R_G は GG のすべての森にわたる和 ∑FΠ(F)\sum_F\Pi(F)(Zimmermann の森の公式)に等しく、GG がくりこみ部分でないなら RG=RˉGR_G=\bar R_G が同じ和に等しい。

証明(命題 5.9)

γ\gamma の辺の個数についての帰納法です。γ\gamma に真に含まれるくりこみ部分からなる森 FF に、組 (max⁡F,(Fγi)γi∈max⁡F)\bigl(\max F,(F_{\gamma_i})_{\gamma_i\in\max F}\bigr) を対応させます。M=max⁡FM=\max F は互いに交わらない集合で、各 FγiF_{\gamma_i} は γi\gamma_i に真に含まれるくりこみ部分の森です。逆に、互いに交わらない M={γi}M=\{\gamma_i\} と、γi\gamma_i に真に含まれる部分の森 FiF_i の組から F=M∪⋃iFiF=M\cup\bigcup_iF_i を作ると、異なる ii の元は交わらない γi\gamma_i の中にあるので互いに交わらず、FiF_i の元は γi\gamma_i と入れ子なので FF は森で、max⁡F=M\max F=M、Fγi=FiF_{\gamma_i}=F_i です。この 2 つの対応は互いに逆なので、FF と組 (M,(Fi))(M,(F_i)) は 1 対 1 に対応します。Π\Pi の定義から Π(F)=∏i(−TγiΠ(Fi))\Pi(F)=\prod_i(-T_{\gamma_i}\Pi(F_i)) で、帰納法の仮定 Rˉγi=∑FiΠ(Fi)\bar R_{\gamma_i}=\sum_{F_i}\Pi(F_i) を使って展開すると

∑FΠ(F)=∑M∏γi∈M(−Tγi∑FiΠ(Fi))=∑M∏γi∈M(−TγiRˉγi)=Rˉγ\sum_F\Pi(F)=\sum_M\prod_{\gamma_i\in M}\Bigl(-T_{\gamma_i}\sum_{F_i}\Pi(F_i)\Bigr)=\sum_M\prod_{\gamma_i\in M}\bigl(-T_{\gamma_i}\bar R_{\gamma_i}\bigr)=\bar R_\gamma

です(積は可換な因子の積なので、和との交換は分配法則だけです)。GG がくりこみ部分なら、GG の森は GG を含まないもの FF と含むもの F∪{G}F\cup\{G\} に分かれ、後者について Π(F∪{G})=−TGΠ(F)\Pi(F\cup\{G\})=-T_G\Pi(F) なので、∑全ての森Π=(1−TG)RˉG\sum_{\text{全ての森}}\Pi=(1-T_G)\bar R_G です。

森の公式の利点は、Rˉ\bar R の再帰を展開しきった形で、重なった発散(互いに重なる 2 つのくりこみ部分)が同じ森に同時に入らないことが一目で分かる点です。重なる部分は別々の森に分かれ、それぞれの扇形で、その扇形にとって「内側」の部分だけが差し引かれます。

定理 5.10(くりこみ可能性定理(BPHZ))※

d=4d=4、m>0m>0 のユークリッドの ϕ4\phi^4 理論で、連結図 GG の被積分関数 UGU_G に 命題 5.9 の RG=∑FΠ(F)R_G=\sum_F\Pi(F) を施したもの(TγT_\gamma は γ\gamma の外運動量についての次数 ω(γ)\omega(\gamma) までの Taylor 展開)は (R4)L(\mathbb{R}^4)^L 上で絶対可積分である(Zimmermann の収束定理)。さらに、各次数でこの差し引きは、ラグランジアンにもともと存在する項と同じ形の有限個のカウンター項

Lc.t.=12δZ(∂ϕ)2+12δmϕ2+δλ4!ϕ4\mathcal{L}_{\text{c.t.}} = \tfrac{1}{2}\delta_Z(\partial\phi)^2 + \tfrac{1}{2}\delta_m\phi^2 + \frac{\delta_\lambda}{4!}\phi^4

を作用に加えることと同値である。

注意 5.11(主張のみとする理由)

くりこみ部分がない図(森が空集合だけの図)では RG=UGR_G=U_G で、収束は 定理 5.8 そのもの、差し引きの組合せ論は 命題 5.9 で証明しました。一般の図の収束(Zimmermann の定理)は主張のみとします。理由: 差し引き後の被積分関数では Taylor 展開の剰余項が扇形ごとに異なる部分グラフの組に現れ、定理 5.8 の証明の (e) の評価を、各扇形で「その扇形に適合する森」だけを残すように森の和を並べ替えたうえで(Zimmermann の分類)、剰余項の次数を扇形の変数ごとに数え直す必要があり、その議論はそれだけで長い論文 1 本分(W. Zimmermann, Commun. Math. Phys. 15 (1969) 208–234、K. Hepp, Commun. Math. Phys. 2 (1966) 301–326)になるからです。カウンター項との同値性は、系 5.3 によりくりこみ部分が E=2,4E=2,4 の 1PI 図に限られ、TγT_\gamma がその外運動量の 2 次以下の多項式を与えることから、組合せ論的に従います。教科書としては J. C. Collins, Renormalization, Cambridge University Press, 1984 の第 5 章、Zinn-Justin, Quantum Field Theory and Critical Phenomena の第 10 章があります。

6. くりこみ群 — スケールを動かす

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定理 4.2 では零運動量でくりこみ条件を課しました。しかし高エネルギー散乱を扱うときに零運動量を基準にするのは不自然です。基準点を運動量スケール μ\mu に取り替えると、くりこまれた結合 λR\lambda_R の値も変わります。この μ\mu 依存性が、くりこみ群の主題です。

定義 6.1(ベータ関数と異常次元)↗

くりこまれた結合 λR\lambda_R、くりこまれた質量 mRm_R、場のくりこみ定数 ZϕZ_\phi(ϕ0=Zϕ1/2ϕR\phi_0 = Z_\phi^{1/2}\phi_R)が、裸の量を固定したまま基準スケール μ\mu に依存するとき

