平成29年1月30日実施の博士課程入学試験(物理学、全3問必答)の解答です。第1問は1次元井戸型ポテンシャルの量子力学で、無限井戸から半無限井戸の束縛状態の存在条件までを問います。第2問は2次元自由電子系の統計力学で、状態密度が一定であることを利用してゾンマーフェルト展開に頼らず低温比熱を厳密に出させる構成です。第3問はマクスウェル方程式から出発して誘電体境界での反射・屈折を扱い、s偏光のフレネル係数まで導きます。いずれも基礎的な題材ですが、境界条件の物理的根拠や近似の正当化を言葉で説明させる設問が含まれます。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 量子力学 | 井戸型ポテンシャルの束縛状態と3電子系 |
| 第2問 | 統計力学 | 2次元電子系の状態密度と低温比熱 |
| 第3問 | 電磁気学・光学 | 誘電体境界での反射・屈折とフレネル係数 |
質量 m の電子が1次元ポテンシャル V(x) 中を運動し、波動関数 Ψ(x) は定常シュレーディンガー方程式
{−2mℏ2dx2d2+V(x)}Ψ(x)=EΨ(x)
に従います。前半(設問1、2)では x<0 と x>a に無限に高い壁があり、0≤x≤a で V=−V0(V0>0)の無限井戸を考えます。後半(設問3〜6)では壁は x<0 側のみ無限で、0≤x≤a で V=−V0、a<x で V=0 の半無限井戸に変わり、束縛状態(−V0<E<0)の存在条件を調べます。波数として
k1=ℏ2m(E+V0),k2=ℏ2m(−E)
が定義されています。
x<0 と x>a ではポテンシャルが無限大なので波動関数は恒等的に零であり、波動関数の連続性から境界条件は
Ψ(0)=0,Ψ(a)=0
です。井戸内では方程式は Ψ′′=−k12Ψ となり、Ψ(0)=0 を満たす解は Ψ∝sink1x に限られます。Ψ(a)=0 から k1a=nπ(n=1,2,3,…)が要求され、E=−V0+ℏ2k12/(2m) に代入して、n 番目のエネルギー固有値は
En=2ma2π2ℏ2n2−V0
です。対応する規格化された波動関数は、∫0asin2(nπx/a)dx=a/2 を用いて
Ψn(x)=a2sinanπx(0≤x≤a),Ψn(x)=0(x<0, x>a)
となります。
電子はスピン 21 のフェルミ粒子なので、パウリの排他原理により各軌道準位 n にはスピン上向き・下向きの2個まで入れます。以下 ε≡π2ℏ2/(2ma2) と書きます。
基底状態は n=1 に2個(スピン一重項)、n=2 に1個を配置した状態で、エネルギー固有値は
Eg=2E1+E2=(2⋅12+22)ε−3V0=ma23π2ℏ2−3V0
です。n=1 の2電子はスピンまで含めて一意に決まり、n=2 の電子のスピンの向きだけが自由なので、縮退度は 2 です。
第一励起状態を探すため、基底配置から1電子を動かした配置のエネルギーを比べます。(n=1)×2, (n=3)×1 は (2+9)ε=11ε、(n=1)×1, (n=2)×2 は (1+8)ε=9ε で、後者が低い。よって第一励起状態は n=1 に1個、n=2 に2個の配置で、エネルギー固有値は
E1st=E1+2E2=2ma29π2ℏ2−3V0
です。今度は n=1 に残る1電子のスピンの向きだけが自由なので、縮退度はやはり 2 です。
領域 0≤x≤a では V=−V0 で、−V0<E より E+V0>0 ですから、方程式は Ψ′′=−k12Ψ という振動解の形になります。一般解 Asink1x+Bcosk1x のうち、x=0 の無限壁による境界条件 Ψ(0)=0 から B=0 が要求され、
Ψ(x)=C1sink1x(0≤x≤a)
です。
領域 a<x では V=0 で、E<0 より方程式は Ψ′′=k22Ψ となり、一般解は e−k2x と e+k2x の重ね合わせです。束縛状態では x→∞ で波動関数が規格化可能(零に減衰)でなければならないので、発散する e+k2x は捨てて
Ψ(x)=C2e−k2x(a<x)
です。
x=a での境界条件は、波動関数とその1階微分がともに連続になることです。
C1sink1aC1k1cosk1a=C2e−k2a,=−C2k2e−k2a.
