0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 3つのドアのうち1つに車、残り2つにヤギ。あなたが1つ選んだあと、司会者が残りのうちヤギのドアを必ず1つ開ける。このとき選択を変えると、当たる確率は から に2倍になります。
- 理由は一言でいえば「変更して勝つ」ことと「最初の選択がハズレだった」ことが同じ出来事だからです。最初にハズレを引く確率は 。だから変更の勝率は です。
- 同じ結論を、条件付き確率(ベイズの定理)でも導きます。司会者が開けたドアという情報は、あなたのドアの確率を更新しない( のまま)一方で、残ったドアの確率だけを から へ押し上げます。
- この問題が炎上したのは、答えが難しいからではなく、問題文がルールを言い切っていなかったからです。司会者の行動規則を少し変えるだけで、正解は にも にも にもなります。
- 一般化すると、 枚のドアから1枚選び、司会者が 枚のヤギのドアを開けたとき、最初のドアの確率は のまま、残った各ドアは になります。, なら変更の勝率は です。
1. 動機:テレビ番組から生まれた1万通の抗議
Section titled “1. 動機:テレビ番組から生まれた1万通の抗議”アメリカに『Let’s Make a Deal』という長寿のテレビ番組がありました。司会者の名前をモンティ・ホール(Monty Hall)といいます。この番組の1コーナーを数学の問題に仕立てたものが、いまや確率論の最も有名な小話になりました。
問題はこうです。
あなたの目の前に3つのドアがあります。1つの後ろには新車が、残り2つの後ろにはヤギがいます。あなたは1つのドアを選びます。すると、どこに車があるかを知っている司会者が、あなたが選ばなかった2つのドアのうち、ヤギがいる方を開けてみせます。そして言います。「さて、選択を変えますか?」
あなたは変えるべきでしょうか。
ほとんどの人は「残りは2つ、どちらも五分五分。変えても変えなくても同じ」と答えます。私も最初にこの問題を聞いたときはそう答えました。しかし正解は「変えるべき」で、しかも当たる確率は五分五分どころか、変えない場合のちょうど2倍になります。
この直感との落差が、1990年に事件を起こしました。雑誌『Parade』のコラム「Ask Marilyn」で、マリリン・ボス・サバント(Marilyn vos Savant)が「変えるべきです」と回答したところ、約1万通の抗議の手紙が届いたのです。しかもそのうち千通近くが博士号保持者からのものでした。「あなたは間違っている」「これだから確率を分かっていない人は」という調子の手紙が、大学の数学科の便箋で届いたわけです。専門家が揃って誤りを見落とすこと自体は、実はそれほど珍しくありません。四色定理では、誤った証明が11年ものあいだ正しいと信じられていました(ケンペはどこで間違えたか(注意 4.4)[四色定理])。
さらに強力な逸話があります。20世紀最大級の数学者の一人ポール・エルデシュ(Paul Erdős)も、口頭の説明では納得せず、コンピュータのシミュレーション結果を見せられてようやく折れた、と伝えられています(Paul Hoffman の伝記『The Man Who Loved Only Numbers』に、Andrew Vázsonyi の証言として記録されています)。素数について誰よりも深く考えた人が、ドア3枚の問題で足をすくわれる。数学の難しさが計算量だけの問題ではないことを、これほど鮮やかに示す例はそう多くありません(この「なぜ難しいのか」という話題そのものについては 数学はなぜ難しいのか も読んでみてください。確率の直感が外れる別の例として 誕生日の問題(命題 6.2)[数学はなぜ難しいのか] が扱われています)。
問題そのものは1975年に統計学者 Steve Selvin が『The American Statistician』誌への投書で提出しており、さらに遡ればフランスの数学者ジョゼフ・ベルトランが1889年に出した「箱のパラドックス」と本質的に同じ構造をしています(例 4.3)。つまりこれは100年以上にわたって人間の直感を裏切り続けている、由緒正しい罠なのです。
この記事では、正解を2通りの方法で完全に証明します。ひとつは「すべての場合を書き出す」という素朴だが確実な方法、もうひとつは条件付き確率とベイズの定理を使う方法です。そのうえで、なぜこの問題がこれほど揉めたのかという一段深い話に進みます。結論を先に言えば、揉めた原因は数学ではなく日本語(原文では英語)の側にありました。