β(λR)≡μ∂λR∂μ,γ(λR)≡12 μ∂ln⁡Zϕ∂μ,γm(λR)≡μmR∂mR∂μ\beta(\lambda_R) \equiv \mu\frac{\partial\lambda_R}{\partial\mu},\qquad \gamma(\lambda_R) \equiv \frac{1}{2}\,\mu\frac{\partial \ln Z_\phi}{\partial\mu},\qquad \gamma_m(\lambda_R) \equiv \frac{\mu}{m_R}\frac{\partial m_R}{\partial\mu}

をそれぞれベータ関数、場の異常次元、質量の異常次元と呼ぶ。微分はすべて裸のパラメータと正則化を固定して取る。

次の方程式は、μ\mu は計算のために選んだ基準点にすぎず、裸の量から見れば何の意味もない、という一点から出てきます。μ\mu を動かしたときの λR\lambda_R や mRm_R の変化は、物理が変わるのではなく、同じ物理の記述を取り替えているだけです。ベータ関数 β(λR)\beta(\lambda_R) は、基準点を少し動かしたときに結合の値がどれだけ動くかを表します。

定理 6.2(くりこみ群方程式)✓

くりこみ可能な理論を、質量に依存しないくりこみスキーム(β,γ,γm\beta, \gamma, \gamma_m が λR\lambda_R のみの関数となる処方)でくりこむ。裸の nn 点 1PI 関数 Γ0(n)\Gamma^{(n)}_0 とくりこまれた ΓR(n)\Gamma^{(n)}_R が

ΓR(n)(pi;λR,mR,μ)=Zϕ n/2 Γ0(n)(pi;λ0,m0,Λ)\Gamma^{(n)}_R(p_i;\lambda_R,m_R,\mu) = Z_\phi^{\,n/2}\,\Gamma^{(n)}_0(p_i;\lambda_0,m_0,\Lambda)

で関係しているとき、ΓR(n)\Gamma^{(n)}_R は次の偏微分方程式を満たす。

[μ∂∂μ+β(λR)∂∂λR+γm(λR) mR∂∂mR−n γ(λR)]ΓR(n)(pi;λR,mR,μ)=0.\Big[\mu\frac{\partial}{\partial\mu} + \beta(\lambda_R)\frac{\partial}{\partial\lambda_R} + \gamma_m(\lambda_R)\,m_R\frac{\partial}{\partial m_R} - n\,\gamma(\lambda_R)\Big]\Gamma^{(n)}_R(p_i;\lambda_R,m_R,\mu) = 0 .
証明(定理 6.2)

出発点は、裸の関数が μ\mu を知らないという一言に尽きます。Γ0(n)\Gamma^{(n)}_0 は裸のパラメータ λ0,m0\lambda_0, m_0 と正則化 Λ\Lambda だけで書かれており、μ\mu は我々が後から導入した基準点にすぎません。したがって裸の量と Λ\Lambda を固定して μ\mu で微分すると

μddμΓ0(n)=μddμ[Zϕ−n/2 ΓR(n)]=0.\mu\frac{d}{d\mu}\Gamma^{(n)}_0 = \mu\frac{d}{d\mu}\Big[Z_\phi^{-n/2}\,\Gamma^{(n)}_R\Big] = 0 .

積の微分を実行します。Zϕ−n/2Z_\phi^{-n/2} の微分は

μddμZϕ−n/2=−n2 Zϕ−n/2 μdln⁡Zϕdμ=−nγ Zϕ−n/2\mu\frac{d}{d\mu}Z_\phi^{-n/2} = -\frac{n}{2}\,Z_\phi^{-n/2}\,\mu\frac{d\ln Z_\phi}{d\mu} = -n\gamma\,Z_\phi^{-n/2}

です(定義 6.1 の γ\gamma の定義を使いました)。一方 ΓR(n)\Gamma^{(n)}_R は μ\mu に陽に依存するほか、λR(μ)\lambda_R(\mu) と mR(μ)m_R(\mu) を通じても依存するので、連鎖律により

μdΓR(n)dμ=[μ∂∂μ+β∂∂λR+γmmR∂∂mR]ΓR(n)\mu\frac{d\Gamma^{(n)}_R}{d\mu} = \Big[\mu\frac{\partial}{\partial\mu} + \beta\frac{\partial}{\partial\lambda_R} + \gamma_m m_R\frac{\partial}{\partial m_R}\Big]\Gamma^{(n)}_R

となります。二つを足して Zϕ−n/2Z_\phi^{-n/2}(00 ではない)で割れば主張の式を得ます。

くりこみ群方程式は「同じ物理を違う基準点で記述したとき、記述が互いに整合するための条件」です。方程式自体は何も新しい物理を含みませんが、μ\mu を実際の運動量スケールに合わせて選び直すことで、単純な摂動論では大きな対数 ln⁡(p/μ)\ln(p/\mu) が現れて破綻する領域を、系統的に扱えるようになります。

命題 6.3(4 次元 φ⁴ 理論の 1 ループのベータ関数)✓

4 次元 ϕ4\phi^4 理論のベータ関数は

β(λ)=3λ216π2+O(λ3)\beta(\lambda) = \frac{3\lambda^2}{16\pi^2} + O(\lambda^3)

である。λ>0\lambda > 0 では β>0\beta > 0 なので、結合はスケールを上げるほど強くなる。これを積分すると、基準点 μ0\mu_0 での値 λ(μ0)\lambda(\mu_0) に対して

λ(μ)=λ(μ0) 1−3λ(μ0)16π2ln⁡μμ0 \lambda(\mu) = \frac{\lambda(\mu_0)}{\,1 - \dfrac{3\lambda(\mu_0)}{16\pi^2}\ln\dfrac{\mu}{\mu_0}\,}

となり、μL=μ0exp⁡ ⁣[16π2/(3λ(μ0))]\mu_L = \mu_0\exp\!\big[16\pi^2/(3\lambda(\mu_0))\big] で発散する(ランダウ極)。

証明(命題 6.3)

ベータ関数。 定理 4.2 で得た散乱振幅を使うのが最も物理的です。すべての運動量不変量が q2≫mR2q^2 \gg m_R^2 の領域では、補題 3.3 の最後の主張のとおり F(q2)≃ln⁡(q2/mR2)−2F(q^2) \simeq \ln(q^2/m_R^2) - 2 なので

Γ(4)≃λR+3λR232π2[ln⁡q2mR2−2]=λR+3λR216π2ln⁡qmR+const⋅λR2.\Gamma^{(4)} \simeq \lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{32\pi^2}\Big[\ln\frac{q^2}{m_R^2} - 2\Big] = \lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{16\pi^2}\ln\frac{q}{m_R} + \text{const}\cdot\lambda_R^2 .

