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ローレンツ変換:時間の遅れと空間の縮みを光時計から導く

前提:特殊相対性理論の原理:ガリレイの相対性から二つの公準へ

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  • 光速度不変の原理を認めると、時間と空間の「測り方」は観測者ごとに変わります。その変わり方を過不足なく決めるのがローレンツ変換です。
  • 動いている時計は γ=1/1v2/c2\gamma = 1/\sqrt{1 - v^2/c^2} 倍だけゆっくり進み(時間の遅れ)、動いている物体は運動方向の長さが 1/γ1/\gamma 倍に縮んで測られます(ローレンツ収縮)。
  • 最も直感に反するのは同時刻の相対性です。ある慣性系で同時に起きた離れた 2 つの事象は、別の慣性系では同時ではありません。時間の遅れと収縮が「お互いさま」でも矛盾しないのは、この一点のおかげです。
  • 3 つの結果はすべて x=γ(xvt)x' = \gamma(x - vt)t=γ(tvx/c2)t' = \gamma(t - vx/c^2) という 1 組の式に含まれます。v/c0v/c \to 0 の極限でガリレイ変換に戻ります。
  • ローレンツ変換で値が変わらない量が世界間隔 s2=c2Δt2Δx2Δy2Δz2s^2 = c^2\Delta t^2 - \Delta x^2 - \Delta y^2 - \Delta z^2 です。これが 4 次元時空(ミンコフスキー時空)の「長さ」であり、因果関係が観測者によらないことを保証します。

1. 動機:ガリレイ変換はどこで破綻するか

Section titled “1. 動機:ガリレイ変換はどこで破綻するか”

前章 特殊相対性理論の原理 で、アインシュタインの 2 つの原理を確認しました。あらためて書いておきます。

問題は、この 2 つが ニュートン力学 の暗黙の前提と真っ向から衝突することです。ニュートン力学では、xx 軸方向に速さ vv で動く座標系 SS' と静止系 SS の座標は

x=xvt,y=y,z=z,t=tx' = x - vt, \qquad y' = y, \qquad z' = z, \qquad t' = t

で結ばれていると考えます。これをガリレイ変換定義 2.3[特殊相対性理論の原理])と呼びます。最後の t=tt' = t が「時間はすべての観測者に共通に流れる」という主張、すなわち絶対時間の仮定です。

ガリレイ変換のもとでは速度は単純に足し算されます。SS で速さ uu の物体は、SS' では u=uvu' = u - v です。ところが u=cu = c の光にこれを当てはめると u=cvu' = c - v となり、SS' での光速は cc ではなくなります。光速度不変の原理と両立しません。

19 世紀末、この矛盾は「光を伝える媒質(エーテル)があり、真に静止した系がある」と考えれば解消するはずでした。しかし 1887 年のマイケルソン・モーリーの実験は、地球の公転(秒速 30 km)に対応するエーテルの風をまったく検出しませんでした(注意 4.3[特殊相対性理論の原理])。

アインシュタインが 1905 年に選んだ道は、実験と衝突している方の仮定を捨てることでした。捨てられたのは t=tt' = t、つまり絶対時間です(系 5.7[特殊相対性理論の原理])。時間の進み方が観測者ごとに違うと認めれば、光速度不変と相対性原理は両立します。この記事では、その「違い方」を最後まで計算して求めます。

定義 2.1事象と標準配置

時空の 1 点、すなわち「いつ・どこで」を指定したものを事象(event)と呼びます。慣性系 SS では事象に 4 つの座標 (t,x,y,z)(t, x, y, z) が割り当てられます。

以下つねに、2 つの慣性系 SSSS' が次の標準配置にあるとします。

  1. SS'SS に対して xx 軸の正の向きに一定の速さ vv0v<c0 \le v < c)で動く。
  2. 両者の xx 軸、yy 軸、zz 軸はそれぞれ平行である。
  3. t=t=0t = t' = 0 のときに両者の原点が一致する。

さらに β=v/c\beta = v/cγ=1/1β2\gamma = 1/\sqrt{1 - \beta^2} と書き、γ\gammaローレンツ因子と呼びます。

0β<10 \le \beta < 1 のとき γ1\gamma \ge 1 であり、β1\beta \to 1γ\gamma \to \infty となります。具体的な値を挙げておきます。

β=v/c\beta = v/cγ\gammaγ1\gamma - 1
3.0×1073.0 \times 10^{-7}(新幹線)1.000000000000041.000\,000\,000\,000\,044.4×10144.4 \times 10^{-14}
1.0×1041.0 \times 10^{-4}(地球の公転)1.0000000051.000\,000\,0055.0×1095.0 \times 10^{-9}
0.50.51.15471.15470.1550.155
0.80.81.66671.66670.6670.667
0.90.92.29422.29421.2941.294
0.990.997.08887.08886.0896.089
0.9990.99922.36622.36621.3721.37

この表は「相対論的効果は β\beta が 0.1 を超えるあたりから急に効きはじめる」ことを示しています。β=0.5\beta = 0.5 でもまだ 15 %、β=0.99\beta = 0.99 で 7 倍です。

2 つの原理から、もう 1 つ最初に確認しておくべき事実があります。SS から見て SS' が速さ vv で動くとき、SS' から見た SS の速さも同じ vv です。これは相対性原理(2 つの系は対等)と空間の等方性(向きに特別扱いはない)から従います。もし SS' から見た SS の速さが vv と異なるなら、その大小によって 2 つの系を区別でき、慣性系に優劣がつくことになって相対性原理に反します。以下ではこの相互性を断りなく使います。

3.1. 運動方向に垂直な長さは変わらない

Section titled “3.1. 運動方向に垂直な長さは変わらない”

先に、後で使う補題を片づけます。これを確かめずに光時計を論じると、議論に穴が残ります。

補題 3.1横方向の長さの不変性

標準配置の慣性系 SSSS' を取る。SS' に静止し、yy 軸(運動方向に垂直な方向)に沿って置かれた棒の長さを SS' で測って 0\ell_0 とすると、同じ棒を SS で測った長さも 0\ell_0 である。zz 軸方向についても同様である。

証明(補題 3.1)

SS で測った長さを =f(v)0\ell = f(v)\,\ell_0 と書きます。相対性原理より ff は 2 つの系の相対速度だけで決まり、空間の等方性より運動の向きにはよらないので、f(v)=f(v)f(v) = f(-v)、すなわち ffv|v| のみの関数です。

いま、静止状態で長さの等しい 2 本の棒 AABB を用意します。AASS に、BBSS' に静止させ、どちらも下端を y=0y = 0 に揃えて yy 軸に平行に立て、xx 軸に沿ってすれ違わせます。棒 BB の上端には、すれ違いざまに相手の棒に印をつける筆を付けておきます。

問題にするのは「BB の筆は AA に印を残したか、それとも AA の上端より上を素通りしたか」という一点です。これは筆と棒 AA が接触したかどうか、つまり 2 つの物体が同じ場所・同じ時刻に居合わせたかどうかという局所的な事実なので、どの慣性系から見ても答えは同じでなければなりません。

ここで f(v)<1f(v) < 1 と仮定します。SS から見ると動いているのは BB なので BB が縮み、BB の上端は AA の上端より低い位置を通ります。よって筆は AA の側面に印を残します。ところが SS' から見ると、相互性より動いているのは AA のほうであり、しかも ffv|v| のみの関数なので同じ係数だけ縮みます。したがって AA の上端が BB の上端より低くなり、筆は AA の上端より上を素通りして印は残りません。同じ局所的事実について正反対の結論が出たので矛盾です。f(v)>1f(v) > 1 と仮定した場合も、上下を入れ替えて同じ矛盾が出ます。

したがって f(v)=1f(v) = 1、すなわち =0\ell = \ell_0 です。

S′(時計とともに動く系)S(地面に静止した系)Δt′ = 2L₀ / cv ΔtL₀c Δt / 2
光時計。左は時計とともに動く系 S′ から見た光の往復、右は地面に静止した系 S から見た同じ現象。S では光は斜めに進むので、より長い距離を走る。

光時計とは、距離 L0L_0 だけ離して向かい合わせに置いた 2 枚の鏡の間を光パルスが往復する装置で、往復 1 回を 1 目盛りとする時計です。鏡を結ぶ線が運動方向(xx 軸)に垂直になるように置きます。

