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コンパクト性:有限部分被覆で捉える「有界閉集合」の一般化

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の位相空間と連続写像、および実数の上限・完備性と閉区間上の連続関数の定理を学んだ学部生。コンパクト性は未習とします。

前提となる記事:連続写像と同相写像:開集合の逆像で連続性を捉え直す

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「閉じた区間の上の連続関数には、かならず最大値がある」という事実は、区間の端を含めるか含めないかで成り立ったり成り立たなかったりします。この記事では、その違いを生んでいるものを「開集合で覆う」という見方で取り出し、距離や座標がない空間でも同じ議論ができるようにします。読み終えると、最大値の定理がなぜ成り立つのかを、区間の形によらない一つの仕組みとして説明できるようになります。

  • コンパクト性とは「どんな開被覆をとっても、その中から有限個を選んで全体を覆える」という性質です。距離も座標も使わず、開集合という言葉だけで書けます。
  • Rn\mathbb{R}^n の部分集合に限れば、コンパクト性は「有界(原点中心のある球に収まる)かつ閉」と同値です(ハイネ・ボレルの定理)。証明の核心は閉直方体を二分し続ける議論で、そこで実数の完備性が効きます。
  • 一般の距離空間では「有界かつ閉」ではコンパクト性に足りません。ℓ2\ell^2(2 乗の総和が有限な無限数列のなす空間)の標準基底ベクトル全体がその反例です。
  • コンパクト集合の連続像はコンパクトです。この一行から最大値・最小値の定理(ワイエルシュトラス)がほとんど自動的に従います。
  • コンパクト性が働く仕組みはいつも同じで、「各点のまわりで得た無限個の局所情報を有限個に減らし、min⁡\min や max⁡\max をとる」という型です。有限個であることが本質です。
  • ハウスドルフ空間ではコンパクト部分集合は閉になり、コンパクト空間からハウスドルフ空間への連続全単射は自動的に同相写像になります。

1. 動機:有界閉区間は何をしていたのか

Section titled “1. 動機:有界閉区間は何をしていたのか”

微分積分学では、閉区間 [a,b][a, b] 上の連続関数について次のような定理を使ってきました。

  • [a,b][a, b] 上の連続関数は有界であり、最大値と最小値をとる。
  • [a,b][a, b] 上の連続関数は一様連続である。
  • [a,b][a, b] 上で連続関数列が連続関数へ単調に各点収束すれば、収束は一様である(ディニの定理)。

これらはどれも、定義域を少し変えるだけで壊れます。(0,1)(0, 1) 上の f(x)=1/xf(x) = 1/x は連続ですが有界ではありません。[0,∞)[0, \infty) 上の f(x)=xf(x) = x は最大値をとりません。[0,1)[0, 1) 上の f(x)=xf(x) = x は有界ですが、上限 11 は値として実現されないので、やはり最大値をとりません。[0,∞)[0, \infty) の例は「有界でない」定義域が、(0,1)(0, 1) と [0,1)[0, 1) の例は「閉でない」定義域が原因です。つまり定義域の有界性と閉性が両方効いています。

ところが、位相空間論の枠組みでこの議論をそのまま持ち込むことはできません。一般の位相空間には「有界」という言葉がないからです。有界性は距離が決める概念であって、位相だけでは決まりません。実際、

h(x)=x1+∣x∣h(x) = \frac{x}{1 + |x|}

は R\mathbb{R} から (−1,1)(-1, 1) への全単射で、hh も逆写像 h−1(y)=y/(1−∣y∣)h^{-1}(y) = y/(1 - |y|) も連続ですから、R\mathbb{R} と (−1,1)(-1, 1) は同相です。片方は有界で片方は有界でないのに、位相空間としては区別がつきません。有界性は位相的性質ではないのです(同相の概念については 連続写像と同相写像、とくに 同相写像の定義(定義 5.2)[連続写像と同相写像] を参照してください)。

そこで問い方を変えます。上の定理たちの証明で、[a,b][a,b] の何が使われていたのか。 証明を並べて眺めると、どれも同じ形をしています。まず各点 xx のまわりで欲しい性質が成り立つことを示し(局所的な情報)、次にそれを定義域全体へ広げます(大域的な結論)。この橋渡しで決定的なのは、無限個ある局所的な情報を有限個に減らせることです。有限個であれば min⁡\min や max⁡\max がとれますが、無限個のままでは inf⁡\inf が 00 になるかもしれず、議論が止まります。

この観察を定義に昇格させたものがコンパクト性です。歴史的には、ハイネが 1872 年に一様連続性を証明した議論にこの型が現れ、ボレルが 1895 年の学位論文で「閉区間の可算な開被覆からは有限個を選んで覆える」ことを定理として述べました。任意濃度の被覆への一般化はルベーグらによります。「コンパクト」という語をフレシェが 1906 年に今とは違う意味で使い始めてから、被覆による定義にこの名が落ち着くまでの経緯は、参考文献の Raman-Sundström にまとめられています。

前提とする内容は 位相空間の定義と基本概念 と 連続写像と同相写像 です。記号を確認しておきます。

  • 位相空間を (X,O)(X, \mathcal{O}) と書きます(位相空間の定義(定義 4.1)[位相空間の定義と基本概念])。O\mathcal{O} は開集合の全体で、∅,X∈O\emptyset, X \in \mathcal{O}、任意個の合併と有限個の交わりについて閉じます。X∖FX \setminus F が開のとき FF を閉集合と呼びます。
  • 部分集合 A⊂XA \subset X には相対位相 OA={ U∩A∣U∈O }\mathcal{O}_A = \{\, U \cap A \mid U \in \mathcal{O} \,\} を入れ、AA を部分空間とみなします。
  • 写像 f ⁣:X→Yf \colon X \to Y が連続であるとは、YY の任意の開集合 VV に対し f−1(V)f^{-1}(V) が XX の開集合であることをいいます(連続写像の定義(定義 3.1)[連続写像と同相写像])。
  • N={1,2,3,…}\mathbb{N} = \{1, 2, 3, \ldots\} とします。Rn\mathbb{R}^n にはユークリッド距離 ∣x−y∣=(∑i(xi−yi)2)1/2|x - y| = \bigl(\sum_i (x_i - y_i)^2\bigr)^{1/2} から定まる位相を入れ、開球を B(x,r)={ y∣∣y−x∣<r }B(x, r) = \{\, y \mid |y - x| < r \,\} と書きます。
  • 実数の完備性は上限公理の形で使います。すなわち「空でなく上に有界な R\mathbb{R} の部分集合には上限が存在する」を認めます(実数の完備性とコーシー列、とくに 上限の存在(定理 4.2)[実数の完備性とコーシー列] を参照してください)。アルキメデスの原理(任意の実数 cc に対し n>cn > c なる n∈Nn \in \mathbb{N} が存在する。アルキメデスの原理(定理 3.2)[実数の完備性とコーシー列])も上限公理から従う事実として使います。

なお、集合 AA の触点とは、その点を含むどんな開集合も AA と交わるような点のことです(AA の点はすべて触点で、閉集合は触点をすべて含みます)。

分離公理のうち、この記事で使うのはハウスドルフ性だけです。

定義 2.1(ハウスドルフ空間)↗

位相空間 XX がハウスドルフ空間であるとは、相異なる任意の 2 点 x≠yx \ne y に対して、開集合 U,VU, V が存在して

x∈U,y∈V,U∩V=∅x \in U,\quad y \in V,\quad U \cap V = \emptyset

を満たすことをいいます。

距離空間 (X,d)(X, d) はハウスドルフです。実際、x≠yx \ne y なら r=d(x,y)/2>0r = d(x, y)/2 > 0 とおくと B(x,r)∩B(y,r)=∅B(x, r) \cap B(y, r) = \emptyset です。もし zz が両方に属せば三角不等式から d(x,y)≤d(x,z)+d(z,y)<r+r=d(x,y)d(x,y) \le d(x,z) + d(z,y) < r + r = d(x,y) となって矛盾するからです。したがって Rn\mathbb{R}^n もハウスドルフです。分離公理の体系については 分離公理と距離づけ可能性、とくに T0・T1・T2 の定義(定義 3.1)[分離公理と距離づけ可能性] を参照してください。

定義 3.1(開被覆と部分被覆)↗

XX を位相空間、A⊂XA \subset X とします。XX の部分集合の族 U={Uλ}λ∈Λ\mathcal{U} = \{U_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} が

A⊂⋃λ∈ΛUλA \subset \bigcup_{\lambda \in \Lambda} U_\lambda

を満たすとき、U\mathcal{U} を AA の被覆といいます。さらにすべての UλU_\lambda が XX の開集合であるとき、U\mathcal{U} を AA の開被覆といいます。添字集合の部分集合 Λ′⊂Λ\Lambda' \subset \Lambda に対し {Uλ}λ∈Λ′\{U_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda'} が再び AA の被覆になっているとき、これを部分被覆といい、Λ′\Lambda' が有限集合のとき有限部分被覆といいます。