2. 準備:ルールを数学の言葉に翻訳する
Section titled “2. 準備:ルールを数学の言葉に翻訳する”確率の問題で議論が紛糾するときは、たいてい「何が偶然で、その偶然がどんな確率で起こるのか」が曖昧なまま話が進んでいます。ですからまず、日常語で書かれたルールを、一切の解釈の余地がない形に書き直します。ここを丁寧にやることが、この記事全体で一番大事な作業です。「 は か」という問いに答える前に 無限小数の値(定義 2.2)[1 は 0.999… と等しいか] を定義しておくのと、まったく同じ手順です。
定義 2.1(モンティ・ホール問題(標準ルール))
ドアに と番号を付ける。次の5条件を満たす確率モデルを、この問題の標準ルールと呼ぶ。
- 車の位置 は一様分布に従う。すなわち 。残りの2つのドアの後ろにはヤギがいる。
- 挑戦者の最初の選択 は と独立である(挑戦者は車の位置について何の情報も持たない)。
- 司会者は車の位置 と挑戦者の選択 を知っており、開けるドア は必ず かつ を満たす。つまり司会者は挑戦者のドアを開けず、車のドアも絶対に開けない。
- 条件 3 を満たすドアが2つある場合(すなわち の場合)、司会者はその2つを等確率 ずつで選ぶ。
- 司会者は必ずドアを1つ開け、そのあとで必ず「変えますか」と尋ねる。開けるかどうかを挑戦者の様子で決めたりはしない。
条件 4 と 5 は、日常語の問題文には書かれていなかった部分です。ここを明示しないと問題は解けません。あとで 命題 5.1 と 命題 5.4 で、この2つを崩すと答えがどう変わるかを見ます。
定義 2.2(2つの戦略)
挑戦者の戦略とは、司会者がドアを開けたあとに最終的にどのドアを選ぶかを決める規則である。ここでは次の2つだけを考える。
- 維持戦略(stay): 最終的な選択を のままにする。
- 変更戦略(switch): 最終的な選択を、 でも でもない唯一のドアにする。
いずれの戦略についても、その勝率とは、最終的に選んだドアの後ろに車がある確率をいう。
変更戦略の最終選択が「唯一のドア」として確定することを確認しておきます。ドアは3枚、 ですから、 と を除くと残りはちょうど1枚です。だから「変更する」という指示に曖昧さはありません。
最後に、条件付き確率の記号を確認します。高校で習った定義そのままです。
定義 2.3(条件付き確率とベイズの定理)
事象 が を満たすとき、 が起きたという条件のもとでの の条件付き確率を
で定める。とくに が互いに排反で が全事象に等しく、すべての で であるとき、全確率の公式
と、ベイズの定理
が成り立つ。
この定義の冒頭にある という但し書きは落とせません。分母が の割り算には値を与えようがないからです(0 でない数は 0 で割れない(命題 3.2)[ゼロで割ってはいけない理由])。以下の計算でも、条件付き確率を書くたびに条件の事象の確率が正であることを確かめていきます。
ベイズの定理は難しそうな名前をしていますが、やっていることは分数の計算の順番を入れ替えているだけです。 を「 が起きて、そのうえで が起きる」と読むか、「 が起きて、そのうちの の分」と読むか、その2通りの読み方を等号で結んだものにすぎません。
3. 方法1:すべての場合を書き出す
Section titled “3. 方法1:すべての場合を書き出す”まず、道具をほとんど使わない証明から始めます。中学生でも追えるはずです。
証明(命題 3.1)
維持戦略で勝つ、とは最終的に選んだドア の後ろに車があること、すなわち事象 が起きることです。司会者の行動 はこの事象の成否に一切関係しません。ドアの後ろの中身は挑戦者が選ぶ前に決まっており、司会者が別のドアを開けても 番のドアの中身は変わらないからです。
そこで を計算します。定義 2.1 の条件 2 より と は独立、条件 1 より は一様分布ですから、
2番目の等号で独立性()を使い、最後の等号で を使いました。よって維持戦略の勝率は です。
この命題の証明で注目してほしいのは、司会者が何をしようが は動かないという点です。多くの人が「ドアが2枚に減ったのだから になったはずだ」と考えますが、減ったのはドアの枚数であって、あなたが最初に選んだドアの中身ではありません。 という数字は、あなたが選んだ瞬間に確定した「3枚の中から目隠しで1枚当てた確率」なのです。
証明(定理 3.2)