定義 3.2固有時

同じ場所で起こる 2 つの事象(つまりある時計自身の上で起こる 2 つの事象)の間に、その時計が刻む時間を、その 2 事象間の固有時(proper time)と呼び Δτ\Delta \tau と書きます。固有時は「その時計に静止した系で測った経過時間」であり、時計の履歴だけで決まる量です。

定理 3.3時間の遅れ

標準配置の慣性系 SSSS' を取り、SS' に静止した時計を考える。この時計の上で起こる 2 つの事象について、SS' で測った経過時間(固有時)を Δτ\Delta \tauSS で測った経過時間を Δt\Delta t とすると

Δt=γΔτ=Δτ1v2/c2\Delta t = \gamma \, \Delta \tau = \frac{\Delta \tau}{\sqrt{1 - v^2/c^2}}

が成り立つ。γ1\gamma \ge 1 なので ΔtΔτ\Delta t \ge \Delta \tau であり、SS から見るとその時計は自分の時計より遅く進む。

証明(定理 3.3)

まず時計が光時計である場合に示します。

SS' での往復時間。 SS' では時計は静止しており、鏡の間隔は L0L_0、光速は光速度不変の原理より cc です。光は距離 2L02L_0 を走るので

Δτ=2L0c.\Delta \tau = \frac{2L_0}{c}.

この 2 事象(下の鏡から出発、下の鏡に帰着)は SS' で同じ場所で起こるので、Δτ\Delta \tau定義 3.2 の意味の固有時です。

SS での往復時間。 SS では時計全体が速さ vvxx 方向に動きます。鏡の間隔は運動方向に垂直なので、補題 3.1 よりやはり L0L_0 です。往復にかかる時間を Δt\Delta t とすると、その間に時計は水平方向に vΔtv\,\Delta t だけ移動します。光の経路は、上図の右のように、底辺 vΔtv\,\Delta t、高さ L0L_0 の二等辺三角形の 2 つの斜辺です。斜辺の水平方向の広がりは底辺の半分の vΔt/2v\,\Delta t/2 なので、片道の経路長は三平方の定理より

L02+(vΔt2)2\sqrt{L_0^2 + \left(\frac{v\,\Delta t}{2}\right)^2}

であり、往復の経路長はその 2 倍です。ここで光速度不変の原理を SS に適用すると、SS でも光の速さは cc です。したがって経路長は cΔtc\,\Delta t に等しく

cΔt=2L02+(vΔt2)2.c\,\Delta t = 2\sqrt{L_0^2 + \left(\frac{v\,\Delta t}{2}\right)^2}.

両辺を 2 乗して

c2Δt2=4L02+v2Δt2(c2v2)Δt2=4L02.c^2 \Delta t^2 = 4L_0^2 + v^2 \Delta t^2 \quad\Longrightarrow\quad (c^2 - v^2)\,\Delta t^2 = 4L_0^2 .

v<cv < c より c2v2>0c^2 - v^2 > 0 なので

Δt=2L0c2v2=2L0c1v2/c2=γ2L0c=γΔτ.\Delta t = \frac{2L_0}{\sqrt{c^2 - v^2}} = \frac{2L_0}{c\sqrt{1 - v^2/c^2}} = \gamma \cdot \frac{2L_0}{c} = \gamma\,\Delta \tau .

任意の時計への拡張。 光時計の隣に、原子時計でも振り子でもよいので別の時計を置き、SS' で 2 つの時計が同時に目盛りを刻むように合わせておきます。「2 つの時計の針が同じ位置を指す」というのは同じ場所で起こる出来事の一致なので、どの慣性系から見ても成り立ちます。したがって SS から見ても 2 つの時計は同じ速さで進み、光時計について示した関係がそのまま成り立ちます。

もし光時計と原子時計が SS' 内でずれるとしたら、SS' の内部だけの実験で SS' の運動を検出できてしまい、相対性原理に反します。

例 3.4大気中のミューオンはなぜ地上に届くのか

宇宙線が大気上層(高度 15 km 程度)の原子核と衝突すると、ミューオンという不安定な粒子が大量に生まれます。ミューオンの平均寿命は静止状態で τ=2.2 μs\tau = 2.2\ \mu\mathrm{s} です。

古典的に考えると、光速で走ったとしても寿命の間に進める距離は

cτ=(3.0×108 m/s)×(2.2×106 s)660 mc\tau = (3.0\times10^{8}\ \mathrm{m/s}) \times (2.2\times10^{-6}\ \mathrm{s}) \approx 660\ \mathrm{m}

しかありません。15 km どころか 1 km も進めず、地上にはほとんど届かないはずです。ところが実際には地表 1 平方センチメートルあたり毎分 1 個程度のミューオンが降り注いでいます。

定理 3.3 を使いましょう。ミューオンの速さを v=0.995cv = 0.995c とすると

γ=110.9952=110.990025=10.009975=10.09987=10.01.\gamma = \frac{1}{\sqrt{1 - 0.995^2}} = \frac{1}{\sqrt{1 - 0.990025}} = \frac{1}{\sqrt{0.009975}} = \frac{1}{0.09987} = 10.01 .

2.2 μs2.2\ \mu\mathrm{s} はミューオンに静止した系での寿命、すなわち固有時なので、地上系で測った寿命は γτ=10.01×2.2=22.0 μs\gamma\tau = 10.01 \times 2.2 = 22.0\ \mu\mathrm{s} です。この間に進む距離は

0.995c×22.0 μs=(2.985×108)×(2.20×105)6.6×103 m=6.6 km0.995c \times 22.0\ \mu\mathrm{s} = (2.985\times10^{8}) \times (2.20\times10^{-5}) \approx 6.6\times10^{3}\ \mathrm{m} = 6.6\ \mathrm{km}

となり、桁が 1 つ上がります。実際のミューオンはこれより速いものも多く、十分な数が地表に到達します。

これは思考実験ではなく測定された事実です。ロッシとホールは 1941 年に、標高の異なる 2 地点でミューオンの計数率を比べ、崩壊率が運動量とともに落ちることを示しました。フリッシュとスミスは 1963 年にワシントン山(標高約 1900 m)と海面高度で同じ測定を行い、時間の遅れの係数を定量的に確認しています。

4. 空間の縮み(ローレンツ収縮)

Section titled “4. 空間の縮み(ローレンツ収縮)”

時間の遅れが決まると、長さの測り方も自動的に決まります。

定義 4.1固有長

物体に静止した慣性系で測った、その物体の長さを固有長(proper length)と呼び L0L_0 と書きます。物体が動いて見える慣性系での長さは、両端の位置をその慣性系で同時刻に読み取って得られる差として定義します。

「同時刻に読み取る」という但し書きは省けません。動いている棒の先端の位置を 12 時に、後端の位置を 12 時 1 分に読み取れば、いくらでも長い(あるいは短い)値が出てしまいます。この但し書きが後で 定理 5.1 と結びつきます。

定理 4.2ローレンツ収縮

標準配置の慣性系 SSSS' を取る。SS に静止し、xx 軸に平行に置かれた剛体の棒の固有長を L0L_0 とする。この棒を SS' で測った長さ LL'

L=L0γ=L01v2/c2L' = \frac{L_0}{\gamma} = L_0\sqrt{1 - v^2/c^2}

である。γ1\gamma \ge 1 なので LL0L' \le L_0 であり、運動方向の長さは縮んで測られる。運動方向に垂直な長さは 補題 3.1 より変わらない。

証明(定理 4.2)

SS' の原点に静止した観測者 OO' を考えます。OO'SS から見ると速さ vv で棒に沿って動きます。次の 2 つの事象を取ります。

  • 事象 PPOO' が棒の一方の端を通過する。
  • 事象 QQOO' が棒のもう一方の端を通過する。

SS での時間差。 SS では棒は静止していて長さ L0L_0OO' は速さ vv で動くので

Δt=L0v.\Delta t = \frac{L_0}{v}.

SS' での時間差。 PPQQ はどちらも OO' の位置、すなわち SS' の原点で起こります。同じ場所で起こる 2 事象なので、SS' での経過時間は 定義 3.2 の固有時です。したがって 定理 3.3 より

Δt=Δtγ=L0γv.\Delta t' = \frac{\Delta t}{\gamma} = \frac{L_0}{\gamma v}.

