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固有値と固有ベクトル:線形変換が向きを変えない方向を探す

前提:行列式とその性質:符号付き体積としての det

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  • 線形変換 TT に対して Tv=λvT\boldsymbol{v} = \lambda\boldsymbol{v} かつ v0\boldsymbol{v} \ne \boldsymbol{0} を満たす λ\lambda を固有値、v\boldsymbol{v} を固有ベクトルといいます。固有ベクトルは「変換しても乗っている直線から出ていかない方向」であり、複雑な変換を単なる伸縮として読むための座標軸の候補です。
  • λ\lambda が固有値であることと、AλIA - \lambda I が正則でないこと、すなわち特性方程式 det(λIA)=0\det(\lambda I - A) = 0 が成り立つことは同値です。これにより固有値を求める問題は多項式の根を求める問題に翻訳されます。
  • 特性多項式は相似変換で不変です。その系として、トレースと行列式は基底の取り方によらない量であり、それぞれ固有値の総和・総積に一致します。
  • 固有値 λ\lambda の固有空間 Wλ=ker(AλI)W_\lambda = \ker(A - \lambda I) は部分空間です。相異なる固有値に属する固有ベクトルは一次独立であり、固有空間の和は常に直和になります。
  • 幾何学的重複度 dimWλ\dim W_\lambda は代数的重複度以下です。すべての固有値でこれが等号になり、かつ特性多項式が一次式の積に分解することが、対角化可能であることと同値です。
  • せん断行列はこの不等式が真の不等号になる最小の例で、対角化できません。ここからジョルダン標準形の必要性が生まれます。

1. 動機 — 行列を見ても「何をする変換か」がわからない

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行列 AA を与えられたとき、それがどういう変換なのかを言い当てるのは、一般には難しいことです。たとえば

A=(2112),B=(3001)A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 2 \end{pmatrix}, \qquad B = \begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}

の二つを見比べてください。BB については一瞬でわかります。横方向に 33 倍、縦方向に 11 倍に引き伸ばす変換です。一方 AA については、成分を眺めても何が起きるのかはっきりしません。ところが実は、この二つは「同じ変換を違う物差しで書いたもの」です。p1=(1,1)T\boldsymbol{p}_1 = (1,1)^{\mathsf{T}}p2=(1,1)T\boldsymbol{p}_2 = (1,-1)^{\mathsf{T}} という斜めの座標軸を使えば、AAp1\boldsymbol{p}_1 方向に 33 倍、p2\boldsymbol{p}_2 方向に 11 倍する変換にほかなりません。実際、

Ap1=(33)=3p1,Ap2=(11)=1p2A\boldsymbol{p}_1 = \begin{pmatrix} 3 \\ 3 \end{pmatrix} = 3\boldsymbol{p}_1, \qquad A\boldsymbol{p}_2 = \begin{pmatrix} 1 \\ -1 \end{pmatrix} = 1\cdot\boldsymbol{p}_2

が成り立ちます。AA が難しく見えたのは、標準基底 e1,e2\boldsymbol{e}_1, \boldsymbol{e}_2 がこの変換にとって「よい物差し」ではなかったからです。

そこで、次の問いを立てます。与えられた線形変換に対して、その変換を対角行列として書けるような基底はあるか。あるとすればどう見つけるか。 対角行列で書けるということは、各基底ベクトルが変換によって定数倍されるだけ、ということです。つまり探すべきは「変換しても向きが変わらないベクトル」であり、その定数倍の比率がわかれば変換は完全に記述できます。これが固有値・固有ベクトルという概念の出発点です。

この問いは、抽象的な整理欲から出てきたのではありません。18 世紀、オイラーは二次曲面の主軸を求める問題で、ラグランジュとラプラスは惑星軌道の長期的なずれ(永年摂動)を調べる問題で、いずれも「ある行列の対角化」に相当する計算に到達しました。当時この方程式は永年方程式(secular equation)と呼ばれ、現在の特性方程式にあたります。19 世紀にはコーシーが対称行列の固有値がすべて実数であることを示し、20 世紀初頭にヒルベルトが積分方程式の研究のなかで Eigenwert(固有値)という語を用いたことで、この呼び名が定着しました。

現代でも、固有値は「変換の核心」を取り出す道具として至るところに現れます。漸化式 xk+1=Axk\boldsymbol{x}_{k+1} = A\boldsymbol{x}_k の長期的な振る舞いは AA の固有値の絶対値で決まりますし、微分方程式系 x˙=Ax\dot{\boldsymbol{x}} = A\boldsymbol{x} の安定性は固有値の実部で決まります。データ解析における主成分分析は、共分散行列の固有ベクトルを「データが最も広がっている方向」として取り出す手続きです。例 7.1例 7.2 で、この二つを最後まで計算して見せます。

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