証明のなかで実際に使ったのは、**「最初にハズレを選んだなら、司会者は残るもう1匹のヤギを開けるしかない」**という一点だけです。司会者に選択の余地がないこの状況こそが、情報が漏れている瞬間です。司会者は「車以外」という制約に縛られて動くので、その動きが車の位置を語ってしまいます。
言い方を変えると、司会者は「ヤギを1匹見せた」のではなく、「残り2枚のうちどちらが有望かを教えてくれた」のです。あなたが最初に選ばなかった2枚には合わせて の確率が割り当てられています。司会者はその2枚のうち一方をゼロにしてくれたので、 がまるごと片方に集まります。
例 3.3(表にして全部数える)
flowchart LR S["あなたはドア1を選ぶ"] S -->|"1/3"| A["車はドア1"] S -->|"1/3"| B["車はドア2"] S -->|"1/3"| D["車はドア3"] A -->|"1/2"| A2["司会者はドア2を開ける"] A -->|"1/2"| A3["司会者はドア3を開ける"] B -->|"1"| B3["司会者はドア3を開ける"] D -->|"1"| D2["司会者はドア2を開ける"] A2 --> R1["変更するとハズレ<br/>確率 1/6"] A3 --> R2["変更するとハズレ<br/>確率 1/6"] B3 --> R3["変更すると当たり<br/>確率 1/3"] D2 --> R4["変更すると当たり<br/>確率 1/3"]
4. 方法2:ベイズの定理で「情報の更新」を測る
Section titled “4. 方法2:ベイズの定理で「情報の更新」を測る”定理 3.2 が計算したのは、ゲームを始める前の段階で「変更戦略を採る」と決めておいたときの勝率です。しかし現実の挑戦者は、司会者が具体的にどのドアを開けたかを見てから決めます。「ドア3が開いた」という情報を受け取ったあとで、ドア1とドア2の確率はそれぞれいくつになっているのか。これを計算するのがベイズの定理の仕事です。
定理 4.1(司会者の行動を見たあとの確率)
証明(定理 4.1)
以下、すべての確率は を条件に付けたものとしますが、記号が煩雑になるので は省いて書きます。
手順1:事前確率。 定義 2.1 の条件 1 と 2 より
手順2:尤度(各場合に司会者がドア3を開ける確率)。 3つの場合に分けます。
- のとき。司会者はドア1(挑戦者の選択)を開けられず、車もそこにあります。開けられるのはドア2とドア3で、定義 2.1 の条件 4 よりこれを等確率で選びます。よって 。
- のとき。司会者はドア1(条件 3 の )もドア2(条件 3 の )も開けられません。残るのはドア3だけです。よって 。
- のとき。司会者は車のあるドア3を開けません(条件 3)。よって 。
手順3:全確率の公式で を求める。 定義 2.3 の全確率の公式に、事象 を排反な分割として適用します。
手順4:ベイズの定理。 定義 2.3 より
3つの和は となり、確率として整合しています。
この場面での変更戦略はドア2を選ぶことですから、その勝率は です。
計算の中身を眺めると、 倍がどこから出てきたかがはっきりします。事前確率はどちらも で並んでいました。差を付けたのは尤度です。ドア1に車がある世界で司会者がドア3を開ける確率は (気まぐれで選ぶ)、ドア2に車がある世界では (そうするしかない)。この という比がそのまま事後確率の比になります。
「ドア3が開いた」という同じ観測が、ドア1仮説よりドア2仮説をよく説明する、というのがベイズの言い分です。犯人当てで「アリバイのない人」より「その時間そこにいたはずの人」が疑われるのと同じ論理で、証拠を最もよく説明する仮説の点数が上がります。 という数字は、司会者が「開けるしかなかった」という不自由さの分だけドア2が疑わしくなった、その換算値です。
例 4.3(ベルトランの箱(1889年))
同じ構造の古典的な問題を計算してみます。箱が3つあり、それぞれに硬貨が2枚ずつ入っています。箱 には金貨2枚、箱 には銀貨2枚、箱 には金貨1枚と銀貨1枚。無作為に箱を1つ選び、その中から無作為に硬貨を1枚取り出したところ金貨でした。もう1枚も金貨である確率はいくつでしょうか。
「金貨が出たのだから箱は か 。だから 」と答えたくなりますが、これは誤りです。 を「取り出した硬貨が金貨」という事象として、定義 2.3 のベイズの定理を使います。事前確率は各箱 、尤度は
全確率の公式より
したがって
残りの1枚も金貨である確率は です。定理 4.1 と数字も構造も完全に同じであることに注意してください。「選択肢が2つ残ったから 」という誤りは、130年以上前から同じ形で人類を引っかけています。