SS' での長さ。 SS' から見ると、棒が速さ vv で(xx' 軸の負の向きに)動いています。棒の一端が OO' を通り過ぎてからもう一端が通り過ぎるまでの間に、棒は自分自身の長さのぶんだけ移動します。棒は剛体で等速運動をしているので、この移動距離が SS' で測った棒の長さ LL' です。よって

L=vΔt=vL0γv=L0γ.L' = v\,\Delta t' = v \cdot \frac{L_0}{\gamma v} = \frac{L_0}{\gamma}.

なお、ここで用いた「観測者を通過する時間から長さを求める」測り方が、定義 4.1 の「両端を同時刻に読み取る」測り方と一致することは、定理 6.1 を使って §6 で確かめます。

例 4.3ミューオン自身から見た大気

例 3.4 をミューオンに静止した系で考え直します。この系ではミューオンの寿命は 2.2 μs2.2\ \mu\mathrm{s} のままで、時間の遅れは起きません。では、なぜ地上に届くのでしょうか。

ミューオンから見ると、大気と地面のほうが 0.995c0.995c で近づいてきます。大気の厚み 15 km は地球に静止した系で測った固有長なので、定理 4.2 よりミューオンの系では

15 km10.01=1.5 km\frac{15\ \mathrm{km}}{10.01} = 1.5\ \mathrm{km}

に縮んで見えます。この厚みがミューオンの脇を通り過ぎるのにかかる時間は

1.5×103 m2.985×108 m/s=5.0 μs\frac{1.5\times10^{3}\ \mathrm{m}}{2.985\times10^{8}\ \mathrm{m/s}} = 5.0\ \mu\mathrm{s}

です。

2 つの計算が同じ答えを与えることを確かめましょう。ミューオン系では、大気を横切るのに平均寿命の 5.0/2.2=2.35.0/2.2 = 2.3 倍の時間がかかります。地上系では、平均寿命の間に 6.6 km6.6\ \mathrm{km} 進めるので、15 km15\ \mathrm{km} を横切るのに平均寿命の 15/6.6=2.315/6.6 = 2.3 倍の時間がかかります。比が一致しました。生き残る割合はどちらで計算しても e2.3=0.10e^{-2.3} = 0.10、およそ 10 % です。

説明の言葉は「寿命が伸びる」と「距離が縮む」でまるで違いますが、「何個のミューオンが地表に届くか」という観測にかかる 1 つの答えについては完全に一致します。相対論の計算では、この一致がつねに成り立ちます。

ここが古典的な直感との最大の分かれ目です。時間の遅れと長さの収縮は「なんとなくそういうこともあるか」と受け入れられても、次の主張は落ち着いて考えないと飲み込めません。

定理 5.1同時刻の相対性

標準配置の慣性系 SSSS' を取り、0<v<c0 < v < c とする。SS'同時刻に起こる 2 つの事象 PPQQ が、SS'xx' 座標で Δx=xQxP>0\Delta x' = x'_Q - x'_P > 0 だけ離れているとする。このとき SS ではこの 2 事象は同時刻ではなく、時刻差は

Δt=tQtP=γvΔxc2>0\Delta t = t_Q - t_P = \frac{\gamma\, v\, \Delta x'}{c^2} > 0

である。すなわち SS から見ると、進行方向の前方で起こる事象 QQ のほうが後に起こる。

証明(定理 5.1)

見通しをよくするため、具体的な装置で PPQQ を作ります。SS' に静止した長さ Δx\Delta x' の車両を考え、その中央に光源を置きます。光源が一瞬光り、その光が後端に届く事象を PP、前端に届く事象を QQ とします。

SS' では同時刻。 SS' で光速は前後どちらの向きにも cc(光速度不変の原理)、中央から両端までの距離はどちらも Δx/2\Delta x'/2 です。よって光は同じ時間で両端に届き、PPQQSS' で同時刻です。

SS での時刻差。 SS では車両の長さは 定理 4.2 より L=Δx/γL = \Delta x'/\gamma に縮み、車両全体が速さ vvxx 軸正の向きに動きます。光が出た瞬間を t=0t = 0、そのときの光源の位置を x=0x = 0 とし、後端の位置を x(t)x_-(t)、前端の位置を x+(t)x_+(t) と書くと

x(t)=L2+vt,x+(t)=L2+vtx_-(t) = -\frac{L}{2} + vt, \qquad x_+(t) = \frac{L}{2} + vt

です。SS でも光速は cc なので、後ろ向きの光は x=ctx = -ct、前向きの光は x=ctx = ct に沿って進みます。それぞれ端に追いつく時刻 tPt_PtQt_Q

ctP=L2+vtP  tP=L2(c+v),ctQ=L2+vtQ  tQ=L2(cv).-c\,t_P = -\frac{L}{2} + v\,t_P \ \Longrightarrow\ t_P = \frac{L}{2(c+v)}, \qquad c\,t_Q = \frac{L}{2} + v\,t_Q \ \Longrightarrow\ t_Q = \frac{L}{2(c-v)} .

後端は光に向かって進み、前端は光から逃げるので、tP<tQt_P < t_Q です。差を計算すると

Δt=tQtP=L2(1cv1c+v)=L2(c+v)(cv)c2v2=Lvc2v2.\Delta t = t_Q - t_P = \frac{L}{2}\left(\frac{1}{c-v} - \frac{1}{c+v}\right) = \frac{L}{2}\cdot\frac{(c+v)-(c-v)}{c^2 - v^2} = \frac{L\,v}{c^2 - v^2} .

ここで c2v2=c2(1β2)=c2/γ2c^2 - v^2 = c^2(1 - \beta^2) = c^2/\gamma^2 なので

Δt=γ2Lvc2=γ2vc2Δxγ=γvΔxc2.\Delta t = \frac{\gamma^2 L v}{c^2} = \frac{\gamma^2 v}{c^2}\cdot\frac{\Delta x'}{\gamma} = \frac{\gamma\, v\, \Delta x'}{c^2}.

v>0v > 0Δx>0\Delta x' > 0 より Δt>0\Delta t > 0 です。

なお、ここでは特定の装置で作った 1 組の事象について示しました。SS' で同時刻な任意の 2 事象について同じ式が成り立つことは、定理 6.1 から直ちに従います。定理 6.1 はこの結果を使わずに独立に導くので、循環論法にはなりません。

例 5.2どれくらいずれるのか

まず日常のスケールで見積もります。長さ 400 m400\ \mathrm{m} の新幹線が時速 320 km320\ \mathrm{km}v=88.9 m/sv = 88.9\ \mathrm{m/s})で走っているとき、車内で同時刻の 2 事象の地上系での時刻差は、γ1\gamma \approx 1 として

ΔtvL0c2=88.9×400(3.0×108)2=3.56×1049.0×1016=4.0×1013 s\Delta t \approx \frac{v L_0}{c^2} = \frac{88.9 \times 400}{(3.0\times10^{8})^2} = \frac{3.56\times10^{4}}{9.0\times10^{16}} = 4.0\times10^{-13}\ \mathrm{s}

です。0.4 ピコ秒。人間が気づけるはずがありません。同時刻が絶対だと信じてきたのは当然です。

次に相対論的な速さで。固有長 100 m100\ \mathrm{m} の宇宙船が v=0.8cv = 0.8c で飛んでいるとします。γ=1/10.64=1/0.6=5/3\gamma = 1/\sqrt{1-0.64} = 1/0.6 = 5/3 なので

Δt=γvL0c2=(5/3)×(0.8c)×100c2=(5/3)×0.8×1003.0×108=133.33.0×108=4.4×107 s\Delta t = \frac{\gamma v L_0}{c^2} = \frac{(5/3)\times(0.8c)\times 100}{c^2} = \frac{(5/3)\times 0.8 \times 100}{3.0\times10^{8}} = \frac{133.3}{3.0\times10^{8}} = 4.4\times10^{-7}\ \mathrm{s}

すなわち約 440440 ナノ秒です。船内で「同時に」船首と船尾の照明が点いたとき、地上の観測者は船首の照明が 440440 ナノ秒遅れて点いたと記録します。どちらも正しい記録です。