この Γ(4)\Gamma^{(4)} そのものを、スケール qq で定義した実効結合 λ(q)\lambda(q) と読みます。すると

β=dλ(q)dln⁡q=3λR216π2=3λ216π2+O(λ3)\beta = \frac{d\lambda(q)}{d\ln q} = \frac{3\lambda_R^2}{16\pi^2} = \frac{3\lambda^2}{16\pi^2} + O(\lambda^3)

です(最後に λR=λ+O(λ2)\lambda_R = \lambda + O(\lambda^2) を使いました。差は O(λ3)O(\lambda^3))。同じ結果は形式的にも出ます。基準点をスケール μ\mu に取ると λR(μ)=λ0−3λ0232π2[ln⁡(Λ2/μ2)+c]\lambda_R(\mu) = \lambda_0 - \frac{3\lambda_0^2}{32\pi^2}\big[\ln(\Lambda^2/\mu^2) + c\big](cc は処方に依る定数)なので、λ0,Λ\lambda_0,\Lambda を固定して μ∂μ\mu\partial_\mu を作用させると、μ\mu を含むのは −ln⁡μ2-\ln\mu^2 の項だけで、μ∂μ(−ln⁡μ2)=−2\mu\partial_\mu(-\ln\mu^2) = -2 より

β=−3λ0232π2⋅(−2)=3λ0216π2\beta = -\frac{3\lambda_0^2}{32\pi^2}\cdot(-2) = \frac{3\lambda_0^2}{16\pi^2}

を得ます。

積分。 dλ/dln⁡μ=3λ2/(16π2)d\lambda/d\ln\mu = 3\lambda^2/(16\pi^2) を変数分離して μ0\mu_0 から μ\mu まで積分すると

−1λ(μ)+1λ(μ0)=316π2ln⁡μμ0⟺1λ(μ)=1λ(μ0)−316π2ln⁡μμ0-\frac{1}{\lambda(\mu)} + \frac{1}{\lambda(\mu_0)} = \frac{3}{16\pi^2}\ln\frac{\mu}{\mu_0} \quad\Longleftrightarrow\quad \frac{1}{\lambda(\mu)} = \frac{1}{\lambda(\mu_0)} - \frac{3}{16\pi^2}\ln\frac{\mu}{\mu_0}

です。これを λ(μ)\lambda(\mu) について解けば主張の式になり、分母が 00 になる点が μL\mu_L です。

注意 6.4

β\beta の値はくりこみスキームに依存します。λ→λ′=λ+aλ2+⋯\lambda \to \lambda' = \lambda + a\lambda^2 + \cdots という有限な取り替えを行うと β\beta も変わるからです。しかし摂動展開 β=b1λ2+b2λ3+⋯\beta = b_1\lambda^2 + b_2\lambda^3 + \cdots の最初の 2 つの係数 b1,b2b_1, b_2 は処方に依りません(結合が 1 個の場合)。上で計算した b1=3/(16π2)b_1 = 3/(16\pi^2) は、したがって物理的に意味のある数です。命題 6.3 の証明で、物理的な散乱振幅から読んだ値と形式的な μ\mu 微分から読んだ値が一致したのはこのためです。

ランダウ極の位置を数値で見ておきます。λ(μ0)=1\lambda(\mu_0) = 1 なら 16π2/3≈52.616\pi^2/3 \approx 52.6 なので μL/μ0=e52.6≈7×1022\mu_L/\mu_0 = e^{52.6} \approx 7\times 10^{22} です。摂動論で扱える範囲をはるかに超えた高エネルギーなので、この極が本当に存在するかを摂動論だけでは判定できません。格子上の数値計算は、4 次元の ϕ4\phi^4 理論が連続極限で自由場になる(トリビアリティ)ことを強く示唆しています。ヒッグス場は ϕ4\phi^4 型の自己相互作用を持つので、標準模型もまた、それ自身では任意に高いエネルギーまで通用する理論ではないと考えられています。

例 6.5(走る結合定数:QED と QCD)

QED。 電子 1 種類のとき、ベータ関数は β(e)=e3/(12π2)\beta(e) = e^3/(12\pi^2) です。微細構造定数 α=e2/4π\alpha = e^2/4\pi で書き直すと dα/dln⁡μ=2α2/(3π)d\alpha/d\ln\mu = 2\alpha^2/(3\pi) となり、ϕ4\phi^4 と同じく正の符号です。実際、電子の電荷は短距離ほど大きく見えます(真空偏極による遮蔽が弱くなるため)。数値でも確かめられていて、トムソン極限(μ→0\mu \to 0)では α−1=137.036\alpha^{-1} = 137.036、ZZ ボソン質量スケール μ=91.2 GeV\mu = 91.2\ \mathrm{GeV} では α−1≈129\alpha^{-1} \approx 129 です。これは「結合定数」が定数でないことの実験的証拠です。

QCD。 非可換ゲージ理論では、グルーオン自身が色荷を持つために符号が逆転します。nfn_f 種類のクォークがあるとき

β(g)=−g316π2(11−23nf)\beta(g) = -\frac{g^3}{16\pi^2}\Big(11 - \frac{2}{3}n_f\Big)

で、nf≤16n_f \le 16 なら括弧内が正、すなわち β<0\beta < 0 です。積分すると

αs(μ)=2π(11−23nf)ln⁡(μ/ΛQCD)\alpha_s(\mu) = \frac{2\pi}{\big(11-\frac{2}{3}n_f\big)\ln(\mu/\Lambda_{\text{QCD}})}

