0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 場の位相を時空の各点で独立に選び直す自由(局所対称性)を要請すると、それを補償する場としてゲージ場 が必然的に現れます。電磁場はこの要請の帰結として導かれ、同じ要請が光子の質量項 を禁じます。
- ラグランジアンが対称でも、最低エネルギー状態(真空)がその対称性を保つとは限りません。これが自発的対称性の破れで、メキシカンハット型ポテンシャルがその典型です。
- 連続的な大域対称性が自発的に破れると、破れた生成子の数だけ質量ゼロの粒子(南部・ゴールドストーン粒子)が現れます。この記事ではこれを、ポテンシャルの質量行列の零固有ベクトルとして証明します。
- 破れる対称性がゲージ対称性の場合、ゴールドストーン粒子は独立な粒子として現れず、ゲージ場の縦波自由度として吸収され、ゲージ場が質量を得ます(ヒッグス機構)。自由度の総数は前後で変わりません。
- 標準模型では の破れにより が質量を得、光子は質量ゼロのまま残ります。 と から、実験でよく検証された関係 が従います。
1. 動機:位相の自由度と、質量が書けないという困難
Section titled “1. 動機:位相の自由度と、質量が書けないという困難”量子力学では、波動関数の全体位相は観測できません。 としても は変わらず、期待値も変わりません。ところがこの は時空全体で共通の一つの定数です。ここで位相の基準を決めると、アンドロメダ銀河での基準も同時に決まってしまう。ヘルマン・ワイルは 1918 年に長さの基準(Eichung、ゲージ)を各点で自由に選べるとする理論を提案し、1929 年にそれを位相の自由度として読み替えました。位相の基準は各点で勝手に選べるはずだ、という要請です。
この要請には代償があります。位相を各点で別々に回すと、微分 は にはならず、余分な項 が出ます。ラグランジアンの微分項がこわれるのです。これを打ち消すには、同じ変換のもとで だけずれる補償場を導入するしかありません。それが であり、その正体は電磁ポテンシャルです。相互作用が「対称性の要請から導かれた」——これがゲージ原理で、1954 年のヤンとミルズによる非可換版を経て、現代の素粒子論の設計図になりました。
しかしこの美しい原理は、そのままでは自然を説明できません。弱い相互作用は到達距離がきわめて短く、その媒介粒子は重いはずです。実際 から到達距離を見積もると
となり、陽子の半径(約 )の 300 分の 1 以下です。ところが後で示すとおり、ゲージ不変性はゲージ場の質量項を禁じます。さらに悪いことに、弱い相互作用は左巻きフェルミオンだけに働くので、ディラック質量項 すらゲージ不変になりません。ゲージ原理を採用する限り、ゲージ場もフェルミオンも、ラグランジアンに質量を書き込めないのです。
出口は 1960 年前後に、素粒子論ではなく物性論から来ました。超伝導体の BCS 理論を眺めていた南部陽一郎は、「法則の対称性」と「状態の対称性」は別物だと気づきます。強磁性体のハミルトニアンは回転対称ですが、基底状態は特定の向きに磁化している。同じことが場の理論の真空でも起きるなら、ラグランジアンを対称に保ったまま真空だけが対称性を破れます。1964 年、アンダーソン、エングレール・ブラウト、ヒッグス、グラルニク・ヘーゲン・キッブルらは、この機構をゲージ理論と組み合わせるとゲージ場が質量を獲得することを見出しました。1967 年のワインバーグ「A Model of Leptons」がそれを弱い相互作用に適用し、2012 年のヒッグス粒子発見で話は閉じます。
以下ではこの筋道を、計算を省かずにたどります。
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