5. ルールを変えると答えが変わる
Section titled “5. ルールを変えると答えが変わる”ここからがこの問題の本当に面白いところです。1990年の騒動で数学者たちが間違えたのは、彼らが確率を知らなかったからではありません。問題文が 定義 2.1 の条件 4 と 5 を明示していなかったため、各人が別々のゲームを頭の中で解いていたのです。実際、条件を少し変えるだけで正解は変わります。
5.1. 癖のある司会者
Section titled “5.1. 癖のある司会者”まず、条件 4(迷ったときは五分五分)を壊してみます。司会者が「選べるときは、なるべく番号の大きいドアを開けたがる」という癖を持っていたらどうなるでしょうか。
命題 5.1(偏りのある司会者)
定義 2.1 の条件 1, 2, 3, 5 は保ち、条件 4 だけを次に置き換える。挑戦者がドア1を選び()、車もドア1にある()とき、司会者はドア3を確率 、ドア2を確率 で開ける。ここで は定数である。このとき
であり、司会者がドア3を開けた場面での変更戦略の勝率は である。同様に、司会者がドア2を開けた場面での変更戦略の勝率は である。一方、ゲーム開始前に測った変更戦略の勝率は、 の値によらず常に である。
証明(命題 5.1)
以下 を条件に付けたうえで記号から省きます。尤度は次のとおりです。
- (仮定そのもの)。
- (条件 3 よりドア1もドア2も開けられないので、ドア3しかない)。
- (条件 3 より車のドアは開けない)。
定義 2.3 の全確率の公式より
なので であり、条件付き確率は定義できます。ベイズの定理より
この場面の変更戦略はドア2を選ぶことなので、勝率は です。
司会者がドア2を開けた場合も同様です。、、 より で、
ただし のときは なのでこれも定義でき、値は になります。
最後に開始前の勝率を確認します。定理 3.2 の証明の「主張」は条件 4 を一切使っていません(使ったのは条件 3 の と、ドアが3枚であることだけです)。よって変更戦略が勝つことは と同値であり、その確率は条件 1, 2 だけから と決まります。実際、2つの場面の勝率を重みつきで足すと
となり、確かに一致します。
系 5.2(変更して損をすることはない)
命題 5.1 の設定のもとで、司会者の癖 がどんな値であっても、また司会者がどちらのドアを開けた場面であっても、変更戦略の勝率は 以上である。等号が成り立つのは、 かつ司会者がドア3を開けた場合、および かつ司会者がドア2を開けた場合に限る。
証明(系 5.2)
司会者がドア3を開けた場面の勝率は 命題 5.1 より です。 より ですから、逆数を取って(正の数どうしの不等式なので向きが反転して)
が成り立ちます。左の等号は 、すなわち のときに限ります。
ドア2を開けた場面の勝率は です。 より ですから、同様に で、左の等号は 、すなわち のときに限ります。
実務的な結論はこうです。司会者の癖を知らなくても、変更するのが常に弱くない手です。癖が最悪()でも変更戦略は五分に落ちるだけで、負け越すことはありません。この「」という一般式は、1991年に Morgan らが『The American Statistician』誌で指摘したもので、素朴な という答えが実は条件 4 に依存していることを白日の下に晒しました。
Morgan らの論文は「 という答えは、司会者が公平なコインを投げるという仮定を暗黙に置いている」と指摘しました。逆にいえば、標準ルールを明示しさえすれば は完全に正しい。1990年の論争の大半は、数学の間違いではなく問題設定の共有ミスだったわけです。数学の問題文で「明らかに常識的な仮定」を書かずに済ませると、こういうことが起きます。
5.2. 何も知らない司会者
Section titled “5.2. 何も知らない司会者”次に、条件 3(司会者は車の位置を知っている)を壊します。司会者が新人で、車の位置を知らずに適当にドアを開けたら、たまたまヤギだった——という状況です。よく「モンティ・フォール問題」と呼ばれます。
命題 5.4(無知な司会者なら五分五分)
定義 2.1 の条件 1, 2 を保ち、条件 3, 4 を次に置き換える。挑戦者がドア1を選んだあと、司会者は車の位置を知らず、ドア2とドア3から等確率 で1枚を選んで開ける(車が出てしまうこともある)。このとき「司会者が開けたドアからヤギが出た」という条件のもとで
となり、変更戦略の勝率は である。