注意 5.3

定理 3.3 は「SS から見て SS' の時計が遅れる」と述べますが、相対性原理により「SS' から見て SS の時計が遅れる」も同時に正しいはずです。これは矛盾ではないのでしょうか。

矛盾しません。「SS の時計が遅れている」という主張は、離れた場所にある複数の時計の読みをある系で同時刻に比べて初めて意味を持ちます。定理 5.1 より、その「同時刻」が SSSS' で違うので、両者は同じ比較をしていません。SS の観測者は SS' の 1 個の時計を、SS に並べた複数の時計と比べています。SS' の観測者はその逆をしています。比べ方が違うのだから、両方が「相手が遅れている」と結論しても衝突しないのです。

時間の遅れ・長さの収縮・同時刻の相対性は 3 つ別々の現象ではなく、1 つの変換の 3 つの側面です。次節でその変換を書き下します。

定理 6.1ローレンツ変換(ブースト)

標準配置の慣性系 SSSS' を取る。相対性原理・光速度不変の原理、および時空の一様性から従う「座標変換は 1 次式である」という仮定のもとで、同一の事象の座標は

x=γ(xvt),y=y,z=z,t=γ(tvxc2)\begin{aligned} x' &= \gamma\,(x - v t), \\ y' &= y, \\ z' &= z, \\ t' &= \gamma\left(t - \frac{v x}{c^2}\right) \end{aligned}

で結ばれる。ここで γ=1/1v2/c2\gamma = 1/\sqrt{1 - v^2/c^2} である。逆変換は vvv-v に置き換えて

x=γ(x+vt),t=γ(t+vxc2)x = \gamma\,(x' + v t'), \qquad t = \gamma\left(t' + \frac{v x'}{c^2}\right)

となる。v/c0v/c \to 0 の極限でガリレイ変換 x=xvtx' = x - vtt=tt' = t に一致する。

証明(定理 6.1)

手順 1(yyzz 成分)。 補題 3.1 より運動方向に垂直な長さは変わらないので y=yy' = yz=zz' = z です。

手順 2(xx の変換の形)。 変換が 1 次式であるという仮定と、xx 軸のまわりの回転対称性(xx'yyzz に依存すると、yy 軸まわりに 180180 度回した配置と区別がついてしまいます)から、x=ax+btx' = a x + b t と書けます。ここで aabbvv だけで決まる定数です。

SS' の原点は x=0x' = 0 で定まる点であり、SS から見ると x=vtx = vt に沿って動きます。したがって x=vtx = vt を代入したとき恒等的に x=0x' = 0 でなければならず

a(vt)+bt=(av+b)t=0(すべての t)b=ava\,(vt) + b\,t = (av + b)\,t = 0 \quad(\text{すべての } t) \quad\Longrightarrow\quad b = -av

を得ます。A=aA = a と書き直せば

x=A(xvt)x' = A\,(x - vt)

です。

手順 3(逆向きの変換)。 相対性原理より、SS' から見た SS にも同じ形の法則が成り立ちます。相互性より SS' から見た SS の速度は v-v なので

x=A(v)(x(v)t)=A(v)(x+vt).x = A(-v)\,\bigl(x' - (-v)t'\bigr) = A(-v)\,(x' + v t').

空間の等方性より AA は速度の向きによらない、すなわち A(v)=A(v)=AA(-v) = A(v) = A です。よって

x=A(x+vt).x = A\,(x' + v t').

手順 4(光速度不変で AA を決める)。 t=t=0t = t' = 0 に原点から xx 軸正の向きに光を出します。光速度不変の原理より、SS では x=ctx = ctSS' では x=ctx' = ct' が成り立ちます。これを手順 2、3 の式に代入すると

ct=A(ctvt)=At(cv),ct=A(ct+vt)=At(c+v).c t' = A\,(ct - vt) = A t\,(c - v), \qquad c t = A\,(ct' + v t') = A t'\,(c + v).

光が原点を出てからしばらく経った 1 点を取れば t0t \ne 0 です。すると 2 番目の式 ct=At(c+v)ct = A t'(c+v) の左辺が 00 でないので t0t' \ne 0 でもあります。そこで辺々を掛けると

c2tt=A2tt(cv)(c+v)=A2tt(c2v2)c^2 t t' = A^2 t t' (c-v)(c+v) = A^2 t t' (c^2 - v^2)

となり、tt0t t' \ne 0 で割って

A2=c2c2v2=11v2/c2=γ2.A^2 = \frac{c^2}{c^2 - v^2} = \frac{1}{1 - v^2/c^2} = \gamma^2 .

xx 軸の向きを保つ変換を考えているので A>0A > 0、したがって A=γA = \gamma です。

手順 5(時間の変換)。 手順 2 の x=γ(xvt)x' = \gamma(x - vt) を手順 3 の x=γ(x+vt)x = \gamma(x' + vt') に代入します。

x=γ(γ(xvt)+vt)=γ2xγ2vt+γvt.x = \gamma\bigl(\gamma(x - vt) + v t'\bigr) = \gamma^2 x - \gamma^2 v t + \gamma v t'.

γvt\gamma v t' について解くと

γvt=xγ2x+γ2vt=x(1γ2)+γ2vt.\gamma v t' = x - \gamma^2 x + \gamma^2 v t = x\,(1 - \gamma^2) + \gamma^2 v t .

ここで

1γ2=111β2=(1β2)11β2=β21β2=γ2β21 - \gamma^2 = 1 - \frac{1}{1-\beta^2} = \frac{(1-\beta^2) - 1}{1-\beta^2} = \frac{-\beta^2}{1-\beta^2} = -\gamma^2\beta^2

を使うと

γvt=γ2β2x+γ2vtt=γ(tβ2vx).\gamma v t' = -\gamma^2 \beta^2 x + \gamma^2 v t \quad\Longrightarrow\quad t' = \gamma\left(t - \frac{\beta^2}{v}x\right).

β2/v=(v2/c2)/v=v/c2\beta^2/v = (v^2/c^2)/v = v/c^2 なので

t=γ(tvxc2)t' = \gamma\left(t - \frac{v x}{c^2}\right)

を得ます。逆変換は、手順 3 と同じ議論(vvv \to -v)から従います。

極限。 v/c0v/c \to 0 では γ1\gamma \to 1vx/c20vx/c^2 \to 0 なので xxvtx' \to x - vtttt' \to t となり、ガリレイ変換に戻ります。

注意 6.2

証明で使った「変換が 1 次式である」という仮定は、時空の一様性から導けます(注意 5.6[特殊相対性理論の原理])。慣性系では自由粒子は等速直線運動をします。これは時空図の上では直線です。SS での直線が SS' でも直線でなければならないので、変換は直線を直線に写す写像、すなわちアフィン変換に限られます。さらに t=t=0t = t' = 0 で原点が一致するという標準配置の条件から、定数項が消えて 1 次(線形)変換になります。

「直線を直線に写す全単射はアフィン変換に限る」という事実は、アフィン幾何学の基本定理として知られています。

導いた変換から、これまでの 3 つの結果がすべて再現されることを確かめます。

  • 時間の遅れ。 SS' に静止した時計(Δx=0\Delta x' = 0)について、逆変換 t=γ(t+vx/c2)t = \gamma(t' + vx'/c^2) より Δt=γΔt\Delta t = \gamma\,\Delta t'定理 3.3 と一致します。
  • 同時刻の相対性。 Δt=0\Delta t' = 0 の 2 事象について Δt=γvΔx/c2\Delta t = \gamma v \Delta x'/c^2定理 5.1 と一致します。
  • ローレンツ収縮。 SS に静止した棒の両端を SS' で同時刻に測る、すなわち Δt=0\Delta t' = 0 とします。x=γ(xvt)x' = \gamma(x - vt)t=γ(tvx/c2)t' = \gamma(t - vx/c^2) から tt を消去すると、x=γ(x+vt)x = \gamma(x' + vt') なので Δt=0\Delta t' = 0 のとき Δx=γΔx\Delta x = \gamma\,\Delta x'、すなわち Δx=Δx/γ=L0/γ\Delta x' = \Delta x/\gamma = L_0/\gamma定理 4.2 と一致し、定義 4.1 の「同時刻に両端を読む」測り方と、定理 4.2 の証明で使った「通過時間から求める」測り方が同じ答えを与えることが確かめられました。

系 6.3速度の合成則

標準配置の慣性系 SSSS' を取る。ある粒子が SS'xx' 方向に一定の速度 uu' で運動しているとき、SS での速度 uu

u=u+v1+uvc2u = \frac{u' + v}{1 + \dfrac{u' v}{c^2}}

である。逆に SS での速度 uu から SS' での速度は u=(uv)/(1uv/c2)u' = (u - v)/(1 - uv/c^2) で与えられる。とくに u<c|u'| < c かつ v<c|v| < c ならば u<c|u| < c であり、u=cu' = c ならば u=cu = c である。

証明(系 6.3)

定理 6.1 の逆変換を微小変化について書くと

dx=γ(dx+vdt),dt=γ(dt+vdxc2).dx = \gamma\,(dx' + v\,dt'), \qquad dt = \gamma\left(dt' + \frac{v\,dx'}{c^2}\right).