定義 3.2(コンパクト空間)↗

位相空間 XX がコンパクトであるとは、XX 自身の任意の開被覆が有限部分被覆をもつことをいいます。すなわち、XX の開集合の族 {Uλ}λ∈Λ\{U_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} が X=⋃λ∈ΛUλX = \bigcup_{\lambda \in \Lambda} U_\lambda を満たすならば、有限個の添字 λ1,…,λm∈Λ\lambda_1, \ldots, \lambda_m \in \Lambda が存在して

X=Uλ1∪Uλ2∪⋯∪UλmX = U_{\lambda_1} \cup U_{\lambda_2} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m}

となることをいいます。

量化子を誤読しないでください。「ある都合のよい開被覆が有限部分被覆をもつ」ではなく「すべての開被覆が有限部分被覆をもつ」です。XX 自身 1 個からなる被覆はいつでも有限被覆なので、前者ならどんな空間もコンパクトになってしまいます。逆にコンパクトでないことを示すには、有限部分被覆をもたない開被覆を一つ構成すれば十分です。

部分集合のコンパクト性は、相対位相を入れた部分空間としてのコンパクト性を意味します。しかし毎回相対位相に戻るのは面倒なので、周囲の空間の開集合で判定できることを確かめておきます。以後ほぼすべての証明で使う補題です。次の補題のねらいは、部分集合 AA を調べるときに「AA の中の開集合」と「周囲の空間 XX の開集合」を行き来する手間をなくすことです。XX の開集合 UU に対して U∩AU \cap A が AA の開集合になる、というのが相対位相の定義で、証明はこの対応を両向きに使っているだけです。

補題 3.3(部分空間のコンパクト性の判定)✓

XX を位相空間、A⊂XA \subset X に相対位相を入れる。このとき次は同値である。

  1. AA は位相空間としてコンパクトである。
  2. XX の開集合からなる AA の任意の被覆 {Uλ}λ∈Λ\{U_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}(すなわち A⊂⋃λUλA \subset \bigcup_\lambda U_\lambda)に対し、有限個の添字 λ1,…,λm\lambda_1, \ldots, \lambda_m が存在して A⊂Uλ1∪⋯∪UλmA \subset U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m} となる。
証明(補題 3.3)

(1 ⇒ 2){Uλ}\{U_\lambda\} を XX の開集合による AA の被覆とします。Vλ:=Uλ∩AV_\lambda := U_\lambda \cap A は相対位相の定義から AA の開集合であり、A⊂⋃λUλA \subset \bigcup_\lambda U_\lambda より

⋃λVλ=(⋃λUλ)∩A=A\bigcup_\lambda V_\lambda = \Bigl(\bigcup_\lambda U_\lambda\Bigr) \cap A = A

ですから、{Vλ}\{V_\lambda\} は AA の(部分空間としての)開被覆です。仮定 1 より有限部分被覆 A=Vλ1∪⋯∪VλmA = V_{\lambda_1} \cup \cdots \cup V_{\lambda_m} がとれます。Vλi⊂UλiV_{\lambda_i} \subset U_{\lambda_i} なので A⊂Uλ1∪⋯∪UλmA \subset U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m} が従います。

(2 ⇒ 1){Vλ}λ∈Λ\{V_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} を AA の開被覆とします。相対位相の定義より、各 λ\lambda に対して XX の開集合 UλU_\lambda で Vλ=Uλ∩AV_\lambda = U_\lambda \cap A となるものが存在します(各 λ\lambda ごとに一つ選びます)。すると

A=⋃λVλ=⋃λ(Uλ∩A)⊂⋃λUλA = \bigcup_\lambda V_\lambda = \bigcup_\lambda (U_\lambda \cap A) \subset \bigcup_\lambda U_\lambda

なので、仮定 2 が適用でき、A⊂Uλ1∪⋯∪UλmA \subset U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m} なる有限個がとれます。両辺と AA の交わりをとると

A=A∩(Uλ1∪⋯∪Uλm)=Vλ1∪⋯∪VλmA = A \cap \bigl(U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m}\bigr) = V_{\lambda_1} \cup \cdots \cup V_{\lambda_m}

となり、有限部分被覆が得られました。

補題 3.3 は「コンパクト性は部分空間の内在的な性質である」ことも意味します。A⊂B⊂XA \subset B \subset X のとき、AA が BB の部分空間としてコンパクトであることと XX の部分空間としてコンパクトであることは、どちらも条件 1 と同値なので一致します。この事実は後で Q\mathbb{Q} の中の集合を R\mathbb{R} の中で考えるときに使います。

例 3.4(コンパクトでない基本的な例)

(a) R\mathbb{R} はコンパクトではありません。 開被覆として Un=(−n,n)U_n = (-n, n)(n∈Nn \in \mathbb{N})をとります。任意の x∈Rx \in \mathbb{R} に対しアルキメデスの原理から n>∣x∣n > |x| なる nn があるので x∈Unx \in U_n となり、{Un}\{U_n\} は R\mathbb{R} の開被覆です。ところが有限個 Un1,…,UnkU_{n_1}, \ldots, U_{n_k} を選ぶと、N=max⁡iniN = \max_i n_i として Un1∪⋯∪Unk=UN=(−N,N)U_{n_1} \cup \cdots \cup U_{n_k} = U_N = (-N, N) であり、N∉(−N,N)N \notin (-N,N) ですからこれは R\mathbb{R} を覆いません。

(b) 半開区間 (0,1](0, 1] はコンパクトではありません。 Un=(1/n,2)U_n = (1/n, 2)(n∈Nn \in \mathbb{N})とおきます。各 UnU_n は R\mathbb{R} の開集合です。x∈(0,1]x \in (0,1] とすると x>0x > 0 なのでアルキメデスの原理から 1/n<x1/n < x なる nn があり、x≤1<2x \le 1 < 2 とあわせて x∈Unx \in U_n です。よって {Un}\{U_n\} は (0,1](0,1] の開被覆です。有限個 Un1,…,UnkU_{n_1}, \ldots, U_{n_k} を選ぶと、n≤mn \le m のとき Un⊂UmU_n \subset U_m なので、N=max⁡iniN = \max_i n_i として合併は UN=(1/N,2)U_N = (1/N, 2) です。しかし 1/(N+1)∈(0,1]1/(N+1) \in (0,1] は 1/(N+1)≤1/N1/(N+1) \le 1/N より UNU_N に属しません。したがって有限部分被覆は存在せず、補題 3.3 により (0,1](0,1] はコンパクトではありません。

(c) 有限集合はつねにコンパクトです。 X={x1,…,xk}X = \{x_1, \ldots, x_k\} の開被覆 {Uλ}\{U_\lambda\} が与えられたら、各 ii について xi∈Uλix_i \in U_{\lambda_i} となる λi\lambda_i を一つ選べば X=Uλ1∪⋯∪UλkX = U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_k} です。

01覆えずに残る部分1/21/31/41/5各開区間は右へ 2 まで伸びる
半開区間 (0,1] を覆う開区間の族。左端がじりじり 0 に近づくだけで 0 には到達しないため、どの有限個を選んでも左側に覆い残しが出ます。

コンパクト性は集合の「大きさ」ではなく位相の細かさで決まる、ということを次の例で確かめてください。

例 3.5(補有限位相ではすべての部分集合がコンパクト)

無限集合 XX に補有限位相を入れます。すなわち U⊂XU \subset X が開であるとは、U=∅U = \emptyset であるか、X∖UX \setminus U が有限集合であることと定めます。これが位相であることは、有限集合の有限個の合併と任意個の交わりが有限であることから確かめられます。

この空間では任意の部分集合 A⊂XA \subset X がコンパクトです。実際、XX の開集合による AA の被覆 {Uλ}\{U_\lambda\} が与えられたとします。A=∅A = \emptyset なら空の部分被覆でよいので A≠∅A \ne \emptyset とし、Uλ0≠∅U_{\lambda_0} \ne \emptyset となる添字を一つ選びます。すると X∖Uλ0={y1,…,yk}X \setminus U_{\lambda_0} = \{y_1, \ldots, y_k\} は有限集合です。AA の点のうち Uλ0U_{\lambda_0} に入らないものは y1,…,yky_1, \ldots, y_k の中にしかないので、そのそれぞれについて yjy_j を含む UλjU_{\lambda_j} を選べば

A⊂Uλ0∪Uλ1∪⋯∪UλkA \subset U_{\lambda_0} \cup U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_k}

となり、有限部分被覆が得られました。

X=RX = \mathbb{R} に補有限位相を入れれば、通常の意味で「大きい」集合がすべてコンパクトになります。コンパクト性が集合の大きさではなく位相に依存することがはっきりします。なお、この空間はハウスドルフではありません。空でない開集合 U,VU, V が U∩V=∅U \cap V = \emptyset を満たすとすると X=(X∖U)∪(X∖V)X = (X \setminus U) \cup (X \setminus V) となり、右辺は有限集合の合併なので XX が有限になってしまうからです。

