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留数定理と定積分への応用:孤立特異点の分類から実積分の計算まで

前提:正則関数の強力な性質:無限回微分可能性から一致の定理まで

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  • 正則関数を孤立特異点 aa のまわりでローラン展開したとき、(za)1(z-a)^{-1} の係数 c1c_{-1} だけが aa を囲む閉曲線に沿う積分に生き残ります。この c1c_{-1} を留数と呼びます。
  • 孤立特異点は主要部の形で三つに分かれます。除去可能特異点は「近くで有界」、mm 位の極は「(za)mf(z)(z-a)^m f(z)00 でない有限の極限を持つ」、真性特異点は「どんな小さい近傍の像も複素平面で稠密」と、いずれも極限の言葉に翻訳できます。
  • 留数定理は「単純閉曲線に沿う積分 =2πi×= 2\pi i \times(内部の留数の和)」です。証明は、多重連結領域に対するコーシーの積分定理で積分路を各特異点まわりの小円に分解し、小円上でローラン級数を項別積分するだけです。
  • 実積分への応用は三段構えです。(1) 被積分関数を複素平面に延長して積分路を閉じる、(2) 付け足した部分の寄与が 00 に消えることを不等式で示す、(3) 内部の留数を足す。
  • 型ごとに使う輪郭が決まっています。有理関数の (,)(-\infty,\infty) 積分は上半平面の半円、周期 2π2\pi の三角関数の積分は単位円、eiλxe^{i\lambda x} を含む積分はジョルダンの補題つきの半円、実軸上に単純極があるときは極を小円でくぼませて主値を取ります。

1. 動機:実積分を複素平面に持ち上げる

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微分積分学で dxx2+1\int_{-\infty}^{\infty}\frac{dx}{x^2+1} を計算するのは簡単です。原始関数 arctanx\arctan x が分かっているので、limR[arctanx]RR=π\lim_{R\to\infty}[\arctan x]_{-R}^{R} = \pi で終わります。ところが分母を x4+1x^4+1 に変えただけで景色が一変します。実数の範囲では x4+1=(x2+2x+1)(x22x+1)x^4+1 = (x^2+\sqrt{2}x+1)(x^2-\sqrt{2}x+1) と因数分解し、部分分数に分け、四つの項をそれぞれ arctan\arctanlog\log で積分し、最後に極限を取る、という長い計算になります。0sinxxdx\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x}\,dx に至っては、初等関数で書ける原始関数がそもそも存在しないので、パラメータ微分などの技巧なしには実数の世界で手が出ません。

この章で扱う留数定理は、この種の積分を次の手続きに置き換えます。被積分関数を複素平面に延長し、積分路を閉曲線になるように閉じ、閉曲線の内部にある特異点で「留数」という一つの数を計算して足す。それだけです。dxx4+1\int_{-\infty}^{\infty}\frac{dx}{x^4+1} は、後で見るように二つの留数の足し算だけで π/2\pi/\sqrt{2} と分かります。

なぜそんなことができるのでしょうか。出発点は コーシーの積分定理定理 4.3[コーシーの積分定理と積分公式])です。単連結領域で正則な関数は閉曲線に沿う積分が 00 になります。つまり、閉曲線に沿う積分が 00 でないとしたら、その値は内部にある特異点だけが原因です。では特異点はどれだけ寄与するのでしょうか。中心 aa の小さい円周 za=r|z-a| = r 上で (za)n(z-a)^n を積分してみます。n1n \ne -1 のとき (za)n(z-a)^nC{a}\mathbb{C}\setminus\{a\} 全体で一価な原始関数 (za)n+1n+1\frac{(z-a)^{n+1}}{n+1} を持つので、閉曲線に沿う積分は 00 です。ところが n=1n = -1 のときだけ、原始関数の候補は log(za)\log(z-a) という多価関数しかなく、円周を一周すると偏角が 2π2\pi 増えて、積分は 2πi2\pi i を返します。

したがって、ローラン展開 f(z)=n=cn(za)nf(z) = \sum_{n=-\infty}^{\infty}c_n(z-a)^n を円周上で項別に積分すると、無限個の項のうち c1(za)1c_{-1}(z-a)^{-1} ただ一つだけが生き残ります。この「取り残される数」がフランス語で résidu(残りもの)、日本語で留数です。コーシーは 1826 年の『Exercices de mathématiques』でこの語を導入し、実積分の計算に系統的に用いました。この章は、その計算術を最初から最後まで具体的に組み立てます。

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