辺々の比を取り、分母・分子を γdt\gamma\,dt' で割ると

u=dxdt=dx+vdtdt+vdx/c2=dxdt+v1+vc2dxdt=u+v1+uvc2.u = \frac{dx}{dt} = \frac{dx' + v\,dt'}{dt' + v\,dx'/c^2} = \frac{\dfrac{dx'}{dt'} + v}{1 + \dfrac{v}{c^2}\dfrac{dx'}{dt'}} = \frac{u' + v}{1 + \dfrac{u'v}{c^2}} .

u=cu' = c を代入すると

u=c+v1+cvc2=c+v1+v/c=c(c+v)c+v=cu = \frac{c + v}{1 + \dfrac{cv}{c^2}} = \frac{c+v}{1 + v/c} = \frac{c(c+v)}{c+v} = c

となり、光速はどの慣性系でも cc です。光速度不変の原理が変換の中に組み込まれていることが見て取れます。

u<c|u'| < cv<c|v| < c のとき u<c|u| < c となることは、次の 2 つの恒等式からわかります。まず

cu=c(1+uvc2)(u+v)1+uvc2=c+uvcuv1+uvc2=(cu)(cv)c1+uvc2c - u = \frac{c\left(1 + \dfrac{u'v}{c^2}\right) - (u' + v)}{1 + \dfrac{u'v}{c^2}} = \frac{c + \dfrac{u'v}{c} - u' - v}{1 + \dfrac{u'v}{c^2}} = \frac{\dfrac{(c - u')(c - v)}{c}}{1 + \dfrac{u'v}{c^2}}

です。実際、分子を展開すると (cu)(cv)/c=(c2cvcu+uv)/c=cvu+uv/c(c-u')(c-v)/c = (c^2 - cv - cu' + u'v)/c = c - v - u' + u'v/c となって一致します。同じ計算で

c+u=c(1+uvc2)+(u+v)1+uvc2=(c+u)(c+v)c1+uvc2c + u = \frac{c\left(1 + \dfrac{u'v}{c^2}\right) + (u' + v)}{1 + \dfrac{u'v}{c^2}} = \frac{\dfrac{(c + u')(c + v)}{c}}{1 + \dfrac{u'v}{c^2}}

も得られます。u<c|u'| < cv<c|v| < c より cu>0c - u' > 0cv>0c - v > 0c+u>0c + u' > 0c+v>0c + v > 0 なので、どちらの分子も正です。また uv/c2<1|u'v|/c^2 < 1 より分母 1+uv/c21 + u'v/c^2 も正です。よって cu>0c - u > 0 かつ c+u>0c + u > 0、すなわち u<c|u| < c が従います。

例 6.40.5c と 0.5c を足すと

ロケット AA が地球から 0.5c0.5c で遠ざかり、AA から見てさらに 0.5c0.5c で前方にロケット BB を射出したとします。ガリレイ的には BB の地球に対する速さは cc になってしまいます。系 6.3 では

u=0.5c+0.5c1+(0.5c)(0.5c)c2=c1+0.25=c1.25=0.8c.u = \frac{0.5c + 0.5c}{1 + \dfrac{(0.5c)(0.5c)}{c^2}} = \frac{c}{1 + 0.25} = \frac{c}{1.25} = 0.8c .

もっと極端に u=v=0.9cu' = v = 0.9c とすると

u=1.8c1+0.81=1.8c1.81=0.9945cu = \frac{1.8c}{1 + 0.81} = \frac{1.8c}{1.81} = 0.9945c

で、やはり cc には届きません。何度足しても光速を超えられないことは、速度の合成則の分母が効いてくるためです。この「cc が上限である」という構造が、相対論的力学(E=mc²) で運動量とエネルギーの形を決めることになります(定理 4.4[相対論的力学])。

7. ミンコフスキー時空と世界間隔

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ローレンツ変換のもとで ttxx も変わってしまうなら、何が「本当の量」なのでしょうか。ユークリッド幾何で座標軸を回しても x2+y2x^2 + y^2 が変わらないのと同じように、ローレンツ変換で変わらない量があります。

定義 7.1世界間隔

2 つの事象 E1=(t1,x1,y1,z1)E_1 = (t_1, x_1, y_1, z_1)E2=(t2,x2,y2,z2)E_2 = (t_2, x_2, y_2, z_2) に対し、Δt=t2t1\Delta t = t_2 - t_1 などと書いて

s2=c2Δt2Δx2Δy2Δz2s^2 = c^2 \Delta t^2 - \Delta x^2 - \Delta y^2 - \Delta z^2

を 2 事象間の世界間隔(spacetime interval)の 2 乗と呼びます。s2s^2 は負にもなり得るので、記号 s2s^2 は 2 乗を表す慣習的な書き方であり、ss が実数とは限りません。

定理 7.2世界間隔の不変性

標準配置の慣性系 SSSS' を取り、同じ 2 つの事象の座標差を SS(Δt,Δx,Δy,Δz)(\Delta t, \Delta x, \Delta y, \Delta z)SS'(Δt,Δx,Δy,Δz)(\Delta t', \Delta x', \Delta y', \Delta z') とすると

c2Δt2Δx2Δy2Δz2=c2Δt2Δx2Δy2Δz2c^2\Delta t'^2 - \Delta x'^2 - \Delta y'^2 - \Delta z'^2 = c^2\Delta t^2 - \Delta x^2 - \Delta y^2 - \Delta z^2

が成り立つ。すなわち世界間隔はローレンツ変換で不変である。

証明(定理 7.2)

定理 6.1 は 1 次変換なので、座標差にもそのまま適用できます。Δy=Δy\Delta y' = \Delta yΔz=Δz\Delta z' = \Delta zy=yy' = yz=zz' = z の差を取れば得られるので、ttxx の部分だけ計算します。

c2Δt2Δx2=c2γ2(ΔtvΔxc2)2γ2(ΔxvΔt)2=γ2[c2Δt22vΔtΔx+v2c2Δx2Δx2+2vΔxΔtv2Δt2].\begin{aligned} c^2\Delta t'^2 - \Delta x'^2 &= c^2\gamma^2\left(\Delta t - \frac{v\Delta x}{c^2}\right)^2 - \gamma^2\left(\Delta x - v\Delta t\right)^2 \\ &= \gamma^2\left[c^2\Delta t^2 - 2v\,\Delta t\,\Delta x + \frac{v^2}{c^2}\Delta x^2 - \Delta x^2 + 2v\,\Delta x\,\Delta t - v^2\Delta t^2\right]. \end{aligned}

第 2 項 2vΔtΔx-2v\Delta t\Delta x と第 5 項 +2vΔxΔt+2v\Delta x\Delta t が打ち消し合います。残りを Δt2\Delta t^2Δx2\Delta x^2 でまとめると

c2Δt2Δx2=γ2[c2Δt2(1v2c2)Δx2(1v2c2)]=γ2(1v2c2)(c2Δt2Δx2).\begin{aligned} c^2\Delta t'^2 - \Delta x'^2 &= \gamma^2\left[c^2\Delta t^2\left(1 - \frac{v^2}{c^2}\right) - \Delta x^2\left(1 - \frac{v^2}{c^2}\right)\right] \\ &= \gamma^2\left(1 - \frac{v^2}{c^2}\right)\left(c^2\Delta t^2 - \Delta x^2\right). \end{aligned}

γ2=1/(1v2/c2)\gamma^2 = 1/(1 - v^2/c^2) より γ2(1v2/c2)=1\gamma^2(1 - v^2/c^2) = 1 なので

c2Δt2Δx2=c2Δt2Δx2.c^2\Delta t'^2 - \Delta x'^2 = c^2\Delta t^2 - \Delta x^2 .