注意 3.6

文献によっては、被覆条件だけを満たす空間を準コンパクトと呼び、それにハウスドルフ性を課したものをコンパクトと呼びます(ブルバキ流の用語法で、代数幾何でもこの区別を使います)。この記事では英語圏の標準に従い、被覆条件だけをコンパクト性と呼び、ハウスドルフ性が必要な主張ではそのつど仮定として明示します。

コンパクト性が部分集合に対してどう振る舞うかを調べます。まず「コンパクト空間の中で閉ならコンパクト」を示します。有界閉集合の言葉でいえば「有界性は全体から受け継ぐ、閉性は自前で用意する」という分担です。

定理 4.1(コンパクト空間の閉部分集合はコンパクト)✓

XX をコンパクト空間、F⊂XF \subset X を閉集合とする。このとき FF は(相対位相に関して)コンパクトである。

証明(定理 4.1)

補題 3.3 の条件 2 を確かめます。{Uλ}λ∈Λ\{U_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} を XX の開集合からなる FF の被覆とします。FF は閉なので W:=X∖FW := X \setminus F は開集合です。ここで族 {Uλ}λ∈Λ∪{W}\{U_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \cup \{W\} を考えると、これは XX の開被覆です。実際、x∈Xx \in X が FF に属せば仮定よりどれかの UλU_\lambda に属し、FF に属さなければ x∈Wx \in W だからです。

XX がコンパクトなので有限部分被覆がとれます。それを Uλ1,…,UλmU_{\lambda_1}, \ldots, U_{\lambda_m}(と、場合によっては WW)とすると

X=Uλ1∪⋯∪Uλm∪W.X = U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m} \cup W .

x∈Fx \in F をとると x∉Wx \notin W ですから、xx はどれかの UλiU_{\lambda_i} に属します。よって F⊂Uλ1∪⋯∪UλmF \subset U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m} となり、補題 3.3 より FF はコンパクトです。

逆向き、すなわち「コンパクト部分集合は閉か」は一般には成り立ちません。次の定理の発想は、閉であることを示すために、集合 KK の外の点 pp を KK から開集合で切り離すことです。KK の各点 xx と pp をそれぞれ離す開集合の組は点ごとに無数にできますが、KK がコンパクトなら xx 側は有限個で KK 全体を覆え、pp 側は有限個の交わりをとって開集合のまま残せます。例 3.5 の補有限位相では、有限でない真部分集合はコンパクトですが閉ではありません。ハウスドルフ性を仮定すると逆が成り立ちます。

定理 4.2(ハウスドルフ空間ではコンパクト集合と外部の点が分離できる)✓

XX をハウスドルフ空間、K⊂XK \subset X をコンパクト部分集合、p∈X∖Kp \in X \setminus K とする。このとき XX の開集合 U,VU, V で

K⊂U,p∈V,U∩V=∅K \subset U, \qquad p \in V, \qquad U \cap V = \emptyset

を満たすものが存在する。とくに KK は XX の閉集合である。

証明(定理 4.2)

各点 x∈Kx \in K に対して x≠px \ne p ですから、ハウスドルフ性(定義 2.1)により開集合 Ux∋xU_x \ni x と Vx∋pV_x \ni p で Ux∩Vx=∅U_x \cap V_x = \emptyset となるものがとれます。族 {Ux}x∈K\{U_x\}_{x \in K} は XX の開集合による KK の被覆ですから、KK のコンパクト性と 補題 3.3 により有限個の点 x1,…,xm∈Kx_1, \ldots, x_m \in K が存在して

K⊂Ux1∪⋯∪Uxm=:U.K \subset U_{x_1} \cup \cdots \cup U_{x_m} =: U .

そこで

V:=Vx1∩Vx2∩⋯∩VxmV := V_{x_1} \cap V_{x_2} \cap \cdots \cap V_{x_m}

とおきます。VV は有限個の開集合の交わりなので開集合であり、すべての VxiV_{x_i} が pp を含むので p∈Vp \in V です。

U∩V=∅U \cap V = \emptyset を示します。y∈Uy \in U とすると、ある ii について y∈Uxiy \in U_{x_i} です。Uxi∩Vxi=∅U_{x_i} \cap V_{x_i} = \emptyset なので y∉Vxiy \notin V_{x_i} であり、V⊂VxiV \subset V_{x_i} ですから y∉Vy \notin V です。よって UU と VV は交わりません。

最後に KK が閉であることを示します。上で得た VV は pp を含む開集合で V∩U=∅V \cap U = \emptyset、かつ K⊂UK \subset U ですから V⊂X∖KV \subset X \setminus K です。p∈X∖Kp \in X \setminus K は任意だったので、X∖KX \setminus K の各点はこの集合に含まれる開近傍をもち、したがって X∖KX \setminus K は開集合です。ゆえに KK は閉集合です。

注意 4.3

上の証明で「有限個の交わりだから開」という一歩が本質的です。無限個の開集合の交わりは開とは限りません。たとえば ⋂n∈N(−1/n,1/n)={0}\bigcap_{n \in \mathbb{N}} (-1/n, 1/n) = \{0\} は R\mathbb{R} の開集合ではありません。もし KK のコンパクト性がなければ VV を無限個の交わりとして作るほかなく、pp の開近傍が得られません。コンパクト性が「無限を有限に落とす道具」として働く典型例です。

コンパクト性は開集合の言葉で定義されていますが、補集合をとって閉集合の言葉に翻訳すると、別の顔が見えてきます。翻訳して嬉しいのは、「空でない閉集合がどんどん小さくなっても、共通部分は空にならない」という形で使えるようになることです。後の注意(注意 4.6)がその典型です。

定義 4.4(有限交叉性)↗

集合 XX の部分集合の族 {Fλ}λ∈Λ\{F_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} が有限交叉性をもつとは、任意の有限個の添字 λ1,…,λm∈Λ\lambda_1, \ldots, \lambda_m \in \Lambda に対して

Fλ1∩Fλ2∩⋯∩Fλm≠∅F_{\lambda_1} \cap F_{\lambda_2} \cap \cdots \cap F_{\lambda_m} \ne \emptyset

が成り立つことをいいます。

命題 4.5(有限交叉性によるコンパクト性の特徴づけ)✓

位相空間 XX について次は同値である。

  1. XX はコンパクトである。
  2. 有限交叉性をもつ XX の閉集合の族 {Fλ}λ∈Λ\{F_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} に対し、つねに ⋂λ∈ΛFλ≠∅\bigcap_{\lambda \in \Lambda} F_\lambda \ne \emptyset が成り立つ。
証明(命題 4.5)

Uλ:=X∖FλU_\lambda := X \setminus F_\lambda とおくと、FλF_\lambda が閉であることと UλU_\lambda が開であることは同値です。ド・モルガンの法則(集合族版のド・モルガンの法則(系 5.6)[数学の国語])より、任意の添字集合 Λ′⊂Λ\Lambda' \subset \Lambda について

X∖⋂λ∈Λ′Fλ=⋃λ∈Λ′UλX \setminus \bigcap_{\lambda \in \Lambda'} F_\lambda = \bigcup_{\lambda \in \Lambda'} U_\lambda

が成り立ちます。したがって

⋂λ∈Λ′Fλ=∅  ⟺  ⋃λ∈Λ′Uλ=X\bigcap_{\lambda \in \Lambda'} F_\lambda = \emptyset \iff \bigcup_{\lambda \in \Lambda'} U_\lambda = X

です。この同値を Λ′=Λ\Lambda' = \Lambda と有限な Λ′\Lambda' の両方に使います。

(1 ⇒ 2)対偶を示します。閉集合の族 {Fλ}\{F_\lambda\} が ⋂λ∈ΛFλ=∅\bigcap_{\lambda \in \Lambda} F_\lambda = \emptyset を満たすとすると、上の同値より {Uλ}\{U_\lambda\} は XX の開被覆です。XX はコンパクトなので有限部分被覆 X=Uλ1∪⋯∪UλmX = U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m} がとれ、再び上の同値(有限の場合)から Fλ1∩⋯∩Fλm=∅F_{\lambda_1} \cap \cdots \cap F_{\lambda_m} = \emptyset です。つまり {Fλ}\{F_\lambda\} は有限交叉性をもちません。

(2 ⇒ 1)こちらも対偶です。{Uλ}\{U_\lambda\} を有限部分被覆をもたない XX の開被覆とし、Fλ:=X∖UλF_\lambda := X \setminus U_\lambda とおきます。各 FλF_\lambda は閉集合です。任意の有限個の添字について Uλ1∪⋯∪Uλm≠XU_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_m} \ne X ですから、上の同値より Fλ1∩⋯∩Fλm≠∅F_{\lambda_1} \cap \cdots \cap F_{\lambda_m} \ne \emptyset、すなわち {Fλ}\{F_\lambda\} は有限交叉性をもちます。一方 ⋃λUλ=X\bigcup_\lambda U_\lambda = X より ⋂λFλ=∅\bigcap_\lambda F_\lambda = \emptyset ですから、条件 2 が破れています。