証明(命題 5.4)
「 かつ開いたドアからヤギが出た」という事象を と書きます。 の値ごとに との同時確率を計算します。司会者の選択は と独立で、 となる確率は常に です。
- のとき。ドア3にはヤギがいます。よって 。
- のとき。ドア3にはヤギがいます。よって 。
- のとき。ドア3を開けると車が出てしまうので、 は起こりません。。
したがって で、定義 2.3 より
変更戦略はドア2を選ぶことなので、その勝率は です。
定理 4.1 と 命題 5.4 を並べると、違いがどこにあるかがはっきりします。標準ルールでは でしたが、無知な司会者では に下がりました。司会者が車を避けるという制約こそが情報源だったのです。制約を外すと情報も消え、直感の「」が正解になります。
つまり「 だ」と主張した人たちも、まったくの間違いだったわけではありません。彼らはモンティ・フォール問題を解いていたのです。1万通の手紙の少なくとも一部は、数学ではなく国語の問題でした。
6. ドアを増やす:直感が正しくなる瞬間
Section titled “6. ドアを増やす:直感が正しくなる瞬間”が腑に落ちない人に最も効く説明は、ドアを100枚に増やすことです。まず一般の場合を証明してから、その特別な場合として100枚を見ます。
定理 6.1(n 枚のドアの場合)
、 とする。 枚のドアのうち1枚に車があり、その位置 は一様分布に従う。挑戦者はドア1を選ぶ。司会者は車の位置を知っており、挑戦者が選ばなかった 枚のうち車のないものから 枚を選んで開ける。開ける 枚の組 は、条件を満たすすべての 枚組から等確率で選ばれるとする。
このとき、司会者が実際に開けた組 を観測したあとで、
が成り立つ。とくに、開かれていない他のドアを1枚無作為に選び直す変更戦略の勝率は である。
証明(定理 6.1)
まず尤度を求めます。 を の 元部分集合とします。
- のとき。司会者は ( 枚)から任意の 枚を選べるので、選び方は 通り。よって 。
- ( かつ )のとき。司会者は ( 枚)から 枚を選ぶので、。
- かつ のとき。司会者は車のドアを開けないので 。
ここで2つの二項係数の関係を確認します。
( より右辺の二項係数は意味を持ちます。)両辺の逆数を取って
この等式を以下では係数の関係式と呼びます。
次に 定義 2.3 の全確率の公式を使います。 に含まれない 以外のドアは 枚あるので、 と略記すると、係数の関係式を第1項に適用して
途中で を使いました。 より なので で、条件付き確率が定義できます。
ベイズの定理より
検算します。 以外で開かれていないドアは 枚なので、確率の総和は
となり整合しています。開かれていない他のドアはどれも同じ確率なので、そのうち1枚に変更したときの勝率は です。
, を代入すると 、変更戦略の勝率は となり、定理 4.1 を再現します。一般の でも、最初に選んだドアの確率は から動かないという構造がそのまま生き残っていることに注目してください。
例 6.2(100枚のドア)
、 とします。あなたは100枚のドアから1枚(ドア1)を選びます。司会者は残り99枚のうち、車のないドアを98枚、次々に開けていきます。最後に残るのは、あなたのドア1と、司会者が頑なに開けなかった1枚だけです。
定理 6.1 より なので
変更戦略の勝率は です。
この設定なら誰も迷いません。「司会者が98枚も開けておきながら、あの1枚だけは意地でも開けなかった」という事実が雄弁すぎるからです。ドアが3枚だと、司会者が開けなかったドアは1枚しかないので、この「不自然さ」が見えにくい。それだけの違いです。 で起きていることは で起きていることと寸分違わず同じで、単に が に薄まっているにすぎません。
ドアが4枚あり、1枚の後ろに車、3枚の後ろにヤギがいるとします。車の位置は一様分布に従い、あなたはドア1を選びます。司会者は車の位置を知っていて、あなたが選ばなかった3枚のうち車のないドアを1枚だけ選んで開けます(選べるドアが複数あるときは等確率で選びます)。
このとき、(1) ドア1に車がある確率、(2) 開かれていない他の2枚のうち1枚に無作為に変更したときの勝率、をそれぞれ求めてください。変更すべきでしょうか。
解答
定理 6.1 を , で使います。条件 を満たしているので適用できます。
(1) 。
(2) 開かれていない他のドアは 枚あり、各々の確率は
どちらに変更しても勝率は です。検算すると で整合します。
