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可測集合とルベーグ測度:外測度とカラテオドリ条件から測度を作る

前提:関数列と一様収束:極限と積分・微分はいつ交換できるか

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  • リーマン積分は「定義域を細かく刻んで短冊で近似する」方法です。刻んでも値の振れ幅が縮まない関数(ディリクレ関数)はどうやっても積分できません。この壁は積分の技巧では越えられず、長さの測り方そのものを作り直す必要があります。
  • ルベーグ外測度 mm^{*} は、集合を可算個の開区間で覆い、長さの総和の下限を取ったものです。mm^{*}R\mathbb{R} のすべての部分集合に対して定義でき、単調性と可算劣加法性を持ちます。しかし互いに素な集合に対する加法性は一般には成り立ちません。
  • カラテオドリの条件「任意の試験集合 AA に対して m(A)=m(AE)+m(AEc)m^{*}(A) = m^{*}(A \cap E) + m^{*}(A \cap E^{c})」を満たす EE を可測集合と呼びます。可測集合全体 M\mathcal{M} は σ-加法族をなし、mm^{*}M\mathcal{M} に制限したものが完全加法的な測度、すなわちルベーグ測度 mm です。
  • 区間・開集合・閉集合・ボレル集合はすべて可測なので、解析に日常的に現れる集合はまず測れます。一方で選択公理を使うと非可測集合(ヴィタリ集合)が作れ、M\mathcal{M}R\mathbb{R} の部分集合全体まで広げることはできません。
  • 外測度が 00 の集合(零集合)は自動的に可測です。「零集合を除いて成り立つ」ことをほとんど至るところ(a.e.)といいます。有界関数がリーマン積分可能であることは、その不連続点全体が零集合であることと同値です。

1. 動機 — リーマン積分はどこで行き詰まるのか

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1.1. リーマン積分は定義域を刻む

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有界関数 f:[a,b]Rf : [a,b] \to \mathbb{R} に対し、分割 Δ:a=x0<x1<<xn=b\Delta : a = x_0 < x_1 < \cdots < x_n = b を取り、各小区間での上限と下限

Mi=supx[xi1,xi]f(x),μi=infx[xi1,xi]f(x)M_i = \sup_{x \in [x_{i-1}, x_i]} f(x), \qquad \mu_i = \inf_{x \in [x_{i-1}, x_i]} f(x)

を使って上ダルブー和 S(Δ)=i=1nMi(xixi1)S(\Delta) = \sum_{i=1}^{n} M_i (x_i - x_{i-1}) と下ダルブー和 s(Δ)=i=1nμi(xixi1)s(\Delta) = \sum_{i=1}^{n} \mu_i (x_i - x_{i-1}) を作ります。infΔS(Δ)=supΔs(Δ)\inf_{\Delta} S(\Delta) = \sup_{\Delta} s(\Delta) となるとき ff はリーマン積分可能であり、その共通の値を abf(x)dx\int_a^b f(x)\,dx と定めます。この定義は 積分の基本定理と定積分上積分・下積分とリーマン可積分性の定義(定義 3.1)[積分の基本定理と定積分] で扱いました。

この構成が動くのは、次の暗黙の期待が満たされるときだけです。すなわち、定義域を短い区間に刻めば、その上での ff の値の振れ幅 MiμiM_i - \mu_i が小さくなる、という期待です。ff が連続なら、有界閉区間上の一様連続性(連続関数と一様連続性ハイネ・カントールの定理(定理 7.1)[連続関数と一様連続性])がこれを保証します。逆にいえば、この期待が破れる関数はリーマン積分の枠組みから落ちます。

期待が破れる最も単純な例が、有理数の特性関数

χQ(x)={1(xQ)0(xQ)\chi_{\mathbb{Q}}(x) = \begin{cases} 1 & (x \in \mathbb{Q}) \\ 0 & (x \notin \mathbb{Q}) \end{cases}

です。[0,1][0,1] 上でどんな分割 Δ\Delta を取っても、各小区間は長さが正である以上、有理数も無理数も含みます(有理数と無理数はどちらも R\mathbb{R} で稠密です)。したがって Mi=1M_i = 1μi=0\mu_i = 0 が例外なく成り立ち、

S(Δ)=i=1n1(xixi1)=1,s(Δ)=i=1n0(xixi1)=0S(\Delta) = \sum_{i=1}^{n} 1 \cdot (x_i - x_{i-1}) = 1, \qquad s(\Delta) = \sum_{i=1}^{n} 0 \cdot (x_i - x_{i-1}) = 0

となります。分割をどれだけ細かくしても上下の和は 1100 のまま動きません。よって χQ\chi_{\mathbb{Q}} はリーマン積分可能ではありません。

これは病的な例外というより、症状です。χQ\chi_{\mathbb{Q}} は「ほとんどの点で 00」であるように見えるのに、リーマン積分はその「ほとんど」を表現する語彙を持っていません。