注意 4.6

命題 4.5 の典型的な使い方は、減少する閉集合の列です。XX をコンパクト空間、F1⊃F2⊃F3⊃⋯F_1 \supset F_2 \supset F_3 \supset \cdots を空でない閉集合の列とすると、有限個の交わりは Fn1∩⋯∩Fnk=Fmax⁡ini≠∅F_{n_1} \cap \cdots \cap F_{n_k} = F_{\max_i n_i} \ne \emptyset なので有限交叉性をもち、したがって ⋂n∈NFn≠∅\bigcap_{n \in \mathbb{N}} F_n \ne \emptyset です。「各段階で空でないなら、極限でも空でない」という結論が無条件で得られるのがコンパクト性の効き目です。

コンパクト性を落とすと壊れます。X=RX = \mathbb{R}、Fn=[n,∞)F_n = [n, \infty) は空でない閉集合の減少列ですが、⋂nFn=∅\bigcap_n F_n = \emptyset です(任意の xx に対しアルキメデスの原理から n>xn > x なる nn があり、x∉Fnx \notin F_n)。例 3.4 とは別の形で R\mathbb{R} の非コンパクト性が現れています。

ここまでは抽象論でした。Rn\mathbb{R}^n に戻って、動機の節で述べた「有界かつ閉」との関係を明らかにします。

出発点は一つの具体的な事実です。これがなければ、Rn\mathbb{R}^n にコンパクト集合が存在することすら分かりません。

次の補題の証明は背理法で、流れは三段階です。(1) 有限個では覆えない直方体を半分に切り、覆えない側を選ぶ操作を繰り返して、小さくなっていく直方体の列を作る。(2) 実数の上限を使って、その列のすべてに含まれる点 cc を一つ見つける。(3) cc を含む開集合が、十分小さくなった直方体を丸ごと覆ってしまい、「覆えない」という選び方に矛盾する。なお証明で使う diam⁡\operatorname{diam}(直径)は、集合の中の 2 点間の距離の最大値(上限)のことです。

下の動画は、n=2n = 2 の正方形で二分の手続きを見せたものです。点 cc を含む側の小正方形を選び続けると、直径 2/2k\sqrt{2}/2^k は急速に小さくなり、cc を中心とする半径 ε\varepsilon の円板に収まります(証明の最後の段階です)。

単位正方形を 4 等分し、点 c を含む小正方形を選ぶ操作を 6 回くり返す動画。選ばれた正方形は c の周りの円板に収まるまで縮み、右のグラフでは直径が 2 のべき乗で減って ε を下回る。
正方形を 4 等分して を含む側を選ぶ操作をくり返す様子。右は直径 の減り方で、 を下回った 以降は が円板 に含まれます。

補題 5.1(閉直方体はコンパクト)✓

ai≤bia_i \le b_i(i=1,…,ni = 1, \ldots, n)とし、

B=[a1,b1]×[a2,b2]×⋯×[an,bn]⊂RnB = [a_1, b_1] \times [a_2, b_2] \times \cdots \times [a_n, b_n] \subset \mathbb{R}^n

とおく。このとき BB はコンパクトである。

証明(補題 5.1)

U\mathcal{U} を Rn\mathbb{R}^n の開集合からなる BB の被覆とし、これが有限部分被覆をもたないと仮定して矛盾を導きます(補題 3.3 により、これで十分です)。BB の直径を

d:=diam⁡B=(∑i=1n(bi−ai)2)1/2d := \operatorname{diam} B = \Bigl(\sum_{i=1}^n (b_i - a_i)^2\Bigr)^{1/2}

とおきます。x,y∈Bx, y \in B なら各座標について ∣xi−yi∣≤bi−ai|x_i - y_i| \le b_i - a_i ですから ∣x−y∣≤d|x - y| \le d です。

二分の手続き。 B0:=BB_0 := B とします。BkB_k が定まったとき、その各辺 [αi,βi][\alpha_i, \beta_i] を中点 (αi+βi)/2(\alpha_i + \beta_i)/2 で二つに切ると、BkB_k は 2n2^n 個の閉直方体に分かれ、それらの合併は BkB_k に一致します。もしこの 2n2^n 個すべてが U\mathcal{U} の有限個で覆えたなら、それらを全部あわせた有限個で BkB_k が覆えてしまいます。したがって、U\mathcal{U} の有限個では覆えない小直方体が少なくとも一つ存在します。それを Bk+1B_{k+1} と定めます(複数あればどれか一つを選びます)。

こうして閉直方体の減少列

B0⊃B1⊃B2⊃⋯ ,diam⁡Bk=d2kB_0 \supset B_1 \supset B_2 \supset \cdots, \qquad \operatorname{diam} B_k = \frac{d}{2^k}

で、どの BkB_k も U\mathcal{U} の有限個では覆えないものが得られます。直径が半分になるのは、各辺の長さが半分になるからです。

共通点の存在。 BkB_k の第 ii 座標の辺を [ai(k),bi(k)][a_i^{(k)}, b_i^{(k)}] と書きます。BkB_k が減少列なので、各 ii について数列 (ai(k))k(a_i^{(k)})_k は単調増加、(bi(k))k(b_i^{(k)})_k は単調減少で、つねに ai(k)≤bi(k)a_i^{(k)} \le b_i^{(k)} です。集合 Si:={ai(k)∣k≥0}S_i := \{ a_i^{(k)} \mid k \ge 0 \} は空でなく、bi(0)b_i^{(0)} を上界にもちます。実際、任意の kk について ai(k)≤bi(k)≤bi(0)a_i^{(k)} \le b_i^{(k)} \le b_i^{(0)} です。よって上限公理から ci:=sup⁡Sic_i := \sup S_i が存在します。

この cic_i がすべての kk について ai(k)≤ci≤bi(k)a_i^{(k)} \le c_i \le b_i^{(k)} を満たすことを確かめます。左側は cic_i が SiS_i の上界であることから直ちに従います。右側は、bi(k)b_i^{(k)} が SiS_i の上界であることを示せば cic_i が最小上界であることから従います。m≥km \ge k なら ai(m)≤bi(m)≤bi(k)a_i^{(m)} \le b_i^{(m)} \le b_i^{(k)}(bb が減少列)、m≤km \le k なら ai(m)≤ai(k)≤bi(k)a_i^{(m)} \le a_i^{(k)} \le b_i^{(k)}(aa が増加列)ですから、いずれの場合も ai(m)≤bi(k)a_i^{(m)} \le b_i^{(k)} です。

したがって c:=(c1,…,cn)c := (c_1, \ldots, c_n) はすべての BkB_k に属します。

矛盾。 c∈B0=Bc \in B_0 = B で U\mathcal{U} は BB の被覆ですから、ある U∈UU \in \mathcal{U} が c∈Uc \in U を満たします。UU は開集合なので ε>0\varepsilon > 0 があって B(c,ε)⊂UB(c, \varepsilon) \subset U です。アルキメデスの原理から 2k≥k+1>d/ε2^k \ge k + 1 > d/\varepsilon となる kk がとれます(2k≥k+12^k \ge k+1 は帰納法で従います。d=0d = 0 なら BB は 1 点なので初めから有限個で覆えており、仮定に反します)。このとき diam⁡Bk=d/2k<ε\operatorname{diam} B_k = d/2^k < \varepsilon です。

c∈Bkc \in B_k なので、x∈Bkx \in B_k なら ∣x−c∣≤diam⁡Bk<ε|x - c| \le \operatorname{diam} B_k < \varepsilon、すなわち Bk⊂B(c,ε)⊂UB_k \subset B(c, \varepsilon) \subset U です。つまり BkB_k は U\mathcal{U} のたった一つの元 UU で覆えてしまい、「BkB_k は有限個では覆えない」という構成に反します。

この矛盾により、U\mathcal{U} は有限部分被覆をもちます。

定理 5.2(ハイネ・ボレルの定理)✓

A⊂RnA \subset \mathbb{R}^n とする。このとき次は同値である。

  1. AA はコンパクトである。
  2. AA は有界(ある R>0R > 0 について A⊂B(0,R)A \subset B(0, R))かつ Rn\mathbb{R}^n の閉集合である。
証明(定理 5.2)

(2 ⇒ 1)AA が有界なので A⊂B(0,R)A \subset B(0, R) なる R>0R > 0 があり、したがって

A⊂B:=[−R,R]×⋯×[−R,R]A \subset B := [-R, R] \times \cdots \times [-R, R]

です(∣x∣<R|x| < R なら各座標について ∣xi∣≤∣x∣<R|x_i| \le |x| < R だからです)。補題 5.1 より BB はコンパクトです。次に AA が BB の部分空間として閉であることを見ます。AA は Rn\mathbb{R}^n の閉集合なので Rn∖A\mathbb{R}^n \setminus A は開であり、B∖A=(Rn∖A)∩BB \setminus A = (\mathbb{R}^n \setminus A) \cap B は相対位相で開、すなわち AA は BB の閉部分集合です。したがって 定理 4.1 を空間 BB に適用して AA はコンパクトです。