理由は次の通りです。ポテンシャルは x=a で有限の跳び(−V0 から 0)を持つだけで発散しません。シュレーディンガー方程式より Ψ′′=(2m/ℏ2)(V−E)Ψ の右辺は有限なので、Ψ′ は連続です(x=a をまたいで方程式を微小区間で積分すると Ψ′ の跳びが零になることから分かります)。Ψ′ が存在するためには Ψ 自身も連続でなければなりません。無限壁の x=0 と違い、有限の段差では波動関数の値と微係数の両方が接続されます。
設問5の2式の比をとって C1、C2 を消去すると、束縛状態のエネルギーを決める条件
k1cotk1a=−k2
が得られます。また k1 と k2 の定義から
k12+k22=ℏ22mV0≡K2
が成り立ちます。束縛状態では k2>0 なので cotk1a<0、すなわち少なくとも k1a>π/2 が必要です。一方 k1<K ですから、Ka≤π/2 なら k1a>π/2 となる解は存在できません。逆に Ka>π/2 のときは、k1a=π/2 で左辺 −k1cotk1a=0 が右辺 k2=K2−k12>0 を下回り、k1a を π(または k1=K)に向けて増やすと左辺は正の値に増大して右辺は減少するので、連続性から必ず交点が1つ存在します。束縛の限界は E→0−(k2→0)で cotk1a=0 かつ k1→K、すなわち Ka=π/2 です。したがって束縛状態が存在する条件は
ℏ2mV0a>2π⟺V0>8ma2π2ℏ2
です。等号では k2=0 となり波動関数が規格化できないので、条件は真の不等号です。この結果は、幅 2a の対称な有限井戸の奇パリティ解(原点で節を持つ解)が第1励起状態として現れる条件と一致しており、無限井戸と違って半無限井戸では十分深くないと束縛状態を持てないことを表しています。
一辺 L の正方形領域に周期境界条件を課した2次元自由電子系を考えます。1電子の固有関数は平面波 Ψ=Aei(kxx+kyy)、kx=2πnx/L、ky=2πny/L(nx,ny は整数)で、固有エネルギーは E=ℏ2(kx2+ky2)/(2m) です。相互作用のない多電子系をグランドカノニカル分布で扱い、粒子数と全エネルギーの期待値は状態密度 D(E) とフェルミ分布関数 f(E)=[exp((E−μ)/kBT)+1]−1 を用いて
Nˉ=∫0∞dED(E)f(E),Eˉ=∫0∞dED(E)f(E)E
で与えられます。低温(kBT≪μ)では積分の下限を −∞ に伸ばす近似が許されるとします。
許される波数は k 空間で間隔 2π/L の正方格子をなすので、L が十分大きいとき、k 空間の面積 d2k あたりの軌道状態数は (L/2π)2d2k です。エネルギーは E=ℏ2k2/(2m) と k=∣k∣ のみで決まるので、E から E+dE に対応するのは半径 k、幅 dk の円環で、その面積は 2πkdk です。dE=ℏ2kdk/m すなわち kdk=mdE/ℏ2 を使い、スピン自由度の因子 2 を掛けると
D(E)dE=2(2πL)22πkdk=2π2L2⋅2π⋅ℏ2mdE⋅21⋅2=πℏ2L2mdE
となります。整理すると E≥0 で
D(E)=πℏ2L2m
であり、エネルギー E によりません。2次元自由電子系の状態密度が一定になるのは、円環面積の因子 k と dk/dE∝1/k が打ち消し合うためです。
T=0 では f(E) は階段関数 f=1 (E<μ0)、f=0 (E>μ0) になります。D(E) が定数なので
Nˉ=∫0μ0DdE=Dμ0⟹μ0=DNˉ=L2mπℏ2Nˉ
です。全エネルギーは
Eˉ=∫0μ0DEdE=2Dμ02=2Nˉμ0=2L2mπℏ2Nˉ2
となります。占有された準位のエネルギーが 0 から μ0 まで一様に分布するため、1粒子あたりの平均エネルギーがちょうど μ0/2 になっています。
E′=2μ−E とおけるので、β=1/(kBT) として
f(E′)=eβ(2μ−E−μ)+11=e−β(E−μ)+11=1+eβ(E−μ)eβ(E−μ)=1−eβ(E−μ)+11=1−f(E)
が成り立ちます。フェルミ分布関数が点 (μ,21) に関して点対称であることを表す関係です。
D(E)=D(定数)を使い、Nˉ を μ を境に分割します。f=1−(1−f) を用いると
Nˉ=D∫0μdE−D∫0μdE(1−f(E))+D∫μ∞dEf(E).