なので、変更すべきです。ただし3枚のときの ほど劇的ではありません。司会者が閉じたまま残したドアが2枚あるので、 の確率が2枚に分散してしまうからです。
演習 7.2標準
命題 5.1 の設定で とします。つまり司会者は、車があなたのドア1にあって選択の余地があるときは、必ずドア3を開けるという癖の持ち主です(あなたはこの癖を知っているものとします)。
(1) 司会者がドア3を開けたとき、変更戦略の勝率を求めてください。 (2) 司会者がドア2を開けたとき、変更戦略の勝率を求めてください。 (3) (1) と (2) を確率で重みづけして平均すると になることを確かめてください。
演習 7.3標準
命題 5.4 の無知な司会者の設定で、次を求めてください。
(1) 司会者が開けたドアから車が出てしまう確率。 (2) 「ヤギが出た」という条件のもとでの維持戦略の勝率と変更戦略の勝率。 (3) 挑戦者がこのゲームを最初から最後まで(車が出てしまった回も含めて)繰り返すとき、変更戦略で車を得る割合。
解答
挑戦者はドア1を選び、司会者はドア2かドア3を等確率で開けるとします。
(1) 車が出るのは、車がドア2または3にあり、かつ司会者がちょうどそのドアを開けた場合です。
(2) 命題 5.4 より、ヤギが出たという条件のもとでは維持も変更も勝率 です。(命題 5.4 ではドア3が開いた場合を計算しましたが、ドア2が開いた場合も番号を入れ替えるだけで同じ計算になります。)
(3) 車が出てしまった回は挑戦者の負けとみなすと、変更戦略で勝つのは「ヤギが出て、かつ変更が当たる」場合です。(1) よりヤギが出る確率は 、そのうえで変更が当たる確率は (2) より なので
情報を運んでくれる司会者がいないので、勝率は最初の当てずっぽうの に戻ってしまいます。定理 3.2 の は、司会者の「車を避ける」という制約が贈ってくれたボーナスだったわけです。
三人の囚人問題(Martin Gardner が1959年に紹介した問題)。囚人 A, B, C の3人が死刑を宣告されていますが、1人だけが恩赦になることが決まっています。誰が恩赦されるかは一様分布で決まっており、看守だけがそれを知っています。
囚人 A は看守にこう頼みます。「B と C のうち、少なくとも一方は処刑されるはずだ。処刑される方の名前を1つ教えてくれ。それを聞いても自分の運命についての情報は増えないだろう」。看守は同意し、次の規則で答えます。B と C の一方だけが処刑されるなら(すなわち他方が恩赦なら)その処刑される方の名前を言う。B も C も処刑されるなら(すなわち A が恩赦なら)、B と C を等確率で選んで名前を言う。
看守が「B は処刑される」と答えたとき、A が恩赦される確率と C が恩赦される確率をそれぞれ求めてください。A の言い分は正しかったでしょうか。
解答
恩赦される人を 、看守が言った名前を とします。事前確率は です。尤度を規則から読み取ります。
- のとき。B も C も処刑されるので、看守は等確率で選びます。。
- のとき。看守は恩赦される B の名前は言いません(規則より処刑される方を言う)。。
- のとき。B と C のうち処刑されるのは B だけなので、看守は B と言うしかありません。。
定義 2.3 の全確率の公式より
ベイズの定理より
A の言い分は半分だけ正しい。確かに A 自身の恩赦の確率は のまま増えも減りもしませんでした。しかし C の確率は から へ跳ね上がっています。情報が「増えない」のではなく、情報がすべて C に流れ込んだのです。
この問題は 定理 4.1 と完全に同じ構造をしています。対応は「A =あなたが最初に選んだドア」「看守が名前を挙げた B =司会者が開けたドア」「C =残ったドア」。看守は A の名前を言わず()、恩赦される人の名前も言わない()。数字も と でそっくりそのままです。
- S. Selvin, “A problem in probability (letter to the editor)”, The American Statistician 29 (1975). 問題を最初に活字にした投書。同年の続報 “On the Monty Hall problem” で解答を与えている。
- J. P. Morgan, N. R. Chaganty, R. C. Dahiya, M. J. Doviak, “Let’s make a deal: The player’s dilemma”, The American Statistician 45 (1991), 284–287. 本記事の 命題 5.1(勝率 )の出典。