(1 ⇒ 2)まず閉であること。Rn\mathbb{R}^n は距離空間なのでハウスドルフです(定義 2.1 の直後で確かめました)。よって 定理 4.2 より、コンパクト集合 AA は閉集合です。

次に有界であること。Vm:=B(0,m)V_m := B(0, m)(m∈Nm \in \mathbb{N})は開球なので開集合で、任意の x∈Rnx \in \mathbb{R}^n に対しアルキメデスの原理から m>∣x∣m > |x| なる mm があるので Rn=⋃mVm\mathbb{R}^n = \bigcup_{m} V_m、とくに {Vm}\{V_m\} は AA の開被覆です。AA のコンパクト性と 補題 3.3 より有限個 Vm1,…,VmkV_{m_1}, \ldots, V_{m_k} で AA が覆えます。M=max⁡imiM = \max_i m_i とおくと m≤Mm \le M のとき Vm⊂VMV_m \subset V_M ですから A⊂VM=B(0,M)A \subset V_M = B(0, M) となり、AA は有界です。

ハイネ・ボレルの定理の証明の骨組み。左が有界閉集合からコンパクト性を導く向き、右が逆向きです。

例 5.3(球面・直交群・一般線型群)

(a) 単位球面 Sn−1={ x∈Rn∣∣x∣=1 }S^{n-1} = \{\, x \in \mathbb{R}^n \mid |x| = 1 \,\} はコンパクトです。 ノルム x↦∣x∣x \mapsto |x| は連続です。三角不等式から ∣∣x∣−∣y∣∣≤∣x−y∣\bigl||x| - |y|\bigr| \le |x - y| なので、ε\varepsilon に対して δ=ε\delta = \varepsilon ととればよいからです。{1}\{1\} は R\mathbb{R} の閉集合ですから、その逆像である Sn−1S^{n-1} は閉集合です。また Sn−1⊂B(0,2)S^{n-1} \subset B(0, 2) より有界です。定理 5.2 よりコンパクトです。

(b) 直交群 O(n)={ A∈Rn×n∣ATA=In }O(n) = \{\, A \in \mathbb{R}^{n \times n} \mid A^{\mathsf{T}} A = I_n \,\} はコンパクトです。 Rn×n\mathbb{R}^{n \times n} を Rn2\mathbb{R}^{n^2} と同一視します。写像 Φ(A)=ATA\Phi(A) = A^{\mathsf{T}} A の各成分は AA の成分の多項式((Φ(A))jk=∑iaijaik(\Phi(A))_{jk} = \sum_i a_{ij} a_{ik})なので連続であり、{In}\{I_n\} は 1 点集合ゆえ閉ですから O(n)=Φ−1({In})O(n) = \Phi^{-1}(\{I_n\}) は閉集合です。有界性は具体的に計算できます。ATA=InA^{\mathsf{T}}A = I_n の (j,j)(j,j) 成分を比べると ∑i=1naij2=1\sum_{i=1}^n a_{ij}^2 = 1 ですから、これを jj について足して

∑i,jaij2=∑j=1n1=n.\sum_{i,j} a_{ij}^2 = \sum_{j=1}^n 1 = n .

つまり O(n)O(n) のすべての元は原点からの距離が n\sqrt{n} の球面上にあり、有界です。よって 定理 5.2 よりコンパクトです。

(c) 一般線型群 GLn(R)={ A∣det⁡A≠0 }GL_n(\mathbb{R}) = \{\, A \mid \det A \ne 0 \,\} はコンパクトではありません。 閉集合でないことを見ます。Ak:=k−1InA_k := k^{-1} I_n は det⁡Ak=k−n≠0\det A_k = k^{-n} \ne 0 より GLn(R)GL_n(\mathbb{R}) に属し、原点(零行列)との距離が n/k→0\sqrt{n}/k \to 0 なので零行列に収束しますが、零行列は det⁡=0\det = 0 より属しません。よって GLn(R)GL_n(\mathbb{R}) の触点でありながらそれに属さない点があり、閉ではありません。定理 5.2 の対偶よりコンパクトではありません。有界でないこと(kInk I_n の原点からの距離は kn→∞k\sqrt{n} \to \infty)からも同じ結論が出ます。

注意 5.4

「コンパクト   ⟺  \iff 有界かつ閉」は Rn\mathbb{R}^n に固有の現象で、一般の距離空間では成り立ちません。

もっとも簡単な例は、無限集合 XX に離散距離(x≠yx \ne y のとき d(x,y)=1d(x,y) = 1)を入れたものです。XX は直径 11 で有界かつ自分自身の中で閉ですが、{x}=B(x,1/2)\{x\} = B(x, 1/2) より 1 点集合がすべて開なので、{ {x}∣x∈X }\{\, \{x\} \mid x \in X \,\} は有限部分被覆をもたない開被覆です。

解析でよく使う例としては、2 乗総和可能な数列の空間 ℓ2\ell^2 の中の標準基底 en=(0,…,0,1,0,…)e_n = (0, \ldots, 0, 1, 0, \ldots)(第 nn 成分だけ 11)の全体 E={ en∣n∈N }E = \{\, e_n \mid n \in \mathbb{N} \,\} があります。n≠mn \ne m のとき ∥en−em∥=2\|e_n - e_m\| = \sqrt{2} です。EE は単位球面上にあるので有界であり、ℓ2\ell^2 の閉集合でもあります。実際、EE の点からなる列が ℓ2\ell^2 で収束するならコーシー列なので、番号がある段階から先で距離が 2\sqrt{2} 未満、すなわち定数列となり、極限は EE に属するからです。しかし開球の族 {B(en,1)}n∈N\{ B(e_n, 1) \}_{n \in \mathbb{N}} は EE の開被覆でありながら、B(en,1)∩E={en}B(e_n, 1) \cap E = \{e_n\}(他の点は距離 2>1\sqrt 2 > 1)なので、有限個ではたかだか有限個の点しか覆えず、有限部分被覆をもちません。無限次元では「有界閉集合」はコンパクトになるには広すぎるのです。この事実は LpL^p 空間の議論でも繰り返し現れます(L^p空間と関数解析への導入 を参照してください)。

コンパクト性がなぜ「強力な道具」なのかは、ここで明らかになります。鍵は、コンパクト性が連続写像で前へ運ばれることです。

定理 6.1(コンパクト集合の連続像はコンパクト)✓

X,YX, Y を位相空間、f ⁣:X→Yf \colon X \to Y を連続写像とする。XX がコンパクトならば、像 f(X)f(X) は YY の部分空間としてコンパクトである。

証明(定理 6.1)

補題 3.3 の条件 2 を確かめます。{Vλ}λ∈Λ\{V_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} を YY の開集合からなる f(X)f(X) の被覆とします。ff が連続なので各 f−1(Vλ)f^{-1}(V_\lambda) は XX の開集合です。これらが XX を覆うことを見ます。x∈Xx \in X をとると f(x)∈f(X)⊂⋃λVλf(x) \in f(X) \subset \bigcup_\lambda V_\lambda ですから、ある λ\lambda で f(x)∈Vλf(x) \in V_\lambda、すなわち x∈f−1(Vλ)x \in f^{-1}(V_\lambda) です。よって X=⋃λf−1(Vλ)X = \bigcup_\lambda f^{-1}(V_\lambda) です。

XX のコンパクト性から有限個の添字 λ1,…,λm\lambda_1, \ldots, \lambda_m で

X=f−1(Vλ1)∪⋯∪f−1(Vλm)X = f^{-1}(V_{\lambda_1}) \cup \cdots \cup f^{-1}(V_{\lambda_m})

となります。したがって y∈f(X)y \in f(X) を y=f(x)y = f(x) と書けば、xx はどれかの f−1(Vλi)f^{-1}(V_{\lambda_i}) に属し、y=f(x)∈Vλiy = f(x) \in V_{\lambda_i} です。ゆえに f(X)⊂Vλ1∪⋯∪Vλmf(X) \subset V_{\lambda_1} \cup \cdots \cup V_{\lambda_m} であり、f(X)f(X) はコンパクトです。

連続写像で保たれる位相的性質は多くありません。コンパクト性と 連結性 はその代表格で、二つを組み合わせると R\mathbb{R} 値連続関数の像が「有界閉区間」であることまで分かります。ここではコンパクト性だけから出る結論を見ます。

系 6.2(最大値・最小値の定理)✓

XX を空でないコンパクト位相空間、f ⁣:X→Rf \colon X \to \mathbb{R} を連続関数とする。このとき ff は有界であり、しかも最大値と最小値を実際にとる。すなわち xmax⁡,xmin⁡∈Xx_{\max}, x_{\min} \in X が存在して、すべての x∈Xx \in X について

f(xmin⁡)≤f(x)≤f(xmax⁡)f(x_{\min}) \le f(x) \le f(x_{\max})

が成り立つ。

証明(系 6.2)

K:=f(X)⊂RK := f(X) \subset \mathbb{R} とおきます。定理 6.1 より KK はコンパクトです。R=R1\mathbb{R} = \mathbb{R}^1 に 定理 5.2 を適用すると、KK は有界な閉集合です。有界性から ff が有界関数であることが従います。