もっと深刻なのは、リーマン積分可能な関数の全体が極限で閉じないことです。Q[0,1]={q1,q2,q3,}\mathbb{Q} \cap [0,1] = \{q_1, q_2, q_3, \ldots\} と番号を付け、

gn=χ{q1,q2,,qn}g_n = \chi_{\{q_1, q_2, \ldots, q_n\}}

とおきます。gng_n は有限個の点を除いて 00 ですから、リーマン積分可能で 01gn(x)dx=0\int_0^1 g_n(x)\,dx = 0 です。しかも 0g1g210 \le g_1 \le g_2 \le \cdots \le 1 と単調増加で、各点 x[0,1]x \in [0,1]gn(x)χQ(x)g_n(x) \to \chi_{\mathbb{Q}}(x) が成り立ちます。にもかかわらず、極限関数はリーマン積分可能ですらありません。

前章 関数列と一様収束 では、一様収束のもとで極限と積分が交換できること(項別積分定理(定理 5.2)[関数列と一様収束])を見ました。しかし一様収束は強すぎる仮定です。フーリエ級数の収束、確率論での確率変数の収束、変分問題での最小化列の収束は、いずれも一般には一様収束ではありません。各点収束や単調収束のレベルで積分と極限を交換できる枠組みが要る、というのがルベーグの出発点です。

リーマン積分は定義域 [a,b][a,b] を刻みました。ルベーグの提案は、代わりに値域を刻むことです。ff の値域を y0<y1<<yNy_0 < y_1 < \cdots < y_N で刻み、

Ek={x[a,b]:yk1f(x)<yk}E_k = \{ x \in [a,b] : y_{k-1} \le f(x) < y_k \}

とおきます。EkE_k の「大きさ」を λk\lambda_k と書くことにして、和 k=1Nyk1λk\sum_{k=1}^{N} y_{k-1} \lambda_k を考えるわけです。硬貨の山の総額を数えるとき、手前から一枚ずつ足していく(定義域を刻む)のではなく、同じ額面の硬貨をまとめて枚数を数える(値域を刻む)ほうが速い、というよく引かれる比喩がこれに当たります。

この和は、値域を刻む幅を細かくすれば自動的に精度が上がります。xEkx \in E_k なら f(x)f(x)yk1y_{k-1} の差は高々 ykyk1y_k - y_{k-1} だからです。定義域を刻む場合と違って、ff が定義域上でどれだけ暴れていようと関係ありません。

代償ははっきりしています。Ek=f1([yk1,yk))E_k = f^{-1}([y_{k-1}, y_k)) は、ff が暴れていれば区間でも区間の有限和でもない、ひどく複雑な集合になります。χQ\chi_{\mathbb{Q}} なら EkE_kQ[0,1]\mathbb{Q} \cap [0,1] そのものです。つまり値域を刻む積分を作るには、まず「複雑な集合の大きさ」を測る理論が要る。この記事の主題はそこです。積分そのものは次章 ルベーグ積分の定義と収束定理 で扱います。

では、部分集合の大きさを測る写像 μ\mu に何を要求すべきでしょうか。素朴には次の四つです。

要請内容
(M1) 正規化任意の区間 II に対して μ(I)=(I)\mu(I) = \ell(I)\ell は区間の長さ)
(M2) 平行移動不変性任意の EEtRt \in \mathbb{R} に対して μ(E+t)=μ(E)\mu(E + t) = \mu(E)
(M3) 完全加法性互いに素な E1,E2,E_1, E_2, \ldots に対して μ(nEn)=nμ(En)\mu\left(\bigcup_n E_n\right) = \sum_n \mu(E_n)
(M4) 普遍性R\mathbb{R}すべての部分集合に対して μ\mu が定義される

(M3) を有限加法性ではなく可算加法性にしているのは、§1.3 で見たとおり可算個の極限操作を扱いたいからです。ところが、この四つは同時には成り立ちません。選択公理のもとで矛盾が導かれます(この記事の Appendix で証明します)。

四つのうちどれを捨てるか。(M1) を捨てれば長さの理論でなくなり、(M2) を捨てれば座標の取り方に依存する不自然なものになり、(M3) を捨てれば極限が扱えません。残るのは (M4) です。すべての集合を測ることを諦め、「測れる集合」の族を先に切り出す。この族の元が可測集合であり、その定義がこの記事の核心です。

flowchart TD
A["区間の長さ"] --> B["ルベーグ外測度:すべての部分集合に定義できる"]
B --> C["単調性・可算劣加法性・平行移動不変性"]
B --> D["カラテオドリの条件"]
C --> E["可測集合の族はσ-加法族をなす"]
D --> E
E --> F["制限して測度を得る:完全加法性"]
F --> G["測度零集合とほとんど至るところ"]
F --> H["ボレル集合はすべて可測"]
この記事の道筋:区間の長さから出発して完全加法的な測度に至るまで

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