となり、高エネルギーで結合が対数的に 00 に近づきます(漸近的自由性、Gross–Wilczek と Politzer、1973 年)。積分定数を ΛQCD≈200–300 MeV\Lambda_{\text{QCD}} \approx 200\text{–}300\ \mathrm{MeV} という次元を持つ量として書き直した点に注意してください。もとのラグランジアンには質量スケールがないのに、くりこみが物理的なスケールを生み出しています(次元転換)。実測では αs(mZ)≈0.118\alpha_s(m_Z) \approx 0.118、αs(1 GeV)≈0.5\alpha_s(1\ \mathrm{GeV}) \approx 0.5 で、低エネルギーでは摂動論が使えません。これがクォークの閉じ込めと整合します。

7. ウィルソン的描像と有効場の理論

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ここまでは「発散を消す技術」としてくりこみを見てきました。ウィルソンは 1970 年代初頭に、これを理論そのものの定義に読み替えました。

出発点は、カットオフ Λ\Lambda を物理的な意味を持つ量と見ることです。∣k∣<Λ|k| < \Lambda のモードだけを持つ場の理論から始め、殻 Λ/b<∣k∣<Λ\Lambda/b < |k| < \Lambda(b>1b > 1)のモードだけを経路積分で積み去ります。すると残った低運動量モードに対する新しい作用 SΛ/bS_{\Lambda/b} が得られます。次に運動量を k′=bkk' = bk と測り直してカットオフを Λ\Lambda に戻し、場を規格化し直すと、元と同じ形式の作用が得られます。この 2 段階を繰り返す操作がウィルソンのくりこみ群で、結合定数の空間における流れ(フロー)を定義します。

この見方では、次のように整理できます。

定義 7.1(演算子の分類)↗

dd 次元の固定点近傍で、作用に加えた演算子 Oi\mathcal{O}_i の結合を無次元化した量 g^i=giμ−δi\hat g_i = g_i\mu^{-\delta_i}(δi=[gi]\delta_i = [g_i])とする。低エネルギー(IR)へ流したとき

  • δi>0\delta_i > 0:g^i\hat g_i が増大する。Oi\mathcal{O}_i を**関連演算子(relevant)**という。
  • δi=0\delta_i = 0:1 ループ以上の効果で緩やかに流れる。**周辺演算子(marginal)**という。
  • δi<0\delta_i < 0:g^i\hat g_i が減衰する。**無関連演算子(irrelevant)**という。

g^i=giμ−δi\hat g_i = g_i \mu^{-\delta_i} を μ\mu で微分すれば μ dg^i/dμ=−δig^i+(ループ補正)\mu\,d\hat g_i/d\mu = -\delta_i\hat g_i + (\text{ループ補正}) なので、μ\mu を下げる(IR に向かう)と δi>0\delta_i > 0 の結合が伸び、δi<0\delta_i < 0 の結合が縮むことがすぐ分かります。

この分類は 定義 5.4 と同じものです。ただし読み方が正反対になります。古い読み方は「くりこみ不可能な理論は捨てるべきだ」でした。ウィルソン的な読み方は「無関連演算子は低エネルギーで自動的に消えるので、低エネルギーの有効理論は必ずくりこみ可能な形をしている」です。標準模型の相互作用がすべて [g]≥0[g] \ge 0 に収まっているのは、自然が上品だからではなく、我々が低エネルギーでしか実験していないからだ、というのがこの立場の主張です。

例 7.2(フェルミ理論:くりこみ不可能な理論が働く仕組み)

ベータ崩壊のフェルミ理論は 4 フェルミ相互作用 GF2(ψˉΓψ)(ψˉΓψ)\frac{G_F}{\sqrt{2}}(\bar\psi\Gamma\psi)(\bar\psi\Gamma\psi) で記述され、[GF]=4−4⋅32=−2[G_F] = 4 - 4\cdot\frac{3}{2} = -2、実測値は GF=1.166×10−5 GeV−2G_F = 1.166\times 10^{-5}\ \mathrm{GeV}^{-2} です。定義 5.4 の分類ではくりこみ不可能ですが、この理論は 20 世紀の弱い相互作用の現象論を極めて高い精度で記述しました。

理由は明快です。無次元の展開パラメータは GFE2G_F E^2 であり、ミューオン崩壊のスケール E∼mμ=0.106 GeVE \sim m_\mu = 0.106\ \mathrm{GeV} では

GFmμ2≈1.166×10−5×(0.106)2≈1.3×10−7G_F m_\mu^2 \approx 1.166\times 10^{-5} \times (0.106)^2 \approx 1.3\times 10^{-7}

という極小の量です。高次項が効かないので、最低次だけで十分な精度が出ます。一方で断面積は σ∼GF2s\sigma \sim G_F^2 s と増大するので、s∼GF−1/2≈300 GeV\sqrt{s}\sim G_F^{-1/2}\approx 300\ \mathrm{GeV} 付近でユニタリティ限界を破ります。理論自身が自分の適用限界を教えているわけです。

実際の破れは予想より早く、MW=80.4 GeVM_W = 80.4\ \mathrm{GeV} で WW ボソンが姿を現しました(この質量の由来は 定理 6.1[ゲージ理論と自発的対称性の破れ] です)。関係は GF2=g28MW2\frac{G_F}{\sqrt{2}} = \frac{g^2}{8M_W^2} で、WW 伝播関数 1/(q2−MW2)1/(q^2-M_W^2) を q2≪MW2q^2 \ll M_W^2 で展開したときの最低次がフェルミ相互作用に一致します。次の項は q2/MW2q^2/M_W^2 の補正で、これがまさに「無関連演算子」です。

固定点の役割も、この描像から明らかになります。β(λ∗)=0\beta(\lambda^*) = 0 となる点ではフローが止まり、理論はスケール変換で形を変えません。そこでは相関関数がべき則に従います。