X≠∅X \ne \emptyset なので K≠∅K \ne \emptyset です。KK は空でなく上に有界ですから、上限公理より s:=sup⁡Ks := \sup K が存在します。s∈Ks \in K を示します。任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し、s−εs - \varepsilon は KK の上界ではない(ss が最小上界だから)ので、y∈Ky \in K で s−ε<y≤ss - \varepsilon < y \le s となるものがあります。よって (s−ε,s+ε)∩K≠∅(s - \varepsilon, s + \varepsilon) \cap K \ne \emptyset が任意の ε>0\varepsilon > 0 について成り立ち、ss は KK の触点です。KK は閉集合なので触点をすべて含み、s∈Ks \in K です。K=f(X)K = f(X) でしたから s=f(xmax⁡)s = f(x_{\max}) なる xmax⁡∈Xx_{\max} \in X が存在し、これが最大値を与えます。

最小値については −f-f に同じ議論を適用します。−f-f は連続なので最大値 −f(xmin⁡)-f(x_{\min}) をとり、これは ff が xmin⁡x_{\min} で最小値をとることを意味します。

X=[a,b]X = [a, b] ととれば(補題 5.1 によりコンパクトです)、微分積分学でおなじみのワイエルシュトラスの定理(最大値の原理(定理 4.2)[連続関数と一様連続性])が得られます。注目すべきは、証明のどこにも区間の形が現れていないことです。使ったのは「定義域がコンパクト」「ff が連続」の 2 点だけで、定義域は球面でも直交群でも構いません。

例 6.3(単位円周上の 2 次形式の最大・最小)

q(x,y)=x2+xy+y2q(x, y) = x^2 + xy + y^2 を単位円周 S1={ (x,y)∣x2+y2=1 }S^1 = \{\, (x,y) \mid x^2 + y^2 = 1 \,\} に制限します。qq は多項式なので連続、S1S^1 は 例 5.3 によりコンパクトで空でないので、系 6.2 より最大値と最小値をとります。値を計算しましょう。(x,y)=(cos⁡t,sin⁡t)(x, y) = (\cos t, \sin t) とおくと

q=cos⁡2t+cos⁡tsin⁡t+sin⁡2t=1+12sin⁡2t.q = \cos^2 t + \cos t \sin t + \sin^2 t = 1 + \frac{1}{2}\sin 2t .

sin⁡2t\sin 2t の値域は [−1,1][-1, 1] ですから qq の値域は [1/2, 3/2][1/2,\ 3/2] です。sin⁡2t=1\sin 2t = 1 すなわち t=π/4t = \pi/4 のとき (x,y)=(1/2, 1/2)(x,y) = (1/\sqrt{2},\, 1/\sqrt{2}) で

q=12+12+12=32q = \tfrac12 + \tfrac12 + \tfrac12 = \tfrac32

が最大値、sin⁡2t=−1\sin 2t = -1 すなわち t=3π/4t = 3\pi/4 のとき (x,y)=(−1/2, 1/2)(x,y) = (-1/\sqrt{2},\, 1/\sqrt{2}) で

q=12−12+12=12q = \tfrac12 - \tfrac12 + \tfrac12 = \tfrac12

が最小値です。これらはちょうど対称行列

(11/21/21)\begin{pmatrix} 1 & 1/2 \\ 1/2 & 1 \end{pmatrix}

の固有値 3/2, 1/23/2,\ 1/2 に一致します。2 次形式の最大・最小が固有値になるという線型代数の事実は、「最大値が存在する」ことを先に保証しなければ議論が始まりません。その保証を与えているのが球面のコンパクト性です。

例 6.4(有限次元空間のノルムはすべて同値である)

∥⋅∥\|\cdot\| を Rn\mathbb{R}^n 上の任意のノルム(∥x∥=0  ⟺  x=0\|x\| = 0 \iff x = 0、∥cx∥=∣c∣ ∥x∥\|cx\| = |c|\,\|x\|、∥x+y∥≤∥x∥+∥y∥\|x + y\| \le \|x\| + \|y\| を満たす関数)とします。このとき定数 0<m≤M0 < m \le M が存在して、すべての xx について

m ∣x∣≤∥x∥≤M ∣x∣m\,|x| \le \|x\| \le M\,|x|

が成り立ちます。ここで ∣x∣|x| はユークリッドノルムです。したがって Rn\mathbb{R}^n 上のノルムはすべて同じ位相を定めます。証明はコンパクト性の典型的な使い方です。

上からの評価。 e1,…,ene_1, \ldots, e_n を標準基底とし、x=∑ixieix = \sum_i x_i e_i と書きます。三角不等式と斉次性から

∥x∥≤∑i=1n∣xi∣ ∥ei∥≤(∑ixi2)1/2(∑i∥ei∥2)1/2=M∣x∣,M:=(∑i∥ei∥2)1/2\|x\| \le \sum_{i=1}^n |x_i| \, \|e_i\| \le \Bigl(\sum_i x_i^2\Bigr)^{1/2} \Bigl(\sum_i \|e_i\|^2\Bigr)^{1/2} = M |x|, \qquad M := \Bigl(\sum_i \|e_i\|^2\Bigr)^{1/2}

です。途中でコーシー・シュワルツの不等式を使いました。M>0M > 0 は e1≠0e_1 \ne 0 より従います。

∥⋅∥\|\cdot\| の連続性。 ノルムの三角不等式から ∣∥x∥−∥y∥∣≤∥x−y∥≤M∣x−y∣\bigl| \|x\| - \|y\| \bigr| \le \|x - y\| \le M|x - y| です。よって ∥⋅∥ ⁣:(Rn,∣⋅∣)→R\|\cdot\| \colon (\mathbb{R}^n, |\cdot|) \to \mathbb{R} は連続(ε\varepsilon に対し δ=ε/M\delta = \varepsilon/M)です。

下からの評価。 S={ x∣∣x∣=1 }S = \{\, x \mid |x| = 1 \,\} はコンパクトで空でない(例 5.3)ので、系 6.2 より連続関数 ∥⋅∥\|\cdot\| は SS 上で最小値 m=∥x0∥m = \|x_0\|(x0∈Sx_0 \in S)をとります。x0∈Sx_0 \in S より x0≠0x_0 \ne 0、ノルムの定義から m=∥x0∥>0m = \|x_0\| > 0 です。x≠0x \ne 0 に対して x/∣x∣∈Sx/|x| \in S ですから ∥x/∣x∣∥≥m\bigl\| x/|x| \bigr\| \ge m であり、斉次性 ∥x/∣x∣∥=∥x∥/∣x∣\bigl\| x/|x| \bigr\| = \|x\| / |x| とあわせて ∥x∥≥m∣x∣\|x\| \ge m |x| です。x=0x = 0 のときは両辺 00 で成立します。

ここで最小値の存在が決定的でした。もし下限 inf⁡\inf しか言えなければ、それが 00 である可能性を排除できず、m>0m > 0 が主張できません。無限次元ではまさにこれが起こり、ノルムの同値性は成り立ちません。

最後に、コンパクト性とハウスドルフ性が組み合わさると、連続写像の逆写像の連続性が「ただで」手に入ることを見ます。同相写像を作るときの手間を大幅に減らしてくれる定理です。

系 6.5(コンパクトからハウスドルフへの連続全単射は同相)✓

XX をコンパクト空間、YY をハウスドルフ空間、f ⁣:X→Yf \colon X \to Y を連続な全単射とする。このとき ff は同相写像である。すなわち f−1 ⁣:Y→Xf^{-1} \colon Y \to X も連続である。

証明(系 6.5)

g:=f−1 ⁣:Y→Xg := f^{-1} \colon Y \to X とおきます。gg が連続であることは、XX の任意の閉集合 FF について g−1(F)g^{-1}(F) が YY の閉集合であることと同値です(開集合の逆像が開であることと、閉集合の逆像が閉であることは補集合をとれば同値です)。ff が全単射なので g−1(F)=f(F)g^{-1}(F) = f(F) です。したがって「FF が XX の閉集合ならば f(F)f(F) が YY の閉集合である」を示せば十分です。

F⊂XF \subset X を閉集合とします。XX はコンパクトなので、定理 4.1 より FF はコンパクトです。ff の FF への制限は連続ですから、定理 6.1 より f(F)f(F) はコンパクトです。YY はハウスドルフなので、定理 4.2 より f(F)f(F) は YY の閉集合です。

注意 6.6

系 6.5 の仮定はどれも落とせません。

X=[0,1)X = [0, 1)、Y=S1Y = S^1、f(t)=(cos⁡2πt,sin⁡2πt)f(t) = (\cos 2\pi t, \sin 2\pi t) を考えます。ff は連続な全単射です(t∈[0,1)t \in [0,1) と偏角が 1 対 1 に対応します)。しかし逆写像は連続ではありません。YY 上で点 (1,0)(1, 0) に下から(角度 2π2\pi 側から)近づく点列 f(1−1/k)f(1 - 1/k) を考えると、その f−1f^{-1} の値 1−1/k1 - 1/k は 11 に近づくのに、f−1((1,0))=0f^{-1}((1,0)) = 0 だからです。ここで壊れているのは X=[0,1)X = [0,1) のコンパクト性です。[0,1)[0,1) は有界ですが R\mathbb{R} の閉集合ではない(11 が触点なのに属さない)ので、定理 5.2 よりコンパクトではありません。