両辺から Δy2+Δz2\Delta y^2 + \Delta z^2 を引けば主張が得られます。

この不変量を持つ 4 次元空間をミンコフスキー時空と呼びます。空間 3 次元と時間 1 次元を別々のものとして扱うのではなく、(ct,x,y,z)(ct, x, y, z) を 1 つの点の座標とみなす見方です。ミンコフスキー自身の 1908 年の講演の言葉を借りれば、空間と時間は単独では影に沈み、両者の結合だけが独立の実在を保ちます。

ユークリッド空間との違いは符号だけです。ユークリッド空間で不変なのは Δx2+Δy2\Delta x^2 + \Delta y^2、ミンコフスキー時空で不変なのは c2Δt2Δx2c^2\Delta t^2 - \Delta x^2。この 1 個のマイナス符号が、回転を双曲線的な変換(ブースト)に変え、時空に因果構造を与えます。

ctx(S の同時刻線)未来過去空間的空間的Oct′x′(S′ の同時刻線)光の世界線
ミンコフスキー時空図(縦軸 ct、横軸 x)。斜め 45 度の直線が光の世界線で、それが未来・過去の光円錐を区切る。S′ の時間軸 ct′ と空間軸 x′ は、光の世界線を挟んで対称に傾く。x 軸は S の同時刻線、x′ 軸は S′ の同時刻線であり、両者は一致しない。

図の読み方を補足します。縦軸を ctct(時間に cc を掛けて長さの次元に揃えたもの)にすると、光の世界線はちょうど 45 度の直線 ct=±xct = \pm x になります。

SS' の時間軸 ctct' は「x=0x' = 0 を満たす事象の集まり」、すなわち x=vtx = vt という直線で、(x,ct)(x, ct) 平面では x=β(ct)x = \beta\,(ct) と書けます。SS' の空間軸 xx' は「t=0t' = 0 を満たす事象の集まり」で、定理 6.1t=γ(tvx/c2)t' = \gamma(t - vx/c^2)00 と置いて ct=βxct = \beta x です。つまり ctct' 軸は ctct 軸から、xx' 軸は xx 軸から、それぞれ正接が β\beta に等しい角だけ、光の世界線に向かって傾きます。2 本の軸は光の世界線を挟んで対称に閉じていき、β1\beta \to 1 でどちらも光の世界線に重なります。

xx 軸(SS の同時刻線)と xx' 軸(SS' の同時刻線)が別の直線であること、これが 定理 5.1 の図形的な意味です。

命題 7.3因果構造の絶対性

2 つの相異なる事象について、s2s^2 の符号と、s20s^2 \ge 0 の場合の時間の前後関係は、どの慣性系から見ても同じである。詳しくは次が成り立つ。

  1. s2>0s^2 > 0時間的に隔たっている)または s2=0s^2 = 0光的)のとき、Δt\Delta t の符号はすべての慣性系で同じである。
  2. s2<0s^2 < 0空間的に隔たっている)のとき、Δt>0\Delta t > 0 となる慣性系、Δt=0\Delta t = 0 となる慣性系、Δt<0\Delta t < 0 となる慣性系がいずれも存在する。
証明(命題 7.3)

s2s^2 の符号が系によらないことは 定理 7.2 そのものです。座標軸の向きを取り直して、2 事象が xx 軸上にあるとしてよいので、以下 Δy=Δz=0\Delta y = \Delta z = 0 とします。

(1) の証明。 s20s^2 \ge 0c2Δt2Δx2c^2\Delta t^2 \ge \Delta x^2、すなわち ΔxcΔt|\Delta x| \le c\,|\Delta t| を意味します。ここで Δt=0\Delta t = 0 とすると Δx0|\Delta x| \le 0 より Δx=0\Delta x = 0 となって同一の事象になってしまうので、相異なる 2 事象では Δt0\Delta t \ne 0 です。定理 6.1 より

Δt=γ(ΔtvΔxc2)\Delta t' = \gamma\left(\Delta t - \frac{v\,\Delta x}{c^2}\right)

であり、γ>0\gamma > 0 なので Δt\Delta t' の符号は括弧の中の符号で決まります。第 2 項の大きさを評価すると

vΔxc2vc2cΔt=vcΔt<Δt\left|\frac{v\,\Delta x}{c^2}\right| \le \frac{|v|}{c^2}\cdot c\,|\Delta t| = \frac{|v|}{c}\,|\Delta t| < |\Delta t|

です(最後の不等号で v<c|v| < c を使いました)。第 2 項の大きさが第 1 項の大きさより真に小さいので、括弧の中の符号は Δt\Delta t の符号と一致します。よって Δt\Delta t'Δt\Delta t は同符号です。

(2) の証明。 s2<0s^2 < 0Δx>cΔt|\Delta x| > c\,|\Delta t| を意味し、とくに Δx0\Delta x \ne 0 です。そこで

v0=c2ΔtΔxv_0 = \frac{c^2\,\Delta t}{\Delta x}

と置くと、v0=c2Δt/Δx<c2Δx/(cΔx)=c|v_0| = c^2|\Delta t|/|\Delta x| < c^2 \cdot |\Delta x| / (c\,|\Delta x|) = c なので、v0v_0 は許される相対速度です。この v0v_0 で動く系では

Δt=γ(Δtv0Δxc2)=γ(ΔtΔt)=0\Delta t' = \gamma\left(\Delta t - \frac{v_0 \Delta x}{c^2}\right) = \gamma\left(\Delta t - \Delta t\right) = 0

となり、2 事象は同時刻です。vvv0v_0 より少し大きく、あるいは少し小さく取れば、Δt\Delta t' は連続的に符号を変えます。よって前後関係が逆転する系が存在します。

この命題が相対論における因果律の保証です。原因と結果は必ず光速以下で結ばれる(時間的または光的に隔たる)ので、その前後関係はすべての観測者にとって同じです。前後関係が逆転しうるのは空間的に隔たった事象、すなわち光でも間に合わず、互いに影響を及ぼしようがない事象の組だけです。「同時刻は相対的だが、因果は絶対である」と要約できます。

例 7.4棒と納屋のパラドックス

固有長 10 m10\ \mathrm{m} の棒が、固有長 8 m8\ \mathrm{m} の納屋を β=3/20.866\beta = \sqrt{3}/2 \approx 0.866γ=2\gamma = 2)で通り抜けます。納屋には前後に扉があります。

納屋の系 SS では。 棒の長さは 10/γ=5 m10/\gamma = 5\ \mathrm{m} に縮むので、8 m8\ \mathrm{m} の納屋に余裕で収まります。ある瞬間に両方の扉を閉めれば、棒は完全に納屋の中です。

棒の系 SS' では。 納屋の長さが 8/γ=4 m8/\gamma = 4\ \mathrm{m} に縮み、棒は 10 m10\ \mathrm{m} のままです。棒は絶対に納屋に収まりません。

矛盾しているように見えますが、定理 5.1 が効きます。座標を入れて確かめましょう。長さをメートル、時刻を ctct(メートル単位)で測ります。SS で入口の扉を x=0x = 0、出口の扉を x=8x = 8 に置き、ct=0ct = 0 のとき棒の後端が x=0x = 0、先端が x=5x = 5 にあるとします。棒が完全に中にあるのは 0ct3/0.866=3.460 \le ct \le 3/0.866 = 3.46 の間なので、ct=2ct = 2 に両方の扉を閉めることにします。2 つの事象は

  • 事象 FF(入口の扉を閉める):(ct,x)=(2,0)(ct, x) = (2, 0)
  • 事象 RR(出口の扉を閉める):(ct,x)=(2,8)(ct, x) = (2, 8)