第2項に問題文の近似を適用して下限を −∞ に伸ばし、変数変換 E→E′=2μ−E(dE=−dE′、E:−∞→μ が E′:∞→μ に対応)を行うと、設問3の関係から
∫−∞μdE(1−f(E))=∫μ∞dE′(1−f(2μ−E′))=∫μ∞dE′f(E′)
となり、これは第3項とちょうど打ち消し合います。よって
Nˉ=Dμ=πℏ2L2mμ
となり、μ を固定すれば Nˉ は温度によらず一定です。μ より下で空く状態数(正孔)と μ より上に励起される電子数が、分布の対称性と状態密度の平坦さのために厳密に等しい、というのがこの結果の中身です。
g(E)=Df(E) は、T=0 では高さ D の階段関数(E<μ で D、E>μ で 0)であり、有限温度ではこの段差が E=μ を中心に幅 ∼kBT だけなだらかにぼやけた形になります。g(μ)=D/2 で、曲線は点 (μ,D/2) に関して点対称です。
温度を 0 から T に上げたとき変化が起きるのは E=μ の近傍、幅 ∼kBT の領域だけです。この領域にある状態数は ∼DkBT で、そのうち励起される電子はそれぞれエネルギーを ∼kBT だけ獲得します。したがって系のエネルギー増分は
ΔEˉ∼D(kBT)⋅(kBT)=DkB2T2
のオーダーであり、熱容量は C=dEˉ/dT∼DkB2T と温度 T に比例します。フェルミ縮退のために励起に参加できる電子が kBT/μ の割合しかいないことが、古典気体の定数熱容量との違いを生みます。
設問4と同じ分割を Eˉ に適用します。
Eˉ=D∫0μEdE−D∫0μE(1−f(E))dE+D∫μ∞Ef(E)dE.
第2項の下限を −∞ に伸ばし、E→2μ−E′ と変換して設問3の関係を使うと
∫−∞μE(1−f(E))dE=∫μ∞(2μ−E′)f(E′)dE′
となるので、
Eˉ=2Dμ2+D∫μ∞(E−(2μ−E))f(E)dE=2Dμ2+2D∫μ∞(E−μ)f(E)dE.
x=E−μ とおくと f=[ex/(kBT)+1]−1 で、与えられた積分公式を a=1/(kBT) として使い
2D∫0∞ex/(kBT)+1xdx=2D⋅12π2(kBT)2=6π2D(kBT)2.
よって
Eˉ=2Dμ2+6π2DkB2T2
です。設問4より μ 固定で Nˉ は一定なので、そのまま T で微分してよく、熱容量は
C=dTdEˉ=3π2DkB2T=3ℏ2πL2mkB2T
となります。確かに T に比例し、設問5の定性的評価 C∼DkB2T と係数 π2/3 の違いを除いて一致します。次元も mkB2TL2/ℏ2 が J/K となり熱容量として正しいものです。
自由電荷・自由電流のない誘電体中のマクスウェル方程式
∇⋅D=0,∇⋅B=0,∇×E=−∂t∂B,∇×H=∂t∂D,D=ϵE,B=μH
から出発します。設問1〜3では ϵ、μ は一様な正定数です。設問4以降では境界を xy 平面にとり、z<0 で誘電率 ϵ1、z>0 で ϵ2、透磁率は両側とも μ とします。角周波数 ω の直線偏光波が z<0 側から入射角 θ1 で入射し、入射波・反射波・透過波の電場を E=aei(k⋅r−ωt)、R=a′ei(k′⋅r−ωt)、T=a′′ei(k′′⋅r−ωt)、対応する磁束密度の係数を b、b′、b′′ と書きます。入射波数ベクトルは xz 面内にあり、ky=ky′=ky′′=0、kx=kx′、kz=−kz′ が成り立つとします。図より k は +z 向き成分を持って境界に向かい、k′′ は法線から屈折角 θ2 の方向です。
回転の式の両辺にもう一度回転をとります。B=μH、D=ϵE で μ、ϵ は定数なので
∇×(∇×E)=−∂t∂∇×B=−μ∂t∂∇×H=−μϵ∂t2∂2E.
一方、与えられた恒等式と ∇⋅E=∇⋅D/ϵ=0 から
∇×(∇×E)=∇(∇⋅E)−∇2E=−∇2E.
両者を等置して
(∇2−μϵ∂t2∂2)E=0
が得られます。
E=aei(k⋅r−ωt) に対して ∇2E=−∣k∣2E、∂2E/∂t2=−ω2E なので、波動方程式に代入すると
(−∣k∣2+μϵω2)E=0.