一方、YY のハウスドルフ性を落とすこともできません。X={a,b}X = \{a, b\} に離散位相を、Y={a,b}Y = \{a, b\} に密着位相(開集合は ∅\emptyset と全体だけ)を入れ、ff を恒等写像とします。XX は有限なのでコンパクト(例 3.4 の (c))、ff は連続な全単射ですが、{a}\{a\} は XX で開なのに YY で開ではないので f−1f^{-1} は連続ではありません。YY は 2 点を分離できずハウスドルフではないことが原因です。

演習 7.1易

A={0}∪{ 1/n∣n∈N }⊂RA = \{0\} \cup \{\, 1/n \mid n \in \mathbb{N} \,\} \subset \mathbb{R} がコンパクトであることを、次の 2 通りで示してください。

(a)ハイネ・ボレルの定理を使う。 (b)任意の開被覆から有限部分被覆を実際に取り出す。

解答

(a) A⊂[0,1]A \subset [0, 1] なので有界です。閉であることを示すため、R∖A\mathbb{R} \setminus A が開であることを確かめます。x∉Ax \notin A とします。

  • x<0x < 0 のとき ε:=∣x∣\varepsilon := |x|、x>1x > 1 のとき ε:=x−1\varepsilon := x - 1 とすると、(x−ε,x+ε)(x - \varepsilon, x + \varepsilon) はそれぞれ (−∞,0)(-\infty, 0)、(1,∞)(1, \infty) に含まれます。A⊂[0,1]A \subset [0,1] なのでこれらは AA と交わりません。
  • 0<x≤10 < x \le 1 かつ x∉Ax \notin A のとき、n:=⌊1/x⌋n := \lfloor 1/x \rfloor とおくと n≤1/x<n+1n \le 1/x < n+1、すなわち 1/(n+1)<x≤1/n1/(n+1) < x \le 1/n です。x≠1/nx \ne 1/n(x∉Ax \notin A)なので 1/(n+1)<x<1/n1/(n+1) < x < 1/n です。ε:=min⁡{x−1/(n+1), 1/n−x}>0\varepsilon := \min\{x - 1/(n+1),\ 1/n - x\} > 0 とすると (x−ε,x+ε)⊂(1/(n+1),1/n)(x-\varepsilon, x+\varepsilon) \subset (1/(n+1), 1/n) です。この区間は AA と交わりません。m≥n+1m \ge n+1 なら 1/m≤1/(n+1)1/m \le 1/(n+1)、m≤nm \le n なら 1/m≥1/n1/m \ge 1/n であり、00 も含まれないからです。

以上より R∖A\mathbb{R}\setminus A は開、AA は閉です。定理 5.2 より AA はコンパクトです。

(b) {Uλ}\{U_\lambda\} を R\mathbb{R} の開集合からなる AA の被覆とします。0∈A0 \in A なので 0∈Uλ00 \in U_{\lambda_0} なる λ0\lambda_0 があり、Uλ0U_{\lambda_0} は開なので ε>0\varepsilon > 0 で (−ε,ε)⊂Uλ0(-\varepsilon, \varepsilon) \subset U_{\lambda_0} となるものがあります。アルキメデスの原理から 1/N<ε1/N < \varepsilon なる N∈NN \in \mathbb{N} をとると、n≥Nn \ge N のとき 0<1/n≤1/N<ε0 < 1/n \le 1/N < \varepsilon ですから 1/n∈Uλ01/n \in U_{\lambda_0} です。残るのは 1,1/2,…,1/(N−1)1, 1/2, \ldots, 1/(N-1) の有限個だけなので、各 i=1,…,N−1i = 1, \ldots, N-1 について 1/i∈Uλi1/i \in U_{\lambda_i} となる λi\lambda_i を選べば

A⊂Uλ0∪Uλ1∪⋯∪UλN−1A \subset U_{\lambda_0} \cup U_{\lambda_1} \cup \cdots \cup U_{\lambda_{N-1}}

です。補題 3.3 より AA はコンパクトです。

(b)の議論は、集積点 00 が集合に入っていることが要であることを見せています。00 を除いた {1/n}\{1/n\} は同じ理由でコンパクトになりません。

演習 7.2標準

XX を空でないコンパクト空間、f ⁣:X→Rf \colon X \to \mathbb{R} を連続関数とし、すべての x∈Xx \in X について f(x)>0f(x) > 0 とします。このとき、ある定数 c>0c > 0 が存在して、すべての x∈Xx \in X について f(x)≥cf(x) \ge c となることを、(a)最大値・最小値の定理を使う方法、(b)開被覆を直接使う方法、の 2 通りで示してください。また、XX のコンパクト性を落とすと結論が成り立たない例を挙げてください。

解答

(a) 系 6.2 より ff は最小値をとります。すなわち xmin⁡∈Xx_{\min} \in X があってすべての xx で f(x)≥f(xmin⁡)f(x) \ge f(x_{\min}) です。仮定より c:=f(xmin⁡)>0c := f(x_{\min}) > 0 であり、これが求めるものです。

(b) 各 x∈Xx \in X について f(x)>0f(x) > 0 ですから、区間 (f(x)/2, ∞)\bigl(f(x)/2,\ \infty\bigr) は R\mathbb{R} の開集合で f(x)f(x) を含みます。ff の連続性より

Ux:=f−1( (f(x)/2, ∞) )U_x := f^{-1}\bigl(\, (f(x)/2,\ \infty) \,\bigr)

は XX の開集合で、f(x)>f(x)/2f(x) > f(x)/2 より x∈Uxx \in U_x です。よって {Ux}x∈X\{U_x\}_{x \in X} は XX の開被覆です。コンパクト性から有限個の点 x1,…,xmx_1, \ldots, x_m で X=Ux1∪⋯∪UxmX = U_{x_1} \cup \cdots \cup U_{x_m} となります。ここで

c:=min⁡{f(x1)2,…,f(xm)2}c := \min\Bigl\{ \frac{f(x_1)}{2}, \ldots, \frac{f(x_m)}{2} \Bigr\}

とおくと、これは有限個の正数の最小値なので c>0c > 0 です。任意の y∈Xy \in X はある UxiU_{x_i} に属し、定義から f(y)>f(xi)/2≥cf(y) > f(x_i)/2 \ge c です。

反例。 X=(0,1)X = (0, 1)(コンパクトでない)、f(x)=xf(x) = x とすると ff は連続で各点で正ですが、f(1/n)=1/nf(1/n) = 1/n はいくらでも 00 に近づくので、f≥c>0f \ge c > 0 となる cc は存在しません。(b) の証明でどこが壊れるかを見ると、有限部分被覆がとれないため無限個の f(x)/2f(x)/2 の min⁡\min をとることになり、それが 00 になってしまうのです。

演習 7.3標準

A={ q∈Q∣0≤q≤1 }A = \{\, q \in \mathbb{Q} \mid 0 \le q \le 1 \,\} はコンパクトではないことを、有限部分被覆をもたない開被覆を具体的に構成して示してください。(AA を Q\mathbb{Q} の部分空間とみても R\mathbb{R} の部分空間とみても結論は同じであることに注意してください。)

解答

補題 3.3 の直後に述べたとおり、コンパクト性は部分空間としての内在的性質なので、A⊂RA \subset \mathbb{R} とみて R\mathbb{R} の開集合で被覆を作れば十分です。

無理数 α=1/2\alpha = 1/\sqrt{2} をとります。0<α<10 < \alpha < 1 です。n∈Nn \in \mathbb{N} に対し

Un:=(−∞, α−1n)∪(α+1n, ∞)U_n := \Bigl(-\infty,\ \alpha - \frac{1}{n}\Bigr) \cup \Bigl(\alpha + \frac{1}{n},\ \infty\Bigr)

とおきます。これは開区間 2 つの合併なので R\mathbb{R} の開集合です。

被覆であること。 q∈Aq \in A とすると qq は有理数、α\alpha は無理数なので q≠αq \ne \alpha、したがって ∣q−α∣>0|q - \alpha| > 0 です。アルキメデスの原理から 1/n<∣q−α∣1/n < |q - \alpha| なる nn がとれ、このとき q∈Unq \in U_n です。よって A⊂⋃nUnA \subset \bigcup_n U_n です。

