0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”- 群準同型 とは積を積に写す写像です。単位元・逆元・整数べきが保たれることは要求せずとも定義から従います。
- 核 は の正規部分群、像 は の部分群です。逆に、任意の正規部分群はある準同型の核として現れます。つまり「正規部分群」と「準同型の核」は同じものの表と裏です。
- が単射であることと は同値です。核は「 がどれだけ情報を潰したか」を測る量です。
- 準同型定理:。証明の要は「 と が同値」という一点だけです。
- 応用すると や が、また が複素平面の単位円と同型であることが、いずれも数行で出ます。商群の正体を「見慣れた群」として同定する道具です。
- が有限群なら が成り立ち、 も有限群なら像の位数は と の共通の約数になります。
1. 動機 — 群を「比べる」ための写像、「潰す」ための写像
Section titled “1. 動機 — 群を「比べる」ための写像、「潰す」ための写像”前章までで、部分群・剰余類・正規部分群・商群を作ってきました。商群 は「 の元をすべて単位元とみなして得られる群」として構成しましたが、素朴な疑問が残っているはずです。そうやって抽象的に作った群は、いったい何者なのか、という疑問です。 なら時計の文字盤だと納得できます。しかし と言われて、その正体がすぐ見える人はいないでしょう。剰余類の集合という定義に戻っても、行列の集合の集合が並ぶだけで、手応えがありません。
この章の主定理である準同型定理は、この問いに一般的な答えを与えます。乱暴に言えばこうです。
商群 の正体を知りたければ、 をちょうど潰すような見慣れた群への全射を 1 本見つけよ。 はその行き先と同型である。
なら行列式 がその 1 本で、答えは ( でない実数の乗法群)です。剰余類をいちいち書き下す必要はありません。
動機はもう一つあります。二つの群が「同じ」とはどういうことかという問いです。集合としての大きさだけでは足りません。 と はどちらも位数 ですが、前者には位数 の元 があるのに対し、後者では単位元以外のすべての元 が位数 です。だから両者は「同じ群」とは言えません。比べるべきは元の個数ではなく積の表であり、積の表を保つ全単射こそが「同じ」の正しい定義になります。
そして、積を保つ写像は全単射でなくても意味を持ちます。整数を偶奇に潰す、行列を行列式に潰す、置換を符号に潰す。どれも情報を捨てていますが、捨て方が積と整合しているので、潰した先にもまた群の構造が残ります。捨てられた情報の全体がちょうど核であり、準同型定理は「捨てたぶんだけ商にとれば、残るのは像そのもの」という一種の保存則になっています。
群・環・加群に共通するこの形の定理群が現在の姿に整理されたのは、E. ネーターの 1920 年代の仕事によるとされ、今日でも「ネーターの同型定理」と呼ばれます。この記事で扱うのはその第一(準同型定理)と第三で、第二は演習に回します。
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