定理 7.3(固定点でのスケーリングと異常次元)✓

質量項が 00 に調整された(臨界の)くりこみ可能理論を dd 次元で考え、Γ(n)(pi;λ,μ)\Gamma^{(n)}(p_i;\lambda,\mu) は運動量、μ\mu、無次元結合 λ\lambda のみの関数で、質量次元 Dn=d−nd−22D_n = d - n\frac{d-2}{2} を持つとする。β(λ∗)=0\beta(\lambda^*) = 0、γ(λ∗)=γ∗\gamma(\lambda^*) = \gamma^* とすると、λ=λ∗\lambda = \lambda^* において任意の t>0t > 0 に対し

Γ(n)(tp1,…,tpn;λ∗,μ)=t d−nΔϕ Γ(n)(p1,…,pn;λ∗,μ),Δϕ=d−22+γ∗\Gamma^{(n)}(tp_1,\ldots,tp_n;\lambda^*,\mu) = t^{\,d - n\Delta_\phi}\,\Gamma^{(n)}(p_1,\ldots,p_n;\lambda^*,\mu), \qquad \Delta_\phi = \frac{d-2}{2} + \gamma^*

が成り立つ。すなわち場は自由場の次元 (d−2)/2(d-2)/2 からずれた異常次元 γ∗\gamma^* を獲得する。

証明(定理 7.3)

Γ(n)\Gamma^{(n)} が質量次元 DnD_n を持ち、引数が pp と μ\mu(および無次元の λ\lambda)だけであることから、次元解析により

Γ(n)(tpi;λ,μ)=tDn Γ(n)(pi;λ,μ/t)\Gamma^{(n)}(tp_i;\lambda,\mu) = t^{D_n}\,\Gamma^{(n)}\big(p_i;\lambda,\mu/t\big)

が成り立ちます。両辺のすべての質量次元を tt で測り直しただけです。F(t)F(t) を左辺と定め、ν=μ/t\nu = \mu/t とおいて t d/dtt\,d/dt を作用させます。右辺の tt 依存性は前因子 tDnt^{D_n} と ν=μ/t\nu = \mu/t の両方から来て、t dνdt∂∂ν=−ν∂∂νt\,\frac{d\nu}{dt}\frac{\partial}{\partial\nu} = -\nu\frac{\partial}{\partial\nu} なので

tdFdt=tDn[Dn−ν∂∂ν]Γ(n)(pi;λ,ν).t\frac{dF}{dt} = t^{D_n}\Big[D_n - \nu\frac{\partial}{\partial\nu}\Big]\Gamma^{(n)}(p_i;\lambda,\nu).

ここで 定理 6.2 を質量が 00 の場合に使います。γm\gamma_m の項が落ちるので

ν∂∂νΓ(n)=[−β(λ)∂∂λ+nγ(λ)]Γ(n)\nu\frac{\partial}{\partial\nu}\Gamma^{(n)} = \Big[-\beta(\lambda)\frac{\partial}{\partial\lambda} + n\gamma(\lambda)\Big]\Gamma^{(n)}

です。これを代入すると

tdFdt=tDn[Dn+β(λ)∂∂λ−nγ(λ)]Γ(n)(pi;λ,ν).t\frac{dF}{dt} = t^{D_n}\Big[D_n + \beta(\lambda)\frac{\partial}{\partial\lambda} - n\gamma(\lambda)\Big]\Gamma^{(n)}(p_i;\lambda,\nu).

λ=λ∗\lambda = \lambda^* では仮定より β(λ∗)=0\beta(\lambda^*) = 0 なので ∂/∂λ\partial/\partial\lambda の項が消え、γ(λ∗)=γ∗\gamma(\lambda^*) = \gamma^* は定数なので

tdFdt=(Dn−nγ∗) F(t)t\frac{dF}{dt} = (D_n - n\gamma^*)\,F(t)

という常微分方程式になります。F(t)=tDn−nγ∗F(1)F(t) = t^{D_n - n\gamma^*}F(1) が解で、F(1)=Γ(n)(pi;λ∗,μ)F(1) = \Gamma^{(n)}(p_i;\lambda^*,\mu) です。最後に

Dn−nγ∗=d−nd−22−nγ∗=d−n(d−22+γ∗)=d−nΔϕD_n - n\gamma^* = d - n\frac{d-2}{2} - n\gamma^* = d - n\Big(\frac{d-2}{2}+\gamma^*\Big) = d - n\Delta_\phi

と書き直せば主張を得ます。

例 7.4(ウィルソン–フィッシャー固定点と臨界指数)

d=4−εd = 4-\varepsilon 次元では [λ]=4−d=ε[\lambda] = 4-d = \varepsilon なので、無次元結合 λ^=λμ−ε\hat\lambda = \lambda\mu^{-\varepsilon} のベータ関数は、次元から来る項と 命題 6.3 のループ項の和になります。

β(λ^)=−ελ^+3λ^216π2.\beta(\hat\lambda) = -\varepsilon\hat\lambda + \frac{3\hat\lambda^2}{16\pi^2}.

β=0\beta = 0 の解は λ^=0\hat\lambda = 0(ガウス固定点)と

λ^∗=16π23ε\hat\lambda^* = \frac{16\pi^2}{3}\varepsilon

の 2 つです。後者がウィルソン–フィッシャー固定点で、ε\varepsilon が小さければ結合も小さく、摂動論が使えます。この固定点は 3 次元イジング模型の臨界点を記述し、ε\varepsilon の 1 次で相関長の指数 ν=12+ε12\nu = \frac{1}{2}+\frac{\varepsilon}{12}、場の異常次元は γ∗=O(ε2)\gamma^* = O(\varepsilon^2) となります。ε=1\varepsilon = 1(3 次元)を代入すると ν≈0.58\nu \approx 0.58 で、モンテカルロ法や共形ブートストラップによる値 ν=0.6300\nu = 0.6300 とおおむね合致します。物性物理の臨界現象と素粒子論のくりこみが同じ方程式で記述されることを示した点が、ウィルソンの仕事の核心でした。

d = 4 : ベータ関数は正、固定点は原点のみd = 4 − ε : 非自明な固定点が現れるλλ0(IR で安定)UV で増大 → ランダウ極0(IR で不安定)λ*(ウィルソン–フィッシャー固定点)
結合定数空間のくりこみ群フロー。矢印は低エネルギー(IR)方向への流れを表す