有限部分被覆がないこと。 n≤mn \le m のとき Un⊂UmU_n \subset U_m ですから、有限個 Un1,…,UnkU_{n_1}, \ldots, U_{n_k} の合併は N:=max⁡iniN := \max_i n_i として UNU_N に等しくなります。α<1\alpha < 1 なので区間 (α, min⁡{α+1/N, 1})\bigl(\alpha,\ \min\{\alpha + 1/N,\ 1\}\bigr) は空でない開区間であり、有理数の稠密性からこの中に有理数 qq がとれます。すると 0<q<10 < q < 1 より q∈Aq \in A で、かつ α<q<α+1/N\alpha < q < \alpha + 1/N より ∣q−α∣<1/N|q - \alpha| < 1/N ですから q∉UNq \notin U_N です。よって UNU_N は AA を覆いません。

したがって {Un}\{U_n\} は有限部分被覆をもたず、AA はコンパクトではありません。AA は Q\mathbb{Q} の中では有界かつ閉であることに注意してください。定理 5.2 が実数の完備性に依存していることが、この例から見て取れます。補題 5.1 の証明で共通点 cc を作った箇所が、Q\mathbb{Q} では機能しないのです。

演習 7.4難

XX をハウスドルフ空間、K,L⊂XK, L \subset X を交わらないコンパクト部分集合とします。このとき、開集合 U,VU, V が存在して

K⊂U,L⊂V,U∩V=∅K \subset U, \qquad L \subset V, \qquad U \cap V = \emptyset

となることを示してください。

解答

p∈Lp \in L を任意にとります。K∩L=∅K \cap L = \emptyset より p∉Kp \notin K ですから、定理 4.2 が使えて、開集合 Up,VpU_p, V_p で

K⊂Up,p∈Vp,Up∩Vp=∅K \subset U_p, \qquad p \in V_p, \qquad U_p \cap V_p = \emptyset

となるものが存在します。ここでコンパクト集合と点を分離する形の主張を使ったことに注意してください。単に「KK が閉」という結論だけでは足りません。

族 {Vp}p∈L\{V_p\}_{p \in L} は XX の開集合による LL の被覆です。LL はコンパクトなので、補題 3.3 より有限個の点 p1,…,pm∈Lp_1, \ldots, p_m \in L が存在して L⊂Vp1∪⋯∪VpmL \subset V_{p_1} \cup \cdots \cup V_{p_m} となります。そこで

V:=Vp1∪⋯∪Vpm,U:=Up1∩⋯∩UpmV := V_{p_1} \cup \cdots \cup V_{p_m}, \qquad U := U_{p_1} \cap \cdots \cap U_{p_m}

とおきます。VV は開集合の合併なので開で、L⊂VL \subset V です。UU は有限個の開集合の交わりなので開であり、すべての UpiU_{p_i} が KK を含むので K⊂UK \subset U です。

U∩V=∅U \cap V = \emptyset を示します。y∈U∩Vy \in U \cap V とすると、y∈Vy \in V よりある ii で y∈Vpiy \in V_{p_i} です。一方 y∈U⊂Upiy \in U \subset U_{p_i} です。これは Upi∩Vpi=∅U_{p_i} \cap V_{p_i} = \emptyset に反します。よって U∩V=∅U \cap V = \emptyset です。

この結果は「コンパクトハウスドルフ空間は正規空間である」という定理(コンパクトハウスドルフ空間は T4(定理 4.5)[分離公理と距離づけ可能性])の主要部分です。コンパクト空間では閉集合がコンパクト(定理 4.1)なので、交わらない 2 つの閉集合もこの演習で分離できます(分離公理と距離づけ可能性)。

  • J. R. Munkres, Topology, 2nd ed., Prentice Hall, 2000 — Chapter 3, §26–§28(コンパクト空間、実数直線のコンパクト部分空間、極限点コンパクト性)。この記事の構成はおおむねこの本の流れに沿っています。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 2(Basic Topology)。距離空間の枠組みでコンパクト集合とハイネ・ボレルの定理を扱っています。
  • J. L. Kelley, General Topology, Van Nostrand, 1955(Springer GTM 27 として再刊)— Chapter 5, Compact Spaces。有限交叉性やネットによる特徴づけが詳しく書かれています。
  • N. Bourbaki, Topologie Générale, Chapitres 1 à 4, Hermann — Chapitre I, §9(Espaces compacts et espaces localement compacts)。準コンパクト/コンパクトの用語法の出どころです。
  • 松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968 — 位相空間のコンパクト性を扱う章。日本語で被覆による定義から丁寧に積み上げています。
  • M. Raman-Sundström, “A Pedagogical History of Compactness”, American Mathematical Monthly 122 (2015), 619–635. arXiv:1006.4131 — 被覆コンパクト性と点列コンパクト性がどのように分岐し、用語が定着したかの歴史。

Appendix: 点列コンパクト性・全有界性・一様連続性

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点列コンパクト性との関係。 位相空間 XX が点列コンパクトであるとは、XX の任意の点列が XX の点に収束する部分列をもつことをいいます。ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理(定理 6.3[実数の完備性とコーシー列])は、Rn\mathbb{R}^n の有界閉集合が点列コンパクトであるという主張です。距離空間では両者は同値ですが、一般の位相空間ではどちらの向きも成り立ちません。積空間 {0,1}R\{0,1\}^{\mathbb{R}} はチコノフの定理によりコンパクトですが点列コンパクトではなく、順序数の空間 [0,ω1)[0, \omega_1) は点列コンパクトですがコンパクトではありません(Munkres の §28 と関連する節)。この記事で被覆による定義を採用したのは、それが積について閉じているという決定的な利点があるからです。

全有界性と完備性。 距離空間 (X,d)(X, d) については、コンパクト性は「完備かつ全有界」と同値です。全有界とは、任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し有限個の ε\varepsilon-球で XX が覆えることをいいます。注意 5.4 の ℓ2\ell^2 の例では、EE は完備ですが ε=1/2\varepsilon = 1/2 に対して有限個の球では覆えないので全有界ではありません。有界性と全有界性の差が、Rn\mathbb{R}^n と無限次元空間の違いを生んでいます(実数の完備性とコーシー列 を参照)。

一様連続性(ハイネ・カントールの定理)。 コンパクト性の使い方の総仕上げとして、K⊂RnK \subset \mathbb{R}^n をコンパクト、f ⁣:K→Rf \colon K \to \mathbb{R} を連続とすると ff が一様連続であることを示します。ε>0\varepsilon > 0 を任意にとります。各点 x∈Kx \in K で ff は連続なので、δx>0\delta_x > 0 が存在して、y∈Ky \in K かつ ∣y−x∣<δx|y - x| < \delta_x ならば ∣f(y)−f(x)∣<ε/2|f(y) - f(x)| < \varepsilon/2 となります。開球の族 {B(x,δx/2)}x∈K\{ B(x, \delta_x / 2) \}_{x \in K} は KK の開被覆ですから、補題 3.3 により有限個の点 x1,…,xNx_1, \ldots, x_N で

K⊂B(x1,δx1/2)∪⋯∪B(xN,δxN/2)K \subset B(x_1, \delta_{x_1}/2) \cup \cdots \cup B(x_N, \delta_{x_N}/2)

となります。ここで

δ:=min⁡{δx12,…,δxN2}>0\delta := \min\Bigl\{ \frac{\delta_{x_1}}{2}, \ldots, \frac{\delta_{x_N}}{2} \Bigr\} > 0

とおきます。正であることは有限個の正数の最小値だからです。y,z∈Ky, z \in K が ∣y−z∣<δ|y - z| < \delta を満たすとすると、zz はどれかの B(xi,δxi/2)B(x_i, \delta_{x_i}/2) に属します。このとき

∣y−xi∣≤∣y−z∣+∣z−xi∣<δ+δxi2≤δxi2+δxi2=δxi|y - x_i| \le |y - z| + |z - x_i| < \delta + \frac{\delta_{x_i}}{2} \le \frac{\delta_{x_i}}{2} + \frac{\delta_{x_i}}{2} = \delta_{x_i}

であり、∣z−xi∣<δxi/2<δxi|z - x_i| < \delta_{x_i}/2 < \delta_{x_i} でもあるので、δxi\delta_{x_i} の取り方から ∣f(y)−f(xi)∣<ε/2|f(y) - f(x_i)| < \varepsilon/2 と ∣f(z)−f(xi)∣<ε/2|f(z) - f(x_i)| < \varepsilon/2 が同時に成り立ちます。したがって

∣f(y)−f(z)∣≤∣f(y)−f(xi)∣+∣f(xi)−f(z)∣<ε2+ε2=ε|f(y) - f(z)| \le |f(y) - f(x_i)| + |f(x_i) - f(z)| < \frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon

です。δ\delta は y,zy, z に依存せず ε\varepsilon だけで決まるので、ff は一様連続です。半径を δx/2\delta_x/2 と半分にして被覆を作ったのは、上の三角不等式の評価を通すための工夫です。この定理の解析的な意味は 連続関数と一様連続性 で扱います(ハイネ・カントールの定理(定理 7.1)[連続関数と一様連続性])。

証明の急所は δ\delta を有限個の min⁡\min でとった一点に尽きます。動機の節で述べた「局所的な情報を有限個に落として min⁡\min をとる」という型が、そのままの形で現れています。コンパクト性を使う議論に出会ったら、まずこの型を探してください。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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