で、SS では同時刻です。定理 6.1ct=γ(ctβx)ct' = \gamma(ct - \beta x)x=γ(xβct)x' = \gamma(x - \beta\, ct) の形で適用します。

F:ct=2(20.866×0)=4,x=2(00.866×2)=3.46,R:ct=2(20.866×8)=9.86,x=2(80.866×2)=12.5.\begin{aligned} F:\quad & ct' = 2\,(2 - 0.866\times 0) = 4, \qquad x' = 2\,(0 - 0.866\times 2) = -3.46, \\ R:\quad & ct' = 2\,(2 - 0.866\times 8) = -9.86, \qquad x' = 2\,(8 - 0.866\times 2) = 12.5 . \end{aligned}

棒の系では、出口の扉が閉まる事象 RR のほうが入口の事象 FF より 13.913.9 だけに起こっています。これは 定理 5.1γβL0=2×0.866×8=13.9\gamma \beta L_0 = 2 \times 0.866 \times 8 = 13.9 と一致します。

つまり棒の系から見た出来事はこうです。まず遠くで出口の扉が閉じ、また開く(このとき棒の先端はまだ x=10x' = 10 にあり、x=12.5x' = 12.5 の扉には届いていません)。ずっと後になって、棒の後端を通り過ぎた入口の扉が閉じる。棒が両方の扉に挟まれて納屋に閉じ込められる瞬間は一度もありません。

どちらの系でも「扉が閉まるとき、その扉の位置に棒はなかった」という局所的事実は同じです。食い違っているのは「2 枚の扉が同時に閉まっていたか」という、そもそも系に依存する問いへの答えだけでした。

演習 8.1

(1) β=0.6\beta = 0.6 のときのローレンツ因子 γ\gamma を求めてください。 (2) 地球から見て 0.6c0.6c で飛ぶ宇宙船の中で、船内時計が 1 年進みました。地球では何年経ったでしょうか。 (3) γ=2\gamma = 2 となる速さ β\beta を求めてください。

解答

(1) γ=1/10.62=1/10.36=1/0.64=1/0.8=1.25\gamma = 1/\sqrt{1 - 0.6^2} = 1/\sqrt{1 - 0.36} = 1/\sqrt{0.64} = 1/0.8 = 1.25 です。

(2) 船内時計が刻む 1 年は、同じ場所(船内)で起こる 2 事象の間の時間なので 定義 3.2 の固有時です。定理 3.3 より地球で測った経過時間は Δt=γΔτ=1.25×1=1.25\Delta t = \gamma\,\Delta\tau = 1.25 \times 1 = 1.25 年です。

(3) γ=1/1β2=2\gamma = 1/\sqrt{1-\beta^2} = 2 より 1β2=1/2\sqrt{1-\beta^2} = 1/2、両辺を 2 乗して 1β2=1/41 - \beta^2 = 1/4、よって β2=3/4\beta^2 = 3/4β=3/20.866\beta = \sqrt{3}/2 \approx 0.866 です。

演習 8.2標準

高度 10 km10\ \mathrm{km} でミューオンが生成され、β=0.999\beta = 0.999 で真下に飛んだとします。ミューオンの固有寿命は 2.2 μs2.2\ \mu\mathrm{s}c=3.0×108 m/sc = 3.0\times10^{8}\ \mathrm{m/s} とします。

(1) 地上系で測ったこのミューオンの平均寿命と、その間に進む距離を求めてください。 (2) ミューオンに静止した系で、高度 10 km10\ \mathrm{km} の大気層の厚みはいくらに見えますか。またその厚みが通り過ぎるのに何秒かかりますか。 (3) (1) と (2) が「地上に届くか」について同じ結論を与えることを確認してください。

解答

まず γ\gamma を求めます。β2=0.9992=0.998001\beta^2 = 0.999^2 = 0.998001 なので

γ=110.998001=10.001999=10.04471=22.4.\gamma = \frac{1}{\sqrt{1 - 0.998001}} = \frac{1}{\sqrt{0.001999}} = \frac{1}{0.04471} = 22.4 .

(1) 2.2 μs2.2\ \mu\mathrm{s} は固有時なので、定理 3.3 より地上系での平均寿命は 22.4×2.2=49.2 μs22.4 \times 2.2 = 49.2\ \mu\mathrm{s} です。その間に進む距離は

0.999×(3.0×108)×(49.2×106)=(2.997×108)×(4.92×105)1.47×104 m=14.7 km.0.999 \times (3.0\times10^{8}) \times (49.2\times10^{-6}) = (2.997\times10^{8})\times(4.92\times10^{-5}) \approx 1.47\times10^{4}\ \mathrm{m} = 14.7\ \mathrm{km}.

(2) 大気層の厚み 10 km10\ \mathrm{km} は地上系で測った固有長なので、定理 4.2 よりミューオンの系では

10 km22.4=0.446 km=446 m\frac{10\ \mathrm{km}}{22.4} = 0.446\ \mathrm{km} = 446\ \mathrm{m}

に縮みます。これが速さ 0.999c0.999c で通り過ぎるのにかかる時間は

4462.997×108=1.49×106 s=1.49 μs.\frac{446}{2.997\times10^{8}} = 1.49\times10^{-6}\ \mathrm{s} = 1.49\ \mu\mathrm{s}.

(3) (1) では「平均寿命の間に 14.7 km14.7\ \mathrm{km} 進めるので、10 km10\ \mathrm{km} を通過するのに寿命の 10/14.7=0.6810/14.7 = 0.68 倍しかかからない」。(2) では「446 m446\ \mathrm{m} を横切るのに 1.49 μs1.49\ \mu\mathrm{s} しかかからず、これは寿命 2.2 μs2.2\ \mu\mathrm{s}0.680.68 倍である」。比が一致しました。生き残る割合はどちらの計算でも e0.68=0.51e^{-0.68} = 0.51、つまり約半数です。観測にかかる量(何個届くか)は系によらない、という 例 4.3 と同じ構造です。

演習 8.3標準

固有長 300 m300\ \mathrm{m} の宇宙船が地上に対して v=0.6cv = 0.6c で飛んでいます。船内では船首と船尾の時計がきちんと合わせてあります(γ=1.25\gamma = 1.25c=3.0×108 m/sc = 3.0\times10^{8}\ \mathrm{m/s})。

(1) 「船尾の時計が 0 を指す」事象と「船首の時計が 0 を指す」事象は、地上系ではどれだけ時刻がずれていますか。 (2) 地上系のある一瞬に 2 つの時計を写真に撮ったら、どちらがどれだけ遅れて写りますか。 (3) (1) と (2) の答えが異なる理由を説明してください。

解答

船内系を SS'、地上系を SS とし、船尾を x=0x' = 0、船首を x=300x' = 300 とします。

(1) 2 事象は SS' で同時刻(どちらも t=0t' = 0)で Δx=300 m\Delta x' = 300\ \mathrm{m} です。定理 5.1 より

Δt=γvΔxc2=1.25×0.6c×300c2=1.25×0.6×3003.0×108=2253.0×108=7.5×107 s\Delta t = \frac{\gamma v \Delta x'}{c^2} = \frac{1.25 \times 0.6c \times 300}{c^2} = \frac{1.25 \times 0.6 \times 300}{3.0\times10^{8}} = \frac{225}{3.0\times10^{8}} = 7.5\times10^{-7}\ \mathrm{s}

すなわち船首の事象のほうが 750 ns750\ \mathrm{ns} 遅く起こります。

(2) 逆向きの問いです。船首の時計の読みを t+t'_{+}、船尾の時計の読みを tt'_{-}SS でのそれぞれの位置を x+x_{+}xx_{-} と書きます。定理 6.1t=γ(tvx/c2)t' = \gamma(t - vx/c^2) を、SS の時刻 tt を固定して 2 つの時計に適用し、差を取ると tt の項が消えて

t+t=γvc2(x+x)t'_{+} - t'_{-} = -\frac{\gamma v}{c^2}\,(x_{+} - x_{-})

となります。SS で同時刻に測った船首と船尾の距離 x+xx_{+} - x_{-} は、定理 4.2 より 300/1.25=240 m300/1.25 = 240\ \mathrm{m} です。よって

t+t=1.25×0.6c×240c2=1803.0×108=6.0×107 s.t'_{+} - t'_{-} = -\frac{1.25 \times 0.6c \times 240}{c^2} = -\frac{180}{3.0\times10^{8}} = -6.0\times10^{-7}\ \mathrm{s}.