自発的対称性の破れとゲージ理論のくりこみについては ゲージ理論と自発的対称性の破れ を、場の量子論がそもそもなぜ必要かという問いについては なぜ場の量子論が必要か を参照してください。ここで使った摂動展開の構造そのものは、量子力学の 摂動論(定理 3.1[摂動論])と スカラー場の正準量子化(定義 3.1[スカラー場の正準量子化])の延長線上にあります。

演習 8.1易

dd 次元時空のスカラー場理論で相互作用 gϕng\phi^n を考えます。

(a) gg の質量次元を求めてください。

(b) d=3d = 3 の ϕ6\phi^6 理論と d=6d = 6 の ϕ3\phi^3 理論が、いずれも周辺的([g]=0[g] = 0)であることを示してください。

(c) 4 次元での湯川結合 gψˉψϕg\bar\psi\psi\phi とフェルミ結合 G(ψˉψ)2G(\bar\psi\psi)^2 の質量次元を求め、定義 5.4 に従って分類してください。

解答

(a) 作用 ∫ddx gϕn\int d^dx\, g\phi^n が無次元であることから −d+[g]+n[ϕ]=0-d + [g] + n[\phi] = 0。[ϕ]=(d−2)/2[\phi] = (d-2)/2 なので

[g]=d−nd−22.[g] = d - n\frac{d-2}{2}.

これは 命題 5.2 の δi\delta_i そのものです。

(b) d=3d = 3, n=6n = 6 のとき [ϕ]=1/2[\phi] = 1/2 なので [g]=3−6⋅12=0[g] = 3 - 6\cdot\frac{1}{2} = 0。d=6d = 6, n=3n = 3 のとき [ϕ]=2[\phi] = 2 なので [g]=6−3⋅2=0[g] = 6 - 3\cdot 2 = 0。どちらも周辺的です。

(c) 4 次元でのフェルミオン場の次元は、運動項 ψˉγμ∂μψ\bar\psi\gamma^\mu\partial_\mu\psi の次元が 44 であることから 2[ψ]+1=42[\psi] + 1 = 4、すなわち [ψ]=3/2[\psi] = 3/2 です。よって

[g]=4−2⋅32−1=0,[G]=4−4⋅32=−2.[g] = 4 - 2\cdot\frac{3}{2} - 1 = 0,\qquad [G] = 4 - 4\cdot\frac{3}{2} = -2 .

湯川結合はくりこみ可能(周辺的)、フェルミ結合はくりこみ不可能(無関連)です。後者が低エネルギーで有用である理由は 例 7.2 のとおりです。

演習 8.2標準

例 3.2 の結果を使い、Λ\Lambda をプランクスケール Λ=1.2×1019 GeV\Lambda = 1.2\times 10^{19}\ \mathrm{GeV}、結合を λR=1\lambda_R = 1 として、Λ2\Lambda^2 に比例する補正項の大きさを評価してください。そのうえで、くりこまれた質量が mR=125 GeVm_R = 125\ \mathrm{GeV} になるためには、m02m_0^2 と補正項がどれほどの精度で相殺しなければならないか、有効数字の桁数で述べてください。

解答

補正項の大きさは 例 3.2 より λR32π2Λ2\dfrac{\lambda_R}{32\pi^2}\Lambda^2 です。32π2=32×9.8696≈315.832\pi^2 = 32\times 9.8696 \approx 315.8 なので

1315.8×(1.2×1019)2 GeV2=1.44×1038315.8 GeV2≈4.6×1035 GeV2.\frac{1}{315.8}\times(1.2\times 10^{19})^2\ \mathrm{GeV}^2 = \frac{1.44\times 10^{38}}{315.8}\ \mathrm{GeV}^2 \approx 4.6\times 10^{35}\ \mathrm{GeV}^2 .

一方 mR2=(125)2=1.56×104 GeV2m_R^2 = (125)^2 = 1.56\times 10^4\ \mathrm{GeV}^2 です。比は

1.56×1044.6×1035≈3.4×10−32\frac{1.56\times 10^4}{4.6\times 10^{35}} \approx 3.4\times 10^{-32}

なので、m02m_0^2 と補正項は約 32 桁の精度で相殺しなければなりません。裸のパラメータの選び方を 32 桁目でわずかに変えるだけでヒッグス質量がプランクスケールに飛んでしまう、という意味です。

この計算は「くりこみが破綻している」ことを示すのではありません。定理 4.2 の意味でくりこみは完全に機能しており、mRm_R を入力として与えれば予言はすべて有限です。問題は mR≪Λm_R \ll \Lambda という入力値の小ささを説明する原理がないことで、これを自然さの問題と呼びます(注意 4.3)。なお次元正則化では Λ2\Lambda^2 に相当する項が現れないので(Appendix 参照)、この問題は処方を変えれば見えなくなります。それでも問題が残るのは、Λ\Lambda を単なる計算道具ではなく実在の新物理スケール(たとえば大統一スケール)と読むときです。

演習 8.3標準

(a) 命題 6.3 のランダウ極の位置を、λ(μ0)=0.1\lambda(\mu_0) = 0.1 の場合について評価してください。

(b) QCD のベータ関数 β(g)=−g316π2b0\beta(g) = -\dfrac{g^3}{16\pi^2}b_0、b0=11−23nfb_0 = 11-\frac{2}{3}n_f を αs=g2/4π\alpha_s = g^2/4\pi について書き直し、積分して 例 6.5 の表式を導いてください。

解答

(a) ln⁡(μL/μ0)=16π23λ(μ0)=157.90.3≈526\ln(\mu_L/\mu_0) = \dfrac{16\pi^2}{3\lambda(\mu_0)} = \dfrac{157.9}{0.3} \approx 526。よって μL/μ0=e526≈10228\mu_L/\mu_0 = e^{526} \approx 10^{228} です。結合が小さいほどランダウ極は指数関数的に遠のきます。摂動論の破綻は、実用上は無限に遠い先の話になります。

(b) αs=g2/4π\alpha_s = g^2/4\pi の両辺を ln⁡μ\ln\mu で微分すると

dαsdln⁡μ=2g4πdgdln⁡μ=2g4π⋅(−b0g316π2)=−b0g432π3.\frac{d\alpha_s}{d\ln\mu} = \frac{2g}{4\pi}\frac{dg}{d\ln\mu} = \frac{2g}{4\pi}\cdot\Big(-\frac{b_0 g^3}{16\pi^2}\Big) = -\frac{b_0 g^4}{32\pi^3}.

g2=4παsg^2 = 4\pi\alpha_s より g4=16π2αs2g^4 = 16\pi^2\alpha_s^2 なので

dαsdln⁡μ=−b0⋅16π2αs232π3=−b02παs2.\frac{d\alpha_s}{d\ln\mu} = -\frac{b_0\cdot 16\pi^2\alpha_s^2}{32\pi^3} = -\frac{b_0}{2\pi}\alpha_s^2 .