したがって平面波は分散関係
∣k∣2=μϵω2(∣k∣=μϵω)
を満たすとき、確かに波動方程式の解です。位相速度が ω/∣k∣=1/μϵ となる、媒質中の光の分散関係です。
∇⋅E=ik⋅aei(k⋅r−ωt)=0 が任意の点で成り立つので
k⋅a=0
であり、電場は進行方向に垂直な横波です。次に ∇×E=−∂B/∂t に平面波形を代入すると、左辺は ik×aei(k⋅r−ωt)、右辺は iωbei(k⋅r−ωt) となるので
b=ωk×a
です。b は k にも a にも垂直で、磁束密度も横波になっています。
マクスウェル方程式の積分形を境界面 z=0 に適用します。∇×E=−∂B/∂t を、境界をまたぐ微小な長方形回路に対してストークスの定理で積分すると、回路の高さを零にする極限で右辺の面積分(B は有限)が消え、電場の接線成分(x、y 成分)が連続であることが従います。同様に ∇×H=∂D/∂t から磁場 H の接線成分が連続で、両側の透磁率が同じ μ なので B=μH の接線成分も連続です。また ∇⋅B=0 を境界をまたぐ薄い箱に対してガウスの定理で積分すると、B の法線成分(z 成分)の連続性が従います(∇⋅D=0 からは D の法線成分の連続性が出ますが、以下では使いません)。
z<0 側の場は入射波と反射波の和、z>0 側は透過波です。z=0 上では kx=kx′(仮定)および kx′′=kx(設問5で示す位相整合。ここでは原点 x=y=0 で評価すれば位相因子はすべて e−iωt で共通になります)により、位相因子を落として振幅の関係にできます。電場の接線 y 成分の連続性から
ay+ay′=ay′′,
磁束密度の接線 x 成分の連続性から
bx+bx′=bx′′,
磁束密度の法線 z 成分の連続性から
bz+bz′=bz′′
が成り立ちます。
z=0 で Ex+Rx=Tx が任意の x、y で成り立つには、振幅だけでなく位相因子が一致しなければなりません。ky=ky′=ky′′=0、kx=kx′ のもとで
(ax+ax′)ei(kxx−ωt)=ax′′ei(kx′′x−ωt)
がすべての x で成立するには、指数の x 依存性が両辺で等しいこと、すなわち
kx′′=kx
が必要です(接線波数の保存)。透過波は ϵ2 の媒質中の平面波なので設問2より ∣k′′∣=μϵ2ω であり、図の幾何から k′′=(∣k′′∣sinθ2,0,∣k′′∣cosθ2) です。kx′′=∣k′′∣sinθ2=kx から ∣k′′∣=kx/sinθ2 となるので
kx′′=kx,kz′′=∣k′′∣cosθ2=tanθ2kx
です。なお kx=μϵ1ωsinθ1 を代入すればスネルの法則 ϵ1sinθ1=ϵ2sinθ2 が得られます。
入射波は a=(0,ay,0) の s偏光(電場が入射面 xz に垂直)です。境界条件(設問4の3式)は y 偏光の電場と xz 面内の磁束密度だけを結ぶので、反射波・透過波も同じ偏光 a′=(0,ay′,0)、a′′=(0,ay′′,0) にとれます。設問3の関係 b=k×a/ω を各波に使うと、k=(kx,0,kz)、k′=(kx,0,−kz)、k′′=(kx,0,kz′′) に対して
bx=−ωkzay,bx′=+ωkzay′,bx′′=−ωkz′′ay′′,
bz=ωkxay,bz′=ωkxay′,bz′′=ωkxay′′
です。bz の連続条件は kx(ay+ay′)=kxay′′ となって電場の条件と同じ内容なので、独立な条件は
ay+ay′kz(ay−ay′)=ay′′,=kz′′ay′′
の2本です。これを解くと
ay′=kz+kz′′kz−kz′′ay,ay′′=kz+kz′′2kzay
となります。kz=μϵ1ωcosθ1、kz′′=μϵ2ωcosθ2 を代入して、求める大きさは
∣a′∣=ϵ1cosθ1+ϵ2cosθ2ϵ1cosθ1−ϵ2cosθ2∣ay∣,∣a′′∣=ϵ1cosθ1+ϵ2cosθ22ϵ1cosθ1∣ay∣
です。これは s偏光(TE波)のフレネル係数にほかなりません。検算として ϵ1=ϵ2(媒質の区別が消える極限)では θ1=θ2 となり ∣a′∣=0、∣a′′∣=∣ay∣ で、反射が消えて全透過になることが確かめられます。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成29年度 博士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。