船首の時計は船尾の時計より 600 ns600\ \mathrm{ns} 遅れて写ります。

(3) 2 つの問いは違うことを尋ねています。(1) は「SS' で同時刻な 2 事象の SS での時刻差」、(2) は「SS で同時刻に見た 2 つの時計の読みの差」です。両者は γ\gamma 倍だけ違い、実際 750/1.25=600750/1.25 = 600 です。整合性を確かめると、SS の時刻 t=0t = 0 に船尾の時計が 0 を指し、t=750 nst = 750\ \mathrm{ns} に船首の時計が 0 を指します。その t=750 nst = 750\ \mathrm{ns} の瞬間、船尾の時計は 定理 3.3 より 750/1.25=600 ns750/1.25 = 600\ \mathrm{ns} を指しています。したがって船首(0 ns)は船尾(600 ns)より 600 ns600\ \mathrm{ns} 遅れており、(2) と一致します。

演習 8.4

双子の一方が β=0.8\beta = 0.8γ=5/3\gamma = 5/3)の宇宙船で、地球から 44 光年離れた星へ行き、すぐ折り返して戻ってきました。もう一方は地球に留まります。

(1) 地球系で往復にかかる時間と、宇宙船内で経過する時間を求めてください。 (2) 宇宙船の系では地球の時計が遅れるはずなのに、帰還時には地球の双子のほうが年を取っています。往路の宇宙船系で、折り返し直前に地球の時計は何年を指していますか。復路の宇宙船系で、折り返し直後には何年を指していますか。 (3) (2) の結果を使って、地球の双子が余分に年を取る理由を説明してください。

解答

(1) 地球系では片道 44 光年を 0.8c0.8c で進むので 4/0.8=54/0.8 = 5 年、往復で 1010 年です。宇宙船内の時計が刻むのは固有時なので、定理 3.3 より 10/γ=10×0.6=610/\gamma = 10 \times 0.6 = 6 年です。宇宙船の系で見ても、距離が 定理 4.2 により 4×0.6=2.44 \times 0.6 = 2.4 光年に縮み、片道 2.4/0.8=32.4/0.8 = 3 年、往復 66 年で一致します。

(2) 往路の宇宙船系では、宇宙船の固有時 3 年が経過した瞬間(折り返し直前)に、地球の時計は 定理 3.3 より 3/γ=3×0.6=1.83/\gamma = 3 \times 0.6 = 1.8 年を指しています。復路の宇宙船系でも同じ議論から、帰還までの 3 年間に地球の時計は 1.81.8 年しか進みません。帰還時に地球の時計が 1010 年を指すのだから、折り返し直後の復路系では地球の時計は 101.8=8.210 - 1.8 = 8.2 年を指していることになります。

(3) 折り返しの前後で「地球の時計が何年を指しているか」が 1.81.8 年から 8.28.2 年へ、6.46.4 年だけ飛びました。時計が壊れたのではありません。宇宙船が慣性系を乗り換えたために、宇宙船にとっての同時刻線が振れたのです。

定理 5.1 で確かめます。以下、距離を光年、時間を年で測り c=1c = 1 とします。折り返しの事象を TT、地球の時計が 1.81.8 年を指す事象を AA8.28.2 年を指す事象を BB とします。

  • AATT は往路の宇宙船系で同時刻です。この系での 2 事象の距離は、縮んだ距離 Δx=2.4\Delta x' = 2.4 光年です。定理 5.1 より、地球系での時刻差は γvΔx/c2=(5/3)×0.8×2.4=3.2\gamma v \Delta x'/c^2 = (5/3)\times 0.8 \times 2.4 = 3.2 年。実際 51.8=3.25 - 1.8 = 3.2 です。
  • BBTT は復路の宇宙船系で同時刻です。速度の向きが逆なのでずれも逆向きになり、地球系での時刻差はやはり 3.23.2 年。実際 8.25=3.28.2 - 5 = 3.2 です。

合わせて 3.2+3.2=6.43.2 + 3.2 = 6.4 年、ちょうど飛んだぶんに一致します。

地球の双子は最初から最後まで 1 つの慣性系にいますが、旅する双子は途中で慣性系を乗り換えます。定理 3.3 は「1 つの慣性系から見て」という前提つきの主張なので、系を乗り換える側にそのまま適用することはできません。この非対称性が答えの非対称性を生みます。宇宙船の側から見た地球の経過時間の内訳は 1.8+6.4+1.8=101.8 + 6.4 + 1.8 = 10 年、宇宙船自身は 3+3=63 + 3 = 6 年で、地球系での計算と一致します。

  • A. Einstein, “Zur Elektrodynamik bewegter Körper”, Annalen der Physik 17 (1905), 891–921. 特殊相対性理論の原論文。第 1 部(運動学の部)で同時刻の定義からローレンツ変換までが導かれている。
  • E. F. Taylor and J. A. Wheeler, Spacetime Physics, 2nd ed., W. H. Freeman, 1992 — 第 1 章〜第 3 章。世界間隔を出発点に据える構成が本記事の §7 に対応する。
  • 佐藤勝彦『相対性理論』岩波基礎物理シリーズ 9、岩波書店、1996 — 特殊相対論の章。
  • R. Resnick, Introduction to Special Relativity, Wiley, 1968 — 第 2 章(相対論的運動学)。同時刻の相対性と各種パラドックスの扱いが丁寧。
  • B. Rossi and D. B. Hall, “Variation of the Rate of Decay of Mesotrons with Momentum”, Physical Review 59 (1941), 223. 時間の遅れの初期の定量的検証。
  • D. H. Frisch and J. H. Smith, “Measurement of the Relativistic Time Dilation Using μ-Mesons”, American Journal of Physics 31 (1963), 342. ワシントン山と海面高度でのミューオン計数による検証。

Appendix: ラピディティ(速度パラメータ)

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ローレンツ変換は、双曲線関数を使うと回転とそっくりの形に書けます。β=tanhθ\beta = \tanh\theta で定義される θ\thetaラピディティ(rapidity)と呼びます。1<β<1-1 < \beta < 1<θ<-\infty < \theta < \infty が 1 対 1 に対応します。

tanhθ=β\tanh\theta = \beta のとき

coshθ=11tanh2θ=11β2=γ,sinhθ=coshθtanhθ=γβ\cosh\theta = \frac{1}{\sqrt{1 - \tanh^2\theta}} = \frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} = \gamma, \qquad \sinh\theta = \cosh\theta \cdot \tanh\theta = \gamma\beta

なので、定理 6.1

(ctx)=(coshθsinhθsinhθcoshθ)(ctx)\begin{pmatrix} ct' \\ x' \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \cosh\theta & -\sinh\theta \\ -\sinh\theta & \cosh\theta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} ct \\ x \end{pmatrix}

と書けます。通常の回転行列の cos\cossin\sincosh\coshsinh\sinh に置き換わった形で、これを双曲回転と呼びます。cosh2θsinh2θ=1\cosh^2\theta - \sinh^2\theta = 1 が、この変換で c2t2x2c^2t^2 - x^2 が保たれること(定理 7.2)を保証します。

この書き方の利点は、系 6.3 が単なる足し算になることです。双曲線関数の加法定理

tanh(θ1+θ2)=tanhθ1+tanhθ21+tanhθ1tanhθ2\tanh(\theta_1 + \theta_2) = \frac{\tanh\theta_1 + \tanh\theta_2}{1 + \tanh\theta_1 \tanh\theta_2}

は、βi=tanhθi\beta_i = \tanh\theta_i と置けば速度の合成則そのものです。つまりラピディティは加法的で、2 回のブーストの合成はラピディティの和に対応します。速度が cc を超えないのは、有限の θ\theta をいくら足しても tanhθ\tanh\theta11 に達しないからです。この見方は、加速度が一定の運動(等加速度運動の相対論版)を扱うときや、一般相対性理論への招待(等価原理)曲がった時空と重力(GPS の仕組み) で局所慣性系(定義 3.4[一般相対性理論への招待])を貼り合わせるときに役立ちます。

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