変数分離して積分すると 1αs(μ)=1αs(μ0)+b02πln⁡μμ0\dfrac{1}{\alpha_s(\mu)} = \dfrac{1}{\alpha_s(\mu_0)} + \dfrac{b_0}{2\pi}\ln\dfrac{\mu}{\mu_0} です。ここで積分定数を ΛQCD\Lambda_{\text{QCD}} で書き直します。1αs(μ0)=b02πln⁡μ0ΛQCD\dfrac{1}{\alpha_s(\mu_0)} = \dfrac{b_0}{2\pi}\ln\dfrac{\mu_0}{\Lambda_{\text{QCD}}} となるように ΛQCD\Lambda_{\text{QCD}} を定義すれば

1αs(μ)=b02πln⁡μΛQCD⟺αs(μ)=2πb0ln⁡(μ/ΛQCD)\frac{1}{\alpha_s(\mu)} = \frac{b_0}{2\pi}\ln\frac{\mu}{\Lambda_{\text{QCD}}} \quad\Longleftrightarrow\quad \alpha_s(\mu) = \frac{2\pi}{b_0\ln(\mu/\Lambda_{\text{QCD}})}

が得られます。b0>0b_0 > 0 なので μ→∞\mu \to \infty で αs→0\alpha_s \to 0(漸近的自由性)、μ→ΛQCD\mu \to \Lambda_{\text{QCD}} で発散します。

演習 8.4難

d=4−εd = 4-\varepsilon 次元の ϕ4\phi^4 理論を考えます。

(a) 無次元結合 λ^=λμ−ε\hat\lambda = \lambda\mu^{-\varepsilon} のベータ関数が β(λ^)=−ελ^+3λ^216π2\beta(\hat\lambda) = -\varepsilon\hat\lambda + \dfrac{3\hat\lambda^2}{16\pi^2} となる理由を、次元解析と 命題 6.3 から説明してください。

(b) 2 つの固定点を求め、それぞれの近傍で β\beta を線形化して、固定点からのずれ δλ^\delta\hat\lambda が μ\mu とともにどう振る舞うかを求めてください。どちらが IR で安定でしょうか。

解答

(a) [λ]=4−d=ε[\lambda] = 4 - d = \varepsilon なので λ^=λμ−ε\hat\lambda = \lambda\mu^{-\varepsilon} は無次元です。裸の λ\lambda を固定したまま μ\mu で微分すると、明示的な μ−ε\mu^{-\varepsilon} から

μ∂λ^∂μ∣tree=−ε λμ−ε=−ελ^\mu\frac{\partial\hat\lambda}{\partial\mu}\bigg|_{\text{tree}} = -\varepsilon\,\lambda\mu^{-\varepsilon} = -\varepsilon\hat\lambda

という古典的な項が出ます。これは相互作用が d<4d < 4 で関連演算子であることの表れです。ループからの寄与は 命題 6.3 で計算した 3λ^2/(16π2)3\hat\lambda^2/(16\pi^2) で、ε\varepsilon の 1 次までは 4 次元の係数をそのまま使えます(係数の ε\varepsilon 依存性は O(λ^2ε)O(\hat\lambda^2\varepsilon) の高次補正)。両者を足して主張の式になります。

(b) β(λ^)=λ^(−ε+3λ^16π2)=0\beta(\hat\lambda) = \hat\lambda\Big(-\varepsilon + \dfrac{3\hat\lambda}{16\pi^2}\Big) = 0 より

λ^=0(ガウス固定点),λ^∗=16π2ε3(ウィルソン–フィッシャー固定点).\hat\lambda = 0 \quad\text{(ガウス固定点)},\qquad \hat\lambda^* = \frac{16\pi^2\varepsilon}{3}\quad\text{(ウィルソン–フィッシャー固定点)} .

微分は β′(λ^)=−ε+6λ^16π2\beta'(\hat\lambda) = -\varepsilon + \dfrac{6\hat\lambda}{16\pi^2} なので

β′(0)=−ε,β′(λ^∗)=−ε+616π2⋅16π2ε3=−ε+2ε=+ε.\beta'(0) = -\varepsilon,\qquad \beta'(\hat\lambda^*) = -\varepsilon + \frac{6}{16\pi^2}\cdot\frac{16\pi^2\varepsilon}{3} = -\varepsilon + 2\varepsilon = +\varepsilon .

固定点近傍では μ d(δλ^)/dμ=β′(λ^∗) δλ^\mu\,d(\delta\hat\lambda)/d\mu = \beta'(\hat\lambda^*)\,\delta\hat\lambda なので δλ^(μ)=δλ^(μ0)(μ/μ0)β′\delta\hat\lambda(\mu) = \delta\hat\lambda(\mu_0)\big(\mu/\mu_0\big)^{\beta'} です。

  • ガウス固定点:β′=−ε<0\beta' = -\varepsilon < 0 なので μ→0\mu \to 0(IR)で δλ^\delta\hat\lambda は増大します。IR で不安定です。
  • ウィルソン–フィッシャー固定点:β′=+ε>0\beta' = +\varepsilon > 0 なので μ→0\mu \to 0 で δλ^→0\delta\hat\lambda \to 0。IR で安定です。