- Jason Rosenhouse, The Monty Hall Problem: The Remarkable Story of Math’s Most Contentious Brain Teaser, Oxford University Press, 2009. 変種の分類、心理学的研究、論争の経緯まで扱った単行本。
- Marilyn vos Savant, The Power of Logical Thinking, St. Martin’s Press, 1996. 1990年のコラムと寄せられた手紙を本人がまとめたもの。
- Paul Hoffman, The Man Who Loved Only Numbers, Hyperion, 1998(邦訳: 『放浪の天才数学者エルデシュ』草思社). エルデシュがこの問題に納得しなかった逸話を収める。
- William Feller, An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Vol. I, 3rd ed., Wiley, 1968 — 第 V 章(条件付き確率と独立性). ベイズの定理と、それを誤用したときに起きることの古典的な教科書。
Appendix: シミュレーションで確かめる
Section titled “Appendix: シミュレーションで確かめる”エルデシュを納得させた方法を自分でも試す。 証明を読んでもまだ腑に落ちないときは、計算機に100万回プレイさせるのが確実です。次のコードは Python の標準ライブラリだけで動きます。
import random
def trial(switch, n_doors=3): """1回プレイして、勝ったら True を返す。""" doors = range(n_doors) car = random.randrange(n_doors) pick = random.randrange(n_doors) # 司会者は「挑戦者の選択でも車でもない」ドアから1枚を等確率で開ける openable = [d for d in doors if d != pick and d != car] opened = random.choice(openable) if switch: pick = next(d for d in doors if d != pick and d != opened) return pick == car
random.seed(2026)n = 1_000_000for switch in (False, True): wins = sum(trial(switch) for _ in range(n)) print(f"switch={switch}: {wins / n:.4f}")維持戦略は 前後、変更戦略は 前後の値が出ます。100万回も回せば、統計的なばらつきは小数第3位あたりに収まります。
ただし、この実験が意味を持つのは 定理 3.2 の証明がすでに済んでいるからです。実験そのものは証明の代わりにはなりません。コラッツ予想のように、 以下のすべての数で確かめられてなお未解決のままの問題もあります(計算による検証の現状(注意 7.3)[コラッツ予想])。
コードのどこに数学が入っているか。 注目してほしいのは openable を作る行です。ここで d != car と書いていることが、定義 2.1 の条件 3(司会者は車のドアを開けない)そのものです。この条件を外して
openable = [d for d in doors if d != pick]と書き換え、opened == car になった回を「無効」として集計から除くと、命題 5.4 の無知な司会者になり、変更戦略の勝率は 前後に落ちます。たった1つの条件式が と を分けている、という事実をコードで見るのが、この問題の一番の教訓かもしれません。
ドアを増やす。 n_doors=100 にして、司会者が98枚開ける版に書き換えれば、例 6.2 の が再現できます。上のコードでは司会者が1枚しか開けないので、 枚版では openable から98枚を random.sample で選ぶように変えてください。答えを知ったうえで実験すると、確率が本当に「長い目で見た割合」であることが手触りとして分かります。
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