0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- コンパクト性とは「どんな開被覆をとっても、その中から有限個を選んで全体を覆える」という性質です。距離も座標も使わず、開集合という言葉だけで書けます。
- の部分集合に限れば、コンパクト性は「有界かつ閉」と同値です(ハイネ・ボレルの定理)。証明の核心は閉直方体を二分し続ける議論で、そこで実数の完備性が効きます。
- 一般の距離空間では「有界かつ閉」ではコンパクト性に足りません。 の標準基底ベクトル全体がその反例です。
- コンパクト集合の連続像はコンパクトです。この一行から最大値・最小値の定理(ワイエルシュトラス)がほとんど自動的に従います。
- コンパクト性が働く仕組みはいつも同じで、「各点のまわりで得た無限個の局所情報を有限個に減らし、 や をとる」という型です。有限個であることが本質です。
- ハウスドルフ空間ではコンパクト部分集合は閉になり、コンパクト空間からハウスドルフ空間への連続全単射は自動的に同相写像になります。
1. 動機:有界閉区間は何をしていたのか
Section titled “1. 動機:有界閉区間は何をしていたのか”微分積分学では、閉区間 上の連続関数について次のような定理を使ってきました。
- 上の連続関数は有界であり、最大値と最小値をとる。
- 上の連続関数は一様連続である。
- 上で連続関数列が単調に各点収束すれば、収束は一様である(ディニの定理)。
これらはどれも、定義域を少し変えるだけで壊れます。 上の は連続ですが有界ではありません。 上の は最大値をとりません。 上の は有界ですが、上限 は値として実現されないので、やはり最大値をとりません。最初の例は「有界でない」定義域、あとの二つは「閉でない」定義域が原因です。つまり定義域の有界性と閉性が両方効いています。
ところが、位相空間論の枠組みでこの議論をそのまま持ち込むことはできません。一般の位相空間には「有界」という言葉がないからです。有界性は距離が決める概念であって、位相だけでは決まりません。実際、
は から への全単射で、 も逆写像 も連続ですから、 と は同相です。片方は有界で片方は有界でないのに、位相空間としては区別がつきません。有界性は位相的性質ではないのです(同相の概念については 連続写像と同相写像、とくに 同相写像の定義(定義 5.2)[連続写像と同相写像] を参照してください)。
そこで問い方を変えます。上の定理たちの証明で、 の何が使われていたのか。 証明を並べて眺めると、どれも同じ形をしています。まず各点 のまわりで欲しい性質が成り立つことを示し(局所的な情報)、次にそれを定義域全体へ広げます(大域的な結論)。この橋渡しで決定的なのは、無限個ある局所的な情報を有限個に減らせることです。有限個であれば や がとれますが、無限個のままでは が になるかもしれず、議論が止まります。
この観察を定義に昇格させたものがコンパクト性です。歴史的には、ハイネが 1872 年に一様連続性を証明した議論にこの型が現れ、ボレルが 1895 年の学位論文で「閉区間の可算な開被覆からは有限個を選んで覆える」ことを定理として述べました。任意濃度の被覆への一般化はルベーグらによります。「コンパクト」という語をフレシェが 1906 年に今とは違う意味で使い始めてから、被覆による定義にこの名が落ち着くまでの経緯は、参考文献の Raman-Sundström にまとめられています。
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