したがって d<4d < 4 では、臨界点に調整された系の長距離の振る舞いは、初期条件によらずウィルソン–フィッシャー固定点で決まります。これが臨界現象の普遍性の起源です。なお β′(λ^∗)=ε\beta'(\hat\lambda^*) = \varepsilon は補正指数 ω\omega と呼ばれ、臨界点への近づき方の補正を支配します。d=4d = 4(ε=0\varepsilon = 0)では 2 つの固定点が合流し、命題 6.3 の対数的な流れだけが残ります。

教科書。 M. E. Peskin and D. V. Schroeder, An Introduction to Quantum Field Theory, Addison-Wesley, 1995 — 第 10 章(系統的なくりこみ)と第 12 章(くりこみ群)。本記事の ϕ4\phi^4 の 1 ループ計算とベータ関数は、この 2 章の内容をユークリッド形式で書き直したものです。

S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Vol. I: Foundations, Cambridge University Press, 1995 — 第 11 章・第 12 章。ワインバーグの収束定理とくりこみ可能性の一般論。

J. Zinn-Justin, Quantum Field Theory and Critical Phenomena, Oxford University Press — 第 8 章から第 10 章。BPHZ の森公式による全次数の証明と、臨界現象との関係。

M. Srednicki, Quantum Field Theory, Cambridge University Press, 2007 — 第 I 部後半。ϕ3\phi^3 理論を舞台にした、計算が最後まで追える入門。

九後汰一郎『ゲージ場の量子論 I・II』培風館、1989 — くりこみとくりこみ群の章。ゲージ理論のくりこみを日本語で扱った標準的な文献です。

原論文。 K. G. Wilson and J. Kogut, “The renormalization group and the ε\varepsilon expansion”, Physics Reports 12 (1974), 75–199 — ウィルソン的くりこみ群と ε\varepsilon 展開の総説。

D. J. Gross and F. Wilczek, “Ultraviolet Behavior of Non-Abelian Gauge Theories”, Physical Review Letters 30 (1973), 1343; H. D. Politzer, “Reliable Perturbative Results for Strong Interactions?”, Physical Review Letters 30 (1973), 1346 — 漸近的自由性の発見。

データ。 結合定数の実測値(α(mZ)\alpha(m_Z)、αs(mZ)\alpha_s(m_Z)、GFG_F、MWM_W)は Particle Data Group の Review of Particle Physics によります。

なぜ別の正則化が要るのか。 本文では運動量カットオフを使いました。直観的で、ウィルソン的な描像とも相性がよい方法です。しかし欠点があります。∣k∣<Λ|k| < \Lambda という条件はローレンツ不変ではなく、ゲージ変換とも両立しません。実際、QED にカットオフを入れると光子が質量を持つような発散項が現れ、対称性の回復に余分な手間がかかります。‘t Hooft と Veltman が 1972 年に導入した次元正則化は、時空の次元 dd を複素数に解析接続して積分を有限にする方法で、ローレンツ不変性とゲージ不変性を保ったまま正則化できます。

基本公式。 ユークリッド空間で

∫ddℓ(2π)d1(ℓ2+Δ)n=1(4π)d/2Γ ⁣(n−d2)Γ(n) Δd2−n\int\frac{d^d\ell}{(2\pi)^d}\frac{1}{(\ell^2+\Delta)^n} = \frac{1}{(4\pi)^{d/2}}\frac{\Gamma\!\big(n-\frac{d}{2}\big)}{\Gamma(n)}\,\Delta^{\frac{d}{2}-n}

が成り立ちます。n=2n = 2、d=4−εd = 4-\varepsilon とすると Γ(ε/2)=2/ε−γE+O(ε)\Gamma(\varepsilon/2) = 2/\varepsilon - \gamma_E + O(\varepsilon)(γE\gamma_E はオイラー定数)を使って

∫ddℓ(2π)d1(ℓ2+Δ)2=116π2[2ε−γE+ln⁡4π−ln⁡Δ]+O(ε)\int\frac{d^d\ell}{(2\pi)^d}\frac{1}{(\ell^2+\Delta)^2} = \frac{1}{16\pi^2}\Big[\frac{2}{\varepsilon} - \gamma_E + \ln 4\pi - \ln\Delta\Big] + O(\varepsilon)

となります。本文の 例 3.4 でカットオフが ln⁡Λ2\ln\Lambda^2 という形で現れた場所に、ここでは 2/ε2/\varepsilon という極が現れています。対応は ln⁡Λ2↔2/ε\ln\Lambda^2 \leftrightarrow 2/\varepsilon で、Δ\Delta 依存性(つまり物理的な運動量依存性)はどちらでも同一です。−γE+ln⁡4π-\gamma_E+\ln4\pi を極と一緒に差し引く処方を MS‾\overline{\text{MS}} スキームと呼びます。

べき発散が見えないこと。 n=1n = 1 の場合は Γ(1−d/2)\Gamma(1-d/2) で、d=4−εd = 4-\varepsilon では Γ(−1+ε/2)\Gamma(-1+\varepsilon/2) となって単純極を持ちますが、Λ2\Lambda^2 に相当する項はどこにも現れません。次元正則化では、対数発散だけが 1/ε1/\varepsilon の極として姿を見せ、2 次発散は自動的に 00 と置かれます。注意 4.3 の階層性問題が「処方の選び方の問題ではないか」と言われることがあるのはこのためです。しかし標準模型を、より高いスケール Λnew\Lambda_{\text{new}} の理論の低エネルギー有効理論と見るなら、重い粒子のループが Λnew2\Lambda_{\text{new}}^2 に比例する寄与を実際に生むので、問題は処方に依らない形で戻ってきます。

質量に依存しないスキームの利点。 MS‾\overline{\text{MS}} では、くりこみ定数が極とその係数だけで決まり、質量に依存しません。この性質のおかげで 定理 6.2 の β\beta, γ\gamma, γm\gamma_m が λR\lambda_R のみの関数になり、くりこみ群方程式が扱いやすい形になります。本文で計算した β(λ)=3λ2/(16π2)\beta(\lambda) = 3\lambda^2/(16\pi^2) は、この処方でも同じ値になります(注意 6